インクジェット記録装置は、記録ヘッドのコンパクト化が比較的容易であり、高精細な画像を高速で、且つ安価なランニングコストで記録することができる等の利点を有している。特に、熱エネルギーを利用してインクを吐出する、いわゆるサーマルインクジェット方式の記録ヘッドは、インクに熱を与えるための発熱素子(吐出ヒータ)を半導体製造プロセスによって基板上に成膜形成することができるため、記録ヘッドを非常にコンパクトに製造することができる。
また、高精細かつ高階調の高品位な画像を記録するためには、吐出するインクの容量(インク吐出量)を小さくすると共に吐出口(ノズル)の配列間隔(ピッチ)を狭めて、解像度の向上を図る方法が特に有効であると考えられており、容量の小さなインク滴を安定して吐出して記録媒体に精度良く着弾させるべく、吐出口及び記録ヘッドを高い周波数で駆動することが求められる。
このため、インクジェット記録装置では、記録ヘッドの駆動制御など装置本体側で種々の改善がなされているが、インク吐出量の安定化は、記録ヘッド単体の性能に依存するところが大きい。すなわち、記録ヘッドの吐出口の形状や電気熱変換体(吐出ヒータ)個々のバラツキ等、記録ヘッドの製造工程において生じる僅かな誤差が、各吐出口のインク吐出量や吐出方向に大きく影響を及ぼし、最終的に形成される画像において周期的なスジとして視認され、画像品位を劣化させる原因となっている。
また、熱エネルギーを利用してインクを吐出するサーマルインクジェット方式においては、記録ヘッドの温度上昇によりインクの発泡状態やインクの流体物性が変化し、インク吐出量が増大する傾向があることが知られている。このように記録中にインク吐出量が変化すると記録された画素の濃度が高くなり濃度ムラとして現れ、画像品位が劣化してしまう。
該濃度ムラによる画像品位劣化の様子を、図面を用いて以下で説明する。
現在のインクジェット記録装置に於いて、階調特性を改善し高解像度の画像を得る手法としては、複数のインク滴を記録媒体上の略同一箇所に着弾させて1つの記録ドット(画素)を形成し、着弾させるインク滴の大きさ(容量)と数を制御することによって階調を表現する、いわゆるマルチドロップレット方式や、濃度の異なる複数のインクを用いて、同系色について少なくとも2種類以上の異なる濃度の記録ドットを形成することにより階調を表現する記録方式、また、前記二つを組み合わせた方式などが提案され、実用化されている。
前者のマルチドロップレット方式の場合、図3のグラフに示すように、所定の入力階調に対する容量の小さなインク滴(小液滴)の打ち込み数301と容量の大きなインク滴(大液滴)の打ち込み数302とは、階調性のリニアリティーを失わないように設定されている。つまり、濃度がリニアに変化するよう、入力される多値の階調データに対応した打ち込み数が設定されている。
図2は、サーマルインクジェット方式における記録ヘッドの温度によるノズルからのインク吐出量の変化を概略的に示すグラフである。図中201は小液滴用ノズルの吐出量の変化、202は大液滴用ノズルの吐出量の変化をそれぞれ示している。図2に示される通常使用状態における温度範囲では、インク吐出量はほぼ記録ヘッドの温度に比例し、温度が高くなるほどインクの流体物性及び記録素子の温度特性が微妙に変化して、結果として吐出されるインク量が増加する。その傾きはインク吐出量、インクの種類、インクを吐出するノズル形状によって若干異なるが、おおよそ1%/℃であった。例えば、市販の(株)キヤノン製のBCI−3eC(シアンインク)を用いて、大液滴(常温時4.5ng)用ノズルと小液滴(常温時2.4ng)用ノズルとにおいて、記録ヘッドの温度がおよそ20℃上昇したときの吐出量の変化は以下の表1に示す通りである。
このため、同じ入力階調(濃度データ)に対して打ち込まれるインク滴の数が一定であると、記録ヘッドの温度が変化する(上昇する)と、階調再現特性のリニアリティが崩れて記録階調の滑らかさが失われ、濃度ムラなどが生じて記録画質が低下する場合がある。
図4及び図6は、記録ヘッドを記録媒体に対して走査させながら記録する場合の、走査パス間の濃度ムラを模式的に示した図である。
図4において、101〜103で示す3つの領域は、いずれも入力データの濃度は同じ階調であるが、記録を開始してからの経過時間が異なっている。すなわち、1回目の走査で領域101を記録し(a)、2回目の走査で領域102を記録し(b)、3回目の走査で領域103を記録している(c)。このような場合、記録時間が経過すると共に記録ヘッドの温度が上昇する。従って、(a)で101を記録したときよりも(b)で102を記録したときの方が記録ヘッドの温度が高く、(c)で103を記録したときの記録ヘッドの温度が最も高い。このため、101、102、103の3つの領域間での記録濃度の差により、記録媒体搬送方向における濃度ムラが生じている。
図6は、図4の3つの領域101〜103内に記録されるラインを拡大した模式図である。104〜106で示す3つのラインは、図4の領域101〜103内に記録されるラインをそれぞれ示しており、各画素はいずれも大液滴によるドット2つと小液滴によるドット2つとで形成されている。従って、ライン104は記録開始間もない時点で記録され、ライン105は記録開始からある程度時間が経過してから記録され、ライン106は更に時間が経過してから記録されている。3つのラインの画素を形成するドットの大きさを比較すると、大液滴によるドットの大きさは、107<109<111であり、小液滴によるドットの大きさは、108<110<112である。このように入力データの濃度が同じ階調であっても、各パスを記録する間に時間が経過して記録ヘッドの温度が上昇するにつれて、各ノズルのインク吐出量が増大するため、走査パス間での濃度ムラが生じ、記録画質が低下してしまう。
図5及び図8は、記録ヘッドを記録媒体に対して走査させながら記録する場合の、走査の開始直後と終了直前とで生じる濃度ムラを模式的に示す図である。
図5において矢印は記録ヘッドの走査方向を示しており、領域201及び203は図中左から右への走査(往方向走査)で記録され、領域202は図中右から左への走査(復方向走査)で記録されている。201〜203の3つの領域内の全ての入力データの濃度は同じ階調であり、記録の順番は(a)〜(c)に示すとおりである。この場合、走査の開始時点から記録ヘッドの温度が上昇するため、走査の終了時点での記録濃度が濃くなり、走査方向における濃度ムラが生じている。
図8は、図5の3つの領域201〜203内に記録されるラインを拡大した模式図である。1行目のライン204は、図5の領域201内に記録されるラインであり、2行目のライン205は領域202内に記録されるラインであり、3行目のライン204は領域203内に記録されるラインである。ライン内の各画素はいずれも大液滴によるドット2つと小液滴によるドット2つとで形成されている。各ライン内の画素を形成するドットの大きさを比較すると、大液滴によるドットの大きさは、107<109<111であり、小液滴によるドットの大きさは、108<110<112である。このように入力データの濃度が同じ階調であっても、各走査の間に時間が経過して記録ヘッドの温度が上昇するにつれて、各ノズルのインク吐出量が増大するため、走査パス内での濃度ムラが生じ、記録画質が低下してしまう。
以上述べたような記録ヘッドの温度上昇に起因する濃度ムラを抑制するために、従来より、インクの吐出エネルギーを発生する発熱素子(吐出ヒータ等)の駆動条件を記録ヘッドの温度によって変更し、インク吐出量を安定させる手法が用いられている。より具体的には、サーマルインクジェット方式の記録ヘッドにおいては、発熱素子に与える駆動パルスの形状を記録ヘッドの温度に応じて変更する方法が知られている。例えば、ヘッドの温度を検知した結果に応じて、駆動パルスの幅を変調する構成として、特許文献1には、吐出用の信号に先立って印加するプレパルスの幅をヘッドの温度に応じて制御することで吐出量の安定化を図る技術が開示されている。また、吐出用のパルスに先立ってプレパルスを印加するダブルパルスによる制御として記録ヘッドの温度が低いときには駆動パルスとしてダブルパルスを選択し、高いときにはシングルパルスに切り換えてインク吐出量を制御するものもある。
以下図面を参照してダブルパルスを用いる際の駆動制御について説明する。
図12(a)において、Vopは駆動電圧、P1は2つに分割されたヒートパルスの最初のパルス(以下、プレヒートパルスと言う)のパルス幅、P2はインターバルタイム(休止期間、インターパルスとも呼ぶ)、P3は2番目のパルス(以下、メインヒートパルスと言う)のパルス幅である。T1,T2,T3はP1,P2,P3を決めるための時間を示している。駆動電圧Vopは、この電圧が印加される電気熱変換体(発熱素子)が、基板(ヒーターボード)とインク発泡室とによって構成されるインク液路内のインクに熱エネルギーを発生させるために必要な信号のエネルギーを示すパラメータの1つである。その値は電気熱変換体の面積、抵抗値、膜構造や記録ヘッドの液路構造によって決まる。
分割パルス幅変調駆動法は、P1,P2,P3の幅で順次パルスを与えるものであり、プレヒートパルスは、主に液路内のインク温度を制御するためのパルスであり、インク吐出量制御の重要な役割を荷っている。このプレヒートパルス幅P1は、電気熱変換体が発生する熱エネルギーによってインク中に発泡現象が生じないような値に設定される。インターバルタイム(休止期間)は、プレヒートパルスとメインヒートパルスが相互干渉しないように一定時間の間隔を設けるためと、インク液路内インクの温度分布を均一化するために設けられる。メインヒートパルスは液路内のインク中に発泡を生ぜしめ、吐出口よりインクを吐出させるためのものであり、その幅P3は電気熱変換体の面積、抵抗値、膜構造や記録ヘッドのインク液路の構造によって決まる。
吐出ヒータにエネルギーが印加されると吐出ヒータ面近傍のインクが急激に加熱され、相転移を起こして液体から気体に状態変化(膜沸騰)を起こすが、プレヒートパルス幅P1、インターパルス幅P2、メインヒートパルス幅P3、駆動電圧Vopをそれぞれ図12(b)の表に示すように設定し、記録のための吐出動作中に、記録データによるパルス形状の指定とは無関係にシングルパルスとダブルパルスを切り換えて駆動させると、ヒータの駆動条件の違いによってインク吐出量が変化する。
即ち、ダブルパルスを用いる場合には、プレヒートパルスによって液路内のインク温度を上げる効果があるため、シングルパルスを用いる場合に比べてインク吐出量が大きくなる。このため、図13の記録ヘッドの温度とインク吐出量との関係のグラフに示すように、記録ヘッドの温度によって駆動に用いるパルス形状をダブルパルスからシングルパルスに適宜切り替えることにより、インク吐出量の範囲をある程度安定させ濃度ムラを抑制することができる。
特開平05―092565号公報
以下に、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
なお、以下に説明する実施形態では、インクジェット方式に従う記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置を例に挙げて説明する。
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
<第1の実施形態>
図10は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一例の要部構成を示す破断斜視図である。図10において、21は記録ヘッドであり、本実施形態では、記録ヘッド21は一体的に形成されたキャリッジの下方に搭載され、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)及びY(イエロー)の4色に対応した吐出口(ノズル)列を有し、4色のインクをそれぞれ収容するインクタンク22K,22C,22M,22Yを着脱可能に搭載している。そして、記録ヘッド21を搭載するキャリッジは、駆動モータ23の駆動力を伝達する駆動ベルト24の一部に連結され、往復移動(走査)を可能にしている。記録紙等の記録媒体25に対して僅かなギャップを保った状態で記録ヘッド21を往復移動させながら、インク滴を記録媒体25に吐出して記録を行う。
また、図10において、記録媒体25は、給紙搬送機構26によりキャリッジの移動方向と交差する方向(図中矢印方向)に搬送される。そして、1回の走査での記録を行う毎に記録媒体25を所定量だけ搬送して次の走査での記録を行い、以下、このような記録動作を繰り返して記録媒体25の全域に画像を形成していく。更に、記録ヘッド21の移動範囲内であって、記録領域を外れた所定位置(例えば、ホームポジション)には、記録ヘッドの各吐出口からインクを強制的に排出させることにより、各吐出口内の増粘インク、固着インク、ゴミ、気泡等の異物を除去し、記録ヘッドの吐出機能を正常に回復させるための吸引回復キャップ27が配設されている。この吸引回復キャップ27は、非記録時には、インクの蒸発を防ぐために記録ヘッド21をキャッピングしている。又、この吸引回復キャップ27に対してインクを吐出することによって、回復処理を行う予備吐出を行うこともできる。
次に、記録ヘッド21の構成について更に詳細に説明する。
図11は、記録ヘッド21を下方から見た斜視図である。駆動情報は接続されたホスト機器(例えば、PC等)からインクジェット記録装置に送られ、記録装置の駆動制御手段から出力される信号が電気接点基板31を介して記録ヘッド21に伝達される。そして、記録信号は、電気配線部材(例えば、TAB等)32と電気接合部33を通り、記録ヘッド21内のノズルが配置されている記録チップ34に送られる。
ここで、記録チップ34のノズル形状を図14に示し、図14を参照しながらインク吐出の仕組みについて説明する。図14の(a)は記録チップ34に形成される1つの吐出口(ノズル)を吐出面から見た部分拡大図であり、(b)は(a)のA−Aでの断面図である。
図14において、記録チップ34の構成要素としての基板41には、発熱素子を構成する電気熱変換素子42に記録信号を送る配線(図示せず)等が成膜されている。そして、基板41の上には、半導体製造プロセスで加工した流路43、発泡室44、吐出口45が形成されたノズルプレートが設けられている。又、フェイス面には撥水膜46が成膜されている。
以上の構成においてインクは、共通液室47内から流路43を通じて発泡室44内に充填され、吐出口45にメニスカス48が張る。メニスカス48は、負圧発生機構によってインクに生じている負圧とインクの表面張力のバランスによって成り立っている。発泡室44内に形成された発熱素子を構成する電気熱変換素子42に記録信号に応じた電気を通電すると、電気熱変換素子42によって変換された熱エネルギーにより、発泡室44に充填されていたインク中に気泡を瞬間的に発生させる。この気泡の成長によって生じる圧力変化を利用してインク滴を発泡室44と連通した吐出口45から吐出させて記録媒体25に記録する。インク滴が吐出し、インク中の気泡が収縮するとき、発泡室44に通じる流路43からインクが発泡室44内に入り込み、吐出口45にメニスカス48が張るまでインクが再充填される。
図15は、インク吐出の様子を示す図14(a)のB−Bでの断面図であり、同図において、51はインク滴、52は気泡を示している。
次に、本発明者等が本実施形態に関して行った実験について詳細に説明する。
上述のように、記録ヘッドの温度上昇によりインクの発泡状態やインクの流体物性が変化し、インク滴の吐出量は増大する傾向にある。背景技術の欄でも述べたが、その変化率は25℃から45℃の範囲において約1%/℃である。
そこで、1つのインクに対して吐出量の大きいインク滴(大液滴)用の吐出ノズルと吐出量の小さいインク滴(小液滴)用の吐出ノズルとの2種類のノズルを備える記録ヘッドを用いる記録装置において、所定の階調に対する大液滴と小液滴とのインク打ち込み数の比率を変化させて、記録ヘッドの温度と記録濃度の比較を行った。
図1は、この実験で採用した入力階調に対する大液滴と小液滴とのインク打ち込み数の組合せパターンを示しており、表2は図1のパターンを用いた常温時と昇温時の記録結果をまとめたものである。
図1において、細い実線は小液滴の打ち込み数、太い実線は大液滴の打ち込み数をそれぞれ示しており、図1(b)において一点鎖線1及び2は、常温において階調性のリニアリティーを失わないように設定された、標準的な小液滴及び大液滴のインク打ち込み数をそれぞれ示している。(b)の細い実線3及び太い実線4は、記録ヘッドの昇温時に一点鎖線1及び2で示されるインク打ち込み数で記録した際の出力階調を示している。この図で示されるように、昇温時の記録結果は常温時より右側にシフトしており、入力階調よりも濃く記録されることが理解されよう。
図1の(a)は、図1(b)の大液滴と小液滴の打ち込み数の比率(例えば、(b)で5で示す階調値に対する組合せ(大液滴7/小液滴6)=Aとする)に対して、大液滴の打ち込み数が多くなるように変えた組合せパターン、すなわち、5で示す階調値に対して(大液滴7a/小液滴6a)>Aとなる組み合わせパターンを示しており、図1の(c)は、(b)に対して小液滴の打ち込み数が多くなるように変えた組合せパターン、すなわち、5で示す階調値に対して(大液滴7c/小液滴6c)<Aとなる組合せパターンを示している。
表2に示すように、常温時においては(b)のパターンを基準濃度とすると、(a)のパターンは基準濃度よりも濃く、(c)のパターンは基準濃度よりも低い(淡い)が、記録ヘッドの温度が常温から上昇すると、図1の(b)に示すパターンは基準濃度よりも濃くなり、、図1の(c)に示すパターンが基準濃度と同等の濃さとなる。
従って、記録ヘッドの温度が上昇した場合、小液滴の打ち込み数を増やすように、大液滴と小液滴の打ち込み比率を(b)のパターンから(c)のパターンへ変化させていくことにより、記録ヘッドの温度上昇に起因する濃度ムラの発生を抑えることができる。
このことは、以下の具体例に基づいた考察によっても検証できる。
この考察における前提としては、記録ヘッドの常温(25℃)におけるインク吐出量は、大液滴が5ng、小液滴が2ngであり、記録ヘッドが45℃に昇温したときのインク吐出量は、常温時から20%大きくなり、大液滴が6ng、小液滴が2.4ngとなる場合を想定した。ここで、インク中に含まれる色材の濃度を5wt%とすると、インク1滴当たりの含有色材量は表3に示す通りとなる。
所定の入力階調を表現するのに、常温では単位画素内に大液滴2発と小液滴2発とを打ち込むとすると、単位画素当たりの色材量は、
(1)×2+(2)×2
=(25×10-11)×2+(10×10-11)×2
=70×10-11(g) ・・・(I)
となる。
同じ打ち込み比率で記録ヘッドの温度が45℃まで上昇した場合の単位画素当たりの色材量は、
(1)’×2+(2)’×2
=(30×10-11)×2+(12×10-11)×2
=84×10-11(g) ・・・(II)
となり、色材量が増大していることがわかる。
ここで本実施形態では、上記のように、記録ヘッドの温度あるいは温度上昇に応じて、小液滴が多くなるようにインク打ち込み比率を変化させ、記録ヘッドの温度が45℃まで上昇した場合に、所定の入力階調に対して大液滴1発と小液滴3発とを打ち込むようにする。この場合、単位画素当たりの色材量は、
(1)’×1+(2)’×3
=(30×10-11)×1+(12×10-11)×3
=66×10-11(g) ・・・(III)
となり、(II)の値よりも(I)の色材量に近い値となる。
このように、記録ヘッドの温度が上昇したときに、小液滴の比率が増えるように大液滴と小液滴のインク打ち込み比率を変化させることによって、記録ヘッドの温度変化に起因する濃度ムラが生じるのを効果的に抑制することが可能となる。
ここで再度、以上のことを記録媒体上に形成されたドットの模式図を参照して説明する。
図7は、本実施形態で記録ヘッドを記録媒体に対して走査させながら記録する場合の、3つの走査で記録される領域内のラインを、従来例に関して説明した図6と同様に示す模式図である。図6と比較すると、第1のライン104及び第2のライン105は同じであるが、第3のライン113は図6の第3のライン106と各画素を構成するドットの組合せが異なっている。
すなわち、いずれも階調が同じ3つのラインを異なった走査で記録するとき、記録を開始してからの時間の経過と共に記録ヘッドの温度が上昇し、大液滴によるドット及び小液滴によるドットはいずれも次第に大きくなる。従って、図7においても図6と同様に、大液滴によるドットの大きさは、107<109<111であり、小液滴によるドットの大きさは、108<110<112である。そして、本実施形態では、第1のライン104及び第2のライン105の各画素を、大液滴によるドット2つと小液滴によるドット2つで形成するが、記録ヘッドの温度が所定の閾値を越えた後に記録される第3のライン113の各画素を、小液滴によるドットの比率を増やして大液滴によるドット1つと小液滴によるドット3つで形成する。
このように、本実施形態では、複数の走査での記録の間に記録ヘッドの温度が上昇した場合には、同じ階調の記録に小液滴が多く打ち込まれるように打ち込み比率(ドットの組合せ)を変えているため、複数の走査での記録の間に温度上昇によって各ノズルのインク吐出量が変化しても、単位画素当たりの色材量の変化が小さくなり、走査パス間の濃度ムラが抑制され、記録画質の低下が減少する。
なお、記録ヘッドの温度の監視(モニタ)と所定の閾値との比較は、所定のインターバルで定期的に行っても、各走査の開始前のタイミングで行ってもよい。いずれにしても、走査を開始する前に記録ヘッドの温度が所定の閾値を越えたことが判定された場合には、小液滴によるドットの比率が増えるように各画素を構成するドットの組み合わせを変更する。
図9は、本実施形態で記録ヘッドを記録媒体に対して走査させながら記録する場合の、3つの走査で記録される領域内のラインにおける走査の開始直後と終了直前とで生じる濃度ムラを、従来例に関して説明した図8と同様に示す模式図である。図8と比較すると、走査を開始してから各ラインの途中までは各画素を構成するドットの組合せは同じであるが、走査の途中から終了直前での各画素を構成するドットの組合せが異なっている。
すなわち、いずれも階調が同じ3つのライン206〜208を往復走査で記録するとき、各ラインにおいて記録を開始してからの時間の経過と共に記録ヘッドの温度が上昇し、大液滴によるドット及び小液滴によるドットはいずれも次第に大きくなる。従って、図9においても図8と同様に、大液滴によるドットの大きさは、107<109<111であり、小液滴によるドットの大きさは、108<110<112である。そして、本実施形態では、206〜208の各ラインの走査開始から記録ヘッドの温度が所定の閾値を越える前までは、大液滴によるドット(107,109)2つと小液滴によるドット(108,110)2つで各画素を形成するが、記録ヘッドの温度が所定の閾値を越えた後から終了までは、小液滴によるドットの比率を増やして大液滴によるドット(111)1つと小液滴によるドット(112)3つで各画素を形成する。
このように、本実施形態では、各走査での記録の間に記録ヘッドの温度が上昇した場合には、同じ階調の記録に小液滴が多く打ち込まれるように打ち込み比率(ドットの組合せ)を変えているため、各走査での記録の間に温度上昇によって各ノズルのインク吐出量が変化しても、単位画素当たりの色材量の変化が小さくなり、走査パス間の濃度ムラが抑制され、記録画質の低下が減少する。
なお、記録ヘッドの温度の監視(モニタ)と所定の閾値との比較は、所定のインターバル(時間又は走査での移動距離)で定期的に行うのがよく、走査の間に記録ヘッドの温度が所定の閾値を越えたことが判定された場合には、小液滴によるドットの比率が増えるように各画素を構成するドットの組み合わせを変更する。
更に、図1(b)に12で示す入力階調よりも低い階調を表現したり、13で示す入力階調よりも高い階調を表現する場合には、各画素は小液滴によるドット又は大液滴によるドットだけで形成されることとなるが、この場合には記録ヘッドの温度や温度変化に応じて各画素に対するインクの打ち込み数を変化させてもよい。例えば、記録ヘッドの温度が上昇してインク吐出量が増大した場合には、各画素に対するインクの打ち込み数を減らすことによって単位画素当たりの色材量の増加を抑えることができる。
以上説明したように本実施形態によれば、吐出量の異なる複数種類のノズルを有する記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置において、記録ヘッドの温度変動による濃度変化や濃度ムラが抑制され、階調再現特性のリニアリティを保持した高品質な画像を記録することができる。
<第2の実施形態>
以下、本発明に係るインクジェット記録装置の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態も第1の実施形態と同様なインクジェット記録装置であり、以下の説明では上記第1の実施形態と同様な部分については説明を省略し、第2の実施形態の特徴的な部分を中心に説明する。
上記第1の実施形態では、吐出量の異なる2種類のノズルを有する記録ヘッドを用いたが、第2の実施形態では、同系色に対して濃度の異なる濃淡2種類のインクを用いるものである。すなわち、第1の実施形態では、図10に示されるように、記録ヘッド21は一体的に形成されたキャリッジの下方に搭載され、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)及びY(イエロー)の4色に対応した吐出口(ノズル)列を有し、4色のインクをそれぞれ収容するインクタンク22K,22C,22M,22Yを着脱可能に搭載しているが、第2の実施形態では、少なくともCMYの3色に対して濃淡2種類のインクを用いるべく、記録ヘッドは7つのインクタンクを搭載し、7つのノズル列を有している。
次に、本発明者等が本実施形態に関して行った実験について詳細に説明する。
記録ヘッドの温度上昇によりインクの発泡状態やインクの流体物性が変化し、インク滴の吐出量は使用するインクの濃度(濃淡)にかかわらず増大する傾向にある。
そこで本実施形態では、同系色に対して濃い(濃度の高い)インクを吐出するノズル列と淡い(濃度の低い)インクを吐出するノズル列との2つのノズル列を備える記録ヘッドを用いる記録装置において、所定の階調に対する同系色の濃インク及び淡インクの打ち込み比率を変化させて、記録ヘッドの温度と記録濃度の比較を行った。
図16は、この実験で採用した入力階調に対する濃インクと淡インクとのインク打ち込み数の組合せパターンを示しており、表4は図16のパターンを用いた常温時と昇温時の記録結果をまとめたものである。
図16において、細い実線は淡インクの打ち込み数、太い実線は濃インクの打ち込み数をそれぞれ示しており、図16(b)において一点鎖線11及び12は、常温において階調性のリニアリティーを失わないように設定された、標準的な淡インク及び濃インクのインク打ち込み数をそれぞれ示している。(b)の細い実線13及び太い実線14は、記録ヘッドの昇温時に一点鎖線11及び12で示されるインク打ち込み数で記録した際の出力階調を示している。この図で示されるように、昇温時の記録結果は常温時より右側にシフトしており、入力階調よりも濃く記録されることが理解されよう。
図16の(a)は、図16(b)の濃インクと淡インクの打ち込み数の比率(例えば、(b)で5で示す階調値に対する組合せ(濃インク9/淡インク8)=Bとする)に対して、濃インクの打ち込見すうが多くなるように変えた組合せパターン、すなわち、5で示す階調値に対して(濃インク9a/淡インク8a)>Bとなる組合せパターンを示しており、図16の(c)は、(b)に対して淡インクの打ち込み数が多くなるように変えた組合せパターン、すなわち、5で示す階調値に対して(濃インク9c/淡インク9c)<Bとなる組合せパターンを示している。
表4に示すように、常温時においては(b)のパターンを基準濃度とすると、(a)のパターンは基準濃度よりも濃く、(c)のパターンは基準濃度よりも淡いが、記録ヘッドの温度が常温から上昇すると、図16の(b)に示すパターンは基準濃度よりも濃くなり、図16の(c)に示すパターンが基準濃度と同等の濃さとなる。
従って、記録ヘッドの温度が上昇した場合、淡インクの打ち込み数を増やすように、濃インクと淡インクの打ち込み比率を、(b)のパターンから(c)のパターンへ変化させていくことにより、記録ヘッドの温度上昇に起因する濃度ムラの発生を抑えることができる。
このことは、以下の具体例に基づいた考察によっても検証できる。
この考察において前提としては、記録ヘッドの常温(25℃)におけるインク吐出量は、濃インク及び淡インクともに5ngであり、記録ヘッドが45℃に昇温したときにインク吐出量は20%大きくなり、濃インク及び淡インクともに6ngとなる場合を想定した。ここで、インク中に含まれる色材の濃度を濃インクで5wt%、淡インクで1wt%とすると、インク1滴当たりの含有色材量は表5に示す通りとなる。
所定の入力階調を表現するのに、常温では単位画素内に濃インク2発と淡インク2発とを打ち込むとすると、単位画素当たりの色材量は、
(3)×2+(4)×2
=(25×10-11)×2+(5×10-11)×2
=60×10-11(g) ・・・(IV)
となる。
同じ打ち込み比率で記録ヘッドの温度が45℃まで上昇した場合の単位画素当たりの色材量は、
(3)’×2+(4)’×2
=(30×10-11)×2+(6×10-11)×2
=72×10-11(g) ・・・(V)
となり、色材量が増大していることがわかる。
ここで本実施形態では、記録ヘッドの温度あるいは温度上昇に応じて、淡インクが多くなるようにインク打ち込み比率を変化させ、記録ヘッドの温度が45℃まで上昇した場合に、所定の入力階調に対して濃インク1発と淡インク5発とを打ち込むようにする。この場合、単位画素当たりの色材量は、
(3)’×1+(4)’×5
=(30×10-11)×1+(6×10-11)×5
=60×10-11(g) ・・・(VI)
となり、(V)の値よりも(IV)の色材量に近い値となる。
このように、記録ヘッドの温度が上昇したときに、淡インクの比率が増えるように濃インクと淡インクのインク打ち込み比率を変化させることによって、記録ヘッドの温度変化に起因する濃度ムラが生じるのを効果的に抑制することが可能となる。
以上説明したように本実施形態によれば、濃度の異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置において、記録ヘッドの温度変動による濃度変化や濃度ムラが抑制され、階調再現特性のリニアリティを保持した高品質な画像を記録することができる。
<第3の実施形態>
以下、本発明に係るインクジェット記録装置の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態も第1及び第2の実施形態と同様なインクジェット記録装置であり、以下の説明では上記第1及び第2の実施形態と同様な部分については説明を省略し、第3の実施形態の特徴的な部分を中心に説明する。
上記第1の実施形態では、吐出量の異なる2種類のノズルを有する記録ヘッドを用い、第2の実施形態では、同系色に対して濃度の異なる濃淡2種類のインクを用いたが、第3の実施形態は、両方を組合せたものである。すなわち、第3の実施形態では、少なくともCMYの3色に対して濃淡2種類のインクを用いるべく、記録ヘッドは7つのインクタンクを搭載し、7つのノズル列を有しており、かつ各インクに対して吐出量の大きいインク滴(大液滴)用の吐出ノズルと吐出量の小さいインク滴(小液滴)用の吐出ノズルとの2種類のノズルを備えている。
次に、本発明者等が本実施形態に関して行った実験について詳細に説明する。
記録ヘッドの温度上昇によりインクの発泡状態やインクの流体物性が変化し、インク滴の吐出量はインクの濃度(濃淡)にかかわらず増大する傾向にある。
そこで本実施形態では、同じインクに対してインク吐出量の大きいノズルと吐出量の小さいノズルと、同系色の濃いインクを吐出するノズルと淡いインクを吐出するノズルとを備える記録ヘッド、すなわち、同系色のインクに対して、濃インクの大液滴用及び小液滴用と淡インクの大液滴用及び小液滴用との4種類のノズルを備えた記録ヘッドを用いる記録装置において、所定の階調に対する濃インクの大液滴及び小液滴と淡インクの大液滴及び小液滴との打ち込み数の比率を変化させて、記録ヘッドの温度と記録濃度との比較を行った。
図17は、個の実験で採用した入力階調に対する濃インクの大液滴及び小液滴と淡インクの大液滴及び小液滴とのインク打ち込み数の組合せパターンを示しており、表6は図17のパターンを用いた常温時と昇温時の記録結果をまとめたものである。
図17(b)において、一点鎖線61、62、63及び64は、常温において階調性のリニアリティーを失わないように設定された淡インクの小液滴、淡インクの大液滴、濃インクの小液滴及び濃インクの大液滴のインク打ち込み数をそれぞれ示している。また、実線65、66、67及び68は、記録ヘッドの昇温時に一点鎖線61、62、63及び64で示されるインク打ち込み数で記録した際の出力階調を示している。この図で示されるように、昇温時の記録結果は常温時よりも右側にシフトしており、入力階調よりも濃く記録されることが理解されよう。
なお、図17(b)において、入力階調69までは淡インク小液滴による1種類のドットのみで記録され、入力階調69から70までは淡インクの小液滴によるドットと大液滴によるドットの2種類のドットで記録される。同様に、入力階調70から71までは3種類のドット、入力階調71から72までは4種類のドット、そして入力階調72以降は濃インク大液滴による1種類のドットのみで記録されることを示している。
図17の(a)は、(b)に示されている組合せパターンに対して、大液滴の打ち込み比率あるいは濃インクの打ち込み比率の少なくとも一方を、大液滴や濃インクの打ち込み数が多くなるように変えた場合の組合せパターン(図中では大液滴と濃インク両方の打ち込み数が多くなるように変えたパターン)を示しており、図17の(c)は、(b)に示されている組合せパターンに対して、小液滴の打ち込み比率あるいは淡インクの打ち込み比率の少なくとも一方を、小液滴や淡インクの打ち込み数が多くなるように変えた場合の組合せパターン(図中では小液滴と淡インク両方の打ち込み数が多くなるように変えたパターン)を示している。
表6に示すように、常温時においては(b)のパターンを基準濃度とすると、(a)のパターンは基準濃度よりも濃く、(c)のパターンは基準濃度よりも淡いが、記録ヘッドの温度が常温から上昇すると、図17の(b)に示すパターンは基準濃度よりも濃くなり、図16の(c)に示すパターンが基準濃度と同等の濃さとなる。
従って、記録ヘッドの温度が上昇した場合、小液滴や淡インクの打ち込み数を増やすように各インクの打ち込み比率を、(b)のパターンから(c)のパターンに変化させていくことにより、記録ヘッドの温度情報に起因する濃度ムラの発生を抑えることができる。
このことは、以下の具体例に基づいた考察によっても検証ができる。
この考察において前提としては、記録ヘッドの常温(25℃)におけるインク吐出量は、濃インク及び淡インクともに大液滴が5ng小液滴が2ngであり、45℃に昇温したときのインク吐出量は20%大きくなり、濃インク及び淡インクともに大液滴で6ng小液滴で2.4ngであると想定した。ここで、インク中に含まれる色材の濃度を濃インクで5wt%、淡インクで1wt%とすると、インク1滴当たりの含有色材量は表7に示す通りとなる。
図17の(b)のパターンにおいて、淡インクの体液的及び小液滴と濃インクの大液滴及び小液滴との4種類のインク滴で階調を表現する入力階調値が71〜72の間の所定の階調を表現するのに、常温では単位画素内に濃インクの大液滴2発及び小液滴2発と淡インクの大液滴2発及び小液滴2発を打ち込むとすると、単位画素当たりの色材量は、
(5)×2+(6)×2+(7)×2+(8)×2
=(25×10-11)×2+(10×10-11)×2+(5×10-11)×2+(2×10-11)×2
=84×10-11(g) ・・・(VII)
となる。
同じ打ち込み比率で記録ヘッドの温度が45℃まで上昇した場合の単位画素当たりの色材量は、
(5)’×2+(6)’×2+(7)’×2+(8)’×2
=(30×10-11)×2+(12×10-11)×2+(6×10-11)×2+(2.4×10-11)×2
=100.8×10-11(g) ・・・(VIII)
となり、色材量が増大していることがわかる。
ここで本実施形態では、記録ヘッドの温度あるいは温度上昇に応じて、淡インクや小液滴が多く打ち込まれるようにインク打ち込み比率を変化させ、記録ヘッドの温度が45℃まで上昇した場合に、所定の入力階調に対して濃インクの大液滴1発及び小液滴3発と淡インクの大液滴2発及び小液滴5発を打ち込むようにする。この場合、単位画素当たりの色材量は、
(5)’×1+(6)’×3+(7)’×2+(8)’×5
=(30×10-11)×1+(12×10-11)×3+(6×10-11)×2+(2.4×10-11)×5
=84×10-11(g) ・・・(IX)
となり、(VII)と同じ値となる。
このように、記録ヘッドの温度が上昇したときに、淡インク又は小液滴の少なくとも一方の打ち込み比率が増えるように4種類のインク滴の打ち込み比率を変化させることによって、記録ヘッドの温度変化に起因する濃度ムラが生じるのを効果的に抑制することが可能となる。
以上説明したように本実施形態によれば、濃度及び大きさの異なる4種類のインク滴を吐出する記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置において、記録ヘッドの温度変動による濃度変化や濃度ムラが抑制され、階調再現特性のリニアリティを保持した高品質な画像を記録することができる。
なお、入力された階調値に応じて、淡インクの小液滴や濃インクの小液滴のいずれかの打ち込み比率だけが増えるように打ち込み比率を変化させてもよい。
<他の実施形態>
以上説明した実施形態は、記録ヘッドを搭載したキャリッジの記録媒体上での走査と記録媒体の搬送とを交互に実行して記録を行う、いわゆるシリアル型のインクジェット記録装置に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明は、記録媒体の最大記録幅に対応した長さの記録ヘッドを備え、記録媒体を記録ヘッドに対して相対的に移動させつつ記録を行う、いわゆるフルライン型のインクジェット記録装置にもて起用できる。
更に、上記の実施形態では、熱エネルギーを利用してインク滴を吐出させる、いわゆるサーマル型のインクジェット記録装置に本発明を適用したが、記録装置の設置環境の温度に応じて、入力階調に対するインク滴の打ち込み比率(組合せパターン)を変化させるようにすれば、他の方式のインクジェット記録装置にも本発明は適用可能である。この場合には、記録ヘッドの温度ではなく環境温度が所定の閾値を越えたかどうかによって打ち込み比率を変更するようにしてもよい。
また、上記の実施形態において、入力階調値と使用する複数種類のインク滴の打ち込み比率(組合せパターン)との対応をグラフの形式で示したが、例えば、入力階調値に基づいて所定の式によってインクの打ち込み比率を算出するようにすることもでき、両者の対応を示すテーブル(組合せテーブル)を予め記録装置内のROM等に格納するようにしてもよい。
なお、インクの打ち込み比率を変化させる温度の閾値の数は1つに限定されず、複数の閾値を設けて対応する温度の範囲毎にインクの打ち込み比率を変化させるようにすれば、温度の変化(上昇)に起因する濃度ムラ等を一層低減させることができる。
加えて、検出する温度は絶対温度であっても、記録開始前に一旦温度が測定されれば、その測定温度との差分(上昇値)であってもよい。また、基準温度に対する差分温度を検出するようにしてもよい。
更にまた、本発明を適用する記録装置の記録モードとしては、上記の実施形態で説明したようなCMYKの4色のインクを用いたフルカラーで記録する記録モードだけでなく、黒色等の主流色のみを用いたモノクロ記録を行う記録モードにも本発明を適用できる。
さらに加えて、本発明に係る記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体または別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を取るものであっても良い。
なお、本発明は、前述した実施形態におけるインクの打ち込み比率を変化させる機能を実現するソフトウェアのプログラムを、システム或いは装置に直接或いは遠隔から供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータが該供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。その場合、プログラムの機能を有していれば、形態は、プログラムである必要はない。
従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明のクレームでは、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、プログラムの形態を問わない。
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などがある。
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続し、該ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることによっても供給できる。また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明の範囲に含まれるものである。
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件をクリアしたユーザに対し、インターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部または全部を行ない、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行ない、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。