以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、光源出射される光を用いて、光情報記録媒体に対して情報の再生または記録を行なう光ピックアップ装置に用いられるプラスチック製光学素子を構成する樹脂材料であって、脂環式構造を有する重合体と、該重合体100質量部に対し酸化防止剤の少なくとも1種を0.05〜10質量部含有し、かつ重合体100質量部に対し帯電防止剤の少なくとも1種を0.001〜2.0質量部含有し、かつ温度260℃、荷重2.16kgにおけるメルトインデックス(MI)が20〜60g/minの範囲にある樹脂材料、あるいは該樹脂材料を用いて、その表面に機能膜を設けたプラスチック製光学素子により、耐光性、帯電特性が改良され、かつ光線透過率安定性に優れた樹脂材料と、機能膜の密着性が向上したプラスチック製光学素子(以下、単に光学素子ともいう)を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
すなわち、Blu−Ray Disc等の次世代光ディスクで用いる光学素子が短波長の光照射を長時間受けるのに伴い、光学素子自身が酸化等により白濁を起こすことが知られており、これらの光学素子には酸化防止剤を用いることにより、白濁を低減することはできる反面、その表面に設ける機能層、例えば、反射防止層やハードコート層との密着性が著しく低下することが判明した。本発明者は、鋭意検討を進めた結果、光学素子を構成する樹脂材料として、特定の構造を有する重合体に酸化防止剤と共に、帯電防止剤を併用することにより、帯電防止剤による埃、塵や異物の付着を防止すると共に、驚くべきことにその表面に設ける機能層の密着性を飛躍的に向上できることを見出したものである。
更に、樹脂組成物のメルトインデックスが射出成形等の成形法に適した範囲であり、溶融した樹脂組成物が適度な流動性を有するので、射出成形等の方法で光学素子を作製するとき、成形性に優れ、高い精度を有する光路差付与構造を具備する。したがって、複数種の光情報記録媒体に対して再生、記録を行なう光ピックアップ装置において、それぞれの光情報記録媒体に対応した波長の光束を反射面で収束させたり、上記反射面で反射した光を集光して受光素子して良好なピックアップ特性で情報の再生、記録を行なえる光ピックアップ装置を作製できる。
以下、本発明の詳細について説明する。
《樹脂材料》
はじめに本発明の樹脂材料の各構成要素について説明する。
〔脂環式構造を有する重合体〕
本発明の樹脂材料は、脂環式構造を有する重合体を含有する。
脂環式構造を有する重合体としては、重合体全繰り返し単位中に、前記一般式(1)で表される脂環式構造を有する繰り返し単位(a)と、前記一般式(2)または(3)で表される鎖状構造の繰り返し単位(b)とを、合計含有量が90質量%以上になるように含有し、さらに繰り返し単位(b)の含有量が1質量%以上、10質量%未満である脂環式炭化水素系共重合体が好ましい。
前記一般式(1)において、Xは脂環式炭化水素基であり、一般式(1)〜(3)において、R1〜R13は、それぞれ独立に水素原子、鎖状炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基(ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、またはシリル基)で置換された鎖状炭化水素基である。その中でも、水素原子または炭素原子数1〜6個の鎖状炭化水素基の場合が、耐熱性、低吸水性に優れるので好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を挙げることができる。極性基で置換された鎖状炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6のハロゲン化アルキル基が挙げられる。鎖状炭化水素基としては、例えば炭素原子数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6のアルキル基;炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜6のアルケニル基が挙げられる。
一般式(1)におけるXは脂環式炭化水素基を表し、それを構成する炭素数は、通常4個〜20個、好ましくは4個〜10個、より好ましくは5個〜7個である。脂環式構造を構成する炭素数をこの範囲にすることで複屈折を低減することができる。また脂環式構造は単環構造に限らず、例えばノルボルナン環やジシクロヘキサン環などの多環構造のものでもよい。
脂環式炭化水素基は、炭素−炭素不飽和結合を有してもよいが、その含有量は、全炭素−炭素結合の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。脂環式炭化水素基の炭素−炭素不飽和結合をこの範囲とすることで、透明性、耐熱性が向上する。また、脂環式炭化水素基を構成する炭素には、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、及び極性基(ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、またはシリル基)で置換された鎖状炭化水素基等が結合していてもよく、中でも水素原子または炭素原子数1〜6個の鎖状炭化水素基が耐熱性、低吸水性の点で好ましい。
また、一般式(3)に記載の「−−−」は、主鎖中の炭素−炭素飽和、または炭素−炭素不飽和結合を表すが、透明性、耐熱性を強く要求される場合、不飽和結合の含有率は、主鎖を構成する全炭素−炭素間結合の10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
前記一般式(1)で表される繰り返し単位の中でも、下記一般式(8)で表される繰り返し単位が、耐熱性、低吸水性の点で優れており好ましい。
また、前記一般式(2)で表される繰り返し単位の中でも、下記一般式(9)で表される繰り返し単位が、耐熱性、低吸水性の点で優れており好ましい。
また、前記一般式(3)で表される繰り返し単位の中でも、下記一般式(10)で表される繰り返し単位が、耐熱性、低吸水性の点で優れており好ましい。
上記一般式(8)〜(10)において、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnは、それぞれ独立に水素原子または低級鎖状炭化水素基を示し、水素原子または炭素数1〜6の低級アルキル基が、耐熱性、低吸水性の点で優れている。
一般式(2)及び(3)で表される鎖状構造の繰り返し単位の中では、一般式(3)で表される鎖状構造の繰り返し単位の方が、得られる炭化水素系重合体の強度特性に優れている点で好ましい。
本発明においては、炭化水素共重合体中の前記一般式(1)で表される脂環式構造を有する繰り返し単位(a)と、前記一般式(2)または(3)で表される鎖状構造の繰り返し単位(b)との合計含有量は、質量基準で、90%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上である。合計含有量を上記範囲にすることで、低複屈折性、耐熱性、低吸水性、機械強度が高度にバランスされる。
脂環式炭化水素系共重合体における鎖状構造の繰り返し単位(b)の含有量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、質量基準で1%以上、10%未満であり、好ましくは1%以上、8%以下、より好ましくは2%以上、6%以下の範囲である。繰り返し単位(b)の含有量を上記範囲とすることにより、低複屈折性、耐熱性、低吸水性が高度にバランスされる。
また、繰り返し単位(a)の連鎖長は、脂環式炭化水素系共重合体の分子鎖長に対して十分に短く、具体的には、A=(脂環式構造を有する繰り返し単位連鎖の質量平均分子量)、B=(脂環式炭化水素系共重合体の質量平均分子量(Mw)×(脂環式構造を有する繰り返し単位数/脂環式炭化水素系共重合体を構成する全繰り返し単位数))としたとき、AがBの30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下の範囲である。Aがこの範囲外では、低複屈折性に劣る。
更に、繰り返し単位(a)の連鎖長が特定の分布を有しているもの好ましい。具体的には、A=(脂環式構造を有する繰り返し単位連鎖の質量平均分子量)、C=(脂環式構造を有する繰り返し単位連鎖の数平均分子量)としたとき、A/Cが好ましくは1.3以上、より好ましくは1.3〜8、最も好ましくは1.7〜6の範囲である。A/Cが過度に小さいとブロック程度が増加し、過度に大きいとランダムの程度が増加して、いずれの場合にも低複屈折性に劣る。
本発明に係る脂環式構造を有する重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと称す)により測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算質量平均分子量(Mw)で、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000、最も好ましくは50,000〜250,000の範囲である。脂環式炭化水素系共重合体の質量平均分子量(Mw)が過度に小さいと成形物の強度特性に劣り、逆に過度に大きいと成形物の複屈折が大きくなる。
本発明に係る脂環式構造を有する重合体の分子量分布は、使用目的に応じて適宜選択できるが、GPCにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算の質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で、通常2.5以下、好ましくは2.3以下、より好ましくは2以下の範囲である。Mw/Mnがこの範囲にあると、機械強度と耐熱性が高度にバランスされる。
本発明に係る脂環式構造を有する共重合体のガラス転移温度(Tg)は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50℃〜250℃、好ましくは70℃〜200℃、より好ましくは90℃〜180℃である。
次いで、本発明に係る脂環式構造を有する重合体の製造方法について説明する。
本発明に係る脂環式構造を有する重合体の製造方法は、
(1)芳香族ビニル系化合物と共重合可能なその他のモノマーとを共重合し、主鎖及び芳香環の炭素−炭素不飽和結合を水素化する方法、
(2)脂環式ビニル系化合物と共重合可能なその他のモノマーとを共重合し、必要に応じて水素化する方法等が挙げられる。
上記の方法に従って、本発明に係る脂環式構造を有する重合体を製造する場合には、芳香族ビニル系化合物及び/または脂環式ビニル系化合物(a′)と共重合可能なその他のモノマー(b′)との共重合体で、共重合体中の化合物(a′)由来の繰り返し単位が、D=(芳香族ビニル系化合物及び/または脂環式ビニル系化合物由来の繰り返し単位連鎖の質量平均分子量)、E=(炭化水素系共重合体の質量平均分子量(Mw)×(芳香族ビニル系化合物及び/または脂環式ビニル系化合物由来の繰り返し単位数/炭化水素系共重合体を構成する全繰り返し単位数))としたとき、DがEの30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下である連鎖構造を有する共重合体の、主鎖、及び芳香環やシクロアルケン環等の不飽和環の炭素−炭素不飽和結合を水素化する方法により効率的に得ることができる。Dが上記範囲外では、得られる脂環式炭化水素系共重合体の低複屈折性が劣る。
本発明においては、上記(1)項に記載の方法が、より効率的に脂環式炭化水素系共重合体を得ることができるので好ましい。
上記水素化前の共重合体は、さらに、F=(芳香族ビニル系化合物及び/または脂環式ビニル系化合物由来の繰り返し単位の連鎖の数平均分子量)としたときの、D/Fが一定の範囲であるのが好ましい。具体的には、D/Fが、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.3以上、8以下、最も好ましくは1.7以上、6以下の範囲である。D/Fがこの範囲外では、得られる脂環式炭化水素系共重合体の低複屈折性が劣る。
上記化合物(a′)由来の繰り返し単位の連鎖の質量平均分子量および数平均分子量は、例えば、文献Macromorecules 1983,16,1925−1928記載の芳香族ビニル系共重合体の主鎖中不飽和二重結合をオゾン付加した後還元分解し、取り出した芳香族ビニル連鎖の分子量を測定する方法等により確認できる。
水素化前の共重合体の分子量は、GPCにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算質量平均分子量(Mw)で、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000の範囲である。共重合体の質量平均分子量(Mw)が過度に小さいと、それから得られる脂環式炭化水素系共重合体の成形物の強度特性に劣り、逆に過度に大きいと水素化反応性に劣る。
上記(1)項に記載の方法において使用する芳香族ビニル系化合物の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレン等が挙げられ、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン等が好ましい。
上記(2)項に記載の方法において使用する脂環式ビニル系化合物の具体例としては、例えば、シクロブチルエチレン、シクロペンチルエチレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘプチルエチレン、シクロオクチルエチレン、ノルボルニルエチレン、ジシクロヘキシルエチレン、α−メチルシクロヘキシルエチレン、α−t−ブチルシクロヘキシルエチレン、シクロペンテニルエチレン、シクロヘキセニルエチレン、シクロヘプテニルエチレン、シクロオクテニルエチレン、シクロデケニルエチレン、ノルボルネニルエチレン、α−メチルシクロヘキセニルエチレン、及びα−t−ブチルシクロヘキセニルエチレン等が挙げられ、これらの中でも、シクロヘキシルエチレン、α−メチルシクロヘキシルエチレンが好ましい。
これらの芳香族ビニル系化合物及び脂環式ビニル系化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
共重合可能なその他のモノマーとしては、格別な限定はないが、鎖状ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物等が用いられ、鎖状共役ジエンを用いた場合、製造過程における操作性に優れ、また得られる脂環式炭化水素系共重合体の強度特性に優れる。
鎖状ビニル化合物の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の鎖状オレフィンモノマー;1−シアノエチレン(アクリロニトリル)、1−シアノ−1−メチルエチレン(メタアクリロニトリル)、1−シアノ−1−クロロエチレン(α−クロロアクリロニトリル)等のニトリル系モノマー;1−(メトキシカルボニル)−1−メチルエチレン(メタアクリル酸メチルエステル)、1−(エトキシカルボニル)−1−メチルエチレン(メタアクリル酸エチルエステル)、1−(プロポキシカルボニル)−1−メチルエチレン(メタアクリル酸プロピルエステル)、1−(ブトキシカルボニル)−1−メチルエチレン(メタアクリル酸ブチルエステル)、1−メトキシカルボニルエチレン(アクリル酸メチルエステル)、1−エトキシカルボニルエチレン(アクリル酸エチルエステル)、1−プロポキシカルボニルエチレン(アクリル酸プロピルエステル)、1−ブトキシカルボニルエチレン(アクリル酸ブチルエステル)などの(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、1−カルボキシエチレン(アクリル酸)、1−カルボキシ−1−メチルエチレン(メタクリル酸)、無水マレイン酸などの不飽和脂肪酸系モノマー等が挙げられ、中でも、鎖状オレフィンモノマーが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテンが最も好ましい。
鎖状共役ジエンは、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、及び1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これら鎖状ビニル化合物及び鎖状共役ジエンの中でも鎖状共役ジエンが好ましく、ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。これらの鎖状ビニル化合物及び鎖状共役ジエンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの鎖状ビニル系化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の化合物(a′)を重合する方法は、格別制限はないが、一括重合法(バッチ法)、モノマー逐次添加法(モノマー全使用量の内の一部を用いて重合を開始した後、残りのモノマーを逐次添加して重合を進めていく方法)等が挙げられ、特にモノマー逐次添加法を用いると、好ましい連鎖構造を有する炭化水素系共重合体が得られる。水素化前の共重合体は、前述のDの値がより小さい程、及び/または、D/Fが大きな値を示す程、よりランダムな連鎖構造を有する。共重合体がどの程度のランダム性を有しているかは、芳香族ビニル系化合物の重合速度と共重合可能なその他のモノマーの重合速度との速度比で決まり、この速度比が小さい程、よりランダムな連鎖構造を有していることになる。
前記モノマー逐次添加法によれば、均一に混合された混合モノマーが重合系内に逐次的に添加されるため、バッチ法とは異なり、ポリマーの重合による成長過程においてモノマーの重合選択性をより下げることができるので、得られる共重合体がよりランダムな連鎖構造になる。また、重合系内での重合反応熱の蓄積が小さくてすむので重合温度を低く安定に保つことがでる。
モノマー逐次添加法の場合、まずモノマーの全使用量のうち、通常0.01質量%〜60質量%、好ましくは0.02質量%〜20質量%、より好ましくは0.05質量%〜10質量%のモノマーを初期モノマーとして予め重合反応器内に存在させた状態で開始剤を添加して重合を開始する。初期モノマー量をこのような範囲にすると、重合開始後の初期反応において発生する反応熱除去を容易にすることができ、得られる共重合体をよりランダムな連鎖構造にすることができる。
上記初期モノマーの重合転化率を70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上になるまで反応を継続すると、得られる共重合体の連鎖構造がよりランダムになる。その後、前記モノマーの残部を継続的に添加するが、添加の速度は重合系内のモノマーの消費速度を考慮して決定される。
通常は、初期モノマーの重合添加率が90%に達するまでの所要時間をT、初期モノマーの全使用モノマーに対する比率(%)をIとしたとき、関係式〔(100−I)×T/I〕で与えられる時間の0.5〜3倍、好ましくは0.8〜2倍、より好ましくは1〜1.5倍となる範囲内で残部モノマーの添加が終了するように決定される。具体的には通常0.1〜30時間、好ましくは0.5時間〜5時間、より好ましくは1時間〜3時間の範囲となるように、初期モノマー量と残りモノマーの添加速度を決定する。また、モノマー添加終了直後の全モノマー重合転化率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。モノマー添加終了直後の全モノマー重合転化率を上記の範囲とすると、得られる共重合体の連鎖構造がよりランダムになる。
重合反応は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等、特別な制約はないが、重合操作、後工程での水素化反応の容易さ、及び最終的に得られる炭化水素系共重合体の機械的強度を考えると、アニオン重合法が好ましい。
ラジカル重合の場合は、開始剤の存在下、通常0℃〜200℃、好ましくは20℃〜150℃で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法を用いることができるが、特に樹脂中への不純物等の混入等を防止する必要のある場合は、塊状重合、懸濁重合が望ましい。ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物、アゾイソブチロニトリル、4,4−アゾビス−4−シアノペンタン酸、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムに代表される水溶性触媒やレドックス開始剤などが使用可能である。
アニオン重合の場合には、開始剤の存在下、通常0℃〜200℃、好ましくは20℃〜100℃、特に好ましくは20℃〜80℃の温度範囲において、塊状重合、溶液重合、スラリー重合等の方法を用いることができるが、反応熱の除去を考慮すると、溶液重合が好ましい。この場合、重合体及びその水素化物を溶解できる不活性溶媒を用いる。溶液反応で用いる不活性溶媒は、例えばn−ブタン、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、iso−オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、中でも脂肪族炭化水素類や脂環式炭化水素類を用いると、水素化反応にも不活性な溶媒としてそのまま使用することができる。これらの溶媒は、それぞれ単独で、或いは2種類以上を組み合わせて使用でき、通常、全使用モノマー100質量部に対して200〜10,000質量部となるような割合で用いられる。
上記アニオン重合の開始剤としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウムなどのモノ有機リチウム、ジリチオメタン、1,4−ジオブタン、1,4−ジリチオー2−エチルシクロヘキサン等の多官能性有機リチウム化合物などが使用可能である。
重合反応においては、また、重合促進剤や、ランダマイザー(或る1成分の連鎖が長くなるのを防止する機能を有する添加剤)などを使用できる。アニオン重合の場合には、例えばルイス塩基化合物をランダマイザーとして使用できる。ルイス塩基化合物の具体例としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の第3級アミン化合物;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物が挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で、或いは2種類以上を組み合わせて使用できる。
上記のラジカル重合やアニオン重合により得られた重合体は、例えばスチームストリッピング法、直接脱溶媒法、アルコール凝固法等の公知の方法で回収できる。また、重合時に、水素化反応で不活性な溶媒を用いた場合には、重合溶液から重合体を回収せず、そのまま水素添加工程に使用することができる。
次いで、不飽和結合の水素化方法について説明する。
水素化前の共重合体の芳香環やシクロアルケン環などの不飽和環の炭素−炭素二重結合や主鎖の不飽和結合等の水素化反応を行う場合は、反応方法、反応形態に特別な制限はなく、公知の方法にしたがって行えばよいが、水素化率を高くでき、且つ水素化反応と同時に起こる重合体鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましく、例えば、有機溶媒中、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、及びレニウムから選ばれる少なくとも1つの金属を含む触媒を用いて行う方法が挙げられる。水素化触媒は、不均一触媒、均一触媒のいずれも使用可能である。
不均一系触媒は、金属または金属化合物のままで、または適当な担体に担持して用いることができる。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭化カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素等が挙げられ、触媒の担持量は、通常0.01〜80質量%、好ましくは0.05〜60質量%の範囲である。均一系触媒は、ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物と有機金属化合物(例えば、有機アルミニウム化合物、有機リチウム化合物)とを組み合わせた触媒、またはロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウム等の有機金属錯体触媒を用いることができる。ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物としては、例えば、各種金属のアセチルアセトン塩、ナフテン塩、シクロペンタジエニル化合物、シクロペンタジエニルジクロロ化合物等が用いられる。有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等のハロゲン化アルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素化アルキルアルミニウム等が好適に用いられる。
有機金属錯体触媒の例としては、上記各金属のγ−ジクロロ−π−ベンゼン錯体、ジクロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体、ヒドリド−クロロ−トリフェニルホスフィン錯体等の金属錯体が使用される。これらの水素化触媒は、それぞれ単独で、或いは2種類以上組み合わせて使用することができ、その使用量は、重合体に対して、質量基準にて、通常、0.01〜100部、好ましくは0.05〜50部、より好ましくは0.1〜30部である。
水素化反応は、通常10℃〜250℃であるが、水素化率を高くでき、且つ、水素化反応と同時に起こる重合体鎖切断反応を小さくできるという理由から、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは80℃〜180℃である。また水素圧力は、通常0.1MPa〜30MPaであるが、上記理由に加え、操作性の観点から、好ましくは1MPa〜20MPa、より好ましくは2MPa〜10MPaである。
このようにして得られた、水素化物の水素化率は、1H−NMRによる測定において、主鎖の炭素−炭素不飽和結合、芳香環の炭素−炭素二重結合、不飽和環の炭素−炭素二重結合のいずれも、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上である。水素化率が低いと、得られる共重合体の低複屈折性、熱安定性等が低下する。
水素化反応終了後に水素化物を回収する方法は特に限定されていない。通常、濾過、遠心分離等の方法により水素化触媒残渣を除去した後、水素化物の溶液から溶媒を直接乾燥により除去する方法、水素化物の溶液を水素化物にとっての貧溶媒中に注ぎ、水素化物を凝固させる方法を用いることができる。
脂環式構造を有する重合体としては、重合体ブロック〔A〕および重合体ブロック〔B〕を有するブロック共重合体が更に好ましい。重合体ブロック〔A〕は、前記一般式(4)で表される繰り返し単位〔1〕を含有する。重合体ブロック〔A〕中の繰り返し単位〔1〕の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。
前記一般式(4)において、R1は水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基を表し、R2−R12はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、またはハロゲン基である。なお、R2〜R12は、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12を表す。
上記一般式(4)で表される繰り返し単位〔1〕の好ましい構造は、R1が水素またはメチル基で、R2〜R12のすべてが水素原子である。重合体ブロック〔A〕中の繰り返し単位〔1〕の含有量が上記範囲にあると、透明性および機械的強度に優れる。重合体ブロック〔A〕における、前記繰り返し単位〔1〕以外の残部は、鎖状共役ジエンや鎖状ビニル化合物由来の繰り返し単位を水素化したものである。
重合体ブロック〔B〕は、前記繰り返し単位〔1〕ならびに前記一般式(5)で表される繰り返し単位〔2〕または前記一般式(6)で表される繰り返し単位〔3〕を含有する。重合体ブロック〔B〕中の繰り返し単位〔1〕の含有量は、好ましくは40〜95モル%、より好ましくは50〜90モル%である。繰り返し単位〔1〕の含有量が上記範囲にあると、透明性および機械的強度に優れる。ブロック〔B〕中の繰り返し単位〔2〕のモル分率をm2(モル%)および、繰り返し単位〔3〕のモル分率をm3(モル%)としたときに、2×m2+m3が、好ましくは2モル%以上、より好ましくは5〜60モル%、最も好ましくは10〜50モル%である。
前記一般式(5)において、R13は水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基を表す。前記一般式(5)で表される繰り返し単位〔2〕の好ましい構造は、R13が水素またはメチル基のものである。
前記一般式(6)において、R14、R15はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表す。前記一般式(6)で表される繰り返し単位〔3〕の好ましい構造は、R14が水素で、R15がメチル基またはエチル基のものである。
重合体ブロック〔B〕中の前記繰り返し単位〔2〕または繰り返し単位〔3〕の含有量が少なすぎると、機械的強度が低下する。したがって、繰り返し単位〔2〕および繰り返し単位〔3〕の含有量が上記範囲にあると、透明性および機械的強度に優れる。重合体ブロック〔B〕は、さらに、下記一般式(11)で表される繰り返し単位〔X〕を含有していてもよい。繰り返し単位〔X〕の含有量は、本発明に係るブロック共重合体の特性を損なわない範囲の量であり、好ましくはブロック共重合体全体に対し、30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
上記一般式(11)において、R25は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表し、R26はニトリル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、またはハロゲン基を表し、R27は水素原子を表す。または、R26とR27とは相互に結合して、酸無水物基またはイミド基を形成してもよい。
また、本発明に用いるブロック共重合体は、重合体ブロック〔A〕中の繰り返し単位〔1〕のモル分率をa、重合体ブロック〔B〕中の繰り返し単位〔1〕のモル分率をbとした時、a>bの関係があることが好ましい。これにより、透明性、および機械的強度に優れる。
更に、本発明に係るブロック共重合体は、ブロック〔A〕を構成する全繰り返し単位のモル数をma、ブロック〔B〕を構成する全繰り返し単位のモル数をmbとした場合に、その比(ma:mb)が好ましくは5:95〜95:5であり、より好ましくは30:70〜95:5、特に好ましくは40:60〜90:10である。(ma:mb)が上記で規定する範囲にある場合に、機械的強度および耐熱性に優れる点で好ましい。
本発明に用いるブロック共重合体の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算質量平均分子量Mwで、好ましくは10,000〜300,000、より好ましくは15,000〜250,000、特に好ましくは20,000〜200,000の範囲である。ブロック共重合体のMwが上記範囲にあると、機械的強度、耐熱性、成形性のバランスに優れる。
ブロック共重合体の分子量分布は、使用目的に応じて適宜選択できるが、GPCにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算のMwと数平均分子量(以下、Mnと記す。)との比(Mw/Mn)で、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、特に好ましくは3以下の範囲である。Mw/Mnがこの範囲にあると、機械的強度や耐熱性に優れる。
ブロック共重合体のガラス転移温度Tgは、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、示差走査型熱量計(DSC)による、高温側の測定値で、好ましくは70℃〜200℃、より好ましくは80℃〜180℃、特に好ましくは90℃〜160℃である。
本発明に用いる上記ブロック共重合体は、重合体ブロック〔A〕および重合体ブロック〔B〕を有し、(〔A〕−〔B〕)型のジブロック共重合体であっても、(〔A〕−〔B〕−〔A〕)型や(〔B〕−〔A〕−〔B〕)型のトリブロック共重合体であっても、重合体ブロック〔A〕と重合体ブロック〔B〕とが、交互に合計4個以上つながったブロック共重合体であってもよい。また、これらのブロックがラジアル型に結合したブロック共重合体であってもよい。
本発明に用いるブロック共重合体は、以下の方法により得ることができる。その方法としては、芳香族ビニル化合物または/および環に不飽和結合を有する脂環族ビニル化合物を含有するモノマー混合物、および、ビニル系モノマー(芳香族ビニル化合物および脂環族ビニル化合物を除く)を含有するモノマー混合物を重合して、芳香族ビニル化合物または/および脂環族ビニル化合物由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロック、および、ビニル系モノマー由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロックを有するブロック共重合体を得る。そして該ブロック共重合体の芳香環または/および脂肪族環を水素化する方法や、飽和脂環族ビニル化合物を含有するモノマー混合物、および、ビニル系モノマー(芳香族ビニル化合物および脂環族ビニル化合物を除く)を含有するモノマー混合物を重合して、脂環族ビニル化合物由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロック、および、ビニル系モノマー由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロックを有するブロック共重合体を得る方法などが挙げられる。中でも、本発明に用いるブロック共重合体としてより好ましいものは、例えば、以下の方法により得ることができる。
(1)第一の方法としては、まず、芳香族ビニル化合物または/および環に不飽和結合を有する脂環族ビニル化合物を50モル%以上含有するモノマー混合物〔a′〕を重合して、芳香族ビニル化合物または/および環に不飽和結合を有する脂環族ビニル化合物由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロック〔A′〕を得る。ビニル系モノマー(芳香族ビニル化合物および脂環族ビニル化合物を除く)を2モル%以上含有し、且つ、芳香族ビニル化合物または/および環に不飽和結合を有する脂環族ビニル化合物をモノマー混合物〔a′〕中の割合よりも少ない割合の量で含有するモノマー混合物〔b′〕を重合して、芳香族ビニル化合物または/および前記脂環族ビニル化合物由来の繰り返し単位とビニル系モノマー由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロック〔B′〕を得る。これらの工程を少なくとも経て、前記重合体ブロック〔A′〕および重合体ブロック〔B′〕を有するブロック共重合体を得た後、該ブロック共重合体の芳香環または/および脂肪族環を水素化する。
(2)第二の方法としては、まず、飽和脂環族ビニル化合物を50モル%以上含有するモノマー混合物〔a〕を重合して、飽和脂環族ビニル化合物由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロック〔A〕を得る。ビニル系モノマー(芳香族ビニル化合物および脂環族ビニル化合物を除く)を2モル%以上含有し、且つ、飽和脂環族ビニル化合物をモノマー混合物〔a〕中の割合よりも少ない割合の量で含有するモノマー混合物〔b〕を重合して、飽和脂環族ビニル化合物由来の繰り返し単位とビニル系モノマー由来の繰り返し単位を含有する重合体ブロック〔B〕を得る。これらの工程を少なくとも経て、前記重合体ブロック〔A〕および重合体ブロック〔B〕を有するブロック共重合体を得る。
上記方法の中で、モノマーの入手容易性、重合収率、重合体ブロック〔B′〕への繰り返し単位〔1〕の導入のし易さ等の観点から、上記(1)の方法がより好ましい。
上記(1)の方法における芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレン等や、これらにヒドロキシル基、アルコキシ基などの置換基を有するもの等が挙げられる。中でもスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン等が好ましい。
上記(1)方法における不飽和脂環族ビニル系化合物の具体例としては、シクロヘキセニルエチレン、α−メチルシクロヘキセニルエチレン、およびα−t−ブチルシクロヘキセニルエチレン等や、これらにハロゲン基、アルコキシ基、またはヒドロキシル基等の置換基を有するもの等が挙げられる。
これらの芳香族ビニル化合物および脂環族ビニル系化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできるが、本発明においては、モノマー混合物〔a′〕および〔b′〕のいずれにも、芳香族ビニル化合物を用いるのが好ましく、中でも、スチレンまたはα−メチルスチレンを用いるのがより好ましい。
上記方法で使用するビニル系モノマーには、鎖状ビニル化合物および鎖状共役ジエン化合物が含まれる。
鎖状ビニル化合物の具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の鎖状オレフィンモノマー等が挙げられ、中でも、鎖状オレフィンモノマーが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテンが最も好ましい。
鎖状共役ジエンは、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、および1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これら鎖状ビニル化合物および鎖状共役ジエンの中でも鎖状共役ジエンが好ましく、ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。これらの鎖状ビニル化合物および鎖状共役ジエンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記のモノマーを含有するモノマー混合物を重合する場合、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等のいずれの方法で重合反応を行ってもよいが、アニオン重合によるのが好ましく、不活性溶媒の存在下にリビングアニオン重合を行うのが最も好ましい。
アニオン重合は、重合開始剤の存在下、通常0℃〜200℃、好ましくは20℃〜100℃、特に好ましくは20℃〜80℃の温度範囲において行う。開始剤としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウムなどのモノ有機リチウム、ジリチオメタン、1,4−ジオブタン、1,4−ジリチオー2−エチルシクロヘキサン等の多官能性有機リチウム化合物などが使用可能である。
使用する不活性溶媒としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、中でも脂肪族炭化水素類や脂環式炭化水素類を用いると、水素化反応にも不活性な溶媒としてそのまま使用することができる。これらの溶媒は、それぞれ単独で、或いは2種類以上を組み合わせて使用でき、通常、全使用モノマー100質量部に対して200〜10,000質量部となるような割合で用いられる。
それぞれの重合体ブロックを重合する際には、各ブロック内で、或る1成分の連鎖が長くなるのを防止するために、重合促進剤やランダマイザーなどを使用することができる。特に重合反応をアニオン重合により行う場合には、ルイス塩基化合物などをランダマイザーとして使用できる。ルイス塩基化合物の具体例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の第3級アミン化合物;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物が挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で、或いは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
リビングアニオン重合によりブロック共重合体を得る方法は、従来公知の、逐次付加重合反応法およびカップリング法などが挙げられるが、本発明においては、逐次付加重合反応法を用いるのが好ましい。
逐次付加重合反応法により、重合体ブロック〔A′〕および重合体ブロック〔B′〕を有する上記ブロック共重合体を得る場合には、重合体ブロック〔A′〕を得る工程と、重合体ブロック〔B′〕を得る工程は、順次連続して行われる。具体的には、不活性溶媒中で、上記リビングアニオン重合触媒存在下、モノマー混合物〔a′〕を重合して重合体ブロック〔A′〕を得、引き続きその反応系にモノマー混合物〔b′〕を添加して重合を続け、重合体ブロック〔A′〕とつながった重合体ブロック〔B′〕を得る。さらに所望に応じて、再びモノマー混合物〔a′〕を添加して重合し、重合体ブロック〔A′〕をつなげてトリブロック体とし、さらには再びモノマー混合物〔b′〕を添加して重合し、重合体ブロック〔B′〕をつなげたテトラブロック体を得る。
得られたブロック共重合体は、例えばスチームストリッピング法、直接脱溶媒法、アルコール凝固法等の公知の方法によって回収する。重合反応において、水素化反応で不活性な溶媒を用いた場合には、重合溶液そのままを水素化反応工程にも使用することができるので、重合溶液からブロック共重合体を回収しなくてもよい。
上記(1)の方法において得られる、重合体ブロック〔A′〕および重合体ブロック〔B′〕を有するブロック共重合体(以下、水素化前ブロック共重合体という。)のうち下記の構造の繰り返し単位を有するものが好ましい。
好ましい水素化前ブロック共重合体を構成する重合体ブロック〔A′〕は、下記一般式(12)で表される繰り返し単位〔4〕を50モル%以上含有する重合体ブロックである。
上記一般式(12)において、R16は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表し、R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜20のアルコキシ基またはハロゲン基を表す。なお、上記〔R17〜R21〕は、R17、R18、R19、R20およびR21を表す。
また、好ましい重合体ブロック〔B′〕は、前記繰り返し単位〔4〕を必ず含み、下記一般式(13)で表される繰り返し単位〔5〕および下記一般式(14)で表される繰り返し単位〔6〕のいずれかを少なくとも1つ含む重合体ブロックである。また、重合体ブロック〔A′〕中の繰り返し単位〔4〕のモル分率をa′、ブロック〔B′〕中の繰り返し単位〔4〕のモル分率をb′とした場合、a′>b′である。
上記一般式(13)において、R22は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表す。
上記一般式(14)において、R23は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表し、R24は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルケニル基を表す。
更に、ブロック〔B′〕中には、下記一般式(15)で表される繰り返し単位〔Y〕を含有していてもよい。
上記一般式(15)において、R28は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表し、R29はニトリル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、またはハロゲン基を表し、R30は水素原子を表す。または、R29とR30とは相互に結合して、酸無水物基、またはイミド基を形成してもよい。
更に、好ましい水素化前ブロック共重合体は、ブロック〔A′〕を構成する全繰り返し単位のモル数をma′、ブロック〔B′〕を構成する全繰り返し単位のモル数をmb′としたとき、その比(ma′:mb′)が、5:95〜95:5、より好ましくは30:70〜95:5、特に好ましくは40:60〜90:10である。(ma′:mb′)が上記範囲にある場合に、機械的強度や耐熱性に優れる。
好ましい水素化前ブロック共重合体の分子量は、THFを溶媒としてGPCにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算Mwで、12,000〜400,000、より好ましくは19,000〜350,000、特に好ましくは25,000〜300,000の範囲である。ブロック共重合体のMwが過度に小さいと、機械的強度が低下し、過度に大きいと、水素添加率が低下する。
好ましい水素化前のブロック共重合体の分子量分布は、使用目的に応じて適宜選択できるが、GPCにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算のMwとMnとの比(Mw/Mn)で、5以下、より好ましくは4以下、特に好ましくは3以下の範囲である。Mw/Mnがこの範囲にあると、水素添加率が向上する。
好ましい水素化前のブロック共重合体のTgは、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、DSCによる高温側の測定値で、70℃〜150℃、より好ましくは80℃〜140℃、特に好ましくは90℃〜130℃である。
上記の水素化前のブロック共重合体の芳香環やシクロアルケン環などの不飽和環の炭素−炭素不飽和結合、および主鎖や側鎖の不飽和結合等を水素化する方法および反応形態に特別な制限はなく、公知の方法にしたがって行えばよいが、水素化率を高くでき、重合体鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましく、例えば、有機溶媒中、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、およびレニウムから選ばれる少なくとも1つの金属を含む触媒を用いて行う方法が挙げられる。水素化触媒は、不均一系触媒、均一系触媒のいずれも使用可能である。
不均一系触媒は、金属または金属化合物のままで、または適当な担体に担持して用いることができる。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭化カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素等が挙げられ、触媒の担持量は、好ましくは0.01〜80質量%、より好ましくは0.05〜60質量%の範囲である。均一系触媒は、ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物と有機金属化合物(例えば、有機アルミニウム化合物、有機リチウム化合物)とを組み合わせた触媒、またはロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウム等の有機金属錯体触媒を用いることができる。ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物としては、例えば、各種金属のアセチルアセトン塩、ナフテン酸塩、シクロペンタジエニル化合物、シクロペンタジエニルジクロロ化合物等が用いられる。有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等のハロゲン化アルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素化アルキルアルミニウム等が好適に用いられる。
有機金属錯体触媒の例としては、上記各金属のγ−ジクロロ−π−ベンゼン錯体、ジクロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体、ヒドリド−クロロ−トリフェニルホスフィン錯体等の金属錯体が使用される。これらの水素化触媒は、それぞれ単独で、或いは2種類以上組み合わせて使用することができ、その使用量は、重合体100質量部に対して、好ましくは0.01〜100質量部、より好ましくは0.05〜50質量部、特に好ましくは0.1〜30質量部である。
水素化反応は、通常10℃〜250℃であるが、水素化率を高くでき、且つ、重合体鎖切断反応を小さくできるという理由から、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは80℃〜180℃である。また水素圧力は、好ましくは0.1MPa〜30MPaであるが、上記理由に加え、操作性の観点から、より好ましくは1MPa〜20MPa、特に好ましくは2MPa〜10MPaである。
このようにして得られた、ブロック共重合体の水素化率は、1H−NMRによる測定において、主鎖および側鎖の炭素−炭素不飽和結合、芳香環やシクロアルケン環の炭素−炭素不飽和結合のいずれも、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。水素化率が低いと、得られる共重合体の低複屈折性、熱安定性等が低下する。
水素化反応終了後、ブロック共重合体は、例えば濾過、遠心分離等の方法により反応溶液から水素化触媒を除去した後、溶媒を直接乾燥により除去する方法、反応溶液を、ブロック共重合体にとっての貧溶媒中に注ぎ、凝固させる方法等によって回収できる。
また、本発明で用いることのできる脂環式構造を有する重合体の1つであるノルボルネン系開環重合体の水素添加物は、ノルボルネン系単量体と開環重合触媒とを添加して開環重合を行い、該単量体添加終了後も該触媒を添加して開環重合を終了してノルボルネン系開環重合体を得、次いで水素添加触媒の存在下で水素添加することにより得られるものである。
本発明において、ノルボルネン系開環重合体水素添加物を構成するノルボルネン系単量体は、ノルボルネン類、ノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体、テトラシクロドデセン類やヘキサシクロヘプタデセン類等のノルボルネン環を有する多環の環状オレフィン類であり、下記一般式(16)で代表されるものである。また、これらの単量体は、アルキル基やアルケニル基、アルキリデン基などの炭化水素基;窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、または硫黄原子を含む基;ノルボルネン環の二重結合以外の二重結合をさらに有してもよい。
上記一般式(16)において、R16〜R19、p及びqは、前記一般式(4)のそれぞれと同義である。
ノルボルネン類とは、上記一般式(16)におけるp及びqが0であるノルボルネン系単量体である。具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネンなどの無置換またはアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネンなどの芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、などの酸素原子を含む基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む基を有するノルボルネン類;などが挙げられる。
ノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体は、前記一般式(16)におけるpが0、qが0または1で、R16とR19が結合してノルボルネン環、5員環以外に環構造を有するノルボルネン系単量体である。具体的には、pが0で、qが1であるジシクロペンタジエン類、pが0で、qが1で、さらに芳香環を有するノルボルネン誘導体を挙げることができる。ジシクロペンタジエン類の具体例としては、5員環部分に二重結合を有するトリシクロ[4.3.0.12,5 ]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、5員環部分の二重結合を飽和させたトリシクロ[4.3.12,5.0]デカ−3−エン、トリシクロ[4.4.12,5.0]ウンダ−3−エンなどを挙げることができる。pが0で、qが1で、さらに芳香環を有するノルボルネン誘導体の具体例としては、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]トリデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)などを挙げることができる。
テトラシクロドデセン類は、上記一般式(16)におけるpが1、qが0であるノルボルネン系単量体である。具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセンなどの無置換またはアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセンなどの環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセンなどの芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセンなどのハロゲン原子を含む基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセンなどのケイ素原子を含む基を有するテトラシクロドデセン類;などが挙げられる。
ヘキサシクロヘプタデセン類は、上記一般式(16)におけるpが2で、qが0であるノルボルネン系単量体である。具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセンなどの無置換またはアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセンなどの環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセンなどの芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセンなどのハロゲン原子を含む基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセンなどのケイ素原子を含む基を有するヘキサシクロヘプタデセン類などが挙げられる。上記のノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明に係るノルボルネン系開環重合体水素添加物は、ノルボルネン系単量体と共重合可能な単量体由来の繰り返し単位を含んでもよい。ノルボルネン系単量体と共重合可能なその他の単量体としては、格別制限はないが、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン ;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体と共重合可能なその他の単量体由来の繰り返し単位は、通常0〜50質量%、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜10質量%である。
本発明に係るノルボルネン系開環重合体水素添加物のシクロヘキサンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリイソプレン換算の質量平均分子量(Mw)は、通常10,000〜100,000、好ましくは13,000〜70,000、より好ましくは14,000〜60,000、特に好ましくは15,000〜50,000である。また、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)として表される分子量分布(MWD)は、通常、1.5〜5.0、好ましくは、1.7〜4.0、より好ましくは1.8〜3.0である。
本発明に係るノルボルネン開環重合体水素添加物は、シクロヘキサンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリイソプレン換算の質量平均分子量(Mw)が75,000以上である成分の割合が少ないほうが好ましい。具体的には、全重合体中の15質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
本発明に係るノルボルネン開環重合体水素添加物のガラス転移温度(Tg)は、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常30〜300℃、好ましくは60〜250℃、より好ましくは80〜200℃の範囲である。ガラス転移温度が過度に低いと得られる成形体の耐熱性、耐光性が低下し、過度に高いと成形加工性が悪くなる。
本発明に係るノルボルネン開環重合体水素添加物の製造方法は、ノルボルネン系単量体と開環重合触媒(初期添加触媒)とを添加して開環重合を行い、該単量体添加終了後も該触媒を添加して(追加添加触媒)開環重合を終了してノルボルネン系開環重合体を得、次いで水素添加触媒の存在下で水素添加することを含む。
本発明に適用できるノルボルネン系単量体としては、本発明の水素添加物を構成するノルボルネン系単量体を挙げることができる。ノルボルネン系単量体の割合は、通常50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。上記範囲にノルボルネン系単量体の割合を設定することで、得られる成形体の機械的強度が向上する。
また、本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法は、上記ノルボルネン系単量体を共重合可能な単量体を使用してもよい。ノルボルネン系単量体と共重合可能なその他の単量体としては、格別制限はないが、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン ;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらのノルボルネン系単量体と共重合可能なその他の単量体の割合は、通常0〜50質量%、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜10質量%である。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、重合反応は、溶媒を用いても、用いなくても可能であるが、用いる場合にはノルボルネン系単量体とその開環重合体を十分に溶解できるものであれば、特に限定されない。中でも不活性有機溶媒中で重合を行うことが望ましい。
不活性有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;スチレンジクロリド、ジクロルエタン、ジクロルエチレン、テトラクロルエタン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;などが挙げられる。この中でも、好ましくはn−ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;またはこれらのハロゲン化物が挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量はノルボルネン系単量体100質量部あたり、通常10〜1000質量部、好ましくは50〜700質量部、より好ましくは100〜500質量部の範囲である。本発明においては、ノルボルネン系単量体と開環重合触媒(初期添加触媒)とを添加して開環重合を行うことを含む。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法においては、ノルボルネン系単量体と開環重合触媒とを混合して添加してもよく、それぞれ別個に添加してもよいが、ノルボルネン系単量体の一部と不活性有機溶媒と助触媒とを反応容器内に仕込んだ後、ノルボルネン系単量体の残部と開環重合触媒とを添加して開環重合を行うことが好ましい。このときのノルボルネン系単量体の仕込み量は、本発明の製造方法に使用するノルボルネン系単量体全量に対して、50質量%以下、好ましくは40質量%以下である。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法に適用できる助触媒は、開環重合触媒の助触媒として用いられているものが挙げられる。具体的には、有機アルミニウム化合物や有機錫化合物が挙げられ、好ましくは有機アルミニウム化合物である。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムや、ジエチルアルミニウムモノクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどのアルキルハライドアルミニウムなどが挙げられるが、好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリドなどが挙げられる。
これらの助触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。助触媒の添加量は、ノルボルネン系単量体に対して、0.005〜10モル%、好ましくは0.02〜5モル%である。助触媒を上記範囲で用いることにより、ゲルや高分子量成分の発生が少なく、かつ重合活性が高く分子量の制御が行いやすくなる。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法では、開環重合反応には、ノルボルネン系単量体、開環重合触媒及び助触媒のほかに、分子量調節剤や反応調整剤を添加することができる。
分子量調節剤としては、通常、鎖状モノオレフィンや鎖状共役ジエン類が用いられる。具体的には、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ドデセン、1、4−ヘキサジエンなどが挙げられる。分子量調節剤の使用量は、重合条件により適宜選択されるが、ノルボルネン系単量体に対して、通常0.2〜10モル%、好ましくは0.4〜7モル%、より好ましくは0.5〜4モル%である。
反応調整剤としては、アルコール、アミン等の活性水素含有極性化合物;エーテル、エステル、ケトン、ニトリル等の活性水素を含有しない極性化合物;から選ばれる少なくとも1種の極性化合物を用いることができる。活性水素含有極性化合物は、ゲルの発生を防ぎ、特定分子量の重合体を得るのに有効であり、なかでもアルコールが好ましい。また活性水素を含有しない極性化合物は、機械的強度の低下の原因となる重合体中の低分子量成分の生成を抑制するのに有効であり、中でもエーテル、エステル、ケトンが好ましく、特にケトンがより好ましい。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどの飽和アルコールや、フェノール、ベンジルアルコールなどの不飽和アルコール等が挙げられるが、好ましくはプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールである。
エステルとしては、例えば、ぎ酸メチル、ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸プロピル、安息香酸イソプロピルなどが挙げられ、これらの中でも酢酸メチルや酢酸エチルが好ましい。
エーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテルやトリエチレングリコールジブチルエーテルなどが挙げられ、これらの中でもジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテルが好ましい。
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルフェニルケトン、ジフェニルケトンなどが挙げられ、これらの中でもアセトンやメチルエチルケトンが好ましい。
反応調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。特に、本発明においては、活性水素含有の極性化合物と活性水素を有さない極性化合物を組み合わせるのが好ましく、特にアルコールとケトン、アルコールとニトリル、アルコールとエーテル及びアルコールとエステルの組み合わせが好ましい。反応調整剤の使用量は、ノルボルネン系単量体に対して、通常0.001〜10モル%、好ましくは0.01〜5モル%の範囲である。
開環重合の温度条件は、通常−20〜100℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜80℃、最も好ましくは10〜50℃の範囲で行う。温度が低すぎると反応速度が低下し、高すぎると反応の制御が困難になり、またエネルギーコストが高くなる。すなわち、温度条件を−20〜100℃の範囲に調整することで、反応の制御が容易で、エネルギーコストを低く抑えることができると共に、適切な反応速度で重合を進行させることができる。
開環重合の圧力条件は、通常0〜5MPaであり、好ましくは常圧〜1MPa、より好ましくは常圧〜0.5MPaである。
開環重合は、得られる重合体の酸化による劣化、着色などを防止するために、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われることもある。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法に適用できる開環重合触媒は、特公昭41−20111号公報、特開昭46−14910号公報、特公昭57−17883号公報、特公昭57−61044号公報、特開昭54−86600号公報、特開昭58−127728号公報、特開平1−240517号公報などに開示されているような公知のノルボルネン系単量体の開環重合触媒である。具体的には、周期表第4〜10族の遷移金属の化合物であり、これらの遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩、(オキシ)アセチルアセトネート、カルボニル錯体などが挙げられる。
具体例としては、TiCl4、TiBr4、VOCl3、VOBr3、WBr4、WBr6、WCl2、WCl4、WCl5、WCl6、WF4、WI2、WOBr4、WOCl4、WOF4、MoBr2、MoBr3、MoBr4、MoCl4、MoCl5、MoF4、MoOCl4、MoOF4、WO2、H2WO4、NaWO4、K2WO4、(NH4)2WO4、CaWO4、CuWO4、MgWO4、(CO)5WC(OCH3)(CH3)、(CO)5WC(OC2H5)(CH3)、(CO)5WC(OC2H5)(C4H5)、(CO)5MoC(OC2H5)(CH3)、(CO)5Mo=C(C2H5)、(N(C2H5)2)、トリデシルアンモニウムモリブデン酸塩、トリデシルアンモニウムタングステン酸塩等が挙げられる。
上記開環重合触媒の中でも実用上、重合活性などの点から、W、Mo、Ti、またはVの化合物が好ましく、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、またはアルコキシハロゲン化物が好ましい。
開環重合触媒の添加量は、ノルボルネン系単量体に対して通常0.001〜5モル%、好ましくは0.005〜2.5モル%、さらに好ましくは0.01〜1モル%である。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、ノルボルネン系単量体と開環重合触媒とを添加して開環重合を行い、該単量体添加終了後も該触媒を添加(追加添加触媒)する。開環重合触媒を追加添加する時期としては、例えば、ノルボルネン系単量体添加終了直後や該単量体添加終了後時間が経過した後などが挙げられる。また開環重合触媒を追加添加する方法としては、例えば、一度に開環重合触媒を添加する方法、継続して開環重合触媒を添加する方法、または断続的に開環重合触媒を添加する方法などが挙げられるが、継続して添加する方法が好ましい。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、ノルボルネン系単量体添加終了時の重合転化率は、好ましくは90〜99%、さらに好ましくは93〜97%であり、追加添加触媒量は、ノルボルネン系単量体に対して、好ましくは0.00005モル%以上、さらに好ましくは0.0025モル%以上である。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、反応系内を攪拌して開環重合を行うことが好ましい。反応系内を攪拌しながら開環重合を行うことにより、重合反応熱による急激な温度上昇を好適に抑制することが可能となる。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、目的に応じた分子量あるいは転化率まで重合を進行させてから、開環重合反応を終了する。その後、重合反応液のゲル化等を防ぐために開環重合触媒を不活性化させて、さらにその後、必要に応じて不活性化させた開環重合触媒を除去する。
開環重合触媒を不活性化する方法としては、例えば、触媒不活性化剤を重合反応液に加える方法などが挙げられる。
触媒不活性化剤としては、水、アルコール類、カルボン酸類、フェノール類などのヒドロキシル基を有する化合物を好ましく例示できる。
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロペン−1−オール、1,2−エタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2−エトキシエタノール、2,2−ジクロロ−1−エタノール、2−ブロモ−1−エタノール、2−フェニル−1−エタノールなどの脂肪族、脂環族、芳香族のモノ、ジまたはポリアルコール類などが挙げられる。
カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、アクリル酸、シュウ酸、マレイン酸、プロパントリカルボン酸、酒石酸、クエン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、フタル酸、ピロメリット酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のモノ、ジまたはポリカルボン酸類などが挙げられる。
フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。これらの触媒不活性化剤は、単独または2種以上混合して使用することができる。
これらのヒドロキシル基を有する化合物のうち、水または水溶性の化合物(例えば、炭素数4以下の化合物)は、重合体溶液に対する溶解性が低く、重合体中に残存しにくいので、好ましい。中でも、水または低級アルコール類が好ましいが、特に水とアルコール類を同時に使用すると、水を単独で使用する場合に比して、触媒不活性化効率が良好であり、またアルコールを単独で用いる場合に比して、触媒残査の析出が容易になるので好ましい。水とアルコールの好ましい使用比率は、水1質量部に対してアルコール類が0.1〜5質量部、特に0.2〜2質量%である。
触媒不活性化剤の量は、重合触媒を不活性化させるのに十分な量であればよく、重合触媒の不活性化に必要な化学量論量に対し、好ましくは1〜20モル当量、より好ましくは2〜10モル当量の範囲である。例えば、開環重合触媒として六塩化タングステン1モルとトリエチルアルミニウム1.5モルを用い、触媒不活性化剤としてメタノールを用いた場合、化学量論上は、メタノールは六塩化タングステン1モルに対して6モル、トリエチルアルミニウム1モルに対して3モルが必要となるので、開環重合触媒を不活性化するのに必要なメタノールの化学量論量は10.5モルとなる。
さらに、重合体溶液に触媒不活性化剤を添加した結果、重合触媒が析出する場合、析出する不溶解成分の凝集核または凝集助剤として、活性白土、タルク、けいそう土、ベントナイト、合成ゼオライト、シリカゲル粉末、アルミナ粉末などを添加してもよい。添加量の範囲は任意だが、好ましくは開環重合触媒の質量の約0.1〜10倍である。
触媒不活性化剤の添加は、−50℃〜100℃の任意の温度、好ましくは0〜80℃、0〜0.5MPaの任意の圧力、好ましくは常圧〜0.5MPaで行い、その条件下で、0.5〜10時間、好ましくは1〜3時間攪拌する。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、開環重合触媒に遷移金属ハロゲン化物を使用する場合は、重合触媒不活性化剤の添加によりハロゲン化水素が発生し、水素添加触媒が被毒され易いため、目的に応じた分子量あるいは転化率まで重合が進行した後、重合触媒不活性化剤の添加前に、予め酸捕捉剤を添加しておくことが好ましい。さらに、重合触媒不活性化剤の添加後であって水素添加反応開始前に、追加で酸捕捉剤を添加することが好ましい。
酸捕捉剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、などの金属水酸化物; 酸化カルシウム、酸化マグネシウム、などの金属酸化物;アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、などの金属; 炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ハイドロタルサイト(Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O)、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウムなどの塩類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキサイド、4−ビニルシクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイド、などのエポキシ化合物;などが挙げられる。
酸捕捉効果のある塩類としては、アルカリ性を示す塩類であり、強酸と弱アルカリの塩が好ましい。これらの酸捕捉剤の中で、重合触媒不活性化剤の添加前に用いる酸捕捉剤としては、エポキシ化合物と塩類、およびそれらの組み合わせが、酸捕捉効果が優れ好ましい。水素添加時に追加で加える酸捕捉剤としては、塩類が好ましい。水素添加反応時の温度条件で、反応器の腐食を効果的に抑えることができる。
酸捕捉剤の量は、用いた開環重合触媒の加水分解により発生しうるハロゲン化水素の最大量、すなわち化学量論量に対し0.5当量以上、好ましくは1〜100当量、さらに好ましくは2〜10当量である。
酸捕捉剤の添加は、−50℃〜100℃の任意の温度、好ましくは0℃〜80℃、0〜5MPaの任意の圧力、好ましくは常圧〜0.5MPaでおこなう。引き続く重合触媒不活性化剤の添加および反応は前述と同様である。
酸捕捉剤を添加した場合は、開環重合触媒を水素添加工程の前に除去せず、重合触媒残渣が共存した状態でも水素添加触媒の活性を維持するという効果もあり、好ましい。
本発明の製造方法において、上記開環重合反応終了後に、水素添加触媒を添加して水素添加反応を行う。水素添加触媒としては、オレフィン化合物や芳香族化合物の水素添加に際して一般に使用されるものであれば格別な制限はなく、通常、不均一系触媒や均一系触媒が用いられる。
不均一系触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、またはこれらの金属を用いてカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒:ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどの組み合わせからなる触媒が挙げられる。
均一系触媒としては、例えば、遷移金属化合物とアルキルアルミ金属化合物またはアルキルリチウムの組み合わせからなる触媒、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、酢酸コバルト/トリイソブチルアルミニウム、酢酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、酢酸ニッケル/トリイソブチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウイム、チタノセンクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンクロリド/n−ブチルリチウムなどの組み合わせからなる触媒が挙げられる。
水素添加反応は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。水素化触媒の使用量は、ノルボルネン系開環重合体100質量部あたり、通常0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部の範囲である。水素添加反応は、通常0.1MPa〜30MPa、好ましくは1MPa〜20MPa、より好ましくは2MPa〜10MPaの水素圧下、0〜250℃の温度範囲、1〜20時間の反応時間で行われる。
本発明に係るノルボルネン開環重合体の製造方法において、ノルボルネン系開環重合体水素添加物は以下の手順にて回収される。水素添加触媒として不均一系触媒を用いた場合、上記水素添加反応後に、ろ過して水素添加触媒を除去し、続いて凝固乾燥法、または薄膜乾燥機等を用いた直接乾燥法にて得ることができる。ノルボルネン系開環重合体水素添加物は、通常、パウダー状またはペレット状で得ることができる。一方、水素添加触媒として均一系触媒を用いた場合は、水素添加反応後に、アルコールや水を添加して触媒を失活させ、溶剤に不溶化させた後に濾過を行い触媒を除去する。
〔酸化防止剤〕
本発明の樹脂材料においては、脂環式構造を有する重合体100質量部に対し、酸化防止剤の少なくとも1種を0.05〜10質量部含有することを1つの特徴とする。
(ヒンダードアミン系酸化防止剤)
本発明で用いることのできる酸化防止剤として、特に制限はないが、酸化防止剤の少なくとも1種が、前記一般式〔I〕で表されるヒンダードアミン系酸化防止剤であることが好ましい。
前記一般式〔I〕において、R21は水素原子、ヒドロキシル基、オキシラジカル基、−SOR27、−SO2R27(R27はアルキル基またはアリール基を表す。)、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基または−COR28(R28は水素原子または一価の有機基を表す。)を表す。R22、R23及びR24は各々アルキル基を表す。R25及びR26は各々、水素原子または−OCOR29(R29は一価の有機基を表す。)を表す。また、R23とR24は共同して複素環を形成してもよい。n2は0〜4の整数を表す。
一般式〔I〕において、R21で表されるアルキル基として好ましくは、炭素原子数1〜12個のアルキル基であり、アルケニル基およびアルキニル基の好ましくは炭素原子数2〜4個のアルケニル基およびアルキニル基であり、R21の好ましい基としては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基および−COR28である。R28で表される一価の有機基は、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等である。
R22、R23およびR24で表されるアルキル基として好ましくは、炭素原子数1〜5個の直鎖または分岐のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
R25およびR26において、R29で表される1価の有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基等である。R23およびR24が共同して形成する複素環としては、例えば、
などが挙げられる。ここにおいて、Raは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはフェニル基を表す。
本発明において、一般式〔I〕で表される化合物の中で好ましいものは下記一般式〔I′〕で表されるものである。
式中、Rbはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアシル基を表す。
Rbの更に好ましい基としては、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、プロピニル基、ベンジル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基である。
以下に一般式〔I〕で表される具体的化合物を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
(その他の酸化防止剤)
本発明の樹脂材料においては、上記一般式〔I〕で表される酸化防止剤の他に、下記一般式〔II〕〜〔V〕で表される酸化防止剤も用いることができる。
はじめに、一般式〔II〕で表される酸化防止剤について説明する。
前記一般式〔II〕において、R10及びR11は各々アルキル基を表す。R12はアルキル基、−NHR13、−SR13(R13は一価の有機基を表す。)または−COOR14(R14は水素原子または一価の有機基を表す。)を表す。n1は0〜3の整数を表す。
一般式〔II〕においてR10およびR11で表されるアルキル基として、好ましくは炭素原子数1〜12個のアルキル基であり、更に好ましくは炭素原子数3〜8個のα位が分岐のアルキル基であり、特に好ましくはt−ブチル基、またはt−ペンチル基である。
R12で表されるアルキル基は、直鎖でも分岐のものでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、オクタデシル基等である。このアルキル基が置換基を有する場合、置換基としては、例えばハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、アリール基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、複素環基等が挙げられる。
R12で表される−NHR13、−SR13(R13は一価の有機基を表す。)または−COOR14(R14は水素原子または一価の有機基を表す。)における、R13およびR14で表される一価の置換基としては、例えばアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、複素環基等が挙げられる。これらの有機基が置換基を有する場合、この置換基としては、例えばハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アシルオキシ基などが挙げられる。
本発明において一般式〔II〕で表される化合物の中で好ましいのは下記の一般式〔II′〕で表される化合物である。
式中、R15およびR16は、各々、炭素原子数3〜8個の直鎖または分岐のアルキル基を表し、特にt−ブチル基、t−ペンチル基等が好ましい。Rkはk価の有機基を表す。kは1〜6の整数を表す。
Rkで表されるk価の有機基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、多価不飽和炭化水素基(エチレン、トリメチレン、プロピレン、ヘキサメチレン、2−クロロトリメチレン、プロパン−トリ−イル基、ネオペンタン−テトラ−イル基等)、脂環式炭化水素基(シクロプロピル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル基等)、アリール基(フェニル基等)、アリーレン基(1,2−、1,3−または1,4−フェニレン基、3,5−ジメチル−1,4−フェニレン基、2−t−ブチル−1,4−フェニレン基、2−クロロ−1,4−フェニレン基、ナフチレン基等)、1,3,5−三置換ベンゼン基が挙げられる。
Rkは、更に上記の基以外に、上記基のうち任意の基を−O−、−S−、−SO2−基を介して結合したk価の有機基を包含する。
Rkは、更に好ましくは、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ペンチルフェニル基、p−オクチルフェニル基、p−ドデシルフェニル基、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル基、3,5−ジ−t−ペンチル−4−ヒドロキシフェニル基である。
kは好ましくは、1〜4の整数である。
以下に一般式〔II〕で表される具体的化合物を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
次に、前記一般式〔III〕で表される酸化防止剤について説明する。
上記一般式〔III〕において、R31はアルキル基又はトリアルキルシリル基を表すが、一般式〔III〕において、R31の例としては、アルキル基(例えば、メチル、エチル、オクチル、ラウリル等)又はトリアルキルシリル基(例えば、ジメチルプロピルシリル基等)が挙げられる。
一般式〔III〕において、R32、R33、R34、R35及びR36は各々、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アシルアミノ基、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基又はスルホンアミド基を表す。一般式〔III〕において、R32、R33、R34、R35及びR36の例としては各々、水素原子、アルキル基(例えば、メチル、エチル、オクチル、ラウリル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブチルオキシ、オクチルオキシ等)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、ナフトキシ等)、アルケニル基(例えば、オクテニル等)、アルケニルオキシ基(例えば、オクテニルオキシ等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ、パルミトイルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、ハロゲン原子(例えば、塩素、臭素等)、アルキルチオ基(例えば、オクチルチオ、ラウリルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、アシル基(例えば、アセチル、バレリル、ステアロイル、ベンゾイル等)、スルホンアミド基(例えば、オクチルスルホンアミド、ラウリルスルホンアミド等)が挙げられる。
また、R31〜R36のいちの二つの基が連結して5〜6員環(例えば、インダン、スピロインダン、クロマン、スピロクロマン環等)を形成してもよい。
一般式〔III〕において、R33、R35はアルコキシ基でないことが好ましい。
一般式〔III〕において好ましい化合物は、下記一般式〔IIIA〕または一般式〔IIIB〕で表される化合物である。
上記一般式〔IIIA〕において、R37〜R40はそれぞれアルキル基を表す。
上記一般式〔IIIB〕において、R31′〜R38′はそれぞれアルキル基を表す。
以下に、一般式〔III〕で表される具体的化合物を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
次に、前記一般式〔IV〕で表される化合物について説明する。
上記一般式〔IV〕において、R41〜R45は各々、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アシルアミノ基、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基又はスルホンアミド基を表す。一般式〔IV〕において、R41、R42、R43及びR44の例としては各々、水素原子、アルキル基(例えば、メチル、エチル、オクチル、ラウリル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブチルオキシ、オクチルオキシ等)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、ナフトキシ等)、アルケニル基(例えば、オクテニル等)、アルケニルオキシ基(例えば、オクテニルオキシ等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ、パルミトイルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、ハロゲン原子(例えば、塩素、臭素等)、アルキルチオ基(例えば、オクチルチオ、ラウリルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、アシル基(例えば、アセチル、バレリル、ステアロイル、ベンゾイル等)、スルホンアミド基(例えば、オクチルスルホンアミド、ラウリルスルホンアミド等)等が挙げられる。
一般式〔IV〕において、R41及びR44が同時にアルキル基であることはない。
一般式〔IV〕において好ましい化合物は、下記一般式〔IVA〕で表される化合物である。
上記一般式〔IVA〕において、R41′〜R43′はそれぞれアルキル基を表す。
更に好ましい化合物は、下記一般式〔IVB〕で表される化合物である。
上記一般式〔IVB〕において、R44′〜R47′はそれぞれアルキル基を表し、Jは分岐鎖を有してもよいアルキレン基を表す。
以下に、一般式〔IV〕で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
次に、前記一般式〔V〕で表される化合物について説明する。
上記一般式〔V〕において、R53はアリール基または複素環基を表し、Z54及びZ55はそれぞれ炭素数1〜3のアルキレン基を表す。但し、Z54及びZ55で表されるアルキレン基の炭素数の総和は3〜6である。Aは、酸素原子、N−Z56、S(O)n5を表し、Z56はアルキル基またはアリール基を表す。n5は0〜2の整数を表す。
R53で表されるアリール基としては例えば、フェニル基、1−ナフチル基等が挙げられ、これらのアリール基には置換基を有しても良い。
R53で表される複素環基としては、例えば2−フリル基、2−チエニル基等が挙げられる。
Z54及びZ55はそれぞれ炭素数1〜3のアルキレン基を表すが、Z54及びZ55で表されるアルキレン基の総和は3〜6である。
Aは、酸素原子、N−Z56、S(O)n5を表すが、好ましくはS(O)n5である。また、Z56で表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜24の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、またアルール基としては、例えば、フェニル基を表し、これらの各基は更に置換基を有していてもよい。
n5は0〜2の整数を表し、好ましくは2である。
以下、一般式〔V〕で表される酸化防止剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
本発明において、上記説明した各酸化防止剤は、脂環式構造を有する重合体100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲で添加することが特徴であり、酸化防止剤の添加量が0.05質量部未満である場合、白濁や屈折率の変動を効果的に抑制できない。一方、酸化防止剤の添加量が10質量部を超える場合、樹脂材料の光透過率が低くなり、光ピックアップ装置への適用が困難となる。なお、酸化防止剤の添加量は、脂環式構造を有する重合体100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部が更に好ましく、1〜3質量部が特に好ましい。
上述のように本発明に係る酸化防止剤を添加することで、光学素子が、例えば、400nmといった短波長の光を照射されることに伴なう白濁や屈折率の変動を防止してプラスチック製光学素子の寿命を延ばすことができる。
〔帯電防止剤〕
本発明の樹脂材料においては、脂環式構造を有する重合体100質量部に対し、耐電防止剤の少なくとも1種を0.001〜2.0質量部含有することを1つの特徴とする。
本発明の樹脂材料に用いることのできる帯電防止剤としては、特に制限はなく、公知の帯電防止剤を用いることができるが、その中でも、アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯電防止剤、非イオン性帯電防止剤、両性イオン性帯電防止剤、高分子帯電防止剤及び導電性微粒子から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、更に好ましくは導電性微粒子であり、特に好ましくは化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化アンチモン及び酸化シリコンから選ばれる少なくとも1種である。
以下、本発明の樹脂材料に適用できる帯電防止剤について、更に説明する。
アニオン性帯電防止剤としては、例えば、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミンおよび脂肪属アマイドの硫酸塩類、脂肪属アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩類、脂肪族アミドスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタリンスルホン酸塩類等が挙げられ、カチオン性帯電防止剤としては、例えば、脂肪族アミン塩類、第4級アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩などが挙げられる。非イオン性帯電防止剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類等が挙げられ、両性イオン性帯電防止剤としては、例えば、イミダゾリン誘導体、ベタイン型高級アルキルアミノ誘導体、硫酸エステル誘導体、リン酸エステル誘導体等が挙げられ、具体的な化合物は、丸茂秀雄著「帯電防止剤 高分子の表面改質」幸書房、増補「プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧 p333〜p455」化学工業社刊、特開平11−256143号、特公昭52−32572号、特開平10−158484号等に記載されている。
好ましい帯電防止剤としては、アニオン性帯電防止剤やカチオン性帯電防止剤といったイオン性高分子化合物を挙げることができる。イオン性高分子化合物としては、特公昭49−23828号、同49−23827号、同47−28937号にみられるようなアニオン性高分子化合物;特公昭55−734号、特開昭50−54672号、特公昭59−14735号、同57−18175号、同57−18176号、同57−56059号などにみられるような、主鎖中に解離基をもつアイオネン型ポリマー:特公昭53−13223号、同57−15376号、特公昭53−45231号、同55−145783号、同55−65950号、同55−67746号、同57−11342号、同57−19735号、特公昭58−56858号、特開昭61−27853号、同62−9346号にみられるような、側鎖中にカチオン性解離基をもつカチオン性ペンダント型ポリマー、特開平5−230161号にみられるようなグラフト共重合体等を挙げることができる。
また、本発明において特に好ましく用いることのできる導電性微粒子としては、金属酸化物の例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al2O3、In2O3、SiO2、MgO、BaO、CeO2、Sb2O3、MoO2、V2O5等、或いはこれらの複合酸化物が好ましく、特に、CeO2、In2O3、SnO2、Sb2O3、及びSiO2が好ましい。異種原子を含む例としては、例えば、ZnOに対してはAl、In等の添加、TiO2に対してはNb、Ta等の添加、又SnO2に対しては、Sb、Nb、ハロゲン元素等の添加が効果的である。これら異種原子の添加量は0.01mol%〜25mol%の範囲が好ましいが、0.1mol%〜15mol%の範囲が特に好ましい。
本発明においては、導電性微粒子の平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、より好ましくは5〜100nmである。導電性微粒子の平均粒子径が100nm以下であれば、樹脂材料に含有した際に、十分な帯電特性を付与できると共に、樹脂材料の透明性を損なうことがないため好ましい。
特に好ましい帯電防止剤は、帯電防止性能と添加量の関係から、表面固有抵抗値が1×1010Ω以下のものが好ましい。表面固有抵抗値は、試料を23℃、50%RHの雰囲気で24時間調湿した後、超絶縁計を用いて、ASTM D257に準拠し測定する。
また、本発明において好ましく用いることのできる帯電防止剤は、特開平9−203810号に記載されているアイオネン導電性ポリマーあるいは分子間架橋を有する第4級アンモニウムカチオン導電性ポリマーなどである。
架橋型カチオン性導電性ポリマーの特徴は、得られる分散性粒状ポリマーにあり、粒子内のカチオン成分を高濃度、高密度にもたせることができるため、優れた導電性を有しているばかりでなく、樹脂との相溶性が良く、高い透明性が選られることにある、さらに低相対湿度下においても導電性の劣化は見られない。
帯電防止に用いられる架橋型のカチオン性導電性ポリマーである分散性粒状ポリマーは一般に約0.01μm〜0.3μmの粒子サイズ範囲にあり、好ましくは0.05μm〜0.15μmの範囲の粒子サイズが用いられる。
本発明において、上記説明した各帯電防止剤は、脂環式構造を有する重合体100質量部に対して、0.001〜2.0質量部の範囲で添加することが特徴であり、帯電防止剤の添加量が0.001質量部未満である場合、樹脂材料への埃や塵の付着を効果的に抑制できない。一方、帯電防止剤の添加量が2.0質量部を超える場合、樹脂材料の光透過率が低くなり、光ピックアップ装置への適用が困難となる。なお、帯電防止剤の添加量は、脂環式構造を有する重合体100質量部に対して0.005〜1.0質量部であることが好ましく、0.01〜0.5質量部が更に好ましい。
上述のように本発明に係る帯電防止剤を添加することで、樹脂材料表面に設ける機能層との密着性を高めることができる。
本発明の樹脂材料においては、前記説明した酸化防止剤と上記説明した帯電防止剤の総質量が、脂環式構造を有する重合体に対し5.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5.0質量%である。
〔その他の添加剤〕
本発明の樹脂材料には、上述説明した各添加剤の他に、例えば、軟質重合体、アルコール性化合物、有機又は無機フィラー、紫外線吸収剤、光安定剤、近紫外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、可塑剤、蛍光増白剤などを配合することができ、これらは単独で、あるいは2種以上混合して用いることができ、その配合量は本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
本発明の樹脂材料は、温度260℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトインデックスMIが、20〜60g/minの範囲であることが好ましい。ここで、MIの測定方法は、ASTM D1238に準拠する。MIは、さらに好ましくは30〜60g/minである。
ここで、上記MIは、例えば、脂環式構造を有する重合体の種類や構成単位の組成比の選定による結晶度の制御、可塑剤の添加といった公知方法により、調節することができる。
添加する可塑剤としては、例えば、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)、アゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジプロピレングリコールジベンゾエート、クエン酸トリ−n−ブチル、クエン酸トリ−n−ブチルアセチル、エポキシ化大豆油、2−エチルヘキシルエポキシ化トール油、塩素化パラフィン、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、リン酸−t−ブチルフェニル、リン酸トリ−2−エチルヘキシルジフェニル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、Santicizer 278、Paraplex G40、Drapex 334F、Plastolein 9720、Mesamoll、DNODP−610、HB−40等の公知のものが適用可能である。
《プラスチック製光学素子》
本発明のプラスチック製光学素子は、光源出射される光を用いて、光情報記録媒体に対して情報の再生または記録を行なう光ピックアップ装置に用いられるプラスチック製光学素子であって、脂環式構造を有する重合体と、該重合体100質量部に対し酸化防止剤の少なくとも1種を0.05〜10質量部含有し、かつ重合体100質量部に対し帯電防止剤の少なくとも1種を0.001〜2.0質量部含有し、かつ温度260℃、荷重2.16kgにおけるメルトインデックス(MI)が20〜60g/minの範囲にある樹脂材料表面に、機能層を有することを特徴とする。
上記構成からなる本発明のプラスチック製光学素子の少なくとも1つを有する光ピックアップ装置により、例えば、Blu−Ray Disc等のいわゆる次世代光ディスク、情報の記録、再生に波長400nm近傍の光を用いても、光学素子がこのような短波長の光照射を受けても、光学素子自身が白濁したり、屈折率が変動を受けことがなく、極めて製品寿命のが長く、かつ高い精度の光学特性を具備し、更に樹脂材料表面の設ける機能膜との密着性が極めて高くなり、反射防止機能、防汚性、耐擦り傷性に優れたプラスチック製光学素子と、それを用いて良好なピックアップ特性を有した光ピックアップ装置を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
本発明でいう光学素子とは、光ピックアップ装置の光学系を構成する、例えば、対物レンズ、対物レンズユニット、カップリングレンズ(コリメータ)、ビームエキスパンダ、ビームシェイパ、補正板等の部材として使用することができるものを指す。
また、対物レンズとは、狭義には光ピックアップ装置に光情報記録媒体を装填した状態において、最も光情報記録媒体側の位置で、これと対向すべく配置される集光作用を有するレンズを指し、広義にはそのレンズとともに、アクチュエータによって少なくともその光軸方向に作動可能なレンズを指すものとする。
本発明でいう光情報記録媒体とは、CD、DVD、CD−R、MD、MO、高密度DVD等の所定の波長の光束を用いて情報の再生及び/又は記録を行う一般的な光ディスクを指す。
また、情報の再生とは光情報記録媒体の情報記録面上に記録された情報を再生することをいい、情報の記録とは光情報記録媒体の情報記録面上に情報を記録することをいう。なお、ここでいう再生とは、単に情報を読み取ることを含むものである。
また、本発明のプラスチック製光学素子及び光ピックアップ装置は、情報の記録だけあるいは再生だけを行うために用いるものであってもよいし、記録と再生の両方を行うために用いるものであってもよい。
本発明の光学素子にも受ける機能層、あるいはコート層とは、特に限定はないが、反射防止膜、増反射膜、ハーフミラー膜、ダイクロイックコート、偏光膜、赤外カット膜、熱線遮断膜、導電性膜、ハードコート(表面保護膜)等が挙げられる。
本発明においては、例えば、脂環式構造を有する重合体を含有する樹脂基体上に機能膜として反射防止膜を設ける場合に、波長405nmの光吸収が極めて少ない無機物質を用いてコートすることが好ましい。具体的には、低屈折率材料(405nmの光に対するの屈折率1.3以上1.55未満)、中屈折率材料(405nmの光に対する屈折率1.55以上1.7未満)及び高屈折率材料(405nmの光に対する屈折率1.7以上)の少なくとも1つからなる単層若しくは複数層の積層からなる機能膜を形成する際に、基体上に成膜した時、波長405nmの光の吸収が0.5%以下、より好ましくは、0.1%以下にするという方法が挙げられる。
また、本発明においては、機能膜の厚みを0.1μm以上にすることが好ましい。更に0.15μm以上15μm以下とすることが好ましい。特に酸化シリコン、または酸化シリコンを主成分とした混合材料(例えば、酸化シリコンと酸化アルミニウムを含む混合材料)からなる層や、酸化アルミニウムからなる層の厚さを厚くし所定の厚さにすることが好ましい。例えば、樹脂基体の近傍の層として、0.1μm以上の上記酸化シリコン系の層を下地層として積層し機能膜の厚さを厚くすることができる。
更に、本発明においては、特定の機能膜を酸素の存在しない条件、若しくは酸素が非常に少ない条件下で、例えば、窒素ガス雰囲気下でコートすることが好ましい。
更に、本発明においては、樹脂基体と接する層として無機ハロゲン化物からなる層を形成し、前記反射防止膜を形成する方法も好ましく用いられる。又、上述の方法を適宜組み合わせることも好ましい。
本発明における機能膜としては、光学素子として必要な機能を補う効果があれば特に限定はないが、特に反射防止膜が好ましい。
反射防止膜には、上述のように低屈折率材料、中屈折率材料、及び高屈折率材料を適宜選択して用いることができる。
低屈折率材料としては、酸化シリコン、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物若しくはこれらの混合物が好ましく用いられる。
中屈折率材料としてフッ化ランタン、フッ化ネオジウム、フッ化セリウム、フッ化アルミニウム、ランタンアルミネート、フッ化鉛、酸化アルミニウム若しくはこれらの混合物が用いられる。更に、酸化アルミニウム、ランタンアルミネート若しくはこれらの混合物が好ましい。
高屈折率材料としては、酸化スカンジウム、酸化ランタン、チタン酸プラセオジウム、チタン酸ランタン、酸化チタン、ランタンアルミネート、酸化いっとりうむ、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム若しくはこれらの混合物が好ましい。更に、酸化スカンジウム、酸化ランタン、ランタンアルミネート、酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム若しくはこれらの混合物が好ましい。特にチタン金属元素を含まないことが好ましい。
以下、反射防止層の好ましい構成例を列記する。
以下において、n1、n2・・・はそれぞれ第1層、第2層・・・の405nmの光に対する屈折率を表し、d1、d2・・・はそれぞれ第1層、第2層・・・の厚みを表す。
〈2層構成:樹脂基体/高屈折率材料/低屈折率材料〉
1層目:1.7≦n1、15nm≦d1≦91nm
2層目:1.2≦n2≦1.55、30nm≦n2≦118
〈3層構成:樹脂基体/低屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料〉
1層目:1.2≦n1≦1.55、10nm≦d1≦15000nm
2層目:1.7≦n2、20nm≦d2≦110nm
3層目:1.2≦n3≦1.55、35nm≦d3≦90nm
〈3層構成:樹脂基体/中屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料〉
1層目:1.55≦n1<1.7、40nm≦d1≦15000nm
2層目:1.7≦n2、35nm≦d2≦90nm
3層目:1.2≦n3≦1.55、45nm≦d3≦85nm
〈5層構成:低又は中屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料〉
1層目:1.2≦n1<1.7、5nm≦d1≦15000nm
2層目:1.7≦n2、15nm≦d2≦35nm
3層目:1.2≦n3≦1.55、25nm≦d3≦45nm
4層目:1.7≦n4、50nm≦d4≦130nm
5層目:1.2≦n5≦1.55、80nm≦d5≦110
〈7層構成:樹脂基体/低又は中屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料/高屈折率材料/低屈折率材料〉
1層目:1.2≦n1<1.7、80nm≦d1≦15000nm
2層目:1.7≦n2、10nm≦d2≦25nm
3層目:1.2≦n3≦1.55、30nm≦d3≦45nm
4層目:1.7≦n4、40nm≦d4≦60nm
5層目:1.2≦n5≦1.55、10nm≦d5≦20nm
6層目:1.7≦n6、6nm≦d6≦70nm
7層目:1.2≦n7≦1.55、60nm≦d7≦100
本発明における機能膜として用いられる反射防止膜としては、上記の構成に限定されず、4層構成及び6層構成の反射防止膜も形成することができる。
本発明に係る機能膜を成膜する方法としては、特に限定はないが、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、ゾルゲル法等を好ましく用いることができる。
本発明のプラスチック製光学素子は、前記脂環式炭化水素系共重合体または樹脂組成物からなる成形材料を成形して得られる。成形方法としては、格別な制限されるものはないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた光学素子を得る為には溶融成形が好ましい。溶融成形法としては、例えばプレス成形、押し出し成形、射出成形等が挙げられるが、射出成形が成形性、生産性の観点から好ましい。成形条件は使用目的、又は成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃の範囲で適宜選択される。樹脂温度が過度に低いと流動性が悪化し、成形品にヒケやひずみを生じ、樹脂温度が過度に高いと樹脂の熱分解によるシルバーストリークが発生したり、光学素子が黄変するなどの成形不良が発生するおそれがある。
本発明のプラスチック製光学素子は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れる。
本発明のプラスチック製光学素子では、少なくとも1つの光学面に、該光学面を通過する所定の光に対して、予め定められた光路差を付与する光路差付与構造を有していることが好ましい。本発明でいう少なくとも1つの光学面とは、レンズの表裏面のうちの光の入射面又は出射面のことを言い、これら入射面と出射面のどちらか一方の面に光路差付与構造を有していても良いし、両方の面に有していても良い。
また、本発明においては、前述のように本発明の樹脂材料が温度260℃、荷重2.16kgにおけるメルトインデックスは、20<MI(g/10分)<60の範囲であるので、射出成形等の成形方法に適した範囲にある。すなわち、溶融した樹脂組成物が適度な流動性を有するので、射出成形等の方法で光学素子を作製するとき、光路差付与構造に対応する部分の先端まで到達でき、成形性が良好となり、こうして成形された光学素子は高い精度を有する光路差付与構造を具備する。
したがって、複数種の光情報記録媒体に対して再生、記録を行う光ピックアップ装置において、それぞれの光情報記録媒体に対応した波長の光束を反射面で収束させたり、上記反射面で反射した光を集光して受光素子に導いたりする動作を高い信頼性で行うことができる。また、このことにより、複数の光情報記録媒体に対して良好なピックアップ特性で情報の再生、記録を行える光ピックアップ装置を作製できる。
特に、本発明の樹脂材料は、酸化防止剤が添加されているので、例えば、400nmといった短波長の光の照射を継続的に受けても、白濁や屈折率の変動が抑えられる。よって、Blu−Ray Discのような高い情報密度を有する光情報記録媒体に対して、長期間にわたって良好なピックアップ特性で情報の読み書きを行うことができる。したがって、光ピックアップ装置として信頼性の高いものを得ることができる。
本発明によれば、射出成形等の成形法に適したメルトインデックスの樹脂材料を光学素子に適用することで、光学素子を成形する時に、金型の輪帯状レンズ面、回折輪帯、輪帯状凹部、輪帯状凸部に対応する部分に、溶融した樹脂組成物が先端まで行き渡ることができる。そのため、光路差付与構造をなす輪帯状レンズ面、回折輪帯、輪帯状凹部、輪帯状凸部が高い精度で形成される。
したがって、複数種の光情報記録媒体に対して再生、記録を行う光ピックアップ装置において、それぞれの光情報記録媒体に対応した波長の光束を反射面で収束させたり、上記反射面で反射した光を集光して受光素子に導いたりする動作を高い信頼性で行うことができる。また、このことにより、複数の光情報記録媒体に対して良好なピックアップ特性で情報の再生、記録を行える光ピックアップ装置を作製できる。
プラスチック製光学素子の具体例としては、以下のものが挙げられる。光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザービームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザー走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
これらの中でも、低複屈折性が要求される光ピックアップ装置を構成する光学系レンズやレーザー走査系レンズとして好適であり、光ピックアップ装置の光学系レンズに最も好適である。
光ピックアップ装置の光学系レンズとしては、例えば、対物レンズ、対物レンズユニット、カップリングレンズ(コリメータ)、ビームエキスパンダ、ビームシェイパ、補正板等として使用することができる。
対物レンズユニットは、複数の単玉光学レンズを光軸方向に一体に組み合わせて構成してなるレンズ群であり、前記複数の単玉光学レンズのうちの少なくとも一つの単玉光学レンズとして本発明のプラスチック製光学素子を使用することが好ましい。
次いで、本発明のプラスチック製光学素子を組み込んだ光ピックアップ装置について、図を交えて説明する。
図1は、本発明のプラスチック製光学素子を有する光ピックアップ装置の全体構成の一例を示す概略図である。また、図2は、本発明のプラスチック製光学素子(対物レンズ)の一例を示す側断面図である。
図1において、本発明の光ピックアップ装置1は、波長650nmの光を適用する現行のDVD(以下、現行DVDと表記)、波長405nmの光を適用するいわゆる次世代の光ディスク(以下、次世代DVDと表記)の2種類の光情報記録媒体5について情報の再生、記録を行なう装置である。
光ピックアップ装置1は、光源(レーザー発振器)2から出射されるレーザ光(光)を、コリメータレンズ3、図2に記載の構成からなる対物レンズ(プラスチック製光学素子)10を通過させて、光軸4上で光情報記録媒体5の情報記録面6に集めて集光スポットを形成し、情報記録面6からの反射光を、偏向ビームスプリッタ7で取り込み、検出器8の受光面に再びビームスポットを形成するものである。
光源2は、レーザダイオードを有して構成されており、公知の切り換え方法により、650nm、405nmという2種類の波長の光を選択して出射できる構成となっている。
コリメータレンズ3、対物レンズ(本発明のプラスチック製光学素子)10、偏向ビームスプリッタ7により、光学素子ユニットを構成している。
本発明に係る対物レンズ10は、本発明に係る樹脂組成物を射出成形で成形することにより作製される。対物レンズ10は図2に示すように、両面非球面の単レンズであり、その一方(光源側)の光学面11上に、該光学面11を通過する所定の波長の光に対して予め定められた光路差を付与する光路差付与構造20を有している。
光路差付与構造20は、光学面11が光軸4を中心とした3つの輪帯状レンズ面(以下、内側から順に第1輪帯状レンズ面21、第2輪帯状レンズ面22、第3輪帯状レンズ面23と言う)により構成され、該3つの輪帯状レンズ面21〜23のうち隣り合う輪帯状レンズ面21〜23は異なる屈折力を有している。
第1輪帯状レンズ面21と第3輪帯状レンズ面23とは、同一の光学面11上にあり、第2輪帯状レンズ面22は、光学面11から平行移動した面となっている。
第1輪帯状レンズ面21は、波長650nm、405nm両方の光を通過させ、第2輪帯状レンズ面22は、現行DVDに対応した波長650nmの光を通過させ、第3輪帯状レンズ面23は、次世代光ディスクに対応した波長405nmの光を通過させる。そして、各輪帯状レンズ面21〜23を通過した光は、情報記録面6の同じ位置に集光されるようになっている。
なお、図2では、第1輪帯状レンズ面21と第3輪帯状レンズ面23とは同一光学面11上に設けられているが、これら第1及び第3輪帯状レンズ面21、23とは同一光学面上に設けなくても良く、また、第2輪帯状レンズ面22は、光学面11から平行移動した面となっているが、特に平行移動した面でなくても良い。また、3つの輪帯状レンズ面21〜23は5つであっても良く、少なくとも3つ以上であれば良い。
対物レンズ10は、上述の環状オレフィン樹脂を適用しているので、溶融して金型に射出して成形する際、金型の第1輪帯状レンズ面21、第2輪帯状レンズ面22、第3輪帯状レンズ面23の境界部分に対応する部分に確実に樹脂が行き渡っている。そのため、対物レンズ10は光路差付与構造20が高い精度で付与されている。
この様にして形成された光路差付与構造20の作用により、対物レンズ10は現行DVD、次世代光ディスクといった複数種の光情報記録媒体5に対して、光源2で出射した光の情報記録面6への集光と、情報記録面6で反射した光の検出器8へ向けての集光を高い信頼性で行なうことができる。また、対物レンズ10をなす樹脂組成物は、本発明に係る特定の構造からなる酸化防止剤を含んでいるので、次世代光ディスクの情報を再生、記録するための405nmという光を透過する場合でも、白濁や屈折率の変動がほとんど生じない。よって、光ピックアップ装置1を長期間にわたり、高いピックアップ特性で作動させることができる。
なお、本発明のプラスチック製光学素子(対物レンズ10)は、上記光路差付与構造20を有するものに限らず、例えば、図3〜図7にその一例を示す光路差付与構造20a〜20dを有する対物レンズ10a〜10eとしても良い。
図3における光路差付与構造20aは、光軸4を中心とした複数の回折輪帯21aからなり、複数の回折輪帯21aの断面が鋸歯状であり、かつ、各回折輪帯21aの光学面11aが不連続面となっている。また、複数の回折輪帯21aは、光軸4から離れるにしたがって厚みが増すように形成されている。図3に示す対物レンズ10aは、いわゆる回折レンズである。
図4における光路差付与構造20bは、光軸4を中心とした位相差を生じる複数の輪帯状凹部21bを同心円状に有している。輪帯状凹部21bは、光学面11bのうちの光軸4を中心とした一方の面(図4における光軸4を中心に上下の光学面)に5つずつ形成されている。また、隣り合う輪帯状凹部21bどうしは、連続して一体になっており、各輪帯状凹部21b全体としての断面が階段状となっている。また、各輪帯状凹部21bを形成する光学面22bは、光学面11bに対して平行移動した面となっている。図4に示す対物レンズ10bはいわゆる位相差レンズである。
なお、図4では、隣り合う輪帯状凹部21bどうしが連続して一体になっていて、全体の断面が階段状のものであるとしたが、単に光学面11bに輪帯状凹部21bを個々に設けたものとしても良い(この場合、例えば図2に示した対物レンズ10と同様の構造となる)。
また、図4では輪帯状凹部21bを同心円状に有しているとしたが、図5に示すように、図2の第3輪帯状レンズ面23上に輪帯状凸部23bを有した対物レンズ10cとしても良い(図5中、図2と同様の構成部分については同様の符号を付した)。
図6における光路差付与構造20dは、光軸4を中心とした複数の回折輪帯21dからなり、複数の回折輪帯21dの断面が鋸歯状であり、かつ、各回折輪帯21dの光学面11dが不連続面である。そして、各回折輪帯21dの断面が光軸方向に沿った3段22dの階段状であり、各段22dの光学面12dが不連続面で、光軸4に対して直交する面となっている。
なお、図6に示すレンズ10dは、例えば、図7に示すように図6と同様の光路差付与構造20dを有するホログラム光学素子(HOE)10eと対物レンズ10fとで別体の構成としても良い。この場合、ホログラム光学素子10eは、平板状の光学素子を使用して、該光学素子の対物レンズ10fの面に光路差付与構造20dを設ける。
本発明の光ピックアップ装置1は、例えば、CD、現行DVD、次世代光ディスクの3種の光情報記録媒体5について情報の再生、記録を行なうこととしてもよい。光ピックアップ装置1で情報の再生、記録を行なう光情報記録媒体5の組み合わせは設計事項であり、適宜設定される。