JPWO2012117601A1 - 炭素含有率取得装置および炭素含有率取得方法 - Google Patents
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Abstract
炭素含有率取得装置(1)では、所定のパラメータ群の値と、炭素含有率とを関連付ける参照情報が予め生成されて記憶される。ガラス基板9上に形成されたSiC膜に対して、分光エリプソメータ(3)にて測定を行うことにより測定スペクトルが取得され、コンピュータ(6)において当該測定スペクトルから当該パラメータ群の値が求められる。そして、パラメータ群の値および参照情報に基づいて、SiC膜の炭素含有率の値が精度良く求められる。
Description
本発明は、対象物上に形成されたSiC膜中に含まれる炭素の含有率を取得する技術に関する。
近年、地球環境問題への注目の高まりにより、クリーンな太陽光を利用する太陽電池の開発が行われており、特に、大面積化および低コスト化が可能な薄膜シリコン太陽電池が次世代の太陽電池として注目されている。薄膜シリコン太陽電池の製造では、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等によりガラス基板上にアモルファスシリコン膜(以下、単に「シリコン膜」という。)が形成される。特開平11−157991号公報では、基板上にダイヤモンド薄膜を形成するプラズマCVD装置が開示されている。
このようなシリコン膜の1つであるアモルファスシリコンカーバイド膜(以下、単に「SiC膜」という。)は、光透過率が高く、吸収ロスが少ないため、薄膜シリコン太陽電池の光入射側であるp層として利用され、薄膜シリコン太陽電池の変換効率に大きな影響を与える。SiC膜の光学特性は、膜の炭素含有率により大きく変化する。したがって、SiC膜中の炭素含有率を測定することが、薄膜シリコン太陽電池の品質管理において極めて重要となる。
被測定物の炭素含有率を非破壊にて測定する方法としては、X線光電子分光分析や全反射赤外分光測定により取得した被測定物のスペクトルに基づいて炭素含有率を求める方法が知られている。しかしながら、これらの測定に使用される装置は大型で測定点の移動が容易ではないため、大面積の被測定物の各部位を順次測定することには適していない。また、これらの測定方法では、多層膜の測定を行うことはできない。
本発明は、対象物上に形成されたSiC膜中に含まれる炭素の含有率を取得する炭素含有率取得装置に向けられており、分光エリプソメータを用いてSiC膜中の炭素含有率を精度良く求めることを目的としている。
本発明に係る炭素含有率取得装置は、分光エリプソメータと、所定のパラメータ群の値と、炭素の含有率とを関連付ける参照情報を記憶する記憶部と、前記分光エリプソメータにて対象物上のSiC膜に対して測定を行うことにより取得された測定スペクトルから前記パラメータ群の値を求め、前記パラメータ群の前記値および前記参照情報に基づいて、炭素の含有率を求める含有率演算部とを備える。炭素含有率取得装置では、分光エリプソメータを用いてSiC膜中の炭素含有率を精度良く求めることができる。
好ましくは、前記パラメータ群が、基準となるシリコン膜またはSiC膜の誘電関数における虚部のピーク値である参照ピーク値と、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値との差であるピーク値シフト量を含む。より好ましくは、前記含有率演算部が、炭素の存在に起因してSiC膜中に生じると仮定したボイドの体積分率をパラメータとして含む有効媒質理論を用いつつ、前記対象物上のSiC膜における前記ピーク値シフト量の値を求める。
また、好ましくは、前記パラメータ群が、基準となるシリコン膜またはSiC膜の誘電関数における虚部のピーク値である参照ピーク値に対応する振動数と、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数の虚部のピークにおける振動数との差であるピーク位置シフト量を含む。
他の好ましい実施の形態では、前記パラメータ群の値が、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値およびピークにおける振動数を含む。
本発明は、また、対象物上に形成されたSiC膜中に含まれる炭素の含有率を取得する炭素含有率取得方法にも向けられている。前記炭素含有率取得方法は、a)所定のパラメータ群の値と、炭素の含有率とを関連付ける参照情報を準備する工程と、b)分光エリプソメータにて対象物上のSiC膜に対して測定を行うことにより測定スペクトルを取得し、前記測定スペクトルから前記パラメータ群の値を求める工程と、c)前記パラメータ群の前記値および前記参照情報に基づいて、炭素の含有率を求める工程とを備える。
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
図1は、本発明の一の実施の形態に係る炭素含有率取得装置1を示す斜視図である。炭素含有率取得装置1は、対象物である薄膜シリコン太陽電池用のガラス基板9上に形成されたアモルファスシリコンカーバイド膜(以下、「SiC膜」という。)中に含まれる炭素の含有率を取得する装置である。ガラス基板9のサイズは、例えば1〜2m(メートル)角である。
炭素含有率取得装置1は、ガラス基板9上を撮像する撮像部2、後述の測定スペクトルを取得するための分光エリプソメータ3、図1中のY方向に移動可能なY方向移動部41、図1中のX方向に移動可能なX方向移動部42、並びに、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等により構成されたコンピュータ6を備え、コンピュータ6は炭素含有率取得装置1の各構成を制御する制御部としての役割を果たす。X方向移動部42はY方向移動部41上に設けられ、X方向移動部42には、撮像部2および分光エリプソメータ3が固定される。炭素含有率取得装置1では、分光エリプソメータ3による光の照射位置をガラス基板9上の各位置に自在に配置することが可能となっている。
分光エリプソメータ3は、ガラス基板9の上方(図1中の(+Z)側)に配置される照明部31および受光部32を備え、照明部31からガラス基板9に向けて偏光した白色光が照射され、受光部32にてガラス基板9からの反射光が受光される。受光部32は、反射光が入射する検光子および反射光の分光強度を取得する分光器を有し、検光子の回転位置、および、分光器により取得された反射光の分光強度がコンピュータ6へと出力される。コンピュータ6では、複数の振動数(または、波長)の光のそれぞれの偏光状態として、p偏光成分とs偏光成分との位相差および反射振幅比角が求められる。すなわち、位相差および反射振幅比角の振動数スペクトル(以下、「測定スペクトル」と総称する。)が取得される。
図2は、コンピュータ6の構成を示す図である。コンピュータ6は、各種演算処理を行うCPU61、基本プログラムを記憶するROM62および各種情報を記憶するRAM63をバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムの構成となっている。バスラインにはさらに、情報記憶を行う固定ディスク65、各種情報の表示を行うディスプレイ66、操作者からの入力を受け付けるキーボード67aおよびマウス67b、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体60から情報の読み取りを行ったり記録媒体60に情報の書き込みを行う読取/書込装置68、並びに、外部との通信を行う通信部69が、適宜、インターフェイス(I/F)を介する等して接続される。
コンピュータ6には、事前に読取/書込装置68を介して記録媒体60からプログラム600が読み出され、固定ディスク65に記憶される。そして、プログラム600がRAM63にコピーされるとともにCPU61がRAM63内のプログラム600に従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)、コンピュータ6が、後述の演算部としての処理を行う。
図3は、CPU61がプログラム600に従って動作することにより、CPU61、ROM62、RAM63、固定ディスク65等が実現する機能構成を示すブロック図である。図3において、演算部7の含有率演算部71および参照情報生成部73がCPU61等により実現される機能であり、記憶部72が固定ディスク65等により実現される機能である。なお、演算部7の機能は専用の電気的回路により実現されてもよく、部分的に電気的回路が用いられてもよい。
次に、炭素含有率取得装置1における炭素含有率の測定原理について述べる。ここでは、CVD工程において、原料ガスであるモノシラン(SiH4)の流量とメタン(CH4)の流量との割合を変更しつつ、複数のシリコン基板上にSiC膜を順次形成することにより、炭素含有率が異なる複数のSiC膜が準備されているものとする。表1は、CH4の流量比zと、シリコン基板上のSiC膜中に含まれる炭素の含有率との関係を示す。流量比zは、CVD工程におけるCH4の流量を、SiH4とCH4との合計流量で割った値である。
表1に示すように、流量比zが最も低いSiC膜(z=0.0、すなわち、シリコン膜)にて炭素の含有率が最小となり、流量比zが最も高いSiC膜(z=0.6)にて炭素の含有率が最大となる。以下の説明では、便宜上、シリコン膜である場合を含めてSiC膜と総称する。
図4および図5は、上記の複数のSiC膜の誘電関数を示す図である。誘電関数εは、実部であるε1と虚部であるε2とを含む複素関数にて表現され(すなわち、虚数単位をiとして(ε=ε1+iε2))、図4の縦軸は誘電関数の虚部ε2を示し、横軸は振動数に対応する光子エネルギーを示している。また、図5の縦軸は誘電関数の実部ε1を示し、横軸は振動数に対応する光子エネルギーを示している。図4および図5では、各SiC膜の誘電関数の虚部ε2および実部ε1を示す線に、当該SiC膜の形成時における流量比zの値を付している。なお、図4および図5の誘電関数は、分光エリプソメータ3にて取得された測定スペクトルから抽出されたものであり、後述するTauc−Lorentzモデルを用いることなく求めたものである。
図4に示すように、上記の複数のSiC膜の誘電関数は互いに相違しており、虚部ε2がピークとなる振動数近傍にて、虚部ε2の値の相違が顕著となっている。また、図5に示すように、実部ε1がピークとなる振動数近傍にて、実部ε1の値の相違が顕著となっている。この相違は、SiC膜の炭素含有率の相違に依存すると考えられ、本実施の形態では、複数のSiC膜における虚部ε2のピーク値の相違、および、ピークにおける光子エネルギー(または、振動数)の相違に着目する。
具体的には、炭素含有率取得装置1における炭素含有率の測定では、炭素含有率が最小となるSiC膜、すなわち、表1中の流量比zが0.0のシリコン膜を基準となる基準SiC膜とする。そして、基準SiC膜の誘電関数における虚部ε2のピーク値(以下、「参照ピーク値」という。)と、他の各SiC膜(以下、「サンプルSiC膜」という。)の誘電関数における虚部ε2のピーク値との差を、注目すべきパラメータの1つとして捉える(以下、当該差を「ピーク値シフト量」という。)。図4では成膜時の流量比zが0.6のサンプルSiC膜におけるピーク値シフト量の値を符号A1を付す矢印の長さにて示している。
また、基準SiC膜の参照ピーク値に対応する振動数(または、光子エネルギー)と、各サンプルSiC膜の誘電関数の虚部ε2のピークにおける振動数との差も注目すべきパラメータの他の1つとして捉える(以下、当該差を「ピーク位置シフト量」という。)。図4では成膜時の流量比zが0.6のサンプルSiC膜におけるピーク位置シフト量に相当する値を符号B1を付す矢印の長さにて示している。
一方で、SiC膜では、シリコン原子と炭素原子との結合や、CH2構造やCH3構造の挿入により、炭素を含有しないアモルファスシリコン膜よりもアモルファス構造の歪が大きく、SiC膜の炭素含有率が増大するに従って、アモルファス構造の歪も増大する。SiC膜におけるアモルファス構造の歪みの増大は、SiC膜中のボイドの増大と解釈することができる。したがって、炭素の存在に起因してサンプルSiC膜中に生じると仮定したボイドの体積分率をfaSiC、炭素の含有率が最小となる基準SiC膜の誘電関数をεref、真空の誘電関数をεbとして、サンプルSiC膜の誘電関数εhは、有効媒質近似により数1を満たすとものと考える。
数1中のfaSiCは、基準SiC膜における炭素の存在に起因すると仮定したボイドの体積分率と、サンプルSiC膜における炭素の存在に起因すると仮定したボイドの体積分率との差と捉えられてもよい。
炭素含有率取得装置1では、事前処理として、数1を用いつつ炭素の含有率とピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値との関係(すなわち、図3の参照情報721)を導き、ガラス基板9上のSiC膜の測定の際に、数1を用いつつ当該SiC膜におけるピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値を特定することにより、当該SiC膜中に含まれる炭素の含有率を精度良く取得することが可能となる。以下、参照情報721の生成、および、ガラス基板9上のSiC膜に対する測定について順に詳述する。
なお、各サンプルSiC膜におけるピーク値シフト量は、炭素に依存するボイドの存在(または、基準SiC膜と比較した場合におけるボイドの体積分率の増大)によって生じる、基準SiC膜の誘電関数からの誘電率の変化であると考えられる。また、炭素含有率が相違することによりSiC膜のバンドギャップは変化するため(すなわち、炭素含有率の増加により光子エネルギーが変化するため)、ピーク位置シフト量は、炭素自体に起因すると考えられる。
図6は、事前処理である参照情報721を生成する処理の流れを示す図である。参照情報721を生成する際には、まず、成膜条件を変更しつつCVD法にて複数のシリコン基板上にSiC膜が形成される(ステップS11)。本実施の形態では、上記説明のように、CVD工程におけるCH4の流量比zを0.0、0.1、0.2、0.4および0.6に設定して、複数のシリコン基板上にSiC膜が順次形成される。CVD法にて形成されるSiC膜は非晶質となっている。なお、SiC膜には、微細な結晶シリコンカーバイドが含まれていてもよい。
続いて、各シリコン基板上のSiC膜中に含まれる炭素の含有率が、既述の表1に示すようにX線光電子分光分析装置により取得され、図3の参照情報生成部73に入力される(ステップS12)。CVD工程におけるCH4の流量比zを複数通りに変更して作製される複数のSiC膜では、炭素の含有率が互いに相違している。本処理においても、表1中の流量比zが0.0であるシリコン膜を基準SiC膜と呼び、他のSiC膜をサンプルSiC膜と呼ぶ。上記ステップS11,S12の処理により、炭素含有率が既知であり、基準となる基準SiC膜と、炭素含有率が既知である他の複数のサンプルSiC膜とが準備される。なお、炭素含有率が互いに相違する複数のSiC膜は、CH4の流量比z以外の条件(例えば、成膜時の温度や他のガスの流量、プラズマを発生させるための電圧)を変更することにより作製されてもよい。また、ステップS12における炭素含有率の取得は、全反射赤外分光測定装置等、X線光電子分光分析装置以外の装置により行われてもよい。
複数のSiC膜が準備されると、図1の分光エリプソメータ3では、各SiC膜の所定位置(例えば、中央)に対して偏光した白色光が照射されるとともに当該SiC膜からの反射光が受光されて測定が行われ、演算部7において測定スペクトルが取得される。本実施の形態では、Tauc−Lorentzモデルを用いた理論上の位相差および反射振幅比角の振動数スペクトルが、測定スペクトルに最も近くなるように、Tauc−Lorentzモデルにおける誘電関数および膜厚が所定の数値範囲内にてフィッティングされる。これにより、各SiC膜の誘電関数および膜厚が決定される(ステップS13)。もちろん、Tauc−Lorentzモデル以外のモデルが用いられてもよい。
続いて、参照情報生成部73では、上記ステップS13の処理にて取得された各サンプルSiC膜の誘電関数、および、基準SiC膜の誘電関数εref(以下、「基準誘電関数εref」という。)を用いて、上記の数1(以下、「有効媒質理論式」という。)におけるボイドの体積分率faSiCの値および真空の誘電関数εbが決定される。このとき、有効媒質理論式における誘電関数εhの虚部が、基準誘電関数εrefの虚部をピーク値シフト量Aだけ誘電率の方向(図4中の縦軸方向)に移動し、ピーク位置シフト量Bだけ振動数の方向(図4中の横軸方向)に移動したものとして表される。また、クラマース・クローニッヒの関係式により誘電関数εhの実部も、基準誘電関数εref、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bを用いて表される。そして、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bを用いて表されるとともに有効媒質理論式を満たす誘電関数εhが、取得されたサンプルSiC膜の誘電関数に最も近くなるようにフィッティングが行われ、ボイドの体積分率faSiC、真空の誘電関数εb、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bが求められる。
このように、複数のサンプルSiC膜のそれぞれに関して、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bをパラメータとして含む有効媒質理論(本実施の形態では、有効媒質近似)を用いて表される誘電関数と、Tauc−Lorentzモデルを用いて取得された誘電関数とを比較することにより、サンプルSiC膜における体積分率faSiC、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bの値が決定される(ステップS14)。なお、真空の誘電関数εbは、全てのサンプルSiC膜で同じとなり、全てのサンプルSiC膜におけるフィッティングの度合いが高くなるように決定される。
参照情報生成部73では、複数のサンプルSiC膜におけるピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bの値、並びに、ステップS12の処理にて取得される炭素含有率から、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bと炭素含有率とを関連付ける参照情報721(本実施の形態では、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bを変数として炭素含有率を表す関数)が生成される(ステップS15)。参照情報721は記憶部72にて記憶され、後述する未知のSiC膜に対する測定のために準備される。事前処理では、炭素含有率と体積分率faSiCとの関係も取得され、参照情報721に含められてもよい。
図7は、ガラス基板9上のSiC膜中に含まれる炭素の含有率を取得する処理の流れを示す図である。炭素含有率取得装置1では、炭素含有率が未知のSiC膜が設けられたガラス基板9が搬入されると、分光エリプソメータ3にてガラス基板9上のSiC膜の所定位置に対して測定を行うことにより測定スペクトルが取得される(ステップS21)。
図3の含有率演算部71では、有効媒質理論式における誘電関数εhの虚部が、基準誘電関数εrefの虚部をピーク値シフト量Aだけ誘電率の方向(図4中の縦軸方向)に移動し、ピーク位置シフト量Bだけ振動数の方向(図4中の横軸方向)に移動したものとして表される。また、クラマース・クローニッヒの関係式により誘電関数εhの実部もピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bを用いて表される。そして、有効媒質理論式における誘電関数εhを表すピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bの値、有効媒質理論式における体積分率faSiCの値、並びに、SiC膜の膜厚dの値を複数通りに変更しつつ、これらの値から得られる理論スペクトル(すなわち、位相差および反射振幅比角の理論上の振動数スペクトル)が測定スペクトルに最も近くなるようにフィッティングが行われる。これにより、フィッティングパラメータである体積分率faSiC、ピーク値シフト量A、ピーク位置シフト量BおよびSiC膜の膜厚dの値が決定される(ステップS22)。既述のように、有効媒質理論式における誘電関数εbは図6の処理にて求められている。
上記フィッティング処理は、基準誘電関数εrefの虚部を図4中の縦軸方向および横軸方向にピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bだけシフトすることにより表される誘電関数εhを、測定スペクトルから導かれた誘電関数に合わせ込む処理と捉えることができる。したがって、ピーク値シフト量Aは、基準SiC膜の誘電関数の参照ピーク値(虚部のピーク値)と、測定スペクトルから導かれる誘電関数(すなわち、測定スペクトルから導かれることが可能な誘電関数)における虚部のピーク値との差であり、ピーク位置シフト量Bは、当該参照ピーク値に対応する振動数と、測定スペクトルから導かれる誘電関数の虚部のピークにおける振動数との差であるといえる。
既述のように参照情報721には、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bを変数として炭素含有率を表す関数が含まれており、測定スペクトルから求められたピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bの値を当該関数に代入することにより、炭素含有率の値が決定される。すなわち、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bの値、並びに、参照情報721に基づいて炭素含有率の値が求められる(ステップS23)。また、基準誘電関数εref、並びに、ピーク値シフト量Aおよびピーク位置シフト量Bの値から、ガラス基板9上のSiC膜の誘電関数も求められる。
図8は、上記シリコン基板上のSiC膜の誘電関数を示す図である。図8中の符号L1を付す実線は炭素含有率取得装置1にて有効媒質理論式を用いて求められる誘電関数を示し、図8中の符号L2を付す複数の円は分光エリプソメータ3にて取得された測定スペクトルから抽出される誘電関数(有効媒質理論式を用いることなく導かれる誘電関数)を示す。また、図8中の左側の山は誘電関数の実部ε1を示し、右側の山は虚部ε2を示す。図8から、炭素含有率取得装置1にて有効媒質理論式を用いて求められる誘電関数は、測定スペクトルから抽出される誘電関数とよく一致しており、適切な誘電関数が求められることが判る。また、炭素含有率取得装置1により取得される炭素含有率は、X線光電子分光分析装置により取得される炭素含有率とほぼ一致している。
以上に説明したように、炭素含有率取得装置1では、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量を含むパラメータ群の値と、炭素含有率とを関連付ける参照情報721が記憶される。また、分光エリプソメータ3にてガラス基板9上のSiC膜に対して測定を行うことにより測定スペクトルが取得される。そして、当該測定スペクトルから当該パラメータ群の値が求められ、当該パラメータ群の値および参照情報721に基づいて、炭素含有率の値が求められる。このように、炭素含有率取得装置1では分光エリプソメータ3を用いてSiC膜中の炭素含有率を精度良く求めることができる。
含有率演算部71では、炭素の存在に起因してSiC膜中に生じると仮定したボイドの体積分率をパラメータとして含む有効媒質理論を用いることにより、SiC膜におけるピーク値シフト量の値を容易に、かつ、精度良く求めることができる。
ところで、X線光電子分光分析装置や全反射赤外分光測定装置を用いてSiC膜中の炭素含有率を測定する場合、基板上に形成される膜が多層膜であると、炭素含有率の測定が困難となる。また、これらの装置は大型であるため、当該装置を移動して基板上の広範囲に亘って測定を行うことが困難であり、基板上の各部位に対して測定を行うには、当該部位を切り出して装置にセットする必要がある。さらに、全反射赤外分光測定装置では、SiC膜がガラス基板上に形成されている場合、ガラス基板における赤外線の吸収により炭素含有率を精度良く測定することが困難となる。
これに対し、図1の炭素含有率取得装置1では、分光エリプソメータ3を用いてSiC膜中の炭素含有率を取得するため、SiC膜がガラス基板上に形成される場合であっても精度良く測定を行うことができる。また、基板上に形成される膜が多層膜であっても、いずれかの層であるSiC膜におけるピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値をフィッティングにて求めることにより、炭素含有率を取得することができる。さらに、分光エリプソメータ3はX線光電子分光分析装置や全反射赤外分光測定装置に比べて小型であるため、分光エリプソメータ3を移動して(基板を切り出すことなく)基板上の広範囲に亘って測定を行うことが容易に可能となる。このように、炭素含有率取得装置1における炭素含有率の測定では、SiC膜が形成される対象物の種類や大きさの制約を受けることがなく、また、SiC膜が多層膜の一部である場合であっても、炭素含有率の測定が可能となる。さらに、炭素含有率取得装置1では、SiC膜の厚さや光学定数等も炭素含有率と同時に取得可能である。
炭素含有率取得装置1では、参照情報721として炭素含有率に関連付けられるパラメータ群は、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の一方を含み、他方を含まなくてもよい。この場合であっても、SiC膜中の炭素含有率を精度良く求めることができる。ただし、SiC膜中の炭素含有率をより精度良く求めるという観点からは、上記パラメータ群は、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の双方を含むことが好ましい。
次に、炭素含有率取得装置1における他の処理例について述べる。本処理例における事前処理では、図6のステップS13において基準SiC膜および他の複数のサンプルSiC膜に対してTauc−Lorentzモデルを用いて誘電関数が取得されると、基準SiC膜の誘電関数の虚部のピーク値である参照ピーク値と、各サンプルSiC膜の誘電関数の虚部のピーク値との差がピーク値シフト量の値として求められ、当該参照ピーク値に対応する振動数と、サンプルSiC膜の誘電関数の虚部のピークにおける振動数との差がピーク位置シフト量の値として求められる(ステップS14)。すなわち、有効媒質理論式を用いることなく、各サンプルSiC膜におけるピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値が求められる。そして、上記処理例と同様にして、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値と、炭素含有率とを関連付ける参照情報が生成される(ステップS15)。
次に、ガラス基板9上のSiC膜を測定する際には、分光エリプソメータ3にて当該SiC膜に対して測定を行うことにより測定スペクトルが取得される(図7:ステップS21)。続いて、測定スペクトルからTauc−Lorentzモデルを用いて誘電関数(すなわち、ガラス基板9上のSiC膜の誘電関数)が取得され、基準SiC膜の参照ピーク値と、当該誘電関数の虚部のピーク値との差がピーク値シフト量の値として求められ、当該参照ピーク値に対応する振動数と、当該誘電関数の虚部のピークにおける振動数との差がピーク位置シフト量の値として求められる(ステップS22)。そして、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量値、並びに、参照情報に基づいて炭素含有率が特定される(ステップS23)。このように、本処理例では、有効媒質理論式を用いることなく、SiC膜中の炭素含有率が求められる。
また、炭素含有率取得装置1では、各サンプルSiC膜の誘電関数の虚部のピーク値、および、虚部のピークにおける振動数と、炭素含有率とを関連付ける参照情報が準備される。そして、炭素含有率を測定する際に、ガラス基板9上のSiC膜を分光エリプソメータ3にて測定することにより取得される誘電関数の虚部のピーク値、および、虚部のピークにおける振動数、並びに、当該参照情報に基づいて炭素含有率が求められてもよい。
このように、炭素含有率取得装置1では、炭素含有率を取得する際に求められるパラメータ群の値が、測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値およびピークにおける振動数を含む場合であっても、一定の精度にて炭素含有率を取得することが可能となる。ただし、SiC膜中の炭素含有率をより精度良く求めるには、上記処理例のように、有効媒質理論式を用いつつSiC膜におけるピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値が求められることが好ましい。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
上記実施の形態では、炭素含有率が0.0であるシリコン膜が基準SiC膜とされるが、炭素含有率が0.0よりも大きいSiC膜が基準SiC膜とされてもよい。図6のステップS15では、基準SiC膜とサンプルSiC膜との間における炭素含有率の差を、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量を変数として表す関数が、参照情報として取得されてもよい。この場合、図7のステップS23では、ガラス基板9上のSiC膜におけるピーク値シフト量およびピーク位置シフト量の値から求められた上記炭素含有率の差に、基準SiC膜における炭素含有率を加算することにより、ガラス基板9上のSiC膜の炭素含有率が算出される。実質的には、このような関数も、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量を変数として炭素含有率を示すものであるといえる。
また、上記実施の形態では、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量を含むパラメータ群の値と、炭素含有率とを関連付ける参照情報721が記憶されるが、パラメータ群は、ピーク値シフト量およびピーク位置シフト量を含まないものであってもよく、パラメータ群に含まれるパラメータは複数であっても単数であってもよい。例えば、パラメータ群は、ピーク値シフト量のみを含むものであってもよい。
炭素含有率取得装置1では、ガラス基板9以外の太陽電池用の基板や、プラスチックフィルム等、様々な対象物上に形成されたSiC膜中の炭素含有率を取得することが可能である。また、SiC膜は、CVD法以外の手法にて形成されたものであってよい。
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
1 炭素含有率取得装置
3 分光エリプソメータ
9 ガラス基板
71 含有率演算部
72 記憶部
721 参照情報
S11〜S15,S21〜S23 ステップ
3 分光エリプソメータ
9 ガラス基板
71 含有率演算部
72 記憶部
721 参照情報
S11〜S15,S21〜S23 ステップ
Claims (12)
- 対象物(9)上に形成されたSiC膜中に含まれる炭素の含有率を取得する炭素含有率取得装置(1)であって、
分光エリプソメータ(3)と、
所定のパラメータ群の値と、炭素の含有率とを関連付ける参照情報を記憶する記憶部(72)と、
前記分光エリプソメータ(3)にて対象物(9)上のSiC膜に対して測定を行うことにより取得された測定スペクトルから前記パラメータ群の値を求め、前記パラメータ群の前記値および前記参照情報に基づいて、炭素の含有率を求める含有率演算部(71)と、
を備える。 - 請求項1に記載の炭素含有率取得装置(1)であって、
前記パラメータ群が、基準となるシリコン膜またはSiC膜の誘電関数における虚部のピーク値である参照ピーク値と、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値との差であるピーク値シフト量を含む。 - 請求項1または2に記載の炭素含有率取得装置(1)であって、
前記パラメータ群が、基準となるシリコン膜またはSiC膜の誘電関数における虚部のピーク値である参照ピーク値に対応する振動数と、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数の虚部のピークにおける振動数との差であるピーク位置シフト量を含む。 - 請求項2に記載の炭素含有率取得装置(1)であって、
前記含有率演算部(71)が、炭素の存在に起因してSiC膜中に生じると仮定したボイドの体積分率をパラメータとして含む有効媒質理論を用いつつ、前記対象物(9)上のSiC膜における前記ピーク値シフト量の値を求める。 - 請求項1に記載の炭素含有率取得装置(1)であって、
前記パラメータ群の値が、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値およびピークにおける振動数を含む。 - 請求項1ないし5のいずれかに記載の炭素含有率取得装置(1)であって、
前記対象物(9)が、太陽電池用の基板である。 - 対象物(9)上に形成されたSiC膜中に含まれる炭素の含有率を取得する炭素含有率取得方法であって、
a)所定のパラメータ群の値と、炭素の含有率とを関連付ける参照情報を準備する工程と、
b)分光エリプソメータ(3)にて対象物(9)上のSiC膜に対して測定を行うことにより測定スペクトルを取得し、前記測定スペクトルから前記パラメータ群の値を求める工程と、
c)前記パラメータ群の前記値および前記参照情報に基づいて、炭素の含有率を求める工程と、
を備える。 - 請求項7に記載の炭素含有率取得方法であって、
前記パラメータ群が、基準となるシリコン膜またはSiC膜の誘電関数における虚部のピーク値である参照ピーク値と、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値との差であるピーク値シフト量を含む。 - 請求項7または8に記載の炭素含有率取得方法であって、
前記パラメータ群が、基準となるシリコン膜またはSiC膜の誘電関数における虚部のピーク値である参照ピーク値に対応する振動数と、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数の虚部のピークにおける振動数との差であるピーク位置シフト量を含む。 - 請求項8に記載の炭素含有率取得方法であって、
前記b)工程において、炭素の存在に起因してSiC膜中に生じると仮定したボイドの体積分率をパラメータとして含む有効媒質理論を用いつつ、前記対象物(9)上のSiC膜における前記ピーク値シフト量の値が求められる。 - 請求項7に記載の炭素含有率取得方法であって、
前記パラメータ群の値が、前記測定スペクトルから導かれる誘電関数における虚部のピーク値およびピークにおける振動数を含む。 - 請求項7ないし11のいずれかに記載の炭素含有率取得方法であって、
前記対象物(9)が、太陽電池用の基板である。
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