以下、本発明による自動変速機の補正値測定方法および測定装置、ならびにこれら測定方法および測定装置によって測定された補正値を利用する自動変速機の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、自動変速機の補正値測定装置、および測定装置によって測定された補正値を利用する自動変速機を示す概要図である。図2は、図1に示す測定装置の制御装置で実行されるフローチャートであり、図3は、図1に示す測定装置の動作を示すタイムチャートである。
自動変速機10は、駆動源(例えばエンジン)からの駆動力を入力し必要に応じて変速して出力しその出力を駆動輪に伝達するものである。自動変速機10は、ケーシング11を備えている。ケーシング11内には、エンジンからの駆動力をプラネタリギヤトレーン14へ伝達するトルクコンバータ12と、トルクコンバータ12からの駆動力を入力する入力軸13と、制御機構21からの指示を受けてギヤ段を切り替えて(変速や逆回転)トルクコンバータ12から入力した駆動力を変速して出力するプラネタリギヤトレーン14と、プラネタリギヤトレーン14からの変速された駆動力を駆動輪に出力する出力軸15と、プラネタリギヤトレーン14の切り替え(変速や逆回転)のために油路を切り替えるバルブボディ21と、が配設されている。
トルクコンバータ12は、一般的によく知られているものであり、フロントカバー、流れを作るポンプインペラ、流れの向きを変えるステータ、流れる力によって回されるタービンランナ(単にタービンと言ってもよい。)で構成されている(何れも図示省略)。エンジンからの駆動力によってポンプインペラが回転を始めると、この回転によって発生されたATFの流れる力によりタービンランナがポンプインペラと同方向に回転される。タービンランナは、入力軸13を介してプラネタリギヤトレーン14と繋がっている。
プラネタリギヤトレーン14は、プラネタリギヤ、摩擦係合要素であるクラッチおよびブレーキで構成されている(何れも図示省略)。プラネタリギヤは、クラッチやブレーキが作用することでギヤ段の切り替えを行うものである。この作用するクラッチやブレーキの組み合わせを変えることで車の走行状態にあったギヤ段を選択している。
プラネタリギヤは、サンギヤ、ピニオンギヤ(遊星ギヤ)、プラネタリキャリア、リングギヤで構成されている。
クラッチはプラネタリギヤの各回転要素を駆動力(トルク)を伝達可能に連結するものである。クラッチは、2つの部材間の駆動力(トルク)伝達を断続可能な摩擦部材(後述する)と、バルブボディ21(油圧制御バルブ)からの油圧によって加圧されて摩擦部材を押圧可能なピストンとを備えている。バルブボディ21からの油圧をピストンが受け、ピストンが摩擦部材を係合することで、プラネタリギヤの回転要素が連結される。
ブレーキはケーシング11に取り付けられ、プラネタリギヤの各要素を固定(停止)したり解放したりするものである。ディスクタイプのブレーキは、クラッチと同様に、2つの部材間の駆動力伝達を断続可能な摩擦部材と、バルブボディ21からの油圧によって加圧されて摩擦部材を押圧可能なピストンとを備えている。バルブボディ21からの油圧をピストンが受け、ピストンが摩擦部材を係合することで、プラネタリギヤの回転要素が固定される。
バルブボディ21は、ATFが流れるための油路と、その油路を切り替えるたくさんのバルブ(油圧制御バルブを含む。)で構成されている。バルブボディ21は、自動車の走行状態にあわせてバルブを動かすことで油路を切り替え、上述したクラッチやブレーキを作用させるのに必要な油圧を発生させて変速を行っている。油圧制御バルブは、クラッチやブレーキにそれぞれ対応して設けられているソレノイドバルブである。油圧制御バルブは、油圧源から供給される油圧を調整して供給するものである。
また、自動変速機10は、トルクコンバータ12の入力回転数を検出する入力回転数検出手段である回転センサ12aを備えている。なお、この回転センサ12aの代わりに駆動源32の出力回転数を検出する回転数検出手段を設けるようにしてもよい。この場合、その回転数センサは自動変速機10に設けなくて自動変速機の補正値測定装置30に設けるようにしてもよい。自動変速機10は、トルクコンバータ12のタービンの回転数を検出するタービン回転数検出手段である回転センサ12bを備えている。
このように構成されたオートマチックトランスミッションアセンブリ状態(以下A/Tアセンブリ状態)の自動変速機10が車両に搭載された場合には、図8に示すように、自動変速機10とは別体であり離れた位置で車両に取り付けられた制御装置22がバルブボディ21と電気的に接続されている。
制御装置22は、自動車の走行状態に応じてプラネタリギヤトレーン14にギヤ段の切り替えを指示するものである。この制御装置22は、ソレノイドバルブに制御指令値に応じた制御電流を印加して、そのソレノイドバルブを作動させて油路を切り替えて、ソレノイドバルブに関連付けされた摩擦係合要素を係合・解放制御するものである。制御装置22は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、自動車の走行状態に応じてプラネタリギヤトレーン14にギヤの切り替え(変速や逆回転)を制御する。RAMはその制御の実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMはギヤの切り替えの制御プログラムを記憶するものである。
また、制御装置22は、後述するように測定された補正値を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶されている補正値に基づいて摩擦係合要素への制御指令値を導出する導出手段と、導出手段によって導出された制御指令値に応じて油圧制御バルブを制御する制御手段と、を備えている。記憶手段が、測定された補正値を記憶し、導出手段が、記憶手段に記憶されている補正値に基づいて摩擦係合要素への制御指令値を導出し、制御手段が、導出手段によって導出された制御指令値に応じて油圧制御バルブを制御する。
具体的に、クラッチの一般的な制御の説明する。図9に示すように、
1.クラッチの油室に作動油をすばやく満たすために、所定時間T21だけ高油圧を供給する指令を出す(ファストフィル)。
2.一旦リターンスプリング圧相当まで油圧を低下させ、所定時間T22待機させる(ピストンストロークエンド圧で待機)。
3.ピストンストロークエンド圧から油圧を所定勾配でスイープアップさせて、クラッチを係合させていく。
4.クラッチの係合が達成されると、油圧を完全係合保持できる圧まで高める。
このようにクラッチの制御が行われており、所定時間T22における待機圧を補正することで、初期の変速ショックを抑えることができる。
したがって、油圧制御バルブからの油圧により係合・解放される摩擦係合要素を備えた自動変速機において、記憶手段が、上述した自動変速機の補正値算出装置によって算出された補正値を記憶し、導出手段が、記憶手段に記憶されている補正値に基づいて摩擦係合要素への制御指令値を導出し、制御手段が、導出手段によって導出された制御指令値に応じて油圧制御バルブを制御する。したがって、出荷初期から自動変速機の個体毎の特性バラツキをより短時間で補正することができ、実走行による学習促進を待つことなく、良好な変速品質を得ることができる。
次に、自動変速機の補正値測定装置30の説明をする。自動変速機の補正値測定装置30は、上述した油圧制御バルブや摩擦係合要素が組み込まれた自動変速機10の組立完成後に行われる自動変速機10の完成品検査を行う測定装置である。この測定装置30は、図1に示すように、自動変速機10の特性を測定して出荷判定を行うものであり、同時に自動変速機10の特性バラツキに対する補正値を測定している。この測定装置30は、A/Tアセンブリ状態の自動変速機10のトルクコンバータ12に一定の回転数を付与するための駆動源(例えば電動モータ)31と、駆動源31を駆動制御するための制御装置32と、後述する予めクラッチアセンブリ状態でそれぞれ測定した摩擦係合要素のピストンストロークエンド圧および油圧制御バルブの油圧特性をそれぞれ記憶する記憶手段である記憶装置33を備えている。制御装置32は、自動変速機10が補正値測定装置30に設置されているときに自動変速機10の回転センサ12aと12bから検出信号を入力するとともに、自動変速機10のバルブボディ21と相互に通信可能に接続されている。
制御装置32は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、自動変速機10の特性を測定する。また、図2のフローチャートに対応したプログラムを実行して、バルブボディ21への油圧の給排を制御しながら自動変速機10の補正値を測定する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
次に、このように構成した自動変速機の補正値測定装置30の作動について図2のフローチャートに沿って説明する。本実施形態においては、摩擦係合要素がクラッチである場合について説明する。以下に説明する補正値測定は自動変速機の組立完成後に行う試運転(例えば完成品検査)において実施される。まず自動変速機10が補正値測定装置30に設置される。このとき、自動変速機10の出力軸15は回転しないように固定される。その後、図示しないスタートスイッチがオンされると、制御装置32は、ステップ100にてプログラムを起動しプログラムをステップ102に進める。ステップ102において、電動モータ31の駆動を開始しその回転数を一定回転に維持する。
制御装置32は、油圧源からクラッチ(摩擦係合要素)までの油路をがた詰めするため、すなわちこの油路を油液(所定値以上の油圧)で満たすために、まずファーストフィルを実施する。具体的には、時刻t1から時刻t2までの間、当該クラッチを係合・解放するための油圧制御バルブにファーストフィル電流I1を出力する。制御装置32は、まずステップ104にて、予め設定されたファーストフィル電流I1を制御指令値として油圧制御バルブのソレノイドに印加する。制御装置32は、タイマTM1がファーストフィル時間T1を経過するまで、ステップ106,108の処理を繰り返し実行してタイマTM1をカウントアップし続ける。そして、制御装置32は、タイマTM1がファーストフィル時間T1を経過すると(時刻t2)、プログラムをステップ110に進める。
制御装置32は、ファーストフィル時間T1が経過すると(時刻t2にて)、先にクラッチアセンブリ状態でそれぞれ測定したクラッチおよび油圧制御バルブの各特性に基づいて待機指令油圧である待機電流Iffを導出して油圧制御バルブに出力する。具体的には、制御装置32は、ステップ110において、記憶装置33に予め記憶されているピストンストロークエンド圧および油圧特性を記憶装置33から取得し、ステップ112において、取得したピストンストロークエンド圧および油圧特性に基づいて待機電流値Iffを算出し、ステップ114において、算出した待機電流値Iffを制御指令値として油圧制御バルブに出力する。これにより、油圧制御バルブには待機指令油圧が加圧される。なお、ステップ112においては、油圧特性が例えば電流−油圧特性であり関数Ip(P)で表され、ピストンストロークエンド圧がPctである場合には、待機電流値IffはIp(Pct)として算出される。
なお、本実施形態において、摩擦係合要素のピストンのストロークが終了して、トルク伝達が開始される直前の状態に維持できる油圧のこと、すなわち摩擦係合要素の摩擦部材がトルク伝達を開始するピストンの加圧値をピストンストロークエンド圧と呼称する。
制御装置32は、タイマTM2が待機時間T2を経過するまで、ステップ116,118の処理を繰り返し実行してタイマTM2をカウントアップし続ける。そして、制御装置32は、タイマTM2が待機時間T2を経過すると(時刻t3)、プログラムをステップ120に進める。これにより、最初の待機時間T2では先に導出した待機指令油圧となるようにクラッチへの供給油圧が調整されている。
制御装置32は、待機時間T2が経過すると(時刻t3にて)、その後引き続いて、摩擦係合要素のトルク(駆動力)伝達の程度を表す所定パラメータの一つである差回転(差回転数)を所定範囲内に収めるようにクラッチへの供給油圧を待機指令油圧から調整しながら制御指令値の補正値を測定する。まず、制御装置32は、ステップ120〜132の処理を繰り返し実行して、摩擦係合要素のトルク(駆動力)伝達の程度を表す所定パラメータの一つである差回転(差回転数)を所定範囲内に収めるようにクラッチへの供給油圧を待機指令油圧から調整している。具体的には、制御装置32は、ステップ120において、回転センサ12a,12bによってトルクコンバータ12の入力回転数Ntinおよびタービン回転数Ntoutをそれぞれ測定する。ステップ122において、測定したトルクコンバータ12の入力回転数Ntinおよびタービン回転数Ntoutの差を差回転数DNとして算出する。
制御装置32は、ステップ124において、待機電流Iff、差回転数DNおよび差回転目標値DNtからPID制御によって指令値を算出して油圧制御バルブに出力する。この指令値I_PSEは下記数1から算出される。
ここで、Kp、Kd、Kiはそれぞれ重み付けであり、適当な定数に設定されている。
これにより、PID制御によって導出した指令値(指令油圧)となるようにクラッチへの供給油圧が調整される。すなわち、クラッチへの供給油圧がPID制御によって目標所定範囲内に収まるように調整される。なお、目標所定範囲は、算出された指令値の採り得る値の変動幅のことを言っている。また、指令値はPID制御に限らず、上述した待機電流Iffに基づいて算出する方法であれば他の方法によって算出するようにしてもよい。
制御装置32は、トルクコンバータ12の入力回転数Ntinおよびタービン回転数Ntoutの差回転(差回転数)DNが所定範囲(−Nst以上かつNst以下である範囲)内で安定した場合に補正値を測定する。さらには、差回転DNが所定範囲内で安定している状態が所定の安定時間T3を越えて継続した場合に、クラッチへの供給油圧の安定時間T3内の平均値を補正値として測定する。具体的には、制御装置32は、ステップ126において、差回転数DNが所定範囲内であるか否かすなわち−Nst≦DN≦Nstであるか否かを判定する。差回転数DNが所定範囲外であれば、「NO」と判定してプログラムをステップ128に進めて、タイマTM3を0にリセットする。差回転数DNが所定範囲内であれば、「YES」と判定してプログラムをステップ130に進めて、タイマTM3をカウントアップする。
そして、制御装置32は、ステップ132において、差回転DNが所定範囲内で安定している状態が所定の安定時間T3を越えて継続しているか否かを判定する。ステップ130でカウントアップされたタイマTM3が安定時間T3を経過していなければ、「NO」と判定してプログラムをステップ120に戻して、タイマTM3が安定時間T3を経過するまでステップ120〜130の処理を繰り返し実行する。タイマTM3が安定時間T3を経過すれば(時刻t4)、「YES」と判定してプログラムをステップ134に進める。
制御装置32は、時刻t4に、ステップ134において、クラッチへの供給油圧の安定時間T3内の平均値を補正値として測定する。具体的には、制御装置32は、時刻t4から最新の(過去)安定時間T3分の指令値データを記憶しており、この記憶されている指令値データに基づいて安定時間T3内の平均値を例えば下記数2から算出し、この算出した値を補正値として記憶装置33または自動変速機10の制御装置22の記憶手段(記憶装置)に記憶する。
(数2)
補正値=指令値データの総和/T3
そして、制御装置32は、プログラムをステップ136に進めて、駆動源31の駆動を停止して補正値の測定を終了し、その後プログラムをステップ138に進めて本フローチャートを終了する。
次に、摩擦係合要素例えばクラッチのピストンストロークエンド圧をアセンブリ状態で測定する方法および装置について図4から図6を参照して説明する。図4は、クラッチアセンブリおよびそのピストンストロークエンド圧測定装置を示す概要図である。図5は、図4に示す測定装置の制御装置で実行されるフローチャートであり、図6は、図4に示す測定装置の動作を示すタイムチャートである。
クラッチアセンブリ40は、例えば有底円筒状に形成された駆動力伝達元41、駆動力伝達元41内に摺動可能かつ液密に収納されるピストン42、駆動力伝達元41の内周面にピストン42の移動方向に沿って移動可能に取り付けられている複数のアウタクラッチプレート43、アウタクラッチプレート43の間に配設されて駆動力伝達先44の外周面にピストン42の移動方向に沿って移動可能に取り付けられている複数のインナクラッチプレート45、駆動力伝達元41に軸方向に位置決め固定されたキャンセルプレート46とピストン42の間に配設されてピストン42を解放方向に付勢する複数のリターンスプリング47を備えている。クラッチアセンブリ40は、駆動力伝達元41とピストン42の間に形成された油室48を有している。
このように構成されたクラッチアセンブリ40においては、油圧制御ユニット53から油圧が油室48に供給されると、ピストン42がリターンスプリング47の付勢力に抗して摩擦部材である両クラッチプレート43,45に向けて(係合方向に)移動され、最終的に摩擦部材が完全係合状態となる。逆に、油室48の油圧が油圧制御ユニット53に戻ると、ピストン42がリターンスプリング47の付勢力によって摩擦部材から離れる方向(解放方向)に移動され、最終的に摩擦部材が完全解放状態となる。なお、駆動力伝達元41とピストン42から形成される油室48、リターンスプリング47から油圧サーボが構成されている。
クラッチアセンブリのピストンストロークエンド圧測定装置50は、摩擦係合要素であるクラッチのピストンストロークエンド圧をクラッチアセンブリ状態で測定する測定装置である。このピストンストロークエンド圧測定装置50は、クラッチアセンブリ40の駆動力伝達先44を固定する固定具51と、クラッチアセンブリ40の駆動力伝達元41を駆動させる駆動ユニット52と、クラッチアセンブリ40に油圧を給排する油圧制御ユニット53と、当該測定装置50の動作を制御する制御装置54を備えている。
駆動ユニット52は、駆動源としてのモータ52aと、モータ52aの出力軸に一体的に固定されているプーリ52bと、クラッチアセンブリ40の駆動力伝達元41に着脱可能に一体的に取り付けられる駆動軸52cと、駆動軸52cに一体的に固定されているプーリ52dと、両プーリ52b、52d間に張架されているベルト52eと、駆動軸52cに一体的に固定されているトルク計52fと、駆動軸52cに一体的に固定されているイナーシャ52gを備えている。モータ52aは、制御装置54の指令によって駆動するようになっている。トルク計52fは、駆動軸52cにかかるトルクすなわちクラッチアセンブリ40にかかるトルクを検出するものであり、その検出信号を制御装置54に送信している。
油圧制御ユニット53は、油路55を介して設置されたクラッチアセンブリ40に連通している。油圧制御ユニット53は、クラッチアセンブリ40の油室48に供給される油圧を調整することができるものであり、制御装置54の指令に応じた油圧を供給することができる。油圧制御ユニット53は、クラッチアセンブリ40の油室48に供給される油圧を検出する油圧センサを内蔵しており、検出した油圧を制御装置54に送信している。
制御装置54は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図5のフローチャートに対応したプログラムを実行して、クラッチアセンブリ40のピストンストロークエンド圧を測定する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものであり、測定したピストンストロークエンド圧を記憶する。
次に、このように構成したクラッチアセンブリのピストンストロークエンド圧測定装置50の作動について図5のフローチャートおよび図6のタイムチャートを参照して説明する。以下に説明する補正値測定は自動変速機の組立後に行う試運転(例えば完成品検査)前にクラッチアセンブリ状態で実施される。クラッチアセンブリ40がピストンストロークエンド圧測定装置50に設置された後、図示しないスタートスイッチがオンされると、制御装置54は、ステップ200にてプログラムを起動しプログラムをステップ202に進める。ステップ202において、モータ52aの駆動を開始しその回転数を一定回転に維持する。
制御装置54は、油圧源(油圧制御ユニット)からクラッチアセンブリ40までの油路55をがた詰めするため、すなわちこの油路55を油液で満たすために、まずファーストフィルを実施する。具体的には、時刻t11から時刻t12までの間、クラッチアセンブリ40にファーストフィル油圧を供給する。制御装置54は、まずステップ204にて、油圧制御ユニット53を制御して予め設定されたファーストフィル油圧を供給する。制御装置54は、タイマTM11がファーストフィル時間T11を経過するまで、ステップ206,208の処理を繰り返し実行してタイマTM11をカウントアップし続ける。そして、制御装置54は、タイマTM11がファーストフィル時間T11を経過すると(時刻t12)、プログラムをステップ210に進める。
制御装置54は、ファーストフィルで高くなっているトルクが落ち着くのを待つため、ファーストフィル時間T11が経過すると(時刻t12にて)、クラッチアセンブリ40にファーストフィル油圧より低い待機油圧を供給する。具体的には、制御装置54は、ステップ210において、時刻t12から時刻t13までの間、油圧制御ユニット53を制御して予め設定された待機油圧をクラッチアセンブリ40に供給する。
制御装置54は、タイマTM12が待機時間T12を経過するまで、ステップ212,214の処理を繰り返し実行してタイマTM12をカウントアップし続ける。そして、制御装置54は、タイマTM12が待機時間T12を経過すると(時刻t13)、プログラムをステップ216に進める。
制御装置54は、待機時間T12が経過すると(時刻t13にて)、その後引き続いてクラッチアセンブリ40への供給油圧が一定となるように、すなわちトルクTqが一定となるように油圧制御ユニット53を制御する。制御装置54は、ステップ216〜220の処理を繰り返し実行して、クラッチアセンブリ40への供給油圧が一定となるように調整している。具体的には、制御装置54は、ステップ216において、待機油圧に基づいて以降の供給油圧を算出してその油圧となるように油圧制御ユニット53を制御する。供給油圧の算出は、例えばPID制御によって算出される。制御装置54は、ステップ218において、クラッチアセンブリ40にかかるトルクTqを測定し、ステップ220において、その測定したトルクTqが一定のまま所定時間T13を経過したか否かを判定する。
制御装置54は、ステップ220において、測定したトルクTqが一定のまま所定時間T13を経過していなければ、「NO」と判定してプログラムをステップ216に戻して、タイマTM13が所定時間T13を経過するまでステップ216〜220の処理を繰り返し実行する。測定したトルクTqが一定のまま所定時間T13を経過していれば(時刻t14)、「YES」と判定してプログラムをステップ222に進める。
制御装置54は、時刻t14に、ステップ222において、クラッチアセンブリ40への供給油圧の所定時間T13内の平均値をピストンストロークエンド圧として測定する。具体的には、制御装置54は、時刻t14から最新の(過去)所定時間T13分の供給油圧を記憶しており、この記憶されている供給油圧に基づいて所定時間T13内の平均値を算出し、この算出した値をピストンストロークエンド圧として記憶装置に記憶する。なお、ピストンストロークエンド圧は、完全解放状態にあるピストン42が、両クラッチプレート43,45から構成される摩擦部材に当接し両クラッチプレート43,45の摩擦によって係合圧が発生する圧力のことをいう。
そして、制御装置54は、プログラムをステップ224に進めて、油圧制御ユニット53の油圧の給排、モータ52a駆動源31の駆動を停止して測定を終了し、その後プログラムをステップ226に進めて本フローチャートを終了する。
このように測定されて記憶されているピストンストロークエンド圧は、測定対象のクラッチアセンブリ40と関連付けられて、関連付けられたデータが搬送可能かつ読み出し可能な記憶媒体(例えばQRコード)に書き込みされるようになっている。この記憶媒体に記憶されているデータが上述した自動変速機の補正値測定装置30の記憶装置33に書き込まれるなどして補正値の測定に利用されている。
次に、バルブボディの電流−油圧特性をアセンブリ状態で測定する方法および装置について図7を参照して説明する。図7は、バルブボディの電流−油圧特性測定装置を示す概要図である。バルブボディの電流−油圧特性測定装置60は、バルブボディ21の電流−油圧特性をアセンブリ状態で測定する測定装置である。この電流−油圧特性測定装置60は、バルブボディ21に油圧を給排する油圧制御ユニット61と、当該測定装置60の動作を制御する制御装置62を備えている。
油圧制御ユニット61は、油路63,64を介してバルブボディ21に連通している。油圧制御ユニット61は、バルブボディ21に供給される油圧を調整することができるものであり、制御装置62の指令に応じた油圧を油路63を介して供給することができる。油圧制御ユニット61は、バルブボディ21の摩擦係合要素に導出される導出口に連通する油路64を介して摩擦係合要素に供給される油圧を回収している。油圧制御ユニット61は、この摩擦係合要素に供給される油圧を検出する油圧センサを内蔵しており、検出した油圧を制御装置62に送信している。
制御装置62は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、バルブボディの電流−油圧特性を測定する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものであり、測定した電流−油圧特性を記憶する。
制御装置62は、摩擦係合要素毎に電流−油圧特性を測定する。測定対象の摩擦係合要素に油圧制御ユニット61から所定の油圧を供給する。測定対象の摩擦係合要素のソレノイドに印加する電流を変化させながら当該摩擦係合要素から導出される油圧を測定する。その測定結果に基づいて電流−油圧特性のマップまたは演算式を作成して制御装置62の記憶手段に記憶する。
このように測定されて記憶されている電流−油圧特性は、測定対象のバルブボディ21と関連付けられて、関連付けられたデータが搬送可能かつ読み出し可能な記憶媒体(例えばQRコード)に書き込みされるようになっている。この記憶媒体に記憶されているデータが上述した自動変速機の補正値測定装置30の記憶装置33に書き込まれるなどして補正値の測定に利用されている。
ここで、自動変速機の組み立てから車両への搭載までの流れをまとめると、下記のようになる。
1.クラッチアセンブリ、バルブボディアセンブリを製造する。
2.上述した方法および装置によってクラッチアセンブリのピストンストロークエンド圧を測定、およびバルブボディアセンブリの電流−油圧特性を測定する。
3.2.で測定したピストンストロークエンド圧および電流−油圧特性から、実機でのピストンストロークエンド圧における実電流値を算出する。この算出は、2.でそれぞれ測定したデータを入力して管理する管理コンピュータで実行されている。
具体的には、実電流値は、下記数3から算出される。
(数3)
実電流値=f(基準バルブボディ圧+差ピストンストロークエンド圧)
関数f(x)は電流−油圧特性を示す関数である。基準バルブボディ圧は、経験値に基づいて決定される理想バルブボディ圧である。バルブボディ圧は、バルブボディから摩擦係合要素に出力される油圧のことである。差ピストンストロークエンド圧は、下記数4から算出されるものである。
実測ピストンストロークエンド圧は、上述したように実際に測定したピストンストロークエンド圧のことを言っている。実測ピストンストロークエンド圧の代わりに推定して導出したピストンストロークエンド圧を使用するようにしてもよい。基準ピストンストロークエンド圧は、経験値に基づいて決定される理想ピストンストロークエンド圧である。
4.クラッチアセンブリ、バルブボディアセンブリなどを組み付けて自動変速機を完成させる。
5.完成品検査を行って出荷判定を行う。ここでは、規格を満たしているかの判定のみを行い、規格を満たしているものを車両工場へ出荷する。
6.出荷前に3.で算出した実電流値をバーコード(例えばQRコード)に書き込み、そのバーコードを自動変速機のケースなどに貼り付けておく。
7.車両工場では、自動変速機を車両に組み付ける。自動変速機はECUと接続される。
8.自動変速機に添付のバーコードのデータを自動変速機のECUに書き込む。このとき、クラッチの油圧制御の待機圧の値を実電流値(上述のように測定したピストンストロークエンド圧に対応した電流値)に置き換える。
次に、摩擦係合要素のピストンストロークエンド圧測定方法およびその装置の他の実施形態について図面を参照して説明する。図10は、クラッチアセンブリおよびピストンストロークエンド圧測定装置を示す概要図である。図11は、図10に示す測定装置の制御装置で実行されるフローチャートであり、図12は、図10に示す測定装置の動作を示すタイムチャートである。なお、本実施形態におけるクラッチは、自動変速機において所定の変速段を達成するために係脱可能とされるクラッチに用いられると好適とされる。
クラッチアセンブリ110は、カップ状に形成されて内部にシリンダ111が一体的に形成されたドラム112と、シリンダ111に軸方向に摺動自在に嵌挿されているピストン113と、ピストン113にかかる遠心油圧を相殺するためにキャンセル油室118を形成するキャンセルプレート114と、係合位置にあるピストン113を元の解除位置(図10にて実線にて示す位置)に戻す複数のリターンスプリング115とから構成されている。
ドラム112は、有底円筒状に形成され、底部112a1から軸方向に向けて延設される外周部112a2と内周部112a3とを有する第1ドラム112aと、有底円筒状に形成され、底部112b1から軸方向に向けて延設される外周部112b2と内周部112b3とを有する第2ドラム112bとを有する。第1ドラム112aと第2ドラム112bとは、第1ドラム112aの内周部112a3の内周面と第2ドラム112bの外周部112b2の外周面とが圧入され、またその一端に形成される溶接部112cによって溶接されることで一体的に形成されている。また、第1ドラム112aの内周部112a3と、第2ドラム112bの外周部112b2、底部112a1及び内周部112a3とによって、シリンダ111を形成している。
ピストン113の内周端部113aは、シール部材(例えばOリング)117aを介して液密かつ摺動可能に第2ドラム112bの内周部112b3の外周面に当接している。ピストン113の外周端部113bは、シール部材(例えばOリング)117bを介して液密かつ摺動可能に第1ドラム112aの内周部112a3の内周面に当接している。また、シリンダ111とピストン113との間に油室116が形成されている。この油室116への油圧(圧力)の給排は、入力軸およびスリーブ軸にそれぞれ形成された油路、および第2ドラム112bの内周部112b3に形成した油路112eを介して行われる。また、ピストン113の外周端部にはさらに外方に延在する環状の押圧部113cが設けられている。これにより、油室116に油圧(圧力)が供給されると、押圧部113cが摩擦部材120に向けて移動し摩擦部材120を押圧するようになっている。
摩擦部材120は複数のアウタクラッチプレート121およびインナクラッチプレート122から構成されており、両クラッチプレート121,122は交互に軸方向に並設されている。アウタクラッチプレート121は、第1ドラム112aの外周部112a2の内周面にスプライン係合されている。インナクラッチプレート122は、例えば図示しないサンギヤに連結されている駆動力伝達先であるハブ125の外周面にスプライン係合されている。油圧(圧力)が供給されてピストン113が摩擦部材120を押圧すると、アウタクラッチプレート121およびインナクラッチプレート122が圧接され、ドラム112とハブ125が駆動連結される。
摩擦部材120は、摩擦部材120の一側(図10にて右側)の第1ドラム112aの外周部112a2に固定されている抜け止め部材(例えばスナップリング)112dによってドラム112から抜けないようになっている。なお、摩擦部材120の他側(図10にて左側)は、フリーである。
また、キャンセルプレート114の内周端部114aは、第2ドラム112bの内周部112b3の外周面に当接している。キャンセルプレート114の内周端部114aは、抜け止め部材117eによって第2ドラム112bの内周部112b3から抜けないようになっている。キャンセルプレート14の内周端部14aには、切欠17dが形成されており、キャンセル油室18を満たした油液が切欠17dを通って溢れ出て周辺部の潤滑を行うようになっている。キャンセルプレート114は、一端がピストン113に当接するリターンスプリング115の付勢力によって抜け止め部材117eに常に当接して位置決め固定されている。キャンセルプレート114の外周端部114bは、シール部材117cを介してピストン113の外周端部113bに凸設された環状筒部113b1の内周面に液密かつ相対摺動可能に当接している。また、ピストン113とキャンセルプレート114の間にキャンセル油室118が形成されている。このキャンセル油室118への油圧(圧力)の給排は、入力軸およびスリーブ軸にそれぞれ形成された油路、および第2ドラム112bの内周部112b3に形成した油路112fを介して行われる。
このように構成されたクラッチアセンブリ110においては、図略の自動変速機の油圧制御装置から作動油圧が油室116に供給されると、ピストン113がリターンスプリング115の付勢力に抗して摩擦部材120に向けて(係合方向に)移動され、最終的に摩擦部材120が完全係合状態となる。逆に、油室116の作動油圧が排出されると、ピストン113がリターンスプリング115の付勢力によって摩擦部材120から離れる方向(解放方向)に移動され、最終的に摩擦部材120が完全解放状態(図10に示す状態)となる。なお、この実施形態において、ピストン113のストロークが終了して、トルク伝達が開始される直前の状態に維持できる油圧のことをピストンストロークエンド圧と呼称する。
なお、上述したシリンダ111、ピストン113から形成される油室116、リターンスプリング115から油圧サーボが構成されている。
ピストンストロークエンド圧測定装置130は、摩擦係合要素であるクラッチのピストンストロークエンド圧をクラッチアセンブリ状態で測定する測定装置である。この測定装置130は、油室116に気体である空気(エア圧)を供給してピストン113を加圧するエア供給ユニット131と、摩擦部材120の押圧状態を検出するための押圧状態検出ユニット132と、エア供給ユニット131および押圧状態検出ユニット132を駆動制御してピストン113への加圧値および押圧状態を検出する制御装置133を備えている。
エア供給ユニット131は、設置されたクラッチアセンブリ110に供給路134を介して連通している。エア供給ユニット131からのエア圧は、供給路134および油路112eを通って油室116に供給される。エア供給ユニット131は、クラッチアセンブリ110の油室116に供給されるエア圧(圧力)を調整することができるものであり、制御装置133の指令に応じたエア圧(圧力)を供給することができる。エア供給ユニット131は、クラッチアセンブリ110の油室116に供給されるエア圧(圧力)を検出するエア圧(圧力)センサ131aを内蔵しており、検出したエア圧(圧力)を制御装置133に送信している。
押圧状態検出ユニット132は、押圧状態として荷重(力)を検出するものであり、本体132aと、本体132aに進退自在に取り付けられたロッド132bと、ロッド132bの先端に取り付けられた荷重センサ(例えばロードセル)132cを備えている。本体132aは測定装置130の本体に固定されており、ロッド132bを駆動させる駆動機構を備えている。駆動機構は駆動源であるモータ(例えばステッピングモータ)を有しており、ロッド132bを所定の移動量ずつ移動させるとともに停止したその位置に位置決めが可能である。荷重センサ132cは、摩擦部材120の一側に当接して他側から押圧されている摩擦部材120の荷重を検出するものであり、その検出結果を制御装置133に送信している。
なお、本実施形態においては、押圧状態として荷重を検出するようにし、押圧状態検出手段として荷重センサ132cを使用したが、これに限らず、摩擦部材120の押圧状態を示す他の物理量を検出するようにし、押圧状態検出手段としてその物理量を検出するセンサを使用するようにしてもよい。例えば、摩擦部材120の移動状態(移動量)を検出するようにし、押圧状態検出手段としてストロークセンサを使用するようにすればよい。
制御装置133は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図11のフローチャートに対応したプログラムを実行して、クラッチアセンブリ110のピストンストロークエンド圧を測定する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものであり、測定したピストンストロークエンド圧を記憶するものである。
次に、このように構成したピストンストロークエンド圧測定装置130の作動について図11のフローチャートに沿って説明する。以下に説明するピストンストロークエンド圧の測定は自動変速機の組立後に行う試運転(例えば完成品検査)前にクラッチアセンブリ状態で実施される。クラッチアセンブリ110がピストンストロークエンド圧測定装置130に設置された後、図示しないスタートスイッチがオンされると、制御装置133は、ステップ300にてプログラムを起動しプログラムをステップ302に進める。
まず、制御装置133は、荷重センサ132cの0点(零点)出しを実行する。制御装置133は、ステップ302において、時刻t31からエア供給ユニット131からピストン113へのエア圧の供給を開始して、0点出しが完了するまでエア圧P[kPa]を所定圧aに維持するように指示する。これにより、ピストン113が所定圧にて加圧され、リターンスプリング115の付勢力に抗して摩擦部材120(キャンセルプレート114)に向けて移動して摩擦部材120に当接する。そして、摩擦部材120が他側がわから押圧される一方で摩擦部材120の一側がわが抜け止め部材112dに当接して移動が規制される。その後、リターンスプリング115の付勢力とバランスがとれると、その位置で停止する。
次に、制御装置133は、時刻t32にて第1位置P1にある荷重センサ132cの送りを開始する。すなわち、制御装置133は、ステップ304において、押圧状態検出ユニット132を作動させてロッド132bの摩擦部材120に向けての移動を開始する。なお、第1位置P1は、荷重センサ132cの初期位置であり、アセンブリ状態で設置位置に固定された摩擦部材120から離れた位置である。
このように移動中の荷重センサ132cが時刻t33にて摩擦部材120に当接すると、それ以降、他側(図10にて左側)がピストン113に当接して位置決めされている摩擦部材120が荷重センサ132cに押圧されるので、荷重センサ132cによって検出される荷重が荷重センサ132cの移動に伴って上昇する。
制御装置133は、ステップ306において、時刻t32にて荷重センサ132cによる荷重の測定を開始する。荷重がb[N]未満であれば、「NO」と判定しステップ306の処理を繰り返し実行する。荷重がb[N]となった時点で「YES」と判定し、プログラムをステップ308に進める。これにより、時刻t34にて荷重センサ132cによって検出された荷重(ロードセル荷重)が第2所定状態である所定値bを越えると(に到達すると)、制御装置133は、ステップ308において、その時点で押圧状態検出ユニット132を作動させて荷重センサ132cの移動を停止して荷重センサ132cの送りを停止し、その停止位置を基準位置P2として荷重センサ132cを位置決め固定する。この基準位置P2は、抜け止め部材112dより図10にて左方向に若干突出した位置である。
その後、制御装置133はピストン113を元の位置に戻す。具体的には、制御装置133は、ステップ310において、エア供給ユニット131を作動させてエア圧を排気することにより、ピストン113に加えられているエア圧を0に減圧する(時刻t35)。これにより、油室116が減圧されるので、ピストン113はリターンスプリング115の付勢力により押圧されて第2ドラム112bの底部112b1の内壁面に当接した位置(元の位置)に戻される。したがって、摩擦部材120と当接していたピストン113は摩擦部材120から離れることになる。
次に、制御装置133は荷重センサ132cを測定位置P3に送る。すなわち、制御装置133は、基準位置P2に位置決めされている荷重センサ132cを摩擦部材120に向けてさらに所定量cだけ移動させ、その位置を測定位置P3として位置決め固定する。具体的には、制御装置133は、ステップ312において、押圧状態検出ユニット132を作動させてロッド132bの摩擦部材120に向けての移動を開始する(時刻t36)。制御装置133は、ステップ314において、荷重センサ132cの送り量を検出し、送り量がc[mm]となったか否かを判定する。送り量cは、抜け止め部材112dより荷重センサ132cの先端が突出するように設定されている。送り量がc[mm]未満であれば、「NO」と判定しステップ314の処理を繰り返し実行する。送り量がc[mm]となった時点で「YES」と判定し、プログラムをステップ316に進める。なお、荷重センサ132cの送り量は、ロッド132bの送り量を検出することにより検出している。ロッド132bの送り量は、押圧状態検出ユニット132に内蔵されたストロークセンサによって検出されたり、押圧状態検出ユニット132のモータの回転数を検出しその検出結果に基づいて算出したりしている。制御装置133は、ステップ316において、押圧状態検出ユニット132を作動させてロッド132bの摩擦部材120に向けての移動を停止して(送りを終了して)位置決め固定する(時刻t37)。これにより、摩擦部材120の一側を測定位置P3に位置決め固定した荷重センサ132cで支持することができる。
次に、制御装置133は、時刻t37から所定時間だけ経過した時刻t38になると、ピストン113の慣らし運転(素振り運転)を実行する。具体的には、制御装置133は、ステップ318において、エア供給ユニット131からのエア圧の給排(オン/オフ)を所定の短時間周期T31で複数回(本実施形態においては5回)繰り返し実行する。これにより、ピストン113を加減圧して往復動させ、これにより、ピストン113がスムーズに摺動することを確実に確保することができるので、この後実施するピストンストロークエンド圧の本測定を確実かつ正確に実施することができる。
制御装置133は、引き続いてピストンストロークエンド圧の本測定を開始する(時刻t39)。具体的には、制御装置133は、時刻t39から時刻t40までの間において、エア供給ユニット131を作動させてエア供給ユニット131からピストン113へのエア圧を所定圧eとなるように指示し維持する(ステップ320)。なお、所定圧eは所定圧aより小さい値、かつピストン113の移動量が送り量cより小さい値となるように設定されており、本実施形態においてはa/2に設定されている。これにより、ピストン113を摩擦部材120により接近させることができるので、ピストンストロークエンド圧の本測定の測定時間を短縮することができる。
制御装置133は、時刻t40から時刻t42までの間において、エア供給ユニット131からピストン113へのエア圧を所定の傾きで増圧するように指示する(ステップ322、328)。なお、所定の傾きは、所定圧fと所定圧eの差(f−e)を時刻t40と時刻t42の時間差kで除した値である。所定圧fは所定圧eより大きい値、かつ押圧状態が確実かつ短時間で測定できる値に設定されている。これにより、ピストン113は摩擦部材120に向けて徐々に移動する。ピストン113が時刻t41にて摩擦部材120の他側に当接すると、摩擦部材120が荷重センサ132cに押圧されるので、荷重センサ132cによって検出される荷重がピストン113の移動に伴って上昇する。
一方、制御装置133は、時刻t40から時刻t42までの間において、荷重センサ132cにより荷重を測定する(ステップ324)。荷重が第1所定状態である所定圧0[N]以下であれば、「NO」と判定しステップ324の処理を繰り返し実行する。荷重が0[N]より大きくなった時点で「YES」と判定し、プログラムをステップ326に進める。これにより、時刻t41にて荷重センサ132cによって検出された荷重(ロードセル荷重)が第1所定状態である所定値0を越えると、制御装置133は、ステップ326において、その時点のピストン113への加圧値Ppeをピストンストロークエンド圧として測定し、記憶する。
制御装置133は、測定した後もエア圧の所定の傾きでの増圧を続ける一方で、ステップ328において、エア圧が所定圧fに到達したか否かを判定する。エア圧がf[kPa]未満であれば、「NO」と判定しステップ328の処理を繰り返し実行する。エア圧がf[kPa]となった時点で「YES」と判定し、プログラムをステップ330に進める。これにより、時刻t42にてエア圧がf[kPa]を越えると(に到達すると)、制御装置133は、ステップ330において、エア圧供給ユニット131を作動させてエア圧の供給を停止する。その後、制御装置133はプログラムをステップ332に進めて本フローチャートを終了する。
上述した説明から明らかなように、本他の実施形態によれば、摩擦係合要素であるクラッチアセンブリ110を構成する摩擦部材120の一側を該摩擦部材120の押圧状態を検出する押圧状態検出手段である荷重センサ132cで支持し、クラッチアセンブリ110を構成するピストン113を加圧してこのピストン113で摩擦部材120の他側から押圧し、荷重センサ132cによって検出した押圧状態である荷重が第1所定状態である所定圧0を越えると、その時点のピストン113への加圧値Ppeをピストンストロークエンド圧として測定する。これにより、自動変速機を構成する摩擦係合要素のピストンストロークエンド圧をアセンブリ状態で短時間かつ的確に測定することができる。したがって、従来のように大型な測定装置を使用して一連の検査の一環としてピストンストロークエンド圧を検査するのではなく、摩擦係合要素のピストンストロークエンド圧をアセンブリでその項目のみ検査するので、摩擦係合要素をアセンブリで検査する小型な測定装置を使用して全体として短時間で実施することができる。これにより、製造設備にかかるコストを抑制しつつ短時間かつ正確に多数の自動変速機のピストンストロークエンド圧を測定することができる。
さらに、摩擦係合要素のオフセットピストンストロークエンド圧測定方法およびその装置の他の実施形態について図面を参照して説明する。図13および図14は、クラッチアセンブリおよび自動変速機のオフセットピストンストロークエンド圧測定装置を示す概要図である。図15は、図13および図14に示す測定装置の制御装置で実行されるフローチャートであり、図16は、図13に示す測定装置の動作を示すタイムチャートである。なお、本実施形態におけるクラッチは、自動変速機において所定の変速段を達成するために係脱可能とされるクラッチに用いられると好適とされる。
図13および図14に示すクラッチアセンブリ110は、前述したクラッチアセンブリ110と同様に構成されている。同一構成部材については同一符号を付してその説明を省略する。なお、摩擦部材120に関して補足説明をする。
摩擦部材120は、摩擦部材120の一方側(図13にて右側)の第1ドラム112aの外周部112a2の内周面に摺動可能にスプライン係合されて、摩擦部材120の一側に当接可能であるフランジ123を備えている。摩擦部材120は、摩擦部材120の他方側(図13にて左側)の第1ドラム112aの外周部112a2の内周面に摺動可能にスプライン係合されて、摩擦部材120の他側に当接可能であるフランジ124を備えている。この摩擦部材120は軸方向に摺動可能である。摩擦部材120は、摩擦部材120の一側(図13にて右側)の第1ドラム112aの外周部112a2に固定されている抜け防止部材(例えばスナップリング)112dによって抜けないようになっている。なお、摩擦部材120の他側(図13にて左側)は、フリーである。これにより、油圧(圧力)が供給されてピストン113がフランジ124を押圧して摩擦部材120を押圧すると、摩擦部材120の一側のフランジ123が抜け防止部材112dに当接し、摩擦部材120を構成するフランジ124、アウタクラッチプレート121、インナクラッチプレート122およびフランジ123が圧接され、ドラム112とハブ125が駆動連結される。
次に、オフセットピストンストロークエンド圧測定装置230について説明する。まず、ピストンストロークエンド圧とは、ピストン113のストロークが終了して、トルク伝達が開始される直前の状態に維持できる油圧のことである。また、オフセットピストンストロークエンド圧とは、ピストンストロークエンド圧が発生する位置から、ピストン113を解放方向(図13および図14において左方向)に所定量だけ戻した位置(ポイント)での油圧のことをいう。オフセットピストンストロークエンド圧は、ピストンストロークエンド圧と相関のある値であり、ピストン113の押圧による抜け防止部材112dのしなり等の影響を受けないように設定された値である。
また、ピストンストロークエンド圧および電流−油圧特性から、実機でのピストンストロークエンド圧における実電流値を下記数5から算出する。
(数5)
実電流値=f(基準バルブボディ圧+差ピストンストロークエンド圧)
関数f(x)は電流−油圧特性を示す関数である。基準バルブボディ圧は、バルブボディのマスター(基本モデル)のバルブボディ圧である。バルブボディ圧は、バルブボディから摩擦係合要素に出力される油圧のことである。差ピストンストロークエンド圧は、下記数6から算出されるものである。
実測ピストンストロークエンド圧は、実際に測定したピストンストロークエンド圧のことを言っている。実測ピストンストロークエンド圧の代わりに推定して導出したピストンストロークエンド圧を使用するようにしてもよい。基準ピストンストロークエンド圧は、クラッチアセンブリのマスター(基本モデル)のピストンストロークエンド圧である。
上述した差ピストンストロークエンド圧は、ピストンストロークエンド圧と基準ピストンストロークエンド圧との差以外に、オフセットピストンストロークエンド圧とオフセット基準ピストンストロークエンド圧との差によって規定することができる。したがって、差ピストンストロークエンド圧は下記数7から算出される。
実測オフセットピストンストロークエンド圧は、後述するように実際に測定したオフセットピストンストロークエンド圧のことを言っている。オフセット基準ピストンストロークエンド圧は、経験値に基づいて決定される理想ピストンストロークエンド圧が発生する位置から、ピストン113を解放方向(図13および図14において左方向)に所定量だけ戻した位置(ポイント)での油圧のことをいう。
なお、上述したように、ピストンストロークエンド圧と基準ピストンストロークエンド圧との差と、オフセットピストンストロークエンド圧とオフセット基準ピストンストロークエンド圧との差が同一となるのは、次の理由による。マスターのクラッチアセンブリと測定する実際のクラッチアセンブリとにおいてはピストン113と摩擦部材120との隙間はバラツキがあり、そのバラツキが差ピストンストロークエンド圧の誤差となり、ピストン113と摩擦部材120との隙間が異なっても、後述する測長センサのストロークの変化率は同一であるからである。
このようなオフセットピストンストロークエンド圧を測定するオフセットピストンストロークエンド圧測定装置230は、摩擦係合要素であるクラッチのオフセットピストンストロークエンド圧をクラッチアセンブリ状態で測定する測定装置である。この測定装置230は、摩擦係合要素であるクラッチ110をクラッチアセンブリ状態で設置するための設置台230aと、油室116に気体である空気(エア圧)を供給してピストン113を加圧するエア供給ユニット231と、摩擦部材120の一方側の側面すなわちフランジ123に連動可能に取り付けられて摩擦部材120の一方側の側面の移動量を検出する移動量検出手段である測長センサ232と、エア供給ユニット231および測長センサ232を駆動制御してピストン113への加圧値および摩擦部材120の一方側の側面の移動量すなわち測長センサ232のストローク量を検出する制御装置233を備えている。
エア供給ユニット231は、設置されたクラッチアセンブリ110に供給路234を介して連通している。エア供給ユニット231からのエア圧は、供給路234および油路112eを通って油室116に供給される。エア供給ユニット231は、クラッチアセンブリ10の油室116に供給されるエア圧(圧力)を調整することができるものであり、制御装置233の指令に応じたエア圧(圧力)を供給することができる。エア供給ユニット231は、クラッチアセンブリ110の油室116に供給されるエア圧(圧力)を検出するエア圧(圧力)センサ231aを内蔵しており、検出したエア圧(圧力)を制御装置233に送信している。
測長センサ232は、摩擦部材120の一方側の側面(フランジ123)に当接されて摩擦部材120の一方側の側面(フランジ123)の移動量、すなわち測長センサ232のストローク量を検出するものであり、本体232aと、本体232aに進退自在に取り付けられたロッド232bとを備えている。測長センサ232は、磁気抵抗センサ式の測長センサであり、ロッド232bが突出するように付勢されている。測長センサ232が検出したストローク量は、制御装置233に送信されている。
制御装置233は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図15のフローチャートに対応したプログラムを実行して、クラッチアセンブリ110のオフセットピストンストロークエンド圧を測定する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数(オフセットピストンストロークエンド圧など)を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
次に、このように構成したオフセットピストンストロークエンド圧測定装置230の作動について図15および図16を参照して説明する。以下に説明するオフセットピストンストロークエンド圧の測定は自動変速機の組立後に行う試運転(例えば完成品検査)前にクラッチアセンブリ状態(摩擦係合要素アセンブリ状態である)で実施される。クラッチアセンブリ110をオフセットピストンストロークエンド圧測定装置230の設置台230aに設置する。その後、必要に応じて所定量の重り(図示しない)をセットする。重りはアウタクラッチプレート121、インナクラッチプレート122のうねりをなくすために摩擦部材120に摺動方向から付与する荷重である。このように摩擦部材20に摺動方向から荷重を付与する(荷重付与手段)ことにより、アウタクラッチプレート21、インナクラッチプレート22のうねりがなくなり、両プレート間の隙間がなくなって、オフセットピストンストロークエンド圧をよりピストンストロークエンド圧に近い状態で測定できるようになる。
その後、図示しないスタートスイッチがオンされると、制御装置233は、ステップ400にてプログラムを起動しプログラムをステップ402に進める。制御装置233は、ステップ402において、時刻t51から時刻t52の間においてピストン113の慣らし運転(素振り運転)を実行する。具体的には、制御装置233は、エア供給ユニット231からのエア圧の給排(オン/オフ)を所定の短時間周期T51で複数回(本実施形態においては4回)繰り返し実行する。これにより、ピストン113を0から所定圧bbまでの加減圧を繰り返して往復動させて摩擦部材120の一側(フランジ123)を複数回だけ抜け防止部材112dに当接させる。したがって、ピストン113がスムーズに摺動することを確実に確保することができるので、この後実施するオフセットピストンストロークエンド圧の本測定を確実かつ正確に実施することができる。なお、所定圧bbは所定圧ccと同一のエア圧とされている。
制御装置233は、引き続いて測長センサ232の0(零)点出しを行う(時刻t52)。具体的には、制御装置233は、時刻t52から時刻t53までの間において、エア供給ユニット231を作動させてエア供給ユニット231からピストン113へのエア圧を所定圧ccとなるように指示し維持する(ステップ404)。所定圧ccは、摩擦部材120の一側(フランジ123)が抜け防止部材112dに当接して押圧し、抜け防止部材112dが撓った状態となるのに十分な圧力に設定されている。これにより、制御装置233は、ピストン113を移動させて摩擦部材120を抜け防止部材112dに当接させて押圧させて、抜け防止部材112dが撓った状態となる測長センサ232の検出した移動量を0(零)に設定する。すなわち、摩擦部材120が抜け防止部材112dに当接して押圧する位置を、測長センサ232(移動量検出手段)によって検出される移動量の基準点として設定する。
次に、制御装置233は、時刻t53から時刻t54の間において、エア供給ユニット231を作動させてエア供給ユニット231からピストン113へのエア圧を0(零)となるように指示し維持する(ステップ406)。
そして、制御装置233は、時刻t54から時刻t55の間において、エア供給ユニット231を作動させてエア供給ユニット231からピストン113へのエア圧をddとなるように指示し維持する(ステップ408)。なお、所定圧ddは所定圧ccより小さい値、かつ摩擦部材120を移動させない値に設定されており、本実施形態においてはcc/2に設定されている。また、所定圧ddは一律の値でなくクラッチアセンブリ毎に異なる値に設定される。
制御装置233は、時刻t55から時刻t57までの間において、エア供給ユニット231からピストン113へのエア圧を所定の傾きで増圧するように指示する(ステップ410〜416)。なお、所定の傾きは、所定圧eeと所定圧ddの差(ee−dd)を時刻t55と時刻t57の時間差mで除した値である。所定圧eeは所定圧ddより大きい値に設定されている。これにより、ピストン113は摩擦部材120を係合方向に向けて徐々に移動する。これに伴って、測長センサ232によって検出されるストロークは基準点(0)に近づいていく。
一方、制御装置233は、時刻t55から時刻t57までの間において、測長センサ232によりストローク(移動量)を測定する(ステップ412)。ストローク(移動量)が基準点の所定距離(本実施形態においては、aa[mm])だけ手前に設定された判定移動量(本実施形態においては、aa[mm])未満であれば、「NO」と判定しステップ412の処理を繰り返し実行する。ストローク(移動量)が判定移動量以上となった時点で「YES」と判定し、プログラムをステップ414に進める。これにより、時刻t56にて測長センサ232によって検出されたストロークが判定移動量以上となると、制御装置233は、ステップ414において、その時点のピストン113への加圧値Popeをオフセットピストンストロークエンド圧として測定し、記憶する。判定移動量は、抜け防止部材112dの撓りの影響を受けない値であって、基準点にできるだけ近い値に設定されている。
すなわち、制御装置233は、基準点を設定した後、ピストン113を減圧して他方側(図13および図14において左側)に一旦戻し、その後再び、ピストン113を加圧して一方側(図13および図14において右側)へ移動させ、測長センサ232によって検出される移動量が判定移動量となった時点のピストン113への加圧値をオフセットピストンストロークエンド圧として測定する。なお、ステップ406においてピストン113へのエア圧を0(零)にすることなく、所定圧ccから直接所定圧ddとなるようにしてもよい。
制御装置233は、オフセットピストンストロークエンド圧を測定した後もエア圧の所定の傾きでの増圧を続ける一方側で、ステップ416において、エア圧が所定圧eeに到達したか否かを判定する。エア圧がee[kPa]未満であれば、「NO」と判定しステップ416の処理を繰り返し実行する。エア圧がee[kPa]となった時点で「YES」と判定し、プログラムをステップ418に進める。これにより、時刻t57にてエア圧がee[kPa]を越えると(に到達すると)、制御装置233は、ステップ418において、エア圧供給ユニット231を作動させてエア圧の供給を停止する。その後、制御装置233はプログラムをステップ420に進めて本フローチャートを終了する。
上述した説明から明らかなように、本他の実施形態による自動変速機のオフセットピストンストロークエンド圧測定方法によれば、摩擦部材120の一方側の側面の移動量を検出し、ピストン113を加圧して摩擦部材120を一方側へ押圧することで、摩擦部材120の一方側の側面が抜け防止部材112dに当接する位置を移動量の基準点(零点)として設定し、移動量検出手段(測長センサ)132によって検出された移動量が基準点より他方側へ向けて所定距離だけ離れた位置に設定された判定移動量となった時点のピストンへの加圧値を測定する。これにより、自動変速機を構成する摩擦係合要素のピストン113への加圧値(例えばオフセットピストンストロークエンド圧)を摩擦係合要素アセンブリ状態で測定することができる。したがって、ピストン113への加圧値の測定において、従来のように大型な自動変速機完成品の測定装置を使用することなく、これと比較して小型な測定装置を使用することができるので、製造設備にかかるコストを抑制しつつ自動変速機の製造工程全体の検査処理能力を向上することができる。また、ピストン113への加圧値をピストンストロークエンド状態付近における抜け防止部材112dの撓りなどの影響を受けることなく正確に測定することができる。さらに、ピストン113への加圧値を摩擦係合要素アセンブリ状態で短時間に測定することができるので、その測定工程において検査処理能力を向上することができる。
上述した説明から明らかなように、本実施形態によれば、摩擦係合要素であるクラッチの特性(ピストンストロークエンド圧)および油圧制御バルブ21の特性(電流−油圧特性)の両方を自動変速機10の組立完成前にクラッチアセンブリ状態で予め測定し、そして、自動変速機10の組立完成後に行う検査例えば完成品検査において、クラッチアセンブリ状態で予め測定した摩擦係合要素の特性および油圧制御バルブ21の特性の両方に基づいて導出(設定)された待機指令油圧を摩擦係合要素の油圧サーボに供給し、その後、摩擦係合要素のトルク伝達の程度を表す所定パラメータである差回転DNを所定範囲(−Nst以上であり+Nst以下の範囲)内に収めるように摩擦係合要素への供給油圧を待機指令油圧から調整しながら制御指令値の補正値を測定する。これにより、摩擦係合要素に待機指令油圧が供給されている待機状態において、従来のような各要因のバラツキの影響を受けて摩擦係合要素が完全係合または完全解放することなく、摩擦係合要素の適当なスリップ状態を形成することができる。したがって、その後その適当なスリップ状態から所定パラメータである差回転DNが所定範囲内に収束する安定したスリップ状態に到達するまでの時間を短縮することができるので、自動変速機の完成品検査に必要となる時間を短縮することができる。
また、摩擦係合要素の特性は、摩擦部材がトルク伝達を開始する直前の状態とされる油圧であるピストンストロークエンド圧であり、油圧制御バルブの特性は電流−油圧特性であるので、摩擦係合要素および油圧制御バルブの各特性を容易かつ正確に測定することができる。
また、摩擦係合要素への供給油圧を目標所定範囲内に収めるようにPID制御によって調整しながら補正値を測定するので、摩擦係合要素への供給油圧を確実かつ正確に調整し、ひいては補正値を確実かつ正確に測定することができる。
また、自動変速機10は摩擦係合要素の入力側に連設されたトルクコンバータ12を備え、トルクコンバータ12の入力回転数Ntinおよびタービン回転数Ntoutの差回転DNが所定範囲内で安定した場合に補正値を測定するので、補正値を確実に測定することができる。
また、差回転DNが所定範囲内で安定している状態が所定の安定時間T3を越えて継続した場合に、摩擦係合要素への供給油圧の安定時間T3内の平均値を補正値として測定するので、正確な補正値を取得することができる。
また、自動変速機10の組立完成後に行う検査例えば完成品検査において、待機指令油圧導出手段(ステップ110,112)が、自動変速機10の組立完成前にクラッチアセンブリ状態で予め測定された摩擦係合要素の特性および油圧制御バルブの特性のうち少なくとも何れか一方を記憶する記憶手段に記憶されている摩擦係合要素の特性および油圧制御バルブの特性のうち少なくとも何れか一方に基づいて待機指令油圧を導出(設定)し、待機指令油圧供給手段(ステップ114〜118)が、油路充填指令油圧より小さい待機指令油圧を摩擦係合要素の油圧サーボに供給し、補正値測定手段(ステップ120〜134)が、待機指令油圧供給手段が待機指令油圧を摩擦係合要素に供給した後、摩擦係合要素のトルク伝達の程度を表す所定パラメータである差回転DNを所定範囲(−Nst以上であり+Nst以下の範囲)内に収めるように摩擦係合要素への供給油圧を待機指令油圧から調整しながら制御指令値の補正値を測定する。これにより、摩擦係合要素に待機指令油圧が供給されている待機状態において、従来のような各要因のバラツキの影響を受けて摩擦係合要素が完全係合または完全解放することなく、摩擦係合要素の適当なスリップ状態を形成することができる。したがって、その後その適当なスリップ状態から所定パラメータ差回転DNが所定範囲内に収束する安定したスリップ状態に到達するまでの時間を短縮することができるので、自動変速機の完成品検査に必要となる時間を短縮することができる。
また、油圧制御バルブからの油圧により係合・解放される摩擦係合要素を備えた自動変速機において、上述した自動変速機の補正値測定方法によって測定された補正値を記憶し、記憶した該補正値に基づいて摩擦係合要素への制御指令値を導出し、導出された該制御指令値に応じて油圧制御バルブを制御する。したがって、出荷初期から自動変速機の個体毎の特性バラツキをより短時間で補正することができ、実走行による学習促進を待つことなく、良好な変速品質を得ることができる。
また、油圧制御バルブからの油圧により係合・解放される摩擦係合要素を備えた自動変速機において、記憶手段が、上述した自動変速機の補正値測定方法または自動変速機の補正値測定装置によって測定された補正値を記憶し、導出手段が、記憶手段に記憶されている補正値に基づいて摩擦係合要素への制御指令値を導出し、制御手段が、導出手段によって導出された制御指令値に応じて油圧制御バルブを制御する。したがって、出荷初期から自動変速機の個体毎の特性バラツキをより短時間で補正することができ、実走行による学習促進を待つことなく、良好な変速品質を得ることができる。
なお、上述した実施形態においては、摩擦係合要素の特性をピストンストロークエンド圧とし、油圧制御バルブの特性を電流−油圧特性としたが、これに限らず、他の特性に基づいて待機指令油圧を導出するようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては、ピストンストロークエンド圧と電流−油圧特性の両方を予め測定し、その測定結果に基づいて待機指令油圧を導出したが、いずれか一方のみを測定し、その測定結果に基づいて待機指令油圧を導出するようにしてもよい。この場合、測定していない方の特性として理想値を使用すればよい。これによっても、摩擦係合要素に待機指令油圧が供給されている待機状態において、従来のような各要因のバラツキの影響を受けて摩擦係合要素が完全係合または完全解放することなく、摩擦係合要素の適当なスリップ状態を形成することができる。したがって、その後その適当なスリップ状態から所定パラメータである差回転DNが所定範囲内に収束する安定したスリップ状態に到達するまでの時間を短縮することができるので、自動変速機の完成品検査に必要となる時間を短縮することができる。
10…自動変速機、11…ケーシング、12…トルクコンバータ、12a,12b…回転センサ、13…入力軸、14…プラネタリギヤトレーン、15…出力軸、21…バルブボディ、22…制御装置、30…自動変速機の補正値測定装置、31…駆動源(例えば電動モータ)、32…制御装置、33…記憶装置、40…クラッチアセンブリ、41…駆動力伝達元、42…ピストン、43…アウタクラッチプレート、44…駆動力伝達元、45…インナクラッチプレート、46…キャンセルプレート、47…リターンスプリング、48…油室、50…クラッチアセンブリのピストンストロークエンド圧測定装置、51…固定具、52…駆動ユニット、53…油圧制御ユニット、54…制御装置、60…バルブボディの電流−油圧特性測定装置、61…油圧制御ユニット、62…制御装置、110…クラッチアセンブリ、111…シリンダ、112…ドラム、113…ピストン、114…キャンセルプレート、115…リターンスプリング、112a…第1ドラム、112b…第2ドラム、112d…抜け止め部材、113a…内周端部、113b…外周端部、113b1…環状筒部、117a,117b,117c…シール部材、117d…切欠、116…油室、112e,112f…油路、113c…押圧部、120…摩擦部材、121…アウタクラッチプレート、122…インナクラッチプレート、123,124…フランジ、114a…内周端部、114b…外周端部、117e…抜け止め部材、118…キャンセル油室、130…ピストンストロークエンド圧測定装置、131…エア供給ユニット、132…押圧状態検出ユニット、133…制御装置、230…オフセットピストンストロークエンド圧測定装置、231…エア供給ユニット、232…測長センサ、233…制御装置。