JP2007312635A - クエン酸分泌能が強化された樹木およびその作出方法 - Google Patents

クエン酸分泌能が強化された樹木およびその作出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】産生土壌等、土壌環境が不良である場所において、養分吸収の向上により生育が改善する樹木を提供する。
【解決手段】クエン酸分解経路の構成酵素のうち、NADP特異的イソクエン酸脱水素酵素等一つまたは複数の酵素の発現が抑制されて、根からのクエン酸分泌能が強化されていることを特徴とするユーカリ属の樹木、ならびにその作出方法。
【選択図】図5

Description

本発明は、クエン酸分泌能が強化された樹木、およびその樹木を作出する方法に関する。より詳細には、本発明は、クエン酸分解経路の構成酵素の活性を抑制もしくは欠失することによってクエン酸分泌能が強化された樹木、およびその樹木を作出する方法に関する。
世界の人口増加や経済成長は、地球環境に対するさまざまな負の影響を与えている。中でも二酸化炭素濃度の上昇は、地球温暖化を引き起こしその影響は目に見える形となって現れてきている。これを解決するべく二酸化炭素の効率的回収、隔離、有効利用などに関する技術開発が進められている。
その中でも、植物の持つ光合成機能を利用した二酸化炭素の固定は、他の技術では困難な、大気中に拡散した低濃度の二酸化炭素を吸収できること、二酸化炭素固定によって得られる同化産物が紙や繊維、アルコールなどのエネルギーとして、化石燃料を代替できることから重要と考えられ、この観点においては草本よりも木本が望ましい。
ところで、世界中の耕地において貧栄養が、作物生産および樹木生産に大きな影響を及ぼしている。その主要要因の1つはリンである。リンは通常正リン酸イオンの形で植物に吸収・利用されるがその反応性の高さから土壌中に存在する金属イオンと反応して通常植物が利用しがたい難溶性の金属塩(たとえばリン酸アルミニウム、リン酸鉄、リン酸カルシウム)を形成する。そのために土壌溶液中の正リン酸イオン濃度はきわめて低く、粗放栽培をした場合には植物はリン酸欠乏状態に陥る。特に酸性土壌では土壌溶液中のアルミニウム濃度が高いために、またアルカリ土壌ではカルシウム濃度が高いためにリン酸欠乏ストレスは苛烈である(非特許文献1)。従って、農業および産業植林においては必ずリン酸肥料の投入が行われる(非特許文献2)。
ところで、リン酸施肥が少なくても生育速度の維持が可能な作物が存在する。これらの作物では、根からのクエン酸やリンゴ酸の分泌が観察される(非特許文献3)。この有機酸分泌と難溶性金属リン酸塩の利用との間には何らかの関係があると考えられている。たとえば、分泌された有機酸が難溶性金属リン酸塩の金属をキレートし、そのことによりリン酸が遊離されると考えられている。実際に根圏の有機酸量と難溶性リン酸(たとえばリン酸アルミニウム、リン酸鉄、リン酸カルシウム)からのリン遊離による利用可能なリン酸の濃度上昇の相関が確認されている(非特許文献4、5、6又は7)。
有機酸分泌は細胞膜の有機酸輸送と細胞内の有機酸蓄積の2つの生理的要因が関与する機構と考えられ、生理学的・分子生物学的解析が行われてきた。その結果、リンゴ酸輸送を担っているリンゴ酸トランスポーターが発見され、これを遺伝子導入することでリンゴ酸分泌を強化する発明がなされた(特許文献1)。
一方、細胞内の有機酸蓄積については、特にクエン酸分泌・蓄積との関係が良く調べられており、クエン酸の合成に関わる酵素の活性上昇および/またはクエン酸の分解に関わる酵素の活性減少と関係が見出された(たとえば、非特許文献3又は8)。たとえば、クエン酸の合成に関わる酵素とはクエン酸合成酵素やホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼであり、クエン酸の分解に関わる酵素とはアコニターゼやNADPイソクエン酸脱水素酵素である。そして、実際にクエン酸の合成に関わる酵素を高発現させた遺伝子組換え体が作製され、それらはクエン酸および/またはリンゴ酸の分泌が向上したことが開示されている(たとえばホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ:特許文献2、クエン酸合成酵素:非特許文献9および10)。
特開2004−105164 特開平10−191976号公報 Lopez−Bucioら,Plant Science(2000)160,1−13 Johnston,IFA Publication(2001)p1 Neumannら,Planta(1999)208,373−382 Gardnerら,Plant Soil(1982a)68,19−32 Gardnerら,Plant Soil(1982b)68,33−41 Gardnerら,Plant Soil(1983)70,107−124 Dinkelakerら,Plant Cell Environ.(1989)12,285−292 Kiharaら,Plant Cell Physiol.(2003)44,901−908 Koyamaら,Plant Cell Physiol.(2000)41,1031−1037 Anoopら,Plant Physiol.(2003)132,2205−2217
しかし、上記の遺伝子組換え体の作製はいずれも草本植物においてなされたものである。一方、草本植物の中には、例えばタバコなどのように、有機酸分泌が強化できなかった例も知られている(Delhaizeら, Plant Soil(2003)248,137−144)。また、トランスジェニック植物の作出に際しては、外来DNA断片の植物ゲノムへのランダムな組込みが起こることによる、位置効果と呼ばれる現象のために、目的の系統を得るのに多数のトランスジェニック系統の作出が必要であるという問題もある。このような状況下で、樹木、特に産業上有用な樹種に対して、クエン酸の分解にかかわる酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することでクエン酸分泌を向上させた例はなく、もし産業上有用な樹種の難溶性リン酸の利用能力を向上できるならば、事業植林の経済性の向上、不良土壌等の土壌資源の有効利用、植生拡大による二酸化炭素の固定量増大などが図れると考えられる。有機酸分泌は、酸性土壌において植物の根の伸長阻害の原因とされているアルミニウム自体に対する耐性機構と考えられ、したがって、有機酸分泌能を向上させれば酸性土壌において根の伸長が改善し、また難溶性リン酸の利用能も向上し、それに伴い他の栄養分の吸収も改善すると推定される。
上記の状況において、本発明は、クエン酸分泌能を向上させることによって難溶性リン酸の利用能および/またはアルミニウムに対する耐性を向上させ酸性土壌を含む不良土壌において養分吸収が改善された樹木、およびその樹木を作出する方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の特徴を有する。
本発明は、第1の態様において、クエン酸分解経路の構成酵素のうち1つもしくは複数の酵素の活性が抑制もしくは欠失されており、これによって根からのクエン酸分泌能が強化されていることを特徴とする樹木を提供する。
その実施形態において、樹木がユーカリ属の樹木であることを特徴とする。
その別の実施形態において、酵素がNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素であることを特徴とする。
本発明はまた、第2の態様において、野生型樹木のクエン酸分解経路の構成酵素のうち1つもしくはそれ以上の酵素をコードする遺伝子の発現を抑制するかまたは該遺伝子を欠損することを含む、本発明の樹木を作出する方法を提供する。
その実施形態において、前記遺伝子の発現がRNA干渉法によって抑制されることを特徴とする。
その別の実施形態において、樹木がユーカリ属の樹木であることを特徴とする。
その別の実施形態において、酵素がNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素であることを特徴とする。
本発明により、クエン酸分解経路の構成酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することによって根からのクエン酸分泌能が向上した樹木が提供される。本発明の樹木は、金属過剰害が問題である不良土壌および/または必須多量栄養素であるリンが難溶性リン酸塩として固定されている土壌において、改善された生育を示す。それゆえ、本発明は、これまで栽培が制限されていた土壌における事業植林の経済性の向上、不良土壌等の土壌資源の有効利用、植生拡大による二酸化炭素の固定量が増大するという作用効果を奏する。
本発明の樹木は、クエン酸分解経路の構成酵素の活性が抑制もしくは欠失されることによって根からのクエン酸分泌能が強化、増強または亢進されていることを特徴とする。これによって、酸性土壌などの土壌環境が不良である場所であっても、根の伸長が改善され、また難溶性リン酸の利用能も向上し、それに伴い他の栄養分の吸収も向上し、総じて樹木の生育が改善する。
本発明者らは、クエン酸の分泌能を強化、増強または亢進させるために、クエン酸回路においてクエン酸の代謝に関わる下流酵素の活性(もしくは機能)を抑制または欠失することを試みた結果、上記の性質をもつ樹木を作出することに成功した。
本発明において、樹木とは、木本植物であって、細胞壁を発達させ厚くなった細胞質を持つ死んだ細胞により生体が支持されている植物および/または茎が肥大生長する植物をいう。このような性質からなる木本植物であればいずれも本発明の対象の樹木である。従って、本発明の樹木は、大高木、高木、亜高木、低木のいずれも含み、また広葉樹、針葉樹のいずれも含む。樹木の例は、アカシア、イチョウ、ユーカリ、ヤナギ、サクラ、モクレン、クスノキ、ツバキ、アオイ、ツツジ、柑橘類、サザンカ、月桂樹、プラタナス、スギ、マツ、ポプラ、フトモモ科などの植物を含むが、これらに限定されない。
後述の実施例では、樹木としてユーカリ属植物(Eucalyptus spp.)を例示したが、この植物は、成長性に優れること、様々な環境に対する適応性があること、深刻な害虫被害が少ないこと、更に産業的には木材生産、パルプ生産、薪炭材の生産に適していることから、世界各地でユーカリ属植物の植林がなされている。ユーカリ属植物は、500種以上の種類を含み、例えばユーカリプタス・ダニアイ(Eucalyptus dunnii)、ユーカリプタス・カマルドレンシス(Eucalyptus camaldulensis)、ユーカリプタス・グランディス(Eucalyptus grandis)、ユーカリプタス・グロブラス(Eucalyptus globulus)、ユーカリプタス・ナイテンス(Eucalyptus nitens)、ユーカリプタス・サリグナ(Eucalyptus saliga)、ユーカリプタス・ユーロフィラ(Eucalyptus urophylla)、ユーカリプタス・レグナンス(Eucalyptus regnans)、ユーカリプタス・シトリオドラ(Eucalyptus citriodora)、ユーカリプタス・フラキシノイデス(Eucalyptus fraxinoides)などを含む。
本発明において、その活性が抑制もしくは欠失されるクエン酸分解経路の構成酵素は、クエン酸の代謝もしくは分解に直接的または間接的に関わる1もしくは複数の酵素であり、そのような酵素の例は、アコニターゼ、NADP特異的イソクエン酸脱水素酵素、NAD特異的イソクエン酸脱水素酵素などを含む。
アコニターゼ(EC4.2.1.3)は、アコニット酸ヒドラターゼとも称し、クエン酸を、cis−アコニット酸を介して、イソクエン酸に異性化する酵素である。アコニターゼの単離およびcDNAクローニングについては、例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のアコニターゼがP. Peyretら(J. Biol. Chem.,270:8131−8137(1995))によって開示されている。アコニターゼのアミノ酸及びヌクレオチド配列は、NCBIホームページなどに記載の配列データベースから入手可能である。
NADP特異的イソクエン酸脱水素酵素(EC1.1.1.42)は、イソクエン酸脱水素酵素、NADP依存性イソクエン酸脱水素酵素、NADP−ICDHなどとも称され、NADPを補酵素として利用してイソクエン酸またはオキサロコハク酸を2−ケトグルタル酸(別称:2−オキソグルタル酸)に変換する酵素である。この酵素は、その活性化に二価の金属イオン、特にMn2+もしくはMg2+が必要である。植物からの該酵素の単離およびcDNAクローニングについては、例えばH. Koyamaら(Plant Physiol.120:1207(1999))によって報告されている。Koyamaらは、イネ、タバコ、ダイズ、ジャガイモ、ユーカリなどの植物から当該酵素が単離されたことを開示している。NADP特異的イソクエン酸脱水素酵素のアミノ酸及びヌクレオチド配列は、NCBIホームページなどに記載の配列データベースから入手可能であり、例えばタバコ(X77944)、エンドウ(AY509880,AY730588)、ユーカリ(X97063)などについて登録されている。
NAD特異的イソクエン酸脱水素酵素(EC1.1.1.41)は、NADP特異的イソクエン酸脱水素酵素と同様に、イソクエン酸を2−ケトグルタル酸に変換する活性を有する。活性化のために、Mn2+やMg2+などの二価金属イオンが必要である。植物からの精製も報告されており、例えばエンドウ(Pisum sativum)の根または緑葉から精製可能である(RD Chenら,Eur. J. Biochem.,175:565−572(1988))。NAD特異的イソクエン酸脱水素酵素のアミノ酸及びヌクレオチド配列は、NCBIホームページなどに記載の配列データベースから入手可能であり、例えばイネ(AB189169,AB189168,AB189167)、アブラナ(Brasica napus)(AY216776,AY216775,AY216774,AY216773)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(NM119730,119632,119692)などについて登録されている。
本発明においては、生存樹木内の上記酵素の活性または機能が抑制、欠損もしくは欠失される。本発明においては、上記例示の酵素に加えて、さらに下流の酵素群、例えば2−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、すなわち2−ケトグルタル酸をスクシニル−CoAに変換する酵素をも機能不全にしてもよい。
本発明に関わる代謝酵素の活性または機能を抑制または欠失するために、遺伝子組換え技術、遺伝子工学技術、RNA干渉法などの慣用技術を使用することができる。そのような技術には、例えば相同組換え技術、アンチセンス法、RNA干渉技術などが含まれる。
相同組換え技術では、上記酵素遺伝子のゲノム上の少なくとも1つのエクソンの全部または一部を外来DNAで相同的に組換えることによって該酵素をコードする遺伝子の発現を抑制するかまたは該遺伝子を欠損することができる。外来DNAは、対象の樹木が保有しない任意のDNAであり、例えば薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子など)、他の植物由来の遺伝子断片などである。薬剤耐性遺伝子を外来DNAとして使用するときには、該遺伝子が安定に組み込まれた細胞または組織は、該薬剤に耐性であるため、容易に選抜可能であるという利点がある。また、組換え植物を選抜するために、レポーター遺伝子、例えばGUS(β−グルクロニダーゼ)、CAT(クロラムフェニコール・アシルトランスフェラーゼ)、GFP(緑色蛍光タンパク質)、LUC(ルシファラーゼ)などをコードする遺伝子を用いることができる。相同組換えでは、一般にジーンターゲティング用の遺伝子導入ベクターが使用され、このベクターは、上記酵素遺伝子を破壊またはノックアウトするための上記外来DNA、レポーター遺伝子、必要に応じてのプロモーター/エンハンサー領域、核スカフォールド/マトリクス結合領域(S/MAR)を含むことができる。ここで、S/MARは、遺伝子発現の調節に関与するプロモーター領域やエンハンサーの近傍に存在するDNA領域である。また、外来DNA配列に、該酵素遺伝子の5’非翻訳領域を含む5’側配列および3’非翻訳領域を含む3’側配列をフランキングさせることができる。このような各非翻訳領域のサイズは、約1〜3Kb以上であり、合計サイズは約5Kb以上、好ましくは約6Kb以上である。ベクターは、植物細胞の形質転換に通常使用されるベクター、例えばTiプラスミド、T−DNA含有中間体ベクターなどのベクターを包含する。
Tiプラスミドは、腫瘍を誘起する約200kbの環状二本鎖DNAであり、アグロバクテリウムの核外遺伝子である。このプラスミドにはT−DNA、vir(virulence)遺伝子群などが含まれており、T−DNA領域が切り出されて植物の核染色体DNAに組み込まれる。vir遺伝子が、植物が産生する特定の化合物によって活性化されると、それによってT−DNAの切り出しが起こる。Tiプラスミドのこのような性質を利用することによって、遺伝子破壊用のDNA、選択マーカーなどを含む中間体ベクターを作製し、大腸菌などの細菌に移入したのち、細菌をアグロバクテリウムと接合させて、中間体ベクターとTiプラスミド間で相同組換えを起こし、これによって組換えアグロバクテリウムを作製し、植物の形質転換のために使用することができる。このようなベクター系は、植物ゲノムへの組込みに適している。
酵素の発現を抑制させる別の方法は、例えば発現を抑制させたい酵素の遺伝子の翻訳領域の一部またはすべてを、正常タンパクを発現する方向とは逆平行位に、遺伝子を転写するために必要なプロモーターと呼ばれる塩基配列の下流に配置したものを、遺伝子導入することで達成されるアンチセンス法や、発現を抑制させたい酵素の非翻訳領域を含む塩基配列の一部またはすべてを、スペーサーと呼ばれる目的とは関係のない塩基配列の両端に、平行位および逆平行位に配置し、これをプロモーター下流に配置したものを遺伝子導入することで達成されるRNA干渉法(実験医学, Vol.22,No.4(3月号)(2004),羊土社、例えば461-469頁)を選択することで、本発明は実施できる。
このような方法では、例えばバイナリーベクターが使用可能である。バイナリーベクターでは、植物ゲノムに組み込まれる左右のボーダー配列(RB及びLB)にはさまれたT−DNA領域のみを有しており、その領域に外来DNAが挿入される。外来DNAはCaMV(カリフラワーモザイクウイルス)の35Sプロモーターなどのプロモーターの下流に連結される。ベクターにはさらに、細菌での選択のためのマーカー(例えばネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子など)、植物での選択のためのマーカー(例えばネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子など)、レポーター遺伝子(例えばβ−グルクロニダーゼ遺伝子など)を含むことができる。バイナリーベクターの例は、pBI101、pBI121、pBI2113、pBI2113Notなどを含む。また、中間ベクターの例は、pLGV23Neo、pNCAT、pMON200などを含む。
上記アンチセンス法では、標的遺伝子の発現方向と逆平行位に外来DNAを配向させるが、このとき転写された外来DNAが標的遺伝子mRNAに相補し、該mRNAからの正常なタンパク質の産生が抑制される。
上記RNA干渉法では、転写後に導入遺伝子が自己相補するように配向された発現構造体を導入するが、このとき転写後に得られたヘアピン型二本鎖RNA(dsRNA)が引き金となって、dsRNAが相補する標的遺伝子mRNAの分解がおこり、標的タンパク質の産生が抑制される。
遺伝子破壊は、上記の方法だけでなく、例えばActivator因子(Ac)、suppressor−mutator因子(Spm)などのトランスポゾンを利用する方法も含まれる(植物工学別冊、植物細胞工学シリーズ14、佐々木卓治ら監修、植物のゲノム研究プロトコール、最新のゲノム情報とその利用、2000年、秀潤社;松橋通生ら監訳、ワトソン・組換えDNAの分子生物学代2版、1993年、丸善)。
形質転換は、公知の手法、例えば生物学的手法であるアグロバクテリウムを用いた方法、物理的手法であるパーティクルガン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、PEG仲介遺伝子導入法などを用いることができる。
具体的には、形質転換は、例えば、植物の外植体から不定苗条を誘導し、該不定苗条の組織片にアグロバクテリウム菌を感染させることにより形質転換カルスを形成し、カルスから苗条原基を誘導し、該苗条原基を培地で苗化することを含む方法によって行うことができる。
不定苗条とは、早生分枝や多芽体のように、組織培養によって得られる茎頂、葉、茎を有する植物組織である。早生分枝は、木本植物のクローン増殖法(特開平10−304785号公報)に従って、木本植物から無菌的に成長点を含む組織を摘出し、無機塩類、炭素源及びビタミン類を含有する人工液体培地を使用して、光照射下で竪型回転培養によって作出できる。多芽体は、木本植物から茎頂を含む組織を摘出し、無機塩類、炭素源及びビタミン類、ホルモン類を含有する人工固体培地に置床することによって得られる。不定苗条の組織片をアグロバクテリウム菌による感染材料として用いる方法は、他の方法より形質転換効率が良い。更に、アグロバクテリウム菌による感染培地に用いるホルモン条件の検討、感染前の感染誘導として早生分枝あるいは多芽体を無機塩類、炭素源及びビタミン類、ホルモン類を含有する人工固体培地に移植し、遮光条件下で培養することにより、効率的に樹木の形質転換を可能とする。
アグロバクテリウム属細菌の例は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、例えばEHA105、EHA101、ASE1、GV3101、C58C1RifR株などを含むが、これらに限定されない。
以下に、樹木としてユーカリを例に、その形質転換をさらに具体的に説明する。
<アグロバクテリウム菌を感染させるための多芽体の作出>
多芽体は、ユーカリの種子を無菌播種して得られる実生苗の茎頂、あるいは、無菌的に誘導された早生分枝の茎頂を5〜10mmに切り出した外植体、または屋外に生育している成木の当年枝の茎頂あるいは腋芽を含む5〜20mmの外植体を材料として誘導される。即ち、前記外植体を、通常の殺菌方法を用いて殺菌調製の後、例えばWPM〔Loyd&McCown,Proc.Int.plant Prop.Soc.30:421−427(1980)〕、B5〔Gamborgら,Exp.Cell Res.50:151−158(1968)〕、MS〔Murashige&Skoog,Physiol.Plant15:473−497(1962)〕基本培地等に、植物ホルモンであるオーキシン類としてナフタレン酢酸(NAA)、インドール酪酸(IBA)、インドール酢酸(IAA)等を0〜1mg/l、更に好ましくは0〜0.05mg/l、及びサイトカイニン類としてベンジルアデニン(BA)、1−(2−クロロ−4−ピリジル)−3−フェニル尿素(4−PU)、1−フェニル−3−(1,2,3−チアジアゾル−5−イル)尿素(TDZ)等を0.01〜1mg/l、更に好ましくは0.01〜0.05mg/l含有し、更に炭素源として、例えばショ糖1〜3%、支持体材として寒天0.3〜0.6%あるいはゲランガム0.15〜0.3%を含有する多芽体誘導培地に植え付けて誘導される。
植物ホルモンの添加としてもっとも好ましい組合せと量は、培地1リットルに対してナフタレン酢酸0.01〜0.05mg及びベンジルアデニン0.01〜0.05mgである。
培養条件の例は、光量10〜120μmol/(m・s)、温度15〜35℃の条件である。上記の条件で20〜50日間培養することによって、多芽体を得ることが可能である。なお、得られた多芽体は一部の茎頂を含む組織片を継代することにより増殖を繰り返し行うことが可能である。
<アグロバクテリウム菌を感染させるための早生分枝の作出>
早生分枝は、ユーカリの種子を無菌播種して得られる実生苗の茎頂、あるいは無菌的に誘導された多芽体の茎頂を5〜10mmに切り出した外植体、または屋外に生育している成木の当年枝の茎頂あるいは腋芽を含む5〜20mmの外植体から誘導される。前記外植体を、通常の殺菌方法を用いて殺菌調製の後、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、植物ホルモンであるサイトカイニン類としてベンジルアデニン(BA)、1−(2−クロロ−4−ピリジル)−3−フェニル尿素(4−PU)、1−フェニル−3−(1,2,3−チアジアゾル−5−イル)尿素(TDZ)等を0〜1mg/l、更に好ましくは0〜0.1mg/l含有し、必用に応じてオーキシン類植物ホルモンとしてナフタレン酢酸(NAA)、インドール酪酸(IBA)、インドール酢酸(IAA)等を0〜1mg/l、更に好ましくは0〜0.1mg/l、及び、更に炭素源として、例えばショ糖を1〜3%加えた液体培地の中に竪型回転培養を行う。培養条件は1〜10rpmの回転速度、回転培養器の上辺の光量200〜500μmol/(m・s)、15〜35℃の温度とし、竪型回転培養することにより、30〜50日で早生分枝が得られる。なお、得られた早生分枝の茎頂を含む一部の組織片を継代することが可能である。
植物ホルモンはユーカリ樹種、不定苗条の種類などにより効果が異なるので注意を要する。例えばユーカリプタス・ダニアイもしくはその交雑種では、外植体から始めに早生分枝を誘導する際には植物ホルモンを使用せず、次に培地1リットルにサイトカイニン類植物ホルモン、特に好ましくはベンジルアデニンを0.001mg〜0.01mg含有する増殖培地に移して増殖すると、早生分枝の数が増加するという傾向が確認された。オーキシン類植物ホルモンであるナフタレン酢酸についても、培地1リットルに対して同様に0.001mg〜0.01mgが好ましい。更に、増殖本数のみでなく、奇形や褐変などについての影響では、これら植物ホルモンを0.02mg/l以上で使用するとかえって悪影響があるという面もあった。
<アグロバクテリウム菌の調製>
アグロバクテリウム菌は、そのTiプラスミドを無毒化したもの、あるいは無毒化していない菌株を用意する。導入する遺伝子は、植物細胞内で発現するように改良した後に、Tiプラスミドベクターあるいはバイナリーベクターに結合し、アグロバクテリウム菌に形質転換して使用する〔Chiltonら,Proc.Natl.Acad.Sci. USA77:4060−4064(1980)〕、〔Herrera−Estrellaら,Natue303:209−213(1983)〕。上記の方法で得たアグロバクテリウム菌を、ベクターの保有する抗生物質抵抗性遺伝子が規定する適正量の選抜抗生物質を添加したL−液体培地〔Millre,Experiments in Molecular Genetics(1972)〕10mg/l Bact−tryptone、5g/l Bact−yeast extract及び5g/l NaClにて、30℃、一晩でO.D.600が0.8以上まで培養する。
<アグロバクテリウム菌の感染>
早生分枝あるいは多芽体の植物組織を、0.1%の界面活性剤(Tween−20)で洗浄した後、ナイフで2〜10mmの大きさに切断し、アグロバクテリウム菌の感染培地、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、サイトカイニン類として4−PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4−DあるいはIAA等と、ショ糖、ガラクトース等の糖類、アセトシリンゴン及びアグロバクテリウム菌を添加した液体培地に植え付ける。更に好ましくは、組織をアグロバクテリウム菌培養液に浸けた後に、アグロバクテリウム菌以外を含有する固体培地に着床する。これを20〜30℃の温度、遮光条件下で1〜2日間静置培養し、アグロバクテリウム菌を感染させる。
<アグロバクテリウム菌の除菌>
アグロバクテリウム菌を感染させた組織片を除菌培地、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、サイトカイニン類として4−PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4−DあるいはIAA等と、アグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質、例えばカルベニシリン、バンコマイシン、クラフォラン、メロペン等とショ糖を添加した液体培地に植え付ける。これを15〜35℃の温度、回転培養器の上辺の光量0〜25μmol/(m・s)で3〜14日間竪型回転培養し、アグロバクテリウム菌の除菌を行う。
<形質転換された苗条原基の形成>
アグロバクテリウム菌を完全に除菌した組織片を、基本培地として例えばWPM、B5、MS基本培地等に、植物ホルモンであるサイトカイニン類として4−PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4−DあるいはIAA等と炭素源、アグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質、更に形質転換された細胞集塊を選抜するための抗生物質を添加した液体培地の中で竪型回転培養を行う。培養条件は1〜10rpmの回転速度、回転培養器の上辺の光量0〜500μmol/(m・s)、15〜35℃の温度とする。14〜40日間隔で新鮮培地へ継代して培養を継続すると、形質転換カルスの選抜を始めてから20〜50日で、組織片中に黄白色の形質転換したカルス形成が認められる。得られたカルスを組織片からナイフによって切り離し、更に光照射下で竪型回転培養を行い、選抜開始から40〜120日で形質転換された苗条原基が誘導できる。
<苗条原基の苗化誘導処理>
ユーカリ樹種では、苗条原基は固体培地に植え付けて苗化することができるが、もしそのまま植え付けただけでは苗化率が低いときには、苗化誘導処理を行う必要がある。苗化誘導処理は、液体培地中で強い光を当て、苗条原基から極めて微小な苗条を形成する処理工程であり、光量として80μmol/(m・s)以上が必要である。培養方式としては、静置培養、浸透培養、回転培養のいずれでも良いが、竪型回転培養がもっとも好ましい。
竪型回転培養して得られた形質転換苗条原基を、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、オーキシン類としてNAA、IBA、IAA等を0.01〜2mg/l、更に好ましくは0.01〜0.1mg/l、またサイトカイニン類としてBA、4−PU、TDZ等を0.01〜2mg/l、更に好ましくは0.1〜0.5mg/lの濃度で含有し、更に炭素源として、例えばショ糖1〜3%を含有する苗化誘導液体培地に、5〜10mm角程度の大きさにした苗条原基を植え付ける。培養条件は1〜10rpmの回転速度、回転培養器の上辺の光量100〜500μmol/(m・s)、15〜35℃の温度とする。14〜40日間隔で新鮮培地へ継代して培養を継続する。苗化誘導を始めてから30〜60日で、苗条原基の表面に苗条の伸長が認められる。
<形質転換植物の再生>
苗条原基の苗化誘導処理で得られた表面に苗条の伸長が認められた形質転換苗条原基を、苗条を再生するための培地、例えばB5あるいはMS基本培地等に植物ホルモン類として、例えばNAA、2,4−D、IAA等のオーキシン類、BA、4−PU、カイネチン、ゼラチン、TDZ等のサイトカイニン類及び炭素源、寒天あるいはゲランガム、更に形質転換された細胞集塊を選抜するための抗生物質を添加した苗化培地で培養する。培養は15〜35℃の温度、光量20〜35μmol/(m・s)で、約40〜80日間行って苗条を再生させ、更に、発根させて完全な形質転換植物を得ることができる。
遺伝子導入を行うことで得られる形質転換樹木において、目的酵素の発現が抑制されたか否かについては目的酵素の遺伝子の発現量を調べる、および/あるいは目的酵素の酵素活性を測定することで判定できる。遺伝子の発現量は公知の手法であるノーザンブロッティング法、Polymerase Chain Reaction(PCR)法等を用いることで実施できる。また酵素活性測定についても公知の手法等を用いることで実施できる。
上ではユーカリを例に標的遺伝子の発現抑制のための手法について記載したが、このような手法は他の樹木にも同様に適用しうる。樹木の遺伝子組換えについては、例えばパパイヤ(Fitchら,Plant Cell Reports,9:189−194,1990)、スプルース(Robertsonら,Plant Mol.Biol.,19:925−935 1992)、ポプラ(Fillattiら,Mol.Gen.Genet.206:192−199,1987)、ウオールナット(McGranahanら,Bio/technology,6:800−804,1988)、リンゴ(Jamesら,Plant Cell Reports,7:658−661,1989)、プラム(Manteら,Bio/technology,9:853−857,1991)、ユーカリ・カマルドレンシス種(Hoら,Plant Cell Reports,17:675−680,1998)などが知られている。
酵素活性測定法については、NADP特異的イソクエン酸脱水素酵素のアッセイは、例えば25℃、340nmにおけるNADPHの増加量を測定することによって行うことができる(W.Niら,Plant Physiol.83:785−788(1987))。具体的には、1mlの反応液(0.15M Tris−HCl(pH8.5),1mM MgCl,0.66mM NADP,2.5mM DL−イソクエン酸Na)を準備し、これに25℃で酵素を添加して反応を開始し、340nmでNADPHの増加を経時的に測定する。このとき、該酵素の1単位(unit)は、例えば1分あたり、1μmolのNADPの減少を触媒する酵素量として定義することができる。
NAD特異的イソクエン酸脱水素酵素のアッセイは、基本的にNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素のアッセイと類似する。反応液は、50mMリン酸K(pH7.5),0.5mM MnCl,1.5mM NAD,4mM D,L−イソクエン酸からなる。反応は酵素の添加によって開始され、340nmの吸光度の増加をモニターする(RD Chenら,Eur.J.Biochem.175:565−572(1988))。
アコニターゼのアッセイは、例えばNADPイソクエン酸脱水素酵素と連動させることで、25℃、340nmにおけるNADPHの増加量を測定することによっておこなうことができる。具体的には、反応液(87mMリン酸Na(pH6.9),0.34mM MgCl,0.05mg protein/mL NADPイソクエン酸脱水素酵素,0.5mM NADP,8.4mM cis−aconitate)に酵素を添加して反応を開始し、25℃、340nmでNADPHの増加を経時的に測定することによって行うことができる。(GT CooperとH Beevers,J.Biol.Chem.244:3507−3513(1969))
形質転換樹木において、根からのクエン酸分泌量が増加したか否かについては、再生させた形質転換樹木および遺伝子導入に用いた親個体を水溶液に一定時間浸し、その溶液中のクエン酸を公知の手法、例えば高速液体クロマトグラフ分析、イオンクロマトグラフ分析、酵素法等を用いて分析して比較することで判定できる。樹木を浸す水溶液について、無機栄養を含んでいる必要はないが、含んでいてもよい。また、多くの植物において、その有機酸分泌とアルミニウムの関係を解析する研究において用いられている方法のように、アルミニウムを含む溶液を用いてもよい(特開2004−344024)。
したがって、本発明はさらに、野生型樹木のクエン酸分解経路の構成酵素のうち1つもしくはそれ以上の酵素をコードする遺伝子の発現または機能を、遺伝子組換え技術によって抑制または欠損させることを含む、樹木を作出する方法を提供する。作出方法は、上で詳述した工程及び条件を含む。
本発明にかかる形質転換樹木は、前記酵素の発現が、野生型(非形質転換体)の酵素活性に対して80%以下、好ましくは60%以下に抑制されていることを特徴とする。この特徴によって、樹木の根からのクエン酸分泌量が増加することにより、土壌中に固定されている難溶性無機リン酸の利用能力が高まる。また、本発明にかかる形質転換樹木は、根からのクエン酸分泌量が増加することにより、根の伸長を阻害するアルミニウムに対する耐性が高まる。したがって、本発明にかかる形質転換樹木は、リン酸が難溶性無機態リン酸として固定されている土壌、例えばアルカリ土壌や酸性土壌において、および/あるいはアルミニウムの直接害による生長阻害が認められる酸性土壌において生育が改善する。ユーカリの場合、ストレス条件下で生育がよく、特に酸性土壌条件がよい。根の生長が改善するということは、リン酸の吸収量が増加する、アルミニウムに対する耐性が増加するのみならず、その他の養分の吸収も増加することを意味している。つまり、本発明にかかる形質転換樹木は、上記土壌での生産性の向上や上記土壌への植生拡大を図ることができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものではない。
〔実施例1〕
〔クエン酸分泌能が強化された組換え樹木の作出〕
本実施例では、クエン酸分解経路の構成酵素の1つであるNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素(ICDH)について、その遺伝子の発現抑制によりクエン酸分泌能が強化されるかについて検討した。
ICDH遺伝子の発現を抑制する方法としてRNA干渉法(RNAi)を選択した。この際に使用した塩基配列は、すでに報告されているEucalyptus globulusのICDH遺伝子(アクセッション番号:U80912;配列番号1)の塩基番号1416−1628で示される配列である。この塩基配列を、シロイヌナズナ(コロンビア株)のICDH(At1g65930)の第一イントロン配列の両端に平行位および逆平行位に挿入し、カリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーターの下流に配置したカセットをバイナリーベクターpBI101(Jefferson,Plant Mol.Biol.Rep.(1987)5,350−367;Clontech)上に構築した(図1)。
Kawazuら(特開2002−281851;特開2000−316403)の方法に従い、上記ベクターを用いて、すでに高効率の形質転換系を構築済みであるユーカリ種(Eucalyptus spp.)に遺伝子導入を行った。これにより遺伝子が導入された16の独立したラインを得た。
遺伝子導入によるICDH活性の抑制程度を比較するために、組換えカルスから分化させて得られる早生分枝における酵素活性測定を行った。その結果、組換え体の酵素活性は非組換え体(GUT5)の酵素活性を100%とするとき約10〜約55%に抑制されていた(図2)。16ラインのうち最も酵素活性が抑制されていた#11と#14を以降の解析に用いた。
上記選抜ラインをKawazuら(特開2002−281851;特開2000−316403)の方法に従い発根させ、1/4強度のB5無機栄養塩溶液で1ヶ月生育させ、根における酵素活性を測定した。根からの粗酵素液の抽出は、以下のようにして行った。凍結サンプルを10%(g/gサンプル新鮮重量)ポリビニルポリピロリドンとともに液体窒素中で磨砕し、サンプル重量の5倍容量の緩衝液(50mM HEPES/NaOH,pH7.6,5M Glycerol,0.5%TritonX−100,2mM MgCl2,1mM EDTA,1mM PMSF,5μg/mL leupeptin,42mM 2−メルカプトエタノール)に懸濁した。15000rpm、15分、4℃で遠心して上清を回収、脱塩カラムにて脱塩したものを酵素活性測定用の試料とした。ICDHの酵素活性の測定はKiharaら(Plant Cell Physiol.2003,44,901−908)に従った。ICDH活性は、i3'−14では非組換え体であるGUT5の約50%に、i3'−11ではGUT5の約20%に抑制されていた(図3)。このことは、RNAiにより、根において確かにICDH活性が抑制されていたことを示している。
ICDHの発現抑制により根内の有機酸含量がどのように変化したかを解析した。有機酸測定のための試料は以下のようにして調製した。上記のように栽培した個体の根を、液体窒素中で磨砕し、サンプル重量の5倍容量の抽出液(0.6M HClO、2mM EDTA)に懸濁した。15000rpm、10分、4℃で遠心して上清を回収、2M KOHでpH5−8に中和した。中和した抽出液を15000rpm、20分、4℃で遠心した。この上清を試料として用いた。クエン酸とリンゴ酸の定量はKiharaら(非特許文献8)に従った。リンゴ酸の含量は非組換え体と組換え体の間で差は認められなかったが、根の中のクエン酸の含量は組換え体で有意に増加しており、非組換え体の1.3〜1.6倍になっていた(図4)。
本組換え体の有機酸放出を解析した。1/4強度のB5無機栄養塩溶液で無菌的に4−6週間生育させた個体を使用して以下の処理を行った。Ca溶液(0.2mM CaCl2、pH4.2)で1時間処理し、その後0.5mM AlClを含むCa溶液で24時間処理し、溶液を回収した。回収溶液の処理および測定はKiharaら(上記、2003)の方法に従った。その結果、組換え体のクエン酸の根からの放出(分泌)レベルは非組換え体の1.5〜1.7倍に増加していた(図5)。
以上の結果から、ユーカリにおいて、ICDHをコードする遺伝子の発現を抑制してICDH活性を50%以下にすることで、根内のクエン酸含量を高められ、根からのクエン酸放出レベルが高められることを明らかにした。
〔実施例2〕
組換え樹木によるリンの利用率の向上
土壌溶液中のアルミニウム濃度が高くまた必須栄養素であるリンが難溶性リン酸アルミニウムとなって有効態リン酸レベルが低い酸性土壌における上記組換え体の生育を解析した。
使用した土壌は宮城県川渡黒ボク土壌であり、土壌の化学的性質は表1のとおりである。交換酸度(y1)とは、土壌:1N KCl溶液=1:2.5の割合で混合して得られる上澄み125mLを中和するのに必要な0.1N NaOHの滴定数で表される。交換性Alとは、土壌:1N KCl溶液=1:10の割合で混合して得られる上澄みを0.1N NaOHで滴定し、cmol/kg-soilで表すことができる。国際分類では、交換性Al≧2cmol/kg-soil(y1≧6)の土壌をAlの過剰障害土壌として区分されている。また、国内ではy1>6は強酸性土壌として区分されている(三枝ら,1992,土壌肥料学会誌63,216−218)。したがって、本試験土壌はpHが低くアルミニウムの量が多い酸性土壌であることがわかる。表2の栄養素を添加した土壌2.5kgを入れた1/5000aポットに、2週間水耕栽培にて外環境に馴化させた非組換え体であるGUT5と組換え体i3'−14を移植し、閉鎖系全天候型温室にて栽培した。土壌水分は最大容水量の20−50%に維持した。6ヶ月後に回収して、重量を測定した。また、上位葉、下位葉および根を回収し体内リン量を測定した。リン量測定用試料溶液の調製は以下のようにして行った。回収した試料を70℃で2日間乾燥させた。その一部を硝酸と過酸化水素により灰化した。灰化はマイクロウェーブ灰化装置(Ethos 900、MILLESTONE)を用いておこなった。リンはモリブデンブルー法により定量した。
Figure 2007312635
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栽培の結果、組換え体であるi3'−14の地上部および根部の重量が非組換え体であるGUT5よりも有意に増加していた(表3)。この個体の体内リン量を表4に示す。上位葉および根のリン量はGUT5よりもi3'−14において増加している傾向が認められた。リン酸欠乏時に体内リン量が減少しやすいことが知られている下位葉においては、i3'−14のリン量が有意に増加していた。このことは、組換え体は非組換え体よりも土壌から吸収したリン量が多いことを示している。これらのことは、根からのクエン酸分泌能が向上した組換え体は、おそらくは土壌中に固定されたリンを効率的に利用できた結果、酸性土壌において生育を改善したことを示唆している。
Figure 2007312635
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本発明によれば、クエン酸分解経路の構成酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することによって、本発明のクエン酸分泌能が向上した樹木を提供することができる。また、この樹木は、金属過剰害が問題である不良土壌および/または必須多量栄養素であるリンが難溶性リン酸塩として固定されている土壌において生育が改善する。それゆえ、本発明の樹木は、これまで栽培が制限されていた土壌における事業植林の経済性の向上、不良土壌等の土壌資源の有効利用、植生拡大による二酸化炭素の固定量が増大するという作用効果を奏するため、産業上高い利用価値を提供する。
ICDH発現抑制組換え体を作出するためのバイナリーベクター(pBI101改変体)の構造を示す。ここで、HPTはハイグロマイシン耐性遺伝子を、またNPTIIはネオマイシンホスホトランスフェラーゼIIをそれぞれ表す。また、Nos−NPTII、Nos−HPTはそれぞれ、ノパリン合成酵素(nopaline synthase;Nos、本来のTiプラスミド上にコードされている遺伝子)のプロモーター制御下にあるネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を表わす。さらにまた、Nosは、ノパリン合成酵素遺伝子ターミネーターを表わす。 組換え体系統のスクリーニング結果を示す。スクリーニングに際して、苗条原基と呼ぶ組織における酵素活性を測定した。 非組換え体(GUT5)と組換え体(i3'−11、i3'−14)の根におけるICDH活性を示す。グラフ中の危険率Pは0.05で有意差があることを示している。 非組換え体(GUT5)と組換え体(i3'−11、i3'−14)の根におけるクエン酸濃度を示す。グラフ中の危険率Pは0.05で有意差があることを示している。 非組換え体(GUT5)と組換え体(i3'−11、i3'−14)の根からのクエン酸分泌量を示す。グラフ中の危険率Pは0.01で有意差があることを示している。

Claims (7)

  1. クエン酸分解経路の構成酵素のうち1つもしくは複数の酵素の活性が抑制もしくは欠失されており、これによって根からのクエン酸分泌能が強化されていることを特徴とする樹木。
  2. 前記樹木がユーカリ属の樹木であることを特徴とする、請求項1に記載の樹木。
  3. 前記酵素がNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素であることを特徴とする、請求項1または2に記載の樹木。
  4. 請求項1〜3に記載の樹木を作出する方法であって、野生型樹木のクエン酸分解経路の構成酵素のうち1つもしくはそれ以上の酵素をコードする遺伝子の発現を抑制するかまたは該遺伝子を欠損することを含む、上記方法。
  5. 前記遺伝子の発現がRNA干渉法によって抑制されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. 前記樹木がユーカリ属の樹木であることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
  7. 前記酵素がNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
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