JPWO2019124461A1 - 抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法 - Google Patents

抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2019124461A1
JPWO2019124461A1 JP2019560543A JP2019560543A JPWO2019124461A1 JP WO2019124461 A1 JPWO2019124461 A1 JP WO2019124461A1 JP 2019560543 A JP2019560543 A JP 2019560543A JP 2019560543 A JP2019560543 A JP 2019560543A JP WO2019124461 A1 JPWO2019124461 A1 JP WO2019124461A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
antibody fragment
scfv
antibody
antigen
variable region
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2019560543A
Other languages
English (en)
Inventor
勝実 前仲
勝実 前仲
高志 田所
高志 田所
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Hokkaido University NUC
Original Assignee
Hokkaido University NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Hokkaido University NUC filed Critical Hokkaido University NUC
Publication of JPWO2019124461A1 publication Critical patent/JPWO2019124461A1/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61KPREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
    • A61K39/00Medicinal preparations containing antigens or antibodies
    • A61K39/395Antibodies; Immunoglobulins; Immune serum, e.g. antilymphocytic serum
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P35/00Antineoplastic agents
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P37/00Drugs for immunological or allergic disorders
    • A61P37/02Immunomodulators
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K16/00Immunoglobulins [IGs], e.g. monoclonal or polyclonal antibodies
    • C07K16/46Hybrid immunoglobulins
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K16/00Immunoglobulins [IGs], e.g. monoclonal or polyclonal antibodies
    • C07K16/18Immunoglobulins [IGs], e.g. monoclonal or polyclonal antibodies against material from animals or humans
    • C07K16/32Immunoglobulins [IGs], e.g. monoclonal or polyclonal antibodies against material from animals or humans against translation products of oncogenes

Landscapes

  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Immunology (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Veterinary Medicine (AREA)
  • Public Health (AREA)
  • Animal Behavior & Ethology (AREA)
  • Pharmacology & Pharmacy (AREA)
  • General Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Nuclear Medicine, Radiotherapy & Molecular Imaging (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Epidemiology (AREA)
  • Mycology (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)
  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Medicines Containing Antibodies Or Antigens For Use As Internal Diagnostic Agents (AREA)

Abstract

抗体断片多量体分子は、一本鎖Fv抗体断片の2以上の多量体であり、抗原に対して、10−3〜103nMの見かけの解離定数KDを有し、前記一本鎖Fv抗体断片は、前記抗原に対して、10−5〜102s−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜105nMの解離定数KDを有する、ことを特徴とする。

Description

本発明は、抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法に関する。
近年、抗体医薬品の研究が積極的に進められている。癌治療用の抗体医薬品は、癌特異的に発現している抗原を標的とし、高い治療効果が得られる場合があることから、癌治療薬として期待が高まっている。
しかしながら、例えばIgGの全長抗体は、約150kDaという大きな分子量を有するため、組織浸透性及び血中滞留性が悪く、また製造コストが高くなり、薬価が高いといった問題があった。さらに、癌抗原に対する結合が強すぎるために、細胞内に取り込まれにくいということ、また、癌組織においては組織の形態や抗原発現が均一ではなく、抗体の高い親和性による不要な癌抗原を発現する正常細胞への結合もあり、実際には投与したIgGのごく少量(0.003−0.01%)しか癌組織に蓄積しないことが明らかにされている(非特許文献1)。このように、抗体医薬品の薬効が不十分である場合があることが問題視されてきた。
そこで、抗体医薬品による治療効果を高めるための提案がいくつかなされている。非特許文献2には、抗体医薬品と低分子薬との併用により、一定の治療効果が認められた例が報告されている。また、抗体に薬物を連結させる抗体−薬物コンジュゲート(Antibody drug conjugate:ADC)を利用した方法も提案されている(非特許文献3)。ADCは、高い標的選択性をもつ抗体を薬物の運搬役とし、抗体に連結した薬物に薬効を担わせるように設計されている。
Sedlacek H−H et al.Contributions to Oncology 1992,43,1−145. Robert N et al.J Clin Oncol.2006,24,2786−2792. Junutula JR et al.Nat Biotechnol.2008,26,925−932.
しかしながら、非特許文献2に記載の低分子薬との併用では、低分子薬自体が強い副作用を示すことが多く、また治療効果の点でも課題を残していた。また、非特許文献3に記載のADCでは、全長抗体を基本骨格としたものが主流であり、副作用、高薬価等の問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高度な標的選択性及び親和性を有するとともに低コストである抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤、抗体断片多量体分子の作製方法及び一本鎖Fv抗体断片を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る抗体断片多量体分子は、
一本鎖Fv抗体断片の2以上の多量体であり、
抗原に対して、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有し、
前記一本鎖Fv抗体断片は、前記抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する。
例えば、前記一本鎖Fv抗体断片は、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有する。
例えば、前記一本鎖Fv抗体断片の重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている。
例えば、前記一本鎖Fv抗体断片は、重鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入され、かつ、軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている。
本発明の第2の観点に係る医薬品は、本発明の第1の観点に係る抗体断片多量体分子からなる。
本発明の第3の観点に係る抗腫瘍剤は、本発明の第1の観点に係る抗体断片多量体分子からなる。
本発明の第4の観点に係る自己免疫疾患治療剤は、本発明の第1の観点に係る抗体断片多量体分子からなる。
本発明の第5の観点に係る抗体断片多量体分子は、腫瘍の治療に使用するための抗体断片多量体分子である。
本発明の第6の観点に係る抗体断片多量体分子は、自己免疫疾患の治療に使用するための抗体断片多量体分子である。
本発明の第7の観点に係る抗体断片多量体分子の作製方法は、
抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片を、2以上の多量体に多量体化することで、前記抗原に対して、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有する抗体断片多量体分子を得る工程を含む。
例えば、前記一本鎖Fv抗体断片の重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を生じさせる。
例えば、前記一本鎖Fv抗体断片の重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において、1又は数個のアミノ酸を置換、欠失、付加又は挿入させる。
例えば、前記一本鎖Fv抗体断片は、重鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入され、かつ、軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている。
本発明の第8の観点に係る抗体断片多量体分子の作製方法は、
抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片を用いる。
本発明の第9の観点に係る一本鎖Fv抗体断片は、
抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する。
本発明によれば、高度な標的選択性及び親和性を有するとともに低コストである抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤、抗体断片多量体分子の作製方法及び一本鎖Fv抗体断片を提供することができる。
(a)はトラスツズマブの全長抗体を模式的に示す図であり、(b)はscFvを模式的に示す図であり、(c)はscFvの構造を模式的に示す図である。 (a)は分子設計の概念図であり、(b)は抗体断片多量体分子の期待される効果について説明した図である。 速度論的パラメーターの求め方を説明した図である。 (a)は一実施形態によるscFv変異体の構造を模式的に示す図であり、(b)はトラスツズマブの各CDRを模式的に示した図である。 (a)はトラスツズマブの抗原結合部を示した図であり、(b)は抗原との結合に関わるCDR1及びCDR2(重鎖CDR周辺)におけるアミノ酸残基を示した図であり、(c)は軽鎖CDR周辺におけるアミノ酸残基を示した図である。 (a)は二量体を形成するGCNロイシンジッパーを模式的に示した図であり、(b)は三量体を形成する軟骨マトリックスタンパク質を模式的に示した図であり、(c)は五量体を形成する軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質を模式的に示した図であり、(d)は二量体である抗原断片多量体分子を模式的に示した図であり、(e)は三量体である抗原断片多量体分子を模式的に示した図であり、(f)は五量体である抗原断片多量体分子を模式的に示した図である。 pET−22b(+)ベクターを説明した図である。 scFv−LH−dimerの遺伝子配列を示す図である。 scFv−LH−trimerの遺伝子配列を示す図である。 scFv−LH−pentamerの遺伝子配列を示す図である。 (a)はpET22b−wt−pentamerの作製方法を示す図であり、(b)はpET22b−wt−dimer及びpET22b−wt−trimerの作製方法を示す図である。 変異導入の方法について説明した図である。 多量体への変異導入の方法について説明した図である。 (a)はscFv変異体を模式的に示した図であり、(b)は比較例の野生型多量体分子を模式的に示した図であり、(c)は実施例の抗体断片多量体分子を模式的に示した図である。 (a)はSEC−MALSを説明した図であり、(b)はSEC−MALSによる多量体化進行確認のグラフ図である。 (a)はアナライトと固定化されたリガンドとの相互作用の様子を模式的に示した図であり、(b)はscFv変異体又は実施例の抗体断片多量体分子の抗原HER2との速度論的相互作用解析の図である。 (a)はHER2−ECD及びEGFR−ECDを模式的に示した図であり、(b)はEGFR及びEGFR−ECDの構造を模式的に表した図であり、(c)はpFastBacベクターを説明した図であり、(d)は抗原結合特異性実験のグラフ図である。 多量体化によるアビディティ効果検証のグラフ図である。(a)はwt−dimer、(b)はwt−trimer、(c)はwt−pentamerのグラフ図である。 癌細胞表面抗原への抗体滞留性評価のグラフ図である。(a)は抗体残存率の時間変化を示したグラフ図であり、(b)は3時間後抗体残存率のグラフ図である。 (a)はセツキシマブの抗原結合部を示した図であり、(b)は抗原との結合に関わるCDR1におけるアミノ酸残基を示した図であり、(c)はアナライトと固定化されたリガンドとの相互作用の様子を模式的に示した図であり、(d)はscFv変異体の抗原との速度論的相互作用解析の図である。
まず、本実施形態による抗体断片多量体分子について詳細に説明する。
本発明者らは、標的組織(例えば、癌組織)への蓄積率の向上及び正常細胞への結合の阻止を目的とした、正常細胞と標的細胞(例えば、癌細胞)とを高度に識別する抗体医薬品を開発するために、本実施形態による抗体断片多量体分子を発明した。具体的には、高分子量の全長抗体(図1(a))ではなく、標的細胞への標的化能を持ちつつ低分子化した抗体フラグメント、具体的には、一本鎖Fv抗体断片(single chain fragment variable:scFv)(図1(b))が利用される。scFvは全長抗体より低分子量であるため、組織浸透性及び血中滞留性が改善することが知られている。この一本鎖Fv抗体断片について、標的抗原(例えば、癌抗原)への特異性を維持したまま、例えば一価あたりの親和性を意図して低減させ、これを多量体化することで、抗体断片多量体分子を作製する(図2(a)、(b))。本実施形態による抗体断片多量体分子は、結合価数の増加によってアビディティ効果が得られ、高い標的選択性及び高い親和性を有する。また、抗原発現がごくわずかである正常細胞に留まることが低減され、抗原が密に発現している標的細胞(例えば、癌細胞)に特異的に蓄積することができる。一方で、正常細胞からは容易に離脱することができ、優れた薬効及び副作用の低減を実現することができる。
本実施形態による抗体断片多量体分子は、一本鎖Fv抗体断片の2以上の多量体であり、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有し、好ましくは、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有する。
本明細書において、「一本鎖Fv抗体断片」(single chain fragment variable:scFv)は、全抗体のうちVL(軽鎖の可変領域)及びVH(重鎖の可変領域)を残して低分子化したフラグメントである。後述するように、低下した抗原結合能を有していてもよい。本明細書において、「scFv」と称される場合がある。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片は、抗原結合能の程度として、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する。本実施形態による一本鎖Fv抗体断片は、好ましくは1〜10nMの解離定数Kを有する。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)の抗原に対する解離速度定数(dissociation rate constant、単位:s−1)koffは、任意の方法により求めることができるが、例えば、表面プラズモン共鳴法(例えば、Biacoreシステム(GEヘルスケア社製)を用いた相互作用解析)により測定したセンサグラムより求めることができる。Biacoreを用いた相互作用解析において、より具体的には、以下(i)〜(iv)(図3)に従って、該センサグラムにおける結合相と解離相とから、近似式によりkonとkoffとを算出することができる(http://web.bf.uni−lj.si/bi/sprcenter/BiacoreT100/Session5%20BasicKinetics.pdfを参照)。
(i)ある濃度のアナライト(scFv変異体)をリガンド(抗原)又はコントロール(例えば、BSA)に送液し、データ(センサグラム)を取得する。
(ii)Biacoreシステムに備えられた解析ソフトにより、得られたセンサグラムを差し引きする。この場合、(センサグラムA)−(センサグラムB)を実施。
(iii)異なるアナライト濃度に対して同様の実験を実施する。(i)及び(ii)を繰り返す。
(iv)Biacoreシステムに備えられた解析ソフトにより、1:1結合モデル(Langmuir binding model)に近似することで速度論的パラメーター(kon及びkoff)が算出される。近似式を以下に示す。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)の抗原に対する解離定数K(dissociation constant、単位:M)は、式:解離定数K=koff/konにより求めることができる。なお、解離定数Kは、表面プラズモン共鳴、ELISA、等温滴定カロリメトリー等のいずれの任意の方法からも、スキャッチャード・プロット、又は各装置の添付文書に従った解析を行うことで、求めることができる。
本実施形態による抗体断片多量体分子は、抗原に対して、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有する。本実施形態による抗体断片多量体分子の抗原に対する「見かけの解離定数K(dissociation constant、単位:M)」は、式:「見かけの解離定数K」=「見かけのkoff」/「見かけのkon」により求めることができ、見かけのkoff及びkonは、任意の方法により求めることができるが、例えば、表面プラズモン共鳴法(例えば、Biacoreシステム(GEヘルスケア社製)を用いた相互作用解析)により測定したセンサグラムより求めることができる。Biacoreを用いた相互作用解析より具体的には、以下(i)〜(iv))(図3)に従って、該センサグラムにおける結合相と解離相とから、近似式により見かけのkonとkoffとを算出することができる(http://web.bf.uni−lj.si/bi/sprcenter/BiacoreT100/Session5%20BasicKinetics.pdfを参照)。
(i)ある濃度のアナライト(抗体断片多量体分子)をリガンド(抗原)又はコントロール(例えば、BSA)に送液し、データ(センサグラム)を取得する。
(ii)Biacoreシステムに備えられた解析ソフトにより、得られたセンサグラムを差し引きする。この場合、(センサグラムA)−(センサグラムB)を実施。
(iii)異なるアナライト濃度に対して同様の実験を実施する。(i)及び(ii)を繰り返す。
(iv)Biacoreシステムに備えられた解析ソフトにより、1:1結合モデル(Langmuir binding model)に近似することで速度論的パラメーター(kon、koff、K;K=koff/konより求まる。)が算出される。多量体解析の場合、例えば3重合体について3個全てが結合したときのセンサグラムと、2個又は1個が結合したときのセンサグラムと、を分けて考えることができないため、センサグラムが表しているものを便宜上1:1結合したとみなして近似することで解析する。そのため、解析した結果は、“見かけの”1:1結合という表現になり、各パラメーターについても系の中で1:1結合が起こったときのものと解釈される。近似式を以下に示す。
一本鎖Fv抗体断片の解離定数Kと抗体断片多量体分子の見かけの解離定数Kとの関係について、抗体断片多量体分子の見かけの解離定数Kは、一本鎖Fv抗体断片の解離定数Kより低いことが好ましく、抗体断片多量体分子の見かけの解離定数Kは一本鎖Fv抗体断片の解離定数Kの1/10以下であることがより好ましく、抗体断片多量体分子の見かけの解離定数Kは一本鎖Fv抗体断片の解離定数Kの1/100以下であることがさらに好ましい。
本実施形態による「一本鎖Fv抗体断片(scFv)」は、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有することで、低下した抗原結合能を有していてもよい。本明細書において、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有する一本鎖Fv抗体断片(scFv)を、「一本鎖Fv抗体断片変異体(scFv変異体)」と称する場合がある。一本鎖Fv抗体断片変異体(scFv変異体)の抗原結合特異性を維持する限り、重鎖の可変領域のみにおいて変異を有していてもよく、軽鎖の可変領域のみにおいて変異を有していてもよく、又は重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の両方の領域において変異を有していてもよい。
「重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有する」とは、例えば、一本鎖Fv抗体断片変異体(scFv変異体)が、抗原結合能が低下するように、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されていてもよい。「1又は数個」とは、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個を指す。一本鎖Fv抗体断片変異体(scFv変異体)が10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する限り、「1又は数個」の数は特に制限なく選択され得る。なお、抗原結合能を低下させるために、一本鎖Fv抗体断片(scFv)のアミノ酸配列において変異を有するようにする手段は特に制限はなく、例えば、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つを構造的に変化させることで(例えば、小分子を結合させる等)、抗原との相互作用を弱めて、抗原結合能を低下させてもよい。
重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において、1又は数個のアミノ酸が置換される場合、例えば、抗原との結合に関わるアミノ酸残基を他の種類のアミノ酸残基に置換することができる。例えば、抗原における特定のアミノ酸残基と、一本鎖Fv抗体断片(scFv)のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基と、の間でソルトブリッジを形成する場合には、一本鎖Fv抗体断片のアミノ酸配列におけるカチオン性の残基又はアニオン性の残基を中性のアミノ酸残基に置換してもよい。また例えば、抗原における特定のアミノ酸残基と、一本鎖Fv抗体断片のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基と、の間でΠ結合を形成する場合には、一本鎖Fv抗体断片のアミノ酸配列における当該アミノ酸残基を他のアミノ酸残基(例えば、中性のアミノ酸残基)に置換してもよい。
重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)において、1又は数個のアミノ酸が置換される場合、例えば、H−CDR1(VHの相補性決定領域1)、H−CDR2(VHの相補性決定領域2)、L−CDR1(VLの相補性決定領域1)及びL−CDR2(VLの相補性決定領域2)の少なくとも1つのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換されていてもよい。また、重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)において、立体構造上、抗原との結合に深く関与するアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換してもよい。
一本鎖Fv抗体断片(scFv)は、重鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入され、かつ、軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されているのが好ましい。つまり、VL(軽鎖の可変領域)及びVH(重鎖の可変領域)の両方において変異を有する(1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている)ことが好ましい。VL及びVHの両方のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されていることで、より効率的に一本鎖Fv抗体断片(scFv)の抗原との相互作用を弱めて、抗原結合能を低下させることができる。
本実施形態による抗体断片多量体分子は、一本鎖Fv抗体断片(scFv)の2以上の多量体であるが、多量体化の数は特に制限はなく、例えば、二量体、三量体、五量体、十量体等でもよく、本発明の効果を奏する限り、任意の多量体化の数を採用することができる。多量体化の方法は、任意の手法を用いることができ、例えば図4(a)に示すように、公知の多量体形成ペプチド(multimer)を利用してもよい。multimerとして例えば、二量体を形成するために、例えばGCNロイシンジッパー、三量体を形成するために、例えば軟骨マトリックスタンパク質、五量体を形成するために、例えば軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質由来のタンパク質を用いることができる(図6)。また、一本鎖Fv抗体断片(scFv)同士をS−S結合等により連結させて、多量体化させてもよい。さらに、他の手法(例えば、Philipp Holliger & Peter J Hudson,Engineered antibody fragments and the rise of single domains,NATURE BIOTECHNOLOGY,VOLUME 23 NUMBER 9 SEPTEMBER 2005,1126−1136;Maneesh Jain et al,Engineering antibodies for clinical applications,TRENDS in Biotechnology Vol.25 No.7,307−316;Nature Reviews Drug Discovery,VOLUME 17,AUGUST,2018,531−533)により多量体化させてもよい。
一本鎖Fv抗体断片(scFv)の元となる全長抗体として、いかなる種類のモノクローナル抗体を用いてもよい。例えば、抗体医薬品として使用可能なモノクローナル抗体を用いることができる。例えば、以下に列挙されるモノクローナル抗体を用いることができるが、以下に限定されるものではない。
・trastuzumab
軽鎖配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIK
重鎖配列:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS
・rituximab
軽鎖配列:QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYIHWFQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTSNPPTFGGGTKLEIK
重鎖配列:QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPGRGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARSTYYGGDWYFNVWGAGTTVTVSA
・cetuximab
軽鎖配列:DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELK(配列番号35)
重鎖配列:QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNTPFTSRLSINKDNSKSQVFFKMNSLQSNDTAIYYCARALTYYDYEFAYWGQGTLVTVSA(配列番号36)
・bevacizumab
軽鎖配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCSASQDISNYLNWYQQKPGKAPKVLIYFTSSLHSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYSTVPWTFGQGTKVEIK
重鎖配列:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGYTFTNYGMNWVRQAPGKGLEWVGWINTYTGEPTYAADFKRRFTFSLDTSKSTAYLQMNSLRAEDTAVYYCAKYPHYYGSSHWYFDVWGQGTLVTVSS
・infliximab
軽鎖配列:DILLTQSPAILSVSPGERVSFSCRASQFVGSSIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESMSGIPSRFSGSGSGTDFTLSINTVESEDIADYYCQQSHSWPFTFGSGTNLEVK
重鎖配列:EVKLEESGGGLVQPGGSMKLSCVASGFIFSNHWMNWVRQSPEKGLEWVAEIRSKSINSATHYAESVKGRFTISRDDSKSAVYLQMTDLRTEDTGVYYCSRNYYGSTYDYWGQGTTLTVSS
・adalimumab
軽鎖配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGIRNYLAWYQQKPGKAPKLLIYAASTLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDVATYYCQRYNRAPYTFGQGTKVEIK
重鎖配列:EVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFDDYAMHWVRQAPGKGLEWVSAITWNSGHIDYADSVEGRFTISRDNAKNSLYLDMNSLRAEDTAVYYCAKVSYLSTASSLDYWGQGTLVTVSS
・alemtuzumab
軽鎖配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCKASQNIDKYLNWYQQKPGKAPKLLIYNTNNLQTGVPSRFSGSGSGT
DFTFTISSLQPEDIATYYCLQHISRPRTFGQGTKVEIK
重鎖配列:QVQLQESGPGLVRPSQTLSLTCTVSGFTFTDFYMNWVRQPPGRGLEWIGFIRDKAKGYTTEYNPSVKGRVTMLVDTSKNQFSLRLSSVTAADTAVYYCAREGHTAAPFDYWGQGSLVTVSSS
・ibritumomab_tiuxetan
軽鎖配列:QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMHWYQQKPGSSPKPWIYAPSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWSFNPPTFGAGTKLELK
重鎖配列:QAYLQQSGAELVRPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPRQGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTVDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYFCARVVYYSNSYWYFDVWGTGTTVTVSA
・mogamulizumab
軽鎖配列:DVLMTQSPLSLPVTPGEPASISCRSSRNIVHINGDTYLEWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCFQGSLLPWTFGQGTKVEIK
重鎖配列:EVQLVESGGDLVQPGRSLRLSCAASGFIFSNYGMSWVRQAPGKGLEWVATISSASTYSYYPDSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRVEDTALYYCGRHSDGNFAFGYWGQGTLVTVSS
・pertuzumab
軽鎖配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCKASQDVSIGVAWYQQKPGKAPKLLIYSASYRYTGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYYIYPYTFGQGTKVEIK
重鎖配列:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFTDYTMDWVRQAPGKGLEWVADVNPNSGGSIYNQRFKGRFTLSVDRSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARNLGPSFYFDYWGQGTLVTVSS
・obinutuzumab
軽鎖配列:DIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSKSLLHSNGITYLYWYLQKPGQSPQLLIYQMSNLVSGVPDRFSG
SGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCAQNLELPYTFGGGTKVEIK
重鎖配列:QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGYAFSYSWINWVRQAPGQGLEWMGRIFPGDGDTDYNGKFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARNVFDGYWLVYWGQGTLVTVSS
・panitumumab
軽鎖配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYFCQHFDHLPLAFGGGTKVEIK
重鎖配列:QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSVSSGDYYWTWIRQSPGKGLEWIGHIYYSGNTNYNPSLKSRLTISIDTSKTQFSLKLSSVTAADTAIYYCVRDRVTGAFDIWGQGTMVTVSS
・ofatumumab
軽鎖配列:MEIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASNRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPITFGQGTRLEIK
重鎖配列:EVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFNDYAMHWVRQAPGKGLEWVSTISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKKSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKDIQYGNYYYGMDVWGQGTTVTVSS
本実施形態による抗体断片多量体分子は、一本鎖Fv抗体断片(scFv)の2以上の多量体であるが、scFvの元となる全長抗体の種類は1つであってもよく(ホモ多量体分子)、2つ以上であってもよい(ヘテロ多量体分子)。例えば、抗体断片多量体分子がトラスツズマブを用いた三量体である場合、(i)3つのscFvがすべてトラスツズマブのscFvであってもよく(ホモ多量体分子)、(ii)3つのscFvのうち、2つがトラスツズマブのscFvであり、他1つがトラスツズマブとは異なる抗体のscFvであってもよく(ヘテロ多量体分子)、(iii)3つのscFvのうち、1つがトラスツズマブのscFvであり、他1つがトラスツズマブとは異なる抗体のscFvであり、他1つがトラスツズマブとも前記他1つとも異なる抗体のscFvであってもよい(ヘテロ多量体分子)。なお、抗体断片多量体分子の分子量は、良好な浸透性の観点から、ホモ多量体分子である場合、一本鎖Fv抗体断片(scFv)の元となる全長抗体の分子量より小さいことが好ましく、ヘテロ多量体分子である場合、IgG抗体の分子量(150〜160kDa)より小さいことが好ましい。
本明細書において「抗原」は、生体内において免疫反応を引き起こさせる物質であれば制限されることなく選択され得る。一本鎖Fv抗体断片(scFv)の元となる全長抗体として、例えば、トラスツズマブを用いる場合、抗原は、例えば、HER2(human epidermal growth factor receptor 2)となる。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)において、VHとVLとは、任意のリンカーによって連結されており(図4(a))、例えば、(GS)が挙げられる。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)において、多量体化するためのmultimerは、任意の領域に連結することができ、例えば、VHのC末端にリンカー(例えば、アミノ酸配列GSAGSAAGSGEF)を介してmultimerが連結されてもよい。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)において、例えばmultimerに、血中滞留、癌組織特異的薬物送達等を目的としたコンジュゲートを結合させてもよい。
次に、抗体断片多量体分子の作製方法について説明する。
本実施形態による抗体断片多量体分子の作製方法は、抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片(scFv)を、2以上の多量体に多量体化することで、前記抗原に対して、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有する抗体断片多量体分子を得る工程を含む。
scFvの解離速度定数koff及び解離定数Kの詳細及び求め方、並びに抗体断片多量体分子の見かけの解離定数Kの詳細及び求め方については、前述の通りである。抗体断片多量体分子を調製する方法は、例えば、まず、任意の遺伝子組換え技術を用いて、scFv及び多量体形成ペプチド(multimer)をコードする遺伝子を発現ベクター等に組み込んだ組換えベクターを構築し、次いで、任意の各種形質転換法により、構築した組換えベクターを宿主に導入して形質転換体を得、これを培養することにより、抗体断片多量体分子を発現させ、回収することにより行うことができる。多量体形成ペプチド(multimer)の詳細については、前述同様である。
所定の解離速度定数koff及び解離定数Kを有するscFvを得るために、scFvの重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を生じさせることで、抗原結合能を低下させてもよい。この場合、抗体断片多量体分子は、所定の解離速度定数koff及び解離定数Kを有する「scFv変異体」の多量体となる。具体的には、例えば、scFv及びmultimerをコードする遺伝子を発現ベクター等に組込んだ組換えベクターを構築した後に、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸を置換、欠失、付加又は挿入させるように、PCR法等の任意の方法により、scFvをコードする遺伝子に変異を導入してもよい。また、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸を置換、欠失、付加又は挿入させるように、PCR法等の任意の方法により、scFvをコードする遺伝子に変異を導入した後に、組換えベクターを構築してもよい。なお、抗原結合特異性を維持する限り、重鎖の可変領域のみにおいて変異を有するように変異導入してもよく、軽鎖の可変領域のみにおいて変異を有するように変異導入してもよく、又は重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の両方の領域において変異を有するように変異導入してもよい。変異導入の詳細については、前述同様である。
scFv(scFv変異体を含む)の多量体化については、上述のmultimerを利用する方法の他、例えば、scFv(scFv変異体を含む)同士を任意の手法によりS−S結合等により連結させて、多量体化させてもよい。
形質転換体の作製に使用される宿主は、導入された組換えベクター等からscFv(scFv変異体を含む)を発現し得るものであれば、特に限定はされず、例えば、ヒトやマウス等の各種動物に由来する細胞、各種昆虫に由来する細胞、大腸菌などの原核細胞、酵母などの真核細胞、植物細胞等、宿主となり得る任意の細胞を使用することができる。
scFv(scFv変異体を含む)の作製は、具体的には、上述の形質転換体を培養する工程と、得られる培養物からscFv(scFv変異体を含む)を採取する工程とを含む方法により行うことができる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。上記形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。目的のタンパク質は、上記培養物中に蓄積される。
scFv(scFv変異体を含む)が細胞外に生産される場合は、培養液をそのまま使用するか、遠心分離やろ過等により細胞を除去する。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により、培養物中からscFv(scFv変異体を含む)を採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を用いて単離精製することができる。
scFv(scFv変異体を含む)が細胞内に生産される場合は、細胞を破砕することによりscFv(scFv変異体を含む)を採取することができる。可溶性画分にscFv(scFv変異体を含む)が含まれる場合は、破砕後、遠心分離や濾過などにより、必要に応じて細胞の破砕残渣(細胞抽出液不溶性画分を含む)を除く。残渣除去後の上清は、細胞抽出液可溶性画分であり、粗精製したタンパク質溶液とすることができる。一方、不溶性画分に封入体としてscFv(scFv変異体を含む)が発現する場合は、破砕後、遠心分離により不溶性画分を単離し、界面活性剤等を含んだバッファーで洗浄、遠心を繰り返すことにより、細胞の破砕残渣を取り除く。得られた封入体はグアニジンや尿素などの変性剤を含むバッファーで可溶化した後、希釈法や透析法を利用した蛋白質の巻き戻しを行う。機能的に巻き戻ったscFv(scFv変異体を含む)の精製は各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を用いて単離精製することができる。
また、scFv(scFv変異体を含む)の産生は、形質転換体を用いたタンパク質合成系のほか、生細胞を全く使用しない無細胞タンパク質合成系を用いて行うこともでき、産生されたscFv(scFv変異体を含む)は、クロマトグラフィー等の手段を適宜選択して精製することができる。
他の観点における抗体断片多量体分子の作製方法は、抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片を用いる、ことを特徴とする。一本鎖Fv抗体断片、scFvの解離速度定数koff及び解離定数Kの詳細及び求め方については、前述の通りである。
次に、一本鎖Fv抗体断片について説明する。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)は、抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する。一本鎖Fv抗体断片(scFv)、scFvの解離速度定数koff及び解離定数Kの詳細及び求め方については、前述の通りである。
本実施形態による一本鎖Fv抗体断片(scFv)は、例えば、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有していてもよく、例えば、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されていてもよい。scFvは好ましくは、重鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入され、かつ、軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている。重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有することで、一本鎖Fv抗体断片(scFv)の抗原との相互作用を弱めて、抗原結合能を低下させることができる。本段落の各語句の詳細については、前述同様である。
次に、医薬品、抗腫瘍剤及び自己免疫疾患治療剤について説明する。
本実施形態による医薬品、抗腫瘍剤及び自己免疫疾患治療剤は、前述の抗体断片多量体分子からなる。
本実施形態による抗腫瘍剤は、前述の抗体断片多量体分子からなり、例えば、乳癌、肝臓癌、非小細胞肺癌、副腎皮質癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、子宮頚癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング腫瘍、胆嚢癌、ホジキン病、下咽頭癌、喉頭癌、***口腔癌、非ホジキンリンパ腫、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌、睾丸癌、甲状腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)等の腫瘍に対して治療効果を奏する。
本実施形態による自己免疫疾患治療剤は、前述の抗体断片多量体分子からなり、例えば、多発性筋炎、血管炎症候群、巨細胞性動脈炎、高安動脈炎、再発性多発軟骨炎、後天性血友病A、スティル病、成人発症性スティル病、アミロイドA アミロイドーシス、リウマチ性多発筋痛症、脊椎関節炎(関節炎)、肺動脈高血圧症、移植片対宿主病、自己免疫性心筋炎、接触性過敏症(接触性皮膚炎)、胃食道逆流症、紅皮症、ベーチェット病、筋萎縮性側索硬化症、移植、視神経脊髄炎、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、悪性関節リウマチ、薬剤耐性慢性関節リウマチ、川崎病、多関節型または全身型若年性特発性関節炎、乾癬、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、キャッスルマン病、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性脳脊髄炎、関節炎、進行性慢性関節炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎、腸炎性関節炎、変形性関節炎、リウマチ性疾患、脊椎関節症、強直性脊椎炎、ライター症候群、過敏症(気道過敏症および皮膚過敏症の両方を含む)、アレルギー、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚エリテマトーデス、癩性結節性紅斑、シェーグレン症候群、炎症性筋障害、軟骨炎、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、スティーブン−ジョンソン症候群、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、特発性吸収不良、自己免疫炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群、内分泌性眼障害、強皮症、グレーブス病、サルコイドーシス、多発性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、膣炎、直腸炎、インスリン依存性糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病(I型糖尿病)、自己免疫性血液疾患、溶血性貧血、再生不良性貧血、純粋な赤血球貧血、特発性血小板減少症(ITP)、自己免疫性ブドウ膜炎、ブドウ膜炎(前部および後部)、乾性角結膜炎、春季カタル、間質性肺線維症、糸球体腎炎(ネフローゼ症候群の有無)、特発性ネフローゼ症候群または微小変化型腎症、皮膚の炎症性疾患、角膜炎症、筋炎、骨インプラント、代謝障害、アテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常、骨喪失、骨関節症、骨粗鬆症、閉塞性または炎症性気道疾患の歯周病、気管支炎、塵肺、肺気腫、急性および超急性炎症反応、急性感染、敗血症性ショック、内毒素性ショック、成人呼吸窮迫症候群、髄膜炎、肺炎、複合的代謝異常症候群、卒中、ヘルペス性間質性角膜炎、ドライアイ疾患、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、ギラン・バレー症候群、スティッフマン症候群、橋本甲状腺炎、自己免疫性甲状腺炎、脳脊髄炎、急性リウマチ熱、交感性眼炎、グッドパスチャー症候群、全身性壊死性血管炎、抗リン脂質抗体症候群、アジソン病、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、疱疹状皮膚炎、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚炎、アフタ性潰瘍、扁平苔癬、自己免疫性脱毛症、白斑症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、悪性貧血、感音難聴、突発性両側進行性感音難聴、多腺性自己免疫症候群I型またはII型、免疫不妊、免疫介在性不妊等の自己免疫疾患に対して治療効果を奏する。
本実施形態による医薬品は、前述の抗体断片多量体分子からなり、所望の医薬用途に用いられ、例えば、前述の抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤等として用いられ得る。
本実施形態による医薬品、抗腫瘍剤及び自己免疫疾患治療剤の投与方法は、経口投与、局所投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与等、適宜選択され得る。投与剤型も任意であってよく、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤などの非経口用液体製剤等に適宜調製することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いてもよい。
次に、本実施形態による腫瘍の治療に使用するための抗体断片多量体分子及び自己免疫疾患の治療に使用するための抗体断片多量体分子について説明する。
本実施形態による腫瘍の治療に使用するための抗体断片多量体分子は、前述の抗体断片多量体分子の抗腫瘍剤としての用途に関し、腫瘍の種類については、前述同様である。
本実施形態による自己免疫疾患の治療に使用するための抗体断片多量体分子は、前述の抗体断片多量体分子の自己免疫疾患治療剤としての用途に関し、自己免疫疾患の種類については、前述同様である。
以上説明したように、本実施形態による抗体断片多量体分子は、所定の解離速度定数koff及び解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片(scFv)の多量体であり、所定の見かけの解離定数Kを有する。多量化することで、結合価数の増加によるアビディティ効果が得られ、高い標的選択性及び高い親和性を有する。また、抗原発現がごくわずかである正常細胞に留まることが低減され、抗原が密に発現している標的細胞(例えば、癌細胞)に特異的に蓄積することができる。一方で、正常細胞からは容易に離脱することができる。このため、本実施形態による医薬品、抗腫瘍剤及び自己免疫疾患治療剤は、優れた薬効及び副作用の低減を実現することができ、著しい投与量の低減と、それによる副作用の低下及び医療費の軽減とが期待できる。
また、本実施形態による抗体断片多量体分子は、高分子量の全長抗体ではなく、標的細胞(例えば、癌細胞)への標的化能を持ちつつ低分子化した一本鎖Fv抗体断片(scFv)を利用している。このため、本実施形態による医薬品、抗腫瘍剤及び自己免疫疾患治療剤は、組織浸透性及び血中滞留性が向上しており、また、低コストで作製することが可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
抗体医薬品であるトラスツズマブをモデル抗体として、可変領域へ変異導入を行い、多量体形成ペプチドの付加による多量体化を試みた。
トラスツズマブは、上皮増殖因子受容体ファミリーのHER2(human epidermal growth factor receptor 2)を抗原とする分子標的薬であり、HER2過剰発現が確認された乳癌及び胃癌で適応されるヒト化モノクローナル抗体である(図1(a))。トラスツズマブはイムノグロブリンG全長抗体であり、Fvドメインにおいて抗原に対して結合し、FcドメインにおいてADCC活性による抗腫瘍効果及びリサイクリングによる血中半減期延長などの機能を発揮する。しかしながら、全長抗体は約150kDaと高分子量であるため、動物細胞培養系では生産コストが高くなること、また、癌組織への浸透性が低いことが課題であった。さらには、標的癌細胞への正確な送達が難しく治療効果が低い場合があること、また、標的抗原HER2を発現した正常細胞に対して作用することが原因と考えられる副作用についても課題として挙げられていた。
トラスツズマブから一本鎖Fv抗体断片(scFv)(図1(b))を作製し、一分子あたりの抗原結合能を意図的に低下させたscFv変異体を、蛋白質工学的なアプローチにより多量体化させた。トラスツズマブのVLのアミノ酸配列は配列番号1、VHのアミノ酸配列は配列番号2に示される。
(抗体断片多量体分子の作製)
まず、多量体化ペプチドとscFvとを一本のポリペプチド鎖として発現させた融合蛋白質を作製した(図4(a))。多量体化には多量体形成ペプチド(multimer)を用いて、scFvのC末端にリンカーで連結することで融合蛋白質として発現させるコンストラクトを作製した。
多量体形成ペプチド(multimer)として、αヘリックス間の相互作用によって高次構造を形成するコイルドコイルに着目し、二量体化用にはGCN4ロイシンジッパー(以下、「GCN4」という場合がある)(図6(a))を、三量体化用には軟骨マトリックスタンパク質(以下、「CMP」という場合がある)(図6(b))を、五量体化用には軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(以下、「COMP」という場合がある)(図6(c))を用いた。それぞれの多量体形成ペプチド(multimer)は、N末端からC末端まで一方向にコイルドコイルを形成する。二量体、三量体及び五量体をそれぞれ形成させるために(図6(d)−(f))、multimerをscFv変異体のC末端に連結させた。なお、CMPはN末端で、COMPはC末端で分子間ジスルフィド結合を形成する。
(コンストラクト作製)
まず、以下の4種のコンストラクトを作製した。使用したベクターは、pET22b(+)である(図7)。なお、図4(a)に示すように、「Linker1」は、VL(配列番号1)のC末端側と、VH(配列番号2)のN末端側と、を連結させるものであり(−(GGGGS)3−:配列番号3)、「Linker2」は、VH(配列番号2)のC末端側に多量体形成ペプチド(multimer)を連結させるものである(GSAGSAAGSGEF:配列番号4、Waldo GS.et al.,1999,Nature Biotechnology.17:691−695)。
・pET22b−scFv−LH(モノマー)
pET22b(+)のNdeI−BamHIサイト内に、scFvをコードする遺伝子(配列番号5)が挿入されている。
・pET22b−wt−dimer(二量体化ペプチド)
pET22b(+)のNdeI−XhoIサイト内に、図4(a)に示されるように、scFv、linker2及びGCN4ロイシンジッパー由来ペプチドをコードする遺伝子(配列番号6、図8)が挿入されている(GCN4ロイシンジッパー由来ペプチドのアミノ酸配列:配列番号7)。
・pET22b−wt−trimer(三量体化ペプチド)
pET22b(+)のNdeI−XhoIサイト内に、図4(a)に示されるように、scFv、linker2及び軟骨マトリックスタンパク質(CMP;Cartilage Matrix Protein)由来ペプチドをコードする遺伝子(配列番号8、図9)が挿入されている(軟骨マトリックスタンパク質(CMP)由来ペプチドのアミノ酸配列:配列番号9)。
・pET22b−wt−pentamer(五量体化ペプチド)
pET22b(+)のNdeI−XhoIサイト内に、図4(a)に示されるように、scFv、linker2及び軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP;Cartilage Oligomeric Matrix Protein)由来ペプチドをコードする遺伝子(配列番号10、図10)が挿入されている(軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)由来ペプチドのアミノ酸配列:配列番号11)。
scFv多量体の作製にはオーバーラップエクステンションPCRを用いた。scFv多量体作製に先駆けて、pET22b(+)のNdeI−XhoIサイト内に、C末端にLinker2を含むscFvをコードする遺伝子(配列番号12)を挿入した、“pET22−LH−linker”を作製した。このpET22−LH−linkerを、上記のpET22b−scFv−LH(モノマー)を鋳型としLH−Fw(5’−GAAGACTTACATATGGATATCCAGATGACCCAG−3’、配列番号13)とLH−linker 1−Rv(5’−CCGAAGCTTTTAGCAGCCAAACTCGCCAGAACCAGCAGCGGAGCCAGCTGAGCCGAATTCGGATCCGCTACTGACAGTCACCAGTG−3’、配列番号14)をプライマーとして用いたPCRにより増幅し、pET22b(+)のNdeIとHindIII部位に挿入した。続いてwt−pentamer作製するために、上記pET22−LH−linkerを鋳型としLH−Fw(5’−GAAGACTTACATATGGATATCCAGATGACCCAG−3’、配列番号15)とLinker 1−COMP−Rv(5’−GTGGGGCTAGGTCAAGCTTAAACTCGCCAGAACC−3’、配列番号16)を用いたPCR反応、及びpET22b−COMPを鋳型として、Linker 1−COMP−Fw(5’−CTGGCGAGTTTAAGCTTGACCTAGCCCCACAGATG−3’、配列番号17)とCOMP−Rv(5’−CCGCTCGAGTTATCCGCAAGCGTCACATTCCATC−3’、配列番号18)を用いたPCR反応をそれぞれ行った(1st PCR反応)。これら1st PCR産物それぞれを鋳型DNAとしてLH−Fw(5’−GAAGACTTACATATGGATATCCAGATGACCCAG−3’、配列番号19)とCOMP−Rv(5’−CCGCTCGAGTTATCCGCAAGCGTCACATTCCATC−3’、配列番号20)を用いて再度PCR反応を行った(2nd PCR反応)。この2nd PCR反応産物をpET22b(+)のNdeIとXhoI部位に挿入した(図11(a))。これをpET22b−wt−pentamerとした。
wt−dimer及びwt−trimer作製するため、PCR反応は、それぞれpET22b−GCN4を鋳型としGCN4−Fw(5’−CGGAAGCTTATGAAACAGCTGGAAGACAAAG−3’、配列番号21)とGCN4−Rv(5’−CCGCTCGAGTTATTCACCAACCAGTTTCTTCAGAC−3’、配列番号22)をプライマーとしたPCR、およびpET22b−CMPを鋳型としCMP−Fw(5’−CGGAAGCTTGAAGAAGATCCGTGCGAATGC−3’、配列番号23)とCMP−Rv(5’−CCGCTCGAGTTAGATGATTTTGTTTTCCAGCGC−3’、配列番号24)をプライマーとしたPCRを行った。各PCR産物をpET22b−wt−pentamerの HindIIIとXhoI部位に挿入した(図11(b))。それぞれpET22b−wt−dimerおよびpET22b−wt−trimerとした。
(変異導入)
次に、scFv一分子あたりの抗原結合能を意図的に下げるために、変異を導入した(図14(a)、(c))。トラスツズマブのscFvはHER2に対して強力に結合するため、野生型ではHER2を発現した正常細胞に結合する可能性がある。そこで、既報のHER2細胞外ドメイン(HER2−ECD(extracellular domain))とトラスツズマブのFabとの複合体結晶構造より、結合に関わるアミノ酸残基を確認し、結合能の抑制を検討した(図5(a))。該複合体結晶構造より、CDR2における重鎖50番目及び59番目のアルギニン残基(以下、各々「HC_R50」及び「HC_R59」という)は、HER2−ECDの558番目のグルタミン酸及び560番目のアスパラギン酸と強力にソルトブリッジを形成すること、またCDR1における重鎖33番目のチロシン残基(以下、HC_Y33」という)は、HER2−ECDの573番目のフェニルアラニンとΠ相互作用することが想定された(図5(b))。さらに、CDR1における軽鎖30番目のアスパラギン残基(以下、「LC_N30」という)は、HER2−ECDの602番目のグルタミン残基と極性相互作用をすること、またCDR2近傍のフレームワーク領域における軽鎖66番目のアルギニン残基(以下、「LC_R66」という)は、598番目のグルタミン酸と強力にソルトブリッジを形成することが想定された(図5(c))。そこで、これら結合に重要な残基であるHC_R50、HC_R59、HC_Y33、LC_N30及びLC_R66をそれぞれ中性アミノ酸であるアラニンに置換することにした。なお、比較例である野生型多量体分子(図14(b))では、変異を導入しなかった。
変異導入の方法について説明する(図12)。pET22b−scFv−LHを鋳型DNAとして以下の反応溶液50μLを準備し、PCR法により各プラスミドを増幅した。HC_Y33Aの増幅にはプライマーHC_Y33A_F(5’−GACACCGCGATCCACTGGGTTCGTCAA−3’(配列番号25))及びプライマーHC_Y33A_R(5’−GTGGATCGCGGTGTCCTTGATGTTAAA−3’(配列番号26))、HC_R50Aの増幅にはプライマーHC_R50A_F(5’−GTAGCTGCGATTTACCCGACAAATGGC−3’(配列番号27))及びプライマーHC_R50A_R(5’−GTAAATCGCAGCTACCCATTCCAAGCC−3’(配列番号28))、HC_R59Aの増幅にはプライマーHC_R59A_F(5’−CTATACCGCCTACGCAGATTCCGTCAA−3’(配列番号29))及びプライマーHC_R59A_R(5’−CTGCGTAGGCGGTATAGCCATTTGTCG−3’(配列番号30))、LC_N30Aの増幅にはプライマーLC_N30A_F(5’−GACGTGGCTACCGCGGTTGCC−3’(配列番号37))及びプライマーLC_N30A_R(5’−GGCAACCGCGGTAGCCACGTC−3’(配列番号38))、LC_R66Gの増幅にはプライマーLC_R66G_F(5’−GGTAGTGGCTCAGGGACCGAT−3’(配列番号39))及びプライマーLC_R66G_R(5’−ATCGGTCCCTGAGCCACTACC−3’(配列番号40))、HC_R50A/HC_R59Aの増幅にはscFv_HC_R50Aを鋳型DNAとし、上記プライマーHC_R59A_F及びHC_R59A_R、LC_N30A/HC_R50A/HC_R59Aの増幅にはscFv_HC_R50A/HC_R59Aを鋳型DNAとし、上記プライマーLC_N30A_F及びLC_N30A_R、LC_R66G/HC_R50A/HC_R59Aの増幅にはscFv_HC_R50A/HC_R59Aを鋳型DNAとし、上記プライマーLC_R66G_F及びLC_R66G_Rを使用した。PCR増幅産物をエタノール沈殿により精製し、大腸菌発現用プラスミドの調製に供した。作製したプラスミドを各々、pET22b−HC_Y33A、pET22b−HC_R50A、pET22b−HC_R59A、pET22b−LC_N30A、pET22b−LC_R66G、pET22b−HC_R50A/HC_R59A、pET22b−LC_N30A/HC_R50A/HC_R59A及びpET22b−LC_R66G/HC_R50A/HC_R59Aとした。
反応溶液は以下の通りである。
鋳型DNA 1μL
10xPCR Buffer 5μL
2mM dNTP mix 5μL
25mM MgSO4 4μL
プライマー1 1.5μL
プライマー2 1.5μL
KOD Plus DNA polymerase 1μL
滅菌蒸留水を加えて50μLに調製
サーマルサイクラーは以下の通りプログラムした。
(1)94℃ 2分
(2)98℃ 10秒
(3)55℃ 30秒
(4)68℃ 6分30秒
(5)68℃ 1分
(2)〜(4)を30サイクル行った。
scFv多量体へのCDR変異の導入は以下の方法に従って実施した(図13)。二量体変異体R59A−dimer及びHC_R50A/HC_R59A−dimerの作製は、pET22b−HC_R59A又はpET22b−HC_R50A/HC_R59AのNdeI−NcoI処理断片をpET22b−wt−dimerのNdeI−NcoI処理断片とそれぞれ連結することで作製した。作製したプラスミドをpET22b−HC_R59A−dimer及びpET22b−HC_R50A/HC_R59A−dimerとした。
同様に、三量体変異体HC_R59A−trimer、pET22b−HC_R50A/HC_R59A−trimer及びpET22b−LC_R66G/HC_R50A/HC_R59A−trimerは、pET22b−HC_R59A、pET22b−HC_R50A/HC_R59A又はpET22b−LC_R66G/HC_R50A/HC_R59AのNdeI−NcoI処理断片とpET22b−wt−trimerのNdeI−NcoI処理断片と連結することにより作製し、pET22b−HC_R59A−trimer、pET22b−HC_R50A/HC_R59A−trimer及びpET22b−LC_R66G/HC_R50A/HC_R59A−trimerとした。
(大腸菌発現用プラスミド)
上記の通り作製した各プラスミドを大腸菌体内に封入体として発現させた。
(プラスミドの調製)
プラスミド0.5μLを大腸菌DH5αコンピテントセル100μLに加え、氷上に約20分静置した後、42℃で45秒間インキュベートして形質転換した。形質転換後の大腸菌を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し37℃で一晩培養した。得られたシングルコロニーを、終濃度100μg/mLになるようにアンピシリンを加えた2×YT培地5mLに植菌し、37℃、150rpmの条件で一晩振盪培養した。培養液1.4mLを13,200rpm、1分間の条件で遠心分離し、上清を除去した。得られた大腸菌のペレットからアルカリ−SDS法とPCI抽出、アルコール沈殿を用いてプラスミドDNAを精製した。
(大腸菌発現系を用いた封入体の調製)
図14に示される各分子を、大腸菌体内に封入体として発現させた。上記の通り得られたプラスミドDNAで、大腸菌BL21(DE3)pLysS株(Novagen)を形質転換し、100μg/mLアンピシリン含有Luria−Bertani(LB)寒天培地に播種後、37℃で一晩培養した。得られたコロニーを50μg/mLアンピシリン、20μg/mLクロラムフェニコール含有2×YT培地(10mL)に植菌し、37℃で2〜4時間振盪培養した(前培養)。次に、前培養した10mLの菌液を50μg/mLアンピシリン、20μg/mLクロラムフェニコール含有2×YT培地(1L)へと植菌し、37℃で振盪培養した。対数増殖前期であるOD600=0.4〜0.6に達したら、IPTGを終濃度1mMとなるように加えて組換えタンパク質の発現を誘導し、その後37℃で4時間振盪培養した。培養後の菌液を遠心分離(5,000rpm、4℃、10分間)して大腸菌を回収した。菌体を懸濁バッファー(50mM Tris−HCl pH8.0、150mM NaCl)で懸濁して、氷上で超音波破砕を行った。破砕液を遠心分離し(8,000rpm、4℃、5分間)、得られた沈殿を洗浄バッファー(50mM Tris−HCl pH8.0、150mM NaCl、0.5% Triton X−100)で懸濁することによって洗浄し、懸濁液を遠心分離(8,000rpm、4℃、5分間)する洗浄作業を3回繰り返した。洗浄後、得られた沈殿から界面活性剤であるTriton X−100を除去するために、懸濁バッファーを用いて沈殿を懸濁後、懸濁液を遠心分離(8,000rpm、4℃、5分間)する洗浄操作を3回繰り返し、封入体を得た。得られた封入体に可溶化バッファー(50mM Tris−HCl pH8.0、6M guanidine−HCl、10mM EDTA)を加えて一晩4℃で振盪し、完全に可溶化した。封入体を可溶化させた後、各封入体溶液の吸光度を1μL分光光度計(ND−1000 Spectrophotometer、NanoDrop Technologies社)を用いて測定した。
(巻き戻し法による各タンパク質の調製)
各分子は、封入体から希釈法による巻き戻しを行うことで調製した。巻き戻しバッファー(0.1 M Tris−HCl pH8.0、1M L−arginine、2mM EDTA、3.73mM cystamine、6.73mM cysteamine)を用いて、タンパク質の終濃度が1〜2μMとなるように希釈を行った後、4℃で巻き戻しを行った。続いて、可溶化した封入体にDTTを終濃度10mMとなるように加え、室温で1時間インキュベートしたタンパク質溶液に対し、同巻き戻しバッファーを1滴ずつ、guanidine濃度が1.5Mになるまで加えた。希釈後の溶液を巻き戻しバッファーに1滴ずつ加え、タンパク質の終濃度が1〜2μMとなるように希釈した後、4℃で72時間攪拌した。巻き戻し後のタンパク質溶液はVIVAFlow system(MWCO:10,000,Sartorius社)、Amicon Ultra(MWCO:10,000Da、Millipore社)で限外ろ過濃縮を行った。
濃縮したタンパク質溶液はAKTA purifierシステム(GE社)を用いた液体クロマトグラフィーにて精製した。HiLoad26/60 Superdex75TM Prep gradeカラム(GE社)を用いてサイズ排除クロマトグラフィーを行った。この時、バッファーは20mM Tris−HCl pH8.0、100mM NaClを用いた。各二量体の精製にはHiLoad26/60 Superdex200TM Prep gradeカラム(GE社)を、各三量体及び各五量体の精製にはSuperose6TM GLカラム(GE社)をそれぞれ用いた。二量体以上の分子の精製の時、バッファーは20mM Tris−HCl pH8.0、400mM NaClを用いた。精製後のタンパク質溶液の吸光度を分光光度計(ND−1,000 Spectrophotometer、NanoDrop Technologies社)を用いて測定した。また、吸光度(Abs)の測定値から紫外吸収法を用いて各タンパク質溶液の濃度を算出した。各単量体の濃度算出時に用いたタンパク質の分子量は26,000Da、モル吸光係数は48,000L/mol・cmの値を用いた。ただし、HC_Y33A変異体の場合のみ、分子量は26,000Da、モル吸光係数は47,000L/mol・cmの値を用いた。各二量体の濃度算出時に用いたタンパク質の分子量は62,000Da、モル吸光係数は49,000L/mol・cmの値を用いた。各三量体の濃度算出時に用いたタンパク質の分子量は97,000Da、モル吸光係数は48,000L/mol・cmの値を用いた。各五量体の濃度算出時に用いたタンパク質の分子量は160,000Da、モル吸光係数は48,000L/mol・cmの値を用いた。
作製した分子を図14に示す。
(1)上記の通り変異を導入することでHER2への結合能を意図的に低下させた「scFv変異体」(図14(a))
・HC_Y33A:CDR1の重鎖33番目のチロシン残基(HC_Y33)をアラニンに置換したscFv変異体
・HC_R50A:CDR2の重鎖50番目のアルギニン残基(HC_R50)をアラニンに置換したscFv変異体
・HC_R59A:CDR2の重鎖59番目のアルギニン残基(HC_R59)をアラニンに置換したscFv変異体
・HC_R50A/HC_R59A:HC_R50及びHC_R59の両方をアラニンに置換したscFv変異体
・LC_N30A:CDR1の軽鎖30番目のアスパラギン残基(LC_N30)をアラニンに置換したscFv変異体
・LC_N30A/HC_R50A/HC_R59A:LC_N30、HC_R50及びHC_R59の全てをアラニンに置換したscFv変異体
・LC_R66G/HC_R50A/HC_R59A:CDR2近傍のフレームワーク領域の軽鎖66番目のアルギニン残基(LC_R66)をグリシンに、HC_R50及びHC_R59の各々をアラニンに置換したscFv変異体
(2)変異を導入していない野生型のscFvを多量体化させた「野生型多量体分子」(図14(b))(比較例)
・wt−dimer:野生型のscFvの二量体
・wt−trimer:野生型のscFvの三量体
・wt−pentamer:野生型のscFvの五量体
(3)scFv変異体を多量体化させた「抗体断片多量体分子」(図14(c))(実施例)
・HC_R59A−dimer:HC_R59Aの二量体
・HC_R50A/HC_R59A−dimer:HC_R50A/HC_R59Aの二量体
・HC_R59A−trimer:HC_R59Aの三量体
・HC_R50A/HC_R59A−trimer:HC_R50A/HC_R59Aの三量体
・LC_N30A/HC_R50A/HC_R59A−trimer:LC_N30A/HC_R50A/HC_R59Aの三量体
・LC_R66G/HC_R50A/HC_R59A−trimer:LC_R66G/HC_R50A/HC_R59Aの三量体
(実施例2)
(多量体化の確認)
野生型多量体分子(図14(b))について、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography:SEC)と多角度光散乱器(Multi Angle Light Scattering:MALS)とを組み合わせた測定方法(SEC−MALS)により解析した(図15(a))。SEC−MALSではSECにより分離した分子に照射して得られた静的散乱光から、分子の外形及び絶対分子量が明らかとなり、SEC単独よりも精度高く分子の大きさを解析することができる。測定条件は以下の通りである。
・測定機器:DAWN8(昭和サイエンティフィック)
・カラム:Superdex200 increase 10/300(GE Healthcare)
・バッファー:20mM Tris−HCl(pH8.0)、400mM NaCl
結果を図15(b)に示す。絶対分子量は、wt−dimer:66kDa、wt−trimer:78kDa、wt−pentamer:150kDaであった。解析結果及び分子量の比較より、野生型のscFvの二量体、三量体及び五量体が意図した通りに形成されていることが確認された。
(実施例3)
(scFv変異体の結合解析)
SPR法(表面プラズモン共鳴法)を用いて、各scFv変異体(HC_Y33A、HC_R50A、HC_R59A、LC_N30A、HC_R50A/HC_R59A及びLC_R66G/HC_R50A/HC_R59A、図14(a))及び抗体断多量体分子(HC_R59A−dimer、HC_R50A/HC_R59A−dimer、LC_R66G/HC_R50A/HC_R59A−trimer、図14(c))とHER2−ECD−Fcとの相互作用解析を行った。
センサーチップ上に固定したHER2−ECD−Fcに対し、各濃度のscFv変異体及び抗体断多量体分子を添加し、これらのセンサグラムを得て、速度論的パラメータを算出した。測定条件は以下の通りである。なお、ネガティブコントロールとして、Bovine serum albumin(BSA)を用いた。なお、HER2−ECD−Fcとして、R&D Systems社より購入したタンパク質(Recombinant Human ErbB2/Her2 Fc Chimera Protein,CF)を用いた。
本測定ではBIAcore2000、3000(GE healthcare)を用い、センサーチップCM5上にリガンドとしてHER2−ECD−Fc又はBSAをアミンカップリング法によりそれぞれ1200RU程度固定化し、各scFv変異体及び抗体断多量体分子のアナライトとしての希釈系列(4、8、16、32nM)を作成し、低濃度側から順次送液を行った(図16(a))。各濃度において、各scFv変異体をリガンドとした場合のセンサグラム(A)及びBSAをリガンドとした場合のセンサグラム(B)を差し引き(センサグラムA−センサグラムB)した。1:1結合モデル(Langmuir binding model)に近似することで速度論的パラメーター(kon、koff、K;K=koff/konより求まる。)を算出した(http://web.bf.uni−lj.si/bi/sprcenter/BiacoreT100/Session5%20BasicKinetics.pdfを参照)(図3)。近似式を以下に示す。
・測定機器:Biaocre 2000、3000(GE healthcare)
・チップ:CM5
・バッファー:HBS−EP
・リガンド:HER2−ECD−Fc
・リガンド固定化法:アミンカップリング法
・リガンド固定化量:1200RU
・アナライト濃度:4、8、16、32nM
・流速:30μL/min
・温度:30℃
結果を図16に示す。scFv変異体において(図16(b))、koffは、wt(野生型)で8.5×10−5(1/s)であったのに対して、HC_Y33Aで1.6×10−3(1/s)、HC_R50Aで2.1×10−3(1/s)、HC_R59Aで1.1×10−3(1/s)、LC_N30Aで1.3×10−3(1/s)、HC_R50A/HC_R59Aで5.0×10−3(1/s)、LC_R66G/HC_R50A/HC_R59Aで3.6×10−2(1/s)であり、変異型では解離が早くなることが明らかとなった。また、Kは、wt(野生型)で0.2(nM)であったのに対して、HC_Y33Aで3.1(nM)、HC_R50Aで7.2(nM)、HC_R59Aで5.1(nM)、LC_N30Aで2.2(nM)、HC_R50A/HC_R59Aで70(nM)、LC_R66G/HC_R50A/HC_R59Aで1100(nM)であり、変異型では結合親和性が低下したことが明らかとなった。以上より、単一変異体であるHC_Y33A、HC_R50A、HC_R59A、LC_N30Aでは野生型scFvの10倍以上、二重変異体であるHC_R50A/HC_R59Aでは100倍以上、三重変異体であるLC_R66G/HC_R50A/HC_R59Aでは1000倍以上解離定数が大きくなっており、抗原への結合親和性が低下したことが明らかとなった。これより、各種scFv変異体の結合能は想定通り、野生型scFvと比べて低下し、特に、解離が早くなることがわかった。また、HC_R50A及びHC_R59Aの二重変異導入、LC_N30A、HC_R50A及びHC_R59Aの三重変異導入により、結合能が相乗的に低下することが明らかとなった。
また、抗体断多量体分子の見かけの解離定数Kは、wt−dimer(野生型)で2.0×10−2(nM)であったのに対して、HC_R59A−dimerで0.48(nM)、HC_R50A/HC_R59A−dimerで5.9(nM)、LC_R66G/HC_R50A/HC_R59A−trimerで330(nM)であり、本実施例の抗体断多量体分子では結合親和性が低下したことが明らかとなった(図16(b))。また、HC_R50A及びHC_R59Aの二重変異導入、LC_N30A/HC_R50A及びHC_R59Aの三重変異導入により、結合能が相乗的に低下することが明らかとなった。図16の結果より、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有するscFv変異体は、変異を導入することで野生型scFvに比べて結合能を減少させる一方で、これを多量体すると10−3〜10nMの解離定数Kを有しており、期待どおりにアビディティ効果により各々の単量体に比べて結合能が向上した抗体を作ることができた。
(実施例4)
(scFv変異体の結合特異性)
次に、各scFv変異体(HC_Y33A、HC_R50A、HC_R59A及びHC_R50A/HC_R59A)の結合特異性への影響を調べるため、“HER2−ECD−Fc”、及び同じEGFRファミリーであるEGFRの細胞外ドメインの“EGFR−ECD”への結合実験を行った(図17(a))。HER2−ECD−Fc及びEGFR−ECDを、実施例3と同様の方法及び固定化量でセンサーチップに固定し、各濃度のscFv変異体を添加した。HER2−ECD−Fcについては、実施例3と同様のものを用い、EGFR−ECDについては下記の通り調製した。測定条件は以下の通りである。
・測定機器:Biaocre 3000(GE Healthcare)
・チップ:CM5
・リガンド固定化法:アミンカップリング法
・リガンド:HER2−ECD−Fc、EGFR−ECD
・リガンド固定化量:600−700RU
・アナライト濃度:野生型(wt)及び単変異体(HC_Y33A、HC_R50A):1μM、二重変異体(HC_R50A/HC_R59A):5mM
・バッファー:HBS−EP
・流速:30μL/min
・温度:30℃
EGFR−ECD(図17(b))の調製方法について説明する。カイコ−バキュロウイルス発現系により調製した(http://www.pssj.jp/archives/protocol/expression/Bacmid_01/Bacmid_01.htmlを参照)。Sf9(昆虫細胞)―バキュロウイルス発現系による調製例(Kathryn M.Ferguson(2000).Extracellular domains drive homo−but not hetero−dimerization of erbB receptors.EMBO J,19(17),4632−4643)も参照した。
1)コンストラクトの作製
EGFR全長遺伝子より、図17(b)のように分泌シグナル配列及びEGFR細胞外ドメイン(ECD、Ligand binding domain)をコードする遺伝子をpFastBac1(Invitrogen社)(図17(c))のBglII−XbaIサイト内に挿入した。PCRプライマーEGFR−F(5’−GGGGAAGATCTATGCGACCCTCCGGGACG−3’:配列番号31)とEGFR−R(5’−GCGCTTCTAGATTAGTGATGATGATGATGATGGCTGCTGCCGTGGCACACATGGCCGGC−3’:配列番号32)を用いて、図17(b)のように3’末端に6xHis(ヒスチジンタグ;精製用)を付加し、目的領域を増幅した。分泌シグナルにより目的タンパク質(EGFR−ECD)がカイコ体液に分泌発現されることが期待できる。
2)組換えBmNPVバクミド(カイコに感染するバキュロウイルスのゲノムDNA)の調製
氷上で溶かしたBmDH10Bacコンピテントセル(100μL)にのプラスミド(0.1〜1μg)を加え、氷上で30分インキュベートした。42℃で40秒ヒートショックを行い、氷上に2分静置した後、LB培地(1.4mL)を加え、37℃で1時間培養した。Tetracycline(終濃度10μg/mL)を加え、37℃で一晩培養した。Gentamicin(終濃度7μg/mL)を加え、37℃で2時間培養した。Kanamycin(終濃度50μg/mL)、Gentamicin(終濃度7μg/mL)、IPTG(終濃度200μM)、X−gal(終濃度40μg/mL)を含むLB寒天培地に播種した。白色コロニーについてdirect PCR(M13 Forward(−40):5’−GTTTTCCCAGTCACGAC−3’:配列番号33、M13 Reverse:5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’:配列番号34)によって目的遺伝子の有無を確認した(目的遺伝子がバクミドに挿入されていれば、約2,300bp+目的遺伝子のサイズのバンドが得られる)。目的遺伝子が挿入された組換えBmNPVバクミドを持つコロニーをkanamycin(終濃度50μg/mL)、gentamicin(終濃度 7μg/mL)を含むLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。増殖した大腸菌からEndoFree Plasmid Midi Kit(QIAGEN)を用いて、EGFR−ECD遺伝子が組み込まれた組換えBmNPVバクミドDNAを精製した。
3)組換えBmNPVバクミドDNAのカイコ幼虫への導入
組換えBmNPVバクミドDNA(1μg)とDMRIE−C(Invitrogen)(3μL)を混ぜ、室温で45分静置した。滅菌水(50μL)を加えて混ぜ、5齢カイコ幼虫(愛媛蚕種株式会社より購入)の腹部(尾部に近い方)に頭部へ向けて針(テルモシリンジ26G)を刺し接種した。このようにして10頭のカイコ幼虫に組換えBmNPVバクミドを導入した。組換えタンパク質を回収するまで、朝晩2回人工飼料を与え、飼育用タッパーに入れて25℃で飼育した。
4)組換えタンパク質の抽出
接種後6〜7日後、体色が黒くなることで感染成立を確認できる。幼虫の体液を回収し、ウエスタンブロッティングで目的タンパク質の発現を確認した。カイコ体液のメラニン化を防止するため、バッファーにチオ硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%となるように添加した。1.5mLチューブに5%チオ硫酸ナトリウム(50μL(体液の1/10量を目安))を入れておき、カイコ幼虫の足にシリンジの針を刺して穴をあけ、体液をチューブに受けた。カイコ幼虫1頭あたり約500μLの体液を回収した。10頭のカイコ幼虫から約5mLの体液を回収した。10,000xg×10min、4℃で遠心分離し、組換えタンパク質を含む上清を回収し、次の目的タンパク質を精製する工程に移った。
5)目的タンパク質の精製
EGFR−ECDの精製は、硫安沈殿、Niアフィニティークロマトグラフィー、2回のゲル濾過クロマトグラフィーによる4段階の工程で実施した。硫安沈殿では、終濃度が80%となるように飽和硫酸アンモニウム溶液をカイコ体液に加え、4℃で1時間程度ゆるやかに攪拌し、10,000xg、20minで遠心分離した。ペレットを回収し次の実験で用いるバッファー(25mM TrisHCl pH8.0、150mM NaCl)に溶解した。Ni−NTA(QIAGEN)樹脂をカラムに充填し、上記バッファーで平衡化した。その後硫安沈殿で回収したペレット溶解液をカラムに供し、50、100、300mMイミダゾールを含むバッファーにて溶出した。EGFR−ECDを含む画分を回収し、Superose 6 GLカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーを行った。ランニングバッファーは上記と同様25 mM TrisHCl pH8.0、150mM NaClを用いた。EGFR−ECDを含む画分を回収し、Superdex200 10/300 GLカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーを行った。ランニングバッファーは上記と同じものを用いた。EGFR−ECDを含む画分を回収しこれを最終精製品とした。各精製段階およびクロマトグラフィー後の純度についてはSDS−PAGEにより確認した。
結果を図17(d)に示す。各scFv変異体は野生型同様、EGFRには結合せず抗原HER2に対して特異的に相互作用することが明らかとなった。
(実施例5)
(抗体断片多量体分子の結合能解析)
次に、野生型多量体分子(wt−dimer:二量体、wt−trimer:三量体、wt−pentamer:五量体)の抗原結合実験を行った。実施例3と同様の方法により、チップ上に固定したHER2−ECD−Fcに対して各濃度の多量体を添加して、結合能を解析した。測定条件は以下の通りである。なお、ネガティブコントロールとして、BSAを用いた。また、HER2−ECD−Fcについては、実施例3と同様のものを用いた。
・測定機器:Biacore 3000(GE healthcare)
・チップ:CM5
・リガンド固定化法:アミンカップリング法
・リガンド固定化量:1200RU
・バッファー:HBS−EP
・流速:30μL/min
・温度:30℃
・再生条件:10mM Glycine−HCl(pH 2.5)、125mM NaCl
結果を図18に示す。各野生型多量体分子はHER2−ECD−Fcに対して結合し、二量体及び三量体は、単量体と同条件でチップ表面から解離できることが分かった(図18(a)、(b))。しかし、五量体では、リガンドとの複合体形成により安定化し、同条件で解離させることができなかった(図18(c))。これにより、scFv単量体を抗原から解離させるのに十分な条件下において、量体数が上がるにつれ抗原から解離しにくくなっていることが分かった。つまり、量体数が上がるにしたがって、アビディティ効果によって、抗原と強力に相互作用することが明らかとなった。
(実施例6)
(HER2高発現細胞を用いた細胞表面滞留性の検討)
続いて、HER2高発現細胞を用いて、細胞表面滞留性が多量体化により向上したか否かについて調べた。実験には、HER2高発現細胞として卵巣癌腺腫由来SK−OV−3を用い、Adams GPらが実施した細胞表面滞留性試験方法に倣った(Adams GP,et al.Br J Cancer 1998,vol.77,1405−1412.)。具体的には、N末端アミノ酸残基及び表面リジン残基をビオチン化したトラスツズマブ全長抗体、scFv(実施例1で作製したpET22b−scFv−LH(モノマー)から実施例1と同様の方法で発現させたタンパク質)、wt−dimer及び抗体断片多量体分子(HC_R59A−dimer、HC_R50A/HC_R59A−dimer(HC_R50A/HC_R59A二重変異))をSK−OV−3とインキュベートし、細胞表面に結合したままの抗体をストレプトアビジンにて標識することで、フローサイトメトリーにより解析した。より具体的には、SK−OV−3に対する抗体の添加後、0、1、2、3時間後に細胞を回収し、蛍光標識ストレプトアビジンの添加及びFACS解析を行うことで、細胞表面の経時的な抗体残存率を評価した。測定条件は以下の通りである。なお、トラスツズマブ全長抗体として、Roche社より購入した抗体(Herceptin(登録商標))を用いた。
・細胞:SK−OV−3(卵巣癌細胞、HER2過剰発現)
・細胞数:1.3×10
・抗体:ビオチン化した上記の抗体(全長15mg、その他5−6mg)
・ネガティブコントロール:human myeloma IgG kappa
・測定機器:FACScalibur(Becton Dickinson)
・バッファー:FACS buffer(1×PBS、1% BSA、0.1% NaN
結果を図19に示す。全長抗体、scFv、wt−dimer(野生型二量体)の抗体残存率の時間変化を比較すると、scFv断片化により癌細胞表面抗原への滞留性が減少したことが示された(図19(a))。また、3時間後抗体残存率を比較すると、単量体及び二量体では抗原結合部位の変異により滞留性が低下すること、さらに、R59Aを二量体化することで、滞留性が向上することが示された(図19(b))。
(実施例7)
抗体医薬品であるセツキシマブをモデル抗体として、可変領域およびその周辺へ変異導入を行い、多量体形成ペプチドの付加による多量体化を試みた。
セツキシマブは、上皮増殖因子受容体ファミリーのEGFRを抗原とする分子標的薬であり、EGFR過剰発現が確認された転移性大腸癌や頭頸部癌で適応されるヒト化モノクローナル抗体である。
セツキシマブから一本鎖Fv抗体断片(scFv)を作製し、一分子あたりの抗原結合能を意図的に低下させたscFv変異体を、蛋白質工学的なアプローチにより多量体化させた。セツキシマブのVLのアミノ酸配列は配列番号35、VHのアミノ酸配列は配列番号36に示される。
(コンストラクト作製)
まず、以下の2種のコンストラクトを作製した。使用したベクターは、pET22b(+)である(図7)。
・pET22b−scFv−LH(モノマー)
pET22b(+)のNdeI−HindIIIサイト内に、scFvをコードする遺伝子(アミノ酸配列:配列番号41、DNA配列:配列番号42)が挿入されている。
(変異導入)
次に、scFv一分子あたりの抗原結合能を意図的に下げるために、変異を導入した(図20(a)、(b))。セツキシマブのscFvはEGFRに対して強力に結合するため、野生型ではEGFRを発現した正常細胞に結合する可能性がある。そこで、既報のEGFR細胞外ドメイン(EGFR−ECD(extracellular domain))とセツキシマブのFabとの複合体結晶構造より、結合に関わるアミノ酸残基を確認し、結合能の抑制を検討した。該複合体結晶構造より、CDR1における軽鎖27番目のグルタミン残基(以下、「LC_Q27」という)は、EGFR−ECDの473番目のグルタミン酸残基と極性相互作用を形成することが想定された(図20(b))。そこで、この結合に重要な残基であるLC_Q27を中性アミノ酸であるアラニンに置換することにした。なお、比較例である野生型では、変異を導入しなかった。
変異導入の方法について説明する。pET22b−scFv−LHを鋳型DNAとして以下の反応溶液50μLを準備し、PCR法により各プラスミドを増幅した。LC_Q27Aの増幅にはプライマーLC_Q27A_F(5’−GCATCAGCCTCGATTGGTACCAATATC−3’(配列番号43))及びプライマーLC_Q27A_R(5’−GATATTGGTACCAATCGAGGCTGATGC−3’(配列番号44))を使用した。PCR増幅産物をエタノール沈殿により精製し、大腸菌発現用プラスミドの調製に供した。作製したプラスミドを、pET22b−LC_Q27Aとした。
反応溶液は以下の通りである。
鋳型DNA 1μL
10xPCR Buffer 5μL
2mM dNTP mix 5μL
25mM MgSO4 4μL
プライマー1 1.5μL
プライマー2 1.5μL
KOD Plus DNA polymerase 1μL
滅菌蒸留水を加えて50μLに調製
サーマルサイクラーは以下の通りプログラムした。
(1)94℃ 2分
(2)98℃ 10秒
(3)55℃ 30秒
(4)68℃ 6分30秒
(5)68℃ 1分
(2)〜(4)を30サイクル行った。
(大腸菌発現用プラスミド)
上記の通り作製した各プラスミドを実施例1と同様の方法により大腸菌体内に封入体として発現させた。
(scFv変異体の結合解析)
SPR法(表面プラズモン共鳴法)を用いて、scFv変異体(LC_Q27A)とEGFR−ECDとの相互作用解析を行った。
センサーチップ上に固定したEGFR−ECDに対し、各濃度のscFv変異体及び抗体断多量体分子を添加し、これらのセンサグラムを得て、速度論的パラメータを算出した。測定条件は以下の通りである。なお、ネガティブコントロールとして、Bovine serum albumin(BSA)を用いた。なお、EGFR−ECDとして実施例4と同様のカイコ発現系により調製したタンパク質を用いた。
本測定ではBIAcore2000、3000(GE healthcare)を用い、センサーチップCM5上にリガンドとしてHER2−ECD−Fc又はBSAをアミンカップリング法によりそれぞれ1200RU程度固定化し、各scFv変異体及び抗体断多量体分子のアナライトとしての希釈系列(13、25、50、100、200nM)を作成し、低濃度側から順次送液を行った(図20(c))。各濃度において、各scFv変異体をリガンドとした場合のセンサグラム(A)及びBSAをリガンドとした場合のセンサグラム(B)を差し引き(センサグラムA−センサグラムB)した。1:1結合モデル(Langmuir binding model)に近似することで速度論的パラメーター(kon、koff、K;K=koff/konより求まる。)を算出した(http://web.bf.uni−lj.si/bi/sprcenter/BiacoreT100/Session5%20BasicKinetics.pdfを参照)(図3)。近似式については前述同様である。
・測定機器:Biaocre 2000、3000(GE healthcare)
・チップ:CM5
・バッファー:HBS−EP
・リガンド:HER2−ECD−Fc
・リガンド固定化法:アミンカップリング法
・リガンド固定化量:600RU
・アナライト濃度:13、25、50、100、200nM
・流速:30μL/min
・温度:25℃
結果を図20(d)に示す。scFv変異体において、koffは、wt(野生型)で1.4×10−3(1/s)であったのに対して、LC_Q27Aで5.9×10−3(1/s)であり、変異型では解離が早くなることが明らかとなった。また、Kは、wt(野生型)で0.70(nM)であったのに対して、LC_Q27Aで5.4(nM)であり、変異型では結合親和性が低下したことが明らかとなった。以上より、単一変異体であるLC_Q27Aでは野生型scFvの10倍程度解離定数が大きくなっており、抗原への結合親和性が低下したことが明らかとなった。これより、scFv変異体の結合能は想定通り、野生型scFvと比べて低下し、特に、解離が早くなることがわかった。
本実施例で作製されたセツキシマブのscFv変異体は、多量化することで、結合価数の増加によるアビディティ効果が得られ、高い標的選択性及び高い親和性を有することが期待される。また、例えば、先の実施例で作製されたトラスツズマブのscFv変異体とヘテロ多量体分子を作製することができる。
以上より、本実施例による抗体断片多量体分子では、一抗体断片分子あたりの抗原結合能の低下、多量体化による抗原結合能の向上、及び細胞表面への滞留性の向上が見られた。
なお、本発明は、本発明の広義の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本発明は、2017年12月19日に出願された日本国特許出願2017−243122号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2017−243122号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。

Claims (15)

  1. 一本鎖Fv抗体断片の2以上の多量体であり、
    抗原に対して、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有し、
    前記一本鎖Fv抗体断片は、前記抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する、
    ことを特徴とする抗体断片多量体分子。
  2. 前記一本鎖Fv抗体断片は、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を有する、
    ことを特徴とする請求項1に記載の抗体断片多量体分子。
  3. 前記一本鎖Fv抗体断片の重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の抗体断片多量体分子。
  4. 前記一本鎖Fv抗体断片は、重鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入され、かつ、軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている、
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子からなる医薬品。
  6. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子からなる抗腫瘍剤。
  7. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子からなる自己免疫疾患治療剤。
  8. 腫瘍の治療に使用するための請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子。
  9. 自己免疫疾患の治療に使用するための請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子。
  10. 抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片を、2以上の多量体に多量体化することで、前記抗原に対して、10−3〜10nMの見かけの解離定数Kを有する抗体断片多量体分子を得る工程を含む抗体断片多量体分子の作製方法。
  11. 前記一本鎖Fv抗体断片の重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において少なくとも1つのアミノ酸配列において変異を生じさせる、
    ことを特徴とする請求項10に記載の抗体断片多量体分子の作製方法。
  12. 前記一本鎖Fv抗体断片の重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域において、1又は数個のアミノ酸を置換、欠失、付加又は挿入させる、
    ことを特徴とする請求項10又は11に記載の抗体断片多量体分子の作製方法。
  13. 前記一本鎖Fv抗体断片は、重鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入され、かつ、軽鎖の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されている、
    ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の抗体断片多量体分子の作製方法。
  14. 抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片を用いる、
    ことを特徴とする抗体断片多量体分子の作製方法。
  15. 抗原に対して、10−5〜10−1の解離速度定数koffを有し、かつ10−1〜10nMの解離定数Kを有する一本鎖Fv抗体断片。
JP2019560543A 2017-12-19 2018-12-19 抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法 Pending JPWO2019124461A1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017243122 2017-12-19
JP2017243122 2017-12-19
PCT/JP2018/046869 WO2019124461A1 (ja) 2017-12-19 2018-12-19 抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPWO2019124461A1 true JPWO2019124461A1 (ja) 2020-12-24

Family

ID=66992581

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2019560543A Pending JPWO2019124461A1 (ja) 2017-12-19 2018-12-19 抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JPWO2019124461A1 (ja)
WO (1) WO2019124461A1 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114981303B (zh) * 2019-09-13 2024-01-23 安徽俊义医疗管理咨询有限公司 人源化抗Claudin18.2(CLDN18.2)抗体

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20070264687A1 (en) * 2005-12-15 2007-11-15 Min-Yuan Chou Recombinant triplex scaffold-based polypeptides
JP5614606B2 (ja) * 2008-11-17 2014-10-29 国立大学法人東北大学 多量体化低分子抗体
EP2427496A4 (en) * 2009-04-03 2013-05-15 Vegenics Pty Ltd ANTI-VEGF-D ANTIBODIES
EP3138907B1 (en) * 2014-05-02 2020-02-26 Shinshu University Antibody gene expression-secretion system
DK3228706T3 (da) * 2014-12-03 2021-07-26 Azusapharma Sciences Inc Coekspressionsplasmid

Also Published As

Publication number Publication date
WO2019124461A1 (ja) 2019-06-27

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP7314356B2 (ja) 改変j鎖を有する結合分子
US11692031B2 (en) Antibody constructs for CLDN18.2 and CD3
EP3348571B1 (en) Single domain antibody for programmed death-ligand (pd-l1) and derived protein thereof
CN107216389B (zh) 抗pd-l1纳米抗体及其编码序列和用途
US20220315658A1 (en) Anti-pd-l1 single-domain antibody and derivatives and use thereof
CN106459216B (zh) 多特异性抗体构建体
WO2015184941A1 (zh) 一种cd7纳米抗体、其编码序列及应用
JP2018529317A (ja) メソテリン及びcd3に結合する二重特異性抗体構築物
JP7165265B2 (ja) Her2/pd1二重特異性抗体
TW200922944A (en) Trimeric soluble antibody and the generating and using method thereof
KR20190137077A (ko) T 세포 관여 항체 구축물을 포함하는 저 pH 약제학적 조성물
KR20230066491A (ko) 다가 메디토프, 메디토프 결합 항체 및 이의 용도
CN108712908A (zh) 自交联抗体
CN108948196A (zh) Cd40l-特异性tn3-衍生的支架及其使用方法
US8394924B2 (en) Directed engagement of activating Fc receptors
WO2021219127A1 (zh) 一种靶向her2和pd-1的双特异性抗体及其应用
WO2014063368A1 (zh) 抗人死亡受体5胞外区的人源化单克隆抗体
JP2022521937A (ja) NKp30に結合する抗体分子およびその使用
JP2021516537A (ja) C−met結合剤
JP2024504124A (ja) 新規の抗グレムリン1抗体
EP4194002A1 (en) Tgf-? rii mutant and fusion protein thereof
JPWO2019124461A1 (ja) 抗体断片多量体分子、医薬品、抗腫瘍剤、自己免疫疾患治療剤及び抗体断片多量体分子の作製方法
US20240209114A1 (en) Anti-masp2 antibody, antigen-binding fragment thereof and medical use thereof
JP7510209B2 (ja) ヘルパーT細胞TGF-βシグナルを特異的に中和する二重特異性抗体、その薬物組成物およびその使用
AU2022229993A9 (en) Pharmaceutical composition containing anti-tslp antibody

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20200624

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20200731