JP2004079060A - 磁気転写用マスター担体 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁気転写用マスター担体において、情報が磁気的に転写された磁気記録媒体において良好な再生信号を得る。
【解決手段】磁気記録媒体2に転写すべき情報に応じた凹凸パターンを表面に有するマスター担体3を、該マスター担体3表面の、磁気記録媒体2と接触する部分の中心面平均粗さSRaが0.3nm以上10.0nm以下となるよう形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】磁気記録媒体2に転写すべき情報に応じた凹凸パターンを表面に有するマスター担体3を、該マスター担体3表面の、磁気記録媒体2と接触する部分の中心面平均粗さSRaが0.3nm以上10.0nm以下となるよう形成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体に情報を転写するための凹凸パターンを表面に備えた磁気転写用マスター担体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体においては一般に、情報量の増加に伴い、多くの情報を記録する大容量で、安価で、かつ、好ましくは短時間で必要な箇所が読み出せる、いわゆる高速アクセスが可能な媒体が望まれており、この一例として、ハードディスク、ZIP(アイオメガ社)等のフレキシブルディスクからなる高密度磁気記録媒体が知られている。これらの高密度磁気記録媒体は情報記録領域が狭トラックで構成されており、狭いトラック幅を正確に磁気ヘッドにより走査させて高いS/Nで信号を再生するためには、いわゆるトラッキングサーボ技術が大きな役割を担っている。
【0003】
トラック位置決めのためのサーボ信号や、そのトラックのアドレス信号、再生クロック信号等のサーボ情報は、磁気記録媒体の製造時にプリフォーマットとして予め磁気記録媒体に記録する必要があり、現在は専用のサーボ記録装置(サーボトラックライター)を用いてプリフォーマットが行われている。従来のサーボ記録装置によるプリフォーマットは、磁気記録媒体1枚ずつ、磁気ヘッドにより記録しているため、相当の時間がかかり生産効率の点で問題がある。
【0004】
一方、プリフォーマットを正確にかつ効率よく行う方法として、マスター担体に形成されたサーボ情報を担持するパターンを磁気記録媒体へ磁気転写により転写する方法が、特開昭63−183623号公報、特開平10−40544号公報、特開平10−269566号公報等において提案されている。
【0005】
磁気転写は、転写すべき情報を担持するマスター担体を磁気ディスク媒体等の磁気記録媒体(スレーブ媒体)と密着させた状態で、転写用磁界を印加することにより、マスター担体の有する情報パターンに対応する磁気パターンをスレーブ媒体に磁気的に転写するもので、マスター担体とスレーブ媒体との相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、正確なプリフォーマット記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間であるという利点を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本出願人は、転写すべき情報に応じた凹凸パターンが表面に形成されてなる基板と、該基板の凸部表面に形成される保磁力の小さい磁性層とを備えてなる磁気転写用マスター担体を形成し、スレーブ媒体の磁性層を予めトラックの一方向へ直流磁化させた後、マスター担体の磁性層と密着させた状態でスレーブ媒体の初期直流磁化方向と略反対方向に転写用磁界を印加することにより、磁気パターンを転写する磁気転写方法を特開平2001−14667号等において提案している。
【0007】
上記磁気転写における転写品質を高めるためには、マスター担体と磁気記録媒体の面間隔を一様なものとする必要があり、全面に亘って一様な距離を保つのが困難であるために両者を密着させるようにするのが一般的である。なお、この密着時にも全面に亘っていかに一様に密着させるかが重要である。つまり一部にでも密着不良な部分があると、その周囲の転写磁界に不均一な強度分布が生じ、磁化遷移領域および磁化均一領域において磁化不均一性を生じる原因となる。その結果として転写信号の品位が低下し、記録した信号がサーボ信号の場合にはトラッキング機能が十分に得られずに信頼性が低下するという問題が生じる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、磁気転写により磁化パターンが記録された磁気記録媒体における信号抜け等の転写不良を低減し信号品位を向上させることが可能な磁気転写用マスター担体を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気転写用マスター担体は、磁気記録媒体に情報を転写するための凹凸パターンを表面に備え、該表面と前記磁気記録媒体を接触させて前記情報の転写を行う磁気転写用マスター担体であって、
前記表面の前記磁気記録媒体と接触する部分の中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmであることを特徴とするものである。
【0010】
中心面平均粗さSRaは、中心面(この平面と表面形状がつくる体積はこの面の上下で等しくなる)に対する三次元の平均粗さのことで、中心面からの偏差の絶対値を平均化して求める。ここで、SRaは以下の式で表される。
【0011】
【数1】
Lx、Lyはそれぞれ表面のx、y方向の寸法、f(x,y)は、中心面に対するラフネス曲面である。
【0012】
なお、中心面平均粗さSRaは、好ましくは0.5nm〜5.0nm、より好ましくは0.5nm〜3.0nmである。
【0013】
「前記表面の前記磁気記録媒体と接触する部分」とは、前記凹凸パターンの凸部上面のみならず、表面の該凹凸パターンが形成されていない箇所であって、前記磁気記録媒体と接触する部分を含むものである。
【0014】
前記本発明の磁気転写用マスター担体が、基板と、該基板上の、前記凹凸パターンの少なくとも凸部となる箇所に設けられた磁性層とを備えてなるものである場合、前記中心面平均粗さは、例えば、上述の磁性層の成膜条件、すなわち、スパッタリング時のAr流量、出力および成膜膜厚等のを制御することにより達成することができる。具体的には、Ar流量を増加させれば、平均粗さを増加させることができ、流量を減少させれば、平均粗さを減少させることができる。また、成膜膜厚を厚くすると粗面化することができ、薄くすると平滑化することができる。
【0015】
また、表面に凹凸パターンを有する基板を備えたマスター担体の該基板作製工程に、リソグラフィー技術を用いたフォトレジストのパターニング、およびレジスト除去(洗浄)の工程を含む場合、最終的に基板の凸部上面となる箇所に残留したレジストが、凸部上面の中心面平均粗さに影響を与えるので、該レジストの洗浄具合を調整することにより中心面平均粗さを制御することができる。例えば、レジストの洗浄を強化することにより、中心面平均粗さを低減することができる。
【0016】
【発明の効果】
本発明の磁気転写用マスター担体は、その表面のスレーブ媒体である磁気記録媒体と接触する部分が、中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmであるので、全体的な密着不良もしくは部分的な密着不良による転写磁化むらや転写磁化の直線性劣化を防止し、優れた転写記録特性を得ることができる。
【0017】
すなわち、スレーブ媒体と接触する部分についての中心面平均粗さSRaが、10.0nmより大きいと、スレーブ媒体との密着性を十分とすることができず、転写磁界の分布が発生することによる転写不良が発生し転写品位が低下し、一方、中心面平均粗さが0.3nm未満であると、密着時に空気だまりが発生し、部分的に転写磁界の分布が発生することによる転写不良が発生し転写品位が低下するが、中心面平均粗さが上述の範囲であれば、良好な転写が可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(a)は本発明の磁気転写用マスター担体3の上面図、図1(b)は同図(a)のI−I線断面図である。
本マスター担体3は、スレーブ媒体である磁気記録媒体に転写すべき情報に応じた凹凸パターンを表面に有するものであり、スレーブ媒体と密着させて、磁界を印加することによりスレーブ媒体に情報を転写するものである。本マスター担体3の表面のスレーブ媒体2と接触する部分3a(以下、接触部3aという)の中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmとされている心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmことを特徴とする。接触部3aの中心面平均粗さSRaが10nmより大きい場合、もしくは0.3nm未満である場合、スレーブ媒体との密着時、全体的もしくは部分的な密着不良が発生し、該密着不良により信号品位の向上が困難となる。
【0019】
磁気転写用マスター担体は、上記接触部3aの中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmとなるように製造されればよく、その材料および製造方法は何ら限定されるものではない。
【0020】
図1(a)に示すように、マスター担体3はディスク状に形成される。同図中点線で囲まれるドーナツ形状の領域がスレーブ媒体に情報を転写するための凹凸パターンが形成される転写領域10であり、この転写領域10の内周側および外周側の領域は非転写領域11、12である。
【0021】
図1(b)に示すように、この非転写領域11、12は、転写領域10の凹凸パターンの凸部と略同じ高さであり、ここでは、凹凸パターンの凸部上面と非転写領域表面とがスレーブ媒体と接触する部分3aであり、この部分3aの中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmとされている。なお、図1(b)においてはマスター担体3上に一点鎖線でスレーブ媒体2が示されている。実際にはマスター担体3とスレーブ媒体2は密着させた状態で磁界が印加されて転写が行われる。被磁気転写媒体であるスレーブ媒体2は、例えばハードディスクやフレキシブルディスク等の円板状磁気記録媒体であり、マスター担体3の転写領域10に対応するトラック領域に上述の凹凸パターンが担持する情報が磁気転写されて磁化パターンが形成される。
【0022】
次に、マスター担体の作製について説明する。マスター担体の基板としては、ニッケル、シリコン、石英板、ガラス、アルミニウム、合金、セラミックス、合成樹脂等を使用する。凹凸パターンの形成は、スタンパ法、フォトリソグラフィー技術等を用いて行われる。
【0023】
まず、凹凸パターンの形成にスタンパ法を用いた場合のマスター担体の作製について説明する。表面が平滑なガラス板(または石英板)の上にスピンコート等でフォトレジストを形成し、このガラス板を回転させながらサーボ信号に対応して変調したレーザー光(または電子ビーム)を照射し、フォトレジスト全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光し、その後、フォトレジストを現像処理し、露光部分を除去しフォトレジストによる凹凸形状を有する原盤を得る。次に、原盤の表面の凹凸パターンをもとに、この表面にメッキ(電鋳)を施し、ポジ状凹凸パターンを有するNi基板を作成し、原盤から剥離する。この基板をそのままマスター担体とするか、または凹凸パターン上に必要に応じて軟磁性層、保護膜を被覆してマスター担体とする。
【0024】
また、前記原盤にメッキを施して第2の原盤を作成し、この第2の原盤を使用してメッキを行い、ネガ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。さらに、第2の原盤にメッキを行うか樹脂液を押し付けて硬化を行って第3の原盤を作成し、第3の原盤にメッキを行い、ポジ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。
【0025】
なお、前記ガラス板にフォトレジストによるパターンを形成した後、エッチングしてガラス板に穴を形成し、フォトレジストを除去した原盤を得て、以下前記と同様に基板を形成するようにしてもよい。
【0026】
金属による基板の材料としては、NiもしくはNi合金を使用することができ、この基板を作成する前記メッキは、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法が適用できる。基板の凹凸パターンの深さは、50nm〜800nmの範囲が好ましく、より好ましくは80nm〜600nmである。この凹部もしくは凸部形状凹凸パターンはサーボ信号の場合は、半径方向に長く形成される。例えば、半径方向の長さは0.05〜20μm、円周方向は0.05〜5μmが好ましく、この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことがサーボ信号の情報を担持するパターンとして好ましい。
【0027】
基板がNiなどによる強磁性体の場合はこの基板のみで磁気転写は可能であるが、転写特性の良い磁性層を設けることでより良好な磁気転写を行うことができる。また、基板が非磁性体の場合は磁性層を設ける必要がある。
【0028】
磁性層としては、保磁力の大きい軟質磁性層もしくは半硬質磁性層が望ましく、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法などにより成膜形成する。磁性層の具体的な磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)等が挙げられる。特に好ましいものはFeCo、FeCoNiである。磁性層の厚みは、50nm〜500nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは150nm〜400nmである。
【0029】
なお、磁性層の上にさらに5〜30nmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の保護膜を設けることが好ましく、さらに潤滑剤を設けてもよい。また、磁性層と保護膜の間に、Si等の密着強化層を設けてもよい。
【0030】
また、前記原盤を用いて樹脂基板を作製し、その表面に磁性層を設けてマスター担体としてもよい。樹脂基板の樹脂材料としては、ポリカーボネート・ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル・塩化ビニル共重合体などの塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィンおよびポリエステルなどが使用可能である。耐湿性、寸法安定性および価格などの点からポリカーボネートが好ましい。成形品にバリがある場合は、バーニシュまたはポリッシュにより除去する。樹脂基板のパターン突起の高さは、50〜1000nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは200〜500nmの範囲である。
【0031】
前記樹脂基板の表面の微細パターンの上に上述と同様に磁性層を被覆しマスター担体を得る。
【0032】
また、スタンパー法を用いることなく、フォトリソグラフィー技術を用い、例えば、平板状の基板の平滑な表面にフォトレジストを塗布し、サーボ信号のパターンに応じたフォトマスクを用いた露光、現像処理により、情報に応じたパターンを形成し、次いで、エッチング工程により、パターンに応じて基板のエッチングを行い、磁性層の厚さに相当する深さの溝(凹部)を形成し、パターニングに用いたレジストを除去したものを基板とし、該基板表面の微細パターンの上に上述と同様に磁性層を被膜しマスター担体を得ることもできる。
【0033】
次に、磁気転写用マスター担体の上記接触部3aの中心面平均粗さを上述の範囲とするための方法を説明する。
【0034】
上述した各基板の作製時、すなわちスタンパ法による原盤形成時、もしくは基板表面への凹凸パターン形成時等において、フォトレレジストのパターニングおよびフォトレジストの除去(洗浄)工程を含む場合、最終的に基板の凸部となる箇所(あるいは凸部に対応した箇所)に残留したレジストが、マスター担体の表面の接触部3aの中心面平均粗さに影響を与える。具体的には、レジストの洗浄を強化すれば、中心面平均粗さを小さくすることができる。したがって、このレジストの洗浄具合を調整することにより、結果として、マスター担体表面のスレーブ媒体と接触する部分3aの中心面平均粗さが上述の範囲となるよう制御することができる。
【0035】
なお、この場合、Ni等の磁性体からなる、凹凸パターンを有する基板自体をマスター担体とする場合には、この基板の磁気記録媒体と接触する部分の中心面平均粗さが上述の範囲となるように制御する。一方、凹凸パターンを有する基板上に磁性層、保護層等が形成される場合には、最上層の表面が所定の中心面平均粗さとなるように制御する。
【0036】
図2は、凹凸パターンを有する基板31と該基板31上に形成された磁性層32とからなるマスター担体3の一部断面図を示すものである。凹凸パターンを有する基板31上への磁性層32形成時の、成膜条件、すなわち、スパッタリング時のAr流量、出力および成膜膜厚等を調整することによっても、磁性層32表面の中心面平均粗さが上述の範囲となるよう制御することができる。
【0037】
なお、磁性層表面に保護膜等の他の層を設ける場合には、最上層の表面の、磁気記録媒体と接触する部分が所定の中心面平均粗さとなるよう調整すればよい。
【0038】
また、さらに、凹凸パターンを有する基板の凸部上面に、研磨によるテクスチャー処理もしくはレーザによるテクスチャー処理を施したり、SiO2等の粒状物質を塗布したりした後、その上に磁性層、保護層等を形成することにより、結果としてマスター担体の接触部が所定の中心面平均粗さを有するように形成することもできる。
【0039】
上述のような本発明の実施形態に係る各マスター担体を用いて前述の磁気転写を行うと、所定の中心面平均粗さを有する接触部により、スレーブ媒体との密着時には両者間のエアーが抜けやすく良好な密着性を得ることができる。したがって、良好な磁気転写を行うことができる。
【0040】
本発明の磁気転写用マスター担体を使用してなされる磁気転写の原理を図3に基づき説明する。図3(a)は磁場を一方向に印加してスレーブ媒体を初期直流磁化する工程、(b)はマスター担体とスレーブ媒体とを密着して反対方向磁界を印加する工程、(c)は磁気転写後の状態をそれぞれ示す図である。なお、図3においてスレーブ媒体2についてはその下面記録面のみを示している。
【0041】
まず、図3(a)に示すように、予めスレーブ媒体2に初期磁界Hinをトラック方向の一方向に印加してスレーブ媒体の磁性層の磁化を該一方向に初期磁化させる。その後、図3(b)に示すように、このスレーブ媒体2の磁気記録面とマスター担体3の凹凸パターンが形成されている情報担持面とを密着させ、スレーブ媒体2のトラック方向に前記初期磁界Hinとは逆方向に転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、図3(c)に示すように、スレーブ媒体2の磁気記録面にはマスター担体3の情報担持面の凹凸形成パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。
【0042】
なお、スレーブ媒体2の上下記録面への磁気転写は同時に行ってもよいし、片面ずつ順次なされてもよい。
【0043】
また、マスター担体1の凹凸パターンが図3のポジパターンと逆の凹凸形状のネガパターンの場合であっても、初期磁界Hinの方向および転写用磁界Hduの方向を上記と逆方向にすることによって同様の情報を磁気的に転写記録することができる。なお、初期磁界および転写用磁界は、スレーブ媒体の保磁力、マスター担体およびスレーブ媒体の比透磁率を勘案して定められた値を採用する必要がある。
【0044】
なお、本発明における中心面平均粗さは、セイコーインスツルメント社製のSPA500を用い、DFMモード(タッピングモード)にて、測定用探針AR−5、測定範囲2.5μm2、スキャンライン512×512、スキャンスピード2Hzでの条件にて測定し、定義したものである。
【0045】
【実施例】
次に、本発明の磁気転写用マスター担体の具体的な実施例を用いて行った、スレーブ媒体との剥離性および磁気転写における転写品位の評価を行った結果を説明する。
【0046】
剥離性の評価は、磁気転写用マスター担体をスレーブ媒体を接触させ、両者を一組の板で挟み、所定圧力をかけて密着させた後、両者を引き剥がす時の引張り力を測定し、この引張り力の大きさを元に行った。具体的には、スレーブ媒体を一組の板の一方に接着剤で接着しておき、マスター担体を他方の板に強力な磁石により接着させておき、マスター担体の凹凸パターン面、スレーブ媒体のスレーブ面を互いに接触させることにより、マスター担体とスレーブ媒体を一組の板で挟む。これに、磁気転写時と同等の圧力をかけることによりマスター担体とスレーブ媒体を密着させる。その後、対向する一組の板の一端を支点とし、他端において一方の板を垂直方向に持ち上げるよう力を加える。このとき、マスター担体とスレーブ媒体とが剥離したときの力をバネ秤により測定した。ここで、SRa=0.05nmのマスター担体をスレーブ媒体と剥離するのに必要な引張り力を1とし、測定された引張り力が0.3以下であれば良好(○)、0.3より大きければ不良(×)とした。
【0047】
信号品位評価としては、電磁変換特性測定装置(協同電子製SS−60)によりスレーブ媒体転写信号の信号ゆがみの評価を行った。ヘッドギャップ0.23μm、トラック幅3.0μmであるインダクティブヘッドを用い、再生信号(TAA)を測定し、0.8mVの再生出力が得られれば良好(O)、0.8mV未満であれば不良(×)とした。
【0048】
なお、実施例および比較例のマスター担体について、スレーブ媒体との接触部の中心面平均粗さは、セイコーインスツルメント社製のSPA500を用い、DFMモード(タッピングモード)にて、測定用探針AR−5、測定範囲2.5μm2、スキャンライン512×512、スキャンスピード2Hzでの条件にて測定した。
【0049】
以下、実施例1、2および比較例1〜3として用いた各マスター担体について説明する。
【0050】
実施例1のマスター担体は、ガラス基板上にフォトレジストを塗布し、パターン露光後、現像処理を行って露光部を除去することによってガラス基板表面にフォトレジストによる凹凸パターンを形成し、Niメッキを施ることにより、表面に凹凸パターンを有するNi基板を得、この凹凸パターン上に磁性層をスパッタにより成膜して作製した。この時のスパッタ条件は、投入電力を1.8W/cm2、Ar圧を133mPa(1.0mTorr)とし、磁性層の膜厚を100nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=0.43nmであった。
【0051】
実施例2のマスター担体は、実施例1と略同様の作製方法において、スパッタ条件を、投入電力3.0W/cm2、Ar圧199.5mPa(1.5mTorr)とし、磁性層の膜厚を300nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=9.70nmであった。
【0052】
比較例1のマスター担体は、ガラス基板上にフォトレジストを塗布し、パターン露光後、現像処理を行って露光部を除去することによってガラス基板表面にフォトレジストによる凹凸パターンを形成した後、該フォトレジストをマスクとしてエッチングしてガラス基板に穴を形成し、フォトレジストを除去して表面に凹凸パターンを有するガラス基板を得、これ磁性層をスパッタにより成膜して作製した。この時のスパッタ条件は、投入電力を3.0W/cm2、Ar圧を199.5mPa(1.5mTorr)とし、磁性層の膜厚を360nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=10.8nmであった。
【0053】
比較例2のマスター担体は、実施例1と略同様の作製方法において、スパッタ条件を、投入電力4.6W/cm2、Ar圧を438.9mPa(3.3mTorr)とし、磁性層の膜厚を370nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=21.3nmであった。
【0054】
比較例3のマスター担体は、実施例1と略同様の作製方法において、スパッタ条件を、投入電力1.0W/cm2、Ar圧を26.6mPa(0.2mTorr)とし、磁性層の膜厚を70nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=0.2nmであった。
【0055】
実施例1、2は本発明に規定する範囲内の中心面平均粗さを有するマスター担体であり、比較例1〜3は本発明に規定する範囲外の中心面平均粗さを有するマスター担体である。
【0056】
各実施例および比較例のマスター担体を用いてスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、それぞれ剥離性および信号品位の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
表1に示す通り、実施例1および2のマスター担体を用いた場合、剥離性、信号品位ともに良好であった。一方、比較例1〜3のマスター担体を用いた場合には、剥離性もしくは信号品位の少なくともいずれかが不良であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマスター担体の平面図および一部断面図
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るマスター担体の一部断面図
【図3】磁気転写方法の基本工程を示す図
【符号の説明】
2 スレーブ媒体
3 マスター担体
3a スレーブ媒体と接触する部分(接触部)
31 基板
32 磁性層
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体に情報を転写するための凹凸パターンを表面に備えた磁気転写用マスター担体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体においては一般に、情報量の増加に伴い、多くの情報を記録する大容量で、安価で、かつ、好ましくは短時間で必要な箇所が読み出せる、いわゆる高速アクセスが可能な媒体が望まれており、この一例として、ハードディスク、ZIP(アイオメガ社)等のフレキシブルディスクからなる高密度磁気記録媒体が知られている。これらの高密度磁気記録媒体は情報記録領域が狭トラックで構成されており、狭いトラック幅を正確に磁気ヘッドにより走査させて高いS/Nで信号を再生するためには、いわゆるトラッキングサーボ技術が大きな役割を担っている。
【0003】
トラック位置決めのためのサーボ信号や、そのトラックのアドレス信号、再生クロック信号等のサーボ情報は、磁気記録媒体の製造時にプリフォーマットとして予め磁気記録媒体に記録する必要があり、現在は専用のサーボ記録装置(サーボトラックライター)を用いてプリフォーマットが行われている。従来のサーボ記録装置によるプリフォーマットは、磁気記録媒体1枚ずつ、磁気ヘッドにより記録しているため、相当の時間がかかり生産効率の点で問題がある。
【0004】
一方、プリフォーマットを正確にかつ効率よく行う方法として、マスター担体に形成されたサーボ情報を担持するパターンを磁気記録媒体へ磁気転写により転写する方法が、特開昭63−183623号公報、特開平10−40544号公報、特開平10−269566号公報等において提案されている。
【0005】
磁気転写は、転写すべき情報を担持するマスター担体を磁気ディスク媒体等の磁気記録媒体(スレーブ媒体)と密着させた状態で、転写用磁界を印加することにより、マスター担体の有する情報パターンに対応する磁気パターンをスレーブ媒体に磁気的に転写するもので、マスター担体とスレーブ媒体との相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、正確なプリフォーマット記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間であるという利点を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本出願人は、転写すべき情報に応じた凹凸パターンが表面に形成されてなる基板と、該基板の凸部表面に形成される保磁力の小さい磁性層とを備えてなる磁気転写用マスター担体を形成し、スレーブ媒体の磁性層を予めトラックの一方向へ直流磁化させた後、マスター担体の磁性層と密着させた状態でスレーブ媒体の初期直流磁化方向と略反対方向に転写用磁界を印加することにより、磁気パターンを転写する磁気転写方法を特開平2001−14667号等において提案している。
【0007】
上記磁気転写における転写品質を高めるためには、マスター担体と磁気記録媒体の面間隔を一様なものとする必要があり、全面に亘って一様な距離を保つのが困難であるために両者を密着させるようにするのが一般的である。なお、この密着時にも全面に亘っていかに一様に密着させるかが重要である。つまり一部にでも密着不良な部分があると、その周囲の転写磁界に不均一な強度分布が生じ、磁化遷移領域および磁化均一領域において磁化不均一性を生じる原因となる。その結果として転写信号の品位が低下し、記録した信号がサーボ信号の場合にはトラッキング機能が十分に得られずに信頼性が低下するという問題が生じる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、磁気転写により磁化パターンが記録された磁気記録媒体における信号抜け等の転写不良を低減し信号品位を向上させることが可能な磁気転写用マスター担体を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気転写用マスター担体は、磁気記録媒体に情報を転写するための凹凸パターンを表面に備え、該表面と前記磁気記録媒体を接触させて前記情報の転写を行う磁気転写用マスター担体であって、
前記表面の前記磁気記録媒体と接触する部分の中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmであることを特徴とするものである。
【0010】
中心面平均粗さSRaは、中心面(この平面と表面形状がつくる体積はこの面の上下で等しくなる)に対する三次元の平均粗さのことで、中心面からの偏差の絶対値を平均化して求める。ここで、SRaは以下の式で表される。
【0011】
【数1】
Lx、Lyはそれぞれ表面のx、y方向の寸法、f(x,y)は、中心面に対するラフネス曲面である。
【0012】
なお、中心面平均粗さSRaは、好ましくは0.5nm〜5.0nm、より好ましくは0.5nm〜3.0nmである。
【0013】
「前記表面の前記磁気記録媒体と接触する部分」とは、前記凹凸パターンの凸部上面のみならず、表面の該凹凸パターンが形成されていない箇所であって、前記磁気記録媒体と接触する部分を含むものである。
【0014】
前記本発明の磁気転写用マスター担体が、基板と、該基板上の、前記凹凸パターンの少なくとも凸部となる箇所に設けられた磁性層とを備えてなるものである場合、前記中心面平均粗さは、例えば、上述の磁性層の成膜条件、すなわち、スパッタリング時のAr流量、出力および成膜膜厚等のを制御することにより達成することができる。具体的には、Ar流量を増加させれば、平均粗さを増加させることができ、流量を減少させれば、平均粗さを減少させることができる。また、成膜膜厚を厚くすると粗面化することができ、薄くすると平滑化することができる。
【0015】
また、表面に凹凸パターンを有する基板を備えたマスター担体の該基板作製工程に、リソグラフィー技術を用いたフォトレジストのパターニング、およびレジスト除去(洗浄)の工程を含む場合、最終的に基板の凸部上面となる箇所に残留したレジストが、凸部上面の中心面平均粗さに影響を与えるので、該レジストの洗浄具合を調整することにより中心面平均粗さを制御することができる。例えば、レジストの洗浄を強化することにより、中心面平均粗さを低減することができる。
【0016】
【発明の効果】
本発明の磁気転写用マスター担体は、その表面のスレーブ媒体である磁気記録媒体と接触する部分が、中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmであるので、全体的な密着不良もしくは部分的な密着不良による転写磁化むらや転写磁化の直線性劣化を防止し、優れた転写記録特性を得ることができる。
【0017】
すなわち、スレーブ媒体と接触する部分についての中心面平均粗さSRaが、10.0nmより大きいと、スレーブ媒体との密着性を十分とすることができず、転写磁界の分布が発生することによる転写不良が発生し転写品位が低下し、一方、中心面平均粗さが0.3nm未満であると、密着時に空気だまりが発生し、部分的に転写磁界の分布が発生することによる転写不良が発生し転写品位が低下するが、中心面平均粗さが上述の範囲であれば、良好な転写が可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(a)は本発明の磁気転写用マスター担体3の上面図、図1(b)は同図(a)のI−I線断面図である。
本マスター担体3は、スレーブ媒体である磁気記録媒体に転写すべき情報に応じた凹凸パターンを表面に有するものであり、スレーブ媒体と密着させて、磁界を印加することによりスレーブ媒体に情報を転写するものである。本マスター担体3の表面のスレーブ媒体2と接触する部分3a(以下、接触部3aという)の中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmとされている心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmことを特徴とする。接触部3aの中心面平均粗さSRaが10nmより大きい場合、もしくは0.3nm未満である場合、スレーブ媒体との密着時、全体的もしくは部分的な密着不良が発生し、該密着不良により信号品位の向上が困難となる。
【0019】
磁気転写用マスター担体は、上記接触部3aの中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmとなるように製造されればよく、その材料および製造方法は何ら限定されるものではない。
【0020】
図1(a)に示すように、マスター担体3はディスク状に形成される。同図中点線で囲まれるドーナツ形状の領域がスレーブ媒体に情報を転写するための凹凸パターンが形成される転写領域10であり、この転写領域10の内周側および外周側の領域は非転写領域11、12である。
【0021】
図1(b)に示すように、この非転写領域11、12は、転写領域10の凹凸パターンの凸部と略同じ高さであり、ここでは、凹凸パターンの凸部上面と非転写領域表面とがスレーブ媒体と接触する部分3aであり、この部分3aの中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmとされている。なお、図1(b)においてはマスター担体3上に一点鎖線でスレーブ媒体2が示されている。実際にはマスター担体3とスレーブ媒体2は密着させた状態で磁界が印加されて転写が行われる。被磁気転写媒体であるスレーブ媒体2は、例えばハードディスクやフレキシブルディスク等の円板状磁気記録媒体であり、マスター担体3の転写領域10に対応するトラック領域に上述の凹凸パターンが担持する情報が磁気転写されて磁化パターンが形成される。
【0022】
次に、マスター担体の作製について説明する。マスター担体の基板としては、ニッケル、シリコン、石英板、ガラス、アルミニウム、合金、セラミックス、合成樹脂等を使用する。凹凸パターンの形成は、スタンパ法、フォトリソグラフィー技術等を用いて行われる。
【0023】
まず、凹凸パターンの形成にスタンパ法を用いた場合のマスター担体の作製について説明する。表面が平滑なガラス板(または石英板)の上にスピンコート等でフォトレジストを形成し、このガラス板を回転させながらサーボ信号に対応して変調したレーザー光(または電子ビーム)を照射し、フォトレジスト全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光し、その後、フォトレジストを現像処理し、露光部分を除去しフォトレジストによる凹凸形状を有する原盤を得る。次に、原盤の表面の凹凸パターンをもとに、この表面にメッキ(電鋳)を施し、ポジ状凹凸パターンを有するNi基板を作成し、原盤から剥離する。この基板をそのままマスター担体とするか、または凹凸パターン上に必要に応じて軟磁性層、保護膜を被覆してマスター担体とする。
【0024】
また、前記原盤にメッキを施して第2の原盤を作成し、この第2の原盤を使用してメッキを行い、ネガ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。さらに、第2の原盤にメッキを行うか樹脂液を押し付けて硬化を行って第3の原盤を作成し、第3の原盤にメッキを行い、ポジ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。
【0025】
なお、前記ガラス板にフォトレジストによるパターンを形成した後、エッチングしてガラス板に穴を形成し、フォトレジストを除去した原盤を得て、以下前記と同様に基板を形成するようにしてもよい。
【0026】
金属による基板の材料としては、NiもしくはNi合金を使用することができ、この基板を作成する前記メッキは、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法が適用できる。基板の凹凸パターンの深さは、50nm〜800nmの範囲が好ましく、より好ましくは80nm〜600nmである。この凹部もしくは凸部形状凹凸パターンはサーボ信号の場合は、半径方向に長く形成される。例えば、半径方向の長さは0.05〜20μm、円周方向は0.05〜5μmが好ましく、この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことがサーボ信号の情報を担持するパターンとして好ましい。
【0027】
基板がNiなどによる強磁性体の場合はこの基板のみで磁気転写は可能であるが、転写特性の良い磁性層を設けることでより良好な磁気転写を行うことができる。また、基板が非磁性体の場合は磁性層を設ける必要がある。
【0028】
磁性層としては、保磁力の大きい軟質磁性層もしくは半硬質磁性層が望ましく、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法などにより成膜形成する。磁性層の具体的な磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)等が挙げられる。特に好ましいものはFeCo、FeCoNiである。磁性層の厚みは、50nm〜500nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは150nm〜400nmである。
【0029】
なお、磁性層の上にさらに5〜30nmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の保護膜を設けることが好ましく、さらに潤滑剤を設けてもよい。また、磁性層と保護膜の間に、Si等の密着強化層を設けてもよい。
【0030】
また、前記原盤を用いて樹脂基板を作製し、その表面に磁性層を設けてマスター担体としてもよい。樹脂基板の樹脂材料としては、ポリカーボネート・ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル・塩化ビニル共重合体などの塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィンおよびポリエステルなどが使用可能である。耐湿性、寸法安定性および価格などの点からポリカーボネートが好ましい。成形品にバリがある場合は、バーニシュまたはポリッシュにより除去する。樹脂基板のパターン突起の高さは、50〜1000nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは200〜500nmの範囲である。
【0031】
前記樹脂基板の表面の微細パターンの上に上述と同様に磁性層を被覆しマスター担体を得る。
【0032】
また、スタンパー法を用いることなく、フォトリソグラフィー技術を用い、例えば、平板状の基板の平滑な表面にフォトレジストを塗布し、サーボ信号のパターンに応じたフォトマスクを用いた露光、現像処理により、情報に応じたパターンを形成し、次いで、エッチング工程により、パターンに応じて基板のエッチングを行い、磁性層の厚さに相当する深さの溝(凹部)を形成し、パターニングに用いたレジストを除去したものを基板とし、該基板表面の微細パターンの上に上述と同様に磁性層を被膜しマスター担体を得ることもできる。
【0033】
次に、磁気転写用マスター担体の上記接触部3aの中心面平均粗さを上述の範囲とするための方法を説明する。
【0034】
上述した各基板の作製時、すなわちスタンパ法による原盤形成時、もしくは基板表面への凹凸パターン形成時等において、フォトレレジストのパターニングおよびフォトレジストの除去(洗浄)工程を含む場合、最終的に基板の凸部となる箇所(あるいは凸部に対応した箇所)に残留したレジストが、マスター担体の表面の接触部3aの中心面平均粗さに影響を与える。具体的には、レジストの洗浄を強化すれば、中心面平均粗さを小さくすることができる。したがって、このレジストの洗浄具合を調整することにより、結果として、マスター担体表面のスレーブ媒体と接触する部分3aの中心面平均粗さが上述の範囲となるよう制御することができる。
【0035】
なお、この場合、Ni等の磁性体からなる、凹凸パターンを有する基板自体をマスター担体とする場合には、この基板の磁気記録媒体と接触する部分の中心面平均粗さが上述の範囲となるように制御する。一方、凹凸パターンを有する基板上に磁性層、保護層等が形成される場合には、最上層の表面が所定の中心面平均粗さとなるように制御する。
【0036】
図2は、凹凸パターンを有する基板31と該基板31上に形成された磁性層32とからなるマスター担体3の一部断面図を示すものである。凹凸パターンを有する基板31上への磁性層32形成時の、成膜条件、すなわち、スパッタリング時のAr流量、出力および成膜膜厚等を調整することによっても、磁性層32表面の中心面平均粗さが上述の範囲となるよう制御することができる。
【0037】
なお、磁性層表面に保護膜等の他の層を設ける場合には、最上層の表面の、磁気記録媒体と接触する部分が所定の中心面平均粗さとなるよう調整すればよい。
【0038】
また、さらに、凹凸パターンを有する基板の凸部上面に、研磨によるテクスチャー処理もしくはレーザによるテクスチャー処理を施したり、SiO2等の粒状物質を塗布したりした後、その上に磁性層、保護層等を形成することにより、結果としてマスター担体の接触部が所定の中心面平均粗さを有するように形成することもできる。
【0039】
上述のような本発明の実施形態に係る各マスター担体を用いて前述の磁気転写を行うと、所定の中心面平均粗さを有する接触部により、スレーブ媒体との密着時には両者間のエアーが抜けやすく良好な密着性を得ることができる。したがって、良好な磁気転写を行うことができる。
【0040】
本発明の磁気転写用マスター担体を使用してなされる磁気転写の原理を図3に基づき説明する。図3(a)は磁場を一方向に印加してスレーブ媒体を初期直流磁化する工程、(b)はマスター担体とスレーブ媒体とを密着して反対方向磁界を印加する工程、(c)は磁気転写後の状態をそれぞれ示す図である。なお、図3においてスレーブ媒体2についてはその下面記録面のみを示している。
【0041】
まず、図3(a)に示すように、予めスレーブ媒体2に初期磁界Hinをトラック方向の一方向に印加してスレーブ媒体の磁性層の磁化を該一方向に初期磁化させる。その後、図3(b)に示すように、このスレーブ媒体2の磁気記録面とマスター担体3の凹凸パターンが形成されている情報担持面とを密着させ、スレーブ媒体2のトラック方向に前記初期磁界Hinとは逆方向に転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、図3(c)に示すように、スレーブ媒体2の磁気記録面にはマスター担体3の情報担持面の凹凸形成パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。
【0042】
なお、スレーブ媒体2の上下記録面への磁気転写は同時に行ってもよいし、片面ずつ順次なされてもよい。
【0043】
また、マスター担体1の凹凸パターンが図3のポジパターンと逆の凹凸形状のネガパターンの場合であっても、初期磁界Hinの方向および転写用磁界Hduの方向を上記と逆方向にすることによって同様の情報を磁気的に転写記録することができる。なお、初期磁界および転写用磁界は、スレーブ媒体の保磁力、マスター担体およびスレーブ媒体の比透磁率を勘案して定められた値を採用する必要がある。
【0044】
なお、本発明における中心面平均粗さは、セイコーインスツルメント社製のSPA500を用い、DFMモード(タッピングモード)にて、測定用探針AR−5、測定範囲2.5μm2、スキャンライン512×512、スキャンスピード2Hzでの条件にて測定し、定義したものである。
【0045】
【実施例】
次に、本発明の磁気転写用マスター担体の具体的な実施例を用いて行った、スレーブ媒体との剥離性および磁気転写における転写品位の評価を行った結果を説明する。
【0046】
剥離性の評価は、磁気転写用マスター担体をスレーブ媒体を接触させ、両者を一組の板で挟み、所定圧力をかけて密着させた後、両者を引き剥がす時の引張り力を測定し、この引張り力の大きさを元に行った。具体的には、スレーブ媒体を一組の板の一方に接着剤で接着しておき、マスター担体を他方の板に強力な磁石により接着させておき、マスター担体の凹凸パターン面、スレーブ媒体のスレーブ面を互いに接触させることにより、マスター担体とスレーブ媒体を一組の板で挟む。これに、磁気転写時と同等の圧力をかけることによりマスター担体とスレーブ媒体を密着させる。その後、対向する一組の板の一端を支点とし、他端において一方の板を垂直方向に持ち上げるよう力を加える。このとき、マスター担体とスレーブ媒体とが剥離したときの力をバネ秤により測定した。ここで、SRa=0.05nmのマスター担体をスレーブ媒体と剥離するのに必要な引張り力を1とし、測定された引張り力が0.3以下であれば良好(○)、0.3より大きければ不良(×)とした。
【0047】
信号品位評価としては、電磁変換特性測定装置(協同電子製SS−60)によりスレーブ媒体転写信号の信号ゆがみの評価を行った。ヘッドギャップ0.23μm、トラック幅3.0μmであるインダクティブヘッドを用い、再生信号(TAA)を測定し、0.8mVの再生出力が得られれば良好(O)、0.8mV未満であれば不良(×)とした。
【0048】
なお、実施例および比較例のマスター担体について、スレーブ媒体との接触部の中心面平均粗さは、セイコーインスツルメント社製のSPA500を用い、DFMモード(タッピングモード)にて、測定用探針AR−5、測定範囲2.5μm2、スキャンライン512×512、スキャンスピード2Hzでの条件にて測定した。
【0049】
以下、実施例1、2および比較例1〜3として用いた各マスター担体について説明する。
【0050】
実施例1のマスター担体は、ガラス基板上にフォトレジストを塗布し、パターン露光後、現像処理を行って露光部を除去することによってガラス基板表面にフォトレジストによる凹凸パターンを形成し、Niメッキを施ることにより、表面に凹凸パターンを有するNi基板を得、この凹凸パターン上に磁性層をスパッタにより成膜して作製した。この時のスパッタ条件は、投入電力を1.8W/cm2、Ar圧を133mPa(1.0mTorr)とし、磁性層の膜厚を100nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=0.43nmであった。
【0051】
実施例2のマスター担体は、実施例1と略同様の作製方法において、スパッタ条件を、投入電力3.0W/cm2、Ar圧199.5mPa(1.5mTorr)とし、磁性層の膜厚を300nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=9.70nmであった。
【0052】
比較例1のマスター担体は、ガラス基板上にフォトレジストを塗布し、パターン露光後、現像処理を行って露光部を除去することによってガラス基板表面にフォトレジストによる凹凸パターンを形成した後、該フォトレジストをマスクとしてエッチングしてガラス基板に穴を形成し、フォトレジストを除去して表面に凹凸パターンを有するガラス基板を得、これ磁性層をスパッタにより成膜して作製した。この時のスパッタ条件は、投入電力を3.0W/cm2、Ar圧を199.5mPa(1.5mTorr)とし、磁性層の膜厚を360nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=10.8nmであった。
【0053】
比較例2のマスター担体は、実施例1と略同様の作製方法において、スパッタ条件を、投入電力4.6W/cm2、Ar圧を438.9mPa(3.3mTorr)とし、磁性層の膜厚を370nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=21.3nmであった。
【0054】
比較例3のマスター担体は、実施例1と略同様の作製方法において、スパッタ条件を、投入電力1.0W/cm2、Ar圧を26.6mPa(0.2mTorr)とし、磁性層の膜厚を70nmとした。本実施例のマスター担体は、SRa=0.2nmであった。
【0055】
実施例1、2は本発明に規定する範囲内の中心面平均粗さを有するマスター担体であり、比較例1〜3は本発明に規定する範囲外の中心面平均粗さを有するマスター担体である。
【0056】
各実施例および比較例のマスター担体を用いてスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、それぞれ剥離性および信号品位の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
表1に示す通り、実施例1および2のマスター担体を用いた場合、剥離性、信号品位ともに良好であった。一方、比較例1〜3のマスター担体を用いた場合には、剥離性もしくは信号品位の少なくともいずれかが不良であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマスター担体の平面図および一部断面図
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るマスター担体の一部断面図
【図3】磁気転写方法の基本工程を示す図
【符号の説明】
2 スレーブ媒体
3 マスター担体
3a スレーブ媒体と接触する部分(接触部)
31 基板
32 磁性層
Claims (1)
- 磁気記録媒体に情報を転写するための凹凸パターンを表面に備え、該表面と前記磁気記録媒体を接触させて前記情報の転写を行う磁気転写用マスター担体であって、
前記表面の前記磁気記録媒体と接触する部分の中心面平均粗さSRaが0.3nm〜10.0nmであることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
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