JP2004197704A - エンジンの制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】許可条件が成立したときフュエルカットを行い、その後にフュエルカットからの復帰条件が成立したとき燃料供給を再開するようにしたエンジンの制御装置において、フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量が規定値以上でありかつ急減速時のフュエルカットであるとき、フュエルカットからの復帰に際して燃焼室内の燃焼状態に改善を施す燃焼改善手段(31、13、14)を備える。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエンジン(内燃機関)の制御装置、特に減速時の制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンの減速時、例えば吸気絞り弁が全閉であってエンジンの回転速度が第1の所定値より高いときに燃費を改善するため燃料供給の停止(以下「フュエルカット」という。)が行われ、その後にエンジン回転速度が低下して第2の所定値以下になったときフュエルカットからの復帰条件が成立したとして燃料供給が再開される。このフュエルカット時にEGR(排気還流)弁を開き、燃料供給の再開に先立ってEGR弁を閉じるものがある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−101144号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一層の燃費向上と排気浄化を目的として、排気通路と吸気通路を連通するEGR通路にEGR弁を備えるエンジンに対して部分負荷域においてより大量のEGRを行うことが、また、作動角一定のまま吸気弁用カムの位相を連続的に制御し得る吸気バルブタイミングコントロール機構(以下、「VTC機構」という。)を備えるエンジンに対して吸排気弁のオーバーラップ量をより大きくして燃焼室内に残留する不活性ガス量を多くすることが要求されている。
【0005】
そこで実験を行ってみたところ、定常時や緩やかな加速時に、EGR弁により大量のEGRを行っている状態や、VTC機構により吸排気弁のオーバーラップ量を大きくして燃焼室内に大量の不活性ガスを残留させている状態からの急減速時にもフュエルカットが行われる。このとき急減速により一気にアイドル状態に向かえば、アイドル状態に近いフュエルカットからの復帰時には大量の不活性ガスの影響が大きく残って燃焼室内の燃焼状態が不安定なままであり、従ってエンジンストールを引き起こす場合があることが判明した。
【0006】
これを図2を参照して説明すると、図2はEGR弁とVTC機構とをともに備えるエンジンを対象として、アイドル状態までの減速を行ったときの作用をモデル的に示している。
【0007】
アクセルペダルをある程度踏み込んで定速走行している場合を考える。このとき、部分負荷であることより、その負荷とそのときのエンジン回転速度に応じた目標EGR率が得られるようにEGR弁が所定開度まで開かれ、またその負荷とそのときのエンジン回転速度に応じた目標カム位相が得られるようにVTC機構によりカムスプロケットに対してカムシャフトが進角側に目標カム位相の分だけ回転している。
【0008】
この状態から減速しようとアクセルペダルをゆっくり戻してアクセルペダルから足を離したとき、吸気絞り弁がアイドル時の位置まで応答よく閉じて吸入空気量が減少するため、エンジン回転速度はt1のタイミングより一時的に上昇した後、アイドル回転速度へと緩やかに低下してゆく(図2の第2段目の波線参照)。
【0009】
この減速時に所定の許可条件を満たしていればフュエルカットが行われる。フュエルカットは、エンジンの出力が不要な車両減速時に燃料噴射弁からの燃料噴射をエンジンの所定の運転条件まで禁止することにより燃料消費量の削減を図るものである。所定の運転条件とは例えばエンジン回転速度や車速であり、設定されたエンジン回転速度や車速を下回るまでフュエルカットが継続される。
【0010】
また、減速操作に伴う負荷(具体的にはアクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度)の減少に伴い目標EGR率と目標VTC位相とがアイドル時の値へとステップ的に小さくなる(図2の第3段目と第5段目参照)。アイドル時は元々燃焼室内の燃焼状態が不安定なので、目標EGR率=0%、目標VTC位相は最遅角位置へと戻すためである。
【0011】
この場合、EGR弁アクチュエータ、VTC機構アクチュエータには応答遅れがあるため、実EGR弁開度と実VTC位相とは所定の傾きをもって小さくなる。これは、EGR弁アクチュエータ、VTC機構アクチュエータに上限速度があり、この上限速度を超えた速度で動くことはできないためである。つまり、図示のt1からの所定の傾きはEGR弁アクチュエータ、VTC機構アクチュエータの上限速度を表している。このようにEGR弁アクチュエータ、VTC機構アクチュエータが動くときに燃焼室内の総ガス量に対する燃焼室内の総不活性ガス量の比である総残留ガス率(=総不活性ガス量/総ガス量)がフュエルカットが開始されるt1よりどうなるかをみてみると、総残留ガス率はフュエルカットの開始前より却って増加している。このようにt1直後にt1の前より却って総残留ガス率が増加するのは、吸気絞り弁とEGR弁の応答遅れの相違に伴うものである。すなわち、吸気絞り弁は応答よく閉じるのに対してEGR弁のほうが応答性が悪いために、新気量よりも相対的に不活性ガス量が増加してしまうためである。
【0012】
フュエルカット開始直後にこうした総残留ガス率の増加があると、当然ながら総残留ガス率が低下するのが遅れ、その間燃焼状態の悪さが続く。
【0013】
そして、減速が進んでエンジン回転速度が、t2のタイミングでアイドル回転速度よりも高い所定のフュエルカット復帰回転速度となったとき再び燃料噴射が再開される。この燃料供給の再開によりエンジンが完爆するとエンジン回転速度が急上昇し、その後にアイドル回転速度へと落ち着く(図2の第2段目の波線参照)。
【0014】
このようにアクセルペダルが比較的ゆっくりと戻される減速時(通常減速時)であれば、エンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度に到達するまでの時間、つまりt1よりt2までの時間に対して、EGR弁アクチュエータ、VTC機構アクチュエータの応答時間(t1より実EGR弁開度、実VTC位相がアイドル時の値に到達するまでの時間Δte、Δtv)のほうが短いため、フュエルカット復帰回転速度に達したt2のタイミングで総残留ガス率は十分低下しており、従って、フュエルカット復帰後にアイドリングを維持できている。
【0015】
しかしながら、車両の急減速時にはエンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度に到達するタイミングがt2よりt2´へと早まるのに対して(図2の第2段目の実線参照)、EGR弁アクチュエータ、VTCアクチュエータの応答時間Δte、Δtvは変わらない。この違いにより急減速時にはフュエルカット復帰回転速度に達するt2´での総残留ガス率が通常減速時に比べて高く、この総残留ガス率が高い分だけフュエルカット復帰後の燃焼状態が悪い状態にあるのであり、アイドリングを維持できずエンジンストールに到ることが考え得る(図2の第2段目の実線参照)。
【0016】
燃費向上及び排気浄化の効果を高めるために部分負荷域で高い目標EGR率や高い目標VTC位相の設定としたい場合には、EGR弁アクチュエータ、VTC機構アクチュエータの応答時間Δte、Δtvは長くなる傾向となるため、この問題はさらに顕著となり得る。
【0017】
そこで本発明は、燃費向上及び排気ガス浄化の観点からEGR弁、VTC機構などを備えるエンジンにおいて、急減速時に燃焼室内に残留する不活性ガスによるフュエルカット復帰時の燃焼悪化を改善することを目的とする。
【0018】
一方、上記の従来装置において、燃料供給の再開に先立ってEGR弁を閉じるのは、燃料供給の再開時に排気(不活性ガス)がエンジンに供給されるのを阻止し、燃焼室内に不活性ガスが残留することをなくし、燃料供給の再開時には燃焼室内に酸素を多く含む新気のみを存在させて燃料供給を再開するときの燃焼悪化を防止するためである。このように、従来装置は、燃料供給を再開するときの燃焼悪化を防止するため、不活性ガスが残留しないようにするものにすぎず、定常時や緩やかな加速時に、EGR弁により大量のEGRを行っている状態や、VTC機構により吸排気弁のオーバーラップ量を大きくして燃焼室内に大量の不活性ガスを残留させている状態からの急減速時にフュエルカットが行われる場合を前提とし、その結果として燃料供給を再開するときに多くの不活性ガスが燃焼室内に残留することは認めて、その燃焼不安定な状態をなんとか改善しようとする本願発明とは技術的思想が異なる。この技術的思想の違いにより、従来装置ではフュエルカット時にEGR弁を開き、燃料供給の再開に先立ってEGR弁を閉じるのに対して、本願発明ではフュエルカット時にEGR弁を閉じるのであり、両者で構成が大きく異なっている。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、許可条件が成立したときフュエルカットを行い、その後にフュエルカットからの復帰条件が成立したとき燃料供給を再開するようにしたエンジンの制御装置において、フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量が規定値以上でありかつ急減速時のフュエルカットであるとき、フュエルカットからの復帰に際して燃焼室内の燃焼状態に改善を施す燃焼改善手段を備える。
【0020】
【発明の効果】
一層の燃費向上とNOx低減を目指して定常時や緩やかな加速時に、EGR弁により大量のEGRを行おうとしたり、可変動弁機構を用いて吸排気弁のオーバーラップ量を大きくして燃焼室内に大量の不活性ガスを残留させようとすると、それらの状態から急減速を行っときにもフュエルカットが行われる。このときには素早い吸気絞り弁の動きに応じて新気は応答よく減少するのに対して、特にEGR弁アクチュエータの応答遅れにより不活性ガスのほうの減少が遅れがちとなるため、燃焼室内の残留ガス率や残留ガス量がフュエルカット開始直後にフュエルカット開始前よりも却って大きくなり、燃焼状態が一気に不安定になる。そして、いったん上昇した燃焼室内の残留ガス率や残留ガス量が小さくなるにはある時間を要する。
【0021】
これに対して急減速時の回転低下は急激であるため、フュエルカットからの復帰時には、まだ燃焼室内の総残留ガス率や残留ガス量が小さくなっておらず、燃焼室内の燃焼状態が不安定なままである。
【0022】
従って、なにもせずに放っておけばエンジンストールを引き起こしかねないのであるが、本発明によれば、フュエルカット直後の燃焼室内の残留ガス率の増加は、フュエルカット開始時や開始直前の燃焼室内の残留ガス率や残留ガス量に対応するものとして、フュエルカット開始時や開始直前の燃焼室内の残留ガス率や残留ガス量が規定値以上あるとき、急減速時のフュエルカットからの復帰時に燃焼状態が悪化していると推定し、急減速時のフュエルカットからの復帰に際して、こうして悪化している燃焼室内の燃焼状態に対して、積極的に燃焼改善を施す。
【0023】
例えばフュエルカットからの復帰時にエンジン運転1サイクル当たり複数回の多重点火が行われるので、燃焼室内の残留ガス率や残留ガス量が大きい状態においても燃焼室内混合気への着火確率が向上し、また、フュエルカットからの復帰回転速度が高く設定され、通常減速時に対して吸入空気量が増加した状態でフュエルカットからの復帰が行われるため発生トルクが向上し、これらによりフュエルカット復帰時に残留ガス率や残留ガス量が大きい状態においても安定した燃焼を確保することができる。
【0024】
このようにして、フュエルカットからの復帰時における燃焼悪化が改善されると、エンジンストールに至る事態を回避できる。これより、定常時や緩やかな加速時に、EGR弁により大量のEGRを行ったり、可変動弁機構を用いて吸排気弁のオーバーラップ量を大きくして燃焼室内に大量の不活性ガスを残留させることが可能となり、一層の燃費向上とNOx低減を図ることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明のシステムを説明するための概略図である。
【0027】
空気は吸気コレクタ2に蓄えられた後、吸気マニホールド3を介して各気筒の燃焼室5に導入される。燃料は各気筒の吸気ポート4に配置された燃料インジェクタ21より噴射供給される。空気中に噴射された燃料は気化しつつ空気と混合してガス(混合気)を作り燃焼室5に流入する。この混合気は吸気弁15が閉じることで燃焼室5内に閉じこめられ、ピストン6の上昇によって圧縮される。
【0028】
この圧縮混合気に対して高圧火花により点火を行うため、パワートランジスタ内蔵の点火コイルを各気筒に配した電子配電システムの点火装置11を備える。すなわち、点火装置11は、バッテリからの電気エネルギーを蓄える点火コイル13と、点火コイル13の一次側への通電、遮断を行うパワートランジスタと、燃焼室5の天井に設けられ点火コイル13の一次電流の遮断によって点火コイル13の二次側に発生する高電圧を受けて、火花放電を行う点火プラグ14とからなっている。
【0029】
燃費が最良となる点火時期が基本点火時期として定められており、エンジンコントローラ31では運転条件(エンジンの負荷と回転速度)に応じて基本点火時期を演算し、実際のクランク角がこの点火時期に一致するとき、パワートランジスタ13を介して点火プラグ14の一次側電流を遮断することにより、点火時期を制御する。
【0030】
この点火時期は圧縮上死点より少し手前にあり、点火プラグ14により火花が飛ばされ燃焼室5内の圧縮混合気に着火されると、火炎が広がりやがて爆発的に燃焼し、この燃焼によるガス圧がピストン6を押し下げる仕事を行う。この仕事はクランクシャフト7の回転力として取り出される。燃焼後のガス(排気)は排気弁16が開いたとき排気通路8へと排出される。
【0031】
排気通路8には三元触媒9を備える。三元触媒9は排気の空燃比が理論空燃比を中心とした狭い範囲(ウインドウ)にあるとき、排気に含まれるHC、CO、NOxといった有害三成分を同時に効率よく除去できる。空燃比は吸入空気量と燃料量の比であるので、エンジンの1サイクル(4サイクルエンジンではクランク角で720°区間)当たりに燃焼室5に導入される吸入空気量と、燃料インジェクタ21からの燃料噴射量との比が理論空燃比となるように、エンジンコントローラ31ではエアフローメータ32からの吸入空気流量の信号とクランク角センサ(33、34)からの信号に基づいて燃料インジェクタ21からの燃料噴射量を定めると共に、三元触媒9の上流に設けたO2センサ(図示しない)からの信号に基づいて空燃比をフィードバック制御している。
【0032】
吸気コレクタ2の上流には吸気絞り弁23がスロットルモータ24により駆動される、いわゆる電子制御スロットル22を備える。運転者が要求するトルクはアクセルペダル41の踏み込み量(アクセル開度)に現れるので、エンジンコントローラ31ではアクセルセンサ42からの信号に基づいて目標トルクを定め、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットルモータ24を介して吸気絞り弁23の開度を制御する。
【0033】
燃費向上とNOx低減のためEGR装置を備える。EGR装置は、排気通路8と吸気マニホールド3を連通するEGR通路25と、このEGR通路25を介して吸気マニホールド3へと流れる排気(不活性ガス)の量(あるいは率)を調整し得るEGR弁26と、このEGR弁26を駆動するアクチュエータ27(例えばステップモータ)とからなり、エンジンコントローラ31では運転条件に応じた目標EGR率(図8参照)が得られるようにEGR弁開度を制御する。不活性ガスが吸気マニホールド3に導入されると、ポンピングロスが減ってそのぶん燃費がよくなり、また燃焼温度が低くなりNOxの発生が抑制される。
【0034】
吸気弁用カムシャフト28及びクランクシャフト7の各前部にはそれぞれカムスプロケット、クランクスプロケットが取り付けられ、これらスプロケットにタイミングチェーン(図示しない)を掛け回すことで、吸気弁用カムシャフト28がエンジンのクランクシャフト7により駆動されるのであるが、このカムスプロケットと吸気弁用カムシャフト28との間にVTC機構29(可変動弁装置)を備える。このVTC機構29では、VTC機構アクチュエータに信号を与えないとき、吸気弁用カムシャフト28が最遅角位置にあり、VTC機構アクチュエータに与える制御量を増やすほどカムスプロケットに対して吸気弁用カムシャフト28が進角側に回転するようになっている。この吸気弁用カムシャフト28の回転角を以下「カム位相」という。
【0035】
このカム位相つまり吸気弁15の開閉時期を変えると燃焼室5に残留する不活性ガス量が変化する。燃焼室5内の不活性ガス量が増えるほどポンピングロスが減って燃費がよくなるので、運転条件によりどのくらいの不活性ガスが燃焼室5内に残留したらよいかを目標カム位相にして予め定めており、エンジンコントローラ31ではそのときの運転条件(エンジンの負荷と回転速度)より目標カム位相(図19参照)を演算し、実カム位相センサ34により検出される実カム位相がこの目標カム位相と一致するようにVTC機構アクチュエータを介してカム位相を制御する。
【0036】
ここで、EGR弁27とVTC機構29とは燃焼室5内に不活性ガスを導入するという意味では等価な働きをするので、両者の不活性ガスを区別するため、EGR弁27により燃焼室5に導入される不活性ガスを「外部不活性ガス」、VTC機構29により燃焼室5内部に残留する不活性性ガスを「内部不活性ガス」という。また、両者を併せた燃焼室5内に残留する不活性ガスを「総残留ガス」という。なお、燃焼室5内に残留する外部不活性ガスと内部不活性ガスとを区別しない場合は「残留ガス」という。
【0037】
このように、EGR弁27とVTC機構29とを備えるエンジンを対象として、アイドル状態まで減速を行ったときの作用を図2のモデルで説明する。
【0038】
アクセルペダル41をある程度踏み込んで定速走行している場合を考える。このとき、部分負荷であることより、その負荷とそのときのエンジン回転速度に応じた目標EGR率が得られるようにEGR弁26が所定開度まで開かれ、またその負荷とそのときのエンジン回転速度に応じた目標カム位相が得られるようにVTC機構29によりカムスプロケットに対してカムシャフト28が進角側に目標カム位相の分だけ回転している。
【0039】
この状態から減速しようとアクセルペダル41をゆっくり戻してアクセルペダル41から脚を離したとき、吸気絞り弁23がアイドル時の位置まで閉じて吸入空気量が減少するため、エンジン回転速度はt1のタイミングより一時的に上昇した後、アイドル回転速度へと緩やかに低下してゆく(図2の第2段目の波線参照)。
【0040】
この減速時に所定の許可条件を満たしていればフュエルカットが行われる。フュエルカットは、エンジンの出力が不要な車両減速時に燃料インジェクタ21からの燃料噴射をエンジンの所定の運転条件の成立まで禁止することにより燃料消費量の削減を図るものである。所定の運転条件とは例えばエンジン回転速度や車速が所定値を下回ることであり、この条件が成立する直前までフュエルカットが継続される。
【0041】
また、減速操作に伴う負荷(具体的にはアクセルペダル41の踏み込み量であるアクセル開度)の減少に伴い目標EGR率と目標VTC位相とがアイドル時の値へとステップ的に小さくなる(図2の第3段目と第5段目参照)。アイドル時は元々燃焼状態が不安定なので、目標EGR率=0、目標VTC位相は最遅角位置へと戻すためである。
【0042】
この場合、EGR弁26とVTC機構28の各アクチュエータには応答遅れがあるため、実EGR弁開度と実VTC位相とは所定の傾きをもって小さくなる。これは、EGR弁アクチュエータ27、VTC機構アクチュエータに上限速度があり、この上限速度を超えた速度で動くことはできないためである。つまり、所定の傾きはEGR弁アクチュエータ27、VTC機構アクチュエータの上限速度を表している。このようにEGR弁アクチュエータ27、VTC機構アクチュエータが動くときに燃焼室5内の総ガス量に対する燃焼室5内の総不活性ガス量の比である総残留ガス率がどうなるかをみてみると、総残留ガス率はフュエルカットの開始前より却って増加している。このようにt1直後にt1の前より却って総残留ガス率が増加するのは、吸気絞り弁23とEGR弁26の応答遅れの相違に伴うものである。すなわち、吸気絞り弁23は応答よく閉じるのに対してEGR弁26のほうが応答性が悪いために、新気量よりも相対的に不活性ガス量が増加してしまうためである。
【0043】
フュエルカット開始直後にこうした総残留ガス率の増加があると、当然ながら総残留ガス率が低下するのが遅れ、その間燃焼状態の悪さが続く。
【0044】
そして、減速が進んでエンジン回転速度が、t2のタイミングでアイドル回転速度よりも高い所定のフュエルカット復帰回転速度となったとき再び燃料噴射が再開される。この燃料供給の再開によりエンジンが完爆するとエンジン回転速度が急上昇し、その後にアイドル回転速度へと落ち着く(図2の第2段目の波線参照)。
【0045】
このようにアクセルペダル41が比較的ゆっくりと戻される減速時(通常減速時)であれば、エンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度に到達するまでの時間、つまりt1よりt2までの時間に対して、EGR弁アクチュエータ27、VTC機構アクチュエータの応答時間(t1より実EGR弁開度、実VTC位相がアイドル時の値に到達するまでの時間Δte、Δtv)のほうが短いため、フュエルカット復帰回転速度に達したt2のタイミングで総残留ガス率は十分低下しており、従って、フュエルカット復帰後にアイドリングを維持できている。
【0046】
しかしながら、車両の急減速時にはエンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度に到達するタイミングがt2よりt2´へと早まるのに対して(図2の第2段目の実線参照)、EGR弁アクチュエータ27、VTCアクチュエータの応答時間Δte、Δtvは変わらない。この違いにより急減速時にはフュエルカット復帰回転速度に達するt2´での総残留ガス率が通常減速時に比べて高く、この総残留ガス率が高い分だけフュエルカット復帰後の燃焼状態が悪い状態にあるのであり、アイドリングを維持できずエンジンストールに到ることが考え得る(図2の第2段目の実線参照)。
【0047】
燃費向上及び排気浄化の効果を高めるために部分負荷域で高い目標EGR率や高い目標VTC位相の設定としたい場合には、EGR弁アクチュエータ27、VTC機構アクチュエータの応答時間Δte、Δtvは長くなる傾向となるため、この問題はさらに顕著となる。
【0048】
本発明は、こうしたエンジンを対象として、フュエルカット開始直前(または開始時)の燃焼室5内の総残留ガス率が規定値以上となり、かつ急減速時のフュエルカットであるとき、フュエルカットからの復帰に際して燃焼室5内の燃焼状態に改善を施す。なお、フュエルカット開始直前(または開始時)の燃焼室5内の総残留ガス率に代えて、フュエルカット開始直前(または開始時)の燃焼室5内の総残留ガス量を用いてもかまわない。具体的には、フュエルカット復帰に際しての燃焼改善を、1個の点火プラグ14を用いて1サイクル当たり複数回の多重点火により、またはフュエルカット復帰回転速度を通常よりも高回転側に設定することにより行う。なお、1カ所での1サイクル当たり複数回の多重点火に代えて、1サイクル当たり複数箇所での多点点火により行うようにしてもかまわない。
【0049】
これを図3、図4で説明すると、図3、図4は図2において波線で示したと同じ条件、つまり急減速を行ったときの第1、第2の実施形態の作用を示す波形図である。
【0050】
まず、図3は、図2において波線で示した場合と最下段のみが相違している。すなわち、図3に示す第1実施形態では、急減速時のフュエルカットであってフュエルカット開始直前の総残留ガス率が規定値以上となっている場合にt2´でエンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度に到達したとき、総残留ガス率が高い状態にある燃焼室5内で点火プラグ14により1サイクル当たり複数回の多重点火を行って燃焼状態を改善する。
【0051】
次に、図4に示す第2実施形態では、急減速時のフュエルカットであってフュエルカット開始直前の総残留ガス率が規定値以上となっている場合にフュエルカット復帰回転速度を通常減速時時よりも上昇させ、これによってフュエルカットからの復帰タイミングをt2´よりt4へと早める。
【0052】
エンジンコントローラ31で実行されるこの制御を以下に示すフローチャートにより詳述する。ここで、図5、図6、図7、図12、図13、図14は図3を実現するための、図15〜図18は図4を実現するためのフローチャートである。
【0053】
第1実施形態から説明すると、図5はフュエルカット実行フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0054】
ステップ1ではフュエルカット実行フラグ(ゼロに初期設定)をみる。ここではフュエルカット実行フラグ=0であるとして説明すると、このときステップ2、3に進んで今回にフュエルカット許可条件が成立しているか否か、前回にはフュエルカット許可条件が成立していなかったか否かをみる。
【0055】
フュエルカット許可条件は車両の運転状態により規定されている。例えば次の条件をすべて満たすときフュエルカット許可条件が成立する。
【0056】
▲1▼アイドルスイッチ43からの信号がONであること。ここで、アイドルスイッチ43はアクセル開度がゼロのときONとなり、アクセルペダル41が踏み込まれるとOFFとなるスイッチである。
【0057】
▲2▼エンジン回転速度が所定値を超えていること。
【0058】
▲3▼車速センサ44により検出される車速が所定値を超えていること。
【0059】
今回にフュエルカット許可条件が成立し、前回にフュエルカット許可条件が非成立のとき、つまり今回初めてフュエルカット許可条件が成立したときにはステップ4に進んでフュエルカット実行フラグ=1とする。それ以外ではステップ4を飛ばしてそのまま今回の処理を終了する。
【0060】
図6は多重点火許可フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0061】
ステップ11では多重点火許可フラグ(ゼロに初期設定)をみる。多重点火許可フラグ=0であるとして説明すると、このときステップ12、13、14に進んで次の条件がすべて成立しているか否かをみる。
【0062】
▲4▼フュエルカット実行フラグ=1であること。
【0063】
▲5▼急減速時であること。
【0064】
▲6▼総残留ガス率が規定値以上であること。
【0065】
ここで、▲5▼の急減速時は例えば次の条件をすべて満たすときである。
【0066】
〈1〉フュエルカット開始前のアクセルペダル41の戻し速度が所定値より速い。
【0067】
〈2〉ブレーキペダル45を踏んでいる。すなわちブレーキスイッチ46からの信号がONである。
【0068】
〈3〉車速の時間当たりの低下代が所定値より大きいこと。
【0069】
また、上記▲6▼の総残留ガス率の演算については、図7のフローチャートにより説明する。ここで演算される総残留ガス率は、結果的にフュエルカット開始直前の値となる。
【0070】
図7においてステップ21ではエンジンの負荷(例えば後述する基本噴射パルス幅Tp)と回転速度から図8を内容とするマップを検索することにより目標EGR率Megrを演算し、これをステップ22で外部不活性ガス率に入れる。
【0071】
ステップ23では同じくエンジンの負荷と回転速度から図9を内容とするマップを検索することにより基本内部不活性ガス率を演算する。基本内部不活性ガス率とは、VTC機構29が最遅角位置にあるときの運転条件(負荷、回転速度)に応じた内部不活性ガス率のことである。
【0072】
ステップ24ではカム位相センサ34により検出される実カム位相(あるいは目標カム位相)から図10を内容とするテーブルを検索することにより補正係数を演算し、ステップ25でこれを基本内部不活性ガス率に乗算した値を内部不活性ガス率として算出する。
【0073】
補正係数は図10のようにカム位相が大きくなるほど1.0より大きくなる値である。このようにカム位相が大きくなるほど補正係数を大きくしているのは、カム位相が大きくなるほど図11のように吸排気弁のオーバーラップ量が大きくなり、これに応じて内部不活性ガス率が大きくなるためである。
【0074】
ステップ26では内部不活性ガス率と外部不活性ガス率との合計を燃焼室5内の総残留ガス率として算出する。
【0075】
上記▲6▼の規定値は一定値である。ここで、規定値の定め方を図20を参照して説明する。すなわち、図20は横軸に総残留ガス率を、縦軸に燃焼安定度と燃費を採った特性である。総残留ガス率がAであるとき燃費が最良となり、Aより総残留ガス率が大きくなるほど燃焼安定度が悪くなってゆくことがわかる。図2、図3においてt1より総残留ガス率が大きくなることは、図20でいえば総残留ガス率がAより大きくなって燃焼安定度が悪化する方向に向かっていることを意味する。そこで、燃焼安定限界を書き入れてみると、この燃焼安定限界に対応する総残留ガス率Bを超える領域が燃焼不安定領域となる。この燃焼不安定領域では燃焼改善を図る必要があるので、Bを基準に規定値を定めてやればよいことになる。最終的には規定値はマッチングにより定める。 なお、図20に示した燃焼安定限界は運転条件により変わりうるので、規定値を運転条件に応じて設定するようにすることもできる。
【0076】
上記▲4▼〜▲6▼をすべて満足するとき、つまり急減速時のフュエルカット開始直前に総残留ガス率が規定値以上であるときとは、フュエルカット開始直前の総残留ガス率から判断して、アイドル回転速度までの急減速を続けたときフュエルカット復帰時の燃焼室5内が燃焼不安定な状態にあると推定され、エンジンストールの発生が考え得る場合である。このときにはステップ15に進んで多重点火許可フラグ(ゼロに初期設定)=1とする。多重点火許可フラグ=1のとき、点火プラグ14による多重点火が許可される。
【0077】
一方、上記▲4▼〜▲6▼のいずれかでも満足しないときにはステップ15を飛ばしてそのまま今回の処理を終了する。
【0078】
図12はフュエルカット復帰フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0079】
ステップ31ではフュエルカット復帰フラグ(ゼロに初期設定)をみる。フュエルカット復帰フラグ=0であるとして説明すると、このときステップ32、33に進んで次の条件をすべて満足しているか否かをみる。
【0080】
▲7▼フュエルカット実行フラグ=1であること。
【0081】
▲8▼フュエルカット復帰条件が成立していること。
【0082】
ここで、▲8▼のフュエルカット復帰条件は例えば次の条件のいずれかを満たすとき成立する。
【0083】
〈4〉エンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度Nrcv1以下である。
【0084】
〈5〉車速が所定値以下である。
【0085】
上記の▲7▼、▲8▼のすべての条件を満たしていれば、ステップ34に進んでフュエルカット復帰フラグ=1とする。ステップ35では次回のフュエルカット処理に備えてフュエルカット実行フラグ=0とする。
【0086】
図13は点火回数と燃料噴射パルス幅とを演算するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0087】
ステップ41ではフュエルカット実行フラグをみる。フュエルカット実行フラグ=0であるとき、つまり通常運転時にはステップ42、43に進んで点火回数nを1サイクル当たり1回とすると共に、シーケンシャル噴射であれば次式により燃料噴射パルス幅Tiを演算する。
【0088】
Ti=Tp×Tfbya×(α+αm−1)×2+Ts…(1)
ただし、Tp:基本噴射パルス幅、
Tfbya:目標当量比、
α:空燃比フィードバック補正係数、
αm:空燃比学習値、
Ts:無効パルス幅、
一方、フュエルカット実行フラグ=1であるときにはステップ41よりステップ44、45に進んでフュエルカット復帰フラグと多重点火許可フラグをみる。フュエルカット復帰フラグ=0であるときにはフュエルカットを行うためステップ46、47に進んで点火回数nをゼロとすると共に、燃料噴射パルス幅Ti=Tsとする。このとき燃料は噴射されない。
【0089】
フュエルカット復帰フラグ=1かつ多重点火許可フラグ=0であるときには燃料供給を再開するためステップ42、43の操作を実行する。
【0090】
これに対してフュエルカット復帰フラグ=1かつ多重点火許可フラグ=1であるときには燃料供給を再開しつつ燃焼状態を改善するためステップ48に進んで点火回数nを2回とすると共に、ステップ43の操作を実行する。ここで、1サイクル当たり複数の点火回数は燃焼室5内の総残留ガス率に関係なく一定としてもよいし、総残留ガス率に応じて回数を可変に設定してもよい。
【0091】
このようにして演算される点火回数nと燃料噴射パルス幅Tiとはそれぞれ点火制御、燃料噴射制御に用いられて点火時期と燃料噴射量とが制御される。
【0092】
これによって多重点火許可フラグ=1であるときにはフュエルカットからの復帰時に点火プラグ14によりエンジン運転1サイクル当たり2回の多重点火が行われる。
【0093】
図14はアイドル回転速度のフィードバック制御を行うためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0094】
ステップ51ではアイドルスイッチ43からの信号によりアイドル時か否かをみる。アイドル時であればステップ52に進み、目標アイドル回転速度NSETと実回転速度Neの偏差ΔN(=NSET−Ne)を計算し、偏差ΔNの絶対値と所定値をステップ53で比較する。所定値は目標アイドル回転速度NSETを中心とする許容範囲を定める値で、例えば50RPM程度である。
【0095】
目標アイドル回転速度NSETからの偏差ΔNの絶対値が所定値を超えていれば、実回転速度Neが目標アイドル回転速度を中心とする許容範囲に収まるようにステップ54でアイドル回転速度のフィードバック制御を行う。すなわち、実回転速度NeがNSET−所定値より低ければ、吸気絞り弁23を開いて吸入空気量を増やすように、この逆に実回転速度NeがNSET+所定値より高いときには吸気絞り弁23を閉じて吸入空気量を減らすようにする。
【0096】
この結果、実回転速度Neが目標アイドル回転速度を中心とする許容範囲に収まると、これ以上の多重点火は不要となるので、ステップ53よりステップ55に進んで多重点火許可フラグ=0とし、ステップ56ではフュエルカット復帰フラグ=0として次回のフュエルカット処理に備える。ここで、多重点火許可フラグ=1である期間、つまり多重点火を行う期間はフュエルカット復帰よりアイドリングを維持するまでの期間である。
【0097】
次に、第2実施形態を説明すると、図15、図16、図17、図18はそれぞれ第1実施形態の図6、図12、図13、図14と置き換わるものである。図15、図16、図17、図18においてそれぞれ図15、図16、図17、図18と同一の部分には同一のステップ番号をつけている。
【0098】
第1実施形態と相違する部分を主に説明すると、図15はフュエルカット復帰回転速度アップフラグを設定するためのもので、上記▲4▼〜▲6▼をすべて満足するときにはステップ62に進み、多重点火許可フラグに代えて、フュエルカット復帰回転速度アップフラグ=1とする。
、図16はフュエルカット復帰フラグを設定するためのもので、第1実施形態とはステップ33でのフュエルカット復帰条件が相違する。すなわち、第1実施形態では上記〈4〉でフュエルカット復帰回転速度がNrcv1であったが、この値よりも高い値を第2実施形態でのフュエルカット復帰回転速度Nrcv2として設定する。
【0099】
ここで、フュエルカット復帰回転速度Nrcv2は第1実施形態のフュエルカット復帰回転速度Nrcv1に対して一定値を加算しても、またフュエルカット開始直前の燃焼室5内の総残留ガス率に応じて設定してもよい。
【0100】
このように、フュエルカット復帰回転速度が高く設定された場合、通常減速時に対して吸入空気量が増加した状態でフュエルカットからの復帰が行われる。
【0101】
そして、フュエルカット中にエンジン回転速度が低下してこのフュエルカット復帰回転速度Nrcv2以下となったときにはステップ34でフュエルカット復帰フラグ=1となるので、このときにはステップ71でフュエルカット復帰回転速度アップフラグ=0としておく。これは、次回のフュエルカット処理に備えるためである。
【0102】
第2実施形態では多重点火を行わないので、第1実施形態の図13、図14より多重点火に関係する部分を除くと、図17、図18が得られる。
【0103】
ここで、本実施形態の作用を説明する。
【0104】
一層の燃費向上とNOx低減を目指して定常時や緩やかな加速時に、EGR弁26により大量のEGRを行おうとしたり、VTC機構29を用いて吸排気弁15、16のオーバーラップ量を大きくして燃焼室5内に大量の不活性ガスを残留させようとすると、それらの状態から急減速を行っときにもフュエルカットが行われる。このときには素早い吸気絞り弁23の動きに応じて新気は応答よく減少するのに対して、EGR弁アクチュエータ27の応答遅れにより不活性ガスのほうの減少が遅れがちとなるため、燃焼室5内の総残留ガス率がフュエルカット開始直後にフュエルカット開始前よりも却って大きくなり、燃焼状態が一気に不安定になる。そして、いったん上昇した燃焼室5内の総残留ガス率が小さくなるにはある時間を要する。
【0105】
これに対して急減速時の回転低下は急激であるため、フュエルカットからの復帰時には、まだ燃焼室5内の総残留ガス率が小さくなっておらず、燃焼室5内の燃焼状態が不安定なままである。
【0106】
従って、なにもせずに放っておけばエンジンストールを引き起こす場合があるのであるが、本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、フュエルカット直後の燃焼室5内の残留ガス率の増加は、フュエルカット開始直前の燃焼室5内の残留ガス率に対応するものとして、フュエルカット開始直前の燃焼室5内の残留ガス率が規定値以上あるとき、急減速時のフュエルカットからの復帰時に燃焼状態が悪化していると推定し、急減速時のフュエルカットからの復帰に際して、こうして悪化している燃焼室5内の燃焼状態に対して、積極的に燃焼改善を施すようにした。
【0107】
例えば第1実施形態(請求項2に記載の発明)では、フュエルカットからの復帰時に点火プラグ14によりエンジン運転1サイクル当たり2回の多重点火が行われるので、燃焼室5内の総残留ガス率が高い状態においても燃焼室5内混合気への着火確率が向上し、また、第2実施形態(請求項3に記載の発明)では、フュエルカットからの復帰回転速度が高く設定され、通常減速時に対して吸入空気量が増加した状態でフュエルカットからの復帰が行われるため発生トルクが向上し、これらによりフュエルカット復帰時に総残留ガス率が高い状態においても安定した燃焼を確保することができる。
【0108】
このようにして、フュエルカットからの復帰時における燃焼悪化が改善されると、エンジンストールに至る事態を回避できる。これより、定常時や緩やかな加速時に、EGR弁26により大量のEGRを行ったり、VTC機構29を用いて吸排気弁のオーバーラップ量を大きくして燃焼室5内に大量の不活性ガスを残留させることが可能となり、一層の燃費向上とNOx低減を図ることができる。
【0109】
実施形態では、EGR装置と、VTC機構の両方を備える場合で説明したが、これに限られるものでなく、少なくとも一方を備えるものに本発明の適用がある。また、VTC機構は可変動弁機構の一例であり、可変動弁機構が実施形態のものに限られるわけでない。
【0110】
実施形態では、燃焼状態の改善のため、多重点火による場合と、フュエルカット復帰下限回転速度を通常減速時よりも高回転側に設定する場合とを別々に示したが、両方を同時に採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態のシステム概略図。
【図2】通常減速時と急減速時の違いを説明するための波形図。
【図3】第1実施形態の作用を説明するための波形図。
【図4】第2実施形態の作用を説明するための波形図。
【図5】フュエルカット実行フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図6】多重点火許可フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図7】総残留ガス率の演算を説明するためのフローチャート。
【図8】目標EGR率の特性図。
【図9】基本内部不活性ガス率の特性図。
【図10】補正係数の特性図。
【図11】オーバーラップ量の特性図。
【図12】フュエルカット復帰フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図13】点火回数及び燃料噴射パルス幅の演算を説明するためのフローチャート。
【図14】アイドル回転速度制御を説明するためのフローチャート。
【図15】第2実施形態の復帰下限回転速度アップフラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図16】第2実施形態のフュエルカット復帰フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図17】第2実施形態の燃料噴射パルス幅の演算を説明するためのフローチャート。
【図18】第2実施形態のアイドル回転速度制御を説明するためのフローチャート。
【図19】目標カム位相の特性図。
【図20】総残留ガス率に対する燃焼安定度、燃費の特性図。
【符号の説明】
14 点火コイル
15 点火プラグ
22 燃料インジェクタ
25 EGR通路
26 EGR弁
29 VTC機構(可変動弁機構)
31 エンジンコントローラ
43 アイドルスイッチ
Claims (11)
- 許可条件が成立したときフュエルカットを行い、その後にフュエルカットからの復帰条件が成立したとき燃料供給を再開するようにしたエンジンの制御装置において、
フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量が規定値以上でありかつ急減速時のフュエルカットであるとき、フュエルカットからの復帰に際して燃焼室内の燃焼状態に改善を施す燃焼改善手段
を備えることを特徴とするエンジンの制御装置。 - 前記フュエルカット復帰に際しての燃焼改善を、1サイクル当たり複数回の多重点火または1サイクル当たり複数箇所での多点点火により行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
- 前記燃料供給の停止後にエンジン回転速度がフュエルカット復帰回転速度以下となったとき前記フュエルカット復帰条件が成立する場合に、前記フュエルカット復帰に際しての燃焼改善を、フュエルカット復帰下限回転速度を通常減速時よりも高回転側に設定することにより行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
- EGR通路と、EGR率を制御し得るEGR弁とを備え、前記フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量を、フュエルカット開始時または開始直前のEGR率またはEGR弁開度に応じて算出することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
- EGR通路と、EGR率を制御し得るEGR弁とを備え、前記燃料供給の停止を開始するときEGR弁を閉じることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
- 少なくとも吸気弁の弁作動態様を運転条件に応じて変更し得る可変動弁装置を備え、前記フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量を、フュエルカット開始時または開始直前の弁作動態様に応じて算出することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
- EGR通路と、EGR率を制御し得るEGR弁と、少なくとも吸気弁の弁作動態様を運転条件に応じて変更し得る可変動弁装置と備え、前記フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量を、フュエルカット開始時または開始直前のEGR率またはEGR弁開度から求まる外部不活性ガス率または外部不活性ガス量と、弁作動態様から求まる内部不活性ガス率または内部不活性ガス量とに基づいて算出することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
- 前記規定値は一定値であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
- 前記多重点火の回数または前記多点点火の箇所数を、フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量に応じて定めることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの制御装置。
- 前記多重点火または多点点火を、アイドルを維持するまでの期間行うことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの制御装置。
- 燃前記フュエルカット復帰回転速度を、フュエルカット開始時または開始直前の燃焼室内の残留ガス率または残留ガス量に応じて設定することを特徴とする請求項3に記載のエンジンの制御装置。
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