JPWO2008143199A1 - 新規ポリペプチド,アフィニティークロマトグラフィー用材,及びイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また本発明は、前述した性質を持つプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインの変異体を用いたアフィニティークロマトグラフィー用材とその利用に関する。
(A)不純物の混じった試料をカラムに負荷する工程(負荷工程)
(B)負荷したカラムから精製対象とするポリペプチド以外の不純物を取り除く工程(洗浄工程)
(C)精製対象とするポリペプチドをカラムから回収する工程(溶出工程)
特に、モノクローナル抗体医薬品として使用され、産業上最も有用なヒト化又はヒト型IgGは、プロテインAとの親和性が他のイムノグロブリンより高く、溶出時に特に強い酸性度の緩衝液が要求されているため、会合・凝集が発生しやすく、それらIgGの失活が、広く業界で問題となっている。
プロテインA使用に際し、各種の添加物を加え、pH5からpH7での溶出を可能にする方法は、回収率の低さ,添加物自体の悪影響,電荷を持つ添加物除去の必要性(工業的精製のイオン交換クロマトグラフィー使用時に障害となる為),溶出pH5付近でのイムノグロブリン損傷の懸念の残存,等の問題があり、実用的では無かった。
有機化学的に合成された人工リガンドを、プロテインAの代替品として使用する方法には、a)溶出スピードが遅いため濃縮率が著しく低く、精製効率としては非常に悪い,b)添加物の併用が必要(精製の目的に逆行),c)不純物除去能力が低いなどの欠点がある。
抗体と酸性溶液の接触時間を短くする方法,溶出液に直ちに高濃度の中性緩衝液を混合する方法等もあるが、これらは抗体の会合・凝集の根本的な解決方法とは言えない。
イムノグロブリンの結合領域にある疎水性アミノ酸をヒスチジンに変異させたプロテインA変異体を用い、pH5での溶出を可能にする方法(非特許文献1)は、天然型より中性に近いとはいえpHを酸性にすることには代わりがなく、イムノグロブリンの損傷の懸念は残る。また、溶出スピードが遅すぎて、産業用工程には向かない。
一方、イムノグロブリンとリガンドの結合を解除するには、リガンドであるポリペプチドの立体構造を喪失させることが考えられるが、一般的にポリペプチドの立体構造を喪失させるには、尿素や塩化グアニジンなどの変性剤を添加する,温度を上昇させる,コファクターを除去する,又は塩濃度を変化させるなどが行われ、特に変性剤及び温度は多くのポリペプチドの変性に有効である。
プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインのひとつであるBドメインのアミノ酸配列の一部を変異させたZドメインにおいて、ループ2部分にグリシンを6個挿入又はループ2の配列をグリシンに置換した変異体は、立体構造がZドメインより不安定になった。この変異体を用いると、pH4.5でイムノグロブリンの溶出が可能である(非特許文献2)。しかしながら、天然型より中性に近いとはいえpHを酸性にすることには代わりがなく、イムノグロブリンの損傷の懸念は残る。
プロテインAは、E,D,A,B,及びCドメインと呼ばれるそれぞれ約60のアミノ酸から構成され、互いに高い相同性を示すこれらのドメインは、それぞれが単独でイムノグロブリンの共通領域(Fc領域)に結合できることが知られている。
(Y)ヘリックス1とヘリックス2を連結するループ1
(Z)ヘリックス2とヘリックス3を連結するループ2
その寄与の度合いは、一般的に疎水性アミノ酸側鎖の大きさと一定の相関関係があるとされており、側鎖の大きな内部アミノ酸を側鎖の小さいアミノ酸に置換すると、疎水結合が失われ、ポリペプチドの天然の立体構造を不安定化することができるとも考えられる。
従って、上記の研究は、イムノグロブリンの精製にそのまま応用できるものでは無かった。
つまり、イムノグロブリンの精製には、精製用ポリペプチドの、立体構造が安定した状態と、不安定化した状態を、pH変化以外の条件で、自在にコントロールし得ることが必要なのである。
配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得るものであることを特徴とするポリペプチド。
第一の発明記載のポリペプチドであって、ポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーが、下記式(I)乃至(III)の少なくともいずれかの条件を満たすものであることを特徴とするポリペプチド。
ΔΔG X-PWT≦-4.2kcal/mol (II)
ΔΔG X-BGG≦4.2kcal/mol (III)
第一の発明記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、BWT(配列番号1)の変性ギブス自由エネルギーΔG BWT の差ΔGX -ΔG BWT を表し、
ΔΔG X-PWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
第一の発明記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、PWT(配列番号2)の変性ギブス自由エネルギーΔGPWT の差ΔGX -ΔGPWT を表し、
ΔΔG X-BGGとは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
第一の発明記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、配列番号9記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGBGGの差ΔGX -ΔGBGGを表す。)
配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されていることを特徴とする第一の発明又は第二の発明に記載のポリペプチド。
第一乃至第三の発明のいずれかに記載のポリペプチドであって、アミノ酸配列において、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと60%以上の相同性を有するものであることを特徴とする、ポリペプチド。
第一乃至第四の発明のいずれかに記載のポリペプチドであって、0℃〜10℃におけるイムノグロブリンとの結合割合が、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合の30%以上有するものであることを特徴とする、ポリペプチド。
配列番号9及び10〜21,46のいずれかで表される、第一の発明乃至第五の発明のいずれかに記載のポリペプチド。
一分子内に、第一乃至第六の発明のいずれかに記載のポリペプチドを少なくとも2つ以上含むことを特徴とするポリペプチド。
プロテインAの変異体であって、第一乃至第七の発明のいずれかに記載のポリペプチドを分子内に含むことを特徴とする、プロテインA変異体。
第一乃至第七の発明のいずれかに記載のポリペプチド,又は第八の発明に記載のプロテインA変異体から選択される少なくとも1つ以上を含むことを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用材。
アフィニティークロマトグラフィーを用いた、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、温度変化によって、イムノグロブリンを溶出させることを特徴とする、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、第九の発明に記載のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いることを特徴とする、第十の発明に記載のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
第一乃至第七の発明のいずれかに記載のポリペプチド,又は第八の発明に記載のプロテインA変異体から選択されるポリペプチドをコードする遺伝子。
下記(1),(2)の工程を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用の、プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体の製造方法。
下記(M),(N)を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用装置。
(N)カラム内の温度を制御しうる手段及び/又はカラム内の温度を測定し得る手段
従って、これらをアフィニティークロマトグラフィー等のリガンドに用いる本発明のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法は、すべての工程を中性pHでおこなうことが可能であり、酸性溶液との接触によるイムノグロブリンの会合・凝集は一切発生しない。このため、失活していないイムノグロブリンを高純度で容易に回収することができる。更に、本発明の分離及び/又は精製方法は、従来のpH変化による方法に劣らないイムノグロブリンの溶出スピードを有し、産業用途においても、十分利用可能である。
本発明のポリペプチドは、下記の配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得るものである。
また、本発明のポリペプチドは、それ自体、単独のポリペプチドとして存在している場合の他、後述するような、
本発明の「一分子内に、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体を少なくとも2つ以上含むポリペプチド」や
本発明の「プロテインA変異体」
等の一部として存在する等、当該ポリペプチドをイムノグロブリン結合ドメインとして有する、他のプロテインの一部であっても良い。
また、-0.5kcal/mol≦ΔΔGX-BGG≦1.5kcal/molのポリペプチドについては、「ヒトIgG」の回収率が、pH8.0〜8.4(特にpH8.2程度)で、むしろ回収率が、5〜6%程度向上することが分かった。
温度によってイムノグロブリンとの結合性が変化し得る変異体であるか否かは、候補となる変異体を、カラムクロマトグラフィー等のリガンドとして用い、実際にイムノグロブリンを精製してみることで容易に確認することができるが、具体的には、例えば、下記に示したような指標を用いて選定することが可能である。
「pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得る」変異体の指標としては、変異ポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーが、下記式(I)乃至(III)の少なくともいずれかの条件を満たすもの等が、好ましいものとして挙げられる。
本発明のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、BWT(配列番号1)の変性ギブス自由エネルギーΔG BWT の差を表し、
(II)のΔΔG X-PWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
本発明のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、PWT(配列番号2)の変性ギブス自由エネルギーΔGPWT の差を表し、
(III)のΔΔG X-BGGとは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
本発明のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、配列番号9記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGBGGの差を表す。)
本発明において、変性ギブス自由エネルギーとは、ポリペプチドが、ある条件下で、天然状態から変性状態へと遷移する反応に必要なエネルギーを、天然状態・変性状態各々に係るギブス自由エネルギーの差を用いて表したものであり、「ポリペプチドXのΔG」あるいは「ΔGX」等と表現する。
この値が大きい程、変性に多くのエネルギーを要する,すなわち、ポリペプチドが変性し難いことを意味する。
ギブス自由エネルギーとは、ポリペプチドの、ある条件下での、熱力学的な状態を示す指標として利用可能なものである。
変性状態のギブス自由エネルギーGJと、天然状態のギブス自由エネルギーGIの差ΔGJ-Iによって、変性状態への移行の難しさによって表された、該ポリペプチドXの立体構造の安定性,つまり上記のΔGXを表すことができる。
ΔGJ-I=GJ−GI=ΔGX
特に、プロテインAのBドメイン及びその変異体の多くは、安定した中間体を形成することなく、天然状態と変性状態とを可逆的に遷移していることが知られている。その場合、プロテインAの立体構造の安定性は、天然状態と変性状態のギブス自由エネルギーの差(ΔG)を利用して、数値化することが出来る。
そして更に、“ある変異体同士の立体構造の安定性の差”は、それぞれのΔGの差(以下、ΔΔGと記載する。)によって、評価することができる。
これは、ポリペプチドの開始位置の認識の違いによるものである。プロテインA中の、どのアミノ酸位置からどのアミノ酸位置までを「Bドメイン」と捉えるかは、人によって若干の相違がある。非特許文献3や4では、本発明で言うBドメインのN末端のアミノ酸(A)よりも、1つ前のアミノ酸(T)からをBドメインと定義していたため、この変異位置を表す数字が、本発明よりも、1つ多くなっている。
尚、ギブス自由エネルギーの計算において、BドメインのN末端の違い(ポリペプチドが有するアミノ酸の数が1つ異なる事)は、考慮に入れなくて良い。ギブス自由エネルギーの値は、立体構造によって決まるため、立体構造の形成への関与が薄いN末端は、この値に殆ど影響しないからである。)
本発明のプロテインA及びその変異体のΔGの値は、超高感度示差走査カロリメトリー(DSC)等を用いた、公知の実験的手法によって測定可能であり(Fersht, A., Structure and Mechanism in Protein Science: A Guide to Enzyme Catalysis and Protein Folding, W. H. Freeman and Company, New York)、その数値からΔΔGを算出できる。
あるいは、すでに報告されているプロテインAのBドメインの変異体のΔGの値等(非特許文献3及び4)を用いても、ΔΔGを容易に算出可能である。
このため、ΔΔGの値は、比較するポリペプチド間で、異なる変異におけるΔGの積算で、算出できることとなる。
本発明における式(II)で使用するΔΔG X-PWTは、具体的には、非特許文献4のP.262に記載されたTable4中の、ΔGD-Nで表される値を用いて、上記の「ΔΔGの値は、比較するポリペプチド間で、異なる変異におけるΔG(Table4のΔGD-N)の積算で、算出できる」との考えに従って算出することができる。
各々の「変異自体」のΔGD-Nを算出するには、非特許文献4のTable4に記載されたΔGD-Nから、「Y15W変異体」のΔGD-N(これはY15W変異自体の値でもある。/Table4の最上段の値(4.99))を減算する必要がある。
何故なら、Table4のΔGD-Nの値は、プロテインAのBドメインに相当するポリペプチドの、「Y15W変異体」や、「Y15Wに加えて更に変異を加えた各種の変異体(全体)」についての値だからである。
Table4を利用する際には、本発明における変異位置の数字に、「1」を加えたものを利用する必要がある(例:本発明のL19Aの場合、Table4のL20Aの値を用いる。)。
何故なら、上述した様に、非特許文献4と本発明とでは、Bドメインの開始位置の認識に違いがあるからである。
上述の注意点1及び2を踏まえて、ΔΔGの具体的な計算方法を例示する。
例えば、後述する実施例12(BGG14)の変異体とPWTとの間のアミノ酸変異は、PWTの19位のLが、BGG14ではGになっている点のみである。
ΔΔG BGG14-PWT
=L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N
=Tabele4のL20Gの値(0.78)-Y15Wの値(4.99)
≒-4.2
上述した様に、ΔΔG X-PWTの値は、変異体Xと変異体PWTの間の「アミノ酸変異自体のΔG」の積算によって算出できる。
ΔΔG BGG13-PWT
={L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N}+{L23A(本発明でのL22A)変異自体のΔGD-N}
={Tabele4のL20Gの値(0.78)-Y15Wの値(4.99)}+{Tabele4のL23Aの値(-0.01)-Y15Wの値(4.99)}
=(0.78-4.99)+(-0.01-4.99)
≒-9.2
BドメインおよびZドメイン等のヘリックスを形成する小型のポリペプチドにおいて、ヘリックス中央付近に位置するAlaをGlyに置換する変異は、それらのポリペプチドのΔG(変性ギブス自由エネルギー)を約0.9kcal/mol減少、すなわち立体構造をその分だけ不安定化させることが分かっている(Fersht, A., Structure and mechanism in protein science: A guide to enzyme catalysis and protein folding. W. H. Freeman and Company, New York (1998), Table 17.3, p528.)。
従って、配列番号1は、配列番号2に比べて、変性ギブス自由エネルギーが0.9kcal/mol低いということもできる。
また、式(III)は、例えば22位のLeuのGlyへの置換を含む変異体の場合、立体構造の不安定度が高く、変性ギブス自由エネルギーを正確に特定できないため、式(I)や式(II)が計測不能である。
従って、このような場合、イムノグロブリンの温度差による回収率が高いことが最初に確認された配列番号9のポリペプチド(実施例5のBGG)を基準に、相対的な変性ギブス自由エネルギーの差を求め、イムノグロブリンの回収率が高かった範囲を式(III)として規定した。
尚、この差は、(II)と同様に、非特許文献3,4等にある数値から算出したものである。
ここで、Table4には、直接G20A(本件でのG19A)の値は存在しないので、かかる場合には、L20A変異の値からL20G変異の値を減算する方法によって、算出することが可能である。
=G20A(本発明でのG19A)変異自体のΔGD-N
={L20A(本発明でのL19A)変異自体のΔGD-N}−{L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N}
=(Table4のL20Aの値-Y15Wの値)−(Table4のL20Gの値-Y15Wの値)
=(2.32-4.99)-(0.78-4.99)
=2.32-0.78
≒1.5
ここで、Table4には、直接G20L(本件でのG19L)の値は存在しないので、かかる場合には、L20Lの値からL20Gの値を減算する方法によって、算出することが可能である。
尚、L20Lの値は、Table4には無いが、変異が無いことを意味するので、0となる。
=G20L(本発明でのG19L)変異自体のΔGD-N
={L20L(本発明でのL19L)変異自体のΔGD-N}−{L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N}
=0-(Table4のL20Gの値-Y15Wの値)
=0-(0.78-4.99)
=+4.2
[配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されている、本発明のポリペプチド]
変性ギブス自由エネルギーとは違った観点から、「pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得る」変異体を得る際の指標としては、「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されていることを特徴とするポリペプチド」という条件等が挙げられる。
Gln側鎖のアミド基が水素結合に関わっている場合に、そのアミド基を欠失させると水素結合が失われ、該ポリペプチドの立体構造を不安定にさせると考えられるからである。
このような変異の一例としては、後述の実施例17のBLG28等が挙げられる。
このような変異の一例としては、後述の実施例18等が挙げられる。
[配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと60%以上の相同性を有する、本発明のポリペプチド]
本発明の変異体は、配列番号1又は2のポリペプチドとアミノ酸配列において、一定の相同性を有していることが好ましい。
なぜなら配列番号1であるBドメイン(配列番号2は、この1アミノ酸置換体である)は、イムノグロブリンとの結合性が立証されているからである。
グリシン(Gly)は、プロリン(Pro)、アラニン(Ala)およびバリン(Val)と、
ロイシン(Leu)は、イソロイシン(Ile)と
グルタミン酸(Glu)は、グルタミン(Gln)と
アスパラギン酸(Asp)はアスパラギン(Asn)と
システイン(Cys)はスレオニン(Thr)と
Thrはセリン(Ser)およびAlaと
リジン(Lys)はアルギニン(Arg)と置換することが好ましい。
但し、化学的性状または構造的に類似のアミノ酸の組み合わせは、必ずしもこれに限定されるものではない。
[配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合の30%以上である、本発明のポリペプチド]
本発明の変異体は、0℃〜15℃におけるイムノグロブリンとの結合割合において、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと同等であることが好ましい。「同等」とは、変異前のポリペプチドのイムノグロブリン結合割合の、例えば30%以上の結合割合を有しているものが好ましいと考えられるが、より好ましくは40%以上,更に好ましくは50%以上,特に好ましくは70%以上の結合割合を有することを意味する。
具体的には、上述したような各種変異に加えて、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの少なくともひとつのAsnを、それ以外のアミノ酸に変異させること等によって、アルカリ耐性を向上させることができる。
上記の文献(US2005/14356A1)において、23位の変異が、アルカリ耐性の向上率が高いことが、知られているからである。
本発明において、精製の対象となるイムノグロブリンとは、動物の生体,あるいは動物の培養細胞等に由来するものの他、それらの構造を模して人工的に合成されたものであっても良く、モノクローナル抗体の他、ポリクローナル抗体であっても良い。
本発明のポリペプチドは、常法に従い、化学的・あるいは酵素的に、ポリペプチド合成装置等を用いて、一から合成することもできるが、まず対応する遺伝子を作製した後に、それを用いて発現させることもできる。
そして、この変異ポリペプチドの遺伝子は、後述する本発明の遺伝子の作製方法にも記載されている通り、公知の遺伝子組換え技術を使用して生産することができる。本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAを含むベクターで宿主細胞を形質転換し、その宿主を培養することによって、本発明のポリペプチドを大量にかつ経済的に製造することができる。
「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体」(以下、「GG」と記載することがある。)を、一分子内に少なくとも2つ以上含む本発明のポリペプチドとは、一分子内に、イムノグロブリン結合ドメインとして、上述した本発明のポリペプチドを少なくとも2つ以上含むことを特徴とするポリペプチドであるが、具体例としては、
「GG」を二つ含有するポリペプチド(以下、「2GG含有ポリペプチド」と記載することがある。),
「GG」を三つ含有するポリペプチド(以下、「3GG含有ポリペプチド」と記載することがある。),
「GG」を四つ含有するポリペプチド(以下、「4GG含有ポリペプチド」と記載することがある。)
等が挙げられる。
導入に際しては、プラズミドに組み込まれた複数の制限酵素認識部位から、始めに導入したポリペプチド遺伝子が脱離することのないような組み合わせを選択する。
「2GG含有ポリペプチド」遺伝子は、「2GG含有ポリペプチド」の製造に用いたプラズミドから得られるが、このとき、適当なプライマーを用いて、PCR法等で増幅することにより、「2GG含有ポリペプチド」遺伝子の両端の制限酵素切断位置を自由に設計することもできる。
本発明のプロテインA変異体は、上述の本発明のポリペプチドを分子内に含むプロテインA変異体である。
これは、プロテインAの遺伝子を用い、部位指定変異法等の公知の変異方法を用いて実施することができるが、プロテインA遺伝子中の、イムノグロブリン結合性ドメイン遺伝子を、それに対応する、本発明のポリペプチド遺伝子又はポリペプチド「nGG含有ポリペプチド」遺伝子と、相同組み換え等を用いて変換し、プロテインを発現させる等の方法も可能である。
可溶性分画から本発明のポリペプチド(「GG」,「nGGポリペプチド」)及び変異プロテインA等(以下、総称して「(本発明の)ポリペプチド等」と記載することがある。)を精製するには、公知のポリペプチド精製方法を用いることができ、例えば、塩析法とイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせること等で行える。アンモニア塩等を可溶性分画に加えることによって「本発明のポリペプチド等」を析出させた後、遠心分離で析出した「本発明のポリペプチド等」を回収し、適切な緩衝液に再び溶解させる。この段階での「本発明のポリペプチド等」の純度は70%から80%である。その後、陽イオン交換クロマトグラフィー又は/及び陰イオン交換クロマトグラフィーにより、「本発明のポリペプチド等」の純度を95%以上にすることができる。陽イオンクロマトグラフィー及び陽イオンクロマトグラフィーには、ResourceS、ResourceQ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製,日本)等の商業的に入手可能な支持体がそれぞれ使用可能である。
金属キレートアフィニティークロマトグラフィーには、ニッケルチャージアガロースゲルであるNi-NTA(株式会社キアゲン製,日本)等の商業的に入手可能な支持体が使用できる。
タグの切り離しには、スロンビンやエンテロキナーゼ等を用いることができる。
従って、精製後にタグの切り離しを予定している場合には、例えばpET15bプラズミド(メルク社製,日本)等のように、スロンビン等の認識部位が予め導入されたプラズミドベクター等を用いることが好ましい。
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用材としては、「本発明のポリペプチド等」を含むリガンド,当該リガンドを含むアフィニティークロマトグラフィー用支持体,当該支持体を含むアフィニティークロマトグラフィー用カラム等が挙げられる。
「本発明のポリペプチド等」は、そのままでアフィニティークロマトグラフィー等に用いるリガンドとして使用可能であるが、アフィニティークロマトグラフィーによるイムノグロブリンの精製効率を上げるには、リガンド自体の純度が高い方が好ましく、例えば純度が95%以上のものが好ましく、更に好ましくは99%以上である。
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用リガンドを、アフィニティークロマトグラフィー用支持体としてアフィニティークロマトグラフィーに使用するには、当該技術分野で公知の適切な支持体に固定して行うことができる。支持体としては、プレート,試験管,チューブ,ボール,高分子やガラス製のビーズ,ゲル等のマトリックス,高分子等からなるフィルター膜,及びメンブレン等の、不溶性担体等が挙げられる。材質としては、例えば、アガロース、ポリアクリルアミド、デキストラン又は他の高分子ポリマー等多数が、商業的に入手可能であり、それらの固体支持体が任意に使用できる。
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用リガンドを、アフィニティークロマトグラフィー用に、固体支持体に固定する方法としては、当該技術分野において周知であり文献に記載されている多様な技術が任意に使用できる(特許公開2006‐304633、及びPCT/SE03/00475に詳しく記載されている)。例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド等のカップリング剤、又はカルボキシル基又はチオール基等による固体支持体の活性化による固定化が好ましく挙げられる。
(2)「一分子内に、主としてと同一の「GG」を複数含むポリペプチド(nGG含有ポリペプチド)」を含むリガンド
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用カラムは、充填するアフィニティークロマトグラフィー用支持体の少なくとも一部に、上述の本発明のアフィニティークロマトグラフィー用支持体を用いることで、製造することができる。
本発明のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法は、pH5〜9,60℃未満の条件下、アフィニティークロマトグラフィーを用い、温度変化によって、イムノグロブリンを溶出させる方法である。
本発明の方法においては、温度のコントロールが重要となるが、温度をコントロールする方法としては、例えばアフィニティークロマトグラフィー用カラムの周囲に、循環する水等が直接接触するように循環用ジャケットを配置し、循環水等の温度を調節することにより該カラムの内部の温度を制御する方法等が挙げられる。
上記で用いられる緩衝液としては、たとえば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液などが好まれる。
上記のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法においては、「本発明のポリペプチド等」を、少なくとも一部のアフィニティーリガンドとして用い、上記の方法で作成した、本発明のアフィニティークロマトグラフィー用支持体を充填したアフィニティーカラムを用いて行うのが好ましい。
本発明の「本発明のポリペプチド等」をコードする遺伝子は、本発明のポリペプチド(「GG」,「nGG含有ポリペプチド」),プロテインA変異体等を産生するために、具体的には、これらを産生し得るベクター等の構築等において、有用である。
具体的には、配列表において一本鎖として表示されているもののほか、これらと相補的な配列を有するものであっても良く、またこのような相補的な配列とともに、二本鎖として用いる場合もあり、これにはDNAとRNAのハイブリッドも含まれる。
本発明の、イムノグロブリン精製用の、プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体の製造方法は、下記(1),(2)の工程を含むことを特徴とするものである。
(2)pH5〜9,60℃未満の条件下、温度変化に応じてイムノグロブリンとの結合性が変化するものを選択する工程。
本発明のイムノグロブリン精製用装置は、下記の(M),(N)を構成要件として含むものである。
(N)カラム内の温度を制御しうる手段及び/又はカラム内の温度を測定し得る手段
(本発明のポリペプチドのDNA作成)
本発明のイムノグロブリン結合Bドメイン変異体の、アミノ酸配列に対応する全長2本鎖DNAを構築する過程を図1にあらわした。
該ポリペプチドのDNA配列は、N末端側がNdeIの認識部位、C末端側がXhoIの認識部位となるように設計した。
本発明のイムノグロブリン結合ドメインのアミノ酸配列に対応する全長2本鎖DNAを含む発現用ベクターpET-GGを構築する手順を図2に表した。制限酵素(NdeI及びXhoI)を用いて、pET15bプラズミド(メルク社製,日本)のクローニングサイトを切断した。該プラズミドをQIAquick DNA cleanup system(キアゲン社製,日本)を用いて精製した後、T4DNAリガーゼを用いて、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応する全長2本鎖DNAを該プラズミドのクローニングサイトに接合するライゲーション反応を行い、本発明のポリペプチド(以下「GG」と記載することがある。)を発現し得るプラズミドベクターを得、「pET-GG」と名付けた。
pET-GGのクローニングサイトの図を、図3に示した。
上記で得られたプラズミドベクターを用いて、ヒートショック法により、XL1-Blueコンピテントセル(日本ジーン社製,日本)の形質転換を行った。その反応物を50mg/lのアンピシリンを含むLB(以下、Amp-LBと略記する)培地プレートで18時間増殖させた。該プレート上に出現したコロニーをAmp-LB液体培地に接種し、18時間増殖させて本発明のプラズミドで形質転換された大腸菌クローンを選択した。
この大腸菌株から、QIAprep Spin miniprep kit(キアゲン社製,日本)を使用して、本発明のポリペプチドの発現用ベクターpET-GGを精製した。
この発現用ベクターを用いれば、下記の用にして、本発明のポリペプチドを発現させることができる。
pET15bプラズミドを用いて製造したpET-GGを用いて、例えば、下記実施例2で用いたBL21(DE3)等のような適当な発現用大腸菌を形質転換することによって、本発明のポリペプチドが生産される。この際、N末端側にHisタグ(6×His)とタンパク質制限酵素スロンビンの認識配列等が接合された融合ポリペプチドとして生産される。
ポリペプチドを2つ連結した融合ポリペプチドの生産は、下記の方法で行うことができる。
本発明の「2GG含有ポリペプチド」を製造するため、「GG」を製造し得る実施例1のプラズミドに、本発明のポリペプチド遺伝子を追加導入する。
3個のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを作成するには、下記の様にすれば、容易に実施することができる。
これを、XhoIとBamHIを用いて切断したpET-GGに挿入する。これにより作成されるプラズミドは、pET-3GGであり、生産される融合ポリペプチドは、Hisタグ−スロンビン認識部位−ポリペプチド−ポリペプチド−ポリペプチドとなる。
4個のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを作成するには、pET-3GGを用いて「3GG含有ポリペプチド」遺伝子を作成する等して、実施例3と同様の手順で行える。
構築したプラズミドpET-GGを用いて、BL21(DE3)コンピテントセル(日本ジーン社製,日本)をヒートショック法を用いて形質転換し、その反応物をAmp-LB培地プレートで18時間増殖させた。該プレート上に出現したコロニーをAmp-LB液体培地に接種し18時間増殖させて、本発明のポリペプチドを発現する大腸菌株を得た。この大腸菌株を50mg/lのアンピシリンを含む2×TY液体培地に接種し、600nmにおける吸光度が0.7から0.8程度に達するまで、37℃で振とう培養をした。その後、最終濃度が1mMになるようにIPTGを加え、さらに30℃で18時間振とう培養を続けて、本発明のポリペプチド(以下、「BGG」と記載する。)を含む融合ポリペプチドを発現させた。
本発明のポリペプチドを発現させた大腸菌を遠心分離によって回収し、20mMイミダゾール、0.5M NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に懸濁した。この懸濁液に懸濁された大腸菌を凍結解凍法で破砕し、遠心分離によって目的の融合ポリペプチドを上澄みに回収した。この上澄みをNi-NTA(キアゲン社製,日本)に負荷し、40mMイミダゾール及び500mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)でNi-NTAを十分洗浄した後、250mMイミダゾール及び500mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)を用いて本発明のポリペプチドを溶出させて回収した。本発明のポリペプチドの純度は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、SDS-PAGEと略記する)によって確認した。ポリペプチドの濃度はTyrの276nmにおける吸光度で決定した。
本発明のポリペプチドからなるリガンドのアフィニティークロマトグラフィー用支持体への固定化は、HiTrap NHS-activated HP(GEヘルスケアバイオサイエンス社製,日本)を用いて行った。該カラムにはアガロースを固体支持体とし、6原子からなるスペーサーを挟んで活性化されたN-ヒドロキシスクシンイミドが結合された支持体が充填されている。カップリング剤としては、200mM NaClを含むNHCO3緩衝液(pH8.3)を用いて、本発明のポリペプチドを該カラムに固定化した。
5℃に調整した恒温水槽に入れて十分な時間をおくことにより、該カラムの内部の温度を5℃に調整した。同じく恒温水槽に入れて5℃に調整した100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に5.0mg(280nmの吸光度により決定)のヒトIgGを溶解させ、その試料溶液を該カラムに負荷した。該カラムを5℃の100mM Naclを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で十分に洗浄した後、該カラムを37℃の恒温水槽に移し、37℃の100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)でヒトIgGを溶出させた。溶出した試料溶液の280nmの吸光度を測定することにより、4.8mgのヒトIgGを回収できたことが判明した。
また、この分離及び/又は精製速度は、従来のpH変化による方法に劣らないイムノグロブリンの溶出スピードを有しており、産業用途においても、十分利用可能であることが分かった。
下記表2に示したテンプレートプラズミドとプライマーを用いて、表3に示す、各種の本発明のポリペプチドを作成した。
尚、変異部分の表現は、配列番号2のポリペプチドとの差の部位を示している。
実施例1で作成したpET-GGを用いて、部位指定変異法を使用して、配列番号2のポリペプチド(PWT)を発現するベクター(pET-PWT)を作成した。
尚、このベクターを作成するにあたり、実施例1で作成したpET-GGを基準にしたのは、単に便宜的な理由からであり、他の製法で作成しても、勿論構わない。
この反応に使用した溶液は、テンプレート及びプライマーに加えて、pfu turbo DNAポリマレーゼ(キアゲン社,日本)等のDNA増幅に必要な成分を含む。
pET-PWTの精製は、pET-GGの精製と同様の方法で行った。pET-PWTにコードされたポリペプチドの発現及び精製等は、[実施例5]及び[実施例6]に記述されている、pET-GGと同様の方法を用いて行った。この発現したポリペプチドは、pET-GGを用いて発現したポリペプチド(BGG)と同様の融合ペプチドである。
実施例9〜20ポリペプチドを発現するプラズミドは、表2に示しように、各テンプレートプラズミドと所望の変異を含むプライマーとを組み合わせて、pET-PWTと同様の方法で作成した。それらの増幅および精製は、pET-GGと同様の方法で行った。それらのプラズミドベクターを用いたポリペプチドの発現及び精製は、pET-GGと同様に行った。これらの発現した実施例9〜20のポリペプチドは、pET-GGを用いて発現したポリペプチド(BGG)と同様に融合ペプチドである。
PWTおよび上記の変異体のアフィニティークロマトグラフィー支持体への固定化は、実施例7と同様に行った。
2〜5℃に調整した恒温水槽に入れて十分な時間をおくことにより、該カラムの内部の温度を1〜5℃に調整した。同じく恒温水槽に入れて1〜5℃に調整した100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に1.6mgのヒトIgG(フルカ社)を溶解させ、その試料溶液を該カラムに負荷した。該カラムを1〜5℃の100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で十分に洗浄した後、該カラムを37℃の恒温水槽に移し、37℃の100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)でヒトIgGを溶出させた。溶出した試料溶液の容量と280nmの吸光度とを測定することにより、ヒトIgGの回収率(精製率)を決定した。
更に、変性ギブス自由エネルギーの差と、IgGの回収率の関係を図5,6に示した。
尚、実施例8(IgGの精製)において、実施例5のBGGを用いてヒトIgGを精製した時、BGGは96%のIgG回収率を示した。今回、実施例9〜20のポリペプチドと同じ条件で、再度、実施例5のBGGを用いたIgGの回収実験を行ったところ、表4に記載した通り、その回収率は、何度確認しても、一定して約75%であった。
実施例5及び実施例9〜20のポリペプチドそれぞれの、ΔΔGX-PWT (対象の変異体XのΔGX からPWTのΔGPWT を減算した値)を、IgGの回収率等と共に表4に示す。
尚、これらの値は、上述した通り、公知のプロテインAのBドメインの変異体のΔG等(非特許文献3及び4)を用いて算出した。
BGG(実施例5),BGG11(実施例9),BLG18(実施例14),BLG19(実施例15),BLG21(実施例16),BLG28(実施例17),及びBLG32(実施例18)は、72〜78%の回収率を有する。
これらのポリペプチドは、すべて22位のLeuがGlyに置換された変異を含む。
したがって、ΔΔG X-PWTを決定することが難しい場合であっても、その安定性がBGGの安定性と比較して、-0.5〜+1.5kcal/molの範囲内であれば、同等の回収率を得られることが分かった。
また、ΔΔG X-PWTが-9.2kcal/molであるBGG13が回収率91%を有することから、ΔΔG X-PWTがこの近辺の値であれば、BGG13以外の変異体であっても、同様の高い回収率を期待できる。
尚、溶出した試料溶液をゲル濾過カラム(Superdex 200 10/300GL、GEヘルスケアバイオサイエンス社,日本)を用いて分析した結果、溶出した試料溶液において、IgGの会合・凝集の発生は認められなかった。
従って、配列番号2を基準にした上記の変異体が、後述する実施例でイムノグロブリンの温度変化による回収率が高かったことに照らせば、実施例の変異体の29位をGlyにした配列番号1基準の変異体も、同様に、上述した好ましい変性ギブス自由エネルギーを有している筈であり、同等の性能を有すると考えられる。
実施例11のBGG13の23位のAsnをThrに、上述の部位指定変異法を用いて、置換したポリペプチドを作製した。
具体的には、表2に示したように、pET-GG13をテンプレートプラズミド,配列番号44,及び配列番号45のポリペプチドをプライマーとして用い、実施例9〜21のポリペプチドと同様に作製した。
得られたポリペプチドを、NT23BGG13(配列番号46)とする(表3参照)。
実施例11のBGG13及び実施例21のNT23BGG13の各々を用い、イムノグロブリンの精製の複数回精製と、その間の、カラムのアルカリ洗浄を行い、アルカリ洗浄による、精製効率の変化(ポリペプチドの耐アルカリ性)を比べた。
決定の方法は以下で説明する。緩衝液は20mM Phospahte, 150mM NaCl,pH7.0の緩衝液を使用した。流速は、1.0ml/minであった。まず、NaOH処理前の溶出IgG量を決定した。その後所定の時間だけ0.1MのNaOHを該カラムに接触させた。次に前回と同一量のIgGを該カラムに添加し、同様に37℃で溶出したIgG量を決定した後、0.1MのNaOHを該カラムに所定の時間、接触させた。NaOH処理は室温で行った。
また、NT23BGG13の、NaOH処理前のイムノグロブリン回収率は、90%であり、BGG13と殆ど変わらなかった。
つまり、少なくとも、「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合」の30%以上であることが確認された。
何故なら、配列番号1や2のイムノグロブリンとの結合割合が、仮に100%であったとしても、その30%以上に、該当することになるからである。
Claims (14)
- 配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得るものであることを特徴とするポリペプチド。
- 請求項1記載のポリペプチドであって、ポリペプチドのギブス自由エネルギーが、下記式(I)乃至(III)の少なくともいずれかの条件を満たすものであることを特徴とするポリペプチド。
ΔΔG X-BWT≦-3.3 kcal/mol (I)
ΔΔG X-PWT≦-4.2kcal/mol (II)
ΔΔG X-BGG≦4.2kcal/mol (III)
(式中、ΔΔG X-BWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
請求項1記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、BWT(配列番号1)の変性ギブス自由エネルギーΔG BWT の差ΔGX -ΔG BWT を表し、
ΔΔG X-PWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
請求項1記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、PWT(配列番号2)の変性ギブス自由エネルギーΔGPWT の差ΔGX -ΔGPWT を表し、
ΔΔGX-BGGとは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
請求項1記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、配列番号9記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGBGGの差ΔGX -ΔGBGGを表す。) - 配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されていることを特徴とする請求項1又は2記載のポリペプチド。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載のポリペプチドであって、アミノ酸配列において、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと60%以上の相同性を有するものであることを特徴とする、ポリペプチド。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載のポリペプチドであって、0℃〜10℃におけるイムノグロブリンとの結合割合が、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合の30%以上であることを特徴とする、ポリペプチド。
- 配列番号9及び10〜21,46のいずれかで表される、請求項1乃至5のいずれかに記載のポリペプチド。
- 一分子内に、請求項1乃至6のいずれかに記載のポリペプチドを少なくとも2つ以上含むことを特徴とするポリペプチド。
- プロテインAの変異体であって、請求項1乃至7記載のいずれかのポリペプチドを分子内に含むことを特徴とする、プロテインA変異体。
- 請求項1乃至7のいずれかに記載のポリペプチド,又は請求項8記載のプロテインA変異体から選択される少なくとも1つ以上を含むことを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用材。
- アフィニティークロマトグラフィーを用いた、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、温度変化によって、イムノグロブリンを溶出させることを特徴とする、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
- イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、請求項9記載のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いることを特徴とする、請求項10記載のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
- 請求項1乃至7のいずれかに記載のポリペプチド,又は請求項8記載のプロテインA変異体から選択されるポリペプチドをコードする遺伝子。
- 下記(1),(2)の工程を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用の、プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体の製造方法。
(1)プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体を選択する工程。
(2)pH5〜9,60℃未満の条件下、温度変化に応じてイムノグロブリンとの結合性が変化するものを選択する工程。 - 下記(M),(N)を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用装置。
(M)請求項9記載のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いたアフィニティークロマトグラフィー用カラム
(N)カラム内の温度を制御しうる手段及び/又はカラム内の温度を測定し得る手段
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