JPWO2020009248A1 - 眼組織の線維化抑制用組成物 - Google Patents

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Abstract

複数の眼組織の線維化を抑制する物質を含むことを特徴とする医薬組成物。

Description

本発明は、眼組織の線維化抑制用組成物に関する。
肺、肝臓等、生命活動に重要な臓器が損傷を受け、修復過程でI型コラーゲンなどの膠原繊維が集積した場合に、当該臓器が弾性を失って硬化し正常機能を表現できない機能不全状態になる線維症は、肺、心臓、肝臓、腎臓、皮膚等々、重要な臓器で広汎に起こる疾患である。実質臓器(肝,心,肺,腎,消化管など)にみられる線維症は、放置すればいずれも死の機転をとる重篤な慢性疾患である。生命予後の改善が求められる疾病でありながら、研究は著しく立ち遅れ、有効な医薬品は皆無である。これまでの臓器線維化に関する研究は、組織増殖因子TGFβの作用を中心に、免疫機能とコラーゲン産生能の獲得という点に主に注がれてきた。
組織の線維化は、コラーゲンを中心とする細胞外マトリックス(ECM)が組織に過剰に産生・蓄積されることにより生じる。組織は、酸化ストレス、低酸素状態、炎症、アポトーシスなどの細胞への多様なストレス刺激により当該細胞が損傷を受けた場合、損傷組織を細胞外マトリックスで置換して修復を図るが、損傷が重度の場合や、慢性炎症などストレス刺激が長期にわたり慢性化した場合には、細胞外マトリックスの蓄積が過剰となり、組織の本来機能が生理的均衡維持のための閾値を下回る病的状態を招来する。
線維化には筋線維芽細胞等のコラーゲン産生細胞が病態に関与していると考えられる。しかしながら、多種にわたる細胞、複雑な細胞間相互作用の関与が病態の実態と推定される。その病態の分子実態は未だ明らかでなく、創薬における大きな隘路となっている。例えば、線維化期に患部に集まるマクロファージ(Mps)が線維症の発症に関与していることを、発明者の一人は2002年に報告し、Mpsを標的とした薬剤開発により、これまで有効な治療法のなかった線維症に対する創薬が可能になることを示唆している。また発明者らは、線維症の発症に係るMpsの機能抑制の方法と組織線維化と密接に関連する慢性炎症を抑制する技術を長年研究している。
炎症が持続し、炎症部位の線維化(組織リモデリング)、血管の新生、特定の免疫細胞の集積などが顕著な病態が「慢性炎症」とされる。原因も病態も多様な慢性炎症であり、個体に対する内的・外的環境ストレスは、免疫系や内分泌系などを介する生体防御としての炎症を惹起する。炎症が持続または繰り返すことで、自覚症状を伴わない未病状態を経て、細胞・組織に機能障害を伴う異常な慢性炎症としての適応状態が定着し、本慢性炎症状態の持続により、組織線維化が起こり、臓器の機能異常が不可逆化する。このような疾患の形成過程を組織・臓器レベルで考えると組織構成細胞と浸潤免疫細胞や活性状態の異なる不均質で多様な細胞間の相互作用の変化、非生理的な代謝応答、細胞外基質・液性因子ネットワークなどの乱れなど多様な要素の関与により組織恒常性の破綻が起きる。
眼は免疫学的に特別な機能的閉鎖臓器であり、「免疫特権部位(immune privileged site)」といわれる。免疫特権は、そもそも生体が備えた自己防御機構である。免疫特権は、通常の免疫炎症反応が起こっては、かえって組織障害・機能障害が強くなるような臓器において、その機能を守るために存在する恒常性維持機構と解釈できる。しかし一旦限度を超えた炎症が起こると、免疫特権機構は失われ眼炎症は増悪する。損傷を受けた眼組織は、その機能回復が困難である。
免疫反応は、大きくTリンパ球を中心とした「獲得免疫」と、より早期に反応する「自然免疫」に分類される。自然免疫細胞群は様々な眼疾患の重要な起炎症性細胞である。近年、いわゆる「自然免疫」を担うMps・NKT細胞・γδ型T細胞などが眼の恒常性・透明性維持に不可欠な存在であることが認知されつつある。
加齢黄斑変性(AMD)に代表される実際の脈絡膜新生血管病の臨床病態のうち、脈絡膜血管新生(CNV)に関する研究はその形成機序に関するものが多いが、実際の臨床病態ではCNVからの出血後に生じる黄斑部の瘢痕治癒過程に関わる炎症反応が重要である。近年CNV形成過程を抑制するものとしてベバシズマブ等の抗VEGF抗体硝子体腔内投与、またすでに形成されたCNVに対してはベルテポルフィンを用いた光線力学的療法等の新しい治療が始まり、一定の治療効果が認められている。しかし、新治療の著効時期は発症前期・発症期にほぼ限定され、実用性の点からは不十分なものである。
加齢黄斑変性(AMD)は加齢や酸化ストレスなどの環境因子により黄斑部の網膜色素上皮細胞(RPE)が変性し、脈絡膜血管新生(CNV)を起こす疾患である。高齢者の重篤な視力障害疾患の1つとなっている。現在、AMDに対する治療の主流は、上述のCNVを標的にした抗VEGF抗体による血管除去療法である。
脈絡膜新生血管病の臨床病態は、「多くの患者は黄斑部出血後視力が低下し初めて病気に気がつくのであるが、すでに視力回復という観点からは回復が難しい時期にさしかかっており、すでに形成された組織瘢痕化は回復しない」ということになる(非特許文献3)。脈絡膜新生血管病の治療ターゲットとして、CNVからの出血・滲出後に生じる黄斑部の機能障害(瘢痕治癒)過程も重要と考えられる。CNVの形成病態に加えて、CNVからの血液成分の出血・滲出により二次的に形成される網脈絡膜瘢痕病態の抑制も重要である。
現在広範に用いられている抗VEGF療法には様々な問題点が存在する。(1)治療に抵抗を示す無反応症例や、経過途中に効果がなくなる耐性症例が多くの割合で出現する。(2)抗VEGF療法は、病態進行抑制を目的とするため視機能の改善効果は余り期待できない。(3)長期複数回投与が不可欠で合併症や副作用(眼圧上昇、視力低下、眼痛、網膜出血)の危険性がある。(4)医療費が高額となり治療を中断してしまうケースも見られる。これら多くの問題点から、抗VEGF療法に代わる新規のAMD治療法が臨床現場で強く求められている。
抗VEGF抗体抵抗性の原因として、(i)CNV形成以前に起きる組織線維化との関連が指摘されている(Diegoら2013)。また、永続的な視力低下の原因としても、CNV発育のための土台として生じ、血管除去後も(ii)瘢痕組織として残存する線維性組織、また、(iii)CNVそのものが必ずしもVEGFのみにより形成されるのではなく、他の多くの血管新生因子や血管新生抑制因子の関与が挙げられる。抗VEGF療法はこの(i)〜(iii)に対し全く効果を示し得ない。
網膜瘢痕組織においては、発明者らにより、マウス網膜下腔への活性型マクロファージの注入による局所瘢痕化の誘導が報告されている(非特許文献1)。
AMD等の脈絡膜新生血管病の臨床病態は、図38のように進行する。AMD患者網膜下増殖組織は増殖・遊走したRPEとMpsが混在しており、病態形成にはMpsとRPEが重要と考えられている。本発明者らは、MpsとRPEの共培養系で前炎症性サイトカイン産生が増強されること、C3、CFBなど補体活性化遺伝子の発現が増強され、補体活性化抑制因子CFH、CD59、Clusterinなどの発現は減弱すること、VEGF発現は増強され、血管新生抑制因子PEDF発現は減弱することを報告した(非特許文献2)。Mpsと共培養したRPEに細胞内αSMAが上昇し,網膜下注入によって、網膜下瘢痕形成に至る。本発明者は、Mps、その仲間の樹状細胞の産生する炎症性サイトカインの産生を抑制する物質を長年探求し、組織線維化に係る線維化病態増悪因子の存在下でも効果を保持する物質を見出し、本発明の端緒とした。
本発明が対象とする今一つの重要な眼組織疾患である緑内障は、視神経に障害が起こり、視野が狭くなる等の特徴的変化を有する疾患である。抗緑内障薬によっても眼圧下降が不十分である場合、眼圧を低下させるために線維柱帯切除術(トラベクレクトミー(TLE);線維柱帯を切除し、房水を眼外に排出して眼圧を下降させる手術)を実施する。あるいは、流出路再建術では線維柱帯切開術、緑内障治療用インプラント挿入術なども実施される。緑内障手術の予後改善は重要なメディカルニーズである。
緑内障手術、例えば、線維柱帯切除術により、線維柱帯切除部から強膜弁下を通過して眼外に房水が排出され、結膜下に濾過胞が形成される。しかし、手術後に組織の炎症、癒着、瘢痕化などにより濾過胞が縮小・消失してしまうと眼圧が再び上昇し、緑内障が悪化する恐れがある。線維柱帯切除術では感染のリスクがあり、濾過胞の形成及び維持が困難である、長期間の眼圧コントロールが困難であるといった問題がある。
そこで、濾過胞形成が広範囲に及び、結膜の血管性状を維持し、術後長期にわたる眼圧下降効果を有する緑内障手術が望まれる。
術後の炎症、癒着、瘢痕化を防ぐためにはマイトマイシンC(MMC)が術中に塗布される。しかしMMCの副作用により、結膜が菲薄化し、結膜から房水が漏出したり、濾過胞の感染症を引き起こすなどの問題点があった。現状のMMCを使用したトラベクレクトミーには問題点がある。過剰な創傷治癒により、濾過胞の周囲に分厚い結合組織が生じ、長期間の眼圧コントロールが困難である。さらに濾過胞の無血管化、菲薄化を生じ、前房水漏出を介した濾過胞感染のリスクが高まることが広く知られている。
線維化を抑制するための基礎的な研究において、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が検討されているが、実用には程遠く、大きな隘路があり開発には至っていない。眼科領域では、HDAC阻害剤SAHAを用いたウサギ濾過手術で結膜の抗線維化作用が報告されているが、投与量が本発明の化合物よりも1000倍以上の多量を要し、作用域濃度の薬剤の患部到達性などの点で、実用には程遠く開発には至っていない。実用の域に達する作用濃度で副作用の少ない化合物の見出されていないこと、薬剤特性が作用局所への作用濃度域での到達を充足していないためであり、AMDのような慢性組織炎症では、病態対象が時空間的に明確にされておらず、局所薬剤効果を発揮するための薬剤適用時期、経路の適格性が不明確で、医療ニーズとの間に大きな乖離のあるためである。また、線維化、血管新生、組織瘢痕化を網羅的に抑制する実用性のある効果は期待し得ない。また、本発明になる低分子化合物による薬理効果は、HDAC阻害活性のみでは得られないことを確認している。
特許第3554707号
Invest Ophthalmol Vis Sci 52:6089−6095 (2011) Invest Ophthalmol Vis Sci 57:5945−5953 (2016) 福岡醫學雜誌.99(7),pp.137−143,2008−07−25.福岡医学会
本発明は、眼組織の線維化抑制効果を有する物質を提供することを目的とする。
また本発明は、一つに、高眼圧症あるいは緑内障の処置方法、さらに詳しくは、効果が相乗的に向上し、副作用の低下を可能とした処置方法を提供すること、並びに、今一つの目的として、AMDの増悪病態を改善するための処置方法やAMD発症の予期される患者への処置方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、過剰な線維化を抑制し、健常な結膜組織修復を促し、長期的な低眼圧維持効果を維持する緑内障手術技術を提供し、並びにレーザー照射動物モデルで、RPEを含む脈絡膜組織の線維化に対し極めて低濃度、投与量で有効性を示すとともに、組織線維化に係る複数の遺伝子に対し包括的に抑制効果を示し、かつ、線維化のみならず、血管新生に関与するVEGFやPDGF、更にはCollagenを架橋し瘢痕形成に関わるLOX等、組織線維化、血管新生、組織瘢痕化に係る複数の遺伝子の発現に対して抑制効果を示し、AMD患者の時空間的に多段階からなる病態に対し、網羅的に高い治療効果が期待される低分子化合物を見出し、動物モデルで有効性を確認することに成功し、本発明を完成するに至った。独自のAMD分子病態理論に依拠した新規CNV抑制機序と瘢痕組織形成抑制効果を併せ持つ新規AMD治療薬の開発を目指し、鋭意研究を続け本発明の一つをを完成したものである。
発明者は以上の大きく2つのUnmet Needsに応える本発明を完成したが、本内容は本明細書に示す実施例を超えて、他の眼組織疾患、他の臓器疾患にも適用される可能性を提供する。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)
眼組織の線維化を抑制する物質を含む医薬組成物。
(2)
眼組織の線維化を抑制する物質が、眼組織において、in vivoで、線維化、血管新生及び瘢痕形成の3段階の各々に係る病態増悪因子遺伝子発現を各段階につき少なくも1種ずつは阻害する物質である、1に記載の医薬組成物。
(3)
病態増悪因子遺伝子が、collagen 1A、collagen 3A1、collagen 4A1、TIMP 2、TIMP 3、TIMP 4、Thrombospondin 1、Thrombospondin 2、LOX、Loxl2、TGFb2、TGFb3、CTGF、VEGF、PDGF及びSerpinからなる群から選ばれる、2に記載の医薬組成物。
(4)
眼組織の線維化を100pg/kg〜3000pg/kgの投与量で抑制する物質を含む、1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(5)
眼組織の線維化を2pg/eye〜9000pg/eyeの投与量で抑制する物質を含む、1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(6)
眼組織の線維化を抑制する物質が、眼組織培養細胞の線維化様相転移を抑制する物質である、1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(7)
眼組織培養細胞の線維化様相転移を10nM以下の濃度で抑制する物質を含む、1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(8)
眼組織細胞のHDAC活性の阻害作用がIC50=10nM以下の濃度である物質を含む、1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(9)
眼組織の線維化抑制物質が、濾過胞維持効果、又は緑内障手術の予後向上効果を有する物質である1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(10)
眼組織の線維化抑制物質が、線維化抑制効果及び/又は血管新生抑制効果と、瘢痕形成抑制効果とを併せ持つ物質を含むことを特徴とする1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(11)
次式I:
Figure 2020009248
又は次式II:
Figure 2020009248
(式中、R1〜R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基又はイソブチル基、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を含む、1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(12)
次式III:
Figure 2020009248
(式中、R4はイソプロピル基、sec−ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を含む、11に記載の医薬組成物。
(13)
R4がイソプロピル基である、12に記載の医薬組成物。
(14)
眼組織が、緑内障関連組織、結膜関連組織及び網膜関連組織からなる群から選ばれる少なくとも1つである、1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(15)
緑内障関連組織が、線維柱帯、又は眼圧の制御が可能な組織である14に記載の医薬組成物。
(16)
網膜関連組織が、網膜色素上皮、脈絡膜新生血管、又は加齢黄斑変性に係る組織である14に記載の医薬組成物。
(17)
結膜関連組織が、濾過胞組織である14に記載の医薬組成物。
本発明により、過剰な線維化を抑制し、健常な結膜組織修復を促し、長期的な低眼圧維持効果を維持することが可能な性質を有する化合物が提供される。更に一方では、現在のAMD治療に求められておりながら提供されていない、線維化抑制効果及び/又は血管新生抑制効果と、瘢痕形成抑制効果とを併せ持つ化合物が初めて提供され、当該分野の革新的な治療に有益な手段の手教に繋がる。
かかる化合物は、一つには、線維柱帯細胞に対して緑内障手術後の創傷治癒過程を促進し、房水動態を正常にする。
他方では、脈略膜組織の線維化に対し極めて低濃度、投与量で有効性を示すとともに、組織線維化に係るものや前駆病変に係る複数の遺伝子に対し網羅的に抑制効果を示す。多くの既存線維化抑制候補物質は、TGFβ誘導性線維化には有効でも、慢性炎症組織に係るTGFβ+TNFαでの複合作用による線維化には無効である。本発明の医薬組成物は、本複合病態に対しても著効を示し、患者の視力保持に最も重要な、視細胞および網膜色素上皮細胞の障害(線維化を含む)を直接抑制する可能性が高い。
200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、30日目までの眼圧の測定結果を示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、7日目及び30日目のblebを示す図である。 コントロールとしてBSSを術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、7日目及び30日目のbleb(濾過胞)を示す図である。 OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、14日目のBlebを示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときと、術後0,1,3,5日目に投与したときの30日目までの眼圧の測定結果を示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときと、術後3,5,7日目に投与したときの30日目までの眼圧の測定結果を示す図である。 200μlの10nM,1μM及び100μM OBP−801を、それぞれ術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの15日目までの眼圧の測定結果を示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときと、200μlの100μM OBP−801を術後0日目に投与したときの15日目までの眼圧を測定結果をを示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、14日目におけるαSMAの発現量を示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、14日目におけるコラーゲンの発現量を示す図である。 200μlの10nM OBP−801を術後0,1,3,5,7,9日目に投与したときの、30日目におけるコラーゲンの発現量を示す図である。 TGF+TNFにより線維化誘導されたHconFにおいて、OBP−801を投与したときのαSMA発現抑制効果を示す図である。 TGF+TNFにより線維化誘導されたHconFにおいて、OBP−801を投与したときのコラーゲン及びLOX発現抑制効果を示す図である。 TGF+TNFによりHconFを線維化誘導する前及び/又は後にOBP−801を投与したときのαSMA、col1,col4の発現抑制効果を示す図である。 TGF+TNFによりHconFを線維化誘導する前に異なる濃度と処理時間でOBP−801を処理したときの、αSMAの発現抑制効果を示す図である。 OBP−801処理による細胞数の経時的変化を示す図である。 TGF+TNFによりHconFを線維化誘導した場合のHDAC及びHAT活性を示す図である。 OBP−801によりHconFを処理した場合のアセチル化ヒストン量の経時的変化を示す図である。 線維柱帯切除術後2日目に発現量が大きく変化した遺伝子とOBP−801による当該遺伝子の発現抑制効果を示す図である。 線維柱帯切除術後12日目に発現量が大きく変化した遺伝子とOBP−801による当該遺伝子の発現抑制効果を示す図である。 線維柱帯切除術後30日目に発現量が大きく変化した遺伝子とOBP−801による当該遺伝子の発現抑制効果を示す図である。 OBP−801とSAHAとのHconFの線維化抑制効果を示す図である。 OBP−801とSAHAとのHconFの細胞増殖抑制効果を示す図である。 OBP−801がHTMCの筋線維芽細胞化を阻害することを示す図である。 TGF+TNFにより線維化誘導されたHTMCにおいて、OBP−801を投与したときのコラーゲン及びLOX発現抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるCNV抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるCNV抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるCNV抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるCollagen Iの発現抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるαSMAの発現抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるαSMAの発現抑制効果を示す図である。 OBP−801投与によるCD31の発現抑制効果を示す図である。 OBP−801によるRPE細胞の線維化阻害効果を示す図である。 OBP−801による線維化関連遺伝子発現への影響を示す図である。 OBP−801のHDAC阻害活性との関係を示す図である。 OBP−801のHAT阻害活性との関係を示す図である。 OBP−801のCD44発現への影響を示す図である。 ドルーゼンのAMD病態進行及びレーザー誘致CNVモデルを示す図である。 OBP−801により術後30日目のcollagen 1の発現が抑制されたことを示す図である。 OBP−801により術後30日目のTGFβ2、SERPINH1の発現が抑制されたことを示す図である。 ECM及びECMリモデリング酵素の発現を示す図である。 炎症性サイトカイン及びケモカインの発現を示す図である。 TGFβスーパーファミリーの発現を示す図である。 転写因子の発現を示す図である。 リアルタイムRT−PCRの結果を示す図である。 リアルタイムRT−PCRの結果を示す図である。 OBP−801の点眼による眼圧抑制結果を示す図である。 眼圧維持に関与していると思われる遺伝子群の発現を示す図である。 ウサギ結膜組織WB解析を示す図である。 ウサギ濾過胞組織のHE染色の術後30日目の結果を示す図である。 ウサギ濾過胞組織免疫染色による術後30日目のαSMAの発現の結果を示す図である ウサギ濾過胞組織免疫染色による術後30日目のCollagenIの発現の結果を示す図である ヒト結膜組織の眼圧維持に関与すると考えられる遺伝子の解析結果を示す図である。 ヒト結膜組織の眼圧維持に関与すると考えられる遺伝子の解析結果を示す図である。 ヒト結膜組織の眼圧維持に関与すると考えられる遺伝子の解析結果を示す図である。 ヒト結膜組織の眼圧維持に関与すると考えられる遺伝子の解析結果を示す図である。
1.概要
本発明は、眼関連線維化組織から正常眼組織を復元したり、正常眼組織が線維化によりその本来機能を消失することを抑制するための医薬組成物および方法に関する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく眼組織における線維化モデルにおいて、(1)時空間的にどのような遺伝子発現が病態に関って発現するか鋭意研究を続け、限局された特定の線維化刺激のみならず、(2)線維化に係る慢性炎症を含む多くの刺激による当該複数遺伝子群が同時に抑制される物質を鋭意探求してきた。(3)また、線維化誘導作用としてよく知られる因子の存在下に、炎症性サイトカインの作用が重層する慢性炎症組織類似の細胞ストレス下でも作用することを選択基準に掲げた。こうした取り組みは従前全く知られていないものである。
また、遺伝子発現抑制のために細胞内に浸透し作用を発現する疎水性化合物は、余程作用濃度が低値でなければ薬剤到達性の点からin vivoではその効果が極めて微弱であり、抗線維化剤としての有効性は全く期待し得ない。事実、前述のSAHAの限界に見られるように、現在までに実用に耐えうる抗線維化剤は全く見出されてない。発明者らはこの点にも注目し、(4)作用濃度が、研究されてきている類縁化合物の千分の一の濃度で効果を発揮する、即ち、in vivoでも実用に耐えうる投薬経路の期待できるという厳しい選択基準を満たす化合物を鋭意探求してきた。
以上の(1)〜(4)の条件を充足する化合物が、多様な線維化刺激を継続して受けている眼科関連組織において、組織に蓄積したCollagenなどのECMを実験モデル動物並びにヒト眼組織関連細胞で低減させ得ることを見出し、本発明を完成させた。複数の線維化ストレス刺激に慢性的に暴露されている眼関連線維化組織において、細胞硬化に係るECMを低減させ得ることはこれまで知られておらず、斬新な知見である。
CNV形成以前に起きる組織線維化抑制効果を持つ化合物は、CNV形成前からの早期治療を可能にし、視力低下の回避が期待できる。また、前述の抗VEGF抵抗性に対しても線維化形成阻害効果を介した治療効果が期待できる。本発明では、AMD病態進行の中で、網膜色素上皮細胞(RPE)のepigeneticな調節機構の破綻を引き金とした機能的相転移である線維化に注目している。本発明の医薬組成物の有効成分は、RPEを含む脈絡膜組織の線維化に対し極めて低濃度、投与量で有効性を示すとともに、組織線維化に係る複数の遺伝子に対し包括的に抑制効果を示す初めての化合物であることを見出している。さらに、線維化のみならず、血管新生に関与するVEGFやPDGF、更には、Collagenを架橋し瘢痕形成に関わるLOX等、病態形成に係る重要な3段階の各々に関連する、複数の遺伝子発現に対しても抑制効果を確認でき、AMD患者の多様な病態に対し高い治療効果が期待される。実際、CNVモデルマウスでは、本発明になる医薬組成物により早期線維化と新生血管形成の両方に顕著な阻害効果を認めている。
本発明の医薬組成物は、網膜組織の線維化および血管新生モデルマウスを使用し、晩期におけるCollagen線維架橋抑制、抗血管新生作用を超え、抗VEGF療法耐性と相関するレーザー照射後早期の線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換の抑制という斬新な作用特性を保有し、既療法に対する優位性が確認されている。LOX、THBS1、Serpin、MMPなど線維化に係る複数の遺伝子発現を同時に抑制することは本化合物の薬剤特性を特徴づける。
AMDをモデル対象疾患とする第一の理由は、臨床的に抗血管新生抑制作用としての抗VEGF抗体療法の限界が明らかになって来ているからである。この抗体療法は、発症・病態増悪後の表現型の一つに過ぎない血管新生抑制を標的にするに過ぎず、患者の視力保持に最も重要な、視細胞および網膜色素上皮細胞(RPE)の障害(線維化を含む)を直接抑制することはできない。本発明の医薬組成物による線維化抑制は網膜色素上皮細胞と視細胞機能を正常に維持・修復し得る。
以上に述べた網膜組織に係る先駆的知見に基づき、発明者らは眼組織における線維化抑制に係る本発明の一部をさらに緑内障に係る眼組織においても鋭意研究展開し、眼組織に広く適用可能で実用性に優れる技術を見出した。
2.線維化抑制物質
本発明は、網膜組織、結膜組織など複数の眼組織の線維化を抑制する化合物を含有する医薬である。組織は、酸化ストレス、低酸素状態、炎症、アポトーシスなど、多様な細胞へのストレス刺激により細胞外マトリックスを蓄積することにより組織を修復しようとする。こうした組織へのストレスを抑制し、網膜、結膜組織などの眼組織の線維化が原因となって発生する疾患を処置するために、本発明の医薬組成物を用いることができる。また、本発明の医薬組成物は、こうした細胞への多様なストレスによって生じるコラーゲンなどの細胞外マトリックス物質の産生を抑制するために用いることが出来る。
また、眼組織の線維化を抑制する物質として、眼組織細胞の線維化様相転移を抑制する物質も、本発明に含まれる。「眼組織細胞の線維化様相転移」とは、網膜、結膜組織などの眼組織が外的もしくは内在する細胞ストレス(加齢などに基づく)により細胞の機能が変性し組織の恒常性が破綻する状況を示す。細胞変性には線維芽細胞様の細胞形態への転移や上皮間葉系移行(EMT)と称される細胞の機能変化、アポトーシスの亢進、オートファジーの異常、細胞外マトリックス成分産生の亢進、間質を構成するコラーゲン、エラスチンなどのタンパク間の異常架橋形成など、組織を構成する細胞の機能変化による組織の硬組織化などが含まれ、本発明の物質は、これらを抑制する。
さらに、眼組織の線維化を抑制する物質として、濾過胞維持効果、又は緑内障手術の予後向上効果を有する物質も本発明に含まれる。
上記病態の処置のための医薬として、コラーゲン、α−SMAの産生抑制、TGF又はTNF産生阻害剤、TGF又はTNFシグナル伝達阻害、HDAC阻害などの作用を示す化合物がある。より好ましくは、眼組織の線維化モデルにおいて(1)時空間的に関連遺伝子の発現量を変化させる、(2)線維化にかかる多くの刺激による当該複数遺伝子群を同時に抑制する、(3)同時に線維化誘導作用の良く知られた因子の存在下に炎症性サイトカインの作用が重層する慢性炎症組織類似の細胞ストレス下でも作用するという化合物である。デプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩、さらに好ましくは、OBP−801(詳細は後述する。)が(4)各組織における細胞内への浸透が良好で、十分に低い作用濃度で抗線維化作用、抗瘢痕化作用を示す化合物として適している。
3.病態憎悪因子遺伝子発現抑制物質
また、別の形態として、本発明は病態増悪因子遺伝子の発現を調節又は制御することができる化合物を含有する医薬である。
・哺乳動物における結膜関連組織、線維柱帯細胞、網膜色素上皮細胞又は脈絡膜新生血管、脈絡膜組織において発現する病態憎悪因子遺伝子
・ヒト又はウサギの結膜関連組織、線維柱帯細胞、網膜色素上皮細胞又は脈絡膜新生血管脈絡膜組織において発現する病態憎悪因子遺伝子
・ヒト又はウサギの線維化関連遺伝子
・ヒトまたはウサギ緑内障手術によって発現変動する病態憎悪因子遺伝子
前記、病態憎悪因子遺伝子には、線維化誘導遺伝子、血管新生関連遺伝子、瘢痕化関連遺伝子、ECM関連遺伝子などがある。前記遺伝子の発現を制御し、眼組織の線維化、ECMの蓄積を制御することで濾過胞維持、低眼圧維持効果、血管新生阻害効果、瘢痕形成抑制効果が期待できる。例えば、眼組織において、in vivoで、線維化、血管新生及び瘢痕形成の3段階の各々に係る病態増悪因子遺伝子発現を各段階につき少なくも1種ずつは阻害する。前記病態憎悪因子遺伝子として、collagen 1A、collagen 3A1、collagen 4A1、TIMP 2、TIMP 3、TIMP 4、Thrombospondin 1、Thrombospondin 2、LOX、Loxl2、TGFb2、TGFb3、CTGF、VEGF、PDGF及びSerpinが挙げられ、本発明の医薬組成物により、発現を制御することが可能である。
また、本発明は、眼組織細胞において、in vivoで、線維化抑制効果及び/又は血管新生抑制効果、並びに瘢痕形成の各段階を少なくも二つ合わせ抑制する医薬組成物である、各段階に係る増悪因子遺伝子のうち少なくとも一種の遺伝子の発現を阻害する物質を含む、医薬組成物である。病態増悪因子関連遺伝子の発現に係るハブ遺伝子の活性制御物質も、本発明に含まれる。
このような物質のより好ましい形態としてデプシペプチド化合物、更に好ましくは、OBP−801がある。OBP−801は、組織線維化に係る複数の遺伝子に対し包括的に抑制効果を示す初めての化合物であることを見出している。さらに、OBP−801は、線維化のみならず、血管新生に関与するVEGFやPDGF、更には、Collagenを架橋し瘢痕形成に関わるLOX等、複数の遺伝子発現に対しても抑制効果を確認でき、AMD患者の多様な病態に対し高い治療効果が期待される。
上記遺伝子の発現を阻害するためには、これらの遺伝子に対する阻害性核酸、例えばアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAなどを使用することもできる。
阻害の対象となる遺伝子の塩基配列は公知であり、それぞれ配列情報を入手することができる。各遺伝子のGenBankアクセッション番号を以下に示す。
COL1A1:NM_000088
COL4A2:NM_001846
COL16A1:NM_001856
ITGA2:NM_002203
ITGA5:NM_002205
ITGB3:NM_000212
ITGAV:NM_002210
LAMA1:NM_005559
VCAN:NM_004385
TIMP1:NM_003254
CTGF:NM_001901
LOX発現阻害の病理学的意義としては抗線維化学療法が知られている。レーザー照射手術によるのCNV後の瘢痕形成にLOX及びLOX2遺伝子発現レベルが上昇し、両者の抗体を導入することによって、線維化を抑制することが出来るという報告がある。
また、抗LOX抗体および抗LOXL2抗体の投与を行うと、A−1タイプI型コラーゲン(COL1A1)の転写レベルが著しく減少することが報告されている。また、緑内障出術後のTenon鞘と結膜において、LOX及びLOX2遺伝子の発現が促進される。
4.濾過胞維持効果を有する物質
また、別の形態として、本発明は濾過胞維持効果を有する化合物を含有する医薬である。
緑内障手術後の眼組織の緑内障関連組織、結膜関連組織には術後の炎症などによる創傷治癒が生じ、線維柱帯細胞(HTMC)、結膜線維芽細胞(HconF)の線維化または瘢痕化が生じる。緑内障術後には結膜線維芽細胞にはTGF+TNFによる線維化刺激が生じ、濾過胞維持の妨げとなることが知られている。術後の濾過胞における結膜下組織の創傷治癒過程では、炎症期、増殖期、瘢痕期などの一連の治癒過程を経て、形態上、機能上の変化となって現れる。
ウサギ緑内障手術では、前眼部観察において、濾過胞において、限局化し、無血管になりやすいなどの形態上の変化が観察される。この変化の過程においては、線維化関連遺伝子、瘢痕化関連遺伝子、ECMの増加の関連因子などの発現亢進が見られている。前記遺伝子として、collagen 1A、collagen 3A1、collagen 4A1、TIMP 2、TIMP 3、TIMP 4、Thrombospondin 1、Thrombospondin 2、LOX、Loxl2、TGFb2、TGFb3、CTGF、VEGF、PDGF及びSerpinなどの遺伝子がある。
これらの遺伝子の発現が制御されることにより、結膜線維芽細胞の線維化が抑制され、濾過胞の形態及び機能が維持される。濾過胞の正常な形態及び機能が維持された場合には眼圧を正常に保持することが出来る。
5.緑内障手術の予後向上効果を有する物質
また、別の形態として、本発明は緑内障手術の予後向上効果を有する化合物を含有する医薬である。
緑内障は、視神経と視野に特徴的変化を伴う所見を有し、機能的構造的異常を特徴とする疾患である。通常、眼圧を十分に下降させることにより、視神経障害を改善又は抑制することができる。
この疾患を処置するためには、通常、以下に列挙する外科的治療が行われる。すなわち、前期手術として、線維柱帯切開術などの流出路再建術、線維柱帯切除術などの濾過手術、緑内障治療用インプラント挿入術(プレート有り、無し)の外科的手術を施し、眼組織の構造を正常な状態に戻す治療が通常行なわれている。
線維柱帯切除術は結膜から房水を吸収し、表面から蒸散させながら、人工的な房水流出路を再建する方法である。生体の本来の自然回復力に逆らった強い侵襲を伴い、生体組織への持続的なストレスがかかるため、創傷治癒の遅延につながり、眼圧の下降が遅れ、眼圧のコントロールが困難となる場合が多い。TLEの濾過胞は限局化しやすく、無血管になりやすいという欠点がある。こうした状況における長期間の眼圧コントロール及び健全な濾過胞形成、濾過胞の感染リスクの低下が望まれている。濾過胞形成が広範囲に及び、結膜の血管性状を維持し、術後長期にわたる眼圧下降効果を有するTLEが望まれている。また、緑内障手術には、Ex−PRESS、INNFOCUS、Baerveldt Glaucoma Implant、Ahmed Glaucoma Valve、XEN Implant、Hydrus Microstentなどが含まれる。
6.化合物
本発明は、下記式I又はIIで示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を含む、医薬組成物を提供する。
次式I:
Figure 2020009248
又は次式II:
Figure 2020009248
(式中、R1〜R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基又はイソブチル基、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
また本発明は、次式III:
Figure 2020009248
(式中、R4はイソプロピル基、sec−ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を含む、医薬組成物も提供する。
上記式IIIに示す化合物のうち、R4がイソプロピル基のものが好ましい。OBP−801は、R4がイソプロピル基の化合物である。
7.OBP−801
上記、線維化抑制物質、病態憎悪因子遺伝子発現抑制物質、濾過胞維持効果を有する物質、AMD患者の病態増悪抑制のための医療、脈絡膜における血管新生に始まる失明に至る病態の防止、緑内障手術の予後向上効果を有する物質としてOBP−801を含有する医薬が実施形態として好ましい。
OBP−801は、組織線維化に係る複数の遺伝子に対し包括的に抑制効果を示す初めての化合物であることを見出している。さらに、OBP−801は、線維化のみならず、血管新生に関与するVEGF、PDGF、Collagenを架橋し瘢痕形成に関わるLOX等、複数の遺伝子発現に対しても抑制効果を確認でき、AMD患者の多様な病態に対し高い治療効果が期待される。
OBP−801はSAHAに比べてより強力な抗線維化作用を有し、より術後の線維化を抑制する可能性がある。また、OBP−801は、細胞内に浸透し、作用を発現するのに十分に低い作用濃度で抗線維化作用を示す化合物の一つである。OBP−801はSAHAに比べて1000分の1の濃度で効果を示すことが本発明により明らかになった。OBP−801は、SAHAに比べてより低濃度で効果を示すため、毒性の心配が無く、結膜保護の観点でさらに安全な可能性がある。
本化合物の製造方法は公知方法(特許文献1)に準ずる。実施の形態についても前記特許文献を包含する。
8.医薬組成物
(1)製剤
本発明の医薬組成物は、点眼、塗布、徐放剤、挿入剤、注射剤、軟膏などの形態で用いることができる。
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、などの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
本発明において、化合物又は薬学的に許容されるその塩は、ゲル、クリーム、及びローションの形態で使用することができる。例えば、眼における、皮膚及び粘膜への局部又は局所適用のために、また眼への適用向けに製剤化することが出来る。局所用医薬組成物は、その形態は限定されるものではなく、例えば、溶液、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、乳液、洗浄剤、保湿剤、スプレー、皮膚パッチなどが挙げられる。
溶液は、適切な塩で、0.01%〜10%の等張溶液、pH5〜7として製剤化される。また、本発明の化合物または薬学的に許容されるその塩は、経皮投与用に経皮パッチとして製剤化することも出来る。
本発明において、化合物又は薬学的に許容されるその塩を含む局所用医薬組成物には、たとえば、水、アルコール、アロエベラゲル、アラントイン、グリセリン、ビタミンA及びEオイル、鉱油、プロピレングリコール、PPG−2ミリスチルプロピオネートなどの、当業界で周知のさまざまな担体材料を混合することが出来る。
局所用担体に使用するのに適する他の材料としては、例えば、皮膚軟化剤、溶媒、保水剤、増粘剤、及び粉末が挙げられる。単独で、または1種又は複数種の材料の混合物として使用することの出来る、こうしたタイプの材料それぞれの例は、以下の通りである。
代表的な塗布もしくは皮膚軟膏剤としては、ステアリルアルコール、モノリシノール酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、プロパン−1,2−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、ミンク油、セチルアルコール、イソステアリン酸iso−プロピル、ステアリン酸、パルミチン酸iso−ブチル、ステアリン酸イソセチル、オレイルアルコール、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸デシル、オクタデカン−2−オール、イソセチルアルコール、パルミチン酸セチル、ジメチルポリシロキサン、セバシン酸ジ−n−ブチル、ミリスチン酸iso−プロピル、パルミチン酸iso−プロピル、ステアリン酸iso−プロピル、ステアリン酸ブチル、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ラノリン、ゴマ油、ヤシ油、ラッカセイ油、ヒマシ油、アセチル化ラノリンアルコール、石油、鉱油、ミリスチン酸ブチル、イソステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸イソプロピル、乳酸ラウリル、乳酸ミリスチル、オレイン酸デシル、およびミリスチン酸ミリスチル;噴射剤、たとえば、プロパン、ブタン、iso−ブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素、および亜酸化窒素;溶媒、たとえば、エチルアルコール、塩化メチレン、iso−プロパノール、ヒマシ油、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン;保水剤、たとえば、グリセリン、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボン酸ナトリウム、可溶性コラーゲン、フタル酸ジブチル、およびゼラチン;ならびに散剤、たとえば、チョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイド状二酸化ケイ素、ポリアクリル酸ナトリウム、テトラアルキルアンモニウムスメクタイト、トリアルキルアリールアンモニウムスメクタイト、化学修飾ケイ酸マグネシウムアルミニウム、有機修飾モンモリロナイト粘土、水和ケイ酸アルミニウム、ヒュームドシリカ、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびエチレングリコールモノステアレートが挙げられる。
徐放剤または挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成形することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調製剤を用いることができる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性のポリマーを用い、調製することが出来る。
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
本発明の組成物は、溶液、乳液または懸濁液等の液体、またはゲル、眼軟膏等の半固体の形態をとることができる。
水性の溶液剤、懸濁剤用希釈剤としては蒸留水、生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤用希釈剤としては、植物油、流動パラフィン、鉱物油、プロピレングリコール、p−オクチルドデカノール等がある。また、涙液と等張にすることを目的として塩化ナトリウム、ホウ酸、クエン酸ナトリウム等の等張化剤、pHを例えば5.0〜8.0程度に一定に保持することを目的として、ホウ酸、緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝剤を加えることができる。さらに、亜硫酸ナトリウム、プロピレングリコール等の安定剤、エデト酸ナトリウム等のキレート剤、グリセリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー等の増粘剤、メチルパラペン、ピロピルパラペン等の防腐剤を含んでいてもよい。これらは例えば細菌保留フィルターを濾過、過熱滅菌等によって無菌化される。
眼軟膏は、ワセリン、セレン50、プラスチベース、マクロゴール等を基剤とし、親水性を高めることを目的として、界面活性剤を加えることができる。また、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシビニルポリマーなどのゼリー剤等を含んでいても良い。
9.用法及び用量
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断、等に応じて適宜変えることができるが、点眼の場合、一般には、成人に対し1日あたり以下の通りである。
注射剤の場合:10nM 200μl 結膜下注射 1日1回(0、1、3、5日)
点眼剤又は挿入剤の場合:100nM 80μl 1日2回 点眼(0,1,2,3,4,5,6,7日)
また、本発明の医薬組成物は、例えばOBP−801の場合は2pg/eye〜9000pg/eye、又は100pg/kg〜3000pg/kgであり、結膜注射及び点眼の形態により以下の用法・用量で使用することができる。
・結膜の線維化抑制(結膜注射)の場合
OBP−801濃度10nM、液量200μlとすると、注入OBP−801量は、100pg/kg〜3000pg/kg、好ましくは100pg/kg〜500pg/kg、さらに好ましくは200pg/kg〜400pg/kg、さらに好ましくは315pg/kgを1回とし、術前30分前、術後1、3及び5日に結膜下注射にて投与する(計4回投与)。
あるいは、2pg/eye〜9000pg/eye、好ましくは2pg/eye〜1500pg/eye、さらに好ましくは4pg/eye〜1200pg/eye、さらに好ましくは944pg/eyeを1回とし、術前30分前、術後1、3及び5日に結膜下注射にて投与する(計4回投与)。
・結膜の線維化抑制(点眼)の場合
OBP−801濃度100nM、液量80μlとすると、注入OBP−801量は、100pg/kg〜3000pg/kg、好ましくは2000pg/kg〜3000pg/kg、さらに好ましくは2500pg/kg〜3000pg/kg、さらに好ましくは2517pg/kgを1回とし、術前30分前、術後1、2、3、4、5、6、7日に、朝、夕の計15回投与する。
あるいは、6pg/eye〜27000pg/eye、好ましくは5000pg/eye〜10000pg/eye、さらに好ましくは7000pg/eye〜8000pg/eye、さらに好ましくは7552pg/eyeを1回とし、術前30分前、術後1、2、3、4、5、6、7日に、朝、夕の計15回投与する。
・CNV抑制(硝子体注射)の場合:
OBP−801濃度10nM、液量0.5μlとすると、注入OBP−801量は、100pg/kg〜3000pg/kg、好ましくは100pg/kg〜500pg/kg、さらに好ましくは100pg/kg〜200pg/kg、さらに好ましくは118pg/kgを1回とし、1日に計1〜10回投与する。
あるいは、2pg/eye〜9000pg/eye、好ましくは2pg/eye〜1500pg/eye、さらに好ましくは2pg/eye〜10pg/eye、さらに好ましくは2.36pg/eyeを1回とし、1日に計1〜10回投与する。
・眼組織培養細胞の場合:
眼組織培養細胞の線維化様相転移を10nM以下の濃度で抑制する。また、眼組織細胞のHDAC活性の阻害作用は、IC50=10nM以下の濃度である。
10.対象
(1)眼組織の線維化抑制
定義:
眼組織:結膜関連組織、緑内障関連組織、網膜関連組織、角膜組織、結膜組織、強膜組織、水晶体組織、隅角線維柱帯組織、網脈絡膜組織、視神経組織、硝子体組織
線維化:結膜線維芽細胞(HconF)及び線維柱帯細胞(HTMC)の細胞増殖が進み、TGF、TNFなどの線維化誘導遺伝子及び、col1、col3、col4、col6などの過剰な発現により細胞外基質の異常な架橋が生じる。その結果として、線維が細胞や実質の生理機能が低下する。
抑制物質の種類:抗TGFb2抗体、siRNA(抗TGFb)、siRNA(抗TGFb2受容体)、トラニラスト、genistein、Suramin、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、Chymase阻害剤、Smad7遺伝子導入、ROCK(Rho−associated kinase)阻害剤、Decorin、Ribozymes、Aptamaers(ARC 126 and ARC 127)、アデノウイルスによるp38MAPK遺伝子のドミナントネガティブ、Simvastatin、HMG−CoA還元酵素阻害剤、Lovastatin、Follistatin、MMC含有ハイドロゲル、5FU徐放剤、パクリタキセル、ブレオマイシン、Thiotepa(アルキル化剤)、レチノイン酸とその誘導体(ビタミンA)、IFN−α、レクチン、Saporin、細胞増殖抑制遺伝子p21、ベバシズマブ、ラニビズマブ、MMC、ステロイド、NSAIDS、5FU、、抗VEGF抗体、抗LOXL1抗体、抗LOX抗体
(2)緑内障関連組織
緑内障関連組織としては、線維柱帯、線維柱帯細胞(HTMC)で構成される組織であり、房水の流水路を制御することにより眼圧を制御することが可能な組織を含む。
緑内障関連組織の種類:線維柱帯、シュレム管、集合管、上強膜静脈
(2−1)線維柱帯
線維柱帯は、眼内の前房にたまった房水の流出路に網の目状に位置し、濾過する役割を有する。正常の房水動態を保持するために、総房水量約0.3mL、1−2時間で房水を交換し、無血管組織の栄養補給、老廃物の運搬、眼内圧の恒常性を維持する。
(2−2)眼圧の制御が可能な組織
眼圧は眼球内を満たしている眼内液の圧力を指す。大気圧よりもわずかに高く、この大気圧との差を眼圧の値として表す。単位はmmHgで表す。眼圧は、眼球の前方を循環している房水の量によってコントロールされる。房水は毛様体で作られ、虹彩と水晶体の隙間(後房)を通って角膜のすぐ下の空間(前房)に流出される。その後、角膜と虹彩の付け根にあたる隅角と呼ばれる部分の線維柱帯を通過して、シュレム管で排出される。この流れが滞って房水の量が多くなると眼圧の上昇をきたす。眼圧が21mmHg以上のときに高眼圧と判定される。ただし日本人の場合、それ以下の眼圧なのに視神経乳頭が障害されてしまう正常眼圧緑内障の頻度が高いことが分かっている。
(3)結膜関連組織
結膜関連組織は、濾過胞組織、濾過胞の周囲の結合組織、房水組織で構成される構造を有する。その機能としては、結膜から房水を吸収し、表面から水を蒸散させると同時に、人工的な房水流出路を形成することにより、眼内の水の流出を制御し、眼圧を正常に保持する。
結膜関連組織の種類としては、結膜上皮、粘膜固有層、テノン嚢、上強膜、強膜などが挙げられる。
(4)網膜関連組織
網膜は脈絡膜の内側に存在し、1億個以上の視細胞が、0.2〜0.5ミリメートルの薄い膜を構成している。明暗や色を感じ取り、ものを見るために最も大事な部分と考えられている。網膜の中で瞳孔から入った光が眼底の正面にあたり、周辺の網膜よりもやや濃い黄色に見える部分が黄斑である。さらに黄斑には、中心部分に周辺の網膜よりも少し薄くなっている1点を中心窩といい、錐体細胞が密集しているほかは血管も無く、視力が最も敏感な1点である。また、黄斑よりも少し内側(鼻側)の眼底にあり、網膜上の視細胞につながっている神経線維が集まっている部位が視神経乳頭である。網膜で受けた光の情報は、ここから眼球を出て脳へ送られ映像となる。また、視神経乳頭は網膜内の血管の集合点でもあり、ここから網膜全体に網膜動脈、網膜静脈が広がる。
(4−1)網膜色素上皮
網膜色素上皮は、網膜10層の最外層に位置し、単層上皮細胞である。外節と呼ばれる先端部は、網膜色素上皮に恒常的に貪食され、新しいものと入れ替わっている。網膜色素上皮は、視細胞貪食や視物質(レチナールなど)再生能を持ち、血液網膜関門を構成する。また、加齢黄斑変性の主病巣となる。視細胞は網膜を構成する細胞の1つである。網膜色素上皮は光受容体といわれ、光エネルギーを電気エネルギーに変換する。網膜色素上皮組織の線維化は、眼内増殖性疾患に共通する重篤な病態であり、線維化抑制という共通の治療法で複数の疾患を対象に治療介入できる。加齢黄斑変性(AMD)、増殖性硝子帯網膜症、増殖糖尿病網膜症(PDR)は何れも加齢性疾患であり、後天的なエピジェネティック遺伝子変化に起因する疾患病態と考えられる。その一つが網膜色素上皮細胞組織(RPE)の線維化病態である。後眼部間質の線維化により視力予後の不良をきたすと、病態の悪性度が進行し、細胞の機能的相転移が生ずる。続いて、網膜色素上皮細胞組織(RPE)の細胞老化がさらに進むと、上皮間葉系移行から線維化が進行し、加齢加齢黄斑変性にいたる。
(4−2)脈絡膜新生血管
眼に入った光は、角膜、水晶体、硝子体を通して目の奥の眼底にある網膜上に像を結ぶ。網膜の中央部に黄斑が存在する。黄斑は網膜の中でも視力をつかさどる重要な細胞が集中している部位で、ものの形、大きさ、色、立体、距離など光の情報の大半を識別する。
黄斑の裏側に病的な破れやすい血管(脈絡膜新生血管)が新しく形成し、個々から血液や滲出が眼底に漏れ出す。その結果、黄斑が変性したり、傷ついたりして、中心視力が損なわれ、視力の低下をきたす。その病的な脈絡膜新生血管の発生、成長に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が大きく関与している。
(4−3)加齢黄斑変性へ移行する組織
加齢黄斑変性を発症する組織として、網膜関連組織、血液網膜関門を構成する網膜、網膜色素上皮、網膜を構成する細胞である、視細胞などがある。また、網膜の中央部には黄斑が存在し、黄斑は網膜の中でも視力をつかさどる重要な細胞が集中している部位で、黄斑の裏側に病的な破れやすい血管(脈絡膜新生血管)が新しく形成し、ここから血液が滲出し、眼底にあふれ出す。その結果、黄斑が変性もしくは傷などにより前記疾患を発症し中心視力が損なわれ、視力の低下などの症状をきたす。
(5)対象疾患
本発明の医薬組成物が上記組織を対象としていることから、本発明の医薬組成物を投与する対象となる疾患としては、線維化に関連する疾患、炎症に関連する疾患、血管新生に関連する疾患のいずれにも適用することができる。
典型的には、例えば、緑内障、糖尿病黄斑浮腫(DME)、加齢黄斑変性(AMD)(特に滲出型もしくは非滲出型の加齢黄斑変性症)、白内障、感染性もしくは非感染性ブドウ膜炎、強膜炎、角膜手術、非感染性角膜炎、虹彩炎、脈絡網膜炎症、眼の網膜を損傷する炎症性疾患、並びに網膜症、特に糖尿病性網膜症、動脈高血圧誘発性高血圧性網膜症、放射線誘発性網膜症、日光誘発性日光網膜症、外傷誘発性網膜症、例えば、プルチェル網膜症、未熟児網膜症(ROP)及び過粘稠度関連網膜症から選択される眼の炎症性疾患などの眼内炎症性疾患が挙げられる。また、別の対象疾患の例としては、例えば前眼部/後眼部手術後、例えば、白内障手術、レーザー眼科手術、緑内障手術、屈折矯正手術、角膜手術、硝子体−網膜手術、眼筋手術、眼形成手術、眼腫瘍手術、翼状片を含む結膜手術、及び/又は涙器含む手術の後、特に、複雑な眼の手術、外傷後の手術後及び/又は複雑ではない眼の手術の後の眼内炎症などの疾患にも適用することができる。特に眼組織の疾患として、ブドウ膜炎、特に、前眼部、中間部及び/又は後眼部ブドウ膜炎、交感性ブドウ膜炎及び/又は全ブドウ膜炎;一般的な強膜炎、特に、前眼部強膜炎、角膜辺縁性強膜炎、後部強膜炎、及び角膜障害を伴う強膜炎;一般的な上強膜炎、特に、一過性周期性上強膜炎及び結節性上強膜炎;網膜炎;角膜手術;粘液膿性結膜炎、アトピー性結膜炎、中毒性結膜炎、偽膜性結膜炎、漿液性結膜炎、慢性結膜炎、巨大乳頭結膜炎、濾胞性結膜炎、春季結膜炎、眼瞼結膜炎、及び/又は瞼裂斑炎;一般的な非感染性角膜炎、特に、角膜潰瘍、表層角膜炎、黄斑角膜炎、糸状角膜炎、雪眼炎、点状角膜炎、例えば、ドライアイ症候群(乾性角結膜炎)、神経栄養性角結膜炎、結節性眼炎、フリクテン性角結膜炎、春季角結膜炎及び他の角結膜炎、間質性結膜炎及び深層角膜炎、硬化性角膜炎、角膜血管新生及び他の角膜炎;一般的な虹彩毛様体炎、特に、急性虹彩毛様体炎、亜急性虹彩毛様体炎及び慢性虹彩毛様体炎、原発性虹彩毛様体炎、再発性虹彩毛様体炎及び続発性虹彩毛様体炎、水晶体起因性虹彩毛様体炎、フックス虹彩異色性毛様体炎、フォークト・小柳症候群;虹彩炎;一般的な脈絡網膜炎症、特に、限局性脈絡網膜炎症及び播種性脈絡網膜炎症、脈絡網膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、網膜脈絡膜炎、後部毛様体炎、原田病、感染症及び寄生虫疾患における脈絡網膜炎症;前眼部及び/又は後部手術の後、例えば、白内障手術、レーザー眼科手術(例えば、レーザー原位置角膜切開反転術(LASIK))、緑内障手術、屈折矯正手術、角膜手術、硝子体−網膜手術、眼筋手術、眼形成手術、眼腫瘍手術、翼状片を含む結膜手術、及び涙器を含む手術の後の眼の術後炎症、好ましくは、眼内炎症、特に、術後眼内炎症、好ましくは、複雑な眼の手術及び/又は複雑ではない眼の手術の後の術後眼内炎症、例えば、処置後のブレブの炎症;眼の網膜を損傷する炎症性疾患;網膜血管炎、特に、イールズ病及び網膜血管周囲炎;一般的な網膜症、特に、糖尿病性網膜症、(動脈高血圧誘発性)高血圧性網膜症、滲出性網膜症、放射線誘発性網膜症、日光誘発性日光網膜症、外傷誘発性網膜症、例えば、プルチェル網膜症、未熟児網膜症(ROP)及び/又は過粘稠度関連網膜症、非糖尿病性増殖性網膜症、及び/又は増殖性硝子体網膜症;濾過胞炎;眼内炎;交感性眼炎;麦粒腫;霰粒腫;眼瞼炎;まぶたの皮膚炎及び他の炎症;涙腺炎;涙管炎、特に、急性及び慢性涙小管炎;涙嚢炎;眼窩の炎症、特に、眼窩の蜂巣炎、眼窩の骨膜炎、眼窩のテノン嚢炎、眼窩の肉芽腫及び眼窩筋炎;化膿性内眼球炎及び寄生虫性眼内炎から選択される眼の炎症性及び非炎症性疾患などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
(線維柱帯切除術後の濾過胞維持効果に関するin vivo試験)
1.方法
◆カニューラを用いた緑内障濾過手術ウサギモデル、OBP−801投与、観察
OBP−801を眼灌流液(BSS:Balanced Salt Solution)で希釈し、投与群に投与するための医薬組成物を調製した。
家兎(日本白色種、雌、体重2.5〜2.99kg)に対して点眼麻酔後に眼内灌流液、MMCもしくはOBP−801を結膜下注射30分後に、全身麻酔下(筋肉注射。ketamine(50mg/kg)xylazine(10mg/kg)混注)にて6−0ナイロンを12時角膜に縫合、牽引し、術野を露出。円蓋部基底結膜弁を作成、角膜輪部後方15mmまで鈍的に結膜下組織と強膜を剥離し、強膜を露出した。角膜輪部後方4mmからMVR Lance(20g)を用いて半層強膜トンネルを前房の角膜実質まで視認できるまで作成した。静脈カニューラを強膜トンネル内に挿入し、前房内に刺入した。
カニューレを強膜に縫合・固定した後に結膜を縫合し、アトロピン点眼、リンデロンA軟膏を注入し、手術を終了する。手術後は抗菌剤とステロイド剤の局所投与を行う。手術後1,3,5日目にOBP−801の結膜下投与を行う。1〜30日目に2〜3日に1回の頻度で術後診察に準じて、眼炎症の程度、前房深度、結膜濾過胞の性状を観察し、濾過胞の大きさの測定と眼圧測定を行う。さらには麻酔薬等の過剰投与により苦痛を与えることなく安楽死させた後に眼球を摘出し眼内環流液、MMCおよびOBP−801の濾過胞維持効果を組織学的に調査する。なお、急激な体重減少などの異常を認めた場合には、ペントバルビタールの過剰投与により安楽死させ、人道的エンドポイントとする。上記の1ヶ月間の実験を1クールとした。
◆眼圧測定方法
両眼ともにトノベットにて3回測定し、中央値を測定値とした。
◆ウエスタンブロッティング
液体窒素で凍結させた組織を乳鉢で粉砕し、RIPA buffer(+Protease inhibiter)を組織10mgにつきbuffer30μl加えた。続いて、vortex、超音波(5min30sec間隔)破砕、4℃ローテーション(数時間)にて溶解し、10,000g 4℃ 20min溶け残りを沈殿除去、上清を回収した。この資料中のタンパク定量(BCA kit)を行なうため、SDS−pageで電気泳動:30μg/lane[iBlot 4−12% Bis−Tris Plus Gellし、PVDFメンブレンに転写[iBlot PVDFトランスファースタックレギュラー]した。ブロッキング及び抗体反応[iBind Western System]はECL化学発光 [NOVEX ECL CHEMI SUBSTRATE]により検出 [LAS3000(Fuji filme)]した。
◆組織染色
クリオスタット切片(10−μm厚)に2%シラン(3−aminopropyltriethoxysilane)でコートしスライドガラスに切片を回収した。Cold Methanol(−30℃)を用いて15minの間固定化を行なった後、風乾した。続いて、ブロッキング:1% ウシアルブミンを含有する反応液を用いて、室温で約30〜60分間反応させた。
一次抗体反応:4℃ O/N、二次抗体反応:室温で60分間反応させた後、DAPI入り封入剤(VECTASHELS with DAPI)で封入した。周りをマニキュアで封入した後、ピクロシリウスレッド染色を行い、蛍光顕微鏡を用いて観察した。
2.結果
〔OBP−801の薬理効果〕
(1)OBP−801投与による低眼圧維持効果
OBP−801群、BSS群ともに術直後は眼圧下降を認めた。
OBP−801投与群では術後30日において手術前に比して眼圧が低く維持されていた。(図1、図2)。
一方、BSS投与群では術後15日以降には眼圧が上昇し、OBP−801投与群と比較して眼圧を長期間低く維持することができなかった(図1、図3)。
(2)濾過胞の結膜充血の抑制
術後14日目にはBSS投与群では濾過胞部の結膜に強い充血を認めた。一方、OBP−801投与では濾過胞に結膜充血は軽度であった。(図4)。
(3)OBP−801の投与回数
OBP−801の投与回数は、6回(術直前,術後1,3,5,7,9日)から4回(術直前,術後1,3,5日)まで減らしても術後30日まで同程度に低眼圧を維持することができた(図5)。
(4)OBP−801の投与時期
OBP−801は効果相投与のみ(術後3,5,7日)でも術後30日まで低眼圧を維持できた(図6)。効果相のみの投与(術後3,5,7日)に加え、周術期の投与(術直前、術後1日)を行うことで、より低い眼圧を維持できた(図6)。
(5)OBP−801の投与量
10nM OBP−801を200μl結膜下注射したときの方が、1μM OBP−801や100μM OBP−801を同量投与するよりも、より低い眼圧を維持できる(図7)。
(6)投与法
1回投与量を増やしたとき(100μM OBP−801を100μl結膜下注射時)に比べ、適量の投与量(10nM OBP−801を200μl結膜下注射)を複数回に分けて投与したときの方がより低い眼圧を維持すること示された(図8)。
〔OBP−801の作用特性〕
(7)眼圧低下とαSMA発現量との関連性
術後14日で眼圧の低下が認められた3匹のウサギにおいて、免疫組織化学にて、濾過胞組織におけるαSMAの発現量を検討した。αSMAの発現量は個体ごとに異なり、眼圧下降効果とαSMA発現量とは関連性が低いことが示唆された(図9)。
(8)眼圧低下と術後14日のコラーゲン発現量との関連性
ピクロシリウスレッド染色にてI型コラーゲンとIII型コラーゲン線維の発現量を解析した。術後14日で眼圧の低下が認められたウサギと低下が認められなかったウサギにおいて、同程度のコラーゲンが発現していたことから、眼圧低下と術後14日のコラーゲン発現量とは関係性が不明である(図10)。
(9)眼圧低下と術後30日目のコラーゲン発現量との関連性
ピクロシリウスレッド染色にてI型コラーゲンとIII型コラーゲン線維の発現量を解析した。30日目時点で眼圧の低下が認められたウサギと低下が認められなかったウサギにおいて、眼圧の低下が認めれたウサギでは濾過胞におけるコラーゲンの発現量が低く、眼圧の低下が認められなかったウサギではコラーゲンの発現量が高かったため、眼圧とコラーゲンの発現量との間には相関があると考えられた(図11)。
[実施例2]
(線維柱帯切除術後の濾過胞維持効果に関するin vitro試験)
1.方法
◆細胞培養、OBP−801添加(パルス含む)、観察
結膜線維芽細胞(HconF)(P1)はScienCell (#6570)から購入した。
◆培養(手順書通りに培養):
培地:Fibroblast Medium(#2301)に付属の培地添加物、抗生物質、FBSを添加した。
Poly−l−lysineコートした培養容器に5x10cells/cmで播種した。
すべての実験は継代数Passage(P)3で行なった。
◆薬剤処理
OBP−801をDMSO(Dimethyl sulfoxide)で10μMの濃度に溶解したストック溶液として使用し、培地を用いて希釈し、投与群に投与するための医薬組成物を調製した。
80〜90% confluent時にFBS抜きの培地に交換しOBP−801(0〜5nM)を添加し、0〜24時間後にTGFβ(20ng/ml)TNFα(10ng/ml)を添加し24時間曝露した。
◆観察
生細胞は位相差顕微鏡にて観察した。
◆免疫染色
培地を除去した後、PBSで洗浄5min x 3回繰り返した後に、Cold Methanol(−30℃)15min固定化した。これを風乾させ、ブロッキング:1%ウシアルブミンを含む反応液を室温で約30〜60分間させた。一次抗体反応は4℃ O/N PBSで洗浄5min x 3回繰り返し、二次抗体反応を室温で60分間反応させた。5μg/ml DAPI室温15分で核染色を行い、PBSで洗浄5min x 3回繰り返し、PBSを入れた状態で蛍光顕微鏡にて観察を行なった。
◆ウエスタンブロッティング
抽出試薬:SDS−HBS;1%SDS,150mM NaCl in 10mM Hepes(pH.7.4)を50μl使用し、35mm−dish中で、boil 3min、及びSonication 5min(15sec−10sec pause)を行なった。タンパク定量(BCA kit)にはSDS−page電気泳動:30μg/lane[iBlot 4−12% Bis−Tris Plus Gellを行なった後に、PVDFメンブレンに転写[iBlot PVDFトランスファースタックレギュラー]し、ブロッキング及び抗体反応[iBind Western System]を行なった後に、ECL化学発光 [NOVEX ECL CHEMI SUBSTRATE]により検出 [LAS3000(Fuji filme)]した。
◆HDAC活性測定
EpiQuik Nuclear Extraction Kit I(Epigenetic #OP−0002)を用いて核抽出した。
EpiQuik HDAC Activity/Inhibition Direct Assay Kit(Epigenetic #P−4034)を用いた。
プレートにコートしてあるアセチル化ヒストン基質と,サンプルとを反応させた後,脱アセチル化されなかった基質を抗アセチル化ヒストン抗体で検出した。
◆HAT活性測定
EpiQuik Nuclear Extraction Kit I(Epigenetic #OP−0002)を用いて核抽出した。
EpiQuik HAT Activity/Inhibition Direct Assay Kit(Epigenetic #P−4003)を用いた。
プレートにコートしてある脱アセチル化基質と,サンプルとを反応させた後,アセチル化された基質を抗アセチル化抗体で検出した。
◆PCRアレイ
以下の操作はkitのプロトコールに準じて実施した。
RNA抽出:RNeasy mini kit(QIAGEN #74104)
逆転写反応:RT2 First Strand Kit(QIAGEN #330401)
PCR反応:RT SYBR Green ROX qPCR Mastermix(QIAGEN #330522)
RT ProfilerTM PCR Array Rabbit Fibrosis](QIAGEN #PANZ−120ZC)
2.結果
OBP−801の薬剤特性
(1)HconFの筋線維化誘導のOBP−801による阻害
結膜繊維芽細胞(HconF)において、TGF+TNF刺激によりαSMA、Type IV Collagen(col4)の発現を誘導することが示された(図12、図13)。HconF培養系は濾過胞における線維化組織形成モデルとして利用できると考えられる。
OBP−801により、TGF+TNF刺激により誘導されたαSMA、Type IV Collagen LOX l2の発現阻害効果を確認した(図12、図13)。OBP−801が緑内障手術における濾過胞維持に有効である可能性を示唆している。
(2)線維化誘導とOBP−801投与の順番
線維化誘導の前にOBP−801を投与したときの方が、線維化誘導の後にOBP−801を投与したときよりも、αSMAの発現に対する強い抑制効果を示した(図14)。
(3)OBP−801の濃度及び処理時間
線維化誘導の前に5nM OBP−801により5時間処理した場合、αSMAの発現に対する強い抑制効果を示した(図15)。
(4)細胞数の変化
線維化誘導の前に5nM OBP−801により5時間処理した場合、細胞数の減少は見られなかった(図16)。
(5)HDAC阻害活性との関係性
HconFをTGF+TNF刺激により線維化誘導する前と後で比較しても、HDAC活性及びHAT活性に変化は見られなかった。したがって、OBP−801による薬理効果は、HDAC阻害活性に依存するものではないことが示唆された(図17)。
HconFをOBP−801で処理した後、2日目まではアセチル化ヒストンの量が増加するが、7日目には半減した。前述のように、OBP−801による薬理効果は術後30日目まで持続することから、OBP−801の薬理効果は、HDAC阻害活性に依存するものではないことが示唆された(図18)。
(6)ウサギ線維柱帯切除術後の線維化関連遺伝子の発現変化の網羅的解析
線維柱帯切除術後の線維化関連遺伝子の発現のピークは、遺伝子によって異なっていた。発現時期により大きく3つに分類し、図19〜図21に示す。図中で赤のプロットはOBP−801投与群、青のプロットはコントロール群を示す。
OBP−801は、細胞対細胞における相互作用、細胞対細胞外マトリックスにおける相互作用、線維形成、細胞増殖、創傷治癒に関わる複数遺伝子を抑制することが示された(図19〜図21)。また、遺伝子の発現時期に関わらず、複数遺伝子を抑制していた(図19〜図21)。
(7)HDAC阻害剤SAHAとの比較
OBP−801は、1nMでSAHA 1μMと同程度の線維化抑制効果を有する(図22)。
TGFβ及びTNFαを投与し、筋線維化誘導されたHconF細胞に対し、OBP−801は細胞増殖抑制効果を有することが示された(図23)。
OBP−801は、0.25nMでSAHA 0.25μMと同程度の細胞増殖抑制効果を有する。Col16発現抑制効果と合わせ過剰な線維化瘢痕形成抑制により低眼圧維持効果が期待できる(図23)。
[実施例3]
(緑内障抑制効果に関するin vitro試験)
OBP−801をDMSO(Dimethyl sulfoxide)で10μMの濃度に溶解したストック溶液として使用し、培地を用いて希釈し、投与群に投与するための医薬組成物を調製した。
(1)OBP−801はTGF+TNFにより線維化誘導されたHTMCにおいて、αSMA、コラーゲン、LOX遺伝子の発現を抑制しており、HTMCの筋線維芽細胞化を阻害することが示された(図24、図25)。
[実施例4]
(加齢黄斑変性抑制効果に関するin vivo試験)
1.方法
<レーザー照射CNV誘導マウスモデル、OBP−801投与、観察>
■レーザー照射
マウスの麻酔:ケタラール9mg/ml+セラクタール1mg/mlを0.15ml i.p.により行なった。
散瞳:ミドリンP点眼液を一滴点眼し、約5分後にマウスに処置可能となった状態のところへ乾燥しないようPBSを適時点眼しレーザー照射を行なった。
レーザー照射:スコピゾール点眼、カバーガラスを装着し、以下の条件で行なった。
照射:Red、200mW、100ms、50μm片眼のみに、乳頭から離れた部位に、3、6、9、12時方向へ照射を行なった。
■OBP−801投薬
Control(1ml PBS+1μl DMSO)及び実験群(1ml PBS+1μl 10μM OBP−801)に対して硝子体注射を行い、22.5°スリットナイフを用い、毛様体付近の強膜を切開(切開幅は30G針の直径程度)した。切開創に32Gをベベルアップで挿入し、1μl溶液を注入した。水晶体はよけて、ベベルアップ挿入箇所の液量や漏出も考慮し、0.5μl目盛より少し多めに、刺入した針が少し視認できた位置で網膜に達しない位置で注入した。
◆Isolectin B4染色
マウスを安楽死させた後眼球を摘出し、4%PFA/PBS中、室温で1時間ほど保持し、前眼部、強膜を切除し、網膜flatmountを作成した。−20℃メタノールを用いて10min間固定した後、4%PFA/PBS(室温10min)でPBS洗浄後、ブロッキング(1% fetal calf serum,0.1% Triton X−100 in PBS RT,1h振盪)を行なった。
Alx594−conjugated isolectin B4(1:100)(Invitrogen #I21413)を4℃で一晩振盪し、4%PFA/PBSを用いて温で10min間固定した。DAPI入り封入剤(VECTASHELD)により処理した後、蛍光顕微鏡にて観察、撮影を行なった。
◆脈絡膜Flat−mount
マウスを安楽死させた後眼球を摘出し、1%PFA/PBS中で室温で2時間保持した。前眼部、水晶体を除去した後、4箇所に切れ込みを入れ放射状に開き、網膜除去した。
免疫染色(脈絡膜flat−mount):
組織をPBS緩衝液中で室温30min間振盪(500μl/well 48wells plate)した。その後、ブロッキング(5% BSA/PBS)中、室温で1時間振盪(200μl/well 48wells plate)した。その後、第一の抗体を4℃で一晩振盪(100μl/well 48wells plate)しながら反応させ、0.1% TX100/PBSによる洗浄を3回行なった。次に、第二の抗体を室温で1時間(100μl/well 48wells plate)反応させ、0.1%TX100/PBSを用いた洗浄を3回繰り返した。その後、封入(VECTASHELD with DAPI)し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察、撮影した。
2.結果
〔OBP−801の薬理効果〕
(1)OBP−801投与によるCNV抑制効果(Isolectin B4染色)
マウス硝子体にレーザー照射して35日後、脈絡膜側の網膜に新生血管が確認でき、CNVモデルとして利用できることが示された(図26、control)。レーザー照射直後に1μl/1eyeで10nM OBP−801を投与した場合、新生血管が確認されず、CNVが抑制された(図26、OBP−801処置群)。
(2)OBP−801投与によるCNV抑制効果(フルオレセイン蛍光眼底造影)
マウス硝子体にレーザー照射して9日後、観察5分前に血管に投与した色素の漏洩が観察された(図27)。
一方で、ウサギ硝子体にレーザー照射後にOBP−801を投与した場合、観察5分前に血管に投与した色素の漏洩が抑制された(図28)。
(3)Collagen Iの発現抑制効果
Contorolマウスでは全てのレーザー照射部周辺にcollagen Iのシグナルが見られたが、OBP−801処理マウスではcollagen Iのシグナルが低下していた(図29)
(4)αSMAの発現抑制効果
Contorolマウスでは全てのレーザー照射部周辺にαSMAのシグナルが見られたが、OBP−801処理マウスではαSMAのシグナルが低下していた(図30、図31)。
(5)CD31の発現抑制効果
Contorolマウスでは全てのレーザー照射部周辺にCD31のシグナルが見られたが、OBP−801処理マウスではCD31のシグナルが低下していた(図32)。
[実施例5]
(加齢黄斑変性抑制効果に関するin vitro試験)
1.方法
<細胞培養、OBP−801添加、観察>
◆ヒト網膜色素上皮細胞株はARPE−19(ATCC CRL−2302(登録商標)、Lot.60279299)(P19)を購入した。
培養(手順書通りに培養)
培地:DMEM/F12(Invitrogen:11330−032)に10% FBS、抗生物質を添加した。
すべての実験は継代数P23〜26で行なった。
◆ヒト網膜色素上皮細胞(H−RPE:00194987 LONZA)(P2)を購入し、以下の処理を行なった。
培養:培地は、Growth medium:RtEGM(200ml)、Plating medium:Growth medium+2% FBSを用いた。
すべての実験は継代数P3〜5で行なった。
◆薬剤処理
OBP−801をDMSO(Dimethyl sulfoxide)で10μMの濃度に溶解したストック溶液として使用し、培地を用いて希釈し、投与群に投与するための医薬組成物を調製した。
80〜90% confluent時にFBS抜きの培地に交換しOBP−801(0〜1nM)を添加した。
24時間後にTGFβ(20ng/ml)TNFα(10ng/ml)を添加し48時間曝露した。
◆観察
生細胞は位相差顕微鏡にて観察した。
◆免疫染色
培地を除去し、PBSで5minの洗浄を3回行なった。Cold Methanol(−30℃)中で15min固定し、風乾した。ブロッキング:1% ウシアルブミン溶液中で室温で約30〜60分程反応を行なった。一次抗体反応させ、4℃で一晩反応させ、PBSで5minの洗浄を3回行なった。二次抗体反応を室温で60分間反応行なった。5μg/ml DAPIを用いて室温15分で核染色を行った。PBSで5min間の洗浄を3回行なった。PBSを入れた状態で蛍光顕微鏡にて観察した。
◆ウエスタンブロッティング
タンパク抽出試薬(SDS−HBS;1%SDS,150mM NaCl in 10mM Hepes(pH.7.4)を調製し3min間沸騰させ、5min(15sec−10sec pause)のSonicationを行なった。タンパク定量にはBCA kitを用いた。SDS−page電気泳動(30μg/lane[iBlot 4−12% Bis−Tris Plus Gell])を行い、PVDFメンブレンに転写[iBlot PVDFトランスファースタックレギュラー]した。ブロッキング及び抗体反応[iBind Western System]を行なった後、ECL化学発光 [NOVEX ECL CHEMI SUBSTRATE]させ、検出した[LAS3000(Fuji film)]。
◆HDAC活性測定
EpiQuik Nuclear Extraction Kit I(Epigenetic #OP−0002)を用いて、核抽出を行なった。
EpiQuik HDAC Activity/Inhibition Direct Assay Kit(Epigenetic #P−4034)を用いて、プレートにコートしてあるアセチル化ヒストン基質と,サンプルとを反応させた後,脱アセチル化されなかった基質を抗アセチル化ヒストン抗体で検出した。
◆HAT活性測定
EpiQuik Nuclear Extraction Kit I(Epigenetic #OP−0002)を用いて、核抽出を行なった。
EpiQuik HAT Activity/Inhibition Direct Assay Kit(Epigenetic #P−4003)を用いて、プレートにコートしてある脱アセチル化基質と、サンプルとを反応させた後、アセチル化された基質を抗アセチル化抗体で検出した。
◆PCRアレイ
RNA抽出はRNeasy mini kit(QIAGEN #74104)を用い、次に、逆転写反応をRT2 First Strand Kit(QIAGEN #330401)を用いて行ない、PCR反応はRT SYBR Green ROX qPCR Mastermix(QIAGEN #330522)を用い、RT ProfilerTM PCR Array Human Fibrosis(QIAGEN #PAHS−120ZC)を用いて行なった。
2.結果
〔OBP−801の薬剤特性〕
(1)OBP−801によるRPE細胞の線維化阻害効果
1nMのOBP−801により、RPE細胞をTGFβ単独、TNFα単独、又はTGFβ+TNFαすることで発現が増加したZO−1及びαSMAの発現が抑制され、OBP−801がRPE細胞の線維化を阻害することが示された(図33)。
(2)OBP−801による線維化関連遺伝子発現への影響
OBP−801により、RPE細胞をTGFβ単独、TNFα単独、又はTGFβ+TNFαすることで発現が増加したMMP9、CD44、及びαSMAの発現が抑制された。特に、OBP−801のMMP9及びCD44に対する発現抑制効果はTSAよりも高かった(図34)。
(3)HDAC阻害活性との関係性
RPE細胞を線維化誘導しても、HDAC活性は影響を受けなかった。線維化誘導の前でも後でも、OBP−801は同程度にHDAC活性を阻害した。したがって、OBP−801による薬理効果は、HDAC阻害活性に依存するものではないことが示唆された(図35)
RPE細胞を線維化誘導した場合、HAT活性の減少が見られた。線維化誘導の前でも後でも、OBP−801はHAT活性を阻害しなかった。したがって、OBP−801による薬理効果は、HDAC阻害活性に依存するものではないことが示唆された(図36)
また、CD44発現への影響を調べた結果、OBP−801による抑制効果が見られた。(図37)。
[実施例6]
OBP−801による眼圧抑制試験及び遺伝子発現試験
1. 方法
◆カニューラを用いた緑内障濾過手術ウサギモデル、マイトマイシン投与、OBP−801投与、観察
マイトマイシンC(MMC)は術前30分前に注射用水に溶かして0.02%(w/v)を100μl投与する。緑内障手術、OBP−801,眼内灌流液投与は前述のとおり行った。
RNAを採取する目的のため、術後2、5、12、30日に濾過胞部の球結膜上皮、および粘膜固有層、テノン嚢を採取した。
◆PCRアレイ
以下の操作はkitのプロトコールに準じて実施した。
RNA抽出にはRNeasy mini kit(QIAGEN #74104)を使用した。
逆転写反応にはRT2 First Strand Kit(QIAGEN #330401)を使用した。
PCR反応にはRT SYBR Green ROX qPCR Mastermix(QIAGEN #330522)を使用した。
RT Profiler(登録商標)PCR Array Rabbit Fibrosis(QIAGEN #PANZ−120ZC)を使用した。
◆Real−Time PCR
以下の操作はkitのプロトコールに準じて実施した。
RNA抽出にはRNeasy mini kit(QIAGEN #74104)を使用した。
逆転写反応にはPrimeScript(登録商標)RT Master Mix(TAKARA #RR036A)を使用した。
PCR反応(インターカレーター)にはTB Green(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)II(TAKARA #RR820B)を使用した。Primersは、PDGFB、LOX、LOXL2、PDGFRA、PDGFRB(TAKARA設計及び購入)を使用した。PCR反応(蛍光標識プローブ)にはTaqMan Fast Advanced Master Mix(Invitrogen #4444963)を使用した。Primersは、Oc03398424_m1(TGFB2)、Oc03399251_m1(ACTA2)、Oc03396112_m1(COL1A2)、Oc03395687_g1(CTGF)(Applied Biosystems #4453320)を使用した。
◆点眼
OBP−801をDMSO(Dimethyl sulfoxide)で10μMの濃度に溶解したストック溶液として使用し、眼灌流液(BSS:Balanced Salt Solution)で希釈し、投与群に投与するための医薬組成物を調製した。
OBP−801量は100nMを20μl×4回(1回ごとに30秒あける)を1クールとして術前30分前に1クール、術後1,2,3,4,5,6,7日に朝、夕の計2クール投与術後1〜30日目に、2〜3日に1回の頻度で術後診察に準じて、眼炎症の程度、前房深度、結膜濾過胞の性状を観察し、濾過胞の大きさの測定と眼圧測定を行った。
2.結果
(1)マイトマイシンCとの比較
現在の緑内障手術で使用されているマイトマイシンC(MMC)の線維柱帯切除術後における遺伝子発現に対する影響をOBP−801と比較した(図39〜図46)。
眼圧の再上昇に関与が示唆されているtype I Collagen(COL1A)の発現が術後30日では、OBP−801では抑制されているが、MMC群では大幅な増加が見られる。このことは長期(30日以上)の眼圧コントロールにおいて、MMCは不向きであることを示唆している(図39)。また、COL1A発現に関与していると思われる遺伝子(TGFB2、SERPINH1,αSMA,CTGF,PDGFB)においても、OBP−801はいずれも30日での発現を阻害しており、長期間の眼圧コントロールにおけるOBP−801の優位性を示している(図40、図45、図46)。
さらに、線維柱帯切除術後の線維化関連遺伝子の発現に対するOBP−801とMMCの影響を網羅的解析、比較した。機能により大きく6つに分類し、図41〜図44に示す。
また、LOX、LOXL2は瘢痕組織形成に関与し、濾過胞の維持に抑制的に働くことが報告されている。BSS群では(Control)術後2日目に発現増加が見られたが、OBP−801とMMCの両方で発現阻害が見られた。しかし、術後30日ではOBP−801群でのみLOX,LOXL2両方の発現阻害効果を示した(図45、図46)。
(2)点眼による効果
OBP−801点眼群においては術後30日まで低眼圧を維持できたが、BSS結膜下注射群では術後15日より徐々に眼圧上昇が認められた。結膜下注射の10倍濃度の点眼でも効果を示した(図47)
また、OBP−801点眼の線維化関連遺伝子発現に対する影響を網羅的に解析し、OBP−801結膜下注射の結果と比較した。低眼圧維持に関与するCOL1A、COL1Aの発現に関与するTGFB3、SERPINH1、濾過胞維持に抑制的に働くLOX等の発現が、結膜下注射でも点眼でも抑制効果が見られた(図48)。
[実施例7]
ウサギ結膜及び濾過胞組織におけるOBP−801の遺伝子発現抑制効果
1.方法
◆ウエスタンブロッティング
ウサギ眼球から結膜組織および濾過胞組織を採取し、RIPA bufferによりタンパク抽出を行った。5min(15sec−10sec pause)のSonication、4℃ O/Nローテーションにて組織を溶解し、溶け残った組織を遠心(10,000g 10min)で除去した。タンパク定量にはBCA kitを用いた。SDS−page電気泳動(30μg/lane[iBlot 4−12% Bis−Tris Plus Gell])を行い、PVDFメンブレンに転写[iBlot PVDFトランスファースタックレギュラー]した。ブロッキング及び抗体反応[iBind Western System]を行なった後、ECL化学発光 [NOVEX ECL CHEMI SUBSTRATE]させ、検出した[LAS3000(Fuji film)]。
◆組織免疫染色
ウサギ眼球から結膜組織および濾過胞組織を採取し、コンパウンド(SurgiPath FSC 22)に包埋し液体窒素にて凍結した。クライオスタット(CM3050S:Leica)にて作成した切片(10−μm厚)を2%シラン(3−aminopropyltriethoxysilane)でコートしたスライドガラスに回収した。Cold Methanol(−30℃)を用いて15minの間固定化を行なった後、風乾した。続いて、ブロッキング:1% ウシアルブミンを含有する反応液を用いて、室温で約30〜60分間反応させた。一次抗体反応:4℃ O/N、二次抗体反応:室温で60分間反応させた後、DAPI入り封入剤(VECTASHELS with DAPI)で封入した。周りをマニキュアで封入した後、蛍光顕微鏡を用いて観察した。
2.結果
(1)ウサギ結膜組織ウェスタンブロッティング解析(図49)
眼圧の再上昇が見られる術後30日の未処置(BSS)群ではtype I collagenとaSMAの発現増加が見られる。これらの発現が、OBP−801により抑制されている。RT−PCR(RNA発現)の結果と一致する。
(2)ウサギ濾過胞組織免疫染色(図50〜図52)
眼圧の再上昇が見られる術後30日の未処置(BSS)組織では濾過胞におけるcollagen Iとα−SMAの発現増加が見られる。OBP−801処置組織ではこれらの発現が抑制されている。また、MMC処置組織ではこれらの発現が大幅に増加している。
[実施例8]
ヒト結膜組織遺伝子解析結果
1.方法
ヒト正常結膜下組織及び、ヒト濾過胞組織(緑内障再手術時)からそれぞれtotal RNAを抽出し、PCR arrayにより遺伝子発現解析を行った。
以下の操作はkitのプロトコールに準じて実施した。
RNA抽出にはRNeasy mini kit(QIAGEN #74104)を使用した。
逆転写反応にはRT2 First Strand Kit(QIAGEN #330401)を使用した。
PCR反応にはRT2 SYBR Green ROX qPCR Mastermix(QIAGEN #330522)を使用した。
RT2 Profiler(登録商標)PCR Array Human Fibrosis(QIAGEN #PAHS−120ZC)を使用した。
2.結果
再手術時のヒト濾過胞組織ではα−SMA、Collagenの増加が見られた(図53)。
ウサギの眼圧再上昇時(day30)濾過胞組織では未処置(day0)と比較し、TGFb2、3、TGFR、CTGF、PDGFA、SERPINH1等の発現増加が見られた。それに対し、再手術時のヒト濾過胞組織ではTGFb1、TGFb3、CTGF、SERPINH1の増加が見られた(図54)。
TNFの顕著な発現増加が見られた。IL1Aも顕著に増加しており、再手術時ヒト濾過胞組織に炎症が起きている可能性が考えられる(図55〜図56)。

Claims (17)

  1. 眼組織の線維化を抑制する物質を含む医薬組成物。
  2. 眼組織の線維化を抑制する物質が、眼組織において、in vivoで、線維化、血管新生及び瘢痕形成の3段階の各々に係る病態増悪因子遺伝子発現を各段階につき少なくも1種ずつは阻害する物質である、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 病態増悪因子遺伝子が、collagen 1A、collagen 3A1、collagen 4A1、TIMP 2、TIMP 3、TIMP 4、Thrombospondin 1、Thrombospondin 2、LOX、Loxl2、TGFb2、TGFb3、CTGF、VEGF、PDGF及びSerpinからなる群から選ばれる、請求項2に記載の医薬組成物。
  4. 眼組織の線維化を100pg/kg〜3000pg/kgの投与量で抑制する物質を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  5. 眼組織の線維化を2pg/eye〜9000pg/eyeの投与量で抑制する物質を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  6. 眼組織の線維化を抑制する物質が、眼組織培養細胞の線維化様相転移を抑制する物質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  7. 眼組織培養細胞の線維化様相転移を10nM以下の濃度で抑制する物質を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  8. 眼組織細胞のHDAC活性の阻害作用がIC50=10nM以下の濃度である物質を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  9. 眼組織の線維化抑制物質が、濾過胞維持効果、又は緑内障手術の予後向上効果を有する物質である請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  10. 眼組織の線維化抑制物質が、線維化抑制効果及び/又は血管新生抑制効果と、瘢痕形成抑制効果とを併せ持つ物質を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  11. 次式I:
    Figure 2020009248
    又は次式II:
    Figure 2020009248
    (式中、R1〜R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基又はイソブチル基、R5〜R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
    で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  12. 次式III:
    Figure 2020009248
    (式中、R4はイソプロピル基、sec−ブチル基又はイソブチル基を表す。)
    で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
  13. R4がイソプロピル基である、請求項12に記載の医薬組成物。
  14. 眼組織が、緑内障関連組織、結膜関連組織及び網膜関連組織からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  15. 緑内障関連組織が、線維柱帯、又は眼圧の制御が可能な組織である請求項14に記載の医薬組成物。
  16. 網膜関連組織が、網膜色素上皮、脈絡膜新生血管、又は加齢黄斑変性に係る組織である請求項14に記載の医薬組成物。
  17. 結膜関連組織が、濾過胞組織である請求項14に記載の医薬組成物。
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