JP2004102200A - 液晶プロジェクタ - Google Patents
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Abstract
【課題】液晶プロジェクタでスクリーンに画像を投影したとき、投影画像のコントラストが低下することを防止する。
【解決手段】ミラー19で反射された赤色の照明光は、偏光板26Rによって直線偏光となって透過型の液晶素子11Rの背面側に照射される。液晶素子11Rを通過する間に、照明光には楕円偏光も含まれるようになり、液晶素子11Rの出射面から出射する。無機材料による構造性複屈折体からなる位相差補償板27Rが液晶素子11Rから出射する光の位相を調整し、楕円偏光は直線偏光に変調されて偏光板28Rに入射する。偏光板28Rは振動面が適合した直線偏光を通過させ、合成プリズム24に入射させる。緑色チャンネル,青色チャンネルでも同様に位相差補償が行われ、各色光を合成した画像が投影レンズ25によりスクリーン3に投影される。
【選択図】 図2
【解決手段】ミラー19で反射された赤色の照明光は、偏光板26Rによって直線偏光となって透過型の液晶素子11Rの背面側に照射される。液晶素子11Rを通過する間に、照明光には楕円偏光も含まれるようになり、液晶素子11Rの出射面から出射する。無機材料による構造性複屈折体からなる位相差補償板27Rが液晶素子11Rから出射する光の位相を調整し、楕円偏光は直線偏光に変調されて偏光板28Rに入射する。偏光板28Rは振動面が適合した直線偏光を通過させ、合成プリズム24に入射させる。緑色チャンネル,青色チャンネルでも同様に位相差補償が行われ、各色光を合成した画像が投影レンズ25によりスクリーン3に投影される。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶素子に表示された画像をスクリーンに投影する液晶プロジェクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
米国特許第5638197号明細書
【特許文献2】
特開2002−14345号公報
【特許文献3】
特開2002−31782号公報
【特許文献4】
特開2002−131750号公報
【非特許文献1】
Eblen J P 他5名. 「Birefringent Compensators for Normally White TN−LCDs」. SID Symposium Digest. SOCIETY FOR INFORMATION DISPLAY. 1994. p.245−248
【0003】
液晶プロジェクタは、液晶素子によって光変調された光をスクリーンに投影して画像表示を行うもので、スクリーンの前面側から画像を投影するフロント方式とスクリーンの背面側から画像を投影するリア方式とがある。また、使用する液晶素子が透過型のものであるか反射型のものであるかによって照明の仕方が異なるが、いずれにせよ投影する画像を液晶素子に表示し、これに照明を与えて投影レンズでスクリーン上に画像を結像させる構成となっている。
【0004】
液晶プロジェクタの液晶素子には種々の動作モードのものを用いることが可能であるが、多用されているTN(Twisted Nematic)液晶について説明する。TN液晶は、2枚の基板間で液晶層を構成している液晶分子が、その長軸が基板と平行となるように保たれ、かつ厚み方向では長軸が少しずつ傾けられ全体で90°ねじられる配向状態となっており、一対の偏光板(一方が偏光子、他方が検光子となる)で挟むようにして用いられる。そして、液晶素子をノーマリーホワイト,ノーマリーブラックのいずれで使用するかに応じて、一対の偏光板はクロスニコル配置あるいはパラレルニコル配置のいずれかが選択される。
【0005】
ところで、TN液晶に限らず、一般に液晶素子には視野角が狭いという欠点がある。ノーマリーホワイトのTN液晶を例にすると、液晶層に電圧を印加していない状態では、液晶層は偏光板を通ってきた直線偏光を液晶分子のねじれ配列にしたがって偏波面を90°回転させる旋光性を示す。そして、液晶層を通過してきた直線偏光はクロスニコル配置された他方の偏光板を通って出射し、ホワイト状態となる。液晶層に電圧を印加すると液晶分子のねじれが消失し、入射した直線偏光はそのままの偏波面で出射することになるため、他方の偏光板がその通過を阻止してブラック状態となる。
【0006】
ところが、液晶は複屈折媒体としても作用する。前述したTN液晶の場合、液晶層に電圧を印加してそのねじれ配向を消失させてゆく過程では、旋光性と複屈折性とが混在し、電圧の印加レベルが高くなるにつれて複屈折性が支配的になってゆく。そして、液晶分子のねじれが消失してブラック状態となったとき、垂直入射光に対しては液晶層が複屈折性を示すことはほとんどなくなるので直線偏光はそのまま透過するが、斜め入射光に対しては複屈折性を示し、直線偏光で入射した光は楕円偏光に変調されるようになる。こうして生じた楕円偏光は部分的に出射側の偏光板を透過し、ブラック状態の濃度を薄める結果となる。液晶層がもつこのような複屈折媒体としての性向は、ホワイト状態からブラック状態への移行過程でも徐々に現れるため、中間調の表示状態下でもその表示画面を斜め方向から観察したときにはやはり変調度の角度依存性が避けられないものとなる。このような変調度の角度依存性はTN液晶に限らず、大なり小なり全ての液晶素子に見られる現象である。
【0007】
液晶素子のもつ上記欠点を改善するために、液晶素子に表示された画像を直接観察する直視型の液晶表示装置では位相差補償素子を併用することが知られている。この目的で使用される位相差補償素子としては、富士写真フイルム(株)製の「Fuji WV Film ワイドビューA」(商品名/以下、WVフイルム)がすでに実用化され、また上記非特許文献1には、薄膜を積層した構造性複屈折体を位相差補償素子として用いることにより、視野角を大きくしてもTN液晶の表示画像のコントラストを低下させないことが紹介されている。さらに特許文献1には、基板に対して斜め方向から多層薄膜を蒸着した位相差補償素子を用い、その光学異方性により液晶ディスプレイの視野角を広げることが記載されている。
【0008】
これらの位相差補償素子は直視型の液晶素子に適用されるものであるが、直視型の液晶素子は、明視距離以上離れた位置から表示画面にほぼ正対して画像観察されるのが通常の使用形態であることが多い。そして、仮に表示画面の周辺部でコントラストが低下して観察されたときには、眼の位置を少しずらしてやればその部分の画像もほぼ正常に観察することができる。また、多人数が同時に観察する用途のものは表示画面と観察者との間の距離が大きくなるため、正常に観察できる範囲は限られるものの、表示画像のコントラストが部分的に異なるということは起こりにくい。
【0009】
これに対し、液晶プロジェクタでは液晶素子によって変調された画像光が投影レンズでスクリーンに投影され、それがスクリーン上で拡散した画像光となって観察対象となる。したがって黒レベルを表示したいときに、液晶層に斜めに入射して液晶分子を斜めに通過する光が含まれることが原因となって、投影画像そのもののコントラストが低下してしまうと、例えどのような位置から観察したとしてもコントラストの低下は全く改善されることがない。投影画像のコントラストをできるだけ高めるには、液晶素子から大きな角度で出射する光束を使わずに投影画像が得られるようにすればよいが、そのためには投影レンズのバックフォーカスを長くする必要があり、小型化が求められる液晶プロジェクタではコンパクト化を図るうえで不利になる。このような難点を原理的に解決するには、液晶プロジェクタに用いる液晶素子についても、やはり直視型液晶パネルでいう視野角の拡大技術を利用することが効果的で、結果的に投影画像のコントラストを向上させることができるようになる。
【0010】
こうした背景から、コントラスト向上の目的で液晶プロジェクタ用の液晶素子についても、直視型液晶素子と同様に位相差補償素子を組み合わせて使用することが特許文献2,特許文献3に記載されている。特許文献2に記載された液晶プロジェクタでは、TN液晶用の位相差補償素子として、前述したWVフイルムのように有機材料で構成されたものが用いられている。また、特許文献3には、位相差補償素子として単結晶サファイアや水晶などの一軸性の複屈折性結晶を用いることが記載されている。また、特許文献4には、光学位相補償板としてディスコティック液晶を用いたものが記載されている。これらの位相差補償素子は、いずれも光の入射角に依存した光学異方性を発現する複屈折体として作用し、液晶素子から大きな出射角で出射する光束によって画像のコントラストが低下することを防いでいる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般に有機材料からなる位相差補償素子は、紫外線を含む強い光に長時間曝されていると褪色が生じやすい。特に液晶プロジェクタに用いる場合には、スクリーンに画像投影を行うために直視型の液晶モニタなどと比較して光源の輝度も高くなり、過熱の度合いも大きくなることから、実用的には2000〜3000時間程度で徐々に褐色に変化する傾向にある。したがって、例えば家庭用プロジェクションテレビジョンなどのように長時間にわたって使用される用途では耐久性の点で問題があり実用化は難しい面がある。一方、単結晶サファイヤや水晶などの複屈折体を用いた位相差補償素子は、耐久性では問題はないものの、サファイヤや水晶などの結晶自体が高価であり、また結晶の切り出し面や厚みを高精度に管理しなくてはならず、しかも光学系中に組み込むときの調整も面倒であり、一般普及型の液晶プロジェクタに適用することはコスト面での不利が大きい。
【0012】
本発明は上記背景を考慮してなされたもので、家庭用テレビジョンのような長時間の使用に対しても耐久性に優れ、しかも製造コストの負担も少ない位相差補償素子を用いることによって、スクリーンに投影される画像自体のコントラストが向上するようにした液晶プロジェクタを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するにあたり、画像表示手段として液晶プロジェクタに組み込まれる液晶素子の入射面側あるいは出射面側、または両側で、偏光子と検光子との間に配置され、液晶素子を角度をもって通過する偏光光の位相を制御する位相差補償素子として、無機材料で作成された構造性複屈折体を用いることを特徴とする。本発明のこの特徴は、液晶のモードや構造性複屈折体の形式によらず一般性及び進歩性を有するものである。構造性複屈折体は、ガラスなどの透明な支持体上に形成された物理的な微細構造によって光学異方性を示すものを意味し、「光学 第27巻第1号(1998)p.12−17 」にそのいくつかの例が記載されている。特に本発明では、 光学異方性を得るための物理的構造が無機材料で形成される。
【0014】
本発明に効果的に用いることができる構造性複屈折体としては、屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料による薄膜を交互に積層した多層薄膜で構成することができる。特に、それぞれの光学膜厚が100分の1以上5分の1以下となるように交互に積層した多層薄膜で構成することが好ましい。また、液晶素子の照明光軸または投影光軸と直交する面内で、無機材料によって形成された、一次元または二次元に屈折率が異なる正の複屈折板を用いることも可能であり、このような複屈折板は基板の表面に物理的に微細な凹凸パターンを形成することによって得られ、また無機材料を斜め方向から真空成膜することによっても得ることができる。さらに、光路中において、その物理的構造を照明光軸,投影光軸に対して傾斜させて配置することも有効である。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1にリア方式の液晶プロジェクタの外観を示す。筐体2の前面に拡散透過型のスクリーン3が設けられ、その背面に投影された画像が前面側から観察される。筐体2の内部には投影ユニット5が組み込まれ、その投影画像はミラー6,7で反射されスクリーン3の背面に結像される。この液晶プロジェクタは、筐体2の内部にチューナー回路などのほか、ビデオ信号及び音声信号再生用の周知の回路ユニットを組み込み、投影ユニット5に画像表示手段として組み込まれた液晶素子にビデオ信号の再生画像を表示することによって、大画面のテレビジョンとして使用することができる。
【0016】
図2に投影ユニット5の構成を概略的に示す。この投影ユニット5には透過型の三枚の液晶素子11R,11G,11Bが組み込まれ、フルカラーで画像投影を行うことができる。光源12からの放射光は、紫外線及び赤外線をカットするフィルタ13を透過することにより赤色光,緑色光,青色光を含む白色光となり、光源から液晶素子に至る照明光軸にしたがってガラスロッド14に入射する。ガラスロッド14の光入射面は、光源12に用いられている放物面鏡の焦点位置近傍に位置し、光源12からの光は効率的にガラスロッド14に入射する。
【0017】
ガラスロッド14の出射面に対峙してリレーレンズ15が配設され、ガラスロッド14からの白色光は、リレーレンズ15及び後段のコリメートレンズ16により平行光となってミラー17に入射する。ミラー17で反射された白色光は、赤色光だけを透過するダイクロイックミラー18Rで2光束に分けられ、透過した赤色光はミラー19で反射して液晶素子11Rを背面から照明する。また、ダイクロイックミラー18Rで反射された緑色光と青色光は、緑色光だけを反射するダイクロイックミラー18Gでさらに2光束に分割される。ダイクロイックミラー18Gで反射された緑色光は液晶素子11Gを背面側から照明する。ダイクロイックミラー18Gを透過した青色光は、ミラー18B,20で反射され、液晶素子11Bを背面から照明する。
【0018】
各々の液晶素子11R,11G,11BはそれぞれTN液晶で構成され、その各々には、フルカラー画像を構成する赤色画像,緑色画像,青色画像の濃度パターン画像が表示される。これらの液晶素子11R,11G,11Bから光学的に等距離となる位置に中心がくるように合成プリズム24が配置され、合成プリズム24の出射面に対面して投影レンズ25が設けられている。合成プリズム24は、その内部に2面のダイクロイック面24a,24bを有し、液晶素子11Rを透過してきた赤色光、液晶素子11Gを透過してきた緑色光、液晶素子11Bを透過してきた青色光を合成して投影レンズ25に入射させる。
【0019】
各液晶素子11R,11G,11Bの出射面の中心から、合成プリズム24及び投影レンズ25の中心を通り、スクリーン3の中心に至る投影光軸上に投影レンズ25が設けられている。投影レンズ25は、その物体側焦点面が液晶素子11R,11G,11Bの出射面に一致し、像面側焦点面がスクリーン3に一致するようにしてあるから、合成プリズム24で合成されたフルカラー画像はスクリーン3に結像されることになる。なお、図1に示すミラー6,7については、図面の煩雑化を避けるために省略した。
【0020】
液晶素子11R,11G,11Bの照明光の入射面側には、それぞれ偏光板26R,26G,26Bが設けられている。また、各液晶素子の出射面側には、位相差補償板27R,27G,27Bと、偏光板28R,28G,28Bとが設けられている。入射面側の偏光板26R,26G,26Bと出射面側の偏光板28R,28G,28Bはクロスニコル配置となっており、入射面側の偏光板は偏光子、出射面側の偏光板は検光子として作用する。なお、それぞれの色チャンネルごとに設けられた液晶素子、その両側にそれぞれ設けられた偏光板及び位相差補償板の作用は、それぞれの色光に基づく相違はあるものの、基本的な作用は実質的に共通であるので、以下、赤色チャンネルを代表させて説明する。
【0021】
ミラー19で反射された赤色照明光は、入射面側の偏光板26Rで直線偏光となって液晶素子11Rに入射する。ノーマリホワイトモードの場合、液晶素子11Rに用いられているTN液晶は、赤色画像の黒を表示するために画素に信号電圧が印加される。このとき、液晶層に含まれる液晶分子は様々な配向姿勢をとるようになり、赤色照明光が平行光束となって液晶素子11Rに入射しても、液晶層が呈する旋光性と複屈折性により、液晶素子11Rの出射面から出射する光は完全な直線偏光とはならず、一般に楕円偏光の画像光が出射するようになり、充分な黒が得られない。また、ノーマリーブラックモードの場合でも、液晶分子のわずかな傾きによって黒レベルが充分に黒くはならない。
【0022】
黒表示させたい状態において、液晶層を通過した画像光の直線偏光性が保存されていれば、他方の偏光板28Rによっで遮断され、充分弱い強度となって合成プリズム24に入射する。しかし、液晶分子を斜めに通過する光が含まれている場合には、液晶層によって変調された画像光は、直線偏光とはわずかに光学的な位相が相違した楕円偏光となって位相差補償板27Rに入射する。このとき、位相差補償板27Rは楕円偏光成分の画像光に対してその光学的な位相差を補償する作用を示す。これにより、楕円偏光の画像光が直線偏光の画像光となって偏光板28Rに入射するようになるから、偏光板28Rにより遮断され充分に弱い強度となって合成プリズム24に入射するようになり、本来の画像のコントラストが向上する。
【0023】
このような機能をもつ位相差補償板27Rとして、この液晶プロジェクタでは無機材料で作成された構造性複屈折体が用いられる。図3に示す構造性複屈折体30は、透明なガラス基板31に互いに屈折率が異なる誘電体の薄膜L1,L2を交互に積層した多層膜で構成されている。各層の光学膜厚(物理的膜厚と屈折率との積)は光の波長よりも充分に小さく、好ましくはλ/100〜λ/5、より好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10が適切である。この方法で、容易に負のc−plateの作成が可能となり、一軸性の負の複屈折板として薄膜の形成面が投影光軸に垂直となるように配置して用いられる。
【0024】
高屈折率の薄膜層の材料としてはTiO2 (n=2.2〜2.4),ZrO2 (n=2.20)など、低屈折率材料としてはSiO2 (n=1.40〜1.48)やMgF2 (n=1.39),CaF2 (n=1.30)などを用いることができる。さらに、例えば以下に挙げる種々の材料を、本発明の複屈折層を構成する高屈折率、低屈折率の薄膜層に利用することができる。なお、( )内に示す数値は屈折率の概略値を表す。CeO2 (2.45),SnO2 (2.30),Ta2 O5 (2.12),In2 O3 (2.00),ZrTiO4 (2.01),HfO2 (1.91),Al2 O3 (1.59〜1.70),MgO(1.7),ALF3 ,ダイヤモンド薄膜,LaTiOX ,酸化サマリウムなど。また、高屈折率薄膜層用材料と低屈折率薄膜層材料の組み合わせとしては、TiO2 /SiO2 が好ましいが、その他にTa2 O5 /Al2 O3 、HfO2 /SiO2 、MgO/MgF2 、ZrTiO4 /Al2 O3 、CeO2 /CaF2 、ZrO2 /SiO2 、ZrO2 /Al2 O3 等も挙げられる。
【0025】
また、積層された薄膜L1,L2の相互間で光の干渉現象が生じることを避ける必要があるため各々の光学膜厚は薄い方がよいが、必要な合計膜厚を得るのに成膜回数が増えてくるので、現実的な膜厚構成の設計にあたっては、所望の複屈折率作用を考慮して各層の屈折率,膜厚比,合計膜厚を決め、着色については薄膜干渉を充分に考慮し、さらに成膜後に内部応力に起因するクラックの発生などの不具合が生じないように材料の選定に留意する必要がある。
【0026】
なお、多層薄膜で構成された複屈折層を製造するには、真空蒸着法やスパッタ成膜法を効果的に用いることができる。高屈折率薄膜層と低屈折率薄膜層との2種類の薄膜層を交互に成膜してゆくには、成膜対象となる基板に対して各々の蒸発源を遮蔽することができるようにそれぞれシャッタを設け、これらのシャッタを交互に開閉して2種類の薄膜層を交互に積層させたり、あるいは基板を一定の速さで循環移動する基板ホルダに保持させ、基板を循環移動させる過程でそれぞれの蒸発源の上を通過させることによって順次に2種類の薄膜を交互に積層させるなどの手法を取ることができる。これにより、多層薄膜を得るに際して真空槽を一回だけ真空引きすればよいので、製造効率を高めることができる。
【0027】
このような多層薄膜による複屈折層の設計手順は次のとおりである。複屈折層の複屈折率Δnは、「光学 第27巻第1号(1998)p.12−17」に記載のように、屈折率の異なる2種類の薄膜の光学膜厚の比で決定され、それぞれの屈折率に差があるほど大きい値が得られる。また、位相差は複屈折率Δnと複屈折層の物理的な合計膜厚dとの積「dΔn」で与えられる。したがって、所望の位相差を得るためには、それらの材料から得られる複屈折率Δnの値が大きくなるような膜厚比を求め、その複屈折率Δnから必要な複屈折層の物理的な合計膜厚dが決定される。各薄膜の物理的膜厚と層数との積が合計膜厚dになることと、物理的膜厚が段落[0023]に記載した光学膜厚の範囲にあることを条件として、製造適性を考慮しつつ層数を選択すればよい。
【0028】
なお、屈折率が異なる誘電体薄膜を積層した多層薄膜により固有の光学的作用を得るものとして、ダイクロイックミラー、偏光ビームスプリッター、色合成プリズム、反射防止膜などが知られているが、これらの多層薄膜を構成する個々の薄膜層は、いずれもその光学膜厚がλ/4の整数倍となるように設計され、光の干渉現象を利用して所期の目的を達成するものである。この点、上述した複屈折層は、個々の薄膜層の光学膜厚がλ/4よりも薄いことや、2種類の薄膜の光学膜厚の比によって固有の複屈折率Δnが決められることなどから、光の干渉現象とは全く異なる作用原理に基づくものであることがわかる。
【0029】
この構造性複屈折体30による光学的な位相差は、上記のように合計膜厚dと複屈折率Δnとの積によって与えられる。ガラス基板に物理的膜厚15nmのTiO2 層と、物理的膜厚15nmのSiO2 層とを交互に40層ずつ積層した薄膜多層蒸着サンプルを作成し、分光エリプソメータを用いて測定したところ、208nmの位相差を与える負の複屈折体であること、そして光学的な異方性を発現させない光学軸が基板の法線と一致していることが確認され、負のc−plateとして機能することが判った。
【0030】
TiO2 層,SiO2 層の屈折率をそれぞれ2.35,1.47と仮定して理論式から求めた複屈折率による位相差は218nmであり、誤差範囲内で実測値と一致した。また、このサンプルの分光透過特性は図4に示すとおりで、ほぼ無色であると言える。なお、透過率にリップルが見られるが、これはガラス基板からの反射光と最上層の薄膜表面からの反射光との干渉の影響によるものと考えられる。これについては、ガラス基板の表裏や最上層の薄膜表面に反射防止膜を設けることによって改善することができた。
【0031】
このサンプルを図2に示す液晶プロジェクタに用いたところ、サンプルを用いないときと比較して、最も明るい部分と最も暗い部分とのコントラストが200:1から400:1に向上した。また、5000時間の使用に対しても褪色などの劣化は認められなかった。なお、全く同じ薄膜材料を用い、それぞれ物理的膜厚15nmで20層ずつ合計40層まで積層した別のサンプルでは、複屈折による位相差が102nmと測定され、理論計算値である107nmとほぼ一致することが確認された。そして、このサンプルを後述する反射型の液晶素子を用いたプロジェクタに組み込んだところ、コントラストが150:1から300:1に改善されることが確かめられている。
【0032】
前述のように、本発明の構造性複屈折体は、透過型液晶素子を用いた投影ユニット5だけでなく、反射型液晶素子を用いたものにも適用が可能である。反射型液晶素子を用いた投影ユニットの一例を図5に示す。光源12からの放射光は、フィルタ13を透過することにより紫外線及び赤外線がカットされた白色光となり、集光光学系35を透過して赤色光だけを反射するダイクロイックミラー36に入射する。反射された赤色光は、ミラー37で反射して偏光膜38aが斜設された偏光ビームスプリッタ38に入射する。偏光膜38aによりs偏光成分が直線偏光となって反射され、位相差補償板40Rを経て反射型の液晶素子41Rに入射する。なお、ダイクロイックミラー36を透過した緑色光と青色光のうち、緑色光はダイクロイックミラー42で反射され偏光ビームスプリッタ43に入射し、ダイクロイックミラー42を透過した青色光は偏光ビームスプリッタ44に入射する。
【0033】
ここで用いられている反射型の液晶素子41Rは、TN液晶からなる液晶層の背後にミラーを配置した構造となっている。そして、液晶素子41Rから出射した直線偏光光は、再び位相差補償板40Rを経て偏光ビームスプリッタ38に入射する。再び入射した直線偏光光は、偏光膜38aに対してp偏光成分となっているから、偏光膜38aを透過して合成プリズム24に入射する。なお、合成プリズム24及び投影レンズ25の機能は先の実施形態と全く同様である。
【0034】
ここで用いられている位相差補償板40Rも、液晶素子41Rの液晶層が示す複屈折性による位相差を補償する機能を発揮するが、液晶素子41Rに入射するときと出射するときとで光が2度通過することになるため、これを考慮して位相差補償板40R自体の複屈折による位相差を設計しておく必要がある。また、反射型の液晶素子をオフアクシス(入射光軸と反射光軸とが別)で使用する場合には、図6(A)に示すように、液晶素子45に近接して位相差補償板46を配置し、偏光子47と検光子48と組み合わせることも可能である。
【0035】
なお、位相差補償板46の設置位置は、偏光子47の出射側と検光子48の入射側との間であることが必須である。液晶素子45の入射側にするか出射側にするかについては、厳密には光学的効果は同一ではないにしても、ほぼ近い効果が得られるので、他の設計要因を考慮して設計すればよい。したがって、図6(B)に示すように、偏光子47と液晶素子45との間に位相差補償板49を配置することも可能であり、さらに液晶素子45と検光子48との間に位相差補償板を追加することも可能である。もちろん、この場合には双方の位相差補償板が協同して複屈折による適切な位相差が得られるように個々の位相差補償板の設計を行うことになる。
【0036】
透過型の液晶素子の中には、図7に示すようにマイクロレンズ50と組み合わされているものがある。マイクロレンズ50は、背面側のガラス基板51に形成された画素電極部52を画素ごとに区画しているブラックマトリクス部62によって画素単位での開口率が低下することを改善するために用いられている。マイクロレンズ50を組み合わせることによって、収斂光束となった照明光は、偏光子となる偏光板53、第1位相差補償板54、ガラス基板55、対向電極56、配向膜57を通って液晶層58に達し、さらに配向膜59、画素電極部52を通ってガラス基板51、第2位相差補償板60、検光子となる偏光板61を透過して出射する。
【0037】
位相差補償板は、液晶層を通過する光の角度によって位相の変調度が異なってくることを補償するためのものであるから、この実施形態のように、マイクロレンズ50によって入射してくる光に角度がつくような場合には、その入射側に第1位相差補償板54を設けることも有効である。そして、図示のように出射側にも第2位相差補償板60を設けておき、双方の協同により初期の効果を得るように設計することも可能である。図2、図5に示す光学系で、図では液晶素子に対する光は平行光として示してあるが、液晶素子にマイクロレンズを組み合わせた場合、液晶層を通過する光の角度は図7と同様になる。したがって、このような場合にも同様の実施形態で位相差補償板を設けることは有効である。
【0038】
本発明の液晶プロジェクタにおいて、上記機能のために用いられる位相差補償板としては、図3に示すような多層薄膜の積層体だけでなく、無機材料で作成された構造性複屈折体であれば様々な形態のものを利用することができる。図3に示す薄膜積層体は、光学的な異方性が発現しない光学軸が基板ガラスの法線に合致した一軸性の負の複屈折板であり、c−plateとして用いる例として挙げられているが、負の一軸性の複屈折体としては、図8に示すように、透明な支持体となるガラス基板66の表面に、透明な板状突起67を格子状に配列した構造性複屈折体70を用いることも可能である。
【0039】
この構造性複屈折体70の物理的構造を構成している板状突起67の厚みd,高さh及び配列間隔は光の波長に対して充分に小さく、例えば光学膜厚がλ/100〜λ/5、好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10程度であればよく、光学異方性を示さない光学軸70aは図示の方向となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されているガラス基板66の表面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、a−plateとして用いられる。そして、照明光軸または投影光軸と直交する面内で板状突起67が一次元で配列されているため、その一次元配列の方向で空気層と板状突起67による異なった屈折率が交互に分布するようになる。
【0040】
また、図9に示すように、ガラス基板66上に透明な板状突起71を傾斜して配列した構造性複屈折体72も本発明の目的を達成するうえで有用である。この構造性複屈折体72も負の一軸性複屈折体として作用し、上記構造が形成されたガラス基板66の面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、o−plateとして用いられる。この構造性複屈折体72も、照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率の異なる部分が一次元配列となり、しかも異なる屈折率を与えるための物理的構造が照明光軸または投影光軸に対して傾斜することになる。
【0041】
これらの構造性複屈折体70,72のもつ物理的な繰り返し構造パターンは、フォトリソグラフィーにより作成することができる。なお、負の一軸性複屈折体としての作用を得るためには、それぞれの板状突起67,71の幅dに対する高さhで表されるアスペクト比を充分に大きくしておく必要がある。このアスペクト比が充分に大きくない場合には、屈折率楕円体のnx ,ny ,nz が全て異なる2軸性複屈折体となる。さらにアスペクト比が小さくなると、極限的には正のa−plateになる。
【0042】
図10に正のa−plateの一例を示す。この構造性複屈折体75は、ガラス基板66の表面に透明な誘電体による突状74を一定ピッチで格子状に配列することによって構成され、突条74の幅W,高さh及び配列ピッチは先の例と同様に波長よりも充分に小さくしてある。光学軸75aは図示のように格子構造と平行となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されたガラス基板66の表面が照明光軸あるいは投影光軸に垂直になるように配置され、やはり照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率が異なる部分が一次元配列となる。なお、位相差は突条74の高さhとその屈折率との積となる。高さhが波長に対して大きくなると屈折率異方性が一軸からずれ、二軸となる。さらに大きくなると、負のc−plateに近づく。また、突条74による格子構造は空気層に接していてもよいが、他の異なる屈折率をもった誘電体層で、突条74の相互間を埋めるように全体的に覆うようにしてもよい。
【0043】
正のc−plateもまた本発明の構造性複屈折体として利用できる。正のc−plateは、図11に示すように、ガラス基板66の表面に透明な誘電体からなる多数の突起76を垂直に林立させることで作成することができる。突起76のサイズや配列ピッチは、これまで同様に、光の波長に比して充分に小さいものであればよい。ガラス基板66の表面が照明光軸または投影光軸と直交するように配置されるため、図8〜図10に示す構造性複屈折体70,72,75とは異なり、屈折率の異なる部分が照明光軸または投影光軸と直交する面内で二次元に分布するようになる。このような構造をもつ構造性複屈折体77も、やはりフォトリソグラフィーで作成が可能であり、その光学軸77aはガラス基板66の表面に垂直となる。また上記物理的構造部分が空気層に接する形態で使用してもよいが、先のものと同様、屈折率が異なる別の誘電体層で全体的に覆う形態で使用することも可能である。
【0044】
さらに、正のo−plateは図12に示す形態で得ることができ、このような二次元の物理的構造の配列パターンをもつこれらの構造性複屈折体も本発明の目的のために効果的に用いることができる。図12に示す構造性複屈折体80は、ガラス基板66の表面に透明な誘電体からなる突起81を一定の傾斜角度で規則的に林立させたもので、フォトリソグラフィーにより作成可能である。やはり、これらの構造のサイズや繰り返しピッチは光の波長よりも充分に小さくしておく必要があり、構造表面は空気層あるいは別の透明な誘電体層のいずれに接していてもよい。光学軸80aは、図示のようにガラス基板66の表面に対して傾斜し、突起81の傾斜方向と平行になる。
【0045】
正のo−plateを作成するにあたっては、図13に示すように、ガラス基板66の表面に対し、斜め方向から一種類の誘電体を蒸着することによっても得られることが米国特許第5638197号公報明細書(前掲特許文献1)でも知られている。この方法によれば、光の波長に対して充分に小さい物理的構造を簡単に得ることができる。なお、同図中に示す斜線は、ガラス基板66に斜め方向から成膜を行ったことを模式的に表すためのもので、それぞれ個別の薄膜層を表すものではない。この構造性複屈折体83も、ガラス基板66の表面が照明光軸または投影光軸と垂直になるように配置して用いられ、斜設した薄膜層84がo−plate複屈折体の光学異方性を示す。
【0046】
以上、図示した実施形態に基づいて本発明について述べてきたが、無機材料で作成されたこれらの位相差補償板は、一般には照明光軸あるいは投影光軸に対して垂直になるように配置して使用されるが、より効果的な位相差補償のために、構造性複屈折体をこれらの光軸に対して45°以下、例えば10°以下、好ましくは5°以下の範囲で傾けて配置することも可能である。また、位相差補償板を2枚以上10枚以下、好ましくは2枚以上4枚以下の範囲内で組み合わせて使用してもよい。この場合においても、光軸に対して上記範囲内で傾けて使用することもでき、さらには組み合わせた個々の位相差補償板の傾斜角度を互いに異ならせるような態様も採り得る。
【0047】
複数枚の位相差補償板を組み合わせて使用する際に、異なった種類の位相差補償板を用いることも可能である。例えば、1枚の負のc−plate、1枚の負のo−plate、1枚の正のa−plateの組み合わせにより、より精密な位相差補償を行い、スクリーンに投影される画像のコントラストをより向上させることができる。また、本発明を適用し得る液晶素子の動作モードとしても、上述した透過型TN液晶モードのみならず、反射型TN液晶モードや公知のECB(Electrically Controlled Birefringence )、VA(Vertical Aligned)、OCB(Optically Compensatory Bend )、FLC(Ferro Liquid Crystal)などの各種の動作モードのものが挙げられ、さらにオフアクシス方式やマイクロレンズ方式などのように、RGBの各色光が液晶素子を異なった入射角度で通過するような光学系を採用したプロジェクタにも本発明は適用可能である。
【0048】
さらに、蒸着やスパッタリングによる薄膜層からなる位相差補償層を作成するにあたっては、その支持体となる基板を、照明光学系あるいは投影光学系を構成するレンズなどの光学部品や、液晶素子の構成部品であるガラス基板などの光学部品に接合したり、これらの光学部品そのものを薄膜層の支持体に兼用させることも可能である。このような工夫により部品点数を減少させ、位置合わせや角度調整を要する箇所を減らすことができる。液晶素子の基板上に位相差補償層を形成する場合、液晶素子の外面あるいは内面のいずれに設けることも可能であるが、素子の内面に設ける方が空気との界面の数を減らすことができ、表面反射による画像の劣化や光量ロスを減らすことができる。なお、液晶素子の基板には、画素ごとに信号電圧が印加されるアクティブ側基板と、コモン側電極として利用される対向基板とがあるが、光学的にはそのいずれに位相差補償層を形成してもよい。また、必要に応じて位相差補償層の片面または両面に反射防止処理を行うことが望ましい。特に、薄膜層を積層した位相差補償板の場合には、その作成工程中に干渉薄膜による反射防止処理を施すことができるので、製造効率がよい。
【0049】
薄膜層を積層した位相差補償層を作成するにあたっては、各層の膜厚は必ずしも等しくする必要はなく、また2種類の薄膜を交互に積層することにのみ限られない。例えば屈折率が異なる3種類以上の薄膜を適宜の順序,膜厚で積層してもよく、成膜工程の容易さ、各層の内部応力による歪みの吸収、屈折率の波長依存性などを考慮して適宜に設計することが可能である。さらに、上述してきた各種の構造性複屈折体に対して、位相差補償作用を有するとともに特に耐久性に問題のないポリマーフイルムを基材とする位相差補償シートを組み合わせることもまた、本発明の実施形態に含まれる。
【0050】
【発明の効果】
以上に述べたとおり、本発明を用いた液晶プロジェクタによれば、無機材料で作成された構造性複屈折体を用いて位相差補償を行うようにしたから、耐久性に富み、しかもコスト負担も大きくすることなく、スクリーンに投影される画像のコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リア方式の液晶プロジェクタの概略を示す外観図である。
【図2】透過型液晶素子を用いた投影ユニットの概略構成図である。
【図3】位相差補償板の一実施形態を示す概念図である。
【図4】図3に示す位相差補償板の分光透過特性を示すグラフである。
【図5】反射型液晶素子を用いた投影ユニットの概略構成図である。
【図6】反射型液晶素子にオフアクシスで位相差補償板を組み合わせる場合の構成例を示す概念図である。
【図7】マイクロレンズと組み合わされた透過型液晶素子に位相差補償板を組み合わせるときの構成例を示す概略断面図である。
【図8】形状パターンを有する構造性複屈折体の一実施形態を示す概念図である。
【図9】形状パターンを有する構造性複屈折体の他の実施形態を示す概念図である。
【図10】形状パターンを有する構造性複屈折体の別の実施形態を示す概念図である。
【図11】構造性複屈折体のさらに別の実施形態を示す概念図である。
【図12】構造性複屈折体のさらに他の実施形態を示す概念図である。
【図13】斜め方向からの成膜で作成された構造性複屈折体の概念図である。
【符号の説明】
3 スクリーン
5 投影ユニット
11R,11G,11B 液晶素子
12 光源
26R,26G,26B 偏光板
27R,27G,27B 位相差補償板
28R,28G,28B 偏光板
24 合成プリズム
25 投影レンズ
30 構造性複屈折体
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶素子に表示された画像をスクリーンに投影する液晶プロジェクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
米国特許第5638197号明細書
【特許文献2】
特開2002−14345号公報
【特許文献3】
特開2002−31782号公報
【特許文献4】
特開2002−131750号公報
【非特許文献1】
Eblen J P 他5名. 「Birefringent Compensators for Normally White TN−LCDs」. SID Symposium Digest. SOCIETY FOR INFORMATION DISPLAY. 1994. p.245−248
【0003】
液晶プロジェクタは、液晶素子によって光変調された光をスクリーンに投影して画像表示を行うもので、スクリーンの前面側から画像を投影するフロント方式とスクリーンの背面側から画像を投影するリア方式とがある。また、使用する液晶素子が透過型のものであるか反射型のものであるかによって照明の仕方が異なるが、いずれにせよ投影する画像を液晶素子に表示し、これに照明を与えて投影レンズでスクリーン上に画像を結像させる構成となっている。
【0004】
液晶プロジェクタの液晶素子には種々の動作モードのものを用いることが可能であるが、多用されているTN(Twisted Nematic)液晶について説明する。TN液晶は、2枚の基板間で液晶層を構成している液晶分子が、その長軸が基板と平行となるように保たれ、かつ厚み方向では長軸が少しずつ傾けられ全体で90°ねじられる配向状態となっており、一対の偏光板(一方が偏光子、他方が検光子となる)で挟むようにして用いられる。そして、液晶素子をノーマリーホワイト,ノーマリーブラックのいずれで使用するかに応じて、一対の偏光板はクロスニコル配置あるいはパラレルニコル配置のいずれかが選択される。
【0005】
ところで、TN液晶に限らず、一般に液晶素子には視野角が狭いという欠点がある。ノーマリーホワイトのTN液晶を例にすると、液晶層に電圧を印加していない状態では、液晶層は偏光板を通ってきた直線偏光を液晶分子のねじれ配列にしたがって偏波面を90°回転させる旋光性を示す。そして、液晶層を通過してきた直線偏光はクロスニコル配置された他方の偏光板を通って出射し、ホワイト状態となる。液晶層に電圧を印加すると液晶分子のねじれが消失し、入射した直線偏光はそのままの偏波面で出射することになるため、他方の偏光板がその通過を阻止してブラック状態となる。
【0006】
ところが、液晶は複屈折媒体としても作用する。前述したTN液晶の場合、液晶層に電圧を印加してそのねじれ配向を消失させてゆく過程では、旋光性と複屈折性とが混在し、電圧の印加レベルが高くなるにつれて複屈折性が支配的になってゆく。そして、液晶分子のねじれが消失してブラック状態となったとき、垂直入射光に対しては液晶層が複屈折性を示すことはほとんどなくなるので直線偏光はそのまま透過するが、斜め入射光に対しては複屈折性を示し、直線偏光で入射した光は楕円偏光に変調されるようになる。こうして生じた楕円偏光は部分的に出射側の偏光板を透過し、ブラック状態の濃度を薄める結果となる。液晶層がもつこのような複屈折媒体としての性向は、ホワイト状態からブラック状態への移行過程でも徐々に現れるため、中間調の表示状態下でもその表示画面を斜め方向から観察したときにはやはり変調度の角度依存性が避けられないものとなる。このような変調度の角度依存性はTN液晶に限らず、大なり小なり全ての液晶素子に見られる現象である。
【0007】
液晶素子のもつ上記欠点を改善するために、液晶素子に表示された画像を直接観察する直視型の液晶表示装置では位相差補償素子を併用することが知られている。この目的で使用される位相差補償素子としては、富士写真フイルム(株)製の「Fuji WV Film ワイドビューA」(商品名/以下、WVフイルム)がすでに実用化され、また上記非特許文献1には、薄膜を積層した構造性複屈折体を位相差補償素子として用いることにより、視野角を大きくしてもTN液晶の表示画像のコントラストを低下させないことが紹介されている。さらに特許文献1には、基板に対して斜め方向から多層薄膜を蒸着した位相差補償素子を用い、その光学異方性により液晶ディスプレイの視野角を広げることが記載されている。
【0008】
これらの位相差補償素子は直視型の液晶素子に適用されるものであるが、直視型の液晶素子は、明視距離以上離れた位置から表示画面にほぼ正対して画像観察されるのが通常の使用形態であることが多い。そして、仮に表示画面の周辺部でコントラストが低下して観察されたときには、眼の位置を少しずらしてやればその部分の画像もほぼ正常に観察することができる。また、多人数が同時に観察する用途のものは表示画面と観察者との間の距離が大きくなるため、正常に観察できる範囲は限られるものの、表示画像のコントラストが部分的に異なるということは起こりにくい。
【0009】
これに対し、液晶プロジェクタでは液晶素子によって変調された画像光が投影レンズでスクリーンに投影され、それがスクリーン上で拡散した画像光となって観察対象となる。したがって黒レベルを表示したいときに、液晶層に斜めに入射して液晶分子を斜めに通過する光が含まれることが原因となって、投影画像そのもののコントラストが低下してしまうと、例えどのような位置から観察したとしてもコントラストの低下は全く改善されることがない。投影画像のコントラストをできるだけ高めるには、液晶素子から大きな角度で出射する光束を使わずに投影画像が得られるようにすればよいが、そのためには投影レンズのバックフォーカスを長くする必要があり、小型化が求められる液晶プロジェクタではコンパクト化を図るうえで不利になる。このような難点を原理的に解決するには、液晶プロジェクタに用いる液晶素子についても、やはり直視型液晶パネルでいう視野角の拡大技術を利用することが効果的で、結果的に投影画像のコントラストを向上させることができるようになる。
【0010】
こうした背景から、コントラスト向上の目的で液晶プロジェクタ用の液晶素子についても、直視型液晶素子と同様に位相差補償素子を組み合わせて使用することが特許文献2,特許文献3に記載されている。特許文献2に記載された液晶プロジェクタでは、TN液晶用の位相差補償素子として、前述したWVフイルムのように有機材料で構成されたものが用いられている。また、特許文献3には、位相差補償素子として単結晶サファイアや水晶などの一軸性の複屈折性結晶を用いることが記載されている。また、特許文献4には、光学位相補償板としてディスコティック液晶を用いたものが記載されている。これらの位相差補償素子は、いずれも光の入射角に依存した光学異方性を発現する複屈折体として作用し、液晶素子から大きな出射角で出射する光束によって画像のコントラストが低下することを防いでいる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般に有機材料からなる位相差補償素子は、紫外線を含む強い光に長時間曝されていると褪色が生じやすい。特に液晶プロジェクタに用いる場合には、スクリーンに画像投影を行うために直視型の液晶モニタなどと比較して光源の輝度も高くなり、過熱の度合いも大きくなることから、実用的には2000〜3000時間程度で徐々に褐色に変化する傾向にある。したがって、例えば家庭用プロジェクションテレビジョンなどのように長時間にわたって使用される用途では耐久性の点で問題があり実用化は難しい面がある。一方、単結晶サファイヤや水晶などの複屈折体を用いた位相差補償素子は、耐久性では問題はないものの、サファイヤや水晶などの結晶自体が高価であり、また結晶の切り出し面や厚みを高精度に管理しなくてはならず、しかも光学系中に組み込むときの調整も面倒であり、一般普及型の液晶プロジェクタに適用することはコスト面での不利が大きい。
【0012】
本発明は上記背景を考慮してなされたもので、家庭用テレビジョンのような長時間の使用に対しても耐久性に優れ、しかも製造コストの負担も少ない位相差補償素子を用いることによって、スクリーンに投影される画像自体のコントラストが向上するようにした液晶プロジェクタを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するにあたり、画像表示手段として液晶プロジェクタに組み込まれる液晶素子の入射面側あるいは出射面側、または両側で、偏光子と検光子との間に配置され、液晶素子を角度をもって通過する偏光光の位相を制御する位相差補償素子として、無機材料で作成された構造性複屈折体を用いることを特徴とする。本発明のこの特徴は、液晶のモードや構造性複屈折体の形式によらず一般性及び進歩性を有するものである。構造性複屈折体は、ガラスなどの透明な支持体上に形成された物理的な微細構造によって光学異方性を示すものを意味し、「光学 第27巻第1号(1998)p.12−17 」にそのいくつかの例が記載されている。特に本発明では、 光学異方性を得るための物理的構造が無機材料で形成される。
【0014】
本発明に効果的に用いることができる構造性複屈折体としては、屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料による薄膜を交互に積層した多層薄膜で構成することができる。特に、それぞれの光学膜厚が100分の1以上5分の1以下となるように交互に積層した多層薄膜で構成することが好ましい。また、液晶素子の照明光軸または投影光軸と直交する面内で、無機材料によって形成された、一次元または二次元に屈折率が異なる正の複屈折板を用いることも可能であり、このような複屈折板は基板の表面に物理的に微細な凹凸パターンを形成することによって得られ、また無機材料を斜め方向から真空成膜することによっても得ることができる。さらに、光路中において、その物理的構造を照明光軸,投影光軸に対して傾斜させて配置することも有効である。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1にリア方式の液晶プロジェクタの外観を示す。筐体2の前面に拡散透過型のスクリーン3が設けられ、その背面に投影された画像が前面側から観察される。筐体2の内部には投影ユニット5が組み込まれ、その投影画像はミラー6,7で反射されスクリーン3の背面に結像される。この液晶プロジェクタは、筐体2の内部にチューナー回路などのほか、ビデオ信号及び音声信号再生用の周知の回路ユニットを組み込み、投影ユニット5に画像表示手段として組み込まれた液晶素子にビデオ信号の再生画像を表示することによって、大画面のテレビジョンとして使用することができる。
【0016】
図2に投影ユニット5の構成を概略的に示す。この投影ユニット5には透過型の三枚の液晶素子11R,11G,11Bが組み込まれ、フルカラーで画像投影を行うことができる。光源12からの放射光は、紫外線及び赤外線をカットするフィルタ13を透過することにより赤色光,緑色光,青色光を含む白色光となり、光源から液晶素子に至る照明光軸にしたがってガラスロッド14に入射する。ガラスロッド14の光入射面は、光源12に用いられている放物面鏡の焦点位置近傍に位置し、光源12からの光は効率的にガラスロッド14に入射する。
【0017】
ガラスロッド14の出射面に対峙してリレーレンズ15が配設され、ガラスロッド14からの白色光は、リレーレンズ15及び後段のコリメートレンズ16により平行光となってミラー17に入射する。ミラー17で反射された白色光は、赤色光だけを透過するダイクロイックミラー18Rで2光束に分けられ、透過した赤色光はミラー19で反射して液晶素子11Rを背面から照明する。また、ダイクロイックミラー18Rで反射された緑色光と青色光は、緑色光だけを反射するダイクロイックミラー18Gでさらに2光束に分割される。ダイクロイックミラー18Gで反射された緑色光は液晶素子11Gを背面側から照明する。ダイクロイックミラー18Gを透過した青色光は、ミラー18B,20で反射され、液晶素子11Bを背面から照明する。
【0018】
各々の液晶素子11R,11G,11BはそれぞれTN液晶で構成され、その各々には、フルカラー画像を構成する赤色画像,緑色画像,青色画像の濃度パターン画像が表示される。これらの液晶素子11R,11G,11Bから光学的に等距離となる位置に中心がくるように合成プリズム24が配置され、合成プリズム24の出射面に対面して投影レンズ25が設けられている。合成プリズム24は、その内部に2面のダイクロイック面24a,24bを有し、液晶素子11Rを透過してきた赤色光、液晶素子11Gを透過してきた緑色光、液晶素子11Bを透過してきた青色光を合成して投影レンズ25に入射させる。
【0019】
各液晶素子11R,11G,11Bの出射面の中心から、合成プリズム24及び投影レンズ25の中心を通り、スクリーン3の中心に至る投影光軸上に投影レンズ25が設けられている。投影レンズ25は、その物体側焦点面が液晶素子11R,11G,11Bの出射面に一致し、像面側焦点面がスクリーン3に一致するようにしてあるから、合成プリズム24で合成されたフルカラー画像はスクリーン3に結像されることになる。なお、図1に示すミラー6,7については、図面の煩雑化を避けるために省略した。
【0020】
液晶素子11R,11G,11Bの照明光の入射面側には、それぞれ偏光板26R,26G,26Bが設けられている。また、各液晶素子の出射面側には、位相差補償板27R,27G,27Bと、偏光板28R,28G,28Bとが設けられている。入射面側の偏光板26R,26G,26Bと出射面側の偏光板28R,28G,28Bはクロスニコル配置となっており、入射面側の偏光板は偏光子、出射面側の偏光板は検光子として作用する。なお、それぞれの色チャンネルごとに設けられた液晶素子、その両側にそれぞれ設けられた偏光板及び位相差補償板の作用は、それぞれの色光に基づく相違はあるものの、基本的な作用は実質的に共通であるので、以下、赤色チャンネルを代表させて説明する。
【0021】
ミラー19で反射された赤色照明光は、入射面側の偏光板26Rで直線偏光となって液晶素子11Rに入射する。ノーマリホワイトモードの場合、液晶素子11Rに用いられているTN液晶は、赤色画像の黒を表示するために画素に信号電圧が印加される。このとき、液晶層に含まれる液晶分子は様々な配向姿勢をとるようになり、赤色照明光が平行光束となって液晶素子11Rに入射しても、液晶層が呈する旋光性と複屈折性により、液晶素子11Rの出射面から出射する光は完全な直線偏光とはならず、一般に楕円偏光の画像光が出射するようになり、充分な黒が得られない。また、ノーマリーブラックモードの場合でも、液晶分子のわずかな傾きによって黒レベルが充分に黒くはならない。
【0022】
黒表示させたい状態において、液晶層を通過した画像光の直線偏光性が保存されていれば、他方の偏光板28Rによっで遮断され、充分弱い強度となって合成プリズム24に入射する。しかし、液晶分子を斜めに通過する光が含まれている場合には、液晶層によって変調された画像光は、直線偏光とはわずかに光学的な位相が相違した楕円偏光となって位相差補償板27Rに入射する。このとき、位相差補償板27Rは楕円偏光成分の画像光に対してその光学的な位相差を補償する作用を示す。これにより、楕円偏光の画像光が直線偏光の画像光となって偏光板28Rに入射するようになるから、偏光板28Rにより遮断され充分に弱い強度となって合成プリズム24に入射するようになり、本来の画像のコントラストが向上する。
【0023】
このような機能をもつ位相差補償板27Rとして、この液晶プロジェクタでは無機材料で作成された構造性複屈折体が用いられる。図3に示す構造性複屈折体30は、透明なガラス基板31に互いに屈折率が異なる誘電体の薄膜L1,L2を交互に積層した多層膜で構成されている。各層の光学膜厚(物理的膜厚と屈折率との積)は光の波長よりも充分に小さく、好ましくはλ/100〜λ/5、より好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10が適切である。この方法で、容易に負のc−plateの作成が可能となり、一軸性の負の複屈折板として薄膜の形成面が投影光軸に垂直となるように配置して用いられる。
【0024】
高屈折率の薄膜層の材料としてはTiO2 (n=2.2〜2.4),ZrO2 (n=2.20)など、低屈折率材料としてはSiO2 (n=1.40〜1.48)やMgF2 (n=1.39),CaF2 (n=1.30)などを用いることができる。さらに、例えば以下に挙げる種々の材料を、本発明の複屈折層を構成する高屈折率、低屈折率の薄膜層に利用することができる。なお、( )内に示す数値は屈折率の概略値を表す。CeO2 (2.45),SnO2 (2.30),Ta2 O5 (2.12),In2 O3 (2.00),ZrTiO4 (2.01),HfO2 (1.91),Al2 O3 (1.59〜1.70),MgO(1.7),ALF3 ,ダイヤモンド薄膜,LaTiOX ,酸化サマリウムなど。また、高屈折率薄膜層用材料と低屈折率薄膜層材料の組み合わせとしては、TiO2 /SiO2 が好ましいが、その他にTa2 O5 /Al2 O3 、HfO2 /SiO2 、MgO/MgF2 、ZrTiO4 /Al2 O3 、CeO2 /CaF2 、ZrO2 /SiO2 、ZrO2 /Al2 O3 等も挙げられる。
【0025】
また、積層された薄膜L1,L2の相互間で光の干渉現象が生じることを避ける必要があるため各々の光学膜厚は薄い方がよいが、必要な合計膜厚を得るのに成膜回数が増えてくるので、現実的な膜厚構成の設計にあたっては、所望の複屈折率作用を考慮して各層の屈折率,膜厚比,合計膜厚を決め、着色については薄膜干渉を充分に考慮し、さらに成膜後に内部応力に起因するクラックの発生などの不具合が生じないように材料の選定に留意する必要がある。
【0026】
なお、多層薄膜で構成された複屈折層を製造するには、真空蒸着法やスパッタ成膜法を効果的に用いることができる。高屈折率薄膜層と低屈折率薄膜層との2種類の薄膜層を交互に成膜してゆくには、成膜対象となる基板に対して各々の蒸発源を遮蔽することができるようにそれぞれシャッタを設け、これらのシャッタを交互に開閉して2種類の薄膜層を交互に積層させたり、あるいは基板を一定の速さで循環移動する基板ホルダに保持させ、基板を循環移動させる過程でそれぞれの蒸発源の上を通過させることによって順次に2種類の薄膜を交互に積層させるなどの手法を取ることができる。これにより、多層薄膜を得るに際して真空槽を一回だけ真空引きすればよいので、製造効率を高めることができる。
【0027】
このような多層薄膜による複屈折層の設計手順は次のとおりである。複屈折層の複屈折率Δnは、「光学 第27巻第1号(1998)p.12−17」に記載のように、屈折率の異なる2種類の薄膜の光学膜厚の比で決定され、それぞれの屈折率に差があるほど大きい値が得られる。また、位相差は複屈折率Δnと複屈折層の物理的な合計膜厚dとの積「dΔn」で与えられる。したがって、所望の位相差を得るためには、それらの材料から得られる複屈折率Δnの値が大きくなるような膜厚比を求め、その複屈折率Δnから必要な複屈折層の物理的な合計膜厚dが決定される。各薄膜の物理的膜厚と層数との積が合計膜厚dになることと、物理的膜厚が段落[0023]に記載した光学膜厚の範囲にあることを条件として、製造適性を考慮しつつ層数を選択すればよい。
【0028】
なお、屈折率が異なる誘電体薄膜を積層した多層薄膜により固有の光学的作用を得るものとして、ダイクロイックミラー、偏光ビームスプリッター、色合成プリズム、反射防止膜などが知られているが、これらの多層薄膜を構成する個々の薄膜層は、いずれもその光学膜厚がλ/4の整数倍となるように設計され、光の干渉現象を利用して所期の目的を達成するものである。この点、上述した複屈折層は、個々の薄膜層の光学膜厚がλ/4よりも薄いことや、2種類の薄膜の光学膜厚の比によって固有の複屈折率Δnが決められることなどから、光の干渉現象とは全く異なる作用原理に基づくものであることがわかる。
【0029】
この構造性複屈折体30による光学的な位相差は、上記のように合計膜厚dと複屈折率Δnとの積によって与えられる。ガラス基板に物理的膜厚15nmのTiO2 層と、物理的膜厚15nmのSiO2 層とを交互に40層ずつ積層した薄膜多層蒸着サンプルを作成し、分光エリプソメータを用いて測定したところ、208nmの位相差を与える負の複屈折体であること、そして光学的な異方性を発現させない光学軸が基板の法線と一致していることが確認され、負のc−plateとして機能することが判った。
【0030】
TiO2 層,SiO2 層の屈折率をそれぞれ2.35,1.47と仮定して理論式から求めた複屈折率による位相差は218nmであり、誤差範囲内で実測値と一致した。また、このサンプルの分光透過特性は図4に示すとおりで、ほぼ無色であると言える。なお、透過率にリップルが見られるが、これはガラス基板からの反射光と最上層の薄膜表面からの反射光との干渉の影響によるものと考えられる。これについては、ガラス基板の表裏や最上層の薄膜表面に反射防止膜を設けることによって改善することができた。
【0031】
このサンプルを図2に示す液晶プロジェクタに用いたところ、サンプルを用いないときと比較して、最も明るい部分と最も暗い部分とのコントラストが200:1から400:1に向上した。また、5000時間の使用に対しても褪色などの劣化は認められなかった。なお、全く同じ薄膜材料を用い、それぞれ物理的膜厚15nmで20層ずつ合計40層まで積層した別のサンプルでは、複屈折による位相差が102nmと測定され、理論計算値である107nmとほぼ一致することが確認された。そして、このサンプルを後述する反射型の液晶素子を用いたプロジェクタに組み込んだところ、コントラストが150:1から300:1に改善されることが確かめられている。
【0032】
前述のように、本発明の構造性複屈折体は、透過型液晶素子を用いた投影ユニット5だけでなく、反射型液晶素子を用いたものにも適用が可能である。反射型液晶素子を用いた投影ユニットの一例を図5に示す。光源12からの放射光は、フィルタ13を透過することにより紫外線及び赤外線がカットされた白色光となり、集光光学系35を透過して赤色光だけを反射するダイクロイックミラー36に入射する。反射された赤色光は、ミラー37で反射して偏光膜38aが斜設された偏光ビームスプリッタ38に入射する。偏光膜38aによりs偏光成分が直線偏光となって反射され、位相差補償板40Rを経て反射型の液晶素子41Rに入射する。なお、ダイクロイックミラー36を透過した緑色光と青色光のうち、緑色光はダイクロイックミラー42で反射され偏光ビームスプリッタ43に入射し、ダイクロイックミラー42を透過した青色光は偏光ビームスプリッタ44に入射する。
【0033】
ここで用いられている反射型の液晶素子41Rは、TN液晶からなる液晶層の背後にミラーを配置した構造となっている。そして、液晶素子41Rから出射した直線偏光光は、再び位相差補償板40Rを経て偏光ビームスプリッタ38に入射する。再び入射した直線偏光光は、偏光膜38aに対してp偏光成分となっているから、偏光膜38aを透過して合成プリズム24に入射する。なお、合成プリズム24及び投影レンズ25の機能は先の実施形態と全く同様である。
【0034】
ここで用いられている位相差補償板40Rも、液晶素子41Rの液晶層が示す複屈折性による位相差を補償する機能を発揮するが、液晶素子41Rに入射するときと出射するときとで光が2度通過することになるため、これを考慮して位相差補償板40R自体の複屈折による位相差を設計しておく必要がある。また、反射型の液晶素子をオフアクシス(入射光軸と反射光軸とが別)で使用する場合には、図6(A)に示すように、液晶素子45に近接して位相差補償板46を配置し、偏光子47と検光子48と組み合わせることも可能である。
【0035】
なお、位相差補償板46の設置位置は、偏光子47の出射側と検光子48の入射側との間であることが必須である。液晶素子45の入射側にするか出射側にするかについては、厳密には光学的効果は同一ではないにしても、ほぼ近い効果が得られるので、他の設計要因を考慮して設計すればよい。したがって、図6(B)に示すように、偏光子47と液晶素子45との間に位相差補償板49を配置することも可能であり、さらに液晶素子45と検光子48との間に位相差補償板を追加することも可能である。もちろん、この場合には双方の位相差補償板が協同して複屈折による適切な位相差が得られるように個々の位相差補償板の設計を行うことになる。
【0036】
透過型の液晶素子の中には、図7に示すようにマイクロレンズ50と組み合わされているものがある。マイクロレンズ50は、背面側のガラス基板51に形成された画素電極部52を画素ごとに区画しているブラックマトリクス部62によって画素単位での開口率が低下することを改善するために用いられている。マイクロレンズ50を組み合わせることによって、収斂光束となった照明光は、偏光子となる偏光板53、第1位相差補償板54、ガラス基板55、対向電極56、配向膜57を通って液晶層58に達し、さらに配向膜59、画素電極部52を通ってガラス基板51、第2位相差補償板60、検光子となる偏光板61を透過して出射する。
【0037】
位相差補償板は、液晶層を通過する光の角度によって位相の変調度が異なってくることを補償するためのものであるから、この実施形態のように、マイクロレンズ50によって入射してくる光に角度がつくような場合には、その入射側に第1位相差補償板54を設けることも有効である。そして、図示のように出射側にも第2位相差補償板60を設けておき、双方の協同により初期の効果を得るように設計することも可能である。図2、図5に示す光学系で、図では液晶素子に対する光は平行光として示してあるが、液晶素子にマイクロレンズを組み合わせた場合、液晶層を通過する光の角度は図7と同様になる。したがって、このような場合にも同様の実施形態で位相差補償板を設けることは有効である。
【0038】
本発明の液晶プロジェクタにおいて、上記機能のために用いられる位相差補償板としては、図3に示すような多層薄膜の積層体だけでなく、無機材料で作成された構造性複屈折体であれば様々な形態のものを利用することができる。図3に示す薄膜積層体は、光学的な異方性が発現しない光学軸が基板ガラスの法線に合致した一軸性の負の複屈折板であり、c−plateとして用いる例として挙げられているが、負の一軸性の複屈折体としては、図8に示すように、透明な支持体となるガラス基板66の表面に、透明な板状突起67を格子状に配列した構造性複屈折体70を用いることも可能である。
【0039】
この構造性複屈折体70の物理的構造を構成している板状突起67の厚みd,高さh及び配列間隔は光の波長に対して充分に小さく、例えば光学膜厚がλ/100〜λ/5、好ましくはλ/50〜λ/5、実際的にはλ/30〜λ/10程度であればよく、光学異方性を示さない光学軸70aは図示の方向となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されているガラス基板66の表面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、a−plateとして用いられる。そして、照明光軸または投影光軸と直交する面内で板状突起67が一次元で配列されているため、その一次元配列の方向で空気層と板状突起67による異なった屈折率が交互に分布するようになる。
【0040】
また、図9に示すように、ガラス基板66上に透明な板状突起71を傾斜して配列した構造性複屈折体72も本発明の目的を達成するうえで有用である。この構造性複屈折体72も負の一軸性複屈折体として作用し、上記構造が形成されたガラス基板66の面が照明光軸あるいは投影光軸と垂直になるように配置され、o−plateとして用いられる。この構造性複屈折体72も、照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率の異なる部分が一次元配列となり、しかも異なる屈折率を与えるための物理的構造が照明光軸または投影光軸に対して傾斜することになる。
【0041】
これらの構造性複屈折体70,72のもつ物理的な繰り返し構造パターンは、フォトリソグラフィーにより作成することができる。なお、負の一軸性複屈折体としての作用を得るためには、それぞれの板状突起67,71の幅dに対する高さhで表されるアスペクト比を充分に大きくしておく必要がある。このアスペクト比が充分に大きくない場合には、屈折率楕円体のnx ,ny ,nz が全て異なる2軸性複屈折体となる。さらにアスペクト比が小さくなると、極限的には正のa−plateになる。
【0042】
図10に正のa−plateの一例を示す。この構造性複屈折体75は、ガラス基板66の表面に透明な誘電体による突状74を一定ピッチで格子状に配列することによって構成され、突条74の幅W,高さh及び配列ピッチは先の例と同様に波長よりも充分に小さくしてある。光学軸75aは図示のように格子構造と平行となる。液晶プロジェクタに組み込むときには、上記構造が形成されたガラス基板66の表面が照明光軸あるいは投影光軸に垂直になるように配置され、やはり照明光軸または投影光軸と直交する面内で屈折率が異なる部分が一次元配列となる。なお、位相差は突条74の高さhとその屈折率との積となる。高さhが波長に対して大きくなると屈折率異方性が一軸からずれ、二軸となる。さらに大きくなると、負のc−plateに近づく。また、突条74による格子構造は空気層に接していてもよいが、他の異なる屈折率をもった誘電体層で、突条74の相互間を埋めるように全体的に覆うようにしてもよい。
【0043】
正のc−plateもまた本発明の構造性複屈折体として利用できる。正のc−plateは、図11に示すように、ガラス基板66の表面に透明な誘電体からなる多数の突起76を垂直に林立させることで作成することができる。突起76のサイズや配列ピッチは、これまで同様に、光の波長に比して充分に小さいものであればよい。ガラス基板66の表面が照明光軸または投影光軸と直交するように配置されるため、図8〜図10に示す構造性複屈折体70,72,75とは異なり、屈折率の異なる部分が照明光軸または投影光軸と直交する面内で二次元に分布するようになる。このような構造をもつ構造性複屈折体77も、やはりフォトリソグラフィーで作成が可能であり、その光学軸77aはガラス基板66の表面に垂直となる。また上記物理的構造部分が空気層に接する形態で使用してもよいが、先のものと同様、屈折率が異なる別の誘電体層で全体的に覆う形態で使用することも可能である。
【0044】
さらに、正のo−plateは図12に示す形態で得ることができ、このような二次元の物理的構造の配列パターンをもつこれらの構造性複屈折体も本発明の目的のために効果的に用いることができる。図12に示す構造性複屈折体80は、ガラス基板66の表面に透明な誘電体からなる突起81を一定の傾斜角度で規則的に林立させたもので、フォトリソグラフィーにより作成可能である。やはり、これらの構造のサイズや繰り返しピッチは光の波長よりも充分に小さくしておく必要があり、構造表面は空気層あるいは別の透明な誘電体層のいずれに接していてもよい。光学軸80aは、図示のようにガラス基板66の表面に対して傾斜し、突起81の傾斜方向と平行になる。
【0045】
正のo−plateを作成するにあたっては、図13に示すように、ガラス基板66の表面に対し、斜め方向から一種類の誘電体を蒸着することによっても得られることが米国特許第5638197号公報明細書(前掲特許文献1)でも知られている。この方法によれば、光の波長に対して充分に小さい物理的構造を簡単に得ることができる。なお、同図中に示す斜線は、ガラス基板66に斜め方向から成膜を行ったことを模式的に表すためのもので、それぞれ個別の薄膜層を表すものではない。この構造性複屈折体83も、ガラス基板66の表面が照明光軸または投影光軸と垂直になるように配置して用いられ、斜設した薄膜層84がo−plate複屈折体の光学異方性を示す。
【0046】
以上、図示した実施形態に基づいて本発明について述べてきたが、無機材料で作成されたこれらの位相差補償板は、一般には照明光軸あるいは投影光軸に対して垂直になるように配置して使用されるが、より効果的な位相差補償のために、構造性複屈折体をこれらの光軸に対して45°以下、例えば10°以下、好ましくは5°以下の範囲で傾けて配置することも可能である。また、位相差補償板を2枚以上10枚以下、好ましくは2枚以上4枚以下の範囲内で組み合わせて使用してもよい。この場合においても、光軸に対して上記範囲内で傾けて使用することもでき、さらには組み合わせた個々の位相差補償板の傾斜角度を互いに異ならせるような態様も採り得る。
【0047】
複数枚の位相差補償板を組み合わせて使用する際に、異なった種類の位相差補償板を用いることも可能である。例えば、1枚の負のc−plate、1枚の負のo−plate、1枚の正のa−plateの組み合わせにより、より精密な位相差補償を行い、スクリーンに投影される画像のコントラストをより向上させることができる。また、本発明を適用し得る液晶素子の動作モードとしても、上述した透過型TN液晶モードのみならず、反射型TN液晶モードや公知のECB(Electrically Controlled Birefringence )、VA(Vertical Aligned)、OCB(Optically Compensatory Bend )、FLC(Ferro Liquid Crystal)などの各種の動作モードのものが挙げられ、さらにオフアクシス方式やマイクロレンズ方式などのように、RGBの各色光が液晶素子を異なった入射角度で通過するような光学系を採用したプロジェクタにも本発明は適用可能である。
【0048】
さらに、蒸着やスパッタリングによる薄膜層からなる位相差補償層を作成するにあたっては、その支持体となる基板を、照明光学系あるいは投影光学系を構成するレンズなどの光学部品や、液晶素子の構成部品であるガラス基板などの光学部品に接合したり、これらの光学部品そのものを薄膜層の支持体に兼用させることも可能である。このような工夫により部品点数を減少させ、位置合わせや角度調整を要する箇所を減らすことができる。液晶素子の基板上に位相差補償層を形成する場合、液晶素子の外面あるいは内面のいずれに設けることも可能であるが、素子の内面に設ける方が空気との界面の数を減らすことができ、表面反射による画像の劣化や光量ロスを減らすことができる。なお、液晶素子の基板には、画素ごとに信号電圧が印加されるアクティブ側基板と、コモン側電極として利用される対向基板とがあるが、光学的にはそのいずれに位相差補償層を形成してもよい。また、必要に応じて位相差補償層の片面または両面に反射防止処理を行うことが望ましい。特に、薄膜層を積層した位相差補償板の場合には、その作成工程中に干渉薄膜による反射防止処理を施すことができるので、製造効率がよい。
【0049】
薄膜層を積層した位相差補償層を作成するにあたっては、各層の膜厚は必ずしも等しくする必要はなく、また2種類の薄膜を交互に積層することにのみ限られない。例えば屈折率が異なる3種類以上の薄膜を適宜の順序,膜厚で積層してもよく、成膜工程の容易さ、各層の内部応力による歪みの吸収、屈折率の波長依存性などを考慮して適宜に設計することが可能である。さらに、上述してきた各種の構造性複屈折体に対して、位相差補償作用を有するとともに特に耐久性に問題のないポリマーフイルムを基材とする位相差補償シートを組み合わせることもまた、本発明の実施形態に含まれる。
【0050】
【発明の効果】
以上に述べたとおり、本発明を用いた液晶プロジェクタによれば、無機材料で作成された構造性複屈折体を用いて位相差補償を行うようにしたから、耐久性に富み、しかもコスト負担も大きくすることなく、スクリーンに投影される画像のコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リア方式の液晶プロジェクタの概略を示す外観図である。
【図2】透過型液晶素子を用いた投影ユニットの概略構成図である。
【図3】位相差補償板の一実施形態を示す概念図である。
【図4】図3に示す位相差補償板の分光透過特性を示すグラフである。
【図5】反射型液晶素子を用いた投影ユニットの概略構成図である。
【図6】反射型液晶素子にオフアクシスで位相差補償板を組み合わせる場合の構成例を示す概念図である。
【図7】マイクロレンズと組み合わされた透過型液晶素子に位相差補償板を組み合わせるときの構成例を示す概略断面図である。
【図8】形状パターンを有する構造性複屈折体の一実施形態を示す概念図である。
【図9】形状パターンを有する構造性複屈折体の他の実施形態を示す概念図である。
【図10】形状パターンを有する構造性複屈折体の別の実施形態を示す概念図である。
【図11】構造性複屈折体のさらに別の実施形態を示す概念図である。
【図12】構造性複屈折体のさらに他の実施形態を示す概念図である。
【図13】斜め方向からの成膜で作成された構造性複屈折体の概念図である。
【符号の説明】
3 スクリーン
5 投影ユニット
11R,11G,11B 液晶素子
12 光源
26R,26G,26B 偏光板
27R,27G,27B 位相差補償板
28R,28G,28B 偏光板
24 合成プリズム
25 投影レンズ
30 構造性複屈折体
Claims (5)
- 光源からの照明光を液晶素子に照射し、液晶素子で変調された画像光を投影光学系によりスクリーン上に結像させる液晶プロジェクタにおいて、偏光子と検光子との間で、前記液晶素子の照明光の入射面側または出射面側の少なくともいずれかに、無機材料で作成された構造性複屈折体を配置したことを特徴とする液晶プロジェクタ。
- 前記構造性複屈折体が、高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜とを交互に積層した多層薄膜で構成されていることを特徴とする請求項1記載の液晶プロジェクタ。
- それぞれの薄膜が光の波長の100分の1以上5分の1以下の光学膜厚であることを特徴とする請求項2記載の液晶プロジェクタ。
- 前記構造性複屈折体が、照明光軸または投影光軸と直交する面内で一次元または二次元に屈折率が異なる部分からなる複屈折板であることを特徴とする請求項1記載の液晶プロジェクタ。
- 一次元または二次元に異なった屈折率を与えるために規則的に配列された物理的構造が、照明光軸または投影光軸に対して傾斜していることを特徴とする請求項3記載の液晶プロジェクタ。
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