JPWO2016017631A1 - γ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの製造方法 - Google Patents

γ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2016017631A1
JPWO2016017631A1 JP2016538361A JP2016538361A JPWO2016017631A1 JP WO2016017631 A1 JPWO2016017631 A1 JP WO2016017631A1 JP 2016538361 A JP2016538361 A JP 2016538361A JP 2016538361 A JP2016538361 A JP 2016538361A JP WO2016017631 A1 JPWO2016017631 A1 JP WO2016017631A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
glutamylcysteine
reaction
gsh
glutathione
amino acid
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Ceased
Application number
JP2016538361A
Other languages
English (en)
Inventor
増俊 野尻
増俊 野尻
八十原 良彦
良彦 八十原
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kaneka Corp
Original Assignee
Kaneka Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kaneka Corp filed Critical Kaneka Corp
Publication of JPWO2016017631A1 publication Critical patent/JPWO2016017631A1/ja
Ceased legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12PFERMENTATION OR ENZYME-USING PROCESSES TO SYNTHESISE A DESIRED CHEMICAL COMPOUND OR COMPOSITION OR TO SEPARATE OPTICAL ISOMERS FROM A RACEMIC MIXTURE
    • C12P21/00Preparation of peptides or proteins
    • C12P21/02Preparation of peptides or proteins having a known sequence of two or more amino acids, e.g. glutathione
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N9/00Enzymes; Proenzymes; Compositions thereof; Processes for preparing, activating, inhibiting, separating or purifying enzymes
    • C12N9/10Transferases (2.)
    • C12N9/12Transferases (2.) transferring phosphorus containing groups, e.g. kinases (2.7)
    • C12N9/1229Phosphotransferases with a phosphate group as acceptor (2.7.4)
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N9/00Enzymes; Proenzymes; Compositions thereof; Processes for preparing, activating, inhibiting, separating or purifying enzymes
    • C12N9/93Ligases (6)
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12PFERMENTATION OR ENZYME-USING PROCESSES TO SYNTHESISE A DESIRED CHEMICAL COMPOUND OR COMPOSITION OR TO SEPARATE OPTICAL ISOMERS FROM A RACEMIC MIXTURE
    • C12P19/00Preparation of compounds containing saccharide radicals
    • C12P19/26Preparation of nitrogen-containing carbohydrates
    • C12P19/28N-glycosides
    • C12P19/30Nucleotides
    • C12P19/32Nucleotides having a condensed ring system containing a six-membered ring having two N-atoms in the same ring, e.g. purine nucleotides, nicotineamide-adenine dinucleotide
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12YENZYMES
    • C12Y207/00Transferases transferring phosphorus-containing groups (2.7)
    • C12Y207/04Phosphotransferases with a phosphate group as acceptor (2.7.4)
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12YENZYMES
    • C12Y603/00Ligases forming carbon-nitrogen bonds (6.3)
    • C12Y603/02Acid—amino-acid ligases (peptide synthases)(6.3.2)
    • C12Y603/02002Glutamate-cysteine ligase (6.3.2.2)
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12YENZYMES
    • C12Y603/00Ligases forming carbon-nitrogen bonds (6.3)
    • C12Y603/02Acid—amino-acid ligases (peptide synthases)(6.3.2)
    • C12Y603/02003Glutathione synthase (6.3.2.3)
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N9/00Enzymes; Proenzymes; Compositions thereof; Processes for preparing, activating, inhibiting, separating or purifying enzymes

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Wood Science & Technology (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • General Engineering & Computer Science (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • General Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Enzymes And Modification Thereof (AREA)

Abstract

本発明は、グルタチオン及びその前駆体であるγ−グルタミルシステインを高収率で製造する方法を提供することを解決課題とする。本発明のグルタチオンの製造方法は、上記課題を解決する手段として、低酸素雰囲気下でL−システインとL−グルタミン酸とを反応させてγ−グルタミルシステインを生成する工程A’と、低酸素雰囲気下でγ−グルタミルシステインとグリシンとを反応させてグルタチオンを生成する工程B’とを含む。

Description

本発明はγ−グルタミルシステインを製造する方法に関する。
本発明はまたグルタチオンを製造する方法に関する。
グルタチオンは、L−システイン、L−グルタミン酸、グリシンの3つのアミノ酸から成るペプチドで、人体だけでなく、他の動物や植物、微生物など多くの生体内に存在し、活性酸素の消去作用、解毒作用、アミノ酸代謝など、生体にとって重要な化合物である。
グルタチオンは生体内で、L−システイン残基のチオール基が還元されたSHの形態である還元型のグルタチオン(N−(N−γ−L−グルタミル−L−システイニル)グリシン、以下「GSH」と称することがある)と、L−システイン残基のチオール基が酸化されグルタチオン2分子間でジスルフィド結合を形成した形態である酸化型グルタチオン(以下「GSSG」と称することがある)とのいずれかの形態で存在する。
グルタチオンの製造方法としてはサッカロマイセス・セレビジエやキャンディダ・ユーティリスを用いた発酵法(非特許文献1)、及びL−グルタミン酸、L−システイン、グリシン及び界面活性剤や有機溶媒の存在下、γ−グルタミルシステイン合成酵素やグルタチオン合成酵素を組換え生産させたエシェリヒア・コリやサッカロマイセス・セレビジエの菌体を酵素源として用いる酵素法(特許文献1、2)(非特許文献1、2)等が一般的である。
特開昭60−27396号公報 特開昭60−27397号公報
Appl. Microbial. Biotechnol., 66, 233 (2004) Appl. Environ. Microbial., 44, 1444 (1982)
本発明者らは、大気雰囲気下において、酵素を用いてL−システインとL−グルタミン酸とからγ−グルタミルシステインを製造する工程を行う場合に、γ−グルタミルシステインだけでなく、副生成物として、L−システイン残基のチオール基が酸化されて2分子のγ−グルタミルシステインがジスルフィド結合を介して結合してなる化合物である酸化型γ−グルタミルシステインが相当量生じ、γ−グルタミルシステインの収率が低下するという課題があることを見出した。
更に本発明者らは、大気雰囲気下において、酵素を用いてγ−グルタミルシステインとグリシンとからグルタチオンを合成する工程を行う場合に、還元型であるグルタチオンだけでなく、副生成物として酸化型グルタチオンが相当量生じ、グルタチオンの収率が低下するという課題があることを見出した。
反応を酵素を用いて行わない場合にも同様の課題があると考えられる。
本発明は、酸化型γ−グルタミルシステインの副生成が抑制された、γ−グルタミルシステインの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。また本発明は、酸化型グルタチオンの副生成が抑制された、グルタチオンの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
なお、本発明において「グルタチオン」又は「GSH」は専ら「還元型グルタチオン」を意味し、酸化型のグルタチオンは「酸化型グルタチオン」又は「GSSG」と表現する。また本発明において「γ−グルタミルシステイン」は専ら「還元型γ−グルタミルシステイン」を意味し、2分子のγ−グルタミルシステインが酸化して−S−S−結合により結合した化合物は「酸化型γ−グルタミルシステイン」と表現する。
本明細書では上記課題を解決するための手段として、以下の発明を開示する。
(1)L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、γ−グルタミルシステイン合成酵素及び2機能性グルタチオン合成酵素からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP,アデノシン5’−三リン酸ともいう)の存在下での作用により反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程Aを含むことを特徴とする、γ−グルタミルシステインの製造方法。
当該(1)の方法では、副生物である酸化型γ−グルタミルシステインの生成が抑制され、γ−グルタミルシステインを高効率で製造することができる。
(2)前記工程Aが、アデノシン二リン酸(ADP,アデノシン5’−二リン酸ともいう)をアデノシン三リン酸(ATP)へと再生するATP再生反応と共役させて行われる、(1)に記載の方法。
当該(2)の方法では、工程Aで消費されるATPを再生できATPの添加量を低減することができる。
(3)前記γ−グルタミルシステイン合成酵素がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来である、(1)又は(2)に記載の方法。
当該(3)の方法で用いられるγ−グルタミルシステイン合成酵素は、L−システインとL−グルタミン酸からγ−グルタミルシステインを生成する活性が特に高いため好ましい。
(4)前記2機能性グルタチオン合成酵素がストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)由来である、(1)又は(2)に記載の方法。
当該(4)の方法で用いられる2機能性グルタチオン合成酵素は、L−システインとL−グルタミン酸からγ−グルタミルシステインを生成する活性が特に高いため好ましい。
(5)γ−グルタミルシステインとグリシンとを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、グルタチオン合成酵素及び2機能性グルタチオン合成酵素からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、グルタチオンを生成する工程Bを含むことを特徴とする、グルタチオンの製造方法。
当該(5)の方法では、副生物である酸化型グルタチオンの生成が抑制され、グルタチオンを高効率で製造することができる。
(6)前記工程Bが、アデノシン二リン酸(ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)へと再生するATP再生反応と共役させて行われる、(5)に記載の方法。
当該(6)の方法では、工程Bで消費されるATPを再生できATPの添加量を低減することができる。
(7)前記グルタチオン合成酵素がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来である、(5)又は(6)に記載の方法。
当該(7)の方法で用いられるグルタチオン合成酵素は、γ−グルタミルシステインとグリシンとからグルタチオンを生成する活性が特に高いため好ましい。
(8)前記2機能性グルタチオン合成酵素がストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)由来である、(5)又は(6)に記載の方法。
当該(8)の方法で用いられる2機能性グルタチオン合成酵素は、γ−グルタミルシステインとグリシンとからグルタチオンを生成する活性が特に高いため好ましい。
(9)L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、γ−グルタミルシステイン合成酵素及び2機能性グルタチオン合成酵素からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程Aを更に含み、
前記工程Bに用いられるγ−グルタミルシステインが、前記工程Aにより生成されたものである、
(5)〜(8)のいずれかに記載の方法。
当該(9)の方法によれば、L−システインとL−グルタミン酸とから、副生成物である酸化型γ−グルタミルシステイン及び酸化型グルタチオンの生成量が少なく効率よくグルタチオンを製造することができる。
(10)前記工程Aが、アデノシン二リン酸(ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)へと再生するATP再生反応と共役させて行われる、(9)に記載の方法。
当該(10)の方法によれば、工程Aで消費されるATPを再生できATPの添加量を低減することができる。
(11)前記γ−グルタミルシステイン合成酵素がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来である、(9)又は(10)に記載の方法。
当該(11)の方法に用いられるγ−グルタミルシステイン合成酵素は、L−システインとL−グルタミン酸からγ−グルタミルシステインを生成する活性が特に高いため好ましい。
(12)前記2機能性グルタチオン合成酵素がストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)由来である、(9)又は(10)に記載の方法。
当該(12)の方法に用いられる2機能性グルタチオン合成酵素は、L−システインとL−グルタミン酸からγ−グルタミルシステインを生成する活性が特に高いため好ましい。
(13)L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程A’を含むことを特徴とする、γ−グルタミルシステインの製造方法。
当該(13)の方法では、副生物である酸化型γ−グルタミルシステインの生成が抑制され、γ−グルタミルシステインを高効率で製造することができる。本方法では、より好ましくは前記工程A’が(1)に記載の前記工程Aである。
(14)γ−グルタミルシステインとグリシンとを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、グルタチオンを生成する工程B’を含むことを特徴とする、グルタチオンの製造方法。
当該(14)の方法では、副生物である酸化型グルタチオンの生成が抑制され、グルタチオンを高効率で製造することができる。本方法では、より好ましくは前記工程B’が(5)に記載の前記工程Bである。
(15)L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程A’を更に含み、
前記工程B’に用いられるγ−グルタミルシステインが、前記工程A’により生成されたものである、(14)に記載の方法。
当該(15)の方法では、副生物である酸化型γ−グルタミルシステイン及び酸化型グルタチオンの生成が抑制され、グルタチオンを高効率で製造することができる。本方法では、より好ましくは前記工程A’が(1)に記載の前記工程Aである。
なお、本明細書において「L−システイン」、「L−グルタミン酸」、「グリシン」「γ−グルタミルシステイン」、「グルタチオン」、「L−シスチン」、「酸化型γ−グルタミルシステイン」、「酸化型グルタチオン」、「アデノシン三リン酸」、「アデノシン二リン酸」、「アデノシン一リン酸」、「縮合リン酸」、「ポリリン酸」等の各用語は、それぞれ、各化合物の形態を限定するものではなく、フリー体の形態であってもよいし、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩の形態や、水和物等の溶媒和物の形態や、電離したイオンの形態である場合も包含する。
本発明において大気とは地上の大気、すなわち空気を指す。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2014−154026号の開示内容を包含する。
本発明は、酸化型γ−グルタミルシステインの副生成が抑制された、γ−グルタミルシステインの製造方法を提供する。本発明はまた、酸化型グルタチオンの副生成が抑制された、グルタチオンの製造方法を提供する。
<本発明で用いる酵素>
本明細書では、γ−グルタミルシステイン合成酵素を「GSH I」、グルタチオン合成酵素を「GSH II」、2機能性グルタチオン合成酵素を「GSH F」、アデニル酸キナーゼを「ADK」、ポリリン酸依存的AMPトランスフェラーゼを「PAP」とそれぞれ略記する場合がある。
<GSH I>
本発明に用いられるγ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)は、ATPの存在下でL−システイン(L−Cys)を基質として認識し、L−グルタミン酸(L−Glu)と結合させることでγ−Glu−Cysを生成する反応を触媒する活性を有する酵素であり、当該活性を有する限りその起源、構造等は特に限定されない。本発明において、当該活性を、γ−グルタミルシステイン合成酵素活性という。当該活性の1Uは、30℃で1分間に1μmolのγ−グルタミルシステインを生成する活性を意味し、以下の測定条件で測定したものである。
(測定条件)
10mM ATP、15mM L−グルタミン酸、15mM L−システイン、10mM 硫酸マグネシウムを含有する50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)に酵素液を添加して30℃で保温することで反応を行い、6N 塩酸を添加することで反応を停止させる。高速液体クロマトグラフィーを用いて反応液中のγ−グルタミルシステインを定量する。
上記高速液体クロマトグラフィーの条件は以下の通りである。この条件では、グルタチオン(GSH)、γ−グルタミルシステイン(γ−GC)、酸化型γ−GC、酸化型グルタチオン(GSSG)の順で溶出する。
[HPLC条件]
カラム:ODS−HG−3(4.6mmφ×150mm、野村化学社製);
溶離液:リン酸2水素カリウム12.2g及びヘプタンスルホン酸ナトリウム3.6gを蒸留水1.8Lで溶解した後、該溶液をリン酸でpH2.8に調整し、メタノール186mlを追加して溶解した液;
流速:1.0ml/分;
カラム温度:40℃;
測定波長:210nm
GSH Iとしてはタンパク質1mgあたりのγ−グルタミルシステイン合成酵素活性(比活性)が0.5U以上のものを使用することが好ましい。
GSH Iの起源は特に限定されず微生物、動物、植物等に由来するものを用いることができる。微生物由来のGSH Iが好ましく、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等の腸内細菌や、コリネ型細菌等の細菌、酵母等の真核微生物等に由来するGSH Iが好ましい。
エシェリヒア・コリ由来のGSH Iの塩基配列、及び該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の具体例を、それぞれ配列番号1及び配列番号9に示す。
GSH Iとしてはまた、配列番号9に示すアミノ酸配列からなるGSH Iに限らず、その活性変異体や他種オルソログ等の、GSH I活性を有する他のポリペプチドも使用できる。GSH I活性を有する他のポリペプチドは、好ましくは、上記の活性測定条件において、配列番号9に示すアミノ酸配列からなるGSH Iを用いた場合の10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の活性を示すポリペプチドである。上記の活性変異体、他種オルソログ等の、GSH I活性を有する他のポリペプチドには、例えば、配列番号9に示すアミノ酸配列において、1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(特に好ましくは、配列番号9に示すアミノ酸配列のN末端及びC末端の一方又は両方において合計で1〜複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加、好ましくは欠失及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド)や、配列番号9に示すアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが該当する。更に、配列番号9に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号9に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなる前記ポリペプチド、並びに、配列番号9に示すアミノ酸配列に対して前記のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる前記ポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリペプチドの、GSH I活性を有する断片も、前記他のポリペプチドとして使用することができ、該断片としては、アミノ酸数が好ましくは250以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、より好ましくは500以上のポリペプチドを用いることができる。本明細書において「複数個」とは、例えば、2〜20個、2〜15個、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個又は2〜3個をいう。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、配列番号9に示すタンパク質の全アミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。アミノ酸同一性は、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて算出することができる(Karlin,S.et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877;Altschul,S.F.et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410;Pearson,W.R.et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似するアミノ酸間の置換をいう。性質の類似するアミノ酸は、例えば、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン)、無極性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン)、分枝鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン)等に分類することができる。前記各ポリペプチドは適宜化学修飾されていてもよい。
GSH Iの調製に用いることができる、GSH Iをコードする遺伝子(DNA又はRNA)の塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列には限定されず、目的とするGSH Iのアミノ酸配列をコードする、宿主生物の種類に応じた適当な塩基配列であることができる。
<GSH II>
本発明に用いられるグルタチオン合成酵素(GSH II)は、ATPの存在下でγ−Glu−Cysを基質として認識し、グリシン(Gly)と結合させることでγ−Glu−Cys−Glyを生成する反応を触媒する活性を有する酵素であり、当該活性を有する限りその起源、構造等は特に限定されない。本発明において、当該活性をグルタチオン合成酵素活性という。当該活性の1Uは、30℃で1分間に1μmolのグルタチオンを生成する活性を意味し、以下の測定条件で測定したものである。
(測定条件)
10mM ATP、15mM γ−グルタミルシステイン、15mM グリシン、10mM 硫酸マグネシウムを含有する50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)に酵素液を添加して30℃で保温することで反応を行い、6N 塩酸を添加することで反応を停止させる。高速液体クロマトグラフィーを用いて反応液中のグルタチオンを定量する。
高速液体クロマトグラフィーの条件は、GSH Iの活性測定法に関して上述したのと同じ条件を用いる。
GSH IIとしてはタンパク質1mgあたりのグルタチオン合成酵素活性(比活性)が0.5U以上のものを使用することが好ましい。
GSH IIの起源は特に限定されず微生物、動物、植物等に由来するものを用いることができる。微生物由来のGSH IIが好ましく、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等の腸内細菌や、コリネ型細菌等の細菌、酵母等の真核微生物等に由来するGSH IIが好ましい。
エシェリヒア・コリ由来のGSH IIの塩基配列、及び該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の具体例を、それぞれ配列番号4及び配列番号10に示す。
GSH IIとしてはまた、配列番号10に示すアミノ酸配列からなるGSH IIに限らず、その活性変異体や他種オルソログ等の、GSH II活性を有する他のポリペプチドも使用できる。GSH II活性を有する他のポリペプチドは、好ましくは、上記の活性測定条件において、配列番号10に示すアミノ酸配列からなるGSH IIを用いた場合の10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の活性を示すポリペプチドである。上記の活性変異体、他種オルソログ等の、GSH II活性を有する他のポリペプチドには、例えば、配列番号10に示すアミノ酸配列において、1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(特に好ましくは、配列番号10に示すアミノ酸配列のN末端及びC末端の一方又は両方において合計で1〜複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加、好ましくは欠失及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド)や、配列番号10に示すアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが該当する。更に、配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号10に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなる前記ポリペプチド、並びに、配列番号10に示すアミノ酸配列に対して前記のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる前記ポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリペプチドの、GSH II活性を有する断片も、前記他のポリペプチドとして使用することができ、該断片としては、アミノ酸数が好ましくは150以上、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上のポリペプチドを用いることができる。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、配列番号10に示すタンパク質の全アミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。ここで「複数個」の好適な範囲、アミノ酸同一性の算出方法、保存的アミノ酸置換についてはGSH Iに関して説明した通りである。前記各ポリペプチドは適宜化学修飾されていてもよい。
GSH IIの調製に用いることができる、GSH IIをコードする遺伝子(DNA又はRNA)の塩基配列は、配列番号4に示す塩基配列には限定されず、目的とするGSH IIのアミノ酸配列をコードする、宿主生物の種類に応じた適当な塩基配列であることができる。
<GSH F>
本発明に用いられる2機能性グルタチオン合成酵素(GSH F)は、ATP存在下でL−Cysを基質として認識し、L−Gluと結合させることでγ−Glu−Cysを生成する反応を触媒する活性及びATP存在下でγ−Glu−Cysを基質として認識し、Glyと結合させることでγ−Glu−Cys−Glyを生成する反応を触媒する活性を併せ持つ酵素であり、当該活性を有する限りその起源、構造等は特に限定されない。本発明において、当該活性を、2機能性グルタチオン合成酵素活性という。当該活性の1Uは、30℃で1分間に1μmolのγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)を生成する活性を意味し、以下の測定条件で測定したものである。
(測定条件)
10mM ATP、15mM L−グルタミン酸、15mM L−システイン、15mM グリシン、10mM 硫酸マグネシウムを含有する50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)に酵素液を添加して30℃で保温することで反応を行い、6N 塩酸を添加することで反応を停止させる。高速液体クロマトグラフィーを用いて反応液中のグルタチオンを定量する。
高速液体クロマトグラフィーの条件は、GSH Iの活性測定法に関して上述したのと同じ条件を用いる。
GSH Fとしてはタンパク質1mgあたりの2機能性グルタチオン合成酵素活性(比活性)が0.5U以上のものを使用することが好ましい。
GSH Fの起源は特に限定されず微生物、動物、植物等に由来するものを用いることができる。微生物由来のGSH Fが好ましい。特に細菌由来GSH Fが好ましく、具体的には、ストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌;ラクトバシルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)等のラクトバシルス(Lactobacillus)属細菌;デスルフォタレア・サイクロフィラ(Desulfotalea psychrophila)等のデスルフォタレア(Desulfotalea)属細菌;クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)等のクロストリジウム(Clostridium)属細菌;リステリア・イノキュア(Listeria innocua)、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア(Listeria)属細菌;エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス(Enterococcus)属細菌;パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)等のパスツレラ(Pasteurella)属細菌;マンハイミア・スクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciprodecens)等のマンハイミア(Mannheimia)属細菌;及び、ヘモフィルス・ソムナス(Haemophilus somnus)等のヘモフィルス(Haemophilus)属細菌からなる群から選択される少なくとも1種に由来するGSH Fが好ましい。
ストレプトコッカス・アガラクチエ由来のGSH Fの塩基配列、及び該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の具体例を、それぞれ配列番号11及び配列番号12に示す。また、配列番号7の第4塩基〜第2253塩基からなる塩基配列は、配列番号12に示すアミノ酸配列からなるストレプトコッカス・アガラクチエ由来GSH Fをコードする塩基配列であって、大腸菌でのコドン使用頻度に適合させた塩基配列の例である。
GSH Fとしてはまた、配列番号12に示すアミノ酸配列からなるGSH Fに限らず、その活性変異体や他種オルソログ等の、GSH F活性を有する他のポリペプチドも使用できる。GSH F活性を有する他のポリペプチドは、好ましくは、上記の活性測定条件において、配列番号12に示すアミノ酸配列からなるGSH Fを用いた場合の10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の活性を示すポリペプチドである。上記の活性変異体、他種オルソログ等の、GSH F活性を有する他のポリペプチドには、例えば、配列番号12に示すアミノ酸配列において、1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(特に好ましくは、配列番号12に示すアミノ酸配列のN末端及びC末端の一方又は両方において合計で1〜複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加、好ましくは欠失及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド)や、配列番号12に示すアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが該当する。更に、配列番号12に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号12に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなる前記ポリペプチド、並びに、配列番号12に示すアミノ酸配列に対して前記のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる前記ポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリペプチドの、GSH F活性を有する断片も、前記他のポリペプチドとして使用することができ、該断片としては、アミノ酸数が好ましくは400以上、より好ましくは500以上、より好ましくは600以上、より好ましくは700以上、より好ましくは730以上のポリペプチドを用いることができる。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、配列番号12に示すタンパク質の全アミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。ここで「複数個」の好適な範囲、アミノ酸同一性の算出方法、保存的アミノ酸置換についてはGSH Iに関して説明した通りである。前記各ポリペプチドは適宜化学修飾されていてもよい。
GSH Fの調製に用いることができる、GSH Fをコードする遺伝子(DNA又はRNA)の塩基配列は、配列番号11に示す塩基配列には限定されず、目的とするGSH Fのアミノ酸配列をコードする、宿主生物の種類に応じた適当な塩基配列であることができる。
<ADK>
本発明に用いられるアデニル酸キナーゼ(ADK)は、2分子のADPからATP、AMPを1分子ずつ生成する反応を触媒する活性を有する酵素であり、当該活性を有する限りその起源、構造等は特に限定されない。本発明において、当該活性をADK活性という。当該活性の1Uは、30℃で1分間に1μmolのAMPを生成する活性を意味し、以下の測定条件で測定したものである。
(測定条件)
10mM ADP、70mM 硫酸マグネシウムを含有する50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)に酵素液を添加して30℃で保温することで反応を行い、6N 塩酸を添加することで反応を停止させる。高速液体クロマトグラフィーを用いて反応液中のAMPを定量した。
上記高速液体クロマトグラフィーの条件は以下の通りである。この条件ではアデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(5’−アデニル酸)(AMP)の順で溶出する。
[HPLC条件]
カラム:ODS−HG−3 (4.6mmφ×150mm、野村化学社製);
溶離液:リン酸2水素カリウム 12.2g及びヘプタンスルホン酸ナトリウム3.6gを蒸留水1.8Lで溶解した後、該溶液をリン酸でpH2.8に調整し、メタノール186mlを追加して溶解した液;
流速:1.0ml/分;
カラム温度:40℃;
測定波長:210nm
ADKとしてはタンパク質1mgあたりのADK活性(比活性)が20U以上のものを使用することが好ましい。
ADKの起源は特に限定されず微生物、動物、植物等に由来するものを用いることができる。微生物由来ADKが好ましい。特に細菌由来ADKが好ましく、具体的には、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来ADKが好ましい。
エシェリヒア・コリ由来のADKの塩基配列、及び該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の具体例を、それぞれ配列番号13及び配列番号14に示す。
ADKとしてはまた、配列番号14に示すアミノ酸配列からなるADKに限らず、その活性変異体や他種オルソログ等の、ADK活性を有する他のポリペプチドも使用できる。ADK活性を有する他のポリペプチドは、好ましくは、上記の活性測定条件において、配列番号14に示すアミノ酸配列からなるADKを用いた場合の10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の活性を示すポリペプチドである。上記の活性変異体、他種オルソログ等の、ADK活性を有する他のポリペプチドには、例えば、配列番号14に示すアミノ酸配列において、1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(特に好ましくは、配列番号14に示すアミノ酸配列のN末端及びC末端の一方又は両方において合計で1〜複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加、好ましくは欠失及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド)や、配列番号14に示すアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが該当する。更に、配列番号14に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなる前記ポリペプチド、並びに、配列番号14に示すアミノ酸配列に対して前記のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる前記ポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリペプチドの、ADK活性を有する断片も、前記他のポリペプチドとして使用することができ、該断片としては、アミノ酸数が好ましくは100以上、より好ましくは150以上、より好ましくは200以上のポリペプチドを用いることができる。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、配列番号14に示すタンパク質の全アミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。ここで「複数個」の好適な範囲、アミノ酸同一性の算出方法、保存的アミノ酸置換についてはGSH Iに関して説明した通りである。前記各ポリペプチドは適宜化学修飾されていてもよい。
ADKの調製に用いることができる、ADKをコードする遺伝子(DNA又はRNA)の塩基配列は、配列番号13に示す塩基配列には限定されず、目的とするADKのアミノ酸配列をコードする、宿主生物の種類に応じた適当な塩基配列であることができる。
<PAP>
本発明に用いられるポリリン酸依存的AMPトランスフェラーゼ(PAP)は、ポリリン酸をリン酸ドナーとしてAMPをリン酸化してADPを生成する反応を触媒する活性を有する酵素であり、当該活性を有する限りその起源、構造等は特に限定されない。本発明において、当該活性をPAP活性という。当該活性の1Uは、30℃で1分間に1μmolのADPを生成する活性を意味し、以下の測定条件で測定したものである。
(測定条件)
5mM メタリン酸ナトリウム、10mM AMP、70mM 硫酸マグネシウムを含有する50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)に酵素液を添加して30℃で保温することで反応を行い、6N 塩酸を添加することで反応を停止させる。高速液体クロマトグラフィーを用いて反応液中のADPを定量した。
高速液体クロマトグラフィーの条件は、ADKの活性測定法に関して上述したのと同じ条件を用いる。
PAPとしてはタンパク質1mgあたりのPAP活性(比活性)が20U以上のものを使用することが好ましい。
PAPの起源は特に限定されず微生物、動物、植物等に由来するものを用いることができる。微生物由来PAPが好ましい。特に細菌由来PAPが好ましく、具体的にはアシネトバクター・ジョンソニ(Acinetobacter johnsonii)由来PAPが好ましい。
アシネトバクター・ジョンソニ由来のPAPの塩基配列、及び該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の具体例を、それぞれ配列番号15及び配列番号16に示す。また、配列番号8の第4塩基〜第1428塩基からなる塩基配列は、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるアシネトバクター・ジョンソニ由来PAPをコードする塩基配列であって、大腸菌でのコドン使用頻度に適合させた塩基配列の例である。
PAPとしてはまた、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるPAPに限らず、その活性変異体や他種オルソログ等の、PAP活性を有する他のポリペプチドも使用できる。PAP活性を有する他のポリペプチドは、好ましくは、上記の活性測定条件において、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるPAPを用いた場合の10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の活性を示すポリペプチドである。上記の活性変異体、他種オルソログ等の、PAP活性を有する他のポリペプチドには、例えば、配列番号16に示すアミノ酸配列において、1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(特に好ましくは、配列番号16に示すアミノ酸配列のN末端及びC末端の一方又は両方において合計で1〜複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加、好ましくは欠失及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド)や、配列番号16に示すアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが該当する。更に、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列からなる前記ポリペプチド、並びに、配列番号16に示すアミノ酸配列に対して前記のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる前記ポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリペプチドの、PAP活性を有する断片も、前記他のポリペプチドとして使用することができ、該断片としては、アミノ酸数が好ましくは250以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、より好ましくは450以上のポリペプチドを用いることができる。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、配列番号16に示すタンパク質の全アミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。ここで「複数個」の好適な範囲、アミノ酸同一性の算出方法、保存的アミノ酸置換についてはGSH Iに関して説明した通りである。前記各ポリペプチドは適宜化学修飾されていてもよい。
PAPの調製に用いることができる、PAPをコードする遺伝子(DNA又はRNA)の塩基配列は、配列番号15に示す塩基配列には限定されず、目的とするPAPのアミノ酸配列をコードする、宿主生物の種類に応じた適当な塩基配列であることができる。
<酵素の調製>
本発明で用いる上記の各酵素を取得する方法は特に限定されない。上記各酵素は該酵素の活性を有する生物、例えば微生物の野生株又は変異株から調製することができる。目的とする酵素の活性を有する生物としては、本来的に該酵素の活性を有する生物と、該酵素の活性が増強された生物とのどちらでもよい。酵素の活性が増強された生物としては、遺伝子工学の手法により上記各酵素をコードする遺伝子の発現が増強された組換え生物細胞が挙げられる。なお「酵素の活性が増強された生物」とは、本来的に該酵素の活性を有する生物において該酵素の活性が増大された生物と、本来的には該酵素の活性を有さない生物において該酵素の活性が付与された生物との両方を包含する。
遺伝子工学の手法を用いて得られる組換え生物細胞とは、典型的には、目的の酵素をコードする遺伝子(DNA又はRNA)を適当なベクターに挿入して組換えベクターとし、該組換えベクターにより適当な宿主生物細胞を形質転換して得られる、該酵素を生産する能力を有する組換え生物細胞である。該組換え生物細胞を培養することにより目的とする上記各酵素を製造することができる。宿主生物細胞としては細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、動物細胞などが挙げられるが、導入及び発現効率の観点から細菌が好ましく、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が好ましい。
<工程A及び工程A’>
本発明によるγ−グルタミルシステインの製造方法は、L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、γ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)及び2機能性グルタチオン合成酵素(GSH F)からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程Aを含むことを特徴とする。工程Aは、前記酵素とATPとの存在下でL−システインとL−グルタミン酸とを反応させてγ−グルタミルシステインを生成する工程であり、前記酵素が作用し上記反応を触媒する際にはアデノシン三リン酸(ATP)が消費される。
本発明によるγ−グルタミルシステインの製造方法はまた、L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程A’を含むことを特徴とする。工程A’は酵素反応により行ってもよいし、酵素を用いず化学的な反応により行ってもよいが、好ましくは酵素反応により行う工程であり、特に好ましくは前記工程Aである。酵素反応によれば基質化合物の官能基による保護等が不要であることや、反応の特異性が高いことなどの理由で化学的合成反応よりも有利である。
酵素を用いない化学的な反応による工程A’としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基を適当な保護基で保護したL−システインと、α−カルボキシル基及びアミノ基を適当な保護基で保護したL−グルタミン酸とを反応させて、L−システイン1分子中のアミノ基に対し1分子のL−グルタミン酸のγ−カルボキシル基を脱水縮合させてペプチド結合を形成する工程が挙げられる。該工程では脱水縮合反応後に必要に応じて保護基の1つ以上を脱保護する。カルボキシル基に対する保護基としてはベンジル基等の公知のカルボキシル基用保護基が使用でき、アミノ基に対する保護基としてはt−ブトキシカルボニル(Boc)基、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基等の公知のアミノ基用保護基が使用できる。
工程AにおいてGSH I及び/又はGSH Fは、GSH I及び/又はGSH F活性を有する生物の細胞を生細胞のまま用いてもよいし、死滅しているが損傷していない前記細胞の形態で用いてもよいし、GSH I及び/又はGSH Fが細胞外に存在する形態、具体的には、前記生物の細胞の破砕物の形態で用いてもよいし、前記細胞から分離され、必要に応じて適宜精製されたタンパク質の形態で用いてもよい。ここでGSH I及び/又はGSH F活性を有するタンパク質の精製の程度は特に限定されず、粗精製であってもよい。
工程Aで用いる酵素としては、好ましくは、GSH I及び/又はGSH F活性を有する生細胞を用いず、より好ましくは、GSH I及び/又はGSH F活性を有する生細胞及び損傷していない死滅細胞を用いない。工程Aで用いる酵素としては特に、細胞外に存在するGSH I及び/又はGSH F、具体的には、前記細胞の破砕物の形態のGSH I及び/又はGSH F、又は、前記細胞から分離されたタンパク質の形態のGSH I及び/又はGSH Fを用いることが好ましい。GSH I及び/又はGSH Fを、当該活性を有する生細胞の形態で工程Aに用いる場合は反応系中でアデノシン一リン酸(AMP)が分解され易い(実施例4参照)。AMPは後述するATP再生反応の中間体の1つであるため、AMPが分解されると、ATP再生反応を効率的に進めることが難しい。一方、GSH I及び/又はGSH Fを、細胞外に存在する形態で工程Aに用いる場合はAMPの分解が生じ難く、ATP再生反応を効率的に進めることができるため好ましい。なお、生細胞を用いずに工程Aの反応を行う場合、生細胞による還元作用が存在しないために、酸素を多く含む雰囲気下においては酸化が進み易く酸化型γ−グルタミルシステインが生じやすいという問題があるが、本発明では工程Aの反応を大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で行うことによって、γ−グルタミルシステインの酸化を抑制し、還元型のγ−グルタミルシステインを高収率で得ることが可能となる。すなわち、GSH I及び/又はGSH Fを、細胞外に存在する形態、具体的には、当該活性を有する細胞の破砕物の形態、又は、当該細胞から分離されたタンパク質の形態で用いて本発明の工程Aを行うことにより、AMPの分解抑制とγ−グルタミルシステインの酸化抑制を両立させることが可能となる。
本明細書において細胞の「破砕」とは、細胞内で形成された酵素が細胞外からアクセス可能な程度に細胞の表面構造に損傷を与える処理を指し、必ずしも細胞が断片化される必要はない。本明細書において細胞の「破砕物」は、破砕処理された細胞の処理物を指す。細胞の破砕処理は、1つ又は複数の破砕処理を適当な順序で行うことにより実施できる。細胞の破砕処理としては、物理的処理、化学的処理、酵素的処理等を挙げることができる。物理的処理としては、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、フレンチプレス、ボールミル等の使用、或いは、これらの組み合わせを挙げることができる。上記化学的処理としては、例えば、塩酸、硫酸等の酸(好ましくは強酸)を用いる処理、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の塩基(好ましくは強塩基)を用いる処理等や、これらの組み合わせを挙げることができる。上記酵素的処理としては、例えば、リゾチーム、ザイモリアーゼ、グルカナーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ等を用いる方法や、これらの組み合わせを挙げることができる。
工程AにおいてL−システイン、L−グルタミン酸、アデノシン三リン酸(ATP)、工程A’においてL−システイン、L−グルタミン酸はそれぞれ塩の形態、フリー体の形態、水和物等の溶媒和物等の各種の形態で反応系中に添加することができる。
工程A及び/又は工程A’において原料として用いるL−システインは、L−シスチンを実質的に含まないものが好ましく、具体的には、L−シスチンとL−システインとの総モル量に対してL−システインが70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上、最も好ましくは100モル%のL−システインを用いる。L−システインとL−シスチンとの総モル量に対するL−システインの割合が前記範囲内であるという要件は、少なくとも工程A及び/又は工程A’の反応開始時において満足されることが好ましく、工程A及び/又は工程A’の反応開始時から反応後までの期間に満足されることがより好ましい。
工程A及び/又は工程A’では反応を「大気よりも酸素濃度が低い雰囲気」下において行うことを特徴とする。当該雰囲気としては、酸素濃度10体積%以下の雰囲気が好ましく、更に好ましくは5体積%以下の雰囲気である。下限は特に限定されるものではなく、酸素濃度が0体積%でもよい。「大気よりも酸素濃度が低い雰囲気」としては不活性ガスの雰囲気が例示できる。不活性ガスとしては、酸素が含まれていなければ特にガスは限定しないが、窒素、希ガス(アルゴン等)、二酸化炭素ガス等の不活性ガスの雰囲気が好ましい。ここで不活性ガスに酸素が含まれていないとは、実質的に酸素が含まれていないことも包含する。気相が前記不活性ガスにより置換された反応容器中で反応を行うことで、上記酸素濃度の雰囲気下での反応を実現することができる。「気相が前記不活性ガスにより置換された反応容器中で反応を行う」は、必要に応じて前記不活性ガスの流通下で反応を行うことも包含する。なお、雰囲気圧は特に限定されないが、通常は常圧付近、典型的には0.08〜0.12MPaとすることができる。この雰囲気下でγ−グルタミルシステインの生成を行うと、酸化型γ−グルタミルシステインの副生が抑制され、効率的にγ−グルタミルシステインを製造することができる。工程A及び/又は工程A’での基質L−システインに対するγ−グルタミルシステインの収率は典型的には80モル%以上、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。工程A及び/又は工程A’の反応後の反応系(例えば反応混合液)中には酸化型γ−グルタミルシステインは実質的に含まれず、具体的には、工程A及び/又は工程A’の反応後の反応系中には、γ−グルタミルシステインと酸化型γ−グルタミルシステインとの総モル量に対してγ−グルタミルシステインが80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは97モル%以上、最も好ましくは100モル%含まれる。
工程A及び/又は工程A’の反応は適当なpHに調整された水等の溶媒を含む反応混合液中で行うことができる。このときの条件としては特に限定されないが、基質濃度(L−システインとL−グルタミン酸との合計濃度)は好ましくは約0.1〜99重量%、より好ましくは1〜20重量%とすることができる。反応開始時の基質中のL−システインとL−グルタミン酸との量比は、L−システイン1モルに対してL−グルタミン酸を1モル前後とすることができ、例えばL−システイン1モルに対してL−グルタミン酸を0.5〜2モル、好ましくは0.7〜1.3モルとすることができる。反応温度は好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜50℃とすることができる。反応のpHは好ましくは4〜11、より好ましくは6〜9とすることができる。反応時間は好ましくは1〜120時間、より好ましくは1〜72時間とすることができる。
反応混合液中の各酵素の濃度は適宜調整することができ、例えば各酵素のタンパク質濃度として下限が1μg/ml以上、上限は特に設けないが好ましくは100mg/ml以下の範囲内で適宜調整することができる。工程AにGSH Iが用いられる場合、工程A反応混合液中のGSH I活性は特に限定されないが下限は0.05U/ml以上が好ましく、上限は特に設けないが通常は5000U/ml以下とすることができる。工程AにGSH Fが用いられる場合、工程A反応混合液中のGSH F活性は特に限定されないが下限は0.05U/ml以上が好ましく、上限は特に設けないが通常は5000U/ml以下とすることができる。
反応混合液中のATPの濃度は、基質であるL−システインの濃度やATP再生系の有無に応じて適宜調整することができる。工程Aにおいて、ATPはL−システインに対し等モル量消費される。工程AをATP再生反応と共役させて実施する場合は、L−システインに対するATPの添加量を大幅に低減することができる。そこで、工程Aにおける反応混合液中のATP濃度の上限は特に限定されないが、L−システイン濃度に対してモル濃度比で2倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましい。また、工程Aにおける反応混合液中のATP濃度の下限は特に限定されないが、L−システイン濃度に対してモル濃度比で0.0001倍以上が好ましく、0.001倍以上がより好ましく、0.01倍以上が更に好ましい。
<工程B及び工程B’>
本発明によるグルタチオン(GSH)の製造方法は、γ−グルタミルシステインとグリシンとを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、グルタチオン合成酵素(GSH II)及び2機能性グルタチオン合成酵素(GSH F)からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、グルタチオンを生成する工程Bを含むことを特徴とする。工程Bは、前記酵素とアデノシン三リン酸(ATP)との存在下でγ−グルタミルシステインとグリシンとを反応させてグルタチオンを生成する工程であり、前記酵素が作用し上記反応を触媒する際にはATPが消費される。
本発明によるグルタチオンの製造方法はまた、γ−グルタミルシステインとグリシンとを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、グルタチオンを生成する工程B’を含むことを特徴とする。工程B’は酵素反応により行ってもよいし、酵素を用いず化学的な反応により行ってもよいが、好ましくは酵素反応により行う工程であり、特に好ましくは前記工程Bである。酵素反応によれば基質化合物の官能基による保護等が不要であることや、反応の特異性が高いことなどの理由で化学的合成反応よりも有利である。
酵素を用いない化学的な反応による工程B’としては、特に限定されないが、例えば、L−グルタミン酸残基中のα−カルボキシル基及びアミノ基を適当な保護基で保護したγ−グルタミルシステインと、カルボキシル基を適当な保護基で保護したグリシンとを反応させて、γ−グルタミルシステイン1分子中のカルボキシル基に対して1分子のグリシンのアミノ基を脱水縮合させてペプチド結合を形成する工程が挙げられる。該工程では脱水縮合反応後に必要に応じて保護基の1つ以上を脱保護する。カルボキシル基に対する保護基としてはベンジル基等の公知のカルボキシル基用保護基が使用でき、アミノ基に対する保護基としてはt−ブトキシカルボニル(Boc)基、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基等の公知のアミノ基用保護基が使用できる。
工程BにおいてGSH II及び/又はGSH Fは、GSH II及び/又はGSH F活性を有する生物の細胞を生細胞のまま用いてもよいし、死滅しているが損傷していない前記細胞の形態で用いてもよいし、GSH II及び/又はGSH Fが細胞外に存在する形態、具体的には、前記生物の細胞の破砕物の形態で用いてもよいし、前記細胞から分離され、必要に応じて適宜精製されたタンパク質の形態で用いてもよい。ここでGSH II及び/又はGSH F活性を有するタンパク質の精製の程度は特に限定されず、粗精製であってもよい。細胞の「破砕物」については既述の通りである。
工程Bで用いる酵素としては、好ましくは、GSH II及び/又はGSH F活性を有する生細胞を用いず、より好ましくは、GSH II及び/又はGSH F活性を有する生細胞及び損傷していない死滅細胞を用いない。工程Bで用いる酵素としては特に、細胞外に存在するGSH II及び/又はGSH F、具体的には、前記細胞の破砕物の形態のGSH II及び/又はGSH F、又は、前記細胞から分離されたタンパク質の形態のGSH II及び/又はGSH Fを用いることが好ましい。GSH II及び/又はGSH Fを、当該活性を有する生細胞の形態で工程Bに用いる場合は反応系中でAMPが分解され易く、ATP再生反応を効率的に進めることが難しい(実施例4参照)。一方、GSH II及び/又はGSH Fを、細胞外に存在する形態で工程Bに用いる場合はAMPの分解は生じ難く、ATP再生反応を効率的に進めることができるため好ましい。なお、生細胞を用いず工程Bの反応を行う場合、生細胞による還元作用が存在しないために、酸素を多く含む雰囲気下においては酸化が進み易く酸化型グルタチオンが生じやすいという問題があるが、本発明では工程Bの反応を大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で行うことによって、グルタチオンの酸化を抑制し、還元型のグルタチオンを高収率で得ることが可能となる。すなわち、GSH II及び/又はGSH Fを、細胞外に存在する形態、具体的には、当該活性を有する細胞の破砕物の形態、又は、当該細胞から分離されたタンパク質の形態で用いて本発明の工程Bを行うことにより、AMPの分解抑制とグルタチオンの酸化抑制を両立させることが可能となる。
工程Bにおいてγ−グルタミルシステイン、グリシン、アデノシン三リン酸(ATP)、工程B’においてγ−グルタミルシステイン、グリシンはそれぞれ塩の形態、フリー体の形態、水和物等の溶媒和物の形態等の各種の形態で反応系中に添加することができる。
工程B及び/又は工程B’において原料として用いるγ−グルタミルシステインは、酸化型γ−グルタミルシステインを実質的に含まないものが好ましく、具体的には、γ−グルタミルシステインと酸化型γ−グルタミルシステインとの総モル量に対してγ−グルタミルシステインが70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上、最も好ましくは100モル%のγ−グルタミルシステインを用いる。
工程B及び/又は工程B’では反応を「大気よりも酸素濃度が低い雰囲気」下において行うことを特徴とする。当該雰囲気としては、酸素濃度10体積%以下の雰囲気が好ましく、更に好ましくは5体積%以下の雰囲気である。下限は特に限定されるものではなく、酸素濃度が0体積%でもよい。「大気よりも酸素濃度が低い雰囲気」としては不活性ガスの雰囲気が例示できる。不活性ガスとしては、酸素が含まれていなければ特にガスは限定しないが、窒素、希ガス(アルゴン等)、二酸化炭素ガス等の不活性ガスの雰囲気が好ましい。ここで不活性ガスに酸素が含まれていないとは、実質的に酸素が含まれていないことも包含する。気相が前記不活性ガスにより置換された反応容器中で反応を行うことで、上記酸素濃度の雰囲気下での反応を実現することができる。「気相が前記不活性ガスにより置換された反応容器中で反応を行う」は、必要に応じて前記不活性ガスの流通下で反応を行うことも包含する。なお、雰囲気圧は特に限定されないが、通常は常圧付近、典型的には0.08〜0.12MPaとすることができる。この雰囲気下でグルタチオンの生成を行うと、酸化型グルタチオンの副生が抑制され、効率的にグルタチオンを製造することができる。工程B及び/又は工程B’での基質γ−グルタミルシステインに対するグルタチオンの収率は典型的には80モル%以上、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。工程B及び/又は工程B’の反応後の反応系(例えば反応混合液)中には酸化型グルタチオンは実質的に含まれず、具体的には、工程B及び/又は工程B’の反応後の反応系中には、グルタチオンと酸化型グルタチオンとの総モル量に対してグルタチオンが80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは97モル%以上、最も好ましくは100モル%含まれる。
工程B及び/又は工程B’での反応は適当なpHに調整された水等の溶媒を含む反応混合液中で行うことができる。このときの条件としては特に限定されないが、基質濃度(γ−グルタミルシステインとグリシンとの合計濃度)は好ましくは約0.1〜99重量%、より好ましくは1〜20重量%とすることができる。反応開始時の基質中のγ−グルタミルシステインとグリシンとの量比は、γ−グルタミルシステイン1モルに対してグリシンを1モル前後とすることができ、例えばγ−グルタミルシステイン1モルに対してグリシンを0.5〜2モル、好ましくは0.7〜1.3モルとすることができる。反応温度は好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜50℃とすることができる。反応のpHは好ましくは4〜11、より好ましくは6〜9とすることができる。反応時間は好ましくは1〜120時間、より好ましくは1〜72時間とすることができる。
工程B及び/又は工程B’で原料となるγ−グルタミルシステインは上記工程A及び/又は工程A’により得ることができる。この場合、工程A及び/又は工程A’の出発原料であるL−システインから、酸化型γ−グルタミルシステイン及び酸化型グルタチオンの副生を抑制しながらグルタチオンを製造することが可能であり、基質L−システインに対するグルタチオンの収率は典型的には75モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上とすることができる。
工程Bにおいて工程Aで得られたγ−グルタミルシステインを原料とする場合、工程Aの反応と工程Bの反応を順次行うことができる。この場合、工程A終了後の反応混合液からγ−グルタミルシステインを分離し工程Bに用いてもよいし、工程Aを、GSH II及び/又はGSH Fとグリシンの各要素のうち少なくとも1つが不足し工程Bが進行しない条件で行い、次いで工程A終了後の反応混合液からγ−グルタミルシステインを分離することなく前記不足していた要素を反応混合液に追加して工程Bを行ってもよい。
また工程Aの反応と工程Bの反応とは順次行う必要はなく同時に行ってもよい。すなわち、L−システインと、L−グルタミン酸と、グリシンとを含む原料混合物を、工程Aに用いる上記酵素と工程Bに用いる上記酵素とATPとの存在下で反応させてもよい。この実施形態もまた、工程Bに原料として用いられる酸化型γ−グルタミルシステインが工程Aにより生成されたものである本発明の実施形態の1つである。ただし、GSH Iはグルタチオンによりフィードバック阻害を受けることが知られており、工程Aにおいて酵素としてGSH Iを用いる場合には、工程Aの反応と工程Bの反応とは順次行うことが好ましい。工程A及びBにおいて酵素としてGSH Fを用いる場合には、GSH Fのみの作用により工程AとBを同時に行うことができる。
同様に、工程B’で原料となるγ−グルタミルシステインは上記工程A’により得ることができる。工程A’終了後の反応混合物からγ−グルタミルシステインを分離し、工程B’に用いてもよいし、γ−グルタミルシステインを分離することなく、工程A’終了後の反応混合物にグリシンを追加し適宜反応条件を調整して工程B’を行ってもよい。また、工程A’の反応と工程B’の反応とは順次行う必要はなく同時に行ってもよい。すなわち、L−システインと、L−グルタミン酸と、グリシンとを含む原料混合物を反応させてもよい。この実施形態もまた、工程B’に原料として用いられるγ−グルタミルシステインが工程A’により生成されたものである本発明の実施形態の1つである。
反応混合液中の各酵素の濃度は適宜調整することができ、例えば各酵素のタンパク質濃度として下限が1μg/ml以上、上限は特に設けないが好ましくは100mg/ml以下の範囲内で適宜調整することができる。工程BにGSH IIが用いられる場合、工程Bの反応混合液中のGSH II活性は特に限定されないが下限は0.05U/ml以上が好ましく、上限は特に設けないが通常は5000U/ml以下とすることができる。工程BにGSH Fが用いられる場合、工程B反応混合液中のGSH F活性は特に限定されないが下限は0.05U/ml以上が好ましく、上限は特に設けないが通常は5000U/ml以下とすることができる。
反応混合液中のATPの濃度は、基質である、γ−グルタミルシステインの濃度やATP再生系の有無に応じて適宜調整することができる。工程Bにおいて、ATPは、γ−グルタミルシステインに対し等モル量消費される。工程BをATP再生反応と共役させて実施する場合は、γ−グルタミルシステインに対するATPの添加量を大幅に低減することができる。そこで、工程Bにおける反応混合液中のATP濃度の上限は特に限定されないが、γ−グルタミルシステイン濃度に対してモル濃度比で2倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましい。また、工程Bにおける反応混合液中のATP濃度の下限は特に限定されないが、γ−グルタミルシステイン濃度に対してモル濃度比で0.0001倍以上が好ましく、0.001倍以上がより好ましく、0.01倍以上が更に好ましい。
<ATP再生反応>
工程A及びBはいずれもATPを消費しADPを生成する工程である。ATPは比較的高価な原料であるため、工程A及び/又はBを、該工程で生じたADPからATPを再生するATP再生反応と共役させて行うことが好ましい。
ATP再生反応としては、リン酸基供給源とホスホトランスフェラーゼとを用いてADPをATPへと再生する反応が挙げられる。
ATP再生反応の一例として、リン酸基供給源として縮合リン酸(ポリリン酸)を用い、ホスホトランスフェラーゼとして、ポリリン酸依存的AMPトランスフェラーゼ(PAP)とアデニル酸キナーゼ(ADK)との組み合わせを用いるATP再生反応のスキームを以下に示す。
Figure 2016017631
スキームにおいて、AMPはアデノシン一リン酸を示し、PAPはポリリン酸依存的AMPトランスフェラーゼを示し、ADKはアデニル酸キナーゼを示し、PolyPはリン原子がn個の縮合リン酸(本明細書では「ポリリン酸」という)を示し、PolyPn-1はリン原子がn−1個の縮合リン酸(ポリリン酸)を示し、「反応原料」は工程A又はBでの反応原料を示し、「生成物」は工程A又はBでの生成物を示す。
すなわち、工程A及び/又はBを縮合リン酸(ポリリン酸)とPAPとADKとの存在下で行うことにより、ATPが消費されて生じたADPはADKの作用によりATPとAMPとに変換され、ADKの作用により生じたAMPはPAPの作用によりADPに変換される。このATP再生反応は工程A及び/又はBの反応と共役することができる。
ADK及びPAPとしては、各酵素の活性を有する生物の細胞を生細胞のまま用いてもよいし、死滅しているが損傷していない前記細胞の形態で用いてもよいし、ADK及び/又はPAPが細胞外に存在する形態、具体的には、前記生物の細胞の破砕物の形態で用いてもよいし、前記細胞から分離され、必要に応じて適宜精製されたタンパク質の形態で用いてもよい。ここでADK及び/又はPAP活性を有するタンパク質の精製の程度は特に限定されず、粗精製であってもよい。細胞の「破砕物」については既述の通りである。
ATP再生反応で用いる酵素としては、好ましくは、ADK及び/又はPAP活性を有する生細胞を用いず、より好ましくは、ADK及び/又はPAP活性を有する生細胞及び損傷していない死滅細胞を用いない。工程Bで用いる酵素としては特に、細胞外に存在するADK及び/又はPAP、具体的には、前記細胞の破砕物の形態のADK及び/又はPAP、又は、前記細胞から分離されたタンパク質の形態のADK及び/又はPAPを用いることが好ましい。ADK及び/又はPAPを、当該活性を有する生細胞の形態でATP再生反応に用いる場合はAMPが分解され易く、ATP再生反応を効率的に進めることが難しい(実施例4参照)。一方、細胞外に存在する形態でATP再生反応に用いる場合はAMPの分解は生じ難く、ATP再生反応を効率的に進めることができるため好ましい。なお、生細胞を用いず工程A及び/又は工程Bを行う場合、生細胞による還元作用が存在しないために、酸素を多く含む雰囲気下においては酸化が進み易く酸化型γ−グルタミルシステイン及び/又は酸化型グルタチオンが生じやすいという問題があるが、本発明では工程A及び/又は工程Bの反応を大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で行うことによって、γ−グルタミルシステイン及び/又はグルタチオンの酸化を抑制し、還元型のγ−グルタミルシステイン及び/又はグルタチオンを高収率で得ることが可能となる。すなわち、ADK及び/又はPAPを、細胞外に存在する形態、具体的には、当該活性を有する細胞の破砕物の形態、又は、当該細胞から分離されたタンパク質の形態で用いて本発明の工程A及び/又は工程Bを行うことにより、AMPの分解抑制とγ−グルタミルシステイン及び/又はグルタチオンの酸化抑制を両立させることが可能となる。
ATP再生反応に用いる各酵素の反応混合液中での濃度は適宜調整することができ、例えば各酵素のタンパク質濃度として下限が1μg/ml以上、上限は特に設けないが好ましくは100mg/ml以下の範囲内で適宜調整することができる。工程A又はBにATP再生反応を共役させる場合、反応混合液中のADK活性は特に限定されないが下限は2U/ml以上が好ましく、上限は特に設けないが通常は200000U/ml以下とすることができ、反応混合液中のPAP活性は特に限定されないが下限は0.5U/ml以上が好ましく、上限は特に設けないが通常は50000U/ml以下とすることができる。
縮合リン酸(ポリリン酸)の添加量は反応基質の量に応じて適宜調節すればよい。縮合リン酸(ポリリン酸)はナトリウム塩、カリウム塩等の塩の形態、フリー体の形態、水和物等の溶媒和物の形態等の各種の形態で添加することができる。縮合リン酸(ポリリン酸)の重合度(1分子あたりのリン原子数)は特に限定されない。なお、実施例及び比較例で使用したメタリン酸Naは種々の重合度の縮合リン酸ナトリウム塩の混合物であった。
<実験1>
大腸菌K12株由来γ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)の調製
大腸菌K12株に由来するGSH I遺伝子(配列番号1)のN末端部分の塩基配列に制限酵素SacIの切断部位及びSD配列を結合させた配列をもつDNAプライマー(Primer−1:配列番号2)と、C末端部分の塩基配列に制限酵素KpnI切断部位を結合させた配列をもつDNAプライマー(Primer−2:配列番号3)を調製した。このDNAプライマーを用いて、この配列の間のDNAをPCRにより増幅することでGSH I遺伝子の全長を含むDNA断片を取得した。このときPCR増幅に用いた鋳型は大腸菌K12株のゲノムDNAである。得られたDNA断片の塩基配列を解析し、GSH I遺伝子の全長(配列番号1)が含まれていることを確認した。得られたDNA断片をプラスミドpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)のlacプロモーターの下流のSacI認識部位とKpnI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpUCGSHIを構築した。この組換えベクターpUCGSHIを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pUCGSHI)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)50mlに接種し、37℃で24時間振とう培養した。酵素活性を測定すると、GSH I活性は5U/ml、宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性は90U/mlであった。続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁、超音波破砕し酵素液とした。
<実験2>
大腸菌K12株由来グルタチオン合成酵素(GSH II)の調製
大腸菌K12株に由来するGSH II遺伝子(配列番号4)のN末端部分の塩基配列に制限酵素NdeIの切断部位を結合させた配列をもつDNAプライマー(Primer−3:配列番号5)と、C末端部分の塩基配列に制限酵素EcoRI切断部位を結合させた配列をもつDNAプライマー(Primer−4:配列番号6)を調製した。このDNAプライマーを用いて、この配列の間のDNAをPCRにより増幅することでGSH II遺伝子の全長を含むDNA断片を取得した。このときPCR増幅に用いた鋳型は大腸菌K12株のゲノムDNAである。得られたDNA断片の塩基配列を解析し、GSH II遺伝子の全長(配列番号4)が含まれていることを確認した。得られたDNA断片をプラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とEcoRI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNGSHIIを構築した。この組換えベクターpNGSHIIを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pNGSHII)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)50mlに接種し、37℃で24時間振とう培養した。酵素活性を測定すると、GSH II活性は5U/ml、宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性は90U/mlであった。続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁、超音波破砕し酵素液とした。
<実験3>
ストレプトコッカス・アガラクチエ由来2機能性グルタチオン合成酵素(GSH F)の調製
大腸菌での発現用にコドンを最適化し、N末端部分の塩基配列に制限酵素NdeIの切断部位、C末端部分の塩基配列に制限酵素EcoRI切断部位を結合させたストレプトコッカス・アガラクチエ由来のGSH F遺伝子断片(配列番号7)を遺伝子合成法にて取得(ユーロジェンテック社製)した。得られた遺伝子断片をプラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とEcoRI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNGSHFを構築した。この組換えベクターpNGSHFを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pNGSHF)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)50mlに接種し、37℃で24時間振とう培養した。酵素活性を測定すると、GSH F活性は3U/ml、宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性は90U/mlであった。続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁、超音波破砕し酵素液とした。
<実験4>
アシネトバクター・ジョンソニ由来AMPホスホトランスフェラーゼ(PAP)の調製
大腸菌での発現用にコドンを最適化し、N末端部分の塩基配列に制限酵素NdeIの切断部位、C末端部分の塩基配列に制限酵素EcoRI切断部位を結合させたアシネトバクター・ジョンソニ由来のPAP遺伝子断片(配列番号8)を遺伝子合成法にて取得(ユーロジェンテック社製)した。得られた遺伝子断片をプラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とEcoRI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNPAPを構築した。この組換えベクターpNPAPを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pNPAP)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)50mlに接種し、37℃で24時間振とう培養した。酵素活性を測定すると、PAP活性は40U/ml、宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性は90U/mlであった。続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁、超音波破砕し酵素液とした。
<収率の算出>
本明細書の実験における各化合物の収率の算出方法は以下の通り。
反応生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより定量し、下記式により収率を求めた。
収率:各化合物の生成量(mol)/初発のL−システイン(mol)×100
上記高速液体クロマトグラフィーの条件は以下の通りである。この溶出条件では、グルタチオン(GSH)、γ−グルタミルシステイン(γ−GC)、酸化型γ−GC、酸化型グルタチオン(GSSG)の順で溶出する。
[収率の分析]
カラム:ODS−HG−3(4.6mmφ×150mm、野村化学社製);
溶離液:リン酸2水素カリウム12.2g及びヘプタンスルホン酸ナトリウム3.6gを蒸留水1.8Lで溶解し、該溶液をリン酸でpH2.8に調整し、メタノール186mlを追加して溶解した液;
流速:1.0ml/分;
カラム温度:40℃;
測定波長:210nm。
<実施例1 ATP当量添加系,窒素雰囲気下での反応>
以下に示す実施例1の反応は窒素雰囲気下で実施した。
(γ−グルタミルシステインの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.3668g(2.17mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.3636g(2.07mmol)、硫酸マグネシウム7水和物1.02g、ATP1.19g(2.16mmol)、蒸留水15gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液1.4gでpHを7.5に調整した。そこへ実験1で調製したγ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)酵素液を1g添加し、反応開始した。反応容器に窒素ライン口、排気口を設け、窒素ライン口から窒素を10ml/minで流し、反応容器内の気相部の空気を追い出すことで気相部の酸素濃度を限りなく0体積%に維持した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、γ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが生成した。反応6時間後にL−システインが消失した。反応6時間後におけるγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、97mol%、1mol%であった。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
上記の反応6時間後の反応液に、グリシン0.192g(2.56mmol)、硫酸マグネシウム7水和物1.02g、ATP1.19g(2.16mmol)を混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液1.4gでpHを7.5に調整した。そこへ実験2で調製した、グルタチオン合成酵素(GSH II)酵素液1gを添加し、反応を開始した。γ−グルタミルシステイン生成工程と同様に窒素雰囲気下で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、反応4時間後にγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが消失し、グルタチオン及び酸化型グルタチオンが生成した。反応4時間後における収率は対初発L−システインでグルタチオン94mol%、酸化型グルタチオン2mol%であった。
<実施例2 ATP再生系,窒素雰囲気下での反応>
以下に示す実施例2の反応は窒素雰囲気下で実施した。
(γ−グルタミルシステインの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.389g(2.30mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.3714g(2.11mmol)、硫酸マグネシウム7水和物0.7068g、ATP0.0588g(0.11mmol)、メタリン酸Na0.8g、蒸留水14gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.8gでpHを7.5に調整した。そこへ実験1で調製したγ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)酵素液を1g、実験4で調製したPAP酵素液1gを添加し、反応開始した。反応容器に窒素ライン口、排気口を設け、窒素ライン口から窒素を10ml/minで流し、反応容器内の気相部の空気を追い出すことで気相部の酸素濃度を限りなく0体積%に維持した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、γ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが生成した。反応6時間後にL−システインが消失した。反応6時間後におけるγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、95mol%、1mol%であった。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
上記の反応6時間後の反応液に、グリシン0.19g(2.53mmol)を混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.2gでpHを7.5に調整した。そこへ実験2で調製した、グルタチオン合成酵素(GSH II)酵素液1g、実験4で調製したPAP酵素液1gを添加し、反応を開始した。γ−グルタミルシステイン生成工程と同様に窒素雰囲気下で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、グルタチオン、酸化型グルタチオンが生成した。反応6時間後にγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが消失し。反応6時間後におけるグルタチオン、酸化型グルタチオンの収率は、対初発L−システインでそれぞれ82mol%、2mol%であった。
なお、実験1で調製したGSH I酵素液、実験2で調製したGSH II酵素液、及び、実験4で調製したPAP酵素液にはそれぞれ宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性が含まれるため、上記の2工程ではADK酵素液を別途調製する必要はなかった。
<実施例3 ATP再生系,窒素雰囲気下での反応>
以下に示す実施例の反応は窒素雰囲気下で実施した。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.185g(1.09mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.175g(1.00mmol)、グリシン(1.09mmol)、硫酸マグネシウム7水和物0.35g、ATP0.055g(0.10mmol)、メタリン酸Na0.4g、蒸留水16gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.44gでpHを7.5に調整した。そこへ実験3で調製した2機能性グルタチオン合成酵素(GSH F)酵素液1g、実験4で調製したPAP酵素液1gを添加し、反応開始した。反応容器に窒素ライン口、排気口を設け、窒素ライン口から窒素を10ml/minで流し、反応容器内の気相部の空気を追い出すことで気相部の酸素濃度を限りなく0体積%に維持した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、グルタチオン、酸化型グルタチオンが生成した。反応6時間後にL−システインが消失した。反応6時間後におけるグルタチオン、酸化型グルタチオンの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、90mol%、1mol%であった。
なお、実験3で調製したGSH F酵素液、及び、実験4で調製したPAP酵素液にはそれぞれ宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性が含まれるため、上記工程ではADK酵素液を別途調製する必要はなかった。
<比較例1 ATP当量添加系,空気雰囲気下での反応>
以下に示す比較例1の反応は空気雰囲気下で実施した。
(γ−グルタミルシステインの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.3668g(2.17mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.3636g(2.07mmol)、硫酸マグネシウム7水和物1.02g、ATP1.19g(2.16mmol)、蒸留水15gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液1.4gでpHを7.5に調整した。そこへ実験1で調製したγ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)酵素液を1g添加し、反応開始した。窒素置換は行わず、反応液が反応容器内の空気と接触した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、γ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが生成した。反応6時間後にL−システインが消失した。反応6時間後におけるγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、78mol%、10mol%であった。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
上記の反応6時間後の反応液に、グリシン0.192g(2.56mmol)、硫酸マグネシウム7水和物1.02g、ATP1.19g(2.16mmol)を混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液1.4gでpHを7.5に調整した。そこへ実験2で調製した、グルタチオン合成酵素(GSH II)酵素液1gを添加し、反応を開始した。窒素置換は行わず、反応液が反応容器内の空気と接触した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、反応4時間後にγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが消失し、グルタチオン及び酸化型グルタチオンが生成した。反応4時間後における収率は対初発L−システインでグルタチオン58mol%、酸化型グルタチオン20mol%であった。
<比較例2 ATP再生系,空気雰囲気下での反応>
以下に示す比較例2の反応は空気雰囲気下で実施した。
(γ−グルタミルシステインの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.389g(2.30mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.3714g(2.11mmol)、硫酸マグネシウム7水和物0.7068g、ATP0.0588g(0.11mmol)、メタリン酸Na0.8g、蒸留水14gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.8gでpHを7.5に調整した。そこへ実験1で調製したγ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH I)酵素液を1g、実験4で調製したPAP酵素液1gを添加し、反応開始した。窒素置換は行わず、反応液が反応容器内の空気と接触した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、γ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが生成した。反応6時間後にL−システインが消失した。反応6時間後におけるγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、72mol%、13mol%であった。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
上記の反応6時間後の反応液に、グリシン0.19g(2.53mmol)を混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.2gでpHを7.5に調整した。そこへ実験2で調製した、グルタチオン合成酵素(GSH II)酵素液1g、実験4で調製したPAP酵素液1gを添加し、反応を開始した。窒素置換は行わず、反応液が反応容器内の空気と接触した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、グルタチオン、酸化型グルタチオンが生成した。反応6時間後にγ−グルタミルシステイン、酸化型グルタミルシステインが消失した。反応6時間後におけるグルタチオン、酸化型グルタチオンの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、51mol%、22mol%であった。
なお、実験1で調製したGSH I酵素液、実験2で調製したGSH II酵素液、及び、実験4で調製したPAP酵素液にはそれぞれ宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性が含まれるため、上記の2工程ではADK酵素液を別途調製する必要はなかった。
<比較例3 ATP再生系,空気雰囲気下での反応>
以下に示す比較例の反応は空気雰囲気下で実施した。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.185g(1.09mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.175g(1.00mmol)、グリシン(1.09mmol)、硫酸マグネシウム7水和物0.35g、ATP0.055g(0.10mmol)、メタリン酸Na0.4g、蒸留水16gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.44gでpHを7.5に調整した。そこへ実験3で調製した2機能性グルタチオン合成酵素(GSH F)酵素液1g、実験4で調製したPAP酵素液1gを添加し、反応開始した。窒素置換は行わず、反応液が反応容器内の空気と接触した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応は持続的に進行し、グルタチオン、酸化型グルタチオンが生成した。反応6時間後にL−システインが消失した。反応6時間後におけるグルタチオン、酸化型グルタチオンの収率は、対初発L−システインでそれぞれ、36mol%、14mol%であった。尚、酸化型γ−グルタミルシステインが収率6mol%で生成していた。
なお、実験3で調製したGSH F酵素液、及び、実験4で調製したPAP酵素液にはそれぞれ宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性が含まれるため、上記工程ではADK酵素液を別途調製する必要はなかった。
<実施例4 未破砕菌体を使用したATP再生系,窒素雰囲気下での反応>
以下に示す反応は窒素雰囲気下で実施した。
(グルタチオンの生成)
Figure 2016017631
L−グルタミン酸Na1水和物0.185g(1.09mmol)、L−システイン塩酸塩1水和物0.175g(1.00mmol)、グリシン(1.09mmol)、硫酸マグネシウム7水和物0.35g、ATP0.055g(0.10mmol)、メタリン酸Na0.4g、蒸留水16gを混合し、15重量%水酸化ナトリウム水溶液0.44gでpHを7.5に調整した。そこへGSH Fを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液1g、PAPを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液1gを添加し、反応開始した。反応容器に窒素ライン口、排気口を設け、窒素ライン口から窒素を10ml/minで流し、反応容器内の気相部の空気を追い出すことで気相部の酸素濃度を限りなく0体積%に維持した状態で反応を行った。反応中の温度は30℃とした。反応1時間後に反応液を分析したところ、グルタチオン及び酸化型グルタチオンの生成が確認できた。変換率は、対初発L−システインでそれぞれ7.3mol%、0.6mol%であった。その後反応は進行したものの、反応7時間後でほぼ停止した。変換率は、対初発L−システインでそれぞれ10.8mol%、1.2mol%であった。ATP、ADP、AMPいずれもほぼ消失しており、AMPの分解物であるアデニン、アデノシン、ヒポキサンチンが確認された。
上記の「GSH Fを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液」は、実験3における末尾の「続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁、超音波破砕し酵素液とした」という操作の代わりに、「続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁して、GSH Fを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液とした」という操作を行った以外は実験3と同じ材料及び手順により調製した。
上記の「PAPを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液」は、実験4における末尾の「続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁、超音波破砕し酵素液とした」という操作の代わりに、「続いて、遠心分離により菌体を集め、2.5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁して、PAPを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液とした」という操作を行った以外は実験4と同じ材料及び手順により調製した。
上記の方法で調製した、GSH Fを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液、及び、PAPを発現する組換大腸菌の未破砕菌体を含有する液にはそれぞれ宿主細胞として用いたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に由来するADK活性が含まれるため、上記工程ではADK酵素液を別途調製する必要はなかった。
配列番号2:プライマー
配列番号3:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:プライマー
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (15)

  1. L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程A’を含むことを特徴とする、γ−グルタミルシステインの製造方法。
  2. 前記工程A’が、L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、γ−グルタミルシステイン合成酵素及び2機能性グルタチオン合成酵素からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程Aである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記工程Aが、アデノシン二リン酸(ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)へと再生するATP再生反応と共役させて行われる、請求項2に記載の方法。
  4. 前記γ−グルタミルシステイン合成酵素がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来である、請求項2又は3に記載の方法。
  5. 前記2機能性グルタチオン合成酵素がストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)由来である、請求項2又は3に記載の方法。
  6. γ−グルタミルシステインとグリシンとを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、グルタチオンを生成する工程B’を含むことを特徴とする、グルタチオンの製造方法。
  7. 前記工程B’が、γ−グルタミルシステインとグリシンとを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、グルタチオン合成酵素及び2機能性グルタチオン合成酵素からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、グルタチオンを生成する工程Bである、請求項6に記載の方法。
  8. 前記工程Bが、アデノシン二リン酸(ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)へと再生するATP再生反応と共役させて行われる、請求項7に記載の方法。
  9. 前記グルタチオン合成酵素がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来である、請求項7又は8に記載の方法。
  10. 前記2機能性グルタチオン合成酵素がストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)由来である、請求項7又は8に記載の方法。
  11. L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程A’を更に含み、
    前記工程B’に用いられるγ−グルタミルシステインが、前記工程A’により生成されたものである、
    請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記工程A’が、L−システインとL−グルタミン酸とを、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気下で、γ−グルタミルシステイン合成酵素及び2機能性グルタチオン合成酵素からなる群から選択される少なくとも1種の酵素のアデノシン三リン酸(ATP)の存在下での作用により反応させて、γ−グルタミルシステインを生成する工程Aである、
    請求項11に記載の方法。
  13. 前記工程Aが、アデノシン二リン酸(ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)へと再生するATP再生反応と共役させて行われる、請求項12に記載の方法。
  14. 前記γ−グルタミルシステイン合成酵素がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来である、請求項12又は13に記載の方法。
  15. 前記2機能性グルタチオン合成酵素がストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)由来である、請求項12又は13に記載の方法。
JP2016538361A 2014-07-29 2015-07-28 γ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの製造方法 Ceased JPWO2016017631A1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014154026 2014-07-29
JP2014154026 2014-07-29
PCT/JP2015/071358 WO2016017631A1 (ja) 2014-07-29 2015-07-28 γ-グルタミルシステイン及びグルタチオンの製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPWO2016017631A1 true JPWO2016017631A1 (ja) 2017-04-27

Family

ID=55217531

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016538361A Ceased JPWO2016017631A1 (ja) 2014-07-29 2015-07-28 γ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの製造方法

Country Status (4)

Country Link
US (1) US20170211117A1 (ja)
JP (1) JPWO2016017631A1 (ja)
CN (1) CN106536744A (ja)
WO (1) WO2016017631A1 (ja)

Families Citing this family (9)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN106526004A (zh) * 2016-10-14 2017-03-22 安琪酵母股份有限公司 一种富含谷胱甘肽酵母抽提物中氧化型谷胱甘肽杂质的检测方法
EP3536782A4 (en) * 2016-11-01 2019-10-02 Kaneka Corporation ENZYME MODIFIED AND CORRESPONDING USE
CN110603331A (zh) * 2017-05-01 2019-12-20 株式会社钟化 利用了atp的物质的制造方法
CN109134594B (zh) * 2017-06-15 2022-06-17 安徽古特生物科技有限公司 一种酶法制备谷胱甘肽的方法
CN108456664A (zh) * 2018-03-29 2018-08-28 上海理工大学 一种乳杆菌来源的双功能谷胱甘肽合成酶表达盒及其构建和应用
JP7181712B2 (ja) * 2018-06-27 2022-12-01 国立大学法人大阪大学 グルタチオンの製造方法
CN112779173B (zh) * 2021-01-06 2023-03-14 江南大学 一种高产谷胱甘肽毕赤酵母菌株g3-sf及其应用
CN113265382B (zh) * 2021-06-24 2023-11-10 洛阳华荣生物技术有限公司 多聚磷酸激酶突变体
WO2023196276A1 (en) * 2022-04-04 2023-10-12 Children's National Medical Center Preparation of gamma l-glutamyl l-cysteine and bis gamma l-glutamyl cycstine

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS5577888A (en) * 1978-12-07 1980-06-12 Takashi Ito Immobilized gamma-glutamyl-cysteine-synthetase
JPS60196197A (ja) * 1984-03-19 1985-10-04 Kazutomo Imahori ペプチド又はペプチド誘導体の合成法
JPS6174595A (ja) * 1984-09-21 1986-04-16 Kyowa Hakko Kogyo Co Ltd 物質の製造方法
WO2006063116A2 (en) * 2004-12-09 2006-06-15 Griffith Owen W Bifunctional enzyme with ϝ-glutamyleysteine synthetase and glutathione synthetase activity and uses thereof
JP2012085637A (ja) * 2010-09-22 2012-05-10 Ajinomoto Co Inc γ‐Glu‐X‐Yの製造方法

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP0146265B1 (en) * 1983-11-15 1991-04-03 Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd. Process for producing a compound from its precursor using an enzymatic activity of bacterium
JP2005029605A (ja) * 2003-07-08 2005-02-03 Japan Polyolefins Co Ltd 難燃樹脂材料およびそれを用いた電線・ケーブル
JP5221336B2 (ja) * 2005-03-31 2013-06-26 ニューサウス イノベイションズ ピーティーワイ リミテッド γ−グルタミルシステインの製造プロセス
CN101715490B (zh) * 2007-04-06 2014-02-05 协和发酵生化株式会社 谷胱甘肽及γ-谷氨酰半胱氨酸的制造方法

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS5577888A (en) * 1978-12-07 1980-06-12 Takashi Ito Immobilized gamma-glutamyl-cysteine-synthetase
JPS60196197A (ja) * 1984-03-19 1985-10-04 Kazutomo Imahori ペプチド又はペプチド誘導体の合成法
JPS6174595A (ja) * 1984-09-21 1986-04-16 Kyowa Hakko Kogyo Co Ltd 物質の製造方法
WO2006063116A2 (en) * 2004-12-09 2006-06-15 Griffith Owen W Bifunctional enzyme with ϝ-glutamyleysteine synthetase and glutathione synthetase activity and uses thereof
JP2012085637A (ja) * 2010-09-22 2012-05-10 Ajinomoto Co Inc γ‐Glu‐X‐Yの製造方法

Non-Patent Citations (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
ANDERSON M. E.: "Glutathione: an overview of biosynthesis and modulation", CHEMBIOL. INTERACT., vol. Vol. 111-112, JPN6019016181, April 1998 (1998-04-01), pages 1 - 14, ISSN: 0004028004 *
GONZALEZ SISO M. I. ET AL.: "The yeast hypoxic responses, resources for new biotechnological opportunities", BIOTECHNOL. LETT., vol. 34, JPN6019016175, December 2012 (2012-12-01), pages 2161 - 2173, ISSN: 0004028006 *
JANOWIAK B. E. ET AL.: "Glutathione Synthesis in Streptococcus agalactiae", J. BIOL. CHEM., vol. 280, no. 12, JPN6015038263, 2005, pages 11829 - 11839, XP055249654, ISSN: 0004028002, DOI: 10.1074/jbc.M414326200 *
LACOMBE P. ET AL.: "Glutathione status during the mitogenic response of rat splenocytes. Effects of oxygen concentratio", BIOCHIMIE, vol. 68, JPN6019016172, April 1986 (1986-04-01), pages 555 - 563, ISSN: 0004028005 *
MURATA K. ET AL.: "Glutathione specifically labeled with isotopes", ANAL. BIOCHEM., vol. 150, JPN6019016179, October 1985 (1985-10-01), pages 235 - 237, XP024823154, ISSN: 0004028003, DOI: 10.1016/0003-2697(85)90464-6 *
WATANABE K. ET AL.: "The nucleotide sequence of the gene for gamma-glutamylcysteine synthetase of Escherichia coli", NUCLEIC ACIDS RES., vol. 14, JPN6019016177, June 1986 (1986-06-01), pages 4393 - 4400, XP001318655, ISSN: 0004028007 *

Also Published As

Publication number Publication date
US20170211117A1 (en) 2017-07-27
CN106536744A (zh) 2017-03-22
WO2016017631A1 (ja) 2016-02-04

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JPWO2016017631A1 (ja) γ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの製造方法
EP1177311B1 (en) In vitro macromolecule biosynthesis methods using exogenous amino acids and a novel atp regeneration system
JPWO2016002884A1 (ja) 酸化型γ−グルタミルシステイン及び酸化型グルタチオンの製造方法
EP3564368A1 (en) Mutant nitrile hydratase, nucleic acid coding said mutant nitrile hydratase, expression vector and transformant including said nucleic acid, production method for said mutant nitrile hydratase, and production method for amide compound
JP5516664B2 (ja) N−アセチル−(R,S)−β−アミノ酸アシラーゼ遺伝子
Kino et al. A novel L-amino acid ligase from Bacillus subtilis NBRC3134 catalyzed oligopeptide synthesis
Arai et al. A novel L-amino acid ligase is encoded by a gene in the phaseolotoxin biosynthetic gene cluster from Pseudomonas syringae pv. phaseolicola 1448A
WO2009139392A1 (ja) β-アラニルアミノ酸またはその誘導体の製造方法
CN106893699B (zh) 一种粗酶制剂、其制备方法及应用
CN111808829B (zh) 一种γ-谷氨酰甲胺合成酶突变体及其应用
JP6394061B2 (ja) アルカリ性条件下で反応を触媒できるリジン脱炭酸酵素を用いる1,5−ペンタンジアミンの製造方法
KR101671688B1 (ko) 효소를 이용하여 pH를 조절하는 무세포 단백질 합성 방법
JP6675519B2 (ja) D型アミノ酸脱水素酵素
JP5099881B2 (ja) 高効率無細胞蛋白質合成系
US8372607B2 (en) Method for producing serine derivative and protein used for the same
JP5119783B2 (ja) N−アセチル−(R,S)−β−アミノ酸アシラーゼ遺伝子
JP6286036B2 (ja) 人工補因子の合成のためのs−アデノシルメチオニン(sam)シンターゼ変異体
JPWO2002040682A1 (ja) コエンザイムq10の製造法
EP4353820A1 (en) Superoxide dismutase 1 variant and method for producing glutathione or derivative thereof, using same
WO2012105711A1 (ja) 有機化合物の製造方法
CN111406111A (zh) 一种改进的生物技术生产l-色氨酸的方法
JP2014057545A (ja) リガーゼ及びそれを用いたペプチドの製造方法
KR20230160222A (ko) 개변형 니코틴아미드 포스포리보실트랜스퍼라아제
JPWO2019211969A1 (ja) 改変型エステラーゼ及びその用途
Novikov et al. The highly efficient expression of the aspartase gene (L-aspartate ammonia-lyase) in Escherichia coli cells

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20180601

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190508

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20190705

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200107

A045 Written measure of dismissal of application [lapsed due to lack of payment]

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A045

Effective date: 20200630