JP2005005118A - 電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】正極21と負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を備える。負極22の容量は、Liの吸蔵・離脱による容量成分とLi金属の析出・溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される。セパレータ23には溶媒に電解質塩が溶解された電解液が含浸されている。電解質塩にはジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウムなどのB−O結合を有する第1の軽金属塩と、テトラフルオロ[オキソラト−O,O’]リン酸リチウムあるいはジフルオロビス[オキソラト−O,O’]リン酸リチウムなどのP−O結合を有する第1の軽金属塩とを用いる。安定した被膜の形成により電解質の分解反応を抑制できると共に、析出したリチウム金属と電解質との反応を防止できる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、正極および負極と共に電解質を備えた電池に係り、特に、負極の容量が軽金属の吸蔵および離脱による容量成分と、軽金属の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話,PDA(Personal Digital Assistant;個人用携帯型情報端末機器)あるいはノート型コンピュータに代表される携帯型電子機器の小型化、軽量化が精力的に進められ、その一環として、それらの駆動電源である電池、特に二次電池のエネルギー密度の向上が強く望まれている。
【0003】
高エネルギー密度を得ることができる二次電池としては、例えば、負極に炭素材料などのリチウム(Li)を吸蔵および離脱することが可能な材料を用いたリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池では、負極材料中に吸蔵されたリチウムが必ずイオン状態であるように設計されるため、エネルギー密度は負極材料中に吸蔵することが可能なリチウムイオン数に大きく依存する。よって、リチウムイオン二次電池では、リチウムイオンの吸蔵量を高めることによりエネルギー密度を更に向上させることができるものと考えられる。しかし、現在リチウムイオンを最も効率的に吸蔵および離脱することが可能な材料とされている黒鉛の吸蔵量は、1g当たりの電気量換算で372mAhと理論的に限界があり、最近では精力的な開発活動により、その限界値まで高められつつある。
【0004】
高エネルギー密度を得ることができる二次電池としては、また、負極にリチウム金属を用い、負極反応にリチウム金属の析出および溶解反応のみを利用したリチウム二次電池がある。リチウム二次電池は、リチウム金属の理論電気化学当量が2054mAh/cm3 と大きく、リチウムイオン二次電池で用いられる黒鉛の2.5倍にも相当するので、リチウムイオン二次電池を上回る高いエネルギー密度を得られるものと期待されている。これまでも、多くの研究者等によりリチウム二次電池の実用化に関する研究開発がなされてきた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
ところが、リチウム二次電池は、充放電を繰り返した際の放電容量の劣化が大きく、実用化が難しいという問題があった。この容量劣化は、リチウム二次電池が負極においてリチウム金属の析出・溶解反応を利用していることに基づいており、充放電に伴い、正負極間で移動するリチウムイオンに対応して負極の体積が容量分だけ大きく増減するので、負極の体積が大きく変化し、リチウム金属結晶の溶解反応および再結晶化反応が可逆的に進みづらくなってしまうことによるものである。しかも、負極の体積変化は高エネルギー密度を実現しようとするほど大きくなり、容量劣化もいっそう著しくなる。
【0006】
そこで本発明者等は、負極の容量がリチウムの吸蔵および離脱による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される二次電池を新たに開発した(例えば、特許文献1参照。)。これは、負極にリチウムを吸蔵および離脱することが可能な炭素材料を用い、充電の途中において炭素材料の表面にリチウムを析出させるようにしたものである。この二次電池によれば、高エネルギー密度を達成しつつ、サイクル特性を向上させることが期待できる。
【0007】
【非特許文献1】
ジャンポール・ガバノ(Jean−Paul Gabano)編,「リチウム・バッテリーズ(Lithium Batteries )」,ロンドン,ニューヨーク,アカデミック・プレス(Academic Press),1983年
【特許文献1】
国際公開第01/22519号パンフレット
【特許文献2】
特許第3276127号公報
【特許文献3】
特開2001−325989号公報
【特許文献4】
特開2002−110235号公報
【特許文献5】
特開2002−164082号公報
【特許文献6】
特開2002−164083号公報
【特許文献7】
特開2002−289189号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この二次電池を実用化するには、さらなる特性の向上および安定化を図る必要があり、それには電極材料のみならず、電解質に関する研究開発も必要不可欠である。なお、従来のリチウムイオン二次電池においては、B−O結合またはP−O結合を有するリチウム塩を含む電解質を用いることにより、特性を向上させたものが多数報告されている(例えば、特許文献2〜7参照。)。
【0009】
しかし、これらの電池は、長期充放電サイクルにおける容量維持率の劣化が大きいという問題があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる電池を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極の容量は、軽金属の吸蔵および離脱による容量成分と、軽金属の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表され、電解質は、B−X1結合(但し、Bはホウ素を表し、X1は酸素(O)または硫黄(S)を表す。)を有する第1の軽金属塩と、P−X2結合(但し、Pはリンを表し、X2は酸素または硫黄を表す。)を有する第2の軽金属塩とを含むものである。
【0012】
本発明による電池では、電解質が第1の軽金属塩と第2の軽金属塩とを含んでいるので、電解質の分解反応が抑制されると共に、軽金属の析出・溶解反応において析出した軽金属と電解質との反応が防止される。よって、負極における軽金属の析出・溶解効率が向上し、サイクル特性などの電池特性が改善される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0015】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0016】
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウムなどよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0017】
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極合剤層21Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、正極集電体21Aの片面のみに正極合剤層21Bを設けるようにしてもよい。正極集電体21Aは、例えば、厚みが5μm〜50μm程度であり、アルミニウム(Al)箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。正極合剤層21Bは、例えば、厚みが60μm〜250μmであり、軽金属であるリチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料(以下、リチウムを吸蔵・離脱可能な正極材料という。)を含んで構成されている。なお、正極合剤層21Bの厚みは、正極合剤層21Bが正極集電体21Aの両面に設けられている場合には、その合計の厚みである。
【0018】
リチウムを吸蔵・離脱可能な正極材料としては、例えば、エネルギー密度を高くするために、リチウムと遷移金属元素と酸素とを含むリチウム含有化合物を含有することが好ましく、中でも、遷移金属元素として、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マンガン(Mn)および鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものを含有すればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、LiCoO2 ,LiNiCoO2 ,LiMn2 O4 あるいはLiFePO4 が挙げられる。
【0019】
なお、このような正極材料は、例えば、リチウムの炭酸塩,硝酸塩,酸化物あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩,硝酸塩,酸化物あるいは水酸化物とを所望の組成になるように混合し、粉砕した後、酸素雰囲気中において600℃〜1000℃の範囲内の温度で焼成することにより調製される。
【0020】
正極合剤層21Bは、また、例えば導電剤を含んでおり、必要に応じて更に結着剤を含んでいてもよい。導電剤としては、例えば、黒鉛,カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられ、そのうちの1種または2種以上が混合して用いられる。また、炭素材料の他にも、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料などを用いるようにしてもよい。結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム,フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴム、またはポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられ、そのうちの1種または2種以上が混合して用いられる。例えば、図1に示したように正極21および負極22が巻回されている場合には、結着剤として柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどを用いることが好ましい。
【0021】
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極合剤層22Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、負極集電体22Aの片面のみに負極合剤層22Bを設けるようにしてもよい。負極集電体22Aは、例えば、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する銅箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。特に、銅箔は高い電気伝導性を有するので最も好ましい。負極集電体22Aの厚みは、例えば、5μm〜40μm程度であることが好ましい。5μmよりも薄いと機械的強度が低下し、製造工程において負極集電体22Aが断裂しやすく、生産効率が低下してしまうからであり、40μmよりも厚いと電池内における負極集電体22Aの体積比が必要以上に大きくなり、エネルギー密度を高くすることが難しくなるからである。
【0022】
負極合剤層22Bは、軽金属であるリチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料(以下、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料という。)のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて、例えば正極合剤層21Bと同様の結着剤を含んでいてもよい。負極合剤層22Bの厚みは、例えば、40μm〜250μmである。この厚みは、負極合剤層22Bが負極集電体22Aの両面に設けられている場合には、その合計の厚みである。
【0023】
なお、本明細書において軽金属の吸蔵・離脱というのは、軽金属イオンがそのイオン性を失うことなく電気化学的に吸蔵・離脱されることを言う。これは、吸蔵された軽金属が完全なイオン状態で存在する場合のみならず、完全なイオン状態とは言えない状態で存在する場合も含む。これらに該当する場合としては、例えば、黒鉛に対する軽金属イオンの電気化学的なインタカレーション反応による吸蔵が挙げられる。また、金属間化合物を含む合金への軽金属の吸蔵、あるいは合金の形成による軽金属の吸蔵も挙げることができる。
【0024】
リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などの炭素材料が挙げられる。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。
【0025】
黒鉛としては、例えば、真密度が2.10g/cm3 以上のものが好ましく、2.18g/cm3 以上のものであればより好ましい。なお、このような真密度を得るには、(002)面のC軸結晶子厚みが14.0nm以上であることが必要である。また、(002)面の面間隔は0.340nm未満であることが好ましく、0.335nm以上0.337nm以下の範囲内であればより好ましい。
【0026】
黒鉛は、天然黒鉛でも人造黒鉛でもよい。人造黒鉛であれば、例えば、有機材料を炭化して高温熱処理を行い、粉砕・分級することにより得られる。高温熱処理は、例えば、必要に応じて窒素(N2 )などの不活性ガス気流中において300℃〜700℃で炭化し、毎分1℃〜100℃の速度で900℃〜1500℃まで昇温してこの温度を0時間〜30時間程度保持し仮焼すると共に、2000℃以上、好ましくは2500℃以上に加熱し、この温度を適宜の時間保持することにより行う。
【0027】
出発原料となる有機材料としては、石炭あるいはピッチを用いることができる。ピッチには、例えば、コールタール,エチレンボトム油あるいは原油などを高温で熱分解することにより得られるタール類、アスファルトなどを蒸留(真空蒸留,常圧蒸留あるいはスチーム蒸留),熱重縮合,抽出,化学重縮合することにより得られるもの、木材還流時に生成されるもの、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラートまたは3,5−ジメチルフェノール樹脂がある。これらの石炭あるいはピッチは、炭化の途中最高400℃程度において液体として存在し、その温度で保持されることで芳香環同士が縮合・多環化し、積層配向した状態となり、そののち約500℃以上で固体の炭素前駆体、すなわちセミコークスとなる(液相炭素化過程)。
【0028】
有機材料としては、また、ナフタレン,フェナントレン,アントラセン,トリフェニレン,ピレン,ペリレン,ペンタフェン,ペンタセンなどの縮合多環炭化水素化合物あるいはその誘導体(例えば、上述した化合物のカルボン酸,カルボン酸無水物,カルボン酸イミド)、またはそれらの混合物を用いることができる。更に、アセナフチレン,インドール,イソインドール,キノリン,イソキノリン,キノキサリン,フタラジン,カルバゾール,アクリジン,フェナジン,フェナントリジンなどの縮合複素環化合物あるいはその誘導体、またはそれらの混合物を用いることもできる。
【0029】
なお、粉砕は、炭化,仮焼の前後、あるいは黒鉛化前の昇温過程の間のいずれで行ってもよい。これらの場合には、最終的に粉末状態で黒鉛化のための熱処理が行われる。但し、嵩密度および破壊強度の高い黒鉛粉末を得るには、原料を成型したのち熱処理を行い、得られた黒鉛化成型体を粉砕・分級することが好ましい。
【0030】
例えば、黒鉛化成型体を作製する場合には、フィラーとなるコークスと、成型剤あるいは焼結剤となるバインダーピッチとを混合して成型したのち、この成型体を1000℃以下の低温で熱処理する焼成工程と、焼成体に溶融させたバインダーピッチを含浸させるピッチ含浸工程とを数回繰り返してから、高温で熱処理する。含浸させたバインダーピッチは、以上の熱処理過程で炭化し、黒鉛化される。ちなみに、この場合には、フィラー(コークス)とバインダーピッチとを原料にしているので多結晶体として黒鉛化し、また原料に含まれる硫黄や窒素が熱処理時にガスとなって発生することから、その通り路に微小な空孔が形成される。よって、この空孔により、リチウムの吸蔵・離脱反応が進行し易くなると共に、工業的に処理効率が高いという利点もある。なお、成型体の原料としては、それ自身に成型性、焼結性を有するフィラーを用いてもよい。この場合には、バインダーピッチの使用は不要である。
【0031】
難黒鉛化性炭素としては、(002)面の面間隔が0.37nm以上、真密度が1.70g/cm3 未満であると共に、空気中での示差熱分析(differential thermal analysis ;DTA)において700℃以上に発熱ピークを示さないものが好ましい。
【0032】
このような難黒鉛化性炭素は、例えば、有機材料を1200℃程度で熱処理し、粉砕・分級することにより得られる。熱処理は、例えば、必要に応じて300℃〜700℃で炭化した(固相炭素化過程)のち、毎分1℃〜100℃の速度で900℃〜1300℃まで昇温し、この温度を0〜30時間程度保持することにより行う。粉砕は、炭化の前後、あるいは昇温過程の間で行ってもよい。
【0033】
出発原料となる有機材料としては、例えば、フルフリルアルコールあるいはフルフラールの重合体,共重合体、またはこれらの高分子と他の樹脂との共重合体であるフラン樹脂を用いることができる。また、フェノール樹脂,アクリル樹脂,ハロゲン化ビニル樹脂,ポリイミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂,ポリアミド樹脂,ポリアセチレンあるいはポリパラフェニレンなどの共役系樹脂、セルロースあるいはその誘導体、コーヒー豆類、竹類、キトサンを含む甲殻類、バクテリアを利用したバイオセルロース類を用いることもできる。更に、水素原子(H)と炭素原子(C)との原子数比H/Cが例えば0.6〜0.8である石油ピッチに酸素(O)を含む官能基を導入(いわゆる酸素架橋)させた化合物を用いることもできる。
【0034】
この化合物における酸素の含有率は3%以上であることが好ましく、5%以上であればより好ましい(特開平3−252053号公報参照)。酸素の含有率は炭素材料の結晶構造に影響を与え、これ以上の含有率において難黒鉛化性炭素の物性を高めることができ、負極22の容量を向上させることができるからである。ちなみに、石油ピッチは、例えば、コールタール,エチレンボトム油あるいは原油などを高温で熱分解することにより得られるタール類、またはアスファルトなどを、蒸留(真空蒸留,常圧蒸留あるいはスチーム蒸留),熱重縮合,抽出あるいは化学重縮合することにより得られる。また、酸化架橋形成方法としては、例えば、硝酸,硫酸,次亜塩素酸あるいはこれらの混酸などの水溶液と石油ピッチとを反応させる湿式法、空気あるいは酸素などの酸化性ガスと石油ピッチとを反応させる乾式法、または硫黄,硝酸アンモニウム,過硫酸アンモニア,塩化第二鉄などの固体試薬と石油ピッチとを反応させる方法を用いることができる。
【0035】
なお、出発原料となる有機材料はこれらに限定されず、酸素架橋処理などにより固相炭化過程を経て難黒鉛化性炭素となり得る有機材料であれば、他の有機材料でもよい。
【0036】
難黒鉛化性炭素としては、上述した有機材料を出発原料として製造されるものの他、特開平3−137010号公報に記載されているリン(P)と酸素と炭素(C)とを主成分とする化合物も、上述した物性パラメータを示すので好ましい。
【0037】
リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、また、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。
【0038】
このような金属元素あるいは半金属元素としては、スズ(Sn),鉛(Pb),アルミニウム,インジウム(In),ケイ素(Si),亜鉛(Zn),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),ホウ素(B),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ヒ素(As),銀(Ag),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。これらの合金あるいは化合物としては、例えば、化学式Mαs1Mβs2Lis3、あるいは化学式Mαs4Mγs5Mδs6で表されるものが挙げられる。これら化学式において、Mαはリチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、MβはリチウムおよびMα以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mγは非金属元素の少なくとも1種を表し、MδはMα以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、s1、s2、s3、s4、s5およびs6の値はそれぞれs1>0、s2≧0、s3≧0、s4>0、s5>0、s6≧0である。
【0039】
中でも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素あるいはスズ、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0040】
このような合金あるいは化合物について具体的に例を挙げれば、LiAl,AlSb,CuMgSb,SiB4 ,SiB6 ,Mg2 Si,Mg2 Sn,Ni2 Si,TiSi2 ,MoSi2 ,CoSi2 ,NiSi2 ,CaSi2 ,CrSi2 ,Cu5 Si,FeSi2 ,MnSi2 ,NbSi2 ,TaSi2 ,VSi2 ,WSi2 ,ZnSi2 ,SiC,Si3 N4 ,Si2 N2 O,SiOv (0<v≦2),SnOw (0<w≦2),SnSiO3 ,LiSiOあるいはLiSnOなどがある。
【0041】
リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、更に、他の金属化合物あるいは高分子材料が挙げられる。他の金属化合物としては、酸化鉄,酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどの酸化物や、あるいはLiN3 などが挙げられ、高分子材料としてはポリアセチレン,ポリアニリンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
【0042】
また、この二次電池では、充電の過程において、開回路電圧(すなわち電池電圧)が過充電電圧よりも低い時点で負極22にリチウム金属が析出し始めるようになっている。つまり、開回路電圧が過充電電圧よりも低い状態において負極22にリチウム金属が析出しており、負極22の容量は、リチウムの吸蔵・離脱による容量成分と、リチウム金属の析出・溶解による容量成分とを含み、かつその和で表される。従って、この二次電池では、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料とリチウム金属との両方が負極活物質として機能し、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料はリチウム金属が析出する際の基材となっている。
【0043】
なお、過充電電圧というのは、電池が過充電状態になった時の開回路電圧を指し、例えば、日本蓄電池工業会(電池工業会)の定めた指針の一つである「リチウム二次電池安全性評価基準ガイドライン」(SBA G1101)に記載され定義される「完全充電」された電池の開回路電圧よりも高い電圧を指す。また換言すれば、各電池の公称容量を求める際に用いた充電方法、標準充電方法、もしくは推奨充電方法を用いて充電した後の開回路電圧よりも高い電圧を指す。具体的には、この二次電池では、例えば開回路電圧が4.2Vの時に完全充電となり、開回路電圧が0V以上4.2V以下の範囲内の一部においてリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の表面にリチウム金属が析出している。
【0044】
これにより、この二次電池では、高いエネルギー密度を得ることができると共に、サイクル特性および急速充電特性を向上させることができるようになっている。これは、負極22にリチウム金属を析出させるという点では負極にリチウム金属あるいはリチウム合金を用いた従来のリチウム二次電池と同様であるが、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料にリチウム金属を析出させるようにしたことにより、次のような利点が生じるためであると考えられる。
【0045】
第1に、従来のリチウム二次電池ではリチウム金属を均一に析出させることが難しく、それがサイクル特性を劣化させる原因となっていたが、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料は一般的に表面積が大きいので、この二次電池ではリチウム金属を均一に析出させることができることである。第2に、従来のリチウム二次電池ではリチウム金属の析出・溶解に伴う体積変化が大きく、それもサイクル特性を劣化させる原因となっていたが、この二次電池ではリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の粒子間の隙間にもリチウム金属が析出するので体積変化が少ないことである。第3に、従来のリチウム二次電池ではリチウム金属の析出・溶解量が多ければ多いほど上記の問題も大きくなるが、この二次電池ではリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料によるリチウムの吸蔵・離脱も充放電容量に寄与するので、電池容量が大きいわりにはリチウム金属の析出・溶解量が小さいことである。第4に、従来のリチウム二次電池では急速充電を行うとリチウム金属がより不均一に析出してしまうのでサイクル特性が更に劣化してしまうが、この二次電池では充電初期においてはリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料にリチウムが吸蔵されるので急速充電が可能となることである。
【0046】
これらの利点をより効果的に得るためには、例えば、開回路電圧が過充電電圧になる前の最大電圧時において負極22に析出するリチウム金属の最大析出容量は、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の充電容量能力の0.05倍以上3.0倍以下であることが好ましい。リチウム金属の析出量が多過ぎると従来のリチウム二次電池と同様の問題が生じてしまい、少な過ぎると充放電容量を十分に大きくすることができないからである。また、例えば、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の放電容量能力は、150mAh/g以上であることが好ましい。リチウムの吸蔵・離脱能力が大きいほどリチウム金属の析出量は相対的に少なくなるからである。なお、負極材料の充電容量能力は、例えば、リチウム金属を対極として、この負極材料を負極活物質とした負極について0Vまで定電流・定電圧法で充電した時の電気量から求められる。負極材料の放電容量能力は、例えば、これに引き続き、定電流法で10時間以上かけて2.5Vまで放電した時の電気量から求められる。
【0047】
セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜はショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23を構成する材料として好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であればポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたり、またはブレンド化することで用いることができる。
【0048】
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、液状の溶媒、例えば有機溶剤などの非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。液状の非水溶媒というのは、例えば、非水化合物よりなり、25℃における固有粘度が10.0mPa・s以下のものを言う。なお、電解質塩を溶解した状態での固有粘度が10.0mPa・s以下のものでもよく、複数種の非水化合物を混合して溶媒を構成する場合には、混合した状態での固有粘度が10.0mPa・s以下であればよい。
【0049】
このような非水溶媒としては、従来より使用されている種々の非水溶媒を用いることができる。具体的には、プロピレンカーボネート,エチレンカーボネート,ジエチルカーボネート,ジメチルカーボネート,エチルメチルカーボネート,ビニレンカーボネートあるいはビニルエチレンカーボネートなどの炭酸エステル、または、γ−ブチロラクトン,スルホラン,2−メチルテトラヒドロフランあるいはジメトキシエタンなどのエーテル類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に、酸化安定性の点からは、炭酸エステルが好ましい。
【0050】
電解質塩としては、B−X1結合(但し、Bはホウ素を表し、X1は酸素または硫黄を表す。)を有する第1の軽金属塩のいずれか1種または2種以上と、P−X2結合(但し、Pはリンを表し、X2は酸素または硫黄を表す。)を有する第2の軽金属塩のいずれか1種または2種以上とを混合して含んでいる。充放電サイクル中に負極22の表面に安定な被膜が形成され、溶媒の分解反応が抑制されると共に、負極22に析出したリチウム金属と電解液との反応が防止されるからである。
【0051】
第1の軽金属塩としては化10に示した化合物が挙げられ、第2の軽金属塩としては化11に示した化合物が挙げられる。
【0052】
【化10】
【0053】
【化11】
【0054】
化10および化11において、R11およびR21は化12または化13に示した基をそれぞれ表し、R12およびR22はハロゲン,アルキル基,ハロゲン化アルキル基,アリール基またはハロゲン化アリール基をそれぞれ表し、X11,X12,X21およびX22は酸素または硫黄をそれぞれ表し、M11およびM21は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素またはアルミニウムをそれぞれ表し、a1は1または2であり、a2は1〜3の整数であり、b1は0または2であり、b2は0,2または4であり、c1,c2,d1,d2,e1,e2,f1およびf2はそれぞれ1〜3の整数である。
【0055】
【化12】
【0056】
化12において、R31は、アルキレン基,ハロゲン化アルキレン基,アリーレン基またはハロゲン化アリーレン基を表す。
【0057】
【化13】
【0058】
具体的には、第1の軽金属塩としては化14に示した化合物が好ましく、第2の軽金属塩としては化15に示した化合物が好ましい。
【0059】
【化14】
【0060】
【化15】
【0061】
化14および化15において、R11およびR21は化16または化17に示した基をそれぞれ表し、R13およびR23はハロゲンをそれぞれ表し、M11およびM21は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素またはアルミニウムをそれぞれ表し、a1は1または2であり、a2は1〜3の整数であり、b1は0または2であり、b2は0,2または4であり、c1,c2,d1,d2,e1,e2,f1およびf2はそれぞれ1〜3の整数である。
【0062】
【化16】
【0063】
化16において、R31は、アルキレン基,ハロゲン化アルキレン基,アリーレン基またはハロゲン化アリーレン基を表す。
【0064】
【化17】
【0065】
更に具体的には、第1の軽金属塩としては例えば化18に示したジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウムが好ましく、第2の軽金属塩としては例えば化19に示したテトラフルオロ[オキソラト−O,O’]リン酸リチウムまたは化20に示したジフルオロビス[オキソラト−O,O’]リン酸リチウムが好ましい。B−O結合またはP−O結合を有しているとより高い効果を得ることができ、特に、O−B−O結合またはO−P−O結合を有していれば更に高い効果を得ることができるからである。
【0066】
【化18】
【0067】
【化19】
【0068】
【化20】
【0069】
よって、第1の軽金属塩としては、化21に示したリチウムビス[1,2−ベンゼンジオラト(2−)−O,O’]ボレートも好ましく、第2の軽金属塩としては、化22に示したリチウムトリス[1,2−ベンゼンジオラト(2−)−O,O’]フォスフェートも好ましい。
【0070】
【化21】
【0071】
【化22】
【0072】
また、電解質塩には、第1の軽金属塩と第2の軽金属塩とに加えて、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩以外の第3の軽金属塩のいずれか1種または2種以上を混合して含むことが好ましい。内部抵抗の低減が図られ重負荷特性などの電池特性を向上させることもできるからである。第3の軽金属塩としては、例えば、LiB(C6 H5 )4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、LiSiF6 、LiCl、LiBr、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiN(C2 F5 SO2 )2 あるいはLiN(C4 F9 SO2 )(CF3 SO2 )などの化23に示したリチウム塩、またはLiC(CF3 SO2 )3 などの化24に示したリチウム塩が挙げられる。
【0073】
【化23】
LiN(Cm F2m+1SO2 )(Cn F2n+1SO2 )
式中、mおよびnは1以上の整数である。
【0074】
【化24】
LiC(Cn F2n+1SO2 )( Cm F2m+1SO2 ) (Cp F2p+1SO2 )
式中、p,qおよびrは1以上の整数である。
【0075】
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、化23に示したリチウム塩および化24に示したリチウム塩からなる群のうちの少なくとも1種を含むようにすれば、より高い効果を得ることができると共に、高い導電率を得ることができるので好ましく、LiPF6 と、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、化23に示したリチウム塩および化24に示したリチウム塩からなる群のうちの少なくとも1種とを混合して含むようにすれば、更に好ましい。
【0076】
電解質塩の含有量(濃度)は溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内であることが好ましい。この範囲外ではイオン伝導度の極端な低下により十分な電池特性が得られなくなる虞があるからである。
【0077】
なお、電解液に代えて、高分子化合物に電解液を保持させたゲル状の電解質を用いてもよい。ゲル状の電解質は、イオン伝導度が室温で1mS/cm以上であるものであればよく、組成および高分子化合物の構造に特に限定はない。電解液(すなわち液状の溶媒,電解質塩および添加剤)については上述のとおりである。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートが挙げられる。特に、電気化学的安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドの構造を持つ高分子化合物を用いることが望ましい。電解液に対する高分子化合物の添加量は、両者の相溶性によっても異なるが、通常、電解液の3質量%〜50質量%に相当する高分子化合物を添加することが好ましい。
【0078】
また、リチウム塩の含有量は、電解液の場合と同様である。但し、ここで溶媒というのは、液状の溶媒のみを意味するのではなく、電解質塩を解離させることができ、イオン伝導性を有するものを広く含む概念である。よって、高分子化合物にイオン伝導性を有するものを用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0079】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0080】
まず、例えば、リチウムを吸蔵・離脱可能な正極材料と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。次いで、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極合剤層21Bを形成し、正極21を作製する。
【0081】
また、例えば、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。次いで、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極合剤層22Bを形成し、負極22を作製する。
【0082】
続いて、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。そののち、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解質を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1に示した二次電池が完成する。
【0083】
この二次電池では、充電を行うと、正極合剤層21Bからリチウムイオンが離脱し、セパレータ23に含浸された電解質を介して、まず、負極合剤層22Bに含まれるリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料に吸蔵される。更に充電を続けると、開回路電圧が過充電電圧よりも低い状態において、充電容量がリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の充電容量能力を超え、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の表面にリチウム金属が析出し始める。そののち、充電を終了するまで負極22にはリチウム金属が析出し続ける。これにより、負極合剤層22Bの外観は、例えばリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料として黒鉛を用いる場合、黒色から黄金色、更には白銀色へと変化する。
【0084】
次いで、放電を行うと、まず、負極22に析出したリチウム金属がイオンとなって溶出し、セパレータ23に含浸された電解質を介して、正極合剤層21Bに吸蔵される。更に放電を続けると、負極合剤層22B中のリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料に吸蔵されたリチウムイオンが離脱し、電解質を介して正極合剤層21Bに吸蔵される。よって、この二次電池では、従来のいわゆるリチウム二次電池およびリチウムイオン二次電池の両方の特性、すなわち高いエネルギー密度および良好なサイクル特性が得られる。
【0085】
特に本実施の形態では、電解質が第1の軽金属塩と第2の軽金属塩とを含んでいるので、充放電サイクル中に負極22の表面に安定した被膜が形成され、、負極22における電解質の分解反応が抑制されると共に、負極22において析出したリチウム金属と電解質との反応が防止される。
【0086】
このように本実施の形態によれば、電解質が第1の軽金属塩と第2の軽金属塩とを含むようにしたので、負極22における電解質の分解反応を抑制することができると共に、負極22において析出したリチウム金属と電解質との反応を防止することができる。よって、リチウム金属の析出・溶解効率を向上させることができ、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0087】
特に、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩に加えて、第3の軽金属塩を含むようにすれば、内部抵抗を低減させることができ、重負荷特性などの電池特性も向上させることができる。
【0088】
なお、上記では、負極22の容量を、リチウムの吸蔵および離脱による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるようにしたが、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料の量を正極材料に対して相対的に多くして、充電の途中において負極22にリチウム金属を析出させないようにし、負極22の容量をリチウムの吸蔵および離脱による容量成分により表されるようにしてもよい。また、負極22をリチウム金属などにより構成し、負極22の容量をリチウム金属の析出および溶解による容量成分により表されるようにしてもよい。
【0089】
【実施例】
更に、本発明の具体的な実施例について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0090】
(実施例1〜15)
正極21と負極22との面積密度比を調整し、負極22の容量が、リチウムの吸蔵および離脱による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される電池を作製した。
【0091】
まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを、Li2 CO3 :CoCO3 =0.5:1(モル比)の割合で混合し、空気中において900℃で5時間焼成して、正極材料としてのリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤であるグラファイト6質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤を調製した。続いて、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとし、厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極合剤層21Bを形成し正極21を作製した。そののち、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
【0092】
また、負極材料として人造黒鉛粉末を用意し、この人造黒鉛粉末90質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤を調製した。次いで、この負極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとしたのち、厚み15μmの帯状銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極合剤層22Bを形成し負極22を作製した。続いて、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード26を取り付けた。
【0093】
正極21および負極22をそれぞれ作製したのち、厚み25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ23を用意し、負極22,セパレータ23,正極21,セパレータ23の順に積層してこの積層体を渦巻状に多数回巻回し、巻回電極体20を作製した。
【0094】
巻回電極体20を作製したのち、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に、正極リード25を安全弁機構15に溶接して、巻回電極体20をニッケルめっきした鉄製の電池缶11の内部に収納した。そののち、電池缶11の内部に電解液を減圧方式により注入した。
【0095】
電解液には、エチレンカーボネート50体積%とジエチルカーボネート50体積%とを混合した溶媒に、電解質塩として、第1の軽金属塩と第2の軽金属塩、または第1の軽金属塩と第2の軽金属塩と第3の軽金属塩とを溶解させたものを用いた。その際、実施例1〜15で第1の軽金属塩,第2の軽金属塩および第3の軽金属塩の種類および含有量を表1に示したように変化させた。なお、表1において、化18はジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウムを表し、化19はテトラフルオロ[オキソラト−O,O’]リン酸リチウムを表し、化20はジフルオロビス[オキソラト−O,O’]リン酸リチウムを表す。
【0096】
【表1】
【0097】
電池缶11の内部に電解液を注入したのち、表面にアスファルトを塗布したガスケット17を介して電池蓋14を電池缶11にかしめることにより、実施例1〜15について直径14mm、高さ65mmの円筒型二次電池を得た。
【0098】
また、実施例1〜15に対する比較例1〜7として、第1の軽金属塩,第2の軽金属塩および第3の軽金属塩の種類および含有量を表1に示したように変えたことを除き、他は実施例1〜15と同様にして二次電池を作製した。更に、実施例1〜15に対する比較例8〜10として、正極と負極との面積密度比を調整し、負極の容量がリチウムの吸蔵および離脱による容量成分により表されるようにすると共に、第1の軽金属塩,第2の軽金属塩および第3の軽金属塩の種類および含有量を表1に示したように変えたことを除き、他は実施例1〜15と同様にして二次電池を作製した。なお、比較例8〜10の二次電池はリチウムイオン二次電池である。
【0099】
得られた実施例1〜15および比較例1〜10の二次電池について、600mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.2Vの定電圧で電流が1mAに達するまで定電圧充電を行い、引き続き、400mAの定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで定電流放電を行い、初回容量およびサイクル特性を調べた。初回容量は、このようにして得られた1サイクル目の放電容量であり、サイクル特性としては、初回容量(1サイクル目の容量)に対する200サイクル目の容量維持率(200サイクル目の容量/初回容量)×100を求めた。また、上述した条件で1サイクル充放電を行ったのち、更に、放電時の電流値を2500mAとした以外は上述した条件で充放電を行い、重負荷特性を調べた。重負荷特性としては、400mAで放電した場合の放電容量に対する2500mAで放電した場合の放電容量の比率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0100】
なお、実施例1〜15および比較例1〜10の二次電池について、上述した条件で1サイクル充放電を行ったのち再度完全充電させたものを解体し、目視および 7Li核磁気共鳴分光法により、負極合剤層22Bにリチウム金属が析出しているか否かを調べた。更に、上述した条件で2サイクル充放電を行い、完全放電させたものを解体し、同様にして、負極合剤層22Bにリチウム金属が析出しているか否かを調べた。
【0101】
その結果、実施例1〜15および比較例1〜7の二次電池では、完全充電状態においては負極合剤層22Bにリチウム金属の存在が認められ、完全放電状態においてはリチウム金属の存在が認められなかった。すなわち、負極22の容量は、リチウム金属の析出・溶解による容量成分とリチウムの吸蔵・離脱による容量成分とを含み、かつその和により表されることが確認された。表1にはその結果としてリチウム金属の析出有りとして記載した。
【0102】
一方、比較例8〜10の二次電池では、完全充電状態においても完全放電状態においてもリチウム金属の存在は認められず、リチウムイオンの存在が認められたのみであった。また、完全放電状態において認められたリチウムイオンに帰属するピークはごく小さいものであった。すなわち、負極の容量は、リチウムの吸蔵・離脱による容量成分により表されることが確認された。表1にはその結果としてリチウム金属の析出無しと記載した。
【0103】
表1に示したように、電解質塩として、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩の少なくとも一方を用いた実施例1〜15および比較例2〜7は、第3の軽金属塩を用いた比較例1に比べて初回容量およびサイクル特性が高く、その上、重負荷特性も78%以上と高かった。これに対して、リチウムイオン二次電池である比較例8〜10では、第3の軽金属塩を用いた比較例10の方が、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩の少なくとも一方を用いた比較例8,9よりも初回容量およびサイクル特性が高かった。すなわち、負極22の容量がリチウムの吸蔵および離脱による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分との和を含み、かつその和により表される電池において、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩の少なくとも一方を用いるようにすれば、重負荷特性を低下させることなく容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0104】
また、実施例1,14および比較例2,4,6を比較すれば明らかなように、第1の軽金属塩と第2の軽金属塩とを用いた実施例1,14は、第1の軽金属塩または第2の軽金属塩のどちらか一方を用いた比較例2,4,6よりもサイクル特性が高かった。すなわち、第1の軽金属塩と第2の軽金属塩とを共に用いるようにすれば、サイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0105】
更に、実施例1〜15を比較すれば明らかなように、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩に加えて第3の軽金属塩を用いた実施例2〜13および実施例15は、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩を用いた実施例1および実施例14よりも重負荷特性が高く、初回容量およびサイクル特性についても良好な結果が得られた。また、実施例5,9〜13を比較すれば明らかなように、第3の軽金属塩としてLiPF6 を用いた実施例5は、他の第3の軽金属塩を用いた実施例9〜13よりもサイクル特性および重負荷特性が高かった。すなわち、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩に加えて第3の軽金属塩を用いるようにすれば、良好な初回容量およびサイクル特性を維持しつつ、重負荷特性を向上させることができ、特に第3の軽金属塩としてLiPF6 を用いるようにすればより高い効果を得ることができることが分かった。
【0106】
なお、上記実施例では、第1の軽金属塩、第2の軽金属塩および第3の軽金属塩について具体的に例を挙げて説明したが、他の第1の軽金属塩、他の第2の軽金属塩および他の第3の軽金属塩を用いても同様の結果を得ることができる。また、上記実施例では、電解液を用いる場合について説明したが、ゲル状の電解質を用いても同様の結果を得ることができる。
【0107】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例においては、軽金属としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の長周期型周期表における1A族元素、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2A族元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、軽金属を吸蔵・離脱可能な負極材料、正極材料あるいは非水溶媒などは、その軽金属に応じて選択される。
【0108】
但し、軽金属としてリチウムまたはリチウムを含む合金を用いるようにすれば、現在実用化されているリチウムイオン二次電池との電圧互換性が高いので好ましい。なお、軽金属としてリチウムを含む合金を用いる場合には、電解質中にリチウムと合金を形成可能な物質が存在し、析出の際に合金を形成してもよく、また、負極にリチウムと合金を形成可能な物質が存在し、析出の際に合金を形成してもよい。
【0109】
また、上記実施の形態および実施例においては、電解液または固体状の電解質の1種であるゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなるイオン伝導性無機化合物、またはこれらのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したもの、またはこれらのイオン伝導性無機化合物とゲル状の電解質あるいは高分子固体電解質とを混合したものが挙げられる。
【0110】
更に、上記実施の形態および実施例においては、巻回構造を有する円筒型の二次電池について説明したが、本発明は、巻回構造を有する楕円型あるいは多角形型の二次電池、または正極および負極を折り畳んだりあるいは積み重ねた構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、いわゆるコイン型,ボタン型あるいは角型などの二次電池についても適用することができる。また、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【0111】
【発明の効果】
以上説明したように本発明による電池によれば、電解質が、第1の軽金属塩と、第2の軽金属塩とを含むようにしたので、負極における電解質の分解反応を抑制することができると共に、負極において析出した軽金属と電解質との反応を防止することができる。よって、軽金属の析出・溶解効率を向上させることができ、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0112】
特に、第1の軽金属塩および第2の軽金属塩に加えて、第3の軽金属塩を含むようにすれば、内部抵抗を低減させることができ、重負荷特性などの電池特性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【符号の説明】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20…巻回電極体、21…正極、21A…正極集電体、21B…正極合剤層、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極合剤層、23…セパレータ、24…センターピン、25…正極リード、26…負極リード。
Claims (11)
- 正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極の容量は、軽金属の吸蔵および離脱による容量成分と、軽金属の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表され、
前記電解質は、B−X1結合(但し、Bはホウ素を表し、X1は酸素(O)または硫黄(S)を表す。)を有する第1の軽金属塩と、P−X2結合(但し、Pはリンを表し、X2は酸素または硫黄を表す。)を有する第2の軽金属塩とを含むことを特徴とする電池。 - 前記第1の軽金属塩はB−O結合を有し、前記第2の軽金属塩はP−O結合を有することを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記第1の軽金属塩はO−B−O結合を有し、前記第2の軽金属塩はO−P−O結合を有することを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記第1の軽金属塩は化1に示した化合物を含み、前記第2の軽金属塩は化2に示した化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記第1の軽金属塩は化3に示した化合物を含み、前記第2の軽金属塩は化4に示した化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記電解質は、更に、前記第1の軽金属塩および第2の軽金属塩以外の第3の軽金属塩を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記正極は、リチウム(Li)と、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マンガン(Mn)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種と、酸素とを含むリチウム含有化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記負極は、軽金属を吸蔵および離脱することが可能な負極材料を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
- 前記電解質は、更に、高分子化合物またはイオン伝導性無機化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
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