JP2005126818A - 疲労特性に優れた鋼材および高周波焼入れ用鋼素材 - Google Patents

疲労特性に優れた鋼材および高周波焼入れ用鋼素材 Download PDF

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Abstract

【課題】高周波焼入れ後に回転曲げ疲労強度が良好な鋼材を提供する。
【解決手段】鋼組織がベイナイトおよび/またはマルテンサイトを有し、該ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の合計の組織分率が10体積%以上であり、さらに鋼材中にMo系析出物が1μm3当たり500個以上分散してなり、該Mo系析出物の平均粒径が20nm以下である鋼材を用いて、この鋼材に高周波焼入れ施して旧オーステナイト粒径が7μm以下の硬化層を得る。
【選択図】なし

Description

本発明は、表面に高周波焼入れによる硬化層をそなえる、自動車ドライブシャフト、インプットシャフト、アウトプットシャフト、クランクシャフト、等速ジョイントおよびハブなどに適用して好適な鋼材と、該鋼材の素材となる高周波焼入れ用鋼素材に関するものである。
従来、自動車ドライブシャフトや等速ジョイントなどの機械構造用部品は、熱間圧延棒鋼に、熱間鍛造、さらには切削、冷間鍛造などを施して所定の形状に加工したのち、高周波焼入れ−焼戻しを行うことにより、機械構造用部材としての重要な特性であるねじり疲労強度、曲げ疲労強度、転動疲労強度およびすべり転動疲労強度等の疲労強度を確保しているのが一般的である。
他方、近年、環境問題から自動車用部材に対する軽量化の要求が高く、この観点から自動車用部材における疲労強度の一層の向上が要求されている。
ここに、疲労強度を向上させるためには、例えば高周波焼入れによる焼入れ深さを増加させることが考えられる。しかしながら、焼入れ深さを増加してもある深さで疲労強度は飽和する。
また、疲労強度の向上には、粒界強度の向上も有効であり、この観点からTiCを分散させることによって旧オーステナイト粒径を微細化する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1に記載された技術では、高周波焼入れ加熱時に微細なTiCを多量に分散させることで、旧オーステナイト粒径の微細化を図るものであり、焼入れ前にTiCを溶体化しておく必要があり、熱間圧延工程で1100℃以上に加熱する工程を採用している。そのため、熱延時に加熱温度を高くする必要があり、生産性に劣るという問題があった。また、オーステナイト粒の粒微細化についても、限界があるため、近年の疲労強度に対する要求には十分に応えられないものであった。
さらに、特許文献2には、硬化層深さCDと高周波焼入れ軸部品の半径Rとの比(CD/R)を0.3〜0.7に制限した上で、このCD/Rと高周波焼入れ後の表面から1mmまでのオーステナイト結晶粒径γf、高周波焼入れままの(CD/R)=0.1までの平均ビッカース硬さHcで規定される値Aを、C量に応じて所定の範囲に制御することによって疲労強度を向上させた機械構造用軸部品が提案されている。
しかしながら、上記のCD/Rを制御したとしても回転曲げ疲労の向上には限界があり、近年の疲労強度に対する要求には十分に応えられないものであった。
特開2000−154819号公報(特許請求の範囲、段落〔0008〕) 特開平8−53714号公報(特許請求の範囲)
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであり、十分な疲労強度を有する鋼材を、その素材とともに提供することを目的とする。
さて、発明者らは、高周波焼入れ後の疲労強度を効果的に向上させるべく、鋭意検討を行った。
通常、疲労強度は材料の強度が上昇するにつれて上昇するが、特に焼き入れ部の硬さがHv500以上の高強度材では粒界破壊または非金属介在物を起点とした疲労破壊が支配的となり、材料の強度を上昇させても疲労強度が上昇しない。
そこで、焼入れ部の粒界強度の向上について検討を行い、以下の知見を得た。
(1)Moは、高周波焼入れ前にMo析出物として鋼中に析出し、このMo析出物が高周波焼き入れ時にオーステナイト粒界をピン止めする効果あるいは、固溶Moによるソリュートドラッグによる効果により、結果として硬化層の旧オーステナイト粒径を微細化するのに有効に寄与する。
(2)高周波焼入れ条件(加熱温度および時間)を適正に制御することによって、硬化層粒径が顕著に微細化し、粒界強度が向上する。具体的には、加熱温度:800〜1000℃、より好ましくは800℃〜950℃で、加熱時間5秒以下とすることにより、旧オーステナイト粒径の微細化が可能である。
(3)高周波焼入れ前の組織を微細なベイナイトおよび/またはマルテンサイトを有するものとしておくことで、高周波焼入れの加熱時に、オーステナイト粒の核生成サイトが増加し、上記(2)との相乗効果で微細な旧オーステナイト粒の硬化層が得られる。
(4)上記のMoの作用を活用し、さらに高周波焼入れ条件の適正化を行って硬化層の旧オーステナイト粒を微細化、具体的には旧オーステナイト粒平均径:7μm以下とした場合には、硬化層の粒界強度の向上により回転曲げ疲労強度が向上するが、その場合には疲労破壊の起点が非金属介在物となる。そのため、さらなる回転曲げ疲労強度の向上には、非金属介在物の低減が有効となる。そして、非金属介在物を最大直径15μm以下に制御すれば、疲労破壊の起点が表面になり非常に高い疲労強度が得られる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.少なくとも一部表面に高周波焼入れによる硬化層を有する鋼材であって、該硬化層は、旧オーステナイト粒の平均粒径が7μm以下であり、かつ1μm3当たり500個以上の分散したMo系析出物を有し、該Mo系析出物の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする疲労特性に優れた鋼材。
2.前記Mo系析出物は、MoおよびTiを含む複合炭化物であることを特徴とする上記1に記載の疲労特性に優れた鋼材。
3.C:0.3〜0.7mass%、
Ti:0.005〜0.1mass%および
Mo:0.05〜0.6mass%
を含有する成分組成になることを特徴とする上記1または2に記載の疲労特性に優れた鋼材。
4.上記1、2または3の記載の鋼材を製造するための高周波焼入れ用鋼素材であって、鋼組織がベイナイトおよび/またはマルテンサイトを有し、ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の合計の組織分率が10体積%以上であり、さらに、鋼材中にMo系析出物が1μm3当たり500個以上分散してなり、該Mo系析出物の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼素材。
5.前記Mo系析出物は、MoおよびTiを含む複合炭化物であることを特徴とする上記4に記載の高周波焼入れ用鋼素材。
6.C:0.3〜0.7mass%、
Ti:0.005〜0.1mass%および
Mo:0.05〜0.6mass%
を含有する成分組成になることを特徴とする上記4または5に記載の高周波焼入れ用鋼素材。
かくして、本発明によれば、高周波焼入れ後には高い疲労強度を有する鋼材を安定して得ることができ、その結果、とりわけ自動車部材の軽量化の要求に対し偉効を奏する。
以下、本発明を具体的に説明する。
発明者らは、Mo添加鋼においては、高周波焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒径が非常に微細となり、これにより疲労強度が格段に向上するとの知見を得た。そして、さらにMoによる旧オーステナイト粒径の微細化機構について検討を行った。発明者等の検討によれば、旧オーステナイト粒を微細化し疲労強度を向上させるために微細な析出物を高密度に分散させることが有効であると推定するに到った。
そこで、後述する実施例における表1の1鋼に従う成分組成の鋼素材を圧延後、850℃で80%、750℃で25%の鍛造を行い空冷(空冷時冷却速度0.8℃/s)した高周波焼入れ前の素材から、透過電子顕微鏡観察用の試料を採取し、微細析出物の状況について観察した。透過電子顕微鏡観察用の試料は、素材中央部より平板試料を採取し、過塩素酸―メタノール系の電解液を用いた電解研磨により薄膜化して準備した。観察領域が薄すぎると析出粒子の脱落頻度が高まり、厚すぎると析出粒子認識が困難になるため、観察領域の厚みを50〜100nmの範囲とした。ここで、試料厚みは電子エネルギー損失スペクトルから見積もった。図1に実際に得られた透過電子顕微鏡像の一例を示す。この視野の試料厚み約0.1μmを考慮すると、直径5〜10nm程度の微細な析出物が1μm3当たり約3000個の高密度で分散していることが判明した。
さて、高周波焼入れ時、オーステナイトはベイナイトあるいはマルテンサイトの粒界、パケット境界、炭化物などから核生成し、粒成長する。上記した微細な析出物はオーステナイト粒界面が析出物に到達しその向こう側へ行くときに、風船(粒界面)を指(析出物)で押し込んだときのように粒界面の移動を抑制する。このような界面移動抑制をピンニングという。ピンニング力は全析出量が一定であれば、析出物が小さいほど大きく、また析出物径が一定であれば析出物の量が多いほど強くなる。
本発明における高周波加熱時には、図1に示すような微細析出物によってピンニングが生じ、旧オーステナイト粒平均径の微細化がより促進されている(のではないか、)と推定される。さらに、図1に例示した微細析出物は、1000℃以下の高周波焼入れ処理後材においても存在することを確認しており、高温短時間熱処理に対して溶解しにくいことが重要と考えられる。
次に発明者らは、高周波加熱処理における旧オーステナイト粒平均径に及ぼす析出分散状態の影響を見るため、Moの析出体積率を変動させたモデル鋼素材を準備し、前述した手法に基づき、旧オーステナイト粒平均径と1μm3当たりのMo系微細析出物数との関係を調査した。その結果、旧オーステナイト粒平均径制御に直接的に効果のある1μm3当たりの析出物数は析出物の体積率によって変動するものの、例えば、体積率が0.2〜0.4%程度の場合、旧オーステナイト粒平均径7μm以下を達成するには析出粒子の平均直径が20nm以下であり、析出物の個数を500個/μm3以上確保することが必要であることが分かった。
さらに旧オーステナイト粒平均径5μm以下を達成するには、析出物の平均直径15nm以下としかつ個数を1200個/μm3以上確保すること、さらに好適には粒径3μm以下を達成するために、同平均直径12nm以下としかつ個数を2000個/μm3以上確保すること、が望ましいことがわかった。
図2に、析出物の析出状態を変化させた場合の、高周波焼入れ後の硬化層の旧オーステナイト粒平均径と、析出物直径との関係を調査した結果を示す。ここで、鋼材の成分組成、高周波焼入れ条件は、後述の表2中のNo.1と同一条件とした。
次いで、この析出物を母材から抽出して、残渣をX線回折法により同定したところ、主としてhcp型の(Mo,Ti)2(C,N)であると推定された。さらに、透過電子顕微鏡に付属のEDX分析の結果から、MoとTiの原子比は約8:2であり、Moが主成分であることも判明した。なお、ここでいう析出物には完全な(Mo,Ti)2(C,N)の化学量論組成から外れたものも含まれる。何れにしても、MoとTiを含んだ複合炭窒化物と考えられる。
この(Mo,Ti)2(C,N)析出物はCuなどの析出物と異なり、比較的硬いことが知られており、粒界面通過を阻止する能力が高いと考えられる。また、成分構成比はMoがTiに対して圧倒的に多いことおよびMoが拡散しにくい元素であることを勘案すれば、このような(Mo,Ti)2(C,N)は(Mo,Ti)2(C,N)の析出温度である600から700℃程度の温度範囲に短時間保持しても、急速に大きくなるとは考えられない。従って、(Mo,Ti)2(C,N)の析出量を増加し分布密度を高めるために、この温度範囲を短時間保持することにより、既に析出している(Mo,Ti)2(C,N)の粗大化を最小限に抑制しつつ、新たな(Mo,Ti)2(C,N)の析出を期待できる。
さらに、本発明においては、ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の合計の組織分率は10体積%以上であることが好ましい。ベイナイトおよびマルテンサイトは、フェライト−パーライト組織に比べて炭化物が微細分散した組織であるため、高周波焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイトであるフェライト/炭化物の界面の面積が増えて、生成したオーステナイトが微細化する。このため、ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の組織分率は10体積%以上、好ましくは20体積%以上が必要である。ここで、700〜500℃の温度域の冷却速度が0.2℃/s未満では、ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の組織分率が10体積%以上とすることができない。より好ましくは、冷却速度を0.5℃/s以上とする。
なお、ベイナイトとマルテンサイトの体積分率の比はおおむねベイナイト:マルテンサイト=100:0〜40:60が好ましい。焼入れ前の組織は、高周波焼入れ後による硬化層のマルテンサイトの旧オーステナイト粒径微細化のためにはマルテンサイト組織が好適である。しかし、マルテンサイトは硬質であるため母相に多量に含まれると被削性が低下する。従って、ベイナイトとマルテンサイトの分率比はベイナイト:マルテンサイト=100:0〜40:60が好ましい。
次に、上記のMo系析出物を有する鋼材に好適な成分組成について説明する。
C:0.3〜0.7mass%
Cは、本発明におけるMo系析出物が(Mo,Ti)2(C,N)が主であることを考慮すると、このMo系析出物を得る意味でも必要である。さらに、Cは焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れによる硬化層の硬さを高くおよび深さを深めて強度の向上に有効に寄与する。しかしながら、含有量が0.3mass%に満たないと必要とされる強度を確保するために焼入れ硬化深さを飛躍的に高めねばならず、その際焼割れの発生が顕著となるため、0.3mass%以上で添加する。一方、0.7mass%を超えて含有させると、粒界強度が低下し、それに伴い疲労強度が低下し、また切削性、冷間鍛造性および耐焼割れ性も低下する。このため、Cは、0.3〜0.7mass%の範囲が好適である。
Ti:0.005〜0.1mass%
Tiは、本発明におけるMo系析出物が(Mo,Ti)2(C,N)が主であることを考慮すると、このMo系析出物を得る意味で添加されることが有効である。また、不可避的不純物として混入するNと結合することで、BがBNとなってBの焼入れ性向上効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分に発揮させる作用を有する。この効果を得るためには、少なくとも0.005mass%の含有を必要とするが、0.1mass%を超えて含有されるとTiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となって回転曲げ疲労強度の著しい低下を招くので、Tiは0.005〜0.1mass%の範囲とすることが好ましい。
Mo:0.05〜0.6mass%
Moは、本発明において非常に重要な元素である。すなわち、Moは、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒径を微細化し、焼入れ硬化層の粒径を細粒化する作用がある。特にこの効果は、高周波焼入れ時の加熱温度を 800〜1000℃より好ましくは 800〜950 ℃とすることにより、一層顕著となる。さらに、焼入れ性の向上に有用な元素であるため、焼入れ性を調整するために用いられる。加えて、Moは、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を有効に阻止する元素でもある。
このように、Moは、本発明において非常に重要な元素であり、含有量が0.05mass%に満たないと、硬化層全厚にわたって旧オーステナイト粒径を7μm 以下の微細粒とすることが難しく、また旧オーステナイト粒径が微細となったとしても、Moを0.05mass%以上で添加した程の疲労強度の向上効果は得られない。一方、0.6mass%を超えると、被削性が劣化するため、上限は0.6mass%とした。さらに好ましくは 0.2〜0.4 mass%の範囲である。
なお、発明者等の検討によれば、Moによる旧オーステナイト粒の微細化効果の可能性として、固溶原子による引き摺り効果(ソリュートドラッグ効果:Solute Drug Effect)や析出物によるピンニング効果等が考えられている。両効果あるいはその他の効果がそれぞれどの程度効いているかは、現時点では必ずしも明確ではないが、少なくともピンニング効果が発現する場合があることを確認している。詳細は前述のとおりである。
その他の元素は、鋼組織を前述のとおり、ベイナイトおよび/またはマルテンサイトを有し、ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の合計の組織分率を10体積%以上とできれば、特に限定されない。
さらに、本発明の鋼材の用途である、ドライブシャフト等の機械構造用部品として好適であるその他元素の含有量について以下に説明する。
Si:1.1mass%以下
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させると共に、オーステナイトの粒成長を抑制し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用を有する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する作用も有する。このため疲労強度の向上に有効な元素である。しかしながら、Si量の増加に伴い被削性、鍛造性には不利となるため、これらの特性を確保するために、Siは1.1mass%以下が好ましい。さらに、好ましくは0.3mass%以下である。
Mn:0.2〜2.0mass%
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で不可欠の成分であり積極的に添加するが、含有量が0.2mass%未満ではその添加効果に乏しいため、0.2mass%以上含有させることが好ましい。さらに、好ましくは0.3mass%以上である。一方、Mn量が2.0mass%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、かえって表面硬度が低下し、ひいては疲労強度の低下をまねくため、Mnは2.0mass%以下が好ましい。なお、Mnは含有量が多いと、母材の硬質化を招き、被削性に不利となるきらいがあるため、1.2mass%以下とするのが好適である。さらに好ましくは1.0mass%以下である。
Al:0.005〜0.25mass%
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制する作用も有し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する上でも有用な元素である。そのため、0.005mass%以上含有させることが好ましい。しかしながら、0.25mass%を超えて含有させてもその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利が生じるので、0.25mass%以下とすることが好ましい。
B:0.0003〜0.006mass%
Bは、微量の添加によって焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めることにより回転曲げ疲労強度を向上させる効果がある。さらにBは、粒界に優先的に偏析して、粒界に偏析するPの濃度を低減し、粒界強度を向上させ、もって回転曲げ疲労強度を向上させる作用もある。
このため、本発明では、Bを積極的に添加することが好ましい。含有量が0.0003mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、0.006mass%を超えて含有させるとその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招くため、Bは0.0003〜0.006mass%の範囲が好ましい。さらに、好ましくは0.0005〜0.004mass%の範囲である。
S:0.06mass%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であるが、0.06mass%を超えて含有させると、粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、0.06mass%以下とすることが好ましい。
P:0.020mass%以下
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、回転曲げ疲労強度を低下させる。また、焼割れを助長する弊害もある。従って、Pの含有は0.020mass%以下とすることが望ましい。
O:0.0030mass%以下
Oは、非金属介在物として鋼中に存在し、これが疲労破壊の起点となって回転曲げ疲労強度を低下させる作用を有する。本発明の鋼材では、後述するように硬化層の旧オーステナイト粒径を微細化し、硬化層の粒界強度を向上させて疲労強度を向上させている。しかしながら、硬化層の粒界強度が上昇すると、疲労破壊の起点が非金属介在物となる傾向にある。そこで、本発明ではO含有量を低減し、非金属介在物の粒径を微細化することで、疲労強度の向上をさせる。この意味で、Oの上限は0.0030mass%とすることが好ましい。なお、好ましいO量は0.0010mass%以下、さらに好ましいO含有量は0.0008mass%以下である。
以上は、本発明で規定したMo系析出物および鋼組織を得るための、最適基本成分であるが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cr:2.5mass%以下
Crは、焼入れ性の向上に有効であり、硬化深さを確保する上で有用な元素であるので添加してもよい。しかし、過度に含有されると炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を助長し、粒界強度を低下させて疲労強度を劣化させる。従って、Crの含有は極力低減することが望ましいが、2.5mass%までは許容できる。好ましくは1.5mass%以下である。なお、焼入れ性の向上効果を得る発現させるためには、0.03mass%以上含有させることが好ましい。
Cu:1.0mass%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶し、この固溶強化によって、疲労強度を向上させる。また炭化物の生成を抑制することにより、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる。しかしながら、含有量が1.0mass%を超えると熱間加工時に割れが発生するため、1.0mass%以下の添加とする。好ましくは0.5mass%以下である。なお、0.03mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.03mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは0.1〜1.0mass%である。
Ni:3.5mass%以下
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるので、焼入れ性を調整する場合に用いる。また、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制して、疲労強度を向上させる元素でもある。しかしながら、Niは極めて高価な元素であり、3.5mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、3.5mass%以下の添加とする。なお、0.05mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.05mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは0.1〜1.0mass%である。
Co:1.0mass%以下
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、1.0mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.02〜0.5mass%である。
Nb:0.1mass%以下
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1mass%を超えて含有させても効果は飽和するので、0.1mass%を上限とする。なお、0.005mass%未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.01〜0.05mass%である。
V:0.5mass%以下
Vは、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.5mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.5mass%以下とする。なお、0.01mass%未満の添加では、疲労強度の向上効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.03〜0.3mass%である。
Ta:0.5mass%以下
Taは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化を防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないので、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Hf:0.5mass%以下
Hfは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないので、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Sb:0.015mass%以下
Sbは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.015mass%を超えて含有量を増加させると靭性が劣化するので、0.015mass%以下、好ましくは0.010mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.005mass%以上とすることが好ましい。
W:1.0mass%以下
Wは、脆化作用により被削性を向上させる元素である。しかしながら、1.0mass%を超えて添加しても、効果が飽和する上、コストが上昇し、経済的に不利となるため、1.0mass%以下で含有させることが好ましい。なお、被削性の改善のためには、Wは0.005mass%以上含有させることが好ましい。
Ca:0.005mass%以下
Caは、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善するので必要に応じて添加することができる。しかしながら、0.005mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、0.005mass%以下とした。なお、0.0001mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
Mg:0.005mass%以下
Mgは、脱酸元素であるだけでなく、応力集中源となって被削性を改善する効果があるので、必要に応じて添加することができる。しかしながら、過剰に添加すると効果が飽和する上、成分コストが上昇するため、0.005mass%以下とした。なお、0.0001mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
Te:0.1mass%以下
Se:0.1mass%以下
SeおよびTeはそれぞれ、Mnと結合してMnSeおよびMnTeを形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、含有量が0.1 mass%を超えると、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、いずれも0.1 mass%以下で含有させるものとした。また、被削性の改善のためには、Seの場合は 0.003mass%以上およびTeの場合は 0.003mass%以上で含有させることが好ましい。
Bi:0.5mass%以下
Biは、切削時の溶融、潤滑および脆化作用により、被削性を向上させるので、この目的で添加することができる。しかしながら、0.5mass%を超えて添加しても効果が飽和するばかりか、成分コストが上昇するため、0.5mass%以下とした。なお、0.01mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.01mass%以上含有させることが好ましい。
Pb:0.5mass%以下
Pbは、切削時の溶融、潤滑および脆化作用により、被削性を向上させるので、この目的で添加することができる。しかしながら、0.5mass%を超えて添加しても効果が飽和するばかりか、成分コストが上昇するため、0.5mass%以下とした。なお、0.01mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.01mass%以上含有させることが好ましい。
Zr:0.01mass%以下
Zrは、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、0.01mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上成分コストの上昇を招くので、0.01mass%以下とした。なお、0.003mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.003mass%以上含有させることが好ましい。
REM:0.1mass%以下
REMは、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、REMを0.1mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、それぞれ上記の範囲で含有させるものとした。なお、被削性の改善のためには、REM は0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
以上説明した成分以外の残部はFeであることが好ましい。
さらに、本発明では、鋼材中の酸化物系非金属介在物の最大直径が15μm以下であることが好適である。この酸化物系非金属介在物を微細化することにより、この酸化物系非金属介在物が疲労破壊の起点となる確率を減少させることができる。そして、その最大直径が15μm以下であれば疲労破壊の起点を表面とすることができ、表面は高周波焼入れにより粒界強度の高い硬化層となっているから、結果として回転曲げ疲労強度の飛躍的な向上が図れるのである。酸化物系非金属介在物の最大直径は、好ましくは12μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。
ここで、酸化物系非金属介在物の最大直径は、光学顕微鏡により、400倍で800視野の観察を行い、各視野での酸化物系介在物の最大径をGumble確率紙上にまとめ、50000mm2相当の極値を算出し、鋼中に存在する酸化物系非金属介在物の最大粒径とする。なお、酸化物系非金属介在物の最大直径を15μm以下は、鋼中のOの低減により達成でき、前述のとおり、O量を0.0030mass%以下とすればよい。
次に、本発明の高周波焼入れ用鋼材の製造方法について説明する。
上記した所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延または熱間鍛造などの熱間加工後、必要に応じて冷間圧延や冷間鍛造を施し、次いで必要に応じて切削加工を施して、高周波焼入れ用鋼素材とされる。
この一連の工程において、熱間加工の際の800〜1000℃での総加工率を80%以上とし、その後700〜500℃の温度域を0.2℃/s以上の速度で冷却する。この条件により、前述のMo系析出物を確保するとともに、焼入れ前の組織を均一かつ微細なベイナイトおよび/またはマルテンサイト組織とすることができ、その後の高周波焼入の加熱時にオーステナイト粒が微細化する。なお、Mo系析出物の析出分を微細なものが多数ある状態として、旧オーステナイト粒径の一層の微細化をはかるためには、前述の700〜500℃の温度域の冷却速度を満足する範囲で、600〜700℃の温度域で保持することが有効である。
さらに、高周波焼入れ前に、800℃未満の温度域で20%以上の加工(以下、第2加工工程という)を施すことによって、高周波焼入れ前のベイナイトおよび/またはマルテンサイト組織をさらに微細することができ、高周波焼入れ後の旧オーステナイト粒のさらなる微細化が達成されるため、第2加工工程を付加することが好ましい。800℃未満の温度域での加工は、熱間加工工程で、前記冷却速度の冷却の前(700〜800℃の温度域)に行ってもよいし、冷却後に別途冷間加工を施すかあるいは、A変態点以下の温度で再加熱して温間加工を施しても良い。800℃以下での加工は、30%以上とする事が好ましい。なお、加工法としては、例えば、冷間鍛造、冷間しごき、転造加工またはショット等が挙げられる。800℃未満で加工を施すことにより、高周波焼入れ前のベイナイトあるいはマルテンサイト組織が微細化し、結果として高周波焼入れ後に得られる硬化層における旧オーステナイト粒の平均粒径がより微細なものとなり、これにより疲労強度がより向上する。
以上、本発明の高周波焼入れ用鋼素材について説明したが、次に、この高周波焼入れ用鋼素材を用いて製造される本発明の疲労特性に優れた鋼材について説明する。
本発明の鋼材は、上述した高周波焼入れ用鋼素材に対して、その少なくとも一部表面に高周波焼入れが施されたものである。ここで、高周波焼入れを施した鋼材には、ドライブシャフト、インプットシャフト、アウトプットシャフト、クランクシャフト、等速ジョイント外輪、等速ジョイント内輪、ハブ、歯車等の機械構造用部品の形態を有するものも含む。そして、この高周波焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒平均径が7μm以下であることを特徴とする。
すなわち、焼入れ硬化層の旧オーステナイト粒平均径が7μmを超えると、十分な粒界強度が得られず、満足いくほどの疲労強度の向上が望めないからである。なお、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
ここに、焼入れ硬化層の旧オーステナイト粒径の測定は、次のようにして行う。
高周波焼入れ後の本発明の鋼材では、高周波焼入れした部分の鋼材最表面は面積率で100%のマルテンサイト組織を有する。そして、表面から内部にいくに従い、ある深さまでは100%マルテンサイト組織の領域が続くが、ある深さから急激にマルテンサイト組織の面積率が減少する。
本発明では、高周波焼入れした部分について、鋼材表面から、マルテンサイト組織の面積率が98%に減少するまでの深さ領域を硬化層と定義する。
そして、この硬化層について、表面から硬化層の1/5位置、1/2位置、4/5位置それぞれの位置について同視野数の組織観察を行い、それぞれの旧オーステナイト粒平均径を測定し、これら各位置での旧オーステナイト粒の平均値が7μm以下である場合に、硬化層の旧オーステナイト粒平均径が7μm以下であるとする。
なお、旧オーステナイト粒平均径の測定は、光学顕微鏡により、400倍(1視野の面積:0.25mm×0.225mm)から1000倍(1視野の面積:0.10mm×0.09mm)で、各位置毎に5視野観察し、画像解析装置により平均粒径を測定することにより行う。
さらにまた、本発明において、高周波焼入れによる硬化層厚みは2mm以上とすることが好適である。というのは、所望特性が転動疲労寿命のような極表層付近の組織のみに依存するような場合には、硬化層厚みが1mm程度でもそれなりの効果は得られるが、曲げ疲労強度やねじり疲労強度を問題とする場合には、硬化層厚みは厚いほど好ましいからである。従って、より好ましい硬化層厚みは2.5mm以上、さらに好ましくは3mm以上である。
硬化層の旧オーステナイト粒平均径を7μm以下とするには、上述した本発明の高周波焼入用鋼素材を用いることに加えて、以下に示す高周波焼入れ条件を採用する必要がある。
[高周波焼入条件]
加熱温度を800〜1000℃とし、600〜800℃を300℃/s以上の昇温速度で昇温する。加熱温度が800℃未満の場合、オーステナイト組織の生成が不充分となり、硬化層を得ることができない。一方、加熱温度が1000℃を超える場合と600〜800℃の昇温速度が300℃/s未満の場合にはオーステナイト粒の成長が促進されると同時に粒の大きさのばらつきが大きくなり、疲労強度の低下を招く。すなわち、最終的に得られる硬化層の旧オーステナイト粒径は、焼入れ加熱時にオーステナイト域でいかに粒成長を防止するかが重要となる。前組織を上述のように微細なベイナイトあるいはマルテンサイトを有する組織としておくことで、オーステナイトへの逆変態の核生成サイトは多数あるため、多数生成したオーステナイト粒が成長しないうちに冷却を開始することによって、焼入れ組織の旧オーステナイト粒平均径を微細化できる。オーステナイト粒の成長は高温であればあるほど、またオーステナイト域における保持時間が長ければ長いほど進行するので、粒成長を防止して、最終的に平均粒径が7μm以下の旧オーステナイト粒を得るためには、加熱温度は1000℃以下、600〜800℃の昇温速度は300℃/s以上とする。
なお、加熱温度は800〜950℃とすることが好ましく、600〜800℃の昇温速度は700℃/s以上であることが好ましい。より好ましくは1000℃/s以上である。
また、高周波加熱時において800℃以上の滞留時間が長くなるとオーステナイト粒が粒成長して、最終の旧オーステナイト粒平均径が7μm超にまで大きくなる傾向にあるので、800℃以上の滞留時間は5秒以下とすることが好ましい。より好ましい加熱時間は3秒以下である。
なお、上記の高周波焼入れ条件を採用することによる旧オーステナイト粒径の微細化効果は、Moを本発明範囲で含有させた鋼において、より顕著に発現する。すなわち、図3に、Mo添加鋼とMo無添加鋼について、高周波焼入れ時の加熱温度と硬化層の旧オーステナイト粒径との関係について調べた結果を示す。
ここで、図3に示した結果は以下のようにして得られたものである。
すなわち、下記a鋼またはb鋼に示す成分組成の素材を150kg真空溶解炉にて溶製し、150mm角に熱間鍛造後、ダミービレットを製造し、850℃で80%の熱間加工を行った後、700℃〜500℃の温度範囲を0.7℃/sで冷却し、棒鋼圧延材を製造した。さらに、一部の棒鋼には、第2加工として、前記冷却の前に750℃で20%の加工あるいは、前記冷却の後に冷間で20%の加工を施した。
[a鋼]C:0.48mass%、Si:0.2mass%、Mn:0.78mass%、P:0.011mass%、S:0.019mass%、Al:0.024mass%、Ti:0.017mass%、B:0.0013mass%、N:0.0043mass%、O:0.0015mass%、残部Feおよび不可避不純物。
[b鋼]C:0.48mass%、Si:0.2mass%、Mn:0.79mass%、P:0.011mass%、S:0.021mass%、Al:0.024mass%、N:0.0039mass%、Mo:0.45mass%、Ti:0.021mass%、B:0.0024mass%、O:0.0015mass%、残部Feおよび不可避不純物。
得られた棒鋼から、回転曲げ疲労試験片を採取し、周波数:10〜200kHz、加熱温度870〜1050℃として高周波焼入れを施し、さらに、加熱炉を用いて170℃×30分の条件で焼もどしを行い供試材とした。高周波焼入れ条件は昇温速度を300℃/s以上、800℃以上での滞留時間は1秒以下となるように調整した。
得られた供試材について、回転曲げ疲労試験を行い、1×10回で破断しない限界応力を疲労強度として評価した。また、高周波焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒平均径を前述の方法により測定した。
図3に示したとおり、Mo添加鋼およびMo無添加鋼いずれにおいても、高周波焼入れ時の加熱温度を低下させることで硬化層の旧オーステナイト粒径を小さくできるが、Mo添加鋼においては、加熱温度を1000℃以下好ましくは 950℃以下とすることにより、特に顕著に硬化層粒径の微細化が達成される。
この現象が生じる理由は、明確にはわかっていないが、上記したMoとTiとを含む炭窒化物との関係で以下のように推定されている。すなわち、Mo添加鋼では前述のMo系微細炭窒化物が析出し、強力なピンニング力によりオーステナイト粒を微細化するためにMo無添加鋼に対して微細になると考えられる。しかし、たとえ短時間の高周波焼入れであっても加熱温度が1000℃を大きく超えると微細な(Mo,Ti)2(C,N)は溶解してしまい、ピンニングの効果が薄れてしまうと考えられる。
なお、図3から、Mo添加鋼において、第2加工(冷間加工あるいは700〜800℃未満での加工)を施した場合のほうが、より旧オーステナイト粒径を微細化できることがわかる。
また、図4には、硬化層の旧オーステナイト粒径と回転曲げ疲労特性との関係を示す。Mo添加鋼では、旧オーステナイト粒径が7μm以下の領域においても粒径が小さくなるとともに、疲労特性が向上することがわかる。これに対し、Mo無添加鋼では、粒径が7μm以下になると、それ以上粒径を小さくしても疲労強度が向上していないことがわかる。これは、Mo無添加鋼では、Mo添加鋼に比較して硬化層の硬度が低いため、旧オーステナイト粒径が在る程度以上微細化してしまうと、疲労破壊が粒内破壊となり、旧オーステナイト粒径に影響されなくなるためと考えられる。
表1に示す成分組成になる鋼素材を100kgずつ溶製し、表2に示す熱間加工条件に従って60mmφの棒状体に鍛造した。ここで、熱間加工の仕上温度は700℃以上とした。得られた棒状体を被削性試験に供するとともに、JIS Z 2274に準拠した1号試験片(平行部径8mmφ)を採取した。なお、表2のNo.10の条件以外は高周波焼入れを2段焼入れとし、1段目は最高加熱温度1050℃の焼入れを行っている。
被削性試験は、超工具(P10)を用い、切削速度:200m/min、送り:0.25mm/rev、切込み:2.0mmおよび無潤滑の条件で外周旋削試験により行い、工具寿命で判定した。なお、工具寿命の判定は超硬工具逃げ面摩擦が0.2mmに達するまでの総切削時間で評価した。
回転曲げ疲労試験片には、周波数:200kHz、出力120kWで、表2に示す昇温速度、加熱温度および滞留時間の各条件にて高周波焼入れを行った後、170℃で30minの焼戻しを行ったものに対し、回転曲げ疲労試験を実施した。そして、1×108回で破断しない限界応力を疲労強度として評価した。
また、高周波焼入れを行った回転曲げ疲労試験片について組織観察を行い、硬化層の旧オーステナイト粒径、硬化層の厚さ、および酸化物系介在物の最大径を測定した。ここで、旧オーステナイト粒径は、前述したとおりの方法で平均粒径を測定した。酸化物系介在物の最大径の測定方法についても前述のとおりである。また、硬化層の厚さは、試料表面からマルテンサイト面積率が98%に減少する深さまでとした。また、高周波焼入れ前の組織について光学顕微鏡により観察を行い、組織の同定を行うとともに、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率(体積%)を求めた。
表1および表2より、析出物の平均粒径、個数が本発明の範囲を満たし、さらに、高周波焼入れ条件が本発明の範囲を満たす場合には、硬化層の旧オーステナイト粒径が微細化し、回転曲げ疲労強度に優れていることがわかる。
これに対し、析出物の平均粒径、個数、高周波焼入れ条件のいずれかが、本発明の範囲を満足しない場合は、回転曲げ疲労強度が劣る。
なお、No.3はC含有量が上述の最適範囲よりも大きく、No.5は、Mo含有量が上述した最適範囲よりも大きく、No.6はO含有量が上述の大きい。そのため、その他の発明例に比較して被削性に劣ってる。
本発明によって得られる、優れた疲労強度、被削性を兼備した鋼材は、自動車ドライブシャフトや等速ジョイントなどは勿論、その他の機械構造用部品にも良好に利用し得る。
γ粒を超微細化するのに有効な微細析出物(Mo系析出物)の透過型電子顕微鏡写真である。 Mo系析出物の平均析出物直径が、旧オーステナイト粒径に及ぼす影響を示したグラフである。 Mo添加鋼とMo無添加鋼について、高周波焼入れ時の加熱温度が、硬化層の旧オーステナイト粒径に及ぼす影響を示すグラフである。 Mo添加鋼とMo無添加鋼について、高周波焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒平均径が疲労強度に及ぼす影響を示したグラフである。

Claims (6)

  1. 少なくとも一部表面に高周波焼入れによる硬化層を有する鋼材であって、該硬化層は、旧オーステナイト粒の平均粒径が7μm以下であり、かつ1μm3当たり500個以上の分散したMo系析出物を有し、該Mo系析出物の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする疲労特性に優れた鋼材。
  2. 前記Mo系析出物は、MoおよびTiを含む複合炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の疲労特性に優れた鋼材。
  3. C:0.3〜0.7mass%、
    Ti:0.005〜0.1mass%および
    Mo:0.05〜0.6mass%
    を含有する成分組成になることを特徴とする請求項1または2に記載の疲労特性に優れた鋼材。
  4. 請求項1、2または3の記載の鋼材を製造するための高周波焼入れ用鋼素材であって、鋼組織がベイナイトおよび/またはマルテンサイトを有し、該ベイナイトおよびマルテンサイトのいずれか一方または両方の合計の組織分率が10体積%以上であり、さらに、鋼材中にMo系析出物が1μm3当たり500個以上分散してなり、該Mo系析出物の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼素材。
  5. 前記Mo系析出物は、MoおよびTiを含む複合炭化物であることを特徴とする請求項4に記載の高周波焼入れ用鋼素材。
  6. C:0.3〜0.7mass%、
    Ti:0.005〜0.1mass%および
    Mo:0.05〜0.6mass%
    を含有する成分組成になることを特徴とする請求項4または5に記載の高周波焼入れ用鋼素材。
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