JP2006204110A - カルパスタチン遺伝子改変非ヒト動物およびその利用 - Google Patents

カルパスタチン遺伝子改変非ヒト動物およびその利用 Download PDF

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真人 樋口
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二郎 高野
Shigehiko Yoshii
成彦 吉井
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Abstract

【課題】神経病理学的状態に対するin vivoにおけるカルパインの関与の解明に役立つモデル動物およびその利用を提供すること。
【解決手段】カルパスタチンをコードする遺伝子を改変してなる非ヒト動物、その子孫動物、前記非ヒト動物を同種の他の疾患モデルと交配して得られる神経変性疾患モデル動物、前記非ヒト動物から得られる組織または細胞、ならびに前記動物を用いることを特徴とする神経変性疾患を改善する物質のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、カルパスタチン遺伝子改変非ヒト動物およびその利用に関し、詳しくは、カルパスタチンの発現調節によるカルパインの作用を介した様々な細胞事象の解明に役立つモデル動物およびその利用に関する。
興奮毒性の現象は、虚血および脊髄損傷などの外科的損傷により惹起される急性の細胞死のみならず、アルツハイマー病などの神経学的障害で生ずる慢性の神経変性にも関与する重要な病理学的プロセスに関連している(非特許文献1、2)。アルツハイマー病の病原論において興奮毒性の役割に関する最近の臨床学的知見は、グルタミン酸受容体ブロッカーであるメマンチンがアルツハイマー病患者の認知機能障害を緩和するという事実によって脚光を浴びた(非特許文献3)。興奮毒性による神経変性のメカニズムの解明は、急性および慢性の両神経障害の治療戦略の開発に寄与することが期待される。興奮毒性は、神経内カルシウム濃度の非生理学的上昇に最初に関与する。
カルパインは、カルシウム濃度の上昇によって活性化されることが知られている。神経細胞死におけるカルパインの関与は、虚血、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病を含む種々の神経病理学的状態に関わっている(非特許文献4、5、6)。例えば、短期虚血後の再灌流へのスナネズミ前脳の暴露は、時空的に特異的な様式で海馬でのカルパインの活性化を誘導し、海馬のCA1セクターでの遅延した神経死に至る(非特許文献7)。カルパインの基質として、細胞骨格タンパク質、キナーゼ、キナーゼ調節因子などが同定されているが(非特許文献8)、カルパインの作用、特にin vivoにおける作用の詳細なメカニズムは未だ解明されていない。その理由の1つとして、プロテアーゼの重複にある。カルパインはユビキタスに発現し、少なくとも2つの分子種、生化学的条件での活性化にそれぞれマイクロモルオーダーおよびミリモルオーダーのカルシウムを要求するμ−カルパインおよびm−カルパインが知られている(非特許文献9)。これらのアイソフォームのそれぞれは、互いに異なる80kDaの触媒サブユニットと同一の30kDaの調節サブユニットとからなるヘテロダイマーである。したがって、大きなサブユニットの構造がアイソフォームの生化学的特性を決定する。大および小サブユニットは両方とも多数のカルシウム結合部位を保持しており、2つのサブユニットは、カルシウムの存在下、おそらく力学的様式で相互作用していることが示唆される。これまで、m−カルパインよりむしろリン脂質の存在下でマイクロモル以下のレベルのカルシウムで活性化されうるμ−カルパイン(非特許文献10)が生理学的過程での主要な当事者であると信じられてきたが、逆遺伝的アプローチを用いる研究からの知見によって、m−カルパインの80kDaサブユニットの遺伝的欠損は一貫して致死的表現型となることがわかった。このように、カルパインのサブユニットの構成成分とカルパインアイソフォームの機能との関係は複雑であり、ニューロンを含む様々な細胞型でこれらのアイソフォームが共存する(非特許文献11)ことと相俟って、in vivoでカルパインの病理学的生理学的役割の取り組みは予想以上に困難である。
カルパイン研究での別の技術的な問題は、単独でカルパイン特異的な合成阻害剤が存在しなかったことである。これまで用いられてきた合成「カルパイン阻害剤」のほとんどが、カルパインの場合と同様の能力でカテプシンBに代表される他のシステインプロテアーゼを阻害し(非特許文献12)、合成阻害剤を用いる実験から最終的な結論を引き出すことを困難にしている。
カルパスタチンは、約700アミノ酸残基からなり、ヒトを初めとする様々な種のカルパスタチンの配列が決定されている(特許文献1)。カルパスタチンは、同一の様式でμ−カルパインとm−カルパインの両方の強力な化学量論的阻害剤として生化学的に特徴付けられている(非特許文献13)。カルパスタチンの1つの分子は、カルパインの4つの分子を阻害する。カルパスタチンのカルパインに対する結合親和性は、カルシウムの存在下では非常に高く、Ki値は極端に低い(非特許文献14)。しかし、カルパスタチン−カルパインの神経系における生理的役割については、知られていない。
特開平2−56498号公報 Lipton, S.A. and Rosenberg, P.A., 1994, N. Engl. J. Med. 330, p.613-622 Young et al., 2004, Curr. Mol. Med. 4, p.77-85 Reisberg et al., 2003, N. Engl. J. Med. 348, p.1333-1341 Saito et al, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, p.2628-2632 Yadavalli et al., 2004, J. Biol. Chem. 279, p.21948-21956 Yokota et al., 1995, Stroke 26, p.1901-1907 Saido et al., 1993, J. Biol. Chem. 268, p.25239-25243 Wang and Yuen, 1999, In Calpatin: pharmacology and toxicology of calcium-dependent protease. K.K.W. Wang and P. W. Yuen, ed. p.77-101 Inomata et al.,1985, J. Biochem. (Tokyo) 98, p.407-416 Saido et al., 1992, J. Biol. Chem. 267, p.24585-24590 Murachi, 1983, Trends Biochem. Sci. 8, p.167-169 Rock et al., 1994, Cell 78, p.761-771 Goll et al., 2003, Physiol. Rev. 83, p.731-801 Maki et al., 1988, J. Biol. Chem. 263, p.10254-10261
本発明の目的は、神経病理学的状態に対するin vivoにおけるカルパインの関与の解明に役立つモデル動物およびその利用を提供することにある。
本発明者らは、カルパインの病理学的生理学的役割に新しい洞察を加えるためにカルパスタチンに注目した。本発明者らは、カルパスタチンの発現レベルを調節したノックアウトマウスおよびトランスジェニックマウスを作製して鋭意検討した結果、興奮毒性により惹起されるカルパインの活性化およびその後の細胞事象を解明することに成功し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 カルパスタチンをコードする遺伝子を改変してなる非ヒト動物。
〔2〕 前記改変がカルパスタチン遺伝子の機能的欠損である前記〔1〕に記載の非ヒト動物。
〔3〕 前記改変がヒトカルパスタチン遺伝子の染色体への導入である前記〔1〕に記載の非ヒト動物。
〔4〕 前記動物が実験動物または家畜である前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の非ヒト動物。
〔5〕 前記実験動物がマウスである前記〔4〕に記載の非ヒト動物。
〔6〕 前記動物が成熟体であり、野生型に比べてカスパーゼ非依存的様式でのカルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを亢進または抑制可能である、前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載の非ヒト動物。
〔7〕 前記動物が成熟体であり、神経病理学的状態のモデルとして使用される前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載の非ヒト動物。
〔8〕 前記神経病理学的状態が興奮毒性により生じるものである前記〔7〕に記載の非ヒト動物。
〔9〕 前記〔1〕〜〔8〕いずれかに記載の非ヒト動物の子孫動物。
〔10〕 前記〔1〕〜〔9〕いずれかに記載の非ヒト動物を同種の他の疾患モデルと交配して得られる神経変性疾患モデル動物。
〔11〕 前記神経変性疾患が虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病である前記〔10〕に記載のモデル動物。
〔12〕 前記〔1〕〜〔9〕いずれかに記載の非ヒト動物または前記〔10〕もしくは〔11〕に記載のモデル動物から得られる組織または細胞。
〔13〕 前記〔1〕〜〔9〕いずれかに記載の非ヒト動物または前記〔10〕もしくは〔11〕に記載のモデル動物を用いることを特徴とする神経変性疾患を改善する物質のスクリーニング方法。
〔14〕 前記神経変性疾患が虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病である前記〔13〕に記載のスクリーニング方法。
〔15〕 下記工程:
(a)前記〔1〕〜〔9〕いずれかに記載の非ヒト動物または前記〔10〕もしくは〔11〕に記載のモデル動物に被験物質を投与する工程、
(b)前記被験物質を投与した動物における表現型を調べ、被験物質を投与しない動物における表現型と比較する工程、および
(c)前記比較結果に基づいて、神経変性疾患の症状を軽減させる被験物質を選択する工程を含む、神経変性疾患を改善する物質のスクリーニング方法。
〔16〕 下記工程:
(a)前記〔12〕に記載の組織または細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)前記被験物質を接触させた組織または細胞におけるカルパインの活性化を調べ、被験物質を接触させない組織または細胞における活性化と比較する工程、および
(c)前記比較結果に基づいて、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを抑制する被験物質を選択する工程を含む、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを介した神経変性を抑制する物質のスクリーニング方法。
本発明の遺伝子改変非ヒト動物および神経変性疾患モデル動物によると、カルパインが様々な病理学的過程において関与するかどうかおよびどのように関与するかを調べる理想的なモデルとして役立つ。前記動物を用いる本発明のスクリーニング方法によると、カルパイン特異的阻害剤、好ましくは活性型カルパインを選択的に阻害して有害な副作用を引き起こすことなく疾患を治療しうる薬剤の開発に貢献することができる。
本発明は、カルパスタチンをコードする遺伝子を改変した非ヒト動物を提供する。
本発明において、遺伝子を改変するとは、内因性のカルパスタチンをコードする遺伝子の塩基配列の1以上の塩基に置換、欠失、挿入もしくは付加の変異を導入すること、または外因性のカルパスタチンをコードする遺伝子を染色体遺伝子に導入することをいう。本発明においては、前者をノックアウトと称し、後者をトランスジェニックと称する。また、このような改変をした動物をそれぞれ、ノックアウト動物およびトランスジェニック動物と称する。
前記遺伝子の改変は、ノックアウトの場合、少なくともカルパスタチン遺伝子の一部を欠損させる変異を導入させ、当該遺伝子の機能的欠損を有するように操作することが好ましく、具体的には、マウスカルパスタチン遺伝子の場合、エクソン9から始まるカルパイン阻害ドメインの一部または全部をコードするDNA部分を欠損させるように構築されたターゲティングベクターを用いる方法が一例としてあげられる。より具体的には、実施例に記載のように、エクソン6にポリアデニル化配列を挿入したターゲティングベクターを用いる方法があげられる。また、トランスジェニックの場合、カルパスタチン遺伝子(好ましくはヒトカルパスタチン遺伝子)を染色体遺伝子に導入させるため、カルパスタチン(好ましくはヒトカルパスタチン)が目的の動物細胞内で発現して機能するように構築された発現ベクターを動物の受精卵に注入する方法が一例としてあげられる。
本発明の遺伝子改変非ヒト動物には、前記遺伝子の変異が対立遺伝子の両方に導入されたホモ接合動物、前記遺伝子の変異が対立遺伝子の片方に導入されたヘテロ接合動物およびそれらの出生前の胎仔も含まれる。前記ホモ変異動物は、前記ヘテロ変異動物を交配することにより得られるものである。
本発明においてカルパスタチンをコードする遺伝子は、ノックアウトの場合、用いられる非ヒト動物に応じて、内因性の遺伝子が選ばれる。例えば、マウスカルパスタチンのゲノムDNAは、Genbank アクセッション番号:AB044310-AB044334などで公表されており、後述する実施例に記載の方法により単離することができる。トランスジェニックの場合、外因性のカルパスタチン遺伝子を用いるが、ヒトの疾患モデルの作出のためにはヒトカルパスタチン遺伝子を用いることが好ましい。ヒトカルパスタチンDNAは、Asadaらの文献(Asada et al.,1989, J. Enzyme Inhib. 3, pp.49-56)およびGenbank アクセッション番号:NM_001750、 NM_173060、 NM_173061、 NM_173062などで公表されており、自体公知の方法により単離することができる。
用いられる非ヒト動物(本発明においては、単に動物と略す場合がある。)としては、ヒト以外の動物であれば特に限定されるものではないが、神経や脳組織が発達した動物が好ましい。好適な動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル等の実験動物ならびにウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の家畜があげられるが、遺伝子工学的に利用が容易であるところから、マウスがより好ましい。
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、自体公知の方法により製造できる。先ず、本発明のノックアウト動物の作出方法について説明する。
本発明のノックアウト動物は、例えば下記の工程(a)〜(c)を含む方法により製造できる。
(a)カルパスタチン遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
(b)前記胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)前記キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
(d)前記キメラ動物を交配させ、カルパスタチン遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程。
前記工程(a)において、カルパスタチン遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞(ES細胞)は、例えば、カルパスタチン遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターを胚性幹細胞に導入して得られる。
ターゲティングベクターを胚性幹細胞に導入する方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法/リポソーム法、エレクトロポレーション法などがあげられる。ターゲティングベクターが胚性幹細胞中に導入されると、当該細胞中でカルパスタチン遺伝子を含むゲノムDNAの相同組換えが生じる。
ターゲティングベクターが導入される胚性幹細胞としては、任意の動物の胚盤胞から分離した内部細胞塊をフィーダー細胞上で培養することにより樹立してもよいが、市販または所定の機関より既存の胚性幹細胞を入手できる。既存のマウス胚性幹細胞としては、例えば、ES−D3細胞、ES−E14TG2a細胞、SCC−PSA1細胞、TT2細胞、AB−1細胞、J1細胞、R1細胞、E14細胞、RW−4細胞などがあげられる。また、胚性幹細胞としては、現時点で、マウス胚性幹細胞以外に、ヒト、ミンク、ハムスター、ブタ、ウシ、マーモセット、アカゲザル等の哺乳動物由来のものなどが樹立されているので、これらを用いることもできる。
カルパスタチン遺伝子を含むゲノムDNAで相同組換えが生じた動物細胞を選別するため、ターゲティングベクター導入後の動物細胞がスクリーニングされる。例えば、ポジティブ選別、ネガティブ選別等により選別を行った後に、遺伝子型に基づくスクリーニング(例えば、PCR法、サザンブロット法)を行う。
胚性幹細胞を用いる場合には、好ましくは、組換え胚性幹細胞の核型分析がさらに行なわれる。核型分析では、選別された組換え胚性幹細胞において染色体異常がないことが確認される。核型分析は、自体公知の方法により行うことができる。なお、胚性幹細胞の核型は、ターゲティングベクターの導入前に予め確認しておくことが好ましい。
好ましいターゲティングベクターの例は、カルパスタチン遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、ならびに選択マーカーを含む。
第一および第二のポリヌクレオチドは、カルパスタチン遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一および第二のポリヌクレオチドはそれぞれ、カルパスタチン遺伝子を含むゲノムDNAの異なる領域に対応する。
また、第一および第二のポリヌクレオチドは、相同組換えにより、カルパスタチン遺伝子の機能的欠損を引き起こすように選択される。即ち、第一および第二のポリヌクレオチドは、カルパスタチン遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一および第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、カルパスタチン遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。かかる領域は、当業者であれば適宜決定できるが、例えば、第一および第二のポリヌクレオチドは、1以上のエクソン、あるいはプロモーター領域またはエンハンサー領域の少なくとも一部を欠失するよう選択される。また、カルパイン阻害ドメインに該当するエクソンの少なくとも一部を欠失するように、第一および第二のポリヌクレオチドを選択することも好ましい。
第一および第二のポリヌクレオチドの長さは、ゲノムDNAの相同組換えが生じる長さである限り特に限定されない。一般論として、ターゲティングベクターによってゲノムDNAの相同組換えが効率よく起こるためには、相同領域が長いほどよい。一方、ターゲティングベクターの種類によって、挿入可能なDNAの長さは一定に制限される。したがって、これらを考慮すると、第一および第二のポリヌクレオチドの長さは、例えば0.5kb〜20kb、好ましくは1kb〜10kbであり得る。
一実施形態では、カルパスタチン遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと、第二のポリヌクレオチドとの間(換言すれば、内側)に選択マーカーが含まれる。この場合、選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカーが好ましい。ポジティブ選択マーカーは、その遺伝子を有する細胞のみを所定の条件下で生存および/又は増殖可能にする産物をコードする遺伝子であり、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などがあげられる。
別の実施形態では、カルパスタチン遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと、第二のポリヌクレオチドとの外側に選択マーカーが含まれる。この場合、選択マーカーとしては、ネガティブ選択マーカーが好ましい。ネガティブ選択マーカーは、非ターゲティング染色体部位に組み込まれたDNA挿入物を有する細胞に対して毒性に作用する遺伝子であり、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子などがあげられる。
本発明で用いられるターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、好ましくは両方を含むことができる。
ターゲティングベクターの基本骨格となるベクターは特に限定されず、形質転換を行う細胞(例えば、大腸菌)中で自己複製可能なものであればよい。例えば、市販のpBluscript(Stratagene社製)、pZErO 1.1(Invitrogen社)、pGEM−1(Promega社)等が使用可能である。
本発明で用いられるターゲティングベクターはまた、2以上のリコンビナーゼ標的配列を含んでいてもよい。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、同一または反対の配向性 (orientation)で配置できる。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、カルパスタチン遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと第二のポリヌクレオチドとの間(換言すれば、内側)に配置される。このようなターゲティングベクターは、いわゆるコンディショナルノックアウトを可能にする。
リコンビナーゼ標的配列としては、当該分野で公知の配列、例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列を使用できる。
本発明のターゲティングベクターは、自体公知の方法により製造できる。例えば、本発明のターゲティングベクターは、カルパスタチン遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチドならびに該選択マーカーをベクターに挿入することにより製造できる。なお、このようなターゲティングベクターを作製するにあたっては、最初に、カルパスタチン遺伝子を含むゲノムDNA断片を単離する必要があるが、ゲノムDNA断片は、相同組換えの際に効率良く組換えが生じるよう、作製しようとするES細胞が由来する動物種と同一の動物種から単離することが好ましい。また、相同組換えの効率をさらに上げるために、ES細胞が由来する同一種の動物のうち同じ系統の動物から、ゲノムDNAを単離することがより好ましい。
前記工程(b)において、胚が由来する動物種は、本発明のノックアウト動物種と同様であり得、また、導入される胚性幹細胞が由来する動物種と同一であることが好ましい。胚としては、例えば胚盤胞、8細胞期胚などがあげられる。胚はホルモン剤(例えばFSH様作用を有するPMSGおよびLH作用を有するhCGを使用)等により過***処理を施した雌動物を、雄動物と交配させること等により得ることができる。胚性幹細胞を胚に導入する方法としては、マイクロマニピュレーション法、凝集法などがあげられる。
前記工程(c)において、キメラ胚が動物の子宮に移入され得る。キメラ胚が移植される動物は好ましくは偽妊娠動物である。偽妊娠動物は、正常性周期の雌動物を、精管結紮等により去勢した雄動物と交配することにより得ることができる。キメラ胚が導入された動物は、妊娠し、キメラ動物を出産する。
次いで、出生した動物がキメラ動物か否かが確認される。出生した動物がキメラ動物であるか否かは自体公知の方法により確認でき、例えば、体色や被毛色で判別できる。また、判別のために、体の一部からDNAを抽出し、サザンブロット法やPCR法を行ってもよい。
前記工程(d)において、工程(c)で得られたキメラ動物を成熟した後に交配させる。交配は好ましくは、野生型動物とキメラ動物との間で、又はキメラ動物同士で行われ得る。カルパスタチン遺伝子欠損が、キメラ動物の生殖系列細胞へ導入され、カルパスタチン遺伝子欠損ヘテロ接合体子孫が得られたか否かは、自体公知の方法により種々の形質を指標として確認でき、例えば、子孫動物の体色や被毛色により判別できる。また、判別の方法としては、体の一部からDNAを抽出し、サザンブロット法またはPCR法によりスクリーニングする方法があげられる。さらに、このようにして得られたカルパスタチン遺伝子欠損ヘテロ接合体同士を交配させることにより、カルパスタチン遺伝子欠損ホモ接合体を作出することができる。
一般に、遺伝子改変動物の作出の過程では、胚性幹細胞に由来する遺伝子と、交配に用いた動物に由来する遺伝子とが交雑した遺伝子型を有する子孫動物が得られるため、結果としてカルパスタチン遺伝子が欠損することのみによる特有の効果を調べることが困難となってしまう場合がある。そこで、カルパスタチン遺伝子欠損特有の効果のみをより適切に抽出するために、得られたカルパスタチンノックアウト動物(ヘテロ接合体またはホモ接合体)を純系の動物系統と、5世代〜8世代程度にわたり戻し交配することが好ましい。また、自然交配のみにより戻し交配を行うと長い年月がかかる場合があるので、世代交代を早めたい場合には体外受精技術を適宜用いることもできる。
また、本発明のノックアウト動物が、細胞特異的なカルパスタチン遺伝子の機能的欠損を含むノックアウト動物である場合、かかる動物は、例えば、リコンビナーゼ標的配列を含む所定のターゲティングベクターの使用により作製された動物と、所定の細胞においてリコンビナーゼを発現するトランスジェニック動物を交配させることで作出することも可能である。
本発明のノックアウト動物、胚性幹細胞、ターゲティングベクターの作製の詳細については、例えば、下記文献を参照のこと。
1.別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターデティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法p.115-120
2.バイオマニュアルシリーズ8 「ジーンターゲティング」−ES細胞を用いた変異マ
ウスの作製(1995年、羊土社)p.71-77
3.Sambrookら, Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, 第3版, COLD SPRING HARBOR LABORATORY PRESS, 2001年, 4. 82-4.85
4.Robertson E. J. in Teratocarcinomas and embryonic stem cells-a practical approach, ed. Robertson, E. J. (IRL Press, Oxford), 1987: pp.108-112
5.Dynecki, S. M.ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A.L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.68-73
6.Dynecki, S. M. ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A. L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.75-81
次に、本発明のトランスジェニック動物の作出方法について説明する。
本発明のトランスジェニック動物は、例えば下記の工程(a)〜(c)を含む方法により製造できる。
(a)ヒトカルパスタチン遺伝子と当該遺伝子の発現を制御する配列とを連結した発現ベクターを調製する工程;
(b)前記発現ベクターを受精卵に導入し、遺伝子導入受精卵を仮親動物に移植する工程;
(c)前記動物から出生した子孫からトランスジェニック動物を選別する工程;
(d)前記選別した動物(ファウンダー)から系統を樹立する工程。
前記工程(a)において、ヒトカルパスタチン遺伝子の配列を制御する配列としては、投与対象である動物細胞内で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ−IIαサブユニット(CaMKIIα)遺伝子プロモーター、ドパミン受容体D1A遺伝子プロモーター、グリアフィラメント酸性タンパク質遺伝子プロモーター、ホメオボックスEmx1遺伝子プロモーター、プリオンプロモーター、Thy-1プロモーター、血小板由来成長因子(PDGF)プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子のプロモーターなどがあげられる。
発現ベクターの作製は、前記プロモーターを含む公知のベクターを用いて、自体公知の方法により行うことができる。得られた発現ベクターは、制限酵素等により線状化して工程(b)に供することが好ましい。
前記工程(b)において、前記発現ベクターを受精卵に導入する方法は、例えば、交配後の雌の卵管を洗浄して受精卵を採取し、***または卵子由来の前核にマイクロインジェクション法により前記発現ベクターを直接注入する方法があげられる。この受精卵を偽妊娠させた仮親の輸卵管に移植し、子宮内で発生を続けさせる。
前記工程(c)において、工程(b)で移植した動物が出生した子孫からトランスジェニック動物を選別する方法としては、例えば、注入した発現ベクターが染色体DNAに組み込まれているか否かについて、産仔の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンブロット法またはPCR法によりスクリーニングする方法があげられる。
前記工程(d)において、工程(c)で選別した動物(ファウンダー)から遺伝的背景の均一な系統を樹立する方法としては、発現ベクターが組み込まれた動物とC57BL/6、FVBなどの近交系の野生型動物とを戻し交配をする方法があげられる。
このようにして得られた本発明の遺伝子改変非ヒト動物をさらに交配して得られる子孫動物、これら動物に由来する組織または細胞も本発明に含まれる。前記組織としては、すべての組織があげられ、脳、神経、骨髄、筋肉、心臓、腎臓、肝臓、血球およびその前駆体、幹細胞などが好ましい。また、前記細胞としては、前記組織中に含まれる細胞、組織中から単離された細胞、これら細胞から樹立した細胞株があげられ、具体的には神経細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、造血幹細胞、骨髄細胞、肝細胞、心筋細胞、筋細胞などが好ましい。
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、カルパスタチンの発現が調節されている。すなわち、野生型動物と比べて、ノックアウト動物ではカルパスタチンの発現が抑制されており、トランスジェニック動物ではカルパスタチンが過剰発現している。マウスの場合、カルパスタチンの発現レベルの遺伝的調節は、生理学的条件(正常条件)下でのマウスの発生、繁殖力、形態または寿命には欠陥が生じない。このことは、カルパスタチンは病理学的条件下でのみカルパインの負の調節因子であることを示す。本発明によって、カルパスタチンの発現を個体レベルで調節した場合、生理学的条件下では正常であることが解明されたことにより、本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、一過性または恒常性の神経病理学的状態で、様々な用途に利用することができる。
ここで、神経病理学的状態とは物理的および化学的に神経系が損傷される場合、老化の過程や環境的もしくは遺伝的要因など、何らかの病的刺激が引き金となって、脳内のタンパク質に機能的および構造的な異常が起こり、神経細胞もしくはグリア細胞の機能と構造が異常をきたした状態である。病的刺激は、好ましくは興奮毒性であり、興奮毒性の例には、中枢神経系において興奮性の神経伝達物質(好ましくはグルタミン酸)の放出を促進させる状態が挙げられる。この状態には、物理刺激、化学刺激、神経変性疾患などが含まれる。
前記化学刺激としては、脳の海馬へのカイニン酸などのグルタミン酸受容体アゴニスト、1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)、アミロイドβペプチド等の投与があげられる。また物理刺激としては、脳への電気刺激の負荷によるてんかん様状態を引き起こす状態などがあげられる。
前記神経変性疾患としては、グルタミン酸の過剰放出を引き起こす、脳梗塞などの脳虚血、脳への外傷などを初めとする疾患;二次的にミトコンドリアや小胞体の機能を低下させるあらゆる疾患などがあげられる。具体的には、虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィー、ポリグルタミン病、運動神経疾患(筋萎縮性側索硬化症を含む)、ハンチントン舞踏病、ウィルソン病、脊髄小脳変性症(フリードライヒ運動失調症、遺伝性痙性対麻痺を含む)、加齢に伴う神経変性などの神経変性疾患があげられるが、好ましくは、虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病である。
本発明の遺伝子改変動物は、神経変性疾患の治療および予防を含む神経変性疾患の研究に用いる場合、成熟体を用いることが好ましい。その理由は、本発明によりカルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムは、カスパーゼ非依存的(好ましくはカスパーゼ−3非依的)であることが解明したことにより、カスパーゼ−3の発現がほとんど見られない時期、すなわち、成熟体が好ましいことと、前記神経病理学的状態は、通常加齢により発生頻度が高くなることによる。成熟体とは動物によってその時期が異なるが、少なくとも胎仔および出生直後を除く時期をいい、抗カスパーゼ−3抗体等を用いてカスパーゼ−3が検出されないことを目安にして決定することができる。
本発明における成熟体とは、成熟動物の中枢神経のようなカスパーゼ−3の発現が極めて低く、カスパーゼ非依存的かつカルパスタチン−カルパイン依存的なシグナル伝達が起こる状態である。好ましい態様として、本発明の成熟体である遺伝子改変動物は、野生型に比べてカスパーゼ非依存的様式でカルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを亢進または抑制可能な動物であり、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムとその後に引き起こされるシグナル伝達の変化の研究に用いられる。ここで、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムとは、神経病理学的状態でカルパスタチンの有無によってカルパインの不活化または活性化により制御されうる細胞骨格や受容体などの機能変化や形態変化またはミトコンドリアや小胞体を介して細胞死へ至る経路をいう。
また、好ましい別の態様として、本発明の成熟体である遺伝子改変動物は、神経病理学的状態のモデルとして使用される。この場合、当該遺伝子改変動物を前述した興奮毒性刺激等により神経病理学的状態に曝すことが好ましい。
あるいは、神経病理学的状態のモデルとして使用する場合、本発明の遺伝子改変動物を同種の他の疾患モデルと交配して得られる神経変性疾患モデル動物を作出して用いることが好ましい。本発明は、かかる神経変性疾患モデル動物を提供する。
前記他の疾患モデルとしては、アルツハイマー病モデル、パーキンソン病モデル等があげられる。例えばマウスの場合、変異型アミロイド前駆体タンパク質トランスジェニックマウス、変異型タウトランスジェニックマウス、変異型プレセニリントランスジェニックマウス、変異型プレセニリンノックインマウス、変異型αシヌクレイントランスジェニックマウス、ピペリジン誘導体の投与によって作出されたパーキンソン病モデルマウス等が好適に用いられ得る。
本発明は、前記遺伝子改変非ヒト動物または前記モデル動物を用いることを特徴とする神経変性疾患を改善する物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法I)を提供する。
[スクリーニング方法I]
本発明のスクリーニング方法Iは、具体的には、下記工程を含む:
(a)遺伝子改変非ヒト動物または神経変性疾患モデル動物に被験物質を投与する工程、
(b)前記被験物質を投与した動物における表現型を調べ、被験物質を投与しない動物における表現型と比較する工程、および
(c)前記比較結果に基づいて、神経変性疾患の症状を軽減させる被験物質を選択する工程。
前記(a)において、被験物質とは、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。また、これらの化合物の2種以上の混合物を試料として供することもできる。
前記被験物質を本発明の動物に投与する方法は特に限定されるものではないが、経口的または非経口的に投与され得る。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、気道内等の全身投与、あるいは脳内、標的細胞付近への局所投与等があげられる。
前記被験物質の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって適宜設定することができる。
前記工程(b)において、被験物質を投与した動物における表現型を調べる方法としては、例えば、自発的または興奮毒性刺激により神経病理学的症状を発症している動物が、被験物質の投与によりその症状が変化することを観察する方法などがあげられる。
前記工程(b)において、被験物質を投与しない動物における表現型も同時にまたは別途調べ、投与動物の結果と非投与動物の結果とを比較する。また、陽性対照として、公知の神経変性疾患治療剤を同様に投与することが好ましい。
前記工程(c)において、工程(b)で得られた比較結果に基づき、神経変性疾患の症状を軽減させる被験物質を選択する。選択する基準は、神経変性疾患の症状が軽減されていることを指標にすればよいが、公知の神経変性疾患治療剤における結果と同等以上であることを指標にすることが好ましい。
このようにして選択された被験物質は、カルパインの活性型に特異的に作用し、有害な副作用を引き起こすことなく症状を緩和する候補薬となりうる。
本発明のスクリーニング方法により選別されうる神経変性疾患治療剤としては特に限定されるものではないが、例えば、虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィー、ポリグルタミン病、運動神経疾患(筋萎縮性側索硬化症を含む)、ハンチントン舞踏病、ウィルソン病、脊髄小脳変性症(フリードライヒ運動失調症、遺伝性痙性対麻痺を含む)、または加齢に伴う神経変性に対する治療剤があげられるが、好ましくは、虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病に対する治療剤である。
[スクリーニング方法II]
また、本発明は、下記工程を含むカルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを介した神経変性を抑制する物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法II)を提供する。
(a)本発明の組織または細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)前記被験物質を接触させた組織または細胞におけるカルパインの活性化を調べ、被験物質を接触させない組織または細胞における活性化と比較する工程、および
(c)前記比較結果に基づいて、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを抑制する被験物質を選択する工程。
工程(a)において、被験物質は、スクリーニング方法Iと同様のものがあげられる。
工程(a)において、本発明の組織または細胞と被験物質との接触方法は、大別して、本発明の動物の体内で接触させる(in vivo)方法と当該動物の体外で接触させる(in vitro)方法とがある。in vivo法は、スクリーニング方法Iの工程(a)と同様である。
in vitro法は、本発明の動物から採取した組織または細胞をカルパインが活性を保持しうる条件下に置いたものを用いることができる。かかる条件下としては、前記組織または細胞を適当な培地中に入れ、約25〜40℃のインキュベーター中で生存または培養させることが好ましい。次に、前記培地中に被験物質を添加し、インキュベートを続けることで接触がなされうる。
前記被験物質の添加量は、有効成分の種類、培地に対する溶解性、組織または細胞の感受性等によって適宜設定することができる。
工程(b)において、前記被験物質を接触させた組織または細胞におけるカルパインの活性化は、自体公知の方法により調べることができる。例えば、公知のカルパイン基質(αII−スペクトリン、微小管関連タンパク質2(MAP2)、Bid等)の分解産物の有無を当該分解産物を認識する抗体を用いるウエスタンブロッテング等により検出する方法;神経組織または神経細胞を用いた場合は、神経変性または形態変化の程度を顕微鏡等により観察する方法;組織または細胞におけるDNAの断片化を電気泳動等により検出する方法;ミトコンドリア由来のDNA断片化因子(AIF、EndoG等)の核への移行を特異的抗体等を用いて、免疫組織化学により細胞核の局在を調べる方法等があげられる。in vivo法の場合は、動物から組織または細胞を取り出して、上記と同様にして調べることができる。
前記神経変性は、虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィー、ポリグルタミン病、運動神経疾患(筋萎縮性側索硬化症を含む)、ハンチントン舞踏病、ウィルソン病、脊髄小脳変性症(フリードライヒ運動失調症、遺伝性痙性対麻痺を含む)、加齢に伴う神経変性などの神経変性疾患に基づくものがあげられるが、好ましくは、虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病に基づくものである。
前記工程(b)において、被験物質を接触させない組織または細胞も同時にまたは別途調べ、接触した場合の結果と接触しない場合の結果とを比較する。また、陽性対照として、例えば、カルパイン阻害剤、グルタミン酸受容体拮抗剤、カルシウム拮抗剤等を同様に接触させた組織または細胞も準備することが好ましい。
前記工程(c)において、工程(b)で得られた比較結果に基づき、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを抑制する被験物質を選択する。選択する基準は、カルパインの活性化およびそれに伴う細胞事象が抑制されていることを指標にすればよいが、公知のカルパイン阻害剤における結果と同等以上であることを指標にすることが好ましい。
このようにして選択された被験物質は、カルパインの特異的な阻害剤として有用であるとともに、例えば、スクリーニング方法Iのようなさらなるスクリーニングや薬理試験を実施することにより、副作用の少ない神経変性疾患治療剤の候補薬ともなりうる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
カルパスタチンノックアウトマウスの作出
マウスカルパスタチンのゲノムDNAクローンは、既報に従って(Takano et al., 2000, J. Biochem. (Tokyo) 128, p.83-92)、Bacterial Artificial Chromosome(細菌人工染色体)ライブラリーから得た129/Svマウス株から単離した。ターゲティングベクターは、pBluescript II KS (+) ベクター (Stratagene社)を基に、以下のDNAフラグメントを用いて作製した:
1)イントロン4〜エクソン6の1.5kb SphIフラグメント、
2)転写を終結させる250bp SV40初期mRNAポリアデニル化シグナルの3つのタンデムリピート(Maxwell et al.,1989, Biotechniques 7, p.276-280)、
3)イントロン6〜イントロン8の5.5kb SphI−ScaIカルパスタチン遺伝子フラグメント、
4)2.0kb pgk−neo遺伝子カセット(ポジティブ選択用)、および
5)pMC1DT−A由来の1.0kb SacI−NotIジフテリアトキシンA−フラグメントカセット(ネガティブ選択用)(Yagi et al.,1990, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 87, p.9918-9922;Gomi et al.,1995, Neuron 17, p.29-41)。
上記ポリアデニル化シグナルを、カルパイン阻害ドメインの転写を阻害するためにエクソン6に挿入した。
マウス胚盤胞株129/O1a由来のE14細胞をES細胞系として用いた(Hooper et al.,1987, Nature 326, p.292-295)。細胞培養とターゲティング実験は、既報に従って行った(Itohara et al.,1993, Cell 72, p.337-348)。要約すると、NotI処理によって作製した線状化ターゲティングベクター30μgを用い、Gene Pulser(0.4cm電極距離で800Vと3mF、Bio-Rad)によってES細胞にエレクトロポレーションを行った。ゲノムDNAのBamHI消化後、150μg/mlのG418で選択したクローンを、5’および3’外部プローブによるハイブリダイゼーションによってスクリーニングし、同定した(図1AおよびB)。
キメラマウスの作出は、Bradley らによる既報(1984, Nature 309, p.255-256)に記載された方法に準じて行った。交配後3.5日のC57BL/6J胚盤胞に、ES細胞をマイクロインジェクションした。注入後、胚を、偽妊娠ICRマウスの子宮に移した。得られたキメラマウスをC57BL/6Jマウスと更に交雑させ、ヘテロ接合マウスを作出した。
マウスの遺伝子型は、尾から調製したゲノムDNAのサザンブロット解析によって決定した。次いで、ヘテロ接合マウスをC57BL/6マウスと5〜6回戻し交配した。ホモ接合体を得るために、得られたヘテロ接合体同士を交雑させた。これにより、本発明のノックアウトマウスが得られた。
全てのマウスは、理研脳科学総合研究センターのリサーチリソースセンターによって維持され、全ての動物実験は、理研の動物実験ガイドラインに従って行った。
[実施例2]
カルパスタチントランスジェニックマウスの作出
ヒトカルパスタチンcDNA(Asada et al.,1989, J. Enzyme Inhib. 3, p.49-56)をpNN265にクローニングし、そこから、NotIフラグメントを、CaMKIIαプロモーターを含むpMM403にサブクローニングした(Mayford et al.,1995, Cell 81, p.891-904)。SfiIで線状化したDNA構築物を、C57BL/6Cr接合体の前核にマイクロインジェクションし、それを、仮親メスに移し、カルパスタチントランスジェニックファウンダーを作出した。遺伝子型は、350bp産物を生成する特異的プライマー:
5’−CATGAACCACAGACAGCTTGGTTGAC−3’(配列番号1)と
5’−GGAGGATTTGATATTCACCTGGCCCG−3’(配列番号2)によるPCRによって決定した。
[実施例3]
動物の組織におけるカルパスタチン遺伝子の発現と配列決定ならびにカルパスタチン活性の測定
Micro-Fast TrackTM2.0Kit(Invitrogen)を用いて、脳サンプルの大脳皮質半分からポリアデニル化RNAを単離した。サンプルを1%ホルムアルデヒドアガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜に移した。当該膜を、カルパスタチンとμ−カルパインcDNAの[α−32P]dCTP標識フラグメントでプローブした。それぞれ、マウスカルパスタチンの阻害ドメインIVとマウスμ−カルパインのドメインIVをコードする特異的cDNAプローブを用いた。負荷DNA量を確認するために、臭化エチジウムでゲルを染色し、アクチンcDNA(Sigma)で再プローブした。
既報(Takano et al.,2000, J. Biochem. (Tokyo) 128, p.83-92)に従って、上記のようにして得られたポリアデニル化RNAを用い、RT−PCRを行った。PCR産物を5%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。ゲルを臭化エチジウム(1μg/ml)で染色し、次いで、短波長(254nm)UV照射下、DNAフラグメントを可視化し、写真撮影した。短いDNA PCR産物の直接配列決定のために、長波長(365nm)UV照射下、ポリアクリルアミドゲルからDNAフラグメントを切り出した。BigDyeターミネーター サイクル シークエンシング レディ リアクション キット(PerkinElmer)を用い、自動蛍光シークエンサーABI PRISM 3700(PerkinElmer)によってヌクレオチド配列を決定した。
一方、前記大脳皮質から常法によりタンパク質を抽出し、抽出液をイオン交換クロマトグラフィー(DEAE Toyopearl650S(内径0.5cm×長さ5cm)東ソー)に供し、NaClの濃度勾配(0−0.4M)によりカルパスタチンを含む画分を溶出させた(図2A)。カルパスタチン活性の測定は、14C放射標識カゼイン(4,200dpm)を基質とし、ウシm−カルパインの精製品を用いて行った(図2B)。
[細胞の分画]
氷冷PBSで灌流した脳から採取した海馬組織を、10倍容の氷冷緩衝液M(210mMマンニトール、70mMシュークロース、10mM HEPES(pH7.5)、10mM KCl、1.5mM MgCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル、EDTA非含有)(Roche)中、20ストロークのDounce型ホモジナイザーでホモジナイズした。得られたホモジネートを、4℃で5分間、1,500gで2回遠心分離し、不溶化細胞および核を除去した。得られた上清を、4℃で10分間、10,000gで遠心分離した。ペレットを、ミトコンドリア(HM)画分として保存した。上清を4℃で1時間、100,000gで遠心分離し、サイトゾル(S100)画分として保存した。HM画分は、免疫ブロッティングのために、緩衝液MX(1%Triton X-100含有の緩衝液M)中で溶解した。蛋白質濃度は、BSAを標準として用い、Micro BCA Protein Assayキット(Pierce)を用いてアッセイした。
[一次抗体]
マウスカルパスタチンのカルボキシル末端に対する抗ペプチド抗体は、既報に従って(Saido et al.,1992, J Biochem. (Tokyo) 111, p.81-86;Saido et al.,1995, Neuron 14, p.457-466)、キーホールリンペットヘモシアニンと結合させた合成ペプチドCKKTEEVSKPKAKEDARHS(配列番号3)を用いて作製した。αIIスペクトリンのアミノ末端135kDaフラグメントのカルパイン切断部位に特異的な抗体は、Manya ら(Manya et al., 2002, J. Biol. Chem. 277, p.35503-35508)に従って作製した。m−カルパイン、ICADおよびCADのアミノ末端配列に対する抗体は、既に公表されている(Saido et al.,1994, FEBS Lett. 346, p.263-267;Sakahira et al.,1999, J. Biol. Chem. 274, p.15740-15744)。以下の抗体は、購入した:抗MAP2マウスモノクローナル抗体(クローンAP20、Leinco Technology)およびαIIスペクトリンマウスモノクローナル抗体(クローンAA6、Biohit);カスパーゼ−3に対するヤギポリクローナル抗体(K−17、Santa Cruz Biotechnology);活性化カスパーゼ−3に対するウサギポリクローナル抗体(Asp175、Cell Signaling Technology)、EndoGに対するウサギポリクローナル抗体(AB3639、Chemicon)、AIFに対するウサギポリクローナル抗体(AB16501、Chemicon)、およびBidに対するウサギポリクローナル抗体(AR−52、Alexis)。
[実施例4]
ウエスタンブロッティング
SDSサンプル緩衝液(0.25M Tris-HCl(pH6.8)、1%SDS、25%グリセロール、5% 2−メルカプトエタノール)中で変性した蛋白質サンプルを、Tris-Tricine緩衝液中でSDS−PAGEに供し、ポリビニリエン ジフルオリド 膜上にブロットした。ブロットした膜を、0.1%Tween 20含有PBS(PBST)中の5%スキムミルクで1時間ブロックし、次いで、4℃で16時間、一次抗体とインキュベートした。PBST中で3回の洗浄後、前記膜を、抗マウスIgもしくは抗ウサギIgの、HRP結合F(ab’)フラグメント(Amersham)と2時間インキュベートした。既報に従って(Iwata et al.,2004, J. Neurosci. 24, p.991-998)、免疫反応性シグナルを、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(Amersham)で検出し、LuminoImager、LAS-3000とScience Lab 2001 Image Gaugeソフトウエア(富士写真フィルム)で定量した。
[実施例5]
興奮毒性刺激:マウス海馬内へのカイニン酸の注入
海馬中へのカイニン酸(KA)の定位固定投与は、既報に従って(Tomioka et al., 2002, Mol. Brain Res. 108, p.18-32)行った。要約すると、成熟オスマウスを、ペントバルビタールナトリウムで深く麻酔し、定位固定装置内に入れ、0.5μl電動式シリンジを備えた26S-ゲージ針(Hamilton)を用いて、海馬CA1領域に、0.3μlリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の0もしくは0.1nmolカイニン酸(和光純薬工業)の片側注入を行った。注入の座標は、ブレグマ(前頂)から、前面−後面−2.3mm、中心−側面−1.5mm、背面−腹面−1.6mmであった。針挿入後2分で、カイニン酸を、定常流速0.05μl/分で注入した。流体の逆流を防止するために、針を更に2分間そのままにしておいた。
[実施例6]
免疫組織化学
カイニン酸またはPBSの注入後24時間で、マウスをペントバルビタールナトリウム(50mg/体重1kg)で麻酔し、氷冷PBSで、次いで0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒドで心臓を通して灌流した。脳を取り出し、4℃で一晩、同じ固定液中で後固定し、パラフィンに包埋した。次いで、冠状切片(厚さ4μm)を脱水し、1%クレシルバイオレットで染色し、注入部位を確認した。製造業者の指示に従い、In Situ Cell Death Detection Kit(Roche)を用いてTUNEL染色を行った。細胞死の定量のために、海馬中のTUNEL陽性細胞とヨウ化プロピジウム染色核の数を計測した。免疫組織化学解析は、既報に従って(Iwata et al.,2002, J. Neurosci. Res. 70, pp.793-500;Iwata et al.,2004, J. Neurosci. 24, p.991-998)TSA蛍光システム(PerkinElmer)を用いて、tyramidシグナル増幅(TSA)法によって行った。免疫反応性の定量は、上述するIwataらの既報に記載されたように、MetaMorph(バージョン6.1)画像化ソフトウエア(Universal Imaging Corporation)を用いて行った。
[統計学的解析]
統計学的有意性は、必要な場合、群分散間の同等性を確認後、スチューデントt−検定またはFisher's Protected Least Significant Difference(PLSD)によって検討した。p<0.05の確率レベルは、研究の全てで統計的に有意であるものとして受け入れた。
結果
[ノックアウトマウスおよびトランスジェニックマウスの特徴付け]
図1Aは、カルパスタチンノックアウトマウスを作出するのに用いた戦略を要約したものである。3つのタンデムにつながったポリアデニル化配列を保持するターゲティングベクターをエクソン6に挿入し、相同組換えにより転写を終了させた。その理由は、以下のとおりである。
(i)各エクソンは塩基対の3倍の数から構成されており、このことがフレームシフト戦略を不適格にする(Takano et al., 2000, J. Biochem. (Tokyo) 128, p.83-92)。
(ii)カルパスタチン遺伝子は、転写の開始部位と終結部位とを多数保持している(De Tullio et al., 1998, FEBS Lett. 422, p.113-117)。
(iii)隣接する脂肪細胞由来のロイシンアミノペプチダーゼ遺伝子が、4番目の阻害ドメインに相当するカルパスタチン遺伝子の一部と重複する(Hattori et al., 2000, J. Biochem. (Tokyo) 130, p.235-241)。
(iv)カルパイン阻害ドメインをコードする遺伝子領域がエクソン9から開始する(Takano et al., 2000, J. Biochem. (Tokyo) 128, p.83-92)。
図1Bより、図1Aのパネルで示した5’および3’プローブを用いるBamHIで消化したゲノムDNAのサザンブロット解析は、ジーンターゲティングが意図したとおりにうまくいったことを示す。
次いで、ノーザンブロット(図1C)、ウエスタンブロット(図1D)、RT-PCR(図1E)および免疫組織化学(図1F)を行い、野生型マウス(+/+)と比較して、ヘテロ接合性マウス(+/-)およびホモ接合性マウス(-/-)におけるカルパスタチン遺伝子産物の量を確認した。カルパスタチンmRNAおよび対応する抗カルパスタチン抗体免疫反応性タンパク質の量は、遺伝子の用量依存的様式で減少したのに対し、μ−カルパイン、m−カルパインおよびαII−スペクトリン(フォドリン)のレベルは、不変であった(図1CおよびD)。
図1Dより、カルパスタチンは、カルパスタチン遺伝子の転写に異なる開始部位が存在することによりウエスタンブロッティングでは二重のバンドとして見えた。また、ノックアウトマウスにおいて、より低分子量の痕跡量(<10%)の抗カルパスタチン抗体免疫反応物が検出された。これは、スプライシング中に、ポリアデニル化シグナルが挿入されていたエクソン6がスキップしたことから生じたと思われる。エクソン6のスキップは、エクソン4と14をまたぐプライマーを用いるRT−PCRにより、ノックアウトマウスの脳において約120bp小さいカルパスタチン転写物の存在が示されたこと(図1E)と、PCR産物のシークエンシングにより確認した。したがって、得られたノックアウトマウスは、カルパスタチン遺伝子発現を100%抑制しなかったけれども、残存するカルパスタチンの量は、免疫組織化学により示されるように、ホモ接合性のノックアウトマウスで無視できるほど少なかった。さらに、ノックアウトマウスの大脳皮質由来の抽出液では、カルパスタチン活性は検出不能であった(図2B)。加えて、種々の組織におけるカルパインとカルパスタチンの相対活性は同等であること、カルパスタチンはカルパインの活性化後にタンパク質分解酵素により分解されることを考慮すると、カルパスタチン発現量の90%を超える減少は、カルパインの酵素活性の阻害から実質的に解放するのと同等である。
意外にも、カルパスタチン-/-マウスは、カルパスタチン+/+マウスと比較して、正常な生理学的条件下では発生、繁殖力、形態が正常であり、カルパスタチンは病理学的条件下でのみカルパインの負の制御因子であることを示唆する。図1Gより、正常な条件下では、カルパスタチン-/-、カルパスタチン+/-、およびカルパスタチン+/+マウスにおいて、カルパインに対して高感度な基質であるαII−スペクトリンは分解されておらず、カルパインを活性化する証拠が存在しなかった。対照的に、カイニン酸で誘導したカルパインの活性化は、カルパスタチン-/-マウスで増加した(図7Aを参照)。カイニン酸で処理した海馬には、カスパーゼにより産生されるスペクトリンの断片(120kDa)が検出されなかった(図1G、第1レーン)。また、カルパインで加水分解されたスペクトリン、NeuN、微小管関連タンパク質2(MAP2)、tau、Cdk5−リン酸化tad(AT−8抗原)、シナプトフィシン、シナプトブレビン、シンタキシン、SNAP25、GAP43、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65、小胞GABAトランスポーターまたはグルタミン酸受容体1の正常条件下における免疫組織化学的量と分布でも、カルパスタチン-/-マウスとカルパスタチン+/+マウスとの間には相違がなかった。発生、成熟および加齢を総合して包含するマウスの寿命という点からもカルパスタチン+/+マウスとカルパスタチン-/-マウスとの間に統計学的な差がなかった。
[カルパスタチン欠損および過剰発現マウスにおけるDNA断片化、MAP2分解および神経変性に関するカイニン酸投与の効果]
次いで、カルパスタチン-/-マウス、野生型対照およびカルパスタチンを過剰発現するカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ−IIαサブユニット(CaMKIIα)プロモーター作動性トランスジェニックマウスの海馬のCA1セクターに定位固定して注入したカイニン酸の効果を調べた(図3)。ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介のdUTPニック末端ラベル(TUNEL)およびヨウ化プロピジウムを用いる核の対比染色により、カルパスタチンの欠損はCA1垂体ニューロンの興奮毒性処理後24時間で増加したDNA断片化が生じたことが示された(図3AおよびB)。カルパスタチンの過剰発現は、障害の出現を抑制した(図3AおよびB)。カルパインに感受性の別の基質であるMAP2の分解は、カルパスタチン欠損マウスおよびカルパスタチン過剰発現マウスにおいてそれぞれ増加し、および抑制された(図3C)。クレシルバイオレット染色垂体ニューロンにおける核と体の収縮で表されるアポトーシスによる形態学的変化もまた、上記観察結果と一致していた(図3D)。これらのデータの定量的画像解析は、カルパスタチン量とDNA断片化ならびにカルパスタチン量とMAP2分解との逆相関が統計学的に有意であることを示す(図3E)。
カルパスタチンはカルパインを特定の様式で阻害するので、これらの観察結果は、カルパイン活性化がアポトーシスの典型的特徴を示すニューロンのDNA断片化と形態学的変化に独占的に関与していることを強く示唆する。αIIスペクトリンはカスパーゼ−3によって120kDa断片を生じさせるが、本実験では検出されなかった(図1G)。したがって、カルパインの活性化はカスパーゼ非依存的ニューロン細胞死に導くことを示唆する(下記セクションも参照のこと)。より高用量のカイニン酸を海馬に注入した場合、CA3セクターに非常に弱いカスパーゼ活性化を検出することができたが、バキュロウイルスカスパーゼ阻害剤p35の一過性の発現は、カスパーゼ活性化が十分に阻害されたにも関わらずDNA断片化に何の影響もなかった。
上記知見をさらに調べるために、新生脳および成熟脳において中心的カスパーゼであるカスパーゼ−3の発現と活性化を観察した(図4)。カルパインの発現は新生脳と成熟脳とで類似していたが、カスパーゼ−3の発現は新生脳に比べて成熟脳で非常に低かった(図4A)。この観察結果は、Shimohamaらの報告(Shimohama et al., 2001, Biochem. Biophys. Res. Commun. 289, p.1063-1066)と同様であり、胚段階と出生後2週までで高く発現する皮質のカスパーゼ−3とカスパーゼ−7は、ラット脳で誕生後4〜96週で実質的に検出できなくなることを示す。活性化カスパーゼ−3に特異的な抗体を用いる免疫組織化学は、本実験パラダイムで、脳の初期発生中、カスパーゼ−3は明らかに活性化されるが、成熟脳でカイニン酸処理後カスパーゼ−3活性化は検出できないことを示した(図4B)。カスパーゼファミリーメンバーによって産生されるアクチンフラグメントに特異的な抗フラクチン抗体も、免疫反応性シグナルを検出しなかった。
[ミトコンドリアDNA断片化因子の核移行]
カスパーゼ−3は活性化されないので、カスパーゼ活性化DNase/カスパーゼ活性化DNaseのインヒビター(CAD/ICAD)システムは、カルパイン媒介のDNA断片化に関与しそうもないと思われた。実際、カルパスタチン−/−マウスでさえ、同定されるICADのカイニン酸誘導性の分解はなかった(図4C)。抗CAD免疫反応性は、免疫組織化学で検出限界未満であった。
そこで、他の主要なDNA断片化因子の関与の可能性を研究した。ミトコンドリア由来プロアポトーシス因子であるアポトーシス誘導因子(AIF)は核に移行し、この移行は、カルパスタチンノックアウトマウス、野生型マウス、およびカルパスタチン過剰発現トランスジェニックマウスで、カルパスタチン発現レベルと逆相関した(図5)。更に、図6は、ミトコンドリア由来DNaseであるエンドヌクレアーゼG(EndoG)も、カイニン酸投与後核に移行し、移行の程度も、カルパスタチン発現レベルと逆相関したことを示す。AIFは、おそらくEndoGと協同様式で、DNA断片化とクロマチン凝縮を引き起こすことが考えられる。これらの観察は、既報(Plesnila et al., 2004, J. Cereb. Blood Flow Metab. 24, p.458-466;Wu et al., 2004, Neurosci. Lett. 364, p.203-207)と一致し、当該報告は、局部的脳虚血がAIFの核移行を誘導すること、および、EndoG欠損マウスを用いて、EndoGがニューロンの興奮毒性に関与することを示す。次に、カルパイン活性化がこれらのミトコンドリア由来DNA断片化因子の核移行をどのように導くかについて研究した。
[ミトコンドリアの崩壊を示す、プロアポトーシス性Bcl−2サブファミリーメンバーBidのカルパイン依存性切断]
αIIスペクトリンのカルパイン切断N末端135kDaフラグメントに特異的な抗体を用いることによって、興奮毒性過程の初期段階、即ち、カイニン酸投与後4時間でカルパスタチン−/−マウスでカルパイン活性化が増大することを確認した(図7A)。カルパインが触媒するスペクトリン断片化の増大は、統計学的に有意であった(図7B)。150kDaと145kDaの増大した免疫反応性バンドによって示されるように、αIIスペクトリンのC末端領域の異なるエピトープを認識する別の抗体(AA6)を用いて、上記観察を更に確認した。対照的に、カスパーゼが活性化されたならば生成したであろう120kDaフラグメントの出現に差異はなかった。
次いで、プロアポトーシス性Bcl−2サブファミリーメンバーであるBidの可能な切断を解析した。Bidは、カルパインの作用によって加水分解可能であり、切断型BidであるtBidは、インビトロでミトコンドリアの崩壊を引き起こすことが示されたからである(Gil-Parrado et al., 2002, J. Biol. Chem. 277, p.27217-27226;Yin et al., 2002, J. Biol. Chem. 277, p.42074-42081)。図7に示すように、サイトゾル画分からミトコンドリア画分に移行するtBidのカイニン酸誘導による生成は、カルパスタチン−/−マウスで有意に増加した。
図8で要約するように、カルパインは、EndoGとAIFの移行の前にBidを切断し、次いで、tBidは、ミトコンドリアに移行してミトコンドリア膜透過性を誘導し、これらのDNA断片化因子の放出により、神経変性が起こることを上記の結果は示す。
神経変性研究領域では、カスパーゼは、細胞死の「執行人」として機能するというかなり堅固な信念があった。これは、神経変性過程に関する細胞生物学的研究の大部分は、胚性脳から調製された初代ニューロンを用いたという事実によると考えられる。前記ニューロンは、カスパーゼ依存性アポトーシスカスケードの最終段階での「執行人」であるカスパーゼ−3の活発な量を発現する。対照的に、成熟脳は、無視できるほどの少量のカスパーゼ−3しか発現しない(図4)。従って、初代ニューロンを用いる神経変性関連研究は、成熟脳で起こる病理学的過程の理解には限られた量の情報しか提供しない。
本実施例では、低投与量(0.1nmol)のカイニン酸を用いた。そのような投与量は、脳卒中、血管痙攣、心筋梗塞などの種々の障害によって引き起こされ得る臨床的虚血状態の実験モデルである一過性前脳虚血によって引き起こされるものと類似した中程度の病巣を誘導する。本結果は、カルパインがDNA断片化に至る興奮毒性シグナル伝達カスケードで中心的役割を果たすことを強く示唆する。このカスケードは、プロアポトーシス因子EndoGとAIFのミトコンドリアから核への移行を誘導するBidを代表とするミトコンドリア透過性分子のカルパイン依存性活性化が引き金となっていることが考えられる(図8)。本結果は、カルパインがニューロンでの異常なカルシウムホメオスタシスを伴う多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびポリグルタミン病を含む他のニューロン疾患に直接関与することも示唆する。この場合、カルパスタチンの存在は、定量的様式で神経変性過程を減速するであろう。
本発明によれば、神経変性疾患の解明およびそれに対する治療剤の開発に適する神経変性疾患モデル動物が提供される。当該動物を用いるスクリーニング方法は、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムに特異的に作用し、副作用の少ない薬剤の開発に貢献することができる。
図1は、カルパスタチンノックアウトマウスの作出の各段階を示す。図1Aは、カルパスタチンノックアウトマウスを作出するのに用いた戦略を要約した図である。カルパスタチンcDNA、野生型カルパスタチンアレル、ターゲティングベクター、およびターゲティングされたアレルの模式図。カルパスタチンは、アミノ末端リーディングドメイン(L)および繰り返しのカルパイン阻害ドメイン1−4をもったカルボキシル末端からなる。各カルパイン阻害ドメインは、カルパインとの結合のための領域AおよびC、ならびに阻害作用のための領域Bを含む。B、Sp、Scはそれぞれ、BamHI、SphI、ScaI制限エンドヌクレアーゼ切断部位の位置を示す。変異体を遺伝子タイピングするために使用されるプローブの位置を、ターゲティングされたアレルの図の下方に示す。図1Bは、F1ヘテロ接合体の交配由来の子孫のサザンブロット解析結果を示す。-/-:変異ホモ接合体;+/-:ヘテロ接合体;+/+:野生型。5’および3’プローブは、図1Aに示す通りである。図1Cは、カルパスタチンとμ−カルパインのノーザンブロット解析結果を示す。完全長β−アクチンを、内部対照として用いた。図1Dは、カルパスタチンとm−カルパインのウエスタンブロット解析結果を示す。用いた抗体は、抗カルパスタチンカルボキシル末端と抗m−カルパインアミノ末端である。図1Eは、カルパスタチンmRNAのRT−PCR解析結果を示す。エクソン4と14の間のカルパスタチンcDNAを増幅するプライマーを用いて、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(G3PDH)を内部対照とした。図1Fは、海馬中でのカルパスタチンの免疫組織化学を示す。野生型、ヘテロ接合ノックアウトマウス、ホモ接合ノックアウトマウス(オス:3月齢)由来の脳を、カルパスタチンのカルボキシル末端に対する抗体を用いて免疫染色した。図1Gは、抗αIIスペクトリン抗体を用いるウエスタンブロット解析結果を示す。240kDaバンド、150kDaと145kDaのバンド、ならびに120kDaバンドはそれぞれ、無傷αIIスペクトリン、カルパイン切断フラグメント、カスパーゼ切断のフラグメントに対応する。「KA」は、カイニン酸投与後24時間で採取した海馬組織由来の抽出物を示す。 図2は、野生型および遺伝子改変マウス大脳皮質でのカルパスタチン活性の違いを示す。対照用野生型(+/+)(上段)、カルパスタチン過剰発現トランスジェニック(Tg)(中段)、カルパスタチンノックアウト(-/-)(下段)。マウス大脳皮質からの抽出液をイオン交換クロマトグラフィーで分画した後、カルパスタチン活性を測定した(図2A)。点線はイオン交換クロマトグラフィーで吸着したカルパスタチンを溶出するために使用したNaCl濃度の勾配を示している。カルパスタチン活性の測定は、14C放射標識カゼイン(4,200dpm)を基質とし、ウシm-カルパインの精製品を用いて行った。ウシm-カルパインは、カルパスタチンの非存在下600dpmの放射活性を放出する活性を示した。カルパスタチンノックアウト(-/-)、野生型(+/+)およびカルパスタチン過剰発現トランスジェニック(Tg)マウス大脳皮質カルパスタチン活性を定量的に解析した。図2Bで示されている遺伝子改変動物脳の全カルパスタチン活性が、野生型マウスの値で標準化されている。n.d.は、検出不能。 図3は、遺伝子改変マウスでのカイニン酸投与後24時間での海馬の神経変性を示す。カルパスタチンノックアウト(-/-)、野生型(+/+)、カルパスタチン過剰発現トランスジェニック(Tg)マウスを、カイニン酸またはPBSの片側注入後24時間で解剖し、TUNEL(図3A)、ヨウ化プロピジウム(図3B)、抗MAP2抗体(図3C)およびクレシルバイオレット(図3D)を用いる組織化学に供した。図3Eは、カイニン酸誘導のDNA断片化とMAP2分解の定量的解析を示す。既報(Iwata et al., 2002,上述)に従って、定量化した。左のグラフは、海馬のCA1セクター中のヨウ化プロピジウム陽性細胞の中でのTUNEL陽性ニューロンのパーセンテージを示す。右のグラフは、同一領域でのMAP2免疫反応性を示す。PBSを注入したマウス脳由来の切片を対照として用いた。バーは、平均±SEM(n=8または9)を示す。*p<0.05;**p<0.01(+/+マウスと比較)。 図4は、マウス脳でのカスパーゼ−3の発現および活性化ならびにICADの蛋白質分解を示す。図4Aは、出生後1日(P1)と誕生後12週(12w)での脳でのカスパーゼ−3の発現を、抗カスパーゼ−3抗体を用いてウエスタンブロッティングにより示した図である。図4Bは、P1脳およびカイニン酸処理の成熟海馬由来の切片を、活性化カスパーゼ−3特異的抗体を用いて免疫染色し、ヨウ化プロピジウムで対比染色した図である。図4Cは、カルパスタチンノックアウトマウスおよび正常対照の海馬ホモジネートでのICADの発現を、ICADに対する抗体を用いてウエスタンブロッティングにより示した図である。ICAD−L:ICADの長型;I−CAD−S;ICADの短型(Sakahira et al., 1999, J. Biol. Chem. 274, p.15740-15744)。 図5は、海馬のCA1セクターでのAIFの核移行を示す図である。図5AおよびBは、AIFに対する抗体を用いる免疫組織化学染色(緑)をそれぞれ異なる倍率で示す。図5Cは、核を赤で示されるヨウ化プロピジウムで対比染色した図である。図5Dは、AIFの核移行を検討するために、図Bのデータを図Cの画像に重ね合わせた図である。カルパスタチンノックアウト(-/-)、野生型(+/+)およびトランスジェニック(Tg)マウス。バーは、Aで100μm、B−Dで25μmを示す。図5Eは、海馬CA1セクターにおけるAIFの核移行を定量的に示した図である。ヨウ化プロピジウムと共局在化したAIFのパーセンテージは、画像解析によって定量化した。バーは、平均±SEM(n=8または9)を示す。*p<0.01(+/+マウスと比較)。 図6は、海馬のCA1セクターでのエンドヌクレアーゼGの核移行を示す図である。図6AおよびBは、EndoGに対する抗体を用いる免疫組織化学染色(緑)を、それぞれ異なる倍率で示す。図6Cは、核を赤で示されるヨウ化プロピジウムで対比染色した図である。図6Dは、EndoGの核移行を検討するために、図6Bのデータを図5Cの画像に重ね合わせた図である。カルパスタチンノックアウト(-/-)、野生型(+/+)、トランスジェニック(Tg)マウス。バーは、Aでは100μm、B−Dでは25μmを示す。図6Eは、海馬CA1セクターにおけるEndoGの核局在を定量的に示した図である。バーは、平均±SEM(n=8または9)を示す。*p<0.05(+/+マウスと比較)。 図7は、DNA断片化前のカルパイン基質およびとカスパーゼ基質の加水分解を示す図である。図7Aは、αIIスペクトリンとBidのウエスタンブロッティングによる解析を示す。カイニン酸またはPBSの投与後4時間のマウス脳由来の海馬溶出液をホモジナイズし、ミトコンドリア(HM)画分とサイトゾル(S100)画分に分画した。αIIスペクトリンのカルパイン切断アミノ末端フラグメントに特異的な抗体と、αIIスペクトリンのカルボキシル末端領域に対する別の抗体(クローンAA6)を用いて、全ホモジネートを解析した。HM(高密度膜)とS100画分を、完全長Bidに対する抗体を用いて解析した。完全長Bid(21kDa)は、カルパイン依存性加水分解によってtBid(13kDa)に変換され、ミトコンドリアに移行したことを示す。図7Bは、全ホモジネート中のカルパインで切断されたスペクトリンおよびミトコンドリア画分中の切断型Bidの定量的解析結果を示す。ウエスタンブロットデータをデンシトメーターで定量化し、カイニン酸処理野生型(+/+)マウス由来のデータに対して規格化した。バーは、平均±SEM(n=4−6)を示す。*p<0.05(+/+マウスと比較) 図8は、成熟脳でニューロンDNA断片化に至るカルパイン媒介の興奮毒性のメカニズムの模式図である。

Claims (16)

  1. カルパスタチンをコードする遺伝子を改変してなる非ヒト動物。
  2. 前記改変がカルパスタチン遺伝子の機能的欠損である請求項1に記載の非ヒト動物。
  3. 前記改変がヒトカルパスタチン遺伝子の染色体への導入である請求項1に記載の非ヒト動物。
  4. 前記動物が実験動物または家畜である請求項1〜3いずれかに記載の非ヒト動物。
  5. 前記実験動物がマウスである請求項4に記載の非ヒト動物。
  6. 前記動物が成熟体であり、野生型に比べてカスパーゼ非依存的様式でのカルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを亢進または抑制可能である、請求項1〜5いずれかに記載の非ヒト動物。
  7. 前記動物が成熟体であり、神経病理学的状態のモデルとして使用される請求項1〜5いずれかに記載の非ヒト動物。
  8. 前記神経病理学的状態が興奮毒性により生じるものである請求項7に記載の非ヒト動物。
  9. 請求項1〜8いずれかに記載の非ヒト動物の子孫動物。
  10. 請求項1〜9いずれかに記載の非ヒト動物を同種の他の疾患モデルと交配して得られる神経変性疾患モデル動物。
  11. 前記神経変性疾患が虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病である請求項10に記載のモデル動物。
  12. 請求項1〜9いずれかに記載の非ヒト動物または請求項10もしくは11に記載のモデル動物から得られる組織または細胞。
  13. 請求項1〜9いずれかに記載の非ヒト動物または請求項10もしくは11に記載のモデル動物を用いることを特徴とする神経変性疾患を改善する物質のスクリーニング方法。
  14. 前記神経変性疾患が虚血後の神経細胞死、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、レビー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆、多系統萎縮症、筋ジストロフィーまたはポリグルタミン病である請求項13に記載のスクリーニング方法。
  15. 下記工程:
    (a)請求項1〜9いずれかに記載の非ヒト動物または請求項10もしくは11に記載のモデル動物に被験物質を投与する工程、
    (b)前記被験物質を投与した動物における表現型を調べ、被験物質を投与しない動物における表現型と比較する工程、および
    (c)前記比較結果に基づいて、神経変性疾患の症状を軽減させる被験物質を選択する工程を含む、神経変性疾患を改善する物質のスクリーニング方法。
  16. 下記工程:
    (a)請求項12に記載の組織または細胞と被験物質とを接触させる工程、
    (b)前記被験物質を接触させた組織または細胞におけるカルパインの活性化を調べ、被験物質を接触させない組織または細胞における活性化と比較する工程、および
    (c)前記比較結果に基づいて、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを抑制する被験物質を選択する工程を含む、カルパスタチン−カルパインのタンパク質分解システムを介した神経変性を抑制する物質のスクリーニング方法。
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