JP2008169449A - 砒素液の浄化方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】不純物として水銀を含有する砒素液(被処理液)に硫化銅や硫化鉛等の金属硫化物を接触させることにより、水銀を前記金属硫化物中に含有させ固形分として回収する砒素液の浄化方法が提供される。また、不純物として鉛を含有する砒素液(被処理液)に炭酸ストロンチウムを加えて撹拌することにより、ストロンチウムと鉛を含有する沈殿物を生成させ、鉛を固形分として回収する砒素液の浄化方法が提供される。
【選択図】図2
Description
砒素を含有する固体物質には種々の形態のものが存在する。代表的なものとして、As2S3や、CuSの組成式で表される硫化物を主体としたものや、銅と砒素の金属間化合物(Cu3Asなど)を主体としたものが挙げられる。ただし、このような砒素含有物質には、様々な元素が含まれるのが通常であり、砒素の他、環境上好ましくない水銀や鉛を含む場合も多い。
As2S3+5(O)+3H2O → 2H3AsO4+3S ……(1)
As2S3+3(O)+3H2O → 2HAsO2+3S ……(2)
また、原料の砒素含有物質が銅と砒素の金属間化合物を主体とするものである場合は、単体硫黄存在下で砒素の浸出反応を進行させる手法が好適に採用される。その反応式は、例えば砒化銅Cu3Asの場合を例示すると下記(3)式のようなものである。
2Cu3As+6S+5(O)+3H2O → 3CuS+2H3AsO4 ……(3)
1.水銀は硫化され過ぎると、[HgS2]2-となって液中に残存する。電位を制御して水銀を完全に除去することができるが、その制御は非常に難しい。
2.せっかく溶解した砒素も硫化してしまう。高濃度の砒素液であるが故、極少量の水銀だけを浄液するのにNaSHなどは硫化作用が強力すぎる。
〔水銀の分離回収〕
発明者らの検討によれば、被処理液である砒素液から水銀を分離するには、その被処理液を金属硫化物と接触させる手法が極めて有効であることがわかった。特に、金属硫化物としては硫化銅や硫化鉛が好適に使用できる。その他、硫化鉄や硫化亜鉛、硫化カドミウムなども単純に水銀を除去するだけならば使用することは可能である。しかし、硫化鉄や硫化亜鉛を使用した場合は、液中に鉄(Fe2+)や亜鉛が多少とも浸出されてしまう。そうすると、砒素を他の元素と分離したいにもかかわらず、鉄や亜鉛といった元素が不純物として混入されてしまう。
発明者らの検討によれば、被処理液である砒素液から鉛を分離するには、その被処理液に炭酸ストロンチウムを添加し、撹拌混合する手法が極めて有効であることがわかった。炭酸バリウムでも多少の効果があるが、炭酸ストロンチウムの方が良い。炭酸ストロンチウムの性状は、およそ90%以上の品位のものであれば特にこだわる必要はない。粒子径は、一般的には細かい方が反応性が良さそうに思われるが、ここではあまり関係しない。むしろ、炭酸ストロンチウム含有物質が水分などによって凝集して液中で分散し難いことの方が問題となりやすい。炭酸ストロンチウムは一般に針状の結晶形状であるが、ここでは結晶の形状にも特段こだわる必要はない。
S+3(O)+H2O → H2SO4
この反応はアルカリ領域で起こりやすい。なぜならば、反応生成物である硫酸をアルカリが消費することにより、反応が左から右へどんどん進むからである。逆にその反応を止めるには、反応生成物である硫酸を添加すればよい。このようにしてS(硫黄)を資源化しておくことができる。このような観点からも、多少の硫酸があった方が砒素だけを浸出して硫黄は浸出させないためには都合が良い。
基本反応式は以下の通りである。
PbO+H2SO4 = PbSO4+H2O
PbSO4は通常は乾式の製錬でメタルの鉛にリサイクルされる。
湿式製錬でもCXプロセスというリサイクルが考えられる。
PbSO4+Na2CO3(a) = PbCO3+Na2SO4(a)
ここで(a)は水に溶解しているという意味である。
PbCO3 = PbO+CO2
Na2SO4は濃縮晶析で回収される。
このように、PbOとPbSO4をうまく利用することで、酸濃度の調整が可能となる。
表1に示す組成の固形の砒素含有物質を乾量基準で700g分取した。また、水を3500mL計量した。上記の砒素含有物質と水を5L容量のオートクレーブに入れ、撹拌羽根(2段パドル翼)、および液相に通じる挿入ガス管をセットして密閉した。撹拌羽根を1000rpmで回転させて液を強撹拌しながら65℃になるよう昇温した。気相部に存在する不活性ガス(初期の空気に由来するもの)をできるだけ排除するために、65℃の状態で気相部に通じるバルブを一旦開き、ゲージ圧がゼロになるまで内部のガスを追い出した。その後、再び密閉状態とし、65℃に保持したまま、純度99%の酸素ガスを容器の液相部に吹き込んだ。密閉容器内での反応なので圧力が上昇する。気相部の酸素分圧が概ね0.2MPaに維持されるように、酸素ガス導入バルブを調整しながら酸素を吹き込んだ。この状態で撹拌を継続しながら4時間保持した。撹拌操作終了後のスラリーを加圧ろ過器にて固液分離した。固液分離は、1μmのPTFEメンブランフィルターを用い、0.4MPaの加圧で行った。
被処理液Aを500mL分取して、PTFE製の3枚傾斜パドルで撹拌した。邪魔板としてPTFE板(10mm幅)を挿入した。撹拌回転数は200rpmと比較的弱くした。液の温度を55℃に調整した。特級試薬(和光純薬工業社製)の硫化鉛PbSを液中の水銀量の3当量に相当する0.200g計量し、上記の液中にゆっくりと添加した。この0.200gは、(112/200.59)×(207.19+32)×3(当量)×0.5(L)=200mgより算出したものである。液温を55℃に維持しながら撹拌を15分間継続した。その後、固液分離を実施した。固液分離は、1μmのPTFEメンブランフィルターを用い、0.4MPaの加圧で行った。ろ過後の后液について、pHおよびORPを測定した後、一部を分取してICP分析を行った。分析方法は被処理液Aについて行った前記の方法と同様である。
后液の分析結果を表3に、また、これらの分析結果および被処理液の分析結果から算出される各元素の除去率(沈殿率)を表4に示す(以下の実施例1、比較例2、実施例2において同じ)。
比較例1と同様の操作を実施した。ただし硫化鉛PbSの量を水銀に対し30当量になるように2.000g計量し添加した。その他の条件は比較例1と同じである。
比較例1と同様の操作を実施した。ただし硫化鉛PbSに代えて、特級試薬(和光純薬工業社製)の硫化銅CuSを液中の水銀量の3当量に相当する0.080g計量し、ゆっくりと添加した。その他の条件は比較例1と同じである。上記の0.080gは、(112/200.59)×(63.546+32)×3(当量)×0.5(L)=80mgより算出したものである。
比較例2と同様の操作を実施した。ただし硫化銅CuSの量を水銀に対し30当量になるように0.800g計量し添加した。その他の条件は比較例2と同じである。
PbS、CuSなどの硫化物によって、水銀を含む砒素含有液から水銀を固形分として分離・回収できる。その際、砒素は液中に留めておくことができる。PbSよりもCuSの方が溶解している水銀を浄液する能力は優れている。ただし、添加する硫化物の量が少なすぎると、砒素液からの水銀の除去は不十分となる。
前述の被処理液Aの作成において、塩化水銀HgCl2を添加しなかったこと以外、前述の方法を実施して被処理液Bを作成した。被処理液Aとの比較において、液の組成分析結果に変化はなかった。被処理液Bの分析結果を表5に示す。
被処理液Bを500mL分取して、PTFE製の3枚傾斜パドルで撹拌した。邪魔板としてPTFE板(10mm幅)を挿入した。撹拌回転数は200rpmと比較的弱くした。液の温度を55℃に調整した。ソルベー社製の工業品の炭酸ストロンチウムSrCO3(純度97%、平均粒径約1μm、比表面積約5m2/g)を精密天秤で23.0mg計量し、薬包紙上で取扱い、上記の液中にゆっくりと添加した。液中の鉛含有量37mg/Lに対する、この炭酸ストロンチウムの添加量23.0mgの当量値は、23.0(mg)×0.97/(87.62+12.01+3×16)/(37(mg)/207.19)/0.5(L)=1.69当量となる。液温を55℃に維持しながら撹拌を15分間継続した。その後、固液分離を実施した。固液分離は、1μmのPTFEメンブランフィルターを用い、0.4MPaの加圧で行った。ろ過後の后液について、pHおよびORPを測定した後、一部を分取してICP分析を行った。分析方法は被処理液Aについて行った前記の方法と同様である。
后液の分析結果を表6に、また、これらの分析結果および被処理液の分析結果から算出される各元素の除去率(沈殿率)を表7に示す(以下の実施例4〜6において同じ)。
実施例3と同様の操作を実施した。ただし炭酸ストロンチウムの添加量を105.0mgとした。液中の鉛含有量37mg/Lに対する、この炭酸ストロンチウムの添加量105.0mgの当量値は、105.0(mg)×0.97/(87.62+12.01+3×16)/(37(mg)/207.19)/0.5(L)=7.73当量となる。その他の条件は実施例3と同じである。
実施例3と同様の操作を実施した。ただし炭酸ストロンチウムの添加量を269.0mgとした。液中の鉛含有量37mg/Lに対する、この炭酸ストロンチウムの添加量269.0mgの当量値は、269.0(mg)×0.97/(87.62+12.01+3×16)/(37(mg)/207.19)/0.5(L)=19.79当量となる。その他の条件は実施例3と同じである。
実施例3と同様の操作を実施した。ただし炭酸ストロンチウムの添加量を679.0mgとした。液中の鉛含有量37mg/Lに対する、この炭酸ストロンチウムの添加量679.0mgの当量値は、679.0(mg)×0.97/(87.62+12.01+3×16)/(37(mg)/207.19)/0.5(L)=49.96当量となる。その他の条件は実施例3と同じである。
鉛が溶解している砒素含有液に炭酸ストロンチウムを添加すると、液中に遊離酸として新たに硫酸を加えなくても、液中の鉛を固形分として分離・回収できる。このとき、ごくわずかであるがpHが上昇し、ORPが低下する。液中に存在する砒素はほとんどが液中に残るが、硫酸などの酸を加えていないため、砒酸ストロンチウムを形成して若干沈殿する。液中に溶解していた鉛の大部分はこの沈殿反応に伴って共沈し、砒酸ストロンチウムに随伴して固形分となる。遊離酸を加えていないが、鉛に対して約17当量以上の炭酸ストロンチウムを添加することにより、砒素液中に溶解している鉛を90%以上除去できる。
前述の被処理液Bを作成し、その液にさらに10g/Lの硫酸濃度に相当する量の濃硫酸をパスツールピペットを用いて添加することにより被処理液Cを作成した。被処理液Bとの比較では若干ながらpHとORPがずれたが、液の組成分析結果には変化がなかった(硫酸添加に伴う硫黄の増加を除く)。厳密には1000mLに対して約5mL(すなわち10g/比重1.84の分)だけ体積が増加しているはずであるが、体積変化は0.5%と小さいため、組成分析値に変動が見られなかったものと推測される。被処理液Cの分析結果を表8に示す。
実施例7〜10では、被処理液Cを対象としたことを除き、それぞれ実施例3〜6と同様の操作を行った。
后液の分析結果を表9に、また、これらの分析結果および被処理液の分析結果から算出される各元素の除去率(沈殿率)を表10に示す。
鉛が溶解している砒素含有液に硫酸イオン存在下で炭酸ストロンチウムを添加すると、硫酸イオンを添加しない場合と比べて少ない炭酸ストロンチウムの当量値で、液中の鉛を効率的に固形分として分離・回収できる。これは、ストロンチウムの少なくとも一部と鉛の少なくとも一部が硫酸塩として共沈することによる効果(硫酸ストロンチウムの沈殿に伴う鉛の共沈反応)であると考えられる。
前述の被処理液Bを作成し、その液にさらに30g/Lの硫酸濃度に相当する量の濃硫酸をパスツールピペットを用いて添加することにより被処理液Dを作成した。被処理液Bとの比較では若干ながらpHとORPがずれたが、液の組成分析結果には変化がなかった(硫酸添加に伴う硫黄の増加を除く)。厳密には1000mLに対して約15mL(すなわち30g/比重1.84の分)だけ体積が増加しているはずであるが、体積変化は1.5%と小さいため、組成分析値に変動が見られなかったものと推測される。被処理液Dの分析結果を表11に示す。
実施例11〜14では、被処理液Dを対象としたことを除き、それぞれ実施例3〜6と同様の操作を行った。
后液の分析結果を表12に、また、これらの分析結果および被処理液の分析結果から算出される各元素の除去率(沈殿率)を表13に示す。
実施例7〜10の場合よりも、硫酸イオンの存在量を増大させたことにより、砒素の除去率(沈殿率)は大幅に低下した。これは、液中に硫酸イオンが十分に存在することにより、ストロンチウムはほとんどが硫酸ストロンチウムとして沈殿し、砒素がストロンチウムと化合して沈殿する反応があまり起こらなかったことによると考えられる。また、実施例7〜10と同様に、液中の鉛を効率的に固形分として分離・回収できる。
Claims (8)
- 不純物として水銀を含有する砒素液(被処理液)に金属硫化物を接触させることにより、水銀を前記金属硫化物中に含有させ固形分として回収する砒素液の浄化方法。
- 金属硫化物として硫化銅を使用する請求項1に記載の砒素液の浄化方法。
- 金属硫化物として硫化鉛を使用する請求項1に記載の砒素液の浄化方法。
- 被処理液中の水銀量に対し、30当量以上の金属硫化物を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の砒素液の浄化方法。
- 不純物として鉛を含有する砒素液(被処理液)に炭酸ストロンチウムを加えて撹拌することにより、ストロンチウムと鉛を含有する沈殿物を生成させ、鉛を固形分として回収する砒素液の浄化方法。
- 前記の撹拌を硫酸イオン存在下で行うことにより、ストロンチウムの少なくとも一部と鉛の少なくとも一部を硫酸塩として共沈させる、請求項5に記載の砒素液の浄化方法。
- 被処理液中の鉛量に対し、10当量以上の炭酸ストロンチウムを加える請求項5に記載の砒素液の浄化方法。
- 被処理液中の鉛量に対し、5当量以上の炭酸ストロンチウムを加える請求項6に記載の砒素液の浄化方法。
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