しかしながら、上記特許文献2に開示されたエンジンの冷却装置は、冷却水が上記ウォータジャケットバイパス通路を流通するときに、ラジエータバイパス通路やキャビンヒータ通路に冷却水が全く流れないように構成されているわけではない。すなわち、特許文献2に係る冷却装置は、冷間時にはウォータジャケットバイパス通路内の電磁弁を開くだけであって、ラジエータバイパス通路及びキャビンヒータ通路を閉じているわけではない。そして、ウォータジャケットバイパス通路の流路抵抗が、ラジエータバイパス通路又はキャビンヒータ通路の流路抵抗よりも小さいために、ほとんどの冷却水がウォータジャケットバイパス通路を流通するように構成されたものである。つまり、ウォータポンプからの冷却水の突出圧が高くなると、冷却水がウォータジャケットバイパス通路だけでなく、ラジエータバイパス通路やキャビンヒータ通路に流通する可能性がある。上述のとおり、エンジンを早期に暖機するためには、ラジエータ通路は当然のこと、ラジエータバイパス通路やキャビンヒータ通路にも冷却水を流通させないことが好ましい。特に、キャビンヒータがオンのときに冷却水がキャビンヒータ通路を流れると、冷却水に熱量が車室内の温度上昇に用いられるため、エンジンの早期暖機を妨げることになる。また、水温が低い冷間時にはキャビンヒータに冷却水を流してもキャビンヒータからは冷風が送風されるだけで乗員は不快感を感じるため、むしろキャビンヒータへの冷却水の流通を停止すると共にエンジンを早期に暖機することにより、キャビンヒータから早く温風を送風できるようにした方が暖房機能としてもより好ましい。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、冷間時にはウォータジャケットに流通する冷却水の流量を抑制し且つキャビンヒータ通路へ冷却水が流通しないようにしてエンジンの暖機性能を向上させることにある。
本発明は、冷却水にウォータジャケットをショートカットさせるウォータジャケットバイパス通路を設けると共に、冷間時においては、冷却水がウォータジャケットバイパス通路を流通するようにし且つ、冷却水がキャビンヒータ通路を流通することを防止することによって暖機性能を向上させるようにしたものである。また、このとき冷却水の水圧が上昇した場合には、冷却水がラジエータバイパス通路を流通するようにして冷却水の水圧の過度の上昇を防止しするようにしている。
第1の発明は、シリンダブロック及びシリンダヘッドに形成されたウォータジャケットと、途中にラジエータが介設されたラジエータ通路とを含み、ウォータポンプから、該ウォータジャケットと該ラジエータ通路とを介して該ウォータポンプへ戻る冷却水循環通路と、上記冷却水循環通路の途中に設けられ、該ラジエータをバイパスするラジエータバイパス通路と、上記ラジエータ通路と並列に設けられ、途中にキャビンヒータユニットが介設されたキャビンヒータ通路と、冷却水温度が所定の第1温度未満のときに上記ラジエータ通路を閉じるサーモスタット弁と、を備えたエンジンの冷却装置が対象である。
そして、上流端が上記ウォータジャケットの上流側に接続される一方、下流端が上記キャビンヒータ通路における上記キャビンヒータユニットよりも下流側を構成するキャビンヒータリターン通路に合流接続され、該ウォータジャケットをショートカットするウォータジャケットバイパス通路と、上記キャビンヒータリターン通路と上記ウォータジャケットバイパス通路との合流部に設けられ、冷却水温度が上記所定の第1温度よりも低い所定の第2温度未満のときに上記キャビンヒータ通路を閉じ且つ上記ウォータジャケットバイパス通路を開く一方、冷却水温度が該所定の第2温度以上のときに該キャビンヒータ通路を開き且つ該ウォータジャケットバイパス通路を閉じる温度制御弁と、上記ラジエータバイパス通路に設けられ、冷却水の水圧が所定の水圧以上となったときに該ラジエータバイパス通路を開く圧力リリーフ弁と、をさらに備えているものとする。
上記の構成の場合、冷却水の温度経過に従って説明すると、冷却水温度が上記所定の第2温度未満のときは、上記サーモスタット弁により上記ラジエータ通路が閉じられると共に、上記温度制御弁により上記キャビンヒータ通路を閉じ且つ上記ウォータジャケットバイパス通路を開くことによって、冷却水はラジエータ通路及びキャビンヒータ通路には流れず、ウォータジャケットバイパス通路を流通する。また、冷却水の水圧が上記所定の水圧未満のときには上記圧力リリーフ弁が閉じているため、冷却水はラジエータバイパス通路にも流れない。この結果、冷却水温度が所定の第2温度未満であって且つ冷却水の水圧が上記所定の水圧未満のときには、冷却水の熱量がラジエータにより放熱されること、冷却水の熱量がキャビンヒータによる車室内の暖めに用いられること、及びラジエータバイパス通路流通中に冷却水の熱量が外部に漏れてしまうことを防止することができる。さらに、冷却水は上記ウォータジャケットバイパス通路を流通することにより、上記ウォータジャケット内を流通する冷却水の流量を減少させてエンジンの暖機を早期に行うことができる。
ここで、ラジエータ通路、キャビンヒータ通路及びラジエータバイパス通路を完全に閉じてしまうと、冷却水の水圧が上昇した場合に、各通路を構成するホース類が抜ける虞がある。そこで、本発明では、冷却水の水圧が上昇して上記所定の水圧以上となると、上記ラジエータバイパス通路を閉じていた圧力リリーフ弁が開いてラジエータバイパス通路にも冷却水を流通させる。その結果、冷却水の水圧が高くなり過ぎることを防止して、冷却水の水圧上昇に伴う各通路を構成するホース類の抜けを防止することができる。また、この圧力リリーフ弁は、ラジエータバイパス通路に設けられているため、冷却水の水圧を低下させるべく圧力リリーフ弁を開いても、冷却水が流通する通路はラジエータバイパス通路であり、冷却水の熱量がラジエータにより放熱されたり、キャビンヒータにより車室内の暖めに用いられたりすることがなく、冷却水の温度低下を可及的に抑制することができる。
次に、冷却水温度が上記所定の第2温度以上且つ所定の第1温度未満のときは、上記サーモスタット弁により上記ラジエータ通路が閉じられると共に、上記温度制御弁により上記キャビンヒータ通路を開き且つ上記ウォータジャケットバイパス通路を閉じることによって、冷却水はラジエータ通路及びウォータジャケットバイパス通路には流れず、キャビンヒータ通路を流通する。この結果、冷却水温度が上記所定の第2温度以上且つ所定の第1温度未満のときには、冷却水の熱量をラジエータにより放熱することなく、キャビンヒータによる車室内の温度上昇と、シリンダヘッド及びシリンダブロック等の暖機に用いることによって、車室内の暖めとエンジンの暖機とを早期に行うことができる。
続いて、冷却水温度が上記所定の第1温度以上のときには、上記サーモスタット弁により上記ラジエータ通路が開けられると共に、上記温度制御弁により上記キャビンヒータ通路を開き且つ上記ウォータジャケットバイパス通路を閉じることによって、冷却水はウォータジャケットバイパス通路には流れず、ラジエータ通路及びキャビンヒータ通路を流通する。この結果、冷却水温度が上記所定の第1温度以上のときには、冷却水の熱量を、キャビンヒータにより車室内を暖めることに用いると共に、冷却水を介してラジエータで放熱することによって、車室内の暖めとエンジンの冷却とを行うことができる。
すなわち、上記所定の第2温度は、車室内の暖めよりもエンジンの暖機を優先すべき温度、上記所定の第1温度は、エンジンを暖機する必要がなく、冷却水又はエンジンの冷却を行ったほうがよい温度に設定するとよい。
したがって、上記キャビンヒータリターン通路とウォータジャケットバイパス通路との合流点に上記温度制御弁を、上記ラジエータ通路にはサーモスタット弁を、上記ラジエータバイパス通路には圧力リリーフ弁を、それぞれ設けることによって、冷却水温度が上記所定の第2温度未満のときには、冷却水に上記ウォータジャケットをショートカットさせると共にキャビンヒータ通路へ冷却水が流通することを防止して、エンジンを早期に暖機することができる。また、このとき、冷却水の水圧が上記所定の水圧以上となると、上記圧力リリーフ弁が開いて冷却水が上記ラジエータバイパス通路へ流れるため、冷却水の水圧が上昇しすぎることを防止することができ、その結果、各通路を構成するホース類の抜けを防止することができる。さらに、本発明は、ウォータポンプからの冷却水の吐出量を制御することによりエンジンの早期暖機を実現するのではなく、冷却水の流通路を冷却水温度に応じて替えることによってエンジンの早期暖機を実現しているため、機械駆動式のウォータポンプを採用することができ、冷却装置の低コスト化を図ることができる。
第2の発明は、第1の発明において、上記ラジエータ通路と上記キャビンヒータ通路と並列に設けられ、エンジンに吸気を導入する吸気通路の壁内を介して冷却水を流通させる吸気系冷却水通路をさらに備え、上記吸気系冷却水通路には、冷間時に冷却水を昇温させる冷却水加熱装置及び冷却水とオイルとの間で熱交換を行う油水熱交換器の少なくとも1つが配設されているものとする。
上記の構成の場合、上記吸気系冷却水通路は、冷却水の温度にかかわらず、冷却水が流通する。そのため、該吸気系冷却水通路に設けられた冷却水加熱装置及び/又は油水熱交換器には、ウォータポンプが作動する限り冷却水が流れている。よって、冷間時には冷却水加熱装置によって冷却水を加熱してエンジンの暖機を早期に行うことができ、また、油水熱交換器によって冷間時には冷却水の熱量でオイルを暖める一方、温間時には冷却水によりオイルを冷却することができる。
第3の発明は、第1又は2の発明において、上記シリンダブロック前部の一側には、上記ウォータポンプのウォータポンプハウジングが形成されており、上記シリンダブロック前部の他側の側壁には、上記温度制御弁の取付座が形成されており、上記キャビンヒータリターン通路は、上記温度制御弁よりも上流側のキャビンヒータリターン通路上流部と、該温度制御弁よりも下流側のキャビンヒータリターン通路下流部とを有しており、上記キャビンヒータリターン通路下流部は、上記シリンダブロック前部において、上流端が上記取付座の下部に開口する一方、下流端が上記ウォータポンプハウジングに連通するように該シリンダブロック内に形成されており、上記ウォータジャケットバイパス通路は、上記シリンダブロック前部において、上流端が上記ウォータジャケットの上流側に接続される一方、下流端が上記取付座の上部に開口するように該シリンダブロック内に形成されているものとする。
そして、上記温度制御弁は、上記取付座に取り付けられると共に上記キャビンヒータリターン通路と上記ウォータジャケットバイパス通路と上記キャビンヒータリターン通路上流部とにそれぞれ連通する温度制御弁ハウジングと、該温度制御弁ハウジング内に設けられると共に上下に摺動可能であって、上記キャビンヒータリターン通路上流部と上記キャビンヒータリターン通路下流部とを連通させる状態と、上記ウォータジャケットバイパス通路と上記キャビンヒータリターン通路下流部とを連通させる状態とを切換可能な通路切替弁体と、該通路切替弁体を温度に応じて上下動させる感温体を有している。
上記の構成の場合、上記ウォータジャケットバイパス通路とキャビンヒータリターン通路下流部とをシリンダブロックに内蔵すると共に、該ウォータジャケットバイパス通路の下流端とキャビンヒータリターン通路下流部の上流端とがそれぞれ上記取付部に開口するように形成されているため、該キャビンヒータリターン通路と該ウォータジャケットバイパス通路と上記キャビンヒータリターン通路上流部とにそれぞれ連通する温度制御弁ハウジングを該取付座に取り付けることによって、上記温度制御弁を上記キャビンヒータリターン通路と上記ウォータジャケットバイパス通路との合流部に配置することができる。つまり、上記温度制御弁の配置及び取り付けを容易に行うことができる。また、上記温度制御弁を上記感温体によって作動するサーモスタット方式とすることによって、冷却水温度に応じたキャビンヒータ通路とウォータジャケットバイパス通路との切替を、電磁弁等を電気的に制御して行う必要がなく、低コストで実現することができる。
第4の発明は、第3の発明において、上記シリンダブロック前部における上記ウォータポンプハウジングが形成される一側の側壁には、上記ウォータポンプと連通すると共に上記サーモスタット弁を内蔵するサーモスタットハウジングが形成されており、上記ラジエータ通路の下流端は、上記サーモスタットハウジングに対してパイプ接続されており、上記ラジエータバイパス通路は、シリンダブロックの上記一側の側壁内に形成されると共に、サーモスタットハウジングのシリンダブロック内方側に開口しており、上記サーモスタット弁は、上記ラジエータバイパス通路の開口の開閉を行う圧力リリーフ弁と一体に構成されているものとする。
上記の構成の場合、上記ラジエータバイパス通路のシリンダブロックの側壁内に形成することによって、冷却水の水圧が上昇して該ラジエータバイパス通路に冷却水が流通しても、該冷却水からラジエータバイパス通路の通路壁へ伝達する熱量は外気ではなく、シリンダブロックへ伝導するため、冷却水の熱量が外部へ放熱されることを可及的に抑制してエンジンを早期に暖機することができる。また、ラジエータバイパス通路をシリンダブロックの側壁内に形成することによって、ラジエータバイパス通路をエンジン本体に対して外部に配管することによる煩雑さを解消することができると共に、通路長を短縮することができる。さらに、サーモスタット弁と圧力リリーフ弁とを一体に構成すると共に、サーモスタットハウジングにラジエータ通路及びラジエータバイパス通路がそれぞれ接続されているため、これらの通路配置が容易となると共に、サーモスタット弁及び圧力リリーフ弁の組み付け作業性を向上させることができる。
上記本発明によれば、上記キャビンヒータリターン通路とウォータジャケットバイパス通路との合流点に冷却水温度が所定の第2温度未満のときに上記キャビンヒータ通路を閉じ且つ上記ウォータジャケットバイパス通路を開く温度制御弁を、上記ラジエータ通路には冷却水温度が該所定の第2温度よりも高い所定の第1温度未満のときに上記ラジエータ通路を閉じるサーモスタット弁を、上記ラジエータバイパス通路には冷却水の水圧が所定の水圧以上となったときに該ラジエータバイパス通路を開く圧力リリーフ弁を、それぞれ設けることによって、冷却水温度が上記所定の第2温度未満のときには、冷却水に上記ウォータジャケットをショートカットさせると共にキャビンヒータ通路へ冷却水が流通することを防止して、エンジンを早期に暖機することができる。また、このとき、冷却水の水圧が上記所定の水圧以上となると、上記圧力リリーフ弁が開いて冷却水が上記ラジエータバイパス通路へ流れるため、上記ラジエータ通路及びキャビンヒータ通路を閉じていても冷却水の水圧が上昇しすぎることを防止することができ、その結果、各通路を構成するホース類の抜けを防止することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るエンジンEの冷却装置の概略構成を示し、符号1は、アルミニウム合金製のシリンダヘッド2及びシリンダブロック3からなるエンジン本体であり、符号51は、エンジンEの車両前方に設けられエンジンEの冷却水を冷却するラジエータであり、符号52は、エンジンEの車両後方に設けられ車室内を暖めるためのキャビンヒータ52である。尚、このエンジンEは、4つのシリンダ19(シリンダブロック3に設けられている)が、クランク軸が延びる方向に直列に配設された直列4気筒ガソリンエンジンである。
このエンジンEは、上記4つのシリンダ19の並ぶシリンダ列方向、即ちクランク軸の延びる方向が、図示しない車両の車幅方向に略一致するよう、車両のエンジンルームに横置きに搭載されるものである。すなわち、図1における下側が車両の前側に、また上側が車両の後側に、左側が車両の右側に、右側が車両の左側にそれぞれ対応している。尚、図1及び後述の図7〜9においては、説明の便宜上、エンジン本体1のみ車両前方から見た図となっている。また、この明細書では、上記エンジンEの長手方向、即ちクランク軸の軸線の方向をエンジンEの前後方向とし、このクランク軸の出力端側(図1の右側)をエンジンEの後側と呼ぶ一方、その反対側(図1の左側)をエンジンEの前側と呼ぶ、また、エンジンEの後側から前側を見て、右側をエンジンEの右側と呼び、その反対側をエンジンEの左側と呼ぶものとする。
上記エンジン本体1の内部には、各シリンダ19を囲むようにウォータジャケットwが形成されていて、シリンダヘッド2の後側面にウォータジャケットwの冷却水出口部24が形成されていると共に、シリンダブロック3の前端部にはウォータジャケットwのバイパス入口部31が形成されている。シリンダヘッド2の冷却水出口部24に対応する部分には、冷却水を排出するためのウォータアウトレット部材6が取り付けられている。また、シリンダブロック3の前側面にウォータポンプ41が配置されている。さらに、シリンダブロック3の左側面にはサーモスタットハウジング43が配置される。さらにまた、シリンダブロック3の右側面には温度制御弁7が配置される。この温度制御弁7は、シリンダブロック3の右側面において、最前部のシリンダ19の右側方に対応する位置に形成された取付座32(図2参照)に取り付けられている。
エンジンEにおける冷却水の流通について概略を図1を用いて説明すると、上記ウォータポンプ41から供給される冷却水は、シリンダブロック3の前端部からウォータジャケットwに導入され、以下の5つの流通路のうち何れかを通って再びウォータポンプ41へ戻る。冷却水がウォータポンプ41まで戻る流通路としては、ウォータジャケットw内を流れた後、上記ラジエータ51を経由するラジエータ通路81と、ウォータジャケットw内を流れた後、上記キャビンヒータ52を経由するキャビンヒータ通路82と、ウォータジャケットw内を流れた後、スロットルボディ35、エンジンオイルウォーマ・クーラ37及び電気ヒータ39を経由するISC通路83と、ウォータジャケットw内を流れた後、上記ラジエータ51をバイパスするラジエータバイパス通路84と、上記ウォータジャケットwをショートカットするウォータジャケットバイパス通路85とが設けられいる。
上記ラジエータ通路81は、上記ウォータアウトレット部材6とラジエータ51とを接続するラジエータホース81aと、該ラジエータ51と、該ラジエータとサーモスタットハウジング43とを接続するラジエータリターンホース81bとから構成され、ウォータアウトレット部材6及びサーモスタットハウジング43を介して、ウォータジャケットwの冷却水出口部24とウォータポンプ41とを接続する。そして、ウォータポンプ41から、ウォータジャケットw及びラジエータ通路81とを介して、再びウォータポンプ41へ戻る通路が、冷却水循環通路を構成する。
上記キャビンヒータ通路82は、上記ウォータアウトレット部材6とキャビンヒータ52とを接続するキャビンヒータホース82aと、該キャビンヒータ52と、該キャビンヒータ52と上記温度制御弁7とを接続するキャビンヒータリターンホース82bと、上記シリンダブロック3内に形成され該温度制御弁7とウォータポンプ41とを接続するキャビンヒータリターン通路下流部82c(図1、7〜9においては、説明の便宜上、シリンダブロック3の外部に配置している)とから構成され、ウォータアウトレット部材6及び温度制御弁7を介して、ウォータジャケットwの冷却水出口部24とウォータポンプ41とを接続する。このキャビンヒータリターンホース82bがキャビンヒータリターン通路上流部を構成し、キャビンヒータリターンホース82bとキャビンヒータリターン通路下流部82cとでキャビンヒータリターン通路を構成する。
上記ISC通路83は、上記ウォータアウトレット部材6とスロットルボディ35とを接続する第1ISCホース83aと、該スロットルボディ35と、該スロットルボディ35とエンジンオイルウォーマ・クーラ37とを接続する第2ISCホース83bと、該エンジンオイルウォーマ・クーラ37と、該エンジンオイルウォーマ・クーラ37と電気ヒータ39とを接続する第3ISCホース83cと、該電気ヒータ39と、該電気ヒータ39とサーモスタットハウジング43とを接続するISCリターンホース83dとから構成され、ウォータアウトレット部材6及びサーモスタットハウジング43を介して、ウォータジャケットwの冷却水出口部24とウォータポンプ41とを接続する。このISC通路83が、吸気系冷却水通路を構成する。また、ISC通路83を構成する各ISCホース83a、83b、83cは、ラジエータ通路81を構成するラジエータホース81aやキャビンヒータ通路82を構成するキャビンヒータホース82a等と比較すると、小径となっており、このISC通路83へ流れる冷却水の流量は少量となっている。
上記ラジエータバイパス通路84は、上記シリンダブロック3内に形成され、上記冷却水出口部24とサーモスタットハウジング43とを接続する。
上記ウォータジャケットバイパス通路85は、上記シリンダブロック3内に形成され、上記ウォータジャケットwのバイパス入口部31とキャビンヒータリターン通路下流部82cとを接続しており、ウォータジャケットバイパス通路85とキャビンヒータリターン通路下流部82cとの合流点には温度制御弁7が設けられている。
上記シリンダブロック3は、図2に示すように、クランク軸Xを通る水平面で上下に分割された、所謂ラダーフレーム構造となっている。このシリンダブロック3には、シリンダ19、19、…を側方から覆うようにウォータジャケットwが形成されている。さらに詳しくは、ウォータジャケットwは、4つのシリンダ19、19、…のエンジン左側のシリンダ壁に略沿って屈曲しながら最前部のシリンダ19から最後部のシリンダ19に亘って気筒列方向に延びた後、最後部のシリンダ19の後側のシリンダ壁に略沿ってエンジン右側まで湾曲して、さらに、4つのシリンダ19、19、…のエンジン右側のシリンダ壁に略沿って屈曲しながら最後部のシリンダ19から最前部のシリンダ19に亘って気筒列方向に延びた後、最前部のシリンダ19の前側のシリンダ壁に略沿ってエンジン左側へ湾曲して、エンジン左側のウォータジャケットと連通している。すなわち、ウォータジャケットwは、4つのシリンダ19、19、…を一塊としてその外周を環状に覆うように形成されており、このシリンダブロック3は、相隣接するシリンダ19、19間(ボア間)にはウォータジャケットが形成されていない、所謂サイアミーズタイプのものとなっている。また、ウォータジャケットwの深さは、シリンダブロック3の上面からシリンダブロック3の高さ方向略中央位置(下死点の位置に相当する)までとなっている(図4参照)。そして、ウォータジャケットwは、図示は省略するが、その前端部において上記ウォータポンプ41と連通していて、このウォータポンプ41により該前端部からウォータジャケットw内に冷却水が供給される。
このシリンダブロック3の上部にはシリンダヘッド2が取り付けられる。シリンダヘッド2には、燃焼室天井部によってシリンダ19、19、…を上方から閉塞すると共に、その燃焼室天井部の上部を覆うようにウォータジャケットwが形成されている。また、シリンダヘッド2の後端部には、ウォータジャケットwから冷却水を排出する冷却水出口部24が形成されており、この冷却水出口部24はシリンダヘッド2の後端面に開口している。そして、シリンダヘッド2の後側壁部2cの冷却水出口部24の開口に対応する位置には、冷却水をウォータジャケットwから外部に排出するためのウォータアウトレット部材6が取り付けられている。
上記ウォータポンプ41は、図2、3に示す、シリンダブロック3の前側壁部3aの上部且つ左側の部位においてエンジン幅方向外方に向かって膨出するように形成されたウォータポンプハウジング41aに取り付けられている。このウォータポンプ41は、その吐出口がシリンダブロック3に形成された上記ウォータジャケットwの前端部と接続されている。一方、ウォータポンプ41の吸込口41bは、図3に示すように、ウォータポンプハウジング41aにおいてエンジン後側に凹陥するように形成されていて、その後端は上記サーモスタットハウジング43に開口している。また、ウォータポンプ41の吸込口41bには、後述するキャビンヒータリターン通路下流部82cが接続されている。つまり、ウォータポンプ41は、サーモスタットハウジング43及びキャビンヒータリターン通路下流部82cから供給される冷却水を吸い込み、シリンダブロック3に形成されたウォータジャケットwへ吐出する。このウォータポンプ41は、図示は省略するが、エンジンEの前側に配設されたクランクシャフトに駆動連結されていて、クランクシャフトによって駆動される。つまり、ウォータポンプ41は、機械駆動式のウォータポンプである。
また、シリンダブロック3の左側壁部3bの上部且つ前側の部位には、図3に示すように、上記サーモスタットハウジング43が設けられている。このサーモスタットハウジング43は、上記シリンダブロック3の左側壁部3bにエンジン幅方向内方に凹陥して設けられ、上記ウォータポンプ41の吸込口41bに連通する収納部43aと、取付フランジ43b(図1参照)を有するサーモスタット弁43c(図1参照)とからなり、上記収納部43aの開口に取付フランジ43bが取り付けられることによって、サーモスタット弁43cが収納部43a内に内蔵されて構成される。上記サーモスタットハウジング43は、左側壁部3b内から収納部43aの底部に開口したバイパス流入ポート43dと、上記取付フランジ43bから外方に突出するISC流入ポート43e及びラジエータ流入ポート43fの2つのポートとを有していて、合計3つの流入ポートを有している。
上記サーモスタット弁43cは、例えばワックス型であって、冷却水温度が所定の第1温度(本実施形態では95℃)未満のときにはワックスが収縮してスプリングの付勢力により、弁体がスプリングの軸方向に移動して上記ラジエータ流入ポート43fを閉じる(図1に示す状態)。一方、冷却水温度が所定の第1温度以上になると、ワックスの膨張によって弁体がスプリングの軸方向に移動して上記ラジエータ流入ポート43fを開く(図9参照)。こうして上記サーモスタット弁43cは、冷却水温度に応じて上記ラジエータ流入ポート43fの開閉を行う。また、このサーモスタット弁43cには、圧力リリーフ弁43gが一体的に設けられている。この圧力リリーフ弁43gは、バイパス流入ポート43dに配置されていて、冷却水の水圧が所定の水圧以上となるとバイパス流入ポート43dを開く一方、冷却水の水圧が所定の水圧未満のときはバイパス流入ポート43dを閉じる。こうして圧力リリーフ弁43gは、冷却水の水圧に応じてバイパス流入ポート43dの開閉を行う。尚、ISC流入ポート43eには開閉弁がなく、常にウォータポンプ41に連通した状態となっている。
上記ラジエータバイパス通路84は、図3にその一部を示すように、シリンダブロック3の左側壁部3b内に形成されている。詳しくは、その上流端がシリンダヘッド2の冷却水出口部24に開口していて、その中間部がシリンダブロック3の左側壁部3b内において該冷却水出口部24からシリンダブロック3の上下方向略中央位置まで鉛直下向きに延びた後、シリンダブロック3の後端部から前端部へ向かって気筒列方向に延び、その下流端が上記サーモスタットハウジング43の収納部43aの底部に開口して上記バイパス流入ポート43dを形成している。
また、シリンダブロック3の前側壁部3a内の上下方向略中間位置には、図3及び4に示すように、上記キャビンヒータリターン通路下流部82cが形成されている(図4では一部のみ示す)。このキャビンヒータリターン通路下流部82cは、その下流端が上記ウォータポンプ41の吸込口41bに連通する一方、その上流端が上記温度制御弁7の取付座32の下部に開口してリターン開口部32aを形成するように構成されている。詳しくは、キャビンヒータリターン通路下流部82cは、シリンダブロック3の前側壁部3aの右側面からエンジン幅方向に延びて上記ウォータポンプ41の吸込口41bまで貫通する穿孔82dと、上記取付座32からエンジン幅方向内方に向かって設けられた穿孔82eと、シリンダブロック3の前側壁部3aの前側面からエンジン後側且つ右側へ向かって斜めに延びて該穿孔82dを貫通して該穿孔82eに開口する穿孔82fとから構成される。尚、穿孔82dの前側壁部3aの右側面における開口及び穿孔82fの前側壁部3aの前側面における開口は、それぞれプラグにより閉止されている。こうして、冷却水を取付座32のリターン開口部32aから穿孔82e、穿孔82f及び穿孔82dを順に介してウォータポンプ41へ導くキャビンヒータリターン通路下流部82cが形成される。
さらに、シリンダブロック3の右側壁部3cの前側の部位には、図4及び5に示すように、上記ウォータジャケットバイパス通路85が形成されている。このウォータジャケットバイパス通路85は、その上流端が上記ウォータジャケットwの最前部のシリンダ19の右側方の位置に形成されたバイパス入口部31に接続され、エンジン幅方向外方に延びて、その下流端が上記温度制御弁7の取付座32の上部に開口して、バイパス開口部32bを形成するように構成されている。
このように、シリンダブロック3の前部には、上下方向略中間位置にキャビンヒータリターン通路下流部82cが、該通路82cよりも上方にウォータジャケットバイパス通路85が形成されている。
温度制御弁7は、図2に示すように、キャビンヒータリターンホース82bが接続されると共に、上記取付座32に取り付けられ且つ、上記リターン開口部32a及びバイパス開口部32bと連通するハウジング71と、該ハウジング71内に設けられるガイド部材72と、該ガイド部材72内で上下に摺動可能であって、上記キャビンヒータリターンホース82bと上記リターン開口部32aとを連通させるキャビンヒータリターン通路連通状態と上記バイパス開口部32bと上記リターン開口部32aとを連通させるウォータジャケットバイパス通路連通状態とを切替可能な通路切替弁体73と、該通路切替弁体73を下向きに付勢する付勢ばね74(図2では省略、図6にのみ図示)と、該通路切替弁体73を温度に応じて上下動させる感温式作動部75(図2では省略、図6にのみ図示)とから構成される。上記ハウジング71及びガイド部材72とによって温度制御弁ハウジングを構成する。
上記ハウジング71は、図2及び4に示すように、上下方向に延びる筒形状であって上方に開口した本体部71aと、ボルト71c、71cにより該本体部71aの上部に取り付けられて、該本体部71aの開口を上方から閉塞する蓋部71bとからなる。また、ハウジング71は、エンジン内方側には該ハウジング71を上記シリンダブロック3の取付座32に取り付ける際に該取付座32と当接する取付面71d(図4参照)を有する一方、エンジン外方側にはキャビンヒータリターンホース82bを接続し且つ、ハウジング71内に開口するホース接続部71eが形成されている。また、取付面71dには、上記取付座32の下部に形成されたリターン開口部32aと連通するハウジング側リターン開口部71fと、該取付座32の上部に形成されたバイパス開口部32bと連通するハウジング側バイパス開口部71gとが形成されている。このように、ハウジング71には、ホース接続部71eよりも上側にハウジング側バイパス開口部71gが、ホース接続部71eよりも下側にハウジング側バイパス開口部71gが形成されている。
上記ガイド部材72は、図2及び4に示すように、上記ハウジング71内に収容される筒形状をしていて、上から順に上側小径部72a、上側大径部72b、中央小径部72c、下側大径部72d、下側小径部72e及び感温式作動部設置部72fが形成されている。上側大径部72b及び下側大径部72dの外径は、ハウジング71の本体部71aの内径と一致しており、上側小径部72a、中央小径部72c及び下側小径部72eの外径は、ハウジング71の本体部71aの内径よりも小さくなっている。また、ガイド部材72の内周は、上側小径部72aから下側大径部72dに亘り一様であって、上記通路切替弁体73の外周と一致する。さらに、上側小径部72aには、該上側小径部72aの内外を連通させる複数の連通孔72h、72h、…が形成されており、中央小径部72cには、該中央小径部72cの内外を連通させる複数の連通孔72i、72i、…が形成されており、下側小径部72eには、図示は省略するが、該下側小径部72eの内外を連通させる複数の連通孔72j、72j、…が形成されている。そして、ガイド部材72がハウジング71内に収容された際には、上下方向において、上側大径部72bがハウジング側バイパス開口部71gとホース接続部71eの開口との間の位置に位置して本体部71aの内周面と当接すると共に、下側大径部72dはホース接続部71eの開口とハウジング側リターン開口部71fとの間の位置に位置して本体部71aの内周面と当接する。また、上下方向において、ハウジング側バイパス開口部71gに対応する位置に上側小径部72aが、ホース接続部71eに対応する位置に中央小径部72cが、ハウジング側リターン開口部71fに対応する位置に下側小径部72eが位置するようになる。つまり、ハウジング側バイパス開口部71g、ホース接続部71e及びハウジング側リターン開口部71fは、それぞれ上側小径部72aに形成された連通孔72h、72h、…、中央小径部72cに形成された連通孔72i、72i、…及び下側小径部72eに形成された連通孔72j、72j、…を介してガイド部材72の内部と連通している。
上記通路切替弁体73は、図2及び4に示すように、上下に開口した筒形状をしており、その外径は、上述の通り、ガイド部材72の上側小径部72aから下側大径部72dに亘る内径と一致する。また、通路切替弁体73の全長は、ガイド部材72の上側大径部72bの上端から下側大径部72dの下端に至るまでの長さに相当する。さらに、通路切替弁体73の内部には、図2及び4においては省略するが、上記付勢ばね74の一端を支持し且つ上記感温式作動部75が連結される連結部73b(図6参照)が形成されている。そして、通路切替弁体73には、その上端から上下方向に所定距離だけ離れた位置に通路切替弁体73の内外を連通させる複数の連通孔73a、73a、…が形成されている。この所定距離は、通路切替弁体73がその上端部で上記ガイド部材72の上側小径部72aに形成された連通孔72h、72h、…を塞ぐ位置に位置するときに、ガイド部材72の中央小径部72cに形成された連通孔72i、72i、…の下流端と連通する距離に設定されている。つまり、通路切替弁体73の上端が上側小径部72aの連通孔72h、72h、…よりも低い位置に位置するときには、該連通孔72h、72h、…は通路切替弁体73の上部開口を介して通路切替弁体73内部と連通し且つ中央小径部72cの連通孔72i、72i、…は通路切替弁体73の壁面で閉塞される。一方、通路切替弁体73の連通孔73a、73a、…が中央小径部72cの連通孔72i、72i、…と連通する位置に位置するときには、該連通孔72i、72i、…は通路切替弁体73の連通孔73a、73a、…を介して通路切替弁体73内部と連通し且つ上側小径部72aの連通孔72h、72h、…は通路切替弁体73の壁面で閉塞される。このとき、通路切替弁体73の下部開口は、常に、ガイド部材72の下側小径部72eに形成された連通孔72j、72j、…とハウジング71のハウジング側リターン開口部71fとを介して取付座32のリターン開口部32aと連通している。
上記付勢ばね74は、図6に示すように、上記通路切替弁体73の連結部73bと上記ハウジング71の蓋部71bとの間に配設され、通路切替弁体73を下方に付勢している。
上記感温式作動部75は、感温体としてのワックスが収納されたワックス収納部75aと、一端がワックス収納部75a内に内蔵される一方、他端が上記通路切替弁体73の連結部73bと連結されるロッド部材75bとからなる。この感温式作動部75は、冷却水温度が所定の第2温度(本実施形態では40℃)未満のときにはワックスが収縮することによりロッド部材75bを介して通路切替弁体73を下方に移動させる一方、冷却水温度が所定の第2温度以上になるとワックスが膨張することによりロッド部材75bを介して通路切替弁体73を上記付勢ばね74の付勢力に抗して上方に移動させる。
このように構成された温度制御弁7の動作について、図6に示す模式図を用いて説明する。尚、図6においては、上記ガイド部材72は、ハウジング71と一体的に表されている。
冷却水温度が所定の第2温度未満のときには、(a)図に示すように、付勢ばね74及び感温式作動部75によって通路切替弁体73の上端がガイド部材72の連通孔72hよりも下方に位置するように通路切替弁体73を移動させる。このとき、ガイド部材72の連通孔72iは通路切替弁体73の壁面によって閉塞される。こうして、ウォータジャケットバイパス通路85とキャビンヒータリターン通路下流部82cとを連通させ且つキャビンヒータ通路82(キャビンヒータリターン通路上流部)を閉じる。
一方、冷却水温度が所定の第2温度以上のときには、(b)図に示すように、付勢ばね74及び感温式作動部75によって通路切替弁体73の連通孔73aとガイド部材72の連通孔72iとが連通するように通路切替弁体73を移動させる。このとき、ガイド部材72の連通孔72hは通路切替弁体73の壁面によって閉塞される。こうして、ウォータジャケットバイパス通路85を閉じ且つキャビンヒータリターンホース82bとキャビンヒータリターン通路下流部82cとを連通させる、即ち、キャビンヒータ通路82を開く。
上記スロットルボディ35(図1参照)は、図示は省略するが、上記シリンダヘッド2に設けられた吸気マニホールドに接続される吸気パイプに配設されていて、吸気パイプ内のスロットルバルブを開閉させることによって吸気パイプから吸気マニホールド内へ導入される吸気の量を調節する。このスロットルボディ35は、吸気パイプ、吸気マニホールド等と共に吸気通路を構成する。スロットルボディ35は、その壁内に冷却水通路を形成して冷却水を流通させることによって、寒冷地等において極低温の吸気によりスロットルバルブが吸気パイプと凍結してしまうことを防止している。
上記エンジンオイルウォーマ・クーラ37(図1参照)は、冷却水とエンジンオイルとの間で熱交換を行うものであって、冷間時には冷却水がエンジンオイルを暖める一方、温間時には冷却水がエンジンオイルを冷却する役割を果たす。つまり、冷間時においては、冷却水の方がエンジンオイルよりも先に温度が上昇するため、冷却水からエンジンオイルへ熱量が移動して、エンジンオイルが暖められる。一方、温間時には、冷却水の温度は、ラジエータにより略一定の温度に維持されるが、エンジンオイルの温度はエンジン本体1からの熱量等により上昇し続けるため、エンジンオイルから冷却水へ熱量が移動して、エンジンオイルが冷却される。このエンジンオイルウォーマ・クーラ37が油水熱交換器を構成する。エンジンオイルウォーマ・クーラ37は、図示は省略するが、オイルホース及びオイルリターンホースが接続されると共に、エンジンオイルウォーマ・クーラ37の内部には冷却水通路が形成され、エンジンオイルウォーマ・クーラ37の内部を冷却水が流通するように構成されている。
上記電気ヒータ39は、冷間時に冷却水を加熱させる役割を有し、ISC通路83内に設けられた電熱体により冷却水を直接加熱する。この電気ヒータ39は、冷却水加熱装置を構成する。
上記のように構成されたエンジンEの冷却装置の冷却水の流れを冷却水の温度経過に従って説明する。
冷却水温度が所定の第2温度(40℃)未満の場合には、図1に示すように、温度制御弁7がキャビンヒータ通路82を閉じ且つウォータジャケットバイパス通路85を開くと共に、サーモスタットハウジング43のサーモスタット弁43cがラジエータ通路81を閉じる。この結果、ウォータポンプ41からウォータジャケットwへ供給された冷却水は、ウォータジャケットwをパイパスするウォータジャケットバイパス通路85と、ウォータジャケットw及びISC通路83とを流通してウォータポンプ41へ戻る。ここで、ウォータポンプ41からウォータジャケットバイパス通路85を介して再度ウォータポンプ41へ戻る通路の方が、ウォータジャケットw及びISC通路83(スロットルボディ35内、エンジンオイルウォーマ・クーラ37内の冷却水通路内を流通する必要がある)を介して再度ウォータポンプ41へ戻る通路よりも流路抵抗が小さいため、ウォータポンプ41から吐出された冷却水の大部分はウォータジャケットバイパス通路85へ流れる。つまり、冷却水の大部分はウォータジャケットwを流通しないため、エンジンEの暖機が促進される。ただし、少量の冷却水は、常時、ウォータジャケットwを流れてISC通路83へ流通するため、局所的に高温となる部分(例えば、シリンダヘッド2における点火プラグユニット周りの部分等)の温度が上昇し過ぎることを防止することができると共に、スロットルボディ35内のスロットルバルブの凍結防止、エンジンオイルの暖め及び電気ヒータ39による冷却水の暖めを常時行うことができる。ここで、エンジンオイルウォーマ・クーラ37及び電気ヒータ39についてさらに説明すると、エンジンオイルウォーマ・クーラ37は、かかる冷間時には、冷却水温度の方がエンジンオイルの温度よりも高いためウォーマとして機能してエンジンオイルを加熱する。また、電気ヒータ39は、冷却水を加熱すべくオンとなっている。尚、所定の第2温度は、本実施形態においては40℃に設定しているが、これに限られるものではなく、キャビンヒータ52による車室内の暖めよりもエンジンEの暖機を優先させるべき温度に設定するとよい。
このとき、冷却水の水圧が所定の水圧以上となると、図7に示すように、上記サーモスタットハウジング43の圧力リリーフ弁43gが開き、ラジエータバイパス通路84にも冷却水が流通するようになり、冷却水の水圧が低下する。
冷却水温度が所定の第2温度(40℃)以上且つ所定の第1温度未満(95℃)の場合には、図8に示すように、温度制御弁7がキャビンヒータ通路82を開く一方ウォータジャケットバイパス通路85を閉じると共に、サーモスタットハウジング43のサーモスタット弁43cがラジエータ通路81を閉じる。この結果、ウォータポンプ41からウォータジャケットwへ供給された冷却水は、ウォータジャケットwを流れてキャビンヒータ通路82と、ウォータジャケットwを流れてISC通路83とを流通してウォータポンプ41へ戻る。つまり、かかる場合は、エンジンEの暖機がある程度進み、キャビンヒータ52により車室内を暖めるのに十分な熱量が確保された場合である。このとき、冷却水がウォータジャケットwを流通する間にエンジン本体1から受け取った熱量は、まずキャビンヒータ52により車室内の暖めに用いられ、残りは外部に放熱されることなく冷却水が保持したままとなりエンジンEを暖機する。このとき、ISC通路83にも冷却水が流通するが、冷却水温度が所定の第2温度未満のときと同様に、エンジンオイルウォーマ・クーラ37はウォーマとして機能すると共に、電気ヒータ39はオンとなっている。尚、所定の第1温度は、本実施形態においては95℃に設定されているが、これに限られるものではなく、冷却水自体を冷却する必要がある温度、例えば、冷却水の沸点よりも低い温度に設定するとよい。
冷却水温度が所定の第1温度(95℃)以上の場合には、図9に示すように、温度制御弁7がキャビンヒータ通路82を開く一方ウォータジャケットバイパス通路85を閉じると共に、サーモスタットハウジング43のサーモスタット弁43cがラジエータ通路81を開く。この結果、ウォータポンプ41からウォータジャケットwへ供給された冷却水は、ウォータジャケットwから、キャビンヒータ通路82とラジエータ通路81とを流通してウォータポンプ41へ戻る。つまり、かかる場合は、冷却水が加熱され過ぎていて、冷却水自体の冷却が必要な場合である。このとき、冷却水ウォータジャケットwを流通する間にエンジン本体1から受け取った熱量は、ラジエータ51及びキャビンヒータ52により放熱されるため、冷却水が冷却され、その結果、エンジンEが冷却される。このとき、ISC通路83にも冷却水が流通するが、かかる温間時には、冷却水温度はラジエータ51により所定の第1温度近傍に収束するが、エンジンオイルの温度は該第1温度よりも高くなるため、エンジンオイルウォーマ・クーラ37はクーラとして機能してエンジンオイルを冷却水する。また、冷却水を加熱する必要がないため、電気ヒータ39はオフとなる。
したがって、上記エンジンEの冷却装置は、キャビンヒータリターンホース82bとキャビンヒータリターン通路下流部82cとウォータジャケットバイパス通路85との合流部に冷却水温度が所定の第2温度未満のときには該ウォータジャケットバイパス通路85とキャビンヒータリターン通路下流部82cとを連通させる一方、冷却水温度が所定の第2温度以上のときには該キャビンヒータリターンホース82bとキャビンヒータリターン通路下流部82cとを連通させる温度制御弁7を設けると共に、ラジエータ通路81及びラジエータバイパス通路84の下流端にサーモスタットハウジング43を設けて、そのラジエータ流入ポート43fには冷却水温度が所定の第1温度で開くサーモスタット弁43cを、そのバイパス流入ポート43dには冷却水の水圧が所定の水圧以上で開く圧力リリーフ弁43gを設けることによって、冷却水温度が所定の第2温度未満のとき、即ち、エンジンEの早期暖機が必要なときには、冷却水をウォータジャケットバイパス通路85に流通させることにより、冷却水がラジエータ通路81を流通することを防止するのは勿論のこと、冷却水がキャビンヒータ通路82やラジエータバイパス通路84を流通することも防止して、エンジンEを早期に暖機させることができる。このとき、エンジンの回転速度が速くなるとクランクシャフトに駆動連結されたウォータポンプ41の冷却水吐出量も増大する。そして、冷却水温度が所定の第2温度未満のときには、ウォータポンプ41に連通する流通路は、ISC通路83及びウォータジャケットバイパス通路85だけであるため、冷却水の水圧が上昇し過ぎる虞がある。ところが、上記エンジンEの冷却装置では、冷却水の水圧が所定の水圧以上となると、上記ラジエータバイパス通路84の下流端に設けられた圧力リリーフ弁43gが開き、冷却水がラジエータバイパス通路84にも流れることになり、冷却水の水圧が低下する。その結果、上記ラジエータホース81aを始めとする冷却水通路を構成する各ホース類が、冷却水の水圧上昇に伴って抜けることを防止することができる。また、圧力リリーフ弁43gが設けられているのはラジエータバイパス通路84であるため、冷却水の水圧が上昇して冷却水が該ラジエータバイパス通路84を流通したとしても、冷却水の熱量が外部に放熱されたり、車室内の暖めに用いられたりすることがなく、冷却水の熱量の減少を可及的に抑制することができる。
さらに、エンジンEの冷却装置は、各通路81〜85を上記の如く配置すると共に温度制御弁7、サーモスタット弁43c及び圧力リリーフ弁43gを設けることによって、冷却水温度に応じて冷却水の流通路を切り替えるため、冷却水温度に応じてウォータポンプ41から吐出する冷却水の流量を変える等の複雑な制御を行わなくても、エンジンEの早期暖機や冷却を実現することができる。このことは、クランクシャフトによって駆動されるウォータポンプ41のように、複雑な制御が難しい、機械駆動式のウォータポンプを採用するエンジンEの冷却装置にとって、特に有効であり、エンジンEの冷却装置の低コスト化を図ることができる。
また、上記エンジンEの冷却装置では、ラジエータ通路81及びキャビンヒータ通路82を閉じているときであっても、少量の冷却水が常時流通するISC通路83を設けることによって、エンジンEの早期暖機が必要な冷間時であっても、スロットルボディ35内のスロットルバルブが凍結、エンジンオイルウォーマ・クーラ37によるエンジンオイルの加熱・冷却及び電気ヒータ39による冷却水の加熱を行うことができる。
さらに、上記キャビンヒータリターン通路下流部82c及びウォータジャケットバイパス通路85をシリンダブロック3内に形成すると共に、上記取付座32にリターン開口部32a及びバイパス開口部32bを形成することによって、上記温度制御弁7の配置及び取り付け作業性を向上させることができる。また、上記ウォータジャケットwはシリンダブロック3の上端から上下方向略中央位置の深さまで形成されているため、取付座32においてバイパス開口部32bを上部に、リターン開口部32aを下部に形成することにより、ウォータジャケットバイパス通路85及びキャビンヒータリターン通路下流部82cのシリンダブロック3内における配置を容易に行うことができる。さらに、温度制御弁7は、冷却水温度により収縮・膨張するワックスを用いた感温式作動部75によって作動するため、冷却水温度に応じたキャビンヒータ通路82とウォータジャケットバイパス通路85との択一的な開閉制御を電磁弁等を用いることなく、低コストで実現することができる。尚、本実施形態のキャビンヒータリターン通路下流部82cを構成する穿孔82d〜82fのうち、シリンダブロック3の前側壁部3aの右側面からウォータポンプ41の吸込口41bまで貫通して形成される穿孔82dは、上記ウォータジャケットバイパス通路85を設けない場合には、その右側面の開口端にキャビンヒータリターンホース82bの接続部を設けることによって、キャビンヒータリターン通路下流部を構成することができる。つまり、エンジンEにウォータジャケットバイパス通路85を設ける場合には、該ウォータジャケットバイパス通路85を形成すると共に上記穿孔82e、82fを形成することによって、ウォータジャケットバイパス通路85を設けない場合のキャビンヒータリターン通路下流部を活かしつつ改造して、新たなキャビンヒータリターン通路下流部82cを容易に形成することができる。
さらにまた、冷却水の水圧が上昇したときに、水圧を低下させるべく、冷却水が流通するラジエータバイパス通路84は、シリンダブロック3内に形成されるため、冷却水の熱量が外部へ放熱されることを可及的に抑制して、エンジンEをより早期に暖機することができる。また、ラジエータバイパス通路84をシリンダブロック3の左側壁部3b内に形成することによって、ラジエータバイパス通路84をエンジン本体1に対して外部に配管することによる煩雑さを解消することができると共に、通路長を短縮することができる。さらに、サーモスタット弁43cと圧力リリーフ弁43gとを一体に構成すると共に、サーモスタットハウジング43にラジエータ通路81及びラジエータバイパス通路84がそれぞれ接続されているため、これらの通路配置が容易となると共に、サーモスタット弁43c及び圧力リリーフ弁43gの組み付け作業性を向上させることができる。
《その他の実施形態》
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。すなわち、上記実施形態では、油水熱交換器としてエンジンオイルウォーマ・クーラ37を採用しているが、これに限られるものではない。例えば、冷却水と自動変速機オイル(ATF)との間で熱交換を行うATFウォーマ・クーラであってもよく、エンジンオイルウォーマ・クーラ37とATFウォーマ・クーラとの両方を採用してもよい。