JP2004353036A - 磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.08%以下、Si:4.5 %以下およびMn:0.5 %以下を含有すると共に、S,SeおよびOをそれぞれ50 ppm未満ならびにNを60 ppm未満、sol.Alを100ppm未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを素材として、方向性電磁鋼板を製造するに際し、
一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間に、鋼板に対して増硫処理を施す。
【選択図】 図1
Description
本発明は、優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を安価に得ることができる磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板は、変圧器や発電機の鉄心材料として用いられる軟磁性材料で、鉄の磁化容易軸である<001>方位が鋼板の圧延方向に高度に揃った結晶組織を有するものである。このような集合組織は、方向性電磁鋼板の製造工程中、二次再結晶焼鈍の際にいわゆるゴス(Goss)方位と称される(110)〔001〕方位の結晶粒を優先的に巨大成長させる、二次再結晶を通じて形成される。
【0003】
従来、このような方向性電磁鋼板は、4.5 mass%以下程度のSiと、MnS,MnSe,AlNなどのインヒビター成分を含有するスラブを、1300℃以上に加熱し、インヒビター成分を一旦固溶させたのち、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、ついで湿潤水素雰囲気中で一次再結晶焼鈍を施して、一次再結晶および脱炭を行い、ついでマグネシア(MgO)を主剤とする焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶およびインヒビター成分の純化のために、1200℃で5h程度の最終仕上焼鈍を行うことによって製造されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第 1965559号公報
【特許文献2】
特公昭40−15611 号公報
【特許文献3】
特公昭51−13469 号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したとおり、従来の方向性電磁鋼板の製造に際しては、MnS,MnSe,AlNなどの析出物(インヒビター成分)をスラブ段階で含有させ、1300℃を超える高温のスラブ加熱により、これらのインヒビター成分を一旦固溶させ、後工程で微細析出させることにより二次再結晶を発現させるという工程が採用されてきた。
このように、従来の方向性電磁鋼板の製造工程では、1300℃を超える高温でのスラブ加熱が必要であったため、その製造コストは極めて高いものにつき、近年の製造コスト低減の要求に応えることができないというところに問題を残していた。
【0006】
本発明は、上紀の問題を有利に解決するもので、方向性電磁鋼板の製造工程において高温のスラブ加熱を施す必要がなく、低コストで磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる有利な方法を提案することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の問題を解決するために、スラブにインヒビター成分を含有させずに二次再結晶を発現させる技術について、鋭意研究を進めた。
その結果、スラブにインヒビター成分を含有させない場合であっても、一次再結晶焼鈍後、二次再結晶完了前に、地鉄中のS量を増加させることによって、安定して二次再結晶を発現させることができる技術(「増硫法」)を開発した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
1.質量%で、C:0.08%以下、Si:4.5 %以下およびMn:0.5 %以下を含有すると共に、S,SeおよびOをそれぞれ50 ppm未満ならびにNを60 ppm未満、sol.Alを100ppm未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、再加熱することなくあるいは1000〜1300℃の温度に再加熱後、熱間圧延を施して熱延板としたのち、焼鈍および圧延によって最終板厚の冷間圧延板とし、ついで一次再結晶焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間に、鋼板に対して増硫処理を施すことを特徴とする磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0009】
2.前記増硫処埋による鋼板地鉄中のS濃度の増加量が、2ppm 以上、200 ppm以下であることを特徴とする上記1記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
3.前記増硫処埋が、前記焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を 0.2〜15mass%含有させるものであることを特徴とする上記1または2記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0011】
4.前記硫化物および/または硫酸塩が、Ag, Al, Ba, Ca, Co, Cr, Cu, Fe, In, K, Li, Mg, Mn, Na, Ni, Sn, Sb, Sr, ZnおよびZrの硫化物または硫酸塩のうちから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする上記3記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0012】
5.前記焼鈍分離剤の主剤がマグネシアであることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0013】
6.前記鋼スラブが、さらに質量%で、Cr:0.05〜0.5 %、Ni:0.05〜0.5 %、Cu:0.05〜0.5 %、P:0.01〜0.2 %、Sb:0.01〜0.2 %およびSn:0.01〜0.4%のうちから選んだ一種または二種以上を含有する組成になることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において鋼スラブの成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.08%以下
Cは、一次再結晶集合組織を改善する上で有用な元素であるが、含有量が0.08%を超えるとかえって一次再結晶集合組織の劣化を招くので、本発明では0.08%以下に限定した。磁気特性の観点から望ましい添加量は、0.01〜0.06%の範囲である。なお、要求される磁気特性のレベルがさほど高くない場合には、一次再結晶焼鈍における脱炭を省略あるいは簡略化するために、Cを0.01%以下としてもよい。
【0015】
Si:4.5 %以下
Siは、電気抵抗を高めることによって鉄損を改善する有用元素であるが、含有量が4.5 %を超えると冷間圧延性が著しく劣化するので、Siは4.5 %以下に限定した。鉄損の観点から望ましい添加量は、 2.0〜4.0 %の範囲である。なお、要求される鉄損レベルによっては、Siを添加しなくてもよい。
【0016】
Mn:0.5 %以下
Mnは、製造時における熱間加工性を向上させる効果があるが、含有量が0.5 %を超えた場合には、一次再結晶集合組織が悪化して磁気特性の劣化を招くので、Mnは0.5 %以下に限定した。
【0017】
S,SeおよびO:それぞれ50 ppm未満
S,SeおよびO量がそれぞれ50 ppm以上になると、二次再結晶が困難となる。この理由は、粗大な酸化物や、スラブ加熱によって粗大化したMnS,MnSeが一次再結晶組織を不均一にするためである。従って、S,SeおよびOはいずれも、50ppm 未満に抑制するものとした。
【0018】
N:60 ppm未満
Nもまた、SやSe,Oと同様、過剰に存在すると、二次再結晶を困難にする。特にN量が60 ppm以上になると、二次再結晶が生じ難くなり、磁気特性が劣化するので、Nは60 ppm未満に抑制するものとした。
【0019】
sol.Al:100 ppm 未満
Alもまた、過剰に存在すると二次再結晶を困難とする。特に、sol.Al量が 100 ppmを超えると二次再結晶し難くなり、磁気特性が劣化するので、Alはsol.Al量で 100 ppm未満に抑制するものとした。
【0020】
以上、必須成分について説明したが、本発明では、工業的により安定して磁気特性を改善する成分として、以下の元素を適宜含有させることができる。
Cr:0.05〜0.5 %
Crは、フォルステライト被膜の形成を安定化させる働きがあり、そのためには0.05%以上含有させることが好ましいが、一方で含有量が 0.5%を超えると二次再結晶が困難となり、磁気特性が劣化するので、Crは0.05〜0.5 %の範囲で含有させることが望ましい。
【0021】
Ni:0.05〜0.5 %
Niは、熱延板組織の均一性を高めることにより、磁気特性を改善する働きがあり、そのためには0.05%以上含有させることが好ましいが、含有量が 0.5%を超えると二次再結晶が困難となり、磁気特性が劣化するので、Niは0.05〜0.5 %の範囲で含有させることが望ましい。
【0022】
Cu:0.05〜0.5 %
Cuは、二次再結晶焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して磁気特性を効果的に向上させる働きがあり、そのためには0.05%以上含有させることが好ましいが、 0.5%を超えて含有されると熱間圧延性の劣化を招くので、Cuは0.05〜0.5 %の範囲で含有させることが望ましい。
【0023】
P:0.01〜0.2 %
Pは、フォルステライト被膜の形成を安定化させる働きがあり、そのためには0.01%以上含有させることが好ましいが、含有量が 0.2%を超えると冷間圧延性が劣化するので、Pは0.01〜0.2 %の範囲で含有させることが望ましい。
【0024】
Sb:0.01〜0.2 %
Sbは、二次再結晶焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して磁気特性を効果的に向上させる有用元素であり、その目的のためには0.01%以上含有させることが好ましいが、0.2 %を超えて含有されると冷間圧延性が劣化するので、Sbは0.01〜0.2 %の範囲で含有させることが望ましい。
【0025】
Sn:0.01〜0.4 %
Snは、二次再結晶焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して磁気特性を向上させる有用元素であり、そのためには0.01%以上含有させることが好ましいが、 0.4%を超えて含有されると冷間圧延性が劣化するので、Snは0.01〜0.4 %の範囲で含有させることが望ましい。
【0026】
次に、本発明の製造方法について説明する。
上記の好適成分組成範囲に調整した鋼スラブを、再加熱することなくあるいは再加熱したのち、熱間圧延に供する。なお、スラブを再加熱する場合には、再加熱温度は1000℃以上、1300℃以下程度とすることが望ましい。というのは、1300℃を超えるスラブ加熱は、スラブ中にインヒビターを含まない本発明では無意味で、コストアップとなるだけであり、一方1000℃未満では、圧延荷重が高くなり、圧延が困難となるからである。
【0027】
ついで、熱延板に、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して、最終冷延板とする。この冷間圧延は、常温で行ってもよいし、常温より高い温度たとえば 250℃程度に鋼板温度を上げて圧延する温間圧延としてもよい。
【0028】
ついで、最終冷間圧延板に一次再結晶焼鈍を施す。
この一次再結晶焼鈍の第一の目的は、圧延組織を有する冷間圧延板を一次再結晶させて、二次再結晶に最適な一次再結晶粒径に調整することである。そのためには、一次再結晶焼鈍の焼鈍温度は 800℃以上、 950℃未満程度とすることが望ましい。
また、第二の目的は、脱炭である。製品板中に炭素が50 ppm以上含まれると、鉄損が劣化するので、この一次再結晶焼鈍で炭素を 200 ppm未満まで低減することが望ましい。なお、この時の焼鈍雰囲気は、湿水素窒素あるいは湿水素アルゴン雰囲気とすることが望ましい。
【0029】
上記の一次再結晶焼鈍後、鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。二次再結晶焼鈍後の鋼板表面にフォルステライト被膜を形成するためには、焼鈍分離剤の主剤をマグネシア(MgO)とする必要があるが、フォルステライト被膜の形成が必要ない場合には、焼鈍分離剤主剤として、アルミナ(Al2O3 )やカルシア(CaO)など、二次再結晶焼鈍温度より高い融点を有する適当な酸化物を用いることができる。
【0030】
その後、二次再結晶焼鈍を行う。この二次再結晶焼鈍により、ゴス方位に高度に集積した結晶組織となり、良好な磁気特性が得られる。
【0031】
さて、本発明では、上記した一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間に、地鉄中のS量を増加させる「増硫処理」を行う。
二次再結晶中に地鉄S量を増加させる方法としては、
(1) Sを含む雰囲気ガス(たとえばH2Sなど)を二次再結晶焼鈍中に導入する方法、
(2) 焼鈍分離剤中に硫酸塩や硫化物を徴量添加する方法
などが考えられる。
【0032】
工業的規模では、二次再結晶焼鈍はコイル焼鈍にて行われるため、上記(1) の方法ではコイル内部にまでSが到達し難く、板幅方向に均一な磁気特性を得ることが難しい。この点、上記(2) の方法は、幅方向の均一性にも優れた望ましい方法である。
かような増硫処理により、二次再結晶が安定化し、磁気特性が向上する。
【0033】
上記の現象は、スラブ中にインヒビター成分を含有しない鋼の場合に特有な現象である。すなわち、鋼中にAlNやMnSなどのインヒビター(析出物)が存在しない場合、一次再結晶組織中のGoss方位粒を囲む粒界は、他の方位の粒を囲む粒界に比べて易動度が大きく、その結果Goss方位が優先成長(二次再結晶)するのである。
一次再結晶後に地鉄中のS量を増加させることによって、磁気特性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、粒界へ偏析するS量が増す結果、Goss方位以外の方位を囲む粒界の移動がさらに抑制され、二次再結晶が安定化すると共に、二次粒のGoss方位への先鋭性が増すものと考えられる。
【0034】
ここに、上記の増硫処理による望ましい地鉄中のS増加量は、2ppm 以上、200 ppm 以下である。なお、このS増加量が、2ppm 未満や200ppm超の場合でも、二次再結晶は安定化する傾向にあるが、その効果は小さい。
【0035】
また、焼鈍分離剤への硫酸塩や硫化物の添加量としては、0.2 %以上、15%以下が好適である。というのは、硫酸塩や硫化物の添加量が0.2 %未満では、地鉄のS増加量が少なく、一方15%超では地鉄のS増加量が多すぎて、いずれの場合も磁気特性改善効果が小さい。
ここに、焼鈍分離剤中に添加する硫酸塩や硫化物としては、Ag, Al, Ba, Ca,Co, Cr, Cu, Fe, In, K, Li, Mg, Mn, Na, Ni, Sn, Sb, Sr, ZnおよびZrの硫酸塩または硫化物のうちから選ばれる一種または二種以上が好適である。
【0036】
なお、二次再結晶焼鈍では、昇温速度が30℃/hを超えると、二次再結晶完了までにSが地鉄に拡散し難い。従って、Sの地鉄中への拡散を確実なものとするためには、昇温速度を30℃/h以下とすることが望ましい。また焼鈍雰囲気は、N2,Arあるいはこれらの混合ガスのいずれもが適合する。ただし、二次再結晶完了までは、H2 を雰囲気ガスとして使用しないことが望ましい。というのは、焼鈍分離剤中のSがH2S(ガス)として系外に出て行き、特にコイルのエッジにおいて増硫の効果が小さくなるからである。
【0037】
上記の二次再結晶焼鈍後、鋼板表面に、さらに絶縁被膜を塗布、焼き付けることもできる。かかる絶縁被膜の種類については、特に限定されず、従来公知のあらゆる絶縁被膜が適合する。たとえば、特開昭50−79442 号公報や特開昭48−39338 号公報に記載されているリン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを含有する塗布液を鋼板に塗布し、800 ℃程度で焼き付ける方法が好適である。
また、平坦化焼鈍により、鋼板の形状整えることも可能であり、さらにこの平坦化焼鈍を絶縁被膜の焼き付け処理と兼備させることもできる。
【0038】
【実施例】
実施例1
C:0.07%、Si:3.5 %、Mn:0.05%、sol.Al:45 ppm、N:35 ppm、S:10ppm 、Se:1 ppm、O:10 ppmを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる連鋳スラブを、再加熱することなく、熱間圧延して、板厚:2.0 mmの熱延板とした後、1000℃で30秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により、板厚:0.30mmとした後、 850℃, 100sの一次再結晶焼鈍を施した。一次再結晶焼鈍後の地鉄S濃度はスラブ組成と同じ10 ppmであった。
ついで、MgOを主剤とし、CaSO4 を種々の範囲で含有する焼鈍分離剤を、一次再結晶板に塗布・乾燥した後、昇温速度:15℃/h、雰囲気ガス:900 ℃までN2ガス、900 ℃以上はH2 、均熱処理:1160℃, 5hの条件で二次再結晶焼鈍を施した。
【0039】
上記の条件で得られた仕上焼鈍板の表面に、リン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを、質量比で3:1:3の割合で含有する処理液を塗布し、800 ℃で焼き付けた。その後、コイル幅中央部の磁気特性について調査した。磁気特性は、 800℃で3時間の歪取り焼鈍を行ったのち、800 A/m で励磁したときの磁束密度B8 および50Hzで1.7 Tまで交流で励磁したときの鉄損W17/50 で評価した。
得られた結果を表1に示す。
また、表1には、二次再結晶が完了する 900℃にて二次再結晶焼鈍を中止し、地鉄中のS濃度について測定した結果も併せて示す。
【0040】
【表1】
【0041】
同表から明らかなように、本発明に従い、一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間に地鉄中のS量を増大させた場合には、磁気特性の改善が見られた。特に、CaSO4 を 0.2〜15%の範囲で含有させて、地鉄中S量を2ppm 以上、200ppm 以下の範囲で増加させた場合に、とりわけ良好な結果が得られた。
【0042】
また、図1および図2にそれぞれ、一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間の地鉄中の増硫量(S増加量)と磁束密度B8 および鉄損W17/50 との関係について示したが、同図から明らかなように、地鉄中のS量を増大させることによってB8 およびW17/50 が共に改善され、この効果は特に増硫量が2〜200 ppm の範囲で大きいことが分かる。
【0043】
実施例2
C:0.02%、Si:3.0 %、Mn:0.10%、sol.Al:80 ppm、N:55 ppm、S:20 ppm、Se:20 ppm、O:30 ppmを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる連鋳スラブを、1180℃に再加熱後、熱間圧延して、板厚:2.5 mmの熱延板とし、ついで冷間圧延により、板厚:0.35mmとした後、 800℃, 100sの一次再結晶焼鈍を施した。一次再結晶焼鈍後の地鉄S濃度はスラブ組成と同じ20 ppmであった。
ついで、MgOを主剤とし、表2に示す種々の硫化物、硫酸塩およびその他の添加剤を含有する焼鈍分離剤を、一次再結晶板に塗布・乾燥したのち、昇温速度:10℃/h、雰囲気ガス:950 ℃以下は(50%N2+50%Ar)ガス、 950℃以上はH2 ガス、均熱処理:1200℃, 10hの条件で二次再結晶焼鈍を施した。
【0044】
上記の条件で得られた仕上焼鈍板の表面に、リン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを、質量比で3:1:3の割合で含有する処理液を塗布し、800 ℃で焼き付けた。その後、コイル幅中央部の磁気特性について調査した。磁気特性は、 800℃で3時間の歪取り焼鈍を行ったのち、800 A/m で励磁したときの磁束密度B8 および50Hzで1.7 Tまで交流で励磁したときの鉄損W17/50 で評価した。
得られた結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
同表から明らかなように、焼鈍分離剤中に、Ag, Al, Ba, Ca, Co, Cr, Cu, Fe, In, K, Li, Mg, Mn, Na, Ni, Sn, Sb, Sr, ZnおよびZrの硫酸塩または硫化物を、単独または複合して適量添加した場合には、良好な磁気特性を得ることができた。
【0047】
実施例3
表3に示す種々の成分になる連鋳スラブを、1230℃に再加熱後、熱間圧延して、板厚:2.2 mmの熱延板とし、ついで冷間圧延により板厚:0.23mmとしたのち、 850℃, 180sの一次再結晶焼鈍を施した。ついで、MgO:95%、SrS:2%およびTiO2:3%を含有する焼鈍分離剤(A)およびMgO:97%およびTiO2:3%を含有する焼鈍分離剤(B)を、一次再結晶板に塗布・乾燥したのち、昇温速度:10℃/h、雰囲気ガス:950 ℃以下はArガス、950 ℃以上はH2 ガス、均熱処理:1100℃, 10hの条件で二次再結晶焼鈍を施した。
上記の条件で得られた仕上焼鈍板の表面に、リン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを、質量比で3:1:3の割合で含有する処理液を塗布し、800 ℃で焼き付けた。その後、コイル幅中央部の磁気特性について調査した。磁気特性は、 800℃で3時間の歪取り焼鈍を行ったのち、800 A/m で励磁したときの磁束密度B8 および50Hzで1.7 Tまで交流で励磁したときの鉄損W17/50 で評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
同表から明らかなように、本発明に従い、焼鈍分離剤中に硫化物として2%のSrSを含有させた場合には、良好な磁気特性が得られている。
【0050】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を、工業的に安定してかつ安価に製造することが可能となり、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間の地鉄中の増硫量(S増加量)と磁束密度B8 との関係を示したグラフである。
【図2】一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間の地鉄中の増硫量(S増加量)と鉄損W17/50 との関係を示したグラフである。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.08%以下、Si:4.5 %以下およびMn:0.5 %以下を含有すると共に、S,SeおよびOをそれぞれ50 ppm未満ならびにNを60 ppm未満、sol.Alを100ppm未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、再加熱することなくあるいは再加熱後、熱間圧延を施して熱延板としたのち、焼鈍および圧延によって最終板厚の冷間圧延板とし、ついで一次再結晶焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
一次再結晶焼鈍後から二次再結晶完了までの間に、鋼板に対して増硫処理を施すことを特徴とする磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記増硫処埋による鋼板地鉄中のS濃度の増加量が、2ppm 以上、200 ppm 以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記増硫処埋が、前記焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を 0.2〜15mass%含有させるものであることを特徴とする請求項1または2記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記硫化物および/または硫酸塩が、Ag, Al, Ba, Ca, Co, Cr,Cu, Fe, In, K, Li, Mg, Mn, Na, Ni, Sn, Sb, Sr, ZnおよびZrの硫化物または硫酸塩のうちから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項3記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記焼鈍分離剤の主剤がマグネシアであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブが、さらに質量%で、Cr:0.05〜0.5 %、Ni:0.05〜0.5 %、Cu:0.05〜0.5 %、P:0.01〜0.2 %、Sb:0.01〜0.2 %およびSn:0.01〜0.4 %のうちから選んだ一種または二種以上を含有する組成になることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
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