JP2004017567A - 液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関し、特にインクジェット方式によるプリンタに適用して、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができるようにする。
【解決手段】本発明は、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明は、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関し、特にインクジェット方式によるプリンタに適用することができる。本発明は、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成することにより、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができるようにする。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像処理等の分野において、ハードコピーのカラー化に対するニーズが高まってきている。このニーズに対して、従来、昇華型熱転写方式、溶融熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式及び熱現像銀塩方式等のカラーコピー方式が提案されている。
【0003】
これらの方式のうちインクジェット方式は、液体吐出ヘッドであるプリンタヘッドに設けられたノズルから記録液(インク)の液滴を飛翔させ、記録対象に付着してドットを形成するものであり、簡易な構成により高画質の画像を出力することができる。このインクジェット方式は、ノズルからインク液滴を飛翔させる方法の相違により、静電引力方式、連続振動発生方式(ピエゾ方式)及びサーマル方式に分類される。
【0004】
これらの方式のうちサーマル方式は、インクの局所的な加熱により気泡を発生し、この気泡によりインクをノズルから押し出して印刷対象に飛翔させる方式であり、簡易な構成によりカラー画像を印刷することができるようになされている。
【0005】
すなわちこのサーマル方式によるプリンタは、いわゆるプリンタヘッドを用いて構成され、このプリンタヘッドは、インクを加熱する発熱素子、発熱素子を駆動するロジック集積回路による駆動回路等が半導体基板上に搭載される。これによりこの種のプリンタヘッドにおいては、発熱素子を高密度に配置して確実に駆動できるようになされている。
【0006】
すなわちこのサーマル方式のプリンタにおいて、高画質の印刷結果を得るためには、発熱素子を高密度で配置する必要がある。具体的に、例えば600〔DPI〕相当の印刷結果を得るためには、発熱素子を42.333〔μm〕間隔で配置することが必要になるが、このように高密度で配置した発熱素子に個別の駆動素子を配置することは極めて困難である。これによりプリンタヘッドでは、半導体基板上にスイッチングトランジスタ等を作成して集積回路技術により対応する発熱素子を接続し、さらには同様に半導体基板上に作成した駆動回路により各スイッチングトランジスタを駆動することにより、簡易かつ確実に各発熱素子を駆動できるようになされている。
【0007】
またサーマル方式によるプリンタにおいては、発熱素子による加熱によりインクに気泡が発生し、ノズルからインクが飛び出すと、この気泡が消滅する。これにより発砲、消砲を繰り返す毎にキャビテーションによる機械的な衝撃を受ける。さらにプリンタは、発熱素子の発熱による温度上昇と温度下降とが、短時間〔数μ秒〕で繰り返され、これにより温度による大きなストレスを受ける。
【0008】
このためプリンタヘッドは、タンタル、窒化タンタル、タンタルアルミ等により発熱素子が形成され、この発熱素子上に窒化シリコン、炭化シリコン等による保護層が形成され、この保護層により耐熱性、絶縁性が向上され、また発熱素子とインクとの直接の接触を防止するようになされている。またこの保護層の上層に、キャビテーションによる機械的な衝撃を緩和する耐キャビティーション層が形成される。ここで耐キャビティーション層は、インクによる腐食に対する耐久性に優れ、かつ耐熱性にも優れているタンタル等により形成されるようになされている。
【0009】
すなわち図9は、この種のプリンタヘッドにおける発熱素子近傍の構成を示す断面図である。プリンタヘッド1は、半導体素子が作成されてなる半導体基板2上に絶縁層(SiO2 )等が積層された後、タンタル等により発熱素子3が形成される。さらに窒化シリコン(Si3 N4 )による保護層4が積層された後、アルミニューム等により配線パターン(AI配線)5が形成される。プリンタヘッド1は、この配線パターンにより半導体基板2上に形成されてなる半導体等に発熱素子3が接続され、さらに窒化シリコン(Si3 N4 )による保護層6が積層され、この上層に、タンタルによる耐キャビテーション層7が形成される。プリンタヘッド1は、続いて所定部材を配置することにより、インク液室、インク流路及びノズルが作成される。
【0010】
プリンタヘッド1は、このようにして作成されたインク流路によりインク液室にインクが導かれた後、半導体素子の駆動により発熱素子3が発熱し、インク液室のインクを局所的に加熱する。プリンタヘッド1は、この加熱により、このインク液室に気泡を発生してインク液室の圧力を増大させ、ノズルよりインクを押し出して印刷対象に飛翔させるようになされている。
【0011】
このような構成に係るプリンタヘッド1においては、保護層6と耐キャビテーション層7の厚さを厚くすると、インクを吐出するための熱エネルギーが増大し、これにより消費電力が増大する。このため、プリンタヘッド1においては、少ない消費電力により発熱素子を駆動してインク液滴を安定に飛び出させる厚さに保護層6と耐キャビテーション層7の厚さが設定されるようになされている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところでこのプリンタヘッド1においては、タンタルによる耐キャビテーション層7が1.3×1010〜2.0×1010〔dyns/cm2 〕の高い圧縮応力を有することにより、発熱素子3を駆動する毎に耐キャビテーション層7の下層である保護層6に強い圧縮応力が加わり、ついには保護層6を損傷する問題がある。
【0013】
すなわちプリンタヘッド1においては、図9において矢印Aにより部分的に拡大して示すように、繰り返しの駆動により保護層6に強い圧縮応力が加わってクラックBが発生し、このクラックBよりインクが浸入して発熱素子3をインクより完全に隔離することが困難になる。その結果、配線パターン5、発熱素子3がインクにより腐食し、ついにはインクを介して配線パターン5が短絡し、また発熱素子3が断線して信頼性が低下する。
【0014】
この問題を解決する1つの方法として、耐キャビテーション層の圧縮応力を低減することが考えられ、特開平06−297713号公報においては、耐キャビテーション層が厚さ0.7〜2.0〔μm〕のとき、圧縮応力を1.0×108 〜1.0×1010〔dyns/cm2 〕に設定することにより、この種の問題を解決する方法が提案されている。しかしながら、スパッタリング法により耐キャビテーション層を形成する場合、スパッタリングパワー、圧力、キャリアガスの流量等の条件を可変しても耐キャビテーション層の応力は、ほとんど変化せず、これによりこれらの条件の設定によっては耐キャビテーション層の圧縮応力を小さくすることが困難な欠点がある。
【0015】
因みにこの耐キャビテーション層の成膜温度を400度以上に設定すると、体心立方晶(bcc:body−centered−cubic )によるβ−タンタルに代えて、正方晶(tetragonal)によるα−タンタルにより耐キャビテーション層が形成される。このα−タンタルによる耐キャビテーション層においては、膜応力が4.3×109 〔dyns/cm2 〕の引っ張り応力を有し、これにより耐キャビテーション層の圧縮応力を従来に比して1桁以上低減することができる。
【0016】
しかしながら、成膜温度を400度以上に設定して耐キャビテーション層を形成する場合、配線パターン5の材料であるアルミニュームが融解しやすくなり、また図10において矢印Cにより示すように、配線パターン5と、その下層の配線パターン5と発熱素子3との接触抵抗を低減するチタン膜8とが熱により反応して反応物が生成され、これにより配線パターン5と発熱素子3との接触抵抗が上昇する等の欠点がある。
【0017】
これに対して特開2001−105596号公報においては、耐キャビテーション層をTa−Fe−Ni−Cr合金層により形成する方法が開示され、さらに特開2002−46278号公報では、耐キャビテーション層をTa−Fe−Ni−Cr合金層とタンタル膜若しくはタンタルアルミ膜とにより形成する方法が開示されている。
【0018】
しかしながらこれらの方法においては、圧縮応力を低減することができるものの、耐キャビテーション層の主成分材料が鉄(Fe)であり、この鉄成分がゲート酸化膜中に混入するとゲート酸化膜の耐圧が著しく劣化する等の問題が発生し、実用上、半導体製造工程によりプリンタヘッドを作成する場合には適用できない欠点がある。
【0019】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、保護層の損傷を防止して信頼性の劣化を有効に回避することができる液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法を提案しようとするものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するため請求項1の発明においては、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドに適用して、発熱素子の液室側であって、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する。
【0021】
また請求項3の発明においては、液体吐出ヘッドより飛び出す液滴を印刷対象に付着させる液体吐出装置に適用して、液体吐出ヘッドは、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液滴を飛び出させ、発熱素子の液室側であって、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する。
【0022】
また請求項4の発明においては、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドの製造方法に適用して、発熱素子の液室側であって、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する。
【0023】
請求項1の構成によれば、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドに適用することにより、例えばこの液滴がインク液滴、各種染料の液滴、保護層形成用の液滴等である液体吐出ヘッド、この液滴が試薬等であるマイクロディスペンサー、各種測定装置、各種試験装置、この液滴がエッチングより部材を保護する薬剤であるパターン描画装置等に適用することができる。請求項1の構成によれば、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成することにより、塑性に富むアルミニュームによりタンタルの結晶粒による圧縮応力を緩和し、これによりタンタルのみで保護層を作成する場合に比して、圧縮応力を低減することができる。これにより発熱素子の駆動により保護層に加わる圧縮応力を低減して、保護層の損傷を防止し、信頼性の劣化を有効に回避することができる。
【0024】
これらにより請求項3、請求項4の構成によれば、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができる液体吐出装置、液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳述する。
【0026】
(1)実施の形態の構成
図1は、本発明の実施の形態に係るプリンタに適用されるプリンタヘッドを示す断面図である。プリンタヘッド11は、発熱素子12の上層にシリコン窒化膜による保護層13、14が形成された後、タンタルとアルミニュームとによる合金層による耐キャビテーション層15が形成される。
【0027】
すなわち図2(A)に示すように、プリンタヘッド1は、ウエハによるP型シリコン基板16が洗浄された後、シリコン窒化膜(Si3 N4 )が堆積される。続いてプリンタヘッド11は、リソグラフィー工程、リアクティブエッチング工程によりシリコン基板16が処理され、これによりトランジスタを形成する所定領域以外の領域よりシリコン窒化膜が取り除かれる。これらによりプリンタヘッド11には、シリコン基板16上のトランジスタを形成する領域にシリコン窒化膜が形成される。
【0028】
続いてプリンタヘッド1は、熱酸化工程によりシリコン窒化膜が除去されている領域に熱シリコン酸化膜が形成され、この熱シリコン酸化膜によりトランジスタを分離するための素子分離領域(LOCOS:Local Oxidation Of Silicon)17が膜厚500〔nm〕により形成される。なおこの素子分離領域17は、その後の処理により最終的に膜厚260〔nm〕に形成される。さらに続いてプリンタヘッド11は、シリコン基板16が洗浄された後、トランジスタ形成領域にタングステンシリサイド/ポリシリコン/熱酸化膜構造のゲートが作成される。さらにソース・ドレイン領域を形成するためのイオン注入工程、酸化工程によりシリコン基板16が処理され、MOS(Metal−Oxide−Semiconductor )型によるトランジスタ18、19等が作成される。なおここでスイッチングトランジスタ18は、25〔V〕程度の耐圧を有するMOS型ドライバートランジスタであり、発熱素子の駆動に供するものである。これに対してスイッチングトランジスタ19は、このドライバートランジスタを制御する集積回路を構成するトランジスタであり、5〔V〕の電圧により動作するものである。なおこの実施の形態においては、ゲート/ドレイン間に低濃度の拡散層が形成され、その部分で加速される電子の電解を緩和することで耐圧を確保してドライバートランジスタ18が形成されるようになされている。
【0029】
このようにしてシリコン基板16上に、半導体素子であるトランジスタ18、19が作成されると、プリンタヘッド11は、続いてCVD(Chemical Vapor Deposition )法によりリンが添加されたシリコン酸化膜であるPSG(Phosphorus Silicate Glass )膜、ボロンとリンが添加されたシリコン酸化膜であるBPSG(Boron Phosphorus Silicate Glass )膜20が順次膜厚100〔nm〕、500〔nm〕により作成され、これにより全体として膜厚が600〔nm〕による1層目の層間絶縁膜が作成される。
【0030】
続いてフォトリソグラフィー工程の後、C4 F8 /CO/O2 /Ar系ガスを用いたリアクティブイオンエッチング法によりシリコン半導体拡散層(ソース・ドレイン)上にコンタクトホール21が作成される。
【0031】
さらにプリンタヘッド11は、希フッ酸により洗浄された後、スパッタリング法により、膜厚30〔nm〕によるチタン、膜厚70〔nm〕による窒化チタンバリアメタル、膜厚30〔nm〕によるチタン、シリコンを1〔at%〕添加したアルミニューム、または銅を0.5〔at%〕添加したアルミニュームが膜厚500〔nm〕により順次堆積される。続いてプリンタヘッド11は、反射防止膜である窒化酸化チタンが膜厚25〔nm〕により堆積され、これらにより配線パターン材料が成膜される。さらに続いてプリンタヘッド11は、フォトリソグラフィー工程、ドライエッチング工程により、成膜された配線パターン材料が選択的に除去され、1層目の配線パターン22が作成される。プリンタヘッド11は、このようにして作成された1層目の配線パターン22により、駆動回路を構成するMOS型トランジスタ19を接続してロジック集積回路が形成される。
【0032】
続いてプリンタヘッド11は、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC2 H5 )4 )を原料ガスとしたCVD法により層間絶縁膜であるシリコン酸化膜13が堆積される。続いてプリンタヘッド11は、SOG(Spin On Glass )を含む塗布型シリコン酸化膜の塗布とエッチバックとにより、シリコン酸化膜13が平坦化され、これらの工程が2回繰り返されて1層目の配線パターン22と続く2層目の配線パターンとの層間絶縁膜23が膜厚440〔nm〕のシリコン酸化膜により形成される。
【0033】
続いて図2(B)に示すように、プリンタヘッド11は、スパッタリング法によりタンタル膜が堆積され、これによりシリコン基板16上に抵抗体膜が形成される。さらに続いてフォトリゾグラフィー工程、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により、余剰なタンタル膜が除去され、発熱素子12が作成される。なおこの実施の形態においては、膜厚83〔nm〕によるタンタル膜が堆積され、また折り返し形状により発熱素子12が形成され、これにより発熱素子12の抵抗値が100〔Ω〕となるようになされている。なお発熱素子12においては、正方形形状により形成することも可能であり、この場合は、膜厚50〔nm〕によるタンタル膜を堆積して形成することにより抵抗値は40〔Ω〕となる。
【0034】
続いて図3(C)に示すように、プリンタヘッド11は、CVD法により膜厚300〔nm〕によるシリコン窒化膜が堆積され、発熱素子12の保護層13が形成される。続いて図3(D)に示すように、フォトリゾグラフィー工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、所定箇所のシリコン窒化膜が除去され、これにより発熱素子12を配線パターンに接続する部位が露出される。さらにCHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、層間絶縁膜13に開口を形成してビアホール24が作成される。
【0035】
さらに図4(E)に示すように、プリンタヘッド11は、スパッタリング法により、膜厚200〔nm〕によるチタン、シリコンを1〔at%〕添加したアルミニューム、または銅を0.5〔at%〕添加したアルミニュームが膜厚600〔nm〕により順次堆積される。続いてプリンタヘッド11は、膜厚25〔nm〕による窒化酸化チタンが堆積され、これにより反射防止膜が形成される。これらによりプリンタヘッド11は、配線パターン材料25が成膜される。
【0036】
続いて図4(F)に示すように、フォトリソグラフィー工程、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により、成膜した配線パターン材料25が選択的に除去され、2層目の配線パターン26が作成される。プリンタヘッド11は、この2層目の配線パターン26により、電源用の配線パターン、アース用の配線パターンが作成され、またドライバートランジスタ18を発熱素子12に接続する配線パターンが作成される。なお発熱素子12の上層に取り残されたシリコン窒化膜13にあっては、この配線パターン作成の際のエッチング工程において、発熱素子12の保護層として機能する。
【0037】
続いて図5(G)に示すように、プリンタヘッド11は、CVD法によりインク保護層、絶縁層として機能するシリコン窒化膜14が膜厚400〔nm〕により堆積される。さらに熱処理炉において、4%の水素を添加した窒素ガスの雰囲気中で、又は100%の窒素ガス雰囲気中で、400度、60分間の熱処理が実施される。これによりプリンタヘッド11は、トランジスタ18、19の動作が安定化され、さらに1層目の配線パターン22と2層目の配線パターン26との接続が安定化されてコンタクト抵抗が低減される。
【0038】
続いてプリンタヘッド11は、直流マグネトロンスパッタリング装置のスパッタ成膜チェンバーに搭載された後、アルゴンガス雰囲気中で所定のターゲットにより直流スパッタリング処理され、これにより耐キャビテーション層の材料膜が膜厚200〔nm〕により堆積される。続いてプリンタヘッド11は、フォトレジスト処理、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング処理により、この材料膜が所定形状によりエッチング処理され、これにより図6(H)に示すように、耐キャビテーション層15が形成される。
【0039】
この実施の形態では、この耐キャビテーション層15の作成工程におけるスパッタリング処理において、タンタルとアルミニュームとによる合金がこのターゲットに適用され、これによりタンタルとアルミニュームとによる合金層による耐キャビテーション層15の材料膜が形成されるようになされている。
【0040】
具体的にこの実施の形態においては、タンタルとアルミニュームとを6:4の比率で調整焼結して作製したタンタルアルミ合金ターゲットを適用し、これによりアルミニュームを15〔at%〕含むタンタルの結晶粒を有する耐キャビテーション層15を作成した。ここでこのようにして作成したプリンタヘッド11をX線回折法により解析したところ、図7に示すように、体心立方晶によるタンタルの結晶粒(β−Ta(002))の回折ピークを観察することができた。さらにこの耐キャビテーション層15を詳細に測定したところ、膜応力が3.5×109 〔dyns/cm2 〕の圧縮応力であり、抵抗率が180〔μm−cm〕であった。なおここでSi(004)は、シリコン基板16の材料であるシリコンの回折ピークである。
【0041】
またスパッタリングの条件を可変して耐キャビテーション層15におけるタンタルとアルミニュームの組成比を種々に設定してプリンタヘッドを作成し、これらのプリンタヘッドにおける耐キャビテーション層15の結晶構造をX線回折法により解析したところ、アルミニュームの組成比が30〔at%〕以下の範囲では、β−タンタルの回折ピークが観察され、またタンタルの粒界も観察された。これによりこの組成においては、図8に示すように、タンタルの結晶粒界をアルミニューム、タンタルが埋めている状態と判断することができる。またアルミニュームの組成比が30〜80〔at%〕の範囲では、β−タンタルの回折ピークが検出されず、アルミニュームの組成比が増大するにつれて、アモルファス状態からタンタルとアルミニュームとの微結晶粒による状態に変化することが確認された。さらにアルミニュームの組成比が80〔at%〕以上の範囲では、アルミニュームの回折ピークが観察され、さらにアルミニュームの結晶粒も観察された。
【0042】
なおこのようなタンタルとアルミニュームとの合金をターゲットに設定した耐キャビテーション層15の作成に代えて、タンタルによるターゲットとアルミニュームによるターゲットとを使用したコスパッタリング法により、これら合金による耐キャビテーション層15を作成することも可能であり、この場合には、アルミニュームのスパッタリング量を可変することで、耐キャビテーション層中のアルミニューム含有量を可変することができる。
【0043】
これによりこの実施の形態では、耐キャビテーション層15において、β−タンタルによる結晶粒が形成され、結晶粒界にアルミニュームを有するようにターゲットの組成比を選定し、またコスパッタリング法においては、スパッタリングの条件を設定した。これによりプリンタヘッド11では、従来に比して耐キャビテーション層15における圧縮応力を1桁低減して保護層13、14に加わる圧縮応力を低減するようになされている。
【0044】
このようにして耐キャビテーション層15が形成されると、プリンタヘッド11は、図1に示すように、続いてドライフィルム31、オリフィスプレート32が順次積層される。ここで例えばドライフィルム31は、有機系樹脂により構成され、圧着により配置された後、インク液室、インク流路に対応する部位が取り除かれ、その後硬化される。これに対してオリフィスプレート32は、発熱素子12の上に微小なインク吐出口であるノズル34を形成するように所定形状に加工された板状部材であり、接着によりドライフィルム31上に保持される。これによりプリンタヘッド11は、ノズル34、インク液室35、このインク液室にインクを導くインク流路等が形成されて作成される。
【0045】
プリンタヘッド11は、このようなインク液室35が紙面の奥行き方向に連続するように形成され、これによりラインヘッドを構成するようになされている。
【0046】
(2)実施の形態の動作
以上の構成において、プリンタヘッド11は、半導体基板であるP型シリコン基板16に素子分離領域17が作成されて半導体素子であるトランジスタ18、19が作成され、絶縁層20により絶縁されて1層目の配線パターン22が作成される。また続いて絶縁層23、発熱素子12が作成された後、保護層13、2層目の配線パターン26が作成される。さらに保護層14が作成された後、熱処理により配線パターン間、配線パターンと発熱素子等の間の接続が安定化された後、耐キャビティーション層15、インク液室35、ノズル34が順次形成されて作成される(図1〜図6)。
【0047】
このプリンタは、このようにして作成されたプリンタヘッド11のインク液室35にインクが導かれ、トランジスタ18、19による発熱素子12の駆動により、インク液室35に保持したインクが加熱されて気泡が発生し、この気泡によりインク液室35内の圧力が急激に増大する。プリンタでは、この圧力の増大によりインク液室35のインクがノズル34からインク液滴として飛び出し、このインク液滴が印刷対象である用紙等に付着する。
【0048】
プリンタでは、このような発熱素子の駆動が間欠的に繰り返され、これにより所望の画像等が印刷対象に印刷される。またプリンタヘッド11においては、この発熱素子の間欠的な駆動により、インク液室35内において、気泡の発生、気泡の消泡が繰り返され、これにより機械的な衝撃であるキャビテーションが発生する。プリンタヘッド11では、このキャビテーションによる機械的な衝撃が耐キャビテーション層15により緩和され、これにより保護層である耐キャビテーション層15により発熱素子12が保護される。またこの耐キャビテーション層15と保護層13、14とにより発熱素子12へのインクの直接の接触が防止され、これによっても発熱素子12が保護される。
【0049】
しかして発熱素子12においては、このように間欠的な駆動により発熱して、この発熱による熱が保護層13、14、耐キャビテーション層15を介してインク液室35のインクに伝搬し、インクの温度上昇によりインク液室35内に気泡が発生する。この実施の形態に係るプリンタヘッド11においては、このような発熱素子12の熱の熱伝導経路である耐キャビテーション層15がタンタルの結晶粒界にアルミニュームが存在するように作成されており、アルミニュームにおいては、塑性に富むことにより、発熱素子12の熱により発生するタンタルの結晶粒による圧縮応力を粒界中のアルミニュームにより緩和することができ、これにより下層の保護層13、14に加わる圧縮応力を低減することができる。これによりプリンタヘッド11は、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層15を作成して、保護層13、14の損傷を防止し、信頼性の劣化を有効に回避することができるようになされている。
【0050】
またこのようなタンタルとアルミニュームとの合金においては、鉄等の半導体製造工程に有害な物質を含んでいないことにより、半導体製造工程によりプリンタヘッドを作成する場合でも、種々の障害の発生を有効に回避することができる。
【0051】
またタンタルとアルミニュームとの合金においては、タンタル、アルミニュームが半導体製造プロセスで十分に使用実績のある材料であり、その分、製造プロセスにおいて、十分な信頼性を確保することができる。また塩素系(BCl3 /Cl2 )ガスを用いてRIE加工することができ、これにより簡易に保護層である耐キャビテーション層15を作成することができる。
【0052】
ところでこのプリンタヘッド11は、耐キャビテーション層15がアルカリ性溶液に可溶なアルミニュームを含むことにより、インクに含まれるアルカリ金属により浸食される心配がある。
【0053】
しかしながら、このプリンタヘッド11を適用したプリンタを用いて印加電力0.8〔W〕により実験したところ、アルカリ金属であるナトリウムを3000〔ppm〕含むインクを安定に3億発吐出し、またナトリウムに比して原子半径が小さいアルカリ金属であるリチウムを2000〔ppm〕含むインクを安定に1.4億発吐出することができた。さらに従来のプリンタヘッドを用いて同一の実験を行い、実験後の耐キャビテーション層表面を比較したところ、表面の凹凸が従来に比して軽減されていることがわかった。因みにアルミニュームの組成比を30〔at%〕以上に設定して作成したプリンタヘッドにより同一の実験を行ったところ、インクに含まれるアルカリ金属によりアルミニュームが溶解され、これにより耐キャビテーション層が浸食されていることが確認された。
【0054】
(3)実施の形態の効果
以上の構成によれば、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成することにより、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができる。
【0055】
(4)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、アルミニュームを15〔at%〕含むタンタルの結晶粒界を有する耐キャビテーション層を作成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、アルミニュームの組成比が30〔at%〕以下の範囲で、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するように耐キャビテーション層を作成して、上述の実施の形態と同一の効果を得ることができる。
【0056】
また上述の実施の形態においては、タンタルにより発熱素子を作成する場合等について述べたが、本発明はこれに限らず、各種積層材料については、必要に応じて種々の材料を適用することができる。なおタンタルとアルミニュームとの合金により発熱素子を作成する場合、アルミニュームの組成比を40〜60〔at%〕の範囲で種々に設定して、所望の抵抗値を確保することができる。
【0057】
また上述の実施の形態においては、インク液滴を飛び出させるプリンタヘッドに本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、インクの定着液、インクの希釈液、印刷物の表面保護膜形成用の液体等、各種の液体を液滴として飛び出させるプリンタヘッドに広く適用することができる。
【0058】
また上述の実施の形態においては、本発明をプリンタヘッド及びプリンタに適用してインク液滴を飛び出される場合について述べたが、本発明はこれに限らず、インク液滴に代えて各種染料の液滴、保護層形成用の液滴等であるプリンタヘッド、さらには液滴が試薬等であるマイクロディスペンサー、各種測定装置、各種試験装置、液滴がエッチングより部材を保護する薬剤である各種のパターン描画装置等に広く適用することができる。
【0059】
【発明の効果】
上述のように本発明によれば、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成することにより、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリンタに適用されるプリンタヘッドを示す断面図である。
【図2】図1のプリンタヘッドの作成工程の説明に供する断面図である。
【図3】図2の続きを示す断面図である。
【図4】図3の続きを示す断面図である。
【図5】図4の続きを示す断面図である。
【図6】図5の続きを示す断面図である。
【図7】図1のプリンタヘッドのX線回折法により解析した結果を示す特性曲線図である。
【図8】耐キャビテーション層の結晶粒界の説明に供する図表である。
【図9】従来のプリンタヘッドを示す断面図である。
【図10】従来手法によるクラックの発生防止方法の説明に供する断面図である。
【符号の説明】
1、11……プリンタヘッド、2、16……シリコン基板、3、12……発熱素子、4、6、13、14……保護層、7、15……耐キャビティーション層、18、19……トランジスタ、22、26……配線パターン
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関し、特にインクジェット方式によるプリンタに適用することができる。本発明は、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成することにより、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができるようにする。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像処理等の分野において、ハードコピーのカラー化に対するニーズが高まってきている。このニーズに対して、従来、昇華型熱転写方式、溶融熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式及び熱現像銀塩方式等のカラーコピー方式が提案されている。
【0003】
これらの方式のうちインクジェット方式は、液体吐出ヘッドであるプリンタヘッドに設けられたノズルから記録液(インク)の液滴を飛翔させ、記録対象に付着してドットを形成するものであり、簡易な構成により高画質の画像を出力することができる。このインクジェット方式は、ノズルからインク液滴を飛翔させる方法の相違により、静電引力方式、連続振動発生方式(ピエゾ方式)及びサーマル方式に分類される。
【0004】
これらの方式のうちサーマル方式は、インクの局所的な加熱により気泡を発生し、この気泡によりインクをノズルから押し出して印刷対象に飛翔させる方式であり、簡易な構成によりカラー画像を印刷することができるようになされている。
【0005】
すなわちこのサーマル方式によるプリンタは、いわゆるプリンタヘッドを用いて構成され、このプリンタヘッドは、インクを加熱する発熱素子、発熱素子を駆動するロジック集積回路による駆動回路等が半導体基板上に搭載される。これによりこの種のプリンタヘッドにおいては、発熱素子を高密度に配置して確実に駆動できるようになされている。
【0006】
すなわちこのサーマル方式のプリンタにおいて、高画質の印刷結果を得るためには、発熱素子を高密度で配置する必要がある。具体的に、例えば600〔DPI〕相当の印刷結果を得るためには、発熱素子を42.333〔μm〕間隔で配置することが必要になるが、このように高密度で配置した発熱素子に個別の駆動素子を配置することは極めて困難である。これによりプリンタヘッドでは、半導体基板上にスイッチングトランジスタ等を作成して集積回路技術により対応する発熱素子を接続し、さらには同様に半導体基板上に作成した駆動回路により各スイッチングトランジスタを駆動することにより、簡易かつ確実に各発熱素子を駆動できるようになされている。
【0007】
またサーマル方式によるプリンタにおいては、発熱素子による加熱によりインクに気泡が発生し、ノズルからインクが飛び出すと、この気泡が消滅する。これにより発砲、消砲を繰り返す毎にキャビテーションによる機械的な衝撃を受ける。さらにプリンタは、発熱素子の発熱による温度上昇と温度下降とが、短時間〔数μ秒〕で繰り返され、これにより温度による大きなストレスを受ける。
【0008】
このためプリンタヘッドは、タンタル、窒化タンタル、タンタルアルミ等により発熱素子が形成され、この発熱素子上に窒化シリコン、炭化シリコン等による保護層が形成され、この保護層により耐熱性、絶縁性が向上され、また発熱素子とインクとの直接の接触を防止するようになされている。またこの保護層の上層に、キャビテーションによる機械的な衝撃を緩和する耐キャビティーション層が形成される。ここで耐キャビティーション層は、インクによる腐食に対する耐久性に優れ、かつ耐熱性にも優れているタンタル等により形成されるようになされている。
【0009】
すなわち図9は、この種のプリンタヘッドにおける発熱素子近傍の構成を示す断面図である。プリンタヘッド1は、半導体素子が作成されてなる半導体基板2上に絶縁層(SiO2 )等が積層された後、タンタル等により発熱素子3が形成される。さらに窒化シリコン(Si3 N4 )による保護層4が積層された後、アルミニューム等により配線パターン(AI配線)5が形成される。プリンタヘッド1は、この配線パターンにより半導体基板2上に形成されてなる半導体等に発熱素子3が接続され、さらに窒化シリコン(Si3 N4 )による保護層6が積層され、この上層に、タンタルによる耐キャビテーション層7が形成される。プリンタヘッド1は、続いて所定部材を配置することにより、インク液室、インク流路及びノズルが作成される。
【0010】
プリンタヘッド1は、このようにして作成されたインク流路によりインク液室にインクが導かれた後、半導体素子の駆動により発熱素子3が発熱し、インク液室のインクを局所的に加熱する。プリンタヘッド1は、この加熱により、このインク液室に気泡を発生してインク液室の圧力を増大させ、ノズルよりインクを押し出して印刷対象に飛翔させるようになされている。
【0011】
このような構成に係るプリンタヘッド1においては、保護層6と耐キャビテーション層7の厚さを厚くすると、インクを吐出するための熱エネルギーが増大し、これにより消費電力が増大する。このため、プリンタヘッド1においては、少ない消費電力により発熱素子を駆動してインク液滴を安定に飛び出させる厚さに保護層6と耐キャビテーション層7の厚さが設定されるようになされている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところでこのプリンタヘッド1においては、タンタルによる耐キャビテーション層7が1.3×1010〜2.0×1010〔dyns/cm2 〕の高い圧縮応力を有することにより、発熱素子3を駆動する毎に耐キャビテーション層7の下層である保護層6に強い圧縮応力が加わり、ついには保護層6を損傷する問題がある。
【0013】
すなわちプリンタヘッド1においては、図9において矢印Aにより部分的に拡大して示すように、繰り返しの駆動により保護層6に強い圧縮応力が加わってクラックBが発生し、このクラックBよりインクが浸入して発熱素子3をインクより完全に隔離することが困難になる。その結果、配線パターン5、発熱素子3がインクにより腐食し、ついにはインクを介して配線パターン5が短絡し、また発熱素子3が断線して信頼性が低下する。
【0014】
この問題を解決する1つの方法として、耐キャビテーション層の圧縮応力を低減することが考えられ、特開平06−297713号公報においては、耐キャビテーション層が厚さ0.7〜2.0〔μm〕のとき、圧縮応力を1.0×108 〜1.0×1010〔dyns/cm2 〕に設定することにより、この種の問題を解決する方法が提案されている。しかしながら、スパッタリング法により耐キャビテーション層を形成する場合、スパッタリングパワー、圧力、キャリアガスの流量等の条件を可変しても耐キャビテーション層の応力は、ほとんど変化せず、これによりこれらの条件の設定によっては耐キャビテーション層の圧縮応力を小さくすることが困難な欠点がある。
【0015】
因みにこの耐キャビテーション層の成膜温度を400度以上に設定すると、体心立方晶(bcc:body−centered−cubic )によるβ−タンタルに代えて、正方晶(tetragonal)によるα−タンタルにより耐キャビテーション層が形成される。このα−タンタルによる耐キャビテーション層においては、膜応力が4.3×109 〔dyns/cm2 〕の引っ張り応力を有し、これにより耐キャビテーション層の圧縮応力を従来に比して1桁以上低減することができる。
【0016】
しかしながら、成膜温度を400度以上に設定して耐キャビテーション層を形成する場合、配線パターン5の材料であるアルミニュームが融解しやすくなり、また図10において矢印Cにより示すように、配線パターン5と、その下層の配線パターン5と発熱素子3との接触抵抗を低減するチタン膜8とが熱により反応して反応物が生成され、これにより配線パターン5と発熱素子3との接触抵抗が上昇する等の欠点がある。
【0017】
これに対して特開2001−105596号公報においては、耐キャビテーション層をTa−Fe−Ni−Cr合金層により形成する方法が開示され、さらに特開2002−46278号公報では、耐キャビテーション層をTa−Fe−Ni−Cr合金層とタンタル膜若しくはタンタルアルミ膜とにより形成する方法が開示されている。
【0018】
しかしながらこれらの方法においては、圧縮応力を低減することができるものの、耐キャビテーション層の主成分材料が鉄(Fe)であり、この鉄成分がゲート酸化膜中に混入するとゲート酸化膜の耐圧が著しく劣化する等の問題が発生し、実用上、半導体製造工程によりプリンタヘッドを作成する場合には適用できない欠点がある。
【0019】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、保護層の損傷を防止して信頼性の劣化を有効に回避することができる液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法を提案しようとするものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するため請求項1の発明においては、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドに適用して、発熱素子の液室側であって、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する。
【0021】
また請求項3の発明においては、液体吐出ヘッドより飛び出す液滴を印刷対象に付着させる液体吐出装置に適用して、液体吐出ヘッドは、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液滴を飛び出させ、発熱素子の液室側であって、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する。
【0022】
また請求項4の発明においては、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドの製造方法に適用して、発熱素子の液室側であって、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する。
【0023】
請求項1の構成によれば、発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドに適用することにより、例えばこの液滴がインク液滴、各種染料の液滴、保護層形成用の液滴等である液体吐出ヘッド、この液滴が試薬等であるマイクロディスペンサー、各種測定装置、各種試験装置、この液滴がエッチングより部材を保護する薬剤であるパターン描画装置等に適用することができる。請求項1の構成によれば、液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成することにより、塑性に富むアルミニュームによりタンタルの結晶粒による圧縮応力を緩和し、これによりタンタルのみで保護層を作成する場合に比して、圧縮応力を低減することができる。これにより発熱素子の駆動により保護層に加わる圧縮応力を低減して、保護層の損傷を防止し、信頼性の劣化を有効に回避することができる。
【0024】
これらにより請求項3、請求項4の構成によれば、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができる液体吐出装置、液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳述する。
【0026】
(1)実施の形態の構成
図1は、本発明の実施の形態に係るプリンタに適用されるプリンタヘッドを示す断面図である。プリンタヘッド11は、発熱素子12の上層にシリコン窒化膜による保護層13、14が形成された後、タンタルとアルミニュームとによる合金層による耐キャビテーション層15が形成される。
【0027】
すなわち図2(A)に示すように、プリンタヘッド1は、ウエハによるP型シリコン基板16が洗浄された後、シリコン窒化膜(Si3 N4 )が堆積される。続いてプリンタヘッド11は、リソグラフィー工程、リアクティブエッチング工程によりシリコン基板16が処理され、これによりトランジスタを形成する所定領域以外の領域よりシリコン窒化膜が取り除かれる。これらによりプリンタヘッド11には、シリコン基板16上のトランジスタを形成する領域にシリコン窒化膜が形成される。
【0028】
続いてプリンタヘッド1は、熱酸化工程によりシリコン窒化膜が除去されている領域に熱シリコン酸化膜が形成され、この熱シリコン酸化膜によりトランジスタを分離するための素子分離領域(LOCOS:Local Oxidation Of Silicon)17が膜厚500〔nm〕により形成される。なおこの素子分離領域17は、その後の処理により最終的に膜厚260〔nm〕に形成される。さらに続いてプリンタヘッド11は、シリコン基板16が洗浄された後、トランジスタ形成領域にタングステンシリサイド/ポリシリコン/熱酸化膜構造のゲートが作成される。さらにソース・ドレイン領域を形成するためのイオン注入工程、酸化工程によりシリコン基板16が処理され、MOS(Metal−Oxide−Semiconductor )型によるトランジスタ18、19等が作成される。なおここでスイッチングトランジスタ18は、25〔V〕程度の耐圧を有するMOS型ドライバートランジスタであり、発熱素子の駆動に供するものである。これに対してスイッチングトランジスタ19は、このドライバートランジスタを制御する集積回路を構成するトランジスタであり、5〔V〕の電圧により動作するものである。なおこの実施の形態においては、ゲート/ドレイン間に低濃度の拡散層が形成され、その部分で加速される電子の電解を緩和することで耐圧を確保してドライバートランジスタ18が形成されるようになされている。
【0029】
このようにしてシリコン基板16上に、半導体素子であるトランジスタ18、19が作成されると、プリンタヘッド11は、続いてCVD(Chemical Vapor Deposition )法によりリンが添加されたシリコン酸化膜であるPSG(Phosphorus Silicate Glass )膜、ボロンとリンが添加されたシリコン酸化膜であるBPSG(Boron Phosphorus Silicate Glass )膜20が順次膜厚100〔nm〕、500〔nm〕により作成され、これにより全体として膜厚が600〔nm〕による1層目の層間絶縁膜が作成される。
【0030】
続いてフォトリソグラフィー工程の後、C4 F8 /CO/O2 /Ar系ガスを用いたリアクティブイオンエッチング法によりシリコン半導体拡散層(ソース・ドレイン)上にコンタクトホール21が作成される。
【0031】
さらにプリンタヘッド11は、希フッ酸により洗浄された後、スパッタリング法により、膜厚30〔nm〕によるチタン、膜厚70〔nm〕による窒化チタンバリアメタル、膜厚30〔nm〕によるチタン、シリコンを1〔at%〕添加したアルミニューム、または銅を0.5〔at%〕添加したアルミニュームが膜厚500〔nm〕により順次堆積される。続いてプリンタヘッド11は、反射防止膜である窒化酸化チタンが膜厚25〔nm〕により堆積され、これらにより配線パターン材料が成膜される。さらに続いてプリンタヘッド11は、フォトリソグラフィー工程、ドライエッチング工程により、成膜された配線パターン材料が選択的に除去され、1層目の配線パターン22が作成される。プリンタヘッド11は、このようにして作成された1層目の配線パターン22により、駆動回路を構成するMOS型トランジスタ19を接続してロジック集積回路が形成される。
【0032】
続いてプリンタヘッド11は、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC2 H5 )4 )を原料ガスとしたCVD法により層間絶縁膜であるシリコン酸化膜13が堆積される。続いてプリンタヘッド11は、SOG(Spin On Glass )を含む塗布型シリコン酸化膜の塗布とエッチバックとにより、シリコン酸化膜13が平坦化され、これらの工程が2回繰り返されて1層目の配線パターン22と続く2層目の配線パターンとの層間絶縁膜23が膜厚440〔nm〕のシリコン酸化膜により形成される。
【0033】
続いて図2(B)に示すように、プリンタヘッド11は、スパッタリング法によりタンタル膜が堆積され、これによりシリコン基板16上に抵抗体膜が形成される。さらに続いてフォトリゾグラフィー工程、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により、余剰なタンタル膜が除去され、発熱素子12が作成される。なおこの実施の形態においては、膜厚83〔nm〕によるタンタル膜が堆積され、また折り返し形状により発熱素子12が形成され、これにより発熱素子12の抵抗値が100〔Ω〕となるようになされている。なお発熱素子12においては、正方形形状により形成することも可能であり、この場合は、膜厚50〔nm〕によるタンタル膜を堆積して形成することにより抵抗値は40〔Ω〕となる。
【0034】
続いて図3(C)に示すように、プリンタヘッド11は、CVD法により膜厚300〔nm〕によるシリコン窒化膜が堆積され、発熱素子12の保護層13が形成される。続いて図3(D)に示すように、フォトリゾグラフィー工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、所定箇所のシリコン窒化膜が除去され、これにより発熱素子12を配線パターンに接続する部位が露出される。さらにCHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、層間絶縁膜13に開口を形成してビアホール24が作成される。
【0035】
さらに図4(E)に示すように、プリンタヘッド11は、スパッタリング法により、膜厚200〔nm〕によるチタン、シリコンを1〔at%〕添加したアルミニューム、または銅を0.5〔at%〕添加したアルミニュームが膜厚600〔nm〕により順次堆積される。続いてプリンタヘッド11は、膜厚25〔nm〕による窒化酸化チタンが堆積され、これにより反射防止膜が形成される。これらによりプリンタヘッド11は、配線パターン材料25が成膜される。
【0036】
続いて図4(F)に示すように、フォトリソグラフィー工程、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により、成膜した配線パターン材料25が選択的に除去され、2層目の配線パターン26が作成される。プリンタヘッド11は、この2層目の配線パターン26により、電源用の配線パターン、アース用の配線パターンが作成され、またドライバートランジスタ18を発熱素子12に接続する配線パターンが作成される。なお発熱素子12の上層に取り残されたシリコン窒化膜13にあっては、この配線パターン作成の際のエッチング工程において、発熱素子12の保護層として機能する。
【0037】
続いて図5(G)に示すように、プリンタヘッド11は、CVD法によりインク保護層、絶縁層として機能するシリコン窒化膜14が膜厚400〔nm〕により堆積される。さらに熱処理炉において、4%の水素を添加した窒素ガスの雰囲気中で、又は100%の窒素ガス雰囲気中で、400度、60分間の熱処理が実施される。これによりプリンタヘッド11は、トランジスタ18、19の動作が安定化され、さらに1層目の配線パターン22と2層目の配線パターン26との接続が安定化されてコンタクト抵抗が低減される。
【0038】
続いてプリンタヘッド11は、直流マグネトロンスパッタリング装置のスパッタ成膜チェンバーに搭載された後、アルゴンガス雰囲気中で所定のターゲットにより直流スパッタリング処理され、これにより耐キャビテーション層の材料膜が膜厚200〔nm〕により堆積される。続いてプリンタヘッド11は、フォトレジスト処理、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング処理により、この材料膜が所定形状によりエッチング処理され、これにより図6(H)に示すように、耐キャビテーション層15が形成される。
【0039】
この実施の形態では、この耐キャビテーション層15の作成工程におけるスパッタリング処理において、タンタルとアルミニュームとによる合金がこのターゲットに適用され、これによりタンタルとアルミニュームとによる合金層による耐キャビテーション層15の材料膜が形成されるようになされている。
【0040】
具体的にこの実施の形態においては、タンタルとアルミニュームとを6:4の比率で調整焼結して作製したタンタルアルミ合金ターゲットを適用し、これによりアルミニュームを15〔at%〕含むタンタルの結晶粒を有する耐キャビテーション層15を作成した。ここでこのようにして作成したプリンタヘッド11をX線回折法により解析したところ、図7に示すように、体心立方晶によるタンタルの結晶粒(β−Ta(002))の回折ピークを観察することができた。さらにこの耐キャビテーション層15を詳細に測定したところ、膜応力が3.5×109 〔dyns/cm2 〕の圧縮応力であり、抵抗率が180〔μm−cm〕であった。なおここでSi(004)は、シリコン基板16の材料であるシリコンの回折ピークである。
【0041】
またスパッタリングの条件を可変して耐キャビテーション層15におけるタンタルとアルミニュームの組成比を種々に設定してプリンタヘッドを作成し、これらのプリンタヘッドにおける耐キャビテーション層15の結晶構造をX線回折法により解析したところ、アルミニュームの組成比が30〔at%〕以下の範囲では、β−タンタルの回折ピークが観察され、またタンタルの粒界も観察された。これによりこの組成においては、図8に示すように、タンタルの結晶粒界をアルミニューム、タンタルが埋めている状態と判断することができる。またアルミニュームの組成比が30〜80〔at%〕の範囲では、β−タンタルの回折ピークが検出されず、アルミニュームの組成比が増大するにつれて、アモルファス状態からタンタルとアルミニュームとの微結晶粒による状態に変化することが確認された。さらにアルミニュームの組成比が80〔at%〕以上の範囲では、アルミニュームの回折ピークが観察され、さらにアルミニュームの結晶粒も観察された。
【0042】
なおこのようなタンタルとアルミニュームとの合金をターゲットに設定した耐キャビテーション層15の作成に代えて、タンタルによるターゲットとアルミニュームによるターゲットとを使用したコスパッタリング法により、これら合金による耐キャビテーション層15を作成することも可能であり、この場合には、アルミニュームのスパッタリング量を可変することで、耐キャビテーション層中のアルミニューム含有量を可変することができる。
【0043】
これによりこの実施の形態では、耐キャビテーション層15において、β−タンタルによる結晶粒が形成され、結晶粒界にアルミニュームを有するようにターゲットの組成比を選定し、またコスパッタリング法においては、スパッタリングの条件を設定した。これによりプリンタヘッド11では、従来に比して耐キャビテーション層15における圧縮応力を1桁低減して保護層13、14に加わる圧縮応力を低減するようになされている。
【0044】
このようにして耐キャビテーション層15が形成されると、プリンタヘッド11は、図1に示すように、続いてドライフィルム31、オリフィスプレート32が順次積層される。ここで例えばドライフィルム31は、有機系樹脂により構成され、圧着により配置された後、インク液室、インク流路に対応する部位が取り除かれ、その後硬化される。これに対してオリフィスプレート32は、発熱素子12の上に微小なインク吐出口であるノズル34を形成するように所定形状に加工された板状部材であり、接着によりドライフィルム31上に保持される。これによりプリンタヘッド11は、ノズル34、インク液室35、このインク液室にインクを導くインク流路等が形成されて作成される。
【0045】
プリンタヘッド11は、このようなインク液室35が紙面の奥行き方向に連続するように形成され、これによりラインヘッドを構成するようになされている。
【0046】
(2)実施の形態の動作
以上の構成において、プリンタヘッド11は、半導体基板であるP型シリコン基板16に素子分離領域17が作成されて半導体素子であるトランジスタ18、19が作成され、絶縁層20により絶縁されて1層目の配線パターン22が作成される。また続いて絶縁層23、発熱素子12が作成された後、保護層13、2層目の配線パターン26が作成される。さらに保護層14が作成された後、熱処理により配線パターン間、配線パターンと発熱素子等の間の接続が安定化された後、耐キャビティーション層15、インク液室35、ノズル34が順次形成されて作成される(図1〜図6)。
【0047】
このプリンタは、このようにして作成されたプリンタヘッド11のインク液室35にインクが導かれ、トランジスタ18、19による発熱素子12の駆動により、インク液室35に保持したインクが加熱されて気泡が発生し、この気泡によりインク液室35内の圧力が急激に増大する。プリンタでは、この圧力の増大によりインク液室35のインクがノズル34からインク液滴として飛び出し、このインク液滴が印刷対象である用紙等に付着する。
【0048】
プリンタでは、このような発熱素子の駆動が間欠的に繰り返され、これにより所望の画像等が印刷対象に印刷される。またプリンタヘッド11においては、この発熱素子の間欠的な駆動により、インク液室35内において、気泡の発生、気泡の消泡が繰り返され、これにより機械的な衝撃であるキャビテーションが発生する。プリンタヘッド11では、このキャビテーションによる機械的な衝撃が耐キャビテーション層15により緩和され、これにより保護層である耐キャビテーション層15により発熱素子12が保護される。またこの耐キャビテーション層15と保護層13、14とにより発熱素子12へのインクの直接の接触が防止され、これによっても発熱素子12が保護される。
【0049】
しかして発熱素子12においては、このように間欠的な駆動により発熱して、この発熱による熱が保護層13、14、耐キャビテーション層15を介してインク液室35のインクに伝搬し、インクの温度上昇によりインク液室35内に気泡が発生する。この実施の形態に係るプリンタヘッド11においては、このような発熱素子12の熱の熱伝導経路である耐キャビテーション層15がタンタルの結晶粒界にアルミニュームが存在するように作成されており、アルミニュームにおいては、塑性に富むことにより、発熱素子12の熱により発生するタンタルの結晶粒による圧縮応力を粒界中のアルミニュームにより緩和することができ、これにより下層の保護層13、14に加わる圧縮応力を低減することができる。これによりプリンタヘッド11は、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層15を作成して、保護層13、14の損傷を防止し、信頼性の劣化を有効に回避することができるようになされている。
【0050】
またこのようなタンタルとアルミニュームとの合金においては、鉄等の半導体製造工程に有害な物質を含んでいないことにより、半導体製造工程によりプリンタヘッドを作成する場合でも、種々の障害の発生を有効に回避することができる。
【0051】
またタンタルとアルミニュームとの合金においては、タンタル、アルミニュームが半導体製造プロセスで十分に使用実績のある材料であり、その分、製造プロセスにおいて、十分な信頼性を確保することができる。また塩素系(BCl3 /Cl2 )ガスを用いてRIE加工することができ、これにより簡易に保護層である耐キャビテーション層15を作成することができる。
【0052】
ところでこのプリンタヘッド11は、耐キャビテーション層15がアルカリ性溶液に可溶なアルミニュームを含むことにより、インクに含まれるアルカリ金属により浸食される心配がある。
【0053】
しかしながら、このプリンタヘッド11を適用したプリンタを用いて印加電力0.8〔W〕により実験したところ、アルカリ金属であるナトリウムを3000〔ppm〕含むインクを安定に3億発吐出し、またナトリウムに比して原子半径が小さいアルカリ金属であるリチウムを2000〔ppm〕含むインクを安定に1.4億発吐出することができた。さらに従来のプリンタヘッドを用いて同一の実験を行い、実験後の耐キャビテーション層表面を比較したところ、表面の凹凸が従来に比して軽減されていることがわかった。因みにアルミニュームの組成比を30〔at%〕以上に設定して作成したプリンタヘッドにより同一の実験を行ったところ、インクに含まれるアルカリ金属によりアルミニュームが溶解され、これにより耐キャビテーション層が浸食されていることが確認された。
【0054】
(3)実施の形態の効果
以上の構成によれば、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成することにより、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができる。
【0055】
(4)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、アルミニュームを15〔at%〕含むタンタルの結晶粒界を有する耐キャビテーション層を作成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、アルミニュームの組成比が30〔at%〕以下の範囲で、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するように耐キャビテーション層を作成して、上述の実施の形態と同一の効果を得ることができる。
【0056】
また上述の実施の形態においては、タンタルにより発熱素子を作成する場合等について述べたが、本発明はこれに限らず、各種積層材料については、必要に応じて種々の材料を適用することができる。なおタンタルとアルミニュームとの合金により発熱素子を作成する場合、アルミニュームの組成比を40〜60〔at%〕の範囲で種々に設定して、所望の抵抗値を確保することができる。
【0057】
また上述の実施の形態においては、インク液滴を飛び出させるプリンタヘッドに本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、インクの定着液、インクの希釈液、印刷物の表面保護膜形成用の液体等、各種の液体を液滴として飛び出させるプリンタヘッドに広く適用することができる。
【0058】
また上述の実施の形態においては、本発明をプリンタヘッド及びプリンタに適用してインク液滴を飛び出される場合について述べたが、本発明はこれに限らず、インク液滴に代えて各種染料の液滴、保護層形成用の液滴等であるプリンタヘッド、さらには液滴が試薬等であるマイクロディスペンサー、各種測定装置、各種試験装置、液滴がエッチングより部材を保護する薬剤である各種のパターン描画装置等に広く適用することができる。
【0059】
【発明の効果】
上述のように本発明によれば、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により耐キャビテーション層を形成することにより、保護層の損傷を防止して、信頼性の劣化を有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリンタに適用されるプリンタヘッドを示す断面図である。
【図2】図1のプリンタヘッドの作成工程の説明に供する断面図である。
【図3】図2の続きを示す断面図である。
【図4】図3の続きを示す断面図である。
【図5】図4の続きを示す断面図である。
【図6】図5の続きを示す断面図である。
【図7】図1のプリンタヘッドのX線回折法により解析した結果を示す特性曲線図である。
【図8】耐キャビテーション層の結晶粒界の説明に供する図表である。
【図9】従来のプリンタヘッドを示す断面図である。
【図10】従来手法によるクラックの発生防止方法の説明に供する断面図である。
【符号の説明】
1、11……プリンタヘッド、2、16……シリコン基板、3、12……発熱素子、4、6、13、14……保護層、7、15……耐キャビティーション層、18、19……トランジスタ、22、26……配線パターン
Claims (4)
- 発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより前記液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドにおいて、
前記発熱素子の前記液室側であって、前記液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成した
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。 - 前記発熱素子は、
前記発熱素子を駆動する半導体と一体に所定の基板上に形成した
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。 - 液体吐出ヘッドより飛び出す液滴を印刷対象に付着させる液体吐出装置において、
前記液体吐出ヘッドは、
発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより前記液滴を飛び出させ、
前記発熱素子の前記液室側であって、前記液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成した
ことを特徴とする液体吐出装置。 - 発熱素子の駆動により、液室に保持した液体を加熱して所定のノズルより前記液体の液滴を飛び出させる液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記発熱素子の前記液室側であって、前記液体に接する層を、タンタルの結晶粒界にアルミニュームを有するタンタルとアルミニュームとの合金により形成する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
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Publication Number | Publication Date |
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-
2002
- 2002-06-19 JP JP2002178343A patent/JP2004017567A/ja active Pending
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