JP2004197115A - 高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高密度および高抵抗を有しさらに高周波の比透磁率の高い複合軟磁性焼結材の製造方法を提供する。
【解決手段】Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末またはFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末の表面に、Ni層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末または積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末または積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を温度:800〜1200℃で熱間鍛造する。
【選択図】 なし
【解決手段】Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末またはFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末の表面に、Ni層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末または積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末または積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を温度:800〜1200℃で熱間鍛造する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの製造に使用される
高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心にはFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を燒結して得られた軟磁性材料が用いられることは知られており、さらに、この軟磁性材料の一つとしてフェライトが知られている。このフェライトは(MeFe)3O4(ただし、MeはMn,Zn,Ni,Mg,Cu,Fe,Coのうちの1種または2種以上)の成分組成を有するスピネル型フェライトであることも知られている。前記Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末などを燒結して得られた軟磁性材料は、飽和磁束密度が高いが、高周波特性が悪く、一方、フェライトなど鉄酸化物粉末を焼結して得られた酸化物軟磁性材料は、抵抗が高いために高周波特性に優れ、初透磁率が比較的高いが、飽和磁束密度が低い欠点があり、これらを改善するために、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト膜を被覆してなるフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末が提案されており、このフェライト膜被覆鉄軟磁性粉末を焼結して得られた材料は高抵抗を有し、飽和磁束密度および高周波特性に共に優れると言われている。
【0003】
このフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を製造するための方法として、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に湿式フェライトメッキによりフェライト膜を形成する方法(特許文献1または2参照)、
Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末およびフェライト粉末をメカノフュージョン装置に入れて高速回転させることによりFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト粉末を埋め込み、それによってFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト膜を形成する方法(特許文献3参照)などが知られており、これらフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、得られた仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼した後、得られたばい焼体を熱間鍛造することにより複合軟磁性材を製造する方法も知られている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭56−38402号公報
【特許文献2】
特開平11−1702号公報
【特許文献3】
特開平4−226003号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト膜を被覆してなる従来のフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は、成形性および鍛造性が悪いために、室温鍛造しても十分な密度が得られない。そこで、熱間鍛造して複合軟磁性材を製造すると、複合軟磁性材の密度はある程度向上するが、従来のフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は鍛造温度までの加熱時に、芯部のFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末とフェライト間でフェライトの還元反応が起こり、フェライト(Fe3O4)層はウスタイト(FeO)層に変化するなどして酸素不足のフェライト膜がFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末表面に形成され、この酸素不足のフェライト膜は固有抵抗値が低く、したがって得られた複合軟磁性材の抵抗値が十分なものではない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく研究を行った結果、
(イ)Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に電解メッキまたは無電解メッキにより第1層としてNi層が形成し、このNi層が形成されたFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に第2層としてフェライト層を被覆して積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造して得られた複合軟磁性材は、密度および抵抗が向上する、
(ロ)温度:800〜1200℃で熱間鍛造して得られた熱間鍛造体をさらに温度:800〜1000℃で焼鈍すると高密度および高抵抗は一層向上する、という研究結果が得られたのである。
【0007】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造する高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法、
(2)Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造し、その後さらに温度:800〜1000℃で焼鈍する高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法をさらに一層具体的に説明する。
この発明の高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法において使用するFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は、従来から一般に知られているCo:25〜60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成、またはCo:25〜60質量%、V:0.5〜5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するFe−Co系軟磁性合金粉末を使用することが好ましい。しかし、この発明の高密度および高透磁性を有する複合軟磁性材の製造方法において使用する前記Fe−Co系軟磁性合金粉末は、前記成分組成を有するFe−Co系軟磁性合金粉末に限定されるものではなく、その他のFe−Co系軟磁性合金粉末を使用することができる。そして、これらFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は平均粒径:30〜200μmの範囲内にあるFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が30μmより小さすぎると、鍛造性が低下して十分な高密度が得られず、さらにFe−Co系鉄基軟磁性合金の体積割合が低くなるために飽和磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が200μmより大きすぎると、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下するので好ましくないことによるものである。
【0009】
これらFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に電解メッキまたは無電解メッキにより第1層として厚さ:0.5〜5μmのNi層を被覆し、このNi層の上に第2層としてのフェライト層を被覆することによりこの発明で使用する積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作ることが好ましい。0.5μmよる薄いとフェライトの還元防止が十分でなく、一方、5μmより厚いと飽和磁束密度の低下が大きくなるので好ましくないからである。このNi膜の上に形成するフェライト層は、化学メッキ法、高速衝撃撹拌被覆法またはバインダー被覆法など一般に知られている方法で作製することができる。
【0010】
このようにして得られた積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃(好ましくは、800〜1000℃)で熱間鍛造すると高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材が得られる。
かかる温度で鍛造すると、NiはFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末に拡散してFe−Co−Ni合金を形成し、軟磁性合金としての特性を向上させ、さらにNi層の介在によりFe−Co系鉄基合金とフェライトの還元反応を防止し、磁気特性を向上させ、高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材が得られる。この場合、熱間鍛造温度を800〜1200℃に定めたのは、熱間鍛造温度が800℃未満では十分高密度の複合軟磁性材が得られないと共にNiがFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末に十分拡散されずにNi層として残存するところから磁気特性が低下するので好ましくなく、一方、1200℃を越える温度で焼結すると、フェライト相の分解が起こるので好ましくない。
また、この発明において仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼する温度は仮圧粉成形体に含まれるバインダーを除去するに十分な温度であればいかなる温度でもよいが、200〜400℃の範囲内の温度であれば十分である。
【0011】
【発明の実施の形態】
原料粉末として、いずれも平均粒径:70μmを有するCo:30質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するアトマイズFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末、並びにCo:49質量%、V:2質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するアトマイズFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を用意した。
【0012】
実施例1〜5および比較例1〜2
このFe−Co系軟磁性合金粉末に対して電解メッキを施すことによりFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に平均0.8μm厚を有するNi層を形成し、Ni被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
さらに平均粒径:0.7μmのフェライト粉末を分散被覆することによりこのNi被覆Fe−Co系合金粉末のNi層の上にフェライト層を形成して積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
得られた積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を金型に入れ、プレス成形して外径:35mm、内径:25mm、高さ:5mmの寸法を有するリング状仮圧粉成形体を成形し、得られたリング状仮圧粉成形体を水素ガス雰囲気中、表1に示される温度でばい焼することによりバインダーを除去してリング状ばい焼体を作製し、得られたリング状ばい焼体を表1に示される温度で熱間鍛造し、必要に応じて焼鈍することにより複合軟磁性材を作製した。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表1に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表1に示した。
【0013】
従来例1
メカノフュージョン法により作製した市販のフェライト膜被覆純Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を用意し、この粉末を用いて実施例1と同様にして複合軟磁性材を得た。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表1に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表1に示した。
【0014】
【表1】
【0015】
表1に示される結果から、実施例1〜5で作製した複合軟磁性材は、従来例1で作製した複合軟磁性材と比べて密度及び比抵抗に優れた特性を示すことが分かる。しかし、比較例1〜2で作製した複合軟磁性材は磁束密度、比抵抗が劣るので好ましくないことが分かる。
【0016】
実施例6〜10および比較例3〜4
先に用意したアトマイズFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末に対して電解メッキを施すことによりFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
さらに平均粒径:0.7μmのフェライト粉末を分散被覆することによりこのNi被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末のNi層の上にフェライト層を形成して積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
得られた積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を金型に入れ、プレス成形して外径:35mm、内径:25mm、高さ:5mmの寸法を有するリング状仮圧粉成形体を成形し、得られたリング状仮圧粉成形体を水素ガス雰囲気中、表2に示される温度でばい焼することによりバインダーを除去してリング状ばい焼体を作製し、得られたリング状ばい焼体を表2に示される温度で熱間鍛造し、必要に応じて焼鈍することにより複合軟磁性材を作製した。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表2に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表2に示した。
【0017】
従来例2
メカノフュージョン法により作製した市販のフェライト膜被覆純Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を用意し、この粉末を用いて実施例1と同様にして複合軟磁性材を得た。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表2に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表2に示した。
【0018】
【表2】
【0019】
表2に示される結果から、実施例6〜10で作製した複合軟磁性材は、従来例2で製造した複合軟磁性材と比べて密度及び比抵抗に優れた特性を示すことが分かる。しかし、比較例3〜4で作製した複合軟磁性材は密度、比抵抗および磁束密度の少なくともいずれか一つが劣るので好ましくないことが分かる。
【0020】
【発明の効果】
この発明によると、簡単な方法により高密度および高抵抗を有しさらに高磁束密度を有する複合軟磁性材を提供することができ、電気および電子産業において優れた効果をもたらすものである。
【産業上の利用分野】
この発明は、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの製造に使用される
高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心にはFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を燒結して得られた軟磁性材料が用いられることは知られており、さらに、この軟磁性材料の一つとしてフェライトが知られている。このフェライトは(MeFe)3O4(ただし、MeはMn,Zn,Ni,Mg,Cu,Fe,Coのうちの1種または2種以上)の成分組成を有するスピネル型フェライトであることも知られている。前記Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末などを燒結して得られた軟磁性材料は、飽和磁束密度が高いが、高周波特性が悪く、一方、フェライトなど鉄酸化物粉末を焼結して得られた酸化物軟磁性材料は、抵抗が高いために高周波特性に優れ、初透磁率が比較的高いが、飽和磁束密度が低い欠点があり、これらを改善するために、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト膜を被覆してなるフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末が提案されており、このフェライト膜被覆鉄軟磁性粉末を焼結して得られた材料は高抵抗を有し、飽和磁束密度および高周波特性に共に優れると言われている。
【0003】
このフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を製造するための方法として、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に湿式フェライトメッキによりフェライト膜を形成する方法(特許文献1または2参照)、
Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末およびフェライト粉末をメカノフュージョン装置に入れて高速回転させることによりFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト粉末を埋め込み、それによってFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト膜を形成する方法(特許文献3参照)などが知られており、これらフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、得られた仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼した後、得られたばい焼体を熱間鍛造することにより複合軟磁性材を製造する方法も知られている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭56−38402号公報
【特許文献2】
特開平11−1702号公報
【特許文献3】
特開平4−226003号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にフェライト膜を被覆してなる従来のフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は、成形性および鍛造性が悪いために、室温鍛造しても十分な密度が得られない。そこで、熱間鍛造して複合軟磁性材を製造すると、複合軟磁性材の密度はある程度向上するが、従来のフェライト膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は鍛造温度までの加熱時に、芯部のFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末とフェライト間でフェライトの還元反応が起こり、フェライト(Fe3O4)層はウスタイト(FeO)層に変化するなどして酸素不足のフェライト膜がFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末表面に形成され、この酸素不足のフェライト膜は固有抵抗値が低く、したがって得られた複合軟磁性材の抵抗値が十分なものではない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく研究を行った結果、
(イ)Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に電解メッキまたは無電解メッキにより第1層としてNi層が形成し、このNi層が形成されたFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に第2層としてフェライト層を被覆して積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造して得られた複合軟磁性材は、密度および抵抗が向上する、
(ロ)温度:800〜1200℃で熱間鍛造して得られた熱間鍛造体をさらに温度:800〜1000℃で焼鈍すると高密度および高抵抗は一層向上する、という研究結果が得られたのである。
【0007】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造する高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法、
(2)Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造し、その後さらに温度:800〜1000℃で焼鈍する高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法をさらに一層具体的に説明する。
この発明の高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法において使用するFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は、従来から一般に知られているCo:25〜60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成、またはCo:25〜60質量%、V:0.5〜5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するFe−Co系軟磁性合金粉末を使用することが好ましい。しかし、この発明の高密度および高透磁性を有する複合軟磁性材の製造方法において使用する前記Fe−Co系軟磁性合金粉末は、前記成分組成を有するFe−Co系軟磁性合金粉末に限定されるものではなく、その他のFe−Co系軟磁性合金粉末を使用することができる。そして、これらFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は平均粒径:30〜200μmの範囲内にあるFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が30μmより小さすぎると、鍛造性が低下して十分な高密度が得られず、さらにFe−Co系鉄基軟磁性合金の体積割合が低くなるために飽和磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が200μmより大きすぎると、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下するので好ましくないことによるものである。
【0009】
これらFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に電解メッキまたは無電解メッキにより第1層として厚さ:0.5〜5μmのNi層を被覆し、このNi層の上に第2層としてのフェライト層を被覆することによりこの発明で使用する積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作ることが好ましい。0.5μmよる薄いとフェライトの還元防止が十分でなく、一方、5μmより厚いと飽和磁束密度の低下が大きくなるので好ましくないからである。このNi膜の上に形成するフェライト層は、化学メッキ法、高速衝撃撹拌被覆法またはバインダー被覆法など一般に知られている方法で作製することができる。
【0010】
このようにして得られた積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃(好ましくは、800〜1000℃)で熱間鍛造すると高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材が得られる。
かかる温度で鍛造すると、NiはFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末に拡散してFe−Co−Ni合金を形成し、軟磁性合金としての特性を向上させ、さらにNi層の介在によりFe−Co系鉄基合金とフェライトの還元反応を防止し、磁気特性を向上させ、高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材が得られる。この場合、熱間鍛造温度を800〜1200℃に定めたのは、熱間鍛造温度が800℃未満では十分高密度の複合軟磁性材が得られないと共にNiがFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末に十分拡散されずにNi層として残存するところから磁気特性が低下するので好ましくなく、一方、1200℃を越える温度で焼結すると、フェライト相の分解が起こるので好ましくない。
また、この発明において仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼する温度は仮圧粉成形体に含まれるバインダーを除去するに十分な温度であればいかなる温度でもよいが、200〜400℃の範囲内の温度であれば十分である。
【0011】
【発明の実施の形態】
原料粉末として、いずれも平均粒径:70μmを有するCo:30質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するアトマイズFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末、並びにCo:49質量%、V:2質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するアトマイズFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を用意した。
【0012】
実施例1〜5および比較例1〜2
このFe−Co系軟磁性合金粉末に対して電解メッキを施すことによりFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面に平均0.8μm厚を有するNi層を形成し、Ni被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
さらに平均粒径:0.7μmのフェライト粉末を分散被覆することによりこのNi被覆Fe−Co系合金粉末のNi層の上にフェライト層を形成して積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
得られた積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を金型に入れ、プレス成形して外径:35mm、内径:25mm、高さ:5mmの寸法を有するリング状仮圧粉成形体を成形し、得られたリング状仮圧粉成形体を水素ガス雰囲気中、表1に示される温度でばい焼することによりバインダーを除去してリング状ばい焼体を作製し、得られたリング状ばい焼体を表1に示される温度で熱間鍛造し、必要に応じて焼鈍することにより複合軟磁性材を作製した。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表1に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表1に示した。
【0013】
従来例1
メカノフュージョン法により作製した市販のフェライト膜被覆純Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を用意し、この粉末を用いて実施例1と同様にして複合軟磁性材を得た。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表1に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表1に示した。
【0014】
【表1】
【0015】
表1に示される結果から、実施例1〜5で作製した複合軟磁性材は、従来例1で作製した複合軟磁性材と比べて密度及び比抵抗に優れた特性を示すことが分かる。しかし、比較例1〜2で作製した複合軟磁性材は磁束密度、比抵抗が劣るので好ましくないことが分かる。
【0016】
実施例6〜10および比較例3〜4
先に用意したアトマイズFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末に対して電解メッキを施すことによりFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
さらに平均粒径:0.7μmのフェライト粉末を分散被覆することによりこのNi被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末のNi層の上にフェライト層を形成して積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を作製した。
得られた積層膜被覆Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を金型に入れ、プレス成形して外径:35mm、内径:25mm、高さ:5mmの寸法を有するリング状仮圧粉成形体を成形し、得られたリング状仮圧粉成形体を水素ガス雰囲気中、表2に示される温度でばい焼することによりバインダーを除去してリング状ばい焼体を作製し、得られたリング状ばい焼体を表2に示される温度で熱間鍛造し、必要に応じて焼鈍することにより複合軟磁性材を作製した。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表2に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表2に示した。
【0017】
従来例2
メカノフュージョン法により作製した市販のフェライト膜被覆純Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末を用意し、この粉末を用いて実施例1と同様にして複合軟磁性材を得た。このようにして得られた複合軟磁性材の密度および比抵抗を測定してその結果を表2に示した。さらに複合軟磁性材に巻き線を施し、BHトレーサーにて磁束密度を測定し、その結果を表2に示した。
【0018】
【表2】
【0019】
表2に示される結果から、実施例6〜10で作製した複合軟磁性材は、従来例2で製造した複合軟磁性材と比べて密度及び比抵抗に優れた特性を示すことが分かる。しかし、比較例3〜4で作製した複合軟磁性材は密度、比抵抗および磁束密度の少なくともいずれか一つが劣るので好ましくないことが分かる。
【0020】
【発明の効果】
この発明によると、簡単な方法により高密度および高抵抗を有しさらに高磁束密度を有する複合軟磁性材を提供することができ、電気および電子産業において優れた効果をもたらすものである。
Claims (4)
- Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造することを特徴とする高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法。
- Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末の表面にNi層を形成し、Ni層の上にフェライト層を形成してなる積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を作製し、この積層膜被覆Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末を仮圧粉成形して仮圧粉成形体を作製し、この仮圧粉成形体を水素雰囲気中でばい焼してばい焼体を作製し、得られたばい焼体を温度:800〜1200℃で熱間鍛造し、その後さらに温度:800〜1000℃で焼鈍することを特徴とする高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法。
- 前記Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末は、Co:25〜60質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末、またはCo:25〜60質量%、V:0.5〜5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有するFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末であることを特徴とする請求項1または2記載の高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材の製造方法。
- 請求項1、2または3記載の方法で製造した高密度および高抵抗を有する複合軟磁性材。
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