JP2004198260A - 固相担体およびその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】機能性分子を効率よく固定化するために、固相担体表面に高密度のカルボキシル基を有する固相担体を提供する。
【解決手段】カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させる。
【選択図】 なし
【解決手段】カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、高密度のカルボキシル基を表面に有する固相担体に関する。本発明の固相担体は、例えば、生体分子間相互作用解析用センサーチップとして好適に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
カルボキシル基を表面に有する材料は、カルボキシル基を介してさらなる機能性分子の導入が行えたり、金属イオンを選択的に回収できたり、pHに応じて物質の透過性を制御できたりするため、医療・診断、マイクロエレクトロニクス、膜分離等の分野で用いられている。例えば、ラテックス診断薬の分野では、抗体を共有結合で粒子表面に固定化するために、カルボキシル基を表面に有するポリスチレン粒子(カルボン酸変性ポリスチレン粒子)が使われている(例えば、特許文献1を参照)。また、多孔質膜表面を、カルボキシル基を有する高分子物質ポリアクリル酸により改質した材料は、pHに応答して水のろ過特性が制御できることも示されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
カルボキシル基を有する高分子物質を固相担体に導入するための方法は、(1)固相担体表面に導入した重合開始基から高分子鎖を成長させる方法、(2)固相担体表面と高分子鎖末端の官能基との高分子反応による方法、(3)固相担体表面と高分子側鎖との高分子反応による方法の3つに分類できる。
固相担体表面に導入した重合開始基から高分子鎖を成長させる方法(1)は、放射線、紫外線、プラズマなどを固相担体に照射し、固相担体表面にラジカルを生成させ、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマーをラジカル重合する方法である。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に、アルゴンガスをグロー放電したのち、アクリル酸水溶液に浸漬させて重合を行うことにより、PET上にポリアクリル酸を形成させる方法が記されている(例えば、非特許文献2を参照)。この方法では、グラフト鎖は固相担体表面から成長するので、固相担体表面へグラフトした高分子の質量%が大きなものを得ることが可能となる。しかし、この方法は、ラジカルを発生させるために大がかりな装置を必要とするために経済的でなく、さらに高分子鎖長を制御するのが容易ではないという問題があった。
【0004】
固相担体表面と高分子鎖末端の官能基との高分子反応による方法(2)は、高分子鎖の末端のみが基板と反応するような高分子鎖を合成して、末端で固定化反応を行う方法であり、この方法によればカルボキシル基を高密度に導入することができる。例えば、メルカプトウンデカン酸を自己組織化させた表面に、両末端にアミノ基を有するポリtert-ブチルアクリレートを末端で固定化した後、カルボン酸エステルを加水分解することにより、カルボキシル基が高密度に導入された表面が得られることが記載されている(例えば、非特許文献3を参照)。この方法では、固相担体表面へ分子量や構造の明確な高分子鎖を導入することが可能となる。しかし、高分子鎖の末端のみが担体と反応するような高分子を合成することは、一般に容易ではなく、合成過程が煩雑となるため、大量生産には向かないという欠点があった。
【0005】
また、固相担体表面と高分子側鎖との高分子反応による方法(3)は、高分子鎖の側鎖を利用して固相担体表面を改質する方法であり、この方法によれば、簡便に材料の接着性や濡れ性を改善することができる。例えば、デキストランの水酸基を利用して、基板にデキストランを固定化した後、水酸基をカルボキシメチル基に変換することにより、カルボキシル化固相担体が得られることが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、この方法では、合成過程に、有機溶剤や強アルカリ溶液を使用する必要があるため、使用できる固相担体が制限されてしまう。
【0006】
【特許文献1】
特開2000-088853号公報
【特許文献2】
特許第2815120号公報
【非特許文献1】
Macromolecules, 31, 3671-3678 (1998)
【非特許文献2】
J.Appl.Polym.Sci.43, 2067-2082 (1991)
【非特許文献3】
J.Am.Chem.Soc.118, 3773-3884 (1996)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来の方法では、高密度のカルボキシル基を固相担体表面に導入することができないか、たとえできたとしても、合成過程が複雑であったり、固相担体が損傷を受ける条件で合成したりする必要があるため、簡便にカルボキシル基を表面に有する固相担体を得ることはできなかった。
【0008】
従って、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、固相担体に損傷を与えることなく、安価で簡便な方法にて、高密度のカルボキシル基を表面に有する固相担体を提供することである。加えて、タンパク質などの機能性分子をできるだけ数多く担持できる固相担体をセンサーとして提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより、カルボキシル基を高密度に有する固相担体が得られること、また、本発明の固相担体がタンパク質、核酸、糖質等の機能性分子を数多く担持できること、加えて、生体分子間相互作用を解析できるセンサーとしても有用に機能できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明により、(1)カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより得られることを特徴とする固相担体が提供される。
この発明の好ましい態様により、(2)固相担体表面のカルボキシル基の密度が1nm2あたり30個以上である上記固相担体、(3)官能基がアミノ基である上記固相担体、(4)酸性条件が、カルボキシル基のpK値より低いpH条件である上記固相担体、(5)固相担体表面が、金属表面である上記固相担体、(6)固相担体表面に結合している高分子物質のカルボキシル基が、活性化剤により活性化されている上記固相担体、(7)活性化剤が、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドである上記固相担体、(8)固相担体表面が、一定の溝方向で形成されている回折格子面を備えている上記固相担体、(9)固相担体表面に結合している高分子物質に、機能性分子が固定化されている上記固相担体が提供される。
【0011】
また、本発明の別の態様により、(10)上記固相担体表面に検体を含む溶液を流し、固定化されている機能性分子と検体との相互作用を測定することを特徴とする、機能性分子と検体との相互作用解析方法が提供される。
この発明の好ましい態様により、(11)相互作用の測定が、表面プラズモン共鳴により行われる上記相互作用解析方法、(12)相互作用の測定が、検体に結合した標識物質のシグナルを測定することにより行われる上記相互作用解析方法が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の固相担体は、表面にカルボキシル基を有する高分子物質が共有結合により固定されているものである。該固相担体は、カルボキシル基を共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより製造できる。
【0013】
本発明で用いる固相担体表面としては、カルボキシル基と共有結合しうる官能基が導入されていれば特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等の各種樹脂材料、ガラス基板、合成高分子粉末等の固相担体の表面に上記官能基が導入されているものが挙げられる。また、上記固相担体はそのまま使用してもよいし、金属あるいは金属酸化物表面で被覆されたものを使用してもよい。例えば、本発明の固相担体を表面プラズモン共鳴に応用する場合には、金属表面で覆われている固相担体を選択することが好ましい。
【0014】
固相担体の形状は、平板状、粒子状、繊維状、多孔質状等いずれの形状であってもよい。具体例としては、多数の機能性分子を配列させることができるチップ(基板)、クロマトグラフィ担体やラテックス診断薬としてのビーズ、分離膜として利用されている中空糸繊維や多孔質膜等が挙げられる。また、固相担体表面の形状に関しても、カルボキシル基と共有結合しうる官能基が導入されていれば、凹凸があってもなくても構わない。具体例としては、生体分子間相互作用を検出する等のセンサチップとして有用なことから、一定の溝方向で形成されている回折格子面を備えている表面が挙げられる。
【0015】
また、固相担体上に形成される回折格子の溝ピッチの範囲は200nm〜2000nm、好ましくは500nm〜900nmである。また、溝深さは10nm〜100nmが好ましい。
上記固相担体表面上の官能基としては、カルボキシル基と共有結合する公知の官能基が使用可能である。具体的には、アミノ基、水酸基、チオール基等が挙げられる。それらの中でも、官能基導入方法と高分子固定化反応の制御が容易であることから、アミノ基を使用することが好ましい。また、官能基の導入方法としては、固相担体の材質や導入する官能基の種類にもよるが、具体例としては、金属表面にアミノ基を導入するのであれば、アミノ基を有するチオール化合物(システアミン塩酸塩など)を金属表面に作用させることにより、また、ガラス表面にアミノ基を導入するのであれば、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン等)を表面に作用させることにより、簡単に導入することができる。
【0016】
次に、カルボキシル基を有する高分子物質を固相担体表面に固定化する工程について詳細に説明する。カルボキシル基の解離度がpHに依存することはよく知られている。すなわち、カルボキシル基は、アルカリ性溶液中では脱プロトン化、酸性溶液中ではプロトン化している。そのため、カルボキシル基を有する高分子物質は、アルカリ性溶液中では鎖が広がっており、酸性溶液中では比較的コンパクトな構造をとる傾向にあると考えられる。本発明者らは、カルボキシル基を有する高分子鎖をコンパクトな構造で固相担体表面に固定化することにより、高密度のカルボキシル基表面が得られること、並びに、タンパク質等の機能性分子を固相担体表面に高密度に固定化できることを見出した。
【0017】
従って、固定化時のpHは、カルボキシル基の解離度が低い条件である酸性条件であることが好ましく、カルボキシル基のpK値よりも低いpHであることが好ましい。固定化時のpHが高い場合には、高分子物質の固定化は可能であるが、厚みのある膜が得られないため、タンパク質を高密度に固定化することが難しくなると考えられる。
【0018】
カルボキシル基のpK値は、使用する高分子物質の種類に大きく依存するが,通常3〜5の範囲内にあるので、固定化はpH5以下、特にpH3以下で行うことが好ましい。具体例としては、ポリアクリル酸を固定化するのであれば、水性溶媒中でのポリアクリル酸のpKが4.5であることから、固定化時のpHは、通常5以下、好ましくは4以下、特に好ましくは3以下が適当である。
【0019】
固相担体表面に高分子物質を共有結合にて固定化するためには、固相担体表面上に導入された官能基と高分子物質のカルボキシル基との化学反応を、縮合剤の存在下で行う必要がある。縮合剤を加えないと、常温・常圧の条件では、共有結合により高分子物質を固相担体表面に固定化することは難しい。
アミノ化固相担体表面への高分子物質の固定化の場合には、カルボジイミドのような縮合剤を添加することにより、アミド結合を形成させることができる。上記カルボジイミドとしては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびその塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドおよびそのトルエンスルホン酸塩、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドおよびそのメチオジド、N,N’−ジシクロへキシルカルボジイミド等が挙げられる。尚、縮合剤は、単独使用の他、2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0020】
縮合剤の使用量としては、高分子物質100重量部に対して、通常0.01〜500重量部、好ましくは0.1〜100重量部の範囲である。この範囲は、これら上限と下限を組み合わせた範囲であってもよい。縮合剤が0.01重量部より少ないと、活性化されるカルボキシル基の数が少なくなるため、高分子物質固定化反応が進行しにくくなる。また、500重量部より多いと、高分子鎖が多点結合しやすくなるため、高密度のカルボキシル化担体表面を得ることが難しくなる。
【0021】
処理時間に関しては、固相担体表面の材質や固定化しようとする高分子の種類等、種々の条件を勘案して決定されてよいが、処理時間が短すぎると、高分子物質の密度が低くなってしまうことから、通常10分間以上が適当である。
処理温度は、通常15〜40℃が適当である。温度が低すぎると反応の進行が遅くなるため、経済的でない。また、温度が高すぎると、反応の制御が困難になるため、所望の固相担体を得ることができない。
【0022】
固相担体表面への高分子物質の結合は、高分子物質と縮合剤と溶媒とを混合し、溶液のpHを酸性条件に調製した後、カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面へ接触させることにより簡単に行うことができる。この反応に用いられる溶媒は、好ましくは水よりなるが、必要に応じて、水と非水極性液体、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、若しくはN−メチルピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン類の1種、または2種以上の非水極性液体と水との混合物よりなっていてもよい。
【0023】
高分子物質の使用量は、溶媒100重量部に対して、通常0.001〜100重量部の範囲である。高分子物質添加量が、0.001重量部より少ない場合には、高分子物質の導入量が少なくなってしまうため、所望の固相担体を得ることができない。また、100重量部より多い場合には、溶液の粘性が高すぎるため、反応が進みにくくなってしまう。
【0024】
次に、カルボキシル基を有する高分子物質に関して詳しく説明する。本発明において、カルボキシル基を有する高分子物質とは、その構成成分中に、カルボキシル基を含有するものであれば、特に限定されない。
具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギン酸、ヒアルロン酸等の多糖類、カゼイン、ゼラチン、ニカワ等のタンパク質等の天然高分子物質や、合成高分子物質が挙げられる。中でも、安定性に優れることから、合成高分子物質を用いることが好ましい。
【0025】
カルボキシル基を有する合成高分子物質としては、カルボキシル基を有するモノマーの重合体或いは共重合体いずれでもよい。カルボキシル基を有するモノマーとしては、α、β―不飽和カルボン酸、又はそれらの塩であり、これらは単独で用いてもよいし、或いは2種以上を併用してもよい。
カルボキシル基を有するモノマーとして具体的には、アクリル酸、アクリル酸塩(通常、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、メタクリル酸、メタクリル酸塩(通常、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸などが挙げられ、特に好ましくは、アクリル酸、又はアクリル酸塩が挙げられる。
【0026】
また、必要に応じて他のビニル系化合物を用いて共重合を行うことも可能である。共重合の割合は、カルボキシル基を有するモノマーや共重合するモノマーの種類に依存するが、通常80%以下、好ましくは、50%以下、特に好ましくは30%以下である。共重合の割合が、80%以上の場合には、固相担体表面のカルボキシル基の密度を高くすることが難しくなる。
【0027】
共重合可能なモノマー化合物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン等に代表されるような芳香族ビニル系単量体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等に代表されるような(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチロールアクリルアミド、N−プロパノールアクリルアミドに代表されるようなアクリルアミド系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等に代表されるようなシアン化ビニル系単量体等が挙げられる。好ましくは、アクリルアミド、2−アクリル−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル等の水溶性単量体である。尚、モノマー化合物は、単独使用の他、2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0028】
さらに、カルボキシル基を有する高分子物質としては、天然や合成高分子物質にカルボキシル基が導入されたものであってもよい。
上記高分子物質は、枝分かれした側鎖を有していてもよいが、直線上であることが好ましい。また、固相担体表面に固定化された高分子物質は未架橋であることが好ましい。本発明において用いる高分子物質の長さは、炭素数20〜100,000が好ましく、より好ましくは50〜10,000である。
【0029】
ここで、上記モノマーの重合やカルボキシル基の導入は、それ自体既知の通常に用いられる方法により行うことができる。また、上記高分子物質は、市販品から所望の性質を有するものを購入して用いてもよい。
本発明の固相担体における固相担体表面のカルボキシル基密度は、導入する高分子物質の種類にもよるが、通常1nm2あたり30個以上、好ましくは45個以上である。
【0030】
固相担体表面のカルボキシル基密度算出方法は、以下の通りである。
先ず、pH10の1%トルイジンブルー水溶液に、本発明の固相担体表面を浸漬し、30℃で24時間静置しておくことにより、固相担体表面のカルボキシル基部位にトルイジンブルーを吸着させる。その後、蒸留水で洗浄後、50%の酢酸溶液に固相担体を浸漬して、吸着トルイジンブルーを脱離させ、トルイジンブルーが溶け込んだ酢酸水溶液の633nmにおける吸光度を測定する。固相担体表面のカルボキシル基密度は、カルボキシル基とトルイジンブルーが1:1で相互作用すると仮定して算出できる(Macromolecules, 31, 3671-3678 (1998))。
【0031】
本発明の固相担体は、その表面に数多くのカルボキシル基を有することから、カルボキシル基を活性化剤により活性化することにより、様々な機能性分子を固定することが可能となる。ここで、機能性分子を固定化できる活性化剤としては、カルボキシル基を有する高分子物質を固相担体表面に固定化するときに使用する前記縮合剤を活性化剤として使用することができる。中でも、水溶性が高く、扱いやすいことから、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩の使用が好ましい。また、活性化カルボキシル基の寿命をのばすために、必要に応じてN−ヒドロキシスクシイミドに代表されるような活性化状態安定化試薬を使うことも可能である。
【0032】
かくして活性化された高分子物質のカルボキシル基に、機能性分子が固定化される。
機能性分子として、具体的には、酵素、抗体、レクチン等のタンパク質、ペプチド、ホルモン、核酸、糖、オリゴ糖、多糖等の糖鎖、脂質、低分子化合物、高分子有機物質、無機物質、若しくはこれらの融合体、または、ウィルス若しくは細胞を構成する分子などが挙げられる。これらの機能性分子が、検体と該機能性分子との相互作用を測定する際の標的分子となる。
【0033】
タンパク質としては、タンパク質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、及びその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖は、これに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくは、アミノ酸配列が既知の精製されたタンパク質か、あるいはcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳、精製されたタンパク質を用いることができる。
【0034】
核酸としては、 特に制限はなく、DNAあるいはRNAも用いることができる。また、塩基配列あるいは機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する核酸としての機能、及び塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
【0035】
糖鎖としては、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。
低分子化合物としては、 相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
【0036】
上記の通り、固相担体表面に固定化されている高分子物質へは、数多くの機能性分子を固定化できる。機能性分子が固定化された固相担体は、該機能性分子と相互作用する分子を検出するバイオセンサーとして好適に使用できる。
機能性分子と検体の「相互作用」とは、通常は、標的分子と検体間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、及び静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。
【0037】
相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合及び解離、タンパク質レセプターとリガンドの間の結合及び解離、接着分子と相手方分子の間の結合及び解離、酵素と基質の間の結合及び解離、アポ酵素と補酵素の間の結合及び解離、核酸とそれに結合するタンパク質の間の結合及び解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合と解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合及び解離、あるいは糖鎖とタンパク質との間の結合及び解離が挙げられるが、この範囲に限られるものではない。例えば、イムノグロブリンやその派生物であるF(ab')2、Fab'、Fab、レセプターや酵素とその派生物、核酸、天然あるいは人工のペプチド、人工ポリマー、糖質、脂質、無機物質あるいは有機配位子、ウィルス、細胞、薬物等が挙げられる。
【0038】
機能性分子を固定化した固相担体を用いた相互作用の検出方法としては、例えば、いわゆるDNAアレイ若しくはDNAチップ又はプロテインアレイ若しくはプロテインチップと呼ばれるDNAまたはタンパク質を固定化した固相担体を用いて解析する方法が適用可能である。具体的例としては、蛍光法、化学発光法、RI法、表面プラズモン共鳴法、質量分析法、水晶発振子(例えば、特開昭62−207930号公報参照)、電気化学的方法(例えば、特公昭52−47913号公報参照)による検出法が挙げられる。
【0039】
この中で、蛍光法、化学発光法、RI法等においては、通常検体に結合させた標識物質のシグナルを測定することにより、相互作用の測定が行われているが、必要に応じて機能性分子に標識物質を結合させたものを使用してシグナルを測定してもよい。また、表面プラズモン共鳴法による検出は、検体を無標識で分析することができるため好適に用いられる。
【0040】
また、イムノアッセイ(免疫検定法)は、抗原抗体反応の高い特異性と検出感度を利用した検出方法であり、免疫比濁法(turbidimetric immunoassay, TIA)、標識化免疫測定法(labeled immunoassay)などが好適に用いられ、後者では、ラジオイムノアッセイ(放射線免疫検定法、RIA)、エンザイムイムノアッッセイ(酵素免疫検定法、ELISA)、蛍光イムノアッセイ(蛍光免疫検定法、FIA)などが好適に用いられる。
【0041】
本発明の固相担体は、検出したい分子と相互作用する分子を、固相担体表面に被覆された高密度のカルボキシル基を有する高分子に、3次元的に固定化できることから、検出感度の向上が期待できる。
【0042】
【発明の効果】
上記のとおり本発明の固相担体は、カルボキシル基を有する高分子物質を固定化することにより得られるものであり、その後、処理を行うことなく、カルボキシル基をその表面に有する固相担体として用いることができる。従って、従来の方法で必要とされる、高分子物質固定化反応後のカルボキシル基導入過程を必要としない。
【0043】
また、本法により作製した固相担体は、固相担体表面に高密度のカルボキシル基を有するため、機能性分子を効率よく固定化することができ、該機能性高分子を固定化した固相担体を用いて、効率的な分子間相互作用を解析することができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1 ポリアクリル酸固定化時におけるpHの影響
(1)アミノ基を有する固相担体表面の作製
60mlの水に、システアミン塩酸塩34mgを溶かした。この溶液に、大きさが2.5cm×2.5cmの金被覆グレーティングチップ(平板状のポリカーボネート製基体の表面に、溝ピッチ約870nm、溝深さ約40nmの凸凹形状を形成し、この凸凹形状を回折格子として、さらに基体の表面に厚さ約80nmで金を蒸着したセンサチップ)を浸漬させ、室温で20分間反応させた。反応終了後、センサチップを蒸留水で洗浄した。この処理は、金表面(センサチップの表面)に金−硫黄結合を介してアミノ基を導入するものである。
【0045】
(2)ポリアクリル酸の固相担体表面への固定化
25mlの水に、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)(ポリサイエンス社製)と24mgの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)を溶解させた。溶液のpHは、1N塩酸水溶液あるいは1N水酸化ナトリウム水溶液によって所定のpHに調整した。この溶液2.5mlに、上記(1)で得たアミノ化センサチップを浸漬させ、1時間反応させた。反応終了後、チップを蒸留水で洗浄した。この処理は、金表面上のアミノ基と高分子のカルボキシル基をEDCにより縮合させることにより、アミド結合を形成させ、高分子を金表面(センサチップの表面)に固定化するものである。
【0046】
(3)固相担体表面のカルボキシル基密度の定量
上記(2)で得られたセンサチップの、改質固相担体表面のカルボキシル基密度を、カチオン性色素であるトルイジンブルーを用いて次のとおり定量した(Macromolecules, 31, 3671-3678 (1998))。先ず、pH10の1%トルイジンブルー水溶液に、上記(2)で得られたセンサチップを浸漬し、30℃で24時間放置して、センサチップ表面のカルボキシル基部位にトルイジンブルーを吸着させた。その後、蒸留水で洗浄後、50%の酢酸溶液にセンサチップを浸漬して吸着トルイジンブルーを脱離させ、トルイジンブルーが溶け込んだ酢酸水溶液の633nmにおける吸光度を測定した。カルボキシル基密度は、カルボキシル基とトルイジンブルーが1:1で相互作用すると仮定して算出した。
その結果を図1に示す。図に示すように、ポリアクリル酸を固定化するときのpHを酸性条件にすることにより、センサチップの固相担体表面のカルボキシル基密度を高めることができることが明らかになった。
【0047】
(4)タンパク質の固相担体表面への固定化
上記(2)で得た改質固相担体表面へのタンパク質の固定化反応を行い、固相担体表面へのタンパク質固定化に伴う共鳴角の変化を共鳴角検出型のSPR測定装置FLEX CHIPSTM Kinetic Analysis System(HTS Biosystems Inc.)で角度スキャンを行いながら反射光の強度を次のとおり測定した。
【0048】
先ず、40mlの水に、23mgのN−ヒドロキシスクシイミドと153mgのEDCを溶かした。この溶液4ml中に上記(2)で得たセンサチップを浸漬させ、室温で10分間振とうすることにより、カルボキシル基を活性化させた。反応終了後、センサチップを蒸留水で洗浄した。次に、この活性エステル基を有するセンサチップをSPR測定装置FLEX CHIPSTM Kinetic Analysis System(HTS Biosystems Inc.)に装着し、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液(10mM、pH6.0):10分間、0.1mg/mLマウスIgGを含むMES緩衝液:15分間、1Mエタノールアミン水溶液(pH8.5):10分間、MES緩衝液:10分間の順番で、溶液を流した。流速は、0.2mL/minとした。タンパク質注入前の共鳴角と注入後の共鳴角の差から、タンパク質固定化に伴う共鳴角変化の値を算出した。
その結果を図2に示す。図から明らかなとおり、ポリアクリル酸を固定化するときのpHが酸性条件であるときに、固定化反応時のSPR共鳴角の変化が大きく、抗体マウスIgGの固定量が多いことが明らかになった。
【0049】
実施例2 ポリアクリル酸濃度の影響
実施例1の(2)において、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)を0.0125gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)にしたこと、および、固定化時のpHを2.2としたこと以外は、実施例1と同様にポリアクリル酸の固定化を行い、それに、SPR装置内でタンパク質を固定化し、共鳴角を算出した。タンパク質固定化に伴う共鳴角変化は、1098mdegであった。
【0050】
実施例3 ポリアクリル酸分子量の影響
実施例1の(2)において、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)を、0.0125gのポリアクリル酸(平均分子量1,000,000)にしたこと、および、固定化時のpHを2.2としたこと以外は、実施例1と同様にポリアクリル酸の固定化を行い、それに、SPR装置内でタンパク質を固定化し、共鳴角を算出した。タンパク質固定化に伴う共鳴角変化は、1205mdegであった。
【0051】
実施例4 カルボキシメチルデキストランの固定化
(1)カルボキシメチルデキストランの合成
500mlの2N水酸化ナトリウム水溶液中に、5gのデキストラン(平均分子量500,000)と116gのブロモ酢酸を溶解させ、室温で24時間反応させた。反応終了後、透析を行い、未反応のブロモ酢酸を除去した。その後、エバポレーターにより濃縮してから、貧溶媒であるエタノール中に沈殿させて、カルボキシメチルデキストランを得た。電導度滴定により求めたカルボキシル基含量は、グルコース単位7個あたり1個であった。
【0052】
(2)カルボキシメチルデキストランの固定化およびタンパク質の固定化
実施例1の(2)において、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)を上記(1)で合成したカルボキシメチルデキストラン0.25gとし、固定化時のpHを2.2とした以外は、実施例1と同様にカルボキシメチルデキストランの固定化を行い、それに、SPR装置内でタンパク質を固定化し、共鳴角を算出した。タンパク質固定化に伴う共鳴角変化は、910mdegであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポリアクリル酸固定化時のpHを変化させて作製したセンサチップの、固相担体表面カルボキシル基密度を示す図である。図の横軸はポリアクリル酸固定化時のpH、縦軸は固相担体表面のカルボキシル基密度(unit / nm2)を示す。(unitはトルイジンブルーを用いて測定したカルボキシル基の個数を示す。)
【図2】ポリアクリル酸固定化時のpHを変化させて作製したセンサチップにマウスIgGを固定化したときの共鳴角の変化を示す図である。図の横軸はポリアクリル酸固定化時のpH、縦軸はSPR測定時における共鳴角の変化(mdeg)を示す。
【発明が属する技術分野】
本発明は、高密度のカルボキシル基を表面に有する固相担体に関する。本発明の固相担体は、例えば、生体分子間相互作用解析用センサーチップとして好適に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
カルボキシル基を表面に有する材料は、カルボキシル基を介してさらなる機能性分子の導入が行えたり、金属イオンを選択的に回収できたり、pHに応じて物質の透過性を制御できたりするため、医療・診断、マイクロエレクトロニクス、膜分離等の分野で用いられている。例えば、ラテックス診断薬の分野では、抗体を共有結合で粒子表面に固定化するために、カルボキシル基を表面に有するポリスチレン粒子(カルボン酸変性ポリスチレン粒子)が使われている(例えば、特許文献1を参照)。また、多孔質膜表面を、カルボキシル基を有する高分子物質ポリアクリル酸により改質した材料は、pHに応答して水のろ過特性が制御できることも示されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
カルボキシル基を有する高分子物質を固相担体に導入するための方法は、(1)固相担体表面に導入した重合開始基から高分子鎖を成長させる方法、(2)固相担体表面と高分子鎖末端の官能基との高分子反応による方法、(3)固相担体表面と高分子側鎖との高分子反応による方法の3つに分類できる。
固相担体表面に導入した重合開始基から高分子鎖を成長させる方法(1)は、放射線、紫外線、プラズマなどを固相担体に照射し、固相担体表面にラジカルを生成させ、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマーをラジカル重合する方法である。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に、アルゴンガスをグロー放電したのち、アクリル酸水溶液に浸漬させて重合を行うことにより、PET上にポリアクリル酸を形成させる方法が記されている(例えば、非特許文献2を参照)。この方法では、グラフト鎖は固相担体表面から成長するので、固相担体表面へグラフトした高分子の質量%が大きなものを得ることが可能となる。しかし、この方法は、ラジカルを発生させるために大がかりな装置を必要とするために経済的でなく、さらに高分子鎖長を制御するのが容易ではないという問題があった。
【0004】
固相担体表面と高分子鎖末端の官能基との高分子反応による方法(2)は、高分子鎖の末端のみが基板と反応するような高分子鎖を合成して、末端で固定化反応を行う方法であり、この方法によればカルボキシル基を高密度に導入することができる。例えば、メルカプトウンデカン酸を自己組織化させた表面に、両末端にアミノ基を有するポリtert-ブチルアクリレートを末端で固定化した後、カルボン酸エステルを加水分解することにより、カルボキシル基が高密度に導入された表面が得られることが記載されている(例えば、非特許文献3を参照)。この方法では、固相担体表面へ分子量や構造の明確な高分子鎖を導入することが可能となる。しかし、高分子鎖の末端のみが担体と反応するような高分子を合成することは、一般に容易ではなく、合成過程が煩雑となるため、大量生産には向かないという欠点があった。
【0005】
また、固相担体表面と高分子側鎖との高分子反応による方法(3)は、高分子鎖の側鎖を利用して固相担体表面を改質する方法であり、この方法によれば、簡便に材料の接着性や濡れ性を改善することができる。例えば、デキストランの水酸基を利用して、基板にデキストランを固定化した後、水酸基をカルボキシメチル基に変換することにより、カルボキシル化固相担体が得られることが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、この方法では、合成過程に、有機溶剤や強アルカリ溶液を使用する必要があるため、使用できる固相担体が制限されてしまう。
【0006】
【特許文献1】
特開2000-088853号公報
【特許文献2】
特許第2815120号公報
【非特許文献1】
Macromolecules, 31, 3671-3678 (1998)
【非特許文献2】
J.Appl.Polym.Sci.43, 2067-2082 (1991)
【非特許文献3】
J.Am.Chem.Soc.118, 3773-3884 (1996)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来の方法では、高密度のカルボキシル基を固相担体表面に導入することができないか、たとえできたとしても、合成過程が複雑であったり、固相担体が損傷を受ける条件で合成したりする必要があるため、簡便にカルボキシル基を表面に有する固相担体を得ることはできなかった。
【0008】
従って、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、固相担体に損傷を与えることなく、安価で簡便な方法にて、高密度のカルボキシル基を表面に有する固相担体を提供することである。加えて、タンパク質などの機能性分子をできるだけ数多く担持できる固相担体をセンサーとして提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより、カルボキシル基を高密度に有する固相担体が得られること、また、本発明の固相担体がタンパク質、核酸、糖質等の機能性分子を数多く担持できること、加えて、生体分子間相互作用を解析できるセンサーとしても有用に機能できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明により、(1)カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより得られることを特徴とする固相担体が提供される。
この発明の好ましい態様により、(2)固相担体表面のカルボキシル基の密度が1nm2あたり30個以上である上記固相担体、(3)官能基がアミノ基である上記固相担体、(4)酸性条件が、カルボキシル基のpK値より低いpH条件である上記固相担体、(5)固相担体表面が、金属表面である上記固相担体、(6)固相担体表面に結合している高分子物質のカルボキシル基が、活性化剤により活性化されている上記固相担体、(7)活性化剤が、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドである上記固相担体、(8)固相担体表面が、一定の溝方向で形成されている回折格子面を備えている上記固相担体、(9)固相担体表面に結合している高分子物質に、機能性分子が固定化されている上記固相担体が提供される。
【0011】
また、本発明の別の態様により、(10)上記固相担体表面に検体を含む溶液を流し、固定化されている機能性分子と検体との相互作用を測定することを特徴とする、機能性分子と検体との相互作用解析方法が提供される。
この発明の好ましい態様により、(11)相互作用の測定が、表面プラズモン共鳴により行われる上記相互作用解析方法、(12)相互作用の測定が、検体に結合した標識物質のシグナルを測定することにより行われる上記相互作用解析方法が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の固相担体は、表面にカルボキシル基を有する高分子物質が共有結合により固定されているものである。該固相担体は、カルボキシル基を共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより製造できる。
【0013】
本発明で用いる固相担体表面としては、カルボキシル基と共有結合しうる官能基が導入されていれば特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等の各種樹脂材料、ガラス基板、合成高分子粉末等の固相担体の表面に上記官能基が導入されているものが挙げられる。また、上記固相担体はそのまま使用してもよいし、金属あるいは金属酸化物表面で被覆されたものを使用してもよい。例えば、本発明の固相担体を表面プラズモン共鳴に応用する場合には、金属表面で覆われている固相担体を選択することが好ましい。
【0014】
固相担体の形状は、平板状、粒子状、繊維状、多孔質状等いずれの形状であってもよい。具体例としては、多数の機能性分子を配列させることができるチップ(基板)、クロマトグラフィ担体やラテックス診断薬としてのビーズ、分離膜として利用されている中空糸繊維や多孔質膜等が挙げられる。また、固相担体表面の形状に関しても、カルボキシル基と共有結合しうる官能基が導入されていれば、凹凸があってもなくても構わない。具体例としては、生体分子間相互作用を検出する等のセンサチップとして有用なことから、一定の溝方向で形成されている回折格子面を備えている表面が挙げられる。
【0015】
また、固相担体上に形成される回折格子の溝ピッチの範囲は200nm〜2000nm、好ましくは500nm〜900nmである。また、溝深さは10nm〜100nmが好ましい。
上記固相担体表面上の官能基としては、カルボキシル基と共有結合する公知の官能基が使用可能である。具体的には、アミノ基、水酸基、チオール基等が挙げられる。それらの中でも、官能基導入方法と高分子固定化反応の制御が容易であることから、アミノ基を使用することが好ましい。また、官能基の導入方法としては、固相担体の材質や導入する官能基の種類にもよるが、具体例としては、金属表面にアミノ基を導入するのであれば、アミノ基を有するチオール化合物(システアミン塩酸塩など)を金属表面に作用させることにより、また、ガラス表面にアミノ基を導入するのであれば、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン等)を表面に作用させることにより、簡単に導入することができる。
【0016】
次に、カルボキシル基を有する高分子物質を固相担体表面に固定化する工程について詳細に説明する。カルボキシル基の解離度がpHに依存することはよく知られている。すなわち、カルボキシル基は、アルカリ性溶液中では脱プロトン化、酸性溶液中ではプロトン化している。そのため、カルボキシル基を有する高分子物質は、アルカリ性溶液中では鎖が広がっており、酸性溶液中では比較的コンパクトな構造をとる傾向にあると考えられる。本発明者らは、カルボキシル基を有する高分子鎖をコンパクトな構造で固相担体表面に固定化することにより、高密度のカルボキシル基表面が得られること、並びに、タンパク質等の機能性分子を固相担体表面に高密度に固定化できることを見出した。
【0017】
従って、固定化時のpHは、カルボキシル基の解離度が低い条件である酸性条件であることが好ましく、カルボキシル基のpK値よりも低いpHであることが好ましい。固定化時のpHが高い場合には、高分子物質の固定化は可能であるが、厚みのある膜が得られないため、タンパク質を高密度に固定化することが難しくなると考えられる。
【0018】
カルボキシル基のpK値は、使用する高分子物質の種類に大きく依存するが,通常3〜5の範囲内にあるので、固定化はpH5以下、特にpH3以下で行うことが好ましい。具体例としては、ポリアクリル酸を固定化するのであれば、水性溶媒中でのポリアクリル酸のpKが4.5であることから、固定化時のpHは、通常5以下、好ましくは4以下、特に好ましくは3以下が適当である。
【0019】
固相担体表面に高分子物質を共有結合にて固定化するためには、固相担体表面上に導入された官能基と高分子物質のカルボキシル基との化学反応を、縮合剤の存在下で行う必要がある。縮合剤を加えないと、常温・常圧の条件では、共有結合により高分子物質を固相担体表面に固定化することは難しい。
アミノ化固相担体表面への高分子物質の固定化の場合には、カルボジイミドのような縮合剤を添加することにより、アミド結合を形成させることができる。上記カルボジイミドとしては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびその塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドおよびそのトルエンスルホン酸塩、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドおよびそのメチオジド、N,N’−ジシクロへキシルカルボジイミド等が挙げられる。尚、縮合剤は、単独使用の他、2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0020】
縮合剤の使用量としては、高分子物質100重量部に対して、通常0.01〜500重量部、好ましくは0.1〜100重量部の範囲である。この範囲は、これら上限と下限を組み合わせた範囲であってもよい。縮合剤が0.01重量部より少ないと、活性化されるカルボキシル基の数が少なくなるため、高分子物質固定化反応が進行しにくくなる。また、500重量部より多いと、高分子鎖が多点結合しやすくなるため、高密度のカルボキシル化担体表面を得ることが難しくなる。
【0021】
処理時間に関しては、固相担体表面の材質や固定化しようとする高分子の種類等、種々の条件を勘案して決定されてよいが、処理時間が短すぎると、高分子物質の密度が低くなってしまうことから、通常10分間以上が適当である。
処理温度は、通常15〜40℃が適当である。温度が低すぎると反応の進行が遅くなるため、経済的でない。また、温度が高すぎると、反応の制御が困難になるため、所望の固相担体を得ることができない。
【0022】
固相担体表面への高分子物質の結合は、高分子物質と縮合剤と溶媒とを混合し、溶液のpHを酸性条件に調製した後、カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面へ接触させることにより簡単に行うことができる。この反応に用いられる溶媒は、好ましくは水よりなるが、必要に応じて、水と非水極性液体、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、若しくはN−メチルピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン類の1種、または2種以上の非水極性液体と水との混合物よりなっていてもよい。
【0023】
高分子物質の使用量は、溶媒100重量部に対して、通常0.001〜100重量部の範囲である。高分子物質添加量が、0.001重量部より少ない場合には、高分子物質の導入量が少なくなってしまうため、所望の固相担体を得ることができない。また、100重量部より多い場合には、溶液の粘性が高すぎるため、反応が進みにくくなってしまう。
【0024】
次に、カルボキシル基を有する高分子物質に関して詳しく説明する。本発明において、カルボキシル基を有する高分子物質とは、その構成成分中に、カルボキシル基を含有するものであれば、特に限定されない。
具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギン酸、ヒアルロン酸等の多糖類、カゼイン、ゼラチン、ニカワ等のタンパク質等の天然高分子物質や、合成高分子物質が挙げられる。中でも、安定性に優れることから、合成高分子物質を用いることが好ましい。
【0025】
カルボキシル基を有する合成高分子物質としては、カルボキシル基を有するモノマーの重合体或いは共重合体いずれでもよい。カルボキシル基を有するモノマーとしては、α、β―不飽和カルボン酸、又はそれらの塩であり、これらは単独で用いてもよいし、或いは2種以上を併用してもよい。
カルボキシル基を有するモノマーとして具体的には、アクリル酸、アクリル酸塩(通常、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、メタクリル酸、メタクリル酸塩(通常、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸などが挙げられ、特に好ましくは、アクリル酸、又はアクリル酸塩が挙げられる。
【0026】
また、必要に応じて他のビニル系化合物を用いて共重合を行うことも可能である。共重合の割合は、カルボキシル基を有するモノマーや共重合するモノマーの種類に依存するが、通常80%以下、好ましくは、50%以下、特に好ましくは30%以下である。共重合の割合が、80%以上の場合には、固相担体表面のカルボキシル基の密度を高くすることが難しくなる。
【0027】
共重合可能なモノマー化合物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン等に代表されるような芳香族ビニル系単量体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等に代表されるような(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチロールアクリルアミド、N−プロパノールアクリルアミドに代表されるようなアクリルアミド系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等に代表されるようなシアン化ビニル系単量体等が挙げられる。好ましくは、アクリルアミド、2−アクリル−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル等の水溶性単量体である。尚、モノマー化合物は、単独使用の他、2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0028】
さらに、カルボキシル基を有する高分子物質としては、天然や合成高分子物質にカルボキシル基が導入されたものであってもよい。
上記高分子物質は、枝分かれした側鎖を有していてもよいが、直線上であることが好ましい。また、固相担体表面に固定化された高分子物質は未架橋であることが好ましい。本発明において用いる高分子物質の長さは、炭素数20〜100,000が好ましく、より好ましくは50〜10,000である。
【0029】
ここで、上記モノマーの重合やカルボキシル基の導入は、それ自体既知の通常に用いられる方法により行うことができる。また、上記高分子物質は、市販品から所望の性質を有するものを購入して用いてもよい。
本発明の固相担体における固相担体表面のカルボキシル基密度は、導入する高分子物質の種類にもよるが、通常1nm2あたり30個以上、好ましくは45個以上である。
【0030】
固相担体表面のカルボキシル基密度算出方法は、以下の通りである。
先ず、pH10の1%トルイジンブルー水溶液に、本発明の固相担体表面を浸漬し、30℃で24時間静置しておくことにより、固相担体表面のカルボキシル基部位にトルイジンブルーを吸着させる。その後、蒸留水で洗浄後、50%の酢酸溶液に固相担体を浸漬して、吸着トルイジンブルーを脱離させ、トルイジンブルーが溶け込んだ酢酸水溶液の633nmにおける吸光度を測定する。固相担体表面のカルボキシル基密度は、カルボキシル基とトルイジンブルーが1:1で相互作用すると仮定して算出できる(Macromolecules, 31, 3671-3678 (1998))。
【0031】
本発明の固相担体は、その表面に数多くのカルボキシル基を有することから、カルボキシル基を活性化剤により活性化することにより、様々な機能性分子を固定することが可能となる。ここで、機能性分子を固定化できる活性化剤としては、カルボキシル基を有する高分子物質を固相担体表面に固定化するときに使用する前記縮合剤を活性化剤として使用することができる。中でも、水溶性が高く、扱いやすいことから、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩の使用が好ましい。また、活性化カルボキシル基の寿命をのばすために、必要に応じてN−ヒドロキシスクシイミドに代表されるような活性化状態安定化試薬を使うことも可能である。
【0032】
かくして活性化された高分子物質のカルボキシル基に、機能性分子が固定化される。
機能性分子として、具体的には、酵素、抗体、レクチン等のタンパク質、ペプチド、ホルモン、核酸、糖、オリゴ糖、多糖等の糖鎖、脂質、低分子化合物、高分子有機物質、無機物質、若しくはこれらの融合体、または、ウィルス若しくは細胞を構成する分子などが挙げられる。これらの機能性分子が、検体と該機能性分子との相互作用を測定する際の標的分子となる。
【0033】
タンパク質としては、タンパク質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、及びその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖は、これに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくは、アミノ酸配列が既知の精製されたタンパク質か、あるいはcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳、精製されたタンパク質を用いることができる。
【0034】
核酸としては、 特に制限はなく、DNAあるいはRNAも用いることができる。また、塩基配列あるいは機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する核酸としての機能、及び塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
【0035】
糖鎖としては、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。
低分子化合物としては、 相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
【0036】
上記の通り、固相担体表面に固定化されている高分子物質へは、数多くの機能性分子を固定化できる。機能性分子が固定化された固相担体は、該機能性分子と相互作用する分子を検出するバイオセンサーとして好適に使用できる。
機能性分子と検体の「相互作用」とは、通常は、標的分子と検体間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、及び静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。
【0037】
相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合及び解離、タンパク質レセプターとリガンドの間の結合及び解離、接着分子と相手方分子の間の結合及び解離、酵素と基質の間の結合及び解離、アポ酵素と補酵素の間の結合及び解離、核酸とそれに結合するタンパク質の間の結合及び解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合と解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合及び解離、あるいは糖鎖とタンパク質との間の結合及び解離が挙げられるが、この範囲に限られるものではない。例えば、イムノグロブリンやその派生物であるF(ab')2、Fab'、Fab、レセプターや酵素とその派生物、核酸、天然あるいは人工のペプチド、人工ポリマー、糖質、脂質、無機物質あるいは有機配位子、ウィルス、細胞、薬物等が挙げられる。
【0038】
機能性分子を固定化した固相担体を用いた相互作用の検出方法としては、例えば、いわゆるDNAアレイ若しくはDNAチップ又はプロテインアレイ若しくはプロテインチップと呼ばれるDNAまたはタンパク質を固定化した固相担体を用いて解析する方法が適用可能である。具体的例としては、蛍光法、化学発光法、RI法、表面プラズモン共鳴法、質量分析法、水晶発振子(例えば、特開昭62−207930号公報参照)、電気化学的方法(例えば、特公昭52−47913号公報参照)による検出法が挙げられる。
【0039】
この中で、蛍光法、化学発光法、RI法等においては、通常検体に結合させた標識物質のシグナルを測定することにより、相互作用の測定が行われているが、必要に応じて機能性分子に標識物質を結合させたものを使用してシグナルを測定してもよい。また、表面プラズモン共鳴法による検出は、検体を無標識で分析することができるため好適に用いられる。
【0040】
また、イムノアッセイ(免疫検定法)は、抗原抗体反応の高い特異性と検出感度を利用した検出方法であり、免疫比濁法(turbidimetric immunoassay, TIA)、標識化免疫測定法(labeled immunoassay)などが好適に用いられ、後者では、ラジオイムノアッセイ(放射線免疫検定法、RIA)、エンザイムイムノアッッセイ(酵素免疫検定法、ELISA)、蛍光イムノアッセイ(蛍光免疫検定法、FIA)などが好適に用いられる。
【0041】
本発明の固相担体は、検出したい分子と相互作用する分子を、固相担体表面に被覆された高密度のカルボキシル基を有する高分子に、3次元的に固定化できることから、検出感度の向上が期待できる。
【0042】
【発明の効果】
上記のとおり本発明の固相担体は、カルボキシル基を有する高分子物質を固定化することにより得られるものであり、その後、処理を行うことなく、カルボキシル基をその表面に有する固相担体として用いることができる。従って、従来の方法で必要とされる、高分子物質固定化反応後のカルボキシル基導入過程を必要としない。
【0043】
また、本法により作製した固相担体は、固相担体表面に高密度のカルボキシル基を有するため、機能性分子を効率よく固定化することができ、該機能性高分子を固定化した固相担体を用いて、効率的な分子間相互作用を解析することができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1 ポリアクリル酸固定化時におけるpHの影響
(1)アミノ基を有する固相担体表面の作製
60mlの水に、システアミン塩酸塩34mgを溶かした。この溶液に、大きさが2.5cm×2.5cmの金被覆グレーティングチップ(平板状のポリカーボネート製基体の表面に、溝ピッチ約870nm、溝深さ約40nmの凸凹形状を形成し、この凸凹形状を回折格子として、さらに基体の表面に厚さ約80nmで金を蒸着したセンサチップ)を浸漬させ、室温で20分間反応させた。反応終了後、センサチップを蒸留水で洗浄した。この処理は、金表面(センサチップの表面)に金−硫黄結合を介してアミノ基を導入するものである。
【0045】
(2)ポリアクリル酸の固相担体表面への固定化
25mlの水に、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)(ポリサイエンス社製)と24mgの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)を溶解させた。溶液のpHは、1N塩酸水溶液あるいは1N水酸化ナトリウム水溶液によって所定のpHに調整した。この溶液2.5mlに、上記(1)で得たアミノ化センサチップを浸漬させ、1時間反応させた。反応終了後、チップを蒸留水で洗浄した。この処理は、金表面上のアミノ基と高分子のカルボキシル基をEDCにより縮合させることにより、アミド結合を形成させ、高分子を金表面(センサチップの表面)に固定化するものである。
【0046】
(3)固相担体表面のカルボキシル基密度の定量
上記(2)で得られたセンサチップの、改質固相担体表面のカルボキシル基密度を、カチオン性色素であるトルイジンブルーを用いて次のとおり定量した(Macromolecules, 31, 3671-3678 (1998))。先ず、pH10の1%トルイジンブルー水溶液に、上記(2)で得られたセンサチップを浸漬し、30℃で24時間放置して、センサチップ表面のカルボキシル基部位にトルイジンブルーを吸着させた。その後、蒸留水で洗浄後、50%の酢酸溶液にセンサチップを浸漬して吸着トルイジンブルーを脱離させ、トルイジンブルーが溶け込んだ酢酸水溶液の633nmにおける吸光度を測定した。カルボキシル基密度は、カルボキシル基とトルイジンブルーが1:1で相互作用すると仮定して算出した。
その結果を図1に示す。図に示すように、ポリアクリル酸を固定化するときのpHを酸性条件にすることにより、センサチップの固相担体表面のカルボキシル基密度を高めることができることが明らかになった。
【0047】
(4)タンパク質の固相担体表面への固定化
上記(2)で得た改質固相担体表面へのタンパク質の固定化反応を行い、固相担体表面へのタンパク質固定化に伴う共鳴角の変化を共鳴角検出型のSPR測定装置FLEX CHIPSTM Kinetic Analysis System(HTS Biosystems Inc.)で角度スキャンを行いながら反射光の強度を次のとおり測定した。
【0048】
先ず、40mlの水に、23mgのN−ヒドロキシスクシイミドと153mgのEDCを溶かした。この溶液4ml中に上記(2)で得たセンサチップを浸漬させ、室温で10分間振とうすることにより、カルボキシル基を活性化させた。反応終了後、センサチップを蒸留水で洗浄した。次に、この活性エステル基を有するセンサチップをSPR測定装置FLEX CHIPSTM Kinetic Analysis System(HTS Biosystems Inc.)に装着し、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液(10mM、pH6.0):10分間、0.1mg/mLマウスIgGを含むMES緩衝液:15分間、1Mエタノールアミン水溶液(pH8.5):10分間、MES緩衝液:10分間の順番で、溶液を流した。流速は、0.2mL/minとした。タンパク質注入前の共鳴角と注入後の共鳴角の差から、タンパク質固定化に伴う共鳴角変化の値を算出した。
その結果を図2に示す。図から明らかなとおり、ポリアクリル酸を固定化するときのpHが酸性条件であるときに、固定化反応時のSPR共鳴角の変化が大きく、抗体マウスIgGの固定量が多いことが明らかになった。
【0049】
実施例2 ポリアクリル酸濃度の影響
実施例1の(2)において、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)を0.0125gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)にしたこと、および、固定化時のpHを2.2としたこと以外は、実施例1と同様にポリアクリル酸の固定化を行い、それに、SPR装置内でタンパク質を固定化し、共鳴角を算出した。タンパク質固定化に伴う共鳴角変化は、1098mdegであった。
【0050】
実施例3 ポリアクリル酸分子量の影響
実施例1の(2)において、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)を、0.0125gのポリアクリル酸(平均分子量1,000,000)にしたこと、および、固定化時のpHを2.2としたこと以外は、実施例1と同様にポリアクリル酸の固定化を行い、それに、SPR装置内でタンパク質を固定化し、共鳴角を算出した。タンパク質固定化に伴う共鳴角変化は、1205mdegであった。
【0051】
実施例4 カルボキシメチルデキストランの固定化
(1)カルボキシメチルデキストランの合成
500mlの2N水酸化ナトリウム水溶液中に、5gのデキストラン(平均分子量500,000)と116gのブロモ酢酸を溶解させ、室温で24時間反応させた。反応終了後、透析を行い、未反応のブロモ酢酸を除去した。その後、エバポレーターにより濃縮してから、貧溶媒であるエタノール中に沈殿させて、カルボキシメチルデキストランを得た。電導度滴定により求めたカルボキシル基含量は、グルコース単位7個あたり1個であった。
【0052】
(2)カルボキシメチルデキストランの固定化およびタンパク質の固定化
実施例1の(2)において、1.25gのポリアクリル酸(平均分子量50,000)を上記(1)で合成したカルボキシメチルデキストラン0.25gとし、固定化時のpHを2.2とした以外は、実施例1と同様にカルボキシメチルデキストランの固定化を行い、それに、SPR装置内でタンパク質を固定化し、共鳴角を算出した。タンパク質固定化に伴う共鳴角変化は、910mdegであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポリアクリル酸固定化時のpHを変化させて作製したセンサチップの、固相担体表面カルボキシル基密度を示す図である。図の横軸はポリアクリル酸固定化時のpH、縦軸は固相担体表面のカルボキシル基密度(unit / nm2)を示す。(unitはトルイジンブルーを用いて測定したカルボキシル基の個数を示す。)
【図2】ポリアクリル酸固定化時のpHを変化させて作製したセンサチップにマウスIgGを固定化したときの共鳴角の変化を示す図である。図の横軸はポリアクリル酸固定化時のpH、縦軸はSPR測定時における共鳴角の変化(mdeg)を示す。
Claims (12)
- カルボキシル基と共有結合しうる官能基を有する固相担体表面に、縮合剤の存在下、酸性条件で、カルボキシル基を有する高分子物質を共有結合させることにより得られることを特徴とする固相担体。
- 固相担体表面のカルボキシル基の密度が1nm2あたり30個以上である請求項1に記載の固相担体。
- 官能基が、アミノ基である請求項1または2に記載の固相担体。
- 酸性条件が、カルボキシル基のpK値より低いpH条件である請求項1〜3のいずれかに記載の固相担体。
- 固相担体表面が、金属表面である請求項1〜4のいずれかに記載の固相担体。
- 固相担体表面に結合している高分子物質のカルボキシル基が、活性化剤により活性化されている請求項1〜5のいずれかに記載の固相担体。
- 活性化剤が、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドである請求項6に記載の固相担体。
- 固相担体表面が、一定の溝方向で形成されている回折格子面を備えている請求項1〜7のいずれかに記載の固相担体。
- 固相担体表面に結合している高分子物質に、機能性分子が固定化されている請求項1〜8のいずれかに記載の固相担体。
- 請求項9に記載の固相担体表面に検体を含む溶液を流し、固定化されている機能性分子と検体との相互作用を測定することを特徴とする機能性分子と検体との相互作用解析方法。
- 相互作用の測定が、表面プラズモン共鳴により行われる請求項10に記載の方法。
- 相互作用の測定が、検体に結合した標識物質のシグナルを測定することにより行われる請求項11に記載の方法。
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