JPWO2016009951A1 - ブルガリア菌の増殖が促進された発酵乳及びその製造方法 - Google Patents

ブルガリア菌の増殖が促進された発酵乳及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【解決課題】 ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制する。【解決手段】 本発明に係る発酵乳の製造方法は,原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得るスタータ添加工程と,発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する酸度調整工程と,酸度調整工程後の発酵乳基材を発酵させて発酵乳を得る発酵工程と,を含む。これにより,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進することができるため,ブルガリア菌由来の多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができる。【選択図】図1

Description

本発明は,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む発酵乳の製造方法に関する。この発酵乳の例は,プレーンタイプ,ハードタイプ,ソフトタイプ及びドリンクタイプなどのヨーグルトである。また,本発明は,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む発酵乳に関する。
以前から,原料乳(ヨーグルトミックス)に,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の2種の乳酸菌をスタータとして接種して,発酵させることにより得られるヨーグルトが知られている。このようなヨーグルトでは,一般的に,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の比率が,1:4〜1:5程度であり,ブルガリア菌に対して,サーモフィルス菌が圧倒的に多数で存在している。
ところで,ヨーグルトには,ブルガリア菌の菌数に規格(例えば,16日間の保存後で,10cfu/g以上)が設定されている製品がある。また,ヨーグルトには,ブルガリア菌によって産出される機能性の多糖体(EPS:Exopolysaccharide)が所定量で含有されていることを特徴とする製品も存在する。このようなヨーグルトでは,その製造過程において,ブルガリア菌の菌数を増加させることが望まれる。
この点,以前から,原料乳(ヨーグルトミックス)や発酵乳基材(ヨーグルトベース)や培地などに,pH緩衝剤を添加して発酵や培養させることで,乳酸菌の増殖を促進させる方法が知られている。
また,例えば,特許文献1には,発酵乳基材(ヨーグルトベース)に,オレイン酸などを添加する,低脂肪ヨーグルトの製造方法が開示されている。特許文献1によれば,オレイン酸などを用いることで,低脂肪ヨーグルトにおける乳酸菌の生残性を向上させることができると提案されている。
また,例えば,特許文献2には,発酵乳基材(ヨーグルトベース)に,グァバ葉エキスを添加する,発酵食品の製造方法が開示されている。特許文献2によれば,グァバ葉エキスを用いることで,乳酸菌の生残性改善剤や乳酸菌の増殖促進剤として機能するため,発酵食品における乳酸菌の生残性を向上させることができると提案されている。
また,例えば,特許文献3には,発酵乳基材(ヨーグルトベース)に,アラビアガムを添加する,発酵食品の製造方法が開示されている。特許文献3によれば,アラビアガムを用いることで,発酵食品の保存中におけるビフィズス菌の生存率を増加させることができると提案されている。
特開2001−045968号公報 特開2010−119305号公報 特表2010−505390号公報
しかしながら,上記した従来技術のように,乳酸菌の菌数を増加させるために,原料乳や発酵乳基材に,pH緩衝剤などの乳酸菌の増殖促進剤を添加すると,この増殖促進剤が原因となって,乳本来の風味とは異なる雑味,苦味,酸味などが発生するという問題があった。このため,従来の乳酸菌の増殖促進剤を用いる場合,発酵乳の風味の調整が困難であった。
また,乳酸菌の増殖促進剤を添加すると,発酵乳に含まれる乳酸菌の菌数を増加させることはできるが,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の両方を含む発酵乳において,従来の乳酸菌の増殖促進剤を用いる場合,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の両方の菌数が一緒に増加することとなる。つまり,従来の乳酸菌の増殖促進剤を用いる場合,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の増殖が一緒に促進されるため,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進することが困難であり,その結果として,ブルガリア菌に由来する多糖体の産生を促進することが困難であった。これに対し,上述したようなヨーグルトでは,その製造過程において,ブルガリア菌の増殖のみを促進させて,サーモフィルス菌の増殖を促進させなくてもよい製品も存在する。このとき,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の両方を含む発酵乳において,ブルガリア菌の菌数の比率を高めることで,ブルガリア菌に由来する多糖体の生産量を増やすことが可能となる。
そこで,本発明は,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む発酵乳において,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制することを主たる解決課題とする。また,本発明は,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進すること解決課題とする。
本発明の発明者らは,従来の問題を解決する手段について鋭意検討した結果,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータが添加された発酵乳基材の酸度を0.2%以上という比較的に高い値に調整し,その後,この発酵乳基材を発酵させることで,予想外にも,ブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されるという知見を得た。その結果として,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いなくても,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることに成功し,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができた。そして,本発明者らは,上記の知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。
本発明の第1の側面は,発酵乳の製造方法に関する。
本発明の製造方法は,殺菌工程と,冷却工程と,スタータ添加工程と,酸度調整工程と,加温工程と,発酵工程とを含む。
殺菌工程は,原料乳を(加熱)殺菌する工程である。
冷却工程は,殺菌工程後の原料乳を冷却する工程である。
スタータ添加工程は,原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して,発酵乳基材を得る工程である。
酸度調整工程は,発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する工程である。
加温工程は,低温保持工程後の発酵乳基材を,発酵促進温度まで加温する工程である。
発酵工程は,酸度調整工程後の発酵乳基材を発酵させて,発酵乳を得る発酵工程である。
なお,酸度調整工程及びスタータ添加工程は,同時に行われる工程であってもよいし,別々に行われる工程であってもよい。
そして,酸度調整工程は,発酵工程前に行われるものであり,発酵乳基材を発酵させることにより,その酸度を0.2%以上に調整するという態様は含まれない。
上記のように,本発明では,乳酸菌スタータを添加した発酵乳基材の酸度を一定値以上に高めた後に,この発酵乳基材を発酵させることとしている。発酵乳基材の酸度は,例えば,乳酸を添加したり,乳酸菌スタータを多めに添加したり,他の酸度調整剤を添加することによって,0.2%以上に調整すればよい。このように,発酵乳基材の酸度を比較的に高い値に調整してから発酵させることにより,予想外にも,ブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されるという結果が得られた。つまり,酸度が0.2%以上の発酵乳基材を発酵させた発酵乳と,酸度が0.2%未満の発酵乳基材を発酵させた発酵乳とを比較すると,後者よりも前者で,ブルガリア菌の菌数が多くなり,しかも,後者よりも前者で,サーモフィルス菌の菌数が少なくなっていた。このため,酸度調整工程を行うことで,ブルガリア菌の増殖を促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を抑制することに成功したといえる。そして,ブルガリア菌には,機能性の多糖体(EPS:Exopolysaccharide)を生産するものがある。従って,本発明によれば,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,多糖体を多く含む発酵乳を製造することができる。
本発明において,酸度調整工程は,乳酸を発酵乳基材に添加することにより,当該発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する工程であることが好ましい。
上記のように,発酵乳基材に乳酸を添加して,酸度を調整することで,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進することができる。これにより,添加物による雑味などを発生させずに,多糖体を多く含む発酵乳を製造することが可能となる。
本発明において,酸度調整工程は,スタータ添加工程において,発酵乳基材に添加する乳酸菌スタータの添加量を調整することにより,当該発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する工程であることが好ましい。
上記のように,乳酸菌スタータの添加量を増やすことで,発酵乳基材の酸度を高めることができる。このように,乳酸菌スタータの添加量によって,発酵乳基材の酸度を調整することで,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進することができる。これにより,添加物による雑味などを発生させずに,多糖体を多く含む発酵乳を製造することが可能となる。
本発明において,酸度調整工程は,発酵乳基材の酸度を0.3%以上に調整する工程であることが好ましい。
後述する実施例に示されるように,酸度を0.3%以上に調整した発酵乳基材を発酵させることで,サーモフィルス菌に対するブルガリア菌の菌数比を飛躍的に向上させることに成功した。このため,発酵乳基材の酸度を0.3%以上に調整することで,さらに多くの多糖体を含む発酵乳を製造することができる。
本発明において,酸度調整工程及びスタータ添加工程は,発酵乳基材が発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)未満である状態で行われることが好ましい。また,発酵工程は,発酵乳基材を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)に加温された状態で行われることが好ましい。ここで,発酵促進温度とは,微生物(乳酸菌など)が活性化して,発酵乳基材の発酵が進行や促進される温度を意味する。
上記のように,発酵促進温度未満で,発酵乳基材の酸度の調整を行い,酸度の調整を終えた後に,その発酵乳基材を発酵促進温度に保持しながら発酵を進めるようにすることで,ブルガリア菌の増殖を効果的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を効果的に抑制することができる。つまり,ブルガリア菌の増殖を促進し,サーモフィルス菌の増殖を抑制するためには,発酵を開始する前の段階で,発酵乳基材の酸度を一定値以上に高めておくことが重要になるといえる。
本発明において,発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をαとする。そして,本発明において,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をβとする。この場合において,β/αの数値が,1.1以上であることが好ましい。
上記のように,本発明の発酵乳の製造方法によれば,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率が小さい乳酸菌スタータを用いた場合であっても,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率が大きい発酵乳を製造することができる。つまり,本発明の発酵乳の製造方法によれば,サーモフィルス菌に対するブルガリア菌の菌数の比率を飛躍的に向上させることが可能である。本発明において,ブルガリア菌由来の多糖体の濃度が高まって,サーモフィラス菌由来の多糖体が高まる場合よりもなめらかさが増大する。
本発明において,発酵工程は,発酵乳基材を容器に充填した後に発酵させて,発酵乳を得る工程であってもよい。いわゆる後発酵処理を行うことで,いわゆるセットタイプヨーグルトやプレーンタイプヨーグルトを製造することができる。
本発明の第2の側面は,発酵乳に関する。
本発明の発酵乳は,原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得てから,この発酵乳基材を発酵させることにより得られる。ここで,発酵乳基材は,その酸度が0.2%以上である。
上記のように,発酵前の発酵乳基材の酸度を0.2%以上と比較的高い値に調整することで,本発明の発酵乳は,ブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されたものとなる。このように,本発明の発酵乳は,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加したものであるため,多糖体を多く含むものとなる。
本発明の発酵乳は,乳酸酸度(酸度)が0.9%以下であることが好ましい。
上記のように,本発明において,発酵時間を長くせず,発酵乳の乳酸酸度が0.9%以下という適度な乳酸酸度で,発酵乳の風味のまろやかさや食感のなめらかさなどを維持しつつ,ブルガリア菌の菌数の比率を高めることが可能となる。一般的に,発酵時間を長くし,発酵乳の乳酸酸度が0.9%超になるまで,乳酸酸度を高めれば,ブルガリア菌に由来する多糖体の生産量を十分に増やすことが可能となると考えられる。ただし,発酵時間を長くし,発酵乳の乳酸酸度が高まると,風味のまろやかさや食感のなめらかさが損なわれる恐れがある。そこで,本発明の発酵乳は,酸度が0.2%以上の発酵乳基材を発酵させつつ,且つ,乳酸酸度が0.9%以下という好ましい範囲で,発酵が停止されたものであることが好ましい。
本発明によれば,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む発酵乳において,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制することができる。
図1は,本発明の製造方法の一実施形態を示した流れ図である。
以下,図面を用いて,本発明を実施するための形態について説明する。ただし,本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
本願明細書において,「原料乳(ヨーグルトミックス)」とは,発酵乳の材料であり,生乳のみからなるものや,生乳に,脱脂粉乳,クリーム,水などを混合して調製した,スタータ添加工程前の状態のものを意味する。また,「発酵乳基材(ヨーグルトベース)」とは,原料乳に乳酸菌スタータを添加した発酵乳の材料であり,発酵工程前の状態のものを意味する。また,「発酵乳」とは,発酵乳基材を発酵させることにより得られる,発酵工程後の状態の製造結果物を意味する。
なお,本願明細書において,「A〜B」とは,「A以上B以下」であることを意味する。
本発明は,発酵乳及びその製造方法に関する。発酵乳の例は,ヨーグルトである。ヨーグルトは,プレーンタイプやハードタイプやソフトタイプであってもよいし,ドリンクタイプであってもよい。また,本発明によって製造された発酵乳を,フローズンヨーグルトの材料として用いることも可能である。また,本発明によって製造された発酵乳を,チーズの材料として用いることも可能である。本発明において,発酵乳とは,乳等省令で定義される「発酵乳」,「乳製品乳酸菌飲料」,「乳酸菌飲料」などのいずれであってもよい。
図1は,本発明の一実施形態に係る製造方法の各工程を示した流れ図である。図1に示されるように,本発明に係る発酵乳の製造方法は,原料乳調製工程(ステップS1),殺菌工程(ステップS2),冷却工程(ステップS3),スタータ添加工程(ステップS4),酸度調整工程(ステップS5),加温工程(ステップS6),発酵工程(ステップS7),再冷却工程(ステップS8)を含むことが好ましい。また,本発明の製造方法は,さらに,嫌気工程(ステップS9)を含むことが好ましい。
図1に示されるように,発酵乳の製造にあたり,最初に,原料乳調製工程(ステップS1)が行われる。原料乳調製工程は,発酵乳の材料となる原料乳を調製する工程である。原料乳は,ヨーグルトミックスとも呼ばれる。本発明において,原料乳には,公知のものを用いることができる。例えば,原料乳は,生乳のみからなるもの(生乳100%)であってもよい。また,原料乳は,生乳に,脱脂粉乳,クリーム,水などを混合して調製したものであってもよい。また,原料乳には,その他に,殺菌乳,全脂乳,脱脂乳,全脂濃縮乳,脱脂濃縮乳,全脂粉乳,バターミルク,有塩バター,無塩バター,ホエー,ホエー粉,ホエータンパク質濃縮物(WPC),ホエータンパク質単離物(WPI),α−La(アルファ−ラクトアルブミン),β−Lg(ベータ−ラクトグロブリン),乳糖などを添加してもよい。また,原料乳には,予め温めたゼラチン,寒天,増粘剤,ゲル化剤,安定剤,乳化剤,ショ糖,甘味料,香料,ビタミン,ミネラルなどを適宜添加してもよい。原料乳調製工程では,原料乳を均質化する均質化工程により,原料乳に含まれる脂肪球などを微硫化(粉砕)することが好ましい。この均質化工程により,発酵乳の製造過程や製造後において,原料乳,発酵乳基材,発酵乳の脂肪分が分離することや浮上することを抑制や防止できる。
殺菌工程(ステップS2)は,原料乳調製工程後に行われる。殺菌工程は,原料乳を加熱処理などして殺菌する工程である。例えば,殺菌工程では,原料乳の雑菌を殺菌できる程度に,加熱温度及び加熱時間を調整して加熱処理すればよい。本発明において,殺菌工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,殺菌工程では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,スチームインジェクション式加熱装置,スチームインフュージョン式加熱装置,通電式加熱装置などによって加熱処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって加熱処理を行ってもよい。そして,殺菌工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプやソフトタイプの場合などにおいて,高温短時間殺菌処理(HTST)などの加熱処理を行えばよく,ヨーグルトがドリンクタイプの場合などにおいて,超高温殺菌処理(UHT)などの加熱処理を行ってもよい。さらに,例えば,殺菌工程では,高温短時間殺菌処理(HTST)は,原料乳を80℃〜100℃に,3分〜15分間程度で加熱する処理であればよく,超高温殺菌処理(UHT)は,110℃〜150℃に,1秒〜30秒間程度で加熱する処理であればよい。
冷却工程(ステップS3)は,殺菌工程後に行われる。冷却工程は,加熱処理などされた原料乳を,所定温度に冷却などする工程である。冷却工程では,原料乳を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温になるまで冷却する。本発明において,冷却工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,冷却工程では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,真空(減圧)蒸発冷却器によって冷却処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって冷却処理を行ってもよい。なお,具体的に,冷却工程では,原料乳が15℃以下まで冷却されていることが好ましい。そして,冷却工程では,原料乳が1℃〜15℃に冷却されていることが好ましく,3℃〜10℃に冷却されていることがより好ましく,5℃〜8℃に冷却されていることがさらに好ましい。
冷却工程では,殺菌工程が加熱処理の場合において,その殺菌工程で温度が上昇した100℃程度の原料乳を低温(15℃以下)まで急速に冷却することが好ましい。そして,例えば,冷却工程では,殺菌工程が加熱処理の場合において,その殺菌工程で温度が上昇した100℃程度の原料乳を15℃まで冷却する時間は,10分間以内であることが好ましく,5分間以内であることがより好ましく,1分間以内であることがさらに好ましく,30秒間以内であることが特に好ましい。この冷却工程により,原料乳において,タンパク質が変性することや糖質が褐変化することを抑制や防止できる。
スタータ添加工程(ステップS4)は,冷却工程後又は冷却工程中に行われる。スタータ添加工程は,原料乳に乳酸菌スタータを添加(混合)して,発酵乳基材を得る工程である。すなわち,殺菌工程後に,原料乳が所定温度まで低下した後に,乳酸菌スタータを添加してもよいし,殺菌工程後に,原料乳が所定温度まで低下している最中に,乳酸菌スタータを添加してもよい。本発明において,スタータ添加工程には,公知の方法を用いることができる。ただし,本発明において,乳酸菌スタータには,少なくとも,ブルガリア菌とサーモフィルス菌が含まれる。すなわち,「ブルガリア菌」とは,ラクトバチルス・ブルガリカス(L. bulgaricus)であり,「サーモフィルス菌」とは,ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.t hermophilus)である。また,本発明において,スタータ添加工程では,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の他に,公知の乳酸菌を添加(混合)してもよい。例えば,スタータ添加工程では,ガセリ菌(ラクトバチルス・ガッセリ(L. gasseri)),ラクティス菌(ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)),クレモリス菌(ラクトコッカス・クレモリス(L. cremoris)),ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)など)を添加(混合)してもよい。なお,乳酸菌スタータは,乳酸菌として,ブルガリア菌とサーモフィルス菌のみからなるものが好ましい。一方,乳酸菌スタータの添加量は,公知の発酵乳の製造方法において採用されている数量であればよく,例えば,0.1〜5重量%であることが好ましく,0.5〜4重量%であることがより好ましく,1〜3重量%であることがさらに好ましい。
スタータ添加工程では,乳酸菌スタータに含まれるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数(生菌数)は,公知の発酵乳の製造方法において採用されている数値であればよい。そして,例えば,乳酸菌スタータに含まれるブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数の比率では,1:4〜1:5が一般的である。なお,具体的に,スタータ添加工程では,乳酸菌スタータに含まれるサーモフィルス菌の菌数を1(基準)としたときのブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)は,0.01〜0.8であればよく,0.05〜0.7であることが好ましく,0.1〜0.5であることがより好ましく,0.2〜0.4であることがさらに好ましい。一方,スタータ添加工程では,乳酸菌スタータに含まれるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数(生菌数)は,予め,サーモフィルス菌の菌数よりもブルガリア菌の菌数を多く含ませることもできる。例えば,乳酸菌スタータに含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,1.0〜5.0,又は1.5〜4.0などであってもよい。なお,乳酸菌の菌数は,公知の方法に従って測定すればよい。
酸度調整工程(ステップS5)は,スタータ添加工程前,スタータ添加工程後又はスタータ添加工程中に行われる。酸度調整工程は,乳酸菌スタータが添加されていない原料乳の酸度や乳酸菌スタータが添加された発酵乳基材の酸度を所定値以上に調整する工程である。酸度調整工程では,原料乳の酸度や発酵乳基材の酸度は,0.2%以上であればよく,0.25%以上であることが好ましく,0.3%以上であることがより好ましく,0.35%以上であることがさらに好ましく,0.4%以上であれば特に好ましい。原料乳の酸度の上限値や発酵乳基材の酸度の上限値は,特に限定されないが,原料乳の酸度や発酵乳基材の酸度が高過ぎると,この原料乳や発酵乳基材から得られる発酵乳の風味や食感が低下するおそれがある。このため,原料乳の酸度や発酵乳基材の酸度は,0.65%以下であることが好ましく,0.6%以下であることがより好ましく,0.55%以下であることがさらに好ましい。
本願明細書において,酸度(乳酸酸度)は,乳等省令の「乳等の成分規格の試験法」に従って測定することができる。具体的には,試料の10gに,炭酸ガスを含まないイオン交換水を10mlで添加してから,指示薬として,フェノールフタレイン溶液を0.5mlで添加する。そして,水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)を添加しながら,微紅色が消失しないところを限度として滴定し,その水酸化ナトリウム溶液の滴定量から試料の100g当たりの乳酸の含量を求めて,酸度(乳酸酸度)とする。なお,フェノールフタレイン溶液は,フェノールフタレインの1gをエタノール溶液(50%)に溶かして100mlにフィルアップして調製する。
通常の方法及び用量で,原料乳に乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得る場合,原料乳の酸度は0.05%程度になっており,乳酸菌スタータを添加した直後の発酵乳基材(発酵乳基材の元)の酸度は0.15%以下になっている。そこで,酸度調整工程では,原料乳の酸度や発酵乳基材の元(酸度を調整する前の発酵乳基材)の酸度を高めるために任意の処理が行われる。つまり,酸度調整工程では,通常の原料乳の酸度は0.05%程度であり,通常の発酵乳基材の元の酸度が0.15以下であるところ,発酵乳基材の酸度が0.2%以上に高まるように,原料乳の酸度や発酵乳基材の元の酸度を調整する処理が行われる。このように,酸度調整工程では,基本的に,原料乳の酸度を3.5倍以上に高める処理や,発酵乳基材の酸度を1.3倍以上に高める処理が行われる。このとき,酸度調整工程では,原料乳の酸度を3.7〜10倍に高めることや,発酵乳基材の元の酸度を1.4〜3.5倍に高める工程であることが好ましく,原料乳の酸度を4〜8倍に高めることや,発酵乳基材の元の酸度を1.5〜3倍に高める工程であることがより好ましい。
酸度調整工程では,原料乳や発酵乳基材の元の酸度を高める(酸度を調整する)方法は,特に限定されないが,例えば,(A)原料乳や発酵乳基材に乳酸を添加(配合)する方法,(B)原料乳や発酵乳基材に酸度調整剤(乳酸を除く)を添加(配合)する方法,(C)原料乳に乳酸菌スタータを増加(増量)させて添加(配合)する方法,(D)通常の方法及び用量で,原料乳に乳酸菌スタータを添加(配合)して発酵乳基材を得てから,この発酵乳基材の酸度が0.2%以上に高まるように,発酵乳基材を所定温度で(発酵工程と同程度の温度で)保持した(発酵させた)後に,いったん発酵乳基材を所定温度に(低温保持工程と同程度の温度に)冷却して保持する方法などが考えられる。ここで,原料乳や発酵乳基材に乳酸を添加する方法では,乳酸の添加量は,原料乳や発酵乳基材の元の酸度に応じて,適宜調整すればよい。なお,具体的に,乳酸の添加量は,例えば,0.1〜0.6重量%であることが好ましく,0.15〜0.55重量%であることがより好ましく,0.2〜0.5重量%であることがさらに好ましい。このとき,乳酸菌スタータを原料乳に添加する前に,乳酸を原料乳に添加してもよいし,乳酸菌スタータを原料乳に添加するのと同時に,乳酸を原料乳に添加してもよいし,乳酸菌スタータを原料乳に添加した後に,乳酸を発酵乳基材に添加してもよい。また,乳酸を乳酸菌スタータに添加してから,この乳酸を添加した乳酸菌スタータを原料乳に添加してもよい。
原料乳や発酵乳基材に酸度調整剤(乳酸を除く)を添加する方法では,酸度調整剤として,例えば,酢酸,クエン酸,グルコン酸,フィチン酸などの食品添加物を用いることができる。ここで,原料乳や発酵乳基材に酸度調整剤を添加する方法では,酸度調整剤の添加量は,原料乳や発酵乳基材の元の酸度に応じて,適宜調整すればよい。なお,具体的に,乳酸の添加量は,例えば,0.1〜0.6重量%であることが好ましく,0.15〜0.55重量%であることがより好ましく,0.2〜0.5重量%であることがさらに好ましい。このとき,乳酸菌スタータを原料乳に添加する前に,酸度調整剤を原料乳に添加してもよいし,乳酸菌スタータを原料乳に添加するのと同時に,酸度調整剤を原料乳に添加してもよいし,乳酸菌スタータを原料乳に添加した後に,酸度調整剤を発酵乳基材に添加してもよい。また,酸度調整剤を乳酸菌スタータに添加してから,この酸度調整剤を添加した乳酸菌スタータを原料乳に添加してもよい。ただし,原料乳や発酵乳基材に酸度調整剤(乳酸を除く)を添加すると,通常の発酵乳と風味が異なってくる可能性があるため,原料乳や発酵乳基材に乳酸を添加する方法が好ましい。
原料乳に乳酸菌スタータを増加(増量)させて添加する方法では,乳酸菌スタータの添加量によって,発酵乳基材の酸度を調整することができる。ここで,原料乳に乳酸菌スタータを増加させて添加する方法では,乳酸菌スタータの添加量は,発酵乳基材の酸度が0.2%以上に高まるように調整されている数量であればよく,例えば,10〜15重量%であることが好ましく,10〜14重量%であることがより好ましく,10〜13重量%であることがさらに好ましい。このとき,乳酸菌スタータでは,乳酸菌の培養の進行(増殖など)に伴って生成する乳酸が多く含まれており,酸度が高められている。そのため,原料乳に乳酸菌スタータを増加させて添加することで,乳酸菌に由来する乳酸が原料乳に多量で含有されることとなり,原料乳の酸度を効果的に高められる。なお,原料乳に乳酸菌スタータを増加させて添加する方法では,スタータ添加工程(ステップS4)と,酸度調整工程(ステップS5)は,実質的に同一の工程となり,その後の加温工程(ステップS6)と,発酵工程(ステップS7)は,実質的に同一の工程に近い連続的な工程となる。そこで,冷却工程では,原料乳が30℃〜50℃に冷却されていてもよく,33℃〜47℃に冷却されていてもよく,35℃〜44℃に冷却されていてもよい。
通常の方法及び用量で,原料乳に乳酸菌スタータを添加(配合)して発酵乳基材を得てから,この発酵乳基材の酸度が0.2%以上に高まるように,発酵乳基材を所定温度で(発酵工程と同程度の温度で)保持した(発酵させた)後に,いったん発酵乳基材を所定温度に(冷却工程と同程度の温度に)冷却して保持する方法では,乳酸菌スタータの添加量は,公知の発酵乳の製造方法において採用されている数量であればよく,例えば,0.1〜5重量%であることが好ましく,0.5〜4重量%であることがより好ましく,1〜3重量%であることがさらに好ましい。ここで,原料乳に乳酸菌スタータを添加して得られた発酵乳基材を発酵工程と同程度の温度で発酵させることで,酸度が0.2%以上に高められた発酵乳基材を調製する。このとき,発酵乳基材では,乳酸菌スタータの発酵の進行に伴って生成する乳酸が多く含まれており,酸度が高められている。そのため,原料乳に乳酸菌スタータを添加して発酵させることで,乳酸菌に由来する乳酸が発酵乳基材に多量で含有されることとなり,発酵乳基材の酸度を効果的に高められる。その後に,低温保持工程として,いったん発酵乳基材を冷却工程と同程度の温度に冷却して保持する。なお,通常の方法及び用量で,原料乳に乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得てから,この発酵乳基材の酸度が0.2%以上に高まるように,発酵乳基材を発酵工程と同程度の温度で発酵させた後に,いったん発酵乳基材を冷却工程と同程度の温度に冷却して保持する方法では,スタータ添加工程(ステップS4)と,酸度調整工程(ステップS5)は,実質的に同一の工程となり,その後の加温工程(ステップS6)と,発酵工程(ステップS7)の途中までの工程は,実質的に同一の工程に近い連続的な工程となる。そこで,冷却工程では,原料乳が30℃〜50℃に冷却されていてもよく,33℃〜47℃に冷却されていてもよく,35℃〜44℃に冷却されていてもよい。
低温保持工程は,上記のように,発酵工程(ステップS7)の途中に行われる。低温保持工程は,乳酸菌スタータが添加されている発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温に,所定期間で保持する工程である。例えば,低温保持工程では,冷却工程において発酵乳基材が15℃以下まで冷却されているため,そのまま15℃以下の状態で保持すればよい。ただし,冷却工程から低温保持工程までの間に,発酵乳基材の温度が上昇していても,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温に保持されていれば問題はない。本発明において,低温保持工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,低温保持工程では,ジャケット付のタンクによって低温保持処理を行ってもよい。なお,具体的に,低温保持工程では,発酵乳基材が15℃以下に低温保持されていることが好ましい。そして,低温保持工程では,発酵乳基材が1℃〜20℃に低温保持されていることが好ましく,3℃〜15℃に低温保持されていることがより好ましく,5℃〜10℃に低温保持されていることがさらに好ましい。また,具体的に,低温保持工程では,発酵乳基材が低温の状態に,1日以上で保持されていることが好ましい。そして,低温保持工程では,発酵乳基材を保持する期間は,1時間〜10日間(240時間)であることが好ましく,2時間〜8日間(192時間)であることがより好ましく,3時間〜6日間(144時間)であることがさらに好ましい。
加温工程(ステップS6)は,酸度調整工程後に行われる。加温工程は,酸度の調整が行われた発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)まで加温などする工程である。ここで,発酵促進温度とは,微生物(乳酸菌など)が活性化して,発酵乳基材の発酵が進行や促進される温度を意味する。本発明において,加温工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,加温工程では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器などによって加熱処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって加熱処理を行ってもよい。そして,例えば,乳酸菌の発酵促進温度では,30℃〜50℃が一般的である。なお,具体的に,加温工程では,発酵乳基材が30℃以上まで加温されていることが好ましい。さらに,加温工程では,発酵乳基材が30℃〜50℃に加温されていることが好ましく,33℃〜47℃に加温されていることがより好ましく,35℃〜44℃に加温されていることがさらに好ましい。
加温工程では,冷却工程で温度が低下した10℃程度の発酵乳基材を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)まで所定時間で(比較的に短時間で)加温することが好ましい。そして,例えば,加温工程では,冷却工程で温度が低下した10℃程度の発酵乳基材を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)まで加温する時間は,1時間以内であることが好ましく,30分間以内であることが好ましく,10分間以内であることがさらに好ましく,1分間以内であることが特に好ましい。この加温工程により,発酵乳基材において,ブルガリア菌の増殖を効率的に促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を効率的に抑制することができる。なお,加温工程では,冷却工程で温度が低下した10℃程度の発酵乳基材を,そのまま30℃〜50℃程度の室温に設定された発酵室に移動させて,発酵室内で徐々に昇温させながら加温処理を行うこともできる。ただし,その結果として,加温工程の所要時間が大幅に延長される可能性があり,発酵乳を短時間で効率的に製造することが困難となる。
発酵工程(ステップS7)は,加温工程後に行われる。発酵工程は,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)に加温された発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)に保持しながら発酵させて,発酵乳を得る工程である。本発明において,発酵工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,発酵工程では,発酵室などによって発酵処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって発酵処理を行ってもよい。そして,発酵工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプの場合などにおいて,後発酵処理を行えばよく,ヨーグルトがソフトタイプやドリンクタイプの場合などにおいて,前発酵処理を行ってもよい。さらに,例えば,発酵工程では,発酵室内の温度(発酵温度)を30℃〜50℃に維持し,その発酵室内で発酵乳基材を発酵する処理であればよく,ジャケット付のタンク内の温度(発酵温度)を30℃〜50℃に維持し,そのタンク内で発酵乳基材を発酵する処理であってもよい。ここで,発酵工程では,発酵乳基材を発酵させる条件を,原料乳や乳酸菌の種類や数量,発酵乳の風味や食感などを考慮して,発酵温度や発酵時間などを適宜調整すればよい。なお,具体的に,発酵工程では,発酵乳基材が30℃以上で保持されていることが好ましい。さらに,発酵工程では,発酵乳基材が30℃〜50℃に保持されていることが好ましく,33℃〜47℃で保持されていることがより好ましく,35℃〜44℃で保持されていることがさらに好ましい。また,具体的に,発酵工程では,発酵乳基材が発酵促進温度の状態に,1時間以上で保持されていることが好ましい。そして,発酵工程では,発酵乳基材を保持する期間(発酵時間)は,1時間〜12時間であることが好ましく,2時間〜8時間であることがより好ましく,3時間〜5時間であることがさらに好ましい。
発酵工程では,発酵乳基材を発酵させる条件を,原料乳や乳酸菌の種類や数量,発酵乳の風味や食感などを考慮して,乳酸酸度(酸度)やpHなどを適宜調節してもよい。なお,具体的に,発酵工程では,乳酸酸度が0.7%以上まで到達していることが好ましい。さらに,発酵工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプの場合などにおいて,後発酵処理を行うときには,乳酸酸度が0.9%以下(0.7%〜0.9%)であることが好ましく,0.85%以下(0.7%〜0.85%)であることがより好ましく,0.8%以下(0.7%〜0.8%)であることがさらに好ましく,ヨーグルトがソフトタイプやドリンクタイプの場合などにおいて,前発酵処理を行うときには,乳酸酸度が1.2%以下(0.7%〜1.2%)であることが好ましく,1.1%以下(0.7%〜1.1%)であることがより好ましく,1.0%以下(0.7%〜1.0%)であることがさらに好ましい。このとき,上記のように,発酵乳基材が発酵促進温度で保持されていることが好ましい。なお,本発明において,乳酸酸度の測定は,上述したとおり,乳等省令の「乳等の成分規格の試験法」に従って測定することができる。
発酵工程では,後発酵処理と前発酵処理のどちらであってもよい。そして,後発酵処理を行うときには,実際に製品として販売するための容器に発酵乳基材を充填した後に,発酵乳基材を発酵させる。例えば,後発酵処理を行うときには,発酵乳基材が充填された(密閉)容器を発酵室内に静置するなどして発酵させ,その得られた中間生成物である発酵乳(発酵乳カード)を,後述する再冷却工程にて冷却し,最終生成物である発酵乳(セットタイプヨーグルト,プレーンタイプヨーグルト)を得ればよい。また,前発酵処理を行うときには,実際に製品として販売するための容器に発酵乳基材を充填する前に,発酵乳基材を発酵させる。例えば,前発酵を行うときには,発酵乳基材が充填されたジャケット付のタンクを静置するなどして発酵させ,その得られた中間生成物である発酵乳(発酵乳カード)を破砕や微粒化してから,後述する再冷却工程にて冷却し,必要に応じて,果肉,野菜,果汁,野菜汁,ジャム,ソース,プレパレーションなどを混合した後に,(密閉)容器に充填して,最終生成物である発酵乳(ソフトタイプヨーグルト,ドリンクタイプヨーグルト)を得ればよい。
本実施形態において,後発酵処理に用いる容器には,発酵乳を詰めることが可能な全部の入れ物が含まれる。例えば,発酵乳は,プラスチック製,紙製,ガラス製,金属製,陶器製又はその複合材料からなる容器でよい。また,発酵乳は,上面に開口を有する容器に充填されて,発酵や凝固させてもよく,容器に蓋が付けられてもよいし,プラスチック製のシュリンクフィルム,遮光フィルム(例えば,金属箔積層フィルム,金属薄膜層フィルム,黒色または暗色インク塗布フィルム)で,容器ごとが被覆されてもよい。上記容器や上記フィルム等を二種類以上で組み合わせて用いてもよい。発酵乳は,光透過や酸素透過による風味劣化の抑制の観点から,ペットボトルや瓶に充填後に遮光フィルムを被覆すること,紙製容器や遮光性のあるプラスチック容器に充填後に遮光フィルムで密封する,プラスチック製のシュリンクフィルムで密封した後に遮光性蓋を用いることが好ましい。
発酵工程では,機能性の多糖体を生産するブルガリア菌を用いて,ブルガリア菌の増殖を促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を抑制することで,多糖体を多く生産することが可能となる。つまり,本発明において,発酵工程では,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いることなく,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができる。このとき,乳酸酸度が0.9%以下(0.7%〜0.9%のいずれか)のときに,発酵乳における多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましく,5.5mg/100g以上であることがより好ましく,6mg/100g以上であることがさらに好ましい。また,例えば,乳酸酸度が0.85%以下(0.7%〜0.85%のいずれか)のときに,発酵乳における多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましく,5.5mg/100g以上であることがより好ましく,6mg/100g以上であることがさらに好ましい。また,例えば,乳酸酸度が0.8%以下(0.7%〜0.8%のいずれか)のときに,発酵乳における多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましく,5.5mg/100g以上であることがより好ましく,6mg/100g以上であることがさらに好ましい。
再冷却工程(ステップS8)は,発酵工程後に行われる。再冷却工程は,発酵工程で得られた発酵乳を冷却する工程である。再冷却工程では,発酵の進行が抑制される。このとき,再冷却工程では,発酵乳を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温になるまで冷却する。本発明において,再冷却工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,再冷却工程では,冷蔵室,冷凍室によって再冷却処理を行えばよく,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,ジャケット付のタンクによって再冷却処理を行ってもよい。なお,具体的に,再冷却工程では,発酵乳が15℃以下まで冷却されていることが好ましい。そして,再冷却工程では,発酵乳が1℃〜15℃に冷却されていることが好ましく,3℃〜10℃に冷却されていることがより好ましく,5℃〜8℃に冷却されていることがさらに好ましい。この再冷却工程により,発酵乳を食用に適した温度に冷却することで,発酵乳の風味(酸味など)や食感(舌触りなど)や物性(硬さなど)が変化することを抑制や防止できる。
嫌気工程(ステップS9)は,任意の工程である。嫌気工程は,原料乳,発酵乳基材,発酵乳に,窒素などの不活性ガスを混合して,嫌気状態とする工程である。本発明において,嫌気工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,嫌気工程では,原料乳,発酵乳基材に,不活性ガスを混入(注入)して嫌気処理する,又は発酵乳が充填された容器内のヘッドスペース,発酵乳が充填されたタンク内のヘッドスペースに,不活性ガスを充満(充填)して嫌気処理することで,これらに存在している酸素を除去や低減する。この嫌気工程により,原料乳などに含まれる酸素が除去や低減され,原料乳などに含まれる脂質やタンパク質の酸化が抑制や防止される,又は乳酸菌の活性が促進される。そして,例えば,不活性ガスでは,窒素の他に,ヘリウム,ネオン,アルゴン,キセノンの希ガスを用いることができる。なお,具体的に,嫌気工程では,原料乳,発酵乳基材,発酵乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppm以下に低減させることが好ましく,4ppm以下に低減させることがより好ましく,3ppm以下に低減させることがさらに好ましく,2ppm以下に低減させることが特に好ましい。
嫌気工程は,原料乳調製工程(ステップS1)から再冷却工程(ステップS9)のどの工程の段階で行ってもよい。また,嫌気工程は,複数の工程の段階で継続的に行うこともできる。本発明において,嫌気工程は,スタータ添加工程(ステップS4)及び/又は酸度調整工程(ステップS5)で行うことが好ましい。また,本発明において,嫌気工程は,加温工程(ステップS6)及び/又は発酵工程(ステップS7)で行うことが好ましい。そして,スタータ添加工程及び/又は酸度調整工程の(低温保持されている)発酵乳基材に,窒素などの不活性ガスを混入して,発酵乳基材の溶存酸素濃度を低減させると共に,加温工程及び/又は発酵工程の(加温処理されている)発酵乳基材に,窒素などの不活性ガスを混入して,発酵乳基材の溶存酸素濃度を低減させ,さらに,発酵乳基材が充填されている(密閉)容器内のヘッドスペースに,不活性ガスを充満することがより好ましい。このように,嫌気処理を行うことによって,発酵乳基材の風味や品質を良好に維持すると共に,発酵乳基材に含まれているブルガリア菌の活性及びサーモフィルス菌の活性を適切に管理することができる。この嫌気工程により,発酵乳基材を酸度調整後に発酵させると,ブルガリア菌及びサーモフィルス菌,特に,ブルガリア菌が好適に活性化されて,多糖体を多く含む発酵乳を得ることができる。
上記のように,本発明において,各処理工程を経て製造された発酵乳は,ブルガリア菌の菌数(生菌数)が相対的に多くなっている。すなわち,本発明の製造方法では,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータが添加された発酵乳基材の酸度を,意図的に比較的に高い値となるように調整している。そして,この酸度を所定値以上に調整した発酵乳基材を加温処理して発酵を促進する。このように,発酵乳の製造過程において,あえて発酵乳基材の酸度を比較的に高い値に調整する操作を行うことによって,予想外にも,発酵乳に含まれているブルガリア菌の菌数が増加する現象が確認された。つまり,酸度調整工程(酸度調整処理)を行った発酵乳基材から得られた発酵乳と,酸度調整工程(酸度調整処理)を行わなかった発酵乳を比較すると,後者よりも前者で,ブルガリア菌の菌数が多くなり,しかも,後者よりも前者で,サーモフィルス菌の菌数が少なくなっていた。このため,酸度調整工程を行うことで,ブルガリア菌の増殖を促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を抑制することに成功したといえる。そして,ブルガリア菌には,機能性の多糖体(EPS:Exopolysaccharide)を生産するものがある。従って,本発明によれば,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,多糖体を多く含む発酵乳を製造することができる。特に,発酵乳基材に乳酸を添加したり,発酵乳基材に比較的に多量の乳酸菌スタータを添加したりして,発酵乳基材の酸度を高めに調整することで,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いることなく,ブルガリア菌の増殖を促進できるため,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができる。
本発明において,酸度調整工程(ステップS5)後の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数を1(基準)としたときのブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をαとする。ここで,このαの数値は,スタータ添加工程(ステップS4)の直後(具体的に,原料乳に乳酸菌スタータを添加してから1時間以内の発酵乳基材)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。また,発酵工程(ステップS7)後の発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数を1(基準)としたときのブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をβとする。ここで,このβの数値は,再冷却工程(ステップS8)の直後の発酵乳(具体的に,再冷却してから1時間以内の発酵乳)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。この場合において,本発明によれば,β/αの数値は,1.1以上とすることができる。そして,この場合において,本発明によれば,β/αの数値は,1.2以上となることが好ましく,1.5以上となることがより好ましく,2.0以上となることがさらに好ましく,2.5以上となることが特に好ましく,3.0以上となることが最も好ましい。なお,この場合において,本発明によれば,β/αの数値の上限値は,特に限定されないが,例えば,20.0とすればよい。このように,本発明によれば,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率を飛躍的に向上させることができる。すなわち,本発明によれば,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制することが可能となる。
本発明において,例えば,酸度調整工程後の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(α)が,0.01〜0.5であるときに,本発明によれば,発酵工程後の発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(β)を0.6以上とすることができる。ここで,この低温保持工程前の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,具体的には,酸度を一定値以上に調整する作業が完了してから1時間以内の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。また,発酵工程後の発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,再冷却工程(ステップS8)の直後の発酵乳(具体的に,再冷却してから1時間以内の発酵乳)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。そして,この場合において,本発明によれば,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,0.65以上となることが好ましく,0.7以上となることがより好ましく,0.8以上となることがさらに好ましく,0.9以上となることが特に好ましく,1.0以上となることが最も好ましい。なお,この場合において,本発明によれば,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の上限値は,特に限定されないが,例えば,5.0とすればよい。このように,本発明によれば,発酵乳基材の段階において,ブルガリア菌の菌数がサーモフィルス菌の菌数の半分以下であっても,発酵乳の段階において,最終的に,ブルガリア菌の菌数がサーモフィルス菌の菌数と同等である,又は同等以上に高められた発酵乳を得ることが可能となる。
本発明は,ブルガリア菌の増殖の促進方法,サーモフィルス菌の増殖の抑制方法,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の向上方法などにも関する。すなわち,本発明は,原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得るスタータ添加工程と,前記発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する酸度調整工程と,前記酸度調整工程後の前記発酵乳基材を発酵させて発酵乳を得る発酵工程と,を含む,ブルガリア菌の増殖の促進方法,サーモフィルス菌の増殖の抑制方法,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の向上方法などでもある。なお,これらの詳細は,本発明の発酵乳の製造方法などに従うものとする。
以下,実施例を用いて,本発明を具体的に説明する。ただし,本発明は,以下の実施例に限定されることなく,公知の手法に基づく様々な改良を加えることができるものである。
<実施例1〜3> 発酵乳基材の酸度:0.2%以上(乳酸の添加による酸度の調整)
発酵乳基材に乳酸を添加して,酸度を調整した(高めた)後に,この発酵乳基材を加温して発酵させることで,乳酸の添加による酸度の調整の効果を確認した。
生乳:755g,脱脂粉乳:23g,生クリーム:23g,水道水:122gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス)を調製し,95℃に5分間で加熱殺菌した後に,約10℃(8℃〜12℃)に冷却した。冷却後の原料乳に,乳酸菌スタータ(明治社製,明治ブルガリア ヨーグルトLB81から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。そして,この発酵乳基材に乳酸を0.1重量%で添加したものを「実施例1」とし,乳酸を0.3重量%で添加したものを「実施例2」とし,乳酸を0.4重量%で添加したものを「実施例3」とした。
実施例1〜3の発酵乳基材について,それぞれ,乳酸を添加した直後(1時間以内)の酸度を測定した。実施例1の発酵乳基材の酸度は0.2%であり,実施例2の発酵乳基材の酸度は0.4%であり,実施例3の発酵乳基材の酸度は0.5%であった。
また,実施例1〜3の発酵乳基材について,それぞれ,乳酸を添加した直後(1時間以内)のブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。実施例1〜3の発酵乳基材では,それぞれ,ブルガリア菌の菌数が0.2×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.4×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.143であった。
その後,実施例1〜3の発酵乳基材を43℃に加温してから,カップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,発酵室(43℃)に,乳酸酸度が0.75%に到達するまで,約3時間で静置してから,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)[実施例1〜3]を製造した。実施例1〜3の発酵乳について,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
実施例1の発酵乳では,ブルガリア菌の菌数が24.5×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が84.5×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.290であった。
実施例2の発酵乳では,ブルガリア菌の菌数が30.5×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が19.0×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,1.605であった。
実施例3の発酵乳では,ブルガリア菌の菌数が23.0×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が14.0×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,1.643であった。
<比較例1> 発酵乳基材の酸度:0.2%未満
上記実施例1〜3の効果を確認するために,発酵乳基材に乳酸を添加せずに,発酵乳(セットタイプヨーグルト)(比較例1)を製造した。発酵乳基材に乳酸を添加しないこと以外について,比較例1の発酵乳の製造条件は,上記実施例1〜3の発酵乳と同じ条件とした。
すなわち,生乳:755g,脱脂粉乳:23g,生クリーム:23g,水道水:122gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス)を調製し,95℃で5分間加熱(殺菌)した後に,約10℃に冷却した。そして,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータ(明治社製,明治ブルガリアヨーグルトLB81から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。そして,この発酵乳基材に乳酸を添加しないものを「比較例1」とした。
比較例1の発酵乳基材について,実施例1〜3と同じタイミングで,酸度を測定した。比較例1の発酵乳基材の酸度は,0.14%であった。
また,比較例1の発酵乳基材について,実施例1〜3と同じタイミングで,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。比較例1の発酵乳基材では,実施例1〜3の発酵乳基材と同様に,ブルガリア菌の菌数が0.2×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.4×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.143であった。
その後,比較例1の発酵乳基材を43℃に加温してから,カップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,発酵室(43℃)に,乳酸酸度が0.8%に到達するまで,約3時間で静置してから,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)を製造した。比較例1の発酵乳について,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
比較例1の発酵乳では,ブルガリア菌の菌数が20.0×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が115.5×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.173であった。
<発酵前と発酵後の菌数の対比>
以下の表1は,実施例1〜3及び比較例1について,発酵前と発酵後におけるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数比の変化を示している。
Figure 2016009951
上記の表1に示されるとおり,乳酸を添加して発酵乳基材の酸度を高めた実施例1〜3では,乳酸を添加していない比較例1よりも,発酵後の発酵乳に含まれるブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されることがわかった。つまり,発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整した実施例1では,発酵乳基材を発酵させることで,菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は0.143から0.290となり,2倍以上で大幅に向上した。これに対し,発酵乳基材の酸度が0.14%である比較例1では,発酵乳基材を発酵させても,菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は0.143から0.173となり,ほとんど変化しなかった。実施例1と比較例1を比べれば明らかなように,発酵乳基材に乳酸を添加して酸度を2.0%以上に高めた後に,この発酵乳基材を加温して発酵させることで,ブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されるという有利な効果が確認された。
また,実施例2及び実施例3では,その効果が顕著なものであった。実施例2及び実施例3では,発酵前と発酵後を比べると,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の関係が逆転している。すなわち,実施例2及び実施例3では,発酵前の段階において,ブルガリア菌よりもサーモフィルス菌の方が多かったのに対し,発酵後の段階において,サーモフィルス菌よりもブルガリア菌の方が多くなっている。このように,発酵乳基材の酸度を0.4%以上に調整した実施例2及び実施例4では,ブルガリア菌の菌数を飛躍的に増加させることに成功した。このことから,発酵乳基材の酸度を0.3%以上に調整することで,ブルガリア菌の菌数を飛躍的に増加させられることが示唆された。
[乳酸菌スタータ添加量による酸度の調整]
<実施例4>「発酵乳基材の酸度:0.2%以上」
原料乳に乳酸菌スタータを増量して添加して,酸度を調整した(高めた)後に,この発酵乳基材を加温して発酵させることで,乳酸菌の添加量の増加による酸度の調整の効果を確認した。
生乳:755g,脱脂粉乳:23g,生クリーム:23g,水道水:122gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス)を調製し,95℃で5分間加熱(殺菌)した後に,約10℃に冷却した。そして,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータ(明治社製,明治ブルガリアヨーグルトLB81から分離した乳酸菌)を10重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。そして,この原料乳に乳酸菌スタータを増量して添加したものを「実施例4」とした。
実施例4の発酵乳基材について,乳酸菌スタータを添加した直後(1時間以内)のブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。実施例4の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.1×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.5×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.067であった。
その後,実施例4の発酵乳基材を43℃に加温してから,カップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,発酵室(43℃)にて,乳酸酸度が0.75%に到達するまで約3時間で静置してから,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)を製造した。実施例4の発酵乳について,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
実施例4の発酵乳では,ブルガリア菌の菌数が33.0×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が40.0×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.825であった。
<比較例2>「発酵乳基材の酸度:0.2%未満」
上記実施例4の効果を確認するために,原料乳に乳酸菌スタータを通常と同量で添加して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)(比較例2)を製造した。原料乳に乳酸菌スタータを増量して添加したこと以外について,比較例2の発酵乳の製造条件は,上記実施例4の発酵乳と同じ条件とした。
すなわち,生乳:755g,脱脂粉乳:23g,生クリーム:23g,水道水:122gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス)を調製し,95℃で5分間加熱(殺菌)した後に,約10℃に冷却した。そして,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータ(明治社製,明治ブルガリアヨーグルトLB81から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。そして,この原料乳に乳酸菌スタータを通常と同量で添加したものを「比較例2」とした。
比較例2の発酵乳基材について,乳酸菌スタータを添加した直後(1時間以内)のブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。比較例2の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.6×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が2.0×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.300であった。
その後,比較例2の発酵乳基材を43℃に加温してから,カップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,発酵室(43℃)にて,乳酸酸度が0.75%に到達するまで約3時間で静置してから,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)を製造した。比較例2の発酵乳について,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
比較例2の発酵乳では,ブルガリア菌の菌数が8.0×10cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が68.0×10cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.118であった。
<発酵前と発酵後の菌数の対比>
以下の表2は,実施例4及び比較例2について,発酵前と発酵後におけるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数比の変化を示している。
Figure 2016009951
上記の表2に示されるとおり,乳酸菌スタータを増量して添加して発酵乳基材の酸度を高めた実施例4では,乳酸菌スタータを通常と同量で添加した比較例1よりも,発酵後の発酵乳に含まれるブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されることがわかった。つまり,発酵乳基材の酸度を0.20%以上に調整した実施例4では,発酵乳基材を発酵させることで,菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は0.067から0.825となり,10倍以上で大幅に向上した。これに対し,発酵乳基材の酸度が0.14%である比較例2では,発酵乳基材を発酵させると,菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は0.300から0.118となり,減少していた。実施例4と比較例2を比べれば明らかなように,原料乳に乳酸菌スタータを増量して添加して酸度を0.2%以上に高めた後に,この発酵乳基材を加温して発酵させることで,ブルガリア菌の増殖が相対的に促進され,サーモフィルス菌の増殖が相対的に抑制されるという有利な効果が確認された。
上記の表1と表2に示されるとおり,発酵乳基材の酸度を所定値以上に調整した実施例1〜4では,発酵乳基材の酸度を調整できなかった比較例1及び2と比較して,いずれも,ブルガリア菌の菌数が多くなり,サーモフィルス菌の菌数が少なくなった。このことから,発酵前に発酵乳基材の酸度を,具体的には0.2%以上,好ましくは0.25%以上,より好ましくは0.3%以上,さらに好ましくは0.35%以上,特に好ましくは0.4%以上に調整することにより,ブルガリア菌の増殖が促進されて,サーモフィルス菌の増殖が抑制されることが確認された。このため,発酵乳基材の酸度を所定値以上に調整した実施例1〜4では,発酵乳に含まれる多糖体の総量が多くなると期待できる。このことから,発酵乳基材の酸度を,具体的には0.2%以上,好ましくは0.25%以上,より好ましくは0.3%以上,さらに好ましくは0.35%以上,特に好ましくは0.4%以上に調整してから発酵させることにより,ブルガリア菌に由来する多糖体を多く含む発酵乳を製造できると考えられた。
本発明は,ヨーグルトなどの発酵乳の製造方法に関する。従って,本発明は,ヨーグルトなどの発酵乳の製造業において好適に利用しうる。

Claims (9)

  1. 原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得るスタータ添加工程と,
    前記発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する酸度調整工程と,
    前記酸度調整工程後の前記発酵乳基材を発酵させて発酵乳を得る発酵工程と,を含む
    発酵乳の製造方法。
  2. 前記酸度調整工程は,乳酸を前記発酵乳基材に添加することにより,当該発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する工程である
    請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
  3. 前記酸度調整工程は,前記スタータ添加工程において前記発酵乳基材に添加する前記乳酸菌スタータの添加量を調整することにより,当該発酵乳基材の酸度を0.2%以上に調整する工程である
    請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
  4. 前記酸度調整工程は,前記発酵乳基材の酸度を0.3%以上に調整する工程である
    請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
  5. 前記スタータ添加工程と前記酸度調整工程は,前記発酵乳基材が発酵促進温度未満であるときに行われ,
    前記発酵工程は,前記発酵乳基材を前記発酵促進温度以上に加温した状態で行われる
    請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
  6. 前記酸度調整工程において酸度が0.2%以上に調整された直後の前記発酵乳基材に含まれる前記サーモフィルス菌の菌数に対する前記ブルガリア菌の菌数の比率の数値をαとし,
    前記発酵乳に含まれる前記サーモフィルス菌の菌数に対する前記ブルガリア菌の菌数の比率の数値をβとしたときに,
    β/αの数値が,1.1以上である
    請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
  7. 前記発酵工程は,前記発酵乳基材を容器に充填した後に発酵させて,発酵乳を得る工程である
    請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
  8. 原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加した発酵乳基材を,発酵させることにより得られる発酵乳であって,
    前記発酵乳基材の酸度が0.2%以上である
    発酵乳。
  9. 前記発酵後の乳酸酸度が0.9%以下である
    請求項8に記載の発酵乳。
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