本発明によれば、この目的は、sTfR(可溶性トランスフェリンレセプター)および/またはフラタキシンおよび/またはsTfR/logフェリチン(フェリチンインデックス)を冠症候群および/または糖尿病のリスクマーカーとして用いることにより達成される。したがって本発明は、新規な目的のためのsTfRの使用ならびに冠疾患および/または糖尿病のリスクを診断または予測するための新規なマーカー、フラタキシンの使用に関する。
好ましくはsTfRおよび/またはフラタキシン、より好ましくはsTfRおよびフラタキシンおよびフェリチンインデックスがマーカーとして使用される。
例えば、BNPペプチド、CRPペプチド、トロポニンペプチド、ヘプシジンまたはそれらの断片、特にhs-CRP、ヘプシジン、NT-プロBNPおよび/またはトロポニンTなどの追加的な診断用マーカーを決定するのが好ましい。
本発明によれば上述の化合物は心臓バイオマーカーとして使用することができ、これらは急性冠症候群(ACS)および/または糖尿病についての患者におけるリスクの強力な予測指標(predictor)である。特に、前記の化合物の上昇したレベルは、死亡および回帰性虚血性事象のより高い率と関係している。
本発明によれば、前記のバイオマーカーの組み合わせを使用するのが好ましく、1)可溶性トランスフェリンレセプター(sTfR)および/またはフラタキシンおよび/またはフェリチンインデックス、2)CRPおよび/またはヘプシジン、3) BNPペプチドならびに4)トロポニンペプチドのグループまたはこれらのマーカーの断片から選択された少なくとも一つのマーカーを使用する。
本発明によれば、前記バイオマーカーの組み合わせを使用するのが特に好ましく、下記のグループ:
1) 可溶性トランスフェリンレセプター(sTfR)および/またはフラタキシンおよび/またはフェリチンインデックス、
2) 高度に感受性のC反応性タンパク質(hs-CRP)および/またはヘプシジン、
3) NT-プロBNP、ならびに
4) トロポニンT
から選択される少なくとも一つのマーカーをそれぞれ使用する。これらのバイオマーカーはそれぞれ心筋虚血症の異なる病態生理学的メカニズムを評価するので、それらを組み合わせて使用することにより非常に信頼性が高い診断が可能となる。
sTfRの上昇は、慢性疾患における機能的鉄欠乏症のマーカーである。機能的鉄欠乏症は、4 mg/Lより大きいsTfR値を特徴とする。今回、それが冠症候群、特に、慢性感染症および炎症過程における冠症候群の初期予測マーカーでもあることが見出された。sTfRは慢性疾患の貧血(ACD)の最も初期のマーカーであって、今回、冠動脈疾患(CAD)の初期リスクマーカーと認められた。sTfRは膜内外タンパクである。sTfRはジフェリックトランスフェリンを結合し、それにより細胞質ゾルに鉄を供給する。細胞の鉄の需要が上昇した場合、sTfR発現が上昇して鉄の取り込みを容易にする。
代謝におけるその役割のために、sTfRはミトコンドリア機能不全のリスクマーカーとして使用することができる。細胞質ゾル鉄含量は、鉄−硫黄タンパク質である酵素アコニターゼにより調整される。細胞質ゾル鉄が減少した場合、アコニターゼは鉄応答性エレメント結合タンパク質(IRE-BP)に結合し、鉄が取り込まれる。鉄の取り込みは、タンパク質フラタキシンによって再度ダウンレギュレートされる。ほとんどの場合において、ミトコンドリア鉄の蓄積は、フラタキシンの欠如または減少により始まる。
そしてミトコンドリア鉄過負荷は、呼吸複合体の鉄-イオウ(Fe-S)クラスター含有サブユニットを介してミトコンドリア機能を損なう。したがってsTfRはミトコンドリア機能不全のマーカーとして使用することができる。ミトコンドリア機能の損傷は以下の結果を生じる。
・ミトコンドリア呼吸鎖の鉄‐硫黄クラスターの不安定化
・ミトコンドリアATP産生の欠損
・ミトコンドリアによるフラタキシンの分泌
・細胞表面上のTfRおよびsTfRの増加を招く、細胞質ゾル鉄含量の減少を反映する細胞質ゾルにおけるアコニターゼ活性の喪失
ミトコンドリア機能不全のマーカーとしてのその役割に加えて、sTfRが、冠疾患、特に心筋細胞の冠疾患のマーカーとして有効であることが今回見出された。上記のように、ミトコンドリア欠陥は呼吸酸化によってエネルギーを生成する組織に優先的に見られる。心筋細胞は、そのATPの大部分を遊離脂肪酸の酸化から得る。したがって、ATP生成の減少は、心筋におけるH2O2産生の上昇を招く(いわゆる鉄-誘導酸化ストレス)。したがって、主として心筋細胞がミトコンドリアATP産生の欠乏の犠牲となる。結果として、心筋梗塞および慢性炎症におけるような細胞の欠陥はsTfRの上昇した濃度に影響を与えることになる。したがって、sTfRは心筋梗塞および慢性炎症に起こるような細胞の欠陥を有する患者のリスク分類のための生化学マーカーとして使用することができる。sTfRの濃度は、患者組織中の細胞の損傷の程度と相関する。
本発明によれば、冠症候群および/または糖尿病の独立したリスクマーカーとしてのsTfRにより、患者における特定の疾患の決定、したがって例えば有効なEpo治療のような有効な治療の決定を可能とする。rH-Epoは、心筋(myocardion)を虚血性再潅流障害から保護し、有益なリモデリングを促進する。心筋虚血症および梗塞の治療における組換えヒトEpo(rH-Epo)の治療的役割は、その機能的鉄欠乏症の制御における役割、組織保護サイトカインとしてのその役割およびミトコンドリアATP産生の欠乏の制御における役割により説明される得る。
好ましくは> 2.5 mg/l、より好ましくは> 3 mg/l、特に> 4 mg/lの量のsTfRは冠症候群および/または冠症候群のリスクおよび/または糖尿病および/または糖尿病のリスクを指示するものと考えられる。
要するに、任意にフェリチンインデックスを得るためのフェリチンの定量と合わせて、sTfRの定量は、異なる患者群における機能的鉄欠乏症の評価のための感度の高い道具である。sTfR値は、健常対照者と比較して患者において有意に高かった。さらに、sTfRの評価により、特に慢性疾患に罹患する患者における冠症状のリスクを、確立された生化学マーカーよりもより効果的に分類することを可能となる(心疾患、糖尿病、腎不全、リウマチ様関節炎)。任意にフェリチンインデックスと合わせて、sTfRを評価することはさらに糖尿病のリスクを分類することを可能とする。
さらに別の本発明の好ましい態様においては、フラタキシンを冠症候群および/または糖尿病のリスクマーカーとして使用する。フラタキシンが機能的鉄欠乏症で最も初期のマーカーの1つであり、冠動脈疾患(CAD)のリスクマーカーであることが判明した。
好ましくは、フラタキシンはPCRを使用して定量し、PCR後、10未満(正常範囲=10〜21)、特に9未満、より好ましくは8未満のトリヌクレオチドGAAについてのトリヌクレオチド反複数は、冠症候群および/または冠症候群のリスクおよび/または糖尿病および/または糖尿病のリスクを指示するものと考えられる。
フェリチンインデックスとも称するsTfR/logフェリチンは、フェリチン濃度に対する可溶性トランスフェリンレセプター濃度の比である。> 4 mg/lのsTfRおよび> 100 μg/lのフェリチンの値は、機能的鉄欠乏症を反映するものである。フェリチンの<100 μg/lの値は潜在性鉄欠乏症の特徴であり、sTfRは通常> 4 mg/lを越え、冠症候群のリスクは高くない。したがって、フェリチン値を知ることは、フェリチンインデックス評価について非常に重要である。好ましくは、CRP > 5 mgについて2 <、またはCRP < 5mgについて< 3.2のフェリチンインデックスの値は、冠症候群および冠症候群のリスクおよび/または糖尿病のおよび/または糖尿病のリスクを指示するものと考えられる。
本発明は、sTfRおよび/またはフラタキシンおよび/またはフェリチンインデックスの、冠症候群および/または糖尿病を検出および/または予測する薬剤の製造におけるリスクマーカーとしての使用、並びにsTfRおよび/またはフラタキシンおよび/またはフェリチンインデックスの、冠症候群および/または糖尿病のリスクマーカーとしてのin vitroでの使用にも関する。上記のマーカーの1または2または3種すべてを、好ましくは確立された心臓バイオマーカーと組み合わせる。
CRP、特に、hs-CRPおよび/またはヘプシジンは全身性慢性炎症のマーカーとして主に用いられてきた。しかしながら、現在では、炎症も動脈硬化症およびその合併症において中心的な役割を果たすと認められている。したがって、CRPおよび/またはヘプシジンは、動脈硬化症の素因となる潜在的炎症の程度を反映し得るだけではなく、斑破壊および血栓症の促進において直接的な役割も果たし得る。好ましくは、> 2 mg/l(血液について)、より好ましくは> 3 mg/l、最も好ましくは> 3.5 mg/lのCRP、特にhs-CRPの量は、冠症候群および/または冠症候群のリスクを指示するものと考えられる。
BNPペプチドは、32-アミノ酸神経ホルモンであるBNP-32、プレプロBNP(108アミノ酸)、NT-プロBNP(76アミノ酸)ならびにそれらの断片を含み、NT-プロBNPが好ましい。
神経ホルモン軸の一部であるNT-プロBNPは、左心室過負荷のセッティングにおいて上昇する。NT-プロBNP濃度の変化は、左心室機能不全患者の治療の成功を評価するために用いることができる。NT-プロBNPレベルは、梗塞の非存在下でさえ、急性冠症候群において上昇することが示された。虚血が心収縮期機能およびコンプライアンスの両者の一過性の減少を招き得ることから、NT-プロBNPの評価は、左心室機能に潜在する損傷だけではなく急性虚血性発作の重篤度も反映し得る。
好ましくは、> 100 pg/ml(血液について)、より好ましくは> 125 pg/ml、最も好ましくは> 150 pg/mlのBNPペプチド、特にBNP、プレプロBNPまたはNT-プロBNP、最も好ましくはNTプロBNPの量は、冠症候群および/または冠症候群のリスクを指示するものと考えられる。
トロポニンペプチドは、トロポニンIおよびトロポニンTならびにその断片を含む。
トロポニンT(TnT)は、心筋壊死に特異的な感度が高いマーカーである。> 0.05 μg/l(血液について)、特に> 0.1 μg/l、好ましくは> 0.2 μg/lのレベルは、冠症候群および/または冠症候群のリスクを指示するものと考えられる。
上述のマーカーに加えてさらに、心筋虚血のマーカーである虚血変性アルブミン(IMA)のようなさらに別のマーカーを測定することもできる。IMAは、心臓由来であることが示唆される胸部痛を有する患者における心臓発作の前に、急性冠症候群(ACS)の早期評価に使用することができる。ミオグロビンおよびCK/CK-MBは、心筋梗塞後の心筋損傷における壊死の程度のマーカーである。
本発明のマーカーの好ましい組み合わせにより、冠症候群における新規な心臓リスク分類、および特に、簡単な方法による患者群の異なる疾患カテゴリーヘの整理を可能となる。さらに、前記マーカーによって得られた情報により、簡単な方法で治療法を提案することができる。本発明のマーカー、および特に、マーカーの好ましい組み合わせにより糖尿病の新規なリスク分類も可能となる。
本発明に従って使用されるマーカーsTfRおよび/またはフラタキシンおよび/またはフェリチンインデックスはまた、好ましくは以下のグループ(i)〜(iv)の一種以上のマーカーと組み合わせて使用する。好ましくはグループ(iv)のマーカーと共に使用され、これらは心筋傷害の非特異的マーカーである。この型のマーカーは、例えば、安定狭心症、高血圧症などの炎症に関連する疾患に対して特徴的なものである。炎症および急性期応答に関連する前記マーカーの例としては、C反応性タンパク質、インターロイキン1β、インターロイキン1レセプター拮抗薬、インターロイキン6、単球走化性タンパク質1、可溶性細胞間接着分子1、可溶性血管細胞接着分子1、腫瘍壊死因子α(TNFα)、カスパーゼ3およびヘモグロビンα2が挙げられ、TNFα、IL-1および/またはIL-6が本発明にしがって好ましく用いられるマーカーである。炎症性反応の活性化は、ACSの初期段階において発現し得る。したがって、炎症および急性期反応物質の非特異的マーカーの循環濃度の測定は、ACSを有する個体ならびにACSを発症する危険にさらされた個体を特定するために用いることができる。
C反応性タンパク質(CRP)は、宿主防御に関係する、21 kDaのサブユニットを有するホモペンタマーCa2+結合急性期タンパク質である。CRPは、微生物膜の一般的成分であるホスホリルコリンに優先的に結合する。
ホスホリルコリンは哺乳類の細胞膜にも見られるが、CRPと反応性を有する形態では存在しない。ホスホリルコリンとのCRPの相互作用は、細菌の凝集およびオプソニン作用ならびに補体カスケードの活性化を促進するが、これらはいずれも細菌クリアランスに関与するものである。さらに、CRPはDNAおよびヒストンと相互反応することができ、CRPは、損傷を受けた細胞から循環中に放出される核物質のスカベンジャーであると示唆されている(Robey, F.A. et al., J. Biol. Chem. 259:7311-7316, 1984)。CRP合成はII-6により誘導され、間接的にIL-1により誘導されるが、これはIL-1が肝洞様血管のクップファー細胞によるIL-6の合成を誘発することができるからである。CRPの正常な血漿濃度は、健常者集団の90%において<3 μg/ml(30 nM)であり、健常個体の99%において<10 μg/ml(100 nM)である。血漿CRP濃度は、速度ネフェロメトリーまたはELISAで測定することができる。CRPの血漿濃度は、AMIおよび不安定狭心症患者において有意に上昇するが、安定狭心症では上昇しない(Biasucci, L.M. et al., Circulation 94:874-877, 1996; Biasucci, L.M. et al., Am. J. Cardiol. 77:85-87; Benamer, H. et al., Am. J. Cardiol. 82:845-850, 1998; Caligiuri, G. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:1295-1304, 1998; Curzen, N.P. et al., Heart 80:23-27, 1998; Dangas, G. et al., Am. J. Cardiol. 83:583-5, A7, 1999)。CRPは、変種または消散不安定狭心症を有する個体の血漿において上昇するが、雑多な結果が報告されている(Benamer, H. et al., Am. J. Cardiol. 82:845-850, 1980; Caligiuri, G. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:1295-1304, 1998)。CRPは、AMIまたは不安定狭心症患者の結果を予測することには有用ではないかもしれない(Curzen, N.P. et al., Heart 80:23-27, 1998; Rebuzzi, A.G. et al.,Am. J. Cardiol. 82:715-719, 1998; Oltrona, L. et al., Am. J. Cardiol. 80:1002-1006, 1997)。CRPの濃度は、急性期反応を生じる何らかの症状、例えば感染、外科手術、外傷、発作などを有する個体の血漿において上昇する。CRPは、合成の後すぐに血流に放出される分泌タンパク質である。CRP合成はIL-6によりアップレギュレートされ、血漿CRP濃度は刺激から6時間の範囲内で有意に上昇する(Biasucci, L.M. et al., Am. J. Cardiol. 77:85-87, 1996)。血漿CRP濃度は、刺激の約50時間後にピークに達し、減少し始め、血流中半減期は約19時間である(Biasucci, L.M. et al., Am. J. Cardiol. 77:85-87, 1996)。その他の研究により、不安定狭心症を有する個体の血漿CRP濃度が確認されている(Biasucci, L.M. et al., Circulation 94:874-877, 1996)。CRPの血漿濃度は、ACSを有する個体において100 μg/ml(1 μM)に接近し得る(Biasucci, L.M. et al., Circulation 94:874-877, 1996; Liuzzo, G. et al., Circulation 94:2373-2380, 1996)。CRPは、急性期反応の特異的なマーカーである。アテローム斑破裂または心臓組織傷害に伴う急性期反応の活性化の結果である可能性が最も高いCRPの上昇がAMIおよび不安定狭心症を有する個体の血漿において同定されている。CRPはACSの非常に非特異的なマーカーであり、血漿中のCRP濃度の上昇は免疫系の活性化などを含む無関係な状態から起こり得る。ACSについての非特異性の高い程度にもかかわらず、CRPは、心臓組織傷害に特異的な他のマーカーとともに使用する場合、不安定狭心症およびAMIの同定に有用であり得る。血漿はCRPの高い濃度を有し、報告された健常者個体の血液中のCRPの濃度には大きなばらつきがある。血漿サンプルの範囲についての均一なアッセイ、おそらくは競争イムノアッセイを使用してさらに研究することにより明らかに健常な個体の血漿中のCRP濃度の上限を決定することが必要である。
インターロイキン1β(IL-1β)は、急性期反応に関係し、多くの疾患の病原性メディエーターである17 kDaの分泌炎症誘発性サイトカインである。IL-1βは通常マクロファージおよび上皮性細胞によって産生される。IL-1βはアポトーシスを起こしている細胞からも放出される。IL-1βの正常血清濃度は< 30 pg/ml(1.8 pM)である。おそらくはアッセイの感度の限界あるいはACS発症の直後の血流中からのIL-1βの消失のために、ACSを有する個体におけるIL-1β血漿濃度の可能性のある上昇についての決定的な研究はない。理論的には、不安定狭心症およびAMIにおいては、IL-1βはCRPなどの他の急性期タンパク質よりはやく上昇すると考えられ、これはIL-1βは急性期反応の初期に参加するからである。さらに、IL-1βはアポトーシスを起こしている細胞から放出され、このような細胞は虚血の初期段階において活性化され得る。この点に関しては、ACSと関連する血漿IL-1β濃度の上昇について高感度のアッセイを使用してさらに研究される必要がある。血漿IL-1β濃度の上昇は、例えば外傷および感染のような前炎症状態の急性期反応の活性化に関連する。IL-1βは5分およびその後の4時間の二相の生理学的な半減期を有する(Kudo, S. et al., Cancer Res. 50: 5751-5755,1990)。IL-1βは炎症性反応またはアポトーシスの活性化際して細胞外の環境に放出される。AMIおよび不安定狭心症のエピソード後の短時間の間のみIL-1βが上昇し、ACS患者の入院時に採取された血液サンプルのほとんどは発症後のIL-1β上昇の範囲外にあるという可能性がある。
インターロイキン1レセプター拮抗薬(IL-1ra)は、肝細胞、上皮細胞、単球、マクロファージおよび好中球において優勢に発現されるIL-1ファミリーの17 kDaのメンバーである。IL-1raは、交互スプライシングにより生成される細胞内および細胞外の形態を有する。IL-1raは生理学的IL-1活性の制御に参加すると考えられる。IL-1raは、IL-1のような生理活性を有しておらず、IL-1βのものと同様な親和性によりT細胞および線維芽細胞上のIL-1レセプタに結合することができ、IL-1αおよびIL-1βの結合をブロックしてそれらの生理活性を阻害する(Stockman, B.J. et al., Biochemistry 31:5237-5245, 1992; Eisenberg, S.P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:5232-5236, 1991; Carter, D.B. et al., Nature 344:633-638, 1990)。IL-1raは通常IL-1より高い濃度で血漿中に存在し、IL-1raレベルがEL-1より良好な疾患重篤度との相関物であることが示唆されている(Biasucci, L.M. et al., Circulation 99:2079-2084, 1999)。さらに、IL-1raが急性期タンパク質であるという証拠がある(Gabay, C. et al., J Clin. Invest. 99:2930-2940, 1997)。IL-1raの正常な血漿濃度は< 200 pg/ml(12 pM)である。IL-1raの血漿濃度は、AMI患者、およびAMI、死亡または抗療性狭心症に進行する不安定狭心症患者において上昇する(Biasucci, L.M. et al., Circulation 99:2079-2084, 1999; Latini, R. et al., J Cardiovasc. Pharmacol. 23:1-6, 1994)。さらに、IL-1raは非併発性AMIと比較して、重症AMIにおいて有意に上昇した(Latini, R. et al., J Cardiovasc. Pharmacol. 23:1-6, 1994)。これは、IL-1raが不安定狭心症およびAMIにおけるACS重篤度の有用なマーカーであり得ることを示している。IL-1raの血漿濃度の上昇は、感染、外傷および関節炎などの炎症性または急性期反応の活性化を含む状態のいずれとも関連する。IL-1raは前炎症状態の血流に放出され、また急性期反応の参加者として放出され得る。血流からのIL-1raのクリアランスの主な源は腎臓および肝臓であるようである(Kim,.D.C. et al., J Pharm. Sci. 84: 575-580, 1995)。IL-1ra濃度は不安定狭心症を有する個体の血漿において、発症の24時間の範囲で上昇し、これらの上昇は発症の2時間の範囲でも顕著であり得る(Biasucci, L.M. et al., Circulation 99:2079-2084, 1999)。重度に進行した不安定狭心症の患者において、IL-1raの血漿濃度は発症の48時間後に入院時のレベルより高かったが、問題のない進行患者においては濃度は低下した(Biasucci, L.M. et al., Circulation 99:2079-2084, 1999)。さらに、不安定狭心症に伴うIL-1raの血漿濃度は1.4 ng/ml(80 pM)に達し得る。IL-1raは、ACS重篤度の有用なマーカーであり得る。これはACSの特異的なマーカーではないが、IL-1raの血漿濃度の変化は疾患重篤度と関連するようである。さらに、それは前炎症状態のIL-1放出と連動してまたはその直後に放出されるようであり、そしてそれはIL-1より高い濃度で見られる。これはIL-1raがIL-1活性の有用な間接的なマーカーであり得ることを示し、これはIL-6の産生を引き起こす。従って、IL-1raは不安定狭心症およびAMIの重篤度を等級分けする際のみならず、IL-6濃度が有意に上昇する前の急性期反応の初期段階の同定においても有用であり得る。
インターロイキン6(IL-6)は、ヘマトポイエチンファミリーの炎症誘発性サイトカインである20 kDaの分泌タンパク質である。LL-6は急性期反応物質であって、接着分子を含む種々のタンパク質の合成を刺激する。その主要な機能は肝タンパク質の急性期生産を媒介することであり、その合成はサイトカインIL-1により誘導される。IL-6は通常マクロファージおよびTリンパ球によって産生される。IL-6の正常血清濃度は、< 3 pg/ml(0.15 pM)である。IL-6の血漿濃度は、AMIおよび不安定狭心症患者において、AMIでより大きな程度上昇する(Biasucci, L.M. et al., Circulation 94:874-877, 1996; Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40: 389-395, 1998; Biasucci, L.M. et al., Circulation 99:2079-2084, 1999)。IL-6は、安定狭心症患者の血漿においては有意に上昇しない(Biasucci, L.M. et al., Circulation 94:874-877, 1996; Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40: 389-395, 1998)。さらに、IL-6濃度は、重度に進行した不安定狭心症患者の血漿中では発症から48時間にわたり上昇するが、問題のない進行を有するものでは低下する(Biasucci, L.M. et al., Circulation 99:2079-2084, 1999)。これは、IL-6が疾患進行の有用な指示物質であり得ることを示している。IL-6の血漿上昇は、例えば外傷、感染または急性期反応を引き起こすその他の疾患のような非特異的炎症誘発性状態のいずれにも伴う。IL-6は、4.2時間の血流中での半減期を有しており、AMIおよび不安定狭心症の後に上昇する(Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40: 389-395, 1998)。IL-6の血漿濃度は、AMI発症期8〜12時間の範囲で上昇し、100 pg/mlに接近し得る。おそらくは発作の重篤度のために、不安定狭心症患者のIL-6の血漿濃度は、発症の72時間後にピークレベルに上昇した(Biasucci, L.M. et al., Circulation 94:874-877, 1996)。IL-6は、ACSに関連する炎症の感度の高いマーカーであるようである。しかしながらそれはACSに特異的ではなく、ACSのリスクファクターと考えられる種々の状態において上昇し得る。しかしながら、IL-6はAMIまたは不安定狭心症の重篤度の識別に有用であり得、医師がこれらの患者の疾患の進行を厳密に監視することを可能とする。さらに、IL-6は不安定狭心症およびAMIを安定狭心症から区別することに有用であり得る。
腫瘍壊死因子α(TNFα)は、急性期反応に関係する17 kDaの分泌炎症誘発性サイトカインであり、多くの疾患の病原媒介物質である。TNFαは通常マクロファージおよびナチュラルキラー細胞によって産生される。TNFαの正常血清濃度は< 40 pg/ml(2 pM)である。TNFαの血漿濃度はAMI患者において上昇し、不安定狭心症患者でわずかに上昇する(Li, D. et al., Am. Heart J 137:1145-1152, 1999; Squadrito, F. et al., Inflamm. Res. 45: 14-19, 1996; Latini, R. et al., J Cardiovasc. Pharmacol. 23:1-6, 1994; Carlstedt, F. et al., J. Intern. Med. 242: 361-365, 1997)。TNFαの血漿濃度の上昇は、外傷、発作および感染を含む炎症誘発性状態のいずれにも伴う。TNFαは血流中約1時間の半減期を有し、症状の発症の直後に循環から除去され得ることを示している。AMI患者においては、胸部痛の発症の4時間後にTNFαが上昇し、発症期の48時間の範囲内で徐々に正常レベルに低下した(Li, D. et al., Am. Heart J 137:1145-1152, 1999)。AMI患者の血漿中のTNFαの濃度は300 pg/ml(15 pM)を越えていた(Squadrito, F. et aL, Inflamm. Res. 45: 14-19, 1996)。
CD54とも称される可溶性細胞間接着分子(sICAM-1)は、白血球集合および移動間に抗原提示細胞および内皮細胞に対する白血球の結合を容易にする85〜110 kDaの細胞表面結合免疫グロブリン様インテグリンリガンドである。sICAM-1は通常血管内皮細胞、造血幹細胞および非造血幹細胞によって産生され、小腸および表皮において見られる。sICAM-1は細胞死の間に細胞表面から、あるいはタンパク分解性活性の結果として放出され得る。sICAM-1の正常な血漿濃度は約250 ng/ml(2.9 nM)である。sICAM-1の血漿濃度はAMIおよび不安定狭心症患者において有意に上昇するが、安定狭心症ではしない(Pellegatta, F. et al., J Cardiovasc. Pharmacol. 30:455-460, 1997; Miwa, K. et al., Cardiovasc. Res. 36: 37-44, 1997; Ghaisas, N.K. et al., Am. J CardioL 80:617-619, 1997; Ogawa, H. et al., Am. J Cardiol. 83:38-42, 1999)。さらに、ICAM-1はアテローム硬化症病巣および病巣形成の素因が形成された領域において発現され、斑破裂に際して血流に放出され得る(Eyama, K. et al., Circ. Res. 85: 199-207,1999; Tenaglia, A.N. et al., Am. J Cardiol. 79:742-747, 1997)。sICAM-1の血漿濃度の上昇は、虚血性発作、頭部外傷、アテローム硬化症、癌、子癇前症、多発性硬化症、嚢胞性線維症およびその他の非特異的な炎症状態に伴う(Kim, I.S., J Neurol. Sci. 137: 69-78, 1996; Laskowitz, D.T. et al., J Stroke Cerebrovasc. Dis. 7: 234-241, 1998)。sICAM-1の血漿濃度は、AMIおよび不安定狭心症の急性期の間に上昇する。血漿sICAM-1の上昇は、AMI発症期の9〜12時間の範囲でピークに達し、24時間以内に正常レベルに戻る(Pellegatta, F. et al., J Cardiovasc. Pharmacol. 30:455-460, 1997)。ATMI患者においては、sICAMの血漿濃度は、700 ng/ml(8 nM)に接近し得る(Pellgatta, F. et al., J. Cardiovasc. Pharmacol. 30:455-460,1997)。sICAM-1は、AMIおよび不安定狭心症を有する個体の血漿において上昇するが、これらの疾患について特異的ではない。しかしながら、血漿上昇は安定狭心症に伴わないため、それはAMIおよび不安定狭心症を安定狭心症から区別する有用なマーカーであり得る。興味深いことに、ICAM-1は、アテローム斑に存在し、斑破裂に際して血流に放出され得る。したがって、sICAMは炎症のみならずACSと関連する斑破裂のマーカーとして有用である。
CD 106とも称される血管細胞接着分子(VCAM)は、白血球集合の間に抗原提示細胞に対するBリンパ球および発生Tリンパ球の結合を容易にする100〜110k Daの細胞表面結合免疫グロブリン様インテグリンリガンドである。VCAMは通常内皮細胞によって産生され、それらは血管、リンパ管、心臓およびその他の体腔内面にある。VCAM-1は、細胞死の間またはタンパク分解性活性の結果として細胞表面から放出され得る。sVCAMの正常血清濃度は、約650 ng/ml(6.5 nM)である。sVCAM-1の血漿濃度は、AMI、不安定狭心症および安定狭心症患者においてわずかに上昇する(Mulvihill, N. et al., Am. J Cardiol 83:1265-7, A9, 1999; Ghaisas, N.K. et al., Am. J. Cardiol. 80:617-619, 1997)。しかし、sVCAM-1はアテローム硬化性病巣において発現され、その血漿濃度はアテローム性動脈硬化症の程度と相関し得る(Iiyama, K. et al., Circ. Res. 85: 199-207, 1999; Peter, K. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17:505-512, 1997)。sVCAM-1の血漿濃度の上昇は、虚血性発作、癌、糖尿、子癇前症、血管損傷およびその他の非特異的炎症性状態に伴う(Bitsch, A. et al., Stroke 29:2129-2135, 1998; Otsuki, M. et al., Diabetes 46:2096-2101, 1997; Banks, R.E. et al., Br. J Cancer 68:122-124, 1993; Steiner, M. et al., Thromb. Haemost. 72:979-984, 1994; Austgulen, R. et al., Eur. J. Obstet. Gynecol. Reprod. Biol. 71:53-58, 1997)。
単球走化性タンパク質1(MCP-1)は、単球および好塩基球を誘引するが、好中球または好酸球はしない、10 kDaの走化性因子である。MCP-1は通常、モノマーからホモダイマーの形態の間の非平衡な状態で見られ、通常単球および血管内皮細胞内で生産され分泌される(Yoshimura, T. et al., FEBS Lett. 244:487-493, 1989; Li, Y.S. et al., Mol. Cell. Biochem. 126:61-68, 1993)。MCP-1は乾癬、リウマチ様関節炎およびアテローム性動脈硬化症を含む、単球浸潤を伴う種々の疾患の病因に関係する。MCP-1の血漿中の正常濃度は< 0.1 ng/mlである。MCP-1の血漿濃度はAMI患者において上昇し、不安定狭心症患者の血漿中において上昇し得るが、安定狭心症は上昇を伴わない(Soejima, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 34:983-988, 11- 999 - Nishiyama, K. et al., Jpn. Circ. J 62:710-712, 1998; Matsumori, A. et al., J. Mol, Cell. Cardiol. 29:419-423, 1997)。興味深いことに、MCP-1も、アテローム性動脈硬化症の間、動脈壁への単球の集合に関与し得る。MCP-1の血清濃度の上昇は、アルコール性肝疾患、間質性肺疾患、敗血症および全身性エリテマートーデスを含む、炎症と関連する種々の症状に伴う(Fisher, N.C. et al., Gut 45:416-420, 1999; Suga, M. et al., Eur. Respir, J. 14:376-382) 1999; Bossink, AM. et al., Blood 86:3841-3847, 1995; Kaneko, H. et al. J Rheumatol. 26:568-573, 1999)。MCP-1は、単球および内皮細胞の活性化に際して血流に放出される。AMI患者からの血漿中のMCP-1の濃度は1 ng/ml(100 pM)に接近することが報告されており、1ヵ月間上昇したままであり得る(Soejima, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 34:983-988, 1999)。ACSと関連したMCP-1の血流中への放出および血流からのクリアランスの動力学は現在知られていない。MCP-1は、単球移動を伴う炎症誘発性状態の存在の特異的なマーカーである。MCP-1はACSに特異的ではないが、伝えられるところではAMI患者の血漿においてその濃度が上昇する。さらに、MCP-1濃度は不安定狭心症または安定狭心症患者の血漿においては上昇し得ず、これはMCP-1が不安定および安定狭心症からAMIを識別するのに有用であり得ることを示唆している。
C-PP-32、YAMA、アポパインとも称されるカスパーゼ3は、細胞のアポトーシスの間に活性化される、インターロイキン1β変換酵素(ICE)様細胞内システインタンパク分解酵素である。カスパーゼ3は、不活性な32 kDaの前駆体として存在し、これはアポトーシス誘導の間に20 kDaおよび11 kDaのサブユニットのヘテロダイマーに、タンパク質加水分解的に活性化される(Femandes-Alnemri, T. et al., J. Biol. Chem., 269:30761-30764、1994)。その細胞基質は、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)およびステロール調節エレメント結合タンパク質(SREBPs)を含む(Liu, X. et al., J Biol. Chem. 271:13371-133376, 1996)。カスパーゼ3の正常な血漿濃度は知られていない。ACSと関連するカスパーゼ3の血漿濃度の変化についての公表された研究はない。虚血および低酸素症に関連する心筋細胞のアポトーシス誘導の仮説を支持する証拠の量は増加している(Saraste, A, Herz 24:189-195, 1999; Ohtsuka, T. et al., Coron. Artery Dis. 10: 221-225, 1999; James, T.N., Coron. Artery Dis. 9: 291-307, 1998; Bialik, S. et al., J Clin. Invest. 100:1363-1372, 1997; Long, X. et al., J Clin. Invest. 99:2635-2643, 1997)。血漿カスパーゼ3濃度の上昇は、アポトーシスを伴う生理学的な事象のいずれとも関連し得る。アポトーシスが運動の間およびその後の骨格筋、そして脳虚血において誘導されることを示唆する証拠がある(Carraro, U. and Franceschi, C., Aging (Milano) 9:19-34, 1997; MacManus, J.P. et al., J Cereb. Blood Flow Metab. 19:502-510, 1999)。AMI患者の末梢血においてカスパーゼ3を見出したという公表された報告がないことから、心臓細胞死のマーカーとしてのカスパーゼ3の有用性は現在知られていない。興味深いことに、虚血起因性アポトーシスはそれとその他の形式のアポトーシスを区別する特徴を有し得るが、カスパーゼ3の誘導は全てのアポトーシス経路に共通である。カスパーゼ3は心臓細胞死のその他の細胞質ゾルマーカーよりより有用であるとは判明しておらず、これはこれらのマーカーはいずれも血漿膜一体性の喪失の後に放出されるからである。証拠によれば、アポトーシスを起こしている細胞が膜一体性を喪失しないということ、すなわち壊死の特徴を示さず、それらはインタクトな膜とともに、最終的にマクロファージおよびその他の隣接細胞によって取り込まれるアポトーシス体を形成することが示唆されている(Saraste, A., Herz, 24: 1 S9-195, 1999; James, T.N., Coron. Artery Dis. 9: 291-307, 1998)。この点に関しては、細胞内内容物の放出は壊死の結果であり得、カスパーゼ3は、特にアポトーシスの結果としての心臓細胞死の同定のための適切なマーカーとはなり得ないかもしれない。
ヘモグロビン(Hb)は、赤血球で見られる、酸素を輸送し鉄を含有する球状タンパク質である。これは2つのグロビンサブユニットのヘテロダイマーである。α2γ2は胎児Hbと称され、α2β2は成人HbAと称され、α2δ2は成人HbA2と称されている。ヘモグロビンの90〜95%はHbAであり、α2グロビン鎖は全てのHbタイプに見られ、鎌状赤血球ヘモグロビンにさえ見られる。Hbは、身体の全体にわたって酸素を細胞へ輸送をすることを担っている。Hbα2は、通常血清においては検出されない。ACSパネルに対する1Hbα2の有用性は、溶血反応の程度を決定することであり、結果として生じる測定された血清濃度に対する赤血球由来タンパク質の貢献である。赤血球に存在する血清マーカーの測定のために溶血反応の許容されるレベルを決定しなければならない。
βトレースとも称されるヒトリポカリン型プロスタグランジンDシンターゼ(hPDGS)は、プロスタグランジンHからのプロスタグランジンD2の形成を触媒する30 kDaの糖タンパク質である。明らかに健常な個体のhPDGS濃度の上限は約420 ng/mlであると報告されている(EP0999447A1)。hPDGSの上昇は、不安定狭心症および脳梗塞患者からの血液において同定されている(EP0999447A1)。さらに、hPDGSは虚血性エピソードの有用なマーカーであるようであり、hPDGSの濃度は、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)の後の狭心症患者において時間とともに減少することが見出され、虚血が寛解するにしたがってhPGDS濃度が減少することを示唆している(EP0999447A1)。
グループ(iii)のマーカーは、アテローム斑破裂に関連する心筋傷害の非特異的マーカーである。この型のマーカーは、特に、例えばアテローム動脈硬化症または不安定狭心症のような斑破裂に関連する疾患を示すものである。これらはまた、非常に初期のマーカーであり、これによりACSがアテローム斑破裂によるものである場合に、アテローム斑破裂に関連したマーカーは心筋傷害の特異的なマーカーに先行して出現し得る。アテローム斑破裂の強力なマーカーとしては、ヒト好中性エラスターゼ、誘導性一酸化窒素シンターゼ、リゾホスファチジン酸、マロンジアルデヒド修飾低密度リポタンパク質およびMMP-1、MMP-2、MMP-3およびMMP-9を含むマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)ファミリーの種々のメンバーが挙げられる。本発明によれば、MMPはさらに別のマーカーとして好ましく使用される。
ヒト好中性エラスターゼ(HNE)は、通常好中球の好アズール顆粒中に含まれる30 kDaのセリンタンパク分解酵素である。HNEは好中球の活性化に際して放出され、その活性はa1-タンパク分解酵素阻害剤の循環により制御される。活性化好中球はアテローム斑に共通して見られ、これらの斑の破裂は結果としてHNEを放出し得る。血漿HNE濃度は、通常HNE-α1-PI複合体を検出することにより測定する。この複合体の正常な濃度は50 ng/mlであり、HNEの正常な濃度2.5 ng/ml(0.8 nM)を示している。HNE放出は、血漿中の特異的HINE由来フィブリノペプチドであるフィブリノペプチドBb30-43の特異的な検出によっても測定され得る。血漿HNEは冠動脈狭窄症患者において上昇し、その上昇は複合斑を有する患者において、単純斑を有する患者におけるものより大きい(Kosar, F. et al., Angiology 49:193-201, 1998; Amaro, A. et al., Eur. Heart J. 16:615-622, 1995)。血漿HNEは、安定狭心症患者において有意に上昇しないが、フィブリノペプチドBb30-43を測定することにより定量すると、不安定狭心症およびAMI患者において上昇し、不安定狭心症における濃度はAMIに伴うものよりも2.5倍高い(Dinerman, J.L. et al., J Am. Coll. Cardiol. 15:1559-1563, 1990; Mehta, J. et al., Circulation 79:549-556, 1989)。血清HNEは、心臓手術、運動起因性筋損傷、巨細胞性動脈炎、急性呼吸不全症候群、虫垂炎、膵臓炎、敗血症、喫煙関連気腫および嚢胞性線維症において上昇する(Genereau, T. et al., J Rheumatol. 25:710-713, 1998; Mooser, V. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 19:1060-1065, 1999; Gleeson, M. et al., Eur. J. Appl. Physiol. 77:543-546, 1998; Gando, S. et al., J. Trauma 42:1068-1072, 1997; Eriksson, S. et al., Eur. J. Surg. 161:901-905, 1995; Liras, G. et al., Rev. Esp. Enferm. Dig. 87: 641-652, 1995; Endo, S. et al., J. Inflamm. 45:136-142, 1995; Janoff, A., Annu Rev Med 36:207-216, 1985)。また、HNEは血液凝固の間にも放出され得る(Plow, E.F. and Plescia, J., Thromb, Haemost. 59:360-363, 1988; Plow, E.F., J Clin. Invest. 69:564-572, 1982)。また、血清HNEの上昇は好中球の集合および活性化を伴う非特異的感染または炎症性状態のいずれにも伴い得る。斑破裂に際して放出される可能性が最も高く、これは活性化好中球がアテローム斑に存在するからである。HNEはα1-PIと複合体を形成した後、おそらく肝臓によってクリアされる。
誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)は、発現がインターフェロン-γ、インターロイキン1β、インターロイキン6、腫瘍壊死因子αおよびリポ多糖を含むサイトカインにより制御される上皮性細胞マクロファージ中の130 kDaの細胞質ゾルタンパク質である。iNOSは、L-アルギニンからの一酸化窒素(NO)の合成を触媒し、その誘導は、抗菌活性を有し種々の生理学的および炎症性事象の媒介物質であるNOの高生産率の産生を生じる。iNOSによるNO産生は、構成的に発現されるNOSにより生産される量よりも約100倍高い(Depre, C. et al., Cardiovasc. Res. 41: 465-472, 1999)。ACSと関連する血漿iNOS濃度変化について公表された研究はない。iNOSは、冠状血管アテローム斑において発現され、NOおよびスーパーオキシドの生成物であり血小板粘着および凝集を増強するパーオキシニトレートの生産を介して斑安定性を妨げる(Depre, C. et al., Cardiovasc. Res. 41: 465-472, 1999)。心臓虚血の間iNOS発現は上昇し得ず、iNOSがAMIから狭心症を区別するのに有用であり得ることを示唆している(Hammerman, S.I. et al., Am. J Physiol. 277: H1579-H1592,1999; Kaye, RM. et al., Life Sci 62:883-887,1998)。血漿iNOS濃度の上昇は硬変、鉄欠乏性貧血または細菌感染症を含むマクロファージ活性化を生じるその他の状態のいずれにも伴い得る(Jimenez, W. et al., Hepatology 30:670-676, 1999; Ni, Z. et al., Kidney Int. 52: 195-201, 1997)。NOSは、アテローム斑破裂の結果として血流に放出され得、血流中のiNOSの上昇した量の存在は、斑破裂が起こったことを示し得るだけでなく、理想的な環境が形成されて血小板粘着が促進されたことをも示し得る。しかしながら、iNOSはアテローム斑破裂について特異的ではなく、その発現は非特異的炎症状態の間に誘導され得る。
リゾホスファチジン酸(LPA)は、ホスホグリセリド類およびトリアシルグリセロール類の合成において形成されるリゾホスホリピド中間体である。これはアシルコエンザイムAによるグリセリン-3リン酸のアシル化によって、また低密度リポタンパク質(LDL)の軽度の酸化の間に形成される。LPAは血管作用性特性を有する脂質セカンドメッセンジャーであり、血小板活性化剤として機能し得る。LPAは、アテローム硬化性病巣、特に最も破裂しやすいその中核の成分である(Siess, W., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 96, 6931-6936, 1999)。正常な血漿LPA濃度は540 nMである。血清LPAは、腎機能不全、卵巣癌およびその他の婦人科癌において上昇する(Sasagawa, T. et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo) 44:809-818, 1998; Xu, Y. et al., JAMA 280:719-723, 1998)。不安定狭心症の関連では、LPAは斑破裂の直接の結果として放出される可能性が最も高い。血漿LPA濃度は、婦人科癌患者において60 μMを上回り得る(Xu, Y. et al., JAMA 280:719-723, 1998)。血清LPAはアテローム斑破裂の有用なマーカーであり得、安定狭心症からの不安定狭心症の区別を可能にし得る。しかしながら、LPAは他の斑破裂のマーカーほど特異的ではない。
マロンジアルデヒド修飾低密度リポタンパク質(MDA修飾LDL)は、ホスホリパーゼ活性、プロスタグランジン合成または血小板活性化の結果として、LDLのアポB-100部分の酸化の間に形成される。脂質過酸化の非存在下でLDLのMDA修飾が起こるので、MDA修飾LDLは酸化LDLから区別され得る(Holvoet, P., Acta Cardiol. 53:253-260, 1998)。MDA-修飾LDLの正常血漿濃度は、4 μg/ml(〜10 μM)未満である。酸化LDLの血漿濃度は安定狭心症、不安定狭心症およびAMIにおいて上昇し、それがアテローム性動脈硬化症のマーカーであり得ることを示している(Holvoet, P, Acta Cardiol. 53:253-260, 1998; Holvoet, P. et al., Circulation 98:1487-1494, 1998)。血漿MDA修飾LDLは、安定狭心症においては上昇しないが、不安定狭心症およびAMIにおいて有意に上昇する(Holvoet, P., Acta Cardiol. 53:253-260, 1998; Holvoet, P. et al., Circulation 98:1487-1494, 1998; Holvoet, P. et al., JAMA 281.1718-1721, 1999)。血漿MDA修飾LDLは、β-サラセミアの個体および腎移植患者において上昇する(Livrea, M.A. et al., Blood 92:3936-3942, 1998; Ghanem, H. et al., Kidney Int. 49: 488-493, 1996; van den Dorpel, M.A. et al., Transpl. nt. 9 Suppl. 1: S54-S57, 1996)。さらに、血清MDA修飾LDLは低酸素症の間に上昇し得る(Balagopalakrishna, C. et al., Adv. Exp. Med. Biol. 411:337-345, 1997)。MDA-修飾LDLの血漿濃度は、胸部痛の発症から6〜8時間の間に上昇する。MDA-修飾LDLの血漿濃度は、AMI患者で20 μg/ml(〜α50 μM)、不安定狭心症患者で15 μg/ml(〜40 μM)に接近し得る(Holvoet, P. et al., Circulation 98: 1487-1494, 1998)。血漿MDA修飾LDLは、マウスにおいて5分未満の半減期を有する(Ling, W. et al., J Clin. Invest. 100:244-252, 1997)。MDA修飾LDLは、急性冠徴候におけるアテローム斑破裂の特異的なマーカーであるように見える。しかし、MDA-修飾LDLの血漿濃度の上昇が斑破裂または血小板活性化の結果であるかどうかは不明である。最も合理的な説明は、増加した量のMDA修飾LDL存在が両方の事象を示すものであることである。MDA修飾LDLは、安定狭心症から不安定狭心症およびAMIを識別するのに有用であり得るが、それ単独ではAMIを不安定狭心症から区別することができない。この点に関しては、特にAMIを不安定狭心症から区別し得る他のマーカーとの併用において、MDA修飾LDLはマーカーのパネルの一部として最も有用であろう。
コラゲナーゼ1とも称されるマトリックスメタロプロテイナーゼ1は、主としてタイプIコラーゲンを切断するが、タイプII、Ill、VIIおよびXコラーゲンも切断し得る、41/44 kDaの亜鉛およびカルシウム結合タンパク分解酵素である。活性な41/44 kDaの酵素は、依然として活性な22/27kDaの形態に自己分解し得る。MMP-1は、平滑筋細胞、肥満細胞、マクロファージ由来泡沫細胞、Tリンパ球および内皮細胞を含む種々の細胞により合成される(Johnson, J. L. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18:1707-1715, 1998)。他のMMPと同様に、MMP-1は細胞外マトリックスのリモデリングに関与しており、これは外傷後あるいは血管内細胞移動の間に起こり得る。MMP-1は、遊離形態あるいはTIMP-1(その天然の阻害剤)との複合体において血流中に見られる。MMP-1は、通常、< 25 ng/mlの血漿濃度で見られる。ACSと関連するMMP-1の血清または血漿濃度の変化についての決定的な公表された研究はない。しかしながら、MMP-1は、最も破裂しやすい領域であるアテローム斑の肩部で見られ、アテローム斑不安定化に関係し得る(Johnson, J.L. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18: 1707-1715, 1998)。さらに、MMP-1は、心筋再潅流傷害の病因に関係している(Shibata, M. et al., Angiology 50:573-582, 1999)。血清MMP-1は、マスト細胞脱顆粒を誘発する炎症性状態で上昇し得る。血清MMP-1濃度は、関節炎および全身性エリテマートーデス患者において上昇する(Keyszer, G. et al., Z Rheumatol 57:392-398, 1998; Keyszer, G. J Rheumatol. 26:251-258, 1999)。血清MMP-1は前立腺癌患者においても上昇し、上昇の程度は腫瘍の転移潜在性に対応する(Baker, T. et al., Br. J. Cancer 70:506-512, 1994)。また、MMP-1の血清濃度は他の種類の癌患者においても上昇し得る。血清MMP-1はヘモクロマトーシス患者において低下し、慢性ウイルス性肝炎患者においても減少すし、この場合濃度は重篤度に逆相関している(George, D.K. et aL, Gut 42:715-720, 1998; Murawaki, Y. et al., J Gastroenterol. Hepatol. 14:138-145, 1999)。MMP-1は、マスト細胞脱顆粒の間に放出され、おそらくアテローム斑破裂の間に放出される。MMP-1濃度はヘパリンで凝血防止された血漿において、EDTA血漿または血清におけるよりも低く、そしてELISAアッセイにおいては、希釈されたサンプルでは希釈されていないサンプルよりも高い濃度値が得られ、これはおそらくタンパク質MMP阻害剤またはマトリックス成分の阻害効果の減少によるものである(Lein, M. et al., Clin. Biochem. 30:491-496, 1997)。血清MMP-1は、AMI後最初の4日間において減少し、その後上昇し、AMI発症の2週間後にピークレベルに達した(George, DX. et al., Gut 42:715-720, 1998)。
ゼラチナーゼAとも称されるマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)は、非活性の72 kD前駆体として合成される66 kDaの亜鉛およびカルシウム結合タンパク分解酵素である。成熟MMP-3は、タイプ1ゼラチンおよびタイプIV、V、VIIおよびXコラーゲンを切断する。MMP-2は、血管平滑筋細胞、肥満細胞、マクロファージ由来泡沫細胞、Tリンパ球および内皮細胞を含む種々の細胞により合成される(Johnson, J.L. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18:1707-1715, 1998)。MMP-2は血漿において、通常、その生理学的レギュレーターであるTIMP-2との複合体中に見られる(Murawaki, Y. et al., J. Hepatol. 30:1090-1098, 1999)。MMP-2の正常血漿濃度は、< 〜550 ng/ml(8 nM)である。MMP-2発現は、アテローム硬化性病巣中の血管平滑筋細胞において上昇し、斑不安定の場合に血流に放出され得る(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Gardiol. 32:368-372, 1998)。さらに、MMP-2は斑不安定および破裂の一因として関連していた(Shah, P.K. et al., Circulation 92:1565-1569, 1995)。血清MMP-2濃度は、安定狭心症、不安定狭心症およびAMI患者において上昇し、上昇は不安定狭心症およびAMIにおいて安定狭心症におけるよりも有意に大きかった(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。トレッドミル運動負荷試験後の安定狭心症を有する個体の血清MMP-2濃度は変わらなかった(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。血清および血漿MMP-2は、胃癌、肝細胞癌、肝硬変、尿路上皮癌、リウマチ様関節炎および肺癌患者において上昇する(Murawaki, Y, et al., J. Hepatol. 30:1090-1098, 1999; Endo, K, et al., Anticancer Res. 17: 2253-2258, 1997; Gohji, K. et al., Cancer 78:2379-2387, 1996; Gruber, B.L. et al., Clin. Immunol. Immunopathol. 78:161-171, 1996; Garbisa, S. et al., Cancer Res. 52: 4548-4549, 1992)。さらに、MMP-2は血小板凝集の間に、血小板細胞質ゾルから細胞外空間に翻訳され得る(Sawicki, G. et al., Thromb. Haemost. 80:836-839, 1998)。MMP-2は、不安定狭心症およびAMIを有する個体の血清において、入院時に上昇しており、最高レベルは1.5 μg/ml(25 nM)に接近した(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372,1998)。血清MMP-2濃度は、不安定狭心症およびAMI両者について発症の1〜3日後にピークに達し、1週後に正常に戻り始めた(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。
ストロメライシン1とも称されるマトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP-3)は、非活性の60 kDaの前駆体として合成される45 kDaの亜鉛およびカルシウム結合タンパク分解酵素である。成熟MMP-3は、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニンおよびタイプIVコラーゲンを切断するが、タイプIコラーゲンは切断しない。MMP-3は、平滑筋細胞、肥満細胞、マクロファージ由来泡沫細胞、Tリンパ球および内皮細胞を含む種々の細胞により合成される(Johnson, J.L. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18: 1707-1715, 1998)。他のMMPと同様に、MMP-3は細胞外マトリックスリモデリングに関与し、それは外傷後あるいは脈管間細胞移動の間に起こり得る。MMP-3は、通常、< 125 ng/mlの血漿濃度で見られる。また血清MMP-3濃度は年齢と共に上昇したことも示されており、男性での濃度は女性に比べて約2倍高い(Manicourt, D.H. et al., Arthritis Rheum. 37:1774-1783, 1994)。ACSと関連するMMP-3の血清または血漿濃度の変化について決定的な公表された研究はない。しかしながら、MMP-3は、最も破裂しやすい領域であるアテローム斑の肩部で見られ、アテローム斑不安定化に関係し得る(Johnson, J. L. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18: 1707-1715, 1998)。したがってMMP-3濃度は、不安定狭心症におけるアテローム斑破裂の結果として上昇し得る。血清MMP-3は、マスト細胞脱顆粒を誘発する高い炎症性状態で上昇し得る。血清MMP-3濃度は、関節炎および全身性エリテマートーデス患者において上昇する(Zucker, S. et al. J. Rheumatol. 26:78-80, 1999; Keyszer, G. et al., Z Rheumatol. 57:392-398, 1998; Keyszer, G. et al. J Rheumatol. 26:251-258, 1999)。血清MMP-3は、前立腺および尿路上皮癌患者、さらには糸球体腎炎においても上昇する(Lein, M. et al., Urologe A 37:377-381, 1998; Gohji, K. et al., Cancer 78:2379-2387, 1996; Akiyama, K. et al., Res. Commun. Mol. Pathol. Pharmacol. 95:115-128, 1997)。MMP-3の血清濃度は、その他の種類の癌の患者においても上昇し得る。血清MMP-3は、ヘモクロマトーシス患者において減少した(George, D.K. et al., Gut 42:715-720, 1998)。
ゼラチナーゼBとも称されるマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)は、非活性の92 kDaの前駆体として合成される、84 kDaの亜鉛およびカルシウム結合タンパク分解酵素である。成熟MMP-9は、タイプ1およびVゼラチン、タイプ1VおよびVコラーゲンを切断する。MMP-9は、モノマー、ホモダイマーおよび25 kDa α2-ミクログロブリン関連タンパクとのヘテロダイマーとして存在する(Triebel, S. et al., FEBS Lett. 314:386-388, 1992)。MMP-9は、種々の細胞種、最も顕著には好中球により合成される。MMP-9の正常な血漿濃度は、< 35 ng/ml(400 pM)である。MMP-9発現は、アテローム硬化性病巣中の血管平滑筋細胞において上昇し、斑不安定の場合に血流に放出され得る(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。さらにMMP-9は、ACSの進行において病原的役割を有し得る(Brown, D.L. et al., Circulation 91:2125-2131, 1995)。血漿MMP-9濃度は、不安定狭心症およびAMI患者において有意に上昇するが、安定狭心症では上昇しない(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。AMI患者における上昇は、それらの個体は不安定狭心症に罹患することも示し得る。MMP-9の血漿濃度の上昇はまた、不安定狭心症においてAMIよりも高いが、これらの相違は統計学的には有意でない。安定狭心症患者におけるトレッドミル運動負荷試験の後では、血漿MMP-9レベルに有意な変化はなかった(Kai, H. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。血漿MMP-9は、リウマチ様関節炎、敗血症性ショック、巨細胞性動脈炎および種々の癌腫を有する個体において上昇する(Graber, B.L. et al., Clin. Immunol. Immunopathol. 78:161-171, 1996; Nakamura, T. et al., Am. J. Med. Sci. 316:355-360, 1998; Blankaert, D. et al., J. Acquir. Immune Defic. Syndr. Hum. Retrovirol. 18:203-209, 1998; Endo, K. et al., Anticancer Res. 17:2253-2258, 1997; Hayasaka, A. et al., Hepatology 24:1058-1062, 1996; Moore, D.H. et al., Gynecol. Oncol. 65:78-82, 1997; Sorbi, D. et al., Arthritis Rheum. 39:1747-1753, 1996; Iizasa, T. et al., Clin., Cancer Res., 5:149-153, 1999)。さらに、血漿MMP-9濃度は、卒中および脳溢血において上昇し得る(Mun-Bryce, S. and Rosenberg, G.A., J. Cereb. Blood Flow Metab, 18:1163-1172, 1998; Romanic, A.M. et al., Stroke 29:1020-1030, 1998; Rosenberg, G.A., J. Neurotrauma 12:833-842, 1995)。MMP-9は、不安定狭心症およびAMIを有する個体の血清中、入院時に上昇し、最高レベルは150 ng/ml(1.7 nM)に接近した(Kai, H. et al, J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。血清MMP-9濃度は患者不安定狭心症において入院時に最も高く、濃度は治療後徐々に減少し、発症後1週以上でベースラインに接近した(Kai, H., et al., J. Am. Coll. Cardiol. 32:368-372, 1998)。
さらに、本発明によりグループ(ii)のマーカー、すなわち凝固に関連した心筋傷害についての非特異的マーカーを使用することが好ましい。そのようなマーカーの例としては、プラスミン、β-トロンボグロブリン(β-TG)、PF4、FPA、PDGF、プロトロンビン断片1+2、P-セレクチン、トロンビン、D-ダイマー、フォン−ウィルブランド因子、TFおよび凝固カスケードが挙げられる。
血管傷害後の血液喪失を停止または予防するために用いられる基本的に2つのメカニズムがある。第1のメカニズムは血小板の活性化を使用し、血管傷害部位への粘着を容易にする。活性化血小板は、その後凝集して血液喪失を減らすかまたは一時的に止める血小板プラークを形成する。血小板凝集の過程、プラーク形成および組織修復はいずれも活性化血小板により分泌される多数の因子により加速され、増強される。血小板凝集およびプラーク形成は、活性化血小板間でのフィブリノーゲン架橋の形成により媒介される。第2のメカニズムが新たに活性化されると、凝固カスケードはフィブリノーゲンからのフィブリンの生成および血小板プラークを強化する不溶性のフィブリンクロットの形成を生じる。グループ(ii)のマーカーは、特に血小板活性化に伴う症状、例えばアテローム性動脈硬化症および不安定狭心症を指示する凝固因子である。
プラスミンは、タンパク質加水分解により架橋フィブリンを消化し、血餅融解を生じさせる78 kDaのセリンタンパク分解酵素である。70 kDaのセリンタンパク分解酵素阻害剤α2-アンチプラスミン(α2AP)は、プラスミンと共有結合1:1化学量論的複合体を形成することによってプラスミン活性を制御する。結果として得られる〜150 kDaプラスミン-α2AP複合体(PAP)はプラスミン阻害複合体(PIC)とも称され、線維素溶解の間に活性化されるプラスミンにα2APが接触した直後に形成される。PAPの正常血清濃度は、<1 μg/ml(6.9 nM)である。PAPの血清濃度の上昇は、線維素溶解の活性化に帰することができる。PAPの血清濃度の上昇は、血餅の存在、あるいは線維素溶解活性化を起こすあるいはその結果となるいずれの症状とも関連し得る。これらの症状としては、アテローム性動脈硬化症、汎発性血管内凝固、AMI、外科手術、外傷、不安定狭心症、卒中および血栓性血小板減少性紫斑病が挙げられる。PAPはプラスミンのタンパク分解性活性化に続いて直ちに形成される。PAPは、線維素溶解活性化および新鮮あるいは継続的過凝固状態の存在についての特異的なマーカーである。これはACSについて特異的ではなく、多くのその他の疾患状態において上昇し得る。
β-トロンボグロブリン(βTG)は、血小板活性化に際して放出される36 kDaの血小板α顆粒成分である。βTGの正常な血漿濃度は、<40 ng/ml(1.1 nM)である。β-TGの血漿レベルは、不安定狭心症およびAMI患者において上昇するようであるが、安定狭心症では上昇しない(De Caterina, R. et al., Eur. Heart J. 9:913-922, 1988; Bazzan, M. et al., Cardiologia 34, 217-220, 1989)。血漿β-TG上昇も、不安定狭心症患者の虚血エピソードと相関しているようである(Sobel, M. et al., Circulation 63:300-306, 1981)。βTGの血漿濃度の上昇は、血餅の存在、あるいは血小板活性化を起こすいずれの症状とも関連し得る。これらの症状としては、アテローム性動脈硬化症、汎発性血管内凝固、外科手術、外傷、血栓性血小板減少性紫斑病および卒中が挙げられる(Landi, G. et al., Neurology 37:1667-1671, 1987)。βTGは、血小板活性化および凝集の直後に循環に放出される。これは血漿中で、10分およびその後のより長い1時間の二相の半減期を有する(Switalska, H.I. et al., J. Lab. Clin. Med. 106: 690-700, 1985)。血漿βTG濃度は伝えられるところでは不安定狭心症およびAMIにおいて上昇するが、この研究は完全に信頼できるものではないかもしれない。採血過程の間、血小板活性化を避けるために特別な注意を払わなくてはならない。血小板活性化は、通常の採血において一般的であり、血漿βTG濃度の人為的上昇を招き得る。さらに、血流に放出されたβTG量は個体の血小板数に依存し、これはかなり変化し得る。ACSと関連するβTGの血漿濃度は70 ng/ml(2 nM)に接近し得るが、この値はサンプリング操作の間の血小板活性化により影響され得る。
血小板第4因子(PF4)は、血小板活性化に際して放出される40 kDaの血小板α顆粒成分である。PF4は、血小板活性化のマーカーであって、ヘパリンに結合し中和する能力を有する。PF4の正常な血漿濃度は、< 7 ng/ml(175 pM)である。PF4の血漿濃度は、AM1および不安定狭心症患者において上昇するが、安定狭心症では上昇しないようである(Gallino, A. et al., Am. Heart J. 112:285-290, 1986; Sakata, K. et al., Jpn. Circ. J. 60:277-284, 1996; Bazzan, M. et al., Cardiologia 34:217-220, 1989)。血漿PF4の上昇も、不安定狭心症患者の虚血エピソードと相関しているようである(Sobel, M. et al., Circulation 63:300-306, 1981)。PF4の血漿濃度の上昇は、血餅の存在、あるいは血小板活性化を生じる症状のいずれとも関連し得る。これらの症状としては、アテローム性動脈硬化症、汎発性血管内凝固、外科手術、外傷、血栓性血小板減少性紫斑病および急性卒中が挙げられる(Carter, AM et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18: 1124-1131, 1998)。PF4は、血小板活性化および凝集の直後に循環に放出される。これは血漿中で、1分およびその後のより長い20分の二相の半減期を有する。血漿中のPF4の半減期は、ヘパリンの存在により20〜40分まで延長され得る(Rucinski, B. et al., Am. J. Physiol. 251: H800-H807, 1986)。血漿PF4濃度は、伝えられるところでは不安定狭心症およびAMIの間上昇するが、これらの研究は完全に信頼できるものではないかもしれない。採血過程の間、血小板活性化を避けるために特別な注意を払わなくてはならない。血小板活性化は、通常の採血において一般的であり、血漿βTG濃度の人為的上昇を招き得る。さらに、血流に放出されたPF4量は個体の血小板数に依存し、これはかなり変化し得る。疾患と関連するPF4の血漿濃度は100 ng/ml(2.5 nM)を上回り得るが、この値はサンプリング操作の間の血小板活性化により影響され得る可能性が高い。
フィブリノペプチドA(FPA)は、トロンビンの作用によってフィブリノーゲンのアミノ末端から遊離される16アミノ酸の1.5 kDaのペプチドである。フィブリノーゲンは肝臓により合成され、分泌される。FPAの正常な血漿濃度は、< 5 ng/ml(3.3 nM)である。血漿FPA濃度は、AMI、不安定狭心症および異型狭心症患者において上昇するが、安定狭心症では上昇しない(Gensini, G.F. et al., Thromb.Res. 50:517-525, 1988; Gallino, A. et al., Am. Heart J. 112:285-290, 1986; Sakata, K. et al., Jpn. Circ. J. 60:277-284, 1996; Theroux, P. et al., Circulation 75:156-162, 1987; Merlini, P.A. et al., Circulation 90:61-68, 1994; Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40: 389-395, 1998)。さらに、血漿FPAはアンギナの重篤度を示し得る(Gensini, G.F. et al., Thromb. Res. 50: 517-525, 1988)。FPAの血漿濃度の上昇は、卒中、外科手術、癌、汎発性血管内凝固、ネフローゼおよび血栓性血小板減少性紫斑病を含む、凝固経路の活性化を含む状態のいずれとも関連する。FPAは、トロンビン活性化後およびフィブリノーゲン切断後に循環に放出される。FPAは小さいポリペプチドであるので、急速に血流からクリアされやすい。FPAは血餅形成後1ヵ月以上上昇することが示されており、活性なアンギナにおいて最大血漿FPA濃度は40 ng/mlを上回り得る(Gensini, G.F. et al., Thromb. Res. 50: 517-525, 1988; Tohgi, H. et al., Stroke 21:1663-1667, 1990)。
血小板由来成長因子(PDGF)は、相同なサブユニットAおよび/またはBからなる28 kDaのホモまたはヘテロダイマー分泌タンパク質である(Mahadevan, D. et al., J. Biol. Chem. 270:27595-27600, 1995)。PDGFは、間葉細胞の強力なマイトジェンであって、アテローム性動脈硬化症の病因に関係している。PDGFは、血管傷害の近くの部位で血小板および単球が凝集することにより放出される。PDGFの正常な血漿濃度は、< 0.4 ng/ml(15 pM)である。血漿PDGF濃度は、AMIおよび不安定狭心症を有する個体において、健常対照者または安定狭心症を有する個体よりも高い(Ogawa, H. et al., Am. J. Cardiol. 69:453-456, 1992; Wallace, J.M, et al., Ann. Clin. Biochem. 35:236-241, 1998; Ogawa, H. et al., Coron. Artery Dis. 4: 437-442, 1993)。これらの個体における血漿PDGF濃度の変化は、増加した血小板および単球活性化によるものである可能性が最も高い。血漿PDGFは、脳腫瘍、乳癌および高血圧症を有する個体において上昇する(Kurimoto, M. et al., Acta Neurochir. (Wien) 137:182-187, 1995; Seymour, L. et al., Breast Cancer Res. Treat. 26:247-252, 1993; Rossi, E. et al., Am. J. Hypertens. 11: 1239-1243, 1998)。血漿PDGFは、炎症誘発性状態または外科手術、外傷、汎発性血管内凝固および血栓性血小板減少性紫斑病を含む血小板活性化が生じる状態のいずれにおいても上昇し得る。PDGFは、活性化に際して血小板および単球の分泌顆粒から放出される。PDGFは、動物において約5分および1時間の二相の半減期を有する(Cohen, A.M et al., J. Surg. Res. 49: 447-452, 1990; Bowen-Pope, D.F. et al., Blood 64:458-469, 1984)。ACSにおける血漿PDGF濃度は、0.6 ng/mlを(22 pM)を上回り得る(Ogawa, H. et al., Am. J. Cardiol. 69:453-456, 1992)。PDGFは、血小板活性化の感度の高い特異的なマーカーであり得る。さらに、それは血管損傷およびそれにともなう単球および血小板活性化の感度の高いマーカーであり得る。
プロトロンビン断片1+2は、トロンビン活性化の間、トロンビンのアミノ末端から遊離される32 kDaのポリペプチドである。F1+2の正常な血漿濃度は、< 32 ng/ml(1 nM)である。ACSと関連する血漿F1+2濃度の上昇の研究からの報告は矛盾したものとなっている。F1+2の血漿濃度は、伝えられるところではAMIおよび不安定狭心症患者において上昇し、安定狭心症変化では上昇しないが、変化は大きいものではなかった(Merlini, P.A. et al., Circulation 90:61-68, 1994)。別の報告は、心臓血管疾患において血漿F1+2濃度に有意な変化がないことを示している(Biasucci, L.M. et al., Circulation 93:2121-2127, 1996; Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40: 389-395, 1998)。血漿のF1+2の濃度は、卒中、外科手術、外傷、血栓性血小板減少性紫斑病および汎発性血管内凝固を含む凝固活性化に関連する症状のいずれもの間上昇し得る。F1+2は、トロンビン活性化直後に血流に放出される。F1+2は血漿中約90分の半減期を有し、この長い半減期がトロンビン形成のバーストをマスキングし得ることが示唆されている(Biasucci, LM. et al., Circulation 93:2121-2127, 1996)。
顆粒膜タンパク質-140、GMP-140、PADGEM、CD-62Pとも称されるP-セレクチンは、血小板および内皮細胞において発現される〜140 kDaの接着分子である。P-セレクチンは、血小板のα顆粒および内皮細胞のウェイベル-パラディ体に貯蔵される。活性化に際して、P-セレクチンは内皮細胞および血小板の表面に急速に転位され、好中球および単球との「ローリング」細胞表面相互作用を容易にする。P-セレクチンの膜結合および可溶性形態が同定されている。可溶性P-セレクチンは、細胞外P-セレクチン分子のタンパク質分解または表面結合P-セレクチン分子の直近における細胞内細胞骨格成分のタンパク質分解のいずれかによる膜結合P-セレクチンの脱粒によって生成し得る(Fox, J.E., Blood Coagul. Fibrinolysis 5:291-304, 1994)。さらに、可溶性P-セレクチンは、N末端膜貫通領域をコードしないmRNAから翻訳され得る(Dunlop, L.C. et. al., J. Exp. Med. 175: 1147-1150, 1992; Johnston, G.I. et al., J. Biol. Chem. 265:21381-21385, 1990)。活性化血小板は膜結合P-セレクチンを脱粒させることができ、循環中に残り、P-セレクチンの脱粒は約70 ng/ml血漿P-セレクチン濃度を上昇させ得る(Michelson, A.D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:11877-11882, 1996)。可溶性P-セレクチンは、膜結合P-セレクチンとは異なるコンフォメーションも取り得る。可溶性P-セレクチンは、一端に球形のドメインを有するモノマーの棒状構造を有し、膜結合分子は球形ドメインが外側を向いたロゼット構造を形成する(Ushiyama, S. et al., J. Biol. Chem. 268:15229-15237, 1993)。可溶性P-セレクチンは、白血球および活性化血小板および内皮細胞間の遮断相互作用により炎症および血栓を制御することにおいて重要な役割を果たし得る(Gamble, J.R. et al., Science 249:414-417, 1990)。可溶性P-セレクチンの正常な血漿濃度は、< 200 ng/mlである。血液は通常、血液凝固阻止剤としてクエン酸塩を使用して集められるが、いくつかの研究では例えばプロスタグランジンEのような添加物とともにEDTA血漿を使用して血小板活性化を防止している。EDTAは、クエン酸塩を使用して得られる結果に匹敵する結果を与える適当な血液凝固阻止剤であり得る。さらに、可溶性P-セレクチンの血漿濃度は、サンプリング操作の間の潜在的な血小板活性化に影響を受けることがない。血漿可溶性P-セレクチン濃度は、AMIおよび不安定狭心症患者において有意に上昇するが、安定狭心症では運動ストレス試験後も上昇しなかった(Ikeda, H. et al., Circulation 92:1693-1696, 1995; Tomoda, H. and Aoki, N., Angiology 49:807-813, 1998; Hollander, J.E. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 34:95-105, 1999; Kaikita, K. et al., Circulation 92:1726-1730, 1995; Ikeda, H. et al., Coron. Artery Dis. 5: 515-518, 1994)。AMIについての膜結合P-セレクチンと可溶性P-セレクチンとの感度および特異性は71%:76%および32%:45%である(Hollander, J.E. et al., J. Am. Coll. Cardiol., 34:95-105,1999)。不安定狭心症+AMIについての膜結合P-セレクチンと可溶性P-セレクチンとの感度および特異性は71%:79%および30%:35%である(Hollander, J.E. et al., J. Am. Coll. Cardiol. 34:95-105, 1999)。P-セレクチン発現は、安定狭心症と比較して、不安定狭心症を有する個体からの冠状血管アテローム切除術標本においてより大きい(Tenaglia, A.N. et al., Am. J. Cardiol. 79:742-747, 1997)。さらに、血漿可溶性P-セレクチンは、不安定狭心症患者に比べてAMI患者によいてより大きく上昇し得る。血漿可溶性および膜結合P-セレクチンはインスリン非依存型糖尿病および鬱血性心不全を有する個体においても上昇する(Nomura, S. et al., Thromb. Haemost. 80:388-392, 1998; O'Connor, C.M. et al., Am. J. Cardiol. 83:1345-1349, 1999)。可溶性P-セレクチン濃度は、特発性血小板減少性紫斑病、リウマチ様関節炎、高コレステロール血症、急性卒中、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、急性肺傷害、結合組織病、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血***症候群、汎発性血管内凝固および慢性腎不全を有する個体の血漿において上昇する(Katayama, M. et al., Br. J. Haematol. 84:702-710, 1993; Haznedaroglu, I.C. et al., Acta Haematol. 101:16-20, 1999; Ertenli, I. et al., J. Rheumatol. 25:1054-1058, 1998; Davi, G. et al., Circulation 97:953-957, 1998; Frijns, C.J. et al., Stroke 28:2214-2218, 1997; Blann, A.D. et al., Thromb. Haemost. 77:1077-1080, 1997; Blann, A.D. et al., J. Hum. Hypertens.11: 607-609, 1997; Sakamaki, F. et al., A. J. Respir. Crit. Care Med. 151: 1821-1826, 1995; Takeda, I. et al., Int. Arch. Allergy Immunol. 105:128-134, 1994; Chong, B.H. et al., Blood 83:1535-1541, 1994; Bonomini, M. et al., Nephron 79:399-407, 1998)。さらに、血小板活性化を含むいかなる症状も、潜在的にP-セレクチンの血漿上昇のソースであり得る。P-セレクチンは、血小板あるいは内皮細胞活性化の後、細胞表面に迅速に呈示される。膜貫通領域を欠いている別のmRNAから翻訳された可溶性P-セレクチンも、この活性化の後、細胞外空間に放出される。可溶性P-セレクチンは、直接または間接的に、膜結合P-セレクチンが関与するタンパク質分解により形成され得る。血漿可溶性P-セレクチンは、tPAまたは冠状血管形成術により治療されたAMI患者において入院時に上昇し、発症の4時間後に上昇のピークを示した(Shimomura, H. et al., Am. J. Cardiol. 81:3197-400,1998)。血漿可溶性P-セレクチンは不安定狭心症患者の狭心症発作の後1時間未満で上昇し、濃度は時間とともに減少し、発作発症の後5時間を超えてベースラインに接近した(Ikeda, H. et al., Circulation 92:1693-1696Y 1995)。可溶性P-セレクチンの血漿濃度は、ACSにおいて1 μg/mlに接近し得る(Ikeda, H. et al., Coron. Artery Dis. 5: 515-518, 1994)。可溶性P-セレクチンの血流中への放出および血流からの除去についてさらに研究する必要がある。P-セレクチンは、血小板および内皮細胞活性化、血栓形成を支持する症状および炎症の感度が高い特異的なマーカーであり得る。しかしながら、それはACSの特異的なマーカーではない。心臓組織傷害について特異的な他のマーカーとともに使用すれば、P-セレクチンは安定狭心症から不安定狭心症およびAMIを区別するのに有用であり得る。さらに、可溶性P-セレクチンは、AMIにおいて不安定狭心症におけるよりも大きな程度上昇し得る。P-セレクチンは通常、膜結合および可溶性の2つの形態で存在する。公表された研究によれば、P-セレクチンの可溶性形態は血小板および内皮細胞により産生され、またおそらくはタンパク分解性メカニズムを介する膜結合P-セレクチンの脱粒によって産生されることが指摘されている。可溶性P-セレクチンの血漿濃度は、PF4およびβ-TGのような血小板活性化の他のマーカーほど採血操作により影響されないので、可溶性P-セレクチンが現在同定されている血小板活性化の最も有用なマーカーであることを示し得る。
トロンビンはタンパク質加水分解によりフィブリノーゲンを切断してフィブリンを形成する37 kDaのセリンタンパク分解酵素であり、フィブリンは血餅形成の間に最終的に架橋物中に組み込まれる。抗トロンビンIII(ATIII)は、トロンビン、第XIa因子、第XIIa因子および第IXa因子のタンパク分解活性の生理学的なレギュレーターである65 kDaのセリンタンパク分解酵素阻害剤である。ATIIIの阻害活性は、ヘパリンの結合に依存するものである。ヘパリンはATIIIの阻害活性を2〜3桁のオーダーで強化し、ATIIIにより阻害されるタンパク分解酵素のほぼ瞬間的な不活性化を生じる。ATIIIは、共有結合による1:1化学量論的複合体の形成を介して標的タンパク分解酵素を阻害する。約100 kDaのトロンビンATIII複合体(TAT)の正常な血漿濃度は、< 5 ng/ml(50 pM)である。TAT濃度は、AMIおよび不安定狭心症患者において、特に自発的虚血性エピソードの間に上昇する(Biasucci, L.M. et al., Am. J. Cardiol. 77:85-87, 1996; Kienast, S. et al., Thromb. Haemost. 70:550-553, 1993)。さらに、TATは安定狭心症を有する個体の血漿において上昇し得る(Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40:389-395, 1998)。他の公表された報告によれば、ACS患者の血漿中のTATの濃度において有意な差は見出されていない(Manten, A. et al., Cardiovasc. Res. 40:389-395, 1998; Hoffmeister, H.M. et al., Atheroselerosis 144:151-157, 1999)。ACSと関連する血漿TAT濃度の変化を決定するためにさらに研究する必要がある。血漿TAT濃度の上昇は、卒中、外科手術、外傷、汎発性血管内凝固および血栓性血小板減少性紫斑病を含む、凝固活性化に伴う症状のいずれとも関連する。TATはヘパリンの存在下において、トロンビン活性化後直ちに形成され、ヘパリンはこの相互作用の制限因子である。TATは、血流中約5分の半減期を有する(Biasucci, L.M. et al., Am. J. Cardiol. 77:85-87, 1996)。TAT濃度は、凝固活性化中に上昇し、15分後に急速に下降し、凝固活性化後1時間未満でベースラインに戻る。TATの血漿濃度は、ACSにおいて50 ng/mlに接近し得る(Biasucci, L.M. et al., Circulation 93:2121-2127, 1996)。TATは、凝固活性化、具体的には、トロンビン活性化の特異的なマーカーである。TATは、斑破裂および/または心臓組織傷害について特異的である他のマーカーとともに使用すれば診断パネルにおける凝固活性化のマーカーとして有効であり得る。
D-ダイマーは、概算分子量200 kDaの架橋フィブリン分解産物である。D-ダイマーの正常な血漿濃度は、< 150 ng/ml(750 pM)である。D-ダイマーの血漿濃度は、AMIおよび不安定狭心症患者において上昇するが、安定狭心症では上昇しない(Hofmneister, H.M. et al., Circulation 91:2520-2527, 1995; Bayes-Genis, A. et al., Thromb. Haemost. 81:865-868, 1999; Gurfinkel, E. et al., Br. Heart J. 71:151-155, 1994; Kruskal, J.B. et al., N. Engl. J. Med. 317:1361-1365, 1987; Tanaka, M. and Suzuki, A., Thromb. Res. 76:289-298, 1994)。D-ダイマーの血漿濃度は、卒中、外科手術、アテローム性動脈硬化症、外傷および血栓性血小板減少性紫斑病を含む、凝固および線維素溶解活性化に関連する症状のいずれの間においても上昇する。D-ダイマーは、プラスミンによるタンパク分解性血餅融解直後に血流に放出される。血漿D-ダイマー濃度は、ACS発症後すぐに(6時間以内)上昇し、個体の高凝固性の程度に比例して上昇したままとなる。この点に関しては、ACSの後の血流からのD-ダイマー除去の動力学を特定するためにさらに研究する必要がある。D-ダイマーの血漿濃度は、不安定狭心症患者で2 μg/mlを上回り得る(Gurfinkel, E. et al., Br. Heart J 71:151-155, 1994)。血漿D-ダイマーは、線維素溶解の特異的なマーカーであって、AMIおよび不安定狭心症に伴う血栓形成前期状態(prothrombotic state)の存在を示す。D-ダイマーはACSについて特異的ではなく、D-ダイマーの血漿上昇はACSについての種々のリスクファクターと関連し得る。しかしながら、心臓傷害について特異的なマーカーを含むパネルのメンバーとして使用すれば、D-ダイマーは安定狭心症から不安定狭心症およびAMIを区別することを可能し得る。この区別により、医師が急性胸部痛を示す患者をより効果的に治療することを可能とし得る。
フォン−ウィルブランド因子(vWF)は、血小板、骨髄巨核球および内皮細胞によって生成される、結合して一連の高分子量マルチマーを形成する220 kDaのモノマーからなる血漿タンパク質である。これらのマルチマーの分子量は、通常600〜20,000 kDaの範囲で変動する。vWFは、循環している凝固第VIII因子を安定化させ、露出した内皮下層ならびに他の血小板に対する血小板粘着を媒介することによって凝集過程に参加する。vWFのA1ドメインは血小板糖タンパク質Ib-IX-V複合体および非フィブリルタイプVIコラーゲンに結合し、A3ドメインはフィブリルタイプIおよびIIIコラーゲンに結合する(Emsley, J. et al., J. Biol. Chem. 273:10396-10401, 1998)。vWF分子に存在する他のドメインとしては、血小板-血小板相互作用を媒介するインテグリン結合ドメイン、11A型フォン−ウィルブランド病の病因に関連すると思われるプロテアーゼ切断ドメインが挙げられる。vWFの血小板との相互作用は厳密に制御され、通常の生理学的状態におけるvWFおよび血小板間での相互作用を回避している。vWFは通常球形の状態で存在し、血管損傷の部位で共通して見られる高い剪断応力条件下で、伸展鎖状構造へのコンフォメーション変化を起す。このコンフォメーション変化により分子の分子内ドメインが露出され、vWFが血小板と相互作用することを可能となる。さらに、剪断応力によって、内皮細胞からのvWFの放出が生じ得、より多数のvWF分子が血小板との相互作用に利用可能となる。vWFのコンフォメーション変化は、リストセチンおよびボトロセチンのような非生理学的モジュレーターを添加することによりインビトロで誘導され得る(Miyata, S. et al., J. Biol. Chem. 271:9046-9053, 1996)。血管損傷の部位において、vWFは急速に内皮下マトリックスのコラーゲンと結合し、実質的に不可逆的に血小板を結合して傷害の部位で血小板と血管内皮下層との間の連結を効果的に形成する。vWFのコンフォメーション変化が内皮下マトリックスとの相互作用について必要とされない可能性を示唆する証拠もある(Sixma, J.J. and de Groot, P.G., Mayo Cl
in. Proc. 66:628-633, 1991)。これは、vWFが血管損傷の部位の露出した内皮下のマトリックスに結合し得、局所的な高い剪断応力のためにコンフォメーション変化を起し、循環している血小板を急速に結合し、それらは新たに形成された血栓に組み込まれることを示唆している。YWF総量を測定することにより、当業者は卒中または心臓血管疾患に伴う総vWF濃度の変化を同定し得る。この測定は、種々の形態のvWF分子の測定により行うことができた。A1ドメインの測定により循環中の活性なvWFの測定が可能であり、A1ドメインが血小板結合に関してアクセス可能であることから、プロコアギュラント状態が存在することを示している。この点に関して、露出したA1ドメインおよびインテグリン結合ドメインまたはA3ドメインの両者を有するvWF分子を特異的に測定するアッセイにより、血小板-血小板相互作用の媒介に利用可能な、あるいは血管内皮下層への血小板の架橋を媒介するそれぞれの活性vWFの同定が可能となる。これらのvWFの形態のいずれかの測定を、プロテアーゼ切断ドメインに特異的な抗体を使用するアッセイにおいて使用すると、フォン−ウィルブランド病の存在に関係なく、任意の個体における種々のvWF形態の循環濃度を決定するために用いられるアッセイが可能となる。vWFの正常な血漿濃度は、血小板凝集により測定して、5〜10μg/mlあるいは60〜110%活性である。vWFの特定の形態の測定は、卒中および心臓血管疾患を含む任意の血管疾患において重要性を有し得る。血漿vWF濃度は、伝えられるところではAMIおよび不安定狭心症を有する個体において上昇するが、安定狭心症では上昇しない(Goto, S. et al., Circulation 99:608-613, 1999; Tousoulis, D. et al., Int. J. Cardiol, 56:259-262, 1996; Yazdani, S. et al., J Am Coll Cardiol 30:1284-1287, 1997; Montalescot, G. et al., Circulation 98:294-299)。さらに、血漿vWF濃度の上昇は、不安定狭心症患者の有害な臨床的結果を予測するものとなり得る(Montalescot, G. et al., Circulation 98:294-299)。vWF濃度が、卒中およびクモ膜下出血患者において上昇することも示されており、卒中後の死亡のリスクを評価することにおいても有用であると思われる(Blann, A. et al., Blood Coagul. Fibrinolysis 10:277-284,1999; Hirashima, Y. et al., Neurochem Res. 22: 1249-1255, 1997; Catto, A.J. et al., Thromb. Hemost. 77:1104-1108, 1997)。vWFの血漿濃度は内皮細胞損傷または血小板活性化を伴う事象のいずれとも連動して上昇し得る。vWFは血流中に高濃度で存在し、活性化に際して血小板および内皮細胞から放出される。vWFは、血小板活性化のマーカーまたは、具体的には、血小板活性化および血管損傷の部位への接着に好ましい状態のマーカーとして最大の有用性を有すると考えられる。vWFのコンフォメーションは、部分的に狭窄された血管に関連して、高い剪断応力によって変化させられることも知られている。狭窄された血管を血液が流れる際、疾患を有していない個体の循環において遭遇するものよりもかなり高い剪断応力にさらされる。本発明の別の形態は、剪断応力に起因するvWFの形態、およびそれらの形態のACSの存在との相関を測定するものである。
組織因子(TF)は、脳、腎臓および心臓において、また血管周囲細胞および単球上で転写的に制御された形で発現される45 kDaの細胞表面タンパク質である。TFはCa2+イオンの存在下に第VIIa因子と複合体を形成し、膜に結合すると生理的に活性となる。この複合体はタンパク質加水分解により第X因子を切断し第Xa因子を形成する。これは通常、血流から隔離されている。組織因子は、血流中、第VIIa因子に結合した可溶性形態、または第VIIa因子および第Xa因子を含み得る組織因子経路阻害剤との複合体の形態で検出され得る。TFはマクロファージの表面にも発現され、アテローム斑において共通して見られる。TFの正常血清濃度は、< 0.2 ng/ml(4.5 pM)である。血漿TF濃度は、虚血性心疾患患者において上昇する(Falciani, M. et al., Thromb. Haemost. 79:495-499, 1998)。TFは不安定狭心症およびAMI患者において上昇するが、安定狭心症患者では上昇しない(Falciani, M. et al., Thromb. Haemost. 79:495-499, 1998; Suefuji, H. et al., Am. Heart J. 134:253-259, 1997; Misumi, K. et al., Am. J. Cardiol. 81:22-26,1998)。さらに、マクロファージ上のTF発現およびアテローム斑におけるTF活性は、安定狭心症よりも不安定狭心症においてより一般的である(Soejima, H. et al., Circulation 99:2908-2913, 1999; Kaikita, K. et al., Arterioscler. Thromb. Vasc, Biol. 17:2232-2237, 1997; Ardissino, D. et al., Lancet 349:769-771, 1997)。安定および不安定狭心症における血漿TF濃度の相違は、統計的有意差を有していない。TFの血清濃度の上昇は、外因性の経路による凝固の活性化を生じる、あるいはその結果として生じる症状のいずれとも関連する。そのような症状としては、クモ膜下出血、汎発性血管内凝固、腎機能不全、脈管炎および鎌状赤血球症が挙げられる(Hirashima, Y. et al., Stroke 28:1666-1670, 1997; Takahashi, H. et al., Am. J. Hematol, 46:333-337, 1994; Koyama, T. et al., Br. J. Haematol. 87:343-347, 1994)。血管損傷が脈管外細胞傷害と組み合わさると、TFは直ちに放出される。虚血性心疾患患者のTFレベルは、発症期2日の範囲で800 pg/mlを上回り得る(Falciani, M. et al., Thromb. Haemost. 79:495-499, 1998)。TFレベルは、AMIの慢性相において、その慢性相と比較して減少した(Suefuji, H. et al., Am. Heart J. 134:253-259, 1997)。TFは、外因性の凝固経路の活性化および一般的な過凝固可能状態の存在の特異的なマーカーである。斑破裂から生じた血管損傷の感度の高いマーカーであり得、パネルのメンバーとしてある程度の利点を有し得た。これはACSについては特異的ではなく、多くの疾病状態において上昇し得、採血操作によっても人工的に上昇し得る。しかしながら、血栓溶解療法について患者を除外するためのマーカーとしてTFを使用することは可能であり得る。血栓溶解療法の間に組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)を点滴することにより、線維素溶解の活性化が生じ、患者は血餅を維持することができない。血管損傷を有する個体にtPAを投与すると、最終的に出血を生じる場合があった。
凝固カスケードは、外因性または内因性の経路で活性化され得る。これらの酵素経路は、1つの最終的な共通の経路を有する。共通の経路の第一段階は、活性のトロンビンを与える、第Xa因子/第Va因子プロトロンビナーゼ複合体によるプロトロンビンのタンパク質分解的切断を含む。トロンビンは、タンパク質加水分解的にフィブリノーゲンを切断するセリンタンパク分解酵素である。トロンビンは最初にフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAを取り除いてdesAAフィブリンモノマーを生じ、これはフィブリン分解産物、フィブリノーゲン分解産物、desAAフィブリンおよびフィブリノーゲンを含むその他のフィブリノーゲン由来タンパク質のいずれとも複合体を形成し得る。desAAフィブリンモノマーは、フィブリノーゲン切断の第1の生成物であることから、一般的には可溶性フィブリンと包括的に称されるが、まだ第XIIIa因子により不溶解性のフィブリンクロットに架橋されてはいない。desAAフィブリンモノマーは、トロンビンによりさらにタンパク分解性切断を受けてフィブリノペプチドBが除去され、desAABBフィブリンモノマーを生じることもある。このモノマーは、他のdesAABBフィブリンモノマーと重合して、可溶性フィブリンまたは血栓前駆体タンパク質(TpPTM)とも称される可溶性desAABBフィブリンポリマーを形成し得る。TpPTMは、不溶性フィブリンの直前の前駆体であり、これは「メッシュ状」構造を形成して新たに形成された血栓に構造上の剛性を与える。この点に関して、血漿中のTpPTMの測定は活性な血餅形成の直接の測定である。TpPTMの正常な血漿濃度は、< 6 ng/mlである(Laurino, J.P. et al., Ann. Clin. Lab. Sci. 27:338-345, 1997)。American Biogenetic SciencesはTpPTMについてのアッセイを開発し(米国特許第5453359号および5843690号)、そのTpPTMアッセイはAMIの初期診断、胸部痛患者からのAMIの除外、AMIに進行する不安定狭心症患者の同定に役立つと述べている。他の研究はによれば、TpPTMは、最も多くの場合発症期6時間の範囲内で、AMI患者で上昇することが確認されている(Laurino, J.P. et al
., Ann. Clin. Lab. Sci. 27: 338-345, 1997; Carville, D.G. et al., Clin. Chem. 42:1537-1541, 1996)。TpPの血漿濃度は、不安定狭心症患者においても上昇するが、この上昇は狭心症の重篤度およびに最終的なAMIへの進行を示すものとなり得る(Laurino, J.P. et al., Ann. Clin. Lab. Sci. 27:338-345, 1997)。血漿中のTpPTMの濃度は、理論的には、汎発性血管内凝固、深部静脈血栓、鬱血性心不全、外科手術、癌、胃腸炎およびコカイン過量を含む凝固活性化を起すあるいはその結果として生じる症状のいずれの間にも上昇する(Laurino, J.P. et al., Ann. Clin. Lab. Sci. 27:338-345, 1997)。TpPTMは、トロンビン活性化直後に血流に放出される。TpPTMは血餅形成の部位で急速に不溶性フィブリンに変換されるので、その血流中の半減期はおそらく短いものである。血漿TpPTM濃度はAMI発症期の3時間の範囲内でピークに達し、発症から12時間後に正常に戻る。TpPTMの血漿濃度はCVDにおいて30 ng/mlを上回り得る(Laurino, J.P. et al., Ann. Clin. Lab. Sci. 27:338-345, 1997)。TpPTMは、凝固活性化の感度が高い特異的なマーカーである。TpPTMはAMIの診断に有用であるが、それは心臓組織傷害の特異的なマーカーとともに使用された場合のみであることが示されている。TpPTMは、ACSの特異的なマーカーではなく、その濃度は、ACSの進展のリスクファクターと考えられる症状を含む多くの凝固活性化を伴う疾患状態において上昇する。TpPTMは、不安定狭心症の重篤度を決定することにおいても有用であり得る。American Biogenetic Sciences社は、TpPTM ELISAアッセイキットのユーザーに、血液凝固阻止薬としてクエン酸塩を使用して採血するように指示しており、EDTAを使用しないことを推奨している。採血の間に血液凝固阻止薬を使用することの血漿TpPTMレベルに対する効果は現在のところ不明である。採血の操作を調節すれば、TpPTMは利用し得る最高の凝固活性化のマーカーであり得る。
さらに、グループ(i)のマーカーが本発明により好ましく使用され、これらは心筋傷害の急性マーカーでありまた特異的なマーカーである。この型のマーカーは、急性冠動脈疾患(ACS)に関連し、例えば、心筋の傷害および急性心筋梗塞症(AMI)を示す。前記マーカーの例は、リポコルチンV、エンドネキシン(endonexin)II、カルホビンディン(calphobindin)I、カルシウム結合タンパク質33、胎盤抗凝血性タンパク質I、トロンボプラスチン阻害剤、脈管血液凝固阻止薬α、アンコリン(anchorin)CIIとも称されるアネキシンV、脳型ナトリウム***増加性ペプチドとも称されるB-型ナトリウム***増加性ペプチド(BNP)、エノラーゼ、TnT、TnI、fTnT、CK、GP、H-FABP、PG AMならびにS-100である。
リポコルチンV、エンドネキシンII、カルホビンディンI、カルシウム結合タンパク質33、胎盤抗凝血性タンパクI、トロンボプラスチン阻害剤、脈管血液凝固阻止薬α、アンコリンCIIとも称されるアネキシンVは、33 kDaのカルシウム結合タンパクであり、組織因子の間接的な阻害剤およびレギュレーターである。アネキシンVは、全てのアネキシンファミリーのメンバーに共通なコンセンサス配列を有する4つの相同な反複からなり、カルシウムおよびホスファチジルセリンに結合し、心臓、骨格筋、肝臓および内皮細胞を含む多様な組織において発現される(Giambanco, I. et al., J. Histochem. Cytochem. 39:P1189-1198, 1991; Doubell, A.F. et al., Cardiovasc. Res. 27:1359-1367, 1993)。アネキシンVの正常な血漿濃度は、< 2 ng/mlである(Kaneko, N. et al., Clin. Chim. Acta 251:65-80, 1996)。アネキシンVの血漿濃度は、AMIを有する個体において上昇する(Kaneko, N. et al., Clin. Chim. Acta 1-51:65-80, 1996)。その広い組織分布のために、アネキシンVの血漿濃度の上昇は非心臓組織傷害を含む症状のいずれにも関連し得る。しかし、ある研究により、血漿アネキシンV濃度は陳旧性心筋梗塞、胸部痛症候群、弁膜性心疾患、肺疾患および腎臓病患者においては有意に上昇しなかったことが見出された(Kaneko, N. et al., Clin. Chim. Acta 251:65-80, 1996)。これらの以前の結果は、ACSマーカーとしてのアネキシンVの臨床的有用性を決定され得る前に、確認を必要とする。アネキシンVは、AMI発症直後に血流に放出される。AMI患者の血漿中のアネキシンV濃度は初期(入院時)の値から減少し、血流から急速にクリアされることが示唆された(Kaneko, N. et al., Clin. Chim. Acta 251:65-80, 1996)。
脳型ナトリウム***増加性ペプチドとも称されるB-型ナトリウム***増加性ペプチド(BNP)は、血圧調整および体液平衡のためのナトリウム***増加系に関与する32アミノ酸、4 kDaのペプチドである(Bonow, R.O., Circulation 93:1946-1950, 1996)。BNPの前駆体は、「プレプロBNP」と称される108アミノ酸の分子として合成され、これは「NTプロBNP」と称される76アミノ酸N末端ペプチド(アミノ酸1〜76)およびBNPまたはBNP 32と称される32アミノ酸の成熟ホルモン(アミノ酸77〜108)にタンパク質加水分解により分解される。これらの種、NTプロBNP、BNP-32およびプレプロBNPのそれぞれはヒト血漿中を循環し得ることが示唆されている(Tateyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 185:760-7 (1992); Hunt et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 214:1175-83 (1995))。2つの形態、プレプロBNPおよびNTプロBNP、およびBNP、プレプロBNP、NTプロBNPから誘導され、BNP、NTプロBNPおよびプレプロBNPのタンパク質分解の結果として血液に存在するペプチドは、BNPに関連するあるいは伴うマーカーとして集合的に記載されている。BNPおよびBNPに関連するペプチドのタンパク分解性分解も文献に記載されており、これらのタンパク分解断片も「BNP関連ペプチド」の用語に包含されるものである。BNPおよびBNP関連ペプチドは、主に心室の分泌顆粒に見られ、心室体積の膨張および圧負荷の両者に応答して心臓から放出される(Wilkins, M. et al., Lancet 349:1307-1310, 1997)。BNPの上昇は、上昇した心房および肺動脈楔入圧、低下した心室収縮および拡張期の機能、左心室肥大および心筋梗塞に関連する(Sagnella, G.A, Clinical Science 95:519-529, 1998)。さらに、鬱血性心不全および腎機能不全に関連する高いBNP濃度についての多数の報告がある。BNPおよびBNP関連ペプチドはおそらくACSに特異的ではないが、それらが虚血による細胞の損傷だけでなくACSと関連するナトリウム***増加系の摂動も示し得るので、それらはACSの感度の高いマーカーであり得る。本明細書において使用する用語「BNP」は成熟32アミノ酸BNP分子そのものをいう。しかし、当業者には理解されるように、BNPに関連するその他のマーカーもACS患者の診断または予測用の指標となり得る。例えば、BNPは108アミノ酸のプレプロBNP分子として合成され、タンパク質加水分解により76アミノ酸「NTプロBNP」および32アミノ酸のBNP分子に分解される。そのBNPとの関係により、NTプロBNP分子の濃度は患者の診断または予測情報も提供し得る。「BNPまたはBNP関連ペプチドに関連するマーカー」という用語は、32アミノ酸BNP分子そのもの以外の、プレプロBNP分子に由来する任意のポリペプチドを示す。したがって、BNPに関連するあるいはそれに伴うマーカーは、NTプロBNP分子、プロドメイン、32アミノ酸配列全体より小さいBNPの断片、BNP以外のプレプロBNP断片、およびプロドメインの断片を包含する。当業者はまた、BNPおよびBNP関連分子をタンパク質分解できるプロテアーゼが循環に含まれ、これらのタンパク分解された分子(ペプチド)が「BNP関連」であると考えられ、本発明の別の要旨であることを理解するであろう。
エノラーゼは、α、βおよびγサブユニットから生成される78 kDaのホモまたはヘテロダイマーの細胞質ゾルタンパク質である。エノラーゼは、解糖系の2-ホスホグリセレートおよびホスホエノールピルベートの相互変換を触媒する。エノラーゼは、αα、αβ、ββ、αγおよびγγアイソフォームとして存在する。αサブユニットは大部分の組織で見られ、βサブユニットは心臓および骨格筋で見られ、γサブユニットは主にニューロンおよび神経内分泌系組織で見られる。β-エノラーゼはαβおよびββエノラーゼからなり、筋に特異的である。β-エノラーゼの正常な血漿濃度は< 10 ng/ml(120 pM)である。β-エノラーゼはAMIを有する個体の血清において上昇するが、狭心症を有する個体では上昇しない(Nomura, M. et al., Br. Heart J. 58:29-33, 1987; Herraez-Dominguez, M.V. et al., Clin. Chim. Acta 64:307-315, 1975)。不安定および安定狭心症に関連する血漿β-エノラーゼ濃度の変化の可能性についてさらに研究することが必要である。β-エノラーゼの血漿濃度は、心臓手術、筋ジストロフィーおよび骨格筋傷害の間に上昇する(Usui, A. et aL, Cardiovasc. Res. 23:737-740, 1989; Kato, K. et al., Clin. Chim. Acta 131:75-85, 1983; Matsuda, H. et al., Forensic Sci. Int. 99:197-208, 1999)。β-エノラーゼは心または骨格筋傷害直後に血流に放出される。血漿β-エノラーゼ濃度は、心臓外科手術中に150 ng/mlを越えて上昇し、1週間上昇したままであった。血清β-エノラーゼ濃度は、胸部痛およびAMIの発症後約12〜14時間後にピークに達し、発症から1週経過後にベースラインに接近し、最高レベルは1 μg/mlに接近した(Kato, K. et al., Clin. Chim. Acia 131:75-85, 1983; Nomura, M. et al., Br. Heart J. 58:29-33, 1987)。
トロポニンI(TnI)はトロポニン複合体の25 kDaの阻害要素であり、全ての横紋筋組織で見られる。TnIはCa2+の非存在下でアクチンに結合し、アクトミオシンのATPアーゼ活性を阻害する。心組織に見られるTnIアイソフォーム(cTnI)は、骨格筋TnIから40%異なっていることから、両者は免疫学的に区別され得る。cTnIの正常な血漿濃度は、< 0.1 ng/ml(4 pM)である。血漿cTnI濃度は、AMI患者において上昇する。不安定狭心症患者における血漿cTnI濃度の変化の研究では雑多な結果が得られているが、cTnIは安定狭心症を有する個体の血漿において上昇しない(Benamer, H. et al., Am. J. Cardiol. 82:845-850, 1998; Bertinchant, J.P. et al., Clin. Biochem. 29:587-594, 1996; Tanasijevic, M.S. et al., Clin. Cardiol. 22:13-16, 1999; Musso, P. et al., J. Ital. Cardiol. 26:1013-1023, 1996; Holvoet, P. et al., JAMA 281:1718-1721, 1999; Holvoet, P. et al., Circulation 98:1487-1494, 1998)。不安定狭心症に関する雑多な結果は、心筋虚血症の程度が不安定狭心症の重篤度に正比例するので、cTnlが不安定狭心症の重篤度を決定するのに有用であり得ることを示唆している。血漿cTnI濃度は、心臓外傷、鬱血性心不全および心臓外科手術、非虚血性拡張型心筋症、筋疾患、中枢神経系疾患、HIV感染症、慢性腎不全、敗血症、肺疾患、および内分泌障害と連動して上昇し得る(Khan, I.A. et al., Am. J. Emerg. Med. 17:225-229, 1999)。この見かけ上の非特異性は、イムノアッセイにおいて使用される抗体の質および特異性に関連し得る。cTnIは心臓細胞死後血流に放出される。AMI患者におけるcTnIの血漿濃度は、発症4〜6時間後に有意に上昇し、12〜16時間の間にピークに達し、1週間上昇したままであり得る。不安定狭心症と関連するcTnIの放出動力学は同様なものであり得る。遊離トロポニンIおよび心臓トロポニンのトロポニンCおよび/またはTとの複合体を含む心臓トロポニンの特異的な形態の測定は、ユーザーにACSの種々の段階を識別する能力を提供し得る。遊離および複合型心臓トロポニンTは、心臓トロポニンIについて上記したものに類似した方法により使用し得る。心臓トロポニンT複合体はそれのみで、あるいは全心臓トロポニンIとの比として表現された場合、進行している心筋障害の存在に関する情報を提供し、有用であり得る。進行中の虚血は心臓トロポニンTIC複合体の放出を生じ得、心臓トロポニンTIC:全心臓トロポニンIのより高い比は非寛解虚血により生じる継続的傷害を示すものとなり得る。
クレアチンキナーゼ(CK)は、ATPおよびクレアチンからのADPおよびホスホクレアチンの可逆的な形成を触媒する85 kDaの細胞質ゾル酵素である。CKは、MおよびB鎖からなるホモまたはヘテロダイマーである。CK-MBは心臓組織に最も特異的なアイソフォームであるが、骨格筋およびその他の組織にも存在する。CK-MBの正常な血漿濃度は、< 5 ng/mlである。血漿CK-MB濃度は、AMI患者において有意に上昇する。血漿CK-MBは安定狭心症患者において上昇せず、不安定狭心症患者における血漿CK-MBの濃度上昇についての研究では雑多な結果が得られている(Thygesen, K. et al., Eur. J Clin. Invest. 16:14, 1986; Koukkunen, H. et al., Ann. Med 30:488-496, 1998; Bertinchant. J.P. et al., Clin. Biochem. 29:587-594, 1996; Benamer, H. et al., Am. J. Cardiol. 82:845-850, 1998; Norregaard-Hansen, K. et al., Eur. Heart J. 13:188-193, 1992)。不安定狭心症に関連する雑多な結果は、心筋虚血症の程度が不安定狭心症の重篤度に正比例するので、CK-MBが不安定狭心症の重篤度の決定に有用であり得ることを示唆している。血漿CK-MB濃度の上昇は骨格筋傷害および腎臟病に関連する。CK-MBは、心臓細胞死の後血流に放出される。AMI患者におけるCK-MBの血漿濃度は、発症の4〜6時間後に有意に上昇し、12〜24時間の間にピークに達し、3日後にベースラインに戻る。不安定狭心症に伴うCK-MBの放出動力学は同様なものであり得る。
グリコーゲンホスホリラーゼ(GP)は、糖原分解の間に、無機リン酸塩の存在下に、グリコーゲンの非還元末端からのグルコースの除去(グルコース-1-リン酸として遊離される)を触媒する188 kDaの細胞内アロステリック酵素である。GPはホモダイマーとして存在し、他のホモダイマーと結合して酵素的に活性なテトラマーホスホリラーゼAを形成する。免疫学的に区別され得るGPの3つのアイソフォームが存在する。BBアイソフォームは脳および心臓組織に見られ、MMアイソフォームは骨格筋および心臓組織において見られ、LLアイソフォームは主に肝臓で見られる(Mair, J. et al., Br. Heart J. 72:125-127, 1994)。GP-BBは通常、筋小胞体糖原分解複合体に関連し、この関係は心筋層の代謝状態に依存する(Mair, J., Clin. Chim. Acta 272:79-86, 1998)。低酸素症の発症期においてグリコーゲンが分解され、GP-BBは結合形態から遊離の細胞質形態に変換される(Krause, E.G. et al., Mol. Cell Biochem. 160-161:289-295, 1996)。正常な血漿GP-BB濃度は、< 7 ng/ml(36 pM)である。血漿GP-BB濃度は、一過性のST-T上昇を有するAMIおよび不安定狭心症患者において有意に上昇するが、安定狭心症では上昇しない(Mair, J. et al., Br. Heart J. 72:125-127, 1994; Mair, J., Clin. Chim. Acta 272:79-86, 1998; Rabitzsch, G. et al., Clin. Chem. 41:966-978, 1995; Rabitzsch, G. et al., Lancet 341:1032-1033, 1993)。さらに、GP-BBは冠動脈バイパス手術を受けている患者において手術中のAMIおよび心筋虚血症を検出するために用い得る(Rabitzsch, G. et al., Biomed. Biochim. Acta 46:S584-S588, 1987; Mair, P. et al., Eur. J Clin. Chem. Clin. Biochem. 32:543-547, 1994)。GP-BBは、CK-MB、心臓トロポニンTおよびミオグロビンと比較して、不安定狭心症およびAMIの発症後早期のより感度の高いマーカーであることが示されている(Rabitzsch, G. et al., Clin. Chem. 41:966-978, 1995)。これは脳でも見られることから、血漿GP-BB濃度は虚血性大脳傷害間にも上昇し得る。通常は細胞壊死の結果として生じる細胞膜の透過性の亢進も含む虚血状態において、GP-BBは血流に放出される。GP-BBは不安定狭心症および一過性のST-T ECG変化を有する個体において胸部痛発症期4時間の範囲内で有意に上昇し、ミオグロビン、CK-MBおよび心臓トロポニンTが依然として正常レベルの範囲内にある間に有意に上昇する(Mair, J. et al., Br. Heart J. 72:125-127, 1994)。さらに、GP-BBは、AMI患者の胸部痛発症の1〜2時間後に有意に上昇し得る(Rabitzsch, G. et al., Lancet 341:1032-1033, 1993)。不安定狭心症およびAMI患者における血漿GP-BB濃度は、50 ng/ml(250 pM)を上回り得る(Mair, J. et al., Br. Heart J. 72:125-127, 1994; Mair, J., Clin. Chim. Acta 272:7986, 1998; Krause, E.G. et al., Mol. Cell Biochem. 160-161:289-295, 1996; Rabitzsch, G. et al., Clin. Chem. 41:966-978, 1995; Rabitzsch, G. et al., Lancet 341:1032-1033, 1993)。GP-BBは、CK-BBのものと同様の特異性を有する、心筋虚血症の非常に感度の高いマーカーであるようである。GP-BB血漿濃度はAIMI発症後の最初の4時間以内で上昇し、それが心筋障害の非常に有用な初期のマーカーであり得ることを示唆している。さらに、GP-BBは、心臓虚血の間に非結合形態で放出され、通常は外傷的傷害に際して放出されないことから、心臓組織損傷だけではなく、虚血のより特異的なマーカーでもある。心臓外科手術の間の心筋虚血症の検出におけるGP-BBの有用性がこの最もよい例である。GP-BBは、AMIおよび重篤な不安定狭心症の間の初期の心筋虚血症の非常に有用なマーカーであり得る。
心臓型脂肪酸結合タンパク質(H-FABP)は、脂質代謝に関連する15 kDaの細胞質ゾル脂質結合タンパク質である。心臓型FABP抗原は、心臓組織だけでなく腎臓、骨格筋、大動脈、副腎、胎盤および脳にもおいても見られる(Veerkamp, J.H. and Maatman, R.G., Prog. Lipid Res. 34:17-52, 1995; Yoshimoto, K. et al., Heart Vessels 10:304-309, 1995)。さらに、心臓型FABP mRNAは、精巣、卵巣、肺、乳腺および胃において見られる(Veerkamp, J. H. and Maatman, R. G, Prog. Lipid Res. 34:17-52,1995)。FABPの正常な血漿濃度は、< 6 ng/ml(400 pM)である。血漿H-FABP濃度は、AMIおよび不安定狭心症患者において上昇する(Ishii, J. et al., Clin. Chem. 43:1372-1378, 1997; Tsuji, R. et al., Int. J. Cardiol. 41:209-217, 1993)。さらに、H-FABPは、AMI患者の梗塞のサイズを推定することに有用であり得る(Glatz, J. F. et al., Br. Heart J. 71:135-140, 1994)。H-FABPのソースとしての心筋組織は、ミオグロビン/FABP(グラム/グラム)の比を決定することにより確認され得る。約5の比は、FABPが心筋由来のものであることを示し、一方、より高い比は骨格筋のソースを示す(Van Nieuwenhoven, F.A. et al., Circulation 92:2848-2854, 1995)。骨格筋、腎臓および脳にH-FABPが存在することから、血漿H-FABP濃度の上昇は、骨格筋傷害、腎臟病または卒中に関連し得る。H-FABPは、心臓組織壊死の後、血流に放出される。血漿H-FABP濃度は、CK-MBおよびミオグロビンより早く、胸部痛の発症の1〜2時間後に有意に上昇し得る(Tsuji, R. et al., Int. J. Cardiol. 41:209-217, 1993; Van Nieuwenhoven, F.A. et al., Circulation 92:2848-2854, 1995; Tanaka, T. et al., Clin, Biochem. 24:195-201, 1991)。その上、H-FABPは血流から急速にクリアされ、血漿濃度はAMI発症後24時間後にベースラインに戻る(Glatz, S.P. et al., Br. Heart J. 71:135-140, 1994; Tanaka, T. et al., Clin. Biochem. 24:195-201, 1991)。
ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)は、マグネシウムの存在下で、3-ホスホグリセレートの2-ホスホグリセレートへの相互転換を触媒する、29 kDaのMまたはBサブユニットからなる57 kDaのホモまたはヘテロダイマーの細胞内糖分解酵素である。心臓組織はアイソザイムMM、MBおよびBBを含み、骨格筋は主にPGAM-MMを含み、他の組織の大部分はPGAM-BBを含む(Durany, N. and Carreras, J., Comp. Biochem. Physiol. B. Biochem. Mol. Biol. 114:217-223, 1996)。したがって、PGAM-MBは、心臓組織の最も特異的なアイソザイムである。PGAMはAMI患者の血漿において上昇するが、AMI、不安定狭心症および安定狭心症に関連する血漿PGAM濃度の変化を決定するためにさらに研究する必要がある(Mair, J., Crit. Rev. Clin. Lab. Sci. 34:1-66, 1997)。血漿PGAM-MB濃度上昇は、無関係な心筋あるいはおそらく骨格組織損傷に関連し得る。PGAM-MBは、細胞壊死の後に循環に放出される可能性が最も高い。PGAMは、ラットの血流において2時間未満の半減期を有する(Grisolia, S. et al., Physiol. Chem. Phys. 8:37-52, 1976)。
S-100は、αおよびβサブユニットから生成される21 kDaのホモまたはヘテロダイマー細胞質ゾルCa22+結合タンパク質である。Ca2+依存細胞情報伝達経路に沿って、細胞工程の活性化に参加すると考えられている(Bonfrer, J.M. et al., Br. J. Cancer 77:2210-2214, 1998)。S-100ao(ααアイソフォーム)は横紋筋、心臓および腎臓に見られ、S-100a(αβアイソフォーム)はグリア細胞に見られるが、シュヴァン細胞には見られず、S-100b(ββアイソフォーム)はグリア細胞およびシュヴァン細胞に高濃度で見られ、これらにおいては主要な細胞質ゾル成分である(Kato, K. and Kimura, S., Biochim. Biophys. Acta 842:146-150, 1985; Hasegawa, S. et al., Eur. Urol. 1993)。S-100aoの正常血清濃度は、< 0.25 ng/ml(12 pM)であり、その濃度は年齢および性別に影響され、男性および高年齢の個体において濃度はより高い(Kikuchi, T. et al., Hinyokika Kiyo 36:1117-1123, 1990; Morita, T. et al., Nippon Hinyokika Gakkai Zasshi 81:1162-1167, 1990; Usui, A. et al., Clin. Chem. 36:639-641, 1990)。S-100aoの血清濃度はAMI患者において上昇するが、AMIを疑われる狭心症患者においては上昇しない(Usui, A. et al.,Clin. Chem. 36:639-641, 1990)。不安定および安定狭心症に関連するS-100aoの血漿濃度の変化を決定するためにさらに研究が必要である。血清S-100aoは、腎細胞癌、膀胱腫瘍、腎機能不全および前立腺癌患者、ならびに開心術を受けている患者の血清において上昇する(Hasegawa, S. et al., Eur. Urol. 24:393-396, 1993; Kikuchi, T. et aL, Hinyokika Kiyo 36:1117-1123, 1990; Morita, T. et al., Nippon Hinyokika Gakkai Zasshi 81:1162-1167, 1990; Usui, A. et al., Clin. Chem. 35:1942-1944, 1989)。S-100aoは、細胞死の後に細胞外空間に放出される細胞質ゾルタンパク質である。S-100aoの血清濃度は、AMI患者において入院時に有意に上昇し、入院の8時間後にピークレベルに上昇し、その後減少して1週後にベースラインに戻る(Usui, A. et al., Clin. Chem. 36:639-641, 1990)。さらに、S-100aoは、AMI発症後、CK-MBより早期に有意に上昇するようである(Usui, A. et al., Clin. Chem. 36:639-641, 1990)。最大血清S-100ao濃度は、100 ng/mlを上回り得る。再潅流後の心臓手術患者の血清S-100ao濃度が急速に減少することおよび尿中濃度が増加することにより示唆されるように、S-100aoはおそらく腎臓により血流から急速にクリアされるが、ACSのとの関連におけるS-100ao放出と血流からクリアランスの動力学を決定するためにさらに研究が必要である(Usui, A. et al., Clin. Chem. 35:1942-1944, 1989)。S-100aoは、心臓組織において高濃度で見られ、心臓傷害の感度の高いマーカーであるようである。ACSについてのこのマーカーの非特異性の主要なソースは、骨格筋および腎組識傷害を含む。S-100aoはAMI発症の直後に有意に上昇し得、それは不安定狭心症からのAMIの区別を可能にし得る。虚血性エピソードを伴う胸部痛を有することを示す、狭心症およびAMIが疑われる患者は、有意に高いS-100ao濃度を有していなかった。CK-MBおよびミオグロビンのそれと全く異ならないようである非特異性のリスクにもかかわらず、S-100aoにより、医師がAMIを不安定狭心症から区別することが可能となり得る。
本発明によれば、sTfRおよび/またはフラタキシンおよび/またはフェリチンインデックスが、グループ(i)、(ii)、(iii)および(iv)に示すマーカーの少なくとも1つとともに好ましく使用される:
(i) 心筋傷害の急性マーカーおよび/または特異的マーカー、
(ii) 凝固に関連する心筋傷害の非特異的マーカー、
(iii) アテローム斑破裂に関連する心筋傷害の非特異的マーカー、および/または
(iv) 心筋傷害の非特異的マーカー;ここで、グループ(i)のマーカーは、リポコルチンVとも称されるアネキシンV、エンドネキシンII、カルホビンディンI、カルシウム結合タンパク質33、胎盤抗凝血性タンパク質I、トロンボプラスチン阻害剤、脈管血液凝固阻止薬α、アンコリンCII、脳型ナトリウム***増加性ペプチドとも称されるB-型ナトリウム***増加性ペプチド(BNP)、エノラーゼ、TnT、TnI、fTnT、CK、GP、H-FABP、PG AMならびにS-100から選択され、グループ(ii)マーカーは、プラスミン、β-トロンボグロブリン(β-TG)、PF4、FPA、PDGF、プロトロンビン断片1+2、P-セレクチン、トロンビン、D-ダイマー、フォン−ウィルブランド因子、TFおよび凝固カスケードから選択され、グループ(iii)マーカーは、ヒト好中性エラスターゼ、誘導性一酸化窒素シンターゼ、リゾホスファチジン酸、マロンジアルデヒド修飾低密度リポタンパク質およびMMP-1、MMP-2、MMP-3およびMMP-9を含むマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)ファミリーのメンバーから選択され、および/または、グループ(iv)マーカーは、C反応性タンパク質、インターロイキン1β、インターロイキン1レセプター拮抗薬、インターロイキン6、単球走化性タンパク1、可溶性細胞間接着分子1、可溶性血管細胞接着分子1、腫瘍壊死因子α(TNFα)、カスパーゼ3およびヘモグロビンα2から選択される。好ましくは、グループ(i)〜(iv)のそれぞれの少なくとも一つのマーカーを使用する。
特に好ましい態様においては、上記グループ(iv)に示されるマーカーは、本発明によりヘプシジン、sTfRおよびフラタキシンによって置き換えられる。別の好ましい態様においては、グループ(iii)のマーカーがsTfRおよびフラタキシンにより置き換えられる。
本発明のグループ2、3および4は、疾患の異なる段階での情報を提供するマーカーに関する。例えば、グループ1は慢性炎症の段階、グループ2は不安定狭心症の段階、グループ3および4はACSおよびAMIの段階をそれぞれ示す。
その結果として、例えば、Epo-鉄治療法は、初期の段階において高いsTfRおよび高いヘプシジン値および低いフラタキシン値を有する症例において適切な処置である。段階が不明である場合は、グループ3およびグループ4のマーカーを測定することにより適切な治療法を選択し得る。例えば、グループ3およびグループ4のマーカーが正常である場合、Epo-鉄治療法は有望である。ACSおよびAMIが疑われる症例の場合、それぞれグループ3および4の測定が、信頼性が高い診断のために特に好適である。
本発明によれば、上記グループ(ii)に示される凝固マーカーは、グループ2に割り当てることが可能である。
上記のマーカーおよび、特にsTfRは、異なる患者グループにおいて独立のリスクマーカーとして使用し得る。適切な患者のサブグループ群は、例えば、健常な高齢者、心臓病患者ならびに糖尿患者である。
上述のリスクマーカーは、効果的な治療法と個々の患者グループそれぞれのための効果的な治療法の決定を可能とする。例えば、効果的なEpo治療法を初期の段階に指示し、上記のマーカーにより調節することができる。
本発明により提案されるように、上述のマーカーを同時に評価することにより、冠症候群および/または糖尿病の異なる段階の追加的な予測情報が提供される。
好ましくは、患者を選択するときに別の基準を考慮する。例えば、冠動脈造影法ならびに1つの狭窄を有する患者>30%は包含の基準である。除外の基準は、なかでも、4週以内の外科手術またはPTCA患者または抗凝血剤を投与された患者である。同様に除外されるのは、敗血症、慢性全身性疾患(RA)、癌疾患または公知の腎不全症に罹患している患者である。直近12週以内の外傷または蘇生術患者または血栓を有する患者は同様に除外するのが好ましい。