JP2004220723A - 磁気記録媒体 - Google Patents

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JP2004220723A JP2003008841A JP2003008841A JP2004220723A JP 2004220723 A JP2004220723 A JP 2004220723A JP 2003008841 A JP2003008841 A JP 2003008841A JP 2003008841 A JP2003008841 A JP 2003008841A JP 2004220723 A JP2004220723 A JP 2004220723A
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Yoshihiko Mori
仁彦 森
Yuichiro Murayama
裕一郎 村山
Hiroshi Hashimoto
博司 橋本
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Fuji Photo Film Co Ltd
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Abstract

【課題】優れた高速摺動耐久性を有し、かつ低速走行時の繰り返し走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供すること。上記特性と共に、優れた電磁変換特性、保存性及び環境保全性を併有する磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に非磁性粉末又は強磁性粉末及び結合剤を含む下層並びに強磁性粉末及び結合剤を含む少なくとも一層の磁性層をこの順に有する磁気記録媒体。少なくとも前記下層は、R1−Xで示される脂肪酸エステル(但し、R1は炭素数5〜21の脂肪酸残基、Xは炭素数2〜10のアルコール残基である)を含み、前記下層に含まれる結合剤は、前記脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%であり、かつガラス転移温度が100〜200℃のポリウレタン樹脂を含有し、前記磁性層に含まれる結合剤は、前記脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂を含有する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた高速摺動耐久性を有し、かつ低速走行時の繰り返し走行耐久性に優れた磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体は、録音用テープ、ビデオテープあるいはフロッピーディスクなどとして広く用いられている。磁気記録媒体は、強磁性粉末が結合剤(バインダ)中に分散された磁性層を支持体上に積層している。
【0003】
磁気記録媒体は、電磁変換特性、走行耐久性および走行性能などの諸特性において高いレベルにあることが必要とされる。すなわち、音楽録音再生用のオーディオテープにおいては、より高度の原音再生能力が要求されている。また、ビデオテープについては、原画再生能力が優れているなど電磁変換特性が優れていることが要求されている。このような優れた電磁変換特性を有すると同時に、磁気記録媒体は前述のように良好な走行耐久性を持つことが要求されている。そして、優れた電磁変換特性及び良好な走行耐久性を得るためのアプローチの一つとして結合剤の分散性を改善する方法が取られている。
【0004】
例えば、特許公報1には、ダイマージオールを成分とするポリウレタンが開示されている。特許文献1には、この結合剤を用いた磁気記録媒体は、粉体の分散安定性の向上、平滑性の改善、出力低下抑制、ヘッド汚れの防止、保存性(60℃、90%RH1ヶ月後の出力低下抑制、ヘッド汚れの防止)の向上が図れる旨の記載がある。上述の文献Aは、高強度、高分散性のポリウレタンを結合剤として用いることを特徴とするが、塗布液の粘度調整やテープ物性調整などのために極性基を含有した塩化ビニル系樹脂を併用しなければならず、塩酸発生によるヘッド腐食や磁気記録媒体の廃棄時の環境保全が十分でないなどの問題があった。
【0005】
一方、そのような環境保全に好適な結合剤として、例えば、特許文献2には、Tgの異なる2種以上のポリエステルウレタンのみのバインダーを開示し、特許文献3には、ポリエステルウレタンのみをバインダーとすると共に、低分子成分を除去し、Tgを60〜80℃とした結合剤を開示している。しかしながら、特許文献2及び3は、環境保全に有用な磁気記録媒体を提供できるが、それらが開示するポリウレタン樹脂では分散性、平滑性、電磁変換特性が不十分であり、また保存性も十分とは言えないものであった。
【0006】
ところで、近年の大容量、高速且つ高信頼性が要求されるデータメディアに使用した場合、磁気記録媒体から発生する極めて微量の塩酸ガスがテープの保存性のみならずヘッドの腐食にも悪影響を及ぼす可能性があることが分かってきた。特にコンピューター用のデータ記録システムで使われているMR(MagnetResistance)ヘッドは金属薄膜を用いており、腐食による特性の劣化が懸念されるものであり、その対応が課題となっている。また特に高温高湿度下において長期にテープを保存した場合に塩酸ガスによるテープ中の素材の変質、例えばエステル潤滑剤の加水分解によって発生する脂肪酸が、磁性層表面に移動析出、結晶化することがある。近年、記録密度が高まっているため、そのようなより微小な異物の影響も無視できなくなってきている。特に、エステル系潤滑剤との相溶性が高い塩ビ系樹脂を用いると、高速摺動耐久性が不十分になるという問題があった。また、エステル系潤滑剤との相溶性の高い結合剤を用いた場合には、磁性層表面に存在するエステル系潤滑剤量が多くなるため、低速走行時の摩擦係数が上昇し、繰り返し走行耐久性が劣化するという問題もあった。
【0007】
そこで、特許文献4には、環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物とジイソシアネート化合物を重合して得られるポリウレタンを使用し、塩ビ系樹脂を用いない磁気記録媒体が開示されている。しかし、特許文献4では、従来のポリエステル系、ポリエーテル系ポリウレタンと比べてエステル系潤滑剤との相溶性が高いポリウレタンを磁性層に使用するため、依然として高速摺動耐久性及び低速走行時の繰り返し走行耐久性が不十分であった。即ち、高速摺動耐久性及び低速走行時の繰り返し走行耐久性に優れ、かつ優れた電磁変換特性、保存性及び環境保全性を併有する磁気記録媒体が望まれていたが、いまだ見出されていなかった。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−96539号公報
【特許文献2】
特開平5−307734号公報
【特許文献3】
特開平6−52539号公報
【特許文献4】
特開平2001−176053号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、優れた高速摺動耐久性を有し、かつ低速走行時の繰り返し走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供することである。更に、本発明は、上記特性と共に、優れた電磁変換特性、保存性及び環境保全性を併有する磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、
非磁性支持体上に非磁性粉末又は強磁性粉末及び結合剤を含む下層並びに強磁性粉末及び結合剤を含む少なくとも一層の磁性層をこの順に有する磁気記録媒体であって、
少なくとも前記下層は、R1−Xで示される脂肪酸エステル(但し、R1は炭素数5〜21の脂肪酸残基、Xは炭素数2〜10のアルコール残基である)を含み、
前記下層に含まれる結合剤は、前記脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%であり、かつガラス転移温度が100〜200℃のポリウレタン樹脂を含有し、
前記磁性層に含まれる結合剤は、前記脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂を含有することを特徴とする磁気記録媒体
によって達成される。
【0011】
本発明の磁気記録媒体の好ましい態様は、以下の通りである。
(1)下層に含まれるポリウレタン樹脂は、環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物とジイソシアネート化合物を重合して得られるポリウレタン樹脂である。
(2)磁性層に含まれるポリウレタン樹脂は、環状構造を有するポリエーテルポリオールからなるポリウレタン樹脂である。
(3)前記磁気記録媒体は、1m当たりの塩素含有量が35mg以下である。
(4)MRヘッドを用いる磁気記録再生システムにおいて使用される磁気記録媒体である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁気記録媒体について更に詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体は、R1−Xで示される脂肪酸エステル(但し、R1は炭素数5〜21の脂肪酸残基、Xは炭素数2〜10のアルコール残基である)(以下、単に「R1−Xで示される脂肪酸エステル」ともいう)との相溶性の高いポリウレタン樹脂を下層に含有し、かつ前記脂肪酸エステルとの相溶性の低いポリウレタン樹脂を上層磁性層に含有することを特徴とする。
本発明の磁気記録媒体は、ガラス転移温度が高く、かつエステル系潤滑剤との相溶性の高いポリウレタン樹脂を下層に使用することで、下層に多量のエステル系潤滑剤を保持することができる。更に本発明では、上層にエステル系潤滑剤との相溶性の低いポリウレタン樹脂を使用することで、下層から上層へエステル系潤滑剤を徐々に移行させ、更に磁性層表層まで移行させることができ、潤滑効果を長期的に維持することができる。本発明の磁気記録媒体は、下層に含まれるエステル系潤滑剤が、媒体表面へ徐々に移行するためか、高速摺動時の耐久性に優れる。また、エステル系潤滑剤が媒体表面へ徐々に移行する点を利用して、磁性層表面に存在するエステル系潤滑剤量を低く設定できるため、低速走行時の摩擦係数を低くすることができるため、繰り返し走行耐久性に優れている。
【0013】
本発明において、下層に含まれるポリウレタン樹脂の脂肪酸エステルの相溶濃度は6〜15wt%であり、好ましくは7〜10wt%である。下層に含まれるポリウレタン樹脂の脂肪酸エステルの相溶濃度が6wt%未満では、相溶しきれない脂肪酸エステルが磁性層表面に過剰に移行し、媒体の低速走行時の摩擦係数が高くなる。また、15wt%を超えると、磁性層表面に脂肪酸エステルを移行させるためには、過剰に脂肪酸エステルを添加する必要があり、磁性層の可塑化により耐久性が劣化する。
【0014】
それに対し、上層に含まれるポリウレタン樹脂の相溶濃度は5wt%以下、好ましくは3wt%以下である。上層に含まれるポリウレタン樹脂の脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%を超えると、下層から移行した脂肪酸エステルが上層に含まれるポリウレタン樹脂に相溶し、磁性層表面まで移行させることができない。
【0015】
本発明において、「相溶濃度」とは、以下の方法で測定した値をいう。
ポリウレタン樹脂をシクロヘキサノン/メチルエチルケトン=1/1(重量比)に、7.5wt%の量で溶解してバインダー溶液とする。このバインダー溶液に所定量の脂肪酸エステルを添加、混合した後、混合溶液をシート上に滴下し、70℃dryサーモで48hr乾燥し、目視で濁りの有無によって相溶の可否を決定し、濁りが生じない最大濃度(ポリウレタン量を100としたときの脂肪酸エステルの濃度)を、相溶濃度(wt%)とした。
【0016】
本発明において、下層に含まれるポリウレタン樹脂の脂肪酸エステルの相溶濃度は、上層に含まれるポリウレタン樹脂の脂肪酸エステルの相溶濃度の2.5〜9倍であることが好ましい。この範囲内であれば、下層に保持されたエステル系潤滑剤を磁性層表層まで移行させ、長期にわたり潤滑効果を維持することができる。
【0017】
下層に含まれるポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、100〜200℃であり、好ましくは100〜170℃である。ガラス転移温度が100℃未満では、高温での塗膜強度が低下し、耐久性、保存性が劣化する。また、ガラス転移温度が200℃を超えると、カレンダー成型性が低下し、得られる磁気記録媒体の電磁変換特性が低下する。
【0018】
[下層用ポリウレタン樹脂]
本発明において、脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%であり、かつガラス転移温度が100〜200℃である、下層に含まれるポリウレタン樹脂(以下、「下層用ポリウレタン樹脂」ともいう)は、環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物とジイソシアネート化合物を重合して得られるポリウレタン樹脂であることができる。
【0019】
上記ジオール化合物が有する環状構造とは、芳香環、複素環、脂環式環を包含する。また、上記ジオール化合物は、2個のω−ヒドロキシアルキル基が環状構造に結合した構造であり、そのω−ヒドロキシアルキル基は、少なくとも1個は長鎖アルキル鎖であることが必要であるが、更には両者ともに長鎖アルキル鎖であることが好ましい。ただし、長鎖アルキル鎖には、必ずしも水酸基を有している必要はなく、ω−ヒドロキシアルキル基とは別に環状構造に1個以上結合してもよい。ここで、長鎖アルキル鎖とは炭素数2〜18のω−ヒドロキシアルキル基又はアルキル基を言う。また、長鎖アルキル鎖は、更にその水素原子がアルキル基などで置換されたものでもよい。
【0020】
また、上記ジオール化合物は、長鎖アルキル鎖以外に、それ以外のアルキル基やアリール基、又は複素環基などが環状構造に結合されていてもよい。このようなジオール化合物は、式1または式2から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
【化1】
Figure 2004220723
【0022】
ただし、Zはベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環から選ばれる。R1、R2は、炭素数1〜18のアルキレン基、R3、R4は、炭素数2〜18のアルキル基である。また、R1及びR2のうち1つは、炭素数2〜18である必要がある。更に、ジオール化合物は、式3〜式6から選ばれるものが好ましい。
【0023】
【化2】
Figure 2004220723
【0024】
ただしR1、R2、R3、及びR4は、上記と同義である。また、ジオール化合物は、式7で示されるダイマージオールであることが特に好ましい。
【0025】
【化3】
Figure 2004220723
【0026】
下層用ポリウレタン樹脂として好適なポリウレタン樹脂は、環状構造および少なくとも2個の長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物とジイソシアネート化合物を重合して得られるポリウレタン樹脂である。従来のポリウレタン系結合剤は、分子量2000程度のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどの長鎖ポリオールとジイソシアネート化合物を反応させて重合したもので、必要に応じて分子量100前後の短鎖ジオールが鎖延長剤として使用されていた。それに対し、本発明において、下層用ポリウレタン樹脂に用いられるジオール化合物は、例えば、上記したようなベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環から選ばれる環状構造と、少なくとも2個の炭素数1〜18のアルキレン基、あるいは更に炭素数2〜18の2個のアルキル基を有するものであり、長鎖ジオールと短鎖ジオールとの中間的な大きさを有するので、長鎖ポリオールを有するポリウレタンに比べてジイソシアネート成分の質量分率を増やし、ウレタン結合を増やすことができる。これによりウレタン結合の分子間相互作用を増し、ポリウレタンの力学強度を高めることが可能となる。また、好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環から選ばれる環状構造を有するために力学強度を高めることができるという特徴を有している。
【0027】
特に、これらの環状構造および長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物としては、上記のダイマージオールが好ましい。ダイマージオールは分子量が537であり長鎖ポリオールと短鎖ジオールの中間的な範囲に当たる。このことから長鎖ポリオールを使うポリウレタンに比べてジイソシアネート成分の質量分率を増やし、ウレタン結合を増やすことができる。これによりウレタン結合の分子間相互作用を増しポリウレタンの力学強度を高めることが可能となる。またダイマージオールには環状構造であるシクロヘキサン環を持つことからも力学強度を高めることができる。
【0028】
ダイマージオールは、炭素数が18の不飽和脂肪族カルボン酸の2量体であるダイマー酸とした後に、不飽和結合およびカルボン酸を水添還元し、さらに蒸留精製して得られるものである。ダイマージオールは、飽和炭化水素の基本骨格を有し、不飽和結合を持たず、また分子の中間にエステル結合、エーテル結合などの連結基を持たない。
【0029】
したがって、上記ジオール化合物とジイソシアネート化合物からなるポリウレタン樹脂は、エステル結合、エーテル結合を持たない。このことは高温、高湿環境下での劣化、分解を受けにくくし、磁気記録媒体の長期保存性を大きく向上させる。特に従来のポリエステルポリオールを用いたポリウレタンではエステル結合部分の加水分解やポリエーテルウレタンのエーテル結合の熱分解が問題となっていたが、上記ポリウレタン樹脂であれば、この問題を解決することができる。
【0030】
また、ダイマージオールは長いアルキル分枝側鎖を2本もち、屈曲した分子構造をとるため溶剤への溶解性が高い。このことは、下層において非磁性粉末又は強磁性粉末を結合剤、および溶剤中で分散するときに、これら粉末に吸着した結合剤の分子鎖の広がりを大きくするような構造(コンフォーメーション)を取りやすいため分散性を向上することができる。
【0031】
さらに、ダイマージオールの屈曲した構造によりポリマー鎖の絡み合いを増やす。これとウレタン基間の分子間水素結合による相互作用で高い力学強度、すなわち高い弾性率と大きな破断伸びを両立させることができ、塗膜強度を大きくし耐久性を大きく向上することができる。ポリウレタン中のダイマージオールの含有量は、5質量%以上であることが好ましい。更に好ましくは、10質量%以上である。ダイマージオールは、ヘンケル社、東亞合成などから市販されている物を用いることができる。
【0032】
下層用ポリウレタン樹脂において、上記ジオール化合物とともに他のジオールを併用しても良い。併用することができるジオールとしては、分子量500以下の低分子ジオールが好ましく、分子量300以下のものがより好ましい。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジオール(CHD)、水素化ビスフェノールA(H−BPA)等の脂環族グリコール、又はビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールFなど芳香族グリコールを挙げることができる。
【0033】
また、分子量500を超える長鎖ジオールはウレタン結合濃度が低下するため力学強度が低下し好ましくない。これらの併用することができる長鎖ジオールの使用量はポリウレタン中の50質量%以下とすることが好ましい。ポリウレタン中には、極性基を含有させることができる。極性基としては、−SOM、−SOM、−COOM、−PO、−POから選ばれる少なくとも1種以上の極性基を挙げることができる。Mは、水素原子、アルカリ金属、またアンモニウムから選ばれる少なくとも一種であり、好ましくはNa、Kであり、さらに好ましくはKである。極性基の含有量は、ポリウレタン中に1×10−6eq/g〜2×10−4eq/gであることが好ましい。極性基の量が少なすぎると分散性、耐久性が低下し、多すぎると平滑性が低下し電磁変換特性が低下する。
【0034】
極性基のポリウレタンへの導入は、極性基を持つジオール化合物を、上記特定の化学構造を有するジオールとともにジイソシアネート化合物で重合してウレタン主鎖に組み込むことによって行うことができる。極性基含有ジオールは重合溶剤への溶解性を高めるためにエチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加して鎖長を延ばしても良いが、エーテル、エステルセグメントの量はできるだけ少なくすることが好ましい。これらの量が多すぎると保存性が低下する。
【0035】
本発明において、下層用ポリウレタン樹脂の製造に使用されるジイソシアネート成分としては、公知のものが用いられる。例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、p−フェニレンジイソシアネート、o−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどを用いることが好ましい。
【0036】
また、下層用ポリウレタン樹脂の分子量は、質量平均分子量(Mw)で20000〜100000であることが好ましく、さらに好ましくは30000〜60000である。20000以上であれば塗膜強度が高く、耐久性が向上する。10000以下であれば、溶剤溶解性が高く、分散性が良好である。
【0037】
下層用ポリウレタン樹脂中のOH基の含有量は、ポリウレタン1分子当たり3個〜20個であることが好ましい。更に好ましくは、1分子当たり4個〜15個である。1分子当たり3個以上であれば、イソシアネート硬化剤との反応性が高いので塗膜強度が高く、耐久性が向上する。また、15個/分子以下であれば、溶剤への溶解性が高く、分散性が良好である。下層用ポリウレタン樹脂の分子は、その末端に分枝OH基を有することが好ましい。この分岐OH基を付与するために用いる化合物としては、以下のOH基が3官能以上の化合物を用いることができる。
【0038】
その様な化合物としては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、無水トリメリット酸、グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサントリオール、3官能以上のOH基を持つ分枝ポリエステル、又はポリエーテルエステルが挙げられる。これらの中でも、3官能のものが好ましい。4官能以上になると硬化剤との反応が速くなりすぎポットライフが短くなる。
【0039】
また、ウレタン基濃度は、2.0〜5.0mmol/gであることが好ましい。さらに好ましくは3.0〜4.0mmol/gである。2.0mmol/g以上であれば、得られるポリウレタン樹脂の力学強度が高く、5.0mmol/g以下であれば、塗布液の分散性が良好である。
【0040】
[上層用ポリウレタン樹脂]
本発明において、脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下である上層磁性層に含まれるポリウレタン樹脂(以下、「上層用ポリウレタン樹脂」ともいう)は、環状構造を有するポリエーテルポリオールからなるポリウレタン樹脂であることができる。環状構造を有するポリエーテルポリオールからなるポリウレタン樹脂は、環状構造を有する短鎖ジオール、エーテル基を含有するポリオールとともに、その他の低分子ジオールをジイソシアネートを用いて重合することによって製造することができる。
【0041】
環状構造を有する短鎖ジオールとしては、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素化ビスフェノールS、ビスフェノールP、水素化ビスフェノールP及びこれらのエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物を挙げることができる。なかでも、水素化ビスフェノールAおよび水素化ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物を用いることが好ましい。環状構造を有する短鎖ジオールの含有量は20〜40重量%であることが好ましい。20重量%以上であれば、得られるポリウレタン樹脂の力学強度が高く耐久性が良好であり、また、40重量%以下であれば、溶剤溶解性が高く、分散性が良好である。
【0042】
エーテル基を含有するポリオールとしては、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素化ビスフェノールS、ビスフェノールP、水素化ビスフェノールP及びこれらのポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド付加物を挙げることができる。なかでも、水素化ビスフェノールA及び水素化ビスフェノールAのポリプロピレンオキシド付加物を用いることが好ましい。エーテル基を含有するポリオールの含量は20重量%〜45重量%であることが好ましい。20重量%以上であれば、粉体への吸着性が高く、分散性が良好であり、また、45重量%以下であれば、得られる塗膜の強度が高く耐久性が良好である。また、ポリウレタン樹脂中のエーテル基濃度は、1〜6mmol/gであることが好ましく、より好ましくは3〜6mmol/gである。1mmol/g以下であれば分散性が良好であり、6mmol/g以下であれば塗膜強度が高く耐久性が良好である。
【0043】
併用できるジオールとしては、分子量500以下の低分子ジオールが好ましく、さらには分子量300以下のものが好ましい。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族グリコールを挙げることができ、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジオール(CHD)、水素化ビスフェノールA(H−BPA)等の脂環族グリコールを挙げることができ、また、ビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールF等の芳香族グリコールを挙げることができる。併用することが可能なジオールとしては多くのジオールを挙げることができるが、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールは好ましくない。また、分子量500を越える長鎖ジオールはウレタン結合濃度が低下するため力学強度が低下するので好ましくない。これらの使用量はポリウレタン中の50重量%以下とすることが好ましい。
【0044】
また、ジイソシアネートとしては、公知のものを用いることができる。具体的には、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、p−フェニレンジイソシアネート、o−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどを用いることが好ましい。
【0045】
また、ウレタン基濃度は、2.5〜4.5mmol/gであることが好ましく、さらに好ましくは3.0〜4.0mmol/gである。2.5mmol/g以上であれば、塗膜のTgが高く、耐久性が向上する。4.5mmol/g以下であれば、溶剤への溶解性が高く、分散性が向上する。また、4.5mmol/gを超えると、必然的にポリオールを含有できなくなるために分子量の調整が困難となり合成上の不都合が生じやすい。
【0046】
上層用ポリウレタン樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mw)で30000〜70000であることが好ましく、さらに好ましくは40000〜60000である。30000以上であれば、塗膜強度が高く、耐久性が向上する。70000以下であれば、溶剤への溶解性が高く、分散性が良好である。上層用ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、40〜200℃であることが好ましい。更に好ましくは70〜180℃である。40℃以上であれば、高温での塗膜強度が高いため、耐久性、保存性が良好である。200℃以下であれば、カレンダー成型性が高く、電磁変換特性が良好である。
【0047】
上層用ポリウレタン樹脂中には、極性基を含有させることができる。極性基としては、−SOM、−OSOM、−COOM、−PO、−POから選ばれる少なくとも1種以上の極性基を挙げることができる。Mは、水素原子、アルカリ金属、またアンモニウムから選ばれる少なくとも一種であり、−SOM、−OSOMであることが好ましい。極性基の含有量は、上層用ポリウレタン樹脂中に1×10−5eq/g〜2×10−4eq/gであることが好ましい。1×10−5以上であれば、磁性体への吸着力が高く、分散性が向上する。また、2×10−4以下であれば、溶剤への溶解性が高く、分散性が向上する。ポリウレタン樹脂中のOH基の含有量は、ポリウレタン1分子当たり2個〜20個であることが好ましい。更に好ましくは、1分子当たり4個〜15個である。1分子当たり3個以上であれば、イソシアネート硬化剤との反応性が高いので塗膜強度が高く、耐久性が向上する。また、15個/分子以下であれば、溶剤への溶解性が高いので分散性が良好である。
【0048】
上層用ポリウレタン樹脂としては、具体的には、下記の化学構造のポリエー テルポリオールからなるポリウレタン樹脂を挙げることができる。
【化4】
Figure 2004220723
【0049】
[併用できる結合剤]
上記下層用ポリウレタン樹脂及び上層用ポリウレタン樹脂は、少なくとも結合剤成分として下層又は上層に含有されるものである。下層又は上層に使用される結合剤は、上記ポリウレタン樹脂のみでもよいが、他の樹脂を併用してもよく、また、通常、ポリイソシアネートなどの硬化剤が含まれる組成物であることができる。
【0050】
上層または下層において、上記ポリウレタン樹脂と併用される樹脂としては、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。塩化ビニル系樹脂の重合度は100〜500であることが好ましく、150〜400であることが更に好ましく、200〜300であることが特に好ましい。塩化ビニル系樹脂はビニル系モノマー、例えば酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、アクリロニトリルなどを共重合させたものでもよい。
【0051】
中でも塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルと酢酸ビニルとを含む共重合体を用いることが好ましい。酢酸ビニルは、この共重合体に好ましくは1〜15質量%含有されると本発明のポリウレタン樹脂との相溶性が高く、且つ塗布液の高剪断速度における粘度が低くなり極めて平滑な塗膜が得られるという効果を奏する。
【0052】
塩化ビニル系樹脂は、前記上層用又は下層用ポリウレタン樹脂と同様な極性基を有していることが好ましく、極性基の含有量は、1×10−5〜1×10−3eq/gであることが好ましい。この範囲内であれば、粘度が低く分散性が良好である。また、塩化ビニル系樹脂はエポキシ基を有していることが好ましく、含有されるエポキシ基量は、好ましくは1×10−4〜1×10−2eq/g、更に好ましくは、5×10−4〜2×10−3eq/gである。
【0053】
更に、塩化ビニル系樹脂は、OH基を有していることが好ましい。塩化ビニル系樹脂にOH基を導入するとイソシアネート硬化剤と反応し架橋構造を形成し、力学強度が向上するので好ましい。OH基の導入法としては、ビニルアルコールのようにポリマー主鎖に直結するよりも主鎖から炭化水素鎖、ポリアルキレングリコール鎖を介して結合したものの方が硬化性が高く好ましい。また、OH基は2級、1級であることが好ましい。塩化ビニル系樹脂へのOH基の導入は、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアリルエーテルなどのビニルモノマーの共重合で行うことができる。
【0054】
塩化ビニル系樹脂のOH基含量は、好ましくは1×10−4〜5×10−3eq/g、更に好ましくは、2×10−4〜2×10−3eq/gである。塩化ビニル系樹脂は、通常、0〜15質量%の範囲で他の共重合可能なモノマーを含有することができる。このような共重合可能なモノマ−としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボン酸ビニルエステル、アリルエーテル、スチレン、グリシジル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、その他のビニルモノマ−が挙げられる。
【0055】
上層又は下層において、併用される結合剤成分としては、その他、ニトロセルロース樹脂などのセルロース誘導体、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられ、これらは、単独でも組み合わせでも使用することができる。他の合成樹脂を併用する場合には、塩素含有量が後述の好ましい範囲になるように、その添加量が調整されねばならないが、通常、上層用又は下層用ポリウレタン樹脂は結合剤中に50〜100質量%を含有されていることが好ましく、さらに好ましくは70〜100質量%の量である。特に好ましくは80〜100質量%の量である。10質量%以下では、分散性が低下する。
【0056】
上記併用される樹脂は、極性基を有しているものが好ましく、極性基及びその使用量は、言及のないものについては上記上層用又は下層用ポリウレタン樹脂と同程度である。
【0057】
結合剤成分となる硬化剤としてはポリイソシアネート硬化剤、エポキシ硬化剤などが挙げられ、中でも、ポリイソシアネート硬化剤を用いることが好ましい。ポリイソシアネート硬化剤の例としては、上層用又は下層用ポリウレタン樹脂の構成成分となる前記有機ジイソシアネート化合物、前記ジイソシアネートとトリメチロールプロパン、グリセリンなど多価アルコールとの反応物、たとえばトリレンジイソシアネート3モルとトリメチロールプロパン1モルとの反応生成物(例:デスモジュールL−75(バイエル社製))、キシリレンジイソシアネートあるいは、ヘキサメチレンジイソシアネート3モルとトリメチロールプロパン1モルとの反応生成物、ヘキサメチレンジイソシアネート3モルとのビューレット付加化合物などがある。またジイソシアネート化合物を重合したイソシアヌレート型のポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの3、5、7量体がある。またMDI(4,4−ジフェニルメタンジジイソシアネート)の多量体であるポリメリックMDIなどが挙げられる。上層又は下層に含まれるポリイソシアネート化合物は、結合剤中に10〜50質量%の範囲で含有されていることが好ましく、さらに好ましくは20〜40質量%の範囲である。
【0058】
また、電子線照射による硬化処理を行う場合には、ウレタンアクリレート等のような反応性二重結合を有する化合物を使用することができる。樹脂成分と硬化剤との合計(すなわち結合剤)の質量は、非磁性又は磁性粉末100質量部に対して、通常15〜40質量部の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは20〜30質量部である。
【0059】
本発明の磁気記録媒体は、1m当たりの塩素含有量が35mg以下であることが好ましく、より好ましくは20mg以下、更に好ましくは10mg以下である。ここで、塩素含有量とは、磁気記録媒体を蛍光X線分析にかけてFe、Cl元素のピーク面積からCl量を定量し、磁気記録媒体1m当たりのCl質量に換算したものを言う。従って、磁気記録媒体における塩素の存在形態、所在等は、任意であるが、通常、結合剤に大部分由来するものと考えられる。また、磁気記録媒体1m当たりとは、当然にその厚み方向全体、即ち、上層磁性層、下層、バック層及び支持体等を含む意味である。
本発明の磁気記録媒体において、上記の好ましい範囲内に塩素含有量を低減することにより、金属薄膜を用いたMRヘッドにおける、腐食による特性劣化の問題を回避することができる。これにより、本発明の磁気記録媒体を、MRヘッドを用いる磁気記録再生システムにおいて、好適に用いることができる。また、媒体中の塩素含有量を低減することにより、廃却のため焼却する場合において、ダイオキシン類等の有害物質が発生する危険性を低減することができ、環境保全性の高い磁気記録媒体を得ることができる。
【0060】
本発明において、下層又は上層に含まれる結合剤成分として、ポリウレタン樹脂と極性基含有塩化ビニル系樹脂を併用する場合、その質量比を、好ましくは85/15〜100/0、更に好ましくは90/10〜100/0、特に好ましくは95/5〜100/0とすることにより、媒体の塩素含有量を上記範囲内に低減することができる。
【0061】
[強磁性粉末]
本発明の磁気記録媒体に使用される強磁性粉末は、強磁性酸化鉄、コバルト含有強磁性酸化鉄又は強磁性合金粉末であることができる。強磁性粉末のBET法による比表面積(SBET)は、40〜80m/gであることが好ましく、より好ましくは50〜70m/gであり、結晶子サイズは12〜25nmであることが好ましく、より好ましくは13〜22nmであり、特に好ましくは14〜20nmである。
【0062】
強磁性金属粉末としてはFe、Ni、Fe−Co、Fe−Ni、Co−Ni、Co−Ni−Fe等が挙げられ、本発明においては、高記録密度媒体に使用されるFeを主体とするものが好ましい。Feを主体とする強磁性金属粉末には、Feが強磁性金属粉末の50原子%以上含まれることが好ましく、55〜90原子%含まれることが更に好ましい。Feと共に併用され得る元素としては、Y、Co等を用いることが好ましい。本発明では、それら元素を用いることにより、飽和磁化σsを大きくし、かつ緻密で薄い酸化膜を形成することができるので特に好ましい。強磁性粉末中のイットリウム含有量は、鉄原子に対するイットリウム原子の比(Y/Fe)が0.5原子%〜20原子%であることが好ましく、5〜10原子%であることが更に好ましい。0.5原子%以上であれば、強磁性粉末の高σs化が可能となるので磁気特性が向上し、電磁変換特性が向上する。20原子%以下であれば、相対的に鉄の含有量が多くなるので磁気特性が向上し、電磁変換特性が向上する。さらに、鉄100原子%に対して総和で、通常20原子%以下、好ましくは7〜20原子%の割合で、アルミニウム、ケイ素、硫黄、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ロジウム、パラジウム、金、錫、アンチモン、ホウ素、バリウム、タンタル、タングステン、レニウム、金、鉛、リン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、テルル、ビスマス等を含むことができる。
【0063】
Yを含む強磁性金属粉末は、同粒子間の磁気的エネルギーが強く分散しにくい。しかし、上記上層用ポリウレタン樹脂を含む結合剤を用いて分散することによって、電磁変換特性、走行耐久性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【0064】
これらの強磁性粉末の製法は既に公知であり、本発明で用いる強磁性粉末も公知の方法に従って製造することができる。強磁性粉末の形状は、針状、粒状、サイコロ状、米粒状および板状であることができ、特に針状の強磁性粉末を使用することが好ましい。
【0065】
例えば、本発明で好適に用いられるコバルト、イットリウムを導入した強磁性金属粉末の製造方法の一例を示す。第一鉄塩とアルカリを混合した水性懸濁液に、酸化性気体を吹き込むことによって得られるオキシ水酸化鉄を出発原料とする例を挙げることができる。このオキシ水酸化鉄の種類としては、α−FeOOHが好ましく、その製法としては、第一鉄塩を水酸化アルカリで中和してFe(OH)の水性懸濁液とし、この懸濁液に酸化性ガスを吹き込んで針状のα−FeOOHとする第一の製法がある。一方、第一鉄塩を炭酸アルカリで中和してFeCOの水性懸濁液とし、この懸濁液に酸化性気体を吹き込んで紡錘状のα−FeOOHとする第二の製法がある。このようなオキシ水酸化鉄は第一鉄塩水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて水酸化第一鉄を含有する水溶液を得て、これを空気酸化等により酸化して得られたものであることが好ましい。この際、第一鉄塩水溶液にNi塩や、Ca塩、Ba塩、Sr塩等のアルカリ土類元素の塩、Cr塩、Zn塩などを共存させても良く、このような塩を適宣選択して用いることによって粒子形状(軸比)などを調製することができる。第一鉄塩としては、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等を用いることが好ましい。またアルカリとしては水酸化ナトリウム、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等を用いることが好ましい。また、共存させる塩としては、塩化ニッケル、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化クロム、塩化亜鉛等の塩化物を用いることが好ましい。
【0066】
次いで、鉄にコバルトを導入する場合は、イットリウムを導入する前に、硫酸コバルト、塩化コバルト等のコバルト化合物の水溶液を前記のオキシ水酸化鉄のスラリーに攪拌混合する。コバルトを含有するオキシ水酸化鉄のスラリーを調製した後、このスラリーにイットリウムの化合物を含有する水溶液を添加し、攪拌混合することによって導入することができる。これら強磁性粉末には、イットリウム以外にもネオジム、サマリウム、プラセオジウム、ランタン等を導入することができる。これらは、塩化イットリウム、塩化ネオジム、塩化サマリウム、塩化プラセオジウム、塩化ランタン等の塩化物、硝酸ネオジム、硝酸ガドリニウム等の硝酸塩などを用いて導入することができ、これらは、二種以上を併用しても良い。
【0067】
また、よく知られているように、化学的に安定にするために、強磁性金属粉末の粒子表面に、徐酸化処理により、酸化被膜を形成することもできる。強磁性金属粉末は、少量の水酸化物、または酸化物を含んでもよい。徐酸化の時に使用するガス中に炭酸ガスが含有されていると、強磁性金属粉末表面の塩基性点に吸着するので、このような炭酸ガスが含まれていてもよい。
【0068】
磁気記録媒体の表面粗さを小さくするために、強磁性金属粉末の平均長軸長は0.04〜0.15μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.12μmである。平均針状比は4〜10であることが好ましく、より好ましくは4〜8である。
【0069】
強磁性金属粉末粒子中の結晶を観察した時、単結晶で形成された粒子の全粒子に対する割合を結晶率と定義すると、結晶率が30〜100%であることが好ましく、より好ましくは35〜100%である。本発明の強磁性金属粉末の飽和磁化σsは100A・m/kg以上であることが好ましく、さらに好ましくは110〜160A・m/kgである。強磁性金属粉末の抗磁力Hcは1800〜3000エルステッド{(1.43〜2.39)×10A/m}であることが好ましく、更に好ましくは1900〜2800エルステッド{(1.51〜2.23)×10A/m}である。
【0070】
また、強磁性金属粉末には、後述する分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行うこともできる。具体的には、特公昭44−14090号公報、特公昭45−18372号公報、特公昭47−22062号公報、特公昭47−22513号公報、特公昭46−28466号公報、特公昭46−38755号公報、特公昭47−4286号公報、特公昭47−12422号公報、特公昭47−17284号公報、特公昭47−18509号公報、特公昭47−18573号公報、特公昭39−10307号公報、特公昭48−39639号公報、米国特許3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。
【0071】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2質量%とすることが望ましい。後述する結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化することが望ましい。強磁性金属粉末のタップ密度は0.2〜0.8g/ccであることが望ましい。0.8g/ccを越えると強磁性金属粉末を徐酸化するときに均一に徐酸化されないので強磁性金属粉末を安全にハンドリングのすることが困難であったり、得られたテープ等の磁化が経時で減少する傾向がある。0.2cc/g未満では分散が不十分になりやすい傾向がある。
【0072】
上記の樹脂成分、硬化剤および強磁性粉末を、磁性塗布液の調製の際に通常使用されているメチルエチルケトン、ジオキサン、シクロヘキサノン、酢酸エチル等の溶剤と共に混練分散して磁性塗布液を作製することができる。混練分散は通常の方法に従って行うことができる。なお、磁性塗布液は、上記成分以外に、α−Al、Cr等の研磨剤、カーボンブラック等の帯電防止剤、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーンオイル等の潤滑剤、分散剤などの通常使用されている添加剤又は充填剤を含むものであってもよい。
【0073】
[潤滑剤]
本発明の磁気記録媒体は、上述の通り、塩素含有量が極めて低いことが好ましい。塩素含有量を低くすることにより、塩酸発生量が極めて低くなり、塩酸により分解される潤滑剤、中でもエステル系潤滑剤を有効に上層磁性層及び/又は下層に含有させることができ、ドロップアウトの低減等、走行耐久性の向上に効果がある。
【0074】
本発明では、少なくとも下層に、R1が炭素数5〜21の脂肪酸残基、Xが炭素数2〜10のアルコール残基であるR1−Xで示される脂肪酸エステルを含有する。本発明では、下層において、前記脂肪酸エステルと、前述の下層に含まれるポリウレタン樹脂とを併用することにより、下層に多量の潤滑剤を保持するとともに、上層に位置する磁性層へ潤滑剤を徐々に移行させることができる。一方、下層に含まれる脂肪酸エステルがジエステルやトリエステル構造のものである場合は、下層に含まれるポリウレタン樹脂との相溶性が15wt%を超えてしまい、磁性層表面へ潤滑剤を移行させるためには、過剰に脂肪酸エステルを添加する必要があり、磁性層の可塑化により耐久性が劣化する。
【0075】
上記R1−Xで示される脂肪酸エステルの原料となるアルコールとしては、エタノール、ブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、2−メチルブチルアルコール、2−ヘキシルデシルアルコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、sec−ブチルアルコール等のモノアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ソルビタン誘導体等の多価アルコールが挙げられる。脂肪酸エステルの原料となる脂肪酸としては酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、パルミトレイン酸等の脂肪族カルボン酸またはこれらの混合物が挙げられる。脂肪酸エステルとしての具体例は、ブチルステアレート、sec−ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、ブチルステアレートとブチルパルミテートの混合物、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でエステル化したもの、ジエチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、グリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物を挙げることができる。
上記R1−Xで示される脂肪酸エステルとしての具体例は、ブチルステアレート、sec−ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、ブチルステアレートとブチルパルミテートの混合物、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でエステル化したもの、ジエチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、グリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物を挙げることができる。
【0076】
本発明において、上層及び下層に好ましく使用することができる潤滑剤としては、前記R1−Xで示される脂肪酸エステルの他に、ジアルコキシポリシロキサン(アルコキシは炭素数1〜4個)、モノアルキルモノアルコキシポリシロキサン(アルキルは炭素数1〜5個、アルコキシは炭素数1〜4個)などのシリコーンオイル、アルキル燐酸エステル類、炭素数10〜22の飽和脂肪酸類、不飽和脂肪酸類や脂肪酸アミド類等が挙げられる。
【0077】
本発明において、上層及び下層における潤滑剤組成については、脂肪酸エステルと脂肪酸を併用することがより好ましく、脂肪酸としては、例えば、常温で固体の飽和脂肪酸(炭素数10から22)を用いることができる。
【0078】
さらに、磁気記録媒体を高湿度下で使用するときしばしば生ずる脂肪酸エステルの加水分解を更に軽減するために、原料の脂肪酸及びアルコールの分岐/直鎖、シス/トランス等の異性構造、分岐位置を選択することができる。これらの潤滑剤は結合剤100質量部に対して0.2〜20質量部の範囲で添加することが好ましい。特に、脂肪酸は、強磁性粉末(上層磁性層または下層磁性層)、または非磁性粉末(下層非磁性層)100質量部に対し、通常、0.1〜2.0質量部、好ましくは、0.3〜1.5質量部用いることができ、脂肪酸エステルは、強磁性粉末(上層磁性層または下層磁性層)、または非磁性粉末(下層非磁性層)100質量部に対し、通常、0.5〜3.0質量部、好ましくは、0.7〜2.5質量部用いることができる。
【0079】
[層構成]
本発明の磁気記録媒体は、下層の上に磁性層を有する構成であれば、特に制限はない。下層は、非磁性粉末または強磁性粉末と結合剤とを分散させてなるものであり、非磁性粉末のものを主体に選択した場合には非磁性層が、強磁性粉末を主体に選択した場合には磁性層が、下層として構成され得る。下層が非磁性層の場合を下層非磁性層、下層が磁性層の場合を下層磁性層ともいうが、両者を総称する場合は、単に下層ともいう。また、下層磁性層及び下層上に設けられる磁性層(「上層磁性層」ともいう)は、各々単層でも複層でもよい。
【0080】
本発明において、下層が非磁性層である場合、下層非磁性層に用いる非磁性粉末は、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機質化合物から選択することができる。具体的には、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化すず、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを、単独または組合せて使用することができる。特に好ましいものは二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、更に好ましいものは二酸化チタンである。これら非磁性粉末の平均粒子径は0.005〜2μmであることが好ましいが、必要に応じて平均粒子径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましくは、非磁性粉末の平均粒子径は0.01μm〜0.2μmである。非磁性粉末のpHは6〜9の間であることが特に好ましい。非磁性粉末の比表面積は1〜100m/gであることが好ましく、より好ましくは5〜50m/g、更に好ましくは7〜40m/gである。非磁性粉末の結晶子サイズは0.01μm〜2μmであることが好ましい。DBPによる吸油量は、5〜100ml/100gであることが好ましく、より好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。これらの非磁性粉末の表面には、表面処理によりAl、SiO、TiO、ZrO、SnO、Sb、ZnOを存在させることが好ましい。特に分散性の向上に好ましいものはAl、SiO、TiO、ZrOであり、更に好ましいものはAl、SiO、ZrOである。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナを存在させた後にその表層にシリカを存在させる処理をする方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は多孔質層にしても良いが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0081】
下層にカーボンブラックを混合させて公知の効果であるRsを下げることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得る事ができる。このためにはゴム用ファーネスブラック、ゴム用サーマルブラック、カラー用カーボンブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。カーボンブラックの比表面積は100〜500m/gであることが好ましく、より好ましくは150〜400m/gであり、DBP吸油量は20〜400ml/100gであることが好ましく、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの平均粒子径は5〜80nmであることが好ましく、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10であることが好ましく、含水率は0.1〜10%であることが好ましく、タップ密度は0.1〜1g/mlであることが好ましい。
【0082】
本発明において用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、3150B、3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、アクゾー社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0083】
下層が磁性層である場合には、強磁性粉末としては、γ−Fe、Co変性γ−Fe、α−Feを主成分とする合金、CrO等を用いることができる。特に、Co変性γ−Feを用いることが好ましい。本発明の下層磁性層に用いられる強磁性粉末は上層磁性層に用いられる強磁性粉末と組成及び/又は磁気特性が異なるものを選択することが好ましい。例えば、長波長記録特性を向上させるためには、下層磁性層の抗磁力Hcは上層磁性層のそれより低く設定することが望ましく、下層に強磁性酸化鉄粉末を上層磁性層に強磁性金属粉末を適用することができる。また下層磁性層の残留磁束密度Brを上層磁性層のそれより高くすることが有効である。下層磁性層または下層非磁性層の製造に使用する結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤あるいは分散方法等は、上層磁性層に使用するものと同様のものを適用することができる。
【0084】
[非磁性支持体]
本発明に用いることのできる非磁性支持体としては二軸延伸を行ったポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、ポリベンズオキシダゾール等の公知のものが挙げられる。好ましくはポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミドである。これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行っても良い。また本発明に用いることのできる支持体は中心面平均表面粗さがカットオフ値0.25mmにおいて0.1〜20nm、好ましくは1〜10nmの範囲という優れた平滑性を有する表面であることが好ましい。また、これらの支持体は中心面平均表面粗さが小さいだけでなく1μm以上の粗大突起がないことが好ましい。
【0085】
[製造方法]
本発明の磁気記録媒体の製造方法は例えば、走行下にある支持体の表面に下層塗布液及び上層磁性層塗布液を、上層磁性層の乾燥厚みが好ましくは0.05〜5μmの範囲内、より好ましくは0.07〜1μm、下層の乾燥厚みが0.05〜5μmの範囲内、より好ましくは0.07〜3μmになるように塗布する。ここで下層塗布液及び上層磁性層塗布液を逐次又は同時に重層塗布してもよい。
【0086】
上記塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば株式会社総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0087】
本発明の磁気記録媒体の製造に適用する塗布装置、方法の例として以下のものを提案できる。
(1)磁性塗料の塗布で一般的に適用されるグラビア、ロール、ブレード、エクストルージョン等の塗布装置により、まず下層を塗布し、下層が未乾燥の状態のうちに特公平1−46186号公報、特開昭60−238179号公報、特開平2−265672号公報等に開示されているような支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により、上層磁性層を塗布する。
(2)特開昭63−88080号公報、特開平2−17971号公報、特開平2−265672号公報に開示されているような塗布液通液スリットを2個有する一つの塗布ヘッドにより上層磁性層及び下層をほぼ同時に塗布する。
(3)特開平2−174965号公報に開示されているようなバックアップロール付きのエクストルージョン塗布装置により、上層磁性層及び下層をほぼ同時に塗布する。
【0088】
本発明の磁気記録媒体は、支持体の磁性塗布液が塗布されていない面にバックコート層(バッキング層)が設けられていてもよい。バックコート層は、支持体の磁性塗布液が塗布されていない面に、研磨剤、帯電防止剤などの粒状成分と結合剤とを有機溶剤に分散したバックコート層形成塗料を塗布して設けられた層である。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができ、また結合剤としてはニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。なお、支持体の磁性塗料およびバックコート層形成塗料の塗布面に接着剤層が設けられいてもよい。
【0089】
これら塗布層は、塗布層中に含まれる強磁性粉末を磁場配向処理を施した後に乾燥される。このようにして乾燥された後、塗布層に表面平滑化処理を施すことが好ましい。表面平滑化処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。表面平滑化処理を行うことにより、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理ロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0090】
本発明の磁気記録媒体は、表面の中心線平均粗さが、カットオフ値0.25mmにおいて0.1〜4nm、好ましくは1〜3nmの範囲という極めて優れた平滑性を有する表面であることが好ましい。そのためには、例えば上述したように特定の強磁性粉末と結合剤を選んで形成した磁性層に、上記カレンダー処理を施すことができる。カレンダー処理は、カレンダーロールの温度を60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とし、圧力を100〜500kg/cm(980〜4900N/cm)の範囲、好ましくは200〜450kg/cm(1960〜4410N/cm)の範囲とし、特に好ましくは300〜400kg/cm(2940〜3920N/cm)の範囲とした条件で作動させることによって行われることが好ましい。このようにして硬化処理された積層体を次に所望の形状にする。得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【0091】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。以下に記載の「部」は「質量部」を示し、%は質量%を示す。
ポリウレタン樹脂の合成
表1、2に示したジオール成分を還流式冷却器、撹拌機を具備し、予め窒素置換した容器にシクロヘキサノン30%溶液に窒素気流下60℃で溶解した。次いで触媒として、ジブチルスズジラウレート60ppmを加え更に15分間溶解した。更に表1、2に示したMDIを加え90℃にて6時間加熱反応し、下層用ポリウレタン樹脂溶液Aを得た。ポリウレタンAと同様の方法で表1、2に示した原料及び組成比で下層用ポリウレタン樹脂B〜J、a〜cを得た。得られたポリウレタンの分子量及びガラス転移温度Tgを表1、2に示した。
【0092】
〔実施例1〕
上層磁性層用塗布液
強磁性合金粉末(組成:Fe 89atm%、Co 5atm%、Y 6atm% Hc 2000Oe(159kA/m)、結晶子サイズ15nm、BET比表面積59m/g、長軸径0.12μm、針状比7、σs150emu/g(159A・m/kg))100部 をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで、
ポリウレタン樹脂a 10部(固形分)
シクロヘキサノン 60部
を加え60分間混練し、次いで、
研磨剤(Al、粒子サイズ 0.3μm) 2部
カーボンブラック(粒子サイズ 40 nm) 2部
メチルエチルケトン/トルエン=1/1 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製 コロネート3041) 5部(固形分)
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、さらに20分間撹拌混合した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、上層用磁性塗布液を調製した。
【0093】
非磁性下層用塗布液
α−Fe 85部
(平均粒径0.15μm、SBET 52m/g、表面処理Al、SiO、pH6.5〜8.0)
カーボンブラック(粒子サイズ40nm) 15部
をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで、
ポリウレタン樹脂A 10部(固形分)
シクロヘキサノン 60部
を加え60分間混練し、次いで、
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=6/4 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、下層用塗布液を調製した。
【0094】
接着層としてスルホン酸含有ポリエステル樹脂を乾燥後の厚さが0.1μmになるようにコイルバーを用いて厚さ4μmのアラミド支持体の表面に塗布した。次いで得られた下層用塗布液を1.5μmに、さらにその直後に上層用塗布液を乾燥後の厚さが0.1μmになるように、リバースロールを用いて同時重層塗布した。上層用塗布液を塗布した非磁性支持体に、磁性塗布液が未乾燥の状態で0.5T(5000ガウスのCo磁石と0.4T(4000ガウス)のソレノイド磁石で磁場配向を行い、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組み合せによるカレンダー処理を、速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90゜Cで行った後3.8mm幅にスリットした。
【0095】
(実施例2〜9及び比較例1〜5)
ポリウレタン種を変更して実施例1と同様の方法で作製した。尚、実施例7〜9、及び比較例6、7では、表3に記載の量の塩ビ系樹脂 (塩ビ/酢ビ/グリシジルメタクリレート=86/9/5の共重合体にヒドロキシエチルスルフォネートナトリウム塩を付加した化合物、SONa=6×10−5eq/g、エポキシ=10−3eq/g、Mw 30,000)を、混練時に添加した。
【0096】
測定方法
▲1▼塩素含有量
蛍光X線分析によりFe、Cl元素のピーク面積からCl量を定量し、テープ1mあたりのCl重量に換算した。
▲2▼脂肪酸エステル相溶性
ポリウレタン樹脂をシクロヘキサノン/メチルエチルケトン(重量比)に、7.5wt%の量で溶解してバインダー溶液とする。このバインダー溶液に所定量の脂肪酸エステルを添加、混合した後、混合溶液をシート上に滴下し、70℃dryサーモで48hr乾燥し、目視で濁りの有無によって相溶の可否を決定し、濁りが生じない最大濃度を、相溶濃度(wt%)とした。
▲3▼ヘッド腐食
MRヘッドの金属部材であるパーマロイを磁性層に接触させた状態で60℃90%RH環境に2週間放置した後、パーマロイ部材の表面を光学顕微鏡で観察し、表面の変化を調べた。腐食による変色が見られたものを×、見られなかったものを○とした。
▲4▼再生出力
試料テープにドラムテスター(交洋製作所製)を用いて記録波長0.5μm、ヘッド速度10m/秒の条件で記録し、再生した。比較例5のテープの再生出力を0dBとしたときの各試料テープの相対的な再生出力を評価した。
▲5▼スチル耐久性(高速摺動耐久性)
40℃80%RH環境下でデジタルビデオテープレコーダー(松下電器製NV−BJ1)を用いて、スチル状態にして再生出力が50%になるまでの時間を測定してスチル耐久性として示した。
【0097】
【表1】
Figure 2004220723
【0098】
【表2】
Figure 2004220723
【0099】
【表3】
Figure 2004220723
【0100】
評価結果
上層に、R1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下のポリウレタン樹脂a又はbを使用し、下層に、ガラス転移温度が100〜200℃の範囲内であり、かつR1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%のポリウレタン樹脂A〜C、F、Gを使用した実施例1〜8はいずれも、再生出力が高く、スチル耐久性も良好であった。また、塩素含有量が26.8mg/mである実施例7では、ヘッド腐食がわずかに観察されたが、実施例1〜6、8、9はヘッド腐食がみられなかった。
比較例1は、上層にはR1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂aを使用したが、下層には、R1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%の範囲に満たない上、ガラス転移温度が100〜200℃の範囲を超えるポリウレタン樹脂Dを使用した例である。比較例2は、上層にはR1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂aを使用したが、下層には、潤滑剤として使用するブチルステアレートの相溶濃度は6wt%であるが、ガラス転移温度が100〜200℃の範囲に満たないポリウレタン樹脂Eを使用した例である。比較例3は、上層にはR1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂aを使用したが、下層には、R1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%の範囲を超えるポリウレタン樹脂Hを使用した例である。比較例4は、上層にはR1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂aを使用したが、下層には、R1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%の範囲に満たないポリエステル樹脂Iを使用した例である。比較例1及び2は、スチル耐久性は高かったが、実施例に比べて再生出力に劣っていた。比較例3及び4は、再生出力は実施例と同等であったが、スチル耐久性に劣っていた。
比較例5は、上層に、潤滑剤として使用されるブチルステアレートの相溶濃度が5wt%を超えるポリウレタン樹脂cを使用し、下層には、R1−Xで示される脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%の範囲を超え、かつガラス転移温度が100〜200℃の範囲に満たないポリウレタン樹脂Jを使用した例であり、再生出力、スチル耐久性のいずれも、実施例より劣っていた。
【0101】
【発明の効果】
本発明により、優れた高速摺動耐久性を有し、かつ低速走行時の繰り返し走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供することができる。更に、本発明により、上記特性を有し、かつ電磁変換特性及び走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供することができる。更に、本発明の磁気記録媒体の塩素含有量を低減することにより、保存性及び環境保全性にも優れた磁気記録媒体を提供することができる。

Claims (5)

  1. 非磁性支持体上に非磁性粉末又は強磁性粉末及び結合剤を含む下層並びに強磁性粉末及び結合剤を含む少なくとも一層の磁性層をこの順に有する磁気記録媒体であって、
    少なくとも前記下層は、R1−Xで示される脂肪酸エステル(但し、R1は炭素数5〜21の脂肪酸残基、Xは炭素数2〜10のアルコール残基である)を含み、
    前記下層に含まれる結合剤は、前記脂肪酸エステルの相溶濃度が6〜15wt%であり、かつガラス転移温度が100〜200℃のポリウレタン樹脂を含有し、
    前記磁性層に含まれる結合剤は、前記脂肪酸エステルの相溶濃度が5wt%以下であるポリウレタン樹脂を含有することを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 前記下層に含まれるポリウレタン樹脂は、環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物とジイソシアネート化合物を重合して得られるポリウレタン樹脂である請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 前記磁性層に含まれるポリウレタン樹脂は、環状構造を有するポリエーテルポリオールからなるポリウレタン樹脂である請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
  4. 前記磁気記録媒体は、1m当たりの塩素含有量が35mg以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  5. MRヘッドを用いる磁気記録再生システムにおいて使用される磁気記録媒体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
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