JP2004097169A - 動物細胞の解凍方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】マイクロチップの解凍操作において、細胞の培養状態を再現良く得ることができ、分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能で、かつ菌の汚染の危険性を抑えた、マイクロチップに含まれる動物細胞の解凍方法を提供すること。
【解決手段】動物細胞が凍結用培養液とともに凍結保存されているマイクロチップの解凍方法であって、マイクロチップを水不透過性を有する袋中に納め、袋ごとマイクロチップ全体を1〜37℃の範囲の水中に浸漬して、マイクロチップ中の動物細胞を解凍する動物細胞の解凍方法であり、好ましくは該マイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下である動物細胞の解凍方法。
【選択図】 図1
【解決手段】動物細胞が凍結用培養液とともに凍結保存されているマイクロチップの解凍方法であって、マイクロチップを水不透過性を有する袋中に納め、袋ごとマイクロチップ全体を1〜37℃の範囲の水中に浸漬して、マイクロチップ中の動物細胞を解凍する動物細胞の解凍方法であり、好ましくは該マイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下である動物細胞の解凍方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞培養分野における、マイクロチップの微小空間中の培養面に接着して凍結保存されている動物細胞の解凍方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
動物細胞は一般に−80℃以下のディープフリーザーや液体窒素中に凍結された状態で保存されている。動物細胞の凍結保存の形態は一般的にはアンプルや凍結保存用のチューブに凍結用培地とともに細胞浮遊液の形で凍結されている。このように凍結され保存されている動物細胞は、必要なときに解凍されて、再び培養を行うことができる。
この解凍において、重要なことは速やかに解凍することである。解凍に時間がかかると細胞へのダメージが大きく、解凍時の生存率を下げることになる。また温度を高く上げすぎると細胞が死んだり、ヒートショックプロテインの発現のように細胞のストレス応答を惹起することになるため、一般的には37℃の温水中に浸漬し解凍する方法がとられている。動物細胞の凍結保存の形態は一般的には上記のアンプルや凍結用チューブの場合が多く密閉状態を保つことができる構造であり、温水に浸漬しても容器中へ菌が混入する危険性は少ない。
【0003】
近年は特公平5−77389号公報に開示されているように培養容器に足場依存性動物細胞を接着した状態で凍結保存を行う方法が提唱されている。この凍結方法は培養器中に既に所定数の動物細胞が培養されており、解凍するだけで実験に使用できる細胞付の培養器を得られる。これは細胞の播種とその後の増殖培養を行うための時間と労力を削減できる点で、非常に魅力的である。
これとは別に、最近、マイクロリアクターやマイクロアナリシスシステムと呼ばれる微細加工技術を利用した化学反応や分離システムの微小化の研究が盛んになっており、マイクロチャンネルを持つマイクロチップ上で行う核酸、タンパク質などの分析や合成、微量化学物質の迅速分析、医薬品・薬物のハイスループットスクリーニングへの応用が期待されている。このようなシステムのマイクロ化の利点としては、サンプルや試薬の使用量あるいは廃液の排出量が軽減され、省スペースで持ち運び可能な安価なシステムの実現が考えられている。また体積に対する表面積の比率が向上することにより、熱移動・物質移動の高速化が実現でき、その結果、反応や分離の精密な制御、高速・高効率化、副反応の抑制が期待される。
【0004】
上記の目的でマイクロチップに組み込まれるシステムの一つとして細胞培養も含まれており、マイクロチップ上で細胞培養を行う目的としては、培養細胞を利用した化学物質のスクリーニングやセンサー、神経伝達などの細胞間相互作用のモデル化ほか様々のものが考えられる。
このようにマイクロチップ上で細胞培養が行われ様々な成果が示されているが、培養システムとしては十分なツールがまだ整備されている状態ではなく、シリンジなどで個々の研究者が独自の工夫を施して培養操作を行っている。
その中でも特に細胞を入手、調整してからマイクロチップに播種、培養を行うまでは、マイクロチップの特徴である反応の高速・高率化とは別に、細胞自身の培養環境への適合化の速度に依存するため、実際に実験・分析操作を行うまでには従来と同様に多大な労力と時間を費やしている。
またマイクロチップでは使用するサンプルなどの使用量は極微量であり、マイクロチップでの培養に使用する細胞も従来のシャーレやマルチウェルの培養方法と比べて極少量で十分であるが、実験毎に細胞播種を行っていては調整する細胞の量が少ないことも重なって、実験毎に細胞の生存率が大きくばらついてしまい、その結果として得られる分析評価データがばらついてしまう。
そこで前述した培養容器に足場依存性動物細胞を接着した状態で凍結保存を行う方法をマイクロチップの細胞培養で用いることにより、凍結保存したマイクロチップを解凍することで迅速に実験・分析作業を開始することが可能である。かつ同じロット及び条件で凍結されているので、毎回の実験・分析でも同じ条件で解凍操作を行うことにより、細胞の生存率を再現良く得ることができ、そして分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能となる。
マイクロチップのような小容積中の凍結細胞を解凍する方法として、凍結用チューブの解凍方法と同様に温水中に直接沈める方法が考えられる。しかし、マイクロチップの培養面に連絡してあるマイクロチャンネルは試薬の注入、採取を行うため、外部と通じる開口部を有しており、この方法で解凍を行うと温水が流入して、菌による汚染や保存していた細胞の死滅の要因となってしまう。マイクロチャンネルの開口部に蓋を取り付けて温水中に沈めた場合、直接温水がマイクロチャンネルに流入することはないが、取り上げた後にマイクロチップの外部には菌が付着しておりやはり菌の汚染原因になる。
温度コントロールしたホットプレートにマイクロチップをのせて解凍を行うと、マイクロチップの片面は加熱されるが、反対側の面は冷たい状態で外気に晒されるため、やはり結露による水滴が付着して、きちんと除去しないと菌が付着して汚染を招く恐れがある。またマイクロチップの加熱と同時にホットプレートも一時的に冷却されて、ホットプレートは熱を加えるための制御を行うが、温度の制御には時間的ズレがあるため、ホットプレートは一時的に許容範囲より加熱されて細胞が死んだり、ヒートショックプロテインの発現のように細胞のストレス応答を惹起する可能性がある。
また、培養用インキュベータで解凍する方法も考えられるが、冷凍状態のマイクロチップを高湿状態のインキュベータに投入するとマイクロチップの外部には結露による水滴が付着して、きちんと除去しないと菌が付着して汚染を招く恐れがある。
【0005】
【特許文献1】
特公平5−77389号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前述したマイクロチップの解凍操作を毎回同じ条件下で実施することにより、細胞の培養状態を再現良く得ることができ、そして分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能で、菌の汚染の危険性を抑えた、マイクロチップに含まれる動物細胞の解凍方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、
(1) 動物細胞が凍結用培養液とともに凍結保存されているマイクロチップの解凍方法であって、マイクロチップを水不透過性を有する袋中に納め、袋ごとマイクロチップ全体を1〜37℃の範囲の水中に浸漬して、マイクロチップ中の動物細胞を解凍することを特徴とする動物細胞の解凍方法、
(2) マイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下である(1)記載の動物細胞の解凍方法、
(3) 凍結前にマイクロチップを水不透過性を有する袋に納め、袋をシールする(1)または(2)記載の動物細胞の解凍方法、
(4) 水不透過性を有する袋の内面の面積が、納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍を有し、かつ1気圧下で0〜37℃の温度範囲において袋内のマイクロチップ以外の気体の体積が、マイクロチップの占める体積の1倍以下の量である状態でシールする(3)記載の動物細胞の解凍方法、
(5) 水不透過性を有する袋の内面の面積が、納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍を有し、水不透過性を有する袋の一部または全体が通気性を有している(3)記載の動物細胞の解凍方法、
である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の解凍対象となるマイクロチップは内部または外表面に微小空間が設置されており、空間を構成する一部の面あるいは空間内に存在するビーズなどの担体表面を培養面として足場依存性動物細胞が培養することが可能であり、一つのマイクロチップに一つ、或いは二つ以上の微小空間が設置されている。
【0009】
またマイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下であることが好ましい。特にマイクロチップの厚さが薄いほうが培養面への加温効率が高くなり、細胞をより速やかに解凍することが可能となるため、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。マイクロチップの厚さが5mmを超えると、マイクロチップ本体の熱容量が大きく、マイクロチップでの培養面の位置が内側の細胞ほど解凍効率が低下してしまい、均等に解凍を行うことができず、解凍時の細胞の生存率の低下やばらつきが発生してしまう。
マイクロチップの原材料としては−80℃以下に対するの耐冷却性を有していれば特に限定はせず、例えば、ガラス、シリコン、またはポリプロピレンなどのプラスチックを用いることが可能である。
【0010】
また、細胞はマイクロチップの培養面に接着した状態で凍結用培養液とともに凍結保存されている。
培養面に接着していない状態であると、解凍直後の凍結用培養液を培養用培養液に入れ替える操作で、凍結用培養液と共に解凍された細胞も排出されてしまう。本発明の解凍作業時の状態の模式図を図1に示す。(1)は動物細胞が凍結用培養液と共に凍結されたマイクロチップ、(2)は水不透過性を有する袋、(3)は水である。
マイクロチップを水中に浸漬すると、水圧によって袋がマイクロチップ全体に密着する。袋とマイクロチップ外表面との間には空気の層はほとんど存在せず、マイクロチップ全体を直接水中に浸漬した場合と同等の加温が可能になる。
【0011】
解凍方法についてさらに詳細に述べる。本発明では、10℃以下の水温でも細胞の解凍が可能である。解凍効率は先に述べたマイクロチップの厚さのほかに温水の温度による影響が大きく、当然であるが温度が高いほど解凍効率は大きく、短時間で作業を完了できる。
水温が低いと解凍効率が下がり、解凍が完了するまでの時間は長くなるが、マイクロチップの厚さが5mm以下であればマイクロチップ全体がほぼ均一に解凍されるため、マイクロチップでの培養面の位置が内側の細胞ほど解凍効率が低下して生存率がばらつく支障は発生しない。マイクロチップの厚さが3mm以下であれば解凍効率の低下による生存率の低下も見られず、さらに厚さが1mm以下であればマイクロチップの熱容量も小さくなり温水に沈めたときと同様の速度で解凍が行われる。
また解凍効率を左右する要因としてマイクロチップ内の培養液量があるが、特殊な大きさ、形態の培養面により過多な量であっても、マイクロチップの厚さが5mm以下であれば何ら支障はない。
【0012】
細胞を解凍する上で注意すべきことは、完全に培養液が解凍しないうちにチップを水中より引き上げないことである。解凍の途中でチップを水中より引き上げると加温が中断し、一旦解凍した細胞が再び凍ることにより細胞の生存率が大きく低下するので、解凍を確認してから引き上げを行う。
本発明における解凍方法では、袋中にマイクロチップが納められているため、解凍中外気に触れることがなく、マイクロチップに霜がついたり、その霜が解けてマイクロチップを濡らすことがなく、マイクロチップに菌が付着して汚染される危険性が少ない。
また本発明における解凍方法では特別な解凍用装置を調達する必要がなく、実験室にあるウォーターバスで実施可能であり、また単に水を貯めた容器でも良い。
食品などでは、脱気後に袋をシールするいわゆる真空包装の用いたレトルト食品があり、この場合食品をお湯にそのまま入れることで効率良く過熱を行うが、マイクロチップについてはこのような処方でマイクロチップを包装して加温する方法はなかった。
その理由として、マイクロリアクターやマイクロアナリシスシステムの考え方では微細加工技術、マイクロマシン、マイクロデバイスを駆使し、極限られた部位に加熱、冷却等の機能とその効果を付与することに注目しており、マイクロチップ全体を加温するという発想自体が余り行われないためである。
【0013】
本発明では、動物細胞が凍結保存されているマイクロチップを解凍する方法として、マイクロチップを水不透過性の袋に入れて水中に沈める時に、袋全体がマイクロチップに密着させることにより、培養面を効率良く加熱している。
この方法を可能とするには、マイクロチップを収納する包装方法と条件の二点が重要である。第一に袋の大きさであり、第二に凍結前の室温における袋内の気体の量である。
まず、袋の大きさであるが、マイクロチップ全体を袋に密着させ、さらに袋に余裕がある大きさが必要である。より具体的には、袋の内面の面積が納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍であることが好ましい。上記のような袋の大きさであれば、マイクロチップを水中に浸漬したときに水圧でマイクロチップ全体を無理なく密着させることができる。
【0014】
次に凍結前の室温における袋内の気体の量であるが、凍結時の袋内の気体が多いとマイクロチップと袋が密着しない。マイクロチップと袋の間に空気の層が存在していしまい、断熱材として熱伝達を阻害するため解凍した細胞の生存率を著しく低下する。包装するときに空気を押し出すようにすることで、マイクロチップを水中に沈めたときに袋内に残った空気も袋の余裕の部分に集めることで、袋とマイクロチップを確実に密着させることが可能である。具体的には1気圧下で0〜37℃の温度範囲において袋内のマイクロチップ以外の気体の体積が、マイクロチップの占める体積の1倍以下であることが好ましい。
しかし、凍結前の包装時にレトルト食品のようにマイクロチップを袋に納めて脱気を行うと、凍結用培養液が除去され、また細胞が一気圧以下の環境に晒されて細胞内外の圧力差により破裂する恐れがあるので、脱気は特に必要でない。
また袋がガス透過性であれば、マイクロチップを水中に沈めたときに袋内の空気は水圧により袋の外に押し出され、袋とマイクロチップを確実に密着させることが可能である。
【0015】
図1で解凍の手順を説明すると、−80℃以下で凍結保存されているマイクロチップ全体を袋ごと水中に沈める。水圧により袋は培養液に密着し、袋内の空気(4)は袋の余裕部分に溜まる。しばらく沈めたままマイクロチップを加温する。
水の温度が低い場合は、水を撹拌することでマイクロチップ周辺の水の還流を良くして効率良くし、効率良くマイクロチップを加温する。マイクロチップを静かに動かして水の還流を行っても良いが、動きが激しいと細胞にダメージを与える可能性がある。
37℃の温水中で、特に厚さ1mm以下のマイクロチップでは解凍効率が非常に高く、10数秒程度で解凍を完了できる。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
大きさ75mm×25mm、厚さ1mmのガラス製基板の内部に直径3mm、厚さ100μmの微小空間に連絡する分注用と排出用の直径100μmのマイクロチャンネルが2本設けられているマイクロチップに、HeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。顕微鏡観察によりサブコンフルエントな状態に達したところで細胞と共にマイクロチップごと数枚を凍結した。凍結の手順は以下の通り。
培養していた培養液を除去し、DMSOを10%の濃度で上記培養用の培養液に添加した凍結用培養液を各微小空間に充填し、無菌操作で大きさ60mm×85mm、フィルム厚さ0.04mmのポリエチレン製の袋に納め、シールし、直ちにディープフリーザー中で1分間あたり1℃の割合で−80℃まで冷却し凍結した。その後、ディープフリーザー中に−80℃で保存した。
保存の後、ディープフリーザーよりマイクロチップを取り出し、37℃の温水中に沈め完全に解凍した。解凍に要した時間は10秒未満であった。即座に凍結用の培養液を排出し、培養用の培養液を充填して37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。
【0017】
(比較例1)
実施例1で用いたマイクロチップにHeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。顕微鏡観察によりサブコンフルエントな状態に達したところで細胞と共にマイクロチップごと数枚を凍結した。凍結の手順は以下の通り。
培養していた培養液を除去し、DMSOを10%の濃度で上記培養用の培養液に添加した凍結用培養液を各微小空間に充填し、無菌操作で大きさ60mm×85mm、フィルム厚さ0.04mmのポリエチレン製の袋に納め、シールし、直ちにディープフリーザー中で1分間あたり1℃の割合で−80℃まで冷却し凍結した。その後、ディープフリーザー中に−80℃で保存した。
保存の後、ディープフリーザーのマイクロチップを袋から取り出し、37℃、5%CO2インキュベーター中で完全に解凍した。解凍に要した時間は約60秒であった。マイクロチップの外表面に結露した液滴を滅菌済みの脱脂綿で除去した後に凍結用の培養液を排出し、培養用の培養液を充填して37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。
【0018】
(比較例2)
実施例1で用いたマイクロチップにHeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。顕微鏡観察によりサブコンフルエントな状態に達したところで細胞と共にマイクロチップごと数枚を凍結した。凍結の手順は以下の通り。
培養していた培養液を除去し、DMSOを10%の濃度で上記培養用の培養液に添加した凍結用培養液を各微小空間に充填し、無菌操作でマイクロチャンネルの開口部に蓋を取り付けて、直ちにディープフリーザー中で1分間あたり1℃の割合で−80℃まで冷却し凍結した。その後、ディープフリーザー中に−80℃で保存した。
保存の後、ディープフリーザーからマイクロチップを取り出し、37℃の温水中に沈め完全に解凍した。解凍に要した時間は10秒未満であった。マイクロチップの外表面に付着した液滴を滅菌済みの脱脂綿で除去した後に凍結用の培養液を排出し、培養用の培養液を充填して37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。
【0019】
(比較例3)
実施例1で用いたマイクロチップ1枚にHeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。
【0020】
(マイクロチップの細胞の生存率及びチップ間のばらつき、及び菌の汚染状況)
実施例1及び比較例1、2を用いた。また比較例3は数回実施した。
培養2時間後、生細胞数確認用試薬(WST−1(同仁))を10%含有する培養液で培地交換を行い、37℃、5%CO2インキュベーター中で2時間培養した。その後生細胞数に応じて生成されるホルマザンをマイクロチップより採取して、吸光光度計により波長450nmの吸光度を測定した。
解凍時の細胞生存率は、数枚のマイクロチップの凍結を行う前に、コントロールとして凍結まで同条件で同時に行われたマイクロチップにWST1を加えた培養液で培地交換して2時間培養を継続し、生成したホルマザンの吸光度を測定して、その平均値で実施例及び比較例1、2の吸光度を除すことにより算出した。ばらつきは、変動係数(CV値)で比較した。比較例3については各回のホルマザンの吸光度についてCV値を算出した。
またさらに培養を継続し、菌の汚染についての状況を確認した。
それぞれの結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【発明の効果】
本発明に従うと、足場依存性動物細胞が凍結されたマイクロチップの解凍操作を毎回同じ条件下で実施することにより、細胞の生存率を再現良く得ることができ、そして分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能で、菌の汚染の危険性を抑えた、マイクロチップに含まれる動物細胞の解凍方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動物細胞の解凍方法の模式図である。
【符号の簡単な説明】
1 マイクロチップ
2 袋
3 水
4 袋内の空気
5 水槽
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞培養分野における、マイクロチップの微小空間中の培養面に接着して凍結保存されている動物細胞の解凍方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
動物細胞は一般に−80℃以下のディープフリーザーや液体窒素中に凍結された状態で保存されている。動物細胞の凍結保存の形態は一般的にはアンプルや凍結保存用のチューブに凍結用培地とともに細胞浮遊液の形で凍結されている。このように凍結され保存されている動物細胞は、必要なときに解凍されて、再び培養を行うことができる。
この解凍において、重要なことは速やかに解凍することである。解凍に時間がかかると細胞へのダメージが大きく、解凍時の生存率を下げることになる。また温度を高く上げすぎると細胞が死んだり、ヒートショックプロテインの発現のように細胞のストレス応答を惹起することになるため、一般的には37℃の温水中に浸漬し解凍する方法がとられている。動物細胞の凍結保存の形態は一般的には上記のアンプルや凍結用チューブの場合が多く密閉状態を保つことができる構造であり、温水に浸漬しても容器中へ菌が混入する危険性は少ない。
【0003】
近年は特公平5−77389号公報に開示されているように培養容器に足場依存性動物細胞を接着した状態で凍結保存を行う方法が提唱されている。この凍結方法は培養器中に既に所定数の動物細胞が培養されており、解凍するだけで実験に使用できる細胞付の培養器を得られる。これは細胞の播種とその後の増殖培養を行うための時間と労力を削減できる点で、非常に魅力的である。
これとは別に、最近、マイクロリアクターやマイクロアナリシスシステムと呼ばれる微細加工技術を利用した化学反応や分離システムの微小化の研究が盛んになっており、マイクロチャンネルを持つマイクロチップ上で行う核酸、タンパク質などの分析や合成、微量化学物質の迅速分析、医薬品・薬物のハイスループットスクリーニングへの応用が期待されている。このようなシステムのマイクロ化の利点としては、サンプルや試薬の使用量あるいは廃液の排出量が軽減され、省スペースで持ち運び可能な安価なシステムの実現が考えられている。また体積に対する表面積の比率が向上することにより、熱移動・物質移動の高速化が実現でき、その結果、反応や分離の精密な制御、高速・高効率化、副反応の抑制が期待される。
【0004】
上記の目的でマイクロチップに組み込まれるシステムの一つとして細胞培養も含まれており、マイクロチップ上で細胞培養を行う目的としては、培養細胞を利用した化学物質のスクリーニングやセンサー、神経伝達などの細胞間相互作用のモデル化ほか様々のものが考えられる。
このようにマイクロチップ上で細胞培養が行われ様々な成果が示されているが、培養システムとしては十分なツールがまだ整備されている状態ではなく、シリンジなどで個々の研究者が独自の工夫を施して培養操作を行っている。
その中でも特に細胞を入手、調整してからマイクロチップに播種、培養を行うまでは、マイクロチップの特徴である反応の高速・高率化とは別に、細胞自身の培養環境への適合化の速度に依存するため、実際に実験・分析操作を行うまでには従来と同様に多大な労力と時間を費やしている。
またマイクロチップでは使用するサンプルなどの使用量は極微量であり、マイクロチップでの培養に使用する細胞も従来のシャーレやマルチウェルの培養方法と比べて極少量で十分であるが、実験毎に細胞播種を行っていては調整する細胞の量が少ないことも重なって、実験毎に細胞の生存率が大きくばらついてしまい、その結果として得られる分析評価データがばらついてしまう。
そこで前述した培養容器に足場依存性動物細胞を接着した状態で凍結保存を行う方法をマイクロチップの細胞培養で用いることにより、凍結保存したマイクロチップを解凍することで迅速に実験・分析作業を開始することが可能である。かつ同じロット及び条件で凍結されているので、毎回の実験・分析でも同じ条件で解凍操作を行うことにより、細胞の生存率を再現良く得ることができ、そして分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能となる。
マイクロチップのような小容積中の凍結細胞を解凍する方法として、凍結用チューブの解凍方法と同様に温水中に直接沈める方法が考えられる。しかし、マイクロチップの培養面に連絡してあるマイクロチャンネルは試薬の注入、採取を行うため、外部と通じる開口部を有しており、この方法で解凍を行うと温水が流入して、菌による汚染や保存していた細胞の死滅の要因となってしまう。マイクロチャンネルの開口部に蓋を取り付けて温水中に沈めた場合、直接温水がマイクロチャンネルに流入することはないが、取り上げた後にマイクロチップの外部には菌が付着しておりやはり菌の汚染原因になる。
温度コントロールしたホットプレートにマイクロチップをのせて解凍を行うと、マイクロチップの片面は加熱されるが、反対側の面は冷たい状態で外気に晒されるため、やはり結露による水滴が付着して、きちんと除去しないと菌が付着して汚染を招く恐れがある。またマイクロチップの加熱と同時にホットプレートも一時的に冷却されて、ホットプレートは熱を加えるための制御を行うが、温度の制御には時間的ズレがあるため、ホットプレートは一時的に許容範囲より加熱されて細胞が死んだり、ヒートショックプロテインの発現のように細胞のストレス応答を惹起する可能性がある。
また、培養用インキュベータで解凍する方法も考えられるが、冷凍状態のマイクロチップを高湿状態のインキュベータに投入するとマイクロチップの外部には結露による水滴が付着して、きちんと除去しないと菌が付着して汚染を招く恐れがある。
【0005】
【特許文献1】
特公平5−77389号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前述したマイクロチップの解凍操作を毎回同じ条件下で実施することにより、細胞の培養状態を再現良く得ることができ、そして分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能で、菌の汚染の危険性を抑えた、マイクロチップに含まれる動物細胞の解凍方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、
(1) 動物細胞が凍結用培養液とともに凍結保存されているマイクロチップの解凍方法であって、マイクロチップを水不透過性を有する袋中に納め、袋ごとマイクロチップ全体を1〜37℃の範囲の水中に浸漬して、マイクロチップ中の動物細胞を解凍することを特徴とする動物細胞の解凍方法、
(2) マイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下である(1)記載の動物細胞の解凍方法、
(3) 凍結前にマイクロチップを水不透過性を有する袋に納め、袋をシールする(1)または(2)記載の動物細胞の解凍方法、
(4) 水不透過性を有する袋の内面の面積が、納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍を有し、かつ1気圧下で0〜37℃の温度範囲において袋内のマイクロチップ以外の気体の体積が、マイクロチップの占める体積の1倍以下の量である状態でシールする(3)記載の動物細胞の解凍方法、
(5) 水不透過性を有する袋の内面の面積が、納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍を有し、水不透過性を有する袋の一部または全体が通気性を有している(3)記載の動物細胞の解凍方法、
である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の解凍対象となるマイクロチップは内部または外表面に微小空間が設置されており、空間を構成する一部の面あるいは空間内に存在するビーズなどの担体表面を培養面として足場依存性動物細胞が培養することが可能であり、一つのマイクロチップに一つ、或いは二つ以上の微小空間が設置されている。
【0009】
またマイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下であることが好ましい。特にマイクロチップの厚さが薄いほうが培養面への加温効率が高くなり、細胞をより速やかに解凍することが可能となるため、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。マイクロチップの厚さが5mmを超えると、マイクロチップ本体の熱容量が大きく、マイクロチップでの培養面の位置が内側の細胞ほど解凍効率が低下してしまい、均等に解凍を行うことができず、解凍時の細胞の生存率の低下やばらつきが発生してしまう。
マイクロチップの原材料としては−80℃以下に対するの耐冷却性を有していれば特に限定はせず、例えば、ガラス、シリコン、またはポリプロピレンなどのプラスチックを用いることが可能である。
【0010】
また、細胞はマイクロチップの培養面に接着した状態で凍結用培養液とともに凍結保存されている。
培養面に接着していない状態であると、解凍直後の凍結用培養液を培養用培養液に入れ替える操作で、凍結用培養液と共に解凍された細胞も排出されてしまう。本発明の解凍作業時の状態の模式図を図1に示す。(1)は動物細胞が凍結用培養液と共に凍結されたマイクロチップ、(2)は水不透過性を有する袋、(3)は水である。
マイクロチップを水中に浸漬すると、水圧によって袋がマイクロチップ全体に密着する。袋とマイクロチップ外表面との間には空気の層はほとんど存在せず、マイクロチップ全体を直接水中に浸漬した場合と同等の加温が可能になる。
【0011】
解凍方法についてさらに詳細に述べる。本発明では、10℃以下の水温でも細胞の解凍が可能である。解凍効率は先に述べたマイクロチップの厚さのほかに温水の温度による影響が大きく、当然であるが温度が高いほど解凍効率は大きく、短時間で作業を完了できる。
水温が低いと解凍効率が下がり、解凍が完了するまでの時間は長くなるが、マイクロチップの厚さが5mm以下であればマイクロチップ全体がほぼ均一に解凍されるため、マイクロチップでの培養面の位置が内側の細胞ほど解凍効率が低下して生存率がばらつく支障は発生しない。マイクロチップの厚さが3mm以下であれば解凍効率の低下による生存率の低下も見られず、さらに厚さが1mm以下であればマイクロチップの熱容量も小さくなり温水に沈めたときと同様の速度で解凍が行われる。
また解凍効率を左右する要因としてマイクロチップ内の培養液量があるが、特殊な大きさ、形態の培養面により過多な量であっても、マイクロチップの厚さが5mm以下であれば何ら支障はない。
【0012】
細胞を解凍する上で注意すべきことは、完全に培養液が解凍しないうちにチップを水中より引き上げないことである。解凍の途中でチップを水中より引き上げると加温が中断し、一旦解凍した細胞が再び凍ることにより細胞の生存率が大きく低下するので、解凍を確認してから引き上げを行う。
本発明における解凍方法では、袋中にマイクロチップが納められているため、解凍中外気に触れることがなく、マイクロチップに霜がついたり、その霜が解けてマイクロチップを濡らすことがなく、マイクロチップに菌が付着して汚染される危険性が少ない。
また本発明における解凍方法では特別な解凍用装置を調達する必要がなく、実験室にあるウォーターバスで実施可能であり、また単に水を貯めた容器でも良い。
食品などでは、脱気後に袋をシールするいわゆる真空包装の用いたレトルト食品があり、この場合食品をお湯にそのまま入れることで効率良く過熱を行うが、マイクロチップについてはこのような処方でマイクロチップを包装して加温する方法はなかった。
その理由として、マイクロリアクターやマイクロアナリシスシステムの考え方では微細加工技術、マイクロマシン、マイクロデバイスを駆使し、極限られた部位に加熱、冷却等の機能とその効果を付与することに注目しており、マイクロチップ全体を加温するという発想自体が余り行われないためである。
【0013】
本発明では、動物細胞が凍結保存されているマイクロチップを解凍する方法として、マイクロチップを水不透過性の袋に入れて水中に沈める時に、袋全体がマイクロチップに密着させることにより、培養面を効率良く加熱している。
この方法を可能とするには、マイクロチップを収納する包装方法と条件の二点が重要である。第一に袋の大きさであり、第二に凍結前の室温における袋内の気体の量である。
まず、袋の大きさであるが、マイクロチップ全体を袋に密着させ、さらに袋に余裕がある大きさが必要である。より具体的には、袋の内面の面積が納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍であることが好ましい。上記のような袋の大きさであれば、マイクロチップを水中に浸漬したときに水圧でマイクロチップ全体を無理なく密着させることができる。
【0014】
次に凍結前の室温における袋内の気体の量であるが、凍結時の袋内の気体が多いとマイクロチップと袋が密着しない。マイクロチップと袋の間に空気の層が存在していしまい、断熱材として熱伝達を阻害するため解凍した細胞の生存率を著しく低下する。包装するときに空気を押し出すようにすることで、マイクロチップを水中に沈めたときに袋内に残った空気も袋の余裕の部分に集めることで、袋とマイクロチップを確実に密着させることが可能である。具体的には1気圧下で0〜37℃の温度範囲において袋内のマイクロチップ以外の気体の体積が、マイクロチップの占める体積の1倍以下であることが好ましい。
しかし、凍結前の包装時にレトルト食品のようにマイクロチップを袋に納めて脱気を行うと、凍結用培養液が除去され、また細胞が一気圧以下の環境に晒されて細胞内外の圧力差により破裂する恐れがあるので、脱気は特に必要でない。
また袋がガス透過性であれば、マイクロチップを水中に沈めたときに袋内の空気は水圧により袋の外に押し出され、袋とマイクロチップを確実に密着させることが可能である。
【0015】
図1で解凍の手順を説明すると、−80℃以下で凍結保存されているマイクロチップ全体を袋ごと水中に沈める。水圧により袋は培養液に密着し、袋内の空気(4)は袋の余裕部分に溜まる。しばらく沈めたままマイクロチップを加温する。
水の温度が低い場合は、水を撹拌することでマイクロチップ周辺の水の還流を良くして効率良くし、効率良くマイクロチップを加温する。マイクロチップを静かに動かして水の還流を行っても良いが、動きが激しいと細胞にダメージを与える可能性がある。
37℃の温水中で、特に厚さ1mm以下のマイクロチップでは解凍効率が非常に高く、10数秒程度で解凍を完了できる。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
大きさ75mm×25mm、厚さ1mmのガラス製基板の内部に直径3mm、厚さ100μmの微小空間に連絡する分注用と排出用の直径100μmのマイクロチャンネルが2本設けられているマイクロチップに、HeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。顕微鏡観察によりサブコンフルエントな状態に達したところで細胞と共にマイクロチップごと数枚を凍結した。凍結の手順は以下の通り。
培養していた培養液を除去し、DMSOを10%の濃度で上記培養用の培養液に添加した凍結用培養液を各微小空間に充填し、無菌操作で大きさ60mm×85mm、フィルム厚さ0.04mmのポリエチレン製の袋に納め、シールし、直ちにディープフリーザー中で1分間あたり1℃の割合で−80℃まで冷却し凍結した。その後、ディープフリーザー中に−80℃で保存した。
保存の後、ディープフリーザーよりマイクロチップを取り出し、37℃の温水中に沈め完全に解凍した。解凍に要した時間は10秒未満であった。即座に凍結用の培養液を排出し、培養用の培養液を充填して37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。
【0017】
(比較例1)
実施例1で用いたマイクロチップにHeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。顕微鏡観察によりサブコンフルエントな状態に達したところで細胞と共にマイクロチップごと数枚を凍結した。凍結の手順は以下の通り。
培養していた培養液を除去し、DMSOを10%の濃度で上記培養用の培養液に添加した凍結用培養液を各微小空間に充填し、無菌操作で大きさ60mm×85mm、フィルム厚さ0.04mmのポリエチレン製の袋に納め、シールし、直ちにディープフリーザー中で1分間あたり1℃の割合で−80℃まで冷却し凍結した。その後、ディープフリーザー中に−80℃で保存した。
保存の後、ディープフリーザーのマイクロチップを袋から取り出し、37℃、5%CO2インキュベーター中で完全に解凍した。解凍に要した時間は約60秒であった。マイクロチップの外表面に結露した液滴を滅菌済みの脱脂綿で除去した後に凍結用の培養液を排出し、培養用の培養液を充填して37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。
【0018】
(比較例2)
実施例1で用いたマイクロチップにHeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。顕微鏡観察によりサブコンフルエントな状態に達したところで細胞と共にマイクロチップごと数枚を凍結した。凍結の手順は以下の通り。
培養していた培養液を除去し、DMSOを10%の濃度で上記培養用の培養液に添加した凍結用培養液を各微小空間に充填し、無菌操作でマイクロチャンネルの開口部に蓋を取り付けて、直ちにディープフリーザー中で1分間あたり1℃の割合で−80℃まで冷却し凍結した。その後、ディープフリーザー中に−80℃で保存した。
保存の後、ディープフリーザーからマイクロチップを取り出し、37℃の温水中に沈め完全に解凍した。解凍に要した時間は10秒未満であった。マイクロチップの外表面に付着した液滴を滅菌済みの脱脂綿で除去した後に凍結用の培養液を排出し、培養用の培養液を充填して37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。
【0019】
(比較例3)
実施例1で用いたマイクロチップ1枚にHeLa細胞を懸濁した培養液をマイクロチャンネルより注入して、微小空間の培養面に播種した。培養液は5%子牛血清を添加したMEM培地を用いた。培養面一つあたり約2000個の細胞を播種し、炭酸ガスインキュベーター中で培養を行った。
【0020】
(マイクロチップの細胞の生存率及びチップ間のばらつき、及び菌の汚染状況)
実施例1及び比較例1、2を用いた。また比較例3は数回実施した。
培養2時間後、生細胞数確認用試薬(WST−1(同仁))を10%含有する培養液で培地交換を行い、37℃、5%CO2インキュベーター中で2時間培養した。その後生細胞数に応じて生成されるホルマザンをマイクロチップより採取して、吸光光度計により波長450nmの吸光度を測定した。
解凍時の細胞生存率は、数枚のマイクロチップの凍結を行う前に、コントロールとして凍結まで同条件で同時に行われたマイクロチップにWST1を加えた培養液で培地交換して2時間培養を継続し、生成したホルマザンの吸光度を測定して、その平均値で実施例及び比較例1、2の吸光度を除すことにより算出した。ばらつきは、変動係数(CV値)で比較した。比較例3については各回のホルマザンの吸光度についてCV値を算出した。
またさらに培養を継続し、菌の汚染についての状況を確認した。
それぞれの結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【発明の効果】
本発明に従うと、足場依存性動物細胞が凍結されたマイクロチップの解凍操作を毎回同じ条件下で実施することにより、細胞の生存率を再現良く得ることができ、そして分析評価でも再現性の良いデータを得ることが可能で、菌の汚染の危険性を抑えた、マイクロチップに含まれる動物細胞の解凍方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動物細胞の解凍方法の模式図である。
【符号の簡単な説明】
1 マイクロチップ
2 袋
3 水
4 袋内の空気
5 水槽
Claims (5)
- 動物細胞が凍結用培養液とともに凍結保存されているマイクロチップの解凍方法であって、マイクロチップを水不透過性を有する袋中に納め、袋ごとマイクロチップ全体を1〜37℃の範囲の水中に浸漬して、マイクロチップ中の動物細胞を解凍することを特徴とする動物細胞の解凍方法。
- マイクロチップの少なくとも培養面が設置されている部分についての厚さが5mm以下である請求項1記載の動物細胞の解凍方法。
- 凍結前にマイクロチップを水不透過性を有する袋に納め、袋をシールする請求項1または2記載の動物細胞の解凍方法。
- 水不透過性を有する袋の内面の面積が、納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍を有し、かつ1気圧下で0〜37℃の温度範囲において袋内のマイクロチップ以外の気体の体積が、マイクロチップの占める体積の1倍以下の量である状態でシールする請求項3記載の動物細胞の解凍方法。
- 水不透過性を有する袋の内面の面積が、納められているマイクロチップの表面積の1.4〜3倍を有し、水不透過性を有する袋の一部または全体が通気性を有している請求項3記載の動物細胞の解凍方法。
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JP2002267621A JP2004097169A (ja) | 2002-09-13 | 2002-09-13 | 動物細胞の解凍方法 |
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CN111638115A (zh) * | 2014-05-16 | 2020-09-08 | 比奥利弗解决方案公司 | 用于自动样品解冻的***、装置和方法 |
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- 2002-09-13 JP JP2002267621A patent/JP2004097169A/ja active Pending
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