JPWO2012165356A1 - 感温性ポリアミノ酸またはその塩 - Google Patents

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直彦 嶋田
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Abstract

生理学的条件で温度に応答し、生体機能性を有するUCST型の温度応答性高分子化合物を提供するとともに、その温度応答性材としての各種用途を提供する。少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、一般式(I)で示されるカルバモイル化アミノ酸であることを特徴とするカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩:(式中、pは1〜5の整数を意味する。)。

Description

本発明は、生理学的条件下で、低温域では不溶で高温域では溶解するといった高温溶解型の温度感応性(感温性)を有するポリアミノ酸またはその塩、及びその用途に関する。
従来より、水溶液中における低温溶解型(下限臨界共溶温度型:LCST型)の温度感応性高分子化合物に関する研究は数多くあり、その相転移メカニズムの解明から、相転移温度制御のための分子設計方法も明らかになっている。例えば、ポリN−イソプロピルアクリルアミド等の低温溶解型高分子化合物は、細胞分離(非特許文献1)やドラッグデリバリーシステム(非特許文献2)また細胞シート工学の基盤材料となり、再生医療に新風を起こす起爆剤となっている。
一方、水溶液中または生理学的条件下で高温溶解型(上限臨界共溶温度型:UCST型)の温度感応性高分子化合物の開発は、工学分野において大きなインパクトを与える基盤的材料となるにも関わらず、これらに関する研究は極めて少ない。これは、水系でUCST挙動を示す高分子化合物の例が数例しかなく(非特許文献3〜5参照)、さらにこれらの多くは生理的条件、つまり生理的なpH、塩濃度および温度の条件下において温度感応特性(感温性)を発現することができないことによる。
特開昭60−106803号公報
Okano, T. et al., (1993) J. Biomed. Mater. Res., 27, 1243-1251 Kim, Y.-H. et al., (1994) J. Control. Release, 28, 148-152 Buscall, R. et al., (1982) Eur. Polym. J., 18, 967-974 Schulz, D. N. et al. (1986) Polymer, 27, 1734-1742 Aoki, T. et al., (1999) Polymer. J., 31, 1185-1188 Hossein M. Ekrami et al.,(1995) Journal of Drug Tareting, Vol.2, pp.469-475
上記のことから、生理学的条件で応答する高温溶解型高分子化合物の構築が不可欠となっている。そこで本発明は、生理学的条件で応答し、生体機能性を有する高温溶解型の新規な感温性高分子化合物を提供することを目的とする。さらに本発明は、当該新規感温性高分子化合物の用途を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねていたところ、少なくとも10のアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(I):
Figure 2012165356
(式中、pは1〜5の整数を意味する。)
で示される、側鎖にカルバモイル基を有するカルバモイル化アミノ酸(言い換えると、側鎖にウレイド基を有するカルバモイル化アミノ酸)である、カルバモイル化ポリアミノ酸(以下、「C-PAA」ともいう)及びその塩が、生理学的条件、具体的には生理学的なpH及び塩濃度の条件下で、所定温度(相転移温度)以上では溶解(相溶)しているものの、降温操作により当該温度より低くすると不溶化(非相溶)する、高温溶解型(UCST型)の挙動を示すことを見出し、さらに当該相転移温度は、例えばカルバモイル化ポリアミノ酸(C-PAA)の濃度を調整することで適宜制御ができることを見出した。
本願発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)カルバモイル化ポリアミノ酸(C-PAA)またはその塩
(I-1)少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸またはその塩であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(I)で示される、側鎖にカルバモイル基を有するアミノ酸であることを特徴とする、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩:
Figure 2012165356
(式中、pは1〜5の整数を意味する。)。
(I-2)下記一般式(II)で示される、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩:
Figure 2012165356
(式中、Rはアミノ酸の側鎖、pは1〜5の整数、mは10以上の整数、nは0.4≦n≦1を満たす数を、それぞれ意味する。)。
(II-3)少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸またはその塩であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(III):
Figure 2012165356
(式中、pは1〜5の整数を意味する。)
で示されるアミノ酸であるポリアミノ酸またはその塩に、
シアン酸塩を反応させることによって製造される、
(I-1)または(I-2)に記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩。
(II)カルバモイル化ポリアミノ酸(C-PAA)またはその塩の製造方法
(II-1)少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸またはその塩であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(III):
Figure 2012165356
(式中、pは1〜5の整数を意味する。)
で示されるアミノ酸であるポリアミノ酸またはその塩に、
シアン酸塩を反応させる工程を有する、
(I-1)または(I-2)に記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の製造方法。
(II-2)上記ポリアミノ酸またはその塩が、下記一般式(IV)で示されるポリアミノ酸またはその塩である、(II-1)に記載する製造方法:
Figure 2012165356
(式中、Rはアミノ酸の側鎖、pは1〜5の整数、mは10以上の整数、nは0.4≦n≦1を満たす数を、それぞれ意味する。)。
(III)カルバモイル化ポリアミノ酸(C-PAA)またはその塩の用途
(III-1)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を有効成分とする、感温性組成物。
(III-2)(I-1)乃至(II-3)のいずれかに記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を有効成分とする、感温性分離材。
(III-3)下記の工程を有する水性2相分配法:
(1)被分離物を含む試料及び(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を、生理的に許容される溶液中に共存させる工程、及び
(2)上記溶液の温度を、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の相転移温度より高い温度から低い温度にすることで、上記溶液を相分離させる工程。
なお、ここで(2)の工程は、溶液の温度をカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の相転移温度よりも高温から低温にすることにより行ってもよいし、また溶液中のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の濃度、pHまたは塩濃度を制御することで、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の相転移温度を、溶液の温度よりも低い温度から高い温度にすることにより行ってもよい。
(III-4)さらに下記の(3)の工程、または(3)と(4)の工程を有する、(III-3)に記載する水性2相分配法:
(3)(2)の相分離工程によって相分離された溶液について、被分離物が分配された相を、非分配相から分離し回収する工程、
(4)上記(3)の工程により分離回収した被分離物分配相から、被分離物を回収する工程。
(III-5)被分離物がタンパク質、細胞、アニオン性物質、カチオン性物質、水素結合性物質、及び疎水結合性物質からなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである(III-3)または(III-4)に記載する水性2相分配法。
本発明が対象とする高温溶解型感温性を有するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩は、ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の側鎖のすべてにカルバモイル基が結合している(「ウレイド基が結合している」ともいうことができる)ことを特徴とする。かかるカルバモイル化ポリアミノ酸は、少なくとも生理的条件で高温溶解型の感温性挙動を示し、特定の温度(相転移温度)よりも高い温度で溶解相を形成し、当該相転移温度よりも低い温度で不溶相を形成する性質を有している(例えば図1参照)。
このため、当該カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩は、その生理的条件下における感温性を利用することで、生理的条件下における各種物質の捕捉や分離に、分離材として有効に用いることができる。特に、カルバモイル化ポリアミノ酸がカルバモイル化ポリオルニチン(CPLO)またはその塩である場合(式(I)または式(II)中、pが3であるC-PAAに相当する。)、当該カルバモイル化ポリオルニチンは、その構成アミノ酸(モノマー分子)がいずれも生体内に存在するアミノ酸であるオルニチンとシトルリンであるため、生体、特にヒトなどの哺乳類を含む動物に対して安全である。このため、一般式(I)または(II)で示されるカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩は、例えば生化学的または生理学的材料(例えば、細胞やタンパク質等の生理活性物質)の分離、DDS、薬剤放出、酵素の固定化、細胞培養、センシングなどに、有効に用いることができる。特に高温条件で変性したり活性が低下するなど、高温環境が好ましくない物質(例えば、細胞、遺伝子等の核酸、酵素や抗体などのタンパク質、その他のバイオプロダクトなど)については、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩によれば、相転移温度以下の低温条件下で、変性させたり活性を失うことなく、捕獲し分離(単離)することが可能である。
例えば生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl in water)中における本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩について、温度℃と透過率%との関係、及び不溶相と可溶相との相転移を示す図である。 製造例1で調製したカルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-30K-93、カルバモイル化度n=0.93)とポリオルニチン(PLO-30K)のH-NMRスペクトルを示す。「α」はα位のメチレンのプロトンのピーク、「β」はβ位のメチレンのプロトンのピーク、「γ」はγ位のメチレンのプロトンのピーク、「δ」はカルバモイル化されていないδ位のメチレンのプロトンのピーク、「δ’」はカルバモイル化されたδ位のメチレンのプロトンのピークを示す。 生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl in water)におけるカルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-30K-93(1mg/ml)、カルバモイル化度n=0.93)について、温度℃と透過率%との関係、及び不溶相と可溶相との相転移を示す図である(実験例1)。 ポリDL-オルニチンをカルバモイル化したカルバモイル化ポリオルニチン(CPDLO-30K-95、カルバモイル化度n=0.84)を5.0mg/mlになるように溶解した生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)について、5〜40℃までの温度範囲での透過率%(500nm)を測定した結果を示す(実験例2)。 (A)カルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-30K-88、カルバモイル化度n=0.88)を各種濃度(0.125、0.25、0.5、1.0、2.5及び5.0mg/ml)になるように溶解した生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)について、5〜70℃までの温度範囲での透過率%(500nm)を測定した結果を示す(実験例3)。(B)カルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-30K-93、カルバモイル化度n=0.93)を各種濃度(0.125、0.25、0.5、1.0、2.5及び5.0mg/ml)になるように溶解した生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)について、5〜30℃までの温度範囲での透過率%(500nm)を測定した結果を示す(実験例3)。(C)(B)で得られたCPLO-30K-93の高温溶解温度UCST(℃)(相転移温度)を、生理的緩衝液中のCPLO-30K-93の濃度(mg/ml)を横軸にしてプロットした結果を示す。 生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl in water)におけるカルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-150K-84(1mg/ml)、カルバモイル化度0.84)及びカルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-150K-93(1mg/ml)、カルバモイル化度0.93)について、温度℃と透過率%との関係を示す図である(実験例4)。 (A)カルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-150K-84、カルバモイル化度n=0.84)を各種濃度(0.125、0.25、0.5、1.0、2.5及び5.0mg/ml)になるように溶解した生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)について、5〜70℃までの温度範囲での透過率%(500nm)を測定した結果を示す(実験例5)。(B)カルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-150K-93、カルバモイル化度0.93)を各種濃度(0.125、0.25、0.5、1.0、2.5及び5.0mg/ml)になるように溶解した生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)について、5〜70℃までの温度範囲での透過率%(500nm)を測定した結果を示す(実験例5)。(C)(A)で得られたCPLO-150K-84及び(B)で得られたCPLO-150K-93の高温溶解温度UCST(℃)(相転移温度)を、生理的緩衝液中の各CPLO-150Kの濃度(mg/ml)を横軸にしてプロットした結果を示す。 カルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-150K-93、カルバモイル化度n=0.93)、及び当該CPLO-150K-93をプロテアーゼK処理した分解物について、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl in water)に溶解した条件下での、温度℃と透過率%(500nm)との関係、及び不溶相と可溶相との相転移を示す図である(実験例6)。
1.カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩、およびその製造方法
本発明が対象とするカルバモイル化ポリアミノ酸は、同一または異なる10以上のアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(I)で示されるカルバモイル化アミノ酸であることを特徴とする。
Figure 2012165356
上記式中、pはポリアミノ酸の側鎖のメチレン基の数を表す。具体的には、pは1以上の整数を意味する。通常1〜5、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3、特に好ましくは3である。
本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸は10以上のアミノ酸が重合してなるものである。かかるアミノ酸の重合度として、具体的には10以上、好ましくは10〜5000、より好ましくは20〜2000、特に好ましくは20〜1000である。
上記式(I)において、カルバモイル化しているアミノ酸は、全アミノ酸のうち40〜100%(4〜10割)の範囲である。生理的条件下で高温溶解型の温度感応性(感温性)を示すという観点から、好ましくは84〜100%(8.4〜10割)であり、より好ましくは87〜100%(8.7〜10割)である。
本発明が対象とするカルバモイル化ポリアミノ酸の一例として、下記一般式(II)で示される化合物を挙げることができる。
Figure 2012165356
上記式中、mはポリアミノ酸の重合度を表す。具体的には、mは10以上の整数を意味する。好ましくは10〜5000であり、より好ましくは20〜2000であり、特に好ましくは20〜1000である。
上記式中、pはポリアミノ酸の側鎖のメチレン基の数を表す。具体的には、pは1以上の整数を意味する。通常1〜5、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3、特に好ましくは3である。
上記式(II)中、nは本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸を構成するアミノ酸全体に対するカルバモイル化アミノ酸の割合を表す。言い換えると、カルバモイル化ポリアミノ酸における側鎖アミノ基に対するカルバモイル基の導入度を意味する。具体的には、nは0.4≦n≦1の数を示す。生理的条件で温感性を示すという観点から、好ましくは0.84≦n≦1であり、より好ましくは0.87≦n≦1である。具体的には、「n×100」は、カルバモイル化ポリアミノ酸を構成するアミノ酸全体(100%)に対するカルバモイル化アミノ酸のパーセンテージ(%)を意味する。
上記式中、Rはアミノ酸の側鎖を意味する。ここで示されるアミノ酸の側鎖としては、公知のアミノ酸、好ましくはタンパク質を構成するアミノ酸の側鎖をいずれも挙げることができる。制限されないが、例えば、タンパク質を構成するアミノ酸の側鎖として、下記表1に掲げる側鎖を挙げることができる。
Figure 2012165356
アミノ酸の側鎖として、好ましくは水素原子がアミノ基(-NH2)で置換されてなる直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくは水素原子がアミノ基(-NH2)で置換されてなる直鎖状または分岐状の炭素数2〜4のアルキル基であり、特に好ましくは水素原子がアミノ基(-NH2)で置換されてなる直鎖状または分岐状の炭素数3のアルキル基である。
本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸の塩とは、当該カルバモイル化ポリアミノ酸を構成するアミノ酸(モノマー分子)中の側鎖アミノ基への付加塩を挙げることができる。かかる付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、酢酸塩等のカルボン酸塩類、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩や酒石酸塩などオキシカルボン酸塩、安息香酸塩を例示することができる。好ましくは生体に安全な塩、例えば薬学的に許容される塩である。
本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩は、少なくとも10以上のアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸またはその塩であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(III):
Figure 2012165356
(式中、pは前述の通り。)
で示されるアミノ酸であるポリアミノ酸またはその塩をシアン酸塩(MCNO)と反応させることで製造することができる。
その反応式の一例を示すと下記の通りである。
Figure 2012165356
(式中、m、n、pは前述の通り。MCNOはシアン酸塩を意味する。)
ここでポリアミノ酸は、D体またはL体のいずれの光学異性体であっってもよく、またはこれらの混合物、例えばD体とL体の等量混合物であるDL体であってもよい。好ましくは、生体タンパク質を構成するL体である。また、ポリアミノ酸は、制限されないものの、好ましくは生体タンパク質を構成するαアミノ酸のポリマーである。
ここでポリアミノ酸の塩としては、カルバモイル化ポリアミノ酸の塩と同様に、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、酢酸塩等のカルボン酸塩類、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩や酒石酸塩などオキシカルボン酸塩、安息香酸塩を例示することができる。好ましくは塩酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩などの無機塩である。
なお、原料として使用するポリアミノ酸またはその塩の製造方法は既に公知であり、具体的には例えば非特許文献6記載に従って調製することができるし、また慣用のアミノ酸合成法を用いて合成することができる。なお、これらの製造方法を記載する文献(例えば、非特許文献6)は、援用により本件明細書の内容の一部として盛り込まれる。塩を含まないフリーのタイプのポリアミノ酸は、既知のポリアミノ酸の塩をアルカリで中和後、副生する中和塩を水に対して透析することで調製することができる。
また、市販のポリアミノ酸 (塩フリー)を使用することもできる。かかる市販品としては、分子量約3万のポリL-オルニチン臭化水素酸塩(Sigma), 分子量約15万のポリL-オルニチン臭化水素酸塩(Sigma)、分子量約3万のポリD-オルニチン臭化水素酸塩(Sigma), 分子量約15万のポリD-オルニチン臭化水素酸塩(Sigma)、分子量約3万のポリDL-オルニチン臭化水素酸塩(Sigma), 分子量約15万のポリDL-オルニチン臭化水素酸塩(Sigma)等を例示することができる。
ポリアミノ酸を溶液にするために使用する溶媒としては、水、有機溶媒またはこれらの混合液を挙げることができる。有機溶媒としては、ポリアミノ酸の溶解性から極性溶媒であることが好ましく、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等を挙げることができる。反応に使用するポリアミノ酸溶液におけるポリアミノ酸濃度としては、制限されないが、通常1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは3〜20重量%、特に好ましくは2〜10重量%を挙げることができる。
ポリアミノ酸またはその塩と反応させるシアン酸塩(MCNO)としては、シアン酸カリウムやシアン酸ナトリウム等のシアン酸のアルカリ金属塩を好適に例示することができる。好ましくはシアン酸カリウムである。
かかるシアン酸塩の使用割合としては、上記ポリアミノ酸の側鎖アミノ基にカルバモイル基が所望の割合(導入率)(一般式中、nが0.4≦n≦1)で導入されるように、化学量論的に必要な計算量を挙げることができる。シアン酸塩の使用割合として、具体的には、ポリアミノ酸1モルに対して、0.4〜10モルになるような割合を挙げることができる。上限は10モル以下であればよいが、好ましくは5モル以下、より好ましくは3モル以下である。下限はカルバモイル基の導入率(カルバモイル化度)に応じて対応するモル数に設定することができる(例えば製造例1の表1及び製造例2の表2参照)。例えば、カルバモイル化度を0.7〜0.75程度にする場合には0.8モル程度、0.8〜0.9程度にする場合には1モル程度、0.9〜0.95程度にする場合には1.2モル程度に設定調整することができる。
ポリアミノ酸またはその塩とシアン酸塩(MCNO)とを反応させて、カルバモイル化ポリアミノ酸を製造するときは、まず、原料のポリアミノ酸またはその塩の溶液にシアン酸塩(MCNO)をゆっくりと滴下することが好ましい。このとき、溶媒にシアン酸塩(MCNO)を溶解させて、原料のポリアミノ酸またはその塩の溶液に滴下することもできる。この場合、シアン酸塩を溶解させるための溶媒は、通常、原料のポリアミノ酸を溶解させるための溶媒と同じである。ポリアミノ酸またはその塩とシアン酸塩(MCNO)との反応は、撹拌しながら行うことが好ましい。反応温度は、特に制限されないが、好ましくは0〜100℃、より好ましくは30〜60℃に維持することが望ましい。反応時間も特に制限されないが、通常12〜48時間、好ましくは12〜25時間で、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の溶液を得ることができる。
反応終了後、副生したアルコールと反応溶媒を除去するために、反応溶液を、真空乾燥することにより、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を、固体として得ることができる。
また、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸の塩は、原料として、ポリアミノ酸の部分塩を用い、これとシアン酸塩(MCNO)とを、フリーのポリアミノ酸を用いた場合と同様に、反応させることにより、製造することができる。通常、原料のポリアミノ酸の部分塩とシアン酸塩とを反応させた場合、そのポリアミノ酸のNHで、塩を形成していないNHが、優先的にカルバモイル基で置換される。反応終了後、得られるカルバモイル化ポリアミノ酸の塩の溶液を、アセトン等の溶媒に加えて再沈することにより、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸の付加塩を、固体として取り出すことが可能となる。
本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸におけるカルバモイル化度(モル%)は、用いる原料のシアン酸塩の量に依存する。原料のポリアミノ酸の側鎖アミノ基に対し、等モル量のシアン酸塩を用いたときは、通常、ほとんどのアミノ基はカルバモイル化される。従って、原料として用いるシアン酸塩の量を調整することにより、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸のカチオン密度(またはカルバモイル基の密度、ウレイド基の密度ともいう)を調整することができる。なお、ポリアミノ酸のカルバモイル化度など、カルバモイル基の導入率(本発明化合物の生成率)は、NMR測定により測定することができる(製造例1参照)。
また、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸の塩は、原料としてポリアミノ酸の塩を用いることで、製造取得することができる。
斯くして調製される本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩は、少なくとも生理学的に許容される溶液中で、5〜65℃の範囲、好ましくは5〜50℃の範囲、より好ましくは5〜40℃の範囲に相転移温度を有することを特徴とする。
ここで「生理学的に許容される溶液」とは、生物個体やそれを構成する細胞が生存するために必要な条件を満たした溶液を意味する。対象とする生物個体としては微生物、動物及び植物を挙げることができるが、好ましくは植物及び動物、より好ましくはヒト等の哺乳類を含む動物であり、特に好ましくはヒトを含む哺乳類である。ヒトを含む哺乳類やそれを構成する細胞が生存するために必要な条件としては、制限されないものの、塩濃度として1〜1000mMの範囲、好ましくは50〜300mM,pHとしてpH4−10、好ましくはpH5−9の範囲を例示することができる。また溶液の種類としては、水を例示することができる。なお、「生理学的に許容される溶液」とは人工的に調製した溶液のみならず、生体内及び生体外などの存在場所にかかわらず、血液、リンパ液、組織液などの体液をも包含して意味するものである。
ここで「5〜65℃(または5〜50℃、5〜40℃)の範囲に相転移温度を有する」とは、感温性高分子化合物である本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩が生理学的に許容される溶液中で不溶化し不溶相を形成する温度と、当該化合物またはその塩が上記溶液中で溶解し溶解相を形成する温度との境界温度が、5〜65℃(または5〜50℃、5〜40℃)の範囲にあることを意味する。つまり「相転移」とは、上記溶液において本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩によって形成される不溶相と溶解相との相転移を意味する。
かかる「相転移温度」は、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を少なくとも生理的に許容される許容される溶液、好ましくは少なくとも1mMの塩を含有する水溶液に溶解し、降温させながら石英セル中で500nmの可視光の透過率を測定し、上記カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩が完全に溶解しているときの清澄溶液の可視光の透過率を100%とした場合に、これを降温したときに該透過率が減少し始める温度として求めることができる(例えば、図1参照)。
ここで塩とはKCl, NaCl, CaCl2, MgCl2, KBr, NaBr, Na2SO4, 及びMgSO4等を挙げることができるが、カルバモイル化ポリアミノ酸が、カルバモイル化ポリオルニチン(CPLO)である場合、好適には塩化ナトリウムを挙げることができる。
2.感温性分離材
本発明の感温性分離材は、前述するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を有効成分とするものであって、当該有効成分の特性に基づいて、同様に、少なくとも生理学的に許容される溶液中で、5〜65℃、好ましくは5〜50℃、より好ましくは5〜40℃の範囲に相転移温度を有することを特徴とする。
本発明の感温性分離材の相転移温度は、それを溶解する溶媒の種類、溶媒の塩濃度、pH、溶媒中の分離材の濃度、及び溶媒中の他成分の存在(例えば、アニオン性物質、カチオン性物質、水素結合性物質または疎水結合性物質などの存在及びその量)に応じて変動し得る。しかし、本発明の感温性分離材は、上記するように、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を有し、少なくとも生理学的に許容される溶液中で、5〜65℃、好ましくは5〜50℃、より好ましくは5〜40℃の範囲に相転移温度を有し、当該相転移温度よりも低い温度で不溶相を形成し、当該相転移温度よりも高い温度で溶解相を形成するものである。
かかる感温性分離材の一例として、有効成分が前述するカルバモイル化ポリアミノ酸(II)のうち、pが3であるカルバモイル化ポリオルニチンであって、且つ当該カルバモイル基導入率(カルバモイル化度)が0.84(n=0.84)以上である化合物またはその塩からなる感温性分離材を挙げることができる。より好ましい感温性分離材としては、mが10以上、より好ましくは30〜2000であるカルバモイル化ポリオルニチンである(分子量に換算すると1000以上、好ましくは3000〜200000)。
当該感温性分離材は、pH7.5の少なくとも150mMの塩化ナトリウムを含有する水溶液中で、10〜40℃、好ましくは10〜35℃の範囲に相転移温度を有し、当該相転移温度よりも低い温度で不溶相を形成し、当該相転移温度よりも高い温度で溶解相を形成する(実験例参照)。
ここで相転移温度は、前述するように、当該感温性分離材を少なくとも1mMの塩を含有する水溶液に溶解し、降温させながら石英セル中で500nmの可視光の透過率を測定し、当該分離材が完全に溶解しているときの清澄溶液の可視光の透過率を100%とした場合に、これを降温したときに該透過率が減少し始める温度として求められる。
ここで塩とはKCl, NaCl, CaCl2, MgCl2, KBr, NaBr, Na2SO4, 及びMgSO4等を挙げることができるが、カルバモイル化ポリアミノ酸が、pが3であるカルバモイル化ポリオルニチンである場合、好適には塩化ナトリウムを挙げることができる。
上記塩の濃度の濃度としては、上記するように1mM以上であれば特に制限されない。好ましくは1〜3000mMであり、より好ましくは50〜1000mMである。また、溶液中での感温性分離材の濃度は、カルバモイル化ポリアミノ酸の濃度に換算して、通常0.1mg/ml以上、好ましくは0.1〜300mg/ml、より好ましくは0.1〜100mg/mlを挙げることができる。
また本発明の感温性分離材は、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩そのものをそのまま用いるもの(カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の単品またはその集合物)であってもよいが、カルバモイル化ポリアミノ酸を構成するアミノ酸残基(モノマー分子)に、分離しようとする被分離物に対して結合性を有するリガンドを、必要に応じてアルキレン基などの任意のリンカーを介して、固定化させた状態で用いることもできる。
かかるリガンドとしては、ビオチン又はイミノビオチン(またはアビジンまたはストレプトアビジン)、抗体(または抗原)、分子シャペロン、糖鎖、レクチン、プロテインA、プロテインG、DNA、RNA、酵素(または酵素反応における基質)、受容体(または受容体に対するリガンド(アゴニスト若しくはアンタゴニスト))、競争阻害剤、補酵素等が例示される。
カルバモイル化ポリアミノ酸に上記リガンドを結合する方法としては、制限されないが、例えば抗体(または抗原)、酵素または受容体などの蛋白質をリガンドとして結合させる場合、蛋白質にはカルボキシル基とカルバモイル化ポリアミノ酸の側鎖アミノ基との間でペプチド結合を形成させる方法を例示することができる。またリガンドのカルボキシル基をN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)でエステル化して活性化エステル基とし、次いでカルバモイル化ポリアミノ酸の側鎖アミノ基とアミド結合を形成することによっても、リガンドとカルバモイル化ポリアミノ酸を結合させることができる。
なお、リンカーとしては、特に制限されないが、前述するように炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3等の低級アルキレン基を例示することができる。
感温性分離材と併用するアニオン性物質としては、アニオン基を有する物質であれば特に制限されないが、例えば一価アニオンを有するフルオレセイン(FL)、二価アニオンを有するブロモフェノールブルー(BPB)、四価アニオンを有するトリパンブルー(TB)やエバンスブルー(EB)等のアニオン系色素を挙げることができる。
また、感温性分離材と併用するカチオン性物質としては、カチオン基を有する物質であれば特に制限されないが、例えば、一価カチオンを有するエチジウムブロマイド、二価カチオンを有するプロピジウムアイオダイド、四価カチオンを有するTMPyP(テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリンp-トルエンスホナートを挙げることができる。
本発明の感温性分離材の温度感応性(感温性)は可逆的であり、溶解と不溶化の繰返し変化によってもその温度感応性は保持されることが好ましい。
3.感温性分離材の用途
本発明の感温性分離材は、上記特性を利用することができる種々の用途や用法に適用することができる。例えば、水性二相分配法における分離・濃縮剤(後述(3-1)参照)、薬物放出剤における基材(薬物放出基材)(後述(3-3)参照)、ドラッグデリバリーシステムにおける運搬体(ドラッグデリバリーシステムキャリアー)、酵素や抗体を固定化するための担体(後述(3-2)参照)、細胞培養基材、光機能材料、センシング基材、として用いることができる。なお、当然ながら感温性分離材として、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸(II)またはその塩そのものを使用することもできる。以下の「感温性分離材」という用語は、「カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩そのもの」を包含する意味で用いられる。
例えば、本発明の感温性分離材を、細胞培養基材またはその成分として用いる場合、それを当該感温性分離材の相転移温度よりも低い温度に設定して不溶相の状態で細胞を培養し、次いでそれを相転移温度よりも高い温度に調整して溶解相にすることで、液体化して細胞を回収することができる。例えば、本発明の感温性分離材を、pH変化や塩濃度変化に応答するセンサーの基材(センシング基材)として用いる場合、pHや塩濃度変化を伴う生体内での反応を測定することが可能である。
(3-1)水性二相分配法
水性二相分配法は、本発明の感温性分離材を分離剤または濃縮剤として用いることにより実施することができる。具体的には、水性二相分配法は、本発明の感温性分離材を溶解した水性溶媒の温度を、当該感温性分離材の相転移温度より低くした際に形成されるコアセルベート層と水層に対する被分離物の親和性の差を利用して、被分離物を分離し濃縮する方法である。分離しようとする被分離物を含む試料(被分離試料)を、まず感温性分離材を溶解した水性溶媒に当該感性分離材の相転移温度より高い温度条件下で溶解させ、次いでこの温度を相転移温度より低い温度にすることでコアセルベート層及び水層を形成する。斯くして、被分離物はコアセルベート層及び水層に対する親和性の差によってどちらかの層により多く分配される。そこで、被分離物が分配された層から、当該被分離物を回収する。所望により、この操作を繰り返すことにより被分離物の回収率を増加することができる。
当該水性二相分配法は、特にコアセルベート層を形成する本発明の感温性分離材に対して親和性を有する被分離物の分離及び濃縮に好適に使用される。
具体的には、本発明において、水性二相分配法は、被分離物を含む試料(被験試料)と本発明の感温性分離材とを、生理学的に許容される溶液中に共存させ、次いで、当該溶液の温度を当該感温性分離材の相転移温度より高い温度から低い温度にすることによって実施することができる。本発明の感温性分離材に親和性を有する被分離物は、当該感温性分離材から形成されるコアセルベート層に分配されるため、当該コアセルベート層を、遠心により沈降させるかまたは透析すること等により濃縮することで、被験試料から被分離物を分離することができる。ここで塩としては、塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどを例示することができるが、これに限定されない。他の塩としては、例えばKCL, NACL, MGCL2, KBr, NaBr, Na2SO4, MgSO4等を例示することができる。感温性分離材として、カルバモイル化ポリオルニチンまたはその塩そのものまたはそれを有効成分とする組成物を用いる場合、好ましい塩は塩化ナトリウムである。
被分離物の一例としては、タンパク質、細胞、水素結合性物質、疎水結合性物質、アニオン性物質、カチオン性物質などを挙げることができる。水素結合性物質としては、RNAやDNA等の核酸、またはアンチセンス核酸、siRNA、miRNA、リボザイム、RNAアプタマーなどの核酸誘導体を、また疎水結合性物質としてはパクリタキセル等の抗がん剤、またはカーボンナノチューブなどを例示することができる。
尚、水性二相分配法に適用される感温性分離材は、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩そのものを有効成分とするものであってもよいし、また分離しようとする被分離物と結合性を有するリガンドを、カルバモイル化ポリアミノ酸を構成するアミノ酸残基(モノマー分子)に、必要に応じてアルキレン基などの任意のリンカーを介して固定化したものを有効成分とするものであってもよい。
かかるリガンドとしては、前述するように、ビオチン又はイミノビオチン(またはアビジンまたはストレプトアビジン)、抗体(または抗原)、分子シャペロン、糖鎖、レクチン、プロテインA、プロテインG、DNA、RNA、酵素(酵素反応における基質)、受容体(受容体に対するリガンド(アゴニスト・アンタゴニスト)、競争阻害剤、補酵素等が例示される。上記特異的な相互作用を行うことが知られている一組の具体例としては、抗原−抗体、酵素−基質(阻害剤)、各種の生理活性物質−受容体、ビオチン又はイミノビオチン−アビジンまたはストレプトアビジン、DNA−DNA(RNA)等が挙げられる。これらの組は、天然分子同士に限らず、合成分子−天然分子、合成分子−合成分子も包含される。また、相互作用としては、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用等の単独乃至組み合わせが挙げられる。
本発明の水性二相分配法は、好ましくは5〜36℃といった比較的低温域に相転移温度を有する温度感応性分離材を分離・濃縮剤として用いることができる方法であるため、微生物や細胞培養の生体物等のバイオプロダクトや、酵素や抗体や生理活性物質などタンパク質などを被分離物とするバイオセパレーションに好適に使用することができる。
(3-2)酵素または抗体の固定化基材、それを用いた反応方法
また本発明の感温性分離材は、酵素または抗体の固定化基材(固相)として用いることができ、これに酵素または抗体を固定化することにより、固定化酵素または固定化抗体を調製し、提供することができる。
かかる固定化酵素及び固定化抗体は、イムノアッセイ法等の被験物質(タンパク質等)の定性または定量分析、タンパク質の精製、バイオリアクター構築のための有力な材料となる。この場合、カルバモイル化ポリアミノ酸(II)またはその塩としては、これを構成するアミノ酸残基(モノマー分子)に酵素に対して結合性を有するリガンドを、必要に応じてリンカーを介して固定化したものを用いることが好ましい。かかるリガンドとしては、前述するように、ビオチン又はイミノビオチンを好適に例示することができる。
固定化酵素は、本発明の感温性分離材(酵素固定化基材)に酵素を化学的に固定化することにより調製することができる。酵素の固定化方法としては、上記2で説明したカルバモイル化ポリアミノ酸(II)またはその塩にリガンド(酵素)を結合する方法を同様に用いることができる。斯くして調製した固定化酵素を、少なくとも生理学的に許容される溶液中において、その温度を感温性分離材の相転移温度より低い温度に設定することで酵素を固定化した感温性分離材(固定化酵素)を不溶相として相分離しておく。そして、必要に応じて、温度やpH等を変化させて相転移温度より高い温度にすることで、固定化酵素を、基質を含む水溶液と相溶化することで、酵素反応を開始させることができる。
また固定化抗体も、本発明の感温性分離材(抗体固定化基材)に抗体を化学的に固定化することにより調製することができる。抗体の固定化方法としては、上記2で説明したカルバモイル化ポリアミノ酸(II)にリガンド(抗体)を結合する方法を同様に用いることができる。斯くして調製した固定化抗体を、少なくとも生理学的に許容される溶液であって上記抗体の抗原を含む溶液中において、その温度を感温性分離材の相転移温度より低い温度に設定することで抗体を固定化した感温性分離材(固定化抗体)を不溶相として相分離しておく。そして、必要に応じて、温度やpH等を変化させて相転移温度より高い温度にすることで、固定化抗体を、抗原を含む水溶液と相溶化することで、抗原抗体反応を開始させることができる。また、抗体に代えてその抗原を感温性分離材に固定化して、水溶液に当該抗体の抗原を配合して、抗原抗体反応を行うこともできる。
(3-3)薬物放出剤、薬物放出方法
また本発明によれば、上記感温性分離材を薬物と組み合わせることで薬物放出剤を提供することができる。当該薬物放出剤は、本発明の感温性分離材をいわゆるドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアー(薬物の担持体)として用いるもので、本発明の感温性分離材と任意の薬物との組み合わせからなる。本発明の薬物放出剤は、本発明の感温性分離材が生理学的条件下で温度を制御することで可逆的に溶解及び不溶化し(相転移)、これに伴ってコアセルベートが消失したり形成したりするという特性を、薬物の放出及び保持の制御に応用したものである。本発明の薬物放出剤は、必要なときに必要なだけ薬物を投与しようというインテリゼント化製剤(インテリゼントDDS)に好適に用いられる。
本発明の薬物放出剤において、本発明の感温性分離材に各種薬物(例えば、アドレアマイシン、タキソール等の各種の抗ガン剤等)を担持または結合させる手段は、感温性分離材の水性溶液を、温度や濃度等の制御下で感温性分離材と所望の薬物を接触させる方法が挙げられる。具体的には、本発明の感温性分離材と各種薬物を、少なくとも生理学的に許容される溶液中で共存させ、当該溶液の温度等を制御することで、感温性分離材の相転移温度よりも低い温度にすることで、本発明の感温性分離材に各種薬物を担持または結合させることができる。次いで、温度等を制御することで、感温性分離材の相転移温度よりも高い温度にすることで、薬物放出剤の温度感応性分離材から各種薬物を放出させることができる。
この場合、感温性分離材として、カルバモイル化ポリアミノ酸(II)またはその塩をそのまま使用してもよいし、また前述するリガンドを、必要に応じてリンカーを介して固定化したカルバモイル化ポリアミノ酸(II)またはその塩を用いてもよい。
また、本発明の薬物放出剤において、薬物を感温性分離材に担持または結合させる態様としては、好ましくは相転移温度よりも低い温度にすることで感温性分離材から形成されるコアセルベート層の内部または表面に、薬物を結合させる方法を挙げることができる。また、本発明の薬物放出剤は、薬物を感温性分離材に担持または結合させた状態で、更にカプセル、スポンジ、ゲル、リポソーム等の基材に収容または担持させる等、二次的な処理が施されていても良い。この場合も、温度等を制御することで、感温性分離材の相転移温度よりも高い温度にすることで、薬物放出剤の感温性分離材から形成されたコアセルベート層から各種薬物を放出させることができる。
なお、本発明の薬物放出剤の投与形態も任意であり、その剤形により適宜選択される。例えば、経口剤、貼付剤、注射剤、点滴、坐剤等の剤形に応じて、経口投与、経皮投与、静脈内または筋肉内投与、及び直腸投与などが挙げられる。
水性二相分配法、酵素の固定化、薬物放出剤等において、標的物質や目的物の本発明の感温性分離材に対する結合は、イオンコンプレックスや電荷移動錯体を利用した結合、生化学的親和性等を利用した結合が好ましい。本発明の感温性分離材に結合した標的物質または目的物は、例えば、塩濃度制御、pH制御、阻害剤、基質等の制御、尿素、SDSなどの変性剤の制御、有機溶媒、金属イオンなどの制御、温度制御などの方法を適宜選定乃至組み合わせることにより結合強度を制御し、ひいては分配率、反応速度、薬物放出速度等を制御することができる。また、種々のリガンドの感温性分離材への固定化は、感温性分離材の繰返し再現性を保持するには共有結合であることが好ましいが、イオンコンプレックスや電荷移動錯体を利用した結合、生化学的親和性等を利用した結合であってもよい。
以下、製造例及び実験例を挙げて本発明の構成及び効果をより明確に説明する。但し、本発明はこれらの製造例及び実験例によって何ら制限されるものではない。
製造例1
ポリアミノ酸としてポリ−L−オルニチン(Sigma社製)100mgをスクリュー管ビンに入れ、1Mイミダゾール緩衝液(pH7)1mlに溶解し、50℃に加熱し、これにシアン酸カリウム30.8〜46.2mg(オルニチン残基1モルに対して0.8〜1.2モル)を水1mLに溶解した液を適下して全量を3mlにした。これを50℃で24時間、撹拌した。反応終了後、透析膜(MWCO:3,500)を用いて、室温で水(2回)、1%TFA水溶液(1回)、及び水(2回)に対して透析して、副生した塩化カリウムを除き、凍結乾燥を行った。なお、ここではポリ−L−オルニチンとして、分子量が3×10のもの(式(I)中のmが153のもの)を使用した(以下、これを「PLO-30K」ともいう)。
凍結乾燥した高分子化合物(カルバモイル化ポリ−L−オルニチン:以下、「CPLO-30K」ともいう)10mgを0.1% NaODを含む重水中に加え、60℃にてH−NMRを測定し、カルバモイル基の導入率(カルバモイル化度)を決定した。H−NMR測定データの一例として、図2に、ポリ−L−オルニチン(PLO-30K)とカルバモイル化ポリ−L−オルニチン(CPLO-30K)のH−NMRスペクトルを示す。カルバモイル化度は、約2.6ppm(カルバモイル化されていないメチレンのプロトンピーク:図2において「δ」として示す) と3.1ppm(カルバモイル化されたメチレンのプロトンピーク:図2において「δ’」として示す)のピークの面積比により、下式に従って算出した。
[数1]
カルバモイル化度(%)=(δ’ / (δ+δ’) ) × 100% 。
その結果を表2に示す。なお、カルバモイル化度をもとにサンプルコードを付けた。
Figure 2012165356
製造例2
ポリアミノ酸として、分子量が3.0×10のポリ−L−オルニチン「PLO-30K」に代えて、分子量が1.5×10のポリ−L−オルニチン(Sigma社製)(式(II)中のmが769のもの;以下、これを「PLO-150K」ともいう)を用いて、これを製造例1と同様に、種々の割合でシアン酸カリウムと反応させて(表2参照)、カルバモイル化ポリ−L−オルニチン(CPLO-150Kシリーズ)を製造した。そして、製造例1に記載する方法で、各カルバモイル化ポリ−L−オルニチンについてカルバモイル化度を求めた。
その結果を表3に示す。
Figure 2012165356
製造例3
ポリアミノ酸としてポリ−DL−オルニチン(Mw = 30,000、Sigma社製)100mgをスクリュー管ビンに入れ、1Mイミダゾール緩衝液(pH7)1mlに溶解し、50℃に加熱し、これにシアン酸カリウムを、上記ポリ−DL−オルニチンのアミノ基に対して1.5等量となるように水に溶解して調製した水溶液を適下して全量を3mlにした。これを50℃で24時間、撹拌した。反応終了後、透析膜(MWCO:3,500)を用いて、室温で水(2回)、1%TFA水溶液(1回)、及び水(2回)に対して透析して、副生した塩化カリウムを除き、凍結乾燥を行った。なお、ここではポリ−DL−オルニチンとして、分子量が3×10のもの(式(I)中のmが153のもの)を使用した。
そして、製造例1に記載する方法で、カルバモイル化ポリ−DL−オルニチン(以下、これを「CPDLO-30K-95」ともいう)についてカルバモイル化度を求めた。
その結果を表4に示す。
Figure 2012165356
実験例1
製造例1において調製したCPLO-30K-93を、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl in water)に1mg/ml濃度になるように溶解した。次いで、かかるCPLO-30K-93溶液を石英セルに入れ、溶液温度を70〜5℃の範囲で変化させ、その間の溶液の500nm波長における透過率(%)を紫外可視分光光度計によって測定した。なお、溶液の透過率%は下式から算出した。
[数2]
透過率(%) = 10 (- 吸光度)
結果を図3に示す。図3から分かるように、CPLO-30K-93は、生理学的低塩濃度の水溶液中で、約18℃(相転移温度)を境界にしてそれよりも低い温度域では不溶化し、それよりも高い温度域では可溶化すること、つまり高温溶解型(上限臨界共溶温度型)の感温性高分子化合物であることが確認された。またこの相転移はシャープで可逆的であった。
また18℃未満の低温条件下で不溶化状態にあるCPLO-30K-93を、10000rpmで3分間遠心分離することでCPLO-30K-93を沈殿させることができた。このことから、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸によれば、例えば、細胞やタンパク質などの生物材料や生理活性物質のように高温で失活または変性する物質を、生理学的な低温条件で活性を維持しながら、分離(バイオセパレーション)、捕捉または濃縮することが可能である。また本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸は上記相転移温度以上にすることで可逆的に可溶化するため、それよりも低い温度条件下で捕捉または濃縮した物質は、その相転移温度以上に加温することで、当該高分子化合物から離脱させて回収することも可能である。すなわち、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸は、バイオセパレーションの材料(分離・濃縮剤)として有効に利用することができる。
実験例2
実験例1と同様に、製造例3で調製したカルバモイル化ポリアミノ酸(CPDLO-30K-95)の相転移温度を調べた。
具体的には、カルバモイル化ポリオルニチン(CPDLO-30K-95)を、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)に、5mg/ml濃度になるように溶解した。次いで、かかる溶液を石英セルに入れ、溶液温度を40℃から5℃までの範囲で、1℃/分の速度で温度を下げながら、500nmにおける吸光度をUV-VIS分光光度計(吸光光度計)で測定し、実験例1と同様にして当該吸光度から透過率%を求めた。
結果を図4に示す。図4に示すように、カルバモイル化度が95%(n=0.95)であるCPDLO-30K-95(5mg/mL)は、生理学的低塩濃度の水溶液中で、約10.3℃(相転移温度)を境界にしてそれよりも低い温度域では不溶化し、それよりも高い温度域では可溶化すること、つまり高温溶解型(上限臨界共溶温度型)の感温性高分子化合物であることが確認された。またこの相転移はシャープで可逆的であった。
この結果からわかるように、ポリ(L−アミノ酸)をカルバモイル化したポリアミノ酸のみならず、ポリ(DL−アミノ酸)をカルバモイル化したポリアミノ酸についても、生理的条件(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)下で、10〜35℃の範囲に相転移温度を有する高温溶解型の挙動を示す。
実験例3
製造例1で調製したカルバモイル化ポリアミノ酸(CPLO-30K-88、CPLO-30K-93)について、相転移温度に対するCPLO-30Kの濃度が及ぼす影響を評価した。
CPLO-30K濃度依存性
各種のCPLO-30K(CPLO-30K-88、CPLO-30K-93)の濃度を0.125〜0.5mg/mLの範囲で変化させながら、相転移温度(℃)を測定した。具体的には、各種のCPLO-30K(CPLO-30K-88、CPLO-30K-93)を、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)に、0.125〜0.5mg/mLの濃度になるように溶解し、かかる溶液を70℃から5℃までの範囲で、1℃/分の速度で温度を下げながら、500nmにおける吸光度をUV-VIS分光光度計(吸光光度計)で測定し、当該吸光度から実験例1の方法に従って透過率%を求めた。0.125〜0.5mg/mL濃度の各種CPLO-30K(CPLO-30K-88、CPLO-30K-93)について得られた透過率に基づいて、透過率100%の状態から降温させて透過率が減少し始める温度を相転移温度として決定した。
結果を図5に示す。図5(A)及び(B)において、横軸は相転移温度(℃)、縦軸は透過率%(波長500nm)を示す。また図5(C)は、CPLO-30K-93に関する結果(図5(B))から、相転移温度(℃)とCPLO-30K-93の濃度との関係を示した図であり、横軸はCPLO-30K-93の濃度(mg/mL)を、縦軸は相転移温度(℃)を示す。この結果から、0.125〜5mg/mL濃度のCPLO-30Kは、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)条件下、各CPLO-30Kの濃度が上昇するに伴い、相転移温度が上昇することがわかる。またこの結果から、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸を有効成分とする感温性分離材によれば、その濃度に応じて相転移温度を調整制御することができることがわかる。
この結果からわかるように、カルバモイル化度が88%以上(n=0.88以上)のCPLO-30K(1mg/mL)は、生理的条件(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)下で、〜35℃の範囲に相転移温度を有する高温溶解型の高分子化合物である。
実験例4
実験例1の結果に基づいて、製造例2で調製した各種のカルバモイル化ポリアミノ酸(CPLO-150K-84, CPLO-150K-93)の相転移温度を調べた。
具体的には、各種のカルバモイル化ポリオルニチン(CPLO-150K-84、CPLO-150K-93)を、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)に、1mg/ml濃度になるように溶解した。次いで、かかる溶液を石英セルに入れ、溶液温度を70℃から5℃までの範囲で、1℃/分の速度で温度を下げながら、500nmにおける吸光度をUV-VIS分光光度計(吸光光度計)で測定し、実験例1と同様にして当該吸光度から透過率%を求めた。
結果を図6に示す。図6に示すように、カルバモイル化度が84%(n=0.84)であるCPLO-150K-84(1mg/mL)は、生理学的低塩濃度の水溶液中で、約12℃(相転移温度)を境界にしてそれよりも低い温度域では不溶化し、それよりも高い温度域では可溶化すること、つまり高温溶解型(上限臨界共溶温度型)の感温性高分子化合物であることが確認された。またこの相転移はシャープで可逆的であった。また、カルバモイル化度が0.93であるCPLO-150K-93(1mg/mL)は、生理学的低塩濃度の水溶液中で、約31℃(相転移温度)を境界にしてそれよりも低い温度域では不溶化し、それよりも高い温度域では可溶化すること、つまり高温溶解型(上限臨界共溶温度型)の感温性高分子化合物であることが確認された。またこの相転移もシャープで可逆的であった。
この結果からわかるように、カルバモイル化度が0.84以上のCPLO-150K(1mg/mL)は、生理的条件(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)下で、10〜35℃の範囲に相転移温度を有する高温溶解型の高分子化合物である。
実験例5
製造例2で調製したカルバモイル化ポリアミノ酸(CPLO-150K-84、CPLO-150K-93)について、相転移温度に対するCPLO-150Kの濃度が及ぼす影響を評価した。
CPLO-150K濃度依存性
各種のCPLO-150K(CPLO-150K-84、CPLO-30K-93)の濃度を0.125〜0.5mg/mLの範囲で変化させながら、相転移温度(℃)を測定した。具体的には、各種のCPLO-150K(CPLO-150K-84、CPLO-150K-93)を、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)に、0.125〜0.5mg/mLの濃度になるように溶解し、かかる溶液を70℃から5℃までの範囲で、1℃/分の速度で温度を下げながら、500nmにおける吸光度をUV-VIS分光光度計(吸光光度計)で測定し、当該吸光度から実験例1の方法に従って透過率%を求めた。0.125〜0.5mg/mL濃度の各種CPLO-150K(CPLO-150K-84、CPLO-30K-93)について得られた透過率に基づいて、透過率100%の状態から降温させて透過率が減少し始める
温度を相転移温度として決定した。
結果を図7に示す。図7(A)及び(B)において、横軸は相転移温度(℃)、縦軸は透過率%(波長500nm)を示す。また図7(C)は、CPLO-150K-84及びCPLO-150K-93に関する結果(図7(A)及び(B))から、相転移温度(℃)とCPLO-150Kの濃度との関係を示した図であり、横軸はCPLO-150Kの濃度(mg/mL)を、縦軸は相転移温度(℃)を示す。この結果から、0.125〜5mg/mL濃度のCPLO-150Kは、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)条件下、各CPLO-150Kの濃度が上昇するに伴い、相転移温度が上昇することがわかる。またこの結果から、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸を有効成分とする感温性分離材によれば、その濃度に応じて相転移温度を調整制御することができることがわかる。
この結果からわかるように、カルバモイル化度が84%以上(n=0.84以上)のCPLO-150K(1mg/mL)は、生理的条件(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)下で、10〜35℃の範囲に相転移温度を有する高温溶解型の高分子化合物である。
さらに図7(C)の結果からわかるように、カルバモイル基の導入率(カルバモイル化度)が多くなるにつれて、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)条件下での相転移温度が高くなることがわかる。つまり、ポリアミノ酸のカルバモイル化度と相転移温度には相関関係があるため、所望の相転移温度を有するカルバモイル化ポリアミノ酸は、ポリアミノ酸に導入するカルバモイル基の数(カルバモイル化度)を適宜調整することによって、作製することができる。
実験例6
製造例2で調製したカルバモイル化ポリアミノ酸(CPLO-150K-93)をプロテアーゼで分解し、生成した分解物について感温性を評価した。
具体的には、CPLO-150K-93を、生理的緩衝液(10mM Hepes-NaOH (pH7.5)+150mM NaCl)に、1mg/mLの濃度になるように溶解し、この中にプロテイナーゼK(Sigma社製)を100μg/mlの割合になるように添加混合した。かかる溶液を37℃で2時間インキュベートし、さらに50℃で10分間インキュベートした。反応終了後、得られた反応液を70℃から5℃までの範囲で、1℃/分の速度で温度を下げながら、500nmにおける透過率(%)をUV-VIS分光光度計(吸光光度計)で測定した。
結果を、分解前のカルバモイル化ポリアミノ酸(CPLO-150K-93)の結果と併せて、図8に示す。図8において、横軸は相転移温度(℃)を、縦軸は500nmにおける透過率(%)を示す。この結果から、カルバモイル化ポリアミノ酸(CPLO-150K-93)のプロテアーゼ分解物も、生理学的に許容される条件の水溶液中で、約20℃(相転移温度)を境界にしてそれよりも低い温度域では不溶化し、それよりも高い温度域では可溶化すること、つまり高温溶解型(上限臨界共溶温度型)の感温性化合物であることが確認された。またカルバモイル化ポリアミノ酸は、分解により分子量が小さくなるに従って、相転移温度が低くなることが確認された。このことは、CPLO-30Kの相転移温度よりも、分子量の大きいCPLO-150Kの相転移温度のほうが高いことと共通している。
以上の結果から、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸は、プロテアーゼで分解される前は高い相転移温度を有し、プロテアーゼで分解された後は相転移温度が低下する。この現象を用いることで、物質の溶解及び溶出を制御することができる。例えば、相転移温度がA℃であるカルバモイル化ポリアミノ酸に、それ未満の温度(B℃)で物質を捕捉させておく(不溶化状態)。次いで当該カルバモイル化ポリアミノ酸がプロテアーゼで分解される条件に置くことで、カルバモイル化ポリアミノ酸が分解されて低分子化され、その結果、相転移温度が低下する(A℃→C℃)。そうすると、その相転移温度(C℃)がB℃よりも低い条件である場合(A℃>B℃>C℃)、低分子化されたカルバモイル化ポリアミノ酸は可溶化し、その可溶化に伴って、当初カルバモイル化ポリアミノ酸に捕捉されていた物質が溶解し、溶出することになる。
このように、本発明のカルバモイル化ポリアミノ酸若しくはその塩、またはこれを有効成分とする感温性分離材によれば、例えば、系の温度を変化できない場合でも、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の濃度やその分子量を変えることで相分離させることができることがわかる。

Claims (9)

  1. 少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(I)で示される、側鎖にカルバモイル基を有するアミノ酸であることを特徴とする、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩:
    Figure 2012165356
    (式中、pは1〜5の整数を意味する。)。
  2. 下記一般式(II)で示される、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩:
    Figure 2012165356
    (式中、Rはアミノ酸の側鎖、pは1〜5の整数、mは10以上の整数、nは0.4≦n≦1を満たす数を、それぞれ意味する。)。
  3. 少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸またはその塩であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(III):
    Figure 2012165356
    (式中、pは1〜5の整数を意味する。)
    で示されるアミノ酸であるポリアミノ酸またはその塩に、
    シアン酸塩を反応させることによって製造される、請求項1または2に記載されるカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩。
  4. 少なくとも10つのアミノ酸が重合してなるポリアミノ酸または塩であって、当該ポリアミノ酸を構成するアミノ酸の全部または少なくとも4割が、下記一般式(III):
    Figure 2012165356
    (式中、pは1〜5の整数を意味する。)
    で示されるアミノ酸であるポリアミノ酸またはその塩に、
    シアン酸塩を反応させる工程を有する、
    請求項1または2に記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の製造方法。
  5. 上記ポリアミノ酸が下記一般式(IV)で示されるポリアミノ酸である、請求項4に記載する製造方法:
    Figure 2012165356
    (式中、Rはアミノ酸の側鎖、pは1〜5の整数、mは10以上の整数、nは0.4≦n≦1を満たす数を、それぞれ意味する。)。
  6. 請求項1または2に記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を有効成分とする、感温性組成物。
  7. 請求項1または2に記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を有効成分とする、感温性分離材。
  8. 下記の工程を有する水性2相分配法:
    (1)被分離物を含む試料及び請求項1または2に記載するカルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩を、生理的に許容される溶液中に共存させる工程、及び
    (2)上記溶液の温度を、カルバモイル化ポリアミノ酸またはその塩の相転移温度より高い温度から低い温度にすることで、上記溶液を相分離させる工程。
  9. さらに下記の(3)の工程、または(3)と(4)の工程を有する、請求項8に記載する水性2相分配法:
    (3)(2)の相分離工程によって相分離された溶液について、被分離物が分配された相を、非分配相から分離し回収する工程、
    (4)上記(3)の工程により分離回収した被分離物分配相から、被分離物を回収する工程。
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