JP2007254786A - 結晶質複相水素透過合金および水素透過合金膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】水素透過性と耐水素脆化性とを有し、473K以上で使用可能な結晶質の複相水素透過合金を提供することを目的とする。
【解決手段】複合相からなり、前記複合相が、Nbを固溶したCoTi相とCoを固溶したTiNb相との共晶(CoTi+TiNb)が初晶として生成する前記TiNb相を囲んでいる構造を有し、Co−Ti−Nb3元状態図上で、Co20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70、Co10Ti10Nb80およびCo10Ti30Nb60(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内とCo20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70(ただし、合金組成はすべて原子%)を結んだ線上の合金組成を有する複相Co−Ti−Nb系の結晶質複相水素透過合金である。
【選択図】図1
【解決手段】複合相からなり、前記複合相が、Nbを固溶したCoTi相とCoを固溶したTiNb相との共晶(CoTi+TiNb)が初晶として生成する前記TiNb相を囲んでいる構造を有し、Co−Ti−Nb3元状態図上で、Co20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70、Co10Ti10Nb80およびCo10Ti30Nb60(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内とCo20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70(ただし、合金組成はすべて原子%)を結んだ線上の合金組成を有する複相Co−Ti−Nb系の結晶質複相水素透過合金である。
【選択図】図1
Description
本発明は、結晶質水素透過合金並びに水素透過合金膜に関するものである。
高純度水素は、半導体や光ファイバ、薬品などの製造に使用されており、その使用量は、年々増加している。また、最近では、燃料電池での燃料としても水素が注目され、将来本格的に燃料電池が使用されることになれば、高純度の水素が大量に必要とされる。したがって、高純度の水素を低コストで大量に生産可能な方法の開発が望まれている。
水素の大量生産の方法としては、(1)非化石資源を利用する水の電気分解による方法と、(2)化石資源を利用する炭化水素の改質による方法とがある。(1)の電気分解法では、電力源として太陽光発電で得た電気を用いて行う水の電気分解が研究されているが、現在の技術レベルでは実用化はコスト的に困難である。したがって、当面は(2)の炭化水素の水蒸気改質で水素を製造することが現実的である。
前述したように、水素の大量生産のためには炭化水素の改質が適している。例えば、CH4にH2Oを加えた反応系において、次式(1)〜(3)の反応式に従って大量の水素が発生する。
(化1)
CH4+H2O⇔CO+3H2 [ガス化反応(吸熱反応)](1)
(化2)
CO+H2O⇔CO2+H2 [シフト反応(発熱反応)](2)
(1)+(2)=(3)
(化3)
CH4+2H2O⇔CO2+4H2 [吸熱反応](3)
反応は、式(1)と(2)に従って起こり、最終的には式(3)の反応が生じることになる。反応系内には、大量の水素の他にCO、CO2、H2O、CH4等の不純物ガスが含まれる。水素を燃料電池への供給原料として利用するには、水素をこれら不純物から分離・精製しなければならない。また、精製水素中のCO含量を10ppm以下にしないと、燃料電池のPt電極の損傷が発生する。すなわち、水素の燃料電池への利用のためには、精製して、高純度化することが条件となる。
水素の精製法には、吸収法、深冷分離法、吸着法、膜分離法がある。これらの中で、膜分離法が実用化されている。膜分離法は、膜を透過するガスの速度の違いを利用するものであり、膜としては高分子膜や金属膜が利用されている。
高分子膜による膜分離法では、細孔を通過する気体分子の拡散速度の違いから水素の分離・精製がなされる。この膜分離法では、高純度の水素は得られないが、システムの大型化が可能であるという特徴がある。
一方、金属膜では高分子膜にある細孔は存在せず、水素の透過機構は次の通りである。金属膜を挟んで水素の圧力差があるとき、高圧力側では水素分子(H2)が金属表面で原子(H)に解離して金属に固溶し、侵入・拡散する。この水素原子は、金属膜を透過して低圧力側表面でH2に再結合して飛び出し、その結果水素の精製が行われる。金属膜による水素の精製は、分離係数と透過係数が極めて大きいことが特徴である。金属膜を用いる水素の精製では、例えば、99%程度の水素を99.99999%程度に純化することが可能である。したがって、燃料電池用高純度水素の精製には、金属膜による膜分離法が適しているといえる。
水素透過膜に用いる水素透過性金属膜として、Pdを主体とする合金、例えばPd−Ag合金、Pd−Ti合金等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ところで、水素の透過用金属膜としては、Pd−Ag合金膜が実用化されている。しかし、燃料電池の使用が本格化して大量の水素が必要となれば、それに応じて水素の透過用金属膜としてのPd−Ag合金の需要が増すことになる。そうなれば、高価で資源的にも少ないPdが制約となって、Pd−Ag合金膜では対応不可能と推測され、それに替わる金属膜の材料開発が急務となる。
水素透過合金は、水素吸蔵合金と同様に「水素を吸蔵する」という特性を有することが不可欠である。しかし、それぞれの材料に要求される材料特性は表1に示すように全く異なり、水素吸蔵合金の開発指針に基づいて実現することはできない。
水素吸蔵合金は、水素を繰り返し容易に吸蔵放出できる合金である。水素吸蔵量が増大しても水素圧力が一定となる、つまり圧力プラトーが生じる原理を利用している。圧力プラトーはギブスの相律によって説明されるように、金属に水素が固溶した状態(以下水素固溶体とする)と水素化物が共存すると生じる。水素化物が生成しなければ、圧力プラトーが生成しないため水素吸蔵合金として効率的に使用することはできない。
水素化物は例外なく脆いが、それは水素吸蔵合金には障害とはならず、むしろ利点である。例えば、水素吸蔵前の合金が脆くても何ら問題ない。何故ならば、水素吸蔵により合金は容易に自己粉砕し、水素と反応する比表面積の増大により水素吸蔵・放出速度が大になり、水素吸蔵合金として好都合だからである。
また、水素吸蔵合金は粉末状で用いられ、板状または膜状で使用されることはない。使用温度が上昇、または水素圧力が低下すると水素化物生成が困難になり、水素吸蔵合金としての特性が低下するので、室温〜150℃での温度かつ0.5MPa以上の水素下での使用が求められている。
一方、水素透過合金は、水素分子(H2)が金属表面で水素原子(H)に解離して金属中に進入して、吸蔵されるところまでは水素吸蔵合金と同じである。
しかし、水素透過合金では不純物を含んだ水素を高圧側とし、金属膜の透過により精製された水素を低圧側として、合金の両側に圧力差、つまり水素の濃度勾配を生じさせ、それを水素透過の駆動力としている。合金の両面に圧力差をつけることが必須であるから、粉末状態での使用は不可能であり、板または膜として使用される。
材料は水素を吸蔵すると一般に脆くなる性質がある。水素固溶体ではそれほど脆くはならないが、水素化物が生成すると決定的に脆くなり、自己粉砕が生じる。そのため、水素透過合金では水素化物の生成を絶対に避けなければならない。また、温度が低下、または水素圧力が上昇すると水素化物の生成が容易になるため、水素透過合金は200℃(473K)以上での温度かつ0.5MPa以下の水素下で使用される。
以上のように、両材料の合金設計の考え方は180度異なり、水素吸蔵合金を水素透過合金として使用することは不可能であり、またその逆も同様である。水素透過合金では水素脆化を抑えなければならず、そのためには水素吸蔵前に延性を示し、水素化物が生成しないようにしなければならない。
一般に、水素透過材料は水素固溶体を形成する領域で使用され、そのような場合には、単位時間、単位面積当たりに合金膜を透過する水素量J(molH2m−2s−1)と水素透過係数Φ(molH2m−1s−1Pa−0.5)との間には次式で示す関係がある。
J=Φ(Pu 0.5−Pd 0.5)/L (4)
上式中、PuおよびPd(Pa)は、それぞれ上流側および下流側の水素圧力であり、Lは水素透過合金膜の厚さ(m)である。
水素透過量Jを増大させるには、水素透過係数Φの大きい合金を用いることの他に、薄い膜をより高い圧力差をつけて使用することが要求される。そのため、合金膜の機械的性質が優れていることが不可欠である。何故ならば、如何に水素透過係数が大きい材料であろうと、水素脆化により破壊するなら水素透過合金膜として実現することはできないからである。純Pdより100倍以上水素透過係数が高い純Nbが水素透過合金膜として使用されない理由は、Nbの耐水素脆性が低いからである。現在、水素透過合金の最大の開発課題は、如何に水素脆化を抑制するかである。
水素透過合金膜は、例えば、V、Nb、TaとTi、Zr、Ni、Coとの合金が適していることが知られている(例えば特許文献2参照)。この文献での合金設計指針は、水素透過性能の優れたV、Nb、Taに水素吸蔵能のあるTi、Zr、Hfと触媒作用のあるNi、Coから水素透過合金を作製しようとするものである。しかし、この文献には、水素透過性のみならず水素脆化については全く記述がない。また、このような指針に基いて合金を作製しても、水素脆化により合金は破壊するため、水素透過合金としては使用できない。
また、同様の文献(特許文献3参照)にもNb系水素透過合金について記載されているが、その水素透過特性はPdのそれより低下している。これらの合金は、単一相を想定しているが、単一相に水素透過性と耐水素脆性という矛盾する特性を担わせることは困難である。これらの合金で水素脆化を抑制しようとすると、水素固溶量を低下せざるを得ず、水素透過性低下の原因となる。
さらに、水素脆化を抑制するために、合金の構造をアモルファス化することが知られている(例えば特許文献4参照)。しかし、アモルファス合金中における水素の拡散係数は一般的に結晶材料中のそれより低いため、高い水素透過性は得られない。また、アモルファス材料は温度を上昇させると結晶化するため、使用温度に制約が生じる。特に、水素透過用に作製されたアモルファス合金は、水素との結合力が高い元素を含むため、水素中では結晶化がより低温で起こる。
このような問題を解決するために、合金の複相化が効果的であることが提案されている(非特許文献1参照)。材料の諸特性は合金の組織に強く影響を受けるが、組織は合金組成に強く依存する。したがって、材料の特性について議論する場合は、合金組成、組織と特性の関係を明示しなければ意味がない。ところが、この文献では合金組成については特定されていない。また、合金組成、組織、特性の関係について何ら言及されていない。
つまり、水素透過合金として使用可能な複相合金は、以下に示すような様々な条件を満たす必要があるので、複相であれば優れた水素透過合金になるわけではない。
まず、Co−Ti−Nb系においては、Nbを固溶したCoTi相とCoを固溶したTiNb相以外の相は、鋳造状態で合金を脆くする、あるいは/および多量の水素を吸蔵して脆い水素化物を生成する作用があるため、この2相以外の第三相が生成すると、試料作製の段階で破壊したり、水素透過試験中に水素脆化により破壊する。したがって、第三相ができるだけ生成しない合金組成を選定することが不可欠である。
たとえ合金が前記CoTi相と前記TiNb相の2相で構成されていたとしても、初晶として生成する相の種類とその体積比の制御が不可欠である。CoTi相の水素透過性および延性はTiNb相のそれらより低いため、CoTi相が初晶として生成する合金では、水素透過性が小さく、また脆化および水素脆化が生じやすい。したがって、水素透過が可能であっても優れた水素透過特性は望めない。TiNb相が初晶として生成する合金組成が必須である。
また、本複相水素透過合金の水素透過性は主にTiNb相が担っているので、TiNb相の体積比が大きくなるような合金組成を選定すべきである。しかし、過剰のTiNb相は水素脆化の原因となる。
さらに、TiNb相の水素透過性は主にNbが担っていると考えられる、そのため、TiNb相中のNb濃度が高くなるような合金組成を選定すべきである。また、合金中のTi濃度が高いと、TiNb相中のTi濃度が高くなるため、TiH2等の水素化物が生成し、複相である場合でも破壊が起こる。したがって、初晶中のTi濃度が過度にならないようにするため、合金中のTi濃度は25原子%以下であることが望ましい。
以上のように、水素脆化を抑制しつつ最大限の水素透過特性を得るには、合金組成の細かい制御が不可欠である。
Ni−Ti−Nb系において、生成する相の種類とその体積比を制御することによって、複相水素透過合金が作製できることが知られている(特許文献5参照)。しかし、合金系によって相平衡が異なるため、前記複相水素透過合金として必要な条件は、合金系によって異なる。したがって、周期律表上の類似性からCo−Ti−Nb合金の特性をNi−Ti−Nb合金で得られた知見から単純に予測することはできない。
Co−Ti−Nb系においても、生成する相の種類とその体積比を制御することによって、複相水素透過合金が作製できることが知られている(特許文献6参照)。
しかし、この特許文献6に記載の技術では、Co35Ti35Nb30(原子%)合金が最大の水素透過係数を示すが、その値は2.64×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)にとどまるために、実用上の点からはさらなる検討、考察を行う余地がある。この合金系では、Nbの濃度が高くすると、初晶TiNb相の体積率が増加し、水素透過係数の増加が予想されるが、この文献中では、Nb濃度が増加すると水素透過係数が低下している。これは、合金組成の選定が悪く、共晶組織の一部が崩れ、CoTi相やその他の相が粒状に生成しているためである。これらの相は水素透過に悪影響を及ぼす。初晶TiNb相が共晶(CoTi+TiNb)に囲まれた組織から構成される合金を作製できれば、高Nb化により水素透過係数の改善が期待できる。
特開平8−215551号公報(段落0006)
特開平11−276866号公報(段落0014)
特開2000−159503号公報(段落0006)
特開2004−042017号公報(段落0005、0009)
特開2005−232491号公報(段落0029)
特許第3749952号公報(段落0039)
橋邦彦ら、「Co−Ti−Nb合金の水素透過特性」、日本金属学会概要、VOL133、P.427
このようなことから、合金組成、組織、水素透過性の関係について明らかにし、水素透過性と耐水素脆化性とを異なる相に担わせ、473K以上で使用可能な結晶質の高性能な複相水素透過合金の実現が要望されている。
そこで、本発明は、水素透過性と耐水素脆化性とを有し、473K以上で使用可能な結晶質の複相水素透過合金および結晶質複相水素透過合金膜を提供することを目的とする。
上記課題は、本発明者らが、Co−Ti−Nb系合金の、Coを固溶したTiNb相(以下TiNb相と記す)とNbを固溶したCoTi相(以下CoTi相と記す)との共晶(CoTi+TiNb)から構成される合金において、合金組成を初晶組成と共晶組成を結んだ線上の組成近傍に限定することにより、初晶TiNb相が共晶(CoTi+TiNb)に囲まれた構造の合金が作製でき、初晶TiNb相の体積比を増大しても耐水素脆化性を維持できることを見いだしたことにより解決できた。
本発明の複相Co−Ti−Nb系結晶質水素透過合金は、水素透過性を担う相と耐水素脆化性を担う相との複合相からなることを特徴とする。
複相Co−Ti−Nb合金においては、共晶(CoTi+TiNb)が初相TiNb相を囲んでいる構造を有する。これにより、初晶TiNb相の体積比を増大しても耐水素脆化性を維持した複相水素透過合金の作製が可能になり、効率よく水素を透過することができる。
前記Co−Ti−Nb系合金が、Co−Ti−Nb3元状態図上で、Co20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70、Co10Ti10Nb80およびCo10Ti30Nb60(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内とCo20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70(ただし、合金組成はすべて原子%)を結んだ線上の合金組成を有することを特徴とする。この範囲よりNb量が多いと水素脆化が著しく、水素透過合金として適さない。この範囲よりNb量が少ないと水素透過係数が極めて小さくなるため、前述した課題を解決し得る水素透過合金としては適さない。一方、Ti量またはCo量がこの範囲を外れると、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)の構造が崩れる、或いはTiNb相やCoTi相以外の第3相が生成し、水素透過係数や耐水素脆化性が低下するため、水素透過合金として適さない。
本発明の前記合金から作製された金属膜は、その厚さが0.01〜3mmであることを特徴とする。厚さが3mmを超えると、水素透過束(量)が小さくなり、水素透過効率が悪くなる。また、厚さが0.01mm未満であると、機械的強度が弱くなり、実用的でなくなる。
前記金属膜の両面(つまり被処理原料を流す側と精製水素を取り出す側)にさらにPd膜またはPd合金膜が形成され、このPd膜またはPd合金膜の厚さが50〜400nmであることを特徴とする。このように合金材を挟んで、被処理原料ガス側(上流、高圧側)と精製水素側(下流、低圧水素側)との両側に所定の厚さのPd膜またはPd合金膜を形成すれば、当該合金膜の酸化、窒化等を防止でき、また水素の解離と再結合が容易に行われ得る。この範囲を外れると、薄い場合にはPd膜またはPd合金膜の剥離が生じ、厚い場合には不経済になる。
本究明によれば、特定の組成を有するCo−Ti−Nb系複相合金を用いることにより、473K以上で極めて優れた水素透過性と耐水素脆化性とを両立して達成することができるという効果を奏する。
本発明者らは、まず、鋳造状態で共晶(CoTi+TiNb)と初晶TiNb相からなるCo30Ti30Nb40(原子%)合金において、初晶TiNb相の組成と共晶(CoTi+TiNb)の組成をそれぞれ決定した。次に、Co−Ti−Nb系3元状態図上で前記両組成を結んだ線上付近の組成を有する合金が、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)から構成され、初晶の体積比を増大しても耐水素脆化性を維持できることから、前述した課題を解決し得る水素透過用金属膜として有用である可能性を見いだし、水素透過実験により確かめた。
本発明の実施の形態によれば、水素透過金属膜としてCo−Ti−Nb系合金からなる膜を用いるものであり、この金属膜は、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)からなる。すなわち、Co−Ti−Nb系合金材の組成をCo−Ti−Nb3元状態図上で、Co20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70、Co10Ti10Nb80およびCo10Ti30Nb60(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内とCo20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70(ただし、合金組成はすべて原子%)とすることにより、初晶TiNb相が共晶(CoTi+TiNb)に囲まれた構造を有する複相合金材を提供することができ、この複相合金材の例えば鋳造合金材から金属膜を提供できる。この複相合金材は、水素透過性と耐水素脆性との両特性に優れており、水素透過のための金属膜を構成するのに適している。この複相合金の水素透過係数は組成により異なるが、現在水素精製用金属膜として実用化しているPd合金膜を大きく上回る水素透過性を示す。
本発明の複相合金からなる金属膜は、Pd合金膜に比ベ1/4〜1/8の費用で作製可能のため低コストであり、また、将来懸念されるPdの資源枯渇の際の代替品として適用できる材料といえる。
本発明の合金材の作製方法は特に限定されないが、原料金属を所定の組成になるように配合後、Ar等の不活性ガス雰囲気中のアーク溶解、Ar等の不活性ガス雰囲気中若しくは真空中の高周波誘導加熱溶解、Ar等の不活性ガス雰囲気中若しくは真空中の電気炉中溶解、真空中の電子ビーム溶解、またはレーザ加熱溶解等の溶解法等により作製される。
または、上記溶解法により作製した合金を粉砕後に、Ar等の不活性ガス雰囲気中でメカニカルグラインディングを施した合金粉末、あるいはそれぞれの原料金属粉末を所定の組成になるように配合後に、Ar等の不活性ガス雰囲気中でメカニカルアロイングを施した粉末等を固化成型する粉末冶金法等により作製される。
多数の組成についての実験結果から、図1に示す点A、B、CおよびDで囲まれた破線内のもの(本発明に係る水素透過合金)が特に有用である。図1の■印は鋳造状態で脆化することを示し、◆印は水素透過測定時に脆化するものを示し、また、破線領域外の△印は延性は優れているが水素透過係数が小さいものを示し、これらは全て水素透過用合金膜には適していない。○印は水素透過合金として使用可能であるが、その水素透過係数はそれほど高くはない。そして、◎印は前述した点A、B、CおよびDで囲まれた破線内の水素透過合金に含まれるものである。
水素透過用金属膜の厚さが薄いほど水素透過束(量)が大きくなり、水素透過効率が良くなる。しかし、金属膜の厚さが薄くなれば横械的強度が弱くなる。そのためこれら合金系の場合、合金膜の厚さは0.01〜3mmであることが好ましい。
これら合金材を水素透過用金属膜として利用するためには、その合金材の両面に、つまり合金材を挟んで原料ガス側(上流、高圧水素側)と精製水素側(下流、低圧水素側)とに、水素の解離と再結合のために、さらにPd膜またはPd合金膜をそれぞれ形成することが必要である。その厚さは、一般に50〜400nm、好ましくは100〜200nmである。
水素の解離と再結合のために、当該合金膜の両側にPdまたはPd合金膜を形成する方法は特に制限されず、例えば、真空蒸着、スパックリング、イオンプレーティング、電解めっき、無電解めっき等のいずれで行ってもよい。
以下、本究明の実施例および比較例を説明する。
(実施例1)
CoxTiyNb(100−x−y)合金材の組成がx=30原子%、y=30原子%になるように、Co(純度99・9%)、Ti(純度99.5%)、Nb(99.9%)の所定量を配合した。この配合物をアーク溶解炉に装填し、真空引きを行った。真空引きは、油回転ポンプと油拡散ポンプを用い、1.3×10−3Pa以下まで行った。真空引き完了後、360mmHgのアルゴンガスを導入しアーク溶解を行った。均一な合金を作製するため、溶解後の鋳塊を反転し再溶解を行った。鋳塊の反転−再溶解は6回行った。このようにして得られた鋳塊から、放電加工により直径12mm、厚さ0.6mmの円盤を切り出し、測定試料とした。
試料の両側を紙ヤスリ、バフ、次いで、直径0.5μmのαアルミナで研磨した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた微小構造観察、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いた化学分析を行った。
図2にCo30Ti30Nb40合金材のSEM写真を示す。この合金材は、白色の初晶TiNb相が共晶(CoTi+TiNb)に囲まれた構造のみを有していることが分かる。化学分析の結果、共晶(CoTi+TiNb)相および初晶TiNb相の組成はそれぞれ、Co35Ti35Nb30(原子%)およびCo5Ti8Nb87(原子%)であった。これらの組成は図1上でそれぞれP点およびQ点で示される。
次に、P点およびQ点を結んだ線上付近の組成を有するCo−Ti−Nb合金を複数作製し、水素透過試験を行った。
CoxTiyNb(100−x−y)合金材の組成がx=17原子%、y=19原子%になるように、Co(純度99・9%)、Ti(純度99.5%)、Nb(99.9%)の所定量を配合し、上記方法により円盤試料を作製した。
試料の両側を紙ヤスリ、バフ、次いで、直径0.5μmのαアルミナで研磨した後、試料の微小構造観察には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。相の体積占有率は、パブリック・ドメインNIHイメージプログラムを使って、マッキントッシュ・コンピュータにより算出した。
このようにして得られたCo17Ti19Nb64合金材のSEM写真を図3に示す。初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されていることが分かる。白色相である初晶TiNbは、共晶に囲まれており、その体積比は65体積%であった。
上記αアルミナで研磨した試料をアセトンで洗浄後、高周波マグネトロンスパッタ装置内にセットした。油回転ポンプ、クライオポンプを用いて、3×10−5Torrまで真空引きを行った。その後、試料表面に付着した酸化皮膜等を除去するため、RF電源を用いて10分間の逆スパッタを行った。次いで、試料をスパッタ装置内で350℃に加熱し、DC電源を用いて5分間Pdのスパッタを行った。この条件で被覆されるPd膜の厚さは190nmである。
水素透過測定は次のような流量法により実施した。先ず、Pd成膜した円盤試料をCuガスケットでシールした。次いで、円盤の両側を油拡散ポンプにより排気して3×10−3Pa以下の圧力にし、その後円盤を加熱して673Kにし、そのまま保持した。それから水素ガス(純度99.99999%)を下流側および上流側に、それぞれ0.1および0.2MPa導入し、その後水素透過測定を行った。上流側の水素圧力を0.2MPaから0.97MPaまで増大させ、また、温度は段階的に673Kから523Kまで50K間隔で下げた。一定温度に30分保持してから水素透過試験を開始した。水素透過束J(molH2m−2s−1)はマスフローメータを用いて測定した。
数式(4)に示されるように、J×L対(Pu0.5−Pd0.5)プロットの傾きから水素透過係数Φが求められる。
Co17Ti19Nb64合金材の673Kでの水素透過係数は、4.55×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であり、純Pdのそれの3.5倍であった。
以上のように、共晶から構成される複相合金は、特に優れた水素透過係数、すなわち水素透過特性を示すことが分かり、水素透過用金属膜として使用可能であった。
(実施例2)
Co−Ti−Nb系合金作製は、実施例1と同様にした。ただし、その組成は、x=19原子%、y=21原子%になるようにした。得られた鋳造状態のCo19Ti21Nb60合金材のSEM写真を図4に示す。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されていることが分かる。白色相である初晶TiNbは、共晶に囲まれており、その体積比は61体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は4.19×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であり、水素透過用金属膜として使用可能であった。
(比較例1)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=21原子%、y=23原子%になるようにした。
得られたCo21Ti23Nb56合金材は、その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相の体積比は53体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は3.31×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
(比較例2)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=25.5原子%、y=26.5原子%になるようにした。
得られたCo25.5Ti26.5Nb48合金材は、その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相の体積比は39体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は2.45×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
(比較例3)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=30原子%、y=30原子%になるようにした。
得られたCo30Ti30Nb40合金材は、その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相の体積比は24体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は2.32×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
(比較例4)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=35原子%、y=35原子%になるようにした。
得られたCo35Ti35Nb30合金材は、共晶(CoTi+TiNb)相と同一組成である。その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相は生成していない。この合金材の673Kでの水素透過係数は2.32×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
(比較例5)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=5原子%、y=8原子%になるようにした。
得られたCo5Ti8Nb87合金材は、初晶TiNb相と同一組成合金である。その組成は図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)である。この合金材は、初晶TiNb単相合金(TiNb相の体積比は100%)であった。この合金は、水素吸蔵により脆化が生じたため、水素透過合金として使用できなかった。
(比較例6)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=10原子%、y=10原子%になるようにした。
得られたCo10Ti10Nb80合金材は、その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)である。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相の体積比は83体積%であった。この合金は、水素吸蔵により脆化が生じたため、水素透過合金として使用できなかった。
以上より、P点およびQ点を結んだ線上の合金は、すべて初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されることが分かる。図5に、これら合金の初晶の体積比と水素透過係数の関係を示す。合金のNb濃度が小さいと、初晶TiNb相の体積比が小さくなり、水素透過係数が小さくなる(比較例1〜4)。したがって、前述した課題を解決し得る高性能な複相水素透過合金を得るには、初晶TiNb相の体積比を大きくする必要がある。逆に、初晶TiNb相の体積比が大きすぎると、水素吸蔵の際脆化するため、水素透過合金として使用できなくなる(比較例5、6)。そのため、Nb濃度には上限が存在する。その上限値は、58〜75体積%と考えられる。図1でA、B、CおよびDで囲まれた範囲の合金組成を選択することにより、水素吸蔵の際にも破壊せず、水素透過係数が特に高い合金が得られる。
(比較例7)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=30原子%、y=20原子%になるようにした。
得られたCo30Ti20Nb50合金は、その組成が図1における水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)および少量のCoTi相から構成されており、初晶TiNb相の体積比は28体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は1.54×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
(比較例8)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=20原子%、y=20原子%になるようにした。
得られたCo20Ti20Nb60合金は、その組成が図1における水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であり、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)および少量のCoTi相から構成されていた。初晶TiNb相の体積比は45体積%であった。この合金は、水素吸蔵により脆化が生じたため、水素透過合金として使用できなかった。
実施例1、2および比較例8の結果より、次のことが考察される。PQ線上の合金組成を有し、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されているCo17Ti19Nb64合金(実施例1)およびCo19Ti21Nb60合金(実施例2)中の初晶TiNb相の体積比はそれぞれ65体積%、61体積%であり、初晶TiNb相の体積比が高いにも関わらず水素吸蔵により破壊せず、極めて高い水素透過係数を示した。一方、PQ線からずれた合金組成を有し、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のほかにCoTi相が生成しているCo20Ti20Nb60合金(比較例8)は、初晶TiNb相の体積比が45%と低いにも関わらず水素脆化により破壊した。以上のことより、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成され、その他の相が生成していない合金は、耐水素脆化性に優れていると考えられる。
合金組成をPQ線上付近に限定することにより、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)から構成されている合金が作製できる。この組織を有する合金は、耐水素脆化性に優れているので、初晶TiNb相の体積比を増加しても破壊せず、水素透過性が極めて高い合金が得られる。
(比較例9)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=20原子%、y=10原子%になるようにした。
得られたCo20Ti10Nb70合金は、その組成が図1における水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であり、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)と脆いCoNb金属間化合物相から構成されていた。この合金は、水素吸蔵により脆化が生じたため、水素透過合金として使用できなかった。
(比較例10)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=10原子%、y=30原子%になるようにした。
得られたCo10Ti30Nb60合金は、その組成が図1における水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であり、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されていた。初晶TiNb相の体積比は80体積%であった。この合金は、水素吸蔵により脆化が生じたため、水素透過合金として使用できなかった。
(比較例11)
Co−Ti−Nb合金の作製方法は、実施例1と同様にした。その組成は、x=10原子%、y=20原子%になるようにした。
得られたCo10Ti20Nb70合金は、その組成が図1における水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であり、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されていた。この合金は、水素吸蔵により脆化が生じたため、水素透過合金として使用できなかった。
PQ線よりTi量が少ないと、脆いCoTi金属間化合物相が生成するため、水素透過合金として使用できない。一方、PQ線よりTiが過剰な場合は、たとえ合金が初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されていたとしても、初晶のTi濃度が高くなり、水素吸蔵の際に脆化の原因となる。したがって、水素透過合金として使用可能な合金組成は、PQ線上付近に限られる。
本発明によれば、水素透過性を担う相と耐水素脆化性を担う相との複合合金である特定の組成を有するCo−Ti−Nb系結晶質複相合金を用いることにより、極めて優れた水素透過性と耐水素脆化性とを両立して達成することができる。そのため、極めて高い効率で水素の透過を行うことができので、得られた高純度水素を、燃料電池用の供給燃料や、半導体、光ファイバ、薬品等の製造分野に適用可能である。
前記Co−Ti−Nb系合金が、Co−Ti−Nb3元状態図上で、点A(Co20Ti30Nb50)、点B(Co20Ti10Nb70),点C(Co10Ti10Nb80)および点D(Co10Ti30Nb60)(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内の合金組成と、前記点Aおよび前記点Bを結んだ線分AB上(ただし両端は含まず)の合金組成と、を有することを特徴とする。この範囲よりNb量が多いと水素脆化が著しく、水素透過合金として適さない。この範囲よりNb量が少ないと水素透過係数が極めて小さくなるため、前述した課題を解決し得る水素透過合金としては適さない。一方、Ti量またはCo量がこの範囲を外れると、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)の構造が崩れる、或いはTiNb相やCoTi相以外の第3相が生成し、水素透過係数や耐水素脆化性が低下するため、水素透過合金として適さない。
本発明の実施の形態によれば、水素透過金属膜としてCo−Ti−Nb系合金からなる膜を用いるものであり、この金属膜は、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)からなる。すなわち、Co−Ti−Nb系合金材の組成をCo−Ti−Nb3元状態図上で、点A(Co20Ti30Nb50)、点B(Co20Ti10Nb70),点C(Co10Ti10Nb80)および点D(Co10Ti30Nb60)(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内の合金組成と、前記点Aおよび前記点Bを結んだ線分AB上(ただし両端は含まず)の合金組成とすることにより、初晶TiNb相が共晶(CoTi+TiNb)に囲まれた構造を有する複相合金材を提供することができ、この複相合金材の例えば鋳造合金材から金属膜を提供できる。この複相合金材は、水素透過性と耐水素脆性との両特性に優れており、水素透過のための金属膜を構成するのに適している。この複相合金の水素透過係数は組成により異なるが、現在水素精製用金属膜として実用化しているPd合金膜を大きく上回る水素透過性を示す。
得られたCo25.5Ti26.5Nb48合金材は、その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相の体積比は39体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は2.72×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
得られたCo30Ti30Nb40合金材は、その組成が図1において本発明に係る水素透過用複相Co−Ti−Nb合金形成領域外(点A、B、CおよびDで囲まれた領域外)であったが、水素透過測定の可能な試料であった。この合金材は、初晶TiNbと共晶(CoTi+TiNb)のみから構成されており、初晶TiNb相の体積比は24体積%であった。この合金材の673Kでの水素透過係数は2.45×10−8(molH2m−1s−1Pa−0.5)であった。
前記Co−Ti−Nb系合金が、Co−Ti−Nb3元状態図上で、点A(Co20Ti30Nb50)、点B(Co20Ti10Nb70),点C(Co10Ti10Nb80)および点D(Co10Ti30Nb60)(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内の合金組成であるとともに、Co−Ti−Nb3元状態図上で、点P(Co35Ti35Nb30)と点Q(Co5Ti8Nb87)(ただし、合金組成は全て原子%)を結んだ線分PQを含んだ領域内であって、かつ初晶および共晶のみからなる合金組成である、ことを特徴とする。この範囲よりNb量が多いと水素脆化が著しく、水素透過合金として適さない。この範囲よりNb量が少ないと水素透過係数が極めて小さくなるため、前述した課題を解決し得る水素透過合金としては適さない。一方、Ti量またはCo量がこの範囲を外れると、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)の構造が崩れる、或いはTiNb相やCoTi相以外の第3相が生成し、水素透過係数や耐水素脆化性が低下するため、水素透過合金として適さない。
本発明の実施の形態によれば、水素透過金属膜としてCo−Ti−Nb系合金からなる膜を用いるものであり、この金属膜は、初晶TiNb相と共晶(CoTi+TiNb)からなる。すなわち、Co−Ti−Nb系合金材の組成をCo−Ti−Nb3元状態図上で、点A(Co20Ti30Nb50)、点B(Co20Ti10Nb70),点C(Co10Ti10Nb80)および点D(Co10Ti30Nb60)(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内の合金組成であるとともに、Co−Ti−Nb3元状態図上で、点P(Co35Ti35Nb30)と点Q(Co5Ti8Nb87)(ただし、合金組成は全て原子%)を結んだ線分PQを含んだ領域内であって、かつ初晶および共晶のみからなる合金組成とすることにより、初晶TiNb相が共晶(CoTi+TiNb)に囲まれた構造を有する複相合金材を提供することができ、この複相合金材の例えば鋳造合金材から金属膜を提供できる。この複相合金材は、水素透過性と耐水素脆性との両特性に優れており、水素透過のための金属膜を構成するのに適している。この複相合金の水素透過係数は組成により異なるが、現在水素精製用金属膜として実用化しているPd合金膜を大きく上回る水素透過性を示す。
Claims (3)
- 複合相からなり、前記複合相が、Nbを固溶したCoTi相とCoを固溶したTiNb相との共晶(CoTi+TiNb)が初晶として生成する前記TiNb相を囲んでいる構造を有し、Co−Ti−Nb3元状態図上で、Co20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70、Co10Ti10Nb80およびCo10Ti30Nb60(ただし、合金組成はすべて原子%)で囲まれた領域内とCo20Ti30Nb50、Co20Ti10Nb70(ただし、合金組成はすべて原子%)を結んだ線上の合金組成を有することを特徴とする複相Co−Ti−Nb系の結晶質複相水素透過合金。
- 請求項1に記載の結晶質水素透過合金の構成元素のそれぞれを配合して作製され、複相合金の厚さが0.01〜3mmであることを特徴とする水素透過合金膜。
- 請求項2記載の水素透過合金膜の両面にPd膜またはPd合金膜が形成され、かつ当該Pd膜またはPd合金膜の厚さが50〜400nmの範囲内であることを特徴とする水素透過合金膜。
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