JP2004313192A - 小胞体ストレスモデル動物 - Google Patents

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Abstract

【課題】
腎不全あるいは糖尿病、または小胞体ストレスのモデル動物として有用な疾患モデル動物の提供。
【解決手段】
次の特徴を有する疾患モデル動物が提供された。
(a)腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)腎臓および膵臓にジアスターゼ耐性PAS陽性物質が形成される
本発明の疾患モデル動物は、血中クレアチニンの上昇または高血糖を伴う腎機能障害モデル動物として有用である。さらに小胞体ストレスやセルピノパシーのモデル動物として有用である。メグシン遺伝子によるトランスジェニックラットは、血中クレアチニン値の上昇を呈し、特徴的な病理像として、糸球体上皮細胞、近位尿細管〜遠位尿細管〜集合管にかけての障害を示した。本発明の疾患モデル動物は、腎不全や糖尿病、小胞体ストレスの病態解析や治療薬スクリーニングに有用である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、疾患モデル動物に関する。さらに本発明は、小胞体ストレス改善剤およびその評価方法に関する。
全ての真核生物の細胞内には複雑な網目状の膜構造体である小胞体が存在している。小胞体は、分泌タンパク質や膜タンパク質、脂質の合成やカルシウムイオンの貯留などの機能を担っている。小胞体内腔には、78kDa glucose-regulated protein(GRP78)、94kDa glucose-regulated protein(GRP94)、150kDa oxygen-regulated protein(ORP150)などの分子シャペロンと呼ばれる一連のタンパク質が局在する。分子シャペロンは分泌性のタンパク質や膜タンパク質の小胞体内での折り畳みに関与している。分泌性タンパク質や膜タンパク質は、ここで糖鎖付加、ジスルフィド(S-S)結合などの修飾を受けると同時に、正しい立体構造をとるよう折り畳まれる。
小胞体で正しく折り畳まれたタンパク質は、次の目的地であるゴルジ体へと運ばれる。しかし、折り畳みに失敗したタンパク質は正しい立体構造をとれるまで小胞体に留められる。これは、工場における欠陥商品を市場に出さない仕組みと似ており、「小胞体におけるタンパク質の品質管理」と呼ばれ、細胞が正常な機能を保つために極めて重要な機能と考えられている。このように小胞体にはタンパク質の折り畳みを行うという重要な役割があり、それを手助けするために多数の分子シャペロンおよびフォールディング(折り畳み)酵素が連携して働いているということが明らかになっている。
細胞が外界から種々のストレス(グルコース飢餓、ウイルス感染、小胞体内腔のカルシウム濃度の低下、重金属摂取、低酸素状態など)を受けると、小胞体でのタンパク質の折り畳みに不具合を生じ、高次構造の異常なタンパク質が小胞体に蓄積する。この状態を小胞体ストレスという。この状態は細胞、さらには生体にとって非常に有害である。細胞はこの状態から抜け出すため、小胞体シャペロンやフォールディング酵素を転写レベルで誘導して小胞体内の折り畳み容量を高めたり(unfolded protein response;UPR)、タンパク質合成を抑制して小胞体の負荷を軽減したり、構造異常タンパク質を分解するといった応答を示し、小胞体への異常タンパク質の蓄積を解消しようとする。しかし、これらが破綻すると、細胞はアポトーシスにより死を迎える(非特許文献1)。
小胞体ストレスと疾患との関係で明らかとなっているものは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などに代表される神経変性疾患、インスリン依存性糖尿病(若年性糖尿病)、炎症性腸疾患などが挙げられる。これらの疾患では、多くの場合、細胞内にタンパク質が凝集体を形成している。
セリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)は、炎症や血液凝固を含む多様な病態生理学的現象や、アポトーシスおよび血管新生などの細胞機能に対して重要な役割を果たしているタンパク質のスーパーファミリーである。セルピンは、3つのβ-シート(A-C)並びに目的のプロテアーゼに対して偽基質配列(pseudosubstrate)となるペプチド配列を含む可動性の反応性ループ領域を共通の構造として保持している。
セルピンの反応性ループとβ-シートAの相互作用は、効果的なプロテアーゼ阻害作用のためには重要であるが、著しいコンフォーメーションの変位を引き起こし、セルピノパシーと呼ばれる疾患の原因となることが明らかになった(非特許文献2、非特許文献3)。すなわちセルピノパシーは、セルピンの反応性ループとβ-シートA間の分子間重合による小胞体上のタンパク質ミスフォールディングに起因する小胞体ストレスとして捉えることができる。
代表的なセルピノパシーは、α1-アンチトリプシン(α1AT)欠乏によるもので、成人において慢性肝疾患が発症する。最近の研究から、小胞体内の変異α1-アンチトリプシン(α1ATZ)分子が肝細胞毒を引き起こすことが明らかにされた(非特許文献4、非特許文献5)。変異による構造変化により、α1ATZ分子の反応性ループが第二のα1ATZ分子に挿入されやすくなり二量体を形成する。α1ATZ分子はさらに重合体となり、肝臓の小胞体内で封入体となる(非特許文献6、非特許文献7)。重合過程は、ニューロセルピン封入体による家族性痴呆症のような他のセルピノパシーにおいても生じる(非特許文献8)。
セルピノパシーのような、構造異常タンパク質の凝集や重合によって生じる一連の疾患をコンフォーメーション病と称する。コンフォーメーション病にはアルツハイマー病やプリオン病、ハンチントン舞踏病などが含まれる(非特許文献9)。これらの疾患はいずれも小胞体上のタンパク質のミスフォールディングが関与している。
以上のように、小胞体ストレスやセルピノパシー、コンフォーメーション病は、いずれも異常構造タンパク質の蓄積、凝集が関与している。異常構造タンパク質の蓄積や凝集に起因する疾患の治療薬の開発や異常タンパク質の挙動の解明には、病態モデル動物が有用である。モデル動物は、異常構造タンパク質の蓄積、凝集の挙動の解明や、異常構造タンパク質の蓄積や凝集に起因する治療薬の開発において有用である。現在までにいくつかのモデル動物が公知である。
小胞体ストレスのモデル動物として2型糖尿病の「秋田マウス」が知られている(非特許文献10)。しかし、「秋田マウス」は性差があり、発症率が低いという欠点がある。
Mori, K. : Cell, 101, 451-454, 2000 Lomas, D. et al. : J. Clin. Invest., 110, 1585-1590, 2002 Lomas, D. et al. : Nat. Genetics Rev., 3, 759-768, 2002 Teckman, J. H. et al. : Hepatology, 24, 1504-1516, 1996 Perlmutter, D. H. : J. Clin. Invest., 110, 1579-1583, 2002 Lomas, D. A. et al. : Nature, 357, 605-607, 1992 Le, A. et al. : J. Biol. Chem., 267, 1072-1080, 1992 Davis, R. L. et al. : Nature, 401, 376-379, 1999 Carell, R. W. et al. : Lancet, 350, 134-138, 1997 Wang, J. et al. : J. Clin. Invest., 103, 27-37, 1999
本発明の課題は、小胞体ストレスに起因する疾患のモデルとして有用な疾患モデル動物の提供である。また本発明は、小胞体ストレスのような構造異常タンパク質の蓄積や凝集に起因する疾患の治療に有用な化合物のスクリーニング方法の提供である。
本発明者らは、メサンギウム細胞に特異的に発現する遺伝子としてメグシンを単離した(国際公開番号WO99/15652号公報([発明の開示]))。そして、メグシンを導入したトランスジェニックマウスが、メサンギウム増殖性糸状体腎炎のモデル動物として有用であることを明らかにした。すなわち、約35〜40週齢を迎えたメグシントランスジェニックマウスの腎糸球体組織では、メサンギウム細胞を主体とする著明な細胞増殖、メサンギウム基質の増生、並びに補体、免疫グロブリンから成る免疫複合体の沈着が認められ、分節性の硬化(segmental sclerosis)が観察される。このトランスジェニックマウスは、メサンギウム増殖性の病理所見を示す点でメサンギウム増殖性糸状体腎炎のモデル動物として有用である(国際公開番号WO01/24628号公報([発明の開示]、図4、5、6、7、8、9、10)、Miyata, T., : J. Clin. Invest., 109, 585-593, 2002)。
糸球体におけるメグシンの強制発現が、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の原因となることが本発明者らによって既に明らかにされた。この知見に基づいて本発明者らは、メグシンによる腎機能障害の発症機序について更に研究を進めた。そしてある種の動物では、腎臓におけるメグシン遺伝子の発現増強によって、早期に血中クレアチニン値の上昇や高血糖が観察されることを見出した。そしてこれらの動物では、メグシン遺伝子が腎臓や膵臓を含む種々の臓器で過剰発現し、腎臓および膵臓に小胞体ストレスに由来するジアスターゼ耐性PAS陽性物質を形成、腎障害および膵臓障害を呈することを認めた。この凝集物は免疫組織染色によりメグシンタンパク質を含むことが示された。したがって、メグシンを高発現する動物は、小胞体ストレスに由来する疾患のモデル動物として有用である。そして、これらの症状を示す動物に被験物質を投与し、小胞体ストレスの生成レベルを測定することによる、被験物質の小胞体ストレス生成抑制作用の評価方法を確立した。
すなわち本発明は、以下の評価方法などに関する。
〔1〕 次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物。
(a)少なくとも腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)腎臓および膵臓にジアスターゼ耐性PAS陽性物質が形成されている
〔2〕 更に次の特徴を有する〔1〕に記載の疾患モデル動物。
(c)血中クレアチニン値の上昇および高血糖症状を呈する
〔3〕 メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子が、ヒト・メグシンである〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔4〕 ヒト・メグシン遺伝子を導入されたトランスジェニック動物である〔3〕に記載の疾患モデル動物。
〔5〕 動物がラットである〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔6〕 次の工程を含む、小胞体ストレス抑制剤の評価方法。
(1)メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している非ヒト哺乳動物に被験物質を投与する工程、
(2)前記非ヒト哺乳動物における小胞体ストレスの生成レベルを測定する工程、および
(3)被験物質が小胞体ストレスの生成レベルを抑制する作用を有するとき、当該被験物質が小胞体ストレス生成抑制作用を有すると評価する工程
〔7〕 次の工程を含む、小胞体ストレスに起因する疾患に対する治療および/または予防に使用し得る化合物のスクリーニング方法。
(a)〔6〕に記載の方法によって被験物質の小胞体ストレス抑制作用を評価する工程、および
(b)対照と比較して小胞体ストレス抑制作用が大きい被験物質を選択する工程
〔8〕 小胞体ストレスに起因する疾患が腎疾患である〔7〕記載の方法。
〔9〕 小胞体ストレスがメグシンタンパク質の蓄積に起因するものであり、当該メグシンタンパク質の産生に対する被験物質の抑制効果を検定することを指標とする、〔6〕または〔7〕記載の方法。
〔10〕 〔7〕に記載の方法により選択することができる化合物を有効成分とする、小胞体ストレスに起因する疾患に対する治療および/または予防用薬剤組成物。
本発明により、メグシン遺伝子の導入による小胞体ストレス疾患モデル動物が提供された。腎臓におけるメグシン類の発現を増強したある種の動物は、腎臓および膵臓にジアスターゼ耐性PAS陽性物質が形成され、血中クレアチニン値の上昇と高血糖、および小胞体ストレスの亢進を呈する。更にこの動物は、特徴的な病理像として、糸球体上皮細胞、近位尿細管〜遠位尿細管〜集合体にかけての障害を示す。このような所見は、本発明の疾患モデル動物がよりヒトの腎不全に近い病態を呈していることを裏付けている。したがって、腎不全の原因解明に役立つものと考えられる。
本発明において、メグシン類の発現を増強した動物は、たとえばメサンギウム細胞において当該遺伝子を導入し強制発現することによって得ることができる。その他、その動物の内因性(endogenous)のメグシン遺伝子のプロモーターに作用して、メグシン遺伝子の発現を促進する化合物の投与によって、メグシン遺伝子の発現を増強することもできる。メグシン遺伝子のプロモーターや、このプロモーターに作用する薬剤の取得方法は公知である(国際公開番号WO00/43528号公報([発明の開示]))。
メグシンの発現を増強した動物は、公知のトランスジェニック動物の作製方法によって得ることができる(例えば、勝木元也編,「発生工学実験マニュアル」,(日本:講談社),1989年、日本生化学会編,「新 生化学実験講座・動物実験法」(日本:東京化学同人),1991年参照)。以下に、一般的なトランスジェニック動物の作製プロトコールに従って述べる。
ヒト・メグシンは、配列番号:1に示す塩基配列を持つDNAによってコードされる蛋白質である。その推定アミノ酸配列を、配列番号:2に示す。本発明においては、トランスジェニック動物として、ヒト・メグシンのみならず、ヒト・メグシンと機能的に同等な機能を有する蛋白質をコードするDNAを導入した動物を用いることができる。本発明において機能的に同等とは、ある種の動物における発現を増強したときに、当該動物に腎臓または膵臓に小胞体ストレスに由来するタンパク質の蓄積をもたらす作用を有していることを言う。本発明において、小胞体ストレスに由来するタンパク質の蓄積を呈する動物は、メグシン類の発現の増強によって目的とする症状を発現する動物であれば制限されない。本発明における望ましい動物は、ラットである。
このような蛋白質としては、たとえば他の種におけるメグシンのホモログを示すことができる。メグシンのホモログには、たとえばラット・メグシン、そしてマウス・メグシンの構造が本発明者らによって明らかにされている(国際公開番号WO99/15652号公報参照)。ラットメグシンの塩基配列、並びにアミノ酸配列を配列番号:3、および配列番号:4に、そしてマウス・メグシンの塩基配列、並びにアミノ酸配列を配列番号:5、および配列番号:6に示す。
また、一般に、真核生物の遺伝子はヒトインターフェロン遺伝子で知られているように多形現象を示すことが多い。この多形現象によって、アミノ酸配列に1個あるいはそれ以上のアミノ酸の置換を生じても、通常蛋白質の活性は維持される。また一般に、1個または数個のアミノ酸の改変では、蛋白質の活性は維持される場合が多いことが知られている。従って、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6のいずれかに示されるアミノ酸配列を人工的に改変したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子は、該蛋白質が腎機能に障害をもたらす限り、すべて本発明に利用することができる。
蛋白質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その機能が保持される限り制限されない。変異数は、一般に30%以内、または20%以内、たとえば10%以内である。より好ましい変異数は、全アミノ酸の5%以内、または3%以内である。特に好ましい変異数としては、全アミノ酸の2%以内、あるいは全アミノ酸の1%以内を示すことができる。本発明の機能的に同等な蛋白質には、複数のアミノ酸として数個のアミノ酸の変異を置換する場合が含まれる。数個とは、たとえば5、更には4または3、あるいは2、更には1のアミノ酸をいう。
蛋白質の機能を維持するために、置換されるアミノ酸は、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、以下に示すような各グループに属するアミノ酸は、そのグループ内で互いに似た性質を有するアミノ酸である。これらのアミノ酸をグループ内の他のアミノ酸に置換しても、蛋白質の本質的な機能は損なわれないことが多い。このようなアミノ酸の置換は、保存的置換と呼ばれ、蛋白質の機能を保持しつつアミノ酸配列を変換するための手法として公知である。
非極性アミノ酸:Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、およびTrp
非荷電性アミノ酸:Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、およびGln
酸性アミノ酸:Asp、およびGlu
塩基性アミノ酸:Lys、Arg、およびHis
以下、ヒト、ラット、あるいはマウスに由来するメグシンと、その機能的に同等な機能を有する蛋白質を総称してメグシン類と記載する。なおメグシン類としてマウスに由来するメグシンをコードするDNAをラットに導入する場合であっても、人為的に導入したラットに由来するDNAは外来性のDNAである。しかしながら、このトランスジェニック動物を小胞体ストレスに起因する疾患のモデル動物として、ヒトにおける治療剤に有用な化合物のスクリーニングを行うには、ヒト・メグシンのDNAを用いるのが有利である。トランスジェニック動物の体内でヒト・メグシンに対する影響を、より忠実に反映できる可能性が期待できるためである。
また、アミノ酸に対するコドンはそれ自体公知であり、その選択は任意である。例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、常法に従いコドンを決定できる(Grantham, R. et al. : Nucleic Acids Res., 9, r43, 1981)。従って、コドンの縮重を考慮して、塩基配列を適宜改変したDNAもまた本発明のDNAに含まれる。DNAの塩基配列は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した部位特異的変位導入法(sitespecific mutagenesis)によって改変することができる(Mark, D.F. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, 5662, 1984)。
更に、配列番号:1、配列番号:3、および配列番号:5のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとハイブリダイズすることができ、かつそのDNAによってコードされる蛋白質が小胞体ストレスをもたらす限り、そのDNAは本発明によるDNAに含まれる。ストリンジェントな条件下で特定配列にハイブリダイズすることができる配列は、特定配列がコードする蛋白質と類似した活性を持つものが多いと考えられる。ストリンジェントな条件とは、洗浄のための条件として通常「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度、さらに厳しい条件として「0.1xSSC、0.1% SDS、55℃」程度を示すことができる。加えて、本発明におけるメグシン類をコードするDNAは、トランスジェニック動物に小胞体ストレスをもたらす限り、その断片を利用することもできる。
本発明においてトランスジェニック動物の作製に用いられるメグシン類をコードするDNAは、本明細書に開示した塩基配列に基づいて公知の方法により得ることができる。たとえば、メサンギウム細胞のcDNAライブラリーを配列番号:1、配列番号:3、あるいは配列番号:5に示した塩基配列からなるDNAをプローブとしてスクリーニングすることにより、メグシン類をコードするcDNAの単離が可能である。またこのcDNAライブラリーを鋳型として、配列番号:1、配列番号:3、あるいは配列番号:5に示した塩基配列に基づいて設定したプライマーを用いてPCRを行うことによって、メグシン類をコードするDNAを増幅することができる。増幅生成物は、公知の方法に基づいてクローニングする。
メグシン類をコードするDNAは、この遺伝子を導入すべき動物の細胞において発現可能なプロモーターに連結した組み換え遺伝子コンストラクトとするのが有利である。本発明の組み換え遺伝子コンストラクトは、適当な宿主を利用してクローニング可能なベクターに、前記メグシン類をコードするDNAと、その上流にプロモーターとを挿入し、クローニングすることによって構築することができる。本発明に利用することができるプロモーターとしては、マウスやラットなど、幅広い脊椎動物で外来遺伝子の発現を誘導できるニワトリβアクチン・プロモーターを示すことができる。
また、外来遺伝子の発現を増強するために、エンハンサーを組み合わせることができる。たとえば、CMVに由来するエンハンサーは、哺乳動物における外来遺伝子の発現を増強することが知られている。
これらの遺伝子から構成される組み換え遺伝子コンストラクトの構築にあたり、エンハンサーとプロモーターを備え、更にその下流に外来遺伝子挿入用のマルチクローニングサイトを配置したベクターを用いることができる。このような構造を持つベクターは、例えばpCAGGS等をもとに実施例に示すような方法によって構築することができる(例えば、Niwa, H. et al. : Gene, 108, 193-200, 1991)。このベクターは、マルチクローニングサイトの下流にウサギβグロビン・ターミネーターが配置されており、挿入された外来遺伝子の発現効率の向上に貢献する。
適当な制限酵素によって前記ベクターから切り出した組み換え遺伝子コンストラクトは、十分に精製されトランスジェニック動物の作製に用いられる。トランスジェニック動物は、未受精卵、受精卵、***およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに、前記コンストラクトを導入することによって作製される。コンストラクトを導入する細胞としては、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階、より具体的には単細胞あるいは受精卵細胞の段階で、通常8細胞期以前のものが利用される。コンストラクトの導入方法としては、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等が公知である。さらに、こうして得られた形質転換細胞を上述の胚芽細胞と融合させることによりトランスジェニック動物を作製することもできる。
コンストラクトを導入する細胞は、トランスジェニック動物の作製が可能なあらゆる非ヒト脊椎動物に由来する細胞であることができる。具体的には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、イヌ、あるいはネコ等の細胞を利用することができる。たとえばラットにおいては、***誘発剤を投与したメスのラットに正常なオスのラットを交配させることにより、コンストラクトの導入が可能な受精卵を回収することができる。ラット受精卵では、一般に雄性前核へのマイクロインジェクションによりコンストラクトが導入される。コンストラクトを導入した細胞は、体外での一晩程度の培養の後、導入に成功したと思われるものが代理母の卵管に移植され、トランスジェニックキメラ動物が誕生する。代理母には、精管を切断したオスと交配させて偽妊娠状態としたメスが利用される。
生まれたトランスジェニックキメラ動物は、その体細胞の遺伝子を解析することによって、ゲノムに外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)が組み込まれていることを確認した上で、F1動物の誕生のために正常な動物と交配させる。このとき、望ましくは、より多くのコピー数を持つ個体を選択するようにする。一般にコンストラクトとして導入した外来性のDNAは、ゲノムの同一の部分に複数コピーが直列に組み込まれる。通常はこの組み込みコピー数が多いほど、多量の遺伝子発現につながり、より明瞭な発現型が期待できるためである。体細胞ゲノムにおいて、外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)が正しい方向で組み込まれていることは、コンストラクトに特異的なプライマーを用いたPCRによって確認することができる。また、ドットブロット法によって、コピー数の相対的な比較が可能である。
この交配の結果誕生するF1動物の中で、体細胞に外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)を備えるものは、ヘテロザイゴート(heterozygote)ながら生殖細胞に外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)を伝えることができるトランスジェニック動物である。したがって、F1動物の中から体細胞に外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)を保持するものを選び、これらを両親とするF2動物を誕生させることができれば、外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)をホモで保持するホモザイゴート動物(homozygote animal)がF2動物として得られる。
本発明の小胞体ストレスを伴う疾患モデル動物には、外来性のメグシン類のDNAを発現するものである限り、これらトランスジェニック動物のいずれの世代であっても、利用することができる。たとえば、メグシン類のDNAをヘテロで保持するトランスジェニック動物であっても、この外来性のメグシン類がメサンギウム細胞で発現すれば、小胞体ストレスを伴う疾患モデル動物として有用である。
トランスジェニック動物が小胞体ストレスを有することは、小胞体ストレスを有しない状態にある動物に、小胞体ストレス(グルコース飢餓や低酸素状態)を与え、対照と比較することによって確認することができる。対照には、小胞体ストレスを持たないことが明らかな動物を用いる。たとえば、野生型のラットは、対照として好ましい。
一般に、小胞体ストレスは、抗小胞体ストレスタンパク質をマーカーとして検出することにより知ることができる。たとえば抗小胞体ストレスタンパク質として分子量150kDaのORPであるORP150や、分子量78kDaのGRPであるGRP78を挙げることができる。
細胞は低酸素状態に曝されるとOxygen-Regulated Proteins(ORPs)と総称される一連のストレスタンパク質が誘導される(Heacock, C. S. et al. : Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 12, 1287-1290, 1986)。また、グルコース飢餓条件ではGlucose-Regulated Proteins(GRPs)と呼ばれるストレスタンパク質が発現する(Lee, A. S., Curr. Opin. Cell. Biol., 4, 267-273, 1992)。これらのストレスタンパク質は、小胞体ストレスに起因するアポトーシスを抑制する因子として働いていることが知られている。したがって、小胞体ストレス状態下ではこれらのストレスタンパク質の発現が多くなっている。ゆえに、ストレスタンパク質を観察することにより、小胞体ストレスの程度を知ることができる。ORP150やGRP78に対する抗体は公知であり、組織免疫染色などの常法により検出可能である。
本発明の疾患モデル動物は、
(a)少なくとも腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)腎臓および膵臓にジアスターゼ耐性PAS陽性物質が形成されている。
メグシン類の発現が増強し、血中クレアチニン値の上昇および高血糖症状を呈することに加え、小胞体ストレスが亢進していることを特徴とする。このような特徴を有する疾患モデル動物は、小胞体ストレスに起因する疾患のモデル動物として有用である。
すなわち本発明は、少なくとも腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強された、小胞体ストレスに起因する疾患のモデル動物を提供する。あるいは本発明は、少なくとも腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現を増強する工程を含む、小胞体ストレスに起因する疾患のモデル動物の製造方法に関する。本発明のモデル動物は、好ましくはラットである。本発明のモデル動物は、上記特徴(a)および(b)を有し、小胞体ストレスが亢進した病態を呈する。
また、本発明の疾患モデル動物は、メグシンが過剰発現し、腎臓や膵臓に蓄積し小胞体ストレスとなる結果、腎障害および糖尿病を呈する。メグシンはセルピンの1種である。したがって、本発明の疾患モデル動物は、セルピンの蓄積による疾患、いわゆるセルピノパシーに対するモデル動物としても有用である。
セルピノパシーのモデル動物は、α1アンチトリプシン重合体については知られていたが(Lomas, D. A. et al. : J. Clin. Invest., 110, 1585-1590, 2002)、このものは肝障害を呈する。また、セルピノパシー自体も肝障害(Perlmutter, D. H. et al. : J. Clin. Invest., 110, 1579-1583, 2002)と神経変性が知られているだけで(Davis, R. L. et al. : Nature, 401, 376-379, 1999)、本発明の疾患モデル動物に見られるような腎障害や糖尿病を呈するセルピノパシーは確認されていなかった。また、小胞体ストレスのモデル動物としては、前述の「秋田マウス」の他に、ORP150トランスジェニック動物が公知である(特開2001−8575号)。しかし、このトランスジェニック動物は心筋症を発症しており、腎障害や糖尿病は認められない。
腎障害や糖尿病を発症するセルピノパシーは、本発明の疾患モデル動物によってはじめて確認された。ゆえに、本発明の疾患モデル動物は、腎障害や糖尿病の発症機序を解明するためのツールとして有用であるばかりでなく、全く新しい作用機序に基づいた腎障害・糖尿病治療薬の開発を提供することができる。
本発明の疾患モデル動物は小胞体ストレスを呈する。小胞体ストレス状態をもたらした原因には関わらず、小胞体ストレスとなった動物は小胞体ストレス状態のモデルとして有用である。具体的には、小胞体ストレスによって生体にもたらされる様々な障害を観察することができる。また小胞体ストレスによる障害を緩和するための治療方法も、モデル動物を用いて研究することができる。
本発明のモデル動物は、短期間で高頻度に小胞体ストレス状態を再現できることから、小胞体ストレスの発生機序、小胞体ストレスの予防または治療についての研究に貢献する。具体的には、本発明のモデル動物によって、小胞体ストレス発生機構の解明や、小胞体ストレスに起因する疾患の治療薬開発のための大規模な薬剤スクリーニングを実現することができる。
本発明の疾患モデル動物を利用して、小胞体ストレスに対する被験物質の治療効果を評価することができる。本発明による評価方法は、次の(1)〜(3)の工程を含む、小胞体ストレスの抑制効果を評価する方法に関する。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験物質を投与する工程、および
(a)少なくとも腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)腎臓および膵臓にジアスターゼ耐性PAS陽性物質が形成されている
(2)前記非ヒト哺乳動物における小胞体ストレスの生成レベルを測定する工程、ならびに
(3)被験物質が小胞体ストレスの生成レベルを抑制する作用を有するとき、当該被験物質が小胞体ストレス生成抑制作用を有すると評価する工程。
また本発明の腎不全モデル動物を利用して、小胞体ストレスに起因する疾患のための治療用化合物のスクリーニングを実施することができる。本発明のスクリーニング方法は、前記評価方法によって被験物質の小胞体ストレスに起因する疾患を修復する活性を測定し、被験物質を投与しない対照と比較して、前記活性が大きい化合物を選択することによって実施することができる。
本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、小胞体ストレスの回復の程度は、ストレスタンパク質を指標として評価することができる。たとえば次のようなストレスタンパク質が知られている。これらのストレスタンパク質を測定するための方法も公知である。
ORP150
GRP78
GRP95
GRP170
また、本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、小胞体ストレスの回復の程度は、小胞体ストレスがメグシンタンパク質の蓄積に起因するものであり、当該メグシンタンパク質の産生に対する被験物質の抑制効果を検定することを指標として評価することができる。
さらに、本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、小胞体ストレスに起因する疾患の治療効果の程度は、各疾患に対応する各種マーカーを指標として評価することができる。より具体的には、糖尿病の場合は、血糖値や尿糖のレベルなどを指標として、糖尿病に対する治療効果を知ることができる。小胞体ストレスに起因する疾患としては、糖尿病のほか、アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病(ハンチントン舞踏病、Machado-Joseph病)などの神経変性疾患が挙げられる。
また、本発明の疾患モデル動物は、セルピンの一種であるメグシンを過剰発現し、蓄積することから、セルピンのコンフォーメーション変化に由来する疾患であるセルピノパシーのモデル動物としても有用である。
一方、人口の高齢化とともに、神経変性疾患の増加が大きな社会問題となっている。このような疾患は、成人における発症、慢性進行性経緯、明瞭な臨床表現型、ニューロンのサブセットに関与する特異的細胞異常、および最終的に致命的な結果を特徴とするものとして定義されている。神経変性疾患の例として、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病などが挙げられる。このような神経変性疾患では完全な治癒を期待することはできず、治療は専ら疾患の管理に限定せざるを得ない。病態の解明と治療薬の開発には疾患モデル動物が必須である。
本発明の疾患モデル動物は、腎上皮細胞でメグシンの重合が生じ、小胞体ストレスから腎障害を呈する。腎上皮細胞はタンパク尿や腎機能低下に極めて重要な役割を果たしていることが指摘されており、研究、創薬上の重要なターゲットとなっている。しかしながら、これまでは、抗体や薬剤(ピューロマイシン)投与による腎上皮細胞障害モデルしか知られていなかった。本発明の疾患モデル動物は、はじめての自然発症腎上皮細胞障害モデルであり、腎疾患治療薬の開発に極めて有用である。
また、本発明の疾患モデル動物は、神経細胞でメグシンの小胞体内重合による神経変性(小胞体ストレスによる神経細胞のアポトーシス)が確認された。したがって、本発明の疾患モデル動物は、かかる神経変性疾患の病態生理や当該疾患に対する治療薬を開発評価する上で有用である。
被験物質を投与する前後で、各疾患に対応する指標の観察結果を比較することにより、被験物質の治療薬としての有効性を評価することができる。あるいは、同系のトランスジェニック動物を用いれば、動物の間でこれらの指標の観察結果を比較することによって、被験物質間の有効性を比較することもできる。
本発明のスクリーニングに用いる被験物質としては、例えば、天然または合成化合物、各種有機化合物、天然または合成された糖類、蛋白質、ペプチド、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、あるいは菌体成分などを挙げることができる。この他、メグシン類の発現を制御するアンチセンス核酸や、メグシン類の活性抑制が期待される抗メグシン類抗体を被験物質とすることもできる。これらの被験物質は、本発明の疾患モデル動物に、経口的に、あるいは非経口的に投与される。
被験物質は、小胞体ストレスの発症前および/または発症後に疾患モデル動物に投与することができる。しかし、各疾患に対してより特異的に作用する化合物を見出すためには、これらの症状を呈した後に被験物質を投与するのが好ましい。被験物質の投与のタイミングを変えて、小胞体ストレスに対する作用を比較することにより、より効果的な投与時期を明らかにすることもできる。
本発明のスクリーニング方法によって選択された被験物質は、更に安全性や安定性などを試験したうえで、小胞体ストレスの修復のための治療用医薬組成物の有効成分とすることができる。本発明の医薬組成物は、公知の製剤学的製造法により製剤化して投与することができる。また有効成分である化合物自体を直接投与することもできる。製剤化する場合は、例えば、薬剤として一般的に用いられる媒体または担体と適宜組み合わせて投与することができる。
また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、鼻腔内投与、気管支内投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、患部への直接投与などの方法で行うことができる。投与量は、患者の体重、年齢、健康度、あるいは投与方法などの条件によって変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することができる。
すなわち、たとえば本発明の疾患モデル動物において、小胞体ストレスに対する治療効果を、様々な投与量の間で比較することにより有効濃度が決定される。そして、上記のような各投与ルートによって、腎における投与化合物の濃度がその有効濃度に達するような投与量を経験的に決定する。一般的な投与形態においては、有効成分が全身に分布するものとして、体重1kg当たりの投与量を決定する。実験動物における薬物動態の解析結果に基づいて腎移行性が高いと考えられる化合物であれば、投与量をより低く設定することができる。
本発明の医薬組成物は、決定された投与量と投与形態とを考慮して、媒体や担体と配合される。必要な投与量を達成することができるように有効成分を配合することは、当業者が通常行っている。本発明による医薬組成物の投与量は、体重1kgあたり通常1μg〜20g、より一般的には10μg〜500mgとすることができる。また、注射剤の場合は経口投与の10分の1〜100分の1程度を投与量の目安とすることができる。さらに特殊な製剤設計を施すことにより、投与量を調整することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、適当な担体に保持することによって徐放化製剤とすることもできるが、このような製剤においては、高い血中濃度を維持することができるので、配合量を低く設定することができる。
本発明の疾患モデル動物の使用により、神経変性疾患の治療用化合物のスクリーニングアッセイを実施することができる。被験物質が、神経変性疾患を特徴付ける食欲不振、運動協調欠失などの少なくとも1つのパラメータまたは症状を調節するか、またはそれに対する効果を有する場合に、神経変性疾患に関する活性を有すると判断される。本発明において神経変性疾患に関する活性とは、神経変性疾患の症状の程度を減少または増強することをいう。従って、本発明のスクリーニング法を使用すれば、例えば、神経変性疾患の進行に関与するタンパク質またはペプチドに結合してその活性を調節、増強または抑制することにより、神経変性疾患の進行を調節する化合物、および/または、疾患の表現型症状を寛解、軽減またはさらには除去する化合物を同定することができる。さらに、本発明のスクリーニング法は、神経変性状態に対する効果の欠如している薬物を決定するためのスクリーニングとしても実施することができる。 以下本発明を実施例として更に具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
[実施例1]組み換え遺伝子コンストラクト
CMVのエンハンサーとニワトリβアクチン・プロモーターのハイブリッドであるCAGプロモーターの制御下にヒト・メグシン cDNAを発現する発現ベクターを以下のように構築した。まず、ヒト・メグシンの開始コドンの直前の塩基配列をKozak配列(GCCGCC)に置換するため、センスプライマー(B44F:
5'-ATGGATCCGCCGCCATGGCCTCCCTTGCTGCAGCAAATGCAGAG-3'/配列番号:7)およびアンチセンスプライマー(H30-R:5'-TATCCTGAGGCAGTGTTAACATGAAG-3'/配列番号:8)を用いて、ヒト・メグシン cDNAを含むプラスミド(pUC-MEGSIN)(国際公開番号WO99/15652号公報参照)を鋳型にPCRを行い、開始コドン直前が Kozak配列に置換されたヒト・メグシン cDNAの5'断片を増幅した。pUC-MEGSINを制限酵素 BamHIおよびHpaIで切断し、メグシンcDNA の開始コドンを含む約180bpの断片を取り除き、PCRで得られた断片を挿入して、Kozak配列に置換されたヒト・メグシン cDNAを持つプラスミドを構築した。
大腸菌JM109に形質転換しクローニングした後、プラスミドを制限酵素 BamHIおよびHindIIIで切断し、得られたメグシン全長を含む1.2kbの断片を精製し、TaKaRa Blunting Kit(宝酒造製)を用いて平滑末端化した。pBsCAG-2(Kawarabayashi T, Shoji M, Sato M, Sasaki A, Ho L, Eckman CB, Prada C-M,Younkin SG, Kobayashi T, Tada N, Matsubara E, Iizuka T, Harigaya Y, Kasai K and Hirai S (1996) Accumulation of β-amyloid fibrils in pancreas of transgenic mice. Neurobiol. Aging 17, 215-222)をEcoRIにより切断して直鎖にした後、同様に末端を平滑化し、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により脱リン酸化処理を行った。このプラスミドに上記の1.2kbの断片をライゲーションして組換えプラスミドを作製し、大腸菌JM109に形質転換しクローニングした。挿入されたヒトMEGSIN cDNAの方向性がchicken beta-actin promoterと同じクローンをシークエンシングにより選抜し、この組換えプラスミドをpBsCAG/Megsinとした(図1B)。なお、pBsCAG-2は、pCAGGS(Niwa H, Yamamura K and Miyazaki J (1991) Efficient selection for high-expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene 108,193-200、CMVエンハンサーおよびニワトリβアクチン・プロモーターおよびウサギβグロビン・ターミネーターを持つ)のSalI-PstI断片を pBluescript II SK(-)(Invitrogene社)のSalI-PstI部位に組込んで作製された(図1A)。
pBsCAG/Megsinを制限酵素 ScaI、SalI、およびNotIで切断し、アガロースゲル電気泳動後、メグシンcDNA を含む約3.4kbの断片を切り出して回収し、トランスジェニックラットの作製に使用した(図1B)。
[実施例2]トランスジェニックラットの作製
インジェクションの3日前の夕方にPMSG(妊馬血清ゴナトロピン)を8〜20週齡の雌ラット(Wistar)に腹腔投与し、その2日後の夕方にhCG(ヒト胎盤性ゴナトロピン)を腹腔投与した。これに続き、8〜20週齡の雄ラット(Wistar)を1匹ずつゲージに入れ交配を開始した。交配の翌日の午前中に膣栓の検査を行い、膣栓が確認できた雌ラットを頚椎脱臼により屠殺後、輸卵管を単離し、ヒアルロニターゼ添加したWhitten培養液に移した。輸卵管から卵を排出させ、実体顕微鏡下で受精卵を分離し、洗浄した。
微分干渉装置(ノマルスキー装置)付きの倒立顕微鏡に、マニピュレータを組み合わせたシステムを用い、穴あきスライドグラス上の培養液滴に5〜30個の受精卵を移動し、一つの受精卵あたり約2,000コピーの上記で調製したDNA断片を含む2pLのDNA溶液を雄性前核にマイクロインジェクションした。DNA注入が終了した卵は、卵管に移植するまで培養した。移植部位は胚の発生段階で異なり、1〜2細胞期の胚は卵管内へ、8細胞期〜胚盤胞期の胚は子宮内へ移植した。
胚移植操作に先立ち、レシピエントメスの黄体の活性化処理を行い、偽妊娠を誘起させた。すなわち、発情前期のメスを精管結紮したオスと不妊交尾させた。移植胚の出産予定日は、レシピエントメスの膣栓のついた日を第1日とし、第20日目として計算した。卵管内へ移植する場合は、1細胞期および2細胞期の胚とも、ネンブタール麻酔下で偽妊娠一日目のレシピエントラットの卵管内に実体顕微鏡下で移植した。片側卵管あたり10個程度の胚を移植した。子宮内に移植する場合は、体外培養によって桑実胚期から胚盤胞期まで発生させた胚を、ネンブタール麻酔下の偽妊娠を誘起しておいたレシピエントラットの子宮内に移植した。レシピエントラットの偽妊娠日齢は胚の日齢よりも1日若く計算した。外見から胎仔の数を判断し、胎仔の数が5匹以上と予想された場合は自然分娩、4匹以下ならば帝王切開を行った。生まれたラットは、生後3〜4週の間に親から離し、雌雄を分けて飼育した。
[実施例3]トランスジェニックラットの選択
生後4週齡以降に尾の一部を切断し、キット(Qiagen tissue kit; Qiagen社)を用いてゲノムDNAを抽出した。これを鋳型にして、導入遺伝子断片のPCRによる増幅を行った。増幅には、CMV-F1プライマー(5'-GTC GAC ATT GAT TAT TGA CTA G-3'/配列番号:9)と CMV-R1プライマー(5'-CCA TAA GGT CAT GTA CTG-3'/配列番号:10)、β-gl-3プライマー(5'-CTT CTG GCG TGT GAC CGG CG-3'/配列番号:11)とhM2-2プライマー(5'-ATC GAA TTC TGA GAT CAT AAT CCC TGT GGG ATG C-3'/配列番号:12)、およびhM8-1プライマー(5'-TTA TTC AGT GGC AAA GTT TCT TGC CCT TGA-3'/配列番号:13)とβ-globinRプライマー(5'-TCG AGG GAT CTT CAT AAG AGA AGA G-3'/配列番号:14)の3対のプライマーを用い、3対のプライマーによるPCRの全てで増幅産物が得られる個体を選別した。得られたF0世代を、正常個体(Wistar)と交配させF1世代を得、さらにヘテロのF1同士を掛け合わせてF2を得た。
[実施例4]ヒト・メグシン遺伝子の発現解析
ヒト・メグシン遺伝子のノーザンブロット解析を以下のようにして行った。ヒト・メグシン遺伝子をインサートとして含むpBsCAG-2のBgl II/BamH I断片をランダムDNAラベリングによってRI標識し、プローブとした。この断片はベクターのpoly Aシグナル近辺に相当する。ラットの腎メサンギウム細胞から抽出した全RNA(10μg)を2.2 Mホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲルで分離し、ニトロセルロースフィルターへ転写した。フィルターをハイブリ溶液中でハイブリダイズさせた。ハイブリダイズ後に、55℃で0.1×SSC/0.1%SDSの最終ストリンジェンシーで洗浄した。
実験用に用いたラットは、トランスジェニックラットと同腹の正常ラット(非トランスジェニックラット)である。
得られた結果を図2〜図4に示した。図2は臓器別の発現比較、図3および4は腎臓と肝臓でのヘテロとホモの発現比較の結果を示したものである。トランスジェニックラットにおいて、外来遺伝子であるヒト・メグシン遺伝子が強く発現していることが確認できた(図2)。また、ホモ個体はヘテロ個体に比べ発現量が増加していることが確認でき、また、腎臓での発現が肝臓よりも強いことが明らかになった(図3および図4)。
[実施例5]ウェスタンブロット解析
トランスジェニックラットのヒトメグシン発現は、ウサギ抗ヒトメグシンペプチド抗体を用いた組織抽出液のウェスタンブロット分析により確認した。
組織試料(10μg)を、10%のSDS、36%のグリセロール、5%のβ-メルカプトエタノール、および0.012%のブロムフェノールブルーを含有する0.35Mのトリス塩酸(pH6.8)100μLでホモジナイズし、15,000gで10分間、遠心分離した。一次抗体としてウサギ抗ヒトメグシンペプチドIgG(5μg/mL)、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(Cappel)を用いてメグシンタンパク質を検出した。陽性対照として、CHO細胞で発現した精製組換えメグシンを用いた。陰性対照として抗アクチン抗体(シグマ)を用いた。メグシン蛋白質の発現は、腎臓、心臓、膵臓で比較的高く、脳と肝臓では低かった(図5)。メグシントランスジェニックラットは、複数の臓器においてメグシンが発現し、早期に死亡した。ホモ体の体重は増えず、10週以内に死亡した。一方、ヘテロ体は、少なくとも生後10週以内は、通常の成長曲線および生存率を有していた。
[実施例6]抗メグシン抗体の作製
ウサギ抗ヒトメグシンポリクローナル抗体は、従来の方法により作製した。免疫組織染色用のメグシンに対するモノクロナール抗体は、下記の方法により作製した。CHO細胞由来の組換えメグシンをBalb/cマウスに免疫した。免疫したマウスの脾臓細胞とSP2/0細胞(マウス骨髄腫細胞株)を細胞融合し、得られたハイブリドーマの上清につき、酵素免疫測定法(ELISA)を用いてメグシン抗体のスクリーニングを行った。すなわち、96ウェルのポリスチレンELISAプレート(Nalge Nunc International)をメグシン(100 ng/well)でコートし、室温で1時間、25%のブロックエース(大日本製薬)含有ダルベッコのPBS(D-PBS)の存在下でインキュベートした。0.05%のTween20含有D-PBS(D-PBST)で、ウェルを洗浄した後、各ハイブリドーマの上清100μLを各ウェルに添加した。ウェルをD-PBSTで洗浄後、2時間室温でペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Chemicon)を加え、室温で2時間インキュベートした。Mckvaineバッファ(pH5.0)に0.006%のH2O2(和光純薬工業)および0.4mg/mLのo-フェニレンジアミン(Nacalai Tesque)を含有する溶液をウェルに添加後、インキュベートし発色させた。492nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(V-max:Molecular Device)を用いて測定した。ELISAで陽性であったハイブリドーマについては、限外希釈法によりクローニングした。
[実施例7]メグシンペプチド抗体を利用した腎臓組織に対する免疫組織染色(イムノヒストケミスト)
メグシンペプチド−2抗体は、公知の方法(Inagi,R. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun., 286, 1098-106, 2001)により調製した。
メグシントランスジェニックラットから腎臓組織を採取した。腎臓組織は、常法に従い、凍結組織包埋剤(OCT compound)を用いて包埋した。この凍結包埋組織からフリオスタットを用いて4μmの凍結切片を作製した。この凍結切片を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマ製)でコートしたスライド上にマウントした(4%パラホルムアルデヒド固定、15分)。
凍結切片を0.5%のTween20を含有するPBSで洗浄し、4%のスキムミルクでブロッキング後、4℃の加湿チャンバー内で抗メグシンペプチド-2抗体と1晩インキュベートした。組織切片を洗浄し、1:100に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(DAKO製)を用いて室温で2時間インキュベートした。ペルオキシダーゼの検出には、0.003%の過酸化水素水を含有する3,3'-ジアミノベンジジン溶液を用いた。細胞核は、ヘマトキシリンで染色した。ヘマトキシリン/エオシン染色は、公知の方法により実施した。
メグシントランスジェニックラットの腎臓組織に対して組織免疫染色した顕微鏡写真(ニコン製ECLIPSE E400)を図6〜図8に示す。図から明らかなように、トランスジェニックラットの腎臓は、全領域でヒトメグシン抗体と反応し、特に糸球体上皮細胞および尿細管上皮細胞の一部(遠位尿細管)に認められるPAS陽性物質が著明な陽性染色を呈した。
[実施例8]血清中および尿中生化学データの測定
本発明のメグシントランスジェニックラットは、既に知られているメグシントランスジェニックマウス(国際公開番号WO01/24628号公報参照)とは、全く異なる表現型を呈する。そのことを実験的に確認した。野生型ラット、メグシントランスジェニックラット(ホモ)およびメグシントランスジェニックマウスにつき、以下の項目を測定した。
血清:総蛋白(TP:Biuret法)、総コレステロール(Tcho:酵素法)、尿素窒素(BUN:ウレアーゼUV法)、クレアチニン(Cr:アルカリピクリン酸法)、メグシン(ELISA法)。
尿(24時間蓄尿):総蛋白(TP:ピロガロールレッド法)、尿素窒素(BUN:ウレアーゼUV法)、クレアチニン(Cr:アルカリピクリン酸法)、ナトリウム(Na:電極法)、メグシン(ELISA法)。
なお、血清中メグシンの測定は、次のようにして行った。メグシントランスジェニックラットからヘパリン採血を行い、遠心後血清を分離した。固相用抗体であるウサギポリクローナル抗メグシン抗体(IgG画分)を2μg/mlに希釈し、96穴ELISA用プレート(F96 MAXSOPRP NUNC-IMMUNOPLATE: NUNC)の各ウェルに100μL/wellづつ添加して4℃で一夜放置した。洗浄緩衝液:0.05%(w/v)Tween20含有PBS(-)(Tween-PBS)で洗浄し、ブロックエース(大日本製薬)を350μl/well加えて室温1時間ブロッキングした。洗浄緩衝液で洗浄後、段階希釈したヒトリコンビナント精製メグシン又は血清検体を100μL /well分注し、室温2時間反応させた。洗浄緩衝液で洗浄後、次に、検出用抗体であるマウスモノクローナル抗メグシン抗体(IgG画分)を1μg/mlに希釈し100μL/wellずつ添加後、室温2時間反応させた。洗浄後、ALP標識抗マウスIgG抗体(Chemicon)を100μL/well加え、室温で2時間放置した。洗浄後、p-Nitrophenyl phosphate発色基質溶液(SIGMA)を100μL/wellずつ加え、室温で30分間反応させた後、3NのNaOHを100μL/wellずつ加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(日本モレキュラーデバイス製、SPECTRAmax250)で吸光度(405nm)を測定し、標準液の検量線から血清中のメグシン濃度を求めた。
測定結果を表1および表2に示す。
メグシントランスジェニックマウスではメサンギウム増殖性糸球体腎炎(腎機能正常)を自然発症することが知られている(国際公開番号WO01/24628号公報)。一方、メグシントランスジェニックラットでは、血清中および尿中生化学データから、若年で腎不全様病変(蛋白尿)を呈することが明らかになった。特に血清クレアチニン/体重が野生型のラットに比較してホモでは7.3倍上昇しており、腎不全状態を呈した。また、マウスは正常発育する(国際公開番号WO01/24628号公報)のに対し、ラット(特にホモ)では発育不全が認められた。
[実施例9]トランスジェニックラットの種々の臓器におけるPAS陽性顆粒の蓄積
8週齢のラットから腎臓を摘出し、4%中性緩衝ホルマリン液で固定し、パラフィン包埋し、厚さ4μmの切片を作製し、PAS染色を行った。その結果、糸球体上皮細胞、遠位尿細管上皮細胞、集合管の細胞質に多くのPAS陽性の顆粒が存在した(図9)。いくつかの近位尿細管上皮細胞にはさらに小さいPAS陽性の顆粒が存在した。
また、腎臓組織を4%のパラホルムアルデヒドで15分間灌流して固定し、2%のグルタルアルデヒド含有0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に12時間浸漬し、1%の四酸化オスミウム溶液で1時間固定した。エタノール脱水後、エポキシ樹脂Epon 812(TAAB)に包埋した。超薄切片を酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛溶液で二重染色し、電子顕微鏡(JEM-1200EX:JEOL)により分析した。その結果、腎臓において巨大な高電子密度の沈着物が認められ、それは常に粗面小胞体の近くに局所化していた(図10)。これらの沈着物は、糸球体上皮細胞、遠位尿細管上皮細胞と集合管に局在化した。近位尿細管上皮細胞に高電子密度の沈着物が存在したが、それらはより小さかった。腎糸球体足細胞の足突起には変化が認められなかった。
膵臓においては、ランゲルハンス島細胞や外分泌性の上皮細胞においてPAS陽性の封入体が認められ、多数のランゲルハンス島細胞の消失を伴った(図11)。腎臓と膵臓とは対照的に、肝臓や肺ではPAS陽性封入体は認められなかった。肝臓に組織学的変化は認められなかったが、肝細胞においてグリコーゲンの貯蔵が著しく減少していることがPAS染色により明らかとなった(図12)。心臓には病理学的な変化は認められなかった。
[実施例10]腎臓および膵臓におけるPAS陽性沈着物の同定
腎臓および膵臓におけるPAS陽性沈着物を同定するために、メグシンに特異的な抗体を用いて免疫組織染色を実施した。抗ヒトメグシンポリクローナル抗体を用いた免疫染色で、糸球体、尿細管上皮細胞に大きい沈着物としてメグシンの蓄積が認められた(図13)。膵臓においても同様にメグシンの沈着が確認された(図14)。
[実施例11]腎臓および膵臓におけるジアスターゼ処理後のPAS染色
PAS陽性物質がジアスターゼ耐性を示すことは、セルピノパシーの特徴のひとつである。そこで、組織切片を予め0.1%のジアスターゼ(和光純薬)により37℃で1時間処理した。ジアスターゼ処理後のPAS染色の結果を図15(腎臓)および図16(膵臓)に示す。封入体はジアスターゼに耐性を示し、セルピノパシーの組織学的特徴を呈した。
[実施例12]メグシンの凝集に関する検討
in vitroでメグシンタンパク質をインキュベーションし、凝集の有無を検討した。メグシンの凝集は、低pHにおけるnativeポリアクリルアミドゲル電気泳動後、銀染色あるいは抗メグシン抗体を用いたウェスタンブロット解析により検出した。濃縮ゲルおよび分離ゲルは、それぞれ2.8%(w/v、pH4.5)および8.0%(pH4.0)のアクリルアミドを使用した。サンプルを氷酢酸でpH4.0に調整した40mMのβ-アラニンを含有する電極液を用いたゲルに流した。本研究では、大腸菌由来のヒスチジン-タグ融合メグシンおよびCHO細胞由来c-mycタグ融合メグシンを用いた。結果を図17に示す。大腸菌由来のヒスチジン-タグ融合メグシンを60℃で1時間および3時間インキュベーションするとメグシンの凝集により、高分子量領域にバンドが検出された。
[実施例13]メグシンの凝集に関する検討
電子顕微鏡によりメグシンの局在を解析した結果、小胞体内に局在し蓄積したメグシンが小胞体ストレスを引き起こしていることが明らかとなった。メグシンの過剰発現に伴う小胞体ストレスを評価するために、小胞体ストレスに対する種々のマーカーを免疫組織染色により解析した。マーカーにはORP150とGRP78を使用し、ポリクローナルウサギ抗ORP150抗体とヤギ抗GRP78抗体を用い、間接免疫ペルオキシダーゼ法により、それぞれ検討した(Southern Biotechnology)。ヒトメグシンを検出するために、一次抗体としてウサギ抗ヒトメグシンIgG(10μg/mL)またはマウス抗ヒトメグシンモノクロナール抗体(12μg/mL)を使用した。染色した組織をヘマトキシリンで対比染色を行った(二重染色)。
上皮細胞において、メグシンの蓄積ともに、GRP78とORP150の発現が上昇していることが二重染色の結果明らかとなった(図18)。この結果は、メグシントランスジェニックラットの腎臓では、トランスジーンによる生成するメグシンの蓄積により小胞体ストレス状態であることを示すものである。
[実施例14]血漿中および尿中グルコースの測定
9週齢のラット血漿および尿について、グルコースCII・テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い測定した。ラットの血漿または尿を水で4倍希釈した試料20μLに、発色試薬150μLを添加し、室温で15分間反応させ、505nmにおける吸光度をプレートリーダーで測定し、グルコース濃度を標準曲線から算出した。
結果を表3に示す。メグシントランスジェニックラットは高血糖を呈し、糖尿病モデル動物として有用であることが確認された。
〔表3〕
血漿中および尿中グルコース濃度(平均±標準偏差)
週齢 血漿中グルコース 尿中グルコース
(週) (mg/dL) (ng/mL)
野生型(n=14) 7.4±1.2 139±31 11±4
ホモ (n=12) 6.9±0.8 676±175 566±110
[実施例15]血漿中インスリンの測定
9週齢のラット血漿5μLを、ELISA法のモリナガ超高感度ラットインスリン測定キット(森永生科学研究所)を用い測定した。プレート上の固相化抗ラットインスリンモノクローナル抗体にラット血漿5μLと検体希釈液95μLを反応させ、次に酵素標識モルモット抗ラットインスリン抗体100μlを反応させ、酵素基質溶液100μLで発色させ、停止液100μLを加え、プレートリーダーの450nmの波長から得られた吸光度に対するラットインスリン濃度を標準曲線から算出した。
結果を表4に示す。メグシントランスジェニックラットの血漿中インスリン濃度は野生型に比べ有意に低いことが確認された。
〔表4〕
血漿中インスリン濃度(ng/mL、平均±標準偏差)
週齢 インスリン濃度
(週) (ng/mL)
野生型(n=14) 7.4±1.2 3.6±2.8
ホモ (n=12) 6.9±0.8 <0.1
以下に各測定値における、本発明のモデルラットとメグシントランスジェニックマウスの比較を示す。
[実施例16]免疫電子顕微鏡
メグシンの細胞内局在を免疫電子顕微鏡により評価した。
8週齢のメグシントランスジェニックラットから腎臓を摘出し、腎臓組織を4%のパラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)で固定した。エタノール脱水後、エポキシ樹脂Epon 812(TAAB)に包埋した。超薄切片をウサギ抗ヒトメグシンペプチドIgG(10μg/mL)および15nmの金粒子のプロテイン-Aゴールドを用いて免疫染色し、電子顕微鏡(JEM-1200EX:JEOL)により分析した。
その結果、金粒子は、足細胞の膨張した粗面小胞体内の均質な高電子密度の封入体に一致して検出された(図19)。
本発明のモデル動物を用いて、腎不全の発症メカニズムや病態の解析、さらに小胞体ストレスに由来する疾患の解析が可能になる。また、本発明のモデル動物は、腎不全や小胞体ストレスに由来する疾患の治療薬の開発やスクリーニング、さらには薬剤の検定などのために有用である。
組み換え遺伝子コンストラクトの構築図を示す図である。AはpBsCAG-2の構造を示す。BはpBsCAG2/Megsin、および卵へのマイクロインジェクションに用いたDNA断片の構造を示す。 野生型ラットおよび本発明のモデルラット(ヘテロ)のノーザンブロットによる各種臓器におけるメグシンmRNAの検出を示す写真。 ラット腎臓におけるヒト・メグシン遺伝子の発現を解析したノーザンブロットの結果を示す写真。レーン1および2は野生型、レーン3および4がヘテロ、レーン5および6がホモのものである。 ラット肝臓におけるヒト・メグシン遺伝子の発現を解析したノーザンブロットの結果を示す写真。レーン1および2は野生型、レーン3および4がヘテロ、レーン5がホモのものである。 ラット各種組織におけるヒト・メグシン遺伝子の発現を解析したウェスタンブロットの結果を示す写真。 ラット(野生型)腎組織におけるメグシンに対する免疫組織染色を示す写真(100倍)。 ラット(ヘテロ)腎組織におけるメグシンに対する免疫組織染色を示す写真(25倍)。 ラット(ヘテロ)腎組織におけるメグシンに対する免疫組織染色を示す写真(50倍)。 ラット(ホモ、ヘテロ、野生型、8週齢)腎組織のPAS染色を示す写真(200倍)。 ラット(ホモ、8週齢)腎組織の電子顕微鏡を示す写真(2万倍)。 ラット(ホモ、9週齢)膵臓組織のPAS染色を示す写真(400倍)。 ラット(野生型、ホモ、9週齢)肝臓組織のPAS染色を示す写真(200倍)。 ラット(野生型、ホモ、9週齢)腎組織のメグシンに対する免疫染色を示す写真(200倍)。 ラット(野生型、ホモ、9週齢)膵臓組織のメグシンに対する免疫染色を示す写真(200倍)。 ラット(ホモ、9週齢)腎組織のジアスターゼ処理後のPAS染色を示す写真(200倍)。 ラット(ホモ、9週齢)膵臓組織のジアスターゼ処理後のPAS染色を示す写真(200倍)。 メグシンの凝集を示す写真。 ラット(野生型、ホモ、9週齢)腎組織のORP150およびGRP78に対する免疫染色を示す写真(200倍)。 免疫電子顕微鏡によるメグシンの蓄積を示す写真。図中のスケールバーは1μmである。

Claims (10)

  1. 次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物。
    (a)少なくとも腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
    (b)腎臓および膵臓にジアスターゼ耐性PAS陽性物質が形成されている
  2. 更に次の特徴を有する請求項1に記載の疾患モデル動物。
    (c)血中クレアチニン値の上昇および高血糖症状を呈する
  3. メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子が、ヒト・メグシンである請求項1に記載の疾患モデル動物。
  4. ヒト・メグシン遺伝子を導入されたトランスジェニック動物である請求項3に記載の疾患モデル動物。
  5. 動物がラットである請求項1に記載の疾患モデル動物。
  6. 次の工程を含む、小胞体ストレス抑制剤の評価方法。
    (1)メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している非ヒト哺乳動物に被験物質を投与する工程、
    (2)前記非ヒト哺乳動物における小胞体ストレスの生成レベルを測定する工程、および
    (3)被験物質が小胞体ストレスの生成レベルを抑制する作用を有するとき、当該被験物質が小胞体ストレス生成抑制作用を有すると評価する工程
  7. 次の工程を含む、小胞体ストレスに起因する疾患に対する治療および/または予防に使用し得る化合物のスクリーニング方法。
    (a)請求項6に記載の方法によって被験物質の小胞体ストレス抑制作用を評価する工程、および
    (b)対照と比較して小胞体ストレス抑制作用が大きい被験物質を選択する工程
  8. 小胞体ストレスに起因する疾患が腎疾患である請求項7記載の方法。
  9. 小胞体ストレスがメグシンタンパク質の蓄積に起因するものであり、当該メグシンタンパク質の産生に対する被験物質の抑制効果を検定することを指標とする、請求項6または7記載の方法。
  10. 請求項7に記載の方法により選択することができる化合物を有効成分とする、小胞体ストレスに起因する疾患に対する治療および/または予防用薬剤組成物。
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