以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1およびその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3およびその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
また、上記燃料添加弁26は、後述するECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75およびDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75およびDPNR触媒76について説明する。
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3およびその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
このピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16および排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16および排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52およびコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105および出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、および、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40などが接続されている。一方、出力インターフェース106には、上記インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、および、EGRバルブ81などが接続されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサの出力に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。例えば、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、上記ROM102に予め記憶されたEGRマップに従って設定される。具体的に、このEGRマップは、エンジン回転数及びエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップであって、排気系へのNOx排出量を低減できるEGR量を設定するためのものである。尚、このEGRマップは、予め実験やシミュレーション等によって作成されたものとなっている。つまり、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されたエンジン回転数及びスロットル開度センサ42によって検出されたスロットルバルブ62の開度(エンジン負荷に相当)とをEGRマップに当て嵌めることでEGR量(EGRバルブ81の開度)が得られるようになっている。
さらに、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、後述するパイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射(主噴射)、アフタ噴射、ポスト噴射を実行する。尚、本実施形態では、これら噴射形態の他に、セパレート噴射も必要に応じて実行されることになるが、このセパレート噴射については後述する。
−燃料噴射形態−
以下、本実施形態における上記パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、ポスト噴射の各動作の概略について説明する。
(パイロット噴射)
パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する噴射動作である。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。即ち、この実施形態におけるパイロット噴射の機能は、気筒内の予熱に特化したものとなっている。言い換えれば、この実施形態におけるパイロット噴射は、燃焼室3内でのガスの予熱を行うための噴射動作(予熱用燃料の供給動作)となっている。
具体的には、噴霧の分配や局所濃度の適正化を図るために、パイロット噴射の1回当たりの噴射量をインジェクタ23の最小限界噴射量(例えば1.5mm3)とし、噴射回数を設定することで必要な総パイロット噴射量を確保するようにしている。このようにして分割噴射されるパイロット噴射のインターバルは、インジェクタ23の応答性(開閉動作の速さ)によって決定される。このインターバルは、例えば200μsに設定される。また、パイロット噴射の噴射開始タイミングとしては、例えばクランク角度で、ピストン13の圧縮上死点前(BTDC)80°以降に設定される。尚、パイロット噴射の1回当たりの噴射量や、インターバル、噴射開始タイミングは、上記値に限定されるものではない。
(プレ噴射)
プレ噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する噴射動作である。プレ噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるプレ噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。
具体的に、本実施形態では、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための総燃料噴射量(プレ噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)に対して例えば10%としてプレ噴射量が設定される。この総燃料噴射量に対するプレ噴射量の比率は、気筒内を予熱する際に必要となる熱量等に応じて設定される。尚、後述するように、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼に起因するスモークを発生させないことを目的として上記総燃料噴射量が制限された場合には、この制限された総燃料噴射量に対し、例えば10%としてプレ噴射量が設定されることになる。
上記総燃料噴射量が15mm3未満であった場合には、プレ噴射での噴射量が、インジェクタ23の最小限界噴射量(1.5mm3)未満となるため、プレ噴射は実行しないことになる。尚、この場合、インジェクタ23の最小限界噴射量(1.5mm3)だけプレ噴射での燃料噴射を行うようにしてもよい。一方、プレ噴射の噴射総量としてインジェクタ23の最小限界噴射量の2倍以上(例えば3mm3以上)が要求される場合には、複数回数のプレ噴射を実行することで、このプレ噴射で必要な総噴射量を確保するようにしている。これにより、プレ噴射の着火遅れを抑制し、メイン噴射による初期燃焼速度の抑制を確実に行って、安定した拡散燃焼に導くことができる。
(逐次燃焼について)
以上のようにして本実施形態では、パイロット噴射およびプレ噴射によって気筒内の予熱が十分に行われる。この予熱により、後述するメイン噴射が開始された場合、このメイン噴射で噴射された燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼が開始されることになる。
具体的に、ディーゼルエンジンにおける燃料の着火遅れとしては、物理的遅れと化学的遅れとがある。物理的遅れは、燃料液滴の蒸発・混合に要する時間であり、燃焼場のガス温度に左右される。一方、化学的遅れは、燃料蒸気の化学的結合・分解かつ酸化発熱に要する時間である。そして、上述した如く気筒内の予熱が十分になされている状況では上記物理的遅れを最小限に抑えることができ、その結果、着火遅れも最小限に抑えられることになる。
従って、メイン噴射によって噴射された燃料の燃焼形態としては、予混合燃焼が殆ど行われないことになる。その結果、燃料噴射タイミングを制御することがそのまま燃焼タイミングを制御することに略等しくなり、燃焼の制御性を大幅に改善することができる。つまり、これまで、ディーゼルエンジンの燃焼は、その予混合燃焼がかなりの割合を占めていたが、本実施形態では、この予混合燃焼の割合を最小限に抑えることで、燃料噴射タイミングおよび燃料噴射量を制御する(噴射率波形を制御する)ことによる熱発生率波形(着火時期および熱発生量)の制御によって燃焼の制御性を大幅に改善することが可能になる。本実施形態では、この新たな方式の燃焼形態を「逐次燃焼(燃料が噴射されて直ちに開始される燃焼)」または「制御燃焼(燃料噴射タイミングおよび燃料噴射量によって能動的に制御される燃焼)」と呼ぶこととする。
(メイン噴射)
メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。本実施形態では、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための上記総燃料噴射量から上記プレ噴射での噴射量を減算した噴射量として設定される。尚、このメイン噴射は、後述するように、このメイン噴射で噴射された燃料の燃焼に起因するスモークを発生させないことを目的として、その噴射量が制限されることもある。
ここで、上述したプレ噴射およびメイン噴射の制御プロセス(上記噴射量制限がなされない場合の制御プロセス)について簡単に説明する。
まず、エンジン1のトルク要求値に対して、上記プレ噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和である総燃料噴射量が算出される。つまり、エンジン1に要求されるトルクを発生させるための量として総燃料噴射量が算出される。
上記エンジン1のトルク要求値は、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態、補機類等の使用状況に応じて決定される。例えば、エンジン回転数(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られる。
このようにして総燃料噴射量が算出された後、この総燃料噴射量に対するプレ噴射での噴射量の比率(分割率)を設定する。つまり、プレ噴射量は、総燃料噴射量に対して上記分割率で分割された量として設定されることになる。この分割率(プレ噴射量)は、「メイン噴射による燃料の着火遅れの抑制」と「メイン噴射による燃焼の熱発生率のピーク値の抑制」とを両立する値として求められる。これらを抑制することで、高いエンジントルクを確保しながらも、燃焼音の低減やNOx発生量の低減を図ることが可能になる。尚、本実施形態では、上記分割率を10%としている。
(アフタ噴射)
アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的に、本実施形態では、このアフタ噴射により供給された燃料の燃焼エネルギがエンジンのトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射を実行するようにしている。また、このアフタ噴射においても、上述したパイロット噴射の場合と同様に、最小噴射率(例えば1回当たりの噴射量1.5mm3)とし、複数回数のアフタ噴射を実行することで、このアフタ噴射で必要な総アフタ噴射量を確保するようにしている。
(ポスト噴射)
ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
−燃料噴射圧−
上述した各燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、および、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。即ち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23から燃焼室3内に向けて多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射可能な期間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、目標レール圧は一般にエンジン負荷およびエンジン回転数に基づいて設定される。この燃料圧力の目標値を設定するための具体的な手法については後述する。
上記パイロット噴射やメイン噴射などの燃料噴射における燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジン1や吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が目標噴射圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量および燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルへの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度およびアクセル開度に基づいて総燃料噴射量(プレ噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)を決定する。
−目標燃料圧力の設定手法−
次に、本実施形態において目標燃料圧力を設定する際の技術的思想について説明する。
(目標燃料圧力の基本設定手法)
ディーゼルエンジン1においては、NOx発生量を削減することによる排気エミッションの改善、燃焼行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を連立することが重要である。本発明の発明者は、これら要求を連立するための手法として、燃焼行程時における気筒内での熱発生率の変化状態(熱発生率波形で表される変化状態)を適切にコントロールすることが有効であることに着目し、この熱発生率の変化状態をコントロールするための手法として以下に述べるような目標燃料圧力の設定手法を見出した。
図4の実線は、横軸をクランク角度、縦軸を熱発生率とし、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼に係る理想的な熱発生率波形を示している。この図4では、理解を容易にするために1回のメイン噴射(複数回の分割メイン噴射が行われる場合には第1回目の分割メイン噴射)が行われた場合の熱発生率波形を示している。図中のTDCはピストン13の圧縮上死点に対応したクランク角度位置を示している。この熱発生率波形としては、例えば、ピストン13の圧縮上死点(TDC)からメイン噴射で噴射された燃料の燃焼が開始され、圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後10°(ATDC10°)の時点)で熱発生率が極大値(ピーク値)に達し、更に、圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後25°(ATDC25°)の時点)で上記メイン噴射において噴射された燃料の燃焼が終了するようになっている。この時点までに燃焼を終了させるために、本実施形態では、圧縮上死点後22°(ATDC22°)までにメイン噴射での燃料噴射を終了させるようになっている。このような熱発生率の変化状態で混合気の燃焼を行わせるようにすれば、例えば圧縮上死点後10°(ATDC10°)の時点で気筒内の混合気のうちの50%が燃焼を完了した状況となる。つまり、膨張行程における総熱発生量の約50%がATDC10°までに発生し、高い熱効率でエンジン1を運転させることが可能となる。
尚、図4に一点鎖線で示す波形は、上記プレ噴射で噴射された燃料の燃焼に係る熱発生率波形を示している。これにより、メイン噴射で噴射された燃料の安定した逐次燃焼が実現される。例えば、このプレ噴射で噴射された燃料の燃焼によって10[J]の熱量が発生する。この値は、これに限定されるものではなく。例えば、上記総燃料噴射量に応じて適宜設定される。また、図示していないが、プレ噴射に先立ってパイロット噴射も行われており、これにより気筒内温度を十分に高めて、メイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保している。
また、図4に二点鎖線αで示す波形は、燃料噴射圧力が、適正値よりも高く設定された場合の熱発生率波形であり、燃焼速度およびピーク値が共に高くなりすぎており、燃焼音の増大やNOx発生量の増加が懸念される状態である。一方、図4に二点鎖線βで示す波形は、燃料噴射圧力が、適正値よりも低く設定された場合の熱発生率波形であり、燃焼速度が低く且つピークの現れるタイミングが大きく遅角側に移行していることで十分なエンジントルクが確保できないことが懸念される状態である。
上述したように、本実施形態に係る目標燃料圧力の設定手法は、熱発生率の変化状態の適正化(熱発生率波形の適正化)を図ることで燃焼効率の向上を図るといった技術的思想に基づくものである。そして、それを実現するために後述するような燃圧設定マップに従った目標燃料圧力の設定を行っている。
(燃圧設定マップ)
図5は、本実施形態において目標燃料圧力を決定する際に参照される燃圧設定マップである。この燃圧設定マップは、例えば上記ROM102に記憶されている。また、この燃圧設定マップは、横軸がエンジン回転数であり、縦軸がエンジントルクとなっている。また、図5におけるTmaxは最大トルクラインを示している。
この燃圧設定マップの特徴として、図中にA〜Lで示す等燃料噴射圧力ライン(等燃料噴射圧力領域)は、エンジン1の回転数およびトルクから求められる出力(パワー)の等パワーライン(等出力領域)に割り付けられている。つまり、この燃圧設定マップでは、等パワーラインと等燃料噴射圧力ラインとが略一致するように設定されている。
この燃圧設定マップに従って燃料圧力を決定することで、インジェクタ23の開弁期間(噴射率波形)を制御すれば、その開弁期間中における燃料噴射量を規定することが可能になり、燃料噴射量制御の簡素化および適正化を図ることができる。
具体的に、図5の曲線Aはエンジン出力が10kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として30MPaのラインが割り付けられている。以下、同様に、曲線Bはエンジン出力が20kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として45MPaのラインが割り付けられている。曲線Cはエンジン出力が30kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として60MPaのラインが割り付けられている。曲線Dはエンジン出力が40kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として75MPaのラインが割り付けられている。曲線Eはエンジン出力が50kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として90MPaのラインが割り付けられている。曲線Fはエンジン出力が60kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として105MPaのラインが割り付けられている。曲線Gはエンジン出力が70kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として120MPaのラインが割り付けられている。曲線Hはエンジン出力が80kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として135MPaのラインが割り付けられている。曲線Iはエンジン出力が90kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として150MPaのラインが割り付けられている。曲線Jはエンジン出力が100kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として165MPaのラインが割り付けられている。曲線Kはエンジン出力が110kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として180MPaのラインが割り付けられている。曲線Lはエンジン出力が120kWのラインであり、これに燃料噴射圧力として200MPaのラインが割り付けられている。これら各値は、これに限定されるものではなく、エンジン1の性能特性等に応じて適宜設定される。
また、上記各ラインA〜Lは、エンジン出力の変化量に対する燃料噴射圧力の変化量の割合が、エンジン回転数が低回転領域であるほど小さくなるように設定されている。つまり、高回転領域よりも低回転領域の方が、ライン間の間隔が広く設定されている。また、このライン間の間隔は均等に設定されていてもよい。
このようにして作成された燃圧設定マップに従い、エンジン1の運転状態に適した目標燃料圧力を設定し、サプライポンプ21の制御等を行うようになっている。
具体的に、エンジン回転数とエンジントルクとが共に増加する場合(図5における矢印Iを参照)、および、エンジン回転数が一定でエンジントルクが増加する場合(図5における矢印IIを参照)、並びに、エンジントルクが一定でエンジン回転数が増加する場合(図5における矢印IIIを参照)の何れにおいても燃料噴射圧力が高められる。これにより、エンジントルク(エンジン負荷)が高い場合における吸入空気量に適した燃料噴射量を確保し、また、エンジン回転数が高い場合における単位時間当たりの燃料噴射量を多くして短期間で必要燃料噴射量を確保することができる。このため、エンジン出力およびエンジン回転数に関わりなく、常に、図4に実線で示したような理想的な熱発生率波形での燃焼形態を実現することができ、NOx発生量を削減することによる排気エミッションの改善、膨張行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を連立することが可能になる。
一方、エンジン回転数およびエンジントルクが変化したとしても、その変化後のエンジン出力が変化していない場合(例えば図5における矢印IVを参照)には、燃料噴射圧力を変化させないようにして、それまで設定されていた燃料噴射圧力の適正値を維持する。つまり、上記等燃料噴射圧力ライン(等パワーラインに一致している)に沿うようなエンジン運転状態の変化では燃料噴射圧力を変化させないようにし、上述した理想的な熱発生率波形での燃焼形態を継続させる。この場合、NOx発生量を削減することによる排気エミッションの改善、膨張行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を継続的に連立させることができる。
以上のように、本実施形態における燃圧設定マップでは、エンジン1の出力(パワー)と燃料噴射圧力(コモンレール圧)との間に一義的な相関を持たせ、また、エンジン回転数およびエンジントルクの少なくとも一方が変化することでエンジン出力が変化する状況では、それに応じた適正な燃料圧力での燃料噴射が行えるようにし、逆に、エンジン回転数やエンジントルクが変化してもエンジン出力が変化しない状況では、燃料圧力をそれまで設定されていた適正値から変化させないようにしている。これによって、エンジン運転領域の全域に亘って熱発生率変化状態を理想状態に近付けることが可能になる。そして、このようにして燃料圧力が規定されることにより、インジェクタ23の開弁期間と燃料噴射との間に一義的な相関を持たせることが可能になり、必要噴射量を得るためには、その際のインジェクタ23の開弁期間を規定すればよいことになって、制御性の向上が図れる。更に、この燃圧設定マップのように、エンジン1の出力(パワー)と燃料噴射圧力(コモンレール圧)との間に一義的な相関を持たせることは、種々のエンジンに共通した体系的な燃料圧力設定手法を構築するものとなるので、エンジン1の運転状態に応じた適切な燃料噴射圧力を設定するための燃圧設定マップの作成を簡素化することが可能である。
−分割メイン噴射−
本実施形態では、上記メイン噴射の噴射形態として複数回の分割メイン噴射を実行することで、このメイン噴射で必要とされる総メイン噴射量を確保するようにしている。
図6は、本実施形態におけるプレ噴射およびメイン噴射の実行期間中における気筒内での熱発生率の変化および燃料噴射パターンをそれぞれ示している。尚、この図6では2回の分割メイン噴射が実行される場合を示している。また、図7は、燃焼室3内において燃料が噴射された領域である燃焼場(例えば10個の噴射孔を有するインジェクタ23の場合には燃焼室3内における10箇所の燃焼場それぞれ)でのガス温度と、その燃焼場における当量比との変化を示すマップ(一般にφTマップと呼ばれる)である。つまり、図6に示す燃料噴射パターンでメイン噴射(各分割メイン噴射)が実行された場合における第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場および第2分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場それぞれにおける燃焼場環境(燃焼場のガス温度および当量比)の変化を矢印で示している。
この図7において、燃焼場環境がスモーク発生領域に達した場合には排気中にスモークが発生することになる。このスモーク発生領域は、燃焼場ガス温度が比較的高く且つ燃焼場の当量比がリッチ側の領域である。また、燃焼場環境がNOx発生領域に達した場合には排気中にNOxが発生することになる。このNOx発生領域は、燃焼場ガス温度が比較的高く且つ燃焼場の当量比がリーン側の領域である。
図6に示すように、プレ噴射は、ピストン13の圧縮上死点(TDC)よりも進角側で実行される(ピストン13の圧縮上死点よりも進角側にプレ噴射の開始タイミングと終了タイミングとが設定される)。
また、メイン噴射としては、進角側のメイン噴射である第1分割メイン噴射と遅角側のメイン噴射である第2分割メイン噴射とに分割して実行される。これら第1分割メイン噴射と第2分割メイン噴射と間には所定のインターバルが設けられる。つまり、第1分割メイン噴射を実行した後、燃料噴射を一旦停止(インジェクタ23を遮断)し、所定のインターバルを経た後に第2分割メイン噴射が開始されるようになっている。以下、各分割メイン噴射、および、これら分割メイン噴射同士の間のインターバルについて説明する。
以下の説明では、先ず、上述の如く求められた総メイン噴射量を2回の分割メイン噴射に分割して噴射しても排気ガス中にスモークが発生しない場合(例えばEGR率が比較的低い値(例えばEGR率10%)に設定されている場合)の燃料噴射形態について説明する。つまり、メイン噴射のみで上記要求トルクが確保できる場合について説明する。
その後、本実施形態の特徴とする燃料噴射形態である、総メイン噴射量を2回の分割メイン噴射に分割して噴射した場合には排気ガス中にスモークが発生する場合(例えばEGR率が比較的高い値(例えばEGR率30%)に設定されている場合)の燃料噴射形態(セパレート噴射を実施する燃料噴射形態)について説明する。つまり、メイン噴射での噴射量を制限してスモークの発生を抑制しながら、上記要求トルクに対するトルク不足分をセパレート噴射での燃料によって補う場合である。
−EGR率が低い場合の燃料噴射形態−
(第1分割メイン噴射)
上記第1分割メイン噴射は、ピストン13の圧縮上死点(TDC)よりも僅かに進角側で噴射を開始すると共に、ピストン13の圧縮上死点よりも遅角側で噴射を終了させる。このタイミングで第1分割メイン噴射を開始することにより、上述したように、ピストン13の圧縮上死点(TDC)から第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼が開始される理想的な熱発生率波形による燃焼が実現される。
また、この第1分割メイン噴射の噴射期間としては、このメイン噴射が開始された後、この第1分割メイン噴射で噴射される燃料の蒸発速度が、その燃料が供給されている燃焼場での酸素供給速度よりも大きくなる直前に、この第1分割メイン噴射が終了する期間として設定され、このタイミングでメイン噴射は一旦停止される。つまり、この第1分割メイン噴射の実行中に、燃焼場での燃料の蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなることがないように噴射期間が設定される。例えば、周方向に亘って均等に10個の噴射孔を有するインジェクタ23を備えたエンジン1の場合には、燃焼室3内における10箇所の燃焼場の何れにおいても、燃料の蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくならないように、第1分割メイン噴射が終了する期間が設定される。
ここでいう燃料の蒸発速度とは、燃焼場に噴射された燃料が可燃混合気の形成を可能にする程度まで気化される場合における単位時間当たりの気化燃料量であり、燃焼場の温度に応じて変化する燃料の熱分解速度によって決定される。また、酸素供給速度とは、上記燃焼場において単位時間当たりに燃料の燃焼に寄与する酸素量であって、燃焼場における酸素密度に依存する値である。そして、燃料の蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなる状態とは、燃焼場に存在する気化燃料の大部分を燃焼させるのに必要となる酸素量に比べて、実際に燃焼場において上記燃焼のために供給される酸素量が不足している状況を招く状態を意味する。
また、上述した如く燃料噴射圧力(コモンレール圧)は、上記燃圧設定マップに従ってエンジン1の出力(パワー)に対して一義的に決定されているため、上記噴射期間(インジェクタ23の開弁期間)の設定によって、上記第1分割メイン噴射の噴射期間中に噴射される燃料噴射量も決定されることになる。その結果、上記第1分割メイン噴射の終了タイミングを規定することは、上記燃焼場での燃料の蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなることがないような第1分割メイン噴射の燃料噴射量を規定することになる。
このように、第1分割メイン噴射の噴射期間中には燃焼場での燃料の蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなることがないため、この第1分割メイン噴射で噴射された燃料に起因するスモークは発生しないことになる。
何故なら、上述した如く、メイン噴射に起因するスモークの発生の有無は、気筒内の燃焼場における「燃料蒸発速度」と「酸素供給速度」とにより大きく左右される(燃焼場に存在する「燃料量」と「酸素量」とにより左右されるものではない)。つまり、燃焼場における「燃料蒸発速度」が「酸素供給速度」よりも大きくなると、この燃焼場での酸素不足(酸欠)が発生し、気筒内で混合気の不完全燃焼が生じてスモークが発生してしまう。ところが、EGR率が比較的低く設定されている場合には、第1分割メイン噴射の噴射期間中には燃焼場での燃料の蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなることがないため、酸素不足による不完全燃焼は生じず、この第1分割メイン噴射に起因するスモークは発生しない。
つまり、燃焼場での燃焼開始の初期時には、燃焼場の温度が低いために燃料の蒸発量も比較的少ない。このため、熱発生量が少なく、燃焼場の温度上昇も緩慢である。このため、燃料蒸発速度も低くなっている。また、燃料の蒸発量が少ないことにより、可燃混合気を生成するために消費される酸素量(酸素消費量)も未だ少ないため、十分な酸素量が燃焼場には確保されており、酸素供給速度としては高く得られている。
その後、可燃混合気の燃焼に伴って燃焼場の温度が上昇していくと、その熱エネルギを受けた燃料の蒸発量も次第に多くなっていき、この蒸発した燃料により生成される可燃混合気の燃焼によって燃焼場の温度が加速度的に上昇していく。これに伴って燃料蒸発速度も加速度的に上昇していく。このようにして燃料蒸発速度が上昇していくことで可燃混合気を生成するための酸素消費量も加速度的に上昇していき、蒸発燃料に対する酸素の相対量が次第に減少していくことで酸素供給速度は急速に減少していくことになる。
そして、燃料蒸発速度と酸素供給速度とが一致した点に達した後には、燃料蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなってスモークが発生してしまうことになる。従って、ここでは、この燃料蒸発速度と酸素供給速度とが一致する点よりも以前のタイミングで第1分割メイン噴射を終了するようにしている。
この第1分割メイン噴射の噴射終了タイミングを求める手法の一例としては、以下のものが挙げられる。例えば実験やシミュレーションによって第1分割メイン噴射を実行する。この際の噴射量としてはスモークが発生する程度の比較的大きい値が採用される。そして、その際の熱発生率波形を求める。この場合、時間の経過と共に熱発生率が大きくなっていく。そして、酸素供給速度が燃料蒸発速度よりも大きい状況では、単位時間当たりにおける熱発生率の増加量は略一定に維持される。つまり、熱発生率波形としては略直線となる。そして、酸素供給速度と燃料蒸発速度とが略等しくなり、その後、燃料蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなると、熱発生率の増加量が変化し、単位時間当たりの熱発生率の増加量が小さくなる。つまり、熱発生率波形として変曲点が生じる。この変曲点を求めることで、これを第1分割メイン噴射の終了タイミングとして設定する。
(第2分割メイン噴射)
上述したように第1分割メイン噴射での燃料噴射量(噴射期間によって決定される燃料噴射量)には上限(「燃料蒸発速度」を「酸素供給速度」よりも大きくしないといった上限)が設定されている。このため、メイン噴射で必要とされる総メイン噴射量(要求トルクを得るための上記総燃料噴射量から上記プレ噴射での噴射量を減算した噴射量)を第1分割メイン噴射のみで確保することが困難となる。このため、第2分割メイン噴射が実行される。つまり、メイン噴射で必要とされる総メイン噴射量に対し、第1分割メイン噴射での噴射量の不足分を第2分割メイン噴射によって補うようにしている。また、この第2分割メイン噴射での噴射量も、図7に示すように、燃焼場環境がスモーク発生領域に達しないように設定されている。
また、この第2分割メイン噴射で噴射される燃料は、スワール流れ方向の上流側の噴射孔から噴射されたプレ噴射で噴射された燃料の燃焼場に重なり合う可能性がある。このプレ噴射で噴射された燃料の燃焼場では、そのプレ噴射で噴射された燃料の燃焼によって酸素が消費されているが、プレ噴射の噴射量は僅かであって消費された酸素量も僅かである。従って、未だ十分な酸素量が確保されている燃焼場に対して第2分割メイン噴射が実行されることになる。このため、第2分割メイン噴射に起因してスモークが発生することはない。
尚、エンジン回転数が比較的低い場合には、第2分割メイン噴射での燃料を、プレ噴射の燃焼場に重なり合わない領域(プレ噴射の燃焼場よりもスワール流れ方向の下流側の領域)に噴射することが可能である。
(噴射インターバル)
次に、上記第1分割メイン噴射の終了タイミングと第2分割メイン噴射の開始タイミングとの間の期間である噴射インターバルについて説明する。
この噴射インターバルは、第1分割メイン噴射において噴射された燃料の燃焼場に対して第2分割メイン噴射で噴射される燃料が重なり合わないように、また、キャビティ13b内全体の温度や酸素濃度が均一化してしまうことのない期間として設定される。以下、具体的に説明する。
エンジン1の吸入行程では吸気ポート15aから気筒内に流入する空気の流れとしては上記シリンダ中心線Pを回転中心とするスワール流が発生しており、このスワール流は圧縮行程においても継続して気筒内で生じている。
このため、第1分割メイン噴射で噴射された燃料は、このスワール流によって気筒内(具体的にはキャビティ13b内)を周方向に流れることになる。つまり、膨張行程での時間の経過と共に、第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場はインジェクタ23の噴射孔に対面する位置(噴射直後の位置)からスワール流に沿った周方向に流されていくことになる。
従って、先行して実行された第1分割メイン噴射の後に、後続する第2分割メイン噴射を実行する時点にあっては、上記先行して実行された第1分割メイン噴射で噴射されていた燃料の燃焼場は既に気筒内を周方向に流れており、同一噴孔から噴射される2つの分割メイン噴射同士の燃料は重なり合うことはない。
この場合、スワール流れ方向の上流側の噴射孔から噴射された第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場が、スワール流れ方向の下流側の噴射孔に対向する位置に向かって流れているので、後続する第2分割メイン噴射の噴射タイミングを調整することで、第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場に第2分割メイン噴射の噴射が重なり合わないようにして、第2分割メイン噴射の燃料を、酸素が十分に存在する領域(第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場とは異なる領域、且つスモーク生成温度よりも低い領域:燃料蒸発速度が酸素供給速度よりも小さくなっている燃焼場)に向けて噴射することができる。
より具体的には、ピストン13が上死点から下死点に達するまでの間に(クランク角度で180°移動するまでの間に)、スワール流が気筒内を周方向に1回転する場合を考える。つまり、スワール比が「2」の場合である。また、インジェクタ23の噴孔数が「10」であって、メイン噴射として2回の燃料噴射(上記第1分割メイン噴射および第2分割メイン噴射)が行われる場合を考える。
この場合、各分割メイン噴射同士のインターバルを気筒内の周方向で18°(クランク角度で9°)とすれば、第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場に第2分割メイン噴射の噴射を重なり合わせないようにすることができる。
図8は、上記第1分割メイン噴射および第2分割メイン噴射が行われる際の気筒内における噴霧および燃焼場の状態を示す平面図である。この図8では、第1分割メイン噴射で噴射された燃料の噴霧および燃焼場を符号F1で示し、第2分割メイン噴射で噴射された燃料の噴霧を符号F2で示している。
また、図8(a)は、第1分割メイン噴射実行直後の噴霧F1の状態を示している。図8(b)は、第2分割メイン噴射の実行直前であって、上記第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場F1がスワール流によって周方向に流された状態(破線は、第1分割メイン噴射実行直後の噴霧F1の状態(図8(a)の状態))を示している。図8(c)は、第2分割メイン噴射実行時における第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場F1および第2分割メイン噴射での噴霧F2の状態をそれぞれ示している。図8(b)および図8(c)に示すように、第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場F1,F1同士の間には、燃料が供給されておらず、比較的多量の酸素が残存する領域(酸素供給速度が燃料蒸発速度よりも大きくなっている燃焼場)が存在している。そして、この領域も上記スワール流によって気筒内の周方向に流されている。そして、この領域がインジェクタ23の噴射孔に対向する位置まで流れてきた時点で第2分割メイン噴射を実行するように上記インターバルは設定されている。つまり、このインターバルは、スワール流の速度によって変更される。即ち、エンジン回転数によって変更される。エンジン回転数が高いほど、上記インターバルは短く設定されることになる。
このように、各分割メイン噴射のインターバルを設定すれば、先行する第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場と、後続する第2分割メイン噴射で噴射される燃料の噴霧とが重なり合うことがなく、各メイン噴射で噴射された燃料を十分な酸素量が確保されている領域において燃焼させることが可能になる。このため、燃焼場での酸素不足が発生することはなく、各燃焼場での混合気の不完全燃焼が防止されて、スモークの発生を回避することができる。
尚、各分割メイン噴射のインターバルとしては、インジェクタ23の応答性(開閉動作の速さ)によって決定するようにしてもよい。例えば、インジェクタ23の性能によって決定される最短開閉期間として例えば200μsに設定されるようにしてもよい。この分割メイン噴射のインターバルは上記値に限定されるものではない。
以上のようなメイン噴射実行時における燃焼場環境の変化について図7を用いて説明する。上述した如く図7は、燃焼場のガス温度と燃焼場の当量比との変化を示すマップである。
この図7に示すように、第1分割メイン噴射が開始(図7における点A)されるのに伴って、燃焼場の当量比がリッチ側に移行すると共にその燃料の燃焼によって燃焼場ガス温度が上昇していく。この場合の第1分割メイン噴射の噴射量は、上述した如く燃焼場環境がスモーク発生領域に達することのない量として設定されている。
そして、この第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場が、図8(b)に示す位置まで移動すると第2分割メイン噴射が開始(図7における点B)される。各分割メイン噴射で噴射される燃料の燃焼場は異なっているので、図7における各矢印は連続しない矢印となっている。この第2分割メイン噴射の実行に伴い、その燃焼場の当量比がリッチ側に移行すると共にその燃料の燃焼によって燃焼場ガス温度が上昇する。この場合の第2分割メイン噴射の噴射量も、上述した如く燃焼場環境がスモーク発生領域に達することのない量として設定されている。
そして、第2分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼が終了すると、当量比が低下していくと共に、それに遅れて筒内ガス温度も次第に低下していく。
このような噴射形態では、第2分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼が終了した後にあっても、燃焼場環境がスモーク発生領域に達することはなく、排気中におけるスモーク発生阻止機能は継続的に発揮される。
このように、EGR率が比較的低く設定されている場合には、メイン噴射の分割によって、メイン噴射の実行に起因するスモークの発生を抑制し、排気エミッションの改善を図ることができる。
−EGR率が高い場合の燃料噴射形態−
上述したメイン噴射の噴射形態は、上記EGR率が比較的低い場合(例えばEGR率が20%未満の場合)である。これに対し、上記EGR率が比較的高い場合(例えばEGR率が20%以上の場合)には、以下の動作が行われるようになっている。
つまり、NOxの発生を確実に抑制するべくEGR率を高く設定した場合、吸気中の酸素量が大幅に低下することになる。このため、不完全燃焼を回避してスモークを発生させないようにメイン噴射を実行しようとすると、メイン噴射1回当たり(分割メイン噴射1回当たり)の噴射量が極端に少なくなってしまう可能性がある。つまり、EGR率が高い状況下では、上記第1分割メイン噴射及び上記第2分割メイン噴射での噴射量が制限される。その結果、ドライバの要求するエンジントルク(要求トルク)を得るための十分な燃料噴射量を確保することができず、エンジン1のトルク不足を招いてしまい、ドライバビリティの悪化を招く可能性があった。
本実施形態では、このような状況においても、メイン噴射での燃焼に起因するスモーク発生の抑制と、エンジンに十分なトルクを発生させること(要求トルクを達成させること)とを両立可能とするような燃料噴射形態を実現している。
尚、EGR率が高く設定されたことで実際に要求トルクが達成できない程度までメイン噴射での噴射量が制限されているか否かの判断は、例えば、予めROM102に記憶された噴射量制限マップに従って判定される。この噴射量制限マップは、吸気系でのEGR率と、スモークを発生させないためのメイン噴射の噴射量限界との相関が規定されており、要求トルクを得るのに必要なメイン噴射での燃料噴射量が、この噴射量限界を超えている場合にメイン噴射での噴射量が制限され、それに伴って後述するセパレート噴射を実行するようになっている。メイン噴射での噴射量が制限されているか否かの判断動作としてはこれに限定されるものではない。
上述した如く、EGR率が高い状況下であって分割メイン噴射での噴射量が制限されていることによって要求トルクが得られない場合、つまり、メイン噴射でのトルク不足が発生している場合、その不足分のトルクと略同等のトルクが得られるように、上記メイン噴射の実行後に、トルク補助用のセパレート噴射(トルク補助噴射)を実行するようにしている(補助噴射実行手段によるトルク補助噴射の実行動作)。以下、具体的に説明する。
図9は、上記セパレート噴射が実行された場合のプレ噴射〜セパレート噴射の実行期間中における気筒内での熱発生率の変化、筒内温度(燃焼場温度)の変化、燃料噴射パターン、トルク変換効率(噴射された燃料がトルクに変換される効率)の変化をそれぞれ示している。
この図9に示すように、セパレート噴射が実行されることで、このセパレート噴射の実行に伴って筒内での熱発生率が上昇し且つ筒内温度が上昇し、これに伴ってエンジン1にトルクが発生することになる。ここで発生するトルクは、上記メイン噴射での上記トルク不足に相当するものである。
このようにメイン噴射でのトルク不足に相当するトルクを発生させる(トルク不足を補う)セパレート噴射の噴射タイミング及び噴射量は以下のようにして設定される。
このセパレート噴射に要求される機能としては、上述したメイン噴射が行われる場合と同様に、燃焼に伴ってスモークを発生させないことであり、また、上記メイン噴射でのトルク不足を補うエンジントルクを発生させることである。そして、このセパレート噴射は、上記第2分割メイン噴射が実行され、それに伴って熱発生率が上昇した後、この熱発生率が「0」または「略0」まで低下した後に上記セパレート噴射が実行される。より詳しくは、このセパレート噴射は、第2分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼完了後であって、その後に実行されるセパレート噴射の燃料の燃焼場の温度が1400Kまで低下した後であり且つ1100Kまで低下するまでに開始される。更には、このセパレート噴射の実行後も燃焼場の温度が1100K〜1400Kの範囲内に維持されるように、その噴射タイミング及び噴射量が設定されている。これら噴射タイミング及び噴射量は、予め例えば実験やシミュレーションによって求められて、上記ROM102に記憶されている。
例えば図9中のトルク変換効率に鑑みれば、セパレート噴射はできる限り進角側で実行する方が、少ない噴射量で大きなトルクを得ることができるため好ましい。しかしながら、進角側では未だ筒内温度が高いため、セパレート噴射の実行によって燃焼場温度が1400Kを超えてしまう可能性がある。これらに鑑み、セパレート噴射の噴射タイミングと、その噴射量と、それによって得られるエンジントルクとの相関に基づき、実験やシミュレーションによって、上記不足分のエンジントルクが得られ、燃焼場温度が1400Kを超えてしまうことなく、できる限り進角側となるように、セパレート噴射の噴射タイミング及び噴射量が求められている。例えば、図9に示すものにあっては、セパレート噴射の噴射タイミングとしてはATDC40°であって噴射量が3.0mm3に設定されている。
尚、上記説明では、セパレート噴射の噴射タイミングとしては、メイン噴射での熱発生率が「0」または「略0」まで低下した後であって燃焼場の温度が1400Kまで低下した後に設定されていた。これに限らず、メイン噴射での熱発生率に関わりなく燃焼場の温度が1400Kまで低下した後に設定するようにしてもよい。
燃焼場の温度を上記範囲内に維持する理由について以下に説明する。
燃焼場の温度が1400Kを超えた場合には、このセパレート噴射で噴射された燃料の燃焼に起因してスモークが発生してしまう。また、この燃焼場の温度が1100Kを下回った場合には、このセパレート噴射で噴射された燃料の燃焼に起因してHCが発生してしまう。このように、燃焼場の温度を1100K〜1400Kの範囲内に維持することで、セパレート噴射を実行したことによる排気エミッションの悪化を回避することができるようにしている。尚、燃焼場の温度が1100K〜1400Kの範囲内に維持された場合、排気ガス中のCOが増加する可能性があるが、このCOはスモークやHCに比べて比較的容易に浄化(触媒コンバータにより浄化)することが可能であり、排気エミッションの大幅な悪化には繋がらない。図7に示すX領域において実用域の当量比範囲では排気ガス中にHCが発生する。一方、図7に示すY領域において実用域の当量比範囲では排気ガス中にCOが発生する。この図7に矢印で示すセパレート噴射での燃焼状態のように、本実施形態では、燃焼場ガス温度及び当量比が、このY領域に維持されるような噴射タイミング及び噴射量でセパレート噴射が実行されることになる。
また、上述した如く燃焼場での熱発生率を一旦「0」または「略0」にした後に、セパレート噴射を実行することで、燃焼場温度の急上昇を抑えることができ、燃焼場温度の上昇に伴う酸素不足に起因するスモークの発生を抑制することも可能になる。つまり、セパレート噴射で噴射された燃料の燃焼場の状態が図7におけるスモーク発生領域に達することがない。
以上のようなセパレート噴射が実行されることにより、メイン噴射及びセパレート噴射の何れにおいてもスモークの発生を抑制し、且つエンジン1のトルクとして要求トルクを得ることが可能となってドライバビリティの改善を図ることができる。
(変形例1)
次に、本発明の変形例1について説明する。この変形例は、メイン噴射を第1及び第2の2回の分割メイン噴射に分割して実施する場合の噴射形態の変形例である。その他のエンジン1の構成や燃料噴射形態は上述した実施形態と同様であるので、ここでは、上記実施形態との相違点についてのみ説明する。
図10は、上記第1分割メイン噴射、第2分割メイン噴射が行われる際の気筒内における噴霧および燃焼場の状態を示す平面図である。この図10でも、第1分割メイン噴射で噴射された燃料の噴霧および燃焼場を符号F1で示し、第2分割メイン噴射で噴射された燃料の噴霧および燃焼場を符号F2で示している。
また、図10(a)は、第1分割メイン噴射実行直後の噴霧F1の状態を示している。図10(b)は、第2分割メイン噴射実行直後の噴霧F1,F2の状態を示しており、上記第1分割メイン噴射の燃料の燃焼場F1がスワール流によって周方向に流された状態を示している。
本変形例では、第1分割メイン噴射での噴射量よりも第2分割メイン噴射での噴射量を少なく設定することで、第1分割メイン噴射での燃料飛行距離に比べて第2分割メイン噴射での燃料飛行距離が短くなるようにしている。つまり、第2分割メイン噴射で噴射された燃料が、第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場に達しないようにしている。
これにより、図10(b)に示す如く、第1分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場F1に対して内周側(図10(b)における二点鎖線の内側の領域)に第2分割メイン噴射で噴射された燃料の燃焼場F2が形成されている。
このため、上記第2分割メイン噴射で噴射された燃料は、比較的多量の酸素が残存する領域(酸素供給速度が燃料蒸発速度よりも大きくなっている燃焼場)に向けて供給されることになり、各メイン噴射で噴射された燃料を十分な酸素量が確保されている領域において燃焼させることが可能になる。このため、本変形例1においても、EGR率が比較的低く設定されている場合(例えばEGR率10%の場合)には、燃焼場での酸素不足が発生することはなく、各燃焼場での混合気の不完全燃焼が防止されて、スモークの発生を回避することができる。
一方、EGR率が比較的高く設定されている場合(例えばEGR率30%の場合)には、上述した実施形態の場合と同様に、セパレート噴射を実行する。このセパレート噴射の噴射タイミングや噴射量も上述した実施形態と同様にして設定されるため、ここでの説明は省略する。
図11は、本変形例1における各燃料噴射が行われた際の各燃焼場でのガス温度と、その燃焼場における当量比との変化を示すφTマップである。このように、本変形例1においても、燃焼場ガス温度及び当量比が、上記Y領域(COが発生する領域)に維持されるような噴射タイミング及び噴射量でセパレート噴射が実行されており、上述した実施形態の場合と同様の作用効果を奏することができる。つまり、メイン噴射及びセパレート噴射の何れにおいてもスモークの発生を抑制し、且つエンジン1のトルクとして要求トルクを得ることが可能となってドライバビリティの改善を図ることができる。尚、この図11では、上記実施形態の場合に比べて第2分割メイン噴射での燃料噴射量が少なくなっているため、図中における第2分割メイン噴射の燃焼状態を示す矢印にあっては、当量比がリーン側となっている。
(変形例2)
次に、変形例2について説明する。この変形例2では、上記セパレート噴射を複数回の分割セパレート噴射によって実行するものである。
図12は、上記セパレート噴射を、第1、第2、第3の分割セパレート噴射に分割して実行した場合のプレ噴射〜セパレート噴射の実行期間中における気筒内での熱発生率の変化、筒内温度(燃焼場温度)の変化、燃料噴射パターンの変化をそれぞれ示している。
この図12に示すように、本変形例2においても、セパレート噴射が実行されることで、このセパレート噴射の実行に伴って筒内での熱発生率が上昇し且つ筒内温度が上昇し、これに伴ってエンジン1にトルクが発生することになる。ここで発生するトルクは、上記メイン噴射でのトルク不足に相当するものである。
また、セパレート噴射を分割したことで、1回当たりのセパレート噴射の噴射量を少なくできるので、これら分割セパレート噴射で噴射された燃料の燃焼による燃焼場温度の急上昇を抑えることができ、燃焼場温度の上昇に伴う酸素不足に起因するスモークの発生を抑制することが可能になる。つまり、セパレート噴射でのトルク(上記不足分のトルク)を十分に得ながらも、このセパレート噴射に伴うスモークの発生を確実に回避することが可能になる。
また、本変形例は、図12の燃料噴射パターンに示すように、各分割セパレート噴射の噴射量を互いに一致させて、上記メイン噴射でのトルク不足を補うようにしている。この場合、遅角側で噴射される分割セパレート噴射ほど、トルク変換効率が低下するため(図9のトルク変換効率の変化を参照)、同一量の燃料噴射を行っても発生するトルクは低下する。これに鑑みて各分割セパレート噴射の噴射量を設定し、上記メイン噴射でのトルク不足に略一致するトルクが、これら分割セパレート噴射によって得られるようにしておく。これら分割セパレート噴射は、予め例えば実験やシミュレーションによって求められ上記ROM102に記憶された噴射量マップに従った燃料噴射量により実行される。例えば、図12に示すものにあっては、第1分割セパレート噴射の噴射タイミングとしてはATDC35°であって、各分割セパレート噴射の噴射量が1.5mm3に設定されている。
また、各分割セパレート噴射それぞれにおいて発生するトルクを一致させるために、遅角側の分割セパレート噴射ほど、燃料噴射量を増量させるようにしてもよい。
尚、本変形例では、セパレート噴射を3回の分割セパレート噴射に分割して実行した場合について説明したが、この分割回数はこれに限定されるものではない。例えば2回に分割したり4回以上に割することも可能である。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態及び変形例では、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
また、上記実施形態及び変形例では、マニバータ77として、NSR触媒75およびDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75およびDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。
また、上記実施形態及び変形例では、メイン噴射の分割数を2分割としたが、3分割以上に分割した場合にも本発明は適用可能である。この場合にも、各分割メイン噴射にあっては、燃焼場における燃料蒸発速度が酸素供給速度よりも大きくなる前に、その分割メイン噴射を停止することになる。