JPWO2008143171A1 - 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法 - Google Patents

糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2008143171A1
JPWO2008143171A1 JP2009515206A JP2009515206A JPWO2008143171A1 JP WO2008143171 A1 JPWO2008143171 A1 JP WO2008143171A1 JP 2009515206 A JP2009515206 A JP 2009515206A JP 2009515206 A JP2009515206 A JP 2009515206A JP WO2008143171 A1 JPWO2008143171 A1 JP WO2008143171A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
value
helicobacter pylori
pgii
pgi
pylori antigen
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2009515206A
Other languages
English (en)
Other versions
JP5437062B2 (ja
Inventor
俊広 大津
俊広 大津
谷口 茂
茂 谷口
直実 上村
直実 上村
古賀 泰裕
泰裕 古賀
敦司 高木
敦司 高木
井上 和彦
和彦 井上
滋美 中島
滋美 中島
隆 河合
隆 河合
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Meiji Co Ltd
Meiji Dairies Corp
Original Assignee
Meiji Co Ltd
Meiji Dairies Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Meiji Co Ltd, Meiji Dairies Corp filed Critical Meiji Co Ltd
Priority to JP2009515206A priority Critical patent/JP5437062B2/ja
Publication of JPWO2008143171A1 publication Critical patent/JPWO2008143171A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5437062B2 publication Critical patent/JP5437062B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Classifications

    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01NINVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
    • G01N33/00Investigating or analysing materials by specific methods not covered by groups G01N1/00 - G01N31/00
    • G01N33/48Biological material, e.g. blood, urine; Haemocytometers
    • G01N33/50Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing
    • G01N33/53Immunoassay; Biospecific binding assay; Materials therefor
    • G01N33/569Immunoassay; Biospecific binding assay; Materials therefor for microorganisms, e.g. protozoa, bacteria, viruses
    • G01N33/56911Bacteria
    • G01N33/56922Campylobacter
    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01NINVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
    • G01N2800/00Detection or diagnosis of diseases
    • G01N2800/06Gastro-intestinal diseases
    • G01N2800/062Gastritis or peptic ulcer disease

Abstract

本発明の課題は、被験者の負担が少なく簡便に実施することができ、かつ、見逃し例の割合が極めて少ない、胃粘膜の状態を病態およびその程度とともに胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率についても詳細に細分化することが可能な、胃粘膜の状態を判断するための方法を提供することにある。また、各病態の判断に関連して胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量するための方法をも提供することにある。前記課題は、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断する方法および前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する方法により解決される。

Description

本発明は、糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、胃粘膜の状態を判断する方法および胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する方法に関する。
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下、「ヘリコバクター・ピロリ」、「Hp」または「ピロリ菌」などと表記する)は、ヒト胃粘膜に存在するらせん形状のグラム陰性細菌である。ヒトのヘリコバクター・ピロリへの感染率は、年齢にしたがって高くなる傾向があり、中高年では70〜80%にものぼると言われている。
近年では、ヘリコバクター・ピロリが健常な胃に感染した場合には、まず胃粘膜に組織学的な炎症を呈し、そして次第に炎症が高度(活動性胃炎)になり、やがて胃粘膜萎縮(萎縮性胃炎)を併せ持つ状態になり、さらに胃粘膜萎縮が高度になると腸上皮化生が惹起されると考えられている。また、このヘリコバクター・ピロリの感染に基づく胃炎進行の過程と胃癌との関連についても盛んに議論がなされており、胃粘膜萎縮の程度が軽度の場合に比べ、中等度、高度になるほど胃癌発生の危険率は高くなり、腸上皮化生を認める場合には腸上皮化生を認めない場合よりも胃癌発生の危険率は高くなることが報告されるとともに、特に分化型胃癌に関してこの傾向が顕著であることも示唆されている(非特許文献1および2参照)。したがって、ヘリコバクター・ピロリへの感染は、胃炎発症の直接の原因であるのみならず、胃癌発生の危険因子の一つであると考えられている。現在、胃潰瘍ならびに十二指腸潰瘍と診断された場合に健康保険内でのヘリコバクター・ピロリの除菌治療が実施されるようになり、この除菌治療の前提または結果判定としてヘリコバクター・ピロリに対する感染の診断が行われている。ヘリコバクター・ピロリとの関連性が示唆されている胃潰瘍、十二指腸潰瘍ならびに胃癌等の疾病の予防、胃癌発症患者の治療を目的とした健康保険内での除菌治療は現状認められていないが、その必要性についても学会等で議論されている。
ヘリコバクター・ピロリへの感染を診断する方法としては、内視鏡検査と組織生検を必要とする侵襲的検査法と、これらを要さない非侵襲的方法とがあり、前者には、迅速ウレアーゼ試験(RUT)、鏡検法、培養法が用いられ、後者には、尿素呼気試験(UBT)、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体測定、便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定が用いられている。
侵襲的検査法では、被験者の負担が大きいという点の他に、ヘリコバクター・ピロリが胃内に不均一に分布しており、また腸上皮化生に至った胃粘膜にはヘリコバクター・ピロリが生息できないため、偽陰性が生じやすいという問題がある。また、その一方で、非侵襲的検査法では、比較的簡便に実施できるものの、UBTは、感度、特異度が高いが、ウレアーゼ活性を阻害する作用のある薬剤が投与されている場合には偽陰性が生じやすいという問題があり、また、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体測定では、感染初期には陰性となり、逆に除菌直後は陽性となることから、検査時期によっては正確な診断を行うことができないという問題がある。これに対し、便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定は、胃から消化管を経由して***される糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原を検出するもので、偽陰性が生じにくく、抗原性が便中の存在形態でも保たれていることから、感染状況の直接評価が可能という点で優れている(非特許文献3参照)。しかしながら、前記の検査法はいずれも上記の通り除菌療法を前提としてもしくは除菌の結果を判断するために感染の有無を診断することを目的として使用されるものであって、胃内ヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する必要性はなかったため、従来、胃内に存在する菌量自体の定量する方法については検討されてこなかった。
一方、胃炎の診断方法としては、従来から内視鏡検査およびペプシノーゲン法が用いられてきた。内視鏡検査は、炎症の程度および胃炎の種類ともに正確な診断が可能ではあるものの、被験者に対する肉体的負担が大きい上に費用の面でも負担が多いという点で、健康診断等の健常人が多く含まれる集団に対する胃炎の診断に用いるには不向きであり、また、ペプシノーゲン法は、血液中のペプシノーゲン濃度を測定するだけなので被験者の負担も少なく安価で簡便に実施できるものの、萎縮性胃炎の有無と程度を一定の基準値に基づいて判断する方法であり、胃粘膜萎縮に至っていない活動性の炎症(活動性胃炎)については評価することはできないという問題がそれぞれ存在する。
さらにまた、ペプシノーゲンI、ガストリンおよびヘリコバクター・ピロリ感染マーカーを検定することにより萎縮性胃炎を診断する方法等も提案されているが(特許文献1参照)、ヘリコバクター・ピロリ感染マーカーとしてヘリコバクター・ピロリ抗原を使用する場合については、具体的な実施例は記載されておらず、また診断のためのカットオフ値に関する検討は全くなされていない。さらに、萎縮性胃炎の程度、また萎縮を伴わない胃炎における炎症の程度を診断する方法についても、検討されていない。
したがって、胃炎の診断方法として、被験者の負担が少なく、簡便に実施することができ、かつ、胃炎の程度を詳細に細分化して診断できる方法の開発が求められていた。
そしてまた、胃癌の診断方法、胃癌に罹患している危険率あるいは将来胃癌に罹患する危険率の診断方法としては、X線検査、ペプシノーゲン法、内視鏡検査が実際の臨床現場では用いられている。X線検査は、早期胃癌の発見に活用されているが、見逃し例が多く、また将来胃癌に罹患する危険率の診断には用いることができないという問題があり、ペプシノーゲン法等の他の診断方法も併用してより正確な診断を行う必要がある。ペプシノーゲン法は、簡便であるが、見逃し例が一定の割合で存在する上に、X線検査と併用した場合にも発見できない胃癌症例もあり、また、胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率の程度を細分化することはできず、該当する癌の種類(未分化型癌もしくは分化型癌等)の判断をすることができない。さらに、内視鏡検査は、胃癌のみならず胃癌に罹患する危険率が高い胃粘膜の状態も正確に診断できるが、被験者の負担が大きく費用も高いことから、健康診断等の健常人が多く含まれる集団に対する1次スクリーニングには不適であるという欠点がある(非特許文献4参照)。
また、上記のペプシノーゲンI、ガストリンおよびヘリコバクター・ピロリ感染マーカーを検定することにより萎縮性胃炎を診断する方法において、癌の危険性の診断についても言及されているが(特許文献1参照)、ヘリコバクター・ピロリ感染マーカーとしてヘリコバクター・ピロリ抗原を使用する場合の具体的な実施例は記載されておらず、該当する癌の種類(未分化型癌もしくは分化型癌等)の判断については何ら検討されていない。
したがって、胃癌の一次スクリーニング法として、被験者の負担が少なく簡便に実施することができ、かつ、見逃し例の割合をできるだけ低くすることができ、さらに胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率の診断方法としても危険率の程度と危険率の高い胃癌の種類を詳細に細分化して診断できる方法の開発が求められていた。
柳岡公彦ら、消化器内視鏡、2006年、18:463−468 菅野健太郎、榊信広著「H.pylori発癌のエビデンス」、医学書院、2004年11月1日、p6−13およびp20−29 加藤知惠子ら、Helicobacter Research、2006年、10:404−410 三木一正編「ペプシノゲン法ハンドブック」、メディカルレビュー社、2001年3月、p10−27およびp50−52 特表2004−517322号公報
したがって、本発明の課題は、被験者の負担が少なく簡便に実施することができ、かつ、見逃し例の割合が極めて少ない、胃粘膜の状態を病態およびその程度とともに胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率についても詳細に細分化することが可能な、胃粘膜の状態を判断するための方法を提供することにある。また、各病態の判断に関連して胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量するための方法をも提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねる中で、多数の対象についてUBT(尿素呼気試験)、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の測定、血清ペプシノーゲンの測定を行い、それぞれの測定結果とその相関性を解析したところ、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量的に評価することができることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めた結果、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、対象の胃粘膜の状態を簡便かつ正確に判断することが可能であることを発見して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断する方法に関する。
また、本発明は、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値のみを指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断する、前記方法に関する。
本発明は、さらに、対象の血液中におけるペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比を指標とする、前記の方法に関する。
本発明はまた、対象の血液中におけるペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比が、3以下であることまたは3を越えることを指標とする、前記方法に関する。
さらにまた、本発明は、胃粘膜の状態が、軽度、中等度もしくは高度の炎症から選択される少なくとも1つである、前記の方法に関する。
また、本発明は、胃粘膜の状態が、軽度、中等度もしくは高度の萎縮から選択される少なくとも1つである、前記の方法に関する。
本発明はさらに、胃粘膜の状態が、現在、胃癌に罹患している危険率の高い状態である、前記の方法に関する。
また、本発明は、胃癌が、未分化型胃癌または分化型胃癌である、前記方法に関する。
さらに本発明は、胃粘膜の状態が、将来、胃癌に罹患する危険率の高い状態である、前記の方法に関する。
本発明はまた、胃癌が、未分化型胃癌または分化型胃癌である、前記方法に関する。
さらにまた、本発明は、ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値が、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体を使用した酵素免疫測定法により測定されたものである、前記の方法に関する。
そしてまた、本発明は、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体がモノクローナル抗体である、前記方法に関する。
本発明は、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する方法に関する。
本発明はさらに、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値のみを指標として、前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する、前記方法に関する。
また本発明は、ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値が、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体を使用した酵素免疫測定法により測定されたものである、前記の方法に関する。
そしてまた、本発明は、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体がモノクローナル抗体である、前記の方法に関する。
なお、本発明の方法は、糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の測定値を指標として採用したことにより、ヘリコバクター・ピロリの感染および増殖に起因して変化する胃粘膜の状況を時間差なくモニターすることを可能にし、またそのことにより胃粘膜の状況を簡便かつ正確に判断することを可能にしたものである。
本発明によれば、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原を定量的に測定するだけで、対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの総菌量を定量的に評価することができる。
そしてまた、本発明によれば、対象の胃内におけるヘリコバクター・ピロリの総菌量を定量的に反映する糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、対象の胃粘膜の状態を極めて正確に判断することができる。例えば、胃粘膜の炎症については、発症直後の極めて軽微な炎症から進展した高度の炎症まで、詳細に分類することができ、また胃粘膜の萎縮および炎症の程度という観点から細分化した判断を行うことができる。胃癌の一次スクリーニングについては偽陰性率や見逃し率が極めて低いことから信頼性の高い判断を行うことができるとともに、胃癌に罹患している危険率や、未発症者については将来罹患する危険率の程度とその癌の種類についても判断することが可能である。
したがって、本発明によれば、炎症、萎縮および胃癌等の胃粘膜の異常を有する対象を早期の段階で発見することができ、また、対象の糞便中のピロリ菌抗原を測定するだけで、前記の判断を行うことができるため、内視鏡検査や採血を必ずしも必要としないことから、対象の負担を従来に比べ大きく軽減することができ、本発明の方法は、健康診断等の健常人が多く含まれる集団に対する一次スクリーニング方法として特に優れたものである。
また、本発明によれば、萎縮を有さない対象についても、従来のペプシノーゲン法によっては見出すことができなかった炎症の程度や進行の程度を併せて正確に判断することができるため、活動性胃炎を発生母地とする未分化型胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率についても判断することが可能である。
そして、本発明において、対象の糞便中に存在するピロリ菌抗原の定量的測定値のみでなく、対象の血液中におけるペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比をさらに指標として用いる場合には、萎縮性胃炎における萎縮の程度をも細分化して判断することが可能であることから、ピロリ菌感染に起因する慢性胃炎の自然経過に伴って進行する胃粘膜の萎縮と相関した胃粘膜の老化についても、その程度を詳細に分類して判断することが可能である。したがって、萎縮性胃炎の程度に応じて発生率が高くなると考えられている、胃癌に罹患している危険率や将来罹患する危険率の高い状態についても細分化して判断することができ、胃癌に罹患している危険率の高い対象にはさらに内視鏡検査を行って胃癌の確定診断を実施し、胃癌未発症であるが将来罹患する危険率の高い者について除菌治療等の予防や定期的な管理健診のなどの対策を検討するために活用することができる。
また、本発明の方法によれば、コストがかからず、煩雑な手順を踏むことなく、極めて短時間に、胃粘膜の状態を分析することができる。例えば、本発明の方法に係るプログラムを作製して使用する場合、コンピュータ等に、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値のみ、あるいはさらに対象の血液中におけるペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比等を入力するだけで、分析する対象の胃粘膜の状態を自動的にコンピュータ等のディスプレイ上に出力することができる。
さらに、本発明によれば、対象の胃粘膜の状態を、胃粘膜の状態別カテゴリーに区画された直線上あるいは平面上に点などで表示することができるため、対象の現在の位置と周辺の区画の病態から、現在の状態および将来のリスクを視覚的に確認することができる。また、経時的に本発明の方法により胃粘膜の状態が判断されている対象では、点の経時変化をベクトルで示すこともできるため、以前からの改善の程度や進行の程度、将来のリスクなどを簡単に把握することができる。
すなわち、本発明は、対象に経済的、時間的、身体的負担をかけることなく前記対象の胃粘膜の状態を極めて正確に判断することができ、対象の炎症や萎縮の程度、また胃癌に罹患している危険率や将来罹患する危険率の程度を詳細に分類して判断することができるものであって、かかる効果を有する胃粘膜の状態を判断する方法は、本発明により初めて実現されたものである。
ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団を、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値とを軸とした散布図において、PGI/PGIIが3以下の集団とPGI/PGIIが3を超える集団とに分けて示す図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団を、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値とを軸とした散布図において、両者の間に相関性がある集団と両者の間に相関性がない集団とに分けて示す図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団について便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを軸とした散布図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団を、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを軸とした散布図において、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に相関性がある集団(既存集団)と、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に相関性がない集団(新規集団)とに分けて示す図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団について便中ピロリ菌抗原OD値とPGIとを軸とした散布図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団について便中ピロリ菌抗原OD値とPGIIとを軸とした散布図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団についてUBT値とPGIとを軸とした散布図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団についてUBT値とPGIIとを軸とした散布図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団についてUBT値とPGI/PGIIとを軸とした散布図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団を、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを軸とした散布図において、胃粘膜の状態に関してカテゴリーI〜IVならびに便中ピロリ菌抗原OD値0.1未満をPGI/PGIIが3を基準に分けて示す図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団を、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを軸とした散布図において、胃粘膜の状態に関してカテゴリーI〜IVの4集団とに分け、胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率とその癌の種類を示す図である。 ヘリコバクター・ピロリ陽性健常者の集団を、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを軸とした散布図において、胃粘膜の状態に関してカテゴリーI〜IVの4集団とに分け、胃癌未発症者に対して将来胃癌を罹患する危険率に基づき予防・治療対策の例を示す図である。 便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを指標として分類したカテゴリーI〜IVとPGI値との関係を示す図である。 便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとを指標として分類したカテゴリーI〜IVとPGII値との関係を示す図である。 ピロリ菌感染性胃炎の推移の典型例を示す図である。
本発明によれば、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリ菌量を定量する方法および前記対象の胃粘膜の状態を判断する方法が提供される。
本発明において、「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよい。
本発明の方法において指標として用いられる、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値は、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の量に応じて、連続的な数値として得られる測定法により得られたものであればどのような測定法を用いて得られたものでもよく、例えば、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体を使用した、酵素免疫測定法(enzyme immunoassay、EIA)、放射線免疫測定法(radio immunoassay、RIA)あるいは蛍光免疫測定法(fluorescence immunoassay)などの既知の方法により得られた測定値を用いることができるが、これらのなかでも操作の簡便性という観点から酵素免疫測定法を用いて測定された測定値であることが特に好ましい。
本発明の方法において用いられるヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体(以下、「抗ヘリコバクター・ピロリ抗原抗体」とも表記する)としては、ポリクローナル抗体を用いてもよく、またモノクローナル抗体を用いてもよいが、抗原に対する特異性と結果の再現性という観点からモノクローナル抗体を用いることが好ましい。ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体は、例えば、ヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ、熱ショックタンパク質もしくはカタラーゼ、また、ヘリコバクター・ピロリの生菌、ヘリコバクター・ピロリの死菌もしくはその断片などが抗原となり得る状態で糞便中に存在することから、これらを抗原として、既知の抗体作製法により作製することが可能である。
ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体を使用した酵素免疫測定法は、例えば以下のように行うことができる;
まず、マイクロプレートのウェルやプラスチックチューブなどの固相にあらかじめ抗ヘリコバクター・ピロリ抗原抗体を結合させておき、これにサンプル(対象の糞便の希釈液)を添加して、サンプル中のヘリコバクター・ピロリ抗原を抗原抗体反応により固相に結合させる。次いで、夾雑物を洗い流した後、酵素標識した第二の抗体(抗ヘリコバクター・ピロリ抗原抗体)を添加して再度抗原抗体反応により「固相化抗体/ヘリコバクター・ピロリ抗原 /酵素標識抗体」のサンドイッチ構造を構築させる。ここで遊離の酵素標識抗体を洗い流し、発色基質を添加して、サンドイッチ構造の量(すなわち、サンプル中のヘリコバクター・ピロリ抗原の量)に比例した発色反応を起こさせる。その後、生成した発色物質の量を吸光度計等で読み取り、得られた吸光度などを測定値とする。
上記の抗ヘリコバクター・ピロリ抗原抗体を標識するために用いられる酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼなどを用いることができる。抗体の酵素標識は、マレイミド法等の既知の方法により適宜行うことができる。さらに、上記の発色基質として、上記の酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合には、3,3’−5,5’−テトラメチルベンチジン、2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン)−6−スルホン酸(ABTS)、ルミノール、もしくはo−フェニレンジアミン等、上記の酵素としてアルカリフホスファターゼを用いる場合には、p−ニトロフェニルホスフェート、メチルウンベリフェリルホスフェート、もしくは3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3’’−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン等、上記の酵素としてβ−ガラクトシダーゼを用いる場合には、p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトシド、もしくはメチルウンベリフェリル−β−D−ガラクトシド等を用いることができる。
糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原を酵素免疫測定法により測定するためのキットとしては、「テストメイト ピロリ抗原 EIA」(わかもと製薬株式会社/協和メデックス株式会社)、「メリディアンHpSA ELISA」(Meridian Bioscience Inc./テイエフビー)などが市販されており、いずれも本発明におけるヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定に用いることができるが、「テストメイト ピロリ抗原 EIA」は、抗ヘリコバクター・ピロリ抗原抗体としてモノクローナル抗体を用いているため、本発明において特に好ましく用いられる。
本発明おいて「対象の胃粘膜の状態を判断する」とは、対象の胃粘膜の状態が、正常であるか、炎症を呈しているか、あるいは慢性胃炎(活動性胃炎、萎縮性胃炎)、胃癌に罹患している危険率や将来罹患する危険率が高い状態等に該当することを判断することを意味し、炎症を呈している場合については、さらに、炎症の程度を、軽度、中等度、高度に分類して判断することができ、慢性胃炎の種類として、活動性胃炎もしくは萎縮性胃炎に該当するか否か、そして活動性胃炎もしくは萎縮性胃炎に分類された場合には炎症と萎縮に分けてその程度(進行度)を軽度、中等度、高度に細分化して判断することができる。胃癌については、未分化型胃癌または分化型胃癌に罹患している危険率が高いか、また、罹患していない場合には、将来、それぞれの癌に罹患する危険率を判断することが可能である。さらに、これらをより細分化した分類を設定して、それに合わせた判断をすることもできる。
本発明において、胃粘膜の炎症とは、ヘリコバクター・ピロリに感染した胃粘膜に全例で認められる炎症であって、好中球浸潤を有するものをいう。
また、本発明において、慢性胃炎とは、加齢に応じて発症頻度が高い慢性的な胃炎をいい、従来は老化現象と考えられていたが、近年ヘリコバクター・ピロリにより発生することが分かってきたもので、活動性胃炎、萎縮性胃炎などに区別される。
さらに、活動性胃炎とは、ヘリコバクター・ピロリの持続的な感染により炎症が活発化した慢性胃炎を意味し、萎縮性胃炎とは、ヘリコバクター・ピロリの持続的感染により胃粘膜の萎縮を生じた慢性胃炎を意味する。ここで、胃粘膜の萎縮とは、胃酸を分泌する胃固有腺が減少した状態を指し、ヘリコバクター・ピロリによる胃粘膜の炎症を経て萎縮を生じ、萎縮は時間経過により進展していくことが知られている。
また、腸上皮化生とは、胃粘膜に特有の組織構造、すなわち胃酸を分泌する胃固有腺が失われて腸粘膜に類似した状態に変化した粘膜をいう。
また、本発明において、分化型胃癌とは、元の胃粘膜に近い構造を持つ胃癌で、症状が進行すると塊のように大きくなっていき、肝臓に転移しやすいという特徴を持つ癌を意味する。高齢者に多い癌で、萎縮性胃炎を発生母地としており、予後の良好な癌と言われているものである。未分化型胃癌とは、元の胃粘膜とはかけ離れた構造を持つ胃癌で、はっきりとした境界を持たず、癌細胞が分散した状態で大きくなっていき、リンパ節への転移が多いという特徴を持つ癌をいう。若年者にも見られる癌で、活動性胃炎を発生母地とし、予後の悪い癌と言われている。
胃癌に罹患する危険率は、現在は胃癌に罹患していないが、対象が現在該当している胃粘膜の状態が将来にわたって維持された場合に、該対象が胃癌を罹患する危険率が、他のより良好な胃粘膜の状態にある場合と比べて統計的に高いかあるいは低いかということに基づいて判断される。したがって、腸上皮化生を有する対象は、これを有さない対象よりも胃癌を罹患する危険率は高く、胃粘膜萎縮を有する対象は、その萎縮の程度が大きくなるほど胃癌を罹患する危険率は高く、高度な炎症を有する対象は、これを有さない対象よりも胃癌を罹患する危険率は高いことが知られているから、本発明の方法により、胃炎の炎症の程度、活動性胃炎か否か、萎縮性胃炎か否か、またこれらの胃炎の程度、腸上皮化生を有するか否かを判断することにより、前記の危険率と病態との関連に基づき、各対象の胃癌に罹患する危険率を判断することができる。
以下に、本発明の具体的態様について述べる。
対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗体の定量的測定を行うときの手順を、例えば、上記の「テストメイト ピロリ抗原 EIA」を用いた場合について簡単に述べる。
各対象の採便容器から、便希釈液1滴(50μl)を、抗ヘリコバクター・ピロリnative カタラーゼマウスモノクローナル抗体(21G2)を固相化した96穴マイクロプレートに加え、さらに、ペルオキシダーゼ標識抗ヘリコバクター・ピロリnative カタラーゼマウスモノクローナル抗体(21G2)液50μlを加えて1時間反応させる。次いで、各ウェルを洗浄液により5回洗浄して未反応物を除去し、基質液(過酸化水素およびテトラメチルベンチジン)100μlを加えて10分間反応させた後、反応停止液(0.5mol/l硫酸)を加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで吸光度(450nm/630nm)を測定する。
対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値のみを指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断する場合、上記キットによる測定で得られたOD値(以下、単に「OD値」とも表記する)が低いほど炎症が軽度であり、OD値が高いほど炎症が高度になる傾向がある。人種、年齢、性別など対象とする母集団の種類により若干の違いはあり得るが、例えば、OD値が、0以上0.1未満である場合を正常な胃粘膜、0.1以上1.5未満である場合を軽度の活動性胃炎、1.5以上である場合を中等度から高度の活動性胃炎と判断することができる。また、OD値が高いほど炎症が高度になるとともに活動性胃炎の進展の程度も高度になる。
また、胃癌に関しては、例えば、OD値が1.5以上である場合に、胃粘膜の状態が、胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率の高い状態であると判断することができる。
上記の胃炎の分類にしたがえば、各胃炎の状態と胃癌との関連を合わせて考慮すると、例えば、OD値が、1.5以上である場合を未分化型胃癌に罹患している危険率、未発症者については将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができる。
さらにまた、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値と、対象の血液中のペプシノーゲンII(PGII)に対するペプシノーゲンI(PGI)の濃度の比(以下、「PGI/PGII」と表記する)とを指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断することができる。PGI/PGIIが、所定の値以下、例えば3以下の場合を萎縮性胃炎とし、そして萎縮性胃炎においては、OD値が高いほど炎症が強くPGI/PGIIが低くなるにつれて萎縮性胃炎の程度(進行の程度)も高度になる。さらにOD値が低くPGI/PGIIも低いほど炎症が弱くなるとともに萎縮性胃炎の程度(進行の程度)が高度になり腸上皮化性の可能性が高いと判断することができる。
また、PGI/PGIIが、所定の値、例えば3を超えている場合は、胃粘膜の萎縮は生じていないため、OD値が高いほど炎症が高度になるとともに活動性胃炎の広がりの程度も高度になり、OD値が低いほど炎症が軽度になり正常に近づくと判断することができる。
さらに細かく分類して、OD値が0以上0.1未満かつPGI/PGIIが3を越える場合を正常な胃粘膜と判断し、OD値が0.1以上1.5未満かつPGI/PGIIが3を越える場合を軽度の炎症、OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3を越える場合を中等度から高度の炎症と判断することができる。萎縮をともなうPGI/PGII≦3の群については、OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3以下であれば高度の炎症を伴う萎縮性胃炎、さらにOD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3以下であれば軽度から中等度の炎症を伴う萎縮性胃炎と判断することができる。OD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3以下については、OD値とPGI/PGIIが低いほど腸上皮化生を有する可能性の高い、高度の萎縮と判断することができる。
また、胃粘膜の状態が癌である場合には上記の胃炎の分類にしたがえば、各胃炎の状態と癌との関連を合わせて考慮すると、例えば、OD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3を越える場合は胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が極めて低く、一方、OD値が1.5以上もしくはPGI/PGIIが3以下の場合は胃癌に罹患している危険率が高く、胃癌に罹患していなくとも将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができる。さらに細分化して、OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3を越える場合、OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3以下の場合、OD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3以下の場合の順に胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が高まり、特にOD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3以下の場合はハイリスクと判断することができる。また、その際の胃癌のタイプはOD値が1.5以上の場合には未分化型胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができ、さらに、OD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3以下の場合には分化型胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができる。
本発明においては、上記のとおり、典型的には、「PGI/PGIIについて3を基準値とすること」および「OD値について1.5を基準とすること」によって、対象の胃粘膜の状態を判断することができるが、前記のとおり、人種、年齢、性別など対象の母集団の種類、あるいはPG法による見逃し症例のスクリーニングなど胃粘膜状態の判断の目的に応じて、PGI/PGIIについて2〜3の所定の値を基準値とすることおよびOD値について1.5〜2.0の所定の値を基準とすることができる。なお、具体的な例については、後述の実施例2において詳細に説明する。
さらに、PGI/PGIIのほか、年齢や他の検査値(血液中のPGI濃度、血液中のPGII濃度、血液中の抗CagA抗体の濃度)、対象の自覚症状(上部腹痛、胃もたれ、胸焼け、悪心・嘔気、腹部膨満感など)の有無等を指標として加えてもよく、これらの指標を用いてさらに詳細に分類することもできる。
なお、上記OD値の例は、いずれも「テストメイト ピロリ抗原 EIA」を用いた場合の例であるが、「メリディアンHpSA ELISA」を用いてヘリコバクター・ピロリの定量的測定を行った場合にも、同様の数値範囲で判断することが可能である。また、前記の2つのキットを用いることなく、ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定を行った場合には、例えば、酵素免疫測定法により吸光度を測定値として用いる場合には、定量的に検出可能な下限値〜上限値の範囲を、前記の「テストメイト ピロリ抗原 EIA」を用いた場合の吸光度の下限値〜上限値の範囲にそれぞれ対応させる数値補正を行うことにより、適宜上記と同様の数値範囲を設定することが可能であり、さらに、放射線免疫測定法あるいは蛍光免疫測定法を用いた場合も、定量的に検出可能な下限測定値〜上限測定値の範囲を上述の数値範囲に対応させることにより、上記と同様の数値範囲を設定することが可能である。
そしてまた、本発明の方法によれば、対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値から、前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量的に評価することができ、例えば、上記のキット「テストメイト ピロリ抗原 EIA」を用いた場合には、測定値である吸光度が高いほど、胃内ピロリ菌量が多いと評価することができる。前記キットを用いた場合のOD値によれば、OD値が例えば、0以上0.1未満であれば胃内にピロリ菌は存在しないと判断し、0.1以上1.5未満であれば、胃内ピロリ菌量は少ないと判断し、1.5以上では胃内ピロリ菌量が多いと判断することもできる。また、このような分類をさらに細分化して判断することも可能である。本発明の方法により、予防対策や治療を施した場合における対象の菌量の変動を直接的にモニターすることができる。
本発明を、以下の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
ヘリコバクター・ピロリ陽性の健常者104名(男性36名、女性68名)を対象として、UBT(尿素呼気試験)、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定、血液中ペプシノーゲン(PGIおよびPGII)濃度、血液中抗CagA抗体濃度の測定を行った。
測定方法は、UBT(尿素呼気試験)はユービット錠(大塚製薬)を用いて行い、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定は「テストメイト ピロリ抗原 EIA」を用いて行った。なお、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定によりOD値0.1以上を陽性と判定した。
対象となった104名の年代別人数は以下の表の通りである。
Figure 2008143171
(1)糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値とUBT値との関係の検討
まず、上記104名の集団に関し、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定により得られた定量的測定値(以下、「便中ピロリ菌抗原OD値」と記載する)とUBT値との関係について検討するため、胃粘膜萎縮が存在しないとされるPGI/PGII>3の集団とおよび胃粘膜萎縮が存在するとされるPGI/PGII≦3の集団とに分けて散布図を作成し(図1)、さらに、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間の相関係数を、前記のPGI/PGII>3の集団およびPGI/PGII≦3の集団に分けて算出した。その結果を表2に示す。
Figure 2008143171
表2より、PGI/PGII>3の集団では前記便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に有意な相関性が認められるが、PGI/PGII≦3の集団では相関性が認められないことが示された。
従来から胃粘膜萎縮により胃内のピロリ菌量は減少すると考えられており、また、実際、図1においても、胃粘膜萎縮があるPGI/PGII≦3の集団ではUBT値は低値を示す傾向がみられるが、その一方で、PGI/PGII≦3の集団において、UBT値は低いにもかかわらず便中ピロリ菌抗原OD値の高い集団が存在することを見出した。この集団は、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に相関性が認められない集団であって、本発明により初めて発見された集団であるということができ、PGI/PGII≦3の集団のうち、便中ピロリ菌抗原OD値1.5以上であることを基準として分類することができた。
さらに、便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に、相関性が認められる集団と、相関性が認められない集団とを、散布図上で分けて示したところ(図2)、便中ピロリ菌抗原測定によるピロリ菌への感染診断結果とUBTによるピロリ菌への感染診断結果が一致するという従来の知見からはその存在が予測できない、新規集団(便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に相関性のない集団)を発見することができた。
(2)便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとの関係の検討
次に、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIとの関係について検討するため、上記104名の集団の散布図を作成したところ(図3)、胃粘膜萎縮を有する集団(PGI/PGII≦3)において、便中ピロリ菌抗原OD値が高い集団が含まれることが見出された。よって、胃粘膜萎縮により胃内のピロリ菌量は減少するという従来の知見に反して、胃粘膜萎縮を呈していても、胃内のピロリ菌量が多い集団が存在することが示唆された。
また、図3において、上記(1)の図2と同様に、相関性が認められる集団と、相関性が認められない集団とを、散布図上で分けて示したところ(図4)、上記(1)で見出された「便中ピロリ菌抗原OD値とUBT値との間に相関性のない」新規集団は、胃粘膜萎縮を有する集団(PGI/PGII≦3)のうち、便中ピロリ菌抗原OD値1.5以上である集団に特に顕著に認められることが明らかになった。
(3)便中ピロリ菌抗原OD値とPGI値またはPGII値との関係の検討
さらに、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI値またはPGII値との関係を検討するため、それぞれ上記104名の集団の散布図を作成し(図5および6)、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI値、または便中ピロリ菌抗原OD値とPGII値との相関係数を算出した(表3および4)。
Figure 2008143171
Figure 2008143171
ペプシノーゲン(PG)はペプシンの前駆体であり、本来は、胃の内腔に分泌され、ペプシンに変化して蛋白分解酵素として働くものであるが、PGの1%程度が血液中に認められる。PGは免疫学的にPGIとPGIIに大別され、それぞれの胃内の分布が異なっている。PGIは胃底腺領域(主細胞および副細胞)に存在し、PGIIはそのほかにも噴門腺、幽門腺、Brunner腺にも広く存在する。この両者の分布の違いにより、胃粘膜の状態を反映し血液中の濃度も変化することが知られており、特に、PGI/PGIIが萎縮の進展に相関して低値となることが示唆されているが、PGI値ならびにPGII値の単独においても胃粘膜の炎症や萎縮を反映することが知られている。PGI値が70を越える場合ならびにPGII値が20を越える場合のようにPGI値およびPGII値が高値である場合は、炎症が高度であると説明できる。
表3から理解される通り、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI値との間には有意な相関性は認められなかった。一方、表4から理解される通り、便中ピロリ菌抗原OD値とPGII値との間には有意な相関性が認められることを見出した。PGII値は、胃粘膜の炎症の程度と正の相関を示すことが知られていることから、便中ピロリ菌抗原OD値は胃粘膜の炎症の程度を表す指標となることを発見するとともに、さらに、胃粘膜の炎症の程度は、胃内のピロリ菌量の増加に伴って高度になることが知られていることから、便中ピロリ菌抗原OD値は胃内のピロリ菌量を表す指標となることをも発見した。
(4)UBT値とPGI値またはPGII値との関係の検討
上記(4)と同様に、UBT値とPGI値またはPGII値との関係を検討するため、それぞれ上記104名の集団の散布図を作成し(図7および8)、相関係数を算出したが、便中ピロリ菌抗原OD値の場合とは異なり、UBT値とPGI値、また、UBT値とPGII値との間にいずれも有意な相関は認められなかった。
(5)UBT値とPGI/PGIIとの関係の検討
次に、UBT値とPGI/PGIIとの関係について検討するため、上記104名の集団の散布図を作成したところ(図9)、胃粘膜萎縮を有する集団(PGI/PGII≦3)では、PGI/PGIIの低下にしたがって、UBT値が低下することが見出された。これは、UBT値がヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ活性を検出するものであることから、胃粘膜萎縮が進行してPGI/PGII値が低下するのに伴って、胃酸分泌が減少して胃内pHが上昇し、ヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ活性が低下したためと考えられる。
したがって、UBT値は、胃粘膜萎縮を呈する場合(PGI/PGII≦3)には、胃内に存在するピロリ菌量の指標とはならないことが理解される。
以上の結果より、便中ピロリ菌抗原OD値は、胃粘膜の炎症の程度を表す指標となること、また、胃内に存在するピロリ菌量を定量的に表す指標となることが示唆され、特に、胃粘膜萎縮を有する場合(PGI/PGII≦3)には、胃内に存在するピロリ菌量を定量的に表す指標はUBT値ではなく、便中ピロリ菌抗原OD値であることが見出された。さらに、従来は胃粘膜萎縮に伴って胃内ピロリ菌量が減少すると考えられていたが、胃粘膜萎縮を有する集団(PGI/PGII≦3)のうち、便中ピロリ菌抗原OD値が高い(便中ピロリ菌抗原OD値≧1.5)新規集団の発見により、胃粘膜萎縮を有していても胃内のピロリ菌量が多い集団が存在することが初めて示唆された。
(6)便中ピロリ菌抗原OD値による分類の臨床的意義の検討
上記の通り、便中ピロリ菌抗原OD値に関して1.5を基準として集団を統計学的に分類し得ることを見出したことから、本実施例において対象となったヘリコバクター・ピロリ陽性の健常者104名を便中ピロリ菌抗原OD値に関して1.5以上の集団と1.5未満の集団に分け、そのPGI値およびPGII値の範囲の分布から、便中ピロリ菌抗原OD値が具体的な胃粘膜の状態にどのように対応しているかについて検討した。PGI値については、PGI値≦30、30<PGI値≦50、50<PGI値≦70、70<PGI値の4つに分類し、PGII値については、PGII値≦10、10<PGII値≦20、20<PGII値の3つに分類した。結果を以下の表5に示す。
Figure 2008143171
表5より、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上の集団は、70<PGI値、20<PGII値のように、PGI値およびPGII値ともに高値である対象の占める割合が高いことから、胃粘膜の炎症の程度が高い集団であることが理解される。一方、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5未満の集団は、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上の集団と比較して、PGI値、PGII値ともにより低値である対象の占める割合が高く、胃粘膜の炎症の程度が低い集団であることが理解される。
さらに、表6より、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5未満の集団および1.5以上の集団の2つの集団について、PGI値ならびにPGII値を比較したところ、PGII値に関して統計的に有意な差を確認することができた。
したがって、便中ピロリ菌抗原OD値1.5を基準として分類することが臨床的にも意義のあるものであることが示された。
なお、表6においては、OD値の基準値を2.0にした場合についても示しているが、1.5の場合と同様の結果が得られた。すなわち、便中ピロリ菌抗原OD値が2.0未満の集団および2.0以上の集団の2つの集団について、PGI値ならびにPGII値を比較したところ、PGII値に関して統計的に有意な差を確認することができた。
Figure 2008143171
(7)便中ヘリコバクター・ピロリ抗原OD値とPGI/PGIIとを指標とした胃粘膜の状態の分類
便中ピロリ菌抗原OD値については1.5、また、PGI/PGIIについては萎縮の有無の指標となる3を基準として、本実施例において対象となったヘリコバクター・ピロリ陽性の健常者104名をカテゴリーI(便中ピロリ菌抗原OD値が0.1以上1.5未満かつPGI/PGIIが3以上)、カテゴリーII(便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3未満)、カテゴリーIII(便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3以下)およびカテゴリーIV(便中ピロリ菌抗原OD値が0.1以上1.5未満かつPGI/PGIIが3以下)の4つの集団に分類した(図10)。
カテゴリーIは、便中ピロリ菌抗原OD値が0.1以上1.5未満でありかつPGI/PGIIが3より大きい集団であり、胃粘膜萎縮を伴わず、軽度の炎症を有する軽症の胃炎の集団であると考えられる。
カテゴリーIIは、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3より大きい集団であり、胃粘膜萎縮を伴わず、中等度〜高度の炎症を有する活動性胃炎の集団であると考えられる。カテゴリーII内では、便中ピロリ菌抗原OD値が上昇するほど、活動性胃炎の程度が進行している(高度になる)とみなされる。
カテゴリーIIIは、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上かつPGI/PGIIが3以下の集団であり、高度の活動性炎症を併せもつ萎縮性胃炎の集団であると考えられる。カテゴリーIII内では、OD値が高いほど炎症が強くPGI/PGIIが低くなるにつれて萎縮性胃炎の程度は進行している(高度になる)とみなされる。
カテゴリーIVは、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5未満かつPGI/PGIIが3以下の集団であり、軽度から中等度の炎症を伴う萎縮性胃炎の集団であると考えられる。カテゴリーIV内では、便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGIIが低いほど腸上皮化生を有する可能性が高くなり、慢性化が最も進んだ萎縮性胃炎に進行している(高度になる)とみなされる。
なお、胃粘膜の状態が健常であると分類されるには、便中ピロリ菌抗原OD値が0.1未満かつPGI/PGIIが3を越える必要がある。
ヘリコバクター・ピロリに感染した場合は、カテゴリーI、II、III、IV、さらにOD値が0.1未満かつPGI/PGIIが3以下の集団の順に、時間の経過とともに胃粘膜の状態が推移し、すなわち胃粘膜の老化が進行していくと考えられる。
さらに、カテゴリーI〜IVに関して、それぞれ、PGI/PGII、便中ピロリ菌抗原OD値、PGI値、PGII値の平均値を以下の表7に示す。
Figure 2008143171
さらに、上記のカテゴリーI〜IVの分類と胃癌に罹患している危険率や将来罹患する危険率の程度に関して述べる。上記の分類にしたがって、各胃炎の状態と癌との関連を合わせて考慮すると、OD値<0.1かつPGI/PGII>3の集団ならびにカテゴリーIは胃癌に罹患している危険率や将来罹患する危険率が極めて低い状態にあると判断することができる。カテゴリーII、III、IVならびにOD値<0.1かつPGI/PGII≦3の集団は胃癌に罹患している危険性があり、胃癌が発生していない場合でも将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができる。カテゴリーII、III、IVならびにOD値<0.1かつPGI/PGII≦3の集団の順に胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が高まり、特にカテゴリーIVならびにOD値<0.1かつPGI/PGII≦3の集団はハイリスクと判断することができる。また、胃癌のタイプはカテゴリーII、IIIは未分化型胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができ、さらに、IVならびにOD値<0.1かつPGI/PGII≦3の集団は分化型胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率が高い状態にあると判断することができる。したがって、胃癌の一次スクリーニングにおいて、図11に示すリスク群、特にハイリスク群に対して内視鏡検査による確定診断を行うことにより効率的に胃癌の早期発見につなげることが可能となる。また、胃癌に罹患していない者に対しても、図12に示すように、例えば、カテゴリーIIおよびIIIに含まれる対象には、積極的な予防や定期的な管理検診の受診を指導したり、カテゴリーIVおよびOD値<0.1かつPGI/PGII≦3に含まれる対象には、定期的な管理検診の受診を徹底するとともに、除菌治療の実施を行うなどの具体的対策を講じることが可能である。
また、便中ヘリコバクター・ピロリ抗原OD値とPGI/PGIIとを指標とした胃粘膜の状態の上記各分類(カテゴリーI〜IV)に関して、PGI値またはPGII値との関係を検討した(図13および14)。
表8に示すように、PGI/PGIIが3以下で萎縮性胃炎と判断される集団を便中ピロリ菌抗原OD値1.5で分類したカテゴリーIIIとカテゴリーIVを比較すると、カテゴリーIIIのPGIIは統計的に有意に高値であり、炎症が高度であることが確認された。その他に、カテゴリーIIとカテゴリーIIIのPGIIにも統計的な有意差が確認された。このように、カテゴリーIからカテゴリーIVの分類化は臨床的にも意義のあるものであることが示された。
Figure 2008143171
<実施例2>
ピロリ菌感染性胃炎の進行は、図15に示すとおり、典型的には、前庭部優勢胃炎、pangastritis、体部優勢胃炎へと推移する(前庭部優勢胃炎は、欧米人に多いタイプであり、pangastritisおよび体部優勢胃炎は40歳以上の日本人に多いタイプである)。この胃炎の進行の各ステージと、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原OD値との関連性について明らかにするため、成人200例(男性94例、女性104例、平均年齢55歳(22〜84歳))を対象として、実施例1と同様に、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定、血液中ペプシノーゲン(PGIおよびPGII)濃度、血液中抗CagA抗体濃度の測定を行なった。さらに内視鏡的検証のため、上部消化管検査による内視鏡的萎縮境界の判定(木村・竹本分類)、腸上皮化生、組織学的胃炎評価(シドニーシステムによる評価;前庭部大弯、体下部小弯、体上部大弯)について検討した。
(1)便中ピロリ菌抗原OD値と胃炎分布の関係
胃炎分布の判定方法は、以下の規準にしたがって行なった。
〔判定基準〕
炎症なし:シドニー分類にて、前庭部大弯、体部大弯、体部小弯の何れの好中球も正常
前庭部優勢胃炎:シドニー分類にて、好中球のレベルが前庭部大弯>体部大弯
pangastritis:シドニー分類にて、好中球のレベルが前庭部大弯=体部大弯
体部優勢胃炎:シドニー分類にて、好中球のレベルが前庭部大弯<体部大弯
Figure 2008143171
表9に示すとおり、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上の場合、胃体部大弯の好中球の平均値は最も高い値を示した。また胃炎分布においても、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上の場合、56例中46例(82.2%)において、pangastritisまたは体部優勢胃炎と判定された。また、便中ピロリ菌抗原OD値は、体部大弯のアクティビティ(好中球の浸潤)、胃炎のパターンは有意な正の相関を示し、便中ピロリ菌抗原OD値が1.5以上の場合、内視鏡的にも重症の胃炎である可能性が高いと判断できることが確認できた。また、OD値>2または1.5の集団において、胃粘膜の中で最も炎症を生じにくいことが知られている胃体部大弯に、好中球浸潤を伴う組織学的な活動性胃炎(pangastritisや体部優勢胃炎)を有することを認めた。とりわけ、前庭部と胃体部ともに活動性胃炎が高度なpangastritisの症例が多く認められた。
(2)便中ピロリ菌抗原OD値によるPG法見逃し症例のスクリーニング
症例の検討を進めていく中で、本発明者らは、PG法によって陰性と判断された患者(PGI/PGII>3またはPGI>70)においても重症の胃炎患者が存在するが、このようなPG法見逃し症例についても、本発明の方法において、便中ピロリ菌抗原OD値の基準を1.5よりも高くすることによって、典型的にはOD値の基準を2.0とすることによって、見逃すことなく胃炎状態を判別できることを見出した。
すなわち、PG法陰性の群では、体部大弯のアクティビティ(好中球浸潤)が軽度では全てOD<2であり、中等度から高度ではOD値>2となる症例が過半数であった。胃炎のパターンでもpangastritis、体部胃炎となるにつれてOD値が上昇した。一方、PG法陽性群では、このような傾向は認めなかった。
したがって、OD値>2であれば、体部の好中球浸潤が高く、pangastritisや体部優勢胃炎である可能性が高いと判別できることが確認された。このことは、OD値>2の場合、pangastritisや体部優勢胃炎の炎症パターンと関連性が強い若年性未分化型胃ガンのリスク群であると判断できることをも示す。
(3)便中ピロリ菌抗原OD値とPGI/PGII比との併用の検討 ピロリ菌感染が慢性化するとピロリ菌量が低下することから、OD値<1.5の集団には、ピロリ菌感染初期集団と慢性化集団が混在する。また、OD値≧1.5の集団においても、胃粘膜萎縮への移行レベルが混在する。このようにOD値だけでは、精緻な判断が容易ではない場合がある。このような場合など、判断すべき目的に応じて、便中ピロリ菌抗原OD値による胃粘膜状態の判断方法において、PGI/PGII比を併用することができる。より効果的に精緻に胃粘膜状態を判断可能とするため、PGI/PGII比の基準値をPG法と同じく3とする場合と、PGI/PGII比の基準値を2とする場合とを検討した。
Figure 2008143171
表10の結果および胃炎分布の内視鏡的検証から、OD値<1.5かつPGI/PGII>3の集団はピロリ菌陰性者もしくは感染初期段階であることが示唆された。また、OD値<1.5で、PGI/PGII≦2の集団は、過半数が体部優勢胃炎であり、慢性化が最も進んだ症例が多く含まれていた。
Figure 2008143171
表11において、萎縮境界の平均値は、萎縮なし、軽度の萎縮、中等度の萎縮、高度の萎縮を夫々スコア1〜4とし、その平均値を示す。また、腸上皮化生についても同様に、4段階のスコアの平均値を算出した。
表11の結果から、萎縮進展(萎縮境界)および腸上皮化生においても、OD値<1.5かつPGI/PGII>3の集団はピロリ菌陰性者または感染初期段階であることが示唆された。また、OD値<1.5で、PGI/PGII≦2の集団は、腸上皮化生の平均値が高く、慢性化が最も進んだ症例が多く含まれていた。
Figure 2008143171
表12に示すとおり、ピロリ菌に対する血清CagAIgG抗体およびPGI/PGIIから、OD値<1.5かつPGI/PGII>3の集団はピロリ菌陰性者または感染初期段階であることが示唆された。OD値<1.5で、PGI/PGII≦2の集団は、OD≧1.5と比較して、ピロリ菌に対する抗体量、PGIやPGIIが低値であり、慢性化が最も進んだ症例が多く含まれていた。
胃粘膜の炎症、慢性胃炎(活動性胃炎、萎縮性胃炎)、胃癌に罹患している危険率あるいは将来罹患する危険率等の診断方法として、内視鏡検査による診断を行う前の簡便かつ効率的なスクリーニング方法としての役割を果たし、また、健康診断等での検査値から健康状態を解析するために用いられるソフトウェアやコンピュータなどへの応用が期待される。

Claims (16)

  1. 対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断する方法。
  2. 対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値のみを指標として、前記対象の胃粘膜の状態を判断する、請求項1に記載の方法。
  3. さらに、対象の血液中におけるペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比を指標とする、請求項1に記載の方法。
  4. 対象の血液中におけるペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比が、3以下であることまたは3を越えることを指標とする、請求項3に記載の方法。
  5. 胃粘膜の状態が、軽度、中等度もしくは高度の炎症から選択される少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 胃粘膜の状態が、軽度、中等度もしくは高度の萎縮から選択される少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  7. 胃粘膜の状態が、現在、胃癌に罹患している危険率の高い状態である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  8. 胃癌が、未分化型胃癌または分化型胃癌である、請求項7に記載の方法。
  9. 胃粘膜の状態が、将来、胃癌に罹患する危険率の高い状態である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  10. 胃癌が、未分化型胃癌または分化型胃癌である、請求項9に記載の方法。
  11. ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値が、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体を使用した酵素免疫測定法により測定されたものである、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  12. ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体がモノクローナル抗体である、請求項11に記載の方法。
  13. 対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値を指標として、前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する方法。
  14. 対象の糞便中に存在するヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値のみを指標として、前記対象の胃内に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量を定量する、請求項13に記載の方法。
  15. ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定値が、ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体を使用した酵素免疫測定法により測定されたものである、請求項13または14に記載の方法。
  16. ヘリコバクター・ピロリ抗原に対する抗体がモノクローナル抗体である、請求項15に記載の方法。
JP2009515206A 2007-05-17 2008-05-16 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法 Active JP5437062B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009515206A JP5437062B2 (ja) 2007-05-17 2008-05-16 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法

Applications Claiming Priority (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2007131953 2007-05-17
JP2007131953 2007-05-17
JP2009515206A JP5437062B2 (ja) 2007-05-17 2008-05-16 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法
PCT/JP2008/059027 WO2008143171A1 (ja) 2007-05-17 2008-05-16 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPWO2008143171A1 true JPWO2008143171A1 (ja) 2010-08-05
JP5437062B2 JP5437062B2 (ja) 2014-03-12

Family

ID=40031873

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2009515206A Active JP5437062B2 (ja) 2007-05-17 2008-05-16 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法

Country Status (3)

Country Link
JP (1) JP5437062B2 (ja)
CN (1) CN101680899A (ja)
WO (1) WO2008143171A1 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN104142399B (zh) * 2013-05-08 2016-03-02 北京美康生物技术研究中心有限责任公司 一种利用胶体金免疫层析技术定量检测血清胃蛋白酶原的试纸条及其制备方法和应用
JP2017032550A (ja) * 2015-07-30 2017-02-09 大塚製薬株式会社 胃粘膜萎縮の有無を判定する方法
CN106018792B (zh) * 2016-05-17 2018-02-13 北京美康基因科学股份有限公司 一种胃功能检测用免疫层析试剂盒及其制备方法
JP6867529B1 (ja) * 2020-03-16 2021-04-28 栄研化学株式会社 ヘリコバクター・ピロリ検出用抗体

Also Published As

Publication number Publication date
WO2008143171A1 (ja) 2008-11-27
JP5437062B2 (ja) 2014-03-12
CN101680899A (zh) 2010-03-24

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Orlando et al. The role of calprotectin in predicting endoscopic post-surgical recurrence in asymptomatic Crohn's disease: a comparison with ultrasound
Tibble et al. Use of surrogate markers of inflammation and Rome criteria to distinguish organic from nonorganic intestinal disease
Hart et al. Diagnosis of exocrine pancreatic insufficiency
Pallotta et al. Ultrasonographic detection and assessment of the severity of Crohn's disease recurrence after ileal resection
Przygodzka et al. Prevalence of thyroid diseases and antithyroid antibodies in women with rheumatoid arthritis
JP7330195B2 (ja) 歯周疾患診断法、用途、キット
Wu et al. Validation of the Chinese version of the Subjective Global Assessment scale of nutritional status in a sample of patients with gastrointestinal cancer
Egea-Valenzuela et al. Fecal calprotectin as a biomarker of inflammatory lesions of the small bowel seen by videocapsule endoscopy
JP5437062B2 (ja) 糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原の定量的測定により胃粘膜の状態を判断する方法
Teng et al. Clinical significance of fecal calprotectin for the early diagnosis of abdominal type of Henoch–Schonlein purpura in children
Watanabe et al. Reconsideration of three screening tests for dysphagia in patients with cerebrovascular disease performed by non-expert examiners
Dettmar et al. A multicentre study in UK voice clinics evaluating the non-invasive reflux diagnostic Peptest in LPR patients
Tenca et al. Esophageal chemical clearance and baseline impedance values in patients with chronic autoimmune atrophic gastritis and gastro-esophageal reflux disease
Khine et al. Fitz-Hugh-Curtis syndrome in adolescent and young adult females: utility of a decision rule
Bertocchi et al. Laparoscopic colorectal resection for deep infiltrating endometriosis: can we reliably predict anastomotic leakage and major postoperative complications in the early postoperative period?
De Clercq et al. Circulating anodic and cathodic antigen in serum and urine of mixed Schistosoma haematobium and S. mansoni infections in Office du Niger, Mali
WO2013046760A1 (ja) 胃癌の検査方法及び検査キット
Zviedre et al. Laboratory tests in addition to the Alvarado Score in the management of acute appendicitis in school-age children
RU2331364C1 (ru) Способ диагностики гастрита у детей
WO2024004523A1 (ja) 大腸がんバイオマーカーおよびその用途
Inoue et al. Trends in the prevalence of atrophic gastritis and Helicobacter pylori infection over a 10‑year period in Japan: The ROAD study 2005‑2015
RU2725603C1 (ru) Способ неинвазивной диагностики фенотипов гастроэзофагеальной рефлюксной болезни
Rovner et al. Diagnosis of overactive bladder
Abd-Elfattah et al. Comparison of Presepsin (CD14), Procalcitonin (PCT) and C-reactive protein (CRP) at different SOFA and APACHE II scores in sepsis patients
Hashemy et al. Investigating the Diagnostic Value of Serum Calprotectin Level in Patients With Acute Appendicitis

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110512

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20110512

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

Effective date: 20130129

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20130129

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130604

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20130802

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130924

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20131023

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20131203

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20131211

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5437062

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250