JP2004283050A - ピルビン酸の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】微生物を用いた工業的に有利なピルビン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】解糖系酵素の一つであるグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化させた微生物を培養し、得られる培養液からピルビン酸を回収する。
【選択図】 なし
【解決手段】解糖系酵素の一つであるグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化させた微生物を培養し、得られる培養液からピルビン酸を回収する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピルビン酸の製造方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素活性が強化された微生物を培養することによって、ピルビン酸を高収率で生産する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ピルビン酸は医薬品合成原料、合成中間体の他、化粧品原料、アミノ酸製造原料、香料原料などの用途に用いられ、有用な物質である。従来からピルビン酸は、糖質を炭素源として各種微生物を用いて発酵により生産、蓄積させる方法が報告されてきた。例としてデバリオマイセス属に属するピルビン酸生産菌を用いる方法、キャンディダ属またはトルロプシス属に属する酵母を用いる方法、ヤロイア属に属する変異株を用いる方法、シュウドモナス属などのフマル酸をピルビン酸へ変換する能力をもつ微生物を用いる方法が挙げられる。しかし従来用いられてきた微生物は、培養時間が長く、副生物も多いために工業的に満足のいく製法を必ずしも提供できなかった。
【0003】
一方、近年の遺伝子組換え技術の進展により、微生物が本来持つ遺伝子を破壊したり、外部より遺伝子を導入することによって、その微生物本来の代謝反応を人工的に改変することが可能となってきた。実際にそのような技術を用いて作製された菌株の中で、ピルビン酸を高生産するものが単離されている。例えば大腸菌K−12株由来W1485lip2は、ピルビン酸からアセチルCoAへの反応を触媒する酵素ピルビン酸脱水素酵素複合体の活性が低下した株であるが、この株は25 g/Lのピルビン酸を生産すると報告されている〔Yokota, A., Appl. Microbiol. Biotechnol., 41, 638−643 (1994)〕。 さらにこのW1485lip2のF1−ATP合成酵素遺伝子を破壊し、ATP産生能を低下せしめた株TBLA−1は30 g/Lのピルビン酸を生産すると報告されている〔Yokota, A., Biosci. Biotech. Biochem., 58, 2164−2167 (1994)〕〕。 しかしこれらの試みは何れも遺伝子の機能を低下若しくは欠失させるものであり、結果として菌体の増殖性が損なわれるという好ましからざる結果をも伴う。
【0004】
上記の様な遺伝子機能の低下や欠失とは逆に、遺伝子の機能を強化することによってピルビン酸の生産性を向上させようという試みも過去に行われている。ピルビン酸は解糖系の最終産物であることから、解糖系の律速ステップを強めればピルビン酸の生産性が向上するであろうという予想の基、Hatzimanikatisらは、解糖系の律速ステップを触媒する酵素であるホスホフルクトキナーゼとピルビン酸キナーゼを同時に過剰発現させた。しかし、予想に反してピルビン酸の生産性に変化はなかった〔Hatzimanikatis, V., Biotechnol. Bioeng., 58, 154−161 (1998)〕。この事実から判るように、解糖系酵素の強化によってピルビン酸の生産性を向上させることは一般的な予測としては可能であるかもしれないが、解糖系路上の酵素であればその何れかの酵素をコードする遺伝子を強化すればピルビン酸の生産性の向上が期待できるという単純なものではなく、ピルビン酸の生産性の向上が発揮されるのは具体的にどの酵素なのかということはおろか、遺伝子の強化によってピルビン酸の生産性が向上する酵素が本当に解糖経路上の酵素群にあるのか否かさえ、実際には知られていなかった。
【0005】
【非特許文献1】Yokota, A., Appl. Microbiol. Biotechnol., 41, 638−643 (1994)
【非特許文献2】Yokota, A., Biosci. Biotech. Biochem., 58, 2164−2167 (1994)
【非特許文献3】Hatzimanikatis, V., Biotechnol. Bioeng., 58, 154−161 (1998)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、解糖系酵素の一つであるグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化させた微生物を用いることによって、工業的に有利なピルビン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記既存の方法の欠点を改良するために鋭意検討の結果、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(以下、GAPDHと略記することがある)の活性を強化させた微生物が、その培養液中にピルビン酸を高蓄積するとの知見に基づくものである。すなわち、本発明は、グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素活性が強化された微生物を用いることを特徴とするピルビン酸の製造方法を提供する。
【0008】
即ち本発明は以下のとおりである。
[1]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された微生物を培養して培養液中にピルビン酸を蓄積させ、該培養液よりピルビン酸を回収することを特徴とするピルビン酸の製造方法。
[2]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された微生物が、細菌である[1]に記載のピルビン酸の製造方法。
[3]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された細菌が、大腸菌である[2]に記載のピルビン酸の製造方法。
[4]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素をコードするDNAを含むベクターでグリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性を強化する対象となる微生物を形質転換することにより、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化することを特徴とする[1]〜[3]の何れか一項に記載のピルビン酸の製造方法。
[5]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素が大腸菌由来である[1]〜[4]の何れか一項に記載のピルビン酸の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明においてグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)とは、解糖系においてグリセルアルデヒド3−リン酸から1、3−ビスホスホグリセリン酸への反応を触媒する酵素の総称であり、基質の酸化エネルギーをリン酸結合として保存する機能を持つ重要な酵素である。
【0010】
本発明においてGAPDHの活性とは、GAPDHが本来触媒する反応、即ちグリセルアルデヒド3−リン酸から1、3−ビスホスホグリセリン酸への反応を進行させる性質を意味する。
【0011】
本発明においてGAPDHの活性が強化された微生物とは、その微生物が本来有している該酵素活性レベルを上回る活性を、何らかの方法によってその微生物に付与することを意味する。
【0012】
微生物にGAPDHの活性を強化する方法に特に限定はなく、例えば突然変異誘発処理によって微生物の遺伝子に変化を与え、GAPDHの発現量が向上した突然変異体を選択する方法が挙げられる。またその他に、該微生物のゲノムDNA中にGAPDH遺伝子を組み込んだり、GAPDH遺伝子を含むベクター(GAPDH発現プラスミド)で該微生物を形質転換する方法が用いられる。
【0013】
GAPDH発現プラスミドを利用するGAPDHの活性の強化方法としては、例えば大腸菌を例に取ると、本発明に係る微生物の作成方法は、大腸菌由来GAPDHをコードする遺伝子とそのプロモーターを含む遺伝子断片をPCRで増幅・単離し、その遺伝子断片をpUC18ベクターへ組み込むことにより得たプラスミドで、大腸菌を形質転換する方法が挙げられる。
【0014】
GAPDH発現プラスミドに利用されるベクターとしては、GAPDH活性の強化の対象となる微生物内で複製可能なベクターであれば良く、該ベクターに連結されるGAPDH遺伝子としては、GAPDH活性の強化の対象となる微生物が本来有しているものは勿論、該微生物にとって外来性のGAPDH遺伝子も利用可能である。
【0015】
本発明におけるGAPDH活性の強化の対象となる微生物としては、細菌、カビ、酵母、放線菌、動物細胞、植物細胞等、いかなる微生物も対象となるが、GAPDH活性を強化させる事と培養が容易である点を考慮すれば細菌が好適である。さらには増殖の速さや遺伝子情報量の豊富さを考慮すれば、細菌の中でも大腸菌の使用がさらに望ましい例として挙げられる。微生物が大腸菌である場合、その遺伝子情報が公知になっているMG1655やW3110を用いれば、その遺伝子情報に基づき、不要な代謝経路を破壊することによってピルビン酸以外の副生物の低減化を図ることも可能である。なおMG1655やW3110はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手できる。
【0016】
次に、本発明における培養方法について説明する。
【0017】
本発明に係る培養に使用されるピルビン酸生産用の培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じてその他の有機微量成分を含有する培地であれば特に制限は無い。炭素源としては、グルコース、フルクトース、糖蜜などの糖類、フマル酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸、メタノール、エタノール、グリセロールなどのアルコール類、その他が適宜使用される。窒素源としては、有機アンモニウム塩、無機アンモニウム塩、アンモニアガス、アンモニア水等の無機態窒素源、及び蛋白質加水分解物等の有機態窒素源、その他が適宜使用される。無機イオンとしては、マグネシウムイオン、リン酸イオン、カリウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン、その他が必要に応じて適宜使用される。有機微量成分としては、ビタミン、アミノ酸等及びこれらを含有する酵母エキス、ペプトン、コーンスティープリカー、カゼイン分解物、その他が適宜使用される。
【0018】
尚、本発明に使用される培地としては、工業的生産に供する点を考慮すれば液体培地が好ましい。
【0019】
GAPDHの活性が強化された微生物の培養に際して、培養条件には特別の制限はなく、例えば、好気条件下でpH5〜8、温度25℃〜40℃の範囲内でpHと温度を適切に制御しながら培養した場合、培養に必要な時間は180時間以内である。
【0020】
培養液中に蓄積したピルビン酸を回収する方法としては、特に限定は無いが、例えば培養液から菌体を遠心分離などで除去した後、合成吸着樹脂を用いる方法や沈殿剤を用いる方法、その他通常の採取分離方法でピルビン酸を分離する方法が採用できる。
【0021】
【実施例】
〔実施例1〕グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)発現プラスミドの構築と、GAPDH発現強化株の構築
グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)をコードする遺伝子を、その上流に位置するプロモーター配列をも含む形で取得するため、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)を行った。用いたプライマーの配列は、配列番号1と配列番号2に記載した。得られたフラグメントを制限酵素EcoRI及びHindIIIで消化することにより、約1090bpのフラグメントを得た。このフラグメントを、プラスミドpUC18を制限酵素EcoRI及びHindIIIで消化することで得られるフラグメントと混合し、リガーゼを用いて結合した後、大腸菌に形質転換することによりプラスミドpGapdhを得た。得られたプラスミドpGapdhを大腸菌MG1655に形質転換することにより大腸MG1655/pGapdhを得た。
【0022】
〔実施例2〕大腸菌MG1655/pGapdhによるピルビン酸生産
前培養として三角フラスコに入れたLB broth,Miller培養液(Difco244620)25mlに大腸菌MG1655及びMG1655/pGapdhを植菌し、一晩120rpmで攪拌培養を行った。 各々の前培養液全量を、表1に示す組成の培地475gの入った ABLE社製培養装置BMJ−01の培養槽に移し培養を行った。培養は大気圧下、通気量0.5vvm、攪拌回転速度200rpm、培養温度31℃、pH7.2(NaOHで調整)で144時間行った。培養終了御、ピルビン酸の定量はHPLCで定法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0023】
実験の結果、GAPDHの活性を強化した大腸菌は未処理の大腸菌に比べて顕著に培養液中のピルビン酸の蓄積量が多く、GAPDHの活性を強化することにより微生物のピルビン酸生産性が向上することが証明された。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【発明の効果】
本発明により、GAPDH活性を強化した微生物を用いたピルビン酸生産方法が提供される。本発明の方法は既存の方法に比較してより経済的に高純度のピルビン酸を生産することが可能となるので、工業的なピルビン酸の生産にとって有益である。
【0027】
【配列表】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピルビン酸の製造方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素活性が強化された微生物を培養することによって、ピルビン酸を高収率で生産する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ピルビン酸は医薬品合成原料、合成中間体の他、化粧品原料、アミノ酸製造原料、香料原料などの用途に用いられ、有用な物質である。従来からピルビン酸は、糖質を炭素源として各種微生物を用いて発酵により生産、蓄積させる方法が報告されてきた。例としてデバリオマイセス属に属するピルビン酸生産菌を用いる方法、キャンディダ属またはトルロプシス属に属する酵母を用いる方法、ヤロイア属に属する変異株を用いる方法、シュウドモナス属などのフマル酸をピルビン酸へ変換する能力をもつ微生物を用いる方法が挙げられる。しかし従来用いられてきた微生物は、培養時間が長く、副生物も多いために工業的に満足のいく製法を必ずしも提供できなかった。
【0003】
一方、近年の遺伝子組換え技術の進展により、微生物が本来持つ遺伝子を破壊したり、外部より遺伝子を導入することによって、その微生物本来の代謝反応を人工的に改変することが可能となってきた。実際にそのような技術を用いて作製された菌株の中で、ピルビン酸を高生産するものが単離されている。例えば大腸菌K−12株由来W1485lip2は、ピルビン酸からアセチルCoAへの反応を触媒する酵素ピルビン酸脱水素酵素複合体の活性が低下した株であるが、この株は25 g/Lのピルビン酸を生産すると報告されている〔Yokota, A., Appl. Microbiol. Biotechnol., 41, 638−643 (1994)〕。 さらにこのW1485lip2のF1−ATP合成酵素遺伝子を破壊し、ATP産生能を低下せしめた株TBLA−1は30 g/Lのピルビン酸を生産すると報告されている〔Yokota, A., Biosci. Biotech. Biochem., 58, 2164−2167 (1994)〕〕。 しかしこれらの試みは何れも遺伝子の機能を低下若しくは欠失させるものであり、結果として菌体の増殖性が損なわれるという好ましからざる結果をも伴う。
【0004】
上記の様な遺伝子機能の低下や欠失とは逆に、遺伝子の機能を強化することによってピルビン酸の生産性を向上させようという試みも過去に行われている。ピルビン酸は解糖系の最終産物であることから、解糖系の律速ステップを強めればピルビン酸の生産性が向上するであろうという予想の基、Hatzimanikatisらは、解糖系の律速ステップを触媒する酵素であるホスホフルクトキナーゼとピルビン酸キナーゼを同時に過剰発現させた。しかし、予想に反してピルビン酸の生産性に変化はなかった〔Hatzimanikatis, V., Biotechnol. Bioeng., 58, 154−161 (1998)〕。この事実から判るように、解糖系酵素の強化によってピルビン酸の生産性を向上させることは一般的な予測としては可能であるかもしれないが、解糖系路上の酵素であればその何れかの酵素をコードする遺伝子を強化すればピルビン酸の生産性の向上が期待できるという単純なものではなく、ピルビン酸の生産性の向上が発揮されるのは具体的にどの酵素なのかということはおろか、遺伝子の強化によってピルビン酸の生産性が向上する酵素が本当に解糖経路上の酵素群にあるのか否かさえ、実際には知られていなかった。
【0005】
【非特許文献1】Yokota, A., Appl. Microbiol. Biotechnol., 41, 638−643 (1994)
【非特許文献2】Yokota, A., Biosci. Biotech. Biochem., 58, 2164−2167 (1994)
【非特許文献3】Hatzimanikatis, V., Biotechnol. Bioeng., 58, 154−161 (1998)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、解糖系酵素の一つであるグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化させた微生物を用いることによって、工業的に有利なピルビン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記既存の方法の欠点を改良するために鋭意検討の結果、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(以下、GAPDHと略記することがある)の活性を強化させた微生物が、その培養液中にピルビン酸を高蓄積するとの知見に基づくものである。すなわち、本発明は、グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素活性が強化された微生物を用いることを特徴とするピルビン酸の製造方法を提供する。
【0008】
即ち本発明は以下のとおりである。
[1]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された微生物を培養して培養液中にピルビン酸を蓄積させ、該培養液よりピルビン酸を回収することを特徴とするピルビン酸の製造方法。
[2]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された微生物が、細菌である[1]に記載のピルビン酸の製造方法。
[3]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された細菌が、大腸菌である[2]に記載のピルビン酸の製造方法。
[4]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素をコードするDNAを含むベクターでグリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性を強化する対象となる微生物を形質転換することにより、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化することを特徴とする[1]〜[3]の何れか一項に記載のピルビン酸の製造方法。
[5]グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素が大腸菌由来である[1]〜[4]の何れか一項に記載のピルビン酸の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明においてグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)とは、解糖系においてグリセルアルデヒド3−リン酸から1、3−ビスホスホグリセリン酸への反応を触媒する酵素の総称であり、基質の酸化エネルギーをリン酸結合として保存する機能を持つ重要な酵素である。
【0010】
本発明においてGAPDHの活性とは、GAPDHが本来触媒する反応、即ちグリセルアルデヒド3−リン酸から1、3−ビスホスホグリセリン酸への反応を進行させる性質を意味する。
【0011】
本発明においてGAPDHの活性が強化された微生物とは、その微生物が本来有している該酵素活性レベルを上回る活性を、何らかの方法によってその微生物に付与することを意味する。
【0012】
微生物にGAPDHの活性を強化する方法に特に限定はなく、例えば突然変異誘発処理によって微生物の遺伝子に変化を与え、GAPDHの発現量が向上した突然変異体を選択する方法が挙げられる。またその他に、該微生物のゲノムDNA中にGAPDH遺伝子を組み込んだり、GAPDH遺伝子を含むベクター(GAPDH発現プラスミド)で該微生物を形質転換する方法が用いられる。
【0013】
GAPDH発現プラスミドを利用するGAPDHの活性の強化方法としては、例えば大腸菌を例に取ると、本発明に係る微生物の作成方法は、大腸菌由来GAPDHをコードする遺伝子とそのプロモーターを含む遺伝子断片をPCRで増幅・単離し、その遺伝子断片をpUC18ベクターへ組み込むことにより得たプラスミドで、大腸菌を形質転換する方法が挙げられる。
【0014】
GAPDH発現プラスミドに利用されるベクターとしては、GAPDH活性の強化の対象となる微生物内で複製可能なベクターであれば良く、該ベクターに連結されるGAPDH遺伝子としては、GAPDH活性の強化の対象となる微生物が本来有しているものは勿論、該微生物にとって外来性のGAPDH遺伝子も利用可能である。
【0015】
本発明におけるGAPDH活性の強化の対象となる微生物としては、細菌、カビ、酵母、放線菌、動物細胞、植物細胞等、いかなる微生物も対象となるが、GAPDH活性を強化させる事と培養が容易である点を考慮すれば細菌が好適である。さらには増殖の速さや遺伝子情報量の豊富さを考慮すれば、細菌の中でも大腸菌の使用がさらに望ましい例として挙げられる。微生物が大腸菌である場合、その遺伝子情報が公知になっているMG1655やW3110を用いれば、その遺伝子情報に基づき、不要な代謝経路を破壊することによってピルビン酸以外の副生物の低減化を図ることも可能である。なおMG1655やW3110はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手できる。
【0016】
次に、本発明における培養方法について説明する。
【0017】
本発明に係る培養に使用されるピルビン酸生産用の培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じてその他の有機微量成分を含有する培地であれば特に制限は無い。炭素源としては、グルコース、フルクトース、糖蜜などの糖類、フマル酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸、メタノール、エタノール、グリセロールなどのアルコール類、その他が適宜使用される。窒素源としては、有機アンモニウム塩、無機アンモニウム塩、アンモニアガス、アンモニア水等の無機態窒素源、及び蛋白質加水分解物等の有機態窒素源、その他が適宜使用される。無機イオンとしては、マグネシウムイオン、リン酸イオン、カリウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン、その他が必要に応じて適宜使用される。有機微量成分としては、ビタミン、アミノ酸等及びこれらを含有する酵母エキス、ペプトン、コーンスティープリカー、カゼイン分解物、その他が適宜使用される。
【0018】
尚、本発明に使用される培地としては、工業的生産に供する点を考慮すれば液体培地が好ましい。
【0019】
GAPDHの活性が強化された微生物の培養に際して、培養条件には特別の制限はなく、例えば、好気条件下でpH5〜8、温度25℃〜40℃の範囲内でpHと温度を適切に制御しながら培養した場合、培養に必要な時間は180時間以内である。
【0020】
培養液中に蓄積したピルビン酸を回収する方法としては、特に限定は無いが、例えば培養液から菌体を遠心分離などで除去した後、合成吸着樹脂を用いる方法や沈殿剤を用いる方法、その他通常の採取分離方法でピルビン酸を分離する方法が採用できる。
【0021】
【実施例】
〔実施例1〕グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)発現プラスミドの構築と、GAPDH発現強化株の構築
グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)をコードする遺伝子を、その上流に位置するプロモーター配列をも含む形で取得するため、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)を行った。用いたプライマーの配列は、配列番号1と配列番号2に記載した。得られたフラグメントを制限酵素EcoRI及びHindIIIで消化することにより、約1090bpのフラグメントを得た。このフラグメントを、プラスミドpUC18を制限酵素EcoRI及びHindIIIで消化することで得られるフラグメントと混合し、リガーゼを用いて結合した後、大腸菌に形質転換することによりプラスミドpGapdhを得た。得られたプラスミドpGapdhを大腸菌MG1655に形質転換することにより大腸MG1655/pGapdhを得た。
【0022】
〔実施例2〕大腸菌MG1655/pGapdhによるピルビン酸生産
前培養として三角フラスコに入れたLB broth,Miller培養液(Difco244620)25mlに大腸菌MG1655及びMG1655/pGapdhを植菌し、一晩120rpmで攪拌培養を行った。 各々の前培養液全量を、表1に示す組成の培地475gの入った ABLE社製培養装置BMJ−01の培養槽に移し培養を行った。培養は大気圧下、通気量0.5vvm、攪拌回転速度200rpm、培養温度31℃、pH7.2(NaOHで調整)で144時間行った。培養終了御、ピルビン酸の定量はHPLCで定法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0023】
実験の結果、GAPDHの活性を強化した大腸菌は未処理の大腸菌に比べて顕著に培養液中のピルビン酸の蓄積量が多く、GAPDHの活性を強化することにより微生物のピルビン酸生産性が向上することが証明された。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【発明の効果】
本発明により、GAPDH活性を強化した微生物を用いたピルビン酸生産方法が提供される。本発明の方法は既存の方法に比較してより経済的に高純度のピルビン酸を生産することが可能となるので、工業的なピルビン酸の生産にとって有益である。
【0027】
【配列表】
Claims (5)
- グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された微生物を培養して培養液中にピルビン酸を蓄積させ、該培養液よりピルビン酸を回収することを特徴とするピルビン酸の製造方法。
- グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された微生物が、細菌である請求項1に記載のピルビン酸の製造方法。
- グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性が強化された細菌が、大腸菌である請求項2に記載のピルビン酸の製造方法。
- グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素をコードするDNAを含むベクターでグリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素の活性を強化する対象となる微生物を形質転換することにより、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の活性を強化することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のピルビン酸の製造方法。
- グリセルアルデヒド3―リン酸脱水素酵素が大腸菌由来である請求項1〜4の何れか一項に記載のピルビン酸の製造方法。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003077620A JP2004283050A (ja) | 2003-03-20 | 2003-03-20 | ピルビン酸の製造方法 |
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JP2003077620A JP2004283050A (ja) | 2003-03-20 | 2003-03-20 | ピルビン酸の製造方法 |
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JP (1) | JP2004283050A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2016202093A (ja) * | 2015-04-23 | 2016-12-08 | 大阪瓦斯株式会社 | ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法 |
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2003
- 2003-03-20 JP JP2003077620A patent/JP2004283050A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2016202093A (ja) * | 2015-04-23 | 2016-12-08 | 大阪瓦斯株式会社 | ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法 |
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