JP2004286077A - トルク変動吸収ダンパ - Google Patents
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Abstract
【課題】長期にわたってベアリング5によるプーリ3の支持を安定させることの可能なトルク変動吸収ダンパを提供する。
【解決手段】クランクシャフトに取り付けられるハブ1と、このハブ1に第一弾性体22を介して環状質量体21を弾性的に連結した動的吸振部2と、ハブ1に第二弾性体41を介してプーリ3を弾性的に連結したカップリング部4とを備え、第一弾性体22及び第二弾性体41が、ハブ1における外環11のリム部11bの内周側に配置され、プーリ3のプーリ本体31が、前記リム部11bの外周面にラジアルベアリング5を介して同心支持される。
【選択図】 図1
【解決手段】クランクシャフトに取り付けられるハブ1と、このハブ1に第一弾性体22を介して環状質量体21を弾性的に連結した動的吸振部2と、ハブ1に第二弾性体41を介してプーリ3を弾性的に連結したカップリング部4とを備え、第一弾性体22及び第二弾性体41が、ハブ1における外環11のリム部11bの内周側に配置され、プーリ3のプーリ本体31が、前記リム部11bの外周面にラジアルベアリング5を介して同心支持される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、農業機械、工機、小型船舶等に用いられ、内燃機関等における駆動軸から他の回転機器へトルクを伝達すると共にそのトルクの変動を吸収するトルク変動吸収ダンパに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の内燃機関による駆動力の一部は、クランクシャフトの先端に設けられたプーリから無端ベルトを介して例えばオルタネータやウォーターポンプ等の補機に与えられるが、クランクシャフトは内燃機関の各行程によるトルク変動を伴って回転されるので、前記プーリにはトルク変動を吸収して伝達トルクの平滑化を図るためのトルク変動吸収ダンパが用いられる。
【0003】
従来の技術によるトルク変動吸収ダンパとしては、例えば下記の特許文献1に記載されているように、クランクシャフトの軸端に取り付けられて一体に回転するハブのリム部の外周に、第一弾性体を介して環状質量体を連結し、前記環状質量体にラジアルベアリングを介して支持されたプーリから内周側へ延びる鍔部を、第二弾性体を介してハブに軸方向に連結したものが知られている。そして、この種のトルク変動吸収ダンパは、第一弾性体と環状質量体で構成される動的吸振部が、所定の振動数域において円周方向へ共振することによる動的吸振効果によって、クランクシャフトの捩り振動を低減すると共に、クランクシャフトからハブへ入力された駆動トルクを、第二弾性体の円周方向剪断変形作用によってトルク変動を吸収しながら、プーリへ伝達するものである。
【0004】
【特許文献1】
特許第3155280号(第1図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1に記載された従来のトルク変動吸収ダンパによれば、プーリが、ラジアルベアリングを介して環状質量体の外周に支持されており、この環状質量体自体が、第一弾性体を介してハブに弾性的に支持されているため、ラジアルベアリングと摺動する環状質量体の振れによって、ラジアルベアリングに偏荷重が作用し、局部摩耗を発生して、耐久性が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、長期にわたってベアリングによるプーリの支持を安定させることの可能なトルク変動吸収ダンパを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、ハブに第一弾性体を介して環状質量体を弾性的に連結した動的吸振部と、前記ハブに前記第二弾性体を介してプーリを弾性的に連結したカップリング部とを備え、前記第一弾性体が、前記環状質量体と前記ハブの軸方向対向面間に接着され、前記プーリが、第一ベアリングを介して前記環状質量体に支持されると共に、前記ハブに第二ベアリングを介して支持されたものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。なお、この形態の説明において用いられる「正面側」とは、図1における左側、すなわち車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、図1における右側、すなわち図示されていない内燃機関が存在する側のことである。
【0009】
この形態のトルク変動吸収ダンパは、内燃機関のクランクシャフトの軸端に取り付けられるハブ1と、このハブ1に設けられた動的吸振部2と、ベルトが巻き掛けられるプーリ3と、前記クランクシャフトからハブ1に入力された駆動トルクをプーリ3へ伝達するカップリング部4とを備える。
【0010】
ハブ1は、金属板を打ち抜きプレス成形した外環11、内環12及びリテーナ13を組み合わせたものであって、内周に、図示されていない内燃機関のクランクシャフトが挿通される軸孔1aが開設されている。このうち、最も背面側の外環11は、内周の円盤部11aと、その外周端部から正面側へ延びるリム部11bとからなる。中間の内環12は、外環11の円盤部11aの内周部と密接状態に積層される内周円盤部12aと、この内周円盤部12aの外周から正面側へ突出した環状段差部12bを介して外周側へ延び、外周側ほど外環11の円盤部11aに近接する緩やかな円錐面をなするテーパ状鍔部12cからなる。最も正面側のリテーナ13は、内環12の内周円盤部12aに密接状態に積層されると共に外周が内環12の環状段差部12bに嵌合される内周円盤部13aと、その外周端部から正面側へ延びる円筒部13bと、更にこの円筒部13bにおける正面側の端部から外周側へ延びる鍔部13cからなる。
【0011】
動的吸振部2は、ハブ1における外環11のリム部11bの内周空間に配置された環状質量体21と、この環状質量体21の外周面と前記リム部11bの内周面との間を弾性的に連結している第一弾性体22とからなる。動的吸振部2の円周方向固有振動数は、環状質量体21の円周方向慣性質量と、第一弾性体22の円周方向剪断ばね定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの円周方向固有振動数と合致するように同調されている。
【0012】
環状質量体21は、FCなど、比重の大きい金属材料で製作され、第一弾性体22は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなるものである。動的吸振部2は、所定の金型内に、ハブ1の外環11と環状質量体21とを同心的にセットし、外環11のリム部11bと環状質量体21との径方向対向面間に前記金型によって画成された環状のキャビティ内に、成形用未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することにより、環状に加硫成形されると同時に加硫接着されたものである。すなわち、動的吸振部2を構成する環状質量体21及び第一弾性体22は、外環11と互いに一体の加硫成形物をなすものである。
【0013】
プーリ3は、FCなどの金属材料によって製作されたものであって、ハブ1における外環11のリム部11bの外周側に位置し、外周面にポリV溝31aが形成されたプーリ本体31と、その正面側の端部から前記リム部11b及び動的吸振部2の正面側を内周へ延びる正面盤部32と、更にその内周側に環状段差部33を介して背面側へ適宜後退した位置に形成された内向き鍔部34を有する。この内向き鍔部34は、ハブ1における内環12のテーパ状鍔部12cの軸方向正面側に位置している。
【0014】
プーリ3におけるプーリ本体31と、ハブ1における外環11のリム部11bとの間には、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたラジアルベアリング5が介在されている。プーリ3は、このラジアルベアリング5によって、前記リム部11bの外周に円周方向相対変位可能に同心支持されている。
【0015】
カップリング部4は、プーリ3をハブ1の内環12に第二弾性体41によって弾性的に連結しているものである。詳しくは、第二弾性体41は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなるものであって、動的吸振部2における環状質量体21より内周側に配置されており、その背面側の端部が、内環12のテーパ状鍔部12cに一体的に加硫接着されており、正面側の端部が、プーリ3の内向き鍔部34に一体的に加硫接着されている。
【0016】
すなわち第二弾性体41は、所定の金型内に、内環12とプーリ3とを同心的にセットして、互いに軸方向に対向した内環12のテーパ状鍔部12cとプーリ3の内向き鍔部34との間に前記金型によって画成された環状のキャビティ内に、成形用未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することにより、環状に加硫成形されると同時に加硫接着されたもので、プーリ3及び内環12と互いに一体の加硫成形物をなしている。
【0017】
第二弾性体41は、所要の径方向肉厚を有することによって、トルクを伝達するのに必要な強度が確保されると共に、連結方向(軸方向)に所要の肉厚を有することによって、動的吸振部2における第一弾性体22に比較して円周方向剪断ばね定数を十分に低くしてある。また、この第二弾性体41は、円周方向へ剪断変形を受けた時の歪が、内周側と外周側とでほぼ均一になるように、テーパ状鍔部12cによって、外周側で軸方向肉厚が大きくなる形状となっている。
【0018】
なお、上述の説明から理解されるように、動的吸振部2及びカップリング部4は前記リム部11bの内周側に存在しており、言い換えれば、ラジアルベアリング5を介してプーリ本体31を支持しているリム部11bの支持円周が大きいものとなっており、このため、プーリ3に対する安定した支持力を発揮する。
【0019】
ハブ1におけるリテーナ13の鍔部13cは、プーリ3の内向き鍔部34の正面側に位置しており、互いに対向する両鍔部13c,34間には、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたスラストベアリング6が介在されている。このためプーリ3は、その内向き鍔部34が、スラストベアリング6と、第二弾性体41との間に挟まれることによって、軸方向の挙動が規制される。
【0020】
以上の構成を備えるトルク変動吸収ダンパは、外環11、環状質量体21及び第一弾性体22からなる加硫成形物と、ラジアルベアリング5と、内環12、プーリ3及び第二弾性体41からなる加硫成形物と、スラストベアリング6と、リテーナ13とを、互いに同心的に配置し、ラジアルベアリング5を介してプーリ3のプーリ本体31と外環11のリム部11bとを嵌合し、スラストベアリング6を介してリテーナ13の鍔部13cとプーリ3の内向き鍔部34とを衝合させて、外環11、内環12及びリテーナ13の円盤部11a,12a,13a同士を重合して積層することによって容易に組み立てられる。しかもハブ1が、金属板のプレス成形品である外環11、内環12及びリテーナ13からなるため、安価に提供することができる。
【0021】
また、ハブ1とプーリ3との捩れ角が同じである場合に受ける第二弾性体41の歪は、ハブ1における内環12のテーパ状鍔部12cと、プーリ3の内向き鍔部34との間の軸方向肉厚が大きいほど小さくなるから、第二弾性体41の耐久性を確保するために、その径方向寸法をそれほど大きく取る必要がない。したがって、プーリ3の外径寸法の制約等によって、当該トルク変動吸収ダンパの径方向のサイズを大きく取れないような場合でも、ハブ1の内環12とプーリ3の内向き鍔部34との軸方向距離を十分に取ることによって、第二弾性体41の優れた耐久性を確保することができる。あるいは環状質量体2及びプーリ3の外径寸法を小さくすることができるので、小型・軽量化が図られる。
【0022】
このトルク変動吸収ダンパは、ハブ1が内燃機関のクランクシャフトの軸端に装着されることによって、このクランクシャフトと共に回転される。クランクシャフトの駆動トルクは、カップリング部4によって、ハブ1から第二弾性体41を介してプーリ3へ伝達され、更に、プーリ3のポリV溝31aに巻き掛けられたベルト(不図示)を介して、冷却ファンや、オルタネータ等の補機の回転軸に伝達される。このとき、第一弾性体22及び第二弾性体41は、ハブ1における外環11によって、図における右側に存在する内燃機関の輻射熱から保護されている。
【0023】
内燃機関の駆動は、吸気、圧縮、爆発及び排気の各行程を繰り返しながら行われ、ピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換しているため、クランクシャフトには、回転に伴って周期的なトルク変動を生じるが、このトルク変動は、カップリング部4における第二弾性体41が低ばねで円周方向へ剪断変形されることによって、熱エネルギに変換されるので、ベルトへの伝達トルクが平滑化される。このとき、ハブ1とプーリ3の円周方向相対変位に伴って、ラジアルベアリング5が例えば外環11のリム部11bの外周面と低摩擦で摺動し、スラストベアリング6が例えばプーリ3の内向き鍔部34と低摩擦で摺動する。
【0024】
一方、環状質量体21及び第一弾性体22で構成される動的吸振部2は、クランクシャフトの捩り振動による捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは入力振動のトルクと方向が逆になるため、クランクシャフトの捩れ角のピークを有効に低減することができる。
【0025】
プーリ3は、ラジアルベアリング5を介してハブ1の外周に支持されているため、ハブ1に対するプーリ本体31の同心性が確保される。しかもプーリ3は、その最も外周側にあるプーリ本体31が、ハブ1における最も外周側のリム部11bに、ラジアルベアリング5を介して支持されているため、その支持円周が大きく、したがって極めて安定的に支持される。その結果、回転時におけるプーリ3の振れが小さく、これによる偏荷重に起因するラジアルベアリング5の局部摩耗が防止されるので、ラジアルベアリング5によるプーリ4の安定した支持状態を長期にわたって確保することができる。
【0026】
また、ベルトの張力によってプーリ本体31に作用する径方向荷重は、ハブ1のリム部11bで受けるので、前記径方向荷重によって第一弾性体22が径方向の圧縮を受けることはない。このため、動的吸振部2の円周方向の自由度が大きく、したがって、優れた動的吸振効果を確保することができる。
【0027】
一方、プーリ3の軸方向の挙動は、このプーリ3における内向き鍔部34が、第二弾性体41の軸方向圧縮弾性によって、ハブ1におけるリテーナ13の鍔部13cの背面にスラストベアリング6を介して押し付けられることによって規制され、しかもその反力として、第二弾性体41に軸方向に適当な圧縮応力が加わっており、第二弾性体41自体の軸方向伸縮変位が規制されるので、耐久性に優れたものとなっている。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパによれば、プーリは、その最も外周側にあるプーリ本体が、ハブにおける最も外周側のリム部に、ベアリングを介して支持されているため、極めて安定的に支持され、回転時におけるプーリの振れによる偏荷重や、これによるベアリングの局部摩耗が防止されるので、プーリの安定した支持状態を長期にわたって確保することができる。しかも、動的吸振部の第一弾性体が径方向に繰り返し圧縮を受けることがないので、その耐久性も向上すると共に、優れた動的吸振効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【符号の説明】
1 ハブ
11 外環
11b リム部
12 内環
12c テーパ状鍔部
13 リテーナ
2 動的吸振部
21 環状質量体
22 第一弾性体
3 プーリ
31 プーリ本体
32 正面盤部
33 環状段差部
34 内向き鍔部
4 カップリング部
41 第二弾性体
5 ラジアルベアリング(ベアリング)
6 スラストベアリング
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、農業機械、工機、小型船舶等に用いられ、内燃機関等における駆動軸から他の回転機器へトルクを伝達すると共にそのトルクの変動を吸収するトルク変動吸収ダンパに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の内燃機関による駆動力の一部は、クランクシャフトの先端に設けられたプーリから無端ベルトを介して例えばオルタネータやウォーターポンプ等の補機に与えられるが、クランクシャフトは内燃機関の各行程によるトルク変動を伴って回転されるので、前記プーリにはトルク変動を吸収して伝達トルクの平滑化を図るためのトルク変動吸収ダンパが用いられる。
【0003】
従来の技術によるトルク変動吸収ダンパとしては、例えば下記の特許文献1に記載されているように、クランクシャフトの軸端に取り付けられて一体に回転するハブのリム部の外周に、第一弾性体を介して環状質量体を連結し、前記環状質量体にラジアルベアリングを介して支持されたプーリから内周側へ延びる鍔部を、第二弾性体を介してハブに軸方向に連結したものが知られている。そして、この種のトルク変動吸収ダンパは、第一弾性体と環状質量体で構成される動的吸振部が、所定の振動数域において円周方向へ共振することによる動的吸振効果によって、クランクシャフトの捩り振動を低減すると共に、クランクシャフトからハブへ入力された駆動トルクを、第二弾性体の円周方向剪断変形作用によってトルク変動を吸収しながら、プーリへ伝達するものである。
【0004】
【特許文献1】
特許第3155280号(第1図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1に記載された従来のトルク変動吸収ダンパによれば、プーリが、ラジアルベアリングを介して環状質量体の外周に支持されており、この環状質量体自体が、第一弾性体を介してハブに弾性的に支持されているため、ラジアルベアリングと摺動する環状質量体の振れによって、ラジアルベアリングに偏荷重が作用し、局部摩耗を発生して、耐久性が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、長期にわたってベアリングによるプーリの支持を安定させることの可能なトルク変動吸収ダンパを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、ハブに第一弾性体を介して環状質量体を弾性的に連結した動的吸振部と、前記ハブに前記第二弾性体を介してプーリを弾性的に連結したカップリング部とを備え、前記第一弾性体が、前記環状質量体と前記ハブの軸方向対向面間に接着され、前記プーリが、第一ベアリングを介して前記環状質量体に支持されると共に、前記ハブに第二ベアリングを介して支持されたものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。なお、この形態の説明において用いられる「正面側」とは、図1における左側、すなわち車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、図1における右側、すなわち図示されていない内燃機関が存在する側のことである。
【0009】
この形態のトルク変動吸収ダンパは、内燃機関のクランクシャフトの軸端に取り付けられるハブ1と、このハブ1に設けられた動的吸振部2と、ベルトが巻き掛けられるプーリ3と、前記クランクシャフトからハブ1に入力された駆動トルクをプーリ3へ伝達するカップリング部4とを備える。
【0010】
ハブ1は、金属板を打ち抜きプレス成形した外環11、内環12及びリテーナ13を組み合わせたものであって、内周に、図示されていない内燃機関のクランクシャフトが挿通される軸孔1aが開設されている。このうち、最も背面側の外環11は、内周の円盤部11aと、その外周端部から正面側へ延びるリム部11bとからなる。中間の内環12は、外環11の円盤部11aの内周部と密接状態に積層される内周円盤部12aと、この内周円盤部12aの外周から正面側へ突出した環状段差部12bを介して外周側へ延び、外周側ほど外環11の円盤部11aに近接する緩やかな円錐面をなするテーパ状鍔部12cからなる。最も正面側のリテーナ13は、内環12の内周円盤部12aに密接状態に積層されると共に外周が内環12の環状段差部12bに嵌合される内周円盤部13aと、その外周端部から正面側へ延びる円筒部13bと、更にこの円筒部13bにおける正面側の端部から外周側へ延びる鍔部13cからなる。
【0011】
動的吸振部2は、ハブ1における外環11のリム部11bの内周空間に配置された環状質量体21と、この環状質量体21の外周面と前記リム部11bの内周面との間を弾性的に連結している第一弾性体22とからなる。動的吸振部2の円周方向固有振動数は、環状質量体21の円周方向慣性質量と、第一弾性体22の円周方向剪断ばね定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの円周方向固有振動数と合致するように同調されている。
【0012】
環状質量体21は、FCなど、比重の大きい金属材料で製作され、第一弾性体22は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなるものである。動的吸振部2は、所定の金型内に、ハブ1の外環11と環状質量体21とを同心的にセットし、外環11のリム部11bと環状質量体21との径方向対向面間に前記金型によって画成された環状のキャビティ内に、成形用未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することにより、環状に加硫成形されると同時に加硫接着されたものである。すなわち、動的吸振部2を構成する環状質量体21及び第一弾性体22は、外環11と互いに一体の加硫成形物をなすものである。
【0013】
プーリ3は、FCなどの金属材料によって製作されたものであって、ハブ1における外環11のリム部11bの外周側に位置し、外周面にポリV溝31aが形成されたプーリ本体31と、その正面側の端部から前記リム部11b及び動的吸振部2の正面側を内周へ延びる正面盤部32と、更にその内周側に環状段差部33を介して背面側へ適宜後退した位置に形成された内向き鍔部34を有する。この内向き鍔部34は、ハブ1における内環12のテーパ状鍔部12cの軸方向正面側に位置している。
【0014】
プーリ3におけるプーリ本体31と、ハブ1における外環11のリム部11bとの間には、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたラジアルベアリング5が介在されている。プーリ3は、このラジアルベアリング5によって、前記リム部11bの外周に円周方向相対変位可能に同心支持されている。
【0015】
カップリング部4は、プーリ3をハブ1の内環12に第二弾性体41によって弾性的に連結しているものである。詳しくは、第二弾性体41は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなるものであって、動的吸振部2における環状質量体21より内周側に配置されており、その背面側の端部が、内環12のテーパ状鍔部12cに一体的に加硫接着されており、正面側の端部が、プーリ3の内向き鍔部34に一体的に加硫接着されている。
【0016】
すなわち第二弾性体41は、所定の金型内に、内環12とプーリ3とを同心的にセットして、互いに軸方向に対向した内環12のテーパ状鍔部12cとプーリ3の内向き鍔部34との間に前記金型によって画成された環状のキャビティ内に、成形用未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することにより、環状に加硫成形されると同時に加硫接着されたもので、プーリ3及び内環12と互いに一体の加硫成形物をなしている。
【0017】
第二弾性体41は、所要の径方向肉厚を有することによって、トルクを伝達するのに必要な強度が確保されると共に、連結方向(軸方向)に所要の肉厚を有することによって、動的吸振部2における第一弾性体22に比較して円周方向剪断ばね定数を十分に低くしてある。また、この第二弾性体41は、円周方向へ剪断変形を受けた時の歪が、内周側と外周側とでほぼ均一になるように、テーパ状鍔部12cによって、外周側で軸方向肉厚が大きくなる形状となっている。
【0018】
なお、上述の説明から理解されるように、動的吸振部2及びカップリング部4は前記リム部11bの内周側に存在しており、言い換えれば、ラジアルベアリング5を介してプーリ本体31を支持しているリム部11bの支持円周が大きいものとなっており、このため、プーリ3に対する安定した支持力を発揮する。
【0019】
ハブ1におけるリテーナ13の鍔部13cは、プーリ3の内向き鍔部34の正面側に位置しており、互いに対向する両鍔部13c,34間には、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたスラストベアリング6が介在されている。このためプーリ3は、その内向き鍔部34が、スラストベアリング6と、第二弾性体41との間に挟まれることによって、軸方向の挙動が規制される。
【0020】
以上の構成を備えるトルク変動吸収ダンパは、外環11、環状質量体21及び第一弾性体22からなる加硫成形物と、ラジアルベアリング5と、内環12、プーリ3及び第二弾性体41からなる加硫成形物と、スラストベアリング6と、リテーナ13とを、互いに同心的に配置し、ラジアルベアリング5を介してプーリ3のプーリ本体31と外環11のリム部11bとを嵌合し、スラストベアリング6を介してリテーナ13の鍔部13cとプーリ3の内向き鍔部34とを衝合させて、外環11、内環12及びリテーナ13の円盤部11a,12a,13a同士を重合して積層することによって容易に組み立てられる。しかもハブ1が、金属板のプレス成形品である外環11、内環12及びリテーナ13からなるため、安価に提供することができる。
【0021】
また、ハブ1とプーリ3との捩れ角が同じである場合に受ける第二弾性体41の歪は、ハブ1における内環12のテーパ状鍔部12cと、プーリ3の内向き鍔部34との間の軸方向肉厚が大きいほど小さくなるから、第二弾性体41の耐久性を確保するために、その径方向寸法をそれほど大きく取る必要がない。したがって、プーリ3の外径寸法の制約等によって、当該トルク変動吸収ダンパの径方向のサイズを大きく取れないような場合でも、ハブ1の内環12とプーリ3の内向き鍔部34との軸方向距離を十分に取ることによって、第二弾性体41の優れた耐久性を確保することができる。あるいは環状質量体2及びプーリ3の外径寸法を小さくすることができるので、小型・軽量化が図られる。
【0022】
このトルク変動吸収ダンパは、ハブ1が内燃機関のクランクシャフトの軸端に装着されることによって、このクランクシャフトと共に回転される。クランクシャフトの駆動トルクは、カップリング部4によって、ハブ1から第二弾性体41を介してプーリ3へ伝達され、更に、プーリ3のポリV溝31aに巻き掛けられたベルト(不図示)を介して、冷却ファンや、オルタネータ等の補機の回転軸に伝達される。このとき、第一弾性体22及び第二弾性体41は、ハブ1における外環11によって、図における右側に存在する内燃機関の輻射熱から保護されている。
【0023】
内燃機関の駆動は、吸気、圧縮、爆発及び排気の各行程を繰り返しながら行われ、ピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換しているため、クランクシャフトには、回転に伴って周期的なトルク変動を生じるが、このトルク変動は、カップリング部4における第二弾性体41が低ばねで円周方向へ剪断変形されることによって、熱エネルギに変換されるので、ベルトへの伝達トルクが平滑化される。このとき、ハブ1とプーリ3の円周方向相対変位に伴って、ラジアルベアリング5が例えば外環11のリム部11bの外周面と低摩擦で摺動し、スラストベアリング6が例えばプーリ3の内向き鍔部34と低摩擦で摺動する。
【0024】
一方、環状質量体21及び第一弾性体22で構成される動的吸振部2は、クランクシャフトの捩り振動による捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは入力振動のトルクと方向が逆になるため、クランクシャフトの捩れ角のピークを有効に低減することができる。
【0025】
プーリ3は、ラジアルベアリング5を介してハブ1の外周に支持されているため、ハブ1に対するプーリ本体31の同心性が確保される。しかもプーリ3は、その最も外周側にあるプーリ本体31が、ハブ1における最も外周側のリム部11bに、ラジアルベアリング5を介して支持されているため、その支持円周が大きく、したがって極めて安定的に支持される。その結果、回転時におけるプーリ3の振れが小さく、これによる偏荷重に起因するラジアルベアリング5の局部摩耗が防止されるので、ラジアルベアリング5によるプーリ4の安定した支持状態を長期にわたって確保することができる。
【0026】
また、ベルトの張力によってプーリ本体31に作用する径方向荷重は、ハブ1のリム部11bで受けるので、前記径方向荷重によって第一弾性体22が径方向の圧縮を受けることはない。このため、動的吸振部2の円周方向の自由度が大きく、したがって、優れた動的吸振効果を確保することができる。
【0027】
一方、プーリ3の軸方向の挙動は、このプーリ3における内向き鍔部34が、第二弾性体41の軸方向圧縮弾性によって、ハブ1におけるリテーナ13の鍔部13cの背面にスラストベアリング6を介して押し付けられることによって規制され、しかもその反力として、第二弾性体41に軸方向に適当な圧縮応力が加わっており、第二弾性体41自体の軸方向伸縮変位が規制されるので、耐久性に優れたものとなっている。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパによれば、プーリは、その最も外周側にあるプーリ本体が、ハブにおける最も外周側のリム部に、ベアリングを介して支持されているため、極めて安定的に支持され、回転時におけるプーリの振れによる偏荷重や、これによるベアリングの局部摩耗が防止されるので、プーリの安定した支持状態を長期にわたって確保することができる。しかも、動的吸振部の第一弾性体が径方向に繰り返し圧縮を受けることがないので、その耐久性も向上すると共に、優れた動的吸振効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【符号の説明】
1 ハブ
11 外環
11b リム部
12 内環
12c テーパ状鍔部
13 リテーナ
2 動的吸振部
21 環状質量体
22 第一弾性体
3 プーリ
31 プーリ本体
32 正面盤部
33 環状段差部
34 内向き鍔部
4 カップリング部
41 第二弾性体
5 ラジアルベアリング(ベアリング)
6 スラストベアリング
Claims (1)
- ハブ(1)に第一弾性体(22)を介して環状質量体(21)を弾性的に連結した動的吸振部(2)と、前記ハブ(1)に第二弾性体(41)を介してプーリ(3)を弾性的に連結したカップリング部(4)とを備え、前記第一弾性体(22)及び第二弾性体(41)が、前記ハブ(1)のリム部(11b)の内周側に配置され、前記プーリ(3)のプーリ本体(31)が、前記リム部(11b)の外周面にベアリング(5)を介して同心支持されたことを特徴とするトルク変動吸収ダンパ。
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