JP2004151252A - 液晶プロジェクタ及びマイクロレンズアレイ - Google Patents
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Abstract
【課題】液晶プロジェクタでスクリーンに画像を投影したとき、投影画像のコントラストが低下することを防止する。
【解決手段】ミラー19で反射された赤色の照明光は、偏光板26Rによって直線偏光となり、マイクロレンズユニット27Rによって収斂光束とされる。マイクロレンズユニット27Rには無機材料からなる構造性複屈折体が設けられており、マイクロレンズから出射する光の位相を調整し、直線偏光を保ったまま液晶素子11Rを通過し、偏光板28Rに入射する。偏光板28Rは振動面が適合した直線偏光を通過させ、合成プリズム24に入射させる。緑色チャンネル,青色チャンネルでも同様に位相差補償が行われ、各色光を合成した画像が投影レンズ25によりスクリーン3に投影される。
【選択図】 図2
【解決手段】ミラー19で反射された赤色の照明光は、偏光板26Rによって直線偏光となり、マイクロレンズユニット27Rによって収斂光束とされる。マイクロレンズユニット27Rには無機材料からなる構造性複屈折体が設けられており、マイクロレンズから出射する光の位相を調整し、直線偏光を保ったまま液晶素子11Rを通過し、偏光板28Rに入射する。偏光板28Rは振動面が適合した直線偏光を通過させ、合成プリズム24に入射させる。緑色チャンネル,青色チャンネルでも同様に位相差補償が行われ、各色光を合成した画像が投影レンズ25によりスクリーン3に投影される。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶素子に表示された画像をスクリーンに投影する液晶プロジェクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開2002−14345号公報
【特許文献2】
特開2002−131750号公報
【0003】
液晶プロジェクタは、液晶素子によって光変調された光をスクリーンに投影して画像表示を行うもので、スクリーンの前面側から画像を投影するフロント方式とスクリーンの背面側から画像を投影するリア方式とがある。また、使用する液晶素子が透過型のものであるか反射型のものであるかによって照明の仕方が異なるが、いずれにせよ投影する画像を液晶素子に表示し、これに照明を与えて投影レンズでスクリーン上に画像を結像させる構成となっている。
【0004】
液晶プロジェクタの液晶素子としては、種々の動作モードのものが用いられるが、多用されているTN(Twisted Nematic)液晶について説明する。TN液晶は、2枚の基板間で液晶層を構成している液晶分子が、その長軸が基板と平行となるように保たれ、かつ厚み方向では長軸が少しずつ傾けられ全体で90°ねじられる配向状態となっており、一対の偏光板で挟むようにして用いられる。そして、液晶素子をノーマリーホワイト,ノーマリーブラックのいずれで使用するかに応じて、一対の偏光板はクロスニコル配置あるいはパラレルニコル配置のいずれかが選択される。
【0005】
ところで、TN液晶に限らず、一般に液晶素子には視野角が狭いという欠点がある。ノーマリーホワイトのTN液晶を例にすると、液晶層に電圧を印加していない状態では、液晶層は偏光板を通ってきた直線偏光を液晶分子のねじれ配列にしたがって偏波面を90°回転させる旋光性を示す。そして、液晶層を通過してきた直線偏光はクロスニコル配置された他方の偏光板を通って出射し、ホワイト状態となる。液晶層に電圧を印加すると液晶分子のねじれが消失し、入射した直線偏光はそのままの偏波面で出射することになるため、他方の偏光板がその通過を阻止してブラック状態となる。
【0006】
ところが、液晶は複屈折媒体としても作用する。前述したTN液晶の場合、液晶層に電圧を印加してそのねじれ配向を消失させてゆく過程では、旋光性と複屈折性とが混在し、電圧の印加レベルが高くなるにつれて複屈折性が支配的になってゆく。そして、液晶分子のねじれが消失してブラック状態となったとき、垂直入射光に対しては液晶層が複屈折性を示すことはほとんどなくなるので直線偏光はそのまま透過するが、斜め入射光に対しては複屈折性を示し、直線偏光で入射した光は楕円偏光に変調されるようになる。こうして生じた楕円偏光は部分的に出射側の偏光板を透過し、ブラック状態の濃度を薄める結果となる。液晶層がもつこのような複屈折媒体としての性向は、ホワイト状態からブラック状態への移行過程でも徐々に現れるため、中間調の表示状態下でもその表示画面を斜め方向から観察したときにはやはり変調度の角度依存性が避けられないものとなる。このような変調度の角度依存性はTN液晶に限らず、大なり小なり全ての液晶素子に見られる現象である。
【0007】
液晶プロジェクタでは液晶素子によって変調された画像光が投影レンズでスクリーンに投影され、それがスクリーン上で拡散した画像光となって観察対象となる。したがって黒レベルを表示したいときに、液晶層に斜めに入射して液晶分子を斜めに通過する光が含まれてしまうと、投影画像そのもののコントラストが低下してしまう。投影画像のコントラストをできるだけ高めるには、液晶素子から大きな角度で出射する光束を使わずに投影画像が得られるようにすればよいが、そのためには投影レンズのバックフォーカスを長くする必要があり、小型化が求められる液晶プロジェクタではコンパクト化を図るうえで不利になる。
【0008】
こうした背景から、コントラスト向上の目的で、液晶素子に位相差補償素子を組み合わせて使用することが知られている。例えば、特許文献1に記載された液晶プロジェクタでは、TN液晶用の位相差補償素子として、有機材料からなるフィルムを用いたものが記載されている。また、特許文献2には、光学位相補償板としてディスコティック液晶を用いたものが記載されている。これらの位相差補償素子は、いずれも光の入射角に依存した光学異方性を発現する複屈折体として作用し、液晶素子から大きな出射角で出射する光束によって画像のコントラストが低下することを防いでいる。
【0009】
また、液晶プロジェクタに透過型の液晶素子を用いる場合、照明光の入射面側にマイクロレンズアレイを配置することが多い。マイクロレンズアレイは、液晶素子の画素配列に対応して正パワーのマイクロレンズを配列させたもので、個々のマイクロレンズは照明光を画素単位で収斂させる作用をもつ。液晶素子の背面側のガラス基板には画素電極部がマトリクス状に配列され、その各々が遮光性のブラックマトリクス部によって区画されているため画素単位での画素単位での開口率は小さくなるが、マイクロレンズで照明光を画素単位で集光させることにより開口率を大きくして色純度を向上させることが可能になる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般に有機材料からなる位相差補償素子は、紫外線を含む強い光に長時間曝されていると褪色が生じやすい。特に液晶プロジェクタに用いる場合には、スクリーンに画像投影を行うために直視型の液晶モニタなどと比較して光源の輝度も高くなり、過熱の度合いも大きくなることから、実用的には2000〜3000時間程度で徐々に褐色に変化する傾向にある。したがって、例えば家庭用プロジェクションテレビジョンなどのように長時間にわたって使用される用途では耐久性の点で問題があり実用化は難しい面がある。一方、単結晶サファイヤや水晶などの複屈折体を用いた位相差補償素子を用いることも考えられるが、サファイヤや水晶などの結晶自体が高価であり、また結晶の切り出し面や厚みを高精度に管理しなくてはならず、しかも光学系中に組み込むときの調整も面倒であるため、一般普及型の液晶プロジェクタに適用することはコスト面での不利が大きい。
【0011】
また、液晶プロジェクタでは照明光の利用効率を高めるために、液晶素子の照明光の入射側にマイクロレンズアレイを組み合わせて使用することが一般になっている。マイクロレンズアレイは照明光を画素単位に集光させるので、光線の角度を変えて液晶素子に入射させることになるため、さらに位相差補償素子を組み合わせて使用する場合には、位相差補償素子を通過する光線の角度が液晶素子を通過するときの角度と一致するように、少なくともマイクロレンズアレイの照明光出射面よりも後方に配置しなくてはならない。したがって、マイクロレンズアレイと液晶素子との間、または液晶素子の光出射側に位相差補償素子を設ければよいが、液晶素子の前後にマイクロレンズアレイや位相差補償素子などの光学部品を単に個別的に配置したのでは、部品点数の増加により構造が複雑化し、製造コストや組立工数が増えて量産適性が十分とは言えない。
【0012】
本発明は上記背景を考慮してなされたもので、家庭用テレビジョンのような長時間の使用に対しても耐久性に優れ、しかも製造コストや組立コストの点でも有利な形態で位相差補償素子を利用した液晶プロジェクタを提供することを目的とし、またこのような液晶プロジェクタに好適なマイクロレンズアレイを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の液晶プロジェクタでは、マイクロレンズアレイを位相差補償素子の支持体に兼用し、マイクロレンズアレイの照明光出射面に無機材料で作成された構造性複屈折体を形成することを特徴としている。このような構造性複屈折体としては、例えば高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜とを交互に積層した多層薄膜を用いるのが好適で、この場合、各々の薄膜の光学膜厚は光の波長の100分の1以上5分の1以下に設定され、マイクロレンズアレイと一体化された一部品として液晶プロジェクタに組み込むことが可能となる。そして、上記目的のために液晶プロジェクタとともに使用されるマイクロレンズアレイ、すなわち無機材料製の構造性複屈折体を照明光の出射面側に一体的に形成したマイクロレンズアレイ自体も本発明に含まれる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1にリア方式の液晶プロジェクタの外観を示す。筐体2の前面に拡散透過型のスクリーン3が設けられ、その背面に投影された画像が前面側から観察される。筐体2の内部には投影ユニット5が組み込まれ、その投影画像はミラー6,7で反射されスクリーン3の背面に結像される。この液晶プロジェクタは、筐体2の内部にチューナー回路などのほか、ビデオ信号及び音声信号再生用の周知の回路ユニットを組み込み、投影ユニット5に画像表示手段として組み込まれた液晶素子にビデオ信号の再生画像を表示することによって、大画面のテレビジョンとして使用することができる。
【0015】
図2に投影ユニット5の構成を概略的に示す。この投影ユニット5には透過型の三枚の液晶素子11R,11G,11Bが組み込まれ、フルカラーで画像投影を行うことができる。光源12からの放射光は、紫外線及び赤外線をカットするフィルタ13を透過することにより赤色光,緑色光,青色光を含む白色光となり、光源から液晶素子に至る照明光軸にしたがってガラスロッド14に入射する。ガラスロッド14の光入射面は、光源12に用いられている放物面鏡の焦点位置近傍に位置し、光源12からの光は効率的にガラスロッド14に入射する。
【0016】
ガラスロッド14の出射面に対峙してリレーレンズ15が配設され、ガラスロッド14からの白色光は、リレーレンズ15及び後段のコリメートレンズ16により平行光となってミラー17に入射する。ミラー17で反射された白色光は、赤色光だけを透過するダイクロイックミラー18Rで2光束に分けられ、透過した赤色光はミラー19で反射して液晶素子11Rを背面から照明する。また、ダイクロイックミラー18Rで反射された緑色光と青色光は、緑色光だけを反射するダイクロイックミラー18Gでさらに2光束に分割される。ダイクロイックミラー18Gで反射された緑色光は液晶素子11Gを背面側から照明する。ダイクロイックミラー18Gを透過した青色光は、ミラー18B,20で反射され、液晶素子11Bを背面から照明する。
【0017】
各々の液晶素子11R,11G,11BはそれぞれTN液晶で構成され、その各々には、フルカラー画像を構成する赤色画像,緑色画像,青色画像の濃度パターン画像が表示される。これらの液晶素子11R,11G,11Bから光学的に等距離となる位置に中心がくるように合成プリズム24が配置され、合成プリズム24の出射面に対面して投影レンズ25が設けられている。合成プリズム24は、その内部に2面のダイクロイック面24a,24bを有し、液晶素子11Rを透過してきた赤色光、液晶素子11Gを透過してきた緑色光、液晶素子11Bを透過してきた青色光を合成して投影レンズ25に入射させる。
【0018】
各液晶素子11R,11G,11Bの出射面の中心から、合成プリズム24及び投影レンズ25の中心を通り、スクリーン3の中心に至る投影光軸上に投影レンズ25が設けられている。投影レンズ25は、その物体側焦点面が液晶素子11R,11G,11Bの出射面に一致し、像面側焦点面がスクリーン3に一致するようにしてあるから、合成プリズム24で合成されたフルカラー画像はスクリーン3に結像されることになる。なお、図1に示すミラー6,7については、図面の煩雑化を避けるために省略した。
【0019】
液晶素子11R,11G,11Bの照明光の入射面側には、それぞれ偏光板26R,26G,26Bと、マイクロレンズアレイに位相差補償素子を設けたものであるマイクロレンズユニット27R,27G,27Bとが設けられている。また、各液晶素子の出射面側には、偏光板28R,28G,28Bが設けられている。入射面側の偏光板26R,26G,26Bと出射面側の偏光板28R,28G,28Bはクロスニコル配置となっており、入射面側の偏光板は偏光子、出射面側の偏光板は検光子として作用する。なお、それぞれの色チャンネルごとに設けられた液晶素子、その両側にそれぞれ設けられた偏光板及び位相差補償素子の作用は、それぞれの色光に基づく相違はあるものの、基本的な作用は実質的に共通であるので、以下、赤色チャンネルを代表させて説明する。
【0020】
ミラー19で反射された赤色照明光は、入射面側の偏光板26Rで直線偏光となり、マイクロレンズユニット27Rによって収斂光束とされて液晶素子11Rに入射する。ノーマリホワイトモードの場合、液晶素子11Rに用いられているTN液晶は、赤色画像の黒を表示するために画素に信号電圧が印加される。このとき、マイクロレンズによって光に角度がつけられていると、液晶素子11Rの出射面から出射する光は完全な直線偏光とはならず、一般に楕円偏光の画像光が出射するようになり、充分な黒が得られない。また、ノーマリーブラックモードの場合でも、液晶分子のわずかな傾きによって黒レベルが充分に黒くはならない。
【0021】
黒表示させたい状態において、液晶層を通過した画像光の直線偏光性が保存されていれば、他方の偏光板28Rによっで遮断され、充分弱い強度となって合成プリズム24に入射する。しかし、液晶分子を斜めに通過する光が含まれている場合には、液晶層によって変調された画像光は、直線偏光とはわずかに光学的な位相が相違した楕円偏光となる。これを防止するため、マイクロレンズを通過した画像光は、位相差補償素子によって光学的な位相差を補償される必要がある。位相差が補償されることにより、光が液晶分子を斜めに通過することがなくなるため、直線偏光の画像光が液晶素子11Rから出射され、偏光板28Rに入射するようになる。直線偏光の画像光は偏光板28Rにより遮断され充分に弱い強度となって合成プリズム24に入射するようになるため、本来の画像のコントラストが向上する。
【0022】
このような機能をもつ位相差補償素子として、この液晶プロジェクタでは無機材料で作成された構造性複屈折体が用いられる。図3に示す構造性複屈折体30は、マイクロレンズ31aが備えられたマイクロレンズアレイ31に互いに屈折率が異なる誘電体の薄膜L1,L2を交互に積層した多層膜で構成されている。各層の光学膜厚(物理的膜厚と屈折率との比)は光の波長よりも充分に小さく、好ましくはλ/100〜λ/5、より好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10が適切である。この方法により、一軸性の負の複屈折板として、薄膜の形成面が投影光軸に垂直となるc−plateを容易に形成することができる。
【0023】
高屈折率の薄膜層の材料としてはTiO2 (n=2.2〜2.4),ZrO2 (n=2.20)など、低屈折率材料としてはSiO2 (n=1.40〜1.48)やMgF2 (n=1.39),CaF2 (n=1.30)などを用いることができる。さらに、例えば以下に挙げる種々の材料を、本発明の複屈折層を構成する高屈折率、低屈折率の薄膜層に利用することができる。なお、( )内に示す数値は屈折率の概略値を表す。CeO2 (2.45),SnO2 (2.30),Ta2 O5 (2.12),In2 O3 (2.00),ZrTiO4 (2.01),HfO2 (1.91),Al2 O3 (1.59〜1.70),MgO(1.7),ALF3 ,ダイヤモンド薄膜,LaTiOx ,酸化サマリウムなど。また、高屈折率薄膜層用材料と低屈折率薄膜層用材料の組み合わせとしては、TiO2 /SiO2 が好ましいが、Ta2 O5 /Al2 O3 、HfO2 /SiO2 、MgO/MgF2 、ZrTiO4 /Al2 O3 、CeO2 /CaF2 、ZrO2 /SiO2 、ZrO2 /Al2 O3 等も挙げられる。
【0024】
また、積層された薄膜L1,L2の相互間で光干渉が生じることを避ける必要があるため各々の膜厚は薄い方がよいが、必要な合計膜厚を得るのに成膜回数が増えてくるので、現実的な膜厚構成の設計にあたっては、所望の複屈折率作用を考慮して各層の屈折率,膜厚比,合計膜厚を決め、着色については薄膜干渉を充分に考慮し、さらに成膜後に内部応力に起因するクラックの発生などの不具合が生じないように材料の選定に留意する必要がある。
【0025】
なお、多層薄膜で構成された複屈折層を製造するには、真空蒸着法やスパッタ成膜法を効果的に用いることができる。高屈折率薄膜層と低屈折率薄膜層との2種類の薄膜層を交互に成膜してゆくには、成膜対象となる基板(マイクロレンズアレイ)に対して各々の蒸発源を遮蔽することができるようにそれぞれシャッタを設け、これらのシャッタを交互に開閉して2種類の薄膜層を交互に積層させたり、あるいは基板を一定の速さで循環移動する基板ホルダに保持させ、基板を循環移動させる過程でそれぞれの蒸発源の上を通過させることによって順次に2種類の薄膜を交互に積層させるなどの手法をとることができる。これにより、多層薄膜を得るに際して真空槽を一回だけ真空引きすればよいので、製造効率を高めることができる。
【0026】
このような多層薄膜による複屈折層の設計手順は次のとおりである。複屈折層の複屈折率Δnは、「光学 第27巻第1号(1998)p.12−17」に記載のように、屈折率の異なる2種類の薄膜の光学膜厚の比で決定され、それぞれの屈折率に差があるほど大きい値が得られる。また、位相差は複屈折率Δnと複屈折層の物理的な合計膜厚dとの積「dΔn」で与えられる。したがって、所望の位相差を得るためには、それらの材料から得られる複屈折率Δnの値が大きくなるような膜厚比を求め、その複屈折率Δnから必要な複屈折層の物理的な合計膜厚dが決定される。各薄膜の物理的膜厚と層数との積が合計膜厚dになることと、物理的膜厚が段落[0022]に記載した光学膜厚の範囲にあることを条件として、製造適性を考慮しつつ層数を選択すればよい。
【0027】
なお、屈折率が異なる誘電体薄膜を積層した多層薄膜により固有の光学的作用を得るものとして、ダイクロイックミラー、偏光ビームスプリッター、色合成プリズム、反射防止膜などが知られているが、これらの多層薄膜を構成する個々の薄膜層は、いずれもその光学膜厚がλ/4の整数倍となるように設計され、光の干渉現象を利用して所期の目的を達成するものである。この点、上述した複屈折層は、個々の薄膜層の光学膜厚がλ/4よりも薄いことや、2種類の薄膜の光学膜厚の比によって固有の複屈折率Δnが決められることなどから、光の干渉現象とは全く異なる作用原理に基づくものであることがわかる。
【0028】
この構造性複屈折体30による光学的な位相差は、合計膜厚dと複屈折率Δnとの積によって与えられる。ガラス基板に膜厚15nmのTiO2 層と、膜厚15nmのSiO2 層とを交互に40層ずつ積層した薄膜多層蒸着サンプルを作成し、分光エリプソメータを用いて測定したところ、208nmの位相差を与える負の複屈折体であること、そして光学的な異方性を発現させない光学軸が基板の法線と一致していることが確認され、負のc−plateとして機能することが判った。
【0029】
TiO2 層,SiO2 層の屈折率をそれぞれ2.35,1.47と仮定して理論式から求めた複屈折率による位相差は218nmであり、誤差範囲内で実測値と一致した。また、このサンプルの分光透過特性は図4に示すとおりで、ほぼ無色であると言える。なお、透過率にリップルが見られるが、これはガラス基板からの反射光と最上層の薄膜表面からの反射光との干渉の影響によるものと考えられる。これについては、ガラス基板の表裏や最上層の薄膜表面に反射防止膜を設けることによって改善される。
【0030】
このサンプルを図2に示す液晶プロジェクタに用いたところ、サンプルを用いないときと比較して、最も明るい部分と最も暗い部分とのコントラストが200:1から400:1に向上した。また、5000時間の使用に対しても褪色などの劣化は認められなかった。なお、全く同じ薄膜材料を用い、それぞれ膜厚15nmで20層ずつ合計40層まで積層した別のサンプルでは、複屈折による位相差が102nmと測定され、理論計算値である107nmとほぼ一致することが確認された。
【0031】
また、構造性複屈折体30の支持体となっているマイクロレンズアレイ31として、平板マイクロレンズアレイを用いている。これは基板にイオンを注入することによって傾斜屈折率レンズ31aを形成することにより、表面を平らにしつつ、凸レンズの働きをもたせることができるという特徴をもっている。マイクロレンズアレイに用いられる材質としては、高分子材料、無機材料などがある。マイクロレンズアレイ31は、微小領域で意図する屈折率が得られるものであればどのようなものでもよく、例えば図5に示すように、基板上に微小な球面または非球面マイクロレンズ32aを形成したマイクロレンズアレイ32を用いてもよい。また、平板マイクロアレイを用いる場合には、図6に示すようにマイクロレンズ33aをマイクロレンズアレイ33の底面に形成し、マイクロレンズ33aの表面に構造性複屈折体30が層設されるようにしてもよい。このように、マイクロレンズアレイを構造性複屈折体の支持体に兼用させてマイクロレンズユニットとすることにより、部品点数を減少させ、位置合わせや角度調整を要する箇所を減らすことができる。
【0032】
図7に示すように、構造性複屈折体30はマイクロレンズアレイ31と液晶素子11Rとの間に配置されている。まず、直線偏光とされた赤色照明光がマイクロレンズユニット27Rに入射し、マイクロレンズ31aを通過すると、マイクロレンズアレイ31aの屈折率にあわせて角度がつけられる。次に、構造性複屈折体30で光学補償が行われた後、液晶素子11Rにそのままの角度で入射する。このように、位相差補償素子を通過した光が角度を変えずに液晶領域に入射することにより、理想的な光学補償が可能となる。
【0033】
なお、上記で説明しているように、理想的な光学補償のために構造性複屈折体30はマイクロレンズアレイ31の液晶素子11R側の面に設ける必要があるが、液晶素子の画素配列とマイクロレンズとが位置ズレを起こすことがないよう、マイクロレンズと液晶素子とが透明な材料で接着されるため、イオン注入型の平板マイクロレンズアレイ31でも、基板上に曲面を形成したマイクロレンズアレイ32でも、通常、液晶素子側の面は平面になっている。そのため、マイクロレンズアレイの液晶素子側の面に、真空成膜によって無機の構造性複屈折体を形成することが可能である。この方法は、マイクロレンズアレイがガラスなどの無機材料で構成されていても、透明樹脂などの有機材料で構成されていても可能である。また、以下で説明するようにフォトリソグラフィーによってマイクロレンズアレイ表面に微細な凹凸形状を形成することによって構造性複屈折体を形成することも可能であるが、その際、マイクロレンズアレイと液晶素子とを接着するための接着材が凹凸形状の間隙を埋める場合には、そのことによる屈折率の変化を考慮して構造性複屈折体の設計を行う必要がある。
【0034】
本発明の液晶プロジェクタにおいて、上記機能のために用いられる位相差補償板としては、図3に示すような多層薄膜の積層体だけでなく、無機材料で作成された構造性複屈折体であれば様々な形態のものを利用することができる。図3に示す薄膜積層体は、光学的な異方性が発現しない光学軸が基板ガラスの法線に合致した一軸性の負の複屈折板であり、c−plateとして用いる例として挙げられているが、負の一軸性の複屈折体としては、図8に示すように、透明な支持体となるガラス基板36の表面に、透明な板状突起37を格子状に配列した構造性複屈折体40を用いることも可能である。
【0035】
この構造性複屈折体40の物理的構造を構成している板状突起37の厚みd,高さh及び配列間隔は光の波長に対して充分に小さく、例えば光学膜厚がλ/100〜λ/5、好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10程度であればよく、光学異方性を示さない光学軸40aは図示の方向となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されているガラス基板36の表面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、a−plateとして用いられる。そして、照明光軸または投影光軸と直交する面内で板状突起37が一次元で配列されているため、その一次元配列の方向で空気層と板状突起37による異なった屈折率が交互に分布するようになる。
【0036】
また、図9に示すように、ガラス基板36上に透明な板状突起41を傾斜して配列した構造性複屈折体42も本発明の目的を達成するうえで有用である。この構造性複屈折体42も負の一軸性複屈折体として作用し、上記構造が形成されたガラス基板36の面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、o−plateとして用いられる。この構造性複屈折体42も、照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率の異なる部分が一次元配列となり、しかも異なる屈折率を与えるための物理的構造が照明光軸または投影光軸に対して傾斜することになる。
【0037】
これらの構造性複屈折体40,42のもつ物理的な繰り返し構造パターンは、フォトリソグラフィーにより作成することができる。なお、負の一軸性複屈折体としての作用を得るためには、それぞれの板状突起37,41の幅dに対する高さhで表されるアスペクト比を充分に大きくしておく必要がある。このアスペクト比が充分に大きくない場合には、屈折率楕円体のnx ,ny ,nz が全て異なる2軸性複屈折体となる。さらにアスペクト比が小さくなると、極限的には正のa−plateになる。
【0038】
図10に正のa−plateの一例を示す。この構造性複屈折体45は、ガラス基板36の表面に透明な誘電体による突状44を一定ピッチで格子状に配列することによって構成され、突条44の幅W,高さh及び配列ピッチは先の例と同様に波長よりも充分に小さくしてある。光学軸45aは図示のように格子構造と平行となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されたガラス基板36の表面が照明光軸あるいは投影光軸に垂直になるように配置され、やはり照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率が異なる部分が一次元配列となる。なお、位相差は突条44の高さhとその屈折率との積となる。高さhが波長に対して大きくなると屈折率異方性が一軸からずれ、二軸となる。さらに大きくなると、負のc−plateに近づく。また、突条44による格子構造は空気層に接していてもよいが、他の異なる屈折率をもった誘電体層で、突条44の相互間を埋めるように全体的に覆うようにしてもよい。
【0039】
正のc−plateもまた本発明の構造性複屈折体として利用できる。正のc−plateは、図11に示すように、ガラス基板36の表面に透明な誘電体からなる多数の突起46を垂直に林立させることで作成することができる。突起46のサイズや配列ピッチは、これまで同様に、光の波長に比して充分に小さいものであればよい。ガラス基板36の表面が照明光軸または投影光軸と直交するように配置されるため、図8〜図10に示す構造性複屈折体40,42,45とは異なり、屈折率の異なる部分が照明光軸または投影光軸と直交する面内で二次元に分布するようになる。このような構造をもつ構造性複屈折体47も、やはりフォトリソグラフィーで作成が可能であり、その光学軸47aはガラス基板36の表面に垂直となる。また上記物理的構造部分が空気層に接する形態で使用してもよいが、先のものと同様、屈折率が異なる別の誘電体層で全体的に覆う形態で使用することも可能である。
【0040】
さらに、正のo−plateは図12に示す形態で得ることができ、このような二次元の物理的構造の配列パターンをもつこれらの構造性複屈折体も本発明の目的のために効果的に用いることができる。図12に示す構造性複屈折体50は、ガラス基板36の表面に透明な誘電体からなる突起51を一定の傾斜角度で規則的に林立させたもので、フォトリソグラフィーにより作成可能である。やはり、これらの構造のサイズや繰り返しピッチは光の波長よりも充分に小さくしておく必要があり、構造表面は空気層あるいは別の透明な誘電体層のいずれに接していてもよい。光学軸50aは、図示のようにガラス基板36の表面に対して傾斜し、突起51の傾斜方向と平行になる。
【0041】
正のo−plateを作成するにあたっては、図13に示すように、ガラス基板36の表面に対し、斜め方向から一種類の誘電体を蒸着することによっても得られることが米国特許第5638197号公報明細書でも知られている。この方法によれば、光の波長に対して充分に小さい物理的構造を簡単に得ることができる。なお、同図中に示す斜線は、ガラス基板36に斜め方向から成膜を行ったことを模式的に表すためのもので、それぞれ個別の薄膜層を表すものではない。この構造性複屈折体53も、ガラス基板36の表面が照明光軸または投影光軸と垂直になるように配置して用いられ、斜設した薄膜層54がo−plate複屈折体の光学異方性を示す。
【0042】
以上、図示した実施形態に基づいて本発明について述べてきたが、位相差補償板を2枚以上10枚以下、好ましくは2枚以上4枚以下の範囲内で組み合わせて使用してもよい。また、複数枚の位相差補償板を組み合わせて使用する際に、異なった種類の位相差補償板を用いることも可能である。例えば、1枚の負のc−plate、1枚の負のo−plate、1枚の正のa−plateの組み合わせにより、より精密な位相差補償を行い、スクリーンに投影される画像のコントラストをより向上させることができる。また、本発明を適用し得る液晶素子の動作モードとしても、上述した透過型TN液晶モードに限定されるものではなく、マイクロレンズを使用するあらゆる動作モードに適用できる。
【0043】
なお、薄膜層を積層した位相差補償層を作成するにあたっては、各層の膜厚は必ずしも等しくする必要はなく、また2種類の薄膜を交互に積層することにのみ限られない。例えば屈折率が異なる3種類以上の薄膜を適宜の順序,膜厚で積層してもよく、成膜工程の容易さ、各層の内部応力による歪みの吸収、屈折率の波長依存性などを考慮して適宜に設計することが可能である。さらに、上述してきた各種の構造性複屈折体に対して、位相差補償作用を有するとともに特に耐久性に問題のないポリマーフイルムを基材とする位相差補償シートを組み合わせることもまた、本発明の実施形態に含まれる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の液晶プロジェクタによれば、液晶素子の照明光の入射面側に備えられたマイクロレンズアレイに、無機材料で作成された構造性複屈折体を設けたため、耐久性に優れ、しかもコストの負担も大きくすることなく位相差補償を行い、スクリーンに投影される画像のコントラストを向上させることができる。さらに、本発明を適用したマイクロレンズアレイによれば、その製造段階で簡便に構造性複屈折体を一体化することができるので、液晶素子の開口効率の向上とともに位相差補償機能も得られるようになり、液晶プロジェクタの量産性を向上させる上で効果的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】リア方式の液晶プロジェクタの概略を示す外観図である。
【図2】透過型液晶素子を用いた投影ユニットの概略構成図である。
【図3】マイクロレンズユニットの構成例を示す概略図である。
【図4】図3に示す位相差補償板の分光透過特性を示すグラフである。
【図5】マイクロレンズユニットの別の構成例を示す概略図である。
【図6】マイクロレンズユニットのさらに別の構成例を示す概略図である。
【図7】マイクロレンズ、構造性複屈折体、及び液晶素子の配置を示す概略図である。
【図8】形状パターンを有する構造性複屈折体の一実施形態を示す概念図である。
【図9】形状パターンを有する構造性複屈折体の他の実施形態を示す概念図である。
【図10】形状パターンを有する構造性複屈折体の別の実施形態を示す概念図である。
【図11】構造性複屈折体のさらに別の実施形態を示す概念図である。
【図12】構造性複屈折体のさらに他の実施形態を示す概念図である。
【図13】斜め方向からの成膜で作成された構造性複屈折体の概念図である。
【符号の説明】
3 スクリーン
5 投影ユニット
11R,11G,11B 液晶素子
12 光源
26R,26G,26B 偏光板
27R,27G,27B マイクロレンズユニット
28R,28G,28B 偏光板
24 合成プリズム
25 投影レンズ
30 構造性複屈折体
31 マイクロレンズアレイ
31a マイクロレンズ
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶素子に表示された画像をスクリーンに投影する液晶プロジェクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開2002−14345号公報
【特許文献2】
特開2002−131750号公報
【0003】
液晶プロジェクタは、液晶素子によって光変調された光をスクリーンに投影して画像表示を行うもので、スクリーンの前面側から画像を投影するフロント方式とスクリーンの背面側から画像を投影するリア方式とがある。また、使用する液晶素子が透過型のものであるか反射型のものであるかによって照明の仕方が異なるが、いずれにせよ投影する画像を液晶素子に表示し、これに照明を与えて投影レンズでスクリーン上に画像を結像させる構成となっている。
【0004】
液晶プロジェクタの液晶素子としては、種々の動作モードのものが用いられるが、多用されているTN(Twisted Nematic)液晶について説明する。TN液晶は、2枚の基板間で液晶層を構成している液晶分子が、その長軸が基板と平行となるように保たれ、かつ厚み方向では長軸が少しずつ傾けられ全体で90°ねじられる配向状態となっており、一対の偏光板で挟むようにして用いられる。そして、液晶素子をノーマリーホワイト,ノーマリーブラックのいずれで使用するかに応じて、一対の偏光板はクロスニコル配置あるいはパラレルニコル配置のいずれかが選択される。
【0005】
ところで、TN液晶に限らず、一般に液晶素子には視野角が狭いという欠点がある。ノーマリーホワイトのTN液晶を例にすると、液晶層に電圧を印加していない状態では、液晶層は偏光板を通ってきた直線偏光を液晶分子のねじれ配列にしたがって偏波面を90°回転させる旋光性を示す。そして、液晶層を通過してきた直線偏光はクロスニコル配置された他方の偏光板を通って出射し、ホワイト状態となる。液晶層に電圧を印加すると液晶分子のねじれが消失し、入射した直線偏光はそのままの偏波面で出射することになるため、他方の偏光板がその通過を阻止してブラック状態となる。
【0006】
ところが、液晶は複屈折媒体としても作用する。前述したTN液晶の場合、液晶層に電圧を印加してそのねじれ配向を消失させてゆく過程では、旋光性と複屈折性とが混在し、電圧の印加レベルが高くなるにつれて複屈折性が支配的になってゆく。そして、液晶分子のねじれが消失してブラック状態となったとき、垂直入射光に対しては液晶層が複屈折性を示すことはほとんどなくなるので直線偏光はそのまま透過するが、斜め入射光に対しては複屈折性を示し、直線偏光で入射した光は楕円偏光に変調されるようになる。こうして生じた楕円偏光は部分的に出射側の偏光板を透過し、ブラック状態の濃度を薄める結果となる。液晶層がもつこのような複屈折媒体としての性向は、ホワイト状態からブラック状態への移行過程でも徐々に現れるため、中間調の表示状態下でもその表示画面を斜め方向から観察したときにはやはり変調度の角度依存性が避けられないものとなる。このような変調度の角度依存性はTN液晶に限らず、大なり小なり全ての液晶素子に見られる現象である。
【0007】
液晶プロジェクタでは液晶素子によって変調された画像光が投影レンズでスクリーンに投影され、それがスクリーン上で拡散した画像光となって観察対象となる。したがって黒レベルを表示したいときに、液晶層に斜めに入射して液晶分子を斜めに通過する光が含まれてしまうと、投影画像そのもののコントラストが低下してしまう。投影画像のコントラストをできるだけ高めるには、液晶素子から大きな角度で出射する光束を使わずに投影画像が得られるようにすればよいが、そのためには投影レンズのバックフォーカスを長くする必要があり、小型化が求められる液晶プロジェクタではコンパクト化を図るうえで不利になる。
【0008】
こうした背景から、コントラスト向上の目的で、液晶素子に位相差補償素子を組み合わせて使用することが知られている。例えば、特許文献1に記載された液晶プロジェクタでは、TN液晶用の位相差補償素子として、有機材料からなるフィルムを用いたものが記載されている。また、特許文献2には、光学位相補償板としてディスコティック液晶を用いたものが記載されている。これらの位相差補償素子は、いずれも光の入射角に依存した光学異方性を発現する複屈折体として作用し、液晶素子から大きな出射角で出射する光束によって画像のコントラストが低下することを防いでいる。
【0009】
また、液晶プロジェクタに透過型の液晶素子を用いる場合、照明光の入射面側にマイクロレンズアレイを配置することが多い。マイクロレンズアレイは、液晶素子の画素配列に対応して正パワーのマイクロレンズを配列させたもので、個々のマイクロレンズは照明光を画素単位で収斂させる作用をもつ。液晶素子の背面側のガラス基板には画素電極部がマトリクス状に配列され、その各々が遮光性のブラックマトリクス部によって区画されているため画素単位での画素単位での開口率は小さくなるが、マイクロレンズで照明光を画素単位で集光させることにより開口率を大きくして色純度を向上させることが可能になる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般に有機材料からなる位相差補償素子は、紫外線を含む強い光に長時間曝されていると褪色が生じやすい。特に液晶プロジェクタに用いる場合には、スクリーンに画像投影を行うために直視型の液晶モニタなどと比較して光源の輝度も高くなり、過熱の度合いも大きくなることから、実用的には2000〜3000時間程度で徐々に褐色に変化する傾向にある。したがって、例えば家庭用プロジェクションテレビジョンなどのように長時間にわたって使用される用途では耐久性の点で問題があり実用化は難しい面がある。一方、単結晶サファイヤや水晶などの複屈折体を用いた位相差補償素子を用いることも考えられるが、サファイヤや水晶などの結晶自体が高価であり、また結晶の切り出し面や厚みを高精度に管理しなくてはならず、しかも光学系中に組み込むときの調整も面倒であるため、一般普及型の液晶プロジェクタに適用することはコスト面での不利が大きい。
【0011】
また、液晶プロジェクタでは照明光の利用効率を高めるために、液晶素子の照明光の入射側にマイクロレンズアレイを組み合わせて使用することが一般になっている。マイクロレンズアレイは照明光を画素単位に集光させるので、光線の角度を変えて液晶素子に入射させることになるため、さらに位相差補償素子を組み合わせて使用する場合には、位相差補償素子を通過する光線の角度が液晶素子を通過するときの角度と一致するように、少なくともマイクロレンズアレイの照明光出射面よりも後方に配置しなくてはならない。したがって、マイクロレンズアレイと液晶素子との間、または液晶素子の光出射側に位相差補償素子を設ければよいが、液晶素子の前後にマイクロレンズアレイや位相差補償素子などの光学部品を単に個別的に配置したのでは、部品点数の増加により構造が複雑化し、製造コストや組立工数が増えて量産適性が十分とは言えない。
【0012】
本発明は上記背景を考慮してなされたもので、家庭用テレビジョンのような長時間の使用に対しても耐久性に優れ、しかも製造コストや組立コストの点でも有利な形態で位相差補償素子を利用した液晶プロジェクタを提供することを目的とし、またこのような液晶プロジェクタに好適なマイクロレンズアレイを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の液晶プロジェクタでは、マイクロレンズアレイを位相差補償素子の支持体に兼用し、マイクロレンズアレイの照明光出射面に無機材料で作成された構造性複屈折体を形成することを特徴としている。このような構造性複屈折体としては、例えば高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜とを交互に積層した多層薄膜を用いるのが好適で、この場合、各々の薄膜の光学膜厚は光の波長の100分の1以上5分の1以下に設定され、マイクロレンズアレイと一体化された一部品として液晶プロジェクタに組み込むことが可能となる。そして、上記目的のために液晶プロジェクタとともに使用されるマイクロレンズアレイ、すなわち無機材料製の構造性複屈折体を照明光の出射面側に一体的に形成したマイクロレンズアレイ自体も本発明に含まれる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1にリア方式の液晶プロジェクタの外観を示す。筐体2の前面に拡散透過型のスクリーン3が設けられ、その背面に投影された画像が前面側から観察される。筐体2の内部には投影ユニット5が組み込まれ、その投影画像はミラー6,7で反射されスクリーン3の背面に結像される。この液晶プロジェクタは、筐体2の内部にチューナー回路などのほか、ビデオ信号及び音声信号再生用の周知の回路ユニットを組み込み、投影ユニット5に画像表示手段として組み込まれた液晶素子にビデオ信号の再生画像を表示することによって、大画面のテレビジョンとして使用することができる。
【0015】
図2に投影ユニット5の構成を概略的に示す。この投影ユニット5には透過型の三枚の液晶素子11R,11G,11Bが組み込まれ、フルカラーで画像投影を行うことができる。光源12からの放射光は、紫外線及び赤外線をカットするフィルタ13を透過することにより赤色光,緑色光,青色光を含む白色光となり、光源から液晶素子に至る照明光軸にしたがってガラスロッド14に入射する。ガラスロッド14の光入射面は、光源12に用いられている放物面鏡の焦点位置近傍に位置し、光源12からの光は効率的にガラスロッド14に入射する。
【0016】
ガラスロッド14の出射面に対峙してリレーレンズ15が配設され、ガラスロッド14からの白色光は、リレーレンズ15及び後段のコリメートレンズ16により平行光となってミラー17に入射する。ミラー17で反射された白色光は、赤色光だけを透過するダイクロイックミラー18Rで2光束に分けられ、透過した赤色光はミラー19で反射して液晶素子11Rを背面から照明する。また、ダイクロイックミラー18Rで反射された緑色光と青色光は、緑色光だけを反射するダイクロイックミラー18Gでさらに2光束に分割される。ダイクロイックミラー18Gで反射された緑色光は液晶素子11Gを背面側から照明する。ダイクロイックミラー18Gを透過した青色光は、ミラー18B,20で反射され、液晶素子11Bを背面から照明する。
【0017】
各々の液晶素子11R,11G,11BはそれぞれTN液晶で構成され、その各々には、フルカラー画像を構成する赤色画像,緑色画像,青色画像の濃度パターン画像が表示される。これらの液晶素子11R,11G,11Bから光学的に等距離となる位置に中心がくるように合成プリズム24が配置され、合成プリズム24の出射面に対面して投影レンズ25が設けられている。合成プリズム24は、その内部に2面のダイクロイック面24a,24bを有し、液晶素子11Rを透過してきた赤色光、液晶素子11Gを透過してきた緑色光、液晶素子11Bを透過してきた青色光を合成して投影レンズ25に入射させる。
【0018】
各液晶素子11R,11G,11Bの出射面の中心から、合成プリズム24及び投影レンズ25の中心を通り、スクリーン3の中心に至る投影光軸上に投影レンズ25が設けられている。投影レンズ25は、その物体側焦点面が液晶素子11R,11G,11Bの出射面に一致し、像面側焦点面がスクリーン3に一致するようにしてあるから、合成プリズム24で合成されたフルカラー画像はスクリーン3に結像されることになる。なお、図1に示すミラー6,7については、図面の煩雑化を避けるために省略した。
【0019】
液晶素子11R,11G,11Bの照明光の入射面側には、それぞれ偏光板26R,26G,26Bと、マイクロレンズアレイに位相差補償素子を設けたものであるマイクロレンズユニット27R,27G,27Bとが設けられている。また、各液晶素子の出射面側には、偏光板28R,28G,28Bが設けられている。入射面側の偏光板26R,26G,26Bと出射面側の偏光板28R,28G,28Bはクロスニコル配置となっており、入射面側の偏光板は偏光子、出射面側の偏光板は検光子として作用する。なお、それぞれの色チャンネルごとに設けられた液晶素子、その両側にそれぞれ設けられた偏光板及び位相差補償素子の作用は、それぞれの色光に基づく相違はあるものの、基本的な作用は実質的に共通であるので、以下、赤色チャンネルを代表させて説明する。
【0020】
ミラー19で反射された赤色照明光は、入射面側の偏光板26Rで直線偏光となり、マイクロレンズユニット27Rによって収斂光束とされて液晶素子11Rに入射する。ノーマリホワイトモードの場合、液晶素子11Rに用いられているTN液晶は、赤色画像の黒を表示するために画素に信号電圧が印加される。このとき、マイクロレンズによって光に角度がつけられていると、液晶素子11Rの出射面から出射する光は完全な直線偏光とはならず、一般に楕円偏光の画像光が出射するようになり、充分な黒が得られない。また、ノーマリーブラックモードの場合でも、液晶分子のわずかな傾きによって黒レベルが充分に黒くはならない。
【0021】
黒表示させたい状態において、液晶層を通過した画像光の直線偏光性が保存されていれば、他方の偏光板28Rによっで遮断され、充分弱い強度となって合成プリズム24に入射する。しかし、液晶分子を斜めに通過する光が含まれている場合には、液晶層によって変調された画像光は、直線偏光とはわずかに光学的な位相が相違した楕円偏光となる。これを防止するため、マイクロレンズを通過した画像光は、位相差補償素子によって光学的な位相差を補償される必要がある。位相差が補償されることにより、光が液晶分子を斜めに通過することがなくなるため、直線偏光の画像光が液晶素子11Rから出射され、偏光板28Rに入射するようになる。直線偏光の画像光は偏光板28Rにより遮断され充分に弱い強度となって合成プリズム24に入射するようになるため、本来の画像のコントラストが向上する。
【0022】
このような機能をもつ位相差補償素子として、この液晶プロジェクタでは無機材料で作成された構造性複屈折体が用いられる。図3に示す構造性複屈折体30は、マイクロレンズ31aが備えられたマイクロレンズアレイ31に互いに屈折率が異なる誘電体の薄膜L1,L2を交互に積層した多層膜で構成されている。各層の光学膜厚(物理的膜厚と屈折率との比)は光の波長よりも充分に小さく、好ましくはλ/100〜λ/5、より好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10が適切である。この方法により、一軸性の負の複屈折板として、薄膜の形成面が投影光軸に垂直となるc−plateを容易に形成することができる。
【0023】
高屈折率の薄膜層の材料としてはTiO2 (n=2.2〜2.4),ZrO2 (n=2.20)など、低屈折率材料としてはSiO2 (n=1.40〜1.48)やMgF2 (n=1.39),CaF2 (n=1.30)などを用いることができる。さらに、例えば以下に挙げる種々の材料を、本発明の複屈折層を構成する高屈折率、低屈折率の薄膜層に利用することができる。なお、( )内に示す数値は屈折率の概略値を表す。CeO2 (2.45),SnO2 (2.30),Ta2 O5 (2.12),In2 O3 (2.00),ZrTiO4 (2.01),HfO2 (1.91),Al2 O3 (1.59〜1.70),MgO(1.7),ALF3 ,ダイヤモンド薄膜,LaTiOx ,酸化サマリウムなど。また、高屈折率薄膜層用材料と低屈折率薄膜層用材料の組み合わせとしては、TiO2 /SiO2 が好ましいが、Ta2 O5 /Al2 O3 、HfO2 /SiO2 、MgO/MgF2 、ZrTiO4 /Al2 O3 、CeO2 /CaF2 、ZrO2 /SiO2 、ZrO2 /Al2 O3 等も挙げられる。
【0024】
また、積層された薄膜L1,L2の相互間で光干渉が生じることを避ける必要があるため各々の膜厚は薄い方がよいが、必要な合計膜厚を得るのに成膜回数が増えてくるので、現実的な膜厚構成の設計にあたっては、所望の複屈折率作用を考慮して各層の屈折率,膜厚比,合計膜厚を決め、着色については薄膜干渉を充分に考慮し、さらに成膜後に内部応力に起因するクラックの発生などの不具合が生じないように材料の選定に留意する必要がある。
【0025】
なお、多層薄膜で構成された複屈折層を製造するには、真空蒸着法やスパッタ成膜法を効果的に用いることができる。高屈折率薄膜層と低屈折率薄膜層との2種類の薄膜層を交互に成膜してゆくには、成膜対象となる基板(マイクロレンズアレイ)に対して各々の蒸発源を遮蔽することができるようにそれぞれシャッタを設け、これらのシャッタを交互に開閉して2種類の薄膜層を交互に積層させたり、あるいは基板を一定の速さで循環移動する基板ホルダに保持させ、基板を循環移動させる過程でそれぞれの蒸発源の上を通過させることによって順次に2種類の薄膜を交互に積層させるなどの手法をとることができる。これにより、多層薄膜を得るに際して真空槽を一回だけ真空引きすればよいので、製造効率を高めることができる。
【0026】
このような多層薄膜による複屈折層の設計手順は次のとおりである。複屈折層の複屈折率Δnは、「光学 第27巻第1号(1998)p.12−17」に記載のように、屈折率の異なる2種類の薄膜の光学膜厚の比で決定され、それぞれの屈折率に差があるほど大きい値が得られる。また、位相差は複屈折率Δnと複屈折層の物理的な合計膜厚dとの積「dΔn」で与えられる。したがって、所望の位相差を得るためには、それらの材料から得られる複屈折率Δnの値が大きくなるような膜厚比を求め、その複屈折率Δnから必要な複屈折層の物理的な合計膜厚dが決定される。各薄膜の物理的膜厚と層数との積が合計膜厚dになることと、物理的膜厚が段落[0022]に記載した光学膜厚の範囲にあることを条件として、製造適性を考慮しつつ層数を選択すればよい。
【0027】
なお、屈折率が異なる誘電体薄膜を積層した多層薄膜により固有の光学的作用を得るものとして、ダイクロイックミラー、偏光ビームスプリッター、色合成プリズム、反射防止膜などが知られているが、これらの多層薄膜を構成する個々の薄膜層は、いずれもその光学膜厚がλ/4の整数倍となるように設計され、光の干渉現象を利用して所期の目的を達成するものである。この点、上述した複屈折層は、個々の薄膜層の光学膜厚がλ/4よりも薄いことや、2種類の薄膜の光学膜厚の比によって固有の複屈折率Δnが決められることなどから、光の干渉現象とは全く異なる作用原理に基づくものであることがわかる。
【0028】
この構造性複屈折体30による光学的な位相差は、合計膜厚dと複屈折率Δnとの積によって与えられる。ガラス基板に膜厚15nmのTiO2 層と、膜厚15nmのSiO2 層とを交互に40層ずつ積層した薄膜多層蒸着サンプルを作成し、分光エリプソメータを用いて測定したところ、208nmの位相差を与える負の複屈折体であること、そして光学的な異方性を発現させない光学軸が基板の法線と一致していることが確認され、負のc−plateとして機能することが判った。
【0029】
TiO2 層,SiO2 層の屈折率をそれぞれ2.35,1.47と仮定して理論式から求めた複屈折率による位相差は218nmであり、誤差範囲内で実測値と一致した。また、このサンプルの分光透過特性は図4に示すとおりで、ほぼ無色であると言える。なお、透過率にリップルが見られるが、これはガラス基板からの反射光と最上層の薄膜表面からの反射光との干渉の影響によるものと考えられる。これについては、ガラス基板の表裏や最上層の薄膜表面に反射防止膜を設けることによって改善される。
【0030】
このサンプルを図2に示す液晶プロジェクタに用いたところ、サンプルを用いないときと比較して、最も明るい部分と最も暗い部分とのコントラストが200:1から400:1に向上した。また、5000時間の使用に対しても褪色などの劣化は認められなかった。なお、全く同じ薄膜材料を用い、それぞれ膜厚15nmで20層ずつ合計40層まで積層した別のサンプルでは、複屈折による位相差が102nmと測定され、理論計算値である107nmとほぼ一致することが確認された。
【0031】
また、構造性複屈折体30の支持体となっているマイクロレンズアレイ31として、平板マイクロレンズアレイを用いている。これは基板にイオンを注入することによって傾斜屈折率レンズ31aを形成することにより、表面を平らにしつつ、凸レンズの働きをもたせることができるという特徴をもっている。マイクロレンズアレイに用いられる材質としては、高分子材料、無機材料などがある。マイクロレンズアレイ31は、微小領域で意図する屈折率が得られるものであればどのようなものでもよく、例えば図5に示すように、基板上に微小な球面または非球面マイクロレンズ32aを形成したマイクロレンズアレイ32を用いてもよい。また、平板マイクロアレイを用いる場合には、図6に示すようにマイクロレンズ33aをマイクロレンズアレイ33の底面に形成し、マイクロレンズ33aの表面に構造性複屈折体30が層設されるようにしてもよい。このように、マイクロレンズアレイを構造性複屈折体の支持体に兼用させてマイクロレンズユニットとすることにより、部品点数を減少させ、位置合わせや角度調整を要する箇所を減らすことができる。
【0032】
図7に示すように、構造性複屈折体30はマイクロレンズアレイ31と液晶素子11Rとの間に配置されている。まず、直線偏光とされた赤色照明光がマイクロレンズユニット27Rに入射し、マイクロレンズ31aを通過すると、マイクロレンズアレイ31aの屈折率にあわせて角度がつけられる。次に、構造性複屈折体30で光学補償が行われた後、液晶素子11Rにそのままの角度で入射する。このように、位相差補償素子を通過した光が角度を変えずに液晶領域に入射することにより、理想的な光学補償が可能となる。
【0033】
なお、上記で説明しているように、理想的な光学補償のために構造性複屈折体30はマイクロレンズアレイ31の液晶素子11R側の面に設ける必要があるが、液晶素子の画素配列とマイクロレンズとが位置ズレを起こすことがないよう、マイクロレンズと液晶素子とが透明な材料で接着されるため、イオン注入型の平板マイクロレンズアレイ31でも、基板上に曲面を形成したマイクロレンズアレイ32でも、通常、液晶素子側の面は平面になっている。そのため、マイクロレンズアレイの液晶素子側の面に、真空成膜によって無機の構造性複屈折体を形成することが可能である。この方法は、マイクロレンズアレイがガラスなどの無機材料で構成されていても、透明樹脂などの有機材料で構成されていても可能である。また、以下で説明するようにフォトリソグラフィーによってマイクロレンズアレイ表面に微細な凹凸形状を形成することによって構造性複屈折体を形成することも可能であるが、その際、マイクロレンズアレイと液晶素子とを接着するための接着材が凹凸形状の間隙を埋める場合には、そのことによる屈折率の変化を考慮して構造性複屈折体の設計を行う必要がある。
【0034】
本発明の液晶プロジェクタにおいて、上記機能のために用いられる位相差補償板としては、図3に示すような多層薄膜の積層体だけでなく、無機材料で作成された構造性複屈折体であれば様々な形態のものを利用することができる。図3に示す薄膜積層体は、光学的な異方性が発現しない光学軸が基板ガラスの法線に合致した一軸性の負の複屈折板であり、c−plateとして用いる例として挙げられているが、負の一軸性の複屈折体としては、図8に示すように、透明な支持体となるガラス基板36の表面に、透明な板状突起37を格子状に配列した構造性複屈折体40を用いることも可能である。
【0035】
この構造性複屈折体40の物理的構造を構成している板状突起37の厚みd,高さh及び配列間隔は光の波長に対して充分に小さく、例えば光学膜厚がλ/100〜λ/5、好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10程度であればよく、光学異方性を示さない光学軸40aは図示の方向となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されているガラス基板36の表面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、a−plateとして用いられる。そして、照明光軸または投影光軸と直交する面内で板状突起37が一次元で配列されているため、その一次元配列の方向で空気層と板状突起37による異なった屈折率が交互に分布するようになる。
【0036】
また、図9に示すように、ガラス基板36上に透明な板状突起41を傾斜して配列した構造性複屈折体42も本発明の目的を達成するうえで有用である。この構造性複屈折体42も負の一軸性複屈折体として作用し、上記構造が形成されたガラス基板36の面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、o−plateとして用いられる。この構造性複屈折体42も、照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率の異なる部分が一次元配列となり、しかも異なる屈折率を与えるための物理的構造が照明光軸または投影光軸に対して傾斜することになる。
【0037】
これらの構造性複屈折体40,42のもつ物理的な繰り返し構造パターンは、フォトリソグラフィーにより作成することができる。なお、負の一軸性複屈折体としての作用を得るためには、それぞれの板状突起37,41の幅dに対する高さhで表されるアスペクト比を充分に大きくしておく必要がある。このアスペクト比が充分に大きくない場合には、屈折率楕円体のnx ,ny ,nz が全て異なる2軸性複屈折体となる。さらにアスペクト比が小さくなると、極限的には正のa−plateになる。
【0038】
図10に正のa−plateの一例を示す。この構造性複屈折体45は、ガラス基板36の表面に透明な誘電体による突状44を一定ピッチで格子状に配列することによって構成され、突条44の幅W,高さh及び配列ピッチは先の例と同様に波長よりも充分に小さくしてある。光学軸45aは図示のように格子構造と平行となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されたガラス基板36の表面が照明光軸あるいは投影光軸に垂直になるように配置され、やはり照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率が異なる部分が一次元配列となる。なお、位相差は突条44の高さhとその屈折率との積となる。高さhが波長に対して大きくなると屈折率異方性が一軸からずれ、二軸となる。さらに大きくなると、負のc−plateに近づく。また、突条44による格子構造は空気層に接していてもよいが、他の異なる屈折率をもった誘電体層で、突条44の相互間を埋めるように全体的に覆うようにしてもよい。
【0039】
正のc−plateもまた本発明の構造性複屈折体として利用できる。正のc−plateは、図11に示すように、ガラス基板36の表面に透明な誘電体からなる多数の突起46を垂直に林立させることで作成することができる。突起46のサイズや配列ピッチは、これまで同様に、光の波長に比して充分に小さいものであればよい。ガラス基板36の表面が照明光軸または投影光軸と直交するように配置されるため、図8〜図10に示す構造性複屈折体40,42,45とは異なり、屈折率の異なる部分が照明光軸または投影光軸と直交する面内で二次元に分布するようになる。このような構造をもつ構造性複屈折体47も、やはりフォトリソグラフィーで作成が可能であり、その光学軸47aはガラス基板36の表面に垂直となる。また上記物理的構造部分が空気層に接する形態で使用してもよいが、先のものと同様、屈折率が異なる別の誘電体層で全体的に覆う形態で使用することも可能である。
【0040】
さらに、正のo−plateは図12に示す形態で得ることができ、このような二次元の物理的構造の配列パターンをもつこれらの構造性複屈折体も本発明の目的のために効果的に用いることができる。図12に示す構造性複屈折体50は、ガラス基板36の表面に透明な誘電体からなる突起51を一定の傾斜角度で規則的に林立させたもので、フォトリソグラフィーにより作成可能である。やはり、これらの構造のサイズや繰り返しピッチは光の波長よりも充分に小さくしておく必要があり、構造表面は空気層あるいは別の透明な誘電体層のいずれに接していてもよい。光学軸50aは、図示のようにガラス基板36の表面に対して傾斜し、突起51の傾斜方向と平行になる。
【0041】
正のo−plateを作成するにあたっては、図13に示すように、ガラス基板36の表面に対し、斜め方向から一種類の誘電体を蒸着することによっても得られることが米国特許第5638197号公報明細書でも知られている。この方法によれば、光の波長に対して充分に小さい物理的構造を簡単に得ることができる。なお、同図中に示す斜線は、ガラス基板36に斜め方向から成膜を行ったことを模式的に表すためのもので、それぞれ個別の薄膜層を表すものではない。この構造性複屈折体53も、ガラス基板36の表面が照明光軸または投影光軸と垂直になるように配置して用いられ、斜設した薄膜層54がo−plate複屈折体の光学異方性を示す。
【0042】
以上、図示した実施形態に基づいて本発明について述べてきたが、位相差補償板を2枚以上10枚以下、好ましくは2枚以上4枚以下の範囲内で組み合わせて使用してもよい。また、複数枚の位相差補償板を組み合わせて使用する際に、異なった種類の位相差補償板を用いることも可能である。例えば、1枚の負のc−plate、1枚の負のo−plate、1枚の正のa−plateの組み合わせにより、より精密な位相差補償を行い、スクリーンに投影される画像のコントラストをより向上させることができる。また、本発明を適用し得る液晶素子の動作モードとしても、上述した透過型TN液晶モードに限定されるものではなく、マイクロレンズを使用するあらゆる動作モードに適用できる。
【0043】
なお、薄膜層を積層した位相差補償層を作成するにあたっては、各層の膜厚は必ずしも等しくする必要はなく、また2種類の薄膜を交互に積層することにのみ限られない。例えば屈折率が異なる3種類以上の薄膜を適宜の順序,膜厚で積層してもよく、成膜工程の容易さ、各層の内部応力による歪みの吸収、屈折率の波長依存性などを考慮して適宜に設計することが可能である。さらに、上述してきた各種の構造性複屈折体に対して、位相差補償作用を有するとともに特に耐久性に問題のないポリマーフイルムを基材とする位相差補償シートを組み合わせることもまた、本発明の実施形態に含まれる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の液晶プロジェクタによれば、液晶素子の照明光の入射面側に備えられたマイクロレンズアレイに、無機材料で作成された構造性複屈折体を設けたため、耐久性に優れ、しかもコストの負担も大きくすることなく位相差補償を行い、スクリーンに投影される画像のコントラストを向上させることができる。さらに、本発明を適用したマイクロレンズアレイによれば、その製造段階で簡便に構造性複屈折体を一体化することができるので、液晶素子の開口効率の向上とともに位相差補償機能も得られるようになり、液晶プロジェクタの量産性を向上させる上で効果的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】リア方式の液晶プロジェクタの概略を示す外観図である。
【図2】透過型液晶素子を用いた投影ユニットの概略構成図である。
【図3】マイクロレンズユニットの構成例を示す概略図である。
【図4】図3に示す位相差補償板の分光透過特性を示すグラフである。
【図5】マイクロレンズユニットの別の構成例を示す概略図である。
【図6】マイクロレンズユニットのさらに別の構成例を示す概略図である。
【図7】マイクロレンズ、構造性複屈折体、及び液晶素子の配置を示す概略図である。
【図8】形状パターンを有する構造性複屈折体の一実施形態を示す概念図である。
【図9】形状パターンを有する構造性複屈折体の他の実施形態を示す概念図である。
【図10】形状パターンを有する構造性複屈折体の別の実施形態を示す概念図である。
【図11】構造性複屈折体のさらに別の実施形態を示す概念図である。
【図12】構造性複屈折体のさらに他の実施形態を示す概念図である。
【図13】斜め方向からの成膜で作成された構造性複屈折体の概念図である。
【符号の説明】
3 スクリーン
5 投影ユニット
11R,11G,11B 液晶素子
12 光源
26R,26G,26B 偏光板
27R,27G,27B マイクロレンズユニット
28R,28G,28B 偏光板
24 合成プリズム
25 投影レンズ
30 構造性複屈折体
31 マイクロレンズアレイ
31a マイクロレンズ
Claims (6)
- 光源からの照明光を液晶素子に照射し、液晶素子で変調された画像光を投影光学系によりスクリーン上に結像させる液晶プロジェクタにおいて、
前記液晶素子の照明光入射側に、液晶素子の画素配列に対応したサイズ及び配列ピッチで複数のマイクロレンズを配列したマイクロレンズアレイが設けられ、かつこのマイクロレンズアレイの照明光出射面に、無機材料で作成された構造性複屈折体が形成されていることを特徴とする液晶プロジェクタ。 - 前記構造性複屈折体が、高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜とを交互に積層した多層薄膜で構成されていることを特徴とする請求項1記載の液晶プロジェクタ。
- それぞれの薄膜が光の波長の100分の1以上5分の1以下の光学膜厚であることを特徴とする請求項2記載の液晶プロジェクタ。
- 液晶素子の画素配列に対応したサイズ及び配列ピッチで複数のマイクロレンズが配列され、透過型の液晶素子の照明光の入射側に配置して用いられるマイクロレンズアレイにおいて、
前記照明光が出射するマイクロレンズアレイの出射面に、無機材料で作成された構造性複屈折体を形成したことを特徴とするマイクロレンズアレイ。 - 前記構造性複屈折体が、高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜とを交互に積層した多層薄膜で構成されていることを特徴とする請求項4記載のマイクロレンズアレイ。
- それぞれの薄膜が光の波長の100分の1以上5分の1以下の光学膜厚であることを特徴とする請求項5記載のマイクロレンズアレイ。
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JP2011076113A (ja) * | 2010-12-24 | 2011-04-14 | Fujifilm Corp | 光学素子とその製造方法、液晶装置、及び投射型表示装置 |
-
2002
- 2002-10-29 JP JP2002314761A patent/JP2004151252A/ja active Pending
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