JP2002097556A - 低摩擦燒結体用粉末合金および低摩擦燒結体 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 ＭｏおよびＳを含有する低摩擦焼結体用粉末
合金において、ＣｒやＣを含有する粉末材料と共に燒結
した場合でも、Ｃｒ硫化物やＭｏ炭化物の生成を防止し
て、潤滑性を備えたＭｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッ
チ相を確保することができ、焼結体の摩擦係数を低下さ
せることができる低摩擦焼結体用粉末合金を提供する。 【解決手段】 Ｆｅを主成分とし、質量比で１〜４％の
Ｓと１８〜３０％のＭｏに加えて、ＡｌおよびＳｉのう
ちのいずれか一方またはその両方を合計０．１〜１０％
の範囲で含有する合金溶湯を噴霧法などによって急冷
し、同組成の低摩擦焼結体用粉末合金とする。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、燒結金属部品を製
造するための原料粉末に係わり、とくに自動車を始めと
する各種の機械構造用燒結部品に適用して、その摩擦係
数を低減することができる低摩擦燒結体用粉末合金およ
びこのような粉末合金を用いた低摩擦燒結体に関するも
のである。

【０００２】

【従来の技術】各種の機械構造部品、とりわけ自動車部
品においては、メカニックロス（機械損失）を低減して
エネルギーの有効利用を図る観点から、当該部品の摩擦
係数を低減することが望まれる。

【０００３】本件特許出願人は、先に、Ｆｅを主成分と
して、Ｓ成分を１〜４重量％、Ｍｏ成分を１８〜３０重
量％含有する焼結体用粉末を用いて焼結することによっ
て、Ｆｅを主成分とする金属マトリックス中に、Ｍｏｘ
Ｓｙのような潤滑作用を有するＳリッチ相を分散形成さ
せた焼結体組織を得ることができ、これを軸受や摺動部
品に適用することによって、均一で良好な潤滑性能が得
られることを見出し、このような成分を備えたＦｅ系焼
結体およびＦｅ系焼結体製造用粉末を提案している（特
願平１１−２４６１４２号）。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の
ようなＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系粉末をステンレス鋼等のような
Ｃｒを含有する金属粉末、あるいはＦｅ−Ｃ系などのよ
うなＣを含有する金属粉末と混合して焼結すると、Ｃｒ
を含有する粉末と混合した場合には、Ｆｅ−Ｍｏ−Ｓ粉
末中においてＭｏ−Ｓ系あるいはＭｏ−Ｆｅ−Ｓ系硫化
物を形成していたＳが分離し、Ｃｒと反応してＣｒ硫化
物が生成され、Ｃを含有する粉末と混合した場合には、
上記硫化物を形成していたＭｏが同様にＣと反応してＭ
ｏ炭化物が生成されることから、潤滑性の向上に寄与す
るＭｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相が減少する結
果、得られた焼結部材の摩擦係数を十分に低減すること
ができなくなることがあるという現象が見出され、この
ようなＭｏおよびＳを含有する低摩擦焼結体用粉末合金
においては、燒結に際して、このようなＣｒ硫化物やＭ
ｏ炭化物の生成を防止し、もって本来の潤滑性能を確保
することが新たな課題となっていた。

【０００５】

【発明の目的】本発明は、従来の低摩擦焼結体用粉末合
金における上記課題に着目してなされたものであって、
ＣｒやＣを含有する粉末材料と共に燒結した場合におい
ても、Ｃｒ硫化物やＭｏ炭化物の生成を防止して、潤滑
性を備えたＭｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相を確
保することができ、得られた焼結体の摩擦係数を低下さ
せることができる低摩擦焼結体用粉末合金と、このよう
な焼結体用粉末合金の製造方法、さらにはこのような粉
末合金を用いた低摩擦焼結体を提供することを目的とし
ている。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明の請求項１に係わ
る低摩擦焼結体用粉末合金は、質量比で、Ｓ：１〜４％
と、Ｍｏ：１８〜３０％と、ＡｌおよびＳｉの一方もし
くは両方を合計０．１〜１０％の範囲で含有し、残部Ｆ
ｅおよび不可避的不純物からなる構成としたことを特徴
としており、低摩擦焼結体用粉末合金におけるこのよう
な構成を前述した従来の課題を解決するための手段とし
ている。

【０００７】本発明の請求項２に係わる低摩擦焼結体用
粉末合金の製造方法は、質量比で、Ｓ：１〜４％と、Ｍ
ｏ：１８〜３０％と、ＡｌおよびＳｉの一方もしくは両
方を合計０．１〜１０％の範囲で含有し、残部Ｆｅおよ
び不可避的不純物からなる合金を溶解したのち、当該溶
融合金を急冷する工程を含む構成とし、当該製造方法の
実施形態として請求項３に係わる低摩擦燒結体用粉末合
金の製造方法においては、前記急冷工程が噴霧工程を含
む構成としており、低摩擦燒結体用粉末合金の製造方法
におけるこのような構成を従来技術における上記課題を
解決するための手段としたことを特徴としている。

【０００８】さらに、本発明の請求項４に係わる低摩擦
焼結体は、請求項１記載の粉末合金と他の粉末とを混合
し、成形・焼結してなる構成とし、請求項５に係わる低
摩擦焼結体においては、他の粉末が、Ｃを含有する金属
粉末またはＣｒを含有する金属粉末のいずれかである構
成としたことを特徴としている。

【０００９】

【発明の作用】本発明に係わる低摩擦燒結体用粉末合金
においては、質量比で、１〜４％のＳと、１８〜３０％
のＭｏに加えて、ＡｌおよびＳｉのうちのいずれか一方
またはその両方を合計０．１〜１０％の範囲で含有して
おり、粉末製造時に、粉末粒子表面がＡｌあるいはＳｉ
の酸化被膜、またはこれら酸化被膜の両方によって覆わ
れることから、当該低摩擦燒結体用粉末合金の反応性が
著しく低減し、原料粉末として共に混合された他の金属
粉末中にＣｒやＣが含まれていたとしても、これら成分
が当該粉末合金中のＳやＭｏと反応してＣｒ硫化物やＭ
ｏ炭化物を形成するようなことがなくなり、粉末合金中
のＭｏ−Ｓ系あるいはＭｏ−Ｆｅ−Ｓ系硫化物の分解が
阻止されるので、焼結に際して、潤滑性の向上に寄与す
るＭｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相が失われるよ
うなことがなくなり、摩擦係数の低い焼結体が得られる
ことになる。なお、例えば噴霧によって粉末化されたま
まの粉末合金表面の酸化被膜が少ない場合には、粉末を
ある程度酸化処理することが望ましい。

【００１０】このとき、ＡｌあるいはＳｉ、複合添加に
おいてはそのトータル量が質量比で０．１％に満たない
場合には、これらの酸化被膜が当該低摩擦燒結体用粉末
合金の粒子表面に形成され難くなり、粉末合金の反応性
を低減させることができなくなって、潤滑性Ｓリッチ相
を保持して上記のような摩擦係数低減効果が得られなく
なる。一方、Ａｌおよび／またはＳｉの含有量のトータ
ルが１０％を超えたとしても当該粉末合金の反応性をそ
れ以上低減させることはできず、ＡｌやＳｉ含有量が増
加することによって、当該合金粉末の焼結用原料粉末と
しての適用可能範囲が限定されてしまう結果となる。

【００１１】また、合金粉末中のＳ成分が質量比で１％
に満たない場合には、固体潤滑性を有するＭｏ系あるい
はＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相が十分に形成されず、焼結体
の摩擦係数を十分に低減することができなくなり、逆
に、Ｓ成分が４％を超えた場合には、ＦｅＳなどのよう
な固体潤滑性の向上に寄与しない硫化物の生成によっ
て、焼結体の固体潤滑性が損なわれるばかりでなく、合
金の溶解時にＳを均一に分散させることが困難となる。

【００１２】さらに、合金粉末中のＭｏ成分量が質量比
で１８％に満たない場合には、Ｓ成分が十分に存在した
としても、Ｍｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相の形
成が不十分なものとなり、同様に焼結体の摩擦係数を十
分に低減することができなくなる。一方、質量比で３０
％を超えるＭｏを添加したとしても、上記Ｓリッチ相の
形成量が飽和し、焼結体の固体潤滑性をそれ以上向上さ
せることはできず、高価なＭｏが増加する分だけ、当該
合金粉末およびそれを用いた焼結体の原料コストが上昇
することになる。

【００１３】このような低摩擦燒結体用粉末合金は、例
えば上記成分の合金を溶解した後、当該溶融合金を急冷
する工程を経て製造することができる。

【００１４】すなわち、本発明に係わる低摩擦燒結体用
粉末合金の製造方法においては、上記成分の合金溶湯を
急冷するようにしているので、ＦｅＳの形成を抑制しつ
つ、Ｍｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相が粉末粒子
中に分散析出し、これらＳリッチ相の固体潤滑機能によ
って、当該低摩擦燒結体用粉末合金を用いて製造された
焼結体の摩擦係数が低減することになる。

【００１５】本発明に係わる低摩擦燒結体用粉末合金の
製造方法の実施形態として請求項３に係わる製造方法に
おいては、上記急冷工程として、合金溶湯を液体や気体
冷却媒と共に噴霧する噴霧工程を採用するようにしてい
るので、本発明に係わる低摩擦燒結体用粉末合金の製造
コストが安価のものとなる。なお、粉末合金の粒度とし
ては、余りに細かいと拡散反応する恐れがあることか
ら、１０〜２５０μｍ程度とすることが望ましい。

【００１６】上記の噴霧法の他には、目的成分の合金か
らなる電極を陽極として高速回転させ、陰極との間に発
生させたアークによって部分溶解させながら飛散させる
ことにより微細な溶滴を急冷凝固させる回転電極法や、
ロール急冷法やスプラット急冷法などによって、合金溶
湯をリボン状あるいはフレーク状に凝固させたのち、こ
れを粉砕して粉末化する方法を採用することもできる
が、コスト的には、上記した噴霧法、とりわけ冷却媒と
して水を用いた水アトマイズ法の採用が最もが有利であ
る。

【００１７】このような低摩擦燒結体用粉末合金は、請
求項４に記載しているように、他の粉末と混合し、成形
・焼結することにより、潤滑性を備えたＭｏ系あるいは
Ｍｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相が焼結体中に分散することか
ら、摩擦係数の低い低摩擦焼結体となる。このとき、請
求項５に記載しているように、他の粉末がＣやＣｒを含
有する金属粉末の場合にも上記Ｓリッチ相が減少するこ
とがなく、摩擦係数の低い低摩擦焼結体が得られること
になる。

【００１８】

【実施例】以下に、本発明を実施例に基づいてより具体
的に説明する。

【００１９】実施例１ まず、３０ｋｇ誘導炉を用いて、表１に示す成分の合金
を溶解し、水噴霧装置によって噴霧することにより、各
成分の合金粉末を得た。

【００２０】次いで、これら粉末を乾燥した後、６０メ
ッシュ（２５０μｍ）以下に分級すると共に、還元性雰
囲気下で焼鈍することによって、７種類の燒結体製造用
の粉末合金を得た。

【００２１】

【表１】

【００２２】次に、上記工程により得られた７種類の燒
結体用粉末合金のうち、Ａ，Ｂ，Ｃ，およびＧ（比較
例）の粉末合金を用い、質量比で２％のＣｕ粉と１％の
黒鉛粉を純鉄粉に混合したベース粉末に対して、上記各
粉末合金Ａ，Ｂ，Ｃ，Ｇを表２に示すような比率（体積
比）でそれぞれ配合すると共に、潤滑材として１％のス
テアリン酸亜鉛を添加して混合した。

【００２３】

【表２】

【００２４】次いで、金型を用いて、各混合粉末を５ｔ
ｏｎ／ｃｍ²の圧力で成形して圧粉体となし、これをア
ンモニア分解ガス中において、１１５０℃で６０分間保
持することによって、１１ｍｍ径×２５ｍｍ長さの焼結
体をそれぞれ作成した。

【００２５】そして、これら焼結体の摩擦係数を測定す
ると共に、各焼結体から切り出され、＃１００に研削し
た９ｍｍ径×２０ｍｍ長さのピン型試験片を用いて、ピ
ンオンディスク摩耗試験を実施し、各焼結体の摩耗量を
それぞれ測定した。これらの結果を表２中に併せて示
す。

【００２６】なお、ピンオンディスク摩耗試験は、相手
材ディスクとしてマルテンサイト系ステンレス鋼ＳＵＳ
４４０Ｃ（溶製材，ＨＲＣ６０，＃１００研削肌）を使
用すると共に、摺動速度：０．５ｍ／ｓｅｃ、加重：５
ｋｇｆ、摺動距離：１０００ｍ、潤滑なしの条件のもと
に、常温で実施した。

【００２７】表２に示した結果から明らかなように、Ｆ
ｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金粉を混合することなく、純鉄とＣｕ
とＣからなるベース粉末のみからなる比較例１、および
ＡｌやＳｉを含有しないＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金粉Ｇと上
記ベース粉末を混合した比較例２に係わる焼結体におい
ては、摩擦係数が高く、摩耗量が多いのに対し、上記べ
ース粉末に、Ａｌを含有するＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金粉
Ａ，Ｓｉを含有するＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金粉Ｂ，および
ＡｌおよびＳｉの両方を含有するＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金
粉Ｃをそれぞれ配合した実施例１ないし３の焼結体にお
いては、いずれも摩擦係数が低く、摩耗量についても著
しく低減することが確認された。

【００２８】実施例２ 表１に示した７種類の燒結体用粉末合金のうち、Ｄ，
Ｅ，Ｆ，およびＧ（比較例）の粉末合金を用い、フェラ
イト系ステンレス鋼ＳＵＳ４３０Ｌ（１７％Ｃｒ）の粉
末をベースとし、これに上記各粉末合金Ｄ，Ｅ，Ｆ，Ｇ
を表３に示すような比率（体積比）でそれぞれ配合する
と共に、潤滑材として１％のステアリン酸亜鉛を添加し
て混合した。

【００２９】

【表３】

【００３０】次に、金型を用いて、各混合粉末を５ｔｏ
ｎ／ｃｍ²の圧力で成形して圧粉体となし、この圧粉体
を真空中において、１２００℃で６０分間保持すること
によって、上記実施例１と同様に、１１ｍｍ径×２５ｍ
ｍ長さの焼結体をそれぞれ作成した。

【００３１】そして、これら焼結体の摩擦係数を測定す
ると共に、各焼結体から切り出され、＃１００に研削し
た９ｍｍ径×２０ｍｍ長さのピン型試験片を用いて、上
記実施例１と同様の条件のもとに、ピンオンディスク摩
耗試験を実施し、各焼結体の摩耗量をそれぞれ測定し
た。これらの結果を表３中に併せて示す。

【００３２】表３の結果から明らかなように、Ｆｅ−Ｍ
ｏ−Ｓ系合金粉を混合することなく、ステンレス鋼粉末
のみからなる比較例３、および当該ステンレス鋼粉末に
ＡｌやＳｉを含有しないＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金粉Ｇを配
合した比較例４に係わる焼結体においては、摩擦係数が
高く、摺動距離１０００ｍのピンオンディスク摩耗試験
が終了する前に焼き付きが発生したのに対し、上記ステ
ンレス鋼粉末に、５％のＡｌを含有するＦｅ−Ｍｏ−Ｓ
系合金粉Ｄ，８％のＳｉを含有するＦｅ−Ｍｏ−Ｓ系合
金粉Ｅ，および極計７％のＡｌおよびＳｉを含有するＦ
ｅ−Ｍｏ−Ｓ系合金粉Ｆをそれぞれ配合した実施例４な
いし６に係わる焼結体においては、いずれも摩擦係数が
低く、焼き付きが発生することもなく、摩耗量を低減で
きることが確認された。

【００３３】

【発明の効果】以上説明したように、本発明の請求項１
に係わる低摩擦燒結体用粉末合金は、質量比で１〜４％
のＳと１８〜３０％のＭｏを含むと共に、ＡｌおよびＳ
ｉを単独あるいは複合で０．１〜１０％の範囲で含有し
たものであるから、粉末製造時に、粉末粒子表面にＡｌ
やＳｉの酸化被膜が形成されて、粒子表面がこれらの酸
化被膜によって覆われ、当該燒結体用粉末合金の反応性
が著しく低減することから、ＣｒやＣを含む材料粉末と
共に焼結する場合においても、当該粉末合金中のＳやＭ
ｏがこれらＣｒやＣと反応するようなことがなくなり、
潤滑性の向上に寄与するＭｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓ
リッチ相の分解を阻止して、焼結体の摩擦係数を大幅に
低減することができるという極めて優れた効果をもたら
すものである。

【００３４】本発明の請求項２に係わる低摩擦燒結体用
粉末合金の製造方法においては、質量比で１〜４％のＳ
と、１８〜３０％のＭｏと、ＡｌおよびＳｉのうちのい
ずれか一方またはその両方を合計０．１〜１０％の範囲
で含有する合金を溶解したのち、当該溶融合金を急冷す
るようにしているので、ＦｅＳの生成が抑制されると共
に、Ｍｏ系あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相を粉末粒子
中に分散析出させることができ、これらＳリッチ相の固
体潤滑機能によって焼結体の摩擦係数を低減させること
ができ、当該製造方法の実施形態として請求項３に係わ
る低摩擦燒結体用粉末合金の製造方法においては、合金
溶湯の急冷工程として、噴霧工程を採用するようにして
いるので、本発明に係わる低摩擦燒結体用粉末合金を安
価に製造することができるという優れた効果がもたらさ
れる。

【００３５】本発明の請求項４に係わる低摩擦燒結体
は、請求項１記載の粉末合金と他の粉末とを混合し、成
形・焼結してなるものであるから、潤滑性に富むＭｏ系
あるいはＭｏ−Ｆｅ系Ｓリッチ相が焼結体中に分散し、
当該焼結体の摩擦係数を大幅に低減させることができ、
請求項５に係わる低摩擦燒結体においては、ＡｌやＳｉ
を含有する本発明の粉末合金を用いたものであるから、
他の粉末がＣやＣｒを含有する金属粉末であっても、上
記粉末合金中のＳリッチ相の減少を防止することがで
き、同様に焼結体の摩擦係数を大幅に低減させることが
できるという優れた効果がもたらされる。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.⁷ 識別記号 ＦＩ テーマコート゛(参考） Ｂ２２Ｆ 9/08 Ｂ２２Ｆ 9/08 Ａ Ｃ２２Ｃ 33/02 Ｃ２２Ｃ 33/02 Ｂ 38/12 38/12

Claims (5)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 質量比で、Ｓ：１〜４％と、Ｍｏ：１８
   〜３０％と、ＡｌおよびＳｉの一方もしくは両方を合計
   ０．１〜１０％の範囲で含有し、残部Ｆｅおよび不可避
   的不純物からなることを特徴とする低摩擦燒結体用粉末
   合金。
2. 【請求項２】 質量比で、Ｓ：１〜４％と、Ｍｏ：１８
   〜３０％と、ＡｌおよびＳｉの一方もしくは両方を合計
   ０．１〜１０％の範囲で含有し、残部Ｆｅおよび不可避
   的不純物からなる合金を溶解したのち、当該溶融合金を
   急冷する工程を含むことを特徴とする低摩擦燒結体用粉
   末合金の製造方法。
3. 【請求項３】 前記急冷工程が噴霧工程を含むことを特
   徴とする請求項２記載の低摩擦燒結体用粉末合金の製造
   方法。
4. 【請求項４】 請求項１記載の粉末合金と他の粉末とを
   混合し、成形・焼結してなることを特徴とする低摩擦燒
   結体。
5. 【請求項５】 他の粉末が、Ｃを含有する金属粉末また
   はＣｒを含有する金属粉末のいずれかであることを特徴
   とする請求項４記載の低摩擦焼結体。