図1及び図2は、本発明に係るエンジンの始動装置を有する4サイクル火花点火式エンジンの外略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド3及びシリンダブロック4を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2とを備えている。
上記エンジン本体1には、4つの気筒(#1気筒5A、#2気筒5B、#3気筒5C及び#4気筒5D)が設けられているとともに、各気筒5A〜5Dの内部には、クランク軸6に連結されたピストン7が嵌装されることにより、その上方に燃焼室8が形成されている。
上記各気筒5A〜5Dの燃焼室8の頂部には、プラグ先端が燃焼室8内に臨むように点火プラグ9が設置されている。点火プラグ9には、これに電気火花を発生させるための点火装置10が付設されている。また、上記燃焼室8の側方には、当該燃焼室8内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁11が設けられている。
この燃料噴射弁11は、図外のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、上記ECU2の燃焼制御部12から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ9の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
また、上記各気筒5A〜5Dの燃焼室8の上部には、燃焼室8に向かって開口する吸気ポート13及び排気ポート14が設けられているとともに、これらのポート13、14に、吸気弁15及び排気弁16がそれぞれ装備されている。
上記吸気弁15は、図外の動弁機構によって、図5の符号L1に示すようなタイミングで駆動される。つまり、上記吸気弁15は、排気上死点より前の段階で開弁されるとともに、吸気下死点より前の段階で閉弁される。
一方、上記排気弁16は、動弁機構17によって、排気行程中に行なわれる通常開弁動作及び吸気行程中に行われる再開弁動作の駆動が可能とされている。
図3及び図4は、動弁機構17の具体的構成を示す斜視図及び側面断面図である。
図1、3及び4を参照して、動弁機構17は、排気弁16駆動用のカムシャフト18に設けられた比較的リフト量の大きい通常開弁動作用の第1カム19と比較的リフト量の小さい再開弁動作用の第2カム20とを備えるとともに、これら両カム19、20と吸気弁15との間に設けられて、吸気弁15を第1カム19で駆動する状態と第2カム20で駆動する状態とに切り換える切換機構21とを備えている。
上記第1カム19は、2つ一組で対をなしており、第2カム20は、カムシャフト18の軸方向において、第1カム19の間に配置されている。また、これら第1カム19及び第2カム20は、後述する排気弁16の開弁動作(図5参照)を実行するように、それぞれカムシャフト18の軸線回りに位置ずれして配置されている。
上記切換機構21には、第2カム20に対応した位置に設置されるセンタタペット22と、第1カム19に対応した位置に設置される一対の突部23を備えたサイドタペット24とが設けられ、このサイドタペット24の底部と、上記センタタペット22の底面との間には、センタタペット22の上面を第2カム20に圧接させる方向に付勢する一対の圧縮コイルばね25が配設されている。
また、センタタペット22及びサイドタペット24の両突部23には、相対応したロック孔26、27がそれぞれ形成され、センタタペット22が図4に示す上昇位置にある場合に、上記ロック孔26、27が連通状態となるように構成されている。また、上記センタタペット22のロック孔26内には、第1及び第2のロックピン28、29がその軸方向に摺動可能に配設されている。上記サイドタペット24の両突部23の一方に設けられたロック孔27には、上記ロックピン29の先端部が嵌入される凹部を有する第1ホルダ30が配設されるとともに、上記両突部23の他方に設けられたロック孔27には、プランジャ31を保持する第2ホルダ32が配設されている。
上記センタタペット22のロック孔26内には、第1のロックピン28を基端部側(プランジャ31側)に付勢する圧縮コイルばね33と、第2のロックピン29を第1ロックピン28側に付勢する圧縮コイルばね34とが配設されている。
そして、サイドタペット24に形成された作動油給排用の通路35を介して切換機構21への作動油の供給が停止されている通常時には、図4に示すように、上記圧縮コイルばね33、34の付勢力により、第1のロックピン28が第2ホルダ32とセンタタペット22のロック孔26とに跨った状態で収容されるとともに、第2のロックピン29が、第1ホルダ30内に収容されることにより、センタタペット22とサイドタペット24とが連結状態に保持された状態となる。これにより、第1カム19及び第2カム20で排気弁16が作動される。
一方、上記作動油給排用の通路35から上記プランジャ31と第2ホルダ32の底部との間に作動油が供給されると、プランジャ31により押された第1のロックピン28がセンタタペット22のロック孔26内に収容されるとともに、上記第2のロックピン29が、第1ホルダ30内に収容されることにより、センタタペット22とサイドタペット24との連結状態が切り離される。この状態では、サイドタペット24に対してセンタタペット22が相対変位(上下動)するので、第2カム20に駆動されるセンタタペット22の駆動力が、上記サイドタペット24を介して吸気弁15に伝達されることが阻止される一方、第1カム19により排気弁16が作動される。
そして、上記動弁機構17により、上記排気弁16は、図5の符号L2で示す通常開弁動作、及び符号L3で示す再開弁動作が実行される。つまり、排気弁16は、上記第1カム19によって符号L2で示すように下死点の直前から上死点の直後まで開かれるとともに、上記第2カム20によって符号L3で示すように吸気行程の途中から下死点の後の段階まで開かれる。
つまり、当実施形態では、符号L1で示すように吸気弁15を上死点手前から下死点よりも前の段階までの間で開弁させる一方、符号L3に示すように排気弁16を吸気行程の途中で開弁させるとともに上記吸気弁15よりも遅く閉弁させるようにしている。
この排気弁16の再開弁動作により、排気行程で排出された既燃ガスを内部EGRガスとして比較的大量に気筒内に導入することができる。
なお、当実施形態では、上記第1カム19及び第2カム20を有するカムシャフト18と、上記切換機構21と、この切換機構21に対して作動油を供給する図外の作動油供給手段が、弁駆動手段の一例を構成している。
再び図1及び2を参照して、上記吸気ポート13及び排気ポート14には、吸気通路36及び排気通路37が接続されている。上記吸気ポート13に近い吸気通路36の下流側は、各気筒5A〜5Dに対応して独立した分岐吸気通路36aとされ、この各分岐吸気通路36aの上流端がそれぞれサージタンク36bに連通している。このサージタンク36bよりも上流側には共通吸気通路36cが設けられるとともに、この共通吸気通路36cには、アクチュエータ38により駆動されるスロットル弁39が配設されている。このスロットル弁39の上流側には、吸気流量を検出するエアフローセンサ40及び吸気の温度を検出する吸気温センサ41が設けられ、スロットル弁39の下流側には吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ42が設けられている。
また、エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸6に連結されたオルタネータ43が付設されている。このオルタネータ43は、図示を省略したフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調整することにより発電量を調整するレギュレータ回路43aを内蔵し、このレギュレータ回路43aに入力される上記ECU2からの制御信号に基づき、車両の電気負荷及び車載バッテリの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、クランク軸6の回転角を検出する2つのクランク角センサ44、45が設けられ、一方のクランク各センサ44から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、後述するように上記両クランク各センサ44、54から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸6の回転方向及び回転角度が検出されるようになっている。
また、エンジン本体1には、上記カムシャフト18に設けられた気筒識別用の特定回転位置を検出するカム各センサ46と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ47とが設けられ、また、車体側には運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ48が設けられている。
ECU2は、エンジンの運転を統括的に制御するコントロールユニットである。当実施形態のエンジンは、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに各気筒5A〜5Dへの燃料供給を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジンを停止させるとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行われる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる制御(アイドルストップ制御)を行うように構成されている。以下、ECU2の説明にあたり、このアイドルストップ制御に関する部分を中心に説明する。
ECU2は、エアフローセンサ40、吸気圧センサ42、クランク角センサ44、45、カム角センサ46、水温センサ47及びアクセル開度センサ48からの各検知信号が入力されるとともに、燃料噴射弁11、スロットル弁39のアクチュエータ38、点火装置10、オルタネータ43のレギュレータ回路43a及び図外のスタータモータのそれぞれに各駆動信号を出力する。ECU2は、燃焼制御部12、発電量制御部49、ピストン位置検出部50、筒内温度推定部51及びVVL(Variable Valve Lift)制御部52を機能的に含んでいる。
燃焼制御部41は、主に燃料噴射時期、各噴射における燃料噴射量、点火時期、吸気流量等を設定して、各気筒内5A〜5Dにおける燃焼を制御する。
燃料噴射量及び燃料噴射時期に関しては、これらを適切に設定し、その制御信号を燃料噴射弁11に出力する。特に当実施形態では、後述するように再始動時における膨張行程気筒での最初の燃焼のための燃料を分割噴射によって供給している。燃焼制御部41は、その分割噴射時期の設定や、燃料配分の設定も行う。
点火時期に関しては、各気筒5A〜5Dに対して適切な点火時期を設定し、各点火装置10に点火信号を出力する。
吸気流量に関しては、各気筒5A〜5Dに対して適切な吸気流量を設定し、その吸気流量に応じたスロットル弁39の開度信号をアクチュエータ38に出力する。特に当実施形態では、後述するようにエンジンの自動停止時期の途中でスロットル弁39の開度を絞って、各気筒5A〜5Dに対する吸気流量を少なくするようになっている。
発電量制御部49は、オルタネータ43の適切な発電量を設定し、その駆動信号をレギュレータ回路43aに出力する。特に当実施形態では、後述するようにエンジンの自動停止時にオルタネータ43の発電量を調節することによってクランクシャフト6の負荷を変化させ、ピストン7が再始動に適した適正範囲に停止するような制御を行っている。また、再始動時には、通常よりも多めの発電を行うことによってエンジンの負荷を増大させ、吹き上がり(必要以上に急速なエンジン回転速度の上昇)を防止する制御を行っている。
ピストン位置検出部50は、クランク各センサ44、45の各検出信号に基づき、ピストン位置を検出する。ピストン位置とクランク角(°CA)とは1対1に対応するので、一般的になされているように当明細書においてもピストン位置をクランク角で表す。当実施形態では、後述するように膨張行程気筒及び圧縮行程気筒の自動停止中のピストン位置に基づいて各筒内空気量を算出し、それに応じて再始動時における各気筒5A〜5Dの燃焼制御を行っている。
筒内温度推定部51は、水温センサ47によって検知されるエンジン水温や、吸気温センサ41によって検知される吸気温度等に基づいて、予め実験等によって求められたマップを用いる等して各気筒5A〜5Dの気筒内の空気温度を推定するようになっている。
VVL制御部52は、図外の作動油供給手段を制御して上記切換機構21に対する作動油の供給又は停止を切り換えることにより、当該切換機構21による排気弁16の再開弁動作のON又はOFF(以下、VVL制御の実行、停止と称す)を切り替えるようになっている。
次に当実施形態のアイドルストップ制御について以下説明する。アイドルストップ制御では、所定のエンジン自動停止条件が成立したときに燃料供給を停止させてエンジンを停止させ、そのエンジン停止後において所定の再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させる。当実施形態では、燃料供給停止後のエンジン自動停止期間の途中で上記再開弁動作を停止させるようにしている。これにより、上記自動停止期間の途中で再始動条件が成立した場合に再開弁動作を実行させたままエンジンを再始動させることができるので、燃料供給停止後に再開弁動作を停止する場合と比較して、再開弁動作の切り換え頻度の増加を抑制することができる。
そして、再始動に際しては、まず圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン7を押し下げてクランク軸6を少しだけ逆転させる。これによって膨張行程気筒のピストン7を一旦上昇(上死点に近づける)させ、その気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させている。この燃焼によって、クランク軸6に正転方向の駆動トルクを与えてエンジンを再始動させている。
上記のようにして特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒(当実施形態では圧縮行程気筒及び吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。したがって、膨張行程気筒に充分な空気量を確保しておく必要がある。
図6(a)、(b)に示すように、圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれているため、各ピストン7が互いに逆方向に作動する。膨張行程気筒のピストン7が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン7が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎて、再始動時の初回燃焼でクランク軸6を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
これに対して上記膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置よりもやや上死点側の所定範囲R、例えば圧縮上死点後のクランク角が100〜120°CAとなる範囲R内にピストン7を停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランク軸6を少しだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランク軸6を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる(以下、この範囲Rを適正停止範囲Rとする)。
ピストン7を適正停止範囲R内に停止させるよう、ECU2によって次のような制御がなされる。図7は、この制御によるエンジン自動停止時のタイムチャートであり、エンジンの回転速度Ne、クランク角CA、VVL制御のON又はOFF、スロットル弁39の開度K及び各気筒の行程推移を示す。なお、以下説明を簡潔にするため、#1気筒12Aが膨張行程気筒、#2気筒12Bが排気行程気筒、#3気筒12Cが圧縮行程気筒、#4気筒12Dが吸気行程気筒であるものとする。
ECU2は、エンジンの自動停止条件が成立した時点t0で、エンジンの目標速度を、エンジンを自動停止させない時の通常のアイドル回転速度(以下、通常運転時のアイドル回転速度という)よりも高い値、例えば通常アイドル回転速度が650rpm(自動変速機はドライブ(D)レンジ)に設定されたエンジンでは上記目標速度(自動停止条件成立時のアイドル回転速度)を850rpm程度(自動変速機はニュートラル(N)レンジ)に設定することにより、エンジン回転速度Neを通常のアイドル回転速度よりも少し高い回転速度で安定させる制御を実行する。また、上記時点t0までの通常運転時には、上記VVL制御が実行(ON)されている。さらに、ブースト圧Btが比較的高い所定の値(約−400mmHg)で安定するようにスロットル弁39の開度Kを調節する。
そして、エンジンの回転速度Neが目標速度に安定した時点t1で燃料噴射を停止させてエンジンの回転速度Neを低下させる。また、エンジンを自動停止させる制御動作の初期段階である上記燃料噴射の停止時点t1で、スロットル弁39の開度Kを、気筒内空燃比を空気過剰率λ=1にしたときのアイドル時の吸気流量(エンジン運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量)よりも多い吸気流量となるように設定する。すなわち、上記時点t1直前の燃焼状態が、気筒内空燃比が空気過剰率λ=1ないしλ=1付近に設定されて均質燃焼されている場合はスロットル弁39の開度Kを増大させ(例えば開度K=30%程度)、気筒内空燃比がリーンに設定されて成層燃焼されている場合はスロットル弁39の開度Kをそのまま(成層燃焼時の比較的大きな開度のまま)維持する。図7は前者の場合を示している。
この制御によって時点t1からやや遅れてブースト圧Btが増大し始める(時点t1直前が均質燃焼の場合)か、又は比較的高いブースト圧Btを維持する(時点t1直前が成層燃焼の場合)ので、この時点t1においては上記再開弁動作が実行されて排気ガスの掃気性能が低下するものの、上記ブースト圧Btの増大又は比較的高いブースト圧Btの維持により排気ガスの掃気性能を補うことができる。
また、ECU2は、時点t1でオルタネータ43の発電を一旦停止させる。これによってクランク軸6の回転抵抗を低減し、エンジンの回転速度Neが早く停止し過ぎないようにしている。
時点t1以降はエンジンが惰性で回転するため、エンジンの回転速度Neが次第に低下し、やがて時点t6で停止するが、このエンジンの回転速度Neの低下は、図7に示すように、小刻みなアップダウン(4気筒4サイクルエンジンでは10回前後)を繰り返しながら低下していく。
図7に示すクランク角CAのタイムチャートは、実線が#1気筒5A及び#3気筒5Cの上死点(TDC)を0°CAとした場合のクランク角を示し、一点鎖線が#2気筒5B及び#4気筒5Dの上死点を0°CAとした場合のクランク角を示している。実線と一点鎖線とは90°CAを境に互いに逆位相となっている。4気筒4サイクルエンジンでは、180°CAごとに何れかの気筒が順次圧縮上死点を迎えるので、このタイムチャートは、実線又は一点鎖線で示す波形の頂点(クランク角=0°CA)において何れかの気筒が圧縮上死点を通過していることを示している。
この何れかの気筒が圧縮上死点となるタイミングは、上記エンジンの回転速度Neのアップダウンの谷のタイミングと一致している。つまり、エンジンの回転速度Neは、各気筒が順次圧縮上死点を迎える度に一時的に落ち込んだ後、その圧縮上死点を越えた時点で再び上昇するという小刻みなアップダウンを繰り返しながら次第に低下するのである。
そして、最後の圧縮上死点を通過した時点t5の後に圧縮上死点を迎える圧縮行程気筒5Cでは、慣性力によるピストン7の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン7が上死点を超えることなく押し返されてクランク軸6が逆転する。このクランク軸6の逆転によって膨張行程気筒5Aの空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒5Aのピストン7が下死点側に押し返されてクランク軸6が再び正転し始め、このクランク軸6の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン7が往復作動した後に停止することになる。このピストン7の停止位置は、圧縮行程気筒5C及び膨張行程気筒5Aにおける圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、吸気行程気筒5Dの吸気抵抗やエンジンの摩擦等の影響を受け、上記最後の圧縮上死点を越えた時点t5のエンジンの回転慣性、つまり、エンジン回転速度Neの高低によっても変化することになる。
したがって、膨張行程気筒5Aのピストン7を適正停止範囲R内に停止させるためには、まず膨張行程気筒5A及び圧縮高低気筒5Cの圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ膨張行程気筒5Aの圧縮反力が圧縮高低気筒5Cの圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒に対する吸気流量を調節する必要がある。
このために、燃料噴射の停止から所定時間が経過した時点t2でスロットル弁39を閉止してその開度Kを低減させることによりブースト圧Btを下げて、膨張行程気筒5A及び圧縮行程気筒5Cのそれぞれについて、エンジン停止前最後の吸気行程での吸気量が少なくなるようにしている。
これに加えて、当実施形態では、膨張行程気筒5Aの最後の吸気行程における吸気下死点を越えた時点t4において上記VVL制御を停止することにしている。これにより、最後の吸気行程において、膨張行程気筒5Aには吸気弁及び排気弁から空気を吸入させることができる一方、圧縮行程気筒5Cには吸気弁のみから空気を吸入させることになるので、上記スロットル弁39の開度Kの調節と相俟って、より確実に、圧縮行程気筒5Cよりも膨張行程気筒5Aの吸気流量を多くすることができる。
特に、上記スロットル弁39の開度Kを調節する場合には燃焼室8内までの距離(つまり、共通吸気通路36c、サージタンク36b及び分岐吸気通路36aの通路長)に起因して当該開度Kの調節から吸気流量の変化までにタイムラグが生じるのに対し、VVL制御では排気弁16の開閉によって燃焼室8内への気体の連通経路を遮断するようにしているので、VVL制御の停止から吸気流量の変化までに即時性を持たせることができる結果、上記時点t4において確実に圧縮行程気筒5Cに対する吸気流量を減らすことができる。
ところで、このようにしてエンジンを自動停止させ、エンジン回転速度が低下する過程において、各気筒5A〜5Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)neと、膨張行程気筒5Aのピストン停止位置との間に明確な相関関係がある。すなわち、各段階(停止前から2番目、3番目、4番目・・・)の上死点回転速度neがそれぞれ一定の速度範囲内にあるときに膨張行程気筒5Aのピストン停止位置が適正停止範囲R内となる確率が高くなるのである。
この特性を利用し、当実施形態ではエンジン回転速度Neの低下過程における所定の段階(特に重要なのは停止前から2番目〔時点t4〕)の上死点回転速度neが一定の速度範囲内となるような制御を行って、膨張行程気筒5Aのピストン7がより確実に適正停止範囲R内で停止するような制御を行っている。具体的には、オルタネータ43の発電量を増減させることによってクランク軸6の負荷(エンジン負荷)を調節し、停止前から2番目の上死点回転速度ne(時点t4)が、350±50rpmの範囲内となるようにしている。
エンジン回転速度Neがさらに低下し、最後の圧縮上死点通過時期(図7に示す時点t5)を過ぎると、何れの気筒も上死点を通過することなく、行程の推移はなされなくなる。ピストン7は、その行程内で減衰振動(逆向きに動くときはクランク軸6が逆転し、エンジンの回転速度Neが負になる)しつつ狙いの適正停止範囲Rに停止しようとする。しかし、このとき吸気行程気筒5Dは、吸気動作を行っており、その吸気抵抗が大きいとピストン7の停止位置がばらつき易くなる。特に、吸気抵抗は、ピストン7が下死点側に動くときに大きくなるように作用するので、ピストン7が狙いよりも上死点よりに停止し易くなる。吸気行程気筒5Dのピストン7と膨張行程気筒5Aのピストン7とは同位相で動くので、結局膨張行程気筒5Aのピストン7が狙いよりも上死点よりに停止し易くなってしまう。
そこで、当実施形態では、時点t5と略同時(やや遅らせても良い)にスロットル弁39の開度Kを図7に示す開度K1(例えば、K1=40%程度)まで増大させ、吸気行程気筒5Dの吸気抵抗を低減している。これによって膨張行程気筒5A及び圧縮行程気筒5Cにおける吸気流量バランスに影響を及ぼすことなく、そのバランスに応じた狙いの位置にピストン7がより停止し易くなっている。
なお、このような制御を行うためには、時点t5が最後の圧縮上死点通過時期であることを即時に判別する必要があり、次の(圧縮行程気筒5Cでの)圧縮上死点は通過しないことを時点t5において予測しなければならない。そのため、当実施形態では、ECU2が最後の上死点通過時期を判別するようにしている。ECU2は、各上死点通過時のエンジン回転数と、予め実験等で求められた所定の回転速度(例えば、260rpm)とを比較し、前者が後者以下となった時点で、それが最後の圧縮上死点時期であると判別する。なお、最後の圧縮上死点通過時期における上死点回転速度neは、高いほど行程後期寄り(膨張行程気筒5Aのピストン停止位置が下死点寄り、圧縮行程気筒5Cが上死点寄り)で停止しやすくなる。
さらに、ECU2は、停止前2番目の上死点通過時期(上記時期t4)を判別するようにしている。具体的に、ECU2は、各上死点通過時のエンジン回転数が予め実験等で求められた停止前3番目の上死点回転速度範囲N3(例えば、420〜470rpm:図7参照)の範囲内であると判定された場合に、次に迎える上死点が停止前2番目の上死点通過時期であると判別する。ここで得られた停止前2番目の上死点通過時期(時点t4)に基づいて、上記再開弁動作を停止させることになる。
次にエンジンを自動停止させる際のECU2の制御動作を図8及び図9に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、これらのフローチャートは、気筒内の空燃比が理論空燃比、ないし理論空燃比付近に設定された均一燃焼からのエンジン自動停止制御のフローチャートである。
この制御動作がスタートすると、まず各種センサ類から出力された検出信号に基づいてエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、冷却水温度が所定の自動停止許可温度(例えば、60℃)以上であり、ブレーキスイッチのON状態が所定時間にわたり継続し、かつバッテリ残量が予め設定された基準値以上であり、車速が所定値(例えば、10km/h)以下の状態であること等が確認された場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定され、上記要件の一つでも満たされていない場合には、エンジンの自動停止条件が成立していないと判定される。
上記ステップS1でYESと判定されてエンジンの自動停止条件が成立したことが確認された場合には、自動変速機のシフトをニュートラルに設定して無負荷状態とするとともに(ステップS2)、エンジン回転速度Neの目標値(目標速度)を通常のアイドル回転速度よりも高い所定速度N1(例えば、850rpm程度)に設定する(ステップS3)。また、ブースト圧Btが例えば−400mmHg程度に設定された目標圧P1となるようにスロットル弁39の開度Kを調節(スロットル弁39を開弁方向に操作)するとともに(ステップS4)、エンジンの回転速度Neが目標の所定速度N1となるように点火時期のリタード量を算出する(ステップS5)。これにより、上記ブースト圧Btを目標圧P1とするためにスロットル開度Kがフィードバックされるとともに、エンジンの回転速度Neを所定速度N1とするために点火時期のリタード量がフィードバックされる(エンジン回転速度のフィードバック制御が実行される)ことになる。
なお、上記ステップS1において、エンジンの自動停止条件の判定を、車速が10km/h以下に低下した時点で実行するようにしているので、エンジンの自動停止条件成立時のアイドル回転速度(所定速度N1)を、エンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度(例えば、自動変速機のDレンジ状態において650rpm)よりも高い値(850rpm)に設定でき、エンジン回転速度が通常のアイドル回転速度(650rpm)に低下する前に、上記ステップS2〜S5が実行できる。よって、一旦、通常のアイドル回転速度まで低下したエンジン回転速度を目標回転速度N1(850rpm)まで上昇させる必要がなく、運転者に対して、エンジン回転速度の上昇に伴う不快感を与えることがない。
さらに、上記のように自動停止条件成立時のアイドル回転速度を一旦通常のアイドル回転速度よりも高い値とすることにより、自動停止条件成立からしばらくの間実行される上記再開弁動作に伴って低下する掃気性能を、後述する燃料供給停止後において補うことができる。
次いで、燃料噴射の停止条件が成立したか否か、具体的にはエンジン回転速度Neが目標の所定速度N1となるとともに、ブースト圧Btが上記目標圧P1となったか否かを判定し(ステップS6)、NOと判定された場合には、ステップS4に戻って上記制御動作を繰り返す。そして、上記ステップS6でYESと判定された時点(図7の時点t1)で、スロットル弁39を比較的大きな開度(30%程度)に開弁させ(ステップS7)、オルタネータ43の発電量を0に設定して発電を停止させるとともに(ステップS8)、燃料噴射を停止する(ステップS9)。なお、上記ステップS7でスロットル弁39を開けることにより、各気筒への吸気流量を増加させて、上記再開弁動作に伴い低下する掃気性能を補うことができる。
その後、燃料噴射の停止時期t1の後に、エンジンの回転速度Neが低下し始めたことを判定するために、エンジンの回転速度Neが予め760rpm程度に設定された所定速度N2以下となったか否かを判定する(ステップS10)。そして、ステップS10でYESと判定された時点(図7の時点t2)でスロットル弁39を閉止状態とする(ステップS11)。この結果、上記ステップS7でスロットル弁39を開放して大気圧に近づくようにしたブースト圧Btが、上記スロットル弁39の閉止操作に応じて所定の時間差をもって低下し始めることになる。詳しくは後述するが、このように低下したブースト圧Btに起因して、膨張行程気筒5A及び圧縮行程気筒5Cのそれぞれについて、エンジン停止前最後の吸気行程における吸気量が低減する。
なお、上記ステップS10でエンジンの回転速度Neが所定速度N2以下になったと判定された時点t2でスロットル弁39を閉止状態とするように構成された上記実施形態に代え、ピストン7の圧縮上死点を通過するときのエンジン回転速度、つまりエンジンの上死点回転速度neが所定速度N2以下になったと判定された時点で、スロットル弁39を閉止状態とするように構成しても良い。
次いで、エンジンの上死点回転速度neが、予め設定された760rpm程度に設定された所定速度N2以下になったか否かを判定する(ステップS12)。ここでYESと判定されると、これ以降、予め設定された基準ラインに沿ってエンジン回転速度Neが低下するように制御する。当実施形態では、順次通過する各圧縮上死点時の上死点回転速度neが適正回転速度範囲内となるようにオルタネータ43の発電量を調節する(ステップS13)。具体的には、上死点回転速度neが高めのときは発電量を上げることによって次回の上死点回転速度neが予め設定された基準ラインに近づくようにする。上死点回転速度neが低めのときはその逆に発電量を減少させる。
そして、各気筒が順次圧縮上死点を通過するたびにエンジンの上死点回転速度neが所定値範囲N3(420〜470rpm)であるか否かを判定する(ステップS14)。この所定値N3は、予め設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Neが低下している過程で、エンジン停止前3番目の上死点回転速度neがとり得るエンジン回転速度であって、実験等により予め測定された範囲である。
上記ステップS14の判定がNOである間はステップS14に戻ってその制御が繰返され、ステップS14の判定がYESになると、次いでエンジン停止前2番目の上死点を迎えたか否かを判定する(ステップS15)。このステップS15の判定がNOである間はステップS15を繰り返し実行する一方、ステップS15の判定がYESとなると、上記VVL制御を停止させる(ステップS16)。
つまり、このステップS16では、図7の時点t4においてVVL制御を停止させる。この結果、膨張行程気筒5Aの吸気行程後、圧縮行程気筒5Cの吸気行程前にVVL制御が停止されるので、エンジン停止時における、膨張行程気筒5Aの吸気流量が多く、圧縮行程気筒5Cの吸気流量が少なくなる。したがって、膨張行程気筒5Aの圧縮反力が大きくなり、圧縮行程気筒5Cの圧縮反力が小さくなるので、エンジン停止時に膨張行程気筒5Aのピストン7を適正停止範囲R内に停止させる確立を高くすることができる。
特に当実施形態では、上記ステップS10においてスロットル弁39が閉止されていることにより、膨張行程気筒5A及び圧縮行程気筒5Cのそれぞれについて、エンジン停止前最後の吸気行程における吸気量が減らされているものの、上記VVL制御を実行することにより、各気筒5A及び5Cに対する吸気量を補うことができる。
次に、上死点速度neが停止前最後の上死点回転速度N4以下であるか否かを判定する(ステップS17)。この所定値N4は、予め設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Neが低下している過程で最後の圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度に対応した値であり、例えば260rpm程度に設定されている。
上記ステップS17の判定がNOである間はステップS17を繰り返し実行する一方、ステップS17の判定がYESとなると、スロットル弁39を所定の大きな開度(例えば、40%)に開弁させる(ステップS18)。
その後、エンジンの回転速度Neがさらに低下することに従い、エンジンが停止状態になったか否かを判定し(ステップS19)、YESと判定された時点(図7中のt7)で、後述するように上記クランク角センサ44、45の検出信号に基づいてピストン7の停止位置を検出する制御を実行した後(ステップS20)、制御動作を終了する。
以上のような自動停止の制御によると、ピストン停止位置が適正停止範囲R内となる確率が高められる。
すなわち、図7に示すように、エンジンの自動停止動作の初期には掃気のためにスロットル弁39が開度K1に開かれるが、次に一旦スロットル弁39が閉じられて吸気流量が少なくされ、その後、膨張行程気筒5Aのピストン7がエンジン停止前最後の上死点を通過する時期t4に再開弁動作が停止されることにより、当該膨張行程気筒5Aの停止前最後の吸気行程では吸気量が多く、圧縮行程気筒5Cの停止前最後の吸気行程では吸気量が少なくなる。したがって、相対的に膨張行程気筒5Aは圧縮抵抗が高く、圧縮行程気筒5Cは圧縮抵抗が低くなる。
これと相俟って、停止前最後の上死点を越えた時点t5(ステップS19)においてスロットル弁39を開放することにより吸気行程気筒5Dの吸気抵抗が低下するので、膨張行程気筒5Aのピストン7が膨張行程の中間より下死点側の位置、つまり適正停止範囲R(図6参照)内に停止する確率が高くなる。
このような位置に膨張行程気筒5Aのピストン7を停止させることにより、後述するように、エンジン再始動時に始動性能が高められることになる。
図10は、上記フローチャートのステップS20において実行されるピストン停止位置の検出制御動作を示している。この検出制御がスタートすると、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ44からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、又は第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する(ステップS21)。これにより、エンジンの停止動作時における上記信号CA1、CA2の位相の関係が、図11(a)のようになるか、それとも図11(b)のようになるかを判定してエンジンが正転状態にあるか逆転状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジンの正転時には、図11の(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図11(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、ステップS21の判定がYESであれば、エンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS22)、ステップS21の判定がNOの場合は、上記CAカウンタをダウンする(ステップS23)。そして、エンジン停止後に上記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS24)。
なお、上述した自動停止制御と並行して、再始動条件が成立したか否かが常に判定されており、ここで再始動条件が成立したと判定された場合、例えば、アクセル操作等が行われた場合、バッテリ電圧が低下した場合、あるいはエアコンが作動した場合等には、図12に示す停止前再始動制御が実行される。
この停止前再始動制御では、まず、上死点回転速度neが上記上死点速度Ne4以下であるか否かを判定する(ステップS71)。つまり、ステップS71では、上記時点t4以降の時点で再始動条件が成立したか否かを判定し、ここでYESと判定されると、上記VVL制御を再開する(ステップS72)。次に、自動変速機のシフトをニュートラル(Nレンジ)からドライブ(Dレンジ)に変更する(ステップS73)とともに、燃料噴射を再開して(ステップS74)、通常制御に移行する。
一方、上記ステップS71でNOと判定されると、当該上死点速度neが上記上死点速度N2以下であるか否かを判定する(ステップS75)。ここで、YESと判定されると、上記ステップS73以降の処理を実行する一方、NOと判定されると、原時点におけるクランク角を検出してこれを記憶する(ステップS76)。
このステップS76の時点ではエンジンが惰性で回転しているが、次いで、ステップS76で記憶されたクランク角からクランク軸6が720°CA分経過したか否か、つまり各気筒5A〜5Dの行程が1巡したか否かを判定する(ステップS77)。ここで、NOと判定されると、繰り返しステップS77を実行する一方、YESと判定されると、上記ステップS73以降の処理を実行する。
このように、当実施形態では、燃料噴射の停止(時点t1)から所定時間(当実施形態では時点t4)までの間に再始動条件が成立した場合には、VVL制御を実行したまま通常制御に移行させることができるので、上記切換機構21の切り換え頻度を低減することができ、その結果、当外切換機構21の消耗を抑制することができる。
また、上記停止前再始動制御においては、燃料停止直後(当実施形態では時点t2までの間)に再始動条件が成立した場合に、各気筒5A〜5Dの行程を1巡経過させた後、燃料噴射を再開するようにしているので、燃料噴射停止直後に各気筒5A〜5D内に残留するガス等を1巡する行程の間に排出させて、当該残留ガス等による燃焼不良等を抑制することができ、その結果、再始動性能の向上を図ることができる。
一方、上記停止前再始動制御が実行されずに自動停止状態となったエンジンを再始動させる際の制御動作を図12に示すタイムチャートと、図13〜図15に示すフローチャートとに基づいて説明する。まず、所定のエンジン再始動条件が成立したか否かを判定し(ステップS101)、YESと判定された場合、例えば、停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われた場合、バッテリ電圧が低下した場合、あるいはエアコンが作動した場合等には、エンジン水温、自動停止からの経過時間、吸気温度等に基づいて筒内温度を推定する(ステップS102)。
そして、エンジンの自動停止時に検出されたピストン7の停止位置に基づき、圧縮行程5C及び膨張行程気筒5A内の空気量を算出する(ステップS103)。つまり、上記ピストン7の停止位置から圧縮行程気筒5C及び膨張行程気筒5Aの燃焼室容積が求められる。なお、エンジンの自動停止時には、燃料噴射の停止後にエンジンが数回転してから停止するので膨張行程気筒5Aも新気で満たされた状態にあり、かつ、エンジン自動停止期間中に圧縮行程気筒5C及び膨張行程気筒5Aの内部が略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることになる。
次に、上記クランク角センサ44、45の出力信号に応じて検出されたピストン7の停止位置が、圧縮行程気筒5Cにおける適正停止範囲R(上死点前BTDC60°CA〜80°CA)のうち、下死点BDC寄りにあるか否かが判定される(ステップS104)。このステップS104でYESと判定され、圧縮行程気筒5C内の空気量が比較的に多いことが確認された場合には、上記ステップS103で算出された圧縮行程気筒5Cの空気量に対し、λ(空気過剰率)>1なる空燃比(例えば、空燃比=20程度)となるように1回目の燃料噴射を行う(ステップS105)。この空燃比は、ピストン7の停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒5Cの1回目用第1空燃比マップM1から求められ、λ>1というリーン空燃比に設定される。これにより、圧縮行程気筒5C内の空気量が比較的多いときであっても、逆転のための燃焼エネルギーが過多となることが防止される。
一方、上記ステップS104でNOと判定され、圧縮行程気筒5C内の空気量が比較的に少ないときは、上記ステップS103で算出された圧縮行程気筒5Cの空気量に対してλ≦1なる空燃比となるように1回目の燃料噴射を行う(ステップS106)。この空燃比は、ピストン7の停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒5Cの1回目用第2空燃比マップM2から求められ、λ≦1(理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比)に設定されることにより、圧縮行程気筒5C内の空気量が少ないときであっても、逆転のための燃焼エネルギーが充分に得られるようになっている。
次に、圧縮行程気筒5Cへの1回目燃料噴射から気化時間を考慮して設定した所定時間の経過後の時点t7(図13参照)に、当該気筒5Cに対して点火を行う(ステップS107:図13の符号E0)。そして、点火後の一定時間内にクランク角センサ44、45のエッジ、つまりクランク角信号の立ち上がり、又は立ち下がりが検出されたか否かを判定し、つまり、クランク軸6の逆転が生じているか否かを判定し(ステップS108)、NOと判定されて失火が生じてピストン7が動かなかったことが確認された場合には、圧縮行程気筒5Cに対して再点火を行う(ステップS109)。
上記ステップS108でYESと判定されてピストン7が動いたことが確認されると、ピストン7の停止位置及び上記ステップS102で推定した筒内温度に基づいて、膨張行程気筒5Aに対する分割燃料噴射の分割比(1回目の前段噴射と2回目の後段噴射との比率)を算出する(ステップS121)。上記後段の噴射比率は、膨張行程気筒5Aにおけるピストン停止位置が下死点寄りであるほど、また、筒内温度が高いほど大きな値に設定される。
次に、上記ステップS103で算出した膨張行程気筒5Aの空気量に対して所定の空燃比(λ≦1)となるように燃料噴射量を算出する(ステップS122)。この際の空燃比は、ピストン7の停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒5A用の空燃比マップM3から求められる。また、ステップS122で算出された膨張行程気筒5Aへの燃料噴射量とステップS121で算出された分割比とに基づき、膨張行程気筒5Aに対する前段(1回目)の燃料噴射量を算出し、燃料を噴射する(ステップS123)。
次いで、上記ステップS102で推定された筒内温度に基づき、膨張行程気筒5Aに対する後段(2回目)の燃料噴射時期を算出する(ステップS124)。この2回目の噴射時期は、ピストン7が上死点側への移動(エンジンの逆転)を開始した後で、気筒内の空気が圧縮されている時期であるとともに、噴射燃料の気化潜熱が圧縮圧力を効果的に減少させるように、つまり、ピストン7を上死点へ近づけるように設定され、かつ、2回目の噴射燃料が点火時期までに気化する時間が可及的に長くなるように設定される。
次に、ステップS122で算出された膨張行程気筒5Aへの燃料噴射とステップS121で算出された分割比とによって、膨張行程気筒5Aに対する後段(2回目)の燃料噴射量を算出し(ステップS125)、上記ステップS124で算出された2回目の噴射時期に噴射する(ステップS126)。
上記膨張行程気筒5Aへの2回目の燃料噴射後に、所定のディレイ時間が経過した時点t8(図13参照)で点火する(ステップS127:図13の符号E1)。このディレイ時間は、ピストン7の停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒5A用の点火マップM4から求められる。上記点火による膨張行程気筒5Aでの初回燃焼により、エンジンは逆転から正転に転ずる。したがって、圧縮行程気筒5Cのピストン7が上死点側に移動し、気筒内のガス(上記ステップS107の点火によって燃焼した既燃ガス)が圧縮され始める。
次に、燃料の気化時間考慮に入れ、圧縮行程気筒5Cに2回目の燃料を噴射する(ステップS128)。この際の燃料噴射量は、1回目の噴射量を合算した噴射量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりもさらにリッチ(例えば、6程度)になるように、ピストン7の停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒5Cの2回目用空燃比マップM5から求められる。この圧縮行程気筒5Cにおける2回目の噴射燃料による気化潜熱に応じて、圧縮行程気筒5Cの圧縮上死点付近における圧縮圧力が低減されることにより、当該圧縮上死点を容易に越えることが可能となる。
なお、上記圧縮行程気筒5Cへの2回目の燃料噴射は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火、燃焼は行なわれず、可燃空燃比よりもリッチなために圧縮自己着火も起こらず、この不燃燃料は、その後に排気通路37に設けられた図外の浄化触媒によって無害化される。
上記のように圧縮行程気筒5Cにおいて2回目に噴射された燃料は燃焼しないので、図13に示すように、膨張行程気筒5Aでの最初の燃焼E1に続く次の燃焼は、吸気行程気筒5D、つまり、停止時に吸気行程にあった#4気筒5Dでの最初の燃焼E2となる。この吸気行程気筒5Dのピストン7が圧縮上死点を超えるためのエネルギーとしては、膨張行程気筒5Aにおける初回燃焼E1のエネルギーの一部が充てられ、当該膨張行程気筒5Aにおける初回燃焼E1のエネルギーは、圧縮行程気筒5Cが圧縮上死点を乗り越えるためと吸気行程気筒5Dが圧縮上死点を超えるためとの両方に供される。
したがって、円滑な始動のためには吸気行程気筒5Dが圧縮上死点を超えるためのエネルギーが小さいことが望ましく、このために上記吸気行程気筒5D内の空気密度を推定し、その推定値から吸気行程気筒5Dの空気量を算定した後(ステップS140)、上記ステップS102で推定した筒内温度に基づいて、圧縮自己着火を防止するための空燃比補正値を算出する(ステップS141)。すなわち、圧縮自己着火が起こると、その燃焼によって圧縮上死点に至る前にピストン7を下死点側に押し戻す力(ブレーキ)が発生し、その分だけ圧縮上死点を超えるためのエネルギーが多く消費されるので望ましくない。そこで、上記ブレーキを抑制するために空燃比をリーン側に補正し、圧縮自己着火が起こらないようにしている。
次に、上記ステップS140で算定した吸気行程気筒5Dの空気量と、上記ステップS141で算出した空燃比補正値を考慮した空燃比とに基づき、吸気行程気筒5Dへの燃料噴射量を算出する(ステップS142)。そして、上記吸気行程気筒5Dに対する燃料噴射を行うが、この燃料噴射は、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減されるように、つまり、圧縮上死点を超えるための必要なエネルギーが低減されるように、圧縮行程の後期まで遅延され(ステップS143)、その遅延量は、エンジンの自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基づいて算出される。
また、上記ブレーキの発生を抑制するため、点火時期を上死点以降に遅延して点火する(ステップS144)。以上の制御が実行されることにより、吸気行程気筒5Dにおいて、圧縮上死点まではその圧縮反力が小さくなって上死点を超え易くなり、上死点を過ぎた時点での燃焼E2による燃焼エネルギーによる正転方向のトルクが発生することになる。
次に、オルタネータ43による発電を開始するとともに(ステップS145)、排気行程気筒5Bのピストン7が圧縮上死点(図13の時点t9)を迎えたか否かを判定する(ステップS146)。ここで、NOと判定されると、繰り返しステップS146を実行する一方、YESと判定されると、上記VVL制御の実行を開始して(ステップS147)、通常制御に移行する。
このように、エンジン停止後の再始動制御では、再始動後に所定時間が経過した時点t9(等実施形態では3TDC経過時点)までの間、VVL制御を停止させることにより、エンジン停止後にシリンダ3やシリンダブロック4自体の熱により加熱された燃焼室8内及び排気通路37内の気体の還流を停止することができるので、当該自動停止時に排気の還流を実行する場合と比較して、圧縮上死点前の混合気の圧縮自己着火によるブレーキを抑制することができ、その結果、再始動性能を向上することができる。
以上説明したように、上記実施形態によれば、エンジン自動停止条件の成立後、VVL制御(再開弁動作)の停止よりも早い時期(時点t4よりも前)に再始動条件が成立した場合に、再開弁動作を実行している状態を維持したまま、エンジンを再始動することができるので、エンジン自動停止条件及び再始動条件が成立する度に再開弁動作の停止又は実行を切り換える場合と比較して、当該再開弁動作の切り換え頻度を少なくすることができる。
さらに、エンジン停止後に再始動条件が成立してから所定時間が経過するまでの間(時点t9までの間)、再開弁動作を停止することにより、エンジン停止時に吸気行程気筒5Dにあっては吸気系(吸気通路36)から新気を吸入することができるとともに燃焼室8内や排気通路37内の加熱された気体の還流を停止することができるので、当該自動停止時に排気の還流を実行する場合と比較して、圧縮上死点前の混合気の圧縮自己着火によるブレーキを抑制することができ、再始動性能を向上することができる。
そして、上記実施形態では、上記のようにエンジン自動停止期間の途中(時点t4)まで再開弁動作を実行するようにしているので、この期間中においては各気筒5A〜5D内の掃気効率が低下するものの、燃料供給を停止させるときのエンジン回転数を通常運転時におけるアイドル回転数よりも高くしているので、燃料供給を停止するときにそのままエンジン回転数を維持する場合よりもピストン7の動作回数を多く実行することができ、掃気性能を補うことができる。
したがって、当実施形態によれば、排気還流の実行又は停止の切換頻度を可及的に低減しつつ再始動性能を向上することができる。
また、上記実施形態では、燃料カット条件の成立後の時点t2においてスロットル弁39を閉止する(図8のステップS11)ことにより、膨張行程気筒5A及び圧縮行程気筒5Cについてのエンジン停止前最後の吸気行程での吸気量を減少させるようにしている。
この実施形態によれば、各気筒5A〜5Cのそれぞれについて、エンジン停止前最後の吸気行程における吸気量が少なくなるものの、上記時点t4までは再開弁動作が実行されるので、圧縮行程気筒5Cの吸気量が少なく、この気筒5Cの圧縮抵抗が低くなる一方、膨張行程気筒5Aの吸気量が多く、この気筒5Aの圧縮抵抗が大きくなる。これにより、膨張行程気筒5Aではピストン停止位置が膨張行程気筒の中間より下死点に近くなり、圧縮行程気筒5Cではピストン停止位置が行程の中間より上死点側となるようなエンジン停止状態が得られる確率がより高くなる。
ここで、再開弁動作の実行又は停止により吸気量を調整することができるのは、上記切換機構21により吸気行程中に排気弁16を開くようにしているので、当該吸気行程においては、吸気ポート13及び排気ポート14の双方を介して吸気を行うことができるためである。
また、上記実施形態では、図8の時点t1〜t2の間にスロットル弁39を開放するようにしているので、再開弁動作の実行に伴う掃気性能の低下を、当該スロットル弁39の開放によって補うことができる。
さらに、上記実施形態では、上記時点t1〜時点t2までの間、つまり、燃料噴射停止直後に、再始動条件が成立した場合に、各気筒5A〜5Dの行程が1巡経過するのを待って(図12のステップS77)、燃料噴射を再開するようにしている。
この実施形態によれば、燃料噴射直後に各気筒5A〜5D内に残留するガス等を1巡する行程の間に排出させて、当該残留ガス等による燃焼不良等を抑制することができ、その結果、再始動性能の向上を図ることができる。
また、上記実施形態では、図5の示すように、吸気弁15を上死点手前から下死点よりも前の段階までの間で開弁させる(符号L1)一方、排気弁16を吸気行程の途中で開弁させるととも上記吸気弁15よりも遅く閉弁させる(再開弁動作)ようにしている(符号L2)。
この実施形態によれば、排気弁16の再開弁動作により、排気行程で排出された既燃ガスを内部EGRとして比較的大量に気筒内に導入することができる。これにより、充填効率を確保しつつ、気筒内に導入された新気を加温することができる結果、後続する圧縮行程での圧縮自己着火が確実になる。また、吸気行程において排気弁16を開く構成を採用しているので、排気弁16がピストン7と干渉しないタイミングで内部EGRを実現することができる。したがって、幾何学的な圧縮比を可及的に高めることが可能になる。