以下、本発明に係る画像形成装置を図面に則して更に詳しく説明する。
実施例1
[画像形成装置の全体構成及び動作]
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施例の概略構成を示す。本実施例の画像形成装置100は、像形成手段として4つの画像形成ユニット(画像形成部)Ua、Ub、Uc、Udを有する多色電子写真複写機である。画像形成装置100は、画像形成装置本体に接続された原稿読み取り装置(図示せず)又は画像形成装置本体に対し通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ等のホスト機器からの画像情報信号に応じて、電子写真方式で4色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のフルカラー画像を記録材(記録用紙、プラスチックフィルム、布等)に形成することができる。
尚、本実施例では、画像形成装置100が備える4つの画像形成ユニットUa、Ub、Uc、Udは、現像色が異なることを除いて実質的に同一の構成を有する。従って、以下、特に区別を要しない場合は、いずれかの画像形成ユニットに属する要素であることを表すために符号に付した添え字a、b、c、dは省略し、総括的に説明する。
画像形成ユニットUは、像担持体としての円筒型の感光体(感光ドラム)1を有し、その回りに帯電手段としての一次帯電器2、露光手段としてのレーザビーム露光装置(レーザスキャナ装置)3、現像手段としての現像器4、転写手段としての転写帯電器5、クリーニング手段としてのクリーナ6が配置されている。本実施例では、一次帯電器2としてコロナ放電器を用いる。
更に、画像形成ユニットUa、Ub、Uc、Udを貫通する態様にて感光体1a、1b、1c、1dの図中下方に、記録材搬送手段として無端状の搬送ベルト7が配置されている。搬送ベルト7は、複数のローラに掛け回されて周回移動可能である。搬送ベルト7を介して感光体1と対向する箇所に転写帯電器5が配置されている。転写帯電器5が配置された位置で、感光体1と搬送ベルト7とで転写部(転写ニップ)Tが形成される。搬送ベルト7は、記録材供給ローラ20により画像形成装置本体内に供給された記録材22を担持して、転写帯電器5が配置された箇所で感光体1と当接するようにして搬送する。
更に、感光体1を帯電すると同時に全面露光するために、補助帯電器8及び除電ランプ9が、感光体1の表面の同一箇所に上下に重ねて設けられている。
次に、本実施例の画像形成装置による画像形成工程を説明する。感光体1の表面上の残留トナーがクリーナ6によって除去される。その後、感光体1は、補助帯電器8により、感光体1上に形成される静電潜像と同極性(本実施例では負極性)に帯電されると同時に、除電ランプ9により一様に露光される。これにより、メモリー効果領域、正常領域の双方が共に表面電位約0Vとなるように除電される。その後、感光体1は、一次帯電器2により一様に帯電される。次いで、レーザビーム露光装置3が作動することにより、感光体1上に、各画像形成ユニットUの現像色に色分解された画像情報にしたがう画像露光パターンに対応した静電像(潜像)が形成される。感光体1に形成された静電像は、現像器4の作動により各画像形成ユニットUa、Ub、Uc、Udにおいて、それぞれイエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色のトナーにより現像され、トナー像として可視画像化される。その後、感光体1上に形成されたこれらの可視画像は、転写帯電器5が作動することにより、搬送ベルト7の移動に伴って搬送ベルト7上に担持された記録材22上に順次転写され、記録材22上にフルカラーが形成される。
フルカラーのトナー像が転写された記録材22はその後搬送ベルト7から分離され、定着手段たる定着器21へと搬送される。定着器21は、記録材22を加熱、加圧することにより、その上のトナー像を記録材22に定着させる。トナー像が定着された記録材22はその後画像形成装置本体外に排出される。
一方、記録材22へのトナー像の転写工程後に感光体1上に残留したトナー等の異物は、クリーナ6が備えるクリーニング部材61(図3)により除去され、感光体1は繰り返し画像形成に供される。
尚、所望の画像形成ユニットのみを稼働させることにより、所望の色の単色又は複数色の画像を形成することも可能である。
[現像器]
図2を参照して、現像器4について更に説明する。本実施例の現像器4は、2成分接触現像法(二成分磁気ブラシ接触現像法)を採用している。
現像器4は、基本的に非磁性トナー粒子(トナー)と磁性キャリア粒子(キャリア)とを混合した二成分現像剤を収容した現像容器41に、現像剤を担持して感光体1と対向した現像部(現像ニップ、現像領域)nに搬送する現像剤担持体としての現像スリーブ42と、現像スリーブ42内に非回転に配置された磁界発生手段としてのマグネットローラ43と、現像剤を現像容器41内で循環させるとともに現像スリーブ42に供給する攪拌スクリュー44、45と、現像スリーブ42上の現像剤を規制して薄層に形成する規制ブレード46とを設けてなる。
現像スリーブ42は、感光体1に対し最近接領域が通常約100〜1000μm(一般的に400〜500μmが良く使用される。)の間隔(GSD)(詳しくは後述する)となるように配置され、感光体1の軸線方向(表面移動方向に直交する方向)に沿って、感光体1の軸線方向長さのほぼ全域にわたり延在する。そして、現像スリーブ42上の現像剤の穂立ち(磁気ブラシ)47が、感光体1と対向した領域で感光体1とニップ(現像部、現像領域)nを形成して、感光体1の表面と接触した状態で現像を行う。本実施例では、図中矢印で示すように、現像スリーブ42は感光体1の回転方向に対して順方向に回転する。即ち、磁気ブラシ47は、現像スリーブ42の回転方向上流側の接触開始位置から、下流側の接触終了位置までの幅のニップ(現像部、現像領域)nを形成している。
磁界発生手段たるマグネットローラ43は、周方向に沿って複数の磁極、本実施例では、N1、N2、N3、S1、S2(Nは磁石のN極、Sは磁石のS極を示す。)の5つの磁極を有する。現像容器41内の現像剤(二成分現像剤)は、回転する現像スリーブ42上にマグネットローラ43の磁極N3の磁力により汲み上げられ、磁極N3、S2、N1と順次搬送される過程で、現像スリーブ42に対して略垂直に配置された規制ブレード46により層厚を規制されて、現像スリーブ42に現像剤の薄層が形成される。この薄層に形成された現像剤は、現像スリーブ42の回転に伴い現像部nに搬送され、マグネットローラ43の現像主極S1の近くでその磁力により、現像スリーブ42の表面で穂立ちした磁気ブラシ47を形成する。
この磁気ブラシ47は現像部nにおいて感光体1の表面に接触する。そして、現像剤中からトナーが感光体1の静電潜像に選択的に付着することで、感光体1上の静電像がトナー像として可視化される。現像を終えた現像剤は現像スリーブ42によって現像容器41内に戻され、マグネットローラ43の磁極N2、N3が形成する反発磁界によって現像スリーブ42から剥離され、現像容器41内に回収される。
現像時、現像スリーブ42には、電源(図示せず)から直流電圧と交流電圧を重畳した現像バイアスが印加される。本実施例では、直流電圧Vdc=−500Vに周波数Vf=3000Hz、ピークツウピーク電圧(振幅)Vpp=1500Vの交流電圧を重畳した現像バイアスを印加した。
現像容器41内の現像剤は、現像によりトナーが消費されて、トナー濃度(トナーとキャリアとの混合比)が次第に減少していく。この現像容器41内の現像剤のトナー濃度を図示しない濃度検知手段で検知して、トナー濃度が所定の許容下限濃度まで低下した場合には、現像容器41に接続されたトナー補給部48からトナーを補給して、現像剤のトナー濃度を所定の許容範囲内に保つように制御する。
トナーは、着色樹脂粒子(結着樹脂、着色剤及び必要に応じてその他の添加剤を含む)そのもの、或いはこれにコロイダルシリカ微粉末の如き外添剤が外添された着色粒子であってよい。キャリアとしては、樹脂中に磁性材料としてマグネタイトを分散し、導電化及び抵抗調整のためにカーボンブラック等の導電材料を分散して形成した樹脂磁性粒子、或いはフェライト等のマグネタイト単体表面を酸化、還元処理して抵抗調整したもの、或いはフェライト等のマグネタイト単体表面を樹脂でコーティングして抵抗調整したもの等が用いられる。
本実施例では、トナーとして、体積平均粒径6μmの負帯電トナーを用いた。又、本実施例では、キャリアとして、平均粒径35μmの樹脂磁性粒子を用いた。そして、本実施例では、現像剤におけるトナーとキャリアとのの混合比は重量比で8:92とした。
トナーの体積平均粒径は、次の測定法で測定した。測定装置としてコールカウンターTA−II型(コールター社製)を用い、個数平均分布および体積平均分布を出力するインターフェイス(日科機製)、およびCX−i−パーソナルコンピュータ(キヤノン製)を接続した。電解液は、1級塩化ナトリウムを用いて、1%のNacl水溶液を調製した。この電解液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を0.1〜5ml加え、更に測定試料のトナーを2〜20mg加える。試料を懸濁した電解液は、超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行い、上記のコールターカウンターTA−II型により、100μmのアパチャーを用いて、2〜40μmのトナー粒子の粒度分布を測定し、それからトナーの体積平均粒径を求める。
又、キャリアの平均粒径は、水平方向最大玄長で示し、測定法は顕微鏡法を用い、粒子300個以上をランダムに選び、その径を実測して算術平均をとることにより求めた。
[クリーナ]
次に、クリーナ6について更に説明する。クリーナ6は、ウレタンゴム等の弾性体から成る板(ブレード)状のクリーニング部材、即ち、クリーニングブレード61を有する。クリーニングブレード61は、通常、自由端側のエッジ部を感光体1の回転方向上流側に向けて感光体1に当接され(カウンター当接)、支持部材63によって廃トナー容器62に固定される。クリーニングブレード61によって感光体1の表面から掻き取られた転写残トナー等の異物は、廃トナー容器62に収容される。更にスクリューやベルトなどの搬送手段を用いて、単独若しくは複数の画像形成ユニットのクリーナ6の廃トナー容器62から、別途設けられた回収容器に廃トナーを回収するようにしてもよい。
クリーナ6は、感光体1から転写残トナー等の異物を除去すると共に、詳しくは後述するように、クリーニングブレード61によって感光体1を摺擦することで、感光体1の表面に付着した放電生成物を除去する働きも有する。
本実施例では、クリーニング部材としては、ポリウレタンから成る厚さ2mm、長手長さ341mmのクリーニングブレード61を用いた。このクリーニングブレード61の自由端側のエッジ部を8Nの接触圧力にて感光体1に押圧しクリーニング部(クリーニングニップ)mを形成した。
尚、クリーニング部mにおけるクリーニングブレード61の感光体1に対する接触圧力は、感光体1に圧力センサを取付け、クリーニングブレード61が感光体1を押す力を接触圧力として換算することにより測定した。
[感光体]
次に、感光体1について更に説明する。感光体1としては、通常の有機感光体(OPC)、或いはCdS、Si(アモルファスシリコン等)、Se等の無機物半導体を用いた感光体を使用することができる。
図4は、一般的な有機感光体の層構成を模式的に示す。感光体1は、導電性支持体11上に、表面保護層15を含む感光層12が順次積層されており、表面保護層15の最表面が自由表面である。感光層12は、電荷発生物質を含有する電荷発生層13の上に、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層14を積層した構成、又は電荷輸送層14の上に電荷発生層13を有し、更に表面保護層15を積層した構成を有する。又、このような層構成の他にも、電荷発生物質と電荷輸送物質を同一層中に分散した単層系の感光層12を備えた構成としてもよい。又、積層構成を有する場合に電荷輸送層14を複数層とすることもできる。又、感光体1は、導電性支持体11と感光層12との間に、導電層や整流性を有する下引き層16を有していてもよい。本実施例では、次のような層構成を有する外径84mm、長手長さ381mmの感光体1を用いた。
ここで、感光体1の弾性変形率Wについて説明する。
感光体1の弾性変形率Wは、圧子に連続的に荷重をかけ、荷重下での押し込み深さを直読することにより連続的硬さが求められる微小硬さ測定装置フィシャースコープH100V(Fischer社製)を用いて測定することができる。圧子としては対面角136°のビッカース四角錐ダイヤモンド圧子を使用することができる。具体的には、最終荷重6mNまで段階的に(各点0.1Sの保持時間で273点)測定する(測定環境:温度/湿度=23°/55%)。
フィシャースコープH100V(Fischer社製)の出力チャートの概略を図15に示す。又、フィシャースコープH100V(Fischer社製)によって本実施例にて用い得る感光体1を測定した結果の一例を図16に示す。これらの図中、縦軸は荷重F[mN]を、横軸は押し込み深さh[μm]を示す。これらの図は、段階的に荷重を増加させ6mNまで荷重をかけ、その後同様に段階的に荷重を減少させた時の結果を示している。
弾性変形率Wは、圧子が膜に対して行った仕事量(エネルギー)、即ち、圧子の膜に対する荷重の増減によるエネルギーの変化より求めることができ、具体的には下記式(1)により求めることができる。
弾性変形率W[%]=We/Wt×100 ・・・(1)
上記式中、全仕事量Wt[nJ]は図15中のA−B−D−Aで囲まれる面積を示し、弾性変形仕事量We[nJ]はC−B−D−Cで囲まれる面積を示している。
ここで、詳しくは後述するように、感光体1の弾性変形率Wは、48%以上であると、100K(100000)枚(A4サイズの記録材(搬送方向長さ210mm)に対する画像形成枚数:以下同様。)程度の長寿命化が図れる。
[放電生成物の除去]
次に、本実施例にて特徴的な、放電生成物除去のための、感光体・現像器・クリーナーの構成の相関について説明する。
本実施例の画像形成装置100においては、感光体1を一様に帯電する帯電手段としてコロナ放電器(一次帯電器)2を用いている。このような放電手段によって行われる帯電では、窒素酸化物(以下、「NOx」という。)などの放電生成物が発生し、その一部は感光体の表面に付着する。尚、本発明は、帯電方式をコロナ放電器を用いたコロナ帯電方式に限定するものではない。例えば、感光体1に当接して回転するローラ部材に帯電バイアス電圧を印加することで感光体1を帯電させるローラ帯電方式等を用いてもよい。
前述のように、感光体1の表層に付着した放電生成物のうち、NOxは、感光体1の表層に残存すると空気中の水分等と反応して硝酸を生成し、又金属と反応して金属硝酸塩を生成する。このように生成された硝酸又は硝酸塩が感光体1の表面に薄い膜となって形成されると、これら硝酸又は硝酸塩の吸湿作用によって、感光体1の表面の抵抗値が低くなる。これにより、感光体1上に形成された静電像が破壊され、形成画像の品質が低下してしまうことがある。特に、高湿環境下では、画像が流れたような異常画像(画像流れ)が発生するという問題が発生する虞がある。
ここで、前述のように、従来の一般的な有機感光体(弾性変形率Wが40%前後)を使用した場合は、現像部(現像ニップ)nにおける現像剤の穂(磁気ブラシ)47により感光体1を摺擦することにより、或いはクリーニングブレード61によって感光体1を摺擦することにより、感光体1の表層が極微量削り取られる。そして、上述のような放電生成物に起因する硝酸や金属硝酸塩も感光体1の表層が削り取られると同時に除去される。これにより、従来、NOxによる異常画像の発生をある程度抑制することができていた。
しかしながら、従来の一般的な有機感光体(弾性変形率Wが40%前後)を使用した場合は、感光体1が間欠耐久時に10K(10000)枚当たり2.3μm(2.3μm/10K)程度削れる。ここで、通常、感光体1の削れ量は、完全に面内均一ではない。このため、100K枚を超えるような長期耐久を目指した場合、感光体1の部分的に削れた場所が傷となり、画像に影響が出るという問題が発生することがある。或いは、感光体1の膜厚が低減することにより感光体1の静電容量が変化し、画像階調性(γ)が高くなり階調制御し難くなるという問題が発生することがある。
そのため、硬化感光体、より詳細には弾性変形率Wが48%以上の感光体1を使用することが好ましい。尚、通常、一般的な方法で製造される感光体の弾性変形率Wは高くても75%までである。つまり、弾性変形率Wが48%〜75%の感光体を使用することが好ましい。
尚、弾性変形率は材料により大まかに制御することができ、通常の有機感光体は35〜41%程度、表面保護層を有する有機感光体はそれより硬化され45〜55%程度、Si(アモルファスシリコン等)を使用した場合は70%以上となるのが普通である。
図5は、感光体1の弾性変形率Wと感光体1の削れ量との関係を示す。図5から、弾性変形率Wが大きいほど感光体1の表層が削れにくくなることが分かる。概して、外部応力に対する変形量が小さいほど、感光体1の表層の硬度が高いことを示す。
しかしながら、前述のように、感光体1の表層の削れ量を低減した場合、従来の手法では感光体1上に形成された硝酸又は硝酸塩の膜を削り取ることが困難になる虞があった。
そこで、本発明者らは、表層が硬化され、放電生成物除去が難しくなった感光体1を用いる場合において、現像部nにおける磁気ブラシ47、或いはクリーニングブレード61の感光体1に対する摺擦力を増大させ、放電生成物のみを除去できないかという観点に至った。
しかしながら、放電生成物により感光体1の表面での吸着性が増大した状態では、例えばウレタンゴム等の弾性体からなるクリーニングブレード61等を用いる場合、このクリーニングブレード61の感光体1への吸着性も増大し、クリーニングブレード61と感光体1との間の摺擦トルクが増大する。その結果、クリーニングブレード61の欠けによるクリーニングブレード61の寿命の短命化の問題が発生することがある。又、クリーニングブレード61の摺擦度増大による放電生成物除去は、益々クリーニングブレード61の欠けにつながる方向である。
上述の状況に鑑みて本発明者らは鋭意検討し、従来のクリーナ設定は維持しつつ、感光体1を摺擦するその他の主要な部分である現像部nにおける磁気ブラシ47の摺擦力を増大させる方法が好適であることを見出した。但し、単純に現像部nにおける磁気ブラシ47の摺擦レベルを上げたのでは、摺擦レベルの上げ過ぎにより感光体1に傷が発生する虞がある。つまり、現像スリーブ42上の現像剤、即ち、磁気ブラシ47の感光体1に対する圧力分布は、現像部n全域にわたり完全に均一でない。このことから、極微小範囲で超高圧部分が生じ、感光体1に傷が発生する虞がある。
そこで、本発明者らは、感光体1に付着する放電生成物の除去に関して、
(i)感光体1に対する摺擦レベル
(ii)感光体1の硬化レベル
の両者の相関を詳細に検討した。その結果、感光体1の削れ量を制限して感光体寿命を稼ぎ、且つ、感光体1に付着する放電生成物を除去でき、しかも感光体に傷をつけない上記(i)感光体1に対する摺擦レベルと(ii)感光体1の硬化レベルとの適正領域を見出し、本発明を完成するに至った。
以下、上記項目(i)、(ii)の適正範囲の導出方法について詳細に説明する。
本発明者らは、感光体1の弾性変形率W、現像部nの摺擦レベルに関わる磁気ブラシ47の感光体1に対する接触圧力(より詳細には、磁気ブラシ47の静止時の感光体1に対する接触圧力:以下、単に「穂圧」ともいう。)、感光体1の周速度(表面移動速度)、及び現像スリーブ42の周速度(表面移動速度)等を様々に振って検討した結果、
(I)現像部nでの感光体1の摺擦(放電生成物除去)度合Sという指標を設定し、
(II)感光体表面回復関数I(Dr回復)からクリーニングブレード61の欠け或いは画像流れを回避することができる上記Sの最低値を定め、
(III)感光体1の傷関数J(Dr傷)から画像に出る傷が発生しないSの最大値を定める、
ことにより、上記(i)感光体1に対する摺擦レベル、(ii)感光体1の硬化レベルの適正領域が割り出されることを見出した。
<I.現像部nでの感光体1の摺擦度合S>
先ず、現像部nでの感光体1の摺擦(放電生成物除去)度合(以下、単に「摺擦度合」という。)Sについて詳しく説明する。摺擦度合Sは、次の式によって定義される。
つまり、上記式(2)で表される摺擦度合Sは、現像部nにおいて磁気ブラシ47によって感光体1を摺擦することによる、感光体1の表面からの放電生成物の取れ易さ、又は、感光体1の傷の発生度合を意味する(摺擦度合Sは、放電生成物の摺擦による除去度合を示す指標であり単位はない)。そして、上記式(2)は、この摺擦度合Sが、穂圧と、感光体1の周速度と、感光体1の弾性変形率Wとで決まることを示している。より詳細には、上記式(2)中の第1項(f(穂圧)=P)、第2項(g(感光体周速度)=(|vSl−vDr|)/vDr)、第3項(h(感光体弾性変形率)=8.50×105×exp(−0.32W))は、それぞれ次のことを意味する。
第1項:磁気ブラシ47の静止時の感光体1に対する接触圧力(穂圧)が高い程、摺擦度合Sは増大する。
第2項の分子:現像スリーブ42と感光体1との周速度差(表面移動速度差)が大きい程、摺擦度合Sは増大する。
第2項の分母:感光体周速度が大きい程、摺擦度合Sは減少する。これは、単位時間当たりに通過する感光体1の表面の面積が大きくなるからである。即ち、ある一定の摺擦力がかかっている場合、通過する面積が大きくなるということは単位面積当たりの圧力のかかる度合が少なくなるということを意味する。尚、感光体1の回転数が増えるので単位時間に単位面積にかかる圧力は一定になるように考えられるが、実際は1回転ごとに帯電による放電生成物の付着が起こるので上式が正しい。
第3項:図5に示す実験データから得られた関数である。感光体1の弾性変形率Wは小さいほどSは急激に増大する傾向である。尚、図5に示す結果は、f(穂圧)≒200Pa、g(感光体周速度)≒0.7mm/秒に固定した状態で弾性変形率Wを振って検討した結果である。
ここで、上記式(2)中の第1項の磁気ブラシ47の静止時の感光体1に対する接触圧力(穂圧)は、図6に示すようにして測定したものである。現像スリーブ42に対向して圧力センサー(共和電業製LMA−A‐5〜50Nに感光体(感光ドラム)1の径に合わせた接触部を組み合わせた物)50を配置し、矢印方向(現像スリーブ42と感光体1との最近接位置位置における現像スリーブ42の法線方向に相当。)の圧力を選択的に測定している。又、磁性キャリアの穂(磁気ブラシ)の感光体1に対する接触面積を測定し、圧力としては、単位面積当たりの面圧力[Pa]として表示してある。尚、磁気ブラシ47の感光体1への接触面積は、上記接触部に残った現像剤接触跡(接触部近傍にはトナーが付着し、接触部自体はキャリアでトナーが掻き取られる。)を透明テープでテーピングし、それを紙に貼り付けその面積を測定する。
更に、上記式(2)中の第1項の穂圧と、一般的な現像器4の各種条件、即ち、下記のGSD、M、B、C、Hとの関係を明らかにした。次式にこれを示す。
GSD:現像スリーブと感光体との間隙[μm]
M:100mTの磁界を印加した時のキャリアの磁化量[A/m]
B:マグネットローラが備える感光体に対向する磁極の磁束密度[mT]
C:現像スリーブ上の単位面積当たりの現像剤量[mg/cm2]
H:マグネットローラが備える感光体に対向する磁極の半値幅[°(deg.)]
ここで、fa(GSD)、fb(M)、fc(B)、fd(C)、fe(H)はそれぞれ単位は圧力[Pa]であり、各種の現像条件と穂圧との関係を検討し、その近似式から導出した関数である。又、それぞれの項の積に変換係数α[1/Pa4]をかけると実際の系での圧力[Pa]が導出できる。変換係数αは、I)一定条件下での「実際の穂圧」を測定し、II)その条件を式、fa(GSD)、fb(M)、fc(B)、fd(C)、fe(H)に当てはめた積で割る(I/II)ことにより求めることができる。ここでは、変換係数α=8.17774×10-10[1/Pa4]である。
ここで、現像スリーブ42と感光体1との間隙(ギャップ)GSD[mm]は、最近接位置における現像スリーブ42の表面と感光体1の表面との間の垂直距離である。
100mTの磁界を印加した時のキャリアの磁化量M[A/m]は、測定器として理研電子株式会社の直流磁化B−H特性自動記録装置BHH−50を用いた。図17に示すグラフは該装置により得られた磁気特性の測定結果を示す一例であり、外部磁界100mT(1000G)のときのキャリアの磁化量が求めるM[A/m]となる。
尚、100mTの磁界を印加した時のキャリアの磁化量M[A/m]は、通常使用されるものは1.2〜2.3×108[A/m]であり、その値は使用する材料に主に依存する。一般的に広く使用されているフェライトキャリアは2.25×108[A/m]近辺である。
感光体1に対向する磁極とは、その磁極が発生する現像スリーブ42の法線方向の磁気力のピーク位置が現像部n内にある磁極をいう。磁気力のピーク位置と磁極の位置が現像スリーブ42の周方向で一致していなくてもよい。
感光体1に対向する磁極の磁束密度B[mT]は、現像スリーブ42上の感光体1との最近接位置における磁束密度を、測定器としてF.W.BELL社製磁場測定器「MS−9902」(商品名)を用いて、測定器の部材であるプローブと現像スリーブ42の表面との距離を約100μmに設定して測定したものである。
尚、感光体1に対向する磁極の磁束密度は、その値が弱すぎると現像部nにてキャリアを保持する力が弱いため、現像時の電界につられてキャリアが感光体1に付着する現象が発生する。この感光体1に付着したキャリアは、例えは、クリーニング部にくると感光体1やクリーニングブレード61に傷或いは欠けをつくることがあり好ましくない。又、感光体1に対向する磁極の磁束密度は、その値が強すぎると現像部nにてのキャリアの穂立ちが短くなるため、現像性が弱まる。これを補うため現像バイアス電界を増大させると現像部nでの放電現象(リーク)が発生する虞があるので好ましくない。以上のような理由により、感光体に対向する磁極の磁束密度は通常70〜150mTであり、最も良く使われるのは100mT近辺である。
現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量C[mg/cm2]は、一定面積のマスク部材を用意し、現像スリーブ42に該マスク部材を押し当て、現像スリーブ42上マスク領域内現像剤を、マグネットを用いて現像スリーブ42上からはがし、そのはがした現像剤重量を測定して、それを該マスク面積で割ることで算出する。
尚、現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量C[mg/cm2]は、少ないと現像性が落ち、これを補うため現像バイアス電界を増大させると、現像部nでの放電現象(リーク)が発生する虞があるので好ましくない。一方、多すぎると、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSDで現像剤詰りを発生させる虞や、トナー飛散の恐れがでてくるので好ましくない。従って、通常現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量Cは通常10〜50[mg/cm2]であり、最も良く使われるのは30[mg/cm2]近傍である。
感光体1に対向する磁極の半値幅H[°(deg.)]は、測定器としてF.W.BELL社製磁場測定器「MS−9902」(商品名)を用いて、測定器の部材であるプローブと現像スリーブ42の表面との距離を約100μmに設定して測定したものである。
尚、感光体1に対向する磁極の半値幅H[°(deg.)]は、広いと現像性が増大する。一方、狭いと、現像剤磁気穂の画像への影響が少なくなる(画像に出る穂ムラが減少する)。感光体1に対向する磁極の半値幅Hは、使用するマグネット材料や、マグネットの各極の配置パターンによって決まるが、通常20〜60°の範囲で使用される。通常は40°前後である。
以下、上記関数fa(GSD)、fb(M)、fc(B)、fd(C)、fe(H)の導出方法についてそれぞれ説明する。
1.関数fa(GSD)
上記式で表される関数fa(GSD)は、M=1.59×108A/m(=200emu/cm3)、B=100mT、C=30mg/cm2、H=40°の時の穂圧[Pa]と、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSD[μm]との関係であり、図7に示す実験データから求めたものである。
図7から分かるように、穂圧は、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSDが狭くなるに従い急激に増加する傾向にある。
2.関数fb(M)
上記式で表される関数fb(M)は、GSD=500μm、B=100mT、C=30mg/cm2、H=40°の時の穂圧[Pa]と、キャリアの磁化量M(100mTの磁界を印加した時)[A/m]との関係であり、図8に示す実験データから求めたものである。
図8から分かるように、穂圧は、キャリアの磁化量(100mTの磁界を印加した時)Mが大きくなるに従い単調増加する傾向にあるが、キャリアの磁化量(100mTの磁界を印加した時)Mが9.55×107A/m(=120emu/cm3)より小さいとこの式から外れ、Mが5.57×107A/m(=70emu/cm3)では穂圧は略0になる。
これは、キャリアの磁化量が極端に下がると磁気ブラシ47がうまく形成されず、キャリアの磁化量(100mTの磁界を印加した時)Mが5.57×107A/m(=70emu/cm3)より小さいと感光体1に磁気ブラシ47が届いていない状態であることを意味している。
従って、キャリアの磁化量(100mTの磁界を印加した時)M[A/m]は、9.55×107A/m(=120emu/cm3)以上であること(M≧9.55×107A/m)が好ましい。
3.関数fc(B)
上記式で表される関数fc(B)は、GSD=500μm、M=1.59×108A/m(=200emu/cm3)、C=30mg/cm2、H=40°の時の穂圧[Pa]と、感光体1に対向する磁極の磁束密度B[mT]との関係であり、図9に示す実験データから求めたものである。
図9から分かるように、穂圧は、感光体1に対向する磁極の磁束密度Bが大きくなるに従い単調増加する傾向にあるが、感光体1に対向する磁極の磁束密度Bが50mT以下ではこの式から外れる。
これは、感光体1に対向する磁極の磁束密度が50mT以下では磁気ブラシ47がうまく形成されないことを意味している。
従って、感光体1に対向する磁極の磁束密度B[mT]は、50mTより大きいこと(B>50mT)が好ましい。
4.関数fd(C)
上記式で表される関数fd(C)は、GSD=500μm、M=1.59×108A/m(=200emu/cm3)、B=100mT、H=40°の時の穂圧[Pa]と、現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量C[mg/cm2]との関係であり、図10に示す実験データから求めたものである。
図10から分かるように、穂圧は、現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量Cが大きくなるに従い単調増加する傾向にあるが、現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量Cが10mg/cm2より小さいとこの式から外れる。
これは、現像スリーブ42上の単位面積あたりの現像剤量C[mg/cm2]が10mg/cm2より小さいと現像剤が現像スリーブ42上に均一にコーティングされず、正しい測定ができていないことを意味する。
従って、現像スリーブ42上の単位面積当たりの現像剤量C[mg/cm2]は、10mg/cm2以上であること(C≧10mg/cm2)が好ましい。
5.関数fe(H)
上記式で表される関数fe(H)は、GSD=500μm、M=1.59×108A/m(=200emu/cm3)、B=100mT、C=30mg/cm2の時の穂圧[Pa]と、感光体1に対向する磁極の半値幅H[°]との関係であり、図11に示す実験データから求めたものである。
図11から分かるように、穂圧は、感光体1に対向する磁極の半値幅Hが大きくなるに従い単調増加する傾向にある。
<II.感光体表面回復関数I(Dr回復)>
次に、感光体表面回復関数I(Dr回復)、及びこの関数からクリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を回避することができる摺擦度合Sの最低値を定める方法について詳しく説明する。
感光体表面回復関数I(Dr回復)は次の式によって定義される。
感光体表面回復関数I(Dr回復)の値自体は、水の接触角[°(deg.)]である。この感光体表面回復関数I(Dr回復)は、感光体1の表面についた放電生成物量を示す指標である。つまり、感光体表面回復関数I(Dr回復)は、感光体1の表面の親水性に関係し、画像流れの発生し易さに相関するパラメータである。
ここで、この水の接触角は、図12に示すように、一定量の水滴を感光体1に滴下した際の感光体1の表層の水の接触角(液面と感光体1の表面とのなす角)によって測定される。接触角計としては、FASE自動接触角計CA−X型(協和界面科学株式会社製)を用いた。感光体1の表面に滴下する水の量は当該計測器の製造元の指示に従う。
感光体1の吸着性が大きくなると感光体1上に垂らした水滴の感光体1の表層との界面での張力が増大する。その結果、水滴が球形では存在できずに広がり、水の接触角が低くなる。逆に吸着性が低い場合は、水滴が球形に近くなるため、水の接触角は高くなる。
図13は、感光体表面回復関数I(Dr回復)中のA(=1/βS)のレベルを変化させたときの、感光体1の表面の水の接触角と感光体1の回転数との関係をプロットしたものである。図13の結果は、感光体1上の放電生成物の付着量が飽和した状態から回転を開始し、感光体1上のある定点で水の接触角を測定したものである。ここで、感光体1の回転数1は、感光体1上のある点が感光体1に対する所定の摺擦部を通過する回数に相当する。
図13に示すグラフから分かるように、感光体表面回復関数I(Dr回復)は、縦軸切片が10°で、90°を漸近線とする曲線となる。つまり、感光体表面回復関数I(Dr回復)は、感光体1の表面に放電生成物が溜まり切った状態(放電生成物の付着量は飽和点がある。)の水の接触角がおおよそ10°であり、感光体1の表面から放電生成物が完全に取り除かれた状態の水の接触角がおおよそ90°になることを表現する関数である。
ここで、感光体1の回転数が1回転(X=1)のときのI(Dr回復)に着目する。これは、特に、ここでは放電生成物が付着し切った状態(飽和状態)から現像部nでの磁気ブラシ47による摺擦を1回受けた後に、どれぐらい感光体1の表面状態が回復するかということ、即ち、放電生成物がどれくらい除去されるかということを意味する。
図13中に複数示されている曲線はA(=1/(βS))のレベルを変化させたものであり、Aが小さくなるにつれて(即ち、Sが大きくなるにつれて)、X=1のときにI(Dr回復)の値が大きくなる(つまり、感光体1の表面状態の回復度合が大きくなる)。
本実施例のように、感光体1の摺擦部が現像部n及びクリーニング部mの2箇所ある場合は、その2箇所の摺擦部での感光体1の表面状態の回復度合を現像部nとクリーニング部mでどのように分担させるかが問題である。前述のように、放電生成物により感光体1の表面の吸着性が増大した状態では、クリーニングブレード61の欠け等によるクリーニングブレード61の寿命の短命化の問題が発生することがある。又、クリーニング部mによる感光体1の摺擦度を増大させることは、クリーニングブレード61の欠けの問題の発生を助長する虞がある。
放電生成物の付着量が飽和した状態からの、現像部nでの磁気ブラシ47による摺擦を1回受けた後の感光体1の表面状態の回復度合について、水の接触角で50°から70°まで5°刻みのものを用意して、どのレベルならクリーニング部mにてクリーニングブレード61の短寿命化の問題が発生しないかを検討した。結果を表1及び表2にその結果を示す。
表1及び表2中のクリーニングブレード61の感光体1に対する接触圧力レベル「小」は、上記のようにして測定した接触圧力が5N〜7Nの範囲、「中」は7.1N〜9Nの範囲、「大」は9.1N〜11Nの範囲を表す。又、クリーニングブレード61の欠けは、10K枚の耐久試験を行い、顕微鏡観察によるブレード欠発生部を数えることで評価した。そして、欠け数が0の場合を○、欠けが1箇所でも発生しトナーすり抜け現象が生じた場合を×として示した。
表1及び表2の結果は、それぞれ感光体1として、弾性変形率Wが48%、73%と比較的硬いものを用いて得たものである。このような硬い感光体1は、100K枚程度の長寿命化が期待できる。尚、例えば、弾性変形率Wが48%の感光体1は、クリーニングブレード61の接触圧力レベルを「中」とし、且つ、後述の表3、4、6における「例2」の現像条件で、10K枚当たりの削れ量が約0.18μm、弾性変形率Wが73%の感光体1は、10K枚当たりの感光体1の削れ量が約0μmであった。
このような殆ど削れない感光体1を使用すると、現像部nでの磁気ブラシ47による摺擦を受けた後の感光体1の表面状態の回復度合が水の接触角で60°以下であると、感光体1の表面での吸着性が高過ぎて、ウレタンゴム等の弾性体からなるクリーニングブレード61の感光体1への吸着性も高い。このため、クリーニングブレード61の感光体1への接触圧力に関係なく、感光体1の表面の摺擦トルクが増大し、クリーニングブレード61が感光体1に張り付きぎみになる。その結果、10K枚の耐久試験でクリーニングブレード61の欠けが生じ易くなる。
この結果は、クリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を防止するためには、現像部nでの磁気ブラシ47による1回の摺擦により、感光体1の表面状態が水の接触角で60°以上に回復している必要があることを示す。
つまり、上記式(3)から、下記式が導かれる。
従って、感光体1に付着した放電生成物を除去して、クリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を防止するためには、A≦48.00(X=1)であることが必要であることが分かる。
表3は、上述のfa(GSD)、fb(M)、fc(B)、fd(C)、fe(H)、g(感光体周速度)、h(感光体弾性変形率)の値を変えた場合の摺擦度合S、感光体1の表面の水の接触角の測定値、上記式(3)から導出されるAの値(X=1)の代表例をまとめた表である。クリーニングブレード61の欠けは10K枚耐久時に測定し、顕微鏡でブレードを観測しトナーすり抜けにつながる欠けが1つでもある時「有」、欠けが0の時「無」とした。表中f(圧)は上記f(穂圧)、g(周速)は上記g(感光体周速度)、h(弾性率)は上記h(感光体弾性変形率)を示す。
表3に示す結果より、A=1/(βS)のβの値(摺擦−回復補正係数)が3.205×10-5であることが導出される。
そして、放電生成物の付着量が飽和した状態から、現像部nを1回通過した後の感光体1の表面状態の回復度合を、水の接触角で60.00°(A=48.00)以上とするためには、現像部nにおける磁気ブラシ47による摺擦に関し、摺擦度合Sを650以上とすることが必要であることが分かる。つまり、摺擦度合Sが650未満では、クリーニング部mにおいてクリーニングブレード61の欠け等による短寿命化が発生する虞がある。
このように、感光体表面回復関数I(Dr回復)から、クリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を防止するためには、感光体表面回復関数I(Dr回復)から求まる摺擦度合Sの最低値は650、即ち、
S≧650
を満たすことが必要であることが分かる。
上記条件により、感光体1への放電生成物の付着量が飽和した状態から現像部nを1回通過することにより、少なくともクリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を引き起こさない程度に感光体1から放電生成物を除去することができる。上記条件を満たすことにより、クリーニングブレード61の短寿命化を防止するのと同時に、クリーニングブレード61が設けられている場合には、クリーニング部mにおけるクリーニングブレード61での摺擦の作用も働くため、通常、放電生成物が感光体1に付着していることによる画像流れ等の画像不具合を実用上十分に除去することができる。
尚、本実施例では、上述の如くクリーニング部材61の感光体1に対する接触圧力を、実際に良く適用される上記の「中」レベル(7.1〜9N)の範囲のうち、最下限の7.1Nとすることにより、感光体1の1回転、即ち、現像部nとクリーニング部mをそれぞれ1回通過した後のI(Dr回復)は85.47°となり、画像流れを起こさないレベルとなった。画像流れの評価方法は後述する。
<III.感光体傷関数J(Dr傷)>
次に、感光体傷関数J(Dr傷)、及びこの関数から画像に出る傷が発生しないSの最大値を定める方法について詳しく説明する。
感光体傷関数J(Dr傷)は次の式によって定義される。
上記式(4)は、図14に示す摺擦度合Sと感光体1の表面に発生する傷との関係を調べた結果から導出されたものである。
ここで、感光体1の表面の傷は、100K枚の耐久試験を行い、画像上に発生した傷の個数として測定した。画像に発生する白筋1本を1個の傷として計数した。
図14から分かるように、摺擦度合Sが60500以上になると傷が入り始め、それ以上に摺擦度合を増加させると急激に傷が増加する傾向にある。
このことから、感光体1の傷による画像不良を起こさないためには、摺擦度合Sは60500以下にする必要があること、つまり、感光体傷関数J(Dr傷)から求まる摺擦度合Sの最高値は60500、即ち、
S≦60500
を満たす必要があることが分かる。
以上、まとめると、摺擦度合Sが下記式、
650≦S≦60500
を満たすように設定することで、感光体1の削れ量を制限して感光体1の寿命を稼ぎつつ、クリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を防止し得る程度に放電生成物を除去し、且つ、感光体1に傷が付くのを防止することができる。
表4は、fa(GSD)、fb(M)、fc(B)、fd(C)、fe(H)、g(感光体周速度)、h(感光体弾性変形率)の値を変えた場合の摺擦度合S、感光体1の表面の水の接触角の測定値、上記式(3)から導出されるAの値(X=1)、画像に出る傷の測定値の代表例をまとめた表である。尚、感光体1上の傷は100K枚耐久時に測定し、画像上に白筋が出るような傷が1本でも有る時を「有」、画像上に白筋が出るような傷が1本無い時を「無」とした。
表4に示す結果より、上述のように定義される摺擦度合Sの範囲が適正であることが分かる。
更に、摺擦度合Sの上記式(2)より、弾性変形率Wの高い(削れにくい)感光体1を使用する場合は、感光体1に傷が発生しない程度に穂圧を上げた方が良いことが分かる。
本発明者らの検討によれば、感光体1の弾性変形率Wが48%以上のものを使用した場合は、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSDを400μm以下にするのが好ましい。このようにGSDを狭めることにより、下記のメリットが得られる。
(a)100%充電現像ができ色味が安定する:GSDが狭いことによって現像性を高くすることができるので、潜像電位を現像剤(トナー)の持つ電荷で常に100%埋めることが可能になる。これによって、現像剤(トナー)の持つ電荷が一定の場合はGSDが多少振れた場合においても常に潜像電位に見合った現像剤(トナー)量を感光体1に乗せることができ、色味が安定するというメリットがある。
(b)ベタ画像とハーフトーン画像との境界での白抜けが出ない:GSDが比較的大きい場合、潜像から出る電位線が対向電極である現像スリーブ42に達するまでに湾曲してしまいハーフトーン部の現像剤(トナー)がベタ部に引き寄せられるいわゆる白抜けという現象が発生する。GSDが比較的狭い場合は電位線が湾曲する前に対向電極に達するため、白抜けは発生し難い。
又、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSDを400μm以下に狭めたことによって、増大する穂圧により感光体1の傷までには至らないものの画像上に磁気ブラシ47の穂跡が残る虞がある。そのため、穂圧を弱めるためにキャリアの磁化量M(100mTの磁界を印加した時)[A/m]を1.59×108A/m(=200emu/cm3)以下に弱めたものを使用することが好ましい。これにより上記メリットが得られると共に、キャリアの穂跡のない高品位な画像を得ることができる。但し、前述したように、磁気ブラシ47を安定して形成するためには、キャリアの磁化量M(100mTの磁界を印加した時)[A/m]は9.55×107A/m(=120emu/cm3)以上とする。
尚、GSD部での現像剤の詰りが発生する虞があるという理由から、感光体1の弾性変形率Wが48%以上の場合であっても、現像スリーブ42と感光体1との間の間隙GSDは100μm以上とする。
感光体1の弾性変形率Wが48%未満の場合は、通常、現像スリーブ42と感光体1との間の間隙GSDは400μm以上である。これは、GSDを離すことにより、感光体1に発生する傷を少しでも減らすためである。又、この場合、現像性の確保の理由から、通常、現像スリーブ42と感光体1との間の間隙GSDは1000μm以下とする(離れすぎるとGSD間現像電界が形成されにくくなるため)。
実施例2
次に、本発明の他の実施例について説明する。尚、実施例1の画像形成装置と同一の機能、構成を有する要素に同一符号を付し、詳しい説明は省略する。
実施例1では、放電生成物の付着量が飽和した状態から、現像部nでの磁気ブラシ47による1回の摺擦により、感光体1の表面状態を水の接触角で60°まで回復させ、残りの放電生成物は、クリーニング部mにおけるクリーニングブレード61での摺擦により画像流れが出ないレベルまで除去した。これにより、クリーニングブレード61の欠け等による短寿命化を防止する程度に放電生成物を感光体1から除去できると共に、クリーニングブレード61による摺擦の作用を考えれば、画像流れ等の画像不具合が生じない程度に実用上十分に放電生成物を除去することができる。
これに対し、本実施例では、現像部nでの磁気ブラシ47による摺擦のみで画像流れが生じないレベルまで感光体1の表面状態を回復させる。これにより、クリーナレスの系においても感光体1の寿命を稼ぎつつ、画像流れが発生しない程度に放電生成物を除去することができ、且つ、感光体1に傷が付くのを防止することができる。又、実施例1と同様にクリーニングブレード61が設けられている系においても、クリーニングブレード61の更なる長寿命化を図ることができる。
つまり、従来、転写工程後に感光体1上に残留するトナーをクリーニングブレード61等のクリーニング部材によって除去する代わりに、例えば帯電手段で正規の帯電極性に帯電し直した後に現像器におけるかぶり取り電位差(現像器に印加する直流電圧と感光体の表面電位間の電位差)で現像器に回収するようなクリーナレス機構が提案されている。このようなクリーナレス系では、実質的に感光体1に対する主要な摺擦部が現像部nのみとなり得る。
又、実施例1と同様にクリーニングブレード61が設けられている系において、現像部nにて水の接触角で60°程度まで感光体1の表面状態を回復させた場合でも、感光体1の表面でのクリーニングブレード61の吸着力はある程度はあり、ウレタンゴム等の弾性体からなるクリーニングブレード61の感光体1への吸着性も0ではない。そのため、クリーニングブレード61と感光体1の表面の摺擦トルクは比較的大きく、10K枚を超える耐久試験では、クリーニングブレード61の欠けが生じることがある。例えば、感光体1の寿命が100K枚である場合には、クリーニングブレード61の欠けをより確実に防止して、クリーニングブレード61の寿命を更に延ばすことが望まれる。例えば、感光体1とクリーナ6とがプロセスカートリッジ等として一体のユニットとされている場合には、感光体1の寿命とクリーニングブレード61の寿命を同等とすることは重要である。従って、クリーニングブレード61を有する系においても、現像部nでの感光体1の表面状態の回復度合を更に向上することが望ましい。
本実施例では、放電生成物の付着量が飽和した状態からの、現像部nでの磁気ブラシ47による摺擦を1回受けた後の感光体1の表面状態の回復度合について、水接触角で70°から88°まで変えた感光体1のサンプルを用意して、クリーナレスの系においてどのレベルなら画像流れが発生しないかを検討した。結果を表5に示す。水の接触角の測定方法は実施例1におけるものと同じである。
ここで、画像流れは、4ポイントの文字を出力し、任意に集めた30人の評価者により文字画像が見苦しいかどうかの2値判定を行い評価した。そして、評価結果は、文字が見苦しい場合に0と判定し、見苦しくない場合に1と判定するものとし、その平均が0.9以上の場合を○、0.9未満の場合を×として示した。又、表5の結果は、感光体1として、弾性変形率Wが40、48、73%のものを用いて得たものである。尚、感光体1の弾性変形率によらず、画像流れの結果は等しくなった。これは画像流れが水の水の接触角如何で決まることを意味している。よって、ここでは、感光体弾性率Wが48%の結果を代表して示す。
表5に示す結果から、放電生成物の付着量が飽和した状態から現像部nを1回通過した後の感光体1の表面における水の接触角が85.47°を超える領域では画像流れが発生しないことが分かる。
このことから、現像部nでの磁気ブラシ47による摺擦により、水の接触角で85.47°以上となるように感光体1の表面状態を回復させることが必要であることが分かる。つまり、上記式(3)から、下記式が導かれる。
従って、現像部nにおける磁気ブラシ47による摺擦のみで画像流れが生じない程度に放電生成物を感光体1から除去するためには、A≦4.802(X=1)であることが必要であることが分かる。
ここで、実施例1において導出したように、βの値(摺擦−回復補正係数)は3.205×10-5である。従って、A=1/(βS)であるので、現像部nにおける磁気ブラシ47による摺擦のみで画像流れが生じない程度に放電生成物を感光体1から除去するためには、摺擦度合Sは6497.5526以上であることが必要であることが分かる。放電生成物を確実に除去するとの観点から、上記数値を丸めて摺擦度合Sの値は若干高めに設定し、ここでは、
S≧6500
と規定する。
又、感光体1の弾性変形率が48%以上で100K程度の長寿命化が期待できる較的硬い感光体を使用し、且つ、摺擦度合S=6500の時のクリーニングブレードの寿命を確認した結果、100K枚耐久時にクリーニングブレード61の欠けは発生していなかった。摺擦度合S=650の時は10K枚を超える耐久時に掛けが生じることがあったのに対して、確実に延びていることを確認できた。
以上、実施例1にて説明した感光体傷関数J(Dr傷)から求まる摺擦度合Sの上限値をも鑑みてまとめると、摺擦度合Sが下記式、
6500≦S≦60500
を満たすように設定することで、感光体1の削れ量を制限して感光体寿命を稼ぎつつ、画像流れが発生しない程度に放電生成物を除去し、且つ、感光体1に傷が付くのを防止することができる。本実施例によれば、クリーニングブレード61が設けられていないクリーナレス系においても、放電生成物の感光体1への付着に起因する画像流れ等の画像不具合を防止することができる。更に、本実施例によれば、クリーニングブレード61が設けられている系においても、クリーニングブレード61の寿命を更に延ばすことができる。
表6は、fa(GSD)、fb(M)、fc(B)、fd(C)、fe(H)、g(感光体周速度)、h(感光体弾性変形率)の値を変えた場合の摺擦度合S、感光体1の表面の水の接触角の測定値、上記式(3)から導出されるAの値(X=1)、画像に出る傷の測定値、画像流れの測定結果の代表例をまとめた表である。尚、画像流れは上記同様、4ポイントの文字を出力し、任意に集めた30人の評価者により文字画像が見苦しいかどうかの2値判定を行い評価した。評価結果は、文字が見苦しい場合に0と判定し、それ以外の場合に1と判定するものとし、その平均が0.9未満の時を「有」、0.9以上の時を「無」と示した。
表6に示す結果より、上述のように定義される摺擦度合Sの範囲が適正であることが分かる。
更に、実施例1と同様、感光体1の弾性変形率Wが48%以上のものを使用する場合は、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSDを400μm以下にすることが好ましい。これにより、実施例1で説明したものと同じ効果を得ることができる。又、実施例1と同様、現像スリーブ42と感光体1との間隙GSDを400μm以下に狭めた場合には、キャリアの磁化量M(100mTの磁界を印加した時)[A/m]を1.59×108A/m(=200emu/cm3以下に弱めたものを使用することが好ましい。これにより、磁性キャリアの穂跡のない高品位な画像を得ることができる。
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例の態様に限定されるものではない。例えば、当業者には周知の通り、上記各実施例の画像形成装置における記録材担持体の代わりに中間転写体(中間転写ベルト等)を有し、各画像形成部で形成したトナー像を中間転写体に一次転写して一旦重ね合わせた後、記録材に一括して二次転写する方式の画像形成装置がある。このような画像形成装置であっても本発明は等しく適用可能である。更に、1つの像担持体に対して複数の現像器を有し、像担持体に順次に形成する静電像を、それぞれ複数の現像器を順次に作用させて現像し、像担持体上で複数色のトナー像を重ね合わせるか、又は像担持体上に順次に形成される複数色のトナー像を記録材若しくは中間転写体に順次に転写して重ね合わせる方式の画像形成装置がある。このような画像形成装置であっても本発明は等しく適用可能である。当然、本発明は、単一の画像形成部を有する単色の画像形成装置にも等しく適用できる。