JP2004205258A - 匂い測定方法及びその装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】匂いに対する感応特性が互いに異なる複数の匂いセンサー106A、106Bの検出信号の測定値を互いに異なる座標軸の要素とした2次元の座標系におけるベクトルの大きさ及び傾きに基づいて、測定対象の匂いを測定する匂い測定方法及びその装置において、測定対象の匂いの種類(香質)の特定に、ベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、匂いに対する感応特性が互いに異なる複数の匂いセンサーを用いて匂いを測定する匂い測定方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の匂い測定に用いられる匂いセンサーは、測定対象の気体に含まれる匂い物質が検知面に付着してセンサーの物理特性や化学特性が変化することを利用して匂いの強さなどを測定する。そして、この匂いセンサーとしては、匂い物質が吸着したときに電気抵抗が大きくなったり逆に小さくなったりするSnO2やZnO等の半導体材料を用いた匂いセンサーが知られている。この種の匂いセンサーは、そのセンサーの材料に触媒等の添加物質の種類や作動温度によって匂いに対する感応特性が変化する。即ち、匂いの種類によって匂いを検知したときのセンサーの検知信号の強度が変化する。そこで、本出願人は、かかる匂いセンサーの感応特性に着目し、感応特性が互いに異なる2つの匂いセンサーを用いて匂いの量(強さ)及び種類(香質)の両方を測定できる匂い測定装置を提案した(特許文献1参照)。この匂い測定装置は、感応特性が互いに異なる2つの匂いセンサーの検出信号の強度をそれぞれ直交座標系の互いに異なるX軸及びY軸上にとった場合に得られるベクトルの大きさと、そのベクトルの座標軸に対する傾きとに基づいて、測定対象の匂いの強さ及び種類(香質)を測定するものである。
【0003】
【特許文献1】
登録実用新案第3074494号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報の複数の匂いセンサーを用いた匂い測定装置では、匂いセンサーの検出信号の測定値から求めた上記ベクトルの大きさ及び傾きそれぞれの最大値を用いて、匂いの種類(香質)を特定していた。そのため、測定対象の匂いの種類(香質)によっては、上記ベクトルの大きさや傾きの最大値に大きな差があらわれず、その匂いの種類(香質)を正確に特定することが難しい場合があった。例えば、人間の汗臭、脇臭などの体臭の種類や、コーヒーやお茶の銘柄によって互いに異なる匂い(香り)の種類を正確に特定することが難しかった。
【0005】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、匂いの種類(香質)を精度良く測定することができる匂い測定方法及びその装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、匂いに対する感応特性が互いに異なる複数の匂いセンサーの検出信号の測定値を互いに異なる座標軸の要素とした複数次元の座標系におけるベクトルの大きさ及び傾きに基づいて、測定対象の匂いを測定する匂い測定方法であって、測定対象の匂いの種類(香質)の特定に、上記ベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いたことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、匂いに対する感応特性が互いに異なる複数の匂いセンサーが設置された測定部と、該測定部に測定対象の匂いを含む被測定気体を導入する前処理部と、該測定部の匂いセンサーの検出信号の測定値のデータを処理するデータ処理部とを備え、該複数の匂いセンサーの検出信号の測定値をそれぞれ各座標軸の要素とした複数次元の座標系におけるベクトルの大きさ及び傾きに基づいて、測定対象の匂いを測定する匂い測定装置であって、上記データ処理部を、上記ベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いて測定対象の匂いの種類(香質)を算出するように構成したことを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項2の匂い測定装置において、上記前処理部に、測定対象の匂いを含む被測定気体を収容する被測定気体収容部と、該被測定気体収容部内の気体を上記測定部へ導入するための所定の長さの気体導入路を設けたことを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項2又は3の匂い測定装置において、上記前処理部に、無臭の標準気体を発生する標準気体発生手段を設けたことを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項4の匂い測定装置において、上記標準気体発生手段で発生した標準気体を上記測定部へ流す経路を、上記被測定気体収容部を経由する経路とダミー気体収容部を経由する経路との間で切り換え可能にしたことを特徴とするものである。
【0007】
請求項1の匂い測定方法及び請求項2乃至5の匂い測定装置では、複数の匂いセンサーを用いて測定対象の匂いを検出する。この複数の匂いセンサーの検出信号の測定値を互いに異なる座標軸の要素とした複数次元の座標系における測定対象の匂いに対応したベクトルを得る。このベルトルの大きさは測定対象の匂いが強くなるほど大きくなる。一方、上記複数の匂いセンサーは匂いに対して互いに異なる感応特性を有するため、測定対象の匂いが変わると各匂いセンサーの検出信号の測定値の相対的な比率が変わり、上記座標系におけるベクトルの傾きは、測定対象の匂いの種類(香質)によって変化する。従って、上記ベルトルの大きさの最大値から測定対象の匂いの強さを算出し、上記ベクトルの座標軸に対する傾きの最大値からその匂いの種類(香質)を算出することができる。
ところが、前述のように測定対象の匂いの種類(香質)によっては、上記ベクトルの大きさや傾きの最大値に大きな差があらわれず、その匂いの種類(香質)を正確に特定することが難しい場合があった。そこで、本発明者らは、上記ベクトルの大きさ及び傾きの最大値に大きな差があらわれない互いに類似する複数種類の匂いについて上記ベルトルの大きさ及び傾きのデータを詳しく分析した。その結果、それらの匂いに対するベクトルの大きさ及び傾きの時間変化の特性に大きな差が生じることを見いだした。本発明は、この時間変化のデータの分析結果に着目し、測定対象の匂いの種類(香質)の特定に、上記ベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いたものである。このようにベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いることにより、その時間変化の特性の違いから、ベクトルの大きさ及び傾きの最大値に大きな差があらわれない互いに類似する複数種類の匂いについても、それらの匂いの種類(香質)を正確に特定することができる。
上記ベクトルの大きさ及び傾きの時間変化のデータとしては、例えば、ベクトルの大きさ及び傾きの立ち上がり時間の差や、ベクトルの大きさが所定値以上連続して持続した持続時間が挙げられる。本発明者らが人間の体臭について上記立ち上がり時間の差や上記持続時間を測定した結果、人間の体臭の種類(汗臭、脇臭)を正確に特定することができることがわかった。
【0008】
特に、請求項3の匂い測定装置では、被測定気体収容部内に収容されている測定対象の匂いを含む被測定気体を、所定の長さの気体導入路を介して、上記複数の匂いセンサーが設置された測定部へ導入する。この際に、被測定気体中の匂い物質は上記気体導入路内を移動して測定部に到達する。この被測定気体収容部から測定部まで匂い物質が移動する移動時間は、その匂い物質(分子)の質量、大きさ、拡散度等によって変化すると考えられ、この移動時間の違いは、上記ベクトルの大きさ及び傾きの立ち上がり時間の違いとして現れる。従って、このベクトルの大きさ及び傾きの立ち上がり時間に基づいて、上記移動時間が異なるような匂いの種類(香質)を特定することができる。
また特に、請求項4の匂い測定装置では、前処理部に設けた標準気体発生手段で発生した無臭の標準気体を測定部に導入することにより、匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正を行うことができる。また、被測定気体収容部内の気体を測定部へ導入するための気体導入路を設けた場合は、気体導入路の初期状態を常に同じ状態にすることができる。
また特に、請求項5の匂い測定装置では、匂い測定に先立って、標準気体発生手段で発生した無臭の標準気体をダミー気体収容部及び気体導入路を介して測定部に導入する。これにより、気体導入路の初期状態を常に同じ状態にするとともに、匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正を行うことができる。その後、上記標準気体を流す経路を、被測定気体収容部を経由する経路に切り換え、被測定気体収容部内の測定対象の匂いを含む被測定気体を気体導入路を介して測定部へ導入し、匂い測定を行う。このように匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正及び気体導入路の初期化のための気体の経路と被測定気体の匂い測定のための気体の経路とを簡易に切り換えることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の実施形態に係る匂い測定装置について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る匂い測定装置の全体構成図である。この匂い測定装置は、2種類の匂いセンサーを有する匂い測定装置本体1と、被測定気体収容部としての密閉可能な測定気体チェンバー2と、測定気体チェンバー2内の被測定気体を匂い測定装置本体1に導いて供給する気体供給手段3と、無臭の標準気体を発生する標準気体発生手段4とを備えている。
上記気体供給手段3は、匂い測定装置本体1に接続された一定の長さを有する気体導入路としての気体導入チューブ31と、測定気体チェンバー2を経由する測定気体チューブ32と、ダミー気体収容部としての密閉可能なダミーチェンバー5を経由するバイパスチューブ33と、2つの切換弁34、35とを用いて構成されている。上記ダミーチェンバー5は、測定気体チェンバー2と同様な材料、形状、寸法で形成され、気体導入チューブ31内の洗浄や匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正の際に用いられる。上記切換弁34、35は、標準気体発生手段4から匂い測定装置本体1へ至る気体の流路を、測定気体チェンバー2を経由する測定用流路とダミーチェンバー5を経由するバイパス用経路としてのとの間で切り換えるためのものである。
上記標準気体発生手段4は、空気吸い込み口40から吸い込んだ空気が活性炭41を通過し、上記気体供給手段3側の出口に向かって移動するように構成されている。この活性炭41を通過して無臭となった空気は標準気体として、気体供給手段3の最上流側のチューブ36から測定気体チェンバー2やダミーチェンバー5を経由して流れるように供給される。
測定気体チェンバー2を通過した被測定気体やダミーチェンバー5を通過した標準気体は、気体導入チューブ31を経由して匂い測定装置本体1へ供給され、測定が終わった気体は匂い測定装置本体1の排気口101から排出される。
上記測定気体チェンバー2やダミーチェンバー5は、例えば透明アクリルなどで作製され、図示しない開閉可能な蓋部材が設けられている。測定気体チェンバー2の内部には、測定対象の匂い物質を吸着させた匂い吸着部材20がセットされる。この匂い吸着部材20は、匂いの定量サンプリングのために、一定面積を有し匂い放出特性が安定している材料で形成するのが好ましい。この材料としては例えばスポンジゴム板を用いることができる。また、上記各チューブ31、32、33、36は、耐薬品性が高く内壁面への匂い付着の少ないものが好ましい。このチューブとしては、例えば米国ノートン社製のタイゴンチューブ(商標)を用いることができる。
【0010】
図2は匂い測定装置本体1の測定部100及びデータ処理部120の概略構成図であり、図3は測定部100内部の気流の様子を示した拡大図である。この測定部100内の吸入口102の近傍には、吸入口102から吸い込んだ気体の流路を切り換える切換弁103が設けられている。この切換弁103は、吸入口102から吸い込んだ気体の流路を、測定チャンバー104への流路104aと、活性炭113がセットされた校正用チェンバー104cを経由する流路104bとの間で切り換えるものである。図2は匂い測定時の切換弁103の位置を示し、図3はセンサー校正時の切換弁103の位置を示している。測定部100内の匂いセンサー106A、106Bを校正するときは、吸入口102から吸い込んだ気体を校正用チェンバー104cを通して無臭の気体にし、測定チャンバー104に流す。この無臭の気体について匂いセンサー106A、106Bで測定を行い、その測定値を用いて各匂いセンサー106A、106Bの校正を行う。
また、測定部100内の排気口101の近傍には、被測定気体を測定チェンバー100に導入する気体導入手段としてのファン105が設けられている。このファン105は、後述の主制御部によってON/OFF制御される。ファン105のON時には、測定チェンバー100内の気体を排気口101から排出するような気流を発生させ、この気流により、吸入口102から被測定気体や標準気体が導入される。なお、気体導入手段としては、上記ファン105のほかエアーポンプ等も用いることができる。例えば、ダイアフラム式のマイクロポンプを用いることもできる。
【0011】
上記測定チェンバー104内の気流が通過する領域には、匂いに対する感応特性が互いに異なる2つの匂いセンサー106A、106Bが配置されている。この匂いセンサー106A、106Bは、測定対象の匂いに応じて選択される。本実施形態では、触媒を添加した金属酸化物半導体からなる匂いセンサーを用いている。この金属酸化物半導体としてはSnO2やZnO等が用いられ、その材料の種類、触媒の種類、構造などによって、匂いを構成する匂い分子に対する感度に大きな差が生じる。本実施形態では、分子量が比較的小さく揮発性の高い軽質系の匂い分子に対して感度が高い匂いセンサー106Bと、分子量が比較的大きく揮発性の低い重質系の匂い分子に対して感度が高い匂いセンサー106Aとを用いている。なお、軽質系の匂い分子の代表例はアルコールであり、重質系の匂い分子の代表例は不飽和芳香族炭化水素化合物である。
【0012】
図4は各匂いセンサー106A、106Bの周辺回路の説明図である。各匂いセンサー106A、106Bはそれぞれ、金属酸化物半導体107A、107Bと白金薄膜108A、108Bとが一体に構成されている。各白金薄膜108A、108Bには、スイッチング素子109で発生したパルス電流が供給されて発熱される。この白金薄膜108A、108Bで金属酸化物半導体107A、107Bを400℃前後の高温に加熱することにより、周囲温度変化や水分の影響を軽減するとともに、センサーに付着した匂い分子を清浄空気で容易に洗浄除去できるようにしている。上記スイッチング素子109のON/OFFは、後述のパルス発生部で発生した制御パルス信号Vpを入力抵抗110を介してスイッチング素子109に入力することにより制御される。
また、各匂いセンサー106A、106Bの検出信号A、Bが出力される出力部は、各金属酸化物半導体107A、107Bにそれぞれ直列に接続された抵抗器111と蓄電器112とからなる積分電圧発生回路で構成されている。この積分電圧発生回路と匂いセンサー106A、106Bとの接続点から、検出信号A、Bが出力される。
【0013】
図2に示すように、匂い測定装置本体1のデータ処理部120は、主制御部121のほか、パルス発生部122、A/D変換部123、データ記憶部124、データ演算部125、表示部126、測定時間設定用タイマー127、インターフェース部128等で構成されている。上記主制御部121、データ記憶部124、データ演算部125及び測定時間設定用タイマー127は、本匂い測定装置用に設計されたデジタル論理回路やアナログ回路を用いて構成してもいいし、汎用のマイクロコンピュータを用いて構成してもよい。なお、後述のベクトルの大きさとそのベクトルの座標軸に対する傾きとに基づいて測定対象の匂いの強さ及び種類(香質)を算出するデータ処理部は、上記データ記憶部124及びデータ演算部125を用いて構成される。
上記構成のデータ処理部120におけるパルス発生部122は、上記白金薄膜108の加熱温度に応じて設定された所定の周期及びパルス幅を有するパルス制御信号を発生し、上記各匂いセンサーに対応するスイッチング素子109に出力する。各匂いセンサー106A、106Bから所定間隔の測定タイミングで出力されたアナログの検出信号は、A/D変換部123でデジタル信号に変換され、主制御部121を経由してデータ記憶部124の所定領域に保存される。データ記憶部124に一旦保存された各匂いセンサー106A、106Bの検出信号A、Bのデジタルデータは、データ演算部125に読み出されて後述のベクトルの大きさ及び傾きの値の時間変化のデータが算出される。そして、その時間変化のデータを用いて測定対象の匂いの強さが求められるとともに匂いの種類(香質)が特定され、これらの結果がデータ記憶部124に記憶される。データ記憶部124に記憶された匂いの強度及び種類(香質)の測定結果は、必要に応じて読み出されて表示部126に表示される。また、この表示部126には、測定対象の匂いに対応した後述のベクトルを表示することができ、このベクトルの大きさ及び傾きからそれぞれ匂いの強さ及び匂いの種類(香質)をモニターすることができる。また、各匂いセンサー106A、106Bの検出信号A、Bの時間変化のデータや上記匂いの強度及び種類の測定結果のデータは、インターフェース部128を介して外部のパソコン6に転送し、更に詳細な分析処理を行うこともできる。
【0014】
図5は、各匂いセンサー106A、106Bの検出信号A,Bのデータ処理に用いる座標系の説明図である。図5の座標系は、重質系用の匂いセンサー106Aの検出信号の測定値をX軸の要素とし、軽質系用の匂いセンサー106Bの検出信号の測定値をY軸の要素としたときに得られるベクトル(以下「匂いベクトル」という。)Cを表示した2次元の直交座標系である。この直交座標系上のベクトルCの大きさの値は次式(1)で定義され、匂いの強さと呼ぶ場合もある。また、同ベクトルCの傾きの値は次式(2)で定義され、匂いの質(以下「香質」という。)と呼ぶ場合もある。
【数1】
【数2】
【0015】
図6(a)及び(b)は、本実施形態において匂いの種類(香質)の特定に用いた匂いベクトルCの大きさS及び傾きFの時間変化特性のパラメータを示している。図6(a)に示す立ち上がり時間差ΔTは、匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの立ち上がり時間TSと、匂いベクトルCの傾き(香質)Fの立ち上がり時間Tfとの時間差であり、次式(3)で定義される。ここで、式(3)中のTfは、匂いベクトルCの傾きFが、その最大値Fmaxの1/e倍(=0.632倍)に到達するまでの立ち上がり時間である。また、式(3)中のTsは、匂いベクトルCの大きさSが、その最大値Smaxの1/e倍(=0.632倍)に到達するまでの立ち上がり時間である。
【数3】
【0016】
また、図6(b)に示す強度持続時間Tmは、匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの値が所定値以上連続して持続した時間である。ここで、上記強度持続時間Tmの基準となる所定値として、匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの最大値Smaxの1/e倍(=0.632倍)の値(0.632Smax)を用いている。なお、匂いの種類(香質)を特定できるものであれば、上記強度持続時間Tmの基準となる所定値として上記0.632Smax以外の値を用いてもよい。
【0017】
なお、上記匂いベクトルCの大きさ|C|の値は、そのベクトルCを対角線とした四角形の面積(A×B)で求めるようにしてもよい。また、上記匂いベルトルCの傾きφCの値は、各検出信号の値A,Bの比(B/A)で求めるようにしてもよい。
【0018】
次に、上記構成の匂い測定装置を用いて人間の体臭を測定した匂い測定の実施例について説明する。本実施形態では、(1)脇臭及び汗臭がほとんどない正常人、(2)先天的に脇臭が強い脇臭患者、(3)スポーツ後の汗臭の強い人、及び(4)スポーツ後の汗臭の強い脇臭患者の4つのグループの被験者(合計53人)について体臭の測定を行った。
【0019】
本実施例の匂い測定は次の手順で行った。
まず、上記図1に示す匂い測定システムにおいて、匂い吸着部材20を一定時間(5分間)、被験者の脇の下に密着させ、その匂い吸着部材20を測定気体チェンバー2に入れて密閉した。
次に、切換弁34、35をダミーチェンバー5側に切り換えた状態で、標準気体発生手段4からの無臭の空気がダミーチェンバー5を1分以上通して気体導入チューブ31や匂い測定装置本体1の検知チャンバー100等を洗浄した。この洗浄後に、匂い測定装置本体1で匂い測定動作を実行し、匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正を行った。
次に、切換弁34、35を測定気体チェンバー2側に切り換えた状態で、第1回目の匂い測定を実行した。この第1回目の匂い測定は、匂い吸着部材20を測定気体チェンバー2に入れたときに混入した室内の空気を、標準気体発生手段4からの無臭の空気で置換するための測定である。
次に、再び切換弁34、35をダミーチェンバー5側に切り換えて匂いセンサーの検出信号の指示値が0点に戻るまで待った。匂いセンサーの検出信号の指示値が0点に戻ったら、切換弁34、35を測定気体チェンバー2側に切り換えた状態で、第2回目の匂い測定を実行した。
実際の匂いの強度や種類の測定には、第2回目の測定データを用いた。なお、各匂いセンサー106A、106Bの検出信号のデータサンプリングは、0.5秒間隔で行った。
【0020】
図7(a)及び(b)は脇臭及び汗臭がほとんどない正常人について測定した測定結果である。図7(a)は、上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性である。ここで、期間T1、T2及びT3はそれぞれ第1回目の測定、クリーニング及び第2回目の測定の期間を示している(以下の測定結果についても同様)。また、図7(b)は、匂いセンサー106Aの検出信号(A)と匂いセンサー106Bの検出信号(B)の時間変化特性である。
これらの測定結果により、正常人の場合、上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの減衰が速いことがわかる。また、匂いベクトルCの傾き(香質)Fの立ち上がりが速く、その立ち上がり曲線は匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの立ち上がり曲線とほぼ一致していることがわかる。更に、各匂いセンサー106A、106Bの検出信号(A,B)の立ち上がりも、図7(b)に示すように速い。
【0021】
図8(a)及び(b)は脇臭患者について測定した測定結果である。図8(a)は、上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性である。また、図8(b)は、匂いセンサー106Aの検出信号(A)と匂いセンサー106Bの検出信号(B)の時間変化特性である。
これらの測定結果により、脇臭患者の場合、匂いベクトルCの傾き(香質)Fの立ち上がりが、匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの立ち上がりよりも遅れていることがわかる。また、図8(b)に示すように、軽質系の匂い分子に対して感度が高い匂いセンサー106Bの検出信号Bの立ち上がりが、重質系の匂い分子に対して感度が高い匂いセンサー106Aの検出信号Aの立ち上がりよりも速いことがわかる。このような立ち上がり特性の違いは、脇臭患者の体臭(脇臭)では重質の匂い成分が多くなり、測定気体チェンバー2から匂い測定装置の測定チェンバー100までの流路を匂い分子が移動する時間が長くなったためと考えられる。
【0022】
図9は、スポーツ後の汗臭の強い人について測定した上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性である。この結果により、汗臭の強い人の場合は、上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの減衰が遅く、匂いベクトルCの傾き(香質)Fの立ち上がりが比較的速いことがわかる。
図10は、スポーツ後の汗臭の強い脇臭患者について測定した上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性である。この結果により、スポーツ後の汗臭の強い脇臭患者の場合、上記匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)Sの減衰が遅く、かつ、匂いベクトルCの傾き(香質)Fの立ち上がりも遅いことがわかる。なお、図10の第2回目の測定(T3期間)の最初に見られる匂いベクトルCの傾き(香質)Fのスパイク状に変化しているデータF’は、測定ノイズによるものと考えられる。
【0023】
図11(a)〜(b)はそれぞれ、各グループの被験者について、上記図6(a)に示す立ち上がり時間差ΔTを縦軸(Y軸)にプロットし、上記図6(b)に示す強度持続時間Tmを横軸(X軸)にプロットした結果を示している。この結果より、正常人の被験者の場合は立ち上がり時間差ΔTが小さく、脇臭患者の場合は立ち上がり時間差ΔTが大きい傾向を示すことがわかる。また、スポーツ後の汗臭の強い被験者の場合は、強度持続時間Tmが大きくなる傾向を示すことがわかる。そして、これらの匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)及び傾き(香質)の時間変化特性である強度持続時間Tm及び立ち上がり時間差ΔTのデータを用いることにより、人間の体臭の種類(通常の体臭、汗臭、脇臭)を正確に特定することが可能になることがわかる。
【0024】
図12(a)〜(b)はそれぞれ、各グループの被験者について、匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)の最大値Smaxを縦軸(Y軸)にプロットし、匂いベクトルCの傾き(香質)の最大値Fmaxを横軸(X軸)にプロットした比較例の結果を示している。この結果より、匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)及び傾き(香質)の最大値Smax、Fmaxを用いても、人間の体臭の種類(通常の体臭、汗臭、脇臭)を特定することが難しいことがわかる。
【0025】
以上、本実施形態によれば、2種類の匂いセンサー106の検出信号から得た匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性の違いから、測定対象の匂いの種類(香質)を特定することにより、匂いの種類(香質)を精度良く測定することができる。特に本実施形態によれば、人間の体臭の種類(汗臭、脇臭)を正確に特定することができることがわかった。
また、本実施形態によれば、測定気体チェンバー2と測定チェンバー100との間の一定の長さを有する気体導入チューブ31を設けているため、この気体導入チューブ31を移動する移動時間が異なるような匂いの種類(香質)を識別することができる。更に、本実施形態によれば、匂い測定に用いる気体導入チューブ31の初期状態を一定にし、匂いセンサー106A、106Bの検出信号のゼロ点補正を行うことができるので、再現性の高い安定した匂い測定ができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、2つの匂いセンサーを用いた場合について説明したが、本発明は、3つ以上の匂いセンサーを用いた場合にも適用できる。例えば、3つの匂いセンサーを用いた場合は、各匂いセンサーの検出信号の測定値をそれぞれX軸、Y軸及びZ軸の要素とした3次元の座標系におけるベクトルの大きさ及び傾きに基づいて、測定対象の匂いを測定する。
【0027】
【発明の効果】
請求項1乃至5の発明によれば、複数の匂いセンサーの検出信号から得たベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化特性の違いから、測定対象の匂いの種類(香質)を特定することにより、匂いの種類(香質)を精度良く測定することができるという効果がある。
特に、請求項3の発明によれば、被測定気体収容部と測定部との間の気体導入路を移動する移動時間が異なるような匂いの種類(香質)を識別することができるという効果がある。
また特に、請求項4の発明によれば、匂い測定に用いる気体導入路の初期状態を一定にし、匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正を行うことができる。また、前処理部に気体導入路を設けた場合はその気体導入路の初期状態に一定にすることができる。よって、再現性の高い安定した匂い測定が可能になるという効果がある。
また特に、請求項5の発明によれば、匂いセンサーの検出信号のゼロ点補正及び気体導入路の初期化のための気体の経路と被測定気体の匂い測定のための気体の経路との切り換えが簡易になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る匂い測定システムの全体構成図。
【図2】同匂い測定システムに用いる匂い測定装置の測定チェンバー及び本体の概略構成図。
【図3】同測定チェンバー内部の気流の様子を示した拡大図。
【図4】同測定チェンバー内部に配置した匂いセンサーの周辺回路の説明図。
【図5】同匂いセンサーの検出信号A,Bのデータ処理に用いる座標系の説明図。
【図6】(a)及び(b)はそれぞれ匂いの種類(香質)の特定に用いた匂いベクトルCの大きさS及び傾きFの時間変化特性のパラメータを示すグラフ。
【図7】(a)は、脇臭及び汗臭がほとんどない正常人について測定した匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性を示すグラフ。
(b)は、同正常人について測定した各匂いセンサーの検出信号(A,B)の時間変化特性を示すグラフ。
【図8】(a)は、脇臭患者について測定した匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性を示すグラフ。
(b)は、同脇臭患者について測定した各匂いセンサーの検出信号(A,B)の時間変化特性を示すグラフ。
【図9】スポーツ後の汗臭の強い人について測定した匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性を示すグラフ。
【図10】スポーツ後の汗臭の強い脇臭患者について測定した匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)S及び傾き(香質)Fの時間変化特性を示すグラフ。
【図11】(a)〜(b)はそれぞれ各グループの被験者について立ち上がり時間差ΔTと強度持続時間Tmとの関係を示すグラフ。
【図12】(a)〜(b)はそれぞれ各グループの被験者について匂いベクトルCの大きさ(匂いの強さ)の最大値Smaxと匂いベクトルCの傾き(香質)の最大値Fmaxとの関係を示す比較例のグラフ。
【符号の説明】
1 匂い測定装置本体
2 測定気体チェンバー
3 気体供給手段
4 標準気体発生手段
5 ダミーチェンバー
31 気体導入チューブ
32 測定気体チューブ
33 バイパスチューブ
34、35 切換弁
100 測定チェンバー
106A、106B 匂いセンサー
120 データ処理部
Claims (5)
- 匂いに対する感応特性が互いに異なる複数の匂いセンサーの検出信号の測定値を互いに異なる座標軸の要素とした複数次元の座標系におけるベクトルの大きさ及び傾きに基づいて、測定対象の匂いを測定する匂い測定方法であって、
測定対象の匂いの種類(香質)の特定に、上記ベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いたことを特徴とする匂い測定方法。 - 匂いに対する感応特性が互いに異なる複数の匂いセンサーが設置された測定部と、該測定部に測定対象の匂いを含む被測定気体を導入する前処理部と、該測定部の匂いセンサーの検出信号の測定値のデータを処理するデータ処理部とを備え、該複数の匂いセンサーの検出信号の測定値をそれぞれ各座標軸の要素とした複数次元の座標系におけるベクトルの大きさ及び傾きに基づいて、測定対象の匂いを測定する匂い測定装置であって、
上記データ処理部を、上記ベクトルの大きさ及び傾きの少なくとも一方の時間変化のデータを用いて測定対象の匂いの種類(香質)を算出するように構成したことを特徴とする匂い測定装置。 - 請求項2の匂い測定装置において、
上記前処理部に、測定対象の匂いを含む被測定気体を収容する被測定気体収容部と、該被測定気体収容部内の気体を上記測定部へ導入するための所定の長さの気体導入路を設けたことを特徴とする匂い測定装置。 - 請求項2又は3の匂い測定装置において、
上記前処理部に、無臭の標準気体を発生する標準気体発生手段を設けたことを特徴とする匂い測定装置。 - 請求項4の匂い測定装置において、
上記標準気体発生手段で発生した標準気体を上記測定部へ流す経路を、上記被測定気体収容部を経由する経路とダミー気体収容部を経由する経路との間で切り換え可能にしたことを特徴とする匂い測定装置。
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