JPWO2009044787A1 - テノモジュリンを有効成分とする腱断裂性疾患治療剤 - Google Patents
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Abstract
本発明者らによって、テノモジュリンの発現もしくは機能が阻害されることにより、CTC等の断裂に関連する疾患が引き起こされることが示された。テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質の発現もしくは機能を活性化させる物質は、腱断裂性疾患に対して治療効果を有することが期待される。
Description
本発明は、テノモジュリンを有効成分とする腱断裂性疾患治療剤、および、テノモジュリンの発現を指標とする腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法に関する。
心臓弁膜および腱索(chordae tendineae cordis; CTC)は無血管組織である。それらの無血管性は、いくつかの心臓弁膜症(valvular heart disease; VHDs)では失われている(非特許文献7および8参照)。コンドロモジュリン-I(非特許文献9および10参照)は、血管新生を阻害することにより正常な弁膜機能を維持することが知られている(非特許文献11参照)。
しかし心疾患の臨床的重要性にもかかわらず、心臓弁膜症の基礎となるメカニズムについては殆ど知られていない。
房室弁小葉およびCTCは、多様な細胞系統、並びに軟骨(非特許文献15および16参照)および腱(非特許文献17および18参照)細胞型の存在する高度に組織化された基質を含む。軟骨細胞マーカーであるアグリカン(aggrecan)およびSox9は、胚形成期の弁発生の間、弁小葉中で観察されるが、腱関連遺伝子であるスクレラクシス(Scleraxis)およびテネイシン(Tenascin)はCTC中で発現することが知られている(非特許文献19参照)。
テノモジュリン(Tenomodulin; Tem)は、腱、靭帯、筋外膜および眼を含む低血管組織中に存在する317アミノ酸の糖タンパク質であり(非特許文献1、2、12参照)、コンドロモジュリン-Iと相同性を有する、BRICHOSおよび複数のシステインリッチドメインを含んでいる(非特許文献20参照)。テノモジュリンは、in vivoのいくつかの組織において、コンドロモジュリン-Iと同じくらい効率的にプロセシングされ、タンパク分解により切断された16 kDのC末端ドメインが腱細胞増殖活性を示すことが知られている(非特許文献3および4参照)。
しかし、テノモジュリンの発現や機能の詳細についてはまだ分かっていなかった。なお、本願発明の関連文献として以下の特許文献もしくは非特許文献が報告されている。
本発明は、腱索等における腱断裂性疾患の発症のメカニズムを明らかにすることを目的とする。より具体的には、腱断裂性疾患のための治療薬の提供、並びに該治療薬を効率的にスクリーニングする方法の提供を課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を行った。
上述の観察(非特許文献15〜19参照)およびコンドロモジュリン-I(Chm-I)に関する本発明者らの先の知見(非特許文献11参照)に基づき、本発明者らはテノモジュリンがCTCの無血管性に関与していると推測した。
上述の観察(非特許文献15〜19参照)およびコンドロモジュリン-I(Chm-I)に関する本発明者らの先の知見(非特許文献11参照)に基づき、本発明者らはテノモジュリンがCTCの無血管性に関与していると推測した。
本発明者らは、テノモジュリンがCTCで発現しているかどうか、またその場合、テノモジュリンの分泌型が抗血管新生活性を有しているかどうかを調べた。また、テノモジュリンの欠如によって、CTC断裂に到る、異常な血管形成および炎症性細胞の浸潤、さらにはマトリックスメタロプロテイナーゼ類(Matrix Metalloproteinases; MMPs)の発現が誘導されるかどうか検討した。
具体的には、本発明者らは、CTCの無血管性の基礎をなす分子メカニズムおよび心臓弁膜症との関係について調べた。剖検検体のCTCのエラスチンに富む内皮下中層において、コンドロモジュリン-I関連抗血管新生因子(非特許文献13参照)の一つである、テノモジュリン(非特許文献1、2、12参照)が豊富に発現していることを見出した。また培養CTC間隙細胞の条件培地は、管形成および内皮細胞の動員を強く阻害した(非特許文献11および14参照)。これらの効果は、テノモジュリンのsmall interfering RNA(siRNA)により部分的に阻害された。興味深いことに、CTC断裂を有する患者の断裂領域では、テノモジュリンが局所的に欠如していることが見出された。さらにテノモジュリンがダウンレギュレートされている領域では、多数の異常な血管形成、ならびにVEGF-Aおよびマトリックスメタロプロテイナーゼ類の強い発現が観察されたが、非断裂領域では観察されなかった。またイヌCTCのテノモジュリン層を外科的に削除したところ、コア層中に徐々に血管新生、VEGF-AおよびMMPsの発現が引き起こされた。さらに、CTC間隙細胞においてテノモジュリンがダウンレギュレートされる原因を調べたところ、機械的伸展、低酸素、および酸化ストレスなどの様々な刺激が、テノモジュリン発現のダウンレギュレートを引き起こしていることが示された。
上述の如く本発明者らは、テノモジュリンが血管新生を阻害することによって、CTCの正常な機能維持に重要な役割を果たしていること、またその局所的欠如がCTC断裂を導き得るという証拠を初めて示すことに成功した。
即ち、テノモジュリンの発現もしくは機能が阻害されることにより、多数の異常な血管形成が生じ、その結果、CTCを含む腱などの断裂性疾患が引き起こされるものと考えられる。従って、テノモジュリンタンパク質自体、あるいは該タンパク質の発現もしくは機能を活性化させる物質は、腱断裂性疾患に対して、有効な予防効果や治療効果を奏することが期待される。
また上述のように、本発明者らによって、CTC断裂を有する患者の断裂領域において、テノモジュリンのダウンレギュレートが見出された。即ち、テノモジュリンの発現量もしくは活性を指標とすることにより、腱断裂性疾患の治療薬(候補化合物)のスクリーニングを行うことが可能である。
また、本発明によって得られた種々の知見は、腱断裂性疾患の発症のメカニズムに対して、新しい洞察を提供するものである。これらのメカニズムを理解することは腱断裂性疾患に関する新しい治療手段を開発する上で非常に重要となるものであり、本発明は、学術的な観点からも大きく寄与するものである。
即ち本発明は、腱断裂性疾患のための治療薬、並びに、該治療薬を効率的にスクリーニングする方法に関し、より具体的には、
〔1〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂防止剤、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔2〕 腱索における腱断裂防止作用を有することを特徴とする、〔1〕に記載の腱断裂防止剤、
〔3〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔4〕 テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質を有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤、
〔5〕 腱断裂性疾患が、心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、および手指伸筋腱断裂からなる群より選択される疾患である、〔3〕または〔4〕に記載の腱断裂性疾患治療剤、
〔6〕 テノモジュリンタンパク質が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の薬剤、
〔7〕 テノモジュリンタンパク質の発現もしくは機能を活性化させる化合物を選択することを特徴とする、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
〔8〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
(a)テノモジュリンタンパク質を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞におけるテノモジュリンタンパク質の発現量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、発現量を上昇させる化合物を選択する工程
〔9〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
(a)テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
〔10〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
(a)テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を上昇させる化合物を選択する工程
〔11〕 腱断裂性疾患が、心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、および手指伸筋腱断裂からなる群より選択される疾患である、〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載のスクリーニング方法、を提供するものである。
〔1〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂防止剤、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔2〕 腱索における腱断裂防止作用を有することを特徴とする、〔1〕に記載の腱断裂防止剤、
〔3〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔4〕 テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質を有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤、
〔5〕 腱断裂性疾患が、心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、および手指伸筋腱断裂からなる群より選択される疾患である、〔3〕または〔4〕に記載の腱断裂性疾患治療剤、
〔6〕 テノモジュリンタンパク質が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の薬剤、
〔7〕 テノモジュリンタンパク質の発現もしくは機能を活性化させる化合物を選択することを特徴とする、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
〔8〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
(a)テノモジュリンタンパク質を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞におけるテノモジュリンタンパク質の発現量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、発現量を上昇させる化合物を選択する工程
〔9〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
(a)テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
〔10〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法、
(a)テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を上昇させる化合物を選択する工程
〔11〕 腱断裂性疾患が、心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、および手指伸筋腱断裂からなる群より選択される疾患である、〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載のスクリーニング方法、を提供するものである。
さらに本発明は、
〔12〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを個体(患者等)に投与する工程を含む、腱断裂の防止方法または腱断裂性疾患の治療方法、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔13〕 テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質を個体(患者等)に投与する工程を含む、腱断裂性疾患の治療方法、
〔14〕 以下の(a)〜(c)のいずれかの、腱断裂防止剤または腱断裂性疾患治療剤の製造における使用、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔15〕 テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質の、腱断裂性疾患治療剤の製造における使用、
〔16〕 腱断裂の防止方法または腱断裂性疾患の治療方法に使用するための、以下の(a)〜(c)のいずれかに記載の物質、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔17〕 腱断裂性疾患の治療方法に使用するための、テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質、
を提供する。
〔12〕 以下の(a)〜(c)のいずれかを個体(患者等)に投与する工程を含む、腱断裂の防止方法または腱断裂性疾患の治療方法、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔13〕 テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質を個体(患者等)に投与する工程を含む、腱断裂性疾患の治療方法、
〔14〕 以下の(a)〜(c)のいずれかの、腱断裂防止剤または腱断裂性疾患治療剤の製造における使用、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔15〕 テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質の、腱断裂性疾患治療剤の製造における使用、
〔16〕 腱断裂の防止方法または腱断裂性疾患の治療方法に使用するための、以下の(a)〜(c)のいずれかに記載の物質、
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
〔17〕 腱断裂性疾患の治療方法に使用するための、テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質、
を提供する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らによって、テノモジュリンの発現もしくは機能が阻害されることにより、CTC等の断裂に関連する疾患が引き起こされることが示された。従って、テノモジュリンタンパク質自体、あるいは、該タンパク質の発現もしくは機能を活性化させる物質は、腱断裂性疾患に対して、有効な予防効果や治療効果を奏することが期待される。
本発明者らによって、テノモジュリンの発現もしくは機能が阻害されることにより、CTC等の断裂に関連する疾患が引き起こされることが示された。従って、テノモジュリンタンパク質自体、あるいは、該タンパク質の発現もしくは機能を活性化させる物質は、腱断裂性疾患に対して、有効な予防効果や治療効果を奏することが期待される。
結合組織とは、上皮組織、筋組織、神経組織とともに生体を構成する四大基本組織の一つである。間葉系の細胞に由来する細胞成分(結合組織細胞)と、これらの細胞を取りまく細胞間物質からなる。細胞間物質は線維成分(結合組織線維)と無定形の基質からなり、線維成分には膠原線維、弾性線維、細網線維の三種類がある。線維成分(主として膠原線維)が特に多いものを線維性結合組織という。
線維性結合組織は、コラーゲンが緻密に走る強靱結合組織と不規則に走る疎性結合組織とに分類される。強靱結合組織は、柱状、ひも状、膜状の構造で、腱、靱帯、筋膜、強膜、角膜などに存在している。強靱結合組織では、線維の走行に平行して栄養血管が認められるが、その数は極めて少ない。一方、疎性結合組織は、血管網に富み、皮下、粘膜下、小葉間結合組織として全身に広く分布する。
本発明における「腱」とは、上記強靭結合組織における腱を指すものであり、骨格筋と骨とを介する組織である。例えば腱索(CTC)、腱膜、腱周膜、腱鞘等も本発明における腱に含まれる。
線維性結合組織は、コラーゲンが緻密に走る強靱結合組織と不規則に走る疎性結合組織とに分類される。強靱結合組織は、柱状、ひも状、膜状の構造で、腱、靱帯、筋膜、強膜、角膜などに存在している。強靱結合組織では、線維の走行に平行して栄養血管が認められるが、その数は極めて少ない。一方、疎性結合組織は、血管網に富み、皮下、粘膜下、小葉間結合組織として全身に広く分布する。
本発明における「腱」とは、上記強靭結合組織における腱を指すものであり、骨格筋と骨とを介する組織である。例えば腱索(CTC)、腱膜、腱周膜、腱鞘等も本発明における腱に含まれる。
本発明者らはまず、テノモジュリンタンパク質を有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤を提供する。
本発明のテノモジュリンタンパク質は、ヒトのテノモジュリンタンパク質であることが好ましいが、その由来する生物種は特に制限されず、ヒト以外の生物におけるテノモジュリンと同等なタンパク質(ヒトテノモジュリンのホモログ・オルソログ等)も本発明における「テノモジュリンタンパク質」に含まれる。
テノモジュリンのホモログとしては、例えば、血管新生因子であるコンドロモジュリン-Iが知られている。
本発明のテノモジュリンタンパク質は、ヒトのテノモジュリンタンパク質であることが好ましいが、その由来する生物種は特に制限されず、ヒト以外の生物におけるテノモジュリンと同等なタンパク質(ヒトテノモジュリンのホモログ・オルソログ等)も本発明における「テノモジュリンタンパク質」に含まれる。
テノモジュリンのホモログとしては、例えば、血管新生因子であるコンドロモジュリン-Iが知られている。
例えば、腱組織を有し、かつヒトのテノモジュリンと同等なタンパク質を有する生物であれば、本発明を実施することは可能である。
例えば、ヒトテノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に、該アミノ酸配列をコードするDNA(テノモジュリン遺伝子)の塩基配列を配列番号:1に示す。
また、テノモジュリンに相当するタンパク質を有するヒト(アクセッション番号AF234259)以外の生物としては、例えば、マウス(アクセッション番号NM_022322、AF219993)、ラット(アクセッション番号NM_022290、AF191769)、ブタ(アクセッション番号NM_001099934、EF503637)、ウマ(アクセッション番号NM_001081822、AB059407)、ニワトリ(NM_206985、AY156693)等が挙げられる。
例えば、ヒトテノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に、該アミノ酸配列をコードするDNA(テノモジュリン遺伝子)の塩基配列を配列番号:1に示す。
また、テノモジュリンに相当するタンパク質を有するヒト(アクセッション番号AF234259)以外の生物としては、例えば、マウス(アクセッション番号NM_022322、AF219993)、ラット(アクセッション番号NM_022290、AF191769)、ブタ(アクセッション番号NM_001099934、EF503637)、ウマ(アクセッション番号NM_001081822、AB059407)、ニワトリ(NM_206985、AY156693)等が挙げられる。
上記以外のタンパク質であっても、例えば本願配列表に記載された配列と高い相同性(通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有し、かつ、テノモジュリンが有する機能(例えば、腱断裂阻害活性等)を持つタンパク質は、本発明のテノモジュリンに含まれる。
また上記タンパク質において「複数のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列」とは、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、通常変化するアミノ酸数が30アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内であるタンパク質である。
本発明における「テノモジュリン遺伝子」には、例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物における内在性の遺伝子(例えば、ヒトのテノモジュリン遺伝子のホモログ等)が含まれる。
また、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、配列番号:1に記載のDNAと高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、配列番号:1に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。当業者においては、他の生物におけるテノモジュリン遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、テノモジュリン遺伝子の塩基配列を基に適宜取得することが可能である。なお、本明細書においては、ヒト以外の生物におけるテノモジュリンタンパク質(遺伝子)に相当するタンパク質(遺伝子)、あるいは、上述のテノモジュリンと機能的に同等なタンパク質(遺伝子)を、単に「テノモジュリンタンパク質(遺伝子)」もしくは「Tem」と記載する場合がある。
また、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、配列番号:1に記載のDNAと高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、配列番号:1に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。当業者においては、他の生物におけるテノモジュリン遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、テノモジュリン遺伝子の塩基配列を基に適宜取得することが可能である。なお、本明細書においては、ヒト以外の生物におけるテノモジュリンタンパク質(遺伝子)に相当するタンパク質(遺伝子)、あるいは、上述のテノモジュリンと機能的に同等なタンパク質(遺伝子)を、単に「テノモジュリンタンパク質(遺伝子)」もしくは「Tem」と記載する場合がある。
本発明の「テノモジュリンタンパク質」は、天然のタンパク質のほか、遺伝子組み換え技術を利用した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質は、例えばテノモジュリンタンパク質が発現していると考えられる細胞(組織)の抽出液に対し、テノモジュリンタンパク質に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法により調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、テノモジュリンタンパク質をコードするDNAで形質転換した細胞を培養することにより調製することが可能である。本発明の「テノモジュリンタンパク質」は、例えば、後述のスクリーニング方法において、例えば対照タンパク質として好適に用いられる。
本発明において「発現」とは遺伝子からの「転写」あるいはポリペプチドへの「翻訳」およびタンパク質の「分解抑制」によるものが含まれる。「テノモジュリンタンパク質の発現」とは、テノモジュリンタンパク質をコードする遺伝子の転写および翻訳が生じること、またはこれらの転写・翻訳によりテノモジュリンタンパク質が生成されることを意味する。また、「テノモジュリンタンパク質の機能」とは、例えば、血管新生を抑制する機能、腱断裂を抑制(防止)する機能、腱細胞を増殖促進する機能(非特許文献4)等を挙げることができる。
上述の各種機能は、当業者においては、一般的な技術を用いて、適宜、評価(測定)することが可能である。具体的には、上述の各種機能に関して記載された文献等を参照して実施することができる。
例えば、テノモジュリンタンパク質の有する腱断裂抑制活性は、特に制限されるものではないが、(1)腱組織における組織構造分析、(2)腱組織における免疫組織化学分析、等を適宜評価することによって測定することができる。
上述の各種機能は、当業者においては、一般的な技術を用いて、適宜、評価(測定)することが可能である。具体的には、上述の各種機能に関して記載された文献等を参照して実施することができる。
例えば、テノモジュリンタンパク質の有する腱断裂抑制活性は、特に制限されるものではないが、(1)腱組織における組織構造分析、(2)腱組織における免疫組織化学分析、等を適宜評価することによって測定することができる。
本発明は、テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質の変異体(改変体、他の生物のホモログ等)であって、テノモジュリンと機能的に同等なタンパク質を有効成分とする、腱断裂性疾患治療剤を提供する。
即ち本発明の好ましい態様としては、以下の(a)〜(c)のいずれかの物質を有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤に関する。
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
本発明の薬剤の成分である「テノモジュリンタンパク質」は、天然のタンパク質の他、遺伝子組換え技術を利用した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質は、例えばテノモジュリンタンパク質が発現していると考えられる細胞(組織)の抽出液に対し、テノモジュリンタンパク質に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法により調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、テノモジュリンタンパク質をコードするDNAで形質転換した細胞を培養することにより調製することが可能である。
また、本発明の薬剤の成分であるテノモジュリンタンパク質をコードするDNAもまた、本発明に含まれる。本発明のテノモジュリンタンパク質をコードするDNAは、染色体DNAであっても、cDNAであってもよい。テノモジュリンタンパク質をコードする染色体DNAは、例えば、細胞等から染色体DNAのライブラリーを調製し、テノモジュリンタンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするプローブを用いた、該ライブラリーのスクリーニングにより取得することができる。またテノモジュリンタンパク質をコードするcDNAは、テノモジュリンタンパク質が発現していると考えられる細胞(組織)からRNA試料を抽出し、テノモジュリンタンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするプライマーを用いたRT-PCR法等の遺伝子増幅技術により取得することができる。
本発明のテノモジュリンタンパク質または該タンパク質をコードするDNAは、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等であれば、その塩基配列やアミノ配列が改変された変異体であってもよい。このような変異体は、天然のものでも人工のものでもよい。人工的に変異体を調製するための方法は当業者に公知である。例えば、Kunkel法(Kunkel, T. A. et al., Methods Enzymol. 154, 367-382 (1987))、ダブルプライマー法(Zoller, M. J. and Smith, M., Methods Enzymol. 154, 329-350 (1987))、カセット変異法(Wells, et al., Gene 34, 315-23 (1985))、メガプライマー法(Sarkar, G. and Sommer, S. S., Biotechniques 8, 404-407 (1990))などが知られている。
本発明の薬剤は、上述の(c)に記載のDNA、または上述の(a)または(b)に記載のタンパク質を発現するベクターを成分とするものであってもよい。即ち本発明は、上記(c)に記載のDNA、または該DNAを発現し得るベクターを有効成分とする、腱断裂性疾患治療剤に関する。
上記DNAは、効率的な発現のために機能的にプロモーターと結合していることが好ましい。本発明に用いられるプロモーターとしては、本来のテノモジュリン遺伝子のプロモーターを利用することができるが、これ以外にも、公知の種々のプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、アクチンプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を用いることができる。また、当業者であれば、公知の種々の発現ベクターを用いて、容易に本発明のタンパク質を発現するベクターを作製することができる。
本発明の上記ベクターは、遺伝子治療用に使用することも可能である。遺伝子治療とは、機能を有するタンパク質をコードするDNAを含むベクターを患者に投与し、治療または予防することをいう。遺伝子治療に使用することができるベクターには、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdex1cw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)等が挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のタンパク質をコードするDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことができる。生体内への投与はex vivo法でもよいが、in vivo法が好ましい。
また、本発明のテノモジュリンタンパク質の発現もしくは機能を活性化することによって、腱断裂が防止あるいは抑制され、結果として腱断裂に関連する疾患に対する予防効果や治療効果が期待される。
従って本発明は、テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質または機能活性化物質を有効成分として含む、腱断裂性疾患治療剤を提供する。
従って本発明は、テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質または機能活性化物質を有効成分として含む、腱断裂性疾患治療剤を提供する。
本発明において「腱断裂性疾患」とは、腱断裂に関わる疾患を指すが、例えば、心臓弁膜に結合している腱索、アキレス腱、膝蓋腱、大腿四頭筋腱、棘上筋腱、肩甲下筋腱、上腕二頭筋長頭腱、手指屈筋腱、または手指伸筋腱等における腱断裂性疾患を挙げることができる。本発明の腱断裂性疾患としては、例えば、僧帽弁閉鎖不全、大動脈弁閉鎖不全等の心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、または手指伸筋腱断裂等を例示することができる。
本発明における「タンパク質の発現活性化物質」は、タンパク質の発現を有意に活性化(上昇)させる物質である。本発明の上記「発現活性化」には、該タンパク質をコードする遺伝子の転写活性化、および/または該遺伝子の転写産物からの翻訳活性化が含まれる。
本発明のテノモジュリンタンパク質の発現活性化物質としては、例えば、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域(例えば、プロモーター領域)に結合して、該遺伝子の転写を促進する物質(転写活性化因子等)を挙げることができる。
また、本発明においてテノモジュリン遺伝子の発現活性の測定は、当業者においては周知の方法、例えば、ノーザンブロット法、ウェスタンブロット法等により、容易に実施することができる。
本発明のテノモジュリンタンパク質の発現活性化物質としては、例えば、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域(例えば、プロモーター領域)に結合して、該遺伝子の転写を促進する物質(転写活性化因子等)を挙げることができる。
また、本発明においてテノモジュリン遺伝子の発現活性の測定は、当業者においては周知の方法、例えば、ノーザンブロット法、ウェスタンブロット法等により、容易に実施することができる。
また本発明における「タンパク質の機能活性化物質」は、タンパク質の機能を有意に活性化(上昇)させる物質である。本発明者らによって、テノモジュリンタンパク質は例えば腱断裂領域においてダウンレギュレートすることが観察された。従って、本発明の機能活性化物質としては、例えばテノモジュリンタンパク質の腱組織における断裂抑制作用を増強させる物質を挙げることができる。
また、テノモジュリンタンパク質の発現もしくは機能を活性化させる物質は、腱断裂(例えば、CTCにおける腱断裂)を防止する作用や抑制する作用を有する。従って本発明は、上述の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂防止剤(腱断裂抑制剤、または腱断裂阻害剤)を提供する。
本発明の上記腱断裂防止剤は、好ましくは、腱索、腱膜、腱周膜、腱鞘等において腱断裂防止作用を有することを特徴とする。
また、テノモジュリンタンパク質の発現もしくは機能を活性化させる物質は、腱断裂(例えば、CTCにおける腱断裂)を防止する作用や抑制する作用を有する。従って本発明は、上述の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂防止剤(腱断裂抑制剤、または腱断裂阻害剤)を提供する。
本発明の上記腱断裂防止剤は、好ましくは、腱索、腱膜、腱周膜、腱鞘等において腱断裂防止作用を有することを特徴とする。
また、本発明の「治療剤」は、「医薬品」、「医薬組成物」、「治療用医薬」等と表現することもできる。
なお、本発明における「治療」には、疾患の発生を予め抑制し得る予防的な効果も含まれるため、本発明の治療剤は「予防剤」と表現することもできる。また、必ずしも、完全な治療効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合、症状が改善する場合等も、本発明の「治療」の意味に含まれる。
なお、本発明における「治療」には、疾患の発生を予め抑制し得る予防的な効果も含まれるため、本発明の治療剤は「予防剤」と表現することもできる。また、必ずしも、完全な治療効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合、症状が改善する場合等も、本発明の「治療」の意味に含まれる。
本発明の薬剤(腱断裂防止剤、腱断裂性疾患治療剤等)は、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合し、医薬組成物として経口、あるいは非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、粉剤、粉末剤、細粒剤、錠剤、被覆錠剤、丸剤、ペレット剤、フィルムコーティング剤、軟・硬カプセル剤、舌下剤、トローチ剤、ペースト剤、シロップ剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型とすることができる。
非経口剤としては、注射剤、点滴剤、外用薬剤(外用剤)、あるいは座剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。外用薬剤には、経鼻投与剤、経皮剤あるいは軟膏剤、硬膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等を示すことができる。主成分である本発明の薬剤を含むように、上記の剤型とする製剤技術は公知である。
例えば、経口投与用の錠剤は、本発明の薬剤に賦形剤、崩壊剤、結合剤、および滑沢剤等を加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤には、乳糖、デンプン、あるいはマンニトール等が一般に用いられる。崩壊剤としては、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウム等が一般に用いられる。結合剤には、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、あるいはポリビニルピロリドンが用いられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウム等が公知である。
本発明の薬剤を含む錠剤は、マスキングや、腸溶性製剤とするために、公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール等を用いることができる。
また注射剤は、主成分である本発明の薬剤を適当な分散剤とともに溶解、分散媒に溶解、あるいは分散させることにより得ることができる。分散媒の選択により、水性溶剤と油性溶剤のいずれの剤型とすることもできる。水性溶剤とするには、蒸留水、生理食塩水、あるいはリンゲル液等を分散媒とする。油性溶剤では、各種植物油やプロピレングリコール等を分散媒に利用する。このとき、必要に応じてパラベン等の保存剤を添加することもできる。また注射剤中には、塩化ナトリウムやブドウ糖等の公知の等張化剤を加えることができる。更に、塩化ベンザルコニウムや塩酸プロカインのような無痛化剤を添加することができる。
また、本発明の薬剤を固形、液状、あるいは半固形状の組成物とすることにより外用剤とすることができる。固形、あるいは液状の組成物については、先に述べたものと同様の組成物とすることで外用剤とすることができる。半固形状の組成物は、適当な溶剤に必要に応じて増粘剤を加えて調製することができる。溶剤には、水、エチルアルコール、あるいはポリエチレングリコール等を用いることができる。増粘剤には、一般にベントナイト、ポリビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはポリビニルピロリドン等が用いられる。この組成物には、塩化ベンザルコニウム等の保存剤を加えることができる。また、担体としてカカオ脂のような油性基材、あるいはセルロース誘導体のような水性ゲル基材を組み合わせることにより、座剤とすることもできる。
本発明の薬剤を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の薬剤を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
また、本発明の薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。即ち、本発明の薬剤を保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等に全身投与する。腱組織等に局所的に投与することもできる。
本発明の薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、ヒトを含む動物に対して、必要量(有効量)が投与される。本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
また本発明は、テノモジュリン遺伝子の発現量を指標とする、本発明の薬剤(腱断裂防止剤もしくは腱断裂性疾患治療剤)のスクリーニング方法を提供する。
テノモジュリン遺伝子の発現量を上昇(亢進)させる物質は、本発明の薬剤となることが期待される。本発明のスクリーニング方法によって、腱断裂防止剤もしくは腱断裂性疾患治療剤のための候補化合物を効率的に取得することができる。
テノモジュリン遺伝子の発現量を上昇(亢進)させる物質は、本発明の薬剤となることが期待される。本発明のスクリーニング方法によって、腱断裂防止剤もしくは腱断裂性疾患治療剤のための候補化合物を効率的に取得することができる。
本発明の方法の好ましい態様は、以下の(a)〜(c)の工程を含む、本発明の薬剤(腱断裂防止剤もしくは腱断裂性疾患治療剤)のスクリーニング方法である。
(a)テノモジュリンタンパク質を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞におけるテノモジュリンタンパク質の発現量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、発現量を上昇させる化合物を選択する工程
(a)テノモジュリンタンパク質を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞におけるテノモジュリンタンパク質の発現量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、発現量を上昇させる化合物を選択する工程
本発明の上記方法においては、まず、テノモジュリンタンパク質(遺伝子)を発現する細胞に被検化合物を接触させる。
本方法に用いる「細胞」は、特に制限されないが、好ましくはヒト由来の細胞である。「テノモジュリンタンパク質を発現する細胞」としては、内在性のテノモジュリンタンパク質を発現している細胞、または外来性のテノモジュリン遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外来性のテノモジュリン遺伝子が発現した細胞は、通常、テノモジュリン遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
本方法に用いる「細胞」は、特に制限されないが、好ましくはヒト由来の細胞である。「テノモジュリンタンパク質を発現する細胞」としては、内在性のテノモジュリンタンパク質を発現している細胞、または外来性のテノモジュリン遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外来性のテノモジュリン遺伝子が発現した細胞は、通常、テノモジュリン遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
本発明のスクリーニング方法に供する被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、これらの被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
また、これらの被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
テノモジュリンタンパク質(遺伝子)を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常、テノモジュリンタンパク質を発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
本方法においては次いで、該テノモジュリンタンパク質の発現量を測定する。ここで「タンパク質の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。発現量の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。
例えば、テノモジュリンタンパク質を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、DNAアレイ法等を実施することによって該遺伝子の転写量の測定を行うことができる。また、テノモジュリンタンパク質を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、テノモジュリンタンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳量の測定を行うこともできる。さらに、テノモジュリンタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、該タンパク質をコードする遺伝子の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳量の測定を行うことも可能である。テノモジュリンタンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の双方を利用することができる。
例えば、テノモジュリンタンパク質を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、DNAアレイ法等を実施することによって該遺伝子の転写量の測定を行うことができる。また、テノモジュリンタンパク質を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、テノモジュリンタンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳量の測定を行うこともできる。さらに、テノモジュリンタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、該タンパク質をコードする遺伝子の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳量の測定を行うことも可能である。テノモジュリンタンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の双方を利用することができる。
テノモジュリンタンパク質に結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然のテノモジュリンタンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナント(組み換え)テノモジュリンタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、テノモジュリンタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えばテノモジュリンタンパク質もしくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、テノモジュリンタンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、テノモジュリンタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(被検化合物の非存在下において測定した場合)と比較して、テノモジュリンタンパク質の発現量を上昇させる化合物を選択する。また、対照と比較することにより上記(c)の選択を行うことも可能である。
本方法により単離される化合物は、腱断裂(例えば、腱索等における腱断裂)を防止または抑制する作用を有し、腱断裂性疾患の治療剤となることが期待される。
また本発明のスクリーニング方法の他の態様は、テノモジュリンタンパク質の活性(機能)を指標とする方法である。上記方法は、例えば以下の(a)〜(c)の工程を含む、本発明の薬剤のスクリーニング方法である。
(a)テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を上昇させる化合物を選択する工程
(a)テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を上昇させる化合物を選択する工程
本方法においてはまず、テノモジュリンタンパク質または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と被検化合物を接触させる。
次いで、テノモジュリンタンパク質の活性を測定する。テノモジュリンタンパク質の活性としては、例えば、上述の各種活性(機能)を挙げることができる。該活性の測定は当業者においては公知の手法を用いて、あるいは、本明細書において引用された各種文献を参照して、適宜評価することができる。
さらに被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該タンパク質の活性を上昇(亢進)させる化合物を選択する。
次いで、テノモジュリンタンパク質の活性を測定する。テノモジュリンタンパク質の活性としては、例えば、上述の各種活性(機能)を挙げることができる。該活性の測定は当業者においては公知の手法を用いて、あるいは、本明細書において引用された各種文献を参照して、適宜評価することができる。
さらに被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該タンパク質の活性を上昇(亢進)させる化合物を選択する。
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のテノモジュリンタンパク質(遺伝子)の発現レベルを上昇させる化合物をレポーター遺伝子の発現を指標として選択する方法である。
本発明の上記方法の好ましい態様は以下の(a)〜(c)の工程を含む、本発明の薬剤のスクリーニング方法である。
(a)テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
本発明の上記方法の好ましい態様は以下の(a)〜(c)の工程を含む、本発明の薬剤のスクリーニング方法である。
(a)テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
本方法においてはまず、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。テノモジュリン遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するテノモジュリン遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
「テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
本方法における「接触」は、「テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
本方法においては、次いで測定したレポーター遺伝子の発現レベルを被検化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較して、上昇(亢進)させる化合物を選択する。
本方法においては、次いで測定したレポーター遺伝子の発現レベルを被検化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較して、上昇(亢進)させる化合物を選択する。
また本発明は、本発明のスクリーニング方法を実施するために用いられる、各種薬剤・試薬等を含むキットを提供する。
本発明のキットは、例えば本発明の上述の各種試薬の中から、実施するスクリーニング方法にあわせて適宜選択することができる。例えば本発明のキットは、テノモジュリンタンパク質の検出の際に利用可能な、テノモジュリン遺伝子に対するプローブもしくは該遺伝子の任意の領域を増幅するためのプライマー等のオリゴヌクレオチド、または、テノモジュリンタンパク質を認識(結合)する抗体(抗テノモジュリンタンパク質抗体)等を構成要素として含む。
本発明のキットは、例えば本発明の上述の各種試薬の中から、実施するスクリーニング方法にあわせて適宜選択することができる。例えば本発明のキットは、テノモジュリンタンパク質の検出の際に利用可能な、テノモジュリン遺伝子に対するプローブもしくは該遺伝子の任意の領域を増幅するためのプライマー等のオリゴヌクレオチド、または、テノモジュリンタンパク質を認識(結合)する抗体(抗テノモジュリンタンパク質抗体)等を構成要素として含む。
上記オリゴヌクレオチドは、例えば、本発明のテノモジュリン遺伝子のDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、テノモジュリン遺伝子の塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
本発明においてハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer (Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、条件を設定することができる。
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明のスクリーニング用キットにおけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のテノモジュリン遺伝子のDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
本発明のキットには、さらに、本発明の方法において使用される各種試薬、容器等を含めることができる。例えば、各種反応試薬、細胞、培養液、対照サンプル、緩衝液、使用方法を記載した指示書等を適宜含めることができる。
また本発明は、以下の(a)〜(c)のいずれかと、薬学的に許容される担体または媒体とを混合する(組み合わせる)工程を含む、腱断裂防止剤または腱断裂性疾患治療剤の製造方法に関する。
(a)テノモジュリンタンパク質(例えば配列番号:2に記載のアミノ酸配列によって示されるヒトテノモジュリンタンパク質など)
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列(例えば配列番号:2に記載のヒトテノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列など)において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
(a)テノモジュリンタンパク質(例えば配列番号:2に記載のアミノ酸配列によって示されるヒトテノモジュリンタンパク質など)
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列(例えば配列番号:2に記載のヒトテノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列など)において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA
「薬学的に許容される担体または媒体」とは、前記(a)〜(c)のいずれかと共に投与することが可能であり、腱断裂を防止する作用を有意に阻害しない材料である。このような担体または媒体としては、例えば脱イオン水、滅菌水、塩化ナトリウム溶液、デキストロース溶液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸含有リンゲル溶液、培養液、血清、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられ、これらと前記(a)〜(c)のいずれかを適宜組み合わせて製剤化することが考えられる。また、必要に応じて遠心などにより濃縮され、生理食塩水などの生理的溶液中に再懸濁されてよい。また、リポソームの膜安定化剤(例えばコレステロール等のステロール類)を含んでいてもよい。また、抗酸化剤(例えばトコフェロールまたはビタミンEなど)を含んでいてもよい。さらに、その他にも、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、殺生物剤等が含有されていてもよい。また保存剤やその他の添加剤を添加することができる。本発明の組成物は、水溶液、カプセル、懸濁液、シロップなどの形態であり得る。
さらに本発明は、前記(a)〜(c)のいずれかを個体(例えば患者等)へ投与する工程を含む、腱断裂性関連疾患を予防もしくは治療する方法に関する。本発明の予防もしくは治療する方法における個体とは、好ましくはヒトであるが、特に制限されず非ヒト動物であってもよい。本発明の前記(a)〜(c)のいずれかの投与量は、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与目的、投与組成物の形態、投与方法等により異なるが、当業者であれば適宜決定することが可能である。投与経路は適宜選択することができるが、例えば経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、または皮下等に行われうる。投与は局所あるいは全身であってよい。ヒト以外の動物について投与する場合、例えば目的の動物とヒトとの体重比または投与標的部位の容積比(例えば平均値)でヒトの投与量を換算した量を投与することができる。
あるいは本発明は、前記(a)〜(c)のいずれかの物質の腱断裂防止剤または腱断裂性疾患治療剤の製造における使用を提供するものである。
さらに本発明は、腱断裂の防止方法または腱断裂性疾患の治療方法に使用するための、前記(a)〜(c)のいずれかの物質に関する。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
・動物
野生型ICRマウスは、日本CLEA(東京、日本)より購入した。日本白ウサギは、Sankyo Laboratory Service Corporation(東京、日本)より購入した。全ての実験方法およびプロトコルは、慶応大学の動物の取り扱いおよび使用に関する委員会の承認を受けたものであり、実験動物の世話および使用に関するNIHのガイドに適合するものであった。
野生型ICRマウスは、日本CLEA(東京、日本)より購入した。日本白ウサギは、Sankyo Laboratory Service Corporation(東京、日本)より購入した。全ての実験方法およびプロトコルは、慶応大学の動物の取り扱いおよび使用に関する委員会の承認を受けたものであり、実験動物の世話および使用に関するNIHのガイドに適合するものであった。
〔実施例1〕テノモジュリンの経時的発現
テノモジュリン(Tem)が腱索(CTC)で発現しているかどうか調べた。
総RNAはトリゾール試薬(Gibco-BRL)を用いて単離し、DNaseI(Roche)で処理した。RT-PCRは、次のプライマーを用いて、以前記載されたように行った(非特許文献11参照):
マウスTem, 5'-AGAATGAGCAATGGGTGGTC-3'(フォワード、配列番号:3), 3'-CTCGACCTCCTTGGTAGCAG-5'(リバース、配列番号:4);
マウスGapdh, 5'-TTCAACGGCACAGTCAAGG-3'(フォワード、配列番号:5), 3'-CATGGACTGTGGTCATGAG-5'(リバース、配列番号:6);
ブタTem, 5'-GGTGGTCCCTCAAGTGAAAG-3'(フォワード、配列番号:7), 3'-CTCGTCCTCCTTGGTAGCAG-5'(リバース、配列番号:8);
ブタGapdh, 5'-TGATGACATCAAGAAGGTGGTGAAG-3'(フォワード、配列番号:9), 3'-TCCTTGGAGGCCATGTGGACCAT-5'(リバース、配列番号:10)。
テノモジュリン(Tem)が腱索(CTC)で発現しているかどうか調べた。
総RNAはトリゾール試薬(Gibco-BRL)を用いて単離し、DNaseI(Roche)で処理した。RT-PCRは、次のプライマーを用いて、以前記載されたように行った(非特許文献11参照):
マウスTem, 5'-AGAATGAGCAATGGGTGGTC-3'(フォワード、配列番号:3), 3'-CTCGACCTCCTTGGTAGCAG-5'(リバース、配列番号:4);
マウスGapdh, 5'-TTCAACGGCACAGTCAAGG-3'(フォワード、配列番号:5), 3'-CATGGACTGTGGTCATGAG-5'(リバース、配列番号:6);
ブタTem, 5'-GGTGGTCCCTCAAGTGAAAG-3'(フォワード、配列番号:7), 3'-CTCGTCCTCCTTGGTAGCAG-5'(リバース、配列番号:8);
ブタGapdh, 5'-TGATGACATCAAGAAGGTGGTGAAG-3'(フォワード、配列番号:9), 3'-TCCTTGGAGGCCATGTGGACCAT-5'(リバース、配列番号:10)。
結果、Tem転写物は、胚形成14.5日目(E14.5)にマウス心臓中で初めて検出され、成体では定常的に発現していた(図1a)。特にCTCで発現しており、心房、心室および心臓弁膜では発現していなかった(図1b)。
〔実施例2〕 テノモジュリンの空間的発現
Temの分泌型が抗血管新生活性を有するかどうかを調べた。
ブタ組織(心臓弁膜、CTC、および眼)を溶解緩衝液(50 mMトリス(pH 7.4), 1 mM DTT, 1% NP40, 0.5% デオキシコール酸, 0.1% SDS, 150 mM NaCl, 10 ml緩衝液当り100μlプロテアーゼ阻害剤カクテル(登録商標)(ナカライテスク))中でホモジェナイズした。ウェスタンブロット分析は、以前記載されたように行った(非特許文献11参照)。各試料のローディング量は、Temタンパク質を可視化するために多様にした。C末端およびN末端Temタンパク質に対するウサギポリクローナル抗体は、それぞれDocheva博士(非特許文献4参照)およびShukunami(非特許文献2参照)により確立されたものを使用した。Temに対する抗体と共に膜を4℃で一晩インキュベートした。ウサギIgGに対する西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-結合抗体(Chemicon international, Inc.)と共に膜をインキュベートし、SuperSignal West Pico(PIERCE)を用い、供給元の指示書に従いシグナルを可視化した。
Temの分泌型が抗血管新生活性を有するかどうかを調べた。
ブタ組織(心臓弁膜、CTC、および眼)を溶解緩衝液(50 mMトリス(pH 7.4), 1 mM DTT, 1% NP40, 0.5% デオキシコール酸, 0.1% SDS, 150 mM NaCl, 10 ml緩衝液当り100μlプロテアーゼ阻害剤カクテル(登録商標)(ナカライテスク))中でホモジェナイズした。ウェスタンブロット分析は、以前記載されたように行った(非特許文献11参照)。各試料のローディング量は、Temタンパク質を可視化するために多様にした。C末端およびN末端Temタンパク質に対するウサギポリクローナル抗体は、それぞれDocheva博士(非特許文献4参照)およびShukunami(非特許文献2参照)により確立されたものを使用した。Temに対する抗体と共に膜を4℃で一晩インキュベートした。ウサギIgGに対する西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-結合抗体(Chemicon international, Inc.)と共に膜をインキュベートし、SuperSignal West Pico(PIERCE)を用い、供給元の指示書に従いシグナルを可視化した。
結果、TemのC末端部分に特異的な抗体を用いたウェスタンブロット分析により、ブタCTCで、45 kDのグリコシル化型、および40 kDの非グリコシル化型のTemが同定された(図1c)。これらは眼にも存在していた。興味深いことに、眼は免疫陽性ではなかったが、CTCは、TemのC末端切断16 kDドメインについて免疫陽性であり、Chm-Iのように分泌型を産生するためにC末端が切断されることが示唆された。
N末端Temタンパク質についてのウェスタンブロット分析では、45 kDおよび40 kDの弱いバンドに加えて、29 kDおよび24 kDの強いバンドが明らかになった。対照的に、眼では主に45 kDおよび40 kDの断片が見られた。
総合すると、これらの結果から、TemのC末端タンパク質の切断が組織特異的に起こり、切断されたN末端タンパク質がその後もCTCで存在することが示唆された。
総合すると、これらの結果から、TemのC末端タンパク質の切断が組織特異的に起こり、切断されたN末端タンパク質がその後もCTCで存在することが示唆された。
〔実施例3〕 CTCの組織構造および免疫組織化学
妊娠または非妊娠成体マウス心臓を、リン酸緩衝塩水(PBS)により心尖から還流し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドにより還流固定し、以前記載されるように免疫染色に使用した(非特許文献28参照)。CTCを切り離し、4℃において4%パラホルムアルデヒド中で一晩液浸固定し、その後パラフィンに包埋した。一次抗体を用いる前に、キシレン中で切片よりパラフィンを除去し、10 mMクエン酸緩衝溶液(pH 6.0)(Muto Pure Chemicals Co., 日本)中、電子レンジで3分間加熱した。切片をPBSで洗浄した後、1時間室温で、ImmunoBlock(登録商標)(Dainippon Sumitomo Pharma, 大阪, 日本)と共にインキュベートし、4℃で一晩、5%正常ウサギ血清、およびTemに対するウサギポリクローナル抗体(非特許文献2および4参照)、並びに次の成分に対するウサギポリクローナル抗体(VEGF-A(1:200希釈; Santa Cruz Biotechnology)、vWF(1:200希釈; Lab Vision Corporation)、エラスチン(1:50 希釈; Elastin Products Co.)、I型コラーゲン(1:50希釈; Rockland)、MMP-1(ref.44; Daiichi fine chemical)、MMP-2(Diichi fine chemical)(非特許文献29参照)、MMP-3(Daiichi fine chemical)(非特許文献29参照)、MMP-9(Daiichi fine chemical)(非特許文献29参照)、MMP-13(1:100希釈; Biogenesis)(非特許文献29参照)、CD11b(1:20希釈; BD PharMingen)、CD14(1:50希釈; Santa Cruz Biotechnology)、およびビメンチン(1:20希釈; Sigma-Aldrich))と一緒にインキュベートした。
妊娠または非妊娠成体マウス心臓を、リン酸緩衝塩水(PBS)により心尖から還流し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドにより還流固定し、以前記載されるように免疫染色に使用した(非特許文献28参照)。CTCを切り離し、4℃において4%パラホルムアルデヒド中で一晩液浸固定し、その後パラフィンに包埋した。一次抗体を用いる前に、キシレン中で切片よりパラフィンを除去し、10 mMクエン酸緩衝溶液(pH 6.0)(Muto Pure Chemicals Co., 日本)中、電子レンジで3分間加熱した。切片をPBSで洗浄した後、1時間室温で、ImmunoBlock(登録商標)(Dainippon Sumitomo Pharma, 大阪, 日本)と共にインキュベートし、4℃で一晩、5%正常ウサギ血清、およびTemに対するウサギポリクローナル抗体(非特許文献2および4参照)、並びに次の成分に対するウサギポリクローナル抗体(VEGF-A(1:200希釈; Santa Cruz Biotechnology)、vWF(1:200希釈; Lab Vision Corporation)、エラスチン(1:50 希釈; Elastin Products Co.)、I型コラーゲン(1:50希釈; Rockland)、MMP-1(ref.44; Daiichi fine chemical)、MMP-2(Diichi fine chemical)(非特許文献29参照)、MMP-3(Daiichi fine chemical)(非特許文献29参照)、MMP-9(Daiichi fine chemical)(非特許文献29参照)、MMP-13(1:100希釈; Biogenesis)(非特許文献29参照)、CD11b(1:20希釈; BD PharMingen)、CD14(1:50希釈; Santa Cruz Biotechnology)、およびビメンチン(1:20希釈; Sigma-Aldrich))と一緒にインキュベートした。
免疫組織化学のシグナルは、0.05 Mトリス緩衝塩水(pH 7.6)中の、0.01%過酸化水素を含む0.05% 3,3’-ジアミノベンジンテトラヒドロクロライド(Sigma-Aldrich)を色素生成基質として用いることにより検出した。その後、切片はヘマトキシリン-エオジンで対比染色し、段階的エタノール系列中で脱水し、Permount(Fisher Scientific)中にマウントした。
免疫蛍光試験のため、Alexa488またはAlexa546(Molecular Probes)に結合した二次抗体と共に切片をインキュベートした。共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM510META; Carl Zeiss)によりスライドを観察した。光学切片は、1024×1024ピクセルの解像度で得て、LSMソフトウェア(Carl Zeiss)を用いて分析した。ネガティブコントロールとして、各免疫染色実験において、一次抗体に代えて非免疫化ウサギ血清を用いた。
マウス心臓においては、免疫組織化学により、TemがCTCに位置することが決定された(図5)。
正常なヒトCTCにおいては、ヘマトキシリン-エオジン(HE)染色、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色、および免疫組織化学により、表層内皮層、エラスチンに富む中層、およびI型コラーゲンに富むコア層の3層が明らかになった(図1d)。この構造は、以前の発見と一致していた(非特許文献13参照)。テノモジュリン(TEM)は中層に限定されており、他の層では検出されなかった。正常なCTCでは、CHM-1もしくはVEGF-A(血管内皮増殖因子A)発現、または異常な血管形成は見られなかった。TEMはエラスチンと直接共局在していなかったが、エラスチンに富む層の間隙スペースに沈着していた。
正常なヒトCTCにおいては、ヘマトキシリン-エオジン(HE)染色、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色、および免疫組織化学により、表層内皮層、エラスチンに富む中層、およびI型コラーゲンに富むコア層の3層が明らかになった(図1d)。この構造は、以前の発見と一致していた(非特許文献13参照)。テノモジュリン(TEM)は中層に限定されており、他の層では検出されなかった。正常なCTCでは、CHM-1もしくはVEGF-A(血管内皮増殖因子A)発現、または異常な血管形成は見られなかった。TEMはエラスチンと直接共局在していなかったが、エラスチンに富む層の間隙スペースに沈着していた。
〔実施例4〕 CTC間隙細胞(CTCs)中のTemの発現
次に、CTC間隙細胞(CTC interstitial cells; CICs)がTemを産生するか、について調べた。
麻酔した12週齢の日本白ウサギから心臓を切り離した。CTCの一次培養は、心臓弁間隙細胞(非特許文献30参照)およびアキレス腱(非特許文献31参照)についてのプロトコルを改変して行った。即ち、CTCを素早く取り出し、綿棒を用いて表層内皮細胞を取り、立体顕微鏡下で刻み、外植培養に用いた。1×1 mmの大きさの断片を組織より切り出し、コラーゲンコーティングした12ウェル皿(Iwaki)中に入れ、50%仔牛血清を含むDMEM(Sigma-Aldrich)中、37℃で24時間成長させた。50%FBSを含む1 mlのDMEMをさらに添加し、さらに37℃において24時間放置した。培地および組織断片を除去した後、10% FBSを含むDMEMを添加し、37℃において細胞を培養した。培地は3日毎に交換した。培地を交換した3日後にコンフルエントCICsの条件培地を得て、続いての分析に使用した。
次に、CTC間隙細胞(CTC interstitial cells; CICs)がTemを産生するか、について調べた。
麻酔した12週齢の日本白ウサギから心臓を切り離した。CTCの一次培養は、心臓弁間隙細胞(非特許文献30参照)およびアキレス腱(非特許文献31参照)についてのプロトコルを改変して行った。即ち、CTCを素早く取り出し、綿棒を用いて表層内皮細胞を取り、立体顕微鏡下で刻み、外植培養に用いた。1×1 mmの大きさの断片を組織より切り出し、コラーゲンコーティングした12ウェル皿(Iwaki)中に入れ、50%仔牛血清を含むDMEM(Sigma-Aldrich)中、37℃で24時間成長させた。50%FBSを含む1 mlのDMEMをさらに添加し、さらに37℃において24時間放置した。培地および組織断片を除去した後、10% FBSを含むDMEMを添加し、37℃において細胞を培養した。培地は3日毎に交換した。培地を交換した3日後にコンフルエントCICsの条件培地を得て、続いての分析に使用した。
またCICsまたはHCAECsを10μg/mlアセチル化アポタンパク(Ac-LDL)で処理し、DiI(Molecular Probes)で、37℃で1時間標識化した。蛍光細胞は、Nikon Diaphot顕微鏡(Ex554 nm, Em571 nm)下で観察した。
ウサギCTC外植片培養から一次CICsを得た(図2a)。外植細胞は、異常増殖による直交パターンを形成した。これらの細胞は、アセチル-LDL-DiI複合体について陰性であり、CTCがCICsからなることと一致していた。免疫染色では、TemはCICsの細胞質に見られ、NIH3T3細胞では全く発現していなかった。
また培養CICsにおけるTem発現に対するsiRNAの効果について検証した。ウサギTemに対するsmall interfering RNA(siRNA)二本鎖(Tem-siRNA, 5'-UUUAUUGGAAGUUCUUCCUCACUUG-3'、配列番号:11)またはコントロールsiRNA(5'-UUUCAAGGUUUGAAUUCUCUCCUUG-3'、配列番号:12)をリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、90%コンフルエンスまで生育させたCICsにトランスフェクションした。トランスフェクションから3日後のこれらの培養由来の培地をCMとして続いての実験に用いた。
RT-PCRにより、培養CICsがTemを発現し、この発現が特異的siRNA処理により阻害され得ることが確認された(図2b)。
〔実施例5〕 ヒト冠状内皮細胞(HCAECs)中の管形成
CICsのTem産生がヒト冠状動脈内皮細胞(human coronary artery endothelial cells; HCAECs)の管形態発生にどのように影響するか、について調べた。
ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAECs)は、Takara Biotechnologyより購入し、製造者の指示に従い維持し、本発明においては継代回数3または5回目で使用した。
CICsのTem産生がヒト冠状動脈内皮細胞(human coronary artery endothelial cells; HCAECs)の管形態発生にどのように影響するか、について調べた。
ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAECs)は、Takara Biotechnologyより購入し、製造者の指示に従い維持し、本発明においては継代回数3または5回目で使用した。
管形成分析は以下のようにして実施した。
24ウェル培養プレート(Costar)を増殖因子限定(reduced)マトリゲル(0.4 ml; Becton Dickinson Labware)でコートし、37℃において30分間インキュベートした。4時間飢餓状態に置いたHCAECsを、トリプシン-EDTAで処理し、20分間培養培地中に懸濁した。CICs若しくはNIH3T3細胞のCMと共に、またはCMなしで、各ウェルに30,000個の細胞の密度で細胞を重合化マトリゲル上に播き、以前記載された方法により管形成分析を行った(非特許文献11参照)。37℃で6時間培養した後、位相差光学顕微鏡(Carl Zeiss)下において写真撮影した。
24ウェル培養プレート(Costar)を増殖因子限定(reduced)マトリゲル(0.4 ml; Becton Dickinson Labware)でコートし、37℃において30分間インキュベートした。4時間飢餓状態に置いたHCAECsを、トリプシン-EDTAで処理し、20分間培養培地中に懸濁した。CICs若しくはNIH3T3細胞のCMと共に、またはCMなしで、各ウェルに30,000個の細胞の密度で細胞を重合化マトリゲル上に播き、以前記載された方法により管形成分析を行った(非特許文献11参照)。37℃で6時間培養した後、位相差光学顕微鏡(Carl Zeiss)下において写真撮影した。
結果、HCAECsはマトリゲル上で毛細管様管を形成した(図2c)。CIC条件培地(conditioned medium from CICs; CIC-CM)を用いた処理後には、偽培地またはNIH3T3細胞の条件培地(NIH3T3-CM)と比べて、これらの構造はあまり顕著でなくなった。siRNA処理CICsの条件培地と一緒に培養したHCAECsは、毛細管様構造を形成する能力を回復した。C末端Tem(組換えタンパク質)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞の条件培地は、管形成を同じように阻害した。
またHCAECsの毛細管様形態の定量的な評価は、各視野当たりの管様構造の全長を、画像処理および分析ソフトウェア(シオン画像コンピュータープログラム; 米国国立衛生研究所の公的ドメインより入手可能)測定することにより行った。各実験は5回行った。
統計分析の結果は、値を平均±SEMで示した。2つの平均値の比較のための統計学的有意性は、unpaired Student's t検定を用いて評価した。3つ以上の群の間の複数間比較は、ANOVAを用いて行った。P<0.05の値を有意と判断した。
結果、定量分析により、CIC-CMが管形成を58.3%阻害し、Tem特異的siRNA処理により管形成能が38.7%回復したことが示された(図2e)。
〔実施例6〕 HCAECsの遊走能
24ウェルプレート用の孔径8μmのフィルター挿入物を有する改変Boydenチャンバー(Becton Dickinson Labware)を用い、以前記載された方法により浸潤分析を行った(非特許文献31参照)。即ち、rhVEGF-Aを20 ng/mlの濃度でEBM2中に溶解し、Boyden装置の下チャンバーに入れた。HCAECs(5×104細胞/ウェル)を上チャンバーに植える48時間前に、NIH3T3細胞またはCICs(1×105細胞/ウェル)を下チャンバーに添加した。12時間のインキュベーション後、フィルターの上側に付着したままの細胞を綿先で除去し、フィルターの下側の細胞をヘマトキシリンで染色し、光学顕微鏡を用いて数えた。分析は5回行い、結果の平均を得た。
24ウェルプレート用の孔径8μmのフィルター挿入物を有する改変Boydenチャンバー(Becton Dickinson Labware)を用い、以前記載された方法により浸潤分析を行った(非特許文献31参照)。即ち、rhVEGF-Aを20 ng/mlの濃度でEBM2中に溶解し、Boyden装置の下チャンバーに入れた。HCAECs(5×104細胞/ウェル)を上チャンバーに植える48時間前に、NIH3T3細胞またはCICs(1×105細胞/ウェル)を下チャンバーに添加した。12時間のインキュベーション後、フィルターの上側に付着したままの細胞を綿先で除去し、フィルターの下側の細胞をヘマトキシリンで染色し、光学顕微鏡を用いて数えた。分析は5回行い、結果の平均を得た。
結果、TemはHCAECsの遊走能を阻害した(図2d)。改変Boydenチャンバー中、CICsと共培養したHCAECsは、NIH3T3細胞との場合と比べて遊走能を失った。CICsのTem特異的siRNA処理により、HCAECsは部分的に遊走能を回復した。コントロールsiRNAには効果は無かった。C末端TemをトランスフェクトしたNIH3T3細胞との共培養は、同様に遊走を阻害した。
また定量分析により、CICsが遊走細胞の数を73.2%減少させ、特異的siRNAにより遊走能が36.6%回復したことが示された(図2f)。
これらの結果から、CTCにおける血管新生インヒビターとしてのTemの中心的な役割が暗示される。
これらの結果から、CTCにおける血管新生インヒビターとしてのTemの中心的な役割が暗示される。
〔実施例7〕 CTC断裂領域の組織構造および免疫組織化学
次に、16人のCTC断裂患者について生検を行った。
16種のCTCを含むヒト試料を、僧帽弁断裂のため弁置換術または弁形成術を受ける15人の患者、および1人の剖検患者から集めた(男性8人女性8人、平均年齢62.4±12.6歳)。取り出した後すぐに試料をホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。コントロールとして、12人の剖検患者(男性10人、女性2人、平均年齢62.7±16.5歳)から20個の顕微鏡的および肉眼的に正常で、非石灰化、平滑、並びに柔軟な僧帽CTCを集めた。ヒト組織の剖検および外科的試料の使用は、慶応大学の学内調査委員会および国立循環器病センターの承認を受けた。
次に、16人のCTC断裂患者について生検を行った。
16種のCTCを含むヒト試料を、僧帽弁断裂のため弁置換術または弁形成術を受ける15人の患者、および1人の剖検患者から集めた(男性8人女性8人、平均年齢62.4±12.6歳)。取り出した後すぐに試料をホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。コントロールとして、12人の剖検患者(男性10人、女性2人、平均年齢62.7±16.5歳)から20個の顕微鏡的および肉眼的に正常で、非石灰化、平滑、並びに柔軟な僧帽CTCを集めた。ヒト組織の剖検および外科的試料の使用は、慶応大学の学内調査委員会および国立循環器病センターの承認を受けた。
結果、断裂領域は、中層およびコア層中に無数の大きな異常血管を含んでおり、顕著な組織変性を示していた(図3a)。断裂領域では、エラスチンは保存されていたが、TEMは著しくダウンレギュレーションされており、離れた非断裂領域ではダウンレギュレーションされていなかった。これらのTEM不足領域はVEGF-Aを発現しており、上述の大きな異常血管を含んでいた。
さらに、それらの内表面は平滑筋細胞ではなく、フォン・ヴィルブランド因子陽性(vWF+)内皮細胞で覆われていた。
さらに、それらの内表面は平滑筋細胞ではなく、フォン・ヴィルブランド因子陽性(vWF+)内皮細胞で覆われていた。
染色された領域の定量分析は、画像を至適彩度のモノクロに変換し、黒いピクセルとNIHイメージソフトウェアを用いて数えることにより行った。コンピューター画像分析により、細胞数(図3b)、vWF+細胞数(図3c)、およびVEGF-A陽性領域(図3e)の割合が著しく増加しているのに対し、断裂CTC中のTEM陽性領域(図3d)の割合は著しく減少していることが示された。
CTCの断裂領域はまた、VEGF-A発現に呼応して、MMP-1およびMMP-2が強く発現し、MMP-13が中程度に発現することが示された(図6)。対照的に、MMP-3は弱くしか発現せず、MMP-9は検出されなかった。正常CTCまたは非断裂領域ではMMPシグナルは検出されなかった。CD11b、CD14およびビメンチンについて陽性の多数の炎症性細胞が断裂領域に浸潤していた。
〔実施例8〕 Tem層削除による影響
次に、コラーゲンが豊富なコア層ではTem陽性層がないことによって、血管新生およびMmp活性化が誘導されるかどうか調べた。
ペントバルビタール(30 mg/kg)の静脈注射による軽い麻酔の後に、14〜16 kg(平均15.2±0.6 kg)のビーグル犬の成犬に挿管し、ハーバードレスピレーターを用いて室内空気を機械的に通気し、3%セボフルランおよび亜酸化窒素で麻酔した。右側第4肋間隙を開胸し、続いて心膜離被架(pericardial cradle)を作成し、上および下大静脈、並びに上行大動脈の間に、インライン人工肺(in-line oxygenator)を用いて体外バイパスを形成した。血流およびガス交換の両方を監視した。右心房を開き、三尖弁の中隔尖を直接的に表出させた。三尖弁の中隔尖のいくつかのCTCは、その表面を、エラスチン層(中層)を除くために削り落とした(図4a)。その後、心臓を閉じ、体外バイパスを取り除き、胸部を閉じた。1または3ヶ月後に、ペントバルビタールでイヌを麻酔し、KClを用いて殺した。CTCを削り取り(各群n=5)後、組織学的および免疫組織化学的実験を行った。
次に、コラーゲンが豊富なコア層ではTem陽性層がないことによって、血管新生およびMmp活性化が誘導されるかどうか調べた。
ペントバルビタール(30 mg/kg)の静脈注射による軽い麻酔の後に、14〜16 kg(平均15.2±0.6 kg)のビーグル犬の成犬に挿管し、ハーバードレスピレーターを用いて室内空気を機械的に通気し、3%セボフルランおよび亜酸化窒素で麻酔した。右側第4肋間隙を開胸し、続いて心膜離被架(pericardial cradle)を作成し、上および下大静脈、並びに上行大動脈の間に、インライン人工肺(in-line oxygenator)を用いて体外バイパスを形成した。血流およびガス交換の両方を監視した。右心房を開き、三尖弁の中隔尖を直接的に表出させた。三尖弁の中隔尖のいくつかのCTCは、その表面を、エラスチン層(中層)を除くために削り落とした(図4a)。その後、心臓を閉じ、体外バイパスを取り除き、胸部を閉じた。1または3ヶ月後に、ペントバルビタールでイヌを麻酔し、KClを用いて殺した。CTCを削り取り(各群n=5)後、組織学的および免疫組織化学的実験を行った。
麻酔したイヌモデルにおける三尖弁の中隔尖のCTCについて検査し、テノモジュリンが豊富な層(中層)を削り取った(図4)。急性炎症後1ヶ月目と3ヶ月目に免疫組織化学を行った。
Vegf-A、Mmp1、Mmp2およびMmp13は1ヶ月目から観察され、その発現領域はコア層の深さのおよそ15%に達していた。3ヶ月目には、発現は深さの37%に達し、発現は強くなっていった。さらに、異常新血管形成は3ヶ月目のみに観察された。血管新生およびMmp活性化は手術により誘導された炎症によって引き起こされたものではなく、Tem層の喪失により引き起こされていることが示唆された。
〔実施例9〕 機械的伸展および低酸素がCTC間隙細胞におけるテノモジュリンの発現を抑制する
テノモジュリンのダウンレギュレーションの原因を調査するために、本発明者らは、CTC間隙細胞におけるテノモジュリン発現が、機械的伸展(mechanical stretching)、低酸素または酸化ストレスなどのような様々な刺激により影響を受けるかどうか調査した。高血圧におけるような異常な力に供される場合や感染性心内膜炎におけるような炎症の間、CTC間隙細胞はこれらのタイプの刺激を受けると考えられた。
テノモジュリンのダウンレギュレーションの原因を調査するために、本発明者らは、CTC間隙細胞におけるテノモジュリン発現が、機械的伸展(mechanical stretching)、低酸素または酸化ストレスなどのような様々な刺激により影響を受けるかどうか調査した。高血圧におけるような異常な力に供される場合や感染性心内膜炎におけるような炎症の間、CTC間隙細胞はこれらのタイプの刺激を受けると考えられた。
まず本発明者らは、細胞伸展装置を用いてCTC間隙細胞を刺激した。6時間後、テノモジュリンの発現は検出できなかった(図7A)。次に、CTC間隙細胞をほとんど無酸素の低酸素条件下でインキュベートした。細胞は生存していたが、テノモジュリンの発現は早くも1時間後には検出されなかった(図7B)。最後に、酸化ストレスを媒介するアンチマイシンAをいくつかの濃度でもって、CTC間隙細胞を処理した。テノモジュリン発現は、アンチマイシンA濃度が10μg/ml未満で観察されたが、アンチマイシンA濃度が30μg/mlでは検出されなかった(図7C)。これらの所見は、機械的伸展、低酸素、および酸化ストレスなどの様々な刺激が、CTCにおけるテノモジュリン発現のダウンレギュレーションを引き起こすことを示している。
心疾患の臨床的重要性にもかかわらず、心臓弁膜症の基礎となるメカニズムについては殆ど知られていない。本発明によって、テノモジュリンが強力な抗血管新生因子であるだけでなく、抗腱断裂因子(腱断裂抑制因子)であることが示された。本発明によって得られたテノモジュリンに関する知見は、CTC断裂に続く房室弁逆流等の予防に際し有効であると考えられる。
また本発明者らにより、C末端およびN末端テノモジュリンタンパク質の両方が、正常CTCの中層では持続的に発現しているが、変質状態ではダウンレギュレートされていることが初めて示された。さらに、CTC間隙細胞(CIC)から分泌されるテノモジュリンの切断C末端ドメインは、決定的な血管新生アンタゴニストであることが示された。心臓弁膜は動的な小室ポンプにおける流動調節組織であるため、CTCは外層を覆う内皮細胞の機械的ストレスおよび損傷を受ける。テノモジュリンが、機械的損傷の結果生じる炎症や血管新生からCTCを保護している、という仮説について確認するため、本発明者らは正常状態および変質状態のCTCにおけるテノモジュリン発現について分析を行った。
内部腐食を防ぐために鋼鉄を表面塗装するのと同様に、発現パターンおよび生物的活性から、テノモジュリンは血管新生およびコア層変性から保護する働きをすることが示唆された。実際、断裂したCTCを観察したところ、異常な血管形成の増加と共にVEGF-AおよびMMP類が強く活性化され、CTC変性に到ることが明らかにされた。より重要なことに、テノモジュリンの局所的な欠如がこれらの領域と完全に一致していた。
テノモジュリン層が取り除かれた領域で血管新生および変性が徐々に起こるという仮説は、イヌを用いた実験結果によって裏付けられた。
テノモジュリン層が取り除かれた領域で血管新生および変性が徐々に起こるという仮説は、イヌを用いた実験結果によって裏付けられた。
これらの発見は、CTC断裂は偶然生じるのではなく、テノモジュリン層が局所的に欠如した時に、欠除した場所で起こることを強く示唆していた。本発明者らは、テノモジュリンの欠如は、
(1)感染性心内膜炎およびリウマチ熱等の急性炎症、ならびに
(2)外傷、高血圧および僧帽弁逸脱等の弁への過剰な機械的ストレス
によって生じ得ると推定した。
(1)感染性心内膜炎およびリウマチ熱等の急性炎症、ならびに
(2)外傷、高血圧および僧帽弁逸脱等の弁への過剰な機械的ストレス
によって生じ得ると推定した。
アキレス腱は、断裂が生じる最も一般的な部位の一つである。実質的な外傷なしに、大多数の患者において自然発生的に断裂が生じる(非特許文献22参照)。この病因には局所的血管新生が係わっており(非特許文献23および24参照)、断裂したアキレス腱の腱細胞中ではVEGF-Aが高レベルに発現しているが、正常な成人のものでは発現していないことが知られている(非特許文献25および26参照)。過剰細胞性、顕著な血管形成、およびMMP発現は、正常な腱構造の減弱、並びにそれに続く機械的緊張の減少へと通じ、自然発生的な断裂に到る(非特許文献26および27参照)。
これら先の知見や本発明から、局所で増大した機械的ストレスまたは炎症がテノモジュリンの局所的な欠如をひき起こし、断裂を生じさせるMMP活性化、血管新生およびCTC変性へと通ずるVEGF-A発現を誘導することが暗示された。また本発明において実際にCTC間隙細胞においてテノモジュリンがダウンレギュレートされる原因を調べたところ、機械的伸展、低酸素、および酸化ストレスなどの様々な刺激が、テノモジュリン発現のダウンレギュレートを引き起こしていることが示された。
本願発明の発見は、テノモジュリンまたは類似機能を有するタンパク質を、断裂またはCTCの先にある心臓弁膜症を予防するための治療剤として用いるための前臨床的研究を助けるものである。これらのメカニズムを理解することは、心臓弁膜症治療に関する新しい治療プログラムの基礎を築く上で重要であり、本発明は学術的な観点からも大きく寄与するものである。
Claims (11)
- 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂防止剤。
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA - 腱索における腱断裂防止作用を有することを特徴とする、請求項1に記載の腱断裂防止剤。
- 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤。
(a)テノモジュリンタンパク質
(b)テノモジュリンタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む、テノモジュリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質をコードするDNA - テノモジュリンタンパク質の発現活性化物質もしくは機能活性化物質を有効成分として含有する、腱断裂性疾患治療剤。
- 腱断裂性疾患が、心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、および手指伸筋腱断裂からなる群より選択される疾患である、請求項3または4に記載の腱断裂性疾患治療剤。
- テノモジュリンタンパク質が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1〜5のいずれかに記載の薬剤。
- テノモジュリンタンパク質の発現もしくは機能を活性化させる化合物を選択することを特徴とする、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法。
- 以下の工程(a)〜(c)を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法。
(a)テノモジュリンタンパク質を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞におけるテノモジュリンタンパク質の発現量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、発現量を上昇させる化合物を選択する工程 - 以下の工程(a)〜(c)を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法。
(a)テノモジュリン遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程 - 以下の(a)〜(c)の工程を含む、腱断裂性疾患治療剤のスクリーニング方法。
(a)テノモジュリンタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を上昇させる化合物を選択する工程 - 腱断裂性疾患が、心臓弁膜症、アキレス腱断裂、膝蓋腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、棘上筋腱断裂、肩甲下筋腱断裂、上腕二頭筋長頭腱断裂、手指屈筋腱断裂、および手指伸筋腱断裂からなる群より選択される疾患である、請求項7〜10のいずれかに記載のスクリーニング方法。
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JP2007258357 | 2007-10-02 | ||
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