しかして、従来の布帛に対する仕上処理にあって「蒸熱処理」は、様々な圧力下にある高温の蒸気雰囲気中に布帛を置き或いは通して処理を行うものであって、その蒸気を布帛中に完全に浸透させるには、必然的に長時間を要し、多量の蒸気を使わなければならない。その結果、そこから発生する凝縮水の排出設備も大型化せざるを得ない。
また、上述の洗浄処理や除去処理も、前記蒸熱処理と同様に処理に長時間を要することに止まらず、洗浄水や除去液については前記蒸熱処理以上の量が使われる。一方、例えば編物の編目安定化などを目的として蒸熱処理がなされるが、この場合にも汚水の発生は少ないが、洗浄処理や除去処理は元来が繊維に付着する余剰物や汚点を洗い流したり除去するため、必ず汚水などの発生を伴う。更に、この洗浄処理や除去処理には、これらの処理工程のあとには必ず乾燥工程が必要となり、そのための乾燥設備が必要である。これは、単なる設備費だけでなく、上記蒸熱処理と比較すると使用する熱エネルギーの膨大な増加につながる。
本発明は、こうした従来の仕上処理が抱える幾多の課題を解消するだけでなく、当業者にとっても予測し得ない多様な処理を可能とする蒸気処理方法を提供することを目的としている。
本発明者らは、先ず上述のような従来の繊維布帛の仕上処理に代わる新しい仕上方法を見つけるべく、多方面からのアプローチを試みた。しかしながら、従来の仕上処理と全く異なるような技術分野には、当然ながら代替えとなるような技術を見つけることは出来なかった。そこで、改めて同じ繊維加工に関連する技術分野に目を向けたところ、繊維を交絡させて不織布を製造する上記特許文献1〜3を見い出すことができた。
これらの特許文献1〜3の内容は、不織布の製造ではあっても加熱蒸気を使っている点で、上記仕上処理における蒸熱処理と類似する点があり、これを利用するが可能であると予想した。そこで、前記特許文献1〜3の内容を詳しく検討した結果、全体として相当に改良を加えない限りは従来の仕上処理を凌駕することは難しいとの結論に達した。
その理由を具体的に挙げると、次の通りであった。
特許文献1の内容を分析するかぎり、そこには高温の蒸気を使う点について言及はされているものの、その噴射時の蒸気圧やノズル孔の大きさ、形状など、蒸気による繊維交絡に特有の各種条件に関する格別の記載はない。このことから、同文献1に開示された高温の例えば過熱蒸気流による不織布の製造は、その蒸気流による繊維交絡が主目的ではなく、いわゆる蒸気熱をもって熱溶融性材料からなる繊維ウェブの構成繊維を溶融させることを主な目的としていることが理解できる。通常、高圧水流の噴射により製造される交絡不織布には、繊維ウェブ面に噴射流体による打撃痕や開孔痕が残る。
この特許文献1の不織布の製造方法では、繊維ウェブに対して蒸気を噴射する前工程として、噴射水流による繊維交絡を行っている。従って、この噴射水流により繊維交絡がなされた布帛にも、当然に上記打撃痕や開孔痕が残っており、そこに噴射される高温蒸気は布帛全面にわたってその厚さ方向に貫通するものではなく、主に前記打撃痕や開孔痕を通過するものと考えられる。勿論、このとき前記打撃痕や開孔痕が形成されていない他のウェブ表面に存在する低融点の繊維も同時に溶融する。このことは、同文献1の図4〜図5にも前記打撃痕や開孔痕が形成されていない領域においても繊維同士が融着している部分が存在することからも認識できるところである。その結果、同図に示された不織布も柔軟性では従来のポイント接着による不織布と変わるところがなく、特にその表面は多くの溶着材料による硬化部分が存在することになる。
また、上記特許文献2には、水蒸気の噴出ノズルの一形態の構造が図示されてはいるもの、同噴出ノズルの構造やサイズ並びに使用態様等について具体的に記載が一切なされていない。
一方、上記特許文献3には、水蒸気の噴出ノズルの具体的構造が記載されてはいるが、同噴出ノズルに如何にして水蒸気を送り込み、そのノズルから如何なる条件下で高圧の水蒸気を均一に且つ連続して噴出させるかについては格別に記載されていない。この噴出に使われる水蒸気は、通常、僅かに添加剤を加えた工業用水が使われており、しかも各種の配管などを通過するため、同水蒸気には極く微細な異物が混合することがあり、噴出ノズル孔を閉塞させやすい。或いは、ノズルに導入された水蒸気の一部は凝縮してドレンとなってノズル孔の近くに溜まってノズル孔が閉塞されやすく、水蒸気が連続して噴出されずに間欠的に噴出されやすい。しかも、同文献3に開示されたノズルの構造も、液体流の噴射ノズルであれば好適に採用が可能ではあっても、蒸気の噴出ノズルとしては部品点数が多過ぎ複雑に過ぎる。
以上の点を克服しない限り、布帛を対象とする仕上処理には到底適用が不可能である。そこで、上記の課題を克服すべく更なる検討と試験とを繰り返した結果、ようやく本発明に到ったものである。
すなわち、本発明に係る布帛の蒸気処理方法の基本構成は、一端に加圧蒸気供給管に接続する蒸気導入口を、他端に外部の蒸気排出管と接続する蒸気排出口を有するとともに、下面の長さ方向に沿って開口を有する中空筒状のノズルホルダーと、前記ノズルホルダーの下面に脱着可能に配され、前記開口に対向して形成された複数のノズル孔を有するノズル部材とを備えてなる加圧蒸気噴出ノズルを用い、一方向に走行する繊維製布帛の幅方向に沿って、同布帛の表面に複数のノズル孔から加圧蒸気を連続して噴射することによる布帛の蒸気処理方法であって、始めに前記蒸気導入口から加圧蒸気を導入するとともに、その蒸気排出口から同加圧蒸気を外部に排出すること、前記加圧蒸気噴出ノズル内の温度を測定すること、同ノズル内の温度が所要の温度に達したとき、蒸気排出路をトラップを介するドレン抜き通路に切り換えて、前記蒸気の排出を停止させること、蒸気の排出停止後に、布帛を前記ノズルの噴射ノズル孔に対面させて連続的に走行させ、布帛の構成繊維間に噴射ノズル孔から噴出する加圧蒸気を貫通させることにより布帛を処理させること、及び布帛を貫通する蒸気を布帛の前記噴射ノズル孔とは反対側に配された吸引手段をもって吸引して外部に排出することを含んでなることを特徴とする布帛の蒸気処理方法にある。
かかる処理方法は、次の基本構成を備えた布帛の処理装置により効率的に実施できる。 すなわち、この処理装置の基本構成は加圧蒸気噴出ノズルの長手方向に形成された複数のノズル孔から、対向して走行する布帛に加圧蒸気を噴出することにより、布帛を処理する装置に関し、前記加圧蒸気噴出ノズルの一端に、加圧蒸気供給管を介して接続された加圧蒸気供給源と、前記加圧蒸気噴出ノズルの他端に開閉バルブを介して接続された蒸気排出管と、前記加圧蒸気噴出ノズルに形成された複数の加圧蒸気噴出ノズル孔に所定の間隔をおいて対向し、同加圧蒸気噴出ノズルを横切って一方向に移動する多孔の布帛移送体と、同移送体を挟んで前記加圧蒸気噴出ノズルと反対側に配された吸引手段とを備えることを特徴としている。前記加圧蒸気噴出ノズルとしては、後述する本発明における加圧蒸気噴出ノズルを採用することが望ましい。
前記加圧蒸気噴出ノズルの上記ノズルホルダーは、通常、断熱材などで被包されており、内部を通る加圧蒸気の温度低下を防止しているが、更に加圧蒸気噴出ノズルの全体を積極的に加熱することができる。その具体的な手法としては、シリコン系オイルなどの熱媒体による加熱、誘導加熱などの電気ヒーターによる加熱方法があり、その他に例えば加圧蒸気噴出ノズルの全体を加圧蒸気噴出側を開口させたボックス内に収容し、同ボックス内に加熱された高温の熱風を導入する。このように加圧蒸気噴出ノズルの全体を、熱風によって例えば使用する蒸気の飽和蒸気温度以上の温度に昇温して、これを維持すれば内部の加圧蒸気の温度低下が効果的に防げるようになり、布帛に作用する必要な温度の蒸気量を効率的に得やすくなるばかりでなく、所望の処理がなされた高品質の布帛が得やすい。
一方、通常は前記加圧蒸気噴出ノズルを走行する布帛の上方に配して布帛の上面に向けて加圧蒸気噴出流を付与するが、前記加圧蒸気噴出ノズルを走行する布帛の下方に配して加圧蒸気の噴出流を布帛の下面から上方に向けて付与することもできる。このように加圧蒸気の噴出流を布帛の下方から上方に向けて噴出させるときは、ノズルホルダーの上面側に配されたノズル孔に蒸気の凝縮水が溜まりにくくなり、ノズル孔の目詰まりなどが発生せず、安定した蒸気の噴出が可能となるため好ましい。
一組の上記加圧蒸気噴出ノズルと同ノズルに対向して配される蒸気の上記吸引手段とをもって布帛の一表面から加圧蒸気を付与しても本発明の初期の目的は達成されるが、この加圧蒸気噴出ノズルと蒸気吸引手段とを二組以上用意して、これらを布帛の表裏両面に交互に配し、布帛の表裏両面から加圧蒸気を噴出させるようしてもよい。この場合には、布帛の表裏から加圧蒸気の噴出流が付与されるため、布帛の表面層のみならず、内部の構成繊維にまで均等に作用し、布帛の厚み方向にわたって全体に均等な所望の処理が可能となる。また、一方向に走行する前記布帛と上記吸引手段との間に蒸気反射板を配することもできる。
好適な条件下で、布帛の表面に向けて加圧蒸気噴出ノズルから加圧蒸気を噴出させると、その加圧蒸気は布帛を貫通して、その貫通する間に布帛を構成する繊維や糸条にその加圧蒸気が後述するような多様な処理がなされる。しかし、布帛の加圧蒸気噴出側と貫通側との繊維及び糸条の処理結果を比較すると、蒸気噴出側の構成繊維や糸条の処理が貫通側の構成繊維や糸条の処理よりも進んでいることが分かった。そこで、上述のように布帛の表裏面に対して双方向に加圧蒸気を噴出させると、当然に布帛の表裏面において処理の進行度が均等になる。また、上述の蒸気反射板を配することによっても、布帛を貫通した蒸気は前記蒸気反射板により布帛の貫通側表面に反射し、蒸気反射板側の構成繊維又は糸条の処理が促進し、例えば布帛に対して一方向から加圧蒸気を噴出させた場合でも、その反対側の布帛を構成する繊維及び糸条の処理が進むため、表裏面共に均整で安定した処理がなされやすくなる。
上記布帛移送体は一方向に駆動回転する多孔のエンドレスベルトであっても、或いは一方向に駆動回転する多孔の回転ドラムであってもよい。
前者の場合には、そのエンドレスベルトの内側であって、上記加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔に対向する部位にスリット状の吸引開口を有する吸引手段が配されるが、後者の場合にも、前記回転ドラムの内側の加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔に対向する部位にスリット状の吸引開口を有する吸引手段を配することが望ましい。これらの吸引手段はいずれも、そのスリット状の吸引開口を加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔に沿わせるようにして固設されている。エンドレスベルト又は回転ドラムは可能な限り上記スリット状の吸引開口面に近接して回動するようにさせることが望ましい。
前記布帛移送体として多孔の回転ドラムを採用すると、装置全体の小型化が達成できる。この回転ドラム及び吸引手段の構造と配置には丸網抄紙機に採用される回転ドラム及び吸引手段と実質的に同一の構造と配置を採用することができる。また、多孔のエンドレスベルト及び回転ドラムとして、例えば金網やパンチングメタルを使うことができる。このとき、布帛移送体のメッシュ度は20(個/2.54cm)以上とすることが望ましく、布帛移送体のメッシュ度が20(個/2.54cm)より少ないと前記吸引手段による吸引効率が減少して布帛中に水分が残留しやすくなる。更に、メッシュ度が40(個/2.54cm)を越えると、吸引効率が増して布帛全体に対して蒸気による作用が満遍なく均等になされるため特に好ましい。また、蒸気反射板は直径1〜10mmの孔、開口率10〜50%程度の多孔を有することが好ましい。
通常、上記加圧蒸気噴出ノズルは所定の位置に固設され不動状態におかれており、上記布帛移送体も布帛を一方向に移送するように一方向に移動しているに過ぎないが、本発明にあっては前記加圧蒸気噴出ノズルを布帛の移送路の横断方向に短い行程で往復動させ、或いは同加圧蒸気噴出ノズルを固定しておき、前記布帛移送体を布帛移送路の横断方向に同じく短い行程をもって往復動させることが好ましい。前記加圧蒸気噴出ノズルと布帛移送体の双方を往復動させてもよい。このように、加圧蒸気噴出ノズル又は布帛移送体の、いずれか又は双方を往復動させる場合には、布帛の幅方向に均一に加圧蒸気が噴出付与され、製造される布帛の表面にノズル孔から噴出される蒸気によるモアレ状のパターンがつかず、均整な表面形態をもつ布帛が得られる。この往復動の行程幅はノズル間ピッチより多少でも長ければよく、具体的には±5mm程度であり、その往復速度は30〜300回/分である。
ところで、前記加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛との間の間隙は、布帛の処理目的により異なるが出来るかぎり小さい方が好ましい場合が多い。しかし、加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛とを摺接させると、両者の摩耗による損傷が激しく、所要の耐久性が得にくくなる。そこで、加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛との間に、その間隙を調整する手段を有していることが望ましい。この間隙調整手段により、加圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛との間の間隙を最適に調整することができ、同時に装置の耐久性が確保される。また前記布帛移送は、布帛を挟持しながら移送することもあり、この場合は布帛を下方から担持する布帛担持移送体と布帛を上方から押さえる布帛押圧移送体とを備えるようにしてもよい。この場合も、前記布帛担持移送体の間の間隙を調整する第2の間隙調整手段を設けて、布帛の構成繊維材料やウェブ厚に対応して、その挟持力を調整可能とすることが望ましい。
また、この処理装置にあっては、上記加圧蒸気供給管の管路に蒸気貯留部を配して、同蒸気貯留部に一旦蒸気を貯留し、そこに溜まる蒸気中の塵芥等を凝縮液とともに、例えばトラップを介して外部に排出できるようにすることが好ましい。更に、前記蒸気貯留部と前記加圧蒸気噴出ノズルの一端との間の加圧蒸気供給管の管路に加熱手段を配し、前記蒸気貯留部と前記蒸気噴出ノズルとの間にて、加圧蒸気の前記加熱蒸気供給管内を通過する蒸気を追加過熱して過熱蒸気を生成させることにより、布帛に所望の高圧下における極めて高温の蒸気を噴出させることができるため好ましい。このとき、前記蒸気噴出ノズルに導入される蒸気圧を0. 1〜2MPaとすると、蒸気を布帛の表裏に確実に貫通させることができるため好ましい場合が多い。
蒸気噴出ノズルから噴出する加圧蒸気は、ノズル孔から外部に噴出すると同時に断熱膨張により急激に温度が低下する。この温度の低下により蒸気が凝縮して霧状の液体となりやすく、周辺に吹き上がり高圧流体ではなくなるため、布帛の内部にまで到達しにくくなる。過熱蒸気は飽和蒸気圧の下で飽和温度以上の温度にまで高温化された蒸気であり、飽和温度と過熱温度との中間では凝縮液化がなされにくくなる。そのため、蒸気噴出ノズルから噴出する過熱蒸気は布帛に当たっても凝縮することなく、その内部まで浸入して貫通し、周辺の繊維を加熱しながら処理を進行させる。
また、同処理装置にあって、上記開閉バルブと前記加圧蒸気噴出ノズルの他端との間の蒸気排出管の管路から分岐するトラップ管路を配することもできる。上述のごとく装置の稼働開始に先立って、蒸気噴出ノズルの蒸気排出口に接続された蒸気排出管に設けられた開閉バルブを開き、蒸気噴出ノズルの一端から加圧蒸気を導入して、その他端の蒸気排出口から蒸気を排出し、蒸気噴出ノズルの内部温度が所定の温度まで上がったとき、前記開閉バルブを閉じる。
上述のように、蒸気排出管の管路から分岐するトラップ管路を設けておくと、開閉バルブが閉じられたのちも、蒸気噴出ノズル内に発生する凝縮液や蒸気中に含まれる微細な異物などが凝縮液とともに蒸気排出管を介してトラップ管路へと流れ、適時に外部へと排出されるようになり、装置の稼働時にも凝縮液や微細な異物によりノズル孔が詰まることがなく、全てのノズル孔から安定して蒸気を噴出させることができるようになる。
こうした本発明の処理方法と同方法を実施するための処理装置に適用される蒸気噴出ノズルとしては、以下に述べる構成を備えた加圧蒸気噴出ノズルを採用することができる。また、本発明にあって一般的には加圧蒸気噴出ノズルを一段配して格別の支障を来すことはないが、同蒸気噴出ノズルを布帛の走行方向に多段に配することもできる。この場合、既述したように、加圧蒸気噴出ノズルとその吸引手段を、布帛に対して表裏交互に配するようにすれば、均一な布帛処理ができる。更に、前記加圧蒸気ノズルのノズル孔の配置を各段ごとに布帛の幅方向に変位させることが望ましい。
上記加圧蒸気噴出ノズルの基本構成は、一端に加圧蒸気供給管と接続する蒸気導入口を、他端に外部の蒸気排出管と接続する蒸気排出口を有するとともに、下面の長さ方向に沿って延びる開口を有する中空筒状のノズルホルダーと、前記ノズルホルダーの下面に脱着可能に配され、前記開口に対向して形成された複数のノズル孔を有するノズル部材とを備えていることが望ましい。
ここで最も注目すべき点は、ノズルホルダーの一端に蒸気導入口を、他端に蒸気排出口を有する点にある。蒸気噴出ノズルから、常に蒸気を噴出させておくことはできない。例えば、定期点検時や機械の停止時には蒸気の供給も停止させる。このように蒸気の噴出を停止させると、当然にノズル内の温度も急激に低下する。蒸気の噴出を再開させて布帛の処理を開始するには、蒸気噴出ノズルの内部を所定の温度まで昇温させる必要がある。この昇温時に、従来の噴出ノズルのごとく蒸気導入口以外を密閉状態に構成する場合には、ノズルホルダー内に導入される蒸気量はノズル孔から噴出する量に止まり、熱量の交換量が少なくノズル自体を昇温させるために長い時間がかかることになる。
そのため、本発明にあっては、上述のごとくノズルホルダーの他端に蒸気排出口を設けて、同蒸気排出口に接続された蒸気排出管に、例えば後述するように開閉バルブなどを取り付けて蒸気排出口を開閉可能にする。いま、布帛製造装置を始動させる前に、ノズルホルダーに蒸気を導入する。このとき、蒸気排出口を開口させておき、蒸気導入口から導入される蒸気を蒸気排出口を通して連続して外部に排出する。ノズルホルダーの温度を測定し、その温度が所定の高温に達したとき、前記蒸気排出口を閉鎖する。この閉鎖と同時に蒸気導入口における蒸気圧を測定し、その蒸気圧が所定の圧力に達したとき布帛製造装置を始動させる。このときの始動までの時間は、ノズルホルダー内を通過する新たな高温蒸気によりノズルホルダーが速やかに昇温されるため、従来のごとく蒸気排出口が存在しない場合と較べると大幅に短縮される。
中空筒状のノズルホルダーの形状としては、具体的に円筒状のノズルホルダーや矩形状のノズルホルダーが挙げられ、特に円筒状のノズルホルダーが加圧蒸気の均一な流れや製作上の点から好ましく用いられる。また、実際の作業時には、かかるノズルホルダーの内部にメッシュの筒状フイルター、例えば円筒状のノズルホルダーにあっては円筒状のフイルターを、また矩形状のノズルホルダーにあっては矩形状のフイルターを同一軸線上に配することが望ましいが、必ずしもこれらに限定されない。
本発明にあって、上述のように円筒状のノズルホルダーを用いる場合には、前記ノズルホルダーの内部にメッシュの円筒状フィルターを同一軸線上に配することが望ましい。この場合、ノズルホルダーの一端に設けられた蒸気導入口から導入される蒸気は円筒状フィルターの内部へと導入され、同フィルターを通過してノズルプレートに形成されたノズル孔に達し、同ノズル孔から外部に噴出する。このとき、ノズルホルダーの内壁面における長手方向の圧力分布は円筒状フィルターにより均一化されるとともに、蒸気導入時に含まれる微細な異物が円筒状フィルターによって蒸気中から除去されるため、ノズルホルダーの長手方向に沿って形成されたノズル部材のノズル孔を閉塞させることなく、同ノズル孔から均等な噴出圧をもって高圧蒸気が安定して噴出されるようになる。メッシュフィルターは蒸気導入時に含まれる微細な異物を除去することを目的とし1〜50μm程度の孔径が好ましい。
前記ノズルホルダーはその下部にドレン排出口を有する。更に、前記ノズルホルダーは単独に又はノズル部材とともに、傾斜させることが好ましい。これは、稼働中にノズルホルダー内にドレンが溜まるため、そのドレンを外部に排出しやすくするためである。そのため、ノズルホルダーの傾斜方向の低いほうの基端部にドレン排出口を形成し、例えば開閉バルブなどにより開閉自在とされ、任意の時間帯に同バルブを開いてノズルホルダーの内部に溜まったドレンを外部へと排出する。このとき、ノズルホルダーは傾斜して配されているため、自然流にまかせれば吸引などの余分な装置が不要である。なお、このノズルホルダーを単独に傾斜させてもよいし、ノズル部材とともに傾斜させてもよい。
更に、ドレンがノズル孔などの目詰まりを起こさせないため、ノズルホルダーの底面とノズル部材の配置平面との間に段差を設けたり、或いはノズルホルダーの底面にドレン流路(溝)を形成し、更にはノズルホルダーの底面と一部で連通するドレン流路をノズルホルダーと独立して設けるようにすることもできる。この独立してドレン流路を設ける場合には上述のようにノズルホルダーを傾斜させることなく、同流路だけを傾斜させるようにしてもよい。なお、この傾斜勾配は、最大でも1/100(100mm長で1mmの高さ勾配)であることが望ましく、更には1/500以上であることが好ましい。1/100を越えると均一な蒸気処理ができなくなり、1/500未満であるとノズルホルダーの内壁面に表面処理を施さないかぎりドレンが流れにくくなる。
一方、前記ノズルホルダーの下面に形成される上記開口は、ノズルホルダーの長さ方向に連続して形成されるスリット状の開口であっても、或いはノズルホルダーの長さ方向に千鳥状に形成された多数の小孔であってもよい。これらの開口を介してノズル部材に形成されたノズル孔に達する蒸気の圧力は均圧化されノズル長手方向に対する蒸気の均一な噴射が可能となる。上記ドレン流路は、当然にノズルホルダーの前記開口から外れた部位に形成される。
上記ノズル部材を多数のノズル孔を有するノズルプレートと同ノズルプレートを支持するプレート支持部材とから構成することができる。前記ノズル孔は筒孔を有していることが好ましい。前記筒孔の形状は単なる円筒状であってもよいが、前記ノズル孔の筒孔上端に連続する逆台形部を更に有するようにしても、或いは前記ノズル孔が前記筒孔の下端周縁からその口啌内に向けて同心上、好ましくは同心円上に延出するリング片を有するようにしてもよい。更には、前記ノズル孔の筒孔上端に前記ノズルプレートの長手方向に連続する逆台形断面の連続溝部を有するようにしてもよいし、或いは前記円筒状の各筒孔上端に逆円錐台孔を有するようにしてもよい。
前記ノズルプレートに形成されるノズル孔は、ノズルプレートの長手方向に単列に形成してもよいが、例えばノズルプレートの幅方向に複数列に形成することもできる。この場合複数列のノズル孔を千鳥状に配すると、噴出蒸気が布帛の幅方向に満遍なく作用するため好ましい。
なお、前記筒孔、好ましくは円筒状の筒孔の高さと内径との比の値は1〜2とすることが好ましい。その値が1より小さいと、蒸気流が柱状流となりにくく、2よりも大きいと、ノズル孔の径が微小であることとノズルプレートの板厚との関係で高精度の加工が難しい。また、加工上の精度が問われるものの、可能ならばノズル孔を上述のように円筒状の筒孔の下端周縁からその口啌内に向けて同心円上に延出するリング片を有するように構成すれば、ノズル孔から噴出する蒸気流がある一点に集束するようになり、例えば布帛に対する貫通力が増して、同ウェブの表裏を貫通しやすくなる。前記集束点はノズル孔の径と蒸気圧とから決まる。
前記ノズルプレートの板厚を0.5〜1mm、前記ノズル孔の蒸気噴出口内径を0.05〜1mm、同ノズル間のピッチを0.5〜3mmとすることが好ましい。ノズルプレートの板厚が0.5mmより小さいと蒸気圧に耐え得るに十分な強度が得にくく、1mmを越えると微細なノズル孔の高精度な加工が難しい。このノズル孔の形成加工には、放電加工やレーザ加工を採用できる。また、布帛の処理目的により異なるが、ノズル孔の蒸気噴出口内径が0.05mmより小さいとその加工が難しいばかりでなく、目詰まりを起こしやすくなり、1mmを越えると蒸気噴出時に所要の噴出力が得にくくなる。ノズル間のピッチは0. 5〜3mmであれば、隣接するノズル孔から噴出する蒸気流との干渉がなく、同時に加圧蒸気が繊維布帛を安定して貫通し、同布帛の構成繊維又は構成糸条に加圧蒸気が十分に行きわたり、満遍なく均等に所望の処理がなされる。なお、ノズル間のピッチは、各ノズル孔の中心点間距離をいう。
更に本発明にあっては、上記ノズル部材が、上記ノズルホルダーの下端開口に連通する船形の凹陥溝部と、同凹陥溝部の船底部に沿って形成された矩形断面溝部と、同矩形断面溝部の長さ方向に沿って所定ピッチをもって形成された複数の逆円錐台孔と、各逆円錐台孔の下端に連続して形成された円筒状の筒孔とを備えてなる単一部材から構成することもできる。このようにノズル部材を単一部材で構成することにより部品点数が大幅に削減されるばかりでなく、ノズル孔の上記噴射開口端を布帛の噴射表面に直接接近させることが可能となって、加圧蒸気の断熱膨張による圧力損失が軽減され、よりウェブ内の貫通力が得られる。更には、前記ノズル部材の幅方向の下端面形状を下方に突出する湾曲面形状とすると、布帛の導入が容易になる。この発明にあっても、前記筒孔の高さと内径との比の値は1〜2とすることが好ましく、また前記ノズル孔の蒸気噴出口内径を0.05〜1mm、同ノズル間のピッチを0.5〜3mmとすることが好ましい。この場合のノズル間のピッチも上記同様、各ノズル孔の中心点間距離をいう。この場合にも前記ノズル孔をノズル部材の長手方向に複数列に形成することが好ましい。
ところで、本発明でいう繊維製布帛は、少なくとも織物、編物、不織布、又はこれらの積層シートを含んでなり蒸気が貫通する構造を有するものであればよく、例えばパーフォレートフィルムと織物の積層したものも繊維製布帛である。本発明の布帛を構成する繊維は、有機繊維(羊毛、麻、絹等の天然繊維、及びポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維、並びにアセテート繊維などのような半合成繊維、レーヨンに代表される再生繊維など)、無機繊維(ガラス繊維、鉱物繊維、金属繊維など)の単独、又は有機繊維同士又は無機繊維同士若しくは有機繊維と無機繊維をそれらの併用したものである。
本発明による布帛の蒸気処理方法によれば、例えば布帛の洗浄処理、脱色処理、液体処理後の布帛の脱液処理、布帛の風合改良処理、布帛に対する各種の薬剤処理を行うことが可能となる。これらの例示のうち布帛の風合改良処理、或いは通常の熱セットなどに蒸熱処理を行うことはあるが、その他の処理については、一般に流体処理が採用され、しかも前記蒸熱処理にしても布帛を高温蒸気の雰囲気中におき、或いは同雰囲気中を単に通して処理している。
本発明による布帛の蒸気処理方法は、既述したとおり布帛に向けて加圧蒸気噴出ノズルから加圧蒸気を噴出して同布帛を貫通させることにより、上述のような多様な処理を行おうとするものである。従って、本発明の加圧蒸気噴出ノズルから噴出される加熱蒸気処理方法は従来の液体による処理方法とは本質的に異なる処理方法であり、また従来の蒸熱処理とも、蒸気を使う点では一致するものの、その構成は勿論のこと、機能と効果の点では全く異なる。
本発明による布帛の洗浄処理は、従来のような余剰の染料などを洗浄液や水による除去と同様の除去ができるが、更には布帛又はその構成繊維に付着する糊剤、油剤、各種樹脂などの付着物をも確実に除去することが可能となる。これは、布帛を構成する繊維や糸条に付着する糊剤、油剤、各種樹脂など、付着物の材質に影響されることなく、加圧蒸気が布帛を貫通するとき、それらの付着物を同蒸気により瞬間的に布帛の外へと随伴させることによる。例えば、金属繊維からなる織物又は編物は、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布の製造工程に於けるウェブの移送手段として用いられているが、前記織物又は編物からなる布帛上で溶融状態にある繊維状に形成されたポリマーが冷却する際、布帛にこびり付いた付着物を洗浄する場合にも用いることが可能である。本発明では液体処理ではなく蒸気(気体)処理であるがため、布帛を構成する繊維や糸条に水分を付着させることなしに各種の処理を行うことができる。そのため、後述するように洗浄後の布帛を改めて加熱乾燥工程や溶剤などの除去工程を通過させる必要がない。これは設備費やエネルギーコストの大幅な削減につながる。
また上記脱色処理は、例えば従来の脱色剤を使った脱色に代えて、本発明の蒸気処理方法により、簡単に製品になる以前の原反のとき、その染色の一部を簡単に脱色することができ、或いは布帛の移送速度と布帛と移送手段との間の幅方向の振動とを適当に組み合わせて制御すれば、モアレ調の模様を作成することができ、しかも原反までも傷めるようなことがない。
更に、上記液体処理後、例えば洗浄後の布帛に対する脱液(乾燥)処理についても上記洗浄処理と同様に、布帛には全工程における大量の処理液体が含浸あるいは付着している。つまり、通常の乾燥工程のごとく布帛から液分を効率的に除去できるため、従来の全ての乾燥工程に代えて本発明方法を適用すればよい。この場合、大型の乾燥チャンバー、多数の加熱ランプ、加熱ドラムや加熱ロール、これらの加熱ランプ、加熱ドラム又は加熱ロールに接続される電気エネルギーや流体エネルギーの供給設備、排気設備などが不要となり、使用エネルギー量も、従来と比較して大幅に低減される。また、上記布帛の風合改良処理も、例えば従来の羊毛織物や編物に対する洗絨法や蒸絨法などと比較すると、工程数が少なくなり、しかも短時間で目が詰まった表面がソフト感に富んだ羊毛製の布帛を連続して効率よく処理することができる。また本発明にあって、蒸気ノズルホルダーの蒸気導入路に更に薬剤注入路を合流させて布帛に加圧蒸気とともに薬剤を噴出すれば、他の処理と同時に薬剤処理を行うこともできる。
そして、これらの多様な処理法は、布帛の移送速度、加圧蒸気の温度と蒸気圧、布帛と前記ノズルの噴出開口端との間隙などの処理条件を好適に組み合わすことにより実施が可能となる。更に、それらの値の決定は、布帛の種類(織物、編物、不織布など)及び構造(織又は編組織、織又は編密度、不織布の繊維密度)、布帛の構成繊維や糸条の材質、布帛の厚さなどの布帛条件に基づいてなされるため、一律に決めることはできない。
以下、本発明の加圧蒸気による繊維布帛の処理方法の好適な実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1及び図2は、本発明に係る繊維布帛の処理方法の第1実施形態である布帛処理工程の概要を示している。詳しくは後述する加圧蒸気噴出ノズル10の下方に、所定の間隔をおいてエンドレスベルト30が配されている。このエンドレスベルト30は前記加圧蒸気噴出ノズル10を横切るようにして一方向に回動する。そのため、同エンドレスベルト30の両端反転部は、図示せぬ駆動モータにより駆動される駆動ロール31及び従動ロール32により駆動支持されるとともに、下方においてテンションロール33にて支持し、エンドレスベルト30に適切な張力を与えている。このエンドレスベルト30は、例えば合成樹脂製の太い線条を使って粗目に織り込まれたメッシュ状の織物や薄い金属製のパンチングプレート材から構成される。
そのメッシュ度は任意に設定される。また、前記加圧蒸気噴出ノズル10とエンドレスベルト30に担持されて移送される布帛との間隔も、先ず洗浄処理であるか、或いは布帛を構成する繊維や糸条に付着する糊剤、油剤、樹脂の除去処理であるかなどの処理の種類や、織物であるか、編物や不織布であるかなど布帛の種類により異なり、更にはその構成素材の材質、織編密度、繊維密度、糸条太さ、繊度、布帛の厚さなどにより異なり、一概には決めがたい。前記加圧蒸気噴出ノズル10に導入される蒸気圧は、0.1〜2MPaとすることが望ましく、蒸気噴出ノズルから噴出される蒸気を過熱蒸気とすれば、加圧蒸気噴出ノズル10から噴出する過熱蒸気が断熱膨張による温度低下を起こしても、霧状の蒸気とはならず霧散することもなくなる。
前記加圧蒸気噴出ノズル10の設置部位に対応する前記エンドレスベルト30を挟んで下方には吸引手段が配されている。本実施形態では、同吸引手段はサクションボックス40と、同サクションボックス40にセパレータタンク41を介して配管により連結された真空ポンプ42と、同真空ポンプ42の排出側に連結されたミストセパレータ43とから構成される。ここで、前記セパレータタンク41はサクションボックス40により吸引される蒸気を気液に分離するための気液分離タンクであり、前記ミストセパレータ43は真空ポンプ42から排出される蒸気中の異物や有害ガス或いは液体などを蒸気から除去して、清浄な蒸気(気体)を外部に放出するとともに、真空ポンプから発生する騒音を低減化するサイレンサーとしての機能も有する。
上記加圧蒸気噴出ノズル10は後述する図3〜図18に示すようなノズル構造を備えており、その蒸気導入側端部には加圧蒸気供給源Sから供給される高圧の蒸気が蒸気導入側主管路(c1)を通して導入される。この蒸気導入側主管路(c1)では、蒸気供給源Sから送られる蒸気を一旦蒸気貯留部51に導き、その底部に蒸気中に含まれるドレンを貯留して、これを第2のトラップ管路57を介して図示せぬ回収タンクに回収している。蒸気貯留部51に導入された蒸気は圧力制御バルブ52及び精密フィルター53を介して加熱ヒーター54により加熱されて過熱蒸気となり、加圧蒸気噴出ノズル10に送り込まれる。
本実施形態にあっては、前記加熱ヒーター54と加圧蒸気噴出ノズル10の蒸気導入側端部との間に、温度検出器TIと圧力検出器PIとが配されている。前記蒸気導入側配管路(c1)は加熱ヒーター54の設置部位から分岐する蒸気補充管路(c2)を有しており、この蒸気補充管路(c2)は加圧蒸気供給源Sと接続されている。この蒸気補充管路(c2)の途中には、前記加熱ヒーター54からの温度検出信号を受けて作動する第1の開閉バルブ55が介装され、前記温度検出器TIにより検出される蒸気温度が下限の温度より低下すると前記開閉バルブ55を開き新たな蒸気を蒸気導入側主管路(c1)に補給して過熱蒸気温度を所定の温度範囲まで上昇させる。蒸気温度が上限の温度を越えると前記開閉バルブ55を閉じ補給蒸気を遮断する。
上記のようなシステムにより対象とする蒸気の温度を所定の温度範囲に制御することが可能となる。また、前記圧力検出器PIは上記精密フィルター53の上流側に配された圧力制御バルブ52に接続されており、蒸気導入側主管路(c1)の蒸気圧を一定に維持するように調整する。上記精密フィルター53は0.5〜10μmの孔径が好ましい。
一方、加圧蒸気噴出ノズル10の蒸気排出側端部には第2の温度検出器TIが配され、蒸気排出側端部は蒸気排出管路(c3)と接続されている。同蒸気排出管路(c3)には、前記第2の温度検出器TIに接続されて、同温度検出器TIにより検出された蒸気温度が設定温度に達すると閉鎖する第2の開閉バルブ56が介装されている。また、前記第2の開閉バルブ56の下流側から第2のトラップ管路57が分岐しており、前記第2の開閉バルブ56が閉まって蒸気排出管路(c3)が閉鎖されたときでも、加圧蒸気噴出ノズル10のノズルホルダー11(図2)内部に発生するドレンを常に図示せぬ回収タンクに排出するようにしている。
更に本実施形態では、図2においてノズルホルダー11の加圧蒸気導入側端部にあって、その底面に蒸気凝縮液の排出口が形成されており、その排出口はドレン管路(c4)と第3開閉バルブ62を介して接続されている。このとき、前記加圧蒸気噴出ノズル10は、その加圧蒸気導入側端部を基端部として上記蒸気排出管路(c3)の端部を上方に僅かに持ち上げ、加圧蒸気噴出ノズル10を傾斜させておく。ノズルホルダー11に導入される加圧蒸気は加圧蒸気噴出ノズル10の稼働中にどうしても凝縮して液化する。既述したとおり、ノズルホルダー11の底面側開口には後述する第1ノズルプレート支持部材が嵌め込まれるようにして固着される。そのためノズルホルダー11の底面と第1ノズルプレート支持部材との間には、同支持部材の上面が高くなるように段差が作られており、通常はノズルホルダー11の内部に生成される凝縮液(水)がノズルプレートに達することはないが、凝縮液の量が増加すると前記段差を越えてノズルプレートに流れ込まないとは限らなくなる。その結果、ノズルプレートに形成されたノズル孔に目詰まりが生じて、加圧蒸気の噴出が円滑になされなくなる。
上述のように、ノズルホルダー11の加圧蒸気導入側端部の底面に蒸気凝縮液の排出口を形成するとともに第3開閉バルブ62を介してドレン管路(c4)と接続しておけば、必要に応じて第3開閉バルブ62を開けて、ノズルホルダー11の底面に溜まった凝縮液を外部に排出することができる。このとき、上述のようにノズルホルダー11の加圧蒸気導入側端部を蒸気排出管路(c3)の端部よりも下方に僅かに低くなるように設置しておけば、ノズルホルダー11の底面に溜まった凝縮液は自動的に加圧蒸気導入側端部の凝縮液の排出口へと集まるため、その排出が容易になる。なお、凝縮液をノズルホルダー11の底面側に集めて円滑に加圧蒸気導入側端部に流れるようにするには、同ノズルホルダー11の底面に長手方向に延びる凹溝を形成しておくことが好ましい。
上記セパレータタンク41の天板部の排気口が開閉バルブ47を介して上記真空ポンプ42とを連結する吸引管路(c4)に接続され、同セパレータタンク41の底部は流体ポンプ48を介して水供給源Wと連結されている。また、このセパレータタンク41の上限水位部と下限水位部との間に水位検出器49が配され、同セパレータタンク41の水位が上限を越え又は下限を下回ると、その信号を送って図示せぬ制御装置の指令により前記流体ポンプ48の作動を停止させるようにしている。
また、本実施形態では前記加圧蒸気噴出ノズル10の設置部を被包するようにして開閉蓋60が設置されている。この開閉蓋60の天板部は吸引ポンプ61が接続されており、同吸引ポンプ61により加圧蒸気噴出ノズル10の設置部で発生する霧状の水蒸気を常時吸引して外部に放出するようにしている。なお、本実施形態にあって図示を省略したが、当然に加圧蒸気噴出ノズル10とその蒸気導入配管や蒸気排出管などは、蒸気噴出ノズル孔を除きアルミ箔付きのガラス繊維マットなどの断熱材で被覆している。
以上のごとく構成された本実施形態による布帛の処理装置によれば、稼働に先立って、先ず上記加圧蒸気噴出ノズル10の蒸気排出管路(c3)の第2開閉バルブ56を開けて蒸気導入側主管路(c1)から高圧の過熱蒸気を導入すると、新鮮な過熱蒸気が加圧蒸気噴出ノズル10のノズルホルダー11の内部を、その導入側開口から排出側開口へと流れ、ノズルホルダー11を所要の過熱温度まで速やかに昇温させる。このとき、ノズルホルダー11の蒸気排出側端部に設置された温度検出器TIによりその温度を検出しており、同検出温度が所要の温度に達すると上記第2の開閉バルブ56を閉じる。この開閉バルブ56を閉じると同時に、エンドレスベルト30を駆動して、その回動を開始する。
エンドレスベルト30の回動により、同ベルト上を移送される布帛Tの表面には、上記加圧蒸気噴出ノズル10の各ノズル孔から噴出する均等な圧力と温度をもつ柱状又は収束流の過熱蒸気が付与され、その強力な過熱蒸気流が布帛内へと浸入し、周辺繊維を交絡させながら同時に熱セットを行いながらウェブを貫通して蒸気による繊維布帛が連続して処理される。このとき、蒸気排出管路(c3)に設置された第2の開閉バルブ56は閉じられた状態にあり、加圧蒸気噴出ノズル10のノズルホルダー11の内部にはドレンが生じるが、このドレンは、前記第2の開閉バルブ56の上流側から分岐する第2のトラップ管路57を介して常に系外に設置された回収タンクに回収される。
その結果、ノズル孔16aに目詰まりが発生することがなく、同ノズル孔16aから噴出される過熱蒸気は間欠的に噴出することなく安定して連続で噴出するようになる。このように、走行する繊維ウェブの表面に安定した過熱蒸気が連続して噴出されるため、ウェブ全体に均等な交絡がなされるようになり、所要の強度を備えた極めて高品質な布帛が処理される。
図3〜図6は、本発明の重要な構成部材でもある上記加圧蒸気噴出ノズルの代表的な実施例の第1構造例を示している。この第1構造例による加圧蒸気噴出ノズル10は、ノズルホルダー11と、同ノズルホルダー11の両端部に溶接により固着された第1及び第2フランジ12,13と、前記ノズルホルダー11の内部に挿通されて両端部を第1及び第2フランジ12,13により支持された円筒状のメッシュフィルター14と、前記ノズルホルダー11の下面に沿って溶接又はボルト等により固着される多数のノズル孔をもつノズル部材15とを備えている。図示例によるノズル部材15は、第1の及び第2のノズルプレート支持部材15a,15bと、第1及び第2のノズルプレート支持部材15a,15bの間に固定用ボルトによって締結されるノズルプレート16とを備えている。
前記ノズルホルダー11の蒸気導入側端部に固着された第1フランジ12は中心線に沿って大径部12a及び小径部12bとからなる貫通孔12cが形成されており、図示せぬ加圧蒸気供給源に接続された図示せぬ加圧蒸気供給管にプラグ17を介して接続される。前記ノズルホルダー11の蒸気排出側端部に固着された第2フランジ13も、その中心線に沿って大径部13a及び小径部13bとからなる貫通孔13cが形成されており、図示せぬ排気ファンに接続された図示せぬ蒸気排出管と接続される。前記メッシュフィルター14の両端部には、前記第1及び第2フランジ12,13の各大径部12a,13aに気密に固設されるリング状の固着部材18,19を固着してある。
前記ノズルホルダー11の下面部には、その両端部を残して内部空間に達するまで平面的に切除されて切除面11aを形成している。その結果、ノズルホルダー11の下面中央には長手方向にスリット状開口11bが形成される。上記ノズル部材15は、図3及び図4に示すように、角柱状の第1ノズルプレート支持部材15aと同第1支持部材15aと同じ長さと幅を有する板状の第2ノズルプレート支持部材15bとから構成される。第1ノズルプレート支持部材15aの下面中央部にはその長手方向の両端部を除いて長手方向に凹陥部15a’が形成されている。また、その上面中央部には、前記凹陥部15a’に通じる多数の貫通孔15a″が図6に拡大して示すように長手方向に千鳥状に配されて形成されている。
一方、前記第2ノズルプレート支持部材15bには、図6に拡大して示すように、前記凹陥部15a’に対応する部位に長手方向に延びるスリット状の開口15b’が形成されている。このスリット状開口15b’の断面は、前記凹陥部15a’の対向側に縦長の矩形断面を呈し、その下端に連続して下方に拡開する台形断面を呈している。また、第2ノズルプレート支持部材15bの前記スリット状開口15b’が形成された部位は他の部分よりも所定の幅をもって薄肉部15b″に形成され、この薄肉部15b″に対向する第1ノズルプレート支持部材15aの下面は、前記薄肉部15b″に嵌合する突出部15cを有している。
上記ノズルプレート16は前記薄肉部15b″に嵌め込まれる大きさと形状を有する細長い薄板片からなり、その幅方向の中央には所定のピッチをもって長手方向に一列又は多列に並んで形成された多数のノズル孔16aを有している。第1ノズルプレート支持部材15aは、図3及び図5に示すように、同第1ノズルプレート支持部材15aの上面をノズルホルダー11の上記切除面11aに密接させた状態で、溶接により固設一体化されている。前記ノズルプレート16は、上記第1ノズルプレート支持部材15aの突出部15cと第2ノズルプレート支持部材15bの薄肉部15b″との合わせ面の間にて挟持された状態で、第1ノズルプレート支持部材15a及び第2ノズルプレート支持部材15bとがOリング20を介してボルト21により気密に固着されることにより強固に支持される。従って、ノズルプレート16はボルト21を外すことにより、容易に取り外すことができるため、洗浄や交換が簡単にできる。
上記ノズル孔16aは単なる円筒形のみならず、図7〜図9に示すような形状とすることができる。図7に示すノズル孔16aの形状は、上部が逆円錐台形であり、その逆円錐台形に連続する下部を円筒形に形成している。この孔形状を採用するときは、同図に示すように、円筒形の高さをL、円筒形の口径をDとしたとき、L/Dの値を1〜2とすることが、噴射流の良好な収束性の確保と高精度の孔加工を可能にする両面から望ましい。
図8はノズルプレート16の上面に逆台形断面の溝を形成するとともに、その底面に長さ方向に所定のピッチをもって多数の円筒孔を形成しており、更にその円筒孔列に沿った左右両端を切除している。このとき突出する円筒孔の先端稜線部を円弧状に面加工すれば、上記噴出時に同ノズル孔16aを繊維布帛に接触又は接近させても、繊維布帛の表面繊維を乱すことがない。図9に示すノズル孔16aの形状は、円筒形の孔の下端周縁から内側に向けて同心円上に延出するリング片16a’を形成している。かかる孔形状を採用することにより、同ノズル孔16aから噴出される高圧蒸気は集束流となる。
かかる構成を備えた加圧蒸気噴出ノズル10によれば、後述するように、例えば加圧蒸気噴出ノズル10から高温高圧の蒸気を噴出させるとき、始動時にはパイプ状ノズルホルダー11の一端から蒸気を導入して、その他端から放出させれば、高温高圧の新鮮な蒸気がノズルホルダー11の内部を何らの障害もなく通過するため、温度の低下したノズルホルダー11を短時間で所定の温度まで昇温させることができる。これが、従来のようにノズルホルダーに蒸気の導入開口のみが設けられているときは、ノズルホルダーに新鮮な高温高圧の蒸気を導入しても、蒸気はノズルホルダーの内部を流通せず、該ホルダー内に充満するだけであるため、熱量の交換が行われず蒸気の凝縮が起こりやすくなり、ノズルホルダーの昇温に長時間を要することになる。
図10は、本発明に係る加圧蒸気噴出ノズル10の第2構造例を示している。この第2構造例と上述の第1構造例との間で異なるところは、ノズルホルダー11の切除面11aに溶接により固着された第1ノズルプレート支持部材15aの構造にある。この第2構造例によれば、前記第1ノズルプレート支持部材15aから千鳥状に配列された貫通孔15a″が排除され、上記凹陥部15a’をそのままノズルホルダー11の切除面11aに形成されたスリット状開口11bに連通させている。これは、高温高圧の蒸気にあっては、ノズルホルダー11内の蒸気圧が安定状態にあると、その長さ方向で圧力分布に殆ど変動がないことと、前記貫通孔15a″の存在により反対に蒸気流が乱されることによる。また、第1ノズルプレート支持部材15aから多数の貫通孔15a″を排除するため、構造が簡略化され、その加工も簡単になる。
図11は、本発明に係る加圧蒸気噴出ノズル10の第3構造例を示している。この第3構造例と上述の第1構造例との間で異なるところは、上記ノズルホルダー11の周囲を下面を開口させた円筒状ジャケット22で被包し、その開口端部を上記第1ノズルプレート支持部材15aに溶接により固設している点にある。この円筒状ジャケット22内に蒸気や熱媒等の加熱媒体を供給し加熱することにより外気による冷却作用でノズルホルダー11内部で蒸気の部分的な凝縮が発生することを防止できる。円筒状ジャケット22に代えて電熱式のヒーター等で加熱することも有効である。
図12は、本発明に係る加圧蒸気噴出ノズル10の第4構造例を示している。この第4構造例と上記第3構造例との間で異なるところは、上記第1構造例と第2構造例との相違点と同様に、ノズルホルダー11の切除面11aに溶接により固着された第1ノズルプレート支持部材15aの構造にある。この第4構造例によれば、前記第3構造例における前記第1ノズルプレート支持部材15aから千鳥状に配列された貫通孔15a″を排除し、上記凹陥部15a’をそのままノズルホルダー11の切除面11aに形成されたスリット状開口11bに連通させている。その機能は、第2構造例における機能に加えて、更に第3構造例の上記機能を有している。
以上の実施例では、全てノズルプレート16に形成される複数のノズル孔16aが一列に並んで配された例を挙げているが、本発明ではノズルプレート16に形成される多数のノズル孔16aを、図13(a)(b)に示すように2以上の複数列に配することもできる。このようにノズル孔16aを、例えば二列に並べて配するときは、列間に配されるノズル孔16aを1/2ピッチずらして千鳥状に配するようにすることが好ましい。千鳥状にノズル孔16aを配した場合には、単列である場合と比較して同一列上のノズル孔16a間のピッチを長くとっても、トータルとして実質的にピッチが短くなり、加圧蒸気噴出ノズル10から噴出する加圧蒸気が移送される繊維布帛の幅方向に万遍なく付与されるようになり、モアレ状の模様もつきにくくなる。
図14〜図18は、本発明の特徴的構成部分である上記加圧蒸気噴出ノズルの第2実施形態を示している。この実施形態において、上述の第1〜第4構造例からなる実施形態と異なるところは、ノズル部材23が上記実施形態のごとく第1及び第2ノズルプレート支持部材15a,15bの分割片から構成されずに、単一の部材から構成されており、同ノズル部材23に直接ノズル孔26を形成している点にある。そのため、上述の実施形態のごとく別体としてのノズルプレート16をも不要としている。
この第2実施形態による前記ノズル部材23の上面には、上記ノズルホルダー11の下面中央に形成された長手方向に延びるスリット状開口11bに連通する船形の凹陥溝部24と、同凹陥溝部24の船底部に沿って形成された矩形断面をもつ溝部25と、同矩形断面溝部25の長さ方向に沿って所定ピッチをもって形成された多数の逆円錐台孔26aと、各逆円錐台孔26aの下端に連続して形成された円筒孔26bとを備えている。前記逆円錐台孔26a及び円筒孔26bが、この実施形態におけるノズル孔26を構成する。更に、前記ノズル部材の外観形状は、正面視では細長い矩形状とされ、側面視では下面が下方に突出する湾曲形状を有している(図16参照)。
このように、本実施形態によるノズル部材23が単一部材により構成され、上記実施形態のごとくノズル部材15がノズルプレート16と別体に構成されるとともに、同ノズル部材15も第1及び第2のノズルプレート支持部材15a,15bに分割されていないため、部品点数が低減されるばかりでなく、その組付作業の煩雑性が排除される。特に、上記第1実施形態では、ノズル孔16aはノズルプレート16に形成されており、繊維布帛との対向面は直接ノズル孔16aの上記噴出側開口ではなく、第2ノズルプレート支持部材15bに形成されたスリット状開口15b’を介しているが、本実施形態ではノズル孔26を直接繊維布帛に対向させることができるため、ノズル孔26の上記噴出開口端と繊維布帛との間隙を任意に設定でき、より効率的な布帛処理を実現させることができる。
また、本実施形態によれば、上記船形の凹陥溝部24と同凹陥溝部24の船底部に沿って形成された矩形断面をもつ溝部25とを同じノズル部材23に形成するため、蒸気の損失がなく、更にはノズル部材自体の側面視形態を下面が下方に突出する湾曲形状(図16参照)としているため、繊維布帛の走行時に繊維布帛との接触領域を少なくでき、繊維布帛の走行がより円滑化される。また、この実施形態にあっても、上記第1実施形態と同様に、前記円筒孔26bの高さと内径との比の値を1〜2に設定することが望ましく、同円筒孔26bの径は0.1〜1mm、同ノズル孔26間のピッチを0.2〜3mmに設定している。
図19は、本発明に係る繊維布帛の加圧蒸気による処理工程の第2実施形態の概要を示している。この実施形態において、上記処理方法と異なるところは、布帛担持移送手段である上記エンドレスベルト30の布帛移送面に対向させて、同エンドレスベルト30と逆方向に回動する第2のエンドレスベルト34を配設し、第1及び第2のエンドレスベルト30,34をもって繊維布帛Tを挟持した状態で移送し、加圧蒸気噴出ノズル10から噴出する過熱蒸気を、前記第2のエンドレスベルト34を介して繊維布帛Fの上面から下方のエンドレスベルト30に向けている点である。
このように、2枚のエンドレスベルト30及び34をもって繊維布帛Tを挟持しながら、ウェブ表面に加圧蒸気を付与するようにすると、加圧蒸気噴出ノズル10からの加圧蒸気の噴出による打撃によっても布帛表面に乱れが発生せず、その結果、加圧蒸気噴出ノズル10から噴出される加圧蒸気の圧力を更に高めることが可能となって、高圧で噴出する蒸気流が繊維布帛Tを確実に貫通することができるようになる。この実施形態にあっては、繊維布帛Tの上面に対向する上記第2エンドレスベルト34の空隙率(メッシュ度)は下方のエンドレスベルト30のそれよりも粗く設定しているが、必ずしも粗くせず同等の空隙率に設定することもできる。
図20は、本発明に係る繊維布帛の加圧蒸気による処理工程の第3実施形態の概要を示している。この実施形態によれば、上記加圧蒸気噴出ノズル10と同ノズル10に対向して配されるサクションボックス40とを一組としたとき、その複数組(図示例では二組)が繊維布帛Tの移送方向に配されており、しかも各組における加圧蒸気噴出ノズル10及びサクションボックス40の配置を互いに上下逆転させている。すなわち、第一組目の加圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔16aを繊維布帛Tの上面に向けて加圧蒸気噴出ノズル10を配設するとともに、サクションボックス40の吸引開口を繊維布帛を下方から担持して繊維布帛を移送するエンドレスベルト30の下面に向けてサクションボックス40を配設している。一方、第二組目の加圧蒸気噴出ノズル10は、そのノズル孔16aを繊維布帛Tを下方から担持して移送するエンドレスベルト30の下面に向けて配設するとともに、サクションボックス40は、その吸引開口を繊維布帛Tの上面に向けて配設している。
こうして、エンドレスベルト30によって担持されて移送される繊維布帛Tに対して、同布帛Tの上面と下面とに向けて交互に加圧蒸気噴出ノズル10から加圧蒸気を噴出させる場合には、繊維布帛Tの表裏両面に対して均等に加圧蒸気が作用することになり、処理された繊維布帛Tの表裏面において布帛Tの構成繊維又は糸条が均等に処理を受けやすくなり、しかも外観的にも表裏の区別がなく商品価値が向上する。
図21は、本発明に係る布帛の処理工程における最も好適な第4実施形態の要部を概要で示している。図中の符号23は図13〜18に示した高圧蒸気噴出ノズルのノズル部材を示し、同ノズル部材23の下面に接近させて繊維布帛を配し、繊維布帛移送手段であるエンドレスベルト30に担持されて移送されてくる繊維布帛Tの移送の間に前記ノズル部材23のノズル孔26を介して高圧の過熱蒸気を繊維布帛表面に噴出させる。前記第1のエンドレスベルト30の内面に近接させて吸引手段であるサクションボックス40が配されている。
この実施形態では、前記サクションボックス40の吸引開口はノズル部材23のノズル孔26に対向する位置に配され、その形状は周辺の気体の吸引を可能な限り回避すべくスリット状とされている。このスリット開孔の開口幅は略10mm程度が好適である場合が多く、その吸引力も通常の工場内で使われる換気扇の排気能力、すなわち300Pa程度で十分であり、これより大きいと繊維布帛の構成繊維に配向性を与えやすく、それより小さいと吸引力不足となる傾向にある。勿論、この吸引力は繊維布帛Tの厚さ、密度や、ノズル部材23から噴出するときの蒸気圧によっても所要の範囲で調整することが必要である。
また、この実施形態ではノズル部材23と繊維布帛Tとの間隙、第1エンドレスベルト30とサクションボックス40との間の間隙を維持すべく、第1エンドレスベルト30の下面を支持して案内する複数の支持回転ロール35aを設けている。これらの支持回転ロール35aを設けることにより、エンドレスベルト30とサクションボックス40との摺接を回避すると同時に、その対向間隙を微小に維持することが可能となる。なお、これらの支持回転ロール35aを公知の上下位置調整手段を使ってそれぞれ調整可能にすることもできる。
図22は、本発明に係る繊維布帛の処理装置の第5実施形態の概要を示している。この実施形態では繊維布帛Tの担持移送手段として多孔の回転ドラム36を採用している。 前記回転ドラム36には繊維布帛Tがエンドレスベルト37や図示せぬガイドプレート或いはガイドロールを介して導入され、回転ドラム36の周面を繊維布帛Tが案内されて所要の中心角に相当する回転ドラム36の周面を周回しながら排出側へと送り出される。
一方、前記回転ドラム36にて移送される繊維布帛Tには、同繊維布帛Tの上面に近接して配された上記加圧蒸気噴出ノズル10から噴出される高圧高温の蒸気が侵入して、同繊維布帛Tの構成繊維又は糸条の間を貫通して、回転ドラム36の内部に設置されたサクションボックス38を介して外部へと放出される。このサクションボックス38は、その吸引口38aを繊維布帛Tの幅寸法に等しく且つ幅方向に長いスリット状に形成され、効率的な吸引を行っている。前記吸引口38aの幅寸法は、既述した第4実施形態と同様に、10mm程度であることが好ましいが、繊維布帛Tの厚さや密度(空隙率)、あるいはその材質などによって、ある程度の変更が可能である。サクションボックス38の吸引口38aは加圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔16aに対向する位置であって、回転ドラム36の内壁面に近接して固設されており、吸引された蒸気は図示せぬスイベルジョイントを介して、回転ドラム36の回転軸の中心部に形成された放出路を通って外部へと放出される。
本実施形態にあっては、更に繊維布帛Tの上方にあって上記加圧蒸気噴出ノズル10の上流側に、加圧高温空気の噴出装置39が設置されると共に、前記回転ドラム36の内部に配された上記サクションボックス38の吸引口38aの上流側にあって、前記加圧高温空気の噴出装置39に対応する部位に第2の吸引口38bが形成されている。この吸引口38bの形状及び寸法は上記吸引口38aと概略同一であるが、そこから噴出される高温の加圧空気の噴出圧力は加圧蒸気噴出ノズル10からの噴出圧力よりも小さく設定されてもよく、また図示せぬノズル孔の寸法も厳密に設定されなくともよい。また、この加圧高温空気の噴出装置39に代えて、上記加圧蒸気噴出ノズル10を採用してもよい。
加圧高温空気の噴出装置39を上流側に配した場合には、繊維布帛Tに対する前記加圧空気の付与が、上記加圧蒸気の付与と異なり、その蒸気付与に先立って加圧空気を付与して繊維布帛Tを乾熱セットさせることがなされ、繊維布帛Tの表面形態を予め固定されたのちに加圧蒸気噴出ノズル10から噴出される加圧蒸気により各種の処理が効率的に且つ確実になされることになる。なお、本実施形態に使われる加圧高温空気の噴出装置39のノズル部材としては、図3〜図18に示したノズル部材をも採用することができ、またこの実施形態における加圧蒸気噴出ノズル10に対する蒸気回路に関しても図1及び図2に例示した回路を採用できる。
以上説明した実施形態にあっては、蒸気加圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔16aを単に繊維布帛Tに向けて配設しているが、本発明では更に前記加圧蒸気噴出ノズル10の全体を積極的に加熱して高温を維持させることもできる。図23は、その一例を示している。同図によれば、ノズルホルダー11、ノズルプレート支持部材15及びノズルプレート16を備えた加圧蒸気噴出ノズル10の全体を収容する加熱ボックス27が使われている。この加熱ボックス27は加圧蒸気噴出ノズル10の全体を収容するとともに、加圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔16aが向けられる側を全面開口させた細長い直方体からなり、その天板部27aの中央部に熱風導入口27bが形成されている。この熱風導入口27bは外部の熱風供給管路28と接続されている。ファン28aによりフィルター28bを介して導入され、ヒーター28cによって加熱された高温の清浄化された空気が、前記熱風供給管路28を通って加熱ボックス27へと送り込まれて、加圧蒸気噴出ノズル10の全体を熱風により積極的に加熱する。
このように、加圧蒸気噴出ノズル10の全体を加熱することにより、ノズルホルダー11の内部に導入される加圧蒸気や過熱蒸気の温度低下が効果的に防止され、所要温度を維持して加圧蒸気噴出ノズル10から繊維布帛Tに向けて噴出させることができる。その結果、使用蒸気量の低減が実現されると同時に効率的な繊維交絡が実現できるようになるばかりでなく、処理される布帛の形態も安定化し所望の強度と風合いが得られる。
また図示例によれば、過熱ボックス27の繊維布帛移送方向の前後壁面27a,27bにあって、その下端部にはシールロール29a,29bの周面が当接されている。このシールロール29a,29bはステンレス製の平滑ロール又は周面に樹脂がコーティングされたロールであり、自由回転ロールであっても、繊維布帛Tの移送速度に同調させて駆動回転させるようにしてもよい。かかるシールロール29a,29bを配することにより、過熱ボックス27からの熱風の散逸を防ぐと同時に外気の浸入が防止でき、加圧蒸気噴出ノズル10に対する加熱効率が向上する。
また、この例では更に繊維布帛Tの担持移送体であるエンドレスベルト30に対向して配されたサクションボックス40の吸引開口部に対応する部分を開口させた外気遮蔽板63を、前記エンドレスベルト30とサクションボックス40との間に介装している。この外気遮蔽板63の繊維布帛移送方向の前後端部をそれぞれ下方に湾曲させて、繊維布帛Tの通過を円滑に安定するようにしている。このように、エンドレスベルト30とサクションボックス40との間に前記外気遮蔽板63を介装することにより、加圧蒸気噴出ノズル10から噴出する加圧蒸気又は過熱蒸気の噴出領域に外気が浸入することを防ぐことができ、噴出された加圧蒸気又は過熱蒸気を、加圧蒸気噴出ノズル10とサクションボックス40との間を通過する繊維布帛Tに外気による影響がなく、熱エネルギーの損失が大幅に低減され、効率的な連続的な処理がなされる。
図24は、前記蒸気処理装置の更なる変更例を示している。この変更例によれば、前記外気遮蔽板63と同様に、エンドレスベルト30とサクションボックス40との間に、蒸気反射板64を介装している。この蒸気反射板64と前記外気遮蔽板63との異なる点は、前記外気遮蔽板63が中央にノズル孔16aの列方向に延びる開口を有している外は平滑面に形成されているのに対して、前記蒸気反射板64は多孔の板材から構成されている。いま、加圧蒸気噴出ノズル10から噴出される加圧蒸気又は過熱蒸気が第2エンドレスベルト34、繊維布帛T、第1エンドレスベルト30を貫通すると、その蒸気の一部はサクションボックス40により吸引されるが、その大半は前記蒸気反射板64にて反射して、再度繊維布帛Tの下面に作用して、繊維布帛Tの下面側の表面にも均等に処理がなされる。
更に本発明にあっては、加圧蒸気噴出ノズル10をその長手方向に微小に往復動させるか、或いは上記第1及び第2のエンドレスベルト30,34を繊維布帛とともに繊維布帛移送路を横断する方向へ微小に往復動させることができる。その往復動のための駆動機構は、図示は省略するが、例えば従来から長網抄紙機などの網に横振動を与えるための公知の機構を採用することができる。また往復動(振動)の行程は往復動中心から左右に5mm程度が好ましく、その往復動回数は30〜300回/分の範囲で任意に調整される。このように、加圧蒸気噴出ノズル10を、或いは第1及び第2のエンドレスベルト30,34を往復動させると、列状に配された多数のノズル孔から噴出する加圧蒸気又は過熱蒸気が繊維布帛Tの表面を幅方向に満遍なく作用するようになり、加圧蒸気噴出ノズル10から高圧の蒸気を噴出させても、布帛表面にモアレ状の模様がつくことがなく、より均質な処理がなされる。
ところで、上述の加圧蒸気噴出ノズルから噴出する高温高圧の蒸気による処理法は、布帛の移送速度、蒸気温度や蒸気圧、布帛と前記ノズルの噴出開口端との間隙などの処理条件と、布帛の種類(織物、編物、不織布など単独に、或いはそれらを積層組合せたもの)、布帛構造(織編組織、織編密度、不織布の繊維密度)、布帛の構成繊維又は糸条の材質、布帛厚さなどの布帛条件とを適正に組み合わせれば、以下に挙げるような多様な布帛処理を効率的に行うことができる。しかるに、これらの処理は前述のような多数の処理条件及び布帛条件から、その処理の種類ごとに決められるため、それらの条件を一律には決めがたい。
本発明による布帛の蒸気処理方法によれば、当然に通常の熱セットも可能であるが、特に例えば布帛の洗浄処理や脱色処理、液体処理後の布帛の脱液処理、布帛の風合改良処理、更には布帛に対する各種の薬剤処理を行うことが可能となる。これらの例示のうち、熱セットや布帛の風合改良などに蒸熱処理を行うことはあるが、その他の処理については、一般に流体処理が採用されている。しかも、前記蒸熱処理にしても布帛を高温蒸気の雰囲気中におき、或いは同雰囲気中を通して処理するものである。
一方本発明による布帛の蒸気処理方法は、既述したとおり布帛に向けて加圧蒸気噴出ノズルから高温高圧の加圧蒸気(気体)を噴出して同布帛を貫通させることにより、上述のような多様な処理を行おうとするものである。従って、本発明の加圧蒸気噴出ノズルから噴出される加熱蒸気処理と従来の蒸熱処理とは、蒸気を使う点では一致するものの、その構成は勿論のこと、機能と効果の点では全く異なるものである。
すなわち、上記洗浄処理にあっては、加圧蒸気を付与するだけで、当然に従来のような前工程における処理時の汚れや染色後の布帛に残る余剰の染料などを、洗浄液や水により粗い流すのと同様に除去することもできるし、更には布帛又はその構成繊維に付着する糊剤、油剤、各種樹脂などの付着物をも確実に除去することが可能となる。これは、布帛を構成する繊維や糸条に付着する糊剤、油剤、各種樹脂など、付着物の材質に影響されることなく、加圧蒸気が布帛を貫通するとき、意外にもそれらの付着物を同蒸気により瞬間的に布帛の外へと吹き飛ばすことによりなされるがためである。しかも、本発明では液体処理ではなく蒸気(気体)処理であるがため、布帛を構成する繊維や糸条に水分を付着させることなしに処理を行うことができるため、従来のごとく洗浄後に改めて乾燥や溶剤などの除去工程を通過させる必要もない。これは設備費やエネルギーコストの大幅な削減につながる。
また上記脱色処理は、例えばデニムの衣料品などでは均一に染色された製品になったのち、或いは製品になる原反のとき、その染色の一部をわざわざ色抜きすることが行われているが、この脱色には脱色剤を使うことが多く、生地までも傷めかねない。しかるに、本発明の加圧蒸気処理方法を採用した場合にも、改めて脱色剤を使用することなく、こうした部分的な脱色処理を可能とし、同時に生地を傷めることもない。
更に、例えば上記液体処理後の布帛に対する脱液処理についても上記洗浄処理と同様に、布帛には前工程における大量の処理液体が含浸あるいは付着している。この状態で、本発明方法を実施すれば、加圧蒸気噴出ノズルから噴出される加圧蒸気が布帛を貫通する間に、布帛に含浸し又は付着する液分は蒸発又は揮発すると同時に蒸気と一緒に布帛の外に吹き飛ばされる。つまり、通常の乾燥工程と同様に布帛から液分を効率的に除去できるため、従来の乾燥工程に代えて本発明方法を適用すればよい。この場合、従来の乾燥工程では基本設備として大型の乾燥チャンバーが必要であり、更には同チャンバーの内部には例えば多数の加熱ランプや加熱ドラム又は加熱ロールが配され、これらの加熱ランプや加熱ドラム又は加熱ロールには、電気エネルギーや流体エネルギーの供給設備が接続され、同時に排気設備が配される。乾燥チャンバー内での乾燥は、その熱容量の大きいことから極めて乾燥効率が低く、乾燥に長時間を要するに止まらず、当然に膨大な熱エネルギーが費やされる。
これに対して、本発明による脱液方法では、前述のような大型のチャンバーが不要であり、しかも蒸気供給設備に接続された加圧蒸気噴出ノズルから単に移送されてくる布帛に前記ノズルから噴出する加圧蒸気を付与するだけで、布帛の構成繊維又は糸条に含浸する液分を外部に除去することができ、また仮に布帛内部に液分が残されている場合にも、本発明の脱液工程を通過した直後にも布帛には蒸気加熱により高温が維持されており、その熱により布帛の乾燥が促進される。このとき、使われる熱エネルギーは極めて狭い空間である配管や加圧蒸気噴出ノズルを使っているがため、極めてエネルギーの付与効率に優れるたものとなっている。その結果、使用されるエネルギー量も、従来と比較すると少ないものとなる。
また、上記布帛の風合改良処理は、例えば従来の羊毛織物や編物に対する洗絨法や蒸絨法などの風合改良処理に代えて本発明方法を採用することができる。本発明方法によれば、従来の洗絨法や蒸絨法のように予め処理前に布帛を巻き取っておく必要がなく、連続して且つ短時間に目が詰まったしかも表面がソフト感に富んだ優れた羊毛製の布帛が効率よく得られる。
更に本発明において、前記ノズルホルダーの蒸気導入路に更に薬剤注入路を合流させて布帛に加圧蒸気とともに薬剤を噴出して薬剤処理を行うこともできる。このときの薬剤としては、芳香剤、消臭剤、防虫剤などがあり、薬剤は、ノズルホルダーの蒸気導入路をノズル導入開口へと流れる加圧蒸気に途中で合流し、そこで分散してノズルホルダーの内部へと導入され、ノズル孔を通して蒸気と共に布帛の表面に向けて噴出する。この薬剤も蒸気とともに布帛を貫通し、その貫通の間に布帛の構成繊維表面又は繊維間に付着し、或いは構成糸条内に侵入し又は同糸条表面に付着して、所望の薬剤処理が布帛全体にわたり均一になされる。
以上、説明したとおり本発明方法によれば、上述のような簡単な構造を備えた加圧蒸気噴出ノズルであるにも関わらず、より確実に高温高圧の蒸気を繊維布帛に貫通させることができるようになるばかりでなく、そのノズルホルダーの長手方向の両端を開口させ、特にその蒸気排出側の開口を開閉バルブにより開閉可能とするとともに、同開閉バルブの上流側にトラップ管路を分岐させる場合には、布帛の処理開始時には予め開閉バルブを開けておき、その加圧蒸気噴出ノズルに新鮮な加圧された蒸気を導入して前記蒸気排出側の開口から外部に排出すると、同加圧蒸気によりノズルホルダーの内部温度が急激に昇温するため、布帛の処理開始時の準備時間が大幅に短縮できるようになる。
布帛の処理が開始されると前記開閉バルブが閉じられるが、ノズルホルダーの内部に発生するドレンは前記蒸気排出側の開口からトラップ管路を通って常時回収タンクに回収されるため、ノズル孔の目詰まりなどの弊害が発生せず、連続して且つ安定して高品質の布帛が処理できるようになる。なお、上記実施形態にあっては、蒸気として過熱蒸気を使っているが、繊維布帛の構成繊維の材質により通常の蒸気を使うことも可能である。
そして、既述したとおり布帛の移送速度、加圧蒸気の温度、圧力などの処理条件と、織物、編物或いは不織布であるかなどの布帛の種類、その布帛構造などの布帛条件を適切に組み合わせれば、通常の液体による洗浄、乾燥、脱色や、蒸熱による風合改良、薬剤処理など、繊維布帛の多様な処理を効率的に行うことができる。