JP2006028354A - 蛍光体及び蛍光体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】一般式[(L)a(M)b(N)cOd:Y](Lは、Zn等の金属元素、Mは、Al等の金属元素、NはSi又はGe、Oは酸素、Yは、Mn2+、Eu2+、Cu2+、Yb2+等の付活剤、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、かつ2a+3b+4c=2dの関係を満たす。)で表される蛍光体粒子を、末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物で被覆したことを特徴とする蛍光体で、該蛍光体は、例えば亜鉛のカルボン酸塩、Al等の金属元素を含む化合物、Si等の元素を含む化合物、Mn等の付活剤を含む化合物を、水と極性有機溶媒の混合溶媒中で、加水分解・重縮合反応条件下で前駆体ゾルを調製し、さらに末端または側鎖に官能基を有する有機化合物と超臨界状態で反応させることにより製造される。
【選択図】 なし
Description
蛍光体は、プラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)等のような真空紫外線励起発光素子に用いられており、例えば、Zn2SiO4:Mn2+が緑色蛍光体として、BaMgAl10O17:Eu2+が青色蛍光体として、また、(Y,Gd)BO3:Eu2+が赤色蛍光体として実用化されている。
また、最近、蛍光体のナノサイズ化の要請が急速に高まっている。これは、PDP、FED等の画像表示装置以外で、情報セキュリティ分野、医療機器分野、建築分野、インテリア分野等でより透明性、透光性の高いナノ蛍光体に対する応用が考えられているからである。
Zn2SiO4:Mn2+系蛍光体の製造方法としては、(i)固相法、(ii)ゾル−ゲル法、(iii)水熱合成法、(iv)超臨界水を用いる合成法、(v)超臨界エタノールを用いる合成法が知られている。
(i)固相法は、酸化物や炭酸塩の混合物を1000℃前後で高温焼成して、結晶性のZn2SiO4:Mn2+を合成する。Zn2SiO4は900℃で生成し、1000℃以上でほぼ単相のZn2SiO4が得られるが、焼成時及び焼成後の扱いによって、発光特性の低下、格子歪・欠陥などの問題が生じる。また、ZnOが昇華して、仕込み組成どおりの化学量論比を保持できなくなる問題がある。しかも、固相法の場合、液相法よりも原料粒子の粒径がはるかに大きく、それがさらに高温焼成によって凝集するため、ナノサイズ化することは不可能である。粒径を小さくするためにボールミル等で摩砕すると、結晶性が低下し発光強度が低下するという問題がある。
このような高温合成による問題はZn2SiO4をはじめ、様々な複合酸化物に共通のものである。これを解決するために、近年オートクレーブを用いた(iii)水熱合成法が検討されてきた(非特許文献2参照)。水熱合成法によれば、高圧下で、250℃前後で溶解析出を繰り返すことにより、焼成工程を必要とせずに、結晶性の高いZn2SiO4を得ることができる。しかし、水熱合成法では粒子サイズの均一なものは得られていない。
そこで、本発明者は、(v)硝酸と超臨界エタノール(臨界温度243.0℃、臨界圧力6.14MPa)を用いてナノ蛍光体Zn2SiO4:Mn2+を合成できることを見出し、すでに発表している(非特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、硝酸が酸化剤として働いてエタノールを炭化し、それが蛍光体母体中に残留するため、蛍光体が褐色に色づき、発光強度が低下するという問題があった。また、表示材料として更なるカラードットの小型化が求められたき、硝酸と超臨界エタノールを用いる方法では対応不可能である。
このため、より発光効率の高いナノ蛍光体、及び発光効率の高いナノ蛍光体を製造するための形態制御が可能な製造方法の確立が要請されている。
すなわち、本発明は、以下の蛍光体(1)(2)、及び蛍光体の製造方法(3)(4)を提供するものである。
(式中、Lは、Zn、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、Mは、B、Al及びGaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、NはSi又はGeであり、Oは酸素であり、Yは、Mn2+、Eu2+、Cu2+、Yb2+、Cr3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Er3+、Tm3+、及びMn4+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2であり、かつ2a+3b+4c=2dの関係を満たす数値である。)
で表される蛍光体粒子を、末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物で被覆したことを特徴とする蛍光体。
(2)蛍光体粒子が、一般式[Zna(M)b(N)cOd:Y’]
(式中、M、N、Oは、前記と同じあり、Y’は、Mn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、及び0<d≦4の範囲を満たす数値である。)
で表されるものである前記(1)に記載の蛍光体。
原料化合物として、(a)亜鉛のカルボン酸塩、(b)B、Al及びGaから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、(c)Si及びGeから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、及び(e)Mn、Eu、Cu及びYbから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物を、水と極性有機溶媒からなる混合溶媒中で、加水分解・重縮合反応条件下で反応させて前躯体ゾルを調製し、該前躯体ゾルを、(f)末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物、超臨界状態の極性有機溶媒、及び水の存在下で熟成又は反応させることを特徴とする前記(2)に記載の蛍光体の製造方法。
(a)亜鉛のカルボン酸塩、(b)B、Al及びGaから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、(c)Si及びGeから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、及び(e)Mn、Eu、Cu及びYbから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物を、加水分解・重縮合反応条件下で反応させて前躯体ゾルを調製し、該前躯体ゾルを、超臨界状態の極性有機溶媒、及び水の存在下で熟成又は反応させることを特徴とする、
一般式[Zna(M)b(N)cOd:Y’]
(式中、Mは、B、Al及びGaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、NはSi又はGeであり、Oは酸素であり、Y’は、Mn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、及び0<d≦4の範囲を満たす数値である。)
で表される蛍光体の製造方法。
本発明の第1方法によれば、ナノ蛍光体製造の際に、前躯体ゾル中にポリエチレングリコールのような特定の有機化合物を表面修飾剤として添加するため、結晶の異方成長を抑制して球状粒子を製造することができる。通常、ナノサイズの粒子径がさらに小さくなると発光効率は低下するが、蛍光体を表面修飾すると、蛍光体の表面が不動態化されるため、より微小化したナノ蛍光体でありながら、発光効率を大幅に向上することができる。
本発明の第2方法によれば、亜鉛のカルボン酸塩を出発原料として前駆体ゾルを調製し、水と超臨界状態の極性有機溶媒の存在下で熟成又は反応させることにより、極性有機溶媒が酸化剤により炭化され、コンタミネーションを起こすことがなく、発光強度を低下させることなく、大幅に発光強度を向上させた蛍光体を製造することができる。
また、本発明の第1方法及び第2方法によれば、一次粒子の平均粒径が0.5〜50nmである蛍光体微粒子を製造することができる。
で表される蛍光体粒子を、末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物で被覆したことが特徴である。
上記式中、蛍光体の母体である金属酸化物は、一般式(L)a(M)b(N)cOdで表され、Lは、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、Mは、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)からなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、Nは、ケイ素(Si)又はゲルマニウム(Ge)である。これらの中では、特にLはZn、Ca、Sr及びBaが好ましく、MはB及びAlが好ましく、NはSiが好ましい。a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2であり、かつ2a+3b+4c=2dの関係を満たす数値である。
上記式中、付活剤Yは、マンガンイオン(Mn2+、Mn4+)、ユーロピウムイオン(Eu2+、Eu3+)、銅イオン(Cu2+)、イッテルビウムイオン(Yb2+)、クロムイオン(Cr3+)、セリウムイオン(Ce3+)、プラセオジウムイオン(Pr3+)、ネオジムイオン(Nd3+)、サマリウムイオン(Sm3+)、タリウムイオン(Tb3+)、ジスプロシウムイオン(Dy3+)、エルビウムイオン(Er3+)、及びツリウムイオン(Tm3+)からなる群から選ばれる一種以上のものである。これらの中では、特にMn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+が好ましい。
(式中、M、N、Oは、前記と同じあり、Y’は、Mn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、及び0<d≦4の範囲を満たす数値である。)
で表される蛍光体粒子を、末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物で被覆したものが好ましい。
母体である金属酸化物の具体例としては、Zn2SiO4、Zn2GeO4、ZnB2O4、ZnGa2O4、ZnAl2O4等が挙げられる。これらの中では、特にZn2SiO4が好ましい。また、付活剤Y’としては、特にマンガンイオン(Mn2+)が好ましい。
修飾剤における官能基としては、周期律表第15族元素又は第16族元素と水素を少なくとも1つ有する官能基等が挙げられる。第15族元素としては、窒素、リンが好ましく、第16族元素としては酸素、硫黄が好ましい。より具体的には、水酸基(OH基)、COOH基、SH基、SO3H基、NH基、NH2基、NHR基(Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、HPO4基、H2PO4基等が挙げられる。これらの中では、特に水酸基(OH基)が好ましい。
低分子量重合体としては、水に溶解するものであれば特に制限はない。例えば、重量平均分子量(Mw)が150〜20,000のポリエチレングリコール(以下、「PEG」ということがある。)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、1,4−ブタンジオール、グリセリン、エチレングリコール、重量平均分子量(Mw)が200〜15,000、特に300〜10,000のPEG、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルが好ましい。
上記修飾剤の有機化合物は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。
本発明の一般式[(L)a(M)b(N)cOd:Y]で表される蛍光体は、原料として、前記金属元素L、M、N、又はYを含む化合物を、水と極性有機溶媒からなる混合溶媒中で、加水分解・重縮合反応条件下で反応させて前躯体ゾルを調製し、該前躯体ゾルを、末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物、超臨界状態の極性有機溶媒、及び水の存在下で熟成又は反応させることにより効率的に製造することができる。
金属元素L、M、N、又はYを含む化合物としては、特に制限はなく、その金属元素の種類に応じたカルボン酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、オレイン酸塩、過塩素酸塩、クエン酸塩、サルチル酸塩、水酸化物、チオシアン酸塩、乳酸塩、アセチルアセトナト塩、アルコキシド、及びハロゲン化物からなる群から選ばれる一種以上の化合物が挙げられる。
ここで、金属元素Lを含む化合物と金属元素Yを含む化合物の原料供給モル比(Y/L比)は、通常0.001〜0.20の範囲である。金属元素L、M、N、又はYを含む化合物の加水分解・重縮合反応は、化合物の種類により、常法により決定することができる。また、本発明の効果を妨げない範囲内で、触媒として酸又はアルカリを添加することができる。
また、水/極性有機溶媒の体積比は、通常0.01〜10、好ましくは0.1〜5の範囲である。系内のゾル濃度(ゾル/極性有機溶媒の体積比)は、好ましくは0.01〜10の範囲である。
本発明の第1方法により、Mn2+、Eu2+等の金属元素Y’のイオンがドープされた金属酸化物のナノ構造結晶を共沈させて得ることができるが、このような共沈を利用した液相反応を用いることによって、付活剤が均一に分散するようにドープし、一次粒子の平均粒径が0.5〜50nm、好ましくは0.8〜10nmであり、かつ修飾剤によって被覆された蛍光体を、効率的に製造することができる。
カルボン酸塩としては、蟻酸塩、酢酸塩、カプリル酸塩、ラウリル酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数が1〜20のアルキル基を有するものが挙げられる。これらの中では、特に酢酸亜鉛が好ましい。
用いることのできるアルコキシシランとしては、特に制限はない。例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等、炭素数1〜4のアルコキシ基を有する、トリ若しくはテトラアルコキシシラン及び/又はそのオリゴマーが挙げられる。これらの中では、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン及び/又はそのオリゴマーが好ましい。
カルボン酸塩としては、蟻酸塩、酢酸塩、カプリル酸塩、ラウリル酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数が1〜20のアルキル基を有するカルボン酸塩が挙げられる。これらの中では、マンガンのカルボン酸塩が好ましく、特に酢酸マンガンが好ましい。
プロトン性の極性有機溶媒としては、アルコール、ポリエーテル(少なくとも1個の置換されていないヒドロキシ基を有する)、ヒドロキシアルキルエステル、ヒドロキシアルキルケトン、カルボン酸等が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の炭素数1〜8のモノ−又はジ−ヒドロキシアルコール等が挙げられる。
非プロトン性の極性有機溶媒としては、ケトン、エーテル及びエステルが挙げられる。より具体的には、例えばアセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ポリオールエステル、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
これらの中では、水や前躯体ゾルとの親和性等の観点から、アルコール、特にエタノールが好ましい。
(f)成分(修飾剤)は、上記のとおりである。
修飾剤の添加量は、吸着の形態によって異なるので一概に決めることはできないが、少なくとも蛍光体粒子の表面を覆うだけの量を添加することが必要である。有機化合物の添加量が少なくて、粒子が被覆されていない剥き出しの部分があると、その部分の発光エネルギーが振動エネルギーに使われてしまい、エネルギーロスが生じるため好ましくない。また、粒子の添加量が多すぎると、蛍光体の充填密度が低下し、発光効率が下がるので好ましくない。
酢酸亜鉛と酢酸マンガンを、所望のMn/Znモル比となるように超純水に溶解させる。酢酸亜鉛と酢酸マンガンの原料供給モル比(Mn/Zn比)は、通常0.002〜0.20、好ましくは0.01〜0.10の範囲である。この溶液に、PEG等のような修飾剤と、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランとエタノール等のアルコールとの混合溶液を投入し、室温近傍で撹拌することによって、加水分解反応と重縮合反応を起こし、流動性のある前躯体ゾルを調製する。
圧力容器中に、アルコールを入れた容器を入れ、この中に得られた前躯体ゾルを投入し、アルコールの臨界温度以上、かつ臨界圧力以上に、加熱、加圧して、アルコールを超臨界状態とし、ソルボサーマル反応状態におき、所定時間保持して、前躯体ゾルを熟成又は反応させる。その後溶媒を除去して乾燥することにより、表面修飾されたZn2SiO4:Mn2+のナノ粒子を製造することができる。
ここで、ソルボサーマル反応状態とは、加圧・加熱流体を反応場として利用した反応状態をいい、アルコールの物理的・化学的性質を圧力と温度によって広範囲に制御できることから、これを蛍光体の製造に応用したものである。
上記反応を継続すると、ゾルはしだいにゲル化していくが、ゲルになると前駆体がZnOとSiO2に相分離してくる。前駆体がZnOとSiO2に相分離した後に超臨界処理しても、本発明の目的とする蛍光体を得ることはできない。すなわち、本発明においては、前駆体がゲルになる前のゾル状態の時に、修飾剤を接触させて、超臨界処理することが重要である。
また、蛍光体の発光効率を更に向上させるためには、粒子を単に小さくするだけではなく、表面を化学的に修飾することが重要である。
また、Zn2SiO4は通常800℃以上でないと結晶化しないが、本発明のようなソルボサーマル反応条件下では、圧力効果により、比較的低い温度(アルコールの臨界温度より若干高い温度)で、かつ、PEG等の修飾剤が分解しない温度で結晶化する。そこで、その結晶化と同時に修飾することが可能となる。そして、超臨界アルコール/水の系で、水とアルコールが分離して、表面修飾された超微粒子を得ることができる。
前躯体ゾルを圧力容器中で加熱すると、まずテトラエトキシシラン[Si(OC2H5)4]のエトキシ基が水酸基(OH)と置換し、Siに結合している4つの(OC2H5)の一部が順次加水分解していき、水酸化物[Si(OH)X(OC2H5)4-X ]が生成する。これがZn2+やMn2+とも溶液中で相互作用を及ぼし、水熱合成のメカニズムによってゾルの一部がZn2SiO4:Mn2+として核生成する。
そして、この系がエタノールの臨界点(臨界温度243.0℃、臨界圧力6.14MPa以上)を超える(例えば、260℃、9MPa程度)と、系内にあるエタノールは疎水性を持つように変化し、今までエタノールに親和していた前躯体ゾルの残りの化学種が過飽和の状態になり瞬時で核生成を起こして、沈殿する。このとき高圧のために活性化体積の小さく結晶性の高い粒子が析出する。
生成した粒子の表面は親水性であるため、系内の水の液滴中に移動してゆき、その液滴の中で粒子はオストワルド成長(粒子の表面エネルギーが駆動力となり、より小さな粒子が縮小、消滅し、より大きな粒子が成長する現象)による異方成長を起こして成長していく。このようにして超臨界状態の極性有機溶媒(エタノール)と水の存在下で、粒子は生成し成長していくと考えられる。
水/エタノール比(体積比)が上記の範囲内にあると、分散した水の液滴が安定に存在し、その中で粒子が溶解析出を繰り返して、好適な異方成長が促進される。これに対して、水の割合多すぎるとテトラエトキシシラン等の加水分解が優先的に起こり、エタノールが超臨界状態に到達する前に多数の核生成が起こり、重縮合による粒成長が起こりにくくなる。逆に水が少なすぎると、重縮合が優先的に起こり、テトラエトキシシランが完全に加水分解せず、核生成速度は遅くなり、ZnOが生成するので好ましくない。
Zn2SiO4:Mn2+蛍光体では、母体を励起して、O2-→Mn2+への電荷移動によってMn2+へのエネルギー移動が起こり、d−d遷移によって緑色発光を示す。この発光強度は前記の異方成長によって増大する。これは、発光キラーとなる粒子表面の欠陥が減少し、エネルギー移動の際の欠陥によるエネルギー損失が低減されることに起因する。従って、一次粒子が棒状に異方成長しているほど発光強度は強くなる。
熟成又は反応温度が上がるにつれ溶解析出反応の速度が上昇し、それに伴って異方成長速度が上昇する。極性有機溶媒(アルコール等)が超臨界状態の場合、初めから結晶性の高い核が生成し、溶解析出による結晶成長速度が速いため、発光強度も高くなる。一方、臨界点以下の水熱合成条件では、欠陥の多い核生成が起こり、超臨界状態での熟成と比べて溶解析出による結晶成長の速度が遅く、発光強度も低くなる。
蛍光体粒子を熟成後、乾燥させることによって、アルコール、水等を除去し、かつ蛍光中心を活性化することができる。乾燥温度は、加水分解・重縮合反応の温度以下であれば特に制限はないが、好ましくは100〜270℃である。
(式中、Mは、B、Al及びGaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、NはSi又はGeであり、Oは酸素であり、Y’は、Mn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、及び0<d≦4の範囲を満たす数値である。)
で表される蛍光体であって、表面修飾されていない蛍光体は、本発明の第2方法によって効率的に製造することができる。
すなわち、(a)亜鉛のカルボン酸塩、(b)B、Al及びGaから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、(c)Si及びGeから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、及び(e)Mn、Eu、Cu及びYbから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物を、加水分解・重縮合反応条件下で反応させて前躯体ゾルを調製し、該前躯体ゾルを、超臨界状態の極性有機溶媒、及び水の存在下で熟成又は反応させることにより効率的に製造することができる。
本発明の第2方法においては、修飾剤を用いないこと以外は、本発明の第1方法に準じて製造することができる。
本発明の第2方法によれば、亜鉛のカルボン酸塩を出発原料として、超臨界状態の極性有機溶媒と水の存在下で前駆体ゾルを熟成又は反応させることにより、極性有機溶媒が酸化剤により炭化され、コンタミネーションを起こすことがなく、発光強度を低下させることなく、発光強度の優れた蛍光体を製造することができる。本発明の第2方法によれば、出発原料として硝酸又は硝酸塩を用いる場合に比べて、蛍光強度が約4倍程度向上する。
また、PEG等の修飾剤で一次粒子を被覆した場合は、凝集粒子はマルチコア型になっており、凝集粒子の平均粒径が50〜800nm、特に50〜400nmであるにも拘わらず発光効率が極めて優れている。
本発明方法によって得られた蛍光体は、必要に応じて、例えばボールミル、ジェットミル等を用いる粉砕解砕処理、洗浄・分級処理、紫外線照射処理、焼成処理等を施すことができる。
なお、透過型電子顕微鏡(TEM)観察、粒度分布測定、X線回折(XRD)測定、蛍光スペクトル(PL)測定は、以下のとおり行った。
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
透過型電子顕微鏡(TEM、株式会社アイテス、tecnai F20 Philipes)を用いて、加速電圧200kVで測定した。TEM用試料台はマイクログリッド(普及品、応研商事株式会社)を用いた。試料はそのままエタノールに分散させ、マイクログリット中に捕獲させた。
(2)レーザー回折式光散乱粒度分布測定
レーザー回折式光散乱粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社、LS230)を用いて、蛍光体の一次粒子の平均粒径、凝集粒子の平均粒径を測定した。
(3)X線回折(XRD)測定
試料の結晶構造を確認するためにX線回折測定装置(理学電機工業株式会社、Rint-2200;ターゲットCu−Kα、30kV、40mA、2deg/min)を用いて測定を行った。
(4)蛍光スペクトル(PL)測定
発光スペクトルは、発光スペクトル測定装置(日本分光株式会社、JASCO FP-6500、100nm/min、フィルター:東芝硝子株式会社UV-29)を用いて、各試料0.1gを直径1.5cmの粉末試料測定用試料に入れ、Xeランプ(励起波長250nm)で励起し、発光強度を測定した。
酢酸亜鉛4水和物4.302g(1.96×10-2mol)と酢酸マンガン2水和物0.098g(4.00×10-4mol)を、Mn/Zn=2/98のモル比となるように超純水15cm3中に溶解させた。同溶液に、重量平均分子量(Mw)4,000のポリエチレングリコール(PEG)4.0g、テトラエトキシシラン2.083g(1.00×10-2mol)、及びエタノール15cm3との混合溶液(水/エタノール比(体積比)=1/1)を投入し、10分間撹拌し、前躯体ゾルを調製した。
オートクレーブに、エタノール30cm3を入れたガラス製容器を設置し、その中に前躯体ゾル15cm3を投入した。昇温速度4K/minで265℃まで昇温し、圧力9.5MPaとしてエタノールを超臨界状態とし、その状態で2時間保持した。その後溶媒を除去し、265℃で2時間乾燥させて、蛍光体(PEGST)を得た。X線回折プロファイルより、この蛍光体(PEGST)は、単相のα−蛍光体のZn2SiO4であった。また、一次粒子は平均粒径4nmの球状であり、凝集粒子はマルチコア型で平均粒径は272nmであった。
図1に、得られた蛍光体(PEGST)の透過型電子顕微鏡による粒子状態観察の写真を示す。また、図2に、蛍光スペクトルを示す。
実施例1において、PEGとしてMw=400のPEGを2.0g用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い蛍光体を得た。得られた蛍光体は、実施例1で得られた蛍光体(PEGST)とほぼ同程度の発光強度を示した。
酢酸亜鉛4水和物4.302g(1.96×10-2mol)と酢酸マンガン2水和物0.098g(4.00×10-4mol)を超純水15cm3にMn/Zn=2/98のモル比となるように溶解させた。同溶液に、テトラエトキシシラン2.083g(1.00×10-2mol)、及びエタノール15cm3との混合溶液(水/エタノール比(体積比)=1/1)を投入し、10分間撹拌し、前躯体ゾルを調製した。
オートクレーブにガラス製内筒を入れ、エタノール30cm3を加えた後、前躯体ゾル15cm3を入れたバイアルをエタノールと直接接触しないようにセットした。昇温速度4K/minで265℃まで昇温し、圧力9.5MPaとしてエタノールを超臨界状態とし、その状態で2時間保持した。その後溶媒を除去し、265℃で2時間乾燥させて、蛍光体(ST)を得た。この蛍光体の一次粒子は平均粒径(円柱直径)10nmの円柱状(棒状)であり、凝集粒子の平均粒径は272nmであった。
図2、図4及び図7に得られた蛍光体(ST)の蛍光スペクトルを示し、図3に透過型電子顕微鏡による粒子状態観察の写真を示す。
実施例3において、オートクレーブ中で前躯体ゾル15cm3とエタノール30cm3を分けずに混合した以外は、実施例2と同様の操作を行い、蛍光体(MIX15)を得た。 図2に、得られた蛍光体(MIX15)の蛍光スペクトルを示す。
実施例3において、超純水を10cm3、エタノールを20cm3使用(水/エタノール比(体積比)=1/2)した以外は同様の操作を行って前躯体ゾルを調製し、その後オートクレーブを用いてエタノール35cm3、前躯体ゾル10cm3とした以外は、実施例2と同様の操作を行い、蛍光体(W10)を得た。この蛍光体の一次粒子は平均粒径(円柱直径)3nmの円柱状(棒状)であり、凝集粒子の平均粒径は161nmであった。
図4に得られた蛍光体(W10)の蛍光スペクトルを示し、図5に透過型電子顕微鏡による粒子状態観察の写真を示す。
実施例3において、超純水を20cm3、エタノールを10cm3使用(水/エタノール比(体積比)=2/1)した以外は同様の操作を行って前躯体ゾルを調製し、その後オートクレーブを用いてエタノール25cm3、前躯体ゾル20cm3とした以外は、実施例2と同様の操作を行い、蛍光体(W20)を得た。この蛍光体の一次粒子は平均粒径(円柱直径)9nmの円柱状(棒状)であり、凝集粒子の平均粒径は203nmであった。
図4に得られた蛍光体(W20)の蛍光スペクトルを示し、図6に透過型電子顕微鏡による粒子状態観察の写真を示す。
酢酸亜鉛4水和物9.455g(4.307×10-2mol)と酢酸マンガン2水和物0.2153g(8.785×10-4mol)を硝酸7cm3と純水13cm3にMn/Zn=2/98のモル比となるように溶解させた。同溶液に、テトラエトキシシラン4.578g(2.197×10-2mol)、及びエタノール25cm3との混合溶液を投入し、10分間撹拌し、前躯体ゾルを調製した。
オートクレーブにガラス製内筒を入れ、エタノール30cm3を加えた後、前躯体ゾル15cm3を入れたバイアルをエタノールと直接接触しないようにセットした。昇温速度5K/minで265℃まで昇温し、圧力8.2MPaとしてエタノールを超臨界状態とし、その状態で2時間保持した。その後溶媒を除去し、265℃で2時間乾燥させて、蛍光体(S−SC)を得た。X線回折プロファイルより、S−SCは、単相のα−蛍光体のZn2SiO4であり、凝集粒子の平均粒径は0.4μmであった。
図7に、得られた蛍光体(S−SC)とSTとの蛍光スペクトルを示す。
Claims (13)
- 一般式[(L)a(M)b(N)cOd:Y]
(式中、Lは、Zn、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、Mは、B、Al及びGaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、NはSi又はGeであり、Oは酸素であり、Yは、Mn2+、Eu2+、Cu2+、Yb2+、Cr3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Er3+、Tm3+、及びMn4+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2であり、かつ2a+3b+4c=2dの関係を満たす数値である。)
で表される蛍光体粒子を、末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物で被覆したことを特徴とする蛍光体。 - 蛍光体粒子が、一般式[Zna(M)b(N)cOd:Y’]
(式中、M、N、Oは、前記と同じあり、Y’は、Mn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、及び0<d≦4の範囲を満たす数値である。)
で表されるものである請求項1に記載の蛍光体。 - 蛍光体粒子が、Zn2SiO4:Mn2+である請求項1又は2に記載の蛍光体
- 末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物が、ポリエチレングリコールである請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体。
- 蛍光体の一次粒子の平均粒径が0.5〜50nmである請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体。
- 原料化合物として、(a)亜鉛のカルボン酸塩、(b)B、Al及びGaから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、(c)Si及びGeから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、及び(e)Mn、Eu、Cu及びYbから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物を、水と極性有機溶媒からなる混合溶媒中で、加水分解・重縮合反応条件下で反応させて前躯体ゾルを調製し、該前躯体ゾルを、(f)末端又は側鎖に官能基を一つ以上有する有機化合物、超臨界状態の極性有機溶媒、及び水の存在下で熟成又は反応させることを特徴とする請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
- 原料化合物として、酢酸亜鉛、ケイ素化合物、及びマンガン塩を用いる請求項6に記載の蛍光体の製造方法。
- ケイ素化合物が、アルコキシシランである請求項7に記載の蛍光体の製造方法。
- (a)亜鉛のカルボン酸塩、(b)B、Al及びGaから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、(c)Si及びGeから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物、及び(e)Mn、Eu、Cu及びYbから選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物を、加水分解・重縮合反応条件下で反応させて前躯体ゾルを調製し、該前躯体ゾルを、超臨界状態の極性有機溶媒、及び水の存在下で熟成又は反応させることを特徴とする、
一般式[Zna(M)b(N)cOd:Y’]
(式中、Mは、B、Al及びGaからなる群から選ばれる一種以上の金属元素であり、NはSi又はGeであり、Oは酸素であり、Y’は、Mn2+、Eu2+、Cu2+及びYb2+からなる群から選ばれる一種以上の付活剤であり、a、b、c及びdは、0<a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、及び0<d≦4の範囲を満たす数値である。)
で表される蛍光体の製造方法。 - 水/極性有機溶媒の体積比が、0.01〜10である請求項6〜9のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
- 極性有機溶媒が、エタノールである請求項6〜10のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
- (c)Mn、Eu、Cu及びYbからなる群から選ばれる一種以上の金属元素を含む化合物が、酢酸塩である請求項6〜11のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
- 請求項9の製造方法により得られた蛍光体。
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