JP2008200635A - 鉄砒素反応后液の処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スコロダイト結晶を主体とした鉄砒素化合物を生成させた後の「鉄砒素反応后液」を、砒素処理におけるひとつのクローズなプロセスが構築可能な方法で処理する技術を提供する。
【解決手段】5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して生成した結晶性の鉄砒素化合物を含有するスラリーから、固形分を除去して得られた、砒素イオンが残存する酸性の后液(鉄砒素反応后液)に対し、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質、例えば硫化水素を添加することによって砒素硫化物を生成させ、前記砒素硫化物を含有するスラリーを固液分離することにより固形分として砒素硫化物を回収する鉄砒素反応后液の処理方法。
【選択図】図1
【解決手段】5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して生成した結晶性の鉄砒素化合物を含有するスラリーから、固形分を除去して得られた、砒素イオンが残存する酸性の后液(鉄砒素反応后液)に対し、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質、例えば硫化水素を添加することによって砒素硫化物を生成させ、前記砒素硫化物を含有するスラリーを固液分離することにより固形分として砒素硫化物を回収する鉄砒素反応后液の処理方法。
【選択図】図1
Description
本発明は、砒素が溶解している砒素液から結晶性の鉄砒素化合物を沈殿反応により析出させた後の反応后液の処理方法であって、その后液に残っている砒素を固形分として回収する砒素の処理方法に関する。
非鉄製錬においては、各種製錬中間物が発生し、また様々な形態の製錬原料となり得るものが存在する。これらの製錬中間物や製錬原料には有価金属が含まれているが、一方で砒素などの環境上好ましくない元素が含まれている。砒素の処理法としては、溶液中の砒素を、亜砒酸と鉄、カルシウムなどと組み合わせて砒素化合物中に固定する手法が提唱されている。
沈殿除去された砒素化合物は保管または廃棄されるが、その化合物は砒素の溶出が極めて少ないものであることが重要である。砒素の溶出が少ない砒素化合物として結晶性の良い鉄砒素化合物であるスコロダイト(FeAsO4・2H2O)が知られている。ところが、スコロダイト結晶をろ過性が良好な嵩の低い形態で生成させることは容易ではなく、工業的にスコロダイト結晶を合成する砒素処理のプロセスは実現されていなかった。
発明者は種々研究を進めることにより新たな砒素固定方法を開発し、特願2006−126896、特願2006−321575、特願2006−311063、特願2006−332857などに開示した。これらの技術によると、砒素含有液から砒素の溶出が少ない結晶性の鉄砒素化合物(スコロダイトを主体としたもの)を嵩の低い形で合成することが可能になった。これらの技術は基本的に、5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して結晶性の鉄砒素化合物を生成させ、そのスラリーから固形分として当該鉄砒素化合物を回収するものである。砒素はこの鉄砒素化合物中に固定され、極めて溶出しにくい。このため、この結晶性鉄砒素化合物は廃棄や保管に適している。
しかし、その結晶性鉄砒素化合物を回収した後に残った酸性の反応后液(本明細書ではこれを「鉄砒素反応后液」と呼んでいる)には、まだ砒素が残っている。その砒素濃度は、元の砒素液の濃度にもよるが、例えば1〜3g/L程度となり、場合によっては5g/L程度になることもあり得る。一般的な排水基準値(0.1mg/L)と比較するとかなり高濃度の砒素を含有していることになり、鉄砒素反応后液をそのまま廃棄することはできない。
この鉄砒素反応后液を処理する方法としては、湿式亜鉛製錬の工程で処理することが考えられる。湿式亜鉛製錬では、pHが4から5付近で亜鉛を浸出しつつ、鉄を沈殿除去する「中性浸出」と呼ばれる工程がある。この工程は「脱鉄浄液」と呼ばれることもあり、鉄のほかに砒素やゲルマニウムなど亜鉛製錬において除去すべき元素を簡単に除去する工程である。しかし、そもそも湿式の亜鉛製錬所がない地域ではこのような工程を利用することは事実上不可能である。
砒素を上記のような結晶性鉄砒素化合物として固定化する技術を工業的に成立させるには、その后液(鉄砒素反応后液)を処理する技術を確立することも極めて重要な要素となる。本発明はこのような現状に鑑み、鉄砒素反応后液を、湿式亜鉛製錬工程に頼ることなく、砒素処理におけるひとつのクローズなプロセスが構築可能な方法で処理する方法を提供しようというものである。
上記目的を達成するために、本発明では、5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して生成した結晶性の鉄砒素化合物を含有するスラリーから、固形分を除去して得られた、砒素イオンが残存する酸性の后液(鉄砒素反応后液)に対し、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質、例えば硫化水素、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウムの1種以上を添加することによって砒素硫化物を生成させ、前記砒素硫化物を含有するスラリーを固液分離することにより固形分として砒素硫化物を回収するとともに后液(硫化反応后液)を回収する鉄砒素反応后液の処理方法が提供される。
上記の硫化反応后液については液中に空気を吹き込むことによりS2-イオンを除去する暴気処理に供することができる。前記砒素硫化物を生成させる際には、Ag/AgCl電極基準でのORP(酸化還元電位)が100mV以下になるまでS2-イオン供給源となる硫黄含有物質を添加することが好ましい。
本発明によれば、砒素をスコロダイト結晶として固定化した後に残った后液(鉄砒素反応后液)に残留する砒素を、簡便な手法で除去することが可能になり、処理された液は鉄が溶解した液として種々の工程で利用できる。また、砒素は鉄をほとんど含まない砒素硫化物として回収することができ、その砒素硫化物は本発明者らが特願2006−339154などで開示した方法によって砒素を水中に浸出させるための原料として利用できる。その浸出液は再びスコロダイト結晶を生成させる工程で処理することができる。すなわち本発明は、「砒素含有物質→砒素液→結晶性鉄砒素化合物」という一連の砒素固定化プロセスにおいて、クローズなプロセスの構築を可能にするものであり、砒素固定化処理の工業的実施に寄与し得る。
図1に、本発明を適用した砒素処理の代表的なフローを示す。
本発明で対象とする出発原料は「鉄砒素反応后液」であり、本発明ではこの液を硫化処理することにより砒素を回収する。鉄砒素反応后液は、特願2006−321575などに開示した結晶性の鉄砒素化合物の生成(鉄砒素反応)によって残った反応后液である。また、その砒素の固定化処理に供される砒素液は、特願2006−339154などに開示した方法を用いて砒素含有物質から砒素を水中に浸出させることによって好適に作成することができる。以下に、各工程について説明する。
本発明で対象とする出発原料は「鉄砒素反応后液」であり、本発明ではこの液を硫化処理することにより砒素を回収する。鉄砒素反応后液は、特願2006−321575などに開示した結晶性の鉄砒素化合物の生成(鉄砒素反応)によって残った反応后液である。また、その砒素の固定化処理に供される砒素液は、特願2006−339154などに開示した方法を用いて砒素含有物質から砒素を水中に浸出させることによって好適に作成することができる。以下に、各工程について説明する。
《砒素液の作成》
前述のように、砒素含有物質から砒素液を作成する方法については、特願2006−339154、特願2006−339156などで開示した方法が好適に採用できる。例えば、As2S3やCuSの組成式で表される硫化物を主体とした砒素含有物質を使用する場合には、その硫化物が水中に懸濁しているスラリーに酸素ガスを添加するとともに撹拌しながら砒素の浸出反応を進行させ、反応後、スラリーを固液分離して后液を回収することによって砒素液(砒素が溶解している液)が得られる。浸出反応を進行させる際には、スラリー液面に接する気相部における酸素分圧を0.6MPa以下とする。大気開放のオープン系でも実施可能である。前記浸出反応に供するスラリーを構成する水は、水酸化アルカリを添加していない水が使用できるが、水酸化アルカリが多少存在していても砒素の高い浸出率を実現する上で差し支えない。具体的には、水酸化アルカリ濃度が0〜1mol/Lに制限された水に砒素含有硫化物を混合してスラリーとすればよい。砒素の浸出反応は60℃以上で行うことが望ましく、100℃以下であればオープンタンク系でも実施できる。反応後のスラリーの酸化還元電位(ORP、Ag/AgCl電極)が200mV以上となるようにすることが望ましい。
前述のように、砒素含有物質から砒素液を作成する方法については、特願2006−339154、特願2006−339156などで開示した方法が好適に採用できる。例えば、As2S3やCuSの組成式で表される硫化物を主体とした砒素含有物質を使用する場合には、その硫化物が水中に懸濁しているスラリーに酸素ガスを添加するとともに撹拌しながら砒素の浸出反応を進行させ、反応後、スラリーを固液分離して后液を回収することによって砒素液(砒素が溶解している液)が得られる。浸出反応を進行させる際には、スラリー液面に接する気相部における酸素分圧を0.6MPa以下とする。大気開放のオープン系でも実施可能である。前記浸出反応に供するスラリーを構成する水は、水酸化アルカリを添加していない水が使用できるが、水酸化アルカリが多少存在していても砒素の高い浸出率を実現する上で差し支えない。具体的には、水酸化アルカリ濃度が0〜1mol/Lに制限された水に砒素含有硫化物を混合してスラリーとすればよい。砒素の浸出反応は60℃以上で行うことが望ましく、100℃以下であればオープンタンク系でも実施できる。反応後のスラリーの酸化還元電位(ORP、Ag/AgCl電極)が200mV以上となるようにすることが望ましい。
また、砒素含有物質が硫化物ではなく銅砒素化合物である場合は、銅砒素化合物含有物質が水中に懸濁しているスラリーに酸素ガス等の酸化剤を添加して撹拌し、単体硫黄存在下またはS2-イオン存在下で砒素の浸出反応を進行させ、反応後、スラリーを固液分離して后液を回収することによって砒素液が得られる。S2-イオン供給物質としては元素性の硫黄(エレメンタル・サルファーという)や硫化亜鉛(ZnS)を使用することができる。このような砒素の浸出反応は銅の硫化を伴うものである。硫黄の供給量は、銅砒素化合物含有物質中の銅の量に対して1当量以上とすることが望ましい。
《結晶性鉄砒素化合物の生成》
砒素液からスコロダイト結晶を主体とする結晶性鉄砒素化合物を生成させる方法としては例えば特願2006−321575に開示した手法が好適に採用できる。すなわち、5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して液を撹拌しながら鉄砒素化合物の沈殿析出反応(本明細書ではこれを「鉄砒素反応」と呼ぶ)を進行させ、液のpHが0〜1.2の範囲で結晶の析出を終了させることによって砒素が極めて溶出し難く、かつ嵩の低いコンパクトな鉄砒素化合物が得られる。その際、析出反応開始前の液の砒素濃度は15g/L(リットル)以上であることが望ましい。また、砒素液中の砒素濃度が25g/L以上である場合には、液のpHが−(マイナス)0.45〜1.2の範囲で前記反応を終了させるのが良い。反応前の砒素液のpH(反応前pH)は0を超え〜2.0以下の範囲とすることが望ましい。2価の鉄イオン源としては例えば硫酸塩が使用できる。砒素液中にはナトリウム、カリウム、銅、亜鉛、マンガン、マグネシウムの1種以上が合計1〜150g/Lの濃度で含まれていて構わない。なお、液が高温の状態でpHを測定することは必ずしも容易ではないため、高温液(例えば60℃超え)のpHは、その液からサンプリングした液の温度が60℃以下に降温した後に測定したpH値を採用することができる。このようにして鉄砒素化合物の結晶を生成させた後に、固液分離を行って結晶性鉄砒素化合物を固形分として回収する。この鉄砒素化合物は砒素の溶出が顕著に抑止され、かつコンパクトであるので、砒素を固定化して廃棄または保管する上で極めて有用である。
砒素液からスコロダイト結晶を主体とする結晶性鉄砒素化合物を生成させる方法としては例えば特願2006−321575に開示した手法が好適に採用できる。すなわち、5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して液を撹拌しながら鉄砒素化合物の沈殿析出反応(本明細書ではこれを「鉄砒素反応」と呼ぶ)を進行させ、液のpHが0〜1.2の範囲で結晶の析出を終了させることによって砒素が極めて溶出し難く、かつ嵩の低いコンパクトな鉄砒素化合物が得られる。その際、析出反応開始前の液の砒素濃度は15g/L(リットル)以上であることが望ましい。また、砒素液中の砒素濃度が25g/L以上である場合には、液のpHが−(マイナス)0.45〜1.2の範囲で前記反応を終了させるのが良い。反応前の砒素液のpH(反応前pH)は0を超え〜2.0以下の範囲とすることが望ましい。2価の鉄イオン源としては例えば硫酸塩が使用できる。砒素液中にはナトリウム、カリウム、銅、亜鉛、マンガン、マグネシウムの1種以上が合計1〜150g/Lの濃度で含まれていて構わない。なお、液が高温の状態でpHを測定することは必ずしも容易ではないため、高温液(例えば60℃超え)のpHは、その液からサンプリングした液の温度が60℃以下に降温した後に測定したpH値を採用することができる。このようにして鉄砒素化合物の結晶を生成させた後に、固液分離を行って結晶性鉄砒素化合物を固形分として回収する。この鉄砒素化合物は砒素の溶出が顕著に抑止され、かつコンパクトであるので、砒素を固定化して廃棄または保管する上で極めて有用である。
上記のようにして結晶性鉄砒素化合物を固形分として分離回収した後に残った后液(鉄砒素反応后液)には、砒素が若干残留している。元の砒素液の砒素濃度が例えば20〜50g/L程度である場合を考えると、固形分としての砒素の回収率が例えば97%程度であり、わずか3%が后液中に残るとしても、その后液の砒素濃度は概ね1〜3g/L程度となることが多い。5g/L程度残る場合もあり得る。また、この后液は硫酸等の酸を含んでおり、pHが1.2以下に低減されているのが通常である。さらに、鉄イオンも残っている。仕込みの鉄量によっても変動するが、例えば初期砒素濃度50g/L、Fe/Asモル比1.5で仕込んだ場合、鉄はおよそ20g/L残る。その他、鉄砒素反応ではpHが低いので、共沈せずに液中に溶解している銅、亜鉛、カドミウムが不純物として存在する可能性がある。したがって、このような液から砒素を前記の上工程に戻して使用できる形で効率的に抽出することが、結晶性鉄砒素化合物として砒素を固定化する技術を普及させるためには必要不可欠である。
発明者らの詳細な検討の結果、この鉄砒素反応后液から砒素を抽出して上工程に戻すためには、後述のように硫化によって砒素硫化物を生成させ、これを固形分として分離回収する手法が極めて有効であることがわかった。硫化反応によれば、鉄を液中に残したまま砒素を分離することができる。亜鉛末を使ったセメンテーションは、電位の低下だけで砒素を除去できるとしても、あまり好ましくない。この場合、アルシン(AsH3)が発生する可能性があり、また鉄も同時に析出しやすく、電位のコントロールを非常に厳しく行っても鉄の混入を避けることが難しいからである。鉄の混入した砒素含有物質は、上工程で砒素を酸化浸出する際に邪魔になる。鉄粉を用いたいわゆるLIP法も同様である。
《硫化処理》
発明者らの詳細な検討の結果、この鉄砒素反応后液から砒素を抽出して上工程に戻すためには、硫化によって砒素硫化物を生成させ、これを固形分として分離回収する手法が極めて有効であることがわかった。硫化反応によれば、鉄を液中に残したまま砒素を分離することができる。アルシンの発生もない。硫化剤としては、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質を使用する。例えば、硫化水素(H2S)、NaSH、Na2Sなどが利用できる。これらの硫黄化合物は、その1種以上を被処理液である鉄砒素反応后液中に添加することにより、比較的容易に砒素の硫化反応を進行させることができる。ガスの場合は液中に吹き込む手法が採用でき、溶液や固形物の場合は液中に投入して必要に応じて撹拌すればよい。反応温度は常温でも構わない。前工程の鉄砒素反応は比較的高温で行われるので、それに引き続き硫化処理を行う場合はやや高温とならざるを得ないが、特に問題はない。例えば、室温〜100℃の範囲、好ましくは室温〜70℃の範囲が選択できる。
発明者らの詳細な検討の結果、この鉄砒素反応后液から砒素を抽出して上工程に戻すためには、硫化によって砒素硫化物を生成させ、これを固形分として分離回収する手法が極めて有効であることがわかった。硫化反応によれば、鉄を液中に残したまま砒素を分離することができる。アルシンの発生もない。硫化剤としては、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質を使用する。例えば、硫化水素(H2S)、NaSH、Na2Sなどが利用できる。これらの硫黄化合物は、その1種以上を被処理液である鉄砒素反応后液中に添加することにより、比較的容易に砒素の硫化反応を進行させることができる。ガスの場合は液中に吹き込む手法が採用でき、溶液や固形物の場合は液中に投入して必要に応じて撹拌すればよい。反応温度は常温でも構わない。前工程の鉄砒素反応は比較的高温で行われるので、それに引き続き硫化処理を行う場合はやや高温とならざるを得ないが、特に問題はない。例えば、室温〜100℃の範囲、好ましくは室温〜70℃の範囲が選択できる。
砒素の硫化が進行するに伴ってORP(酸化還元電位)が低下する。ORPの低下の度合いによって砒素の沈殿率が変化する。砒素を充分に沈殿除去するにはORP(Ag/AgCl電極)が100mV以下になるまで硫化を進行させることが好ましく、20mV以下になるまで行うことがより好ましい。水銀が無ければ、更に低下させても構わない。
硫化によって 砒素は硫化砒素(As2S3またはAs2S5)を主体とする形態で析出沈殿する。これは黄色の沈殿物である。鉄は硫化によって共沈しないので、砒素と鉄の分離は容易である。また、上工程の鉄砒素反応において、酸化反応を促進させるために銅を添加した場合、銅は鉄砒素化合物と共沈しないので、液中に残っている。硫化剤を添加することによって銅は砒素と同時にほぼ100%沈殿析出する。この場合、銅の量によって黒みまたは茶色みを帯びた沈殿物が得られる。
硫化反応を進行させた後に、得られたスラリーを固液分離する。固液分離の前に後述の「S2-イオン除去処理」を行ってもよい。固液分離は、フィルタープレス、遠心分離、デカンター、ベルトフィルターなど一般的なろ過手段のどれを採用しても構わない。ろ過性、脱水性、洗浄性を勘案して機器および条件が決定される。沈殿物の量は、上工程での鉄砒素化合物の生成量と比較すると僅かであり、ろ過速度は非常に速い。固液分離後の固形分と后液をそれぞれ回収する。固形分は上記硫化砒素を主体とする砒素硫化物であり、これは、前述の砒素液を作成するための砒素含有物質として利用できる。すなわち、硫化物であるために、これを水中に入れて酸素を吹き込むことにより、砒素を浸出させることができる。一方、后液中には酸(例えば硫酸換算で40〜80g/L程度)、Fe2+イオン、S2-イオンが存在する。ここで得られた后液を本明細書では「硫化反応后液」と呼んでいる。この后液は必要に応じてS2-イオンを除去するために、以下のS2-イオン除去処理に供される。
《S2-イオン除去処理》
硫化を進行させるために硫黄含有物質を添加していくと、必然的に液中に溶存するS2-イオンの量が増加する。硫化反応后液中にS2-イオンが含まれていると、この后液を種々の用途で使用する際に暴気工程を入れる必要が生じる場合もあり、工程が複雑になるので、予めS2-イオンを除去しておくことが好ましい。その手法としては、液中に空気を吹き込む暴気処理や、SO2ガスを吹き込むクラウス反応が採用できる。ただし、SO2ガスを吹き込む場合は、未反応のSO2ガスを除去する必要が生じる。また、元素性の硫黄が析出するので、前記の硫化反応後、固液分離前の段階で行うことが好ましい。空気を吹き込む暴気処理は、概ね0.5〜24時間の範囲で実施することが効果的であるが、これは固液分離前に行ってもよいし硫化反応后液に対して行ってもよい。
硫化を進行させるために硫黄含有物質を添加していくと、必然的に液中に溶存するS2-イオンの量が増加する。硫化反応后液中にS2-イオンが含まれていると、この后液を種々の用途で使用する際に暴気工程を入れる必要が生じる場合もあり、工程が複雑になるので、予めS2-イオンを除去しておくことが好ましい。その手法としては、液中に空気を吹き込む暴気処理や、SO2ガスを吹き込むクラウス反応が採用できる。ただし、SO2ガスを吹き込む場合は、未反応のSO2ガスを除去する必要が生じる。また、元素性の硫黄が析出するので、前記の硫化反応後、固液分離前の段階で行うことが好ましい。空気を吹き込む暴気処理は、概ね0.5〜24時間の範囲で実施することが効果的であるが、これは固液分離前に行ってもよいし硫化反応后液に対して行ってもよい。
このようにして得られた硫化反応后液は、例えば遊離の酸(主として硫酸)をpH=約4まで中和して石膏を回収する工程に利用できる。酸濃度が非常に高いので煙灰などの浸出液の補加水として利用することも可能である。石膏を回収した後には、例えば空気を吹込んでゲーサイト(α−FeOOH)を得ることができる。これは黄色の顔料として使用できる。亜鉛、マンガン、カドミウムがある場合はpHを高くして、亜鉛、マンガン、カドミウムを回収し、亜鉛製錬所で処理される。
《砒素液の作成》
ここでは試薬の砒素液(和光純薬工業社製、H3AsO4含有量62%)と試薬の硫酸第1鉄7水和物(和光純薬工業社製、FeSO4・7H2O)を用いて、砒素(5価)の濃度50g/L、鉄(2価)の濃度55.9g/Lの砒素液を4L(リットル)作成した。
ここでは試薬の砒素液(和光純薬工業社製、H3AsO4含有量62%)と試薬の硫酸第1鉄7水和物(和光純薬工業社製、FeSO4・7H2O)を用いて、砒素(5価)の濃度50g/L、鉄(2価)の濃度55.9g/Lの砒素液を4L(リットル)作成した。
《結晶性鉄砒素化合物の生成》
上記の砒素液を反応容器に入れ、2段のディスクタービン、邪魔板4枚をセットして 800回転/分で撹拌した。この状態の液を加温して、温度が70℃になったところで、大気開放下において純度99%の酸素ガスを液中に4L/minで吹込んだ。なお、酸素ガスを吹き込む前の液のpHは1.18であった。撹拌を継続しながら、液温を70℃に保持し、酸素吹き込みを5時間継続することによって析出反応(鉄砒素反応)を進行させた。このスラリーを加圧ろ過器を用いて固液分離し、固形分をウェットで832g回収するとともに、后液(鉄砒素反応后液)を回収した。60℃の液温時点でこの后液の液性を測定したところ、pHは0.08、ORP(Ag/AgCl電極)は368mVであった。
得られた固形分についてのX線回折の結果、スコロダイト結晶に対応する回折ピークが観測された。
上記の砒素液を反応容器に入れ、2段のディスクタービン、邪魔板4枚をセットして 800回転/分で撹拌した。この状態の液を加温して、温度が70℃になったところで、大気開放下において純度99%の酸素ガスを液中に4L/minで吹込んだ。なお、酸素ガスを吹き込む前の液のpHは1.18であった。撹拌を継続しながら、液温を70℃に保持し、酸素吹き込みを5時間継続することによって析出反応(鉄砒素反応)を進行させた。このスラリーを加圧ろ過器を用いて固液分離し、固形分をウェットで832g回収するとともに、后液(鉄砒素反応后液)を回収した。60℃の液温時点でこの后液の液性を測定したところ、pHは0.08、ORP(Ag/AgCl電極)は368mVであった。
得られた固形分についてのX線回折の結果、スコロダイト結晶に対応する回折ピークが観測された。
得られた鉄砒素反応后液について以下の分析を行った。
ICPによって砒素、鉄、ナトリウム、トータルSを分析した。
鉄の価数分析として、以下の手順で重クロム酸カリウムを用いた酸化還元滴定を行ってFe2+の分析を行った。
〔鉄の価数分析〕
サンプル液を5mL分取
常温での体積割合で水:硫酸=1:3とした硫酸液を10mL添加
85質量%のH3PO4溶液を5mL添加
トータル50mLになるように30mLの純水を追加
ジフェニルアミンを指示薬として3、4滴添加
重クロム酸カリウムで滴定し、液の色が紫になるようにする
ICPによって砒素、鉄、ナトリウム、トータルSを分析した。
鉄の価数分析として、以下の手順で重クロム酸カリウムを用いた酸化還元滴定を行ってFe2+の分析を行った。
〔鉄の価数分析〕
サンプル液を5mL分取
常温での体積割合で水:硫酸=1:3とした硫酸液を10mL添加
85質量%のH3PO4溶液を5mL添加
トータル50mLになるように30mLの純水を追加
ジフェニルアミンを指示薬として3、4滴添加
重クロム酸カリウムで滴定し、液の色が紫になるようにする
規定度のファクターのはっきりした分析用試薬液である炭酸ナトリウム溶液(Na2CO3)を用いて、遊離硫酸(FA)濃度を測定した。
液を純水で希釈してイオンクロマトグラフィー(東亜電波工業製、IA−100)にかけて、SO4イオンの分析を行った。
溶存するS2-イオンの濃度を、トータルSの分析値と上記SO4イオンの分析値のS濃度の差分から計算によって算出した。
これらの結果を表1中のNo.1の欄に示す。鉄砒素反応后液中には砒素が2.666g/Lと多く残っていることがわかる。
液を純水で希釈してイオンクロマトグラフィー(東亜電波工業製、IA−100)にかけて、SO4イオンの分析を行った。
溶存するS2-イオンの濃度を、トータルSの分析値と上記SO4イオンの分析値のS濃度の差分から計算によって算出した。
これらの結果を表1中のNo.1の欄に示す。鉄砒素反応后液中には砒素が2.666g/Lと多く残っていることがわかる。
次に、この液を室温で約24時間放置した後、改めて上記と同じ方法で分析を実施した。その結果を表1中のNo.2の欄に示す。砒素含有量は2.666g/Lと変化はないが、S濃度に少し変化が見られた。これは測定誤差の範囲であると考えられる。
《硫化処理》
この常温で放置した鉄砒素反応后液(分析値がNo.2であるもの)から700mL分取してビーカーに入れ、ハステロイC−23製の2段ディスクと邪魔板を用いて250回転/分で撹拌させながら、30℃まで極僅かに加温した。そして、撹拌を継続しながら、液温を30℃に保持した状態で、純度99%の硫化水素(H2S)をガスボンベから気化させた硫化水素ガスを液中に導入した。pHとORP(Ag/AgCl電極基準、以下同様)を同時にリアルタイムでモニターしながら、硫化水素ガスの導入流量を200mL/分として砒素の硫化反応を進行させた。硫化水素ガスの導入を開始した時点、すなわち反応開始から、ORPが250mVになった時点までの経過時間を計測したところ、4分であった。この時点までの硫化水素ガスの導入量は800mLとなる。ここで、液の一部をサンプリングして、メンブランフィルターを用いてろ過を行い、少量のサンプル液を採取し、砒素および鉄の分析を行った。その結果を表1中のNo.3の欄に示す。pHが若干下がり、砒素濃度が1.591g/Lと下がっていることがわかる。鉄濃度に変化はほとんど見られない。
この常温で放置した鉄砒素反応后液(分析値がNo.2であるもの)から700mL分取してビーカーに入れ、ハステロイC−23製の2段ディスクと邪魔板を用いて250回転/分で撹拌させながら、30℃まで極僅かに加温した。そして、撹拌を継続しながら、液温を30℃に保持した状態で、純度99%の硫化水素(H2S)をガスボンベから気化させた硫化水素ガスを液中に導入した。pHとORP(Ag/AgCl電極基準、以下同様)を同時にリアルタイムでモニターしながら、硫化水素ガスの導入流量を200mL/分として砒素の硫化反応を進行させた。硫化水素ガスの導入を開始した時点、すなわち反応開始から、ORPが250mVになった時点までの経過時間を計測したところ、4分であった。この時点までの硫化水素ガスの導入量は800mLとなる。ここで、液の一部をサンプリングして、メンブランフィルターを用いてろ過を行い、少量のサンプル液を採取し、砒素および鉄の分析を行った。その結果を表1中のNo.3の欄に示す。pHが若干下がり、砒素濃度が1.591g/Lと下がっていることがわかる。鉄濃度に変化はほとんど見られない。
引き続いて硫化水素ガスを200mL/分で導入し、ORPが100mVまで低下した時点までの経過時間を測定したところ、反応開始から96分であった。上と同様に液の一部をサンプリングしてろ過を行い、砒素および鉄の分析を行った。その結果を表1中のNo.4の欄に示す。pHが若干下がり、砒素濃度が0.207g/Lとかなり下がっていることがわかる。やはり鉄濃度の変化はほとんど観測されない。
引き続いて硫化水素ガスを200mL/分で導入し、ORPを13mVまで低下させた。反応開始からこの時点までの経過時間は540分であった。上と同様に液の一部をサンプリングしてろ過を行い、前記の各種分析を行った。その結果を表1中のNo.5の欄に示す。pHが若干下がり、砒素濃度は0.015g/Lと非常に少なくなっている。砒素の除去率(沈殿率)は99.4%であり、鉄砒素反応后液中に残った砒素のほとんど全部を固形分として回収できることがわかる。鉄濃度の変化はほとんど観測されない。酸(FA)濃度は若干低下していることから、H2SO4+H2S=S+H2Oの反応も、極僅かながら起こっている可能性がある。この段階で回収された固形分の分析値は、As:41.76質量%、Fe:0.42質量%、トータルS:51.22質量%であった。これは鉄の含有量が極めて少ない砒素硫化物であることがわかる。このような砒素硫化物は、特願2006−339154で開示した水浸出の手法を適用して砒素液を作成するために利用することができ、それによって砒素処理のクローズなプロセスが構築できる。
《S2-イオン除去処理》
ORPが13mVまで低下した硫化反応后液中にはS2-イオンが2g/L程度溶存していた。そこで、この液に空気を吹き込む暴気を8時間行った。その結果、S2-イオン量はほとんどゼロ(検出限界程度)にまで低減できることが確認された。
ORPが13mVまで低下した硫化反応后液中にはS2-イオンが2g/L程度溶存していた。そこで、この液に空気を吹き込む暴気を8時間行った。その結果、S2-イオン量はほとんどゼロ(検出限界程度)にまで低減できることが確認された。
Claims (4)
- 5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して生成した結晶性の鉄砒素化合物を含有するスラリーから、固形分を除去して得られた、砒素イオンが残存する酸性の后液(鉄砒素反応后液)に対し、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質を添加することによって砒素硫化物を生成させ、前記砒素硫化物を含有するスラリーを固液分離することにより固形分として砒素硫化物を回収する鉄砒素反応后液の処理方法。
- 5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して生成した結晶性の鉄砒素化合物を含有するスラリーから、固形分を除去して得られた、砒素イオンが残存する酸性の后液(鉄砒素反応后液)に対し、S2-イオン供給源となる硫黄含有物質を添加することによって砒素硫化物を生成させ、前記砒素硫化物を含有するスラリーを固液分離することにより固形分として砒素硫化物を回収するとともに后液(硫化反応后液)を回収し、硫化反応后液については液中に空気を吹き込むことによりS2-イオンを除去する暴気処理に供する鉄砒素反応后液の処理方法。
- 前記砒素硫化物を生成させる際に、Ag/AgCl電極基準でのORPが100mV以下になるまでS2-イオン供給源となる硫黄含有物質を添加する請求項1または2に記載の鉄砒素反応后液の処理方法。
- 前記硫黄含有物質が硫化水素、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウムの1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の鉄砒素反応后液の処理方法。
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