JP2004347053A - 硬質炭素被膜摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼材又はアルミニウム材から成る基材において、相手材と潤滑油を介して摺動する部位に、ゴム若しくは樹脂、又はこれに固体潤滑剤などの添加粒子を加えた弾性層を中間層とし、さらに当該中間層の表面に、DLCのような硬質炭素被膜を形成する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摺動表面に、例えばダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」と称する)のような硬質炭素被膜を備えた低摩擦摺動材料に係わり、更に詳細には、内燃機関等での使用に適し、エンジンオイルやトランスミッションオイル等の潤滑油の存在下において極めて優れた低摩擦性を示す硬質炭素被膜摺動部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
地球全体の温暖化、オゾン層の破壊など地球規模での環境問題が大きくクローズアップされ、とりわけ地球全体の温暖化に大きな影響があるといわれているCO2削減については各国でその規制値の決め方をめぐって大きな関心を呼んでいる。
CO2削減については、自動車の燃費の削減を図ることが大きな課題の1つであり、摺動材料と潤滑油が果たす役割は大きい。
【0003】
摺動材料の役割は、エンジンの摺動部位の中で摩擦摩耗環境が苛酷な部位に対して耐磨耗性に優れ且つ低い摩擦係数を発現することであり、最近では、DLC材料を始めとする種々の硬質薄膜材料の適用が進んできている。
硬質薄膜としてのDLC材料は、一般に、空気中など、潤滑油が介在しない環境下における摩擦係数が、TiNやCrNといった耐磨耗性の硬質被膜材料と比べて低いことから低摩擦摺動材料として期待されている。しかし、このような一般のDLC材料は、空気中において低摩擦性に優れるものの、潤滑油存在下においては、その摩擦低減効果が必ずしも大きくないことが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、内燃機関用部品として、例えばシリンダボア−ピストンスカート部の双方の摺動面に同一金属が含まれていると、金属同士の凝着によって焼付きが発生しやすくなることから、これを防止するために、例えばピストンスカート部表面に樹脂被覆層を形成すると共に、当該被覆層の摺動特性を改善するために、結合剤としてのポリアミドイミド(PAI)樹脂やポリイミド(PI)樹脂に固体潤滑剤である二硫化モリブデン(MoS2)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイトなどを添加したコーティング剤を被覆することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】
加納、他,日本トライボロジー学会予稿集,1999年5月,p.11〜12
【特許文献1】
特開平7−97517号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に記載された樹脂と固体潤滑剤からなるコーティングは、ピストンとシリンダーボア間の摺動特性を改善する目的で行われるものであるが、樹脂の強度特性上、耐摩耗性が必ずしも十分ではなく、初期の特性を維持する点に関しては改善の余地がある。
すなわち、ピストンスカート部の条痕上に形成される樹脂膜のみでは、摩耗により初期の条痕に倣った形状が摺動部の摩耗によって変化し、時間の経過に伴って潤滑油を運搬する機能が低下してしまうことから、相手材との摺動において、樹脂成分中への固体潤滑剤の添加によって摩擦特性の改善がなされてはいるものの、必ずしも十分ではなく、このような問題点の解消が樹脂と固体潤滑剤からなるコーティングを施した従来の摺動部材における課題となっていた。
【0007】
本発明は、従来の摺動部材における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、樹脂材料の弾性に富む特性を活かしながら、最表面の摩擦特性を大幅に改善することができる硬質炭素被膜摺動部材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、硬質炭素被膜の種類や特性、当該硬質炭素被膜を形成する基材の物性、さらには潤滑油やその添加物などについて鋭意検討を重ねた結果、鋼材又はアルミニウム材から成る基材における相手材と潤滑油を介して摺動する部位に、樹脂材又は樹脂材と添加粒子から成る弾性層を中間層とし、さらに当該中間層の表面に、例えばDLCなどの硬質炭素被膜を形成することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
即ち、本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、潤滑油の存在下で摺動する摺動部材であって、鋼材又はアルミニウム材を基材とし、相手材との摺動部位に、ゴム若しくは150℃以上の融点を有する樹脂から成る中間層を介して硬質炭素被膜を備えていることを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、上記のように、鉄鋼材やアルミニウム材等から成る基材の摺動面に、ゴムや樹脂などからなる弾性中間層を介して、DLC材料などの硬質炭素被覆を施したものであって、弾性に優れた中間層の存在によって摺動部における相手部材に対する追従性が向上し、接触面積が増大して面圧が低く維持されることから、最表面層の硬質炭素被膜の耐摩耗性及び低摩擦特性とが相俟って、摩擦係数及び摩耗量が大幅に減少することになる。
【0011】
ここで、上記硬質炭素被膜材料としては、炭素元素を主として構成されるDLC材料を用いることができる。このDLC材料は、非晶質のものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられるが、本発明においては、上記DLC材料として、大幅な摩擦低減効果を発揮させる観点から、水素含有量が少ないものほど好ましく、水素含有量が原子比で0.5%以下であることが好ましい。この場合、硬質炭素被膜層の最表面の水素を重点的に減少させる観点から、被膜層を2層、あるいはこれ以上の多層構造とし、最表層の水素含有量が0.5原子%以下となるようにすることも可能である。
【0012】
このような硬質炭素被膜層の形成には、公知の薄膜形成技術であるPVD法やCVD法、スパッタリング法などを適用するすることができ、特にPVD法によれば水素含有量の低い硬質炭素被膜層を成膜することができる。したがって、上記のような多層構造の被膜層を形成するに際して、CVD法によって下層側被膜層を形成し、最上層についてはPVD法によって成膜すれば、最表面の水素量を例えば0.5原子%以下のものとすることができる。
なお、硬質炭素被膜のコーティング厚さが0.3〜2.0μmであることが好ましい。すなわち、硬質炭素被膜のコーティング厚さが0.3μm未満となると、摩滅しし易くなると共に、コーティング厚さが2.0μmを超えると、その脆性的な特性から剥離し易くなる傾向があることによる。
【0013】
上記中間層を構成する材料としては、ゴム又は融点が150℃以上の樹脂材料が用いられる。融点が150℃以上の樹脂を用いるのは、自動車の内燃機関に用いるエンジン油の温度が150℃に到達するためである。具体的には、例えばポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ゴム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)などを単独で、あるいはこれらの2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0014】
また、上記中間層には、粒状添加剤、例えば二硫化モリブデン(MoS2)、四フッ化エチレン(PTFE)、黒鉛(グラファイト)などを単独、あるいは任意に組み合わせて添加することができ、これによって、膜剥離時のμ特性を維持できることになることになる。
なお、中間層の厚さとしては、接触部の面圧を軽減する観点から、5〜20μm程度の範囲とすることが望ましい。
【0015】
また、本発明の硬質炭素被膜摺動部材はアルミニウムに対する耐スカッフ性に優れ、アルミニウム材から成る部材が相手材である場合に、更なる効果が得られる。例えば、ピストンスカートのアルミニウムとの共材の摺動を耐スカッフ性の観点から避けるために、鉄めっきやステンレス鋼製の薄片を分散させた樹脂膜を使った例があるが、これらと比較し、DLC膜の方がより低フリクションが得られる。
【0016】
本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、例えば内燃機関のピストンに適用することができ、この場合、ピストンスカート部における条痕加工目上に中間層及び硬質炭素被膜を形成すること、すなわち、ピストンスカート部に潤滑油の運搬機能を付与するためにピストンの摺動方向に垂直に形成した条痕加工目の高さやピッチに対して、中間層及び硬質炭素被膜層の厚さが極端に厚いものにならないようにして、中間層及び硬質炭素被膜層の成膜後にも、硬質炭素被膜表面に条痕加工目による凹凸が失われないようにすることが、潤滑油の運搬機能を確保する上で望ましい。
【0017】
また、本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、内燃機関用の軸受メタル部品にも適用することができ、この場合も上記ピストンの場合と同様に、摺動表面の条痕加工目上に、条痕加工目による凹凸が失われないように中間層及び硬質炭素被膜を形成することが望ましい。
【0018】
次に、本発明に用いる潤滑油組成物について詳細に説明する。
本発明に用いる潤滑油としては、潤滑油基油に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有させて成るものを好適に用いることができる。
【0019】
ここで、上記潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂及びこれらの混合物など、潤滑油組成物の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系又はナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用でき、溶剤精製、水素化精製処理したものが一般的であるが、芳香族分をより低減することが可能な高度水素化分解プロセスやGTL Wax(ガス・トウー・リキッド・ワックス)を異性化した手法で製造したものを用いることがより好ましい。
【0020】
合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンイソステアリネート等のトリメチロールプロパンエステル;ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のペンタエリスリトールエステル)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフイン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる潤滑油組成物における基油は、鉱油系基油又は合成系基油を単独あるいは混合して用いる以外に、2種類以上の鉱油系基油、あるいは2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。また、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0022】
潤滑油基油中の硫黄分について、特に制限はないが、基油全量基準で、0.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、さらには0.05%以下であることが好ましい。特に、水素化精製鉱油や合成系基油の硫黄分は、0.005%以下、あるいは実質的に硫黄分を含有していない(5ppm以下)ことから、これらを基油として用いることが好ましい。
【0023】
また、潤滑油基油中の芳香含有量についても、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油組成物として長期間低摩擦特性を維持するためには、全芳香族含有量が15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。即ち、潤滑油基油の全芳香族含有量が15%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、ここで言う全芳香族含有量とは、ASTM D2549に規定される方法に準拠して測定される芳香族留分(aromatics fraction)含有量を意味している。
【0024】
潤滑油基油の動粘度にも、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油組成物として使用する場合には、100℃における動粘度が2mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm2/s以上である。一方、その動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、10mm2/s以下、特に8mm2/s以下であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm2/s未満である場合には、十分な耐摩耗性が得られない上に蒸発特性が劣る可能性があるため好ましくない。一方、動粘度が20mm2/sを超える場合には低摩擦性能を発揮しにくく、低温性能が悪くなる可能性があるため好ましくない。本発明においては、上記基油の中から選ばれる2種以上の基油を任意に混合した混合物等が使用でき、100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内に入る限りにおいては、基油単独の動粘度が上記以外のものであっても使用可能である。
【0025】
また、潤滑油基油の粘度指数にも、特別な制限はないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、特に内燃機関用潤滑油組成物として使用する場合には、120以上であることが好ましい。潤滑油基油の粘度指数を高めることでよりオイル消費が少なく、低温粘度特性、省燃費性能に優れた内燃機関用潤滑油組成物を得ることができる。
【0026】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0027】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0028】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0029】
また、本発明に用いる潤滑油組成物に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると潤滑油への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0030】
一方、本発明に用いる潤滑油組成物は、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0031】
【化1】
【0032】
【化2】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0033】
更に、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0034】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0035】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0036】
なお、本発明に用いる潤滑油組成物において、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0037】
更にまた、本発明に用いる潤滑油組成物は、次の一般式(3)
【0038】
【化3】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0039】
上記R4、R5、R6及びR7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
なお、R4、R5、R6及びR7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0040】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0041】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、組成物全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0042】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R4、R5、R6及びR7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明に用いる潤滑油においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0043】
上述のように、本発明に用いる潤滑油組成物は、硬質炭素被膜部材と鉄基材料、あるいはアルミニウム材から成る部材との摺動面に用いた場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すものであるが、特に内燃機関用潤滑油組成物として必要な性能を高める目的で、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0044】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレートナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択できる。通常、全塩基価は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、望ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は組成物全量基準で、通常0.1〜10%である。
【0045】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、並びにこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5%である。
【0046】
更に、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40.0%であることが望ましい。
【0047】
更にまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
更に、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
更に、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
なお、これら添加剤を上記潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は、組成物全量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤については0.01〜5%、金属不活性剤については0.005〜1%、消泡剤については0.0005〜1%の範囲から適宜選択できる。
【0048】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
(ブロックの作製)
摺動部材としてのブロックは、AC8AのT6処理材及び機械構造用炭素鋼S45Cの焼入れ焼戻し材から、10mm(ストローク方向)×10mm(幅)×5mm(厚み)の形状に切り出した後、高さ10μm、ピッチ200μmの条痕をストローク方向と直角をなす方向に形成し、この上に溶剤に溶解させた各樹脂材料を、成膜後の厚さが7〜10μmとなるようにスプレー塗布して中間層を形成し、さらにこの上に、プラズマCVD法によって硬質炭素被膜としてのDLC膜を1μmの厚さに成膜した。そして、一部の実施例においては、当該プラズマCVD法によるDLC膜のさらにその上に、含有水素量を少なくするためにマグネトロンスパッタリングによるPVD方式によってDLC材料から成る第2層(最表面層)を0.3μmの厚さに成膜した。
なお、中間層としてフッ素ゴム及びPEEKを使用した場合には、上記のようなスプレー塗装を行うことなく、これらの表面に高さ10μmの条痕を直接形成したものを上記ブロック素材に貼り付けることによって代用した。
【0050】
(プレート材の作製)
上記ブロック摺動部材の相手材となるプレート材として、鋳鉄FC25材から60mm(ストローク方向)×40mm(幅)×10mm(厚み)の形状に切り出したのち、表面をRa:0.3μmに研磨したものと、アルミニウム材A390材から同様の寸法に切り出し、表面をRa:0.1μm以下に研磨した後、エッチング処理によってAl−α相から初晶Siを5μm程度に突出処理したものを用いた。
【0051】
(試験方法)
摺動部剤としての上記ブロックが相手部材である上記プレート材の上を一定の荷重を受けつつ上下方向に往復摺動するタイプの摩擦摩耗試験を評価方法として選択した。潤滑方式としては、ブロックの上下摺動における下死点の手前(上方)3mmの位置に潤滑オイルバスの油面を設定し、下死点における折り返し時にオイルを上方に引きずることにより摺動面に潤滑オイルを供給する方式とした。
なお、試験条件は下記のとおりであり、潤滑油としては、市販の自動車用エンジンオイル5W30SHと、当該5W30SHの添加剤および添加量を変更した試作潤滑油を用いた。その試験結果をブロック及びプレート材の仕様と共に表1に示す。
試験方法;縦型往復動式摩擦摩耗試験
ストローク:40mm
押し付け荷重:100kgf
試験時間:60分
周期:1500cpm
油温:80℃
摩擦係数:1周期の平均値
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示した結果から明らかなように、樹脂等から成る中間層の上に硬質炭素薄膜からなる被覆を施した本発明の実施例に係わるブロックにおいては、ほとんど摩耗が認められず、試験終了後も硬質炭素皮膜上に条痕の残存が確認された。そして、エステルなどの油製剤を潤滑油中に配合することによって低フリクション効果が得られると共に、PVD方式によって、低水素含有量の硬質炭素被膜を形成することによって、さらに著しい低フリクション効果が得られることが確認された。
一方、樹脂等から成る中間層の上に硬質炭素被膜が施されていない比較例ブロックにおいては、いずれも条痕の摩耗に伴う潤滑性の悪化が認められた。また、樹脂膜への固体潤滑剤添加により、若干の改善傾向が認められるが、硬質炭素被覆を施した実施例には及ばなかった。
【0054】
【発明の効果】
以上説明してきたように、鉄鋼材やアルミニウム材から成る基材の摺動面に、ゴムや樹脂などからなる弾性中間層を介して、DLC材料などの硬質炭素被覆を施した本発明の硬質炭素被膜摺動部材によれば、弾性に優れた中間層と、耐摩耗性に優れ低摩擦特性を有する最表面層の硬質炭素被膜との存在によって、摺動部材としての摩擦係数及び摩耗量を大幅に減少させることができるという優れた効果がもたらされる。
Claims (10)
- 鋼材又はアルミニウム材を基材とし、潤滑油の存在下で摺動する摺動部材であって、相手材との摺動部位に、ゴム又は樹脂から成る中間層を介して硬質炭素被膜を備えていることを特徴とする硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記中間層に粒状添加剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記粒状添加剤が二硫化モリブデン(MoS2)、四フッ化エチレン(PTFE)、黒鉛(グラファイト)から成る群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記硬質炭素被膜の少なくともその最表面に含まれる水素量が0.5原子%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記中間層がポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ゴム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリアミド(PA)から成る群から選ばれた少なくとも1種の材料を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に又は2に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記硬質炭素被膜がダイヤモンドライクカーボン(DLC)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記潤滑油が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 上記相手材がアルミニウム材から成るものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 内燃機関用のピストンであって、スカート部分の条痕加工目上に中間層及び硬質炭素被膜を備えていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
- 内燃機関用の軸受メタル部品であって、摺動表面の条痕加工目上に中間層及び硬質炭素被膜を備えていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
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