JP2004115873A - 金属焼結部材および金属焼結部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】内径に配設される摺動部材との磁気的な吸着がない被膜を形成し、金属焼結部材の中に配設される摺動部材の摺動性を向上させる。また、外径に巻回されるコイルとの絶縁を確実に行う。
【解決手段】内径に内孔10を有し、内孔10に沿って摺動自在な摺動部材4が配設され、外径にはコイル13が巻回される金属焼結部材6において、表面に開口した気孔6cを有し、内径の気孔6cに非磁性の摺動性粒子を吸着させ、外径に絶縁樹脂層となる絶縁膜12を形成した。
【選択図】 図3
【解決手段】内径に内孔10を有し、内孔10に沿って摺動自在な摺動部材4が配設され、外径にはコイル13が巻回される金属焼結部材6において、表面に開口した気孔6cを有し、内径の気孔6cに非磁性の摺動性粒子を吸着させ、外径に絶縁樹脂層となる絶縁膜12を形成した。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属焼結部材および金属焼結部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、電磁弁は磁路を形成するヨーク部材を備え、ヨーク部材はハウジングの内部に配設され磁束が通過する磁性部と磁束を遮断する非磁性部を有し、外径にはコイルが巻回される。そして、電磁弁はヨーク部材の内孔の中で、プランジャが電磁力による磁気的な吸引力によって軸方向に移動自在となっている。
【0003】
電磁弁の構成要素であるヨーク部材およびプランジャは、例えば、強磁性体から成る金属の焼結体(金属焼結体)より作られる。この様な構成の電磁弁は、外部よりコイルに対して通電を行い、コイルを励磁させると、コイルから磁界が発生し、ハウジングとヨークおよびプランジャとの間で閉ループの磁気回路が形成される。その結果、プランジャがコイルの励磁に比例した電磁力によって移動を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この場合、コイルで発生した磁界を、効率的に磁気回路に伝播させ、プランジャの起磁力に変換するには、ヨーク部品とプランジャとの空隙(エアギャップ)は狭いほど良いことが知られている。つまり、ヨーク部材とプランジャとの間の空隙は小さい程、ヨークとプランジャとの間に形成される磁気ギャップが小さくなり、これによってヨークとプランジャとの間隙で減少する磁束の割合が縮減され、この結果プランジャに発生する起磁力を効率良くプランジャの軸方向における移動力に変換することができる。また、ヨーク部品とプランジャとの同軸度が高い程、プランジャの移動時におけるヒステリシス特性が小さくなる。
【0005】
電磁弁においては、強磁性体からヨーク部材やプランジャが成り立っているため、電磁力によりプランジャが移動する際に、プランジャには磁気的な吸引力が作用して、プランジャには移動力となるサイドフォースが発生する。
【0006】
その結果、サイドフォースの径方向の分力によって、プランジャがヨーク部材側に移動する。このサイドフォースによりプランジャには軸方向以外の力が発生する。この為、プランジャは本来の印加された磁界の大きさに比例した軸方向のリニアな動きにならず、径方向にも移動し、この結果ヒステリシス特性が生じると共に、磁気的な吸引力によって、プランジャとヨーク部材の表面が磁性体同士であると、プランジャとヨーク部材とが磁気吸着されてしまう。
【0007】
そこで、プランジャとヨーク部材とが磁気吸着される事を防止し、プランジャとヨーク部品との摺接面の摩擦係数を低下させて、プランジャの軸方向への移動効率を良くする為、ヨーク部材の内周面及びプランジャの外周面のいずれか一方に、炭化フッ素系樹脂のコーティング処理により非磁性の被膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
この他に、一般的に被膜を形成する方法としては、溶射法、イオンプレーティング法、PVD法、CVD法、塗膜法、メッキ法等の方法が知られている。
【0009】
一方、コイルを形成する電線の絶縁被膜にはピンホールが存在するため、ヨーク部材に巻回されるコイルの絶縁に関しては、ヨーク部材とコイルとを絶縁する必要がある。この場合、ヨーク部材とコイルとの間には樹脂より成るボビンが一般的に配設され、このボビンによりヨーク部材とコイルとの絶縁が図られる(例えば、特許文献3を参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−33662号公報(図1)
【0011】
【特許文献2】
特開2000−46225号公報(第3頁 第14段落、図1)
【0012】
【特許文献3】
特開2002−206658号公報(第1図)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したプランジャのヨーク部材の内孔との摺動面に炭化フッ素系樹脂のコーティング処理を施す方法では、一定の膜厚(例えば、300μm)以下にすることが難しい。それ故に、プランジャとヨーク部材との間の空隙は少なくとも300μmは必要となる。実際には、プランジャの移動を容易にするため、プランジャとヨーク部材の内孔との間には空隙が必要になり、プランジャとヨーク部材の内孔との磁気ギャップは更に広がる。これは、非磁性体のコーティング膜の形成によって、磁気伝達効率を低下させてしまうことになる。
【0014】
一方、コイルとの絶縁に関しては、ヨーク部材とコイルとを合成樹脂より成るボビンを用いて絶縁を行う方法では、ボビンを射出成形によって作る場合、コイルを巻き回す際にボビンに力が加わるため、ボビンの成形品の必要強度を確保させる必要がある。またボビンを合成樹脂の射出成形によって所定の厚み精度で以って作製するためには、射出成形時の溶融樹脂に所定の流動性が必要になる。この為、ボビンには、所定の厚みが必要となる。例えば、上記したボビンに用いる樹脂として、例えば、耐熱性が比較的高く、且つ樹脂の流動性が高い射出成形性に優れているポリブチレンテレフタレートやポリフェ二レンサルファイドを用いて作る場合には、コイルの径方向の厚みは、0.3mm以上、軸方向の厚みは、0.5mm以上が必要となる。
【0015】
ボビンとヨーク部材との磁気効率を良くする為、ヨーク部材とボビンとの厚みを薄くすれば、ヨーク部材に巻回されるコイルの実装密度が高まり、電磁弁の小型化への対応が行える。この事から、ヨーク部材とボビンとの厚みはできるだけ薄くした方が良い。また、ボビンにおけるコイルの軸方向の厚みに関しても、コイルの実装密度を高めることが可能になると共に、コイルから発生する磁界を、効率よくヨーク部品に伝達することができる為、出来るだけ薄くした方が良い。
【0016】
よって、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、内径に配設される摺動部材との磁気的な吸着がない被膜を形成すること、金属焼結部材の中に配設される摺動部材の摺動性を向上させること、外径に巻回されるコイルとの絶縁を従来よりも薄膜で形成すること、合わせてこれらの処置を施すことによって、電磁弁が形成する磁気回路中の磁気伝達効率を従来よりも向上させること、を技術的課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために講じた技術的手段は、内径に内孔を有し、該内径に沿って摺動自在である摺動部材が配設され、外径にはコイルが巻回される金属焼結部材において、表面に開口した気孔を有し、内径の気孔に摺動性粒子を吸着させ、外径に絶縁樹脂層が形成された構成としたことである。
【0018】
上記した手段によれば、内径の表面に開口した気孔に摺動性粒子を吸着させれば、内径の表面に粒子レベルの大きさとなった摺動膜を金属焼結部材の摺動部材が移動する内径に形成させることが可能である。
【0019】
これによって、粒子レベルの薄い摺動膜を金属焼結部材に形成させることが可能となる。また、摺動性粒子として非磁性の摺動性粒子を使用すれば、摺動部材と金属焼結部材との間には非磁性の被膜が形成されるので、電磁力が摺動部材に作用して移動する場合に、摺動部材の吸着を防止することが可能である。更に、コイルが巻回される外径に絶縁樹脂層が、金属焼結体の気孔から滲み出させることで形成されると、絶縁樹脂層によりコイルとの絶縁が確保される。これは、別部品としてのボビンによる絶縁を図る場合に比べ、絶縁樹脂層の形成による被膜の厚さを薄くし、磁気特性を向上させることが可能である。
【0020】
この場合、気孔には熱硬化性樹脂が入り、熱硬化性樹脂が溶融後熱硬化することで、気孔に摺動性粒子を結合させれば、気孔に入った熱硬化性樹脂が気孔表面の摺動性粒子と結合した状態で硬化することによって、熱硬化性樹脂をバインダーとして強固な摺動膜を形成させることが可能である。
【0021】
また、摺動性粒子は黒鉛粒子であれば、黒鉛粒子が摺動する部品の相手側に容易に転移するため、摺動する部品の双方の摺動面に黒鉛粒子が結合されるので、内径に沿って移動する摺動部材の摺動性が向上する。また黒鉛粒子は固体潤滑材であるため、摺動面に結合した黒鉛粒子は半永久的になくなることはない。このように黒鉛粒子は非磁性の固体潤滑材であるので、非磁性と優れた摺動性を両立させることができる。
【0022】
更に、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することが可能である。
【0023】
また、上記の課題を解決するために講じた技術的手段は、表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を作製する工程と、熱硬化性樹脂を溶媒中に溶解した溶液の中に摺動性粒子を混合して混合溶液を作る混合溶液作製工程と、該混合溶液に金属焼結部材を浸す浸漬工程と、該金属焼結部材を浸した混合溶液を減圧する減圧工程と、 前記金属焼結部材を前記混合溶液から取り出し、前記熱硬化性樹脂を溶融させた後に熱硬化させて、前記気孔の表面に吸着された摺動性粒子を前記熱硬化性樹脂により結合させ、摺動層を形成する熱硬化工程とを備えたことである。
【0024】
上記した手段によれば、表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を、摺動性粒子を混合した熱硬化性樹脂の溶液中に浸して減圧することによって、溶媒と共に熱硬化性樹脂が金属焼結部材の気孔中に侵入すると共に気孔より粒径が大きい摺動性粒子は表面に開口した気孔に吸着された状態で残る。その後、熱硬化性樹脂を熱硬化させることにより熱硬化性樹脂と摺動性粒子が結合し、摺動性粒子が金属焼結部材の表面に固定される。これによって、簡単な方法で摺動膜を形成することが可能である。
【0025】
この方法によれば、粒子レベルの膜厚で摺動性粒子を熱硬化性樹脂により強固に結合させ、従来のコーティング処理を行う方法よりも、遥かに薄い摺動膜を形成することが可能である。
【0026】
この場合、摺動性粒子として非磁性の摺動性粒子を使用すれば、摺動部材と金属焼結部材との間には非磁性の被膜が形成されるので、電磁力が摺動部材に作用して移動する場合に、摺動部材の吸着を防止することが可能である。また、摺動性粒子には黒鉛粒子を用いれば、内径に配設されて摺動を行う摺動部材の移動が黒鉛粒子によって容易となり、内径に沿って摺動する摺動部材の摺動性が向上する。黒鉛粒子は非磁性の固体潤滑材であるので、非磁性と優れた摺動性を両立させることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することが可能である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1に、一実施形態における電磁弁1の構成を示す。図1に示す電磁弁1は、鉄等の磁性材より成る中空円筒状のハウジング11の中に、コイル13が周方向に巻回されたヨーク(金属焼結部材)6が配設されている。ヨーク6は強磁性体(例えば、アトマイズ還元鉄粉を加圧成形し、焼結してφ8.9mmの鉄粉の焼結体を作る)から成り立っており、軸方向における中央が凹部状となった中空円筒状を呈する。ヨーク6は、軸方向における中央が磁気及び電気を絶縁する非磁性絶縁性部(非磁性部)7が形成されていると共に、その両側に磁性絶縁性部(磁性部)が形成されている。ヨーク6は軸方向両端が径方向に延在する円周状のフランジとなり、このフランジによって形成される中央の凹部の表面には、絶縁膜(樹脂絶縁層)12が形成され、この絶縁膜12を介してヨーク6の凹部にコイル13が周方向に巻回されている。
【0030】
尚、本実施形態においては、ヨーク単体、若しくは、ヨーク6の周囲に絶縁膜12を介して巻回されたコイル13まで含めたものを、ヨーク部材5として説明する。
【0031】
ヨーク6の中央には小径孔と大径孔を有する貫通した内孔10が軸方向にあけられ、小径孔と大径孔に軸支された状態で、プランジャ(純鉄 SUYB φ8.89mm)4が軸方向において移動自在となっている。
【0032】
次に、上記した構成の電磁弁1の作動について簡単に説明する。電磁弁1には図示しない外部コネクタが接続され、外部コネクタを介してコイル13に通電が成される。コイル13に外部コネクタより通電がなされると、コイル13の通電によりコイル13は励磁されて、コイル13に磁界が発生する。発生した磁界は、ヨーク(例えば、図1に示す左側のフロントヨーク)6bから、ヨーク6bとプランジャ4との間の空隙(エアギャップ)を介して、プランジャ4に伝達される。そして、プランジャ4からヨーク(例えば、図1に示す右側のリアヨーク)6aを通って、再度、コイル13に戻る。これにより、ハウジング内で閉ループの磁気回路が形成される。
【0033】
上記した構成により、コイル13に通電した電流に比例する磁界がコイル13に生じると、プランジャ4には電磁力が作用する。この結果、プランジャ4は磁気的な吸引力によって軸方向(図1に示す右方向)に引かれ、ヨークの大径孔の内孔10に沿って軸方向に移動する。
【0034】
この場合、プランジャ4とヨーク部材5との摺動面9において、両者との非磁性および摺動性を確保するために、後述する黒鉛粒子による膜厚が粒子レベルの非磁性から成る摺動膜8が形成されている。
【0035】
上記した構成の電磁弁1において、本発明の特徴事項であるヨーク6について、詳細に説明する。ヨーク6は、図1に示す左側の部分がリアヨーク6a、右側の部分がフロントヨーク6bとなっており、このリアヨーク6aとフロントヨーク6bは、非磁性部7を介して一体成形されている。リアヨーク6aとフロントヨーク6bは、強磁性金属粒子を用いて加圧成形を行い、加圧成形後に成形品を焼結させた多孔質の焼結体から成り立っている。この場合、多孔質な焼結体を構成する金属粒子としては、磁気特性としての透磁率の関係、或いは、加圧成形時の圧縮性を考慮して、汎用的かつ安価な金属粒子として、本実施形態においてはアトマイズ還元鉄粉を用いている。
【0036】
そこで、ヨーク6の製造およびヨーク6の絶縁膜の形成方法について、図2を参照して説明する。尚、以下に示す説明においては、各工程の流れ(ステップ)を、単に、「S」と簡略化して説明する。
【0037】
ヨーク6を作るアトマイズ還元鉄粉には、磁気特性が優れ、しかも、圧縮性に優れた、粒径が20μm以上(好ましくは、20〜150μm)の鉄粉(例えば、神戸製鋼株式会社製造 300NHアトマイズ還元鉄粉、川崎製鉄株式会社製造 304ASアトマイズ還元鉄粉等)を使用して、これをヨーク6の形状を作る金型内に充填させる。そして、金型に7t/cm2の圧力を加えて加圧成形し、圧粉密度が7.1Mg/m3以上になるようにして、リアヨーク6aおよびフロントヨーク6bの形状を一次成形により作る(S1)。
【0038】
次に、リアヨーク6aとフロントヨーク6bとの間に形成される非磁性部7を作る為の粒子を用意する。非磁性部7を作る粒子は、高強度の焼結体を作ることができる非磁性ステンレス粒子を用いる。例えば、非磁性ステンレス粒子として、本実施形態においてはSUS304を使用し、上記したリアヨーク6aとフロントヨーク6bの成型品の間にSUS304のステンレス粒子を充填するように金型内にセットする。具体的には、金型内にリアヨーク6aをセットした後に所定量のステンレス粒子を充填し、フロントヨーク6bをセットする。そして、金型に所定の圧力(例えば7t/cm2)を印加して、加圧成形(二次成形)を行って(S2)、フロントヨーク6bに相当する部位とリアヨーク6aに相当する部位との間に非磁性部7が一体となったヨーク6を作る。
【0039】
その後、上記した工程により作られた非磁性部7の両側に磁性部を一体で有するヨーク6を、不活性ガス(例えば、窒素またはアルゴン雰囲気、1.5〜2%程、わずかに水素を入れる)の中で、1073K(=800℃)で焼結し(S3)、磁性部の中に非磁性部7が一体となった表面に気孔を有する多孔質のヨーク6が成形される。この焼結により、アトマイズ還元鉄粉の粒子同士、非磁性ステンレス粒子同士、鉄粉とステンレス粒子との界面の粒子同士を溶融して結合させ、金属焼結体の機械的強度を向上させる。
【0040】
この後、ヨーク6の寸法精度を出す為に、切削によりつぶれた表面の気孔6cを復活させる為に表面研磨を行い(S4)。これによって、ヨーク6の内径および外径の表面に気孔6cを露出させ、ヨーク表面の摺動膜形成処理へと進む。この場合、ヨーク内部に形成された気孔6cは、ヨーク6の内孔10から外径へとつながった状態となる。気孔6cにおける表面の開口部の径は、後述する摺動性粒子24の直径より小さい。
【0041】
次に、コイル13が巻回されるヨーク6の外径の表面(凹部)は所定の厚さにて絶縁膜12を形成させる為、ヨーク6とコイル13とが当接する部位は所定の厚さ(例えば、30μm)の絶縁膜12が形成される様に、成形型とヨーク6との間に所定のキャビティ空間を保持した状態で、成形型を固定する(S5)。この場合、ヨーク6の表面に黒鉛粒子24を吸着させる部位であるプランジャ4が摺動するヨーク6の内径だけを残し、それ以外の部位は成形型で覆われている。
【0042】
ヨーク表面の摺動膜形成処理では、まずヨーク6に摺動膜8を形成する溶液を作る。この溶液は、熱硬化性樹脂から作られ、例えば、本実施形態ではフェノール樹脂を用いている。溶液にフェノール樹脂を用いた場合、アセトンを溶媒として使用してフェノール樹脂を溶解させる(S6)。
【0043】
次に、このフェノール樹脂の溶液に摺動性粒子24を混合し(S7)、攪拌して摺動性粒子24が分散したフェノール樹脂溶液を作る。ここで使用する摺動性粒子24としては、例えば、潤滑性に優れ、プランジャ4に摺動性を持たせるため天然の黒鉛粒子を使用する。この黒鉛粒子の粒径は、ヨーク部材5とプランジャ4との間の空隙に応じた粒子を選択することができる。例えば、ヨーク部材5とプランジャ4との間の空隙を、10μmに設定する場合、摺動性粒子24の粒径が20μm以下の天然の黒鉛粒子を用いると良い。
【0044】
そして、ヨーク6を、黒鉛粒子が分散して攪拌されたフェノール樹脂溶液の中に、ヨーク全体を浸漬させる(S8)。次にフェノール樹脂溶液が入った容器を真空鐘の中に置き、真空鐘内の空気を真空ポンプで抜いて減圧する(S9)。
【0045】
この様にすると、フェノール樹脂溶液に接しているヨーク6の内径側の気孔6cからフェノール樹脂25が入り込んで気孔内にフェノール樹脂25が充填されると共に、フェノール樹脂の中に混合された摺動性粒子(天然の黒鉛粒子)24は気孔6cの開口径より大きいので気孔6cの開口部に吸着された状態となる。
【0046】
ヨーク6の内部に入ったフェノール樹脂25は外径まで到達すると、コイル13が巻回される凹部(ヨーク6の外径側)に設けられたキャビティ空間にフェノール樹脂25が充填される。この為、ヨーク6の凹部とコイル13とが接触する部位は、所定の膜厚(30μm)のフェノール樹脂による絶縁膜12が形成される。
【0047】
そして、フェノール樹脂が溶融する温度(例えば、593K(=320℃))まで、ヨーク6を昇温させ、その後、ヨーク6を自然冷却することにより、多孔質な金属焼結体から成るヨーク6の気孔6cに充填されたフェノール樹脂25が固化する(S10)。これによって、図3の如く、摺動性粒子24は、フェノール樹脂25をバインダーとしてヨーク6の内孔10の気孔6cの表面に強固に結合するものとなる。この場合、更にまた、ヨーク6の凹部においてコイル13と接触する部位は、所定の膜厚(例えば、30μm)にて、フェノール樹脂25が固化した樹脂による絶縁膜12が形成される(S10)。
【0048】
この様にして作られたヨーク6に対して、コイル13を周方向に整列させた状態で巻回する場合、ヨーク6のコイル13を配設する凹部形状を、実際にコイル13の線径の大きさに応じてローレット加工を施し、この後に、成形型セットし、フェノール樹脂溶液し減圧を行って絶縁膜12を形成すると良い。
【0049】
本実施形態では、減圧処理によって、ヨーク6の表面にフェノール樹脂による絶縁樹脂層となる絶縁膜12を形成し、ヨーク6とコイル13との絶縁化を行った。実際、実施例では、線径がφ0.33mmのワイヤを用いた場合、絶縁性を30μmの厚みで形成した場合には、従来の如く、樹脂より成るボビンによってヨーク6とコイル13との絶縁を行う場合に比べ、実際には絶縁膜12の90%以上の膜厚の厚さ低減が可能になる。これによって、コイル13が巻回される空間において、同じヨーク6の大きさのものを用いた場合、従来の絶縁膜12の90%の膜厚分だけ余分にコイル13を巻くことが可能となることから、更に、一層余分のコイル13を巻回させることが出来る。例えば、7層から成るコイル13を巻回する場合には、同一の実装空間内に、8層目のコイルを実装することが可能となる。つまり、電磁弁1の径方向の大きさを大きくする事なく、電磁弁1のプランジャ4を移動させる起磁力を、数%(例えば、コイルの実装を7層から8層に増大する場合は14%程)増大させることができる。
【0050】
また、コイル13の軸方向での厚みについては、絶縁膜12の厚みの低減効果が増大し、フェノール樹脂により30μmのわずかな間隙の絶縁膜12が強磁性体のヨーク6に形成される。このため、コイル13から発生した磁界の多くが軸方向に形成された絶縁膜12によっても減衰することなく、コイル13からヨーク6へと伝達されるので、電磁弁1の磁気効率が大きく増大する。よって、電磁弁1の磁気効率が良くなり、電磁弁1の応答性の向上を図ることができる。
【0051】
以上、説明した様に、本実施形態では、ヨーク6とプランジャ4との間に、非磁性の摺動膜8を形成し、ヨーク6とプランジャ4との間でのプランジャ4の摺動性を向上させ、しかも、ヨーク6とコイル13との間で樹脂絶縁層による絶縁化を図り、これらの3つの機能をヨーク6に持たせている。
【0052】
この為、ヨーク6に対し、プランジャ4と対抗するヨーク6の内孔10の表面に、摺動性粒子(黒鉛粒子)24を減圧処理により吸着させて結合させていることを一特徴としている。これによって、ヨーク6とプランジャ4との間には、非磁性の摺動層が形成される。また、これとは別に、摺動膜として使用する黒鉛粒子の大きさに応じた、極めてわずかな空隙がヨーク6とプランジャ4との間に形成され、ヨーク6とプランジャ4との間での、黒鉛粒子による摺動性を確保することができる。
【0053】
また、一特徴として、ヨーク6がコイル13と接触しない様、ヨーク6の外径の凹部に、内径の摺動性粒子24の吸着時における減圧処理を利用して、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂層により樹脂絶縁層を形成している。これによって、ヨーク6とコイル13との間で確実かつ簡単な方法により絶縁化を図ることができる。
【0054】
更に、これを実現させるためには、ヨーク6は内部に気孔6cを有し、その気孔6cは内径から外径に連通する金属焼結体である事が必要であり、金属焼結体であるヨーク6に形成された気孔6cの中に、溶解したフェノール樹脂25を充填すると共に、溶解したフェノール樹脂25との混合物である摺動性粒子(黒鉛粒子)24を、ヨーク6の内孔10の表面に露出した気孔6cに吸着させた後、黒鉛粒子24をフェノール樹脂25の溶融後熱硬化させることにより、フェノール樹脂25をバインダーとして結合させることによって実現している。
【0055】
また更に、黒鉛粒子24の結合に用いたフェノール樹脂を利用して、金属焼結体であるヨーク6の気孔6cを介して外径側へと滲み出る、溶解したフェノール樹脂25を、ヨーク6がコイル13と接触しない様、ヨーク6のコイル13が巻回される凹部の表面に、所定の厚み(例えば、30μm)で滲み出させる事によって、ヨーク6とコイル13との間に、わずかな膜厚の絶縁膜12設けることができる。
【0056】
本実施形態においては、電磁弁1の磁気回路において、磁気回路の磁気伝播効率に影響を与えるプランジャ4とヨーク6との空隙を、従来の技術(コーティング処理を施す場合)に比べ、1桁以上小さい程度(例えば、10μm)まで縮減させることができる。これによって、コイル13で発生する磁界が小さくても、大きな起磁力を発生することができる。また、ヨーク6とプランジャ4との空隙を10μmと言う空隙を実現させる為、従来では、電磁弁1を構成する各々の部品(例えば、ハウジング、ヨーク、プランジャ等)を極めて高精度に加工しなければならないと共に、また、高精度の組み付けが必要であったが、上記した方法により摺動膜8,13を形成すれば、これら部品を高精度に加工することや、高精度の組み付けは不要になる。更に、本実施形態では、黒鉛粒子24を空隙形成の媒体として利用するため、ヨーク6の内孔10とプランジャ4の外径との加工精度の偏差があって、ヨーク6とプランジャ4とが干渉する場合であっても、その干渉の大きさに応じてヨーク側に設けられた黒鉛粒子24がプランジャ側に転移することにより、黒鉛粒子24を媒体にして移動して移る為、両者の摺動面9に損傷を与える事を防止することができる。
【0057】
また、ヨーク6のコイル13との絶縁膜12は、従来のコーティング処理を行う場合に比べて、1桁薄い厚みで絶縁膜12を形成することができる。これによって、励磁によりコイル13で発生した磁界がフロントヨーク6bから絶縁膜12を通過する際に減衰してしまう事を抑制することができる。また、これと同様に、またリアヨーク6aからコイル13へと戻って行く磁界についても、絶縁膜12での減衰を抑制することができる。
【0058】
これによって、コイル13で発生する磁界を効率よく閉ループの磁気回路中で磁束を伝播することができる。また、これと同時に、コイル13の巻き数を低減することができるので、電磁弁1の径方向の大きさを小さくすることができる。或いは、従来との比較において、ヨーク6が同じ径方向の大きさである場合は、コイル13を巻く層を1層増やすことができ、電磁弁1の出力である起磁力を増加させることができ、電磁弁の応答性を向上させることになる。
【0059】
なお、実施形態ではヨーク全体をフェノール樹脂溶液に浸漬させているが、ヨーク6の摺動膜を形成させる所定部位だけをフェノール樹脂溶液に浸漬させてもよい。例えば、ヨーク6の内孔の一方端を塞ぎ、他方端には内孔を延長する治具をセットし、一方端を下にして内孔にフェノール樹脂溶液を満たした後、真空鐘に入れて減圧処理する方法がある。この場合、成形型をセットしてもよいが、減圧する圧力を制御することにより成形型をセットすることなく所定厚さの絶縁膜をヨーク6の外径に形成することができる。
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、内径の表面に開口した気孔に摺動性粒子を吸着させれば、内径の表面に粒子レベルの大きさとなった非磁性の摺動膜を、金属焼結部材の摺動部材が移動する内径に形成させることができる。
【0061】
これによって、粒子レベルの薄い非磁性の摺動膜を金属焼結部材に形成させることができる。また、摺動部材と金属焼結部材との間には非磁性の被膜が形成されるので、電磁力が摺動部材に作用して移動する場合に、摺動部材の吸着を非磁性の摺動層によって確実に防止することができる。更に、コイルが巻回される外径に絶縁樹脂層が形成されると、絶縁樹脂層によりコイルとの絶縁が確保できると共に、ボビンによる絶縁を図る場合に比べ、絶縁樹脂層の形成により被膜の厚さを薄くでき、コイルの実装空間を広く取ることが出来、これにより多くのコイルを実装することができ、とともにコイルで発生する磁界を効率よくヨーク側に伝播することが出来、これらによって電磁弁の応答性を早めることが出来る。
【0062】
この場合、気孔には熱硬化性樹脂が入り、熱硬化性樹脂が溶融して熱硬化することで、気孔に摺動性粒子を結合させれば、気孔に入った熱硬化性樹脂が摺動性粒子と結合した状態で硬化することによって、熱硬化性樹脂をバインダーとして強固な摺動膜を形成させることができる。
【0063】
また、摺動性粒子は黒鉛粒子であれば、内径に配設されて摺動を行う摺動部材の移動を黒鉛粒子によって滑らかにすることができるので、内径に沿って移動する摺動部材の摺動性を向上させることができる。
【0064】
更に、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することができる。
【0065】
また、本発明によれば、熱硬化性樹脂を溶媒に溶解させた溶液中に摺動性粒子が混合された混合溶液に表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を浸漬し、減圧処理した後、金属焼結部材を混合溶液から取り出して、熱硬化性樹脂を熱硬化させることで、簡単な摺動膜の形成方法により、表面に開口した気孔に吸着された摺動性粒子によって摺動膜を形成することができる。
【0066】
この方法によれば、粒子レベルの膜厚で摺動性粒子を熱硬化性樹脂により強固に結合させ、従来のコーティング処理を行う方法よりも、遥かに薄い摺動膜を形成することができる。
【0067】
この方法において、摺動性粒子には黒鉛粒子を用いれば、内径に配設されて摺動を行う摺動部材の移動が黒鉛粒子によって滑らかとなり、内径に沿って摺動する摺動部材の摺動性を向上させることができる。さらに黒鉛粒子が固体潤滑材であるため、摺動を行う間隙が黒鉛粒子の大きさに準じた微小の間隙であっても、摺動時に黒鉛粒子の一部が相手側に転移し、これによって摺動面では黒鉛粒子を媒体にした摺動性が実現できる。また、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態における電磁弁の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すヨークに絶縁膜を形成する場合の被膜形成工程を示す。
【図3】図2に示す被膜形成工程により形成された絶縁膜の模式図を示す。
【符号の説明】
1 電磁弁
5 ヨーク部材(金属焼結部材)
6 ヨーク(金属焼結部材)
6c 気孔
7 非磁性部
12 絶縁膜(絶縁樹脂層)
13 コイル
24 摺動性粒子(黒鉛粒子)
25 フェノール樹脂(熱硬化性樹脂)
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属焼結部材および金属焼結部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、電磁弁は磁路を形成するヨーク部材を備え、ヨーク部材はハウジングの内部に配設され磁束が通過する磁性部と磁束を遮断する非磁性部を有し、外径にはコイルが巻回される。そして、電磁弁はヨーク部材の内孔の中で、プランジャが電磁力による磁気的な吸引力によって軸方向に移動自在となっている。
【0003】
電磁弁の構成要素であるヨーク部材およびプランジャは、例えば、強磁性体から成る金属の焼結体(金属焼結体)より作られる。この様な構成の電磁弁は、外部よりコイルに対して通電を行い、コイルを励磁させると、コイルから磁界が発生し、ハウジングとヨークおよびプランジャとの間で閉ループの磁気回路が形成される。その結果、プランジャがコイルの励磁に比例した電磁力によって移動を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この場合、コイルで発生した磁界を、効率的に磁気回路に伝播させ、プランジャの起磁力に変換するには、ヨーク部品とプランジャとの空隙(エアギャップ)は狭いほど良いことが知られている。つまり、ヨーク部材とプランジャとの間の空隙は小さい程、ヨークとプランジャとの間に形成される磁気ギャップが小さくなり、これによってヨークとプランジャとの間隙で減少する磁束の割合が縮減され、この結果プランジャに発生する起磁力を効率良くプランジャの軸方向における移動力に変換することができる。また、ヨーク部品とプランジャとの同軸度が高い程、プランジャの移動時におけるヒステリシス特性が小さくなる。
【0005】
電磁弁においては、強磁性体からヨーク部材やプランジャが成り立っているため、電磁力によりプランジャが移動する際に、プランジャには磁気的な吸引力が作用して、プランジャには移動力となるサイドフォースが発生する。
【0006】
その結果、サイドフォースの径方向の分力によって、プランジャがヨーク部材側に移動する。このサイドフォースによりプランジャには軸方向以外の力が発生する。この為、プランジャは本来の印加された磁界の大きさに比例した軸方向のリニアな動きにならず、径方向にも移動し、この結果ヒステリシス特性が生じると共に、磁気的な吸引力によって、プランジャとヨーク部材の表面が磁性体同士であると、プランジャとヨーク部材とが磁気吸着されてしまう。
【0007】
そこで、プランジャとヨーク部材とが磁気吸着される事を防止し、プランジャとヨーク部品との摺接面の摩擦係数を低下させて、プランジャの軸方向への移動効率を良くする為、ヨーク部材の内周面及びプランジャの外周面のいずれか一方に、炭化フッ素系樹脂のコーティング処理により非磁性の被膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
この他に、一般的に被膜を形成する方法としては、溶射法、イオンプレーティング法、PVD法、CVD法、塗膜法、メッキ法等の方法が知られている。
【0009】
一方、コイルを形成する電線の絶縁被膜にはピンホールが存在するため、ヨーク部材に巻回されるコイルの絶縁に関しては、ヨーク部材とコイルとを絶縁する必要がある。この場合、ヨーク部材とコイルとの間には樹脂より成るボビンが一般的に配設され、このボビンによりヨーク部材とコイルとの絶縁が図られる(例えば、特許文献3を参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−33662号公報(図1)
【0011】
【特許文献2】
特開2000−46225号公報(第3頁 第14段落、図1)
【0012】
【特許文献3】
特開2002−206658号公報(第1図)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したプランジャのヨーク部材の内孔との摺動面に炭化フッ素系樹脂のコーティング処理を施す方法では、一定の膜厚(例えば、300μm)以下にすることが難しい。それ故に、プランジャとヨーク部材との間の空隙は少なくとも300μmは必要となる。実際には、プランジャの移動を容易にするため、プランジャとヨーク部材の内孔との間には空隙が必要になり、プランジャとヨーク部材の内孔との磁気ギャップは更に広がる。これは、非磁性体のコーティング膜の形成によって、磁気伝達効率を低下させてしまうことになる。
【0014】
一方、コイルとの絶縁に関しては、ヨーク部材とコイルとを合成樹脂より成るボビンを用いて絶縁を行う方法では、ボビンを射出成形によって作る場合、コイルを巻き回す際にボビンに力が加わるため、ボビンの成形品の必要強度を確保させる必要がある。またボビンを合成樹脂の射出成形によって所定の厚み精度で以って作製するためには、射出成形時の溶融樹脂に所定の流動性が必要になる。この為、ボビンには、所定の厚みが必要となる。例えば、上記したボビンに用いる樹脂として、例えば、耐熱性が比較的高く、且つ樹脂の流動性が高い射出成形性に優れているポリブチレンテレフタレートやポリフェ二レンサルファイドを用いて作る場合には、コイルの径方向の厚みは、0.3mm以上、軸方向の厚みは、0.5mm以上が必要となる。
【0015】
ボビンとヨーク部材との磁気効率を良くする為、ヨーク部材とボビンとの厚みを薄くすれば、ヨーク部材に巻回されるコイルの実装密度が高まり、電磁弁の小型化への対応が行える。この事から、ヨーク部材とボビンとの厚みはできるだけ薄くした方が良い。また、ボビンにおけるコイルの軸方向の厚みに関しても、コイルの実装密度を高めることが可能になると共に、コイルから発生する磁界を、効率よくヨーク部品に伝達することができる為、出来るだけ薄くした方が良い。
【0016】
よって、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、内径に配設される摺動部材との磁気的な吸着がない被膜を形成すること、金属焼結部材の中に配設される摺動部材の摺動性を向上させること、外径に巻回されるコイルとの絶縁を従来よりも薄膜で形成すること、合わせてこれらの処置を施すことによって、電磁弁が形成する磁気回路中の磁気伝達効率を従来よりも向上させること、を技術的課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために講じた技術的手段は、内径に内孔を有し、該内径に沿って摺動自在である摺動部材が配設され、外径にはコイルが巻回される金属焼結部材において、表面に開口した気孔を有し、内径の気孔に摺動性粒子を吸着させ、外径に絶縁樹脂層が形成された構成としたことである。
【0018】
上記した手段によれば、内径の表面に開口した気孔に摺動性粒子を吸着させれば、内径の表面に粒子レベルの大きさとなった摺動膜を金属焼結部材の摺動部材が移動する内径に形成させることが可能である。
【0019】
これによって、粒子レベルの薄い摺動膜を金属焼結部材に形成させることが可能となる。また、摺動性粒子として非磁性の摺動性粒子を使用すれば、摺動部材と金属焼結部材との間には非磁性の被膜が形成されるので、電磁力が摺動部材に作用して移動する場合に、摺動部材の吸着を防止することが可能である。更に、コイルが巻回される外径に絶縁樹脂層が、金属焼結体の気孔から滲み出させることで形成されると、絶縁樹脂層によりコイルとの絶縁が確保される。これは、別部品としてのボビンによる絶縁を図る場合に比べ、絶縁樹脂層の形成による被膜の厚さを薄くし、磁気特性を向上させることが可能である。
【0020】
この場合、気孔には熱硬化性樹脂が入り、熱硬化性樹脂が溶融後熱硬化することで、気孔に摺動性粒子を結合させれば、気孔に入った熱硬化性樹脂が気孔表面の摺動性粒子と結合した状態で硬化することによって、熱硬化性樹脂をバインダーとして強固な摺動膜を形成させることが可能である。
【0021】
また、摺動性粒子は黒鉛粒子であれば、黒鉛粒子が摺動する部品の相手側に容易に転移するため、摺動する部品の双方の摺動面に黒鉛粒子が結合されるので、内径に沿って移動する摺動部材の摺動性が向上する。また黒鉛粒子は固体潤滑材であるため、摺動面に結合した黒鉛粒子は半永久的になくなることはない。このように黒鉛粒子は非磁性の固体潤滑材であるので、非磁性と優れた摺動性を両立させることができる。
【0022】
更に、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することが可能である。
【0023】
また、上記の課題を解決するために講じた技術的手段は、表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を作製する工程と、熱硬化性樹脂を溶媒中に溶解した溶液の中に摺動性粒子を混合して混合溶液を作る混合溶液作製工程と、該混合溶液に金属焼結部材を浸す浸漬工程と、該金属焼結部材を浸した混合溶液を減圧する減圧工程と、 前記金属焼結部材を前記混合溶液から取り出し、前記熱硬化性樹脂を溶融させた後に熱硬化させて、前記気孔の表面に吸着された摺動性粒子を前記熱硬化性樹脂により結合させ、摺動層を形成する熱硬化工程とを備えたことである。
【0024】
上記した手段によれば、表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を、摺動性粒子を混合した熱硬化性樹脂の溶液中に浸して減圧することによって、溶媒と共に熱硬化性樹脂が金属焼結部材の気孔中に侵入すると共に気孔より粒径が大きい摺動性粒子は表面に開口した気孔に吸着された状態で残る。その後、熱硬化性樹脂を熱硬化させることにより熱硬化性樹脂と摺動性粒子が結合し、摺動性粒子が金属焼結部材の表面に固定される。これによって、簡単な方法で摺動膜を形成することが可能である。
【0025】
この方法によれば、粒子レベルの膜厚で摺動性粒子を熱硬化性樹脂により強固に結合させ、従来のコーティング処理を行う方法よりも、遥かに薄い摺動膜を形成することが可能である。
【0026】
この場合、摺動性粒子として非磁性の摺動性粒子を使用すれば、摺動部材と金属焼結部材との間には非磁性の被膜が形成されるので、電磁力が摺動部材に作用して移動する場合に、摺動部材の吸着を防止することが可能である。また、摺動性粒子には黒鉛粒子を用いれば、内径に配設されて摺動を行う摺動部材の移動が黒鉛粒子によって容易となり、内径に沿って摺動する摺動部材の摺動性が向上する。黒鉛粒子は非磁性の固体潤滑材であるので、非磁性と優れた摺動性を両立させることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することが可能である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1に、一実施形態における電磁弁1の構成を示す。図1に示す電磁弁1は、鉄等の磁性材より成る中空円筒状のハウジング11の中に、コイル13が周方向に巻回されたヨーク(金属焼結部材)6が配設されている。ヨーク6は強磁性体(例えば、アトマイズ還元鉄粉を加圧成形し、焼結してφ8.9mmの鉄粉の焼結体を作る)から成り立っており、軸方向における中央が凹部状となった中空円筒状を呈する。ヨーク6は、軸方向における中央が磁気及び電気を絶縁する非磁性絶縁性部(非磁性部)7が形成されていると共に、その両側に磁性絶縁性部(磁性部)が形成されている。ヨーク6は軸方向両端が径方向に延在する円周状のフランジとなり、このフランジによって形成される中央の凹部の表面には、絶縁膜(樹脂絶縁層)12が形成され、この絶縁膜12を介してヨーク6の凹部にコイル13が周方向に巻回されている。
【0030】
尚、本実施形態においては、ヨーク単体、若しくは、ヨーク6の周囲に絶縁膜12を介して巻回されたコイル13まで含めたものを、ヨーク部材5として説明する。
【0031】
ヨーク6の中央には小径孔と大径孔を有する貫通した内孔10が軸方向にあけられ、小径孔と大径孔に軸支された状態で、プランジャ(純鉄 SUYB φ8.89mm)4が軸方向において移動自在となっている。
【0032】
次に、上記した構成の電磁弁1の作動について簡単に説明する。電磁弁1には図示しない外部コネクタが接続され、外部コネクタを介してコイル13に通電が成される。コイル13に外部コネクタより通電がなされると、コイル13の通電によりコイル13は励磁されて、コイル13に磁界が発生する。発生した磁界は、ヨーク(例えば、図1に示す左側のフロントヨーク)6bから、ヨーク6bとプランジャ4との間の空隙(エアギャップ)を介して、プランジャ4に伝達される。そして、プランジャ4からヨーク(例えば、図1に示す右側のリアヨーク)6aを通って、再度、コイル13に戻る。これにより、ハウジング内で閉ループの磁気回路が形成される。
【0033】
上記した構成により、コイル13に通電した電流に比例する磁界がコイル13に生じると、プランジャ4には電磁力が作用する。この結果、プランジャ4は磁気的な吸引力によって軸方向(図1に示す右方向)に引かれ、ヨークの大径孔の内孔10に沿って軸方向に移動する。
【0034】
この場合、プランジャ4とヨーク部材5との摺動面9において、両者との非磁性および摺動性を確保するために、後述する黒鉛粒子による膜厚が粒子レベルの非磁性から成る摺動膜8が形成されている。
【0035】
上記した構成の電磁弁1において、本発明の特徴事項であるヨーク6について、詳細に説明する。ヨーク6は、図1に示す左側の部分がリアヨーク6a、右側の部分がフロントヨーク6bとなっており、このリアヨーク6aとフロントヨーク6bは、非磁性部7を介して一体成形されている。リアヨーク6aとフロントヨーク6bは、強磁性金属粒子を用いて加圧成形を行い、加圧成形後に成形品を焼結させた多孔質の焼結体から成り立っている。この場合、多孔質な焼結体を構成する金属粒子としては、磁気特性としての透磁率の関係、或いは、加圧成形時の圧縮性を考慮して、汎用的かつ安価な金属粒子として、本実施形態においてはアトマイズ還元鉄粉を用いている。
【0036】
そこで、ヨーク6の製造およびヨーク6の絶縁膜の形成方法について、図2を参照して説明する。尚、以下に示す説明においては、各工程の流れ(ステップ)を、単に、「S」と簡略化して説明する。
【0037】
ヨーク6を作るアトマイズ還元鉄粉には、磁気特性が優れ、しかも、圧縮性に優れた、粒径が20μm以上(好ましくは、20〜150μm)の鉄粉(例えば、神戸製鋼株式会社製造 300NHアトマイズ還元鉄粉、川崎製鉄株式会社製造 304ASアトマイズ還元鉄粉等)を使用して、これをヨーク6の形状を作る金型内に充填させる。そして、金型に7t/cm2の圧力を加えて加圧成形し、圧粉密度が7.1Mg/m3以上になるようにして、リアヨーク6aおよびフロントヨーク6bの形状を一次成形により作る(S1)。
【0038】
次に、リアヨーク6aとフロントヨーク6bとの間に形成される非磁性部7を作る為の粒子を用意する。非磁性部7を作る粒子は、高強度の焼結体を作ることができる非磁性ステンレス粒子を用いる。例えば、非磁性ステンレス粒子として、本実施形態においてはSUS304を使用し、上記したリアヨーク6aとフロントヨーク6bの成型品の間にSUS304のステンレス粒子を充填するように金型内にセットする。具体的には、金型内にリアヨーク6aをセットした後に所定量のステンレス粒子を充填し、フロントヨーク6bをセットする。そして、金型に所定の圧力(例えば7t/cm2)を印加して、加圧成形(二次成形)を行って(S2)、フロントヨーク6bに相当する部位とリアヨーク6aに相当する部位との間に非磁性部7が一体となったヨーク6を作る。
【0039】
その後、上記した工程により作られた非磁性部7の両側に磁性部を一体で有するヨーク6を、不活性ガス(例えば、窒素またはアルゴン雰囲気、1.5〜2%程、わずかに水素を入れる)の中で、1073K(=800℃)で焼結し(S3)、磁性部の中に非磁性部7が一体となった表面に気孔を有する多孔質のヨーク6が成形される。この焼結により、アトマイズ還元鉄粉の粒子同士、非磁性ステンレス粒子同士、鉄粉とステンレス粒子との界面の粒子同士を溶融して結合させ、金属焼結体の機械的強度を向上させる。
【0040】
この後、ヨーク6の寸法精度を出す為に、切削によりつぶれた表面の気孔6cを復活させる為に表面研磨を行い(S4)。これによって、ヨーク6の内径および外径の表面に気孔6cを露出させ、ヨーク表面の摺動膜形成処理へと進む。この場合、ヨーク内部に形成された気孔6cは、ヨーク6の内孔10から外径へとつながった状態となる。気孔6cにおける表面の開口部の径は、後述する摺動性粒子24の直径より小さい。
【0041】
次に、コイル13が巻回されるヨーク6の外径の表面(凹部)は所定の厚さにて絶縁膜12を形成させる為、ヨーク6とコイル13とが当接する部位は所定の厚さ(例えば、30μm)の絶縁膜12が形成される様に、成形型とヨーク6との間に所定のキャビティ空間を保持した状態で、成形型を固定する(S5)。この場合、ヨーク6の表面に黒鉛粒子24を吸着させる部位であるプランジャ4が摺動するヨーク6の内径だけを残し、それ以外の部位は成形型で覆われている。
【0042】
ヨーク表面の摺動膜形成処理では、まずヨーク6に摺動膜8を形成する溶液を作る。この溶液は、熱硬化性樹脂から作られ、例えば、本実施形態ではフェノール樹脂を用いている。溶液にフェノール樹脂を用いた場合、アセトンを溶媒として使用してフェノール樹脂を溶解させる(S6)。
【0043】
次に、このフェノール樹脂の溶液に摺動性粒子24を混合し(S7)、攪拌して摺動性粒子24が分散したフェノール樹脂溶液を作る。ここで使用する摺動性粒子24としては、例えば、潤滑性に優れ、プランジャ4に摺動性を持たせるため天然の黒鉛粒子を使用する。この黒鉛粒子の粒径は、ヨーク部材5とプランジャ4との間の空隙に応じた粒子を選択することができる。例えば、ヨーク部材5とプランジャ4との間の空隙を、10μmに設定する場合、摺動性粒子24の粒径が20μm以下の天然の黒鉛粒子を用いると良い。
【0044】
そして、ヨーク6を、黒鉛粒子が分散して攪拌されたフェノール樹脂溶液の中に、ヨーク全体を浸漬させる(S8)。次にフェノール樹脂溶液が入った容器を真空鐘の中に置き、真空鐘内の空気を真空ポンプで抜いて減圧する(S9)。
【0045】
この様にすると、フェノール樹脂溶液に接しているヨーク6の内径側の気孔6cからフェノール樹脂25が入り込んで気孔内にフェノール樹脂25が充填されると共に、フェノール樹脂の中に混合された摺動性粒子(天然の黒鉛粒子)24は気孔6cの開口径より大きいので気孔6cの開口部に吸着された状態となる。
【0046】
ヨーク6の内部に入ったフェノール樹脂25は外径まで到達すると、コイル13が巻回される凹部(ヨーク6の外径側)に設けられたキャビティ空間にフェノール樹脂25が充填される。この為、ヨーク6の凹部とコイル13とが接触する部位は、所定の膜厚(30μm)のフェノール樹脂による絶縁膜12が形成される。
【0047】
そして、フェノール樹脂が溶融する温度(例えば、593K(=320℃))まで、ヨーク6を昇温させ、その後、ヨーク6を自然冷却することにより、多孔質な金属焼結体から成るヨーク6の気孔6cに充填されたフェノール樹脂25が固化する(S10)。これによって、図3の如く、摺動性粒子24は、フェノール樹脂25をバインダーとしてヨーク6の内孔10の気孔6cの表面に強固に結合するものとなる。この場合、更にまた、ヨーク6の凹部においてコイル13と接触する部位は、所定の膜厚(例えば、30μm)にて、フェノール樹脂25が固化した樹脂による絶縁膜12が形成される(S10)。
【0048】
この様にして作られたヨーク6に対して、コイル13を周方向に整列させた状態で巻回する場合、ヨーク6のコイル13を配設する凹部形状を、実際にコイル13の線径の大きさに応じてローレット加工を施し、この後に、成形型セットし、フェノール樹脂溶液し減圧を行って絶縁膜12を形成すると良い。
【0049】
本実施形態では、減圧処理によって、ヨーク6の表面にフェノール樹脂による絶縁樹脂層となる絶縁膜12を形成し、ヨーク6とコイル13との絶縁化を行った。実際、実施例では、線径がφ0.33mmのワイヤを用いた場合、絶縁性を30μmの厚みで形成した場合には、従来の如く、樹脂より成るボビンによってヨーク6とコイル13との絶縁を行う場合に比べ、実際には絶縁膜12の90%以上の膜厚の厚さ低減が可能になる。これによって、コイル13が巻回される空間において、同じヨーク6の大きさのものを用いた場合、従来の絶縁膜12の90%の膜厚分だけ余分にコイル13を巻くことが可能となることから、更に、一層余分のコイル13を巻回させることが出来る。例えば、7層から成るコイル13を巻回する場合には、同一の実装空間内に、8層目のコイルを実装することが可能となる。つまり、電磁弁1の径方向の大きさを大きくする事なく、電磁弁1のプランジャ4を移動させる起磁力を、数%(例えば、コイルの実装を7層から8層に増大する場合は14%程)増大させることができる。
【0050】
また、コイル13の軸方向での厚みについては、絶縁膜12の厚みの低減効果が増大し、フェノール樹脂により30μmのわずかな間隙の絶縁膜12が強磁性体のヨーク6に形成される。このため、コイル13から発生した磁界の多くが軸方向に形成された絶縁膜12によっても減衰することなく、コイル13からヨーク6へと伝達されるので、電磁弁1の磁気効率が大きく増大する。よって、電磁弁1の磁気効率が良くなり、電磁弁1の応答性の向上を図ることができる。
【0051】
以上、説明した様に、本実施形態では、ヨーク6とプランジャ4との間に、非磁性の摺動膜8を形成し、ヨーク6とプランジャ4との間でのプランジャ4の摺動性を向上させ、しかも、ヨーク6とコイル13との間で樹脂絶縁層による絶縁化を図り、これらの3つの機能をヨーク6に持たせている。
【0052】
この為、ヨーク6に対し、プランジャ4と対抗するヨーク6の内孔10の表面に、摺動性粒子(黒鉛粒子)24を減圧処理により吸着させて結合させていることを一特徴としている。これによって、ヨーク6とプランジャ4との間には、非磁性の摺動層が形成される。また、これとは別に、摺動膜として使用する黒鉛粒子の大きさに応じた、極めてわずかな空隙がヨーク6とプランジャ4との間に形成され、ヨーク6とプランジャ4との間での、黒鉛粒子による摺動性を確保することができる。
【0053】
また、一特徴として、ヨーク6がコイル13と接触しない様、ヨーク6の外径の凹部に、内径の摺動性粒子24の吸着時における減圧処理を利用して、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂層により樹脂絶縁層を形成している。これによって、ヨーク6とコイル13との間で確実かつ簡単な方法により絶縁化を図ることができる。
【0054】
更に、これを実現させるためには、ヨーク6は内部に気孔6cを有し、その気孔6cは内径から外径に連通する金属焼結体である事が必要であり、金属焼結体であるヨーク6に形成された気孔6cの中に、溶解したフェノール樹脂25を充填すると共に、溶解したフェノール樹脂25との混合物である摺動性粒子(黒鉛粒子)24を、ヨーク6の内孔10の表面に露出した気孔6cに吸着させた後、黒鉛粒子24をフェノール樹脂25の溶融後熱硬化させることにより、フェノール樹脂25をバインダーとして結合させることによって実現している。
【0055】
また更に、黒鉛粒子24の結合に用いたフェノール樹脂を利用して、金属焼結体であるヨーク6の気孔6cを介して外径側へと滲み出る、溶解したフェノール樹脂25を、ヨーク6がコイル13と接触しない様、ヨーク6のコイル13が巻回される凹部の表面に、所定の厚み(例えば、30μm)で滲み出させる事によって、ヨーク6とコイル13との間に、わずかな膜厚の絶縁膜12設けることができる。
【0056】
本実施形態においては、電磁弁1の磁気回路において、磁気回路の磁気伝播効率に影響を与えるプランジャ4とヨーク6との空隙を、従来の技術(コーティング処理を施す場合)に比べ、1桁以上小さい程度(例えば、10μm)まで縮減させることができる。これによって、コイル13で発生する磁界が小さくても、大きな起磁力を発生することができる。また、ヨーク6とプランジャ4との空隙を10μmと言う空隙を実現させる為、従来では、電磁弁1を構成する各々の部品(例えば、ハウジング、ヨーク、プランジャ等)を極めて高精度に加工しなければならないと共に、また、高精度の組み付けが必要であったが、上記した方法により摺動膜8,13を形成すれば、これら部品を高精度に加工することや、高精度の組み付けは不要になる。更に、本実施形態では、黒鉛粒子24を空隙形成の媒体として利用するため、ヨーク6の内孔10とプランジャ4の外径との加工精度の偏差があって、ヨーク6とプランジャ4とが干渉する場合であっても、その干渉の大きさに応じてヨーク側に設けられた黒鉛粒子24がプランジャ側に転移することにより、黒鉛粒子24を媒体にして移動して移る為、両者の摺動面9に損傷を与える事を防止することができる。
【0057】
また、ヨーク6のコイル13との絶縁膜12は、従来のコーティング処理を行う場合に比べて、1桁薄い厚みで絶縁膜12を形成することができる。これによって、励磁によりコイル13で発生した磁界がフロントヨーク6bから絶縁膜12を通過する際に減衰してしまう事を抑制することができる。また、これと同様に、またリアヨーク6aからコイル13へと戻って行く磁界についても、絶縁膜12での減衰を抑制することができる。
【0058】
これによって、コイル13で発生する磁界を効率よく閉ループの磁気回路中で磁束を伝播することができる。また、これと同時に、コイル13の巻き数を低減することができるので、電磁弁1の径方向の大きさを小さくすることができる。或いは、従来との比較において、ヨーク6が同じ径方向の大きさである場合は、コイル13を巻く層を1層増やすことができ、電磁弁1の出力である起磁力を増加させることができ、電磁弁の応答性を向上させることになる。
【0059】
なお、実施形態ではヨーク全体をフェノール樹脂溶液に浸漬させているが、ヨーク6の摺動膜を形成させる所定部位だけをフェノール樹脂溶液に浸漬させてもよい。例えば、ヨーク6の内孔の一方端を塞ぎ、他方端には内孔を延長する治具をセットし、一方端を下にして内孔にフェノール樹脂溶液を満たした後、真空鐘に入れて減圧処理する方法がある。この場合、成形型をセットしてもよいが、減圧する圧力を制御することにより成形型をセットすることなく所定厚さの絶縁膜をヨーク6の外径に形成することができる。
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、内径の表面に開口した気孔に摺動性粒子を吸着させれば、内径の表面に粒子レベルの大きさとなった非磁性の摺動膜を、金属焼結部材の摺動部材が移動する内径に形成させることができる。
【0061】
これによって、粒子レベルの薄い非磁性の摺動膜を金属焼結部材に形成させることができる。また、摺動部材と金属焼結部材との間には非磁性の被膜が形成されるので、電磁力が摺動部材に作用して移動する場合に、摺動部材の吸着を非磁性の摺動層によって確実に防止することができる。更に、コイルが巻回される外径に絶縁樹脂層が形成されると、絶縁樹脂層によりコイルとの絶縁が確保できると共に、ボビンによる絶縁を図る場合に比べ、絶縁樹脂層の形成により被膜の厚さを薄くでき、コイルの実装空間を広く取ることが出来、これにより多くのコイルを実装することができ、とともにコイルで発生する磁界を効率よくヨーク側に伝播することが出来、これらによって電磁弁の応答性を早めることが出来る。
【0062】
この場合、気孔には熱硬化性樹脂が入り、熱硬化性樹脂が溶融して熱硬化することで、気孔に摺動性粒子を結合させれば、気孔に入った熱硬化性樹脂が摺動性粒子と結合した状態で硬化することによって、熱硬化性樹脂をバインダーとして強固な摺動膜を形成させることができる。
【0063】
また、摺動性粒子は黒鉛粒子であれば、内径に配設されて摺動を行う摺動部材の移動を黒鉛粒子によって滑らかにすることができるので、内径に沿って移動する摺動部材の摺動性を向上させることができる。
【0064】
更に、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することができる。
【0065】
また、本発明によれば、熱硬化性樹脂を溶媒に溶解させた溶液中に摺動性粒子が混合された混合溶液に表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を浸漬し、減圧処理した後、金属焼結部材を混合溶液から取り出して、熱硬化性樹脂を熱硬化させることで、簡単な摺動膜の形成方法により、表面に開口した気孔に吸着された摺動性粒子によって摺動膜を形成することができる。
【0066】
この方法によれば、粒子レベルの膜厚で摺動性粒子を熱硬化性樹脂により強固に結合させ、従来のコーティング処理を行う方法よりも、遥かに薄い摺動膜を形成することができる。
【0067】
この方法において、摺動性粒子には黒鉛粒子を用いれば、内径に配設されて摺動を行う摺動部材の移動が黒鉛粒子によって滑らかとなり、内径に沿って摺動する摺動部材の摺動性を向上させることができる。さらに黒鉛粒子が固体潤滑材であるため、摺動を行う間隙が黒鉛粒子の大きさに準じた微小の間隙であっても、摺動時に黒鉛粒子の一部が相手側に転移し、これによって摺動面では黒鉛粒子を媒体にした摺動性が実現できる。また、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であれば、耐熱性に優れ、安価なフェノール樹脂を用いて粒子レベルで、薄く強固な摺動膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態における電磁弁の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すヨークに絶縁膜を形成する場合の被膜形成工程を示す。
【図3】図2に示す被膜形成工程により形成された絶縁膜の模式図を示す。
【符号の説明】
1 電磁弁
5 ヨーク部材(金属焼結部材)
6 ヨーク(金属焼結部材)
6c 気孔
7 非磁性部
12 絶縁膜(絶縁樹脂層)
13 コイル
24 摺動性粒子(黒鉛粒子)
25 フェノール樹脂(熱硬化性樹脂)
Claims (7)
- 内径に内孔を有し、該内径に沿って摺動自在である摺動部材が配設され、外径にはコイルが巻回される金属焼結部材において、
前記内孔は、表面に開口した気孔を有し、該内径の気孔に摺動性粒子を吸着させ、前記外径に絶縁性樹脂層が形成されたことを特徴とする金属焼結部材。 - 前記気孔には熱硬化性樹脂が入り、該熱硬化性樹脂が溶融した後に熱硬化して、前記表面に開口した気孔に前記摺動性粒子が結合したことを特徴とする請求項1に記載の金属焼結部材。
- 前記摺動性粒子は、非磁性粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属焼結部材。
- 前記摺動性粒子は、黒鉛粒子であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金属焼結部材。
- 前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の金属焼結部材。
- 表面に開口した気孔を有する金属焼結部材を作製する工程と、
熱硬化性樹脂を溶媒中に溶解した溶液の中に摺動性粒子を混合して混合溶液を作る混合溶液作製工程と、
該混合溶液に金属焼結部材を浸す浸漬工程と、
該金属焼結部材を浸した混合溶液を減圧する減圧工程と、
前記金属焼結部材を前記混合溶液から取り出し、前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて、前記気孔の表面に吸着された摺動性粒子を前記熱硬化性樹脂により結合させ、摺動層を形成する熱硬化工程とを備えたことを特徴とする金属焼結部材の製造方法。 - 前記浸漬工程の前に、前記金属焼結部材の外径側の絶縁性樹脂層を形成する部位に所定空間を設けた成形型で内径側の面以外を覆う成形型固定工程を備えた請求項6に記載の金属焼結部材の製造方法。
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2002
- 2002-09-26 JP JP2002282026A patent/JP2004115873A/ja not_active Withdrawn
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