JP2007277663A - 摺動材 - Google Patents
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Abstract
【課題】摺動材において、相手材との摩擦を更に抑制して、耐摩耗性と密着性とをより向上させることである。
【解決手段】基材12に積層され、基材12と密着される金属層14と、金属層14に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層16と、第1層16に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層18とを有する摺動材であって、第1層16と第2層18は、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定で形成される。金属は、Ti、Ta、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Mo、WまたはSiであることが好ましい。
【選択図】図1
【解決手段】基材12に積層され、基材12と密着される金属層14と、金属層14に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層16と、第1層16に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層18とを有する摺動材であって、第1層16と第2層18は、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定で形成される。金属は、Ti、Ta、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Mo、WまたはSiであることが好ましい。
【選択図】図1
Description
本発明は、摺動材に係り、特に、基材に積層され、基材と密着される金属層と、金属層に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層と、第1層に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層とを有する摺動材に関する。
車両、特に、自動車に用いられるコネクティングロッド、ピストンリング、滑り軸受け等の摺動材には、一般的に、硬質なセラミック系材料等を摺動面にコーティングする表面処理が施されている。そして、摺動材の摺動面にセラミック系材料等を被覆することにより、摺動面の耐摩耗性、耐焼付き性または耐衝撃性等を向上させている。
硬質なセラミック材料等は、摺動材における摺動面に、スパッタリング法またはイオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD法)や化学蒸着法(CVD法)等によりコーティングされる。このようなセラミック材料等の皮膜には、チタン系材料の皮膜であるTiC皮膜やTiN皮膜、クロム系材料の皮膜であるCrN皮膜、炭素系材料の皮膜であるダイヤモンドライクカーボン(Diamond−Like Carbon:DLC)皮膜等の硬質皮膜が用いられる。
ここで、特許文献1には、基材と、基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、保護膜は、金属層と、金属層の上に形成された金属―カーボン組成傾斜層と、金属―カーボン組成傾斜層の上に形成され、金属―カーボン組成傾斜層から離れるに従って硬度が増加する硬度変化領域を有するダイヤモンドライクカーボン層とを備える摺動部材が示されている。
上述したダイヤモンドライクカーボン層は、相手材と摺動することにより、ダイヤモンドライクカーボン層の微細構造であるグラファイト構造に起因した層状に磨り減る自己潤滑により低摩擦化を達成している。そのために、摺動材における耐摩耗性が十分に得られない場合がある。また、皮膜を薄膜の多層積層構造にした場合には、グラファイト構造でない層の存在により、相手材との摺動抵抗が高まり、摩擦係数が大きくなる可能性がある。
そこで、本発明の目的は、基材に積層され、基材と密着される金属層と、金属層に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層と、第1層に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層とを有する摺動材において、相手材との摩擦を更に抑制して、耐摩耗性と密着性とをより向上させることである。
本発明に係る摺動材は、基材に積層され、基材と密着される金属層と、金属層に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層と、第1層に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層とを有する摺動材であって、第1層と第2層は、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定で形成されることを特徴とする。
本発明に係る摺動材において、金属は、Ti、Ta、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Mo、WまたはSiであることが好ましい。
本発明に係る摺動材において、第1層は、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、炭素/金属原子比で1.7から10まで、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成されることが好ましい。
本発明に係る摺動材において、第2層は、金属と炭素とにおける所定の組成比が、炭素/金属原子比で10以上15以下であることが好ましい。
本発明に係る摺動材において、第2層の膜厚は、金属層と第1層と第2層とを合わせた膜厚の10%以内であることが好ましい。
本発明に係る摺動材において、摩擦係数が0.05以下であることが好ましい。
上記摺動材によれば、相手材との摩擦を更に抑制して、耐摩耗性と密着性とをより向上させることができる。
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、摺動材10の構成を示す断面図である。摺動材10は、基材12に積層され、基材12と密着される金属層14と、金属層14に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層16と、第1層16に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層18とを有している。
基材12には、構造用炭素鋼や構造用合金鋼等を使用することができる。構造用合金鋼には、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、マンガン鋼、マンガンクロム鋼またはアルミニウムクロムモリブデン鋼等を用いることができる。これらの構造用炭素鋼や構造用合金鋼は、焼入れ、焼戻し等の熱処理を行って、所定の硬さや強度にして用いることが好ましい。勿論、他の条件次第では、基材12は、これらの材料に限定されることはなく、超硬合金、合金工具鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金等を用いることができる。
金属層14は、上記構造用炭素鋼や構造用合金鋼等の基材12に積層されて、基材12と密着される。そして、金属層14は、基材12における表面を活性化させる機能及び基材12における界面との密着性を投錨効果により高める機能等を有している。
金属層14を構成する金属には、Ti、Ta、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Mo、WであるIV―B族、V―B族及びVI―B族の金属やSiを用いることができる。また、金属層14を構成する金属は、好ましくは、Ti、Ta、Crである。そして、金属層14を構成する金属は、更に好ましくは、材料が低コストであること等からTiである。また、金属層14を構成する金属には、IV―A族、V―A族、VI―A族等の元素を用いてもよい。
これらの金属は、基材12に含まれる炭素、窒素または酸素と化学反応して、金属炭化物、金属窒化物または金属酸化物等を形成し易いからである。そして、基材12と金属層14との界面に、上記元素の金属炭化物、金属窒化物または金属酸化物が形成されることにより、基材12と金属層14との密着性を高めることができる。勿論、他の条件次第では、金属層14を構成する金属は、これらの元素に限定されることはない。
金属層14は、数十nmの膜厚で基材12に積層される。金属層14の膜厚は、例えば、10nm以上30nm以下である。勿論、金属層14の膜厚は、上記膜厚の範囲に限定されることはない。また、他の条件次第では、金属層14に加えてまたは金属層14に代えて、TiN等の金属窒化物層、TiC等の金属炭化物、TiCN等の金属炭窒化物層を設けることができる。TiN、TiC及びTiCN等は硬質材料であるため、硬質層を追加する等により皮膜の硬さをより高めることができ、皮膜の耐摩耗性が更に向上するからである。
第1層16は、金属層14に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した層である。第1層16は、皮膜の内部応力を緩和させる機能と摩耗を抑制する機能とを有している。第1層16は、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、積層方向に対して、徐々に皮膜を軟質化させて内部応力を緩和させることができる。これは、金属が多くなると、金属と炭素との結合が増えて皮膜の硬度が高くなるからである。
第1層16は、金属層14側において硬度が高く、積層方向に対して徐々に軟質化するため、第2層18の荷重バックアップ層としての機能を有している。そのため、第2層18が摩耗した場合においても、更なる摩耗の進行を抑制することができる。また、第1層16は、金属層14側において金属の割合が多いので、金属層14との密着性を更に向上させることができる。
第1層16は、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、炭素/金属原子比で1.7から10まで、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成されることが好ましい。金属層14側における金属と炭素との組成比を、炭素/金属原子比で1.7とするのは、炭素/金属原子比で1.7より小さいと金属と炭素とが化学反応して金属炭化物が形成されることにより、第1層16と金属層14との界面に金属炭化物からなる結晶質の層が生成し、剥離の起点となる場合があるからである。また、第2層18側における金属と炭素との組成比を炭素/金属原子比で10とするのは、炭素/金属原子比で10より大きい場合には密着性が低下するからである。勿論、他の条件次第では、金属と炭素との組成比は、上記組成比の範囲に限定されることはない。
第1層16および第2層18の密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定で形成されることが好ましい。このように、第1層16を、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定であることにより、皮膜中の密度の差による割れ、剥離を抑制することができ、皮膜の耐摩耗性や密着性を向上させることができる。勿論、他の条件次第では、密度は、上記の範囲に限定されることはない。また、第1層16の膜厚は、1μm以上3μm以下とすることが好ましい。勿論、第1層16の膜厚は、上記膜厚の範囲に限定されることはない。
第1層16の金属には、上述した金属であるTi、Ta、Cr等を用いることができる。第1層16の金属は、金属層14と同じ金属を用いることが好ましい。例えば、金属層14にチタンを用いた場合には、第1層16の金属にはチタンが用いられる。勿論、他の条件次第では、第1層16の金属と金属層14の金属とは、異なる金属を用いることができる。
第2層18は、第1層16に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した層である。第2層18は、摺動材10が相手材と摺動し、相手材に金属―酸素層が形成されることにより相手材と摺動材10との摩擦を抑制する機能を有している。例えば、金属にチタンを用いた場合には、相手材にTi−O層が形成される。そして、第2層18は、摺動材10と相手材とが摺動するときの初期なじみ層として機能することができる。
第2層18は、金属と炭素とにおける所定の組成比が、炭素/金属原子比で10以上15以下であることが好ましい。そして、更に好ましくは、炭素/金属原子比で10以上12以下である。炭素/金属原子比で10以上15以下であるのは、第1層16よりも炭素の割合を多くすることにより、皮膜の硬さを小さくすることができるからである。また、第1層16よりも炭素の割合を多くすることにより、摩擦係数を下げて、例えば、0.05以下とすることができるからである。そして、第1層16の上に、第1層16より硬度が低い第2層18を積層することにより、第2層18を摺動初期のなじみ層として機能させることができる。このように、下地が硬い層の上に、軟らかい層が薄く存在することが有効だからである。勿論、他の条件次第では、金属と炭素とにおける所定の組成比は、上記の範囲に限定されることはない。
第2層18の膜厚は、金属層14と第1層16と第2層18とを合わせた膜厚の10%以内であることが好ましい。第2層18の膜厚が、金属層14と第1層16と第2層18とを合わせた膜厚の10%以内であるのは、摺動材10が相手材と摺動したときに、相手材に金属―酸素層を形成させて、摺動材10と相手材との摩擦を抑えるためには十分な膜厚だからである。金属層14と第1層16と第2層18とを合わせた膜厚が2μmである場合には、第2層18の膜厚は、0.2μmである。勿論、他の条件次第では、第2層18の膜厚は、上記膜厚の範囲に限定されることはない。
第2層18の金属には、上述した金属であるTi、Ta、Cr等を用いることができる。第2層18の金属は、第1層16の金属、金属層14の金属と同じ金属が用いられることが好ましい。例えば、第1層16の金属、金属層14にチタンを用いた場合には、第2層18の金属にはチタンが用いられる。勿論、他の条件次第では、第2層18の金属と、第1層16の金属及び金属層14の金属とは異なる金属を用いることができる。
つぎに、上記構成における摺動材10の製造方法について説明する。図2は、摺動材10の製造方法を示すフローチャートである。摺動材10の製造方法は、基材準備工程(S10)と、金属層形成工程(S12)と、第1層形成工程(S14)と、第2層形成工程(S16)とを備えている。
基材準備工程(S10)は、摺動材10における基材12を前処理等して準備する工程である。基材12は、まず、基材12表面が、所定の表面粗さとなるように研磨材等により研磨される。そして、研磨された基材12は、アセトン等の有機溶剤で超音波洗浄等により脱脂洗浄され準備される。
準備された基材12は、アークイオンプレーティング法(AIP法)により、金属層14と、第1層16と、第2層18とが積層される。勿論、他の条件次第では、他の方法で積層することもできる。
まず、アークイオンプレーティング法について説明する。図3は、アークイオンプレーティング法における皮膜の形成方法を示す模式図である。チタン等の金属材料をアーク放電により昇華させる際、アセチレン等の炭化水素ガスを導入し、放電により生成される高エネルギー密度プラズマにて、金属およびカーボンをイオン化させ、基材12に負のバイアス電圧を負荷させることにより、金属およびカーボンのイオンを基材12に引き寄せて積層させることができる。アークイオンプレーティング法は、固体カーボンターゲットを利用したスパッタリング法で皮膜を形成するよりも成膜速度が速いため、生産性が向上し、製造コストを抑えることができる。
アークイオンプレーティング法で使用されるアークイオンプレーティング装置は、アーク電源と、真空槽内に置かれた皮膜を形成する基材12に、負のバイアス電圧を印加するためのバイアス電源と、炭素の原料である炭化水素ガス及び窒素、アルゴン等の放電用ガス等の導入口を備えており、アーク電源に金属の原料である金属ターゲットを設けて構成される。金属ターゲットは、アーク電源のカソードとして作用し、アノードとのアーク放電により金属ターゲットから金属が昇華されイオン化される。上記構成により、導入口より導入される炭化水素ガス雰囲気で、金属ターゲットをアーク放電で昇華させつつ金属及び炭素をイオン化させて基材12上に金属と炭素とが混合した皮膜である金属と複合したダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることができる。
また、アークイオンプレーティング装置において、金属アーク電流、炭化水素ガスの種類及び流量、バイアス電圧等を制御することにより、金属の皮膜または金属と炭素との組成比を変えた金属と炭素とが混合した被膜である金属と複合したダイヤモンドライクカーボン被膜を形成することができる。そして、更に、金属と炭素との組成比を変えて皮膜を形成することにより、皮膜の硬さ、摩擦係数、密着性及び密度等を制御することができる。
炭化水素ガスには、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン等を使用することができる。また、炭化水素ガスには、アセチレンガスを使用することが好ましい。勿論、他の条件次第では、他の炭化水素ガスを使用することができる。また、炭化水素ガスの流量は、100sccm以上300sccm以下であることが好ましい。勿論、炭化水素ガスの流量は、この範囲に限定されることはない。
皮膜における金属と炭素との組成比と、硬さと、摩擦係数との関係について説明する。図4は、金属にチタンを使用した場合において、皮膜におけるチタンと炭素との組成比であるC/Ti原子比と、硬さと、摩擦係数との関係を示す図である。図4では、縦軸に皮膜の硬さと摩擦係数μを取り、横軸に皮膜におけるチタンと炭素との組成比であるC/Ti原子比を取っている。図4に示される各データは、アークイオンプレーティング装置を使用して、金属アーク電流、炭化水素ガスの流量またはバイアス電圧等を変えることにより、C/Ti原子比が異なる皮膜を形成させて取得されたデータである。
図4では、皮膜のC/Ti原子比が小さいほど、皮膜の硬さと摩擦係数とは大きくなり、皮膜のC/Ti原子比が大きいほど、皮膜の硬さと摩擦係数とは小さくなる。そして、皮膜の硬さと摩擦係数は、C/Ti原子比が大きくなるに比例して、略直線状に低下する。これは、C/Ti原子比が小さいほどチタンの割合が多くなり、チタンと炭素との結合が増加すること等によるからである。このように、金属と炭素との組成比を変えることにより、皮膜の硬さと摩擦係数とを制御することができる。
次に、皮膜における金属と炭素との組成比と、密着性との関係について説明する。図5は、金属にチタンを使用した場合において、皮膜におけるチタンと炭素との組成比であるC/Ti原子比と、密着性との関係を示す図である。図5では、縦軸に皮膜の密着力を取り、横軸に皮膜におけるチタンと炭素との組成比であるC/Ti原子比を取っている。図5に示される各データは、アークイオンプレーティング装置を使用して、金属アーク電流、炭化水素ガスの流量またはバイアス電圧等を変えることにより、C/Ti原子比が異なる皮膜を形成させて取得されたデータである。図5に示すように、C/Ti原子比をより小さくすることにより、皮膜の密着性をより高くすることができる。
更に、皮膜における金属と炭素との組成比と、密度と、バイアス電圧との関係について説明する。図6は、金属にチタンを使用した場合において、皮膜におけるチタンと炭素とにおける組成比であるC/Ti原子比と、密度と、バイアス電圧との関係を示す図である。図6では、縦軸に皮膜の密度を取り、横軸に皮膜におけるチタンと炭素との組成比であるC/Ti原子比を取っている。図6に示される各データは、アークイオンプレーティング装置を使用して、バイアス電圧を100V、200V、400V及び800Vと変えることにより、各々のバイアス電圧でC/Ti原子比が異なる皮膜を形成させて取得されたデータである。
図6に示すように、一定のバイアス電圧を印加した場合には、C/Ti原子比が大きくなるに従って、皮膜の密度は減少する。これは、皮膜中のカーボン(グラファイト)の割合が多くなる等のためである。また、C/Ti原子比を一定とした場合には、バイアス電圧が高くなると、皮膜の密度が大きくなる。バイアス電圧が高くなると、密度が大きくなるのは、炭素やチタンにおける各原子の入射エネルギーが大きくなること等によるからである。そして、バイアス電圧を、順次変えて制御することにより、皮膜の密度を一定にて、C/Ti原子比を変えながら皮膜を形成することができる。このように、皮膜の密度は、バイアス電圧により制御することができる。
次に、アークイオンプレーティング法(AIP法)により、基板12に金属層14と、第1層16と、第2層18とを積層させる工程である、金属層形成工程(S12)と、第1層形成工程(S14)と、第2層形成工程(S16)とについて説明する。
金属層形成工程(S12)は、前処理された基材12に金属層14を形成する工程である。まず、前処理された基材12は、アークイオンプレーティング装置の真空槽内にセットされる。そして、真空槽内は、所定の真空度になるまで真空ポンプ等により真空排気される。真空槽内が所定の真空度に到達した後、前処理された基材12は、所定のヒータ温度で、所定の時間予熱される。
金属層14は、金属ターゲットを用いて、前処理された基材12にイオンボンバード処理を行なうことにより積層される。イオンボンバード処理は、金属アーク電流、バイアス電圧等を制御することにより行うことができる。そして、金属層14は、所定の時間、前処理された基材12にイオンボンバード処理することにより数十nm以下の膜厚、例えば、10nm以上30nm以下の膜厚で形成される。
第1層形成工程(S14)は、金属層14が積層された基材12に、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層16を形成する工程である。第1層16は、金属アーク電流、炭化水素ガスの種類及び流量、バイアス電圧等を制御することにより形成される。炭化水素ガスには、アセチレンガスを使用することが好ましい。
第1層16は、上述した金属アーク電流、炭化水素ガスの種類及び流量、バイアス電圧等を制御することにより、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、炭素/金属原子比で1.7から10まで、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成されることが好ましい。これにより、第1層16は、図4及び図5に示すように、所定の硬さ、所定の摩擦係数、所定の密着性を有するようにすることができる。
第1層16は、バイアス電圧を、順次変えて制御することにより、皮膜の密度を一定にて、C/Ti原子比を変えながら皮膜を形成することができる。第1層16のC/Ti原子比を1.7から12まで変化させる場合には、図6に示すように、バイアス電圧を100Vから順次上げて400Vとすることにより、密度を2.2g/cm3以上2.4g/cm3以下の略一定にして、C/Ti原子比を1.7から12まで変えることができる。
第2層形成工程(S16)は、金属層14と第1層16とが積層された基材12に、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層18を形成する工程である。第2層18は、金属アーク電流、炭化水素ガスの種類及び流量、バイアス電圧等を制御することにより形成される。炭化水素ガスには、第1層16の形成と同様にアセチレンガスを使用することが好ましい。
第2層18は、上述した金属アーク電流、炭化水素ガスの種類及び流量、バイアス電圧等を制御することにより、金属と炭素とにおける所定の組成比が、炭素/金属原子比で10以上15以下であるようにして形成されることが好ましい。これにより、第2層16は、図4及び図5に示すように、所定の硬さ、所定の摩擦係数、所定の密着性を有するようにすることができる。第2層18を形成するときのバイアス電圧は、一定の電圧を印加して成膜される。勿論、他の条件次第では、第1層16の形成と同様に、バイアス電圧を変化させて成膜してもよい。
第2層形成工程の後に、第2層18の表面に溶融粒子(ドロップレット)が付着して形成された突起物を除去する工程を設けることができる。このような突起物の除去には、ウォータージェット、サンドペーパ(#500程度)、ペーパーラップ、エアロラップ等を用いることができる。そして、突起物を除去した後に形成される第2層18における表面の凹部は、例えば、オイル潤滑される場合に、オイル溜りとして機能することにより、オイル切れ等が生じても有効に摺動材10をオイル潤滑させることができる。
上記構成によれば、相手材との摩擦を更に抑制して、耐摩耗性と密着性とをより向上させることができる。
上記構成によれば、アークイオンプレーティング法により金属層14と、第1層16と、第2層18とを形成するため、スパッタリング法よりも成膜速度を速くすることができる。それにより、摺動材10の生産性がより向上し、生産コストを更に下げることができる。
上記構成によれば、金属と炭素とにおける組成比を管理することにより、皮膜の硬さ、摩擦係数、密着性及び密度等を制御することができる。そして、金属アーク電流とアセチレンガスの流量を増加させて、コーティング時間を更に短縮させることにより、摺動材10の生産性がより向上し、生産コストを更に下げることができる。
上記構成による実施例1における摺動材10の製造を行った。図7は、実施例1における摺動材10の構成を示す図である。基材12には、クロムモリブデン鋼であるSCM415を使用した。基材12は、浸炭した後、焼入れ、焼戻しの熱処理を行い、硬さをビッカース硬さでHV800とした。そして、熱処理された基材12は、ダイヤモンドラップされ、表面粗さ0.02Raで鏡面仕上げされた。また、鏡面仕上された基材12は、アセトンで5分間、超音波洗浄し脱脂洗浄された。
洗浄された基材12は、アークイオンプレーティング装置の真空槽内にセットされ、ベース圧2×10−3Paまで真空排気された。そして、洗浄された基材12は、ヒータ温度500℃で、30分間予熱された。
洗浄された基材12にイオンボンバート処理を行なって、Tiの金属層14を基材12に積層した。イオンボンバート処理は、Tiアーク電流が80A、バイアス電圧600V、処理時間5分間で行った。そして、イオンボンバート処理により、チタンを基材12に数十nm積層させた。
次に、チタン層の上にチタンと炭素とが混合した第1層16と第2層18とを形成した。図8は、チタンと炭素とが混合した第1層16と第2層18との成膜条件を示す図である。Tiアーク電流は、60Aで一定とした。炭化水素ガスとして用いられたアセチレンガスの流量は、50ml/minから300ml/minまで成膜時間に対して比例させて制御した。バイアス電圧は、100Vから400Vまで成膜時間に対して比例させて制御した。なお、第1層16と第2層18との成膜時間は合わせて60分間とした。
比較例1における摺動材について説明する。図9は、比較例1における摺動材の構成を示す図である。比較例1は、クロムモリブデン鋼SCM415である基材に積層され、基材と密着されるチタン層と、チタン層に積層され、チタンと炭素との組成比を、積層方向に対して、炭素/Ti原子比で1.7から10まで、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、チタンと炭素との組成比を傾斜させて形成されるチタンと炭素とが混合した組成傾斜層とから構成される摺動材である。そして、チタンと炭素とが混合した層は、チタンと炭素との組成比を、密度が2.2g/cm3以上2.4g/cm3以下で傾斜させて形成させた。したがって、比較例1では、実施例1の構成に対して、第2層18を積層しない構成とした。比較例1における基材の前処理、チタン層の形成方法、チタンと炭素とが混合した組成傾斜層の形成方法については実施例1と同様に行った。
比較例2における摺動材について説明する。図10は、比較例2における摺動材の構成を示す図である。比較例2は、クロムモリブデン鋼SCM415である基材に積層され、基材と密着されるチタン層と、チタン層に積層され、チタンと炭素との組成比を、積層方向に対して、炭素/金属原子比で1.7から10まで、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、チタンと炭素との組成比を傾斜させて形成されるチタンと炭素とが混合した組成傾斜層と、組成傾斜層に積層され、チタンと炭素との組成比を、炭素/金属原子比で10以上12以下として形成することによりチタンと炭素とが混合した層とを有する摺動材である。比較例2では、実施例1の構成に対して、組成傾斜層の形成においてチタンと炭素との組成比を、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定にしないで傾斜させて形成させた。比較例2における基材の前処理、チタン層の形成方法については、実施例1と同様に行った。その他のチタンと炭素とが混合した組成傾斜層については、所定のバイアス電圧等により形成させた。
実施例1と、比較例1と2とにおける摺動材について、摩擦係数と、摩耗量と、密着強さとを測定した。摩擦係数と摩耗量の測定は、ボールオンディスク摩擦摩耗試験により行った。そして、密着強さは、スクラッチ密着試験により行った。
ボールオンディスク摩擦摩耗試験の試験方法について説明する。図11は、ボールオンディスク摩擦摩耗試験の概要を示す模式図である。摺動材を模擬したディスク状の試験片と摺動させるボール状冶具が、試験片の上に置かれる。そして、ボール状冶具が、試験片の表面を所定のすべり速度で動くことにより、ボール状冶具と試験片とが摺動する。ここで、ボール状冶具には、Fe系材料であるJIS G4805における軸受鋼SUJ2を使用した。また、ボールオンディスク摩擦摩耗試験の試験条件は、試験片に負荷される荷重を10N、ボール状冶具と試験片との接触面の接触応力を1300MPa、すべり速度を0.3m/s、距離を2km、潤滑をドライとして試験を行った。
スクラッチ密着試験の試験方法について説明する。図12は、スクラッチ密着試験の概要を示す模式図である。スクラッチ密着試験は、最大垂直荷重200Nで日本機械学会基準に準拠した試験方法である。試験片の上にダイヤモンド圧子を所定の荷重で押圧した後、所定の荷重負荷速度で荷重を負荷しながら試験片を移動させ、試験片にコーティング等された皮膜が剥離したところの荷重で密着性を評価する試験法である。ここで、スクラッチ密着試験の試験条件は、ダイヤモンド圧子の先端半径を0.2mm、荷重負荷速度を10N/mmとした。
次に、実施例1と、比較例1と2における摺動材について、ボールオンディスク摩擦摩耗試験とスクラッチ密着試験との試験結果について説明する。表1は、ボールオンディスク摩擦摩耗試験とスクラッチ密着試験により測定された摩擦係数、摩耗量、密着強さの結果である。
摩擦係数は、実施例1が0.04、比較例1が0.2、比較例2が0.04であった。また、比較例1については、試験の途中で焼付きを生じた。実施例1と比較例2とが優れた摩擦特性を示したのは、第2層であるC/Ti原子比10〜12の低摩擦層を有していること等によるものである。
摩耗量は、実施例1が0.15μm、比較例2が0.2μmであった。なお、比較例1については、焼付きを生じたため測定できなかった。
密着強さは、実施例1が50N、比較例1が50N、比較例2が30Nであった。また、比較例2では、皮膜層内で割れ、剥離が観察された。比較例2の密着強さが低いのは、チタンと炭素との組成比を傾斜させて形成されるチタンと炭素とが混合した組成傾斜層において、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定にしないで傾斜させて形成させたこと等によるものである。
10 摺動材、12 基材、14 金属層、16 第1層、18 第2層、S10 基材準備工程、S12 金属層形成工程、S14 第1層形成工程、S16 第2層形成工程。
Claims (6)
- 基材に積層され、基材と密着される金属層と、
金属層に積層され、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成される金属と炭素とが混合した第1層と、
第1層に積層され、金属と炭素とを所定の組成比として形成することにより金属と炭素とが混合した第2層と、
を有する摺動材であって、
第1層と第2層は、密度が2.2g/cm3から2.4g/cm3一定で形成されることを特徴とする摺動材。 - 請求項1に記載の摺動材であって、
金属は、Ti、Ta、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Mo、WまたはSiであることを特徴とする摺動材。 - 請求項1または2に記載の摺動材であって、
第1層は、金属と炭素との組成比を、積層方向に対して、炭素/金属原子比で1.7から10まで、順次、炭素が多くなるようにして変えることにより、金属と炭素との組成比を傾斜させて形成されることを特徴とする摺動材。 - 請求項1から3のいずれか1に記載の摺動材であって、
第2層は、金属と炭素とにおける所定の組成比が、炭素/金属原子比で10以上15以下であることを特徴とする摺動材。 - 請求項1から4のいずれか1に記載の摺動材であって、
第2層の膜厚は、金属層と第1層と第2層とを合わせた膜厚の10%以内であることを特徴とする摺動材。 - 請求項1から5のいずれか1に記載の摺動材であって、
摩擦係数が0.05以下であることを特徴とする摺動材。
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