JP2005209912A - 圧電素子及び液体噴射ヘッド並びに圧電素子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 比較的容易に所望の特性が得られる圧電素子及び圧電素子を具備する液体噴射ヘッド、並びに比較的容易に圧電体層の結晶配向を制御することができる圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板の一方面側に設けられた下電極60と、下電極上に設けられた圧電体層70と、圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子であって、下電極の少なくとも最上層63は(111)面に優先配向し、且つ(111)面以外の配向が存在するイリジウム層からなり、圧電体層が下電極上に直接形成されていると共に(100)面に優先配向しているようにする。
【選択図】図4
【解決手段】 基板の一方面側に設けられた下電極60と、下電極上に設けられた圧電体層70と、圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子であって、下電極の少なくとも最上層63は(111)面に優先配向し、且つ(111)面以外の配向が存在するイリジウム層からなり、圧電体層が下電極上に直接形成されていると共に(100)面に優先配向しているようにする。
【選択図】図4
Description
本発明は、圧電材料からなる圧電体層を具備する圧電素子、及び圧電素子を具備する液体噴射ヘッド、並びに圧電素子の製造方法に関する。
圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる圧電体層を2つの電極(下電極、上電極)で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
また、このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体層を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
ここで、圧電体層(圧電体薄膜)としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体が用いられている。強誘電体は、結晶方位によって特性が変化する場合が多いため、圧電素子を構成する圧電体層として用いるためには結晶配向の制御が必要になる。このため、例えば、白金/イリジウムの積層構造である下部電極上に、所定厚さのチタン層を介して強誘電体薄膜(圧電体層)を形成し、チタン層の厚さを調整することで強誘電体薄膜の結晶配向を制御したものがある(特許文献1参照)。
このようにチタン層を設けることで圧電体層の結晶配向をある程度制御することはできる。しかしながら、圧電体層の結晶配向を安定して制御することは難しいという問題がある。また、製造工程が煩雑化すると共にコストが増加してしまうという問題がある。
本発明はこのような事情に鑑み、比較的容易に所望の特性が得られる圧電素子及び圧電素子を具備する液体噴射ヘッド、並びに比較的容易に圧電体層の結晶配向を制御することができる圧電素子の製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、基板の一方面側に設けられた下電極と、該下電極上に設けられた圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子であって、前記下電極の少なくとも最上層は(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するイリジウム層からなり、前記圧電体層が前記下電極上に直接形成されていると共に(100)面に優先配向していることを特徴とする圧電素子にある。
かかる第1の態様では、(100)面に優先配向する圧電体層を下電極上に直接形成することができるため、良好な特性を有する圧電素子を比較的容易に形成することができる。
かかる第1の態様では、(100)面に優先配向する圧電体層を下電極上に直接形成することができるため、良好な特性を有する圧電素子を比較的容易に形成することができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記イリジウム層は、その表面に対して直交する面に(111)面配向した結晶面が存在することを特徴とする圧電素子にある。
かかる第2の態様では、圧電体層が(100)面に確実に優先配向する。
かかる第2の態様では、圧電体層が(100)面に確実に優先配向する。
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様の圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第3の態様では、液滴の吐出特性を向上した液体噴射ヘッドを実現することができる。
かかる第3の態様では、液滴の吐出特性を向上した液体噴射ヘッドを実現することができる。
本発明の第4の態様は、基板の一方面側に設けられ少なくとも最上層にイリジウム層を有する下電極と、該下電極上に設けられた圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子の製造方法であって、前記基板上に前記下電極を形成する工程と、前記下電極上に前記圧電体層を直接形成する工程とを有し、且つ前記下電極を形成する工程では、前記イリジウム層が(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するように形成することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第4の態様では、下電極を構成するイリジウム層の結晶配向を制御することで圧電体層の結晶配向を制御できる。したがって、所望の特性を有する圧電素子を比較的容易に得ることができる。
かかる第4の態様では、下電極を構成するイリジウム層の結晶配向を制御することで圧電体層の結晶配向を制御できる。したがって、所望の特性を有する圧電素子を比較的容易に得ることができる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、後述するマスク膜を介して接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55が形成されている。また、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、本実施形態では、弾性膜、絶縁体膜及び下電極膜が振動板として作用するが、勿論、弾性膜及び絶縁体膜のみが振動板として作用するようにしてもよい。
そして、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
そして、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
また、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、圧電素子300に対向する領域に圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。さらに、保護基板30には、流路形成基板10の連通部13に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
また、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、この貫通孔33内に下電極膜60の一部及びリード電極90の先端部が露出され、これら下電極膜60及びリード電極90には、図示しないが、駆動ICから延設される接続配線の一端が接続される。
なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図6を参照して説明する。なお、図3〜図6は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板10として、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。
次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。
次いで、図4(a)に示すように、絶縁体膜55上に下電極膜60を形成する。ここで、下電極膜60は、少なくとも最上層がイリジウム層からなり、例えば、本実施形態では、イリジウムからなる第1層61、白金からなる第2層62及びイリジウムからなる第3層63の3層で構成されている。そして、このような下電極膜60は、絶縁体膜55上に、第1〜第3層61,62,63を、例えば、スパッタ法により順次積層し、これら第1〜3層61,62,63を所定形状にパターニングすることで形成される。またこのとき、下電極膜60の最上層、本実施形態では、第3層63は、(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するように形成する。
なお、第3層63が(111)面に優先配向していることは、第3層63をX線回折広角法により測定することで容易に確認することができる。また、第3層63に(111)面以外の配向が存在することは、第3層63をX線インプレーン回折法により測定することで確認することができる。第3層63に(111)面以外の配向が存在する場合には、第3層63の表面に直交する面に(111)面に配向する結晶面が存在するからである。ここで図7に、第3層63をX線インプレーン回折法により測定した結果を示す。図7に示すように、第3層63は(220)面に相当する位置に最も高い配向強度のピークが存在するが、(111)面に相当する位置にもピークが存在していることが分かる。すなわち、第3層63の表面に対して直交する面に、(111)面に配向する結晶面が存在していることが分かる。したがって、この結果から、第3層63に(111)面以外の配向が存在するのを確認することができる。
次に、このように形成した下電極膜60上に、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を直接形成する。本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。
具体的には、まず図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する。次いで、圧電体前駆体膜71を、所定温度に加熱して一定時間乾燥させ、ゾルの溶媒を蒸発させることで圧電体前駆体膜71を乾燥させる。さらに、大気雰囲気下において一定の温度で一定時間、圧電体前駆体膜71を脱脂する。なお、ここで言う脱脂とは、ゾル膜の有機成分を離脱させることである。
具体的には、まず図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する。次いで、圧電体前駆体膜71を、所定温度に加熱して一定時間乾燥させ、ゾルの溶媒を蒸発させることで圧電体前駆体膜71を乾燥させる。さらに、大気雰囲気下において一定の温度で一定時間、圧電体前駆体膜71を脱脂する。なお、ここで言う脱脂とは、ゾル膜の有機成分を離脱させることである。
このような塗布・乾燥・脱脂の工程を、所定回数、例えば、本実施形態では、2回繰り返すことで、図4(c)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定厚に形成し、この圧電体前駆体膜71を拡散炉で加熱処理することによって結晶化させて圧電体膜72を形成する。例えば、本実施形態では、約700℃で30分間加熱を行って圧電体前駆体膜71を焼成して圧電体膜72を形成した。
さらに、上述した塗布・乾燥・脱脂・焼成の工程を、複数回繰り返すことにより、図4(d)に示すように、複数層、本実施形態では、5層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、ゾルの塗布1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、圧電体層70全体の膜厚は約1μmとなる。
さらに、上述した塗布・乾燥・脱脂・焼成の工程を、複数回繰り返すことにより、図4(d)に示すように、複数層、本実施形態では、5層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、ゾルの塗布1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、圧電体層70全体の膜厚は約1μmとなる。
このように、下電極膜60の最上層である第3層63を(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するように形成し、この下電極膜60上に圧電体層70を直接形成することにより、圧電体層は(100)面に優先配向する。ここで、下電極膜上に厚さ2〜4nmのチタン層を介して形成した圧電体層と、下電極膜上にチタン層を形成することなく(チタン層厚0nm)形成した本実施形態に係る圧電体層とを、それぞれX線回折広角法によって測定し、(100)面に相当する位置の配向強度(ピーク強度)を比較した。その結果を図8に示す。図8に示すように、チタン層を設けた場合、(100)面に相当する位置の圧電体層の配向強度は約50〜70(cps)程度であった。一方、チタン層を設けていない場合、(100)面に相当する位置の圧電体層の配向強度は約60(cps)であり、各圧電体層の配向強度に大きな差は見られなかった。この結果からも明らかなように、下電極膜60の最上層である第3層63の結晶配向を制御することで、下電極膜上にチタン層を設けた場合と同程度に、圧電体層70を(100)面に優先配向させることができる。
なお、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料に、ニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイッテルビウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1−x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/3Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/3Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
また、このように圧電体層70を形成した後は、図5(a)に示すように、例えば、イリジウムからなる上電極膜80を流路形成基板用ウェハ110の全面に形成する。次いで、図5(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。次に、リード電極90を形成する。具体的には、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなる金属層91を形成する。その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層91を各圧電素子300毎にパターニングすることでリード電極90が形成される。
次に、図5(d)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ130を接合する。なお、この保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
次いで、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、更に弗化硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハ110をエッチング加工した。次いで、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、このマスク膜52を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングすることにより、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
なお、その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによってインクジェット式記録ヘッドとする。
以上説明したように、本実施形態では、下電極膜60の最上層である第3層63を(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するように形成し、この下電極膜60上に圧電体層70を直接形成するようにしたので、圧電体層70が(100)面に良好に優先配向する。すなわち、下電極膜60上にチタン層を設けることなく圧電体層70の結晶配向を良好に制御することができる。したがって、良好な変位特性を有する圧電素子300を比較的容易に形成することができる。また、製造工程を簡略化でき、コストを削減することができるという効果もある。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、下電極膜が、イリジウムからなる第1層、白金からなる第2層及びイリジウムからなる第3層が構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、下電極膜は、白金からなる第1層とイリジウムからなる第2とで構成されていてもよいし、イリジウムからなる第1層のみで構成されていてもよい。何れにしても、下電極膜は、最上層がイリジウム層で構成され、このイリジウム層が所定の配向となるように形成されていればよい。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、下電極膜が、イリジウムからなる第1層、白金からなる第2層及びイリジウムからなる第3層が構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、下電極膜は、白金からなる第1層とイリジウムからなる第2とで構成されていてもよいし、イリジウムからなる第1層のみで構成されていてもよい。何れにしても、下電極膜は、最上層がイリジウム層で構成され、このイリジウム層が所定の配向となるように形成されていればよい。
また、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを例示したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。さらに、本発明は、液体噴射ヘッドに利用される圧電素子だけでなく、他のあらゆる装置に搭載される圧電素子にも適用できることは言うまでもない。
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 65 種チタン層、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 300 圧電素子
Claims (4)
- 基板の一方面側に設けられた下電極と、該下電極上に設けられた圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子であって、
前記下電極の少なくとも最上層は(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するイリジウム層からなり、前記圧電体層が前記下電極上に直接形成されていると共に(100)面に優先配向していることを特徴とする圧電素子。 - 請求項1において、前記イリジウム層は、その表面に対して直交する面に(111)面配向した結晶面が存在することを特徴とする圧電素子。
- 請求項1又は2の圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 基板の一方面側に設けられ少なくとも最上層がイリジウム層からなる下電極と、該下電極上に設けられた圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子の製造方法であって、
前記基板上に前記下電極を形成する工程と、前記下電極上に前記圧電体層を直接形成する工程とを有し、且つ前記下電極を形成する工程では、前記イリジウム層が(111)面に優先配向し且つ(111)面以外の配向が存在するように形成することを特徴とする圧電素子の製造方法。
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