JPWO2014188994A1 - アミノ酸製剤による細胞増幅法 - Google Patents
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Abstract
効率よく安価に未分化臓器細胞から機能細胞を創出する方法を提供する。1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、未分化肝細胞の増幅方法。肝細胞への分化誘導方法、肝細胞の調製方法、肝細胞への分化が可能な細胞の選別法、培地、未分化肝細胞の増殖促進剤及び肝細胞への分化誘導剤も提供される。
Description
本発明は、アミノ酸製剤による細胞増幅法に関し、より詳細には、アミノ酸製剤を用いて細胞を培養することにより、細胞を増幅する方法に関する。
近年、様々な機能細胞へ分化する能力を有するiPS細胞などの多能性幹細胞を分化誘導することにより、創薬スクリーニングや再生医療に有益なヒト機能細胞を創出する方法が注目されている。
一般的には、多能性幹細胞の培養系にサイトカインを始めとしたタンパク質製剤などを添加することで、幹細胞の維持増幅、及び各種機能細胞への分化誘導が試みられている(特許文献1〜3、非特許文献1)。
しかし、上記のような従来の培養法においては、目的とする臓器細胞を分化誘導する上で必要となるタンパク質製剤が極めて高額であることが重大な課題となっている。中でも肝臓などのように、再生医療・産業応用に超大量の細胞(1011cells)が必要な臓器の場合、細胞の製造に莫大なコストを要することとなり、多能性幹細胞を利用した応用を阻む最大の障壁と考えられている。
したがって、ES細胞あるいはiPS細胞などの多能性幹細胞を用いた再生医療・産業応用の実現化を目指すためには、いかに効率よくかつ安価に未分化な臓器細胞から機能細胞を大量に精製するか、という点が重大な課題と考えられている。
Hannan N.R., et al., Nat. Protoc., 8(2), 430-437 (2013)
本発明は、効率よく安価に未分化臓器細胞から機能細胞を創出する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、大量創出を試みる臓器細胞の元となる、分化中間段階に存在する未分化な細胞と、それ以外の分化段階に存在する細胞との代謝特性の違いに着目した。
まず、異なる分化段階の細胞における代謝特性の差異を検出することを目的として、胎生初期から成体に至るまでの肝臓を対象として、メタボローム解析・トランスクリプトーム解析を行った。その結果、未分化な細胞が高頻度に存在する胎生初期(E9.5〜11.5)の肝臓において特異的に分岐鎖アミノ酸の分解酵素であるアミノ基転移酵素(branched-chain aminotransferase: BCAT1)が高発現しており、分岐鎖アミノ酸の分解が亢進していることを見出した。
この結果から、細胞増殖が活発な未分化な細胞において、分岐鎖アミノ酸の代謝要求度が著しく高いものと仮説を立て、未分化細胞への分岐鎖アミノ酸添加による影響の評価を行った。BCAT1が機能する分岐鎖アミノ酸(L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン) 、ならびに比較対象や従来の培養系に頻繁に利用されているとして市販のアミノ酸製剤カクテルが細胞へ与える影響について、胎仔肝臓細胞を用いて検討した。
その結果、胎生初期(E11.5)の肝臓由来未分化細胞を用いた場合、アミノ酸非添加群、市販の必須アミノ酸製剤添加群、および市販の非必須アミノ酸製剤添加群と比較して、分岐鎖アミノ酸を添加した群において高い増殖性を示し、肝細胞特異的マーカーであるアルブミンを強く発現する細胞から構成されるコロニーが高頻度に出現することを見出した。さらに、遺伝子発現解析より、分岐鎖アミノ酸添加群ではアルブミンの発現が上昇することを確認した。このような分岐鎖アミノ酸による効果は、胎生中期(E15.5)の肝臓細胞を用いた解析では確認されなかったことから、胎生初期に存在する未分化な肝臓細胞でのみ特異的に分岐鎖アミノ酸添加による効果が現れることを発見した。
以上の結果から、未分化な肝臓細胞に対して分岐鎖アミノ酸を添加することで、増殖性が亢進し、アルブミンを発現する肝細胞が高頻度に出現することが見いだされた。したがって、分岐鎖アミノ酸は、未分化な臓器細胞の、一過性初期増殖(transit amplification)の誘導を介して、機能細胞への分化を誘導する作用を有しているものと考えられる。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、未分化肝細胞の増幅方法。
(2)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞が増幅し、かつ肝細胞への分化が誘導される(1)記載の方法。
(3)分岐鎖アミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される(1)又は(2)記載の方法。
(4)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化誘導方法。
(5)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞を増幅し、かつ肝細胞への分化を誘導することを含む、肝細胞の調製方法。
(6)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化が可能な細胞の選別法。
(7)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸を含む、培地。
(8)未分化肝細胞を増幅するために用いられる(7)記載の培地。
(9)未分化肝細胞を肝細胞へ分化誘導するために用いられる(7)記載の培地。
(10)分岐鎖アミノ酸を含む、未分化肝細胞増幅促進剤。
(11)分岐鎖アミノ酸を含む、肝細胞への分化誘導剤。
(1)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、未分化肝細胞の増幅方法。
(2)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞が増幅し、かつ肝細胞への分化が誘導される(1)記載の方法。
(3)分岐鎖アミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される(1)又は(2)記載の方法。
(4)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化誘導方法。
(5)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞を増幅し、かつ肝細胞への分化を誘導することを含む、肝細胞の調製方法。
(6)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化が可能な細胞の選別法。
(7)1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸を含む、培地。
(8)未分化肝細胞を増幅するために用いられる(7)記載の培地。
(9)未分化肝細胞を肝細胞へ分化誘導するために用いられる(7)記載の培地。
(10)分岐鎖アミノ酸を含む、未分化肝細胞増幅促進剤。
(11)分岐鎖アミノ酸を含む、肝細胞への分化誘導剤。
本発明により提供される培養方法および培地によって、ES/iPS細胞に由来する組織幹細胞などの未分化な臓器細胞から安価にかつ効率的に機能細胞を創出することが可能となる。これにより創薬スクリーニングに必要なヒト肝細胞の大量創出に有用な細胞操作技術となることが期待される。
さらに、多能性幹細胞を臨床応用するためには大量の細胞を得ることに加え、腫瘍形成や異所性組織形成の原因となる組織幹細胞以前の多能性幹細胞や他臓器へ分化した細胞を除去することが必要不可欠となる。本発明によって、より未分化な細胞や目的としない臓器細胞が生存不可能な代謝環境を構築することにより、目的とする未分化な臓器細胞のみを安価に大量に精製することが可能となるものと期待される。従来技術のように、遺伝子改変やFACSなど複雑な技術を用いる必要性がないことから、極めて優位性が高い安価かつ単純な方法となる。
本発明により、従来用いられてきたタンパク質製剤よりも安価なアミノ酸製剤を用いて、効率的に細胞を増幅・選別することができる培養方法が提供される。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2013-106289の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、未分化肝細胞の増幅方法を提供する。
本発明の方法において、分岐鎖アミノ酸の濃度は、1 mM以上であり、好ましくは、 1 〜 20 mMであり、より好ましくは、 2 〜 10 mMである。
分岐鎖アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン並びにこれらの誘導体などのアミノ酸(Dおよび/またはL-アミノ酸の両方)、及びそれらの組み合わせを例示することができ、好適にはバリンである。
未分化肝細胞の「未分化」とは、分化が完全に終わっていない状態をいい、未分化肝細胞とは、肝細胞に分化可能なあらゆる細胞を含む概念である。未分化肝細胞としては、iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞や生体組織に由来する未分化な臓器(例えば、肝臓)細胞などを例示することができる。未分化肝細胞は、BCAT1の発現が亢進されるステージにあるとよい。未分化肝臓細胞はコーティングされた細胞培養容器において接着培養するとよい。細胞培養容器のコーティング剤は、マトリゲル、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチンならびに細胞外マトリックスなどである。培養は34℃〜38℃、好ましくは37℃の温度で行い、CO2濃度は2%〜10%が好ましく、5%が最も好ましい。
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞が増幅し、かつ肝細胞への分化が誘導される。従って、本発明は、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化誘導方法も提供する。未分化肝臓細胞はコーティングされた細胞培養容器において接着培養するとよい。細胞培養容器のコーティング剤は、マトリゲル、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチンならびに細胞外マトリックスなどである。培養は34℃〜38℃、好ましくは37℃の温度で行い、CO2濃度は2%〜10%が好ましく、5%が最も好ましい。
本発明の方法により、未分化肝細胞を増幅し、かつ肝細胞への分化を誘導することは、肝細胞の調製に利用することができる。従って、本発明は、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞を増幅し、かつ肝細胞への分化を誘導することを含む、肝細胞の調製方法も提供するものである。
後述の実施例に示すように、マウスの場合、胎生初期(E11.5)の肝臓由来未分化細胞に分岐鎖アミノ酸を添加すると、肝細胞特異的マーカーであるアルブミンを強く発現する細胞から構成されるコロニーが高頻度に出現した。よって、本発明の方法において、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で培養する未分化肝細胞は、マウスで言うと、E11.5の時期に対応する分化段階のレベルの細胞であることが好ましい。この分化段階は、肝臓の幹・前駆細胞が大量に存在するステージである。細胞がそのような時期にあることは、肝臓の分化マーカー(例えば、アルブミン(ALB)、α-フェトプロテイン(AFP)、トランスサイレチン(TTR)、forkhead box protein A2(FOXA2)、Hepatocyte nuclear factor 4 alpha(HNF4A)、レチノール結合タンパク質4(RBP4)、シトクロムP450(CYP)3A4、CYP3A7、グルコース-6-ホスファターゼ(G6PC)、GATA binding protein 4/6(GATA4/6)、アシアロ糖タンパク質レセプター1(ASGR1)、アンジオテンシノーゲン(AGT)、トランスフェリン(TRF)、アポリポプロテインA-1(APOA1)、フィブリノゲンα鎖(FGA)、ホモゲンチジン酸(HGD)、Carbamoyl-Phosphate Synthase 1(CPS1)など)の発現を指標として、推測することができる。具体的には、GATA4/6、HNF4A、HHEX1、AFPなどのマーカーの発現レベルがES細胞やiPS細胞と比較して増加していれば、マウスE11.5の時期に対応する分化段階のレベルの細胞であると推測することができる。また、ALB、RBP4,ASGR1、AGT、TRF、FGA、APOA1、HGD、CPS1などのマーカーの発現レベルが他の分化段階の細胞と比較して減少していれば、マウスE11.5の時期に対応する分化段階のレベルの細胞であると推測することができる。また、一方で、BCAT1の発現を指標にして、推測することも可能である。具体的には、BCAT1の発現レベルがES細胞やiPS細胞と比較して増加していれば、マウスE11.5の時期に対応する分化段階のレベルの細胞であると推測することができる。
また、後述の実施例で示すように、マウス胎児由来の未分化肝臓細胞を培養後、分化状態を検討するため免疫染色を行ったところ、分岐鎖アミノ酸添加群は非添加群と比較して、アルブミン陽性の肝細胞が増加し、サイトケラチン7陽性の胆管上皮細胞の出現が低下していた。また、遺伝子発現解析からも、分岐鎖アミノ酸(特にL-バリン)添加時に、サイトケラチン7遺伝子の発現減少およびアルブミン遺伝子の発現増加が確認された。従って、分岐鎖アミノ酸添加により、胆管上皮細胞の出現を抑制し、肝細胞を効率的に創出することが可能と考えられる。従って、本発明は、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化が可能な細胞の選別法も提供する。未分化肝臓細胞はコーティングされた細胞培養容器において接着培養するとよい。細胞培養容器のコーティング剤は、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチンならびに細胞外マトリックスなどである。培養は34℃〜38℃、好ましくは37℃の温度で行い、CO2濃度は2%〜10%が好ましく、5%が最も好ましい。
さらに、本発明は、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸を含む、培地を提供する。
本発明の培地は、未分化肝細胞を増幅するために用いることができる。また、本発明の培地は、未分化肝細胞を肝細胞へ分化誘導するために用いることができる。さらに、本発明の培地は、肝細胞への分化が可能な細胞を選別するために用いることもできる。
本発明の培地には、分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸(グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファンおよびチロシン、並びに、これらの誘導体などのアミノ酸(Dおよび/またはL-アミノ酸の両方))、フェノールレッド、ピルビン酸塩、HEPES、微量金属、リン酸塩、酢酸塩、ビタミン類、アスコルビン酸、ニコチンアミド、2-メルカプトエタノール、デキサメタゾン、インスリン、上皮成長因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、アクチビンA、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、骨形成タンパク質(BMP)4、オンコスタチンM、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、インシュリン様成長因子(R3-IGF)-1、ウシ脳抽出物(BBE)、ウシ胎児血清(FBS)、トランスフェリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、血清代替物(N2、B27サプリメントなど)、緩衝剤、抗生物質(ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシン-B等)等の他の成分を添加してもよい。
本発明の培地の溶媒としては、水、血清、または、pH緩衝溶液などを用いることができる。あるいはまた、市販の培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、E-MEM、IMDM、乳糖含有glucose-free DMEM、ハム(Ham)F12、RPMI-1640、ウイリアムズE、など、及びそれらの混和物)に分岐鎖アミノ酸を添加して、1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸を含むように調整してもよい。
未分化肝細胞については、上述した。
本発明において、分岐鎖アミノ酸は、未分化肝細胞の増幅を促進することできる。従って、本発明は、分岐鎖アミノ酸を含む、未分化肝細胞増幅促進剤を提供する。
また、分岐鎖アミノ酸は未分化肝細胞から肝細胞への分化を誘導することができる。従って、本発明は、分岐鎖アミノ酸を含む、肝細胞への分化誘導剤を提供する。
本発明は、アミノ酸製剤(分岐鎖アミノ酸)を添加するという安価かつ単純な方法を用いることにより、ヒト臓器細胞の工業的製造に向けて劇的なコストダウンが可能な基盤的培養技術となる。本発明者らが過去に開発した技術(「組織・臓器の作製方法」WO2013/047639)と連動することにより、再生医療や産業応用上極めて有益な細胞操作技術となる。例えば、本発明によりヒトiPS細胞由来ヒト肝細胞を効率的に増幅することで、創薬開発において必要なヒト成熟肝細胞を大量に安価に製造することが可能となる。また、個人毎に樹立された複数のiPS細胞株を用いることで、人種・性別・個体差などスペックの明らかなヒト成熟肝細胞を、安定的かつ安価に大量供給することが可能となる。これにより、創薬開発における課題であった個人における反応性の相違を検出する革新的なスクリーニング技術となることが期待される。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本実施例において、特に断りがない限り、アミノ酸は、L-アミノ酸である。
〔実施例1〕
結果
メタボローム・トランスクリプトーム解析による異なる分化段階の肝臓における代謝特性の比較
異なる分化段階の細胞における代謝関連遺伝子の発現の差異を検出するために、胎生初期から成体に至るまでのマウス肝臓細胞を対象として、トランスクリプトーム解析を行った。各代謝経路における代表的な分子の発現を比較した結果、未分化な肝幹・前駆細胞が高頻度に存在する発生初期 (胎生9.5〜11.5 日目)の肝臓では、それ以降の発生段階の肝臓に比べて、脂質代謝、ビリルビン代謝、尿素回路を始めとする成体肝臓での主要な代謝に関わる多くの遺伝子発現が低いことが明らかとなった(データは示さず)。一方でアミノ酸代謝関連遺伝子の一部は肝発生初期でのみ高い発現を示し、中でも特に分岐鎖アミノ酸代謝遺伝子Branched-chain aminotransferase 1(Bcat1)の発現亢進が顕著であることが確認された(図 1A)。この結果について、定量PCRにより解析を行った場合も同様に肝発生初期特異的な発現亢進が認められた(図1B)。さらに、発生初期(胎生11.5日目)の肝臓を対象に免疫組織化学的解析を行った所、肝臓中で高いBcat1タンパク質の発現が確認された。
〔実施例1〕
結果
メタボローム・トランスクリプトーム解析による異なる分化段階の肝臓における代謝特性の比較
異なる分化段階の細胞における代謝関連遺伝子の発現の差異を検出するために、胎生初期から成体に至るまでのマウス肝臓細胞を対象として、トランスクリプトーム解析を行った。各代謝経路における代表的な分子の発現を比較した結果、未分化な肝幹・前駆細胞が高頻度に存在する発生初期 (胎生9.5〜11.5 日目)の肝臓では、それ以降の発生段階の肝臓に比べて、脂質代謝、ビリルビン代謝、尿素回路を始めとする成体肝臓での主要な代謝に関わる多くの遺伝子発現が低いことが明らかとなった(データは示さず)。一方でアミノ酸代謝関連遺伝子の一部は肝発生初期でのみ高い発現を示し、中でも特に分岐鎖アミノ酸代謝遺伝子Branched-chain aminotransferase 1(Bcat1)の発現亢進が顕著であることが確認された(図 1A)。この結果について、定量PCRにより解析を行った場合も同様に肝発生初期特異的な発現亢進が認められた(図1B)。さらに、発生初期(胎生11.5日目)の肝臓を対象に免疫組織化学的解析を行った所、肝臓中で高いBcat1タンパク質の発現が確認された。
そこで、アミノ酸代謝関連遺伝子の機能を確認するため、メタボローム解析を用いて肝発生過程における各代謝産物量を比較した。図2Aに示す様にBcat1は分岐鎖アミノ酸(L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン)の代謝初期反応を担う酵素である。メタボローム解析の結果、アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸(L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン)濃度が肝発生初期(胎生11日目)に低いことが明らかとなった(図 2)。以上の結果から、肝発生初期に存在する未分化な肝臓細胞において、分岐鎖アミノ酸の代謝活性が高いものと仮説を立て、分岐鎖アミノ酸の機能的検証を行った。
母体のL-バリン摂取量の減少は胎児肝幹/前駆細胞の頻度を減少させる
発生初期の胎児肝臓形成に与える分岐鎖アミノ酸の効果を検証するため、肝発生が開始する妊娠8.5日目の母体マウスへ分岐鎖アミノ酸非含有飼料を与え、胎生13.5日目の胎児を解析した。その結果、分岐鎖アミノ酸非含有飼料を与えた群ではコントロール群と比較して、肝重量が大きく減少することが確認された(図3)。この結果から発生初期の肝形成過程に分岐鎖アミノ酸が重要な役割を担っていることが示唆される。同様に、L-バリン非含有飼料を与えたマウス胎児においても肝臓の形成阻害が確認された(データは示さず)。
発生初期の胎児肝臓形成に与える分岐鎖アミノ酸の効果を検証するため、肝発生が開始する妊娠8.5日目の母体マウスへ分岐鎖アミノ酸非含有飼料を与え、胎生13.5日目の胎児を解析した。その結果、分岐鎖アミノ酸非含有飼料を与えた群ではコントロール群と比較して、肝重量が大きく減少することが確認された(図3)。この結果から発生初期の肝形成過程に分岐鎖アミノ酸が重要な役割を担っていることが示唆される。同様に、L-バリン非含有飼料を与えたマウス胎児においても肝臓の形成阻害が確認された(データは示さず)。
次に、マウス胎児肝幹/前駆細胞に与える影響について評価するため、妊娠8.5日目の母体マウスへL-バリン非含有飼料を与え、胎生13.5日目胎児肝臓中に含まれる肝幹/前駆細胞を解析するため、Dlk1を指標にフローサイトメトリー解析を実施した。その結果、コントロール群に比べて、L-バリン非含有飼料を与えた群ではDlk1陽性細胞の頻度が大きく減少することが確認された(図4)。これらの結果から、L-バリンの欠損が、肝幹/前駆細胞の頻度を減少させ、肝発生初期過程を阻害することが示唆された。
L-バリンを豊富に含む培養条件ではマウス肝幹/前駆細胞の増殖を亢進させる
BCAT1が代謝反応を担っているL-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、ならびに従来の培養系に頻繁に利用されているものとして市販のアミノ酸製剤カクテルが細胞増殖へ与える影響について、マウス胎仔肝臓細胞を用いて検討した。まず、胎生初期 (E11.5) の肝臓由来未分化細胞を用いて、各分岐鎖アミノ酸添加による影響について評価した。分岐鎖アミノ酸添加濃度を変更したときの増殖促進効果を検討したところ、アミノ酸添加濃度が0.4あるいは0.8 mM 時には90個以上の細胞から構成される増殖性の高いコロニーの出現頻度がコントロールと比べて同等であったのに対し、L-バリン4 mM添加時には31%増加することが明らかとなった (図 5A)。そこで、胎生初期の肝臓由来未分化細胞へ各分岐鎖アミノ酸を4 mM添加した時の影響をアミノ酸非添加群、市販の必須アミノ酸製剤添加群、および市販の非必須アミノ酸製剤添加群と比較した。その結果、非添加群と比較して、4 mMのL-バリンを添加した群においてのみ高い増殖性を示すコロニーの頻度が増加することが確認された(図 5B)。このとき、他の分岐鎖アミノ酸(L-イソロイシン、L-ロイシン)および、市販の非必須、必須アミノ酸製剤を4 mM添加した群では高い増殖性を示すコロニーの出現頻度に差は見られなかった。
BCAT1が代謝反応を担っているL-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、ならびに従来の培養系に頻繁に利用されているものとして市販のアミノ酸製剤カクテルが細胞増殖へ与える影響について、マウス胎仔肝臓細胞を用いて検討した。まず、胎生初期 (E11.5) の肝臓由来未分化細胞を用いて、各分岐鎖アミノ酸添加による影響について評価した。分岐鎖アミノ酸添加濃度を変更したときの増殖促進効果を検討したところ、アミノ酸添加濃度が0.4あるいは0.8 mM 時には90個以上の細胞から構成される増殖性の高いコロニーの出現頻度がコントロールと比べて同等であったのに対し、L-バリン4 mM添加時には31%増加することが明らかとなった (図 5A)。そこで、胎生初期の肝臓由来未分化細胞へ各分岐鎖アミノ酸を4 mM添加した時の影響をアミノ酸非添加群、市販の必須アミノ酸製剤添加群、および市販の非必須アミノ酸製剤添加群と比較した。その結果、非添加群と比較して、4 mMのL-バリンを添加した群においてのみ高い増殖性を示すコロニーの頻度が増加することが確認された(図 5B)。このとき、他の分岐鎖アミノ酸(L-イソロイシン、L-ロイシン)および、市販の非必須、必須アミノ酸製剤を4 mM添加した群では高い増殖性を示すコロニーの出現頻度に差は見られなかった。
次に、より発生の進行したE13.5およびE15.5の肝臓由来細胞に対して同様にアミノ酸添加による細胞の増殖性に与える影響を評価した。その結果、E11.5の肝臓由来細胞と異なり、増殖性の高いコロニーの出現頻度はいずれの分岐鎖アミノ酸溶液を加えた場合もコントロールと比べて同等あるいは減少していた。以上の結果から、L-バリンによる増殖促進効果は、胎生中期(E13.5〜)以降の肝臓細胞を用いた解析では確認されなかったことから、胎生初期に存在する未分化な肝臓細胞でのみ特異的にL-バリンの添加による増殖促進効果が現れることが示された。
L-バリンを豊富に含む培養条件ではマウス肝幹/前駆細胞の肝細胞への分化を亢進させる
次に我々は、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリンが細胞分化へ与える影響について検討した。胎生初期 (E11.5) の肝臓由来未分化細胞を用いて、各分岐鎖アミノ酸添加による影響についてアミノ酸非添加群と比較した。分岐鎖アミノ酸4 mM添加した培地で6日間培養後、免疫染色により肝幹・前駆細胞の分化状態を評価した結果、L-バリン添加時に肝細胞特異的マーカーであるアルブミンのみを強く発現する細胞が多数存在するコロニーの頻度が23±15%増加することを見出した(図 6AB)。さらに、培養後のコロニーに対して遺伝子発現解析を行ったところ、L-バリン添加群では胆管上皮特異的マーカーであるサイトケラチン(Ck7)の発現量増加がみられないのに対して、アルブミンの発現量は60±18%増加することを確認した(図 6C)。一方、イソロイシン添加時にはアルブミンの発現は39%減少し、ロイシンの添加時にはアルブミンおよびCk7の双方の発現量がそれぞれ50%,51%ずつ増加していた(図 6C)。以上の結果から、胎生初期のマウス肝臓細胞は、L-バリンが培地内に豊富に存在する場合に、肝細胞への分化を亢進することが明らかとなった。
次に我々は、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリンが細胞分化へ与える影響について検討した。胎生初期 (E11.5) の肝臓由来未分化細胞を用いて、各分岐鎖アミノ酸添加による影響についてアミノ酸非添加群と比較した。分岐鎖アミノ酸4 mM添加した培地で6日間培養後、免疫染色により肝幹・前駆細胞の分化状態を評価した結果、L-バリン添加時に肝細胞特異的マーカーであるアルブミンのみを強く発現する細胞が多数存在するコロニーの頻度が23±15%増加することを見出した(図 6AB)。さらに、培養後のコロニーに対して遺伝子発現解析を行ったところ、L-バリン添加群では胆管上皮特異的マーカーであるサイトケラチン(Ck7)の発現量増加がみられないのに対して、アルブミンの発現量は60±18%増加することを確認した(図 6C)。一方、イソロイシン添加時にはアルブミンの発現は39%減少し、ロイシンの添加時にはアルブミンおよびCk7の双方の発現量がそれぞれ50%,51%ずつ増加していた(図 6C)。以上の結果から、胎生初期のマウス肝臓細胞は、L-バリンが培地内に豊富に存在する場合に、肝細胞への分化を亢進することが明らかとなった。
L-バリンを豊富に含む培養条件ではヒト肝臓細胞の増殖および肝細胞への分化を亢進する
次に我々は、発生初期のマウス肝臓細胞でみられた、L-バリンによる増殖・分化促進効果がヒト未分化肝臓細胞へも適応されるか検証した。まず、ヒトiPS細胞由来肝臓細胞を用いて各分化段階におけるBCAT1の発現を比較したところ、肝発生初期の分化段階に相当する細胞(図7AのStage2)、より分化の進行した段階の細胞では低いことが明らかとなった(図 7A)。そこで、次に、最もBCAT1の発現亢進が見られたStage2のiPS細胞由来肝臓細胞を用いて各分岐鎖アミノ酸を添加し、増殖に与える影響を検討した。その結果、分岐鎖アミノ酸非添加群と比較して、L-バリン4 mM添加時に、培養6日目の細胞数が11.3(±3.1)%増加することを見いだした。このとき、市販の非必須、必須アミノ酸製剤を4 mM添加した群では培養後の細胞数に差は見られなかった。以上の結果より、未分化な肝臓細胞が高頻度に存在する分化段階の細胞へ分岐鎖アミノ酸を添加することで細胞増殖が亢進することが明らかになった(図 7B)。次に、分岐鎖アミノ酸がiPS細胞由来肝臓細胞の分化へ与える影響について検討した。分岐鎖アミノ酸4 mM添加した培地で8日間培養後の細胞に対して遺伝子発現解析を行ったところ、L-バリン添加群では、肝細胞の分化マーカーであるアルブミンおよびRBP4の発現量がそれぞれ、52±28%、58±2%増加することを確認した(図 7C)。一方、イソロイシン添加時にはこれらマーカーの発現が大きく減少することが確認された。以上の結果から、iPS細胞由来肝臓細胞は、L-バリンが培地内に豊富に存在する場合に、増殖を亢進し、肝細胞への分化を亢進することが明らかとなった。
次に我々は、発生初期のマウス肝臓細胞でみられた、L-バリンによる増殖・分化促進効果がヒト未分化肝臓細胞へも適応されるか検証した。まず、ヒトiPS細胞由来肝臓細胞を用いて各分化段階におけるBCAT1の発現を比較したところ、肝発生初期の分化段階に相当する細胞(図7AのStage2)、より分化の進行した段階の細胞では低いことが明らかとなった(図 7A)。そこで、次に、最もBCAT1の発現亢進が見られたStage2のiPS細胞由来肝臓細胞を用いて各分岐鎖アミノ酸を添加し、増殖に与える影響を検討した。その結果、分岐鎖アミノ酸非添加群と比較して、L-バリン4 mM添加時に、培養6日目の細胞数が11.3(±3.1)%増加することを見いだした。このとき、市販の非必須、必須アミノ酸製剤を4 mM添加した群では培養後の細胞数に差は見られなかった。以上の結果より、未分化な肝臓細胞が高頻度に存在する分化段階の細胞へ分岐鎖アミノ酸を添加することで細胞増殖が亢進することが明らかになった(図 7B)。次に、分岐鎖アミノ酸がiPS細胞由来肝臓細胞の分化へ与える影響について検討した。分岐鎖アミノ酸4 mM添加した培地で8日間培養後の細胞に対して遺伝子発現解析を行ったところ、L-バリン添加群では、肝細胞の分化マーカーであるアルブミンおよびRBP4の発現量がそれぞれ、52±28%、58±2%増加することを確認した(図 7C)。一方、イソロイシン添加時にはこれらマーカーの発現が大きく減少することが確認された。以上の結果から、iPS細胞由来肝臓細胞は、L-バリンが培地内に豊富に存在する場合に、増殖を亢進し、肝細胞への分化を亢進することが明らかとなった。
L-バリンの添加によりヒトiPS細胞由来肝芽中の細胞増殖が亢進する
肝前駆細胞に相当する分化段階(Stage2)のヒトiPS細胞由来肝臓細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞および間葉系幹細胞の共培養により、ヒトiPS細胞由来肝芽を創出した(図8A)。創出された肝芽をさらに、特定の分岐鎖アミノ酸を多量に含む培地を用いて培養し、その大きさを比較した結果、L-バリンを多量に含む培地で培養した肝芽は通常組成の培地で培養した場合よりも大きな肝芽が創出されることが確認された(図8BC)。以上の結果から、L-バリンを多量に含む培地は、ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞に対して、二次元的な培養系のみではなく、立体組織中の細胞においても効果があることが確認された。
肝前駆細胞に相当する分化段階(Stage2)のヒトiPS細胞由来肝臓細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞および間葉系幹細胞の共培養により、ヒトiPS細胞由来肝芽を創出した(図8A)。創出された肝芽をさらに、特定の分岐鎖アミノ酸を多量に含む培地を用いて培養し、その大きさを比較した結果、L-バリンを多量に含む培地で培養した肝芽は通常組成の培地で培養した場合よりも大きな肝芽が創出されることが確認された(図8BC)。以上の結果から、L-バリンを多量に含む培地は、ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞に対して、二次元的な培養系のみではなく、立体組織中の細胞においても効果があることが確認された。
本発明により、特定の分化段階の細胞をアミノ酸添加により増幅することが可能となった。
当分化段階の細胞をバリン添加条件下で継代培養することにより、未添加条件に比べて1.5倍程度増幅が可能である。未分化肝臓細胞は以前の特許(WO2009/139419)により、性質を維持したまま継代培養を繰り返し、分化誘導により最終的に機能細胞の創出に利用することができる。
したがって、本発明により、前記未分化細胞において1.5倍の増殖亢進を誘導できるということは、その後指数関数的(1.5のべき乗)に拡大培養することが可能であり、大量の機能細胞を得るためにきわめて有益な技術となる。
実験材料及び方法
実験動物
本実験では、日本エス・エル・シーより購入した野生型マウス(C57BL6/J)を用いた。全ての動物実験は、公立大学法人横浜市立大学福浦キャンパス動物実験指針に基づき、当該委員会の承認のもとに施行した。
実験動物
本実験では、日本エス・エル・シーより購入した野生型マウス(C57BL6/J)を用いた。全ての動物実験は、公立大学法人横浜市立大学福浦キャンパス動物実験指針に基づき、当該委員会の承認のもとに施行した。
マウス胎仔肝臓細胞の分取
野生型妊娠マウスに麻酔を行った後、腹腔内から胎仔を取り出し双眼実体顕微鏡下で胎仔肝臓を採取した。採取した胎仔肝臓を、0.2 % トリプシン、5 % 牛胎児血清(FBS: ICN) を含むDMEM / F12 (Invitrogen)内に浸し、氷上で30分間インキュベートした後、37 ℃で15分間振盪させた。その後穏やかなピペッティング操作により細胞を分散させた。遠心処理後、5%FBSを含むDMEM/F12にて2回洗浄した。得られた胎仔細胞はナイロンメッシュ(径40μm)に通過させて単一細胞のみを回収し、以後の実験に用いた。
野生型妊娠マウスに麻酔を行った後、腹腔内から胎仔を取り出し双眼実体顕微鏡下で胎仔肝臓を採取した。採取した胎仔肝臓を、0.2 % トリプシン、5 % 牛胎児血清(FBS: ICN) を含むDMEM / F12 (Invitrogen)内に浸し、氷上で30分間インキュベートした後、37 ℃で15分間振盪させた。その後穏やかなピペッティング操作により細胞を分散させた。遠心処理後、5%FBSを含むDMEM/F12にて2回洗浄した。得られた胎仔細胞はナイロンメッシュ(径40μm)に通過させて単一細胞のみを回収し、以後の実験に用いた。
肝臓細胞の培養
単離した胎仔肝臓細胞をLaminin(BD)でコートした6 well プレート(BD)上に1000 cells / cm2の条件で播種し、培養を行った。細胞培養には独自に調製した培地を用いた。培養用培地は10 % FBS、 1 μg / mL Insulin (Wako)、1 x 10-7 M Dexamethasone (Sigma)、10 mmol / L nicotinamide (Sigma)、 2 mmol / L L-glutamine (Invitrogen)、50 mmol / L 2-mercaptoethanol (Invitrogen)、5 mmol / L HEPES (Dojindo) 2.6 x 10-4 mol / L L-Ascorbic acid 2-Phosphate (Sigma)、1 x penicillin/streptomycin (Invitrogen)を含むDMEM/F12培地を基礎組成とし、そこへ分岐鎖アミノ酸溶液(イソロイシン: Ile、ロイシン: Leu、バリン: Val)あるいは、市販の必須アミノ酸溶液(GIBCO)、非必須アミノ酸溶液(GIBCO)を添加することで各種アミノ酸の培養に与える影響を評価した。なお、コントロールには等量の溶媒(PBS)を添加した。細胞播種後、細胞接着が確認された時点で培地を交換し、交換前の培地へさらに20 ng/ ml Epidermal growth factor (Sigma)、 25 ng / mL Hepatocyte growth factor (クリングルファーマ)を加えた培地で培養を続けた。培養は37 ℃、5 % CO2気相下で行った。
単離した胎仔肝臓細胞をLaminin(BD)でコートした6 well プレート(BD)上に1000 cells / cm2の条件で播種し、培養を行った。細胞培養には独自に調製した培地を用いた。培養用培地は10 % FBS、 1 μg / mL Insulin (Wako)、1 x 10-7 M Dexamethasone (Sigma)、10 mmol / L nicotinamide (Sigma)、 2 mmol / L L-glutamine (Invitrogen)、50 mmol / L 2-mercaptoethanol (Invitrogen)、5 mmol / L HEPES (Dojindo) 2.6 x 10-4 mol / L L-Ascorbic acid 2-Phosphate (Sigma)、1 x penicillin/streptomycin (Invitrogen)を含むDMEM/F12培地を基礎組成とし、そこへ分岐鎖アミノ酸溶液(イソロイシン: Ile、ロイシン: Leu、バリン: Val)あるいは、市販の必須アミノ酸溶液(GIBCO)、非必須アミノ酸溶液(GIBCO)を添加することで各種アミノ酸の培養に与える影響を評価した。なお、コントロールには等量の溶媒(PBS)を添加した。細胞播種後、細胞接着が確認された時点で培地を交換し、交換前の培地へさらに20 ng/ ml Epidermal growth factor (Sigma)、 25 ng / mL Hepatocyte growth factor (クリングルファーマ)を加えた培地で培養を続けた。培養は37 ℃、5 % CO2気相下で行った。
免疫染色
培地を除去した後、PBSで洗浄した。培養細胞の固定は1:1混合のアセトン/メタノールを加え-30 ℃で10分間、あるいは4 % PFA中で室温10分間反応させることで行った。固定済みの細胞サンプルは0.05 % Tweeen20を含んだPBSで5分間1回洗浄し、二次抗体作製時の免疫動物血清(Goat serum) (Sigma)を10 %含むPBS溶液中で、室温2時間インキュベートした。その後4 ℃で一晩、一次抗体反応を行った。一次抗体反応後、0.05 % Tween20を含んだPBSで5分間3回洗浄し、その後、遮光下において二次抗体を1時間、室温処理した。処理後、0.05 % Tween20を含んだPBSで3回洗浄し、傾向保護材(Vector)で封入し、正立型蛍光顕微鏡(Zeiss Axio システム)下で観察した。使用した一次抗体は、マウス抗Ck7抗体 (Dako) (1:100)、ウサギ抗Albumin抗体(Biogenesis) (1:500)、ウサギ抗AFP抗体 (MP bio) (1:200)を使用した。二次抗体は、Alexa488標識ヤギ抗マウスIgG1抗体 (Molecular Probe) (1:500) 、Aelxa555(Molecular Probe)標識ヤギ抗ウサギIgG抗体 (Molecular Probe) (1:500)である。
培地を除去した後、PBSで洗浄した。培養細胞の固定は1:1混合のアセトン/メタノールを加え-30 ℃で10分間、あるいは4 % PFA中で室温10分間反応させることで行った。固定済みの細胞サンプルは0.05 % Tweeen20を含んだPBSで5分間1回洗浄し、二次抗体作製時の免疫動物血清(Goat serum) (Sigma)を10 %含むPBS溶液中で、室温2時間インキュベートした。その後4 ℃で一晩、一次抗体反応を行った。一次抗体反応後、0.05 % Tween20を含んだPBSで5分間3回洗浄し、その後、遮光下において二次抗体を1時間、室温処理した。処理後、0.05 % Tween20を含んだPBSで3回洗浄し、傾向保護材(Vector)で封入し、正立型蛍光顕微鏡(Zeiss Axio システム)下で観察した。使用した一次抗体は、マウス抗Ck7抗体 (Dako) (1:100)、ウサギ抗Albumin抗体(Biogenesis) (1:500)、ウサギ抗AFP抗体 (MP bio) (1:200)を使用した。二次抗体は、Alexa488標識ヤギ抗マウスIgG1抗体 (Molecular Probe) (1:500) 、Aelxa555(Molecular Probe)標識ヤギ抗ウサギIgG抗体 (Molecular Probe) (1:500)である。
Total RNAの調製
各発生段階における胎仔・乳児野生型マウスから得た非血球画分(CD45−Ter119−)、あるいは、経門脈的脱血操作を施した8週齢マウス肝臓からtotalRNAを回収し、定量PCR法を用いて目的遺伝子の発現を検討した。
各発生段階における胎仔・乳児野生型マウスから得た非血球画分(CD45−Ter119−)、あるいは、経門脈的脱血操作を施した8週齢マウス肝臓からtotalRNAを回収し、定量PCR法を用いて目的遺伝子の発現を検討した。
非血球細胞の単離は次のように行った。野生型マウスの肝臓から、分取した肝臓細胞を、Biotin標識抗マウスTER119抗体 (PharMingen)、Biotin標識抗マウスCD45抗体(PharMingen)を加え、氷上にて20分間反応させた。3 % FBSを含むPBS溶液を加えて遠心操作を実施し、洗浄を行った。その後、IMag (BD)を氷上にて30分間反応させた。細胞懸濁液を2mlのEDTA 入りPBSで懸濁し、磁石によりCD45・Ter119陽性細胞を除去し、非血球細胞とした。
TotalRNAの抽出はTRIzol (Invitrogen)を用いた。なお、成体肝臓からのRNA抽出に際しては、液体窒素中で組織片を物理的に破損させた後、TRIzolを加えた。TRIzolを用いたtotalRNA抽出はWAKO社のマニュアルに従って行った。なお、RNA 溶液に混入しているゲノムDNAはDeoxyribonuclease I, Amplification Grade(Invitrogen)により分解させた。その後、SuperScriptTM III Reverse Transcriptase(Invitrogen)を用いてrandomプライマー存在下で逆転写反応を行い、cDNA 溶液を得た。これらの操作方法はKit付属のマニュアルに従った。
定量PCR
cDNA溶液をテンプレートとして定量を行った。定量解析は比較CT法を用いた。マウス細胞の解析では、それぞれのサンプルのGAPDH遺伝子の測定値によって、反応に用いたcDNA量の補正を行うことで相対定量を施行した。ヒト細胞の解析では、18Sの発現量により補正を行った。
cDNA溶液をテンプレートとして定量を行った。定量解析は比較CT法を用いた。マウス細胞の解析では、それぞれのサンプルのGAPDH遺伝子の測定値によって、反応に用いたcDNA量の補正を行うことで相対定量を施行した。ヒト細胞の解析では、18Sの発現量により補正を行った。
トランスクリプトーム解析
total RNA溶液をテンプレートとして、Agilent マイクロアレイ解析を行った。アレイデータはGrobal normalization法を用いて正規化し、検体間の遺伝子発現の差異を検討した。得られたデータからヒートマップを作成し、各発生段階における遺伝子発現量の比較を行った。各代謝経路に関わる遺伝子の抽出は、Gene Ontology分類を元に行った。
total RNA溶液をテンプレートとして、Agilent マイクロアレイ解析を行った。アレイデータはGrobal normalization法を用いて正規化し、検体間の遺伝子発現の差異を検討した。得られたデータからヒートマップを作成し、各発生段階における遺伝子発現量の比較を行った。各代謝経路に関わる遺伝子の抽出は、Gene Ontology分類を元に行った。
メタボローム解析
各発生期におけるマウス肝臓を採取し、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)社にてメタボローム解析を行った。マウス肝臓試料と内部標準物質50μMを含んだメタノール溶液を破砕用チューブに入れ、冷却下にて卓上型破砕機(bms)を用いて破砕した。これにクロロホルムおよびMilli-Q水を加えて撹拌し、遠心分離を行った。遠心分離後、水層を限外濾過チューブに移し取った。これを遠心し、限外濾過処理を行った。濾液を乾固させ、再びMilli-Q水に溶解して測定に供した。
各発生期におけるマウス肝臓を採取し、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)社にてメタボローム解析を行った。マウス肝臓試料と内部標準物質50μMを含んだメタノール溶液を破砕用チューブに入れ、冷却下にて卓上型破砕機(bms)を用いて破砕した。これにクロロホルムおよびMilli-Q水を加えて撹拌し、遠心分離を行った。遠心分離後、水層を限外濾過チューブに移し取った。これを遠心し、限外濾過処理を行った。濾液を乾固させ、再びMilli-Q水に溶解して測定に供した。
測定は、キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計のカチオンモード、アニオンモードによる測定を実施した。本試験ではHMT代謝物質データベースに登録された物質を対象として解析を行った。
検出されたピークは、自動積分ソフトウェア(MasterHands ver.2.9.0.9)を用いて自動抽出し、ピーク情報として質量電荷費、泳動時間とピーク面積値を得た。得られたピーク面積値は相対面積値に変換した。また、これらのデータにはNa+やK+などのアダクトイオンおよび、脱水、脱アンモニウムなどのフラグメントイオンが含まれているので、これらの分子量関連イオンを削除した。精査したピークについて各試料間のピークの照合・整列化を行った。
フローサイトメトリー解析
胎生13.5日目胎児より分取した肝臓細胞へ抗Dlk1ラット抗体(LSBio)、PE標識抗CD45抗体(PharMingen)およびPE標識抗TER119抗体(PharMingen)を加え、氷上にて30分間反応させた。3%FBSを含むPBS溶液を加えて遠心操作を実施し、洗浄を行った。その後、2次抗体としてAlexa647標識抗ラット抗体を加え、20分間反応させた。再び洗浄操作を行った後、FACSAriaにより細胞の蛍光強度を測定した。
胎生13.5日目胎児より分取した肝臓細胞へ抗Dlk1ラット抗体(LSBio)、PE標識抗CD45抗体(PharMingen)およびPE標識抗TER119抗体(PharMingen)を加え、氷上にて30分間反応させた。3%FBSを含むPBS溶液を加えて遠心操作を実施し、洗浄を行った。その後、2次抗体としてAlexa647標識抗ラット抗体を加え、20分間反応させた。再び洗浄操作を行った後、FACSAriaにより細胞の蛍光強度を測定した。
ヒトiPS細胞由来肝芽の創出
肝前駆細胞に相当する分化段階のヒトiPS細胞由来肝臓細胞(東京大学中内教授より供与して頂いたiPS細胞から当研究室で分化誘導した肝臓細胞)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(ロンザ)および間葉系幹細胞(ロンザ)の三種類を共培養することで肝芽の創出を行った。細胞をそれぞれ10:7:2の比率で混合し、マイクロウェルプレートで培養することで創出された肝芽は、その後特定のアミノ酸が豊富に含まれる、あるいはアミノ酸が少量しか含まれない培地(RPMIとEGMを1:1で混合したもの)で2週間培養し、そのサイズを計測した。肝芽のサイズの計測はIN Cell Analyzer 2000を用いて、肝芽の呈する蛍光を基に算出した。
肝前駆細胞に相当する分化段階のヒトiPS細胞由来肝臓細胞(東京大学中内教授より供与して頂いたiPS細胞から当研究室で分化誘導した肝臓細胞)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(ロンザ)および間葉系幹細胞(ロンザ)の三種類を共培養することで肝芽の創出を行った。細胞をそれぞれ10:7:2の比率で混合し、マイクロウェルプレートで培養することで創出された肝芽は、その後特定のアミノ酸が豊富に含まれる、あるいはアミノ酸が少量しか含まれない培地(RPMIとEGMを1:1で混合したもの)で2週間培養し、そのサイズを計測した。肝芽のサイズの計測はIN Cell Analyzer 2000を用いて、肝芽の呈する蛍光を基に算出した。
〔実施例2〕
細胞増殖促進に有効なL-バリンの添加濃度を明らかにするため、さまざまな濃度でL-バリンを添加し、胎生11.5日目のマウス胎仔肝臓細胞への細胞増殖促進効果を検討した。その結果、L-バリンを4mM添加した時に細胞増殖促進効果が最も高く、0.8-20mMの濃度範囲のときに増殖を促進する傾向が観察された(図9)。この結果から、L-バリンの添加は0.8-20mMの範囲で細胞増殖亢進に有効であることが示唆された。
細胞増殖促進に有効なL-バリンの添加濃度を明らかにするため、さまざまな濃度でL-バリンを添加し、胎生11.5日目のマウス胎仔肝臓細胞への細胞増殖促進効果を検討した。その結果、L-バリンを4mM添加した時に細胞増殖促進効果が最も高く、0.8-20mMの濃度範囲のときに増殖を促進する傾向が観察された(図9)。この結果から、L-バリンの添加は0.8-20mMの範囲で細胞増殖亢進に有効であることが示唆された。
実験材料及び方法
実験は「実施例1」のマウス胎仔肝臓細胞の分取、肝臓細胞の培養と同様に行った。
実験は「実施例1」のマウス胎仔肝臓細胞の分取、肝臓細胞の培養と同様に行った。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明は、細胞培養技術や細胞操作技術として、再生医療や医薬品のスクリーニングなどに利用することができる。本発明は、臓器細胞の増幅用培地製剤や、臓器細胞から分化誘導した肝細胞の選別用培地製剤などの開発につながる。
Claims (11)
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、未分化肝細胞の増幅方法。
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞が増幅し、かつ肝細胞への分化が誘導される請求項1記載の方法。
分岐鎖アミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1又は2記載の方法。
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化誘導方法。
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することにより、未分化肝細胞を増幅し、かつ肝細胞への分化を誘導することを含む、肝細胞の調製方法。
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸の存在下で、未分化肝細胞を培養することを含む、肝細胞への分化が可能な細胞の選別法。
1 mM以上の濃度の分岐鎖アミノ酸を含む、培地。
未分化肝細胞を増幅するために用いられる請求項7記載の培地。
未分化肝細胞を肝細胞へ分化誘導するために用いられる請求項7記載の培地。
分岐鎖アミノ酸を含む、未分化肝細胞増幅促進剤。
分岐鎖アミノ酸を含む、肝細胞への分化誘導剤。
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Also Published As
Publication number | Publication date |
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