弾性表面波フィルタなどの弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)デバイスは、小型で量産性に優れ、安価に製造することができるところから、携帯電話機などの通信機器に広く採用されている。弾性表面波フィルタを構成する弾性表面波素子片には、圧電基板の表面に一対のすだれ状電極を弾性表面波の伝播方向に沿って適宜の間隔を置いて配置したトランスバーサル型がよく知られている。ところが、トランスバーサル型の弾性表面波素子片は、一方のすだれ状電極において励振して伝播する弾性表面波を他方のすだれ状電極で受信するようになっており、受信する弾性表面波のエネルギーが小さい。このため、トランスバーサル型弾性表面波素子片は、比較的広帯域のフィルタを形成できるが、挿入損失が大きくなる欠点がある。そこで、一対のすだれ状電極の外側に格子状の反射器を配置した共振型の弾性表面波素子片が用いられることも多い。この共振型弾性表面波素子片は、一対の反射器が伝播してくる弾性表面波をすだれ状電極側に反射し、弾性表面波のエネルギーを一対の反射器間に閉じ込める。このため、共振型弾性表面波素子片は、挿入損失を小さくすることができる。
図22は、従来の通常の共振型弾性表面波素子片の一例を模式的に示した平面図である。図22において、弾性表面波素子片10は、圧電基板12の中央部に一対のIDT(Interdigital Transducer)14、16が設けてある。圧電基板12は、例えば水晶やタンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの圧電体からなり、平面視矩形状に形成してある。一対のIDT14、16は、圧電基板12の弾性表面波の伝播方向に沿って配置してある。IDT14は、一対の櫛型電極18(18a、18b)からなっていて、櫛型電極の櫛歯に相当する電極指20(20a、20b)が噛み合うように配置されてすだれ状をなしている。そして、電極指20aと電極指20bとは、対応するバスバー24(24a、24b)に一端が接続してある。他方のIDT16は、一対の櫛型電極22(22a、22b)からなっていて、IDT14と同様に、電極指20が相互に噛み合うように配置してある。これらの電極指20は、櫛型電極18と同様に、一端が対応するバスバー24に接続してある。
IDT14、16の弾性表面波の伝播方向外側には、IDT14、16を挟んで一対の反射器26(26a、26b)が設けてある。各反射器26は、電極指20と平行に形成した複数の導体ストリップ28から形成されていて格子状をなしている。反射器26の開口幅Bは、IDT14、16の電極交差部30、32、すなわち電極指20a、26bが形成する弾性表面波の伝播方向の重なり部である電極交差部30,32の幅Wより広くしてある。そして、反射器26の開口幅Bは、IDT14、16の導波路の幅W0、すなわちバスバー24a、24b間の幅とほぼ同じにしてある。
このような弾性表面波素子片10は、図22に示したように、バスバー24がワイヤボンディング部を兼ねていて、バスバー24にボンディングワイヤ34が接合される。なお、バスバー24にボンディングワイヤ34を接合しない場合、電極指20の長手方向となるバスバー24の外側に、バスバー24と電気的に接続した200μm×200μm程度のボンディングパッド(ワイヤボンディング部)を形成する。そして、このボンディングパッドにボンディングワイヤ34を接合するようにしている。また、一対のIDT14、16のいずれか一方(例えば、IDT14)は、入力側となっていて、櫛型電極18a、18bとの間にボンディングワイヤ34を介して信号電圧が印加され、圧電基板12の表層部に所定周波数の弾性波(弾性表面波)を励振する。他方のIDT16は、出力側となっていて、圧電基板12を伝播してきた弾性表面波の振幅に比例した電圧を得ることができる。このようになっている弾性表面波素子片10は、RFフィルタ、デュープレクサ、IFフィルタ等に利用されている。
ところが、上記のような弾性表面波素子片10は、IDT14、16に形成された導波路の幅W0がIDT14によって励起された弾性表面波の波長λに対して充分に広く(長く)ない場合、導波路を伝播できる弾性表面波の導波モードの数が限られる。これらの伝播できる導波モードは、スプリアスの原因となる。図23と図24は、弾性表面波素子片10の周波数応答特性を示したものである。
図23は、弾性表面波素子片10の周波数に対する挿入損失を示したものである。図23の横軸は周波数であって、中心周波数F0に対する偏差をMHzで示している。図23の縦軸は、挿入損失をdBで示している。なお、中心周波数F0は、約100MHzである。また、図24は、群遅延時間応答特性を示したもので、横軸が図23と同様に示した周波数、縦軸が遅延時間をμsecで示した。なお、用いた弾性表面波素子片10は、電極交差部30、32の交差幅が700μmであって、電極交差部30、32からバスバー24までの距離が約10μmである。そして、図23、24に示した符号PBは、弾性表面波素子片10を用いてフィルタを形成したときの通過帯域を示している。
この弾性表面波素子片10は、図23にAで示されているように、通過帯域PB内であって中心周波数F0近傍に損失の大きなディップを生ずる。そして、図24に示したように、このディップを生ずる周波数においては、近傍の周波数より伝達時間が約0.4μsec遅くなっている。
そこで特許文献1、2には、電極指の長手方向外側にグレーティング領域を形成し、実質的に導波路の幅を拡げ、スプリアス(ディップ)の改善を図っている。図25は、そのような弾性表面波素子片を模式的に示した平面図である。図25において、弾性表面波素子片40は、2つのIDT42、44が弾性表面波の伝播方向に沿って設けてある。これらのIDT42、44は、それぞれが一対の櫛型電極46(46a、46b)、48(48a、48b)からなっている。各櫛型電極46、48は、電極指20によって電極交差部30、32を形成している。さらに、櫛型電極46、48は、電極指20の長手方向の側方にグレーティング部50(50a、50b)と、グレーティング部50の外側に設けたバスバー24とを有する。電極指20、グレーティング部50およびバスバー24は、一体に形成してある。他の構成は、前記の弾性表面波素子片10とほぼ同様である。
この弾性表面波素子片40は、IDT42、44の導波路が電極指20を設けた領域とグレーティング部50とによって形成される。そして、反射器24の開口幅Bが電極交差部30、32の幅(交差幅)Wより大きくしてあって、導波路の幅W0にほぼ等しくしてある。また、バスバー24には、ボンディングワイヤ34が接合される。
このように形成した弾性表面波素子片40は、反射器24の開口幅BがIDT42、44の導波路の幅W0とほぼ等しく形成してある。このため、IDT42、44に閉じ込められる高次横モードのパターンと反射器24に閉じ込められる高次横モードのパターンとが同じとなり、高次横モードに基づくスプリアスが発生する。そこで、特許文献3では、反射器の開口幅Bを電極交差部の交差幅Wの70%以下と小さくし、高次横モードの一部を反射しないようにして、高次横モードに基づくスプリアスを低減するようにしている。
特開平10−173467号公報
特開平11−298286号公報
特開平7−86869号公報
本発明に係る弾性表面波素子片の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。なお、背景技術において説明した部分に対応する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。図1において、弾性表面波素子片52は、圧電基板12の中央部に、弾性表面波の伝播方向に沿って一対のIDT54、56を備えている。圧電基板12は、実施形態の場合、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなっている。もちろん、圧電基板12は、STカット水晶やニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの他の圧電体であってもよい。
各IDT54、56は、それぞれ一対の櫛型電極58(58a、58b)からなり、すだれ状に形成してある。すなわち、櫛型電極58は、電極交差部30、32を形成している複数の電極指20(20a、20b)と、電極指20の長手方向側方に設けたグレーティング部50(50a、50b)とからなっている。このグレーティング部50は、電極指20と同じ導電性金属材料、例えばアルミニウム、アルミニウムを主成分とするアルミ合金などからなり、フォトリソグラフィー技術などにより電極指20と同時に形成される。
グレーティング部50は、実施形態の場合、幅(電極指20の長手方向に沿った寸法)が125μmであり、複数のグリッド60と複数のショートバー62とを有する。グリッド60は、電極指20に対応して設けてあり、電極指20と平行に形成してある。ショートバー62は、グリッド60に直交して形成してあり、グレーティング部50のオーミック抵抗を低減するように、各グリッド60を相互に連結している。ショートバー62は、細いほうが望ましい。しかし、ショートバー62は、グレーティング部50のオーミック抵抗による挿入損失の増大など、弾性表面波デバイスの特性の劣化を考慮して、適宜の太さと本数に設定される。例えば、ショートバー62の太さ(幅)は、20μm以下、または電極指20の幅以下に設定される。
弾性表面波素子片52は、IDT54、56の外側に、IDT54、56を挟んで反射器64(64a、64b)が配置してある。反射器64は、電極指20に平行な複数の胴体ストリップ28から形成してある。そして、反射器64は、各導体ストリップ28の、IDT54、56のグレーティング部50に対応した長手方向の端部が、複数のショートバー66によって相互に接続してある。また、弾性表面波素子片52は、各櫛型電極58のグレーティング部50の端部がボンディングワイヤ34を接合するワイヤボンディング部68となっている。すなわち、ワイヤボンディング部68は、各グレーティング50の隣接する反射器64側の端部にしてあって、ボンディングワイヤ34をグレーティング部50のグリッド60とショートバー62とに直接接合するようにしてある。
このようになっている第1実施形態の弾性表面波素子片52は、電極指20の長手方向側方にグレーティング部50を形成したことにより、電極指20を長く形成しなくとも、IDT54、56の導波路の幅を実質的に広げることができる。したがって、IDTの導波路の幅が狭いことにより生じていた中心周波数の近傍のディップを低減(抑圧)することができる。そして、格子状のグレーティング部50にワイヤボンディング部68を設けているため、バスバーと異なり、ボンディングワイヤ34を接合する位置を容易に認識することができる。したがって、ボンディングワイヤ34を接合する位置のばらつきをなくすことができ、ボンディングワイヤ34の接合位置のばらつきに伴う弾性表面波デバイスの特性のばらつきを小さくできる。
図2、3は、第1実施形態に係る弾性表面波素子片52の周波数応答特性を示したものである。
図2は、弾性表面波素子片52の周波数に対する挿入損失を示している。図2の横軸は、周波数であって、中心周波数F0に対する偏差をMHzで示している。図2の縦軸は、挿入損失をdBで示している。なお、中心周波数F0は、約100MHzである。また、図3は、群遅延時間応答特性を示したもので、横軸が図2と同様に示した周波数、縦軸が遅延時間をμsecで示した。なお、使用した弾性表面波素子片52は、電極交差部30、32の交差幅Wが700μm、電極交差部30、32とグレーティング部50との間隔dが約10μm、グレーティング部50の幅W1が125μmである。また、ショートバー62の太さ(幅)が5μmであって、ショートバー62の本数が2本である。
図2に示されているように、通過帯域PB内の中心周波数F0近傍におけるディップが、0.5dB程度であったものを0.1dB程度に大幅に改善することができる。また、図3に示してあるように、このディップを生じていた周波数の群遅延時間を、その近傍の周波数における遅延時間に比較して、0.01μsec程度の遅延時間偏差に改善することができた。
しかも、図1に示した第1実施形態の弾性表面波素子片52は、グレーティング部50の一部をワイヤボンディング部68としてこの部分にボンディングワイヤ34を接合している。このため、ワイヤボンディングが可能な幅が200μm程度のバスバーを設けたり、専用のボンディングパッドを設ける必要がなく、弾性表面波素子片の小型化を図ることができる。また、ワイヤボンディング部68を、グレーティング部50に隣接する反射器64側の端部に設けたことにより、ワイヤボンディング部68の導波路に与える影響を小さくすることができる。すなわち、ワイヤボンディング部68をグレーティング部50の長手方向中央より、または隣接するグレーティング部側の端部に設けた場合、グレーティング部50が形成する導波路がワイヤボンディング部によって分断される。このため、一対のグレーティング部が連続した導波路として機能せず、通過帯域内に生ずるリップルを充分に改善することができない。
ところで、発明者は、弾性表面波素子片52のグレーティング部50がフィルタの特性に与える影響について種々研究したところ、ショートバー62が大きく影響していることが判明した。図4、5は、弾性表面波素子片52におけるショートバー62の本数と周波数応答特性との関係を示したものである。図4は、ショートバー62の本数と群遅延時間偏差との関係を示したものである。図4の横軸はショートバー62の本数であり、縦軸はμsecを単位とした通過帯域内における群遅延時間の偏差、すなわち、最大遅延時間と最小遅延時間との差を示している。また、図5は、ショートバーの本数と通過帯域内における最大挿入損失との関係を示したものである。図5の横軸はショートバー62の本数であり、縦軸は通過帯域における最大挿入損失をdBで示している。
なお、図4、5において、グレーティング部50の幅W1は125μmであり、ショートバー62の幅は5μmである。そして、グレーティング部50における複数のショートバー62の配置順は、グレーティング部50を幅方向に均等に分割するように配置した。図6は、ショートバー62の配置の方法を模式的に示したものである。図6(1)は、ショートバー62が1本の場合である。この場合、ショートバー62は、グレーティング部50の最も内側(電極交差部30より、または電極交差部32より)に配置した。また、図6(2)は、ショートバー62が2本の場合であって、ショートバー62をグレーティング部50の最も内側と最も外側に配置している。そして、図6(3)〜(5)は、ショートバー62の数をこの順に増加させたときのショートバー62の配置状態を示している。ショートバー62が6本以上の場合も同様である。
図4に示されているように、ショートバー62の本数が少なくなるほど遅延時間の偏差を小さくすることができる。しかし、太さ5μmのショートバー62の本数が3本より少なくなると、図5に示されているように、オーミック抵抗が大きくなって通過帯域内における最大挿入損失が増大する。なお、図4、図5における右端のデータは、グレーティング部50の全体をショートバー62で埋めた状態、すなわち幅125μmのグレーティング部50を幅125μmのバスバーで置き替えたときのデータである。
図7、図8は、図4、図5をグレーティング率に換算したものである。すなわち、グレーティング部50における幅方向の凹凸率を示している。グレーティング部50におけるショートバー62による凸部と圧電基板12の表面からなる凹部とからなる凹凸における凹部の割合を示している。例えば、グレーティング部50の幅が125μmであって、ショートバー62の幅が5μmである場合グレーティング部50に2本のショートバー62を設けたとき(125−2×5)÷125=0.92となる。すなわち、この場合、グレーティング率は、0.92である。
図7は、図4を上記のグレーティング率に換算して示したものである。図8は、図5をグレーティング率に換算して示したものである。これらの図に示したように、グレーティング率が0.8以上であって、0.95より小さいことが望ましいことがわかる。なお、グレーティング率が1の場合、ショートバー62を設けないことを意味する。また、グレーティング率が0とは、グレーティング部50をバスバーによって置き替えた場合である。
図9は、第2実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。この実施形態に係る弾性表面波素子片70は、各櫛型電極58のグレーティング部50にワイヤボンディング部72が設けてある。ワイヤボンディング部72は、各グレーティング部50の隣接する反射器64側の端部に設けてある。そして、ワイヤボンディング部72は、グリッド60とショートバー62とで形成したグレーティング部50の升目がグレーティング部50を形成している金属膜、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜によってグレーティング部50の升目が覆ってある。このようになっているワイヤボンディング部72は、ボンディングワイヤ34をより強固に接合することができ、弾性表面波素子片70を振動環境下において使用した場合においても接合剥離などを防げ、信頼性を向上することができる。
図10は、第3実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。第3実施形態に係る弾性表面波素子片74は、IDT54を構成している一方の櫛型電極58aが隣接する反射器64aに電気的に接続してある。すなわち、櫛型電極58aは、グレーティング部50aを構成している外側のショートバー62が反射器64a側に延ばされ、反射器64aに接続している。そして、この反射器64aのIDT54側の端部であって、グレーティング部50aと対応した位置にワイヤボンディング部72が形成してある。ワイヤボンディング部72は、導体ストリップ28と2本のショートバー66とによって形成した升目が、反射器64を形成している金属と同じ金属の薄膜によって埋めてある。このように形成した弾性表面波素子片74においても、前記と同様の効果を得ることができる。なお、反射器64は、IDT54、56を構成している同じ導電性金属膜からなり、IDT54、56と同時に形成される。
ただし、弾性表面波素子片74は、反射器64aがIDT54を構成している櫛型電極58aに電気的に接続してあるため、反射器64aの分だけ浮遊容量(寄生容量)が大きくなる。そして、この浮遊容量がフィルタ特性を悪化させる可能性がある。このため、誘電率の大きな圧電体基板、例えばタンタル酸リチウムなどを用いて弾性表面波素子片を形成する場合、図10のようにIDTを反射器に接続する構造は、好ましくない。
なお、反射器64aに接続するショートバー62は、グレーティン部50aの内側のショートバー62のいずれであっても複数であってもよい。また、反射器64aに接続する櫛型電極は、櫛型電極58bであってもよい。さらに、IDT54の櫛型電極58a、58bのいずれか一方を反射器64aに接続するとともに、IDT56の櫛型電極58a、58bのいずれか一方を反射器64bに接続し、反射器64bにワイヤボンディング部を設けてもよい。
図11は、第4実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。この実施形態の弾性表面波素子片76は、一方の反射器64aがIDT54、56の電極指20の長手方向、すなわち導体ストリップ28の長手方向中央において分割され、2つの反射部78(78a、78b)からなっている。この反射部78a、78b間のギャップgは、反射部78aと反射部78bとが電気的に分離されているとともに、圧電基板12を伝播してくる弾性表面波を反射するのに影響がない間隙である。他方の反射器64bは、前記実施形態と同様に一体に形成してある。
そして、反射器64aを構成している反射部78のそれぞれには、IDT54を構成している一対の櫛型電極58a、58bの対応した櫛型電極のグレーティング部50が接続してある。さらに、各反射部78の端部には、ワイヤボンディング部72が設けてある。このワイヤボンディング部72は、隣接したIDT54の反対側の端部であって、弾性表面波の伝播方向におけるグレーティング部50と対応した位置に設けてある。他方のIDT56のためのワイヤボンディング部72は、前記実施形態と同様に、グレーティング部50の隣接した反射器64b側の端部に設けてある。
この構成においても、前記と同様の効果を得ることができる。なお、反射部78に設けたワイヤボンディング部72は、弾性表面波の伝播方向でグレーティング部50と対応した位置であれば、反射部78のどの位置に設けてもよい。また、反射器64aの分割位置は、導体ストリップ28の長手方向中央部でなくともよい。さらに、反射器64bについても2つの反射部に分割し、それぞれにIDT56の櫛型電極を接続してもよいことはもちろんである。
図12は、第5実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。この弾性表面波素子片80は、IDT54、56のグレーティング部50が電極指20に対応したグリッド60と5本のショートバー62によって構成してある。また、反射器64は、グレーティング部50に対応した部分の導体ストリップ28が、ショートバー62と対応したショートバー66によって相互に連結されている。他の構成は、前記実施形態と同様である。なお、反射器64の端部は、グレーティング部50と同様に形成する必要はない。
図13は、第6実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。この実施形態に係る弾性表面波素子片82は、IDT54、56を構成している各櫛型電極58に形成したグレーティング部50が圧電基板12の端縁まで形成してある。すなわち、グレーティング部50aは、これに隣接したグレーティング部50aの長手方向に沿った端縁84まで延在している。グレーティング部50bも同様に、圧電基板12のグレーティング部50bに隣接して、グレーティング部50bに沿った端縁86まで延在している。そして、グレーティング部50を形成している最も外側のショートバー62がこれらの端縁84、86より所定の距離、例えば10μmだけ内側に形成してある。
これは、複数の弾性表面波素子片を形成した圧電体ウエハを個々の弾性表面波素子片に分割する際、端縁84、86に欠けを生ずることがあるためである。最も外側のショートバー62を圧電基板12の端縁ぎりぎりに形成した場合、端縁84、86に欠けが生ずると、最も外側のショートバー62に切断部を生じ、グレーティング部50のオーミック抵抗が増大してフィルタの特性を悪化させるおそれがある。そこで、グレーティング部50の最も外側のショートバー62を端縁84、86より、予め定めた距離だけ内側に形成して、ショートバー62の断線を防ぎ、フィルタの特性が悪化するのを防止している。なお、反射器64も端縁84、86まで延在させて設けてあり、最も外側のショートバー66もグレーティング部50と同様に、端縁84、86より所定の距離だけ内側に形成してある。
図14は、第7実施形態に係る弾性表面波素子片の圧電基板を省略した電極パターンを模式的に示したものである。この実施形態に係る弾性表面波素子片90は、IDT54、56のグレーティング部50が電極交差部30、32を形成する電極指20に電気的に接続されていない。すなわち、グレーティング部50は、電極指20との間に微小間隙を有し、電極指20と別体に形成してある。
また、各反射器64a、64bは、導体ストリップ28の長手方向において反射部78a、78bに2分割してある。これらの反射部78には、IDT54、56を構成している櫛型電極58が電気的に接続してある。すなわち、櫛型電極58を構成している複数の電極指20は、一端がコネクティングバー92によって相互に接続してある。このコネクティングバー92は、例えば電極指20の幅の2〜3倍の幅に形成してあって、先端が隣接する反射部78側に延在され、対応する反射部78のショートバー66に接続してある。なお、本図に図示していないが、ワイヤボンディング部は、前記と同様に各反射部78のグレーティング部50と対応した位置に形成される。これにより、弾性表面波素子片90の小型化を図ることができる。
この実施形態における弾性表面波素子片90においてもグレーティング部50が導波路として機能し、中心周波数近傍のディップを低減することができる。ただし、弾性表面波素子片90は、電極指20が比較的細いコネクティングバー92によって反射部78に接続したため、電極指20がグレーティング部50に電気的に接続してある場合に比較してオーミック抵抗が大きくなり、挿入損失が大きくなるおそれがある。
図15は、第8実施形態に係る弾性表面波素子片の電極パターンを示したものである。第8実施形態の弾性表面波素子片94は、グレーティング部50aのグリッド60が電極指20と対応していない位置に形成してある。すなわち、グレーティング部50aのグリッド60は、電極指20と対応した位置の中間に形成してある。ただし、グリッド60の本数は、電極指20の本数にほぼ等しくなっている。この実施形態においても中心周波数近傍のディップを低減することができる。なお、図15のグレーティング部50bに示したように、グリッド60の形成ピッチと電極指20の形成ピッチとを異ならせてもよい。
図16は、第9実施形態に係る弾性表面波素子片の電極パターンを示したものである。本実施形態に係る弾性表面波素子片96は、グレーティング部50を構成しているグリッド60の形成数が電極指20の形成数より少なくなっている。すなわち、グリッド60は、電極指20に対していわゆる間引きして形成してある。このようになっている弾性表面波素子片96は、グリッド60の形成数が電極指20の形成数と同じである場合に比較して、ディップの抑圧効果が低下するが、ディップを抑圧することができる。
図17は、第10実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。図17において、弾性表面波素子片100は、弾性表面波の伝播方向に沿って設けたIDT54、56を備えている。各IDT54、56は、電極指20の長手方向側方にグレーティング部50を有している。各グレーティング部50は、隣接する反射器64側の端部に、ワイヤボンディング部72が設けてある。前記したように各IDT54、56は、電極指20とグレーティング部50とが導波路を構成している。IDT54、56を挟んで設けられた反射器64は、開口幅BがIDT54、56の形成する導波路の幅W0より狭くしてある。しかし、反射器64の開口幅Bは、電極指20が形成する電極交差部30、32の交差幅Wより広くしてある。
このようになっている弾性表面波素子片100は、IDT54、56の導波路の幅W0と反射器64の開口幅Bとを大きく異ならせることができる。このため、IDT54、56において閉じ込められる高次横モードのパターンと、反射器64において閉じ込められる高次横モードのパターンとが大きく異なり、高次横モードに基づくスプリアスを抑圧することができる。しかも、反射器64の開口幅Bが電極交差部30、32の交差幅Wより広くしてある。したがって、電極交差部30において励振した弾性表面波のすべてを反射することができ、挿入損失を小さくすることができる。また、ワイヤボンディング部72をグレーティング部50に設けたことにより、弾性表面波素子片100の小型化を図ることができる。
図18は、図17に示した第10実施形態に係る弾性表面波素子片100の周波数と挿入損失との関係を示したものである。図18の横軸は周波数であって、中心周波数F0に対する偏差をMHzで示した。図18の縦軸は、dBで示した挿入損失を示している。なお、弾性表面波100の電極交差幅W、導波路の幅W0および中心周波数F0は、前記と同じである。図18に示されているように、中心周波数F0近傍のディップが抑圧されていることがわかる。
図19は、第11実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。本実施形態の弾性表面波素子片102は、IDT54、56のグレーティング部50に設けたワイヤボンディング部68が金属膜によって形成されていない。すなわち、ワイヤボンディング部68は、グレーティング部50を形成しているグリッド60とショートバー62との所定位置にボンディングワイヤ34を直接接合するようにしてある。他の構成は、図17に示した第10実施形態の弾性表面波素子片100と同様である。
図20は、第12実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。図20に示した弾性表面波素子片104は、反射器64の開口幅BがIDT54、56の電極交差部30、32の交差幅Wにほぼ等しく形成してある。また、反射器64は、弾性表面波の伝播方向と直交した方向の寸法がグレーティング部50a、50b間の寸法とほぼ等しくなっている。
各グレーティング部50には、導電性金属薄膜により形成したワイヤボンディング部106が設けてある。これらのワイヤボンディング部106は、幅がグレーティング部50の幅寸方W1より狭くなっている。ワイヤボンディング部106は、弾性表面波の伝播方向であって、各グレーティング部50に隣接する反射器64側に突出して形成してある。すなわち、ワイヤボンディング部106は、反射器64の側方であって、グレーティング部50と対応した位置に設けてある。他の構成は、前記実施形態とほぼ同様である。
図21は、第13実施形態に係る弾性表面波素子片の平面図である。図21において、弾性表面波素子片108は、各グレーティング部50に配線パターン110を介してワイヤボンディング部106が接続してある。ワイヤボンディング部106は、反射器64のIDT54、56から遠い端部の側方であって、グレーティング部50に対応した位置に設けてある。他の構成は、図20に示した弾性表面波素子104と同様である。
なお、前記各実施形態は、本発明の一態様であって、これらの実施形態に限定されるものではない。例えば、前記各実施形態においては、すだれ状電極であるIDTを弾性表面波の伝播方向に沿って2つ設けた場合について説明したが、3つ以上設けてもよい。
12………圧電基板、20a、20b………電極指、30、32………電極交差部、34………ボンディングワイヤ、50a、50b………グレーティング部、52………弾性表面波素子片、54、56………すだれ状電極(IDT)、58a、58b………櫛型電極、60………グリッド、62、66………ショートバー、64a、64b………反射器、68、72、106………ワイヤボンディング部、70、74………弾性表面波素子片、78a、78b………反射部、80、82………弾性表面波素子片、84、86………端縁、90、94、96………弾性表面波素子片、92………コネクティングバー、102、104、108………弾性表面波素子片。