JPWO2004087910A1 - 組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官の生産方法及び新規組換えタンパク質 - Google Patents
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Abstract
Description
そのため、微生物や哺乳類細胞の培養による物質生産にかわる、安価で安全な物質生産システムとして形質転換植物を用いた物質生産システムの開発が行われている。例えば、生分解性ポリエステル等の高分子化合物(例えば、特開2002−262886号公報)、ワクチン(例えば、G.Jaeger et al.,Eur.J.Biochem.259,426,1999)やラクトフェリン(D.Chong et al.,Transgenic.Res.9,71,2000)等のタンパク質、エンケファリン(特開2000−106890号公報)等のペプチドを生産する形質転換植物の作製が現在までに報告されている。
形質転換植物の場合、その植物の可食部、例えば、ダイズやイネの種子、野菜の葉などで人体に有益な機能性物質を生産させれば、目的物質の抽出工程を経ることなく、直接人体に経口摂取することが可能である。さらに、種子の場合には、冷蔵装置の完備した設備で保存や輸送を行う必要がなく、室温での安定的な長期保存が可能である。また、目的の物質を抽出する場合にも、種子は葉と異なり、フェノール性物質の混入がほとんどないため、容易に精製することができる。従って、種子は目的の遺伝子産物を生産させる器官として理想的だと考えられ、これまでに、例えば、グリシニン(T.Katsube et al.,Plant.Physiol.120,1063,1999)等のタンパク質、(1,3−1,4)−β−グルカナーゼ(H.Horvath et al.,Proc.Nathl.Acad.Sci.USA.,97,1914,2000)等の酵素、エンケファリン(D.Chong et al.,Transgenic.Res.,9,71,2000)等のペプチドを生産した種子の作製が報告されている。
しかしながら、形質転換植物による物質生産システムは、前記の優れた特性を持つ反面、現在の主流である微生物や哺乳類細胞培養システムに比較して生産効率が悪く、特に、植物貯蔵器官による生産効率は悪かった。この問題を解決するため、形質転換植物における物質生産能力の増強策が様々に考案されている。例えば、貯蔵器官の一つである種子での物質生産能力を改善するため、導入した目的遺伝子の発現や遺伝子産物の蓄積向上を図る観点から、種子で強力に発現する種子貯蔵タンパク質のプロモーターの利用(例えば、T.Katsube et al.,Plant.Physiol.,120,1063,1999)、このプロモーターとこれに作用して発現を向上させる転写因子との併用(例えば、D.Yang et al.,Proc.Nathl.Acad.Sci.USA.,98,11438,2001)、5’非翻訳領域の挿入(例えば、特開2002−58492号公報)、遺伝子中のC+G含量の最適化(H.Horvath et al.,Proc.Nathl.Acad.Sci.USA.,97,1914,2000)、小胞体への移行シグナルの付加(例えば、特開2000−504567号公報)等に関する研究が、精力的に行われている。また、外来遺伝子を導入する植物体として種子貯蔵タンパク質を欠く突然変異体を用いることにより、外来遺伝子産物の種子での生産量が向上したことも報告されている(特開2002−58492号公報)。しかしながら、これらの改良だけでは、まだ十分に種子での物質生産能力が増強されたとは言えず、新たな手法の開発が望まれていた。
一方、GLP−1(Glucagon like peptide−1)は、食物摂取により消化管より分泌され、膵臓に働いて糖依存的なインスリン分泌を刺激するホルモンとして知られている。2型糖尿病患者では、このGLP−1に対する応答性は維持されているが、量的な不足がいわれている。GLP−1剤の開発は、GLP−1の不足分を補う、インスリン分泌促進剤としての糖尿病治療薬への応用に期待が持たれている。しかしながら、GLP−1の活性本体は、GLP−1(7−36)アミドあるいはGLP−1(7−37)のポリペプチドであり、GLP−1の経口摂取では消化管内で消化酵素により消化・分解され、十分に吸収されない。このため臨床では、点滴による静脈内注射や皮下注射が試みられているのが現状である。しかも、GLP−1は、血中や組織に存在するジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)によっても分解を受け、活性半減期が1〜2分と非常に短いことや、腎臓から***され易く血中半減期が5分以内であることが報告されており、これらが臨床応用へのネックになっている。
そこで、分解されにくく半減期の長いGLP−1誘導体の開発が行われている。例えば、8位アミノ酸置換誘導体(Diabetologia 41,271−278,1998、Biochem 40,2860−2869,2001)、N末端およびC末端アミノ酸の修飾体(WO9808871など)、34位をArgに置換し26位Lysに親油性基を導入した誘導体(WO0007617)、及び配列全般に渡るアミノ酸置換による誘導体(WO9943705、WO9111457)等である。また、皮下からの吸収が遅い徐放型注射剤の開発、あるいはGLP−1様アゴニスト活性をもち、血中半減期の長いトカゲ由来の合成Exendin−4での注射剤の開発が行われている。しかし、これらは注射剤であり、患者の負担を考慮すると注射以外の経路で投与される新規GLP−1誘導体が望まれる。
本発明の課題は、組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法、該方法により生産された組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官、及び、ペプチダーゼ耐性化したヒトグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)の新規誘導体とその利用を提供することにある。
すなわち、形質転換植物の貯蔵器官における物質生産を増強させるため、前記のような様々な試みがなされている。しかしながら、医薬品等として有用な組換えタンパク質が生産された植物貯蔵器官を食事として摂取し、その十分な機能を体内で発揮させるには、より高度に組換えタンパク質が生産された植物貯蔵器官を生産する方法の開発が必要である。同時に、植物から組換えタンパク質を抽出し、医薬品や機能性食品として加工する場合にも、それらの貯蔵器官に組換えタンパク質が高生産されていることがコスト面で重要である。従って、本発明の目的の一つは、形質転換植物において、組換えタンパク質が高生産された貯蔵器官を生産する新規な方法を提供することにある。
また、前記方法の植物貯蔵器官中で高生産させる組換えタンパク質としてGLP−1を選択すれば、通常の食事のように果実や米等を摂取するだけで糖尿病治療効果が期待できる。しかし、前記したように、この天然型GLP−1は、消化管内で消化酵素により消化・分解されるので、経口的に安定して投与することができず、したがって、現状では注射以外の有効な投与方法がない。そこで、何らかの方法により消化を受けずに胃を通過できれば、小腸で吸収されるのではないかと考えられる。ただし、吸収時には、GLP−1は単体として存在しなければならない。その際に、天然型GLP−1では、トリプシンなどの酵素により分解を受け失活してしまう。
更に、天然型GLP−1は、吸収された後もジペプチジルペプチダーゼIVによる分解を受け、作用の持続は期待できない。したがって、GLP−1の経口投与によって薬理効果を得るには、アミノ酸置換によってトリプシンやジペプチジルペプチダーゼIVによる分解を受けにくく、活性に持続性のあるGLP−1誘導体をデザインする必要がある。
従って、本発明の他の目的の一つは、トリプシン等の消化酵素に対する耐性をもつ経口投与が可能な新規GLP−1誘導体、更に好ましくは、ジペプチジルペプチダーゼIVに対する耐性をも合わせもつ新規GLP−1誘導体を提供することにある。このためには、食事として摂取された場合に吸収され、薬理効果を示すGLP−1誘導体を得ることである。
また、本発明は、該組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法を、糖依存的なインスリン分泌を刺激するホルモンとして知られているGLP−1に適用すると共に、該GLP−1の誘導体を作製して、消化酵素等により消化・分解されない、更には、血漿中でも安定なGLP−1の誘導体を提供するものである。すなわち、本発明者らは、GLP−1(7−36)あるいはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドにおいて、26位をグルタミンに、34位をアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したGLP−1誘導体が、天然型GLP−1と同程度の活性を維持し、トリプシンのような消化酵素に対する耐性をもち、小腸からの吸収が可能であることを見い出した。また、更に8位のアラニンをセリン又はグリシンに変更することにより、ジペプチジルペプチダーゼIVに対する耐性をも獲得し、血漿中でも安定であることを見い出し本発明をなした。また、従来ペプチドを経口投与した場合胃においてペプシンで分解されてしまうので、ペプチドの経口投与は不可能であった。しかし本発明の植物貯蔵器官で産生させることにより、ペプシン耐性を獲得することができ、経口投与が可能となった。
第2図は、本発明の実施例において、pGlbGLP130Hm作製スキムのうち、pUC18及びpNPI130からpNPI130PUCの作製までを示す図である。
第3図は、本発明の実施例において、pGlbGLP130Hm作製スキムのうち、pNPI140及びpNPI130PUCからpNPI130Hmの作製までを示す図である。
第4図は、本発明の実施例において、pGlbGLP及びpNPI130HmからpGlbGLP130Hmの作製までを示すと共に、pGlbGLP130Hmの制限酵素地図を示す図である。
第5図は、本発明の実施例において、実施例1及び比較例1で得られたイネ完熟種子における、GLP−1誘導体融合タンパク質の蓄積レベルを示す図である。
第6図は、本発明の実施例において、従来型ベクターpGlbGLP―Hmの制限酵素地図を示す図である。
第7図は、本発明の実施例において、実施例2に示した方法に従って、比較製造例1のGLP−1(7−36amide)(天然型GLP−1)、比較製造例2の[Ser8]−GLP−1(7−36amide)、比較製造例3の[Gly8]−GLP−1(7−36amide)、および製造例1の[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36amide)のサイクリックAMP産生活性を測定した結果を示す図である。
第8図は、本発明の実施例において、実施例3に示した方法に従って、[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36amide)をトリプシン処理し、トリプシン処理したものと処理なしのものとで、サイクリックAMP産生活性の濃度依存性を比較した図である。
第9図は、本発明の実施例において、実施例4で示した方法に従い、実施例1で得られたイネ完熟種子の白米及びその粉末由来のGLP−1誘導体、比較製造例1のGLP−1(7−36amide)(天然型GLP―1)、製造例2の[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、製造例3の[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)を用いて、ペプシンに対する安定性を比較した図である。
第10図は、本発明の実施例において、実施例5で示した方法に従い、イネ完熟種子から融合タンパクとして[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)を抽出し、この抽出画分のトリプシン処理時間とサイクリックAMP産生活性の関係を示した図である。
第11図は、本発明の実施例において、実施例6で示した方法に従い、比較製造例1のGLP−1(7−36amide)(天然型GLP−1)、製造例2の[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、製造例3の[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)を用いて、トリプシン耐性を比較した図である。
第12図は、本発明の実施例において、実施例7で示した方法に従い、比較製造例1のGLP−1(7−36amide)(天然型GLP−1)、製造例2の[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、製造例3の[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)を用いて、DPP−IV耐性を比較した図である。
第13図は、本発明の実施例において、実施例8で示した方法に従い、比較製造例1のGLP−1(7−36)(天然型GLP−1amide)、製造例2の[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、製造例3の[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)を用いて、インスリン分泌促進活性を比較した図である。
第14図は、本発明の実施例において、実施例9で示した方法に従い、比較製造例1のGLP−1(7−36amide)(天然型GLP−1)、製造例2の[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、製造例3の[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)を用いて、マウス経口糖負荷試験における血糖低下効果を比較した図で、図15の0から120分までの血糖値の変動を示すグラフの曲線下面積を、血糖値変化量として示している。
第15図は、本発明の実施例において、実施例9で示した方法に従い、比較製造例1のGLP−1(7−36amide)(天然型GLP−1)、製造例2の[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、製造例3の[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)を用いて、マウス経口糖負荷試験における血糖低下効果を比較した図で、0から120分までの血糖値の経時的な変化を示している。
本発明は、組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法であって、次の過程(A)、(B)、(C)からなるものである:(A)植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子、サイトカイニン関連遺伝子、薬剤耐性遺伝子及び脱離能を有するDNA因子を含み、かつ、サイトカイニン関連遺伝子と薬剤耐性遺伝子は脱離能を有するDNA因子と挙動を一にする位置に存在し、植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子は脱離能を有するDNA因子とは挙動を一にしない位置に存在するベクターを構築し、該ベクターを細胞中に導入する過程、(B)上記(A)により、ベクターが導入された植物細胞を、薬剤添加培地及び薬剤非添加培地にて培養を行うことにより形質転換体を再分化せしめる過程、(C)上記(B)にて再分化した形質転換体から、植物貯蔵器官を得る過程。以下、本発明について詳細に説明する。
(対象植物)
本発明で植物貯蔵器官の生産に用いる対象植物としては、貯蔵器官が形成されるものであれば、特に限定されるものではないが、双子葉植物としては、タバコ、ナタネ、ダイズ等を、単子葉植物としては、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ等の穀類やアスパラガス等を、代表的なものとして挙げることができる。また、本発明で組換えタンパク質を高生産させる植物貯蔵器官としては、特に限定されるものではないが、果実、塊根、塊茎、種子等を、代表的なものとして挙げることができる。
(使用する遺伝子)
本発明において使用する遺伝子は、cDNA又はゲノムDNAのクローニングにより得ることができる。また、あらかじめそのDNA配列が明らかにされているものであれば、これを化学合成して得てもよい。さらに、DNA配列が明らかでなくとも、アミノ酸配列が明らかであれば、アミノ酸配列から推定されるDNA配列を化学合成できる。
本発明において、遺伝子は、必要に応じ、その発現のために必要なプロモーター及び/又はターミネーターの配列と、さらには遺伝子産物を貯蔵器官へ効率的に移行させるシグナル配列とを連結して使用する。これらのプロモーター、ターミネーター及びシグナル配列は、植物において機能するものでありさえすれば、別に制限なく使用することができる。例えば、このようなプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(J.T.Odell et al.,Nature(London),313,810,1985)、ノパリン合成酵素のプロモーター(W.H.R.Langridge et al.,Plant Cell Rep.,4,355,1985)等を使用することができる。更に、誘導型プロモーターを用いれば、遺伝子発現を制御することができる。
かかる誘導型プロモーターは現在までに数多く知られている。例えば、化学物質に反応して誘導されるものとして、グルタチオン−S−トランスフェラーゼI系遺伝子のプロモーター(特開平5−268965号公報)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼII系遺伝子のプロモーター(国際公開WO93/01294号公報)、Tetリプレッサー融合型カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(C.Gatz et al.,Mol.Gen.Genet.,227,229,1991)、Lacオペレーター/リプレッサー系プロモーター(R.J.Wilde et al.,The EMBO Journal,11,1251,1992)、alcR/alcA系プロモーター(国際公開WO94/03619号公報)、グルココルチコイド系プロモーター(青山卓史、蛋白質核酸酵素、41:2559、1996)、par系プロモーター(T.Sakai et al.,Plant Cell Physiol.,37,906,1996)等が、また光に反応して誘導されるものとしてリブロース2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニット遺伝子(rbcS)のプロモーター(R.Fluhr et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,2358,1986)、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ遺伝子のプロモーター(特表平7−501921号公報)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子のプロモーター(特開平5−89号公報)等が、その他、傷害、温度などのさまざまな外部環境等に反応して誘導されるプロモーターが知られている。
本発明の組換えタンパク質遺伝子のプロモーターとしては、上記のように、35Sプロモーター等の恒常的発現を示すプロモーターや、誘導型プロモーターを用いることもできるが、組換えタンパク質遺伝子を生産させようとする植物貯蔵器官中での発現が保証されている、該植物貯蔵器官特異的プロモーターが特に望ましい。このように植物の特定組織や器官において特異的な発現を促進するプロモーターに関しても、当業者らに広く知られている。例えば、本発明においては、かかるプロモーターとして、イネ種子で外来遺伝子を発現させる種子貯蔵タンパク質遺伝子のプロモーターである、グロブリン遺伝子のプロモーター(M.Nakase et al.,Plant Mol.Biol.,33,513,1997)、グルテリン遺伝子のプロモーター(F.Takaiwa et al.,Plant Mol.Biol.,17,875,1991)等を用いることができる。さらに、インゲンマメ、ソラマメ、エンドウ等の豆科作物や、ピーナツ、ゴマ、ナタネ、綿実、ヒマワリ、サフラワー等の油糧用種子作物の種子で外来遺伝子を発現させるプロモーターである、グリシニン遺伝子のプロモーター、グルシフェリン遺伝子のプロモーター(J.Rodin et al.,Plant Mol.Biol.,20,559,1992)等、各作物の主要な種子貯蔵タンパク質遺伝子のプロモーターも用いることができる。
一方、本発明において、ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素のターミネーター(A.Depicker et al.、J.Mol.Appl.Gen.,1,561,1982)、オクトピン合成酵素のターミネーター(J.Gielen et al.,EMBO J.,3,835,1984)を始め、DNAデータベースに登録されている植物遺伝子のターミネーター等を種々選択して使用することができる。
本発明において、植物に導入できる組換えタンパク質遺伝子は、人や家畜等の動物の健康に寄与できる機能性ペプチド、医薬用ペプチド等をコードする遺伝子だけでなく、機能未知な任意のペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、本発明の実施例においては、GLP−1誘導体をコードする遺伝子を植物に導入し、植物の種子においてGLP−1誘導体を生産させたが、本発明の手法により植物の貯蔵器官で生産させることができる組換えタンパク質としては、GLP−1やその誘導体に限られるものではなく、既に医薬品として使用又は開発されている様々なペプチドやタンパク質(S.Josephson and R.Bishop,TIBTECH,6,218,1988)を始め、近年見出されたコレステロール低減化ペプチド(例えば、特開2001−114800号公報)、ダニや花粉抗原のT細胞エピトープペプチド(例えば、米国特許6268491号、特開平10−7700号公報、特開平10−259198号公報、特開平10−506877号公報、特開平11−92497号公報、特開2000−327699号公報)等、様々なペプチドやタンパク質を本発明の手法により植物貯蔵器官で生産させることができる。
更に、これらのペプチドは、その性質及び目的に応じて適宜改変したものを生産させてもよい。即ち、GLP−1について例示すると、本発明はGLP−1の他、GLP−1(7−36)あるいはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチド、又は、該ペプチドの26位をグルタミンに、34位をアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したアミノ酸配列を有するGLP−1誘導体に適用できる。また、本発明は、GLP−1(7−36)或いはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドが、GLP−1(7−36)、GLP−1(7−37)又はそれらのC末端アミドであるGLP−1誘導体にも適用できる。更に、本発明は、これらのGLP−1誘導体の8位をセリン又はグリシンに置換したGLP−1誘導体及び配列番号2に記載のGLP−1誘導体にも適用できる。
(導入組換えタンパク質遺伝子の構築)
本発明においては、これら組換えタンパク質をコードする遺伝子(DNA配列)を、例えば、種子貯蔵タンパク質等、本発明の手法により組換えタンパク質を高生産させようとする植物貯蔵器官で本来発現しているタンパク質の遺伝子中、そのタンパク質の蓄積量等に悪影響を生じさせない可変領域をコードする遺伝子配列に挿入、又は置換した融合遺伝子を用いることができる。例えば、実施例においては、上記GLP−1誘導体をコードする遺伝子をグロブリン遺伝子中、タンパク可変領域をコードする位置に挿入し、融合遺伝子として使用した。また、このとき、組換えタンパク質遺伝子とこれを挿入、又は置換した植物貯蔵器官で本来発現している貯蔵タンパク質遺伝子との境界に酵素切断配列を配置することにより、かかる融合遺伝子の発現産物を抽出した後、酵素処理により、目的の組換えタンパク質を切り出し、精製することができる。さらに、トリプシンなどの消化酵素による切断配列をここに配置すれば、本発明の手法により組換えタンパク質が高生産された種子等の植物貯蔵器官を食事として摂取した後、目的のペプチド又はタンパク質が小腸で切り出されて体内へ吸収され、様々な生理機能を発揮することとなる。
なお、種子貯蔵タンパク質とは、主として種子に貯蔵されるタンパク質であり、発芽に必要な栄養素として重要な働きをする(稲学大成第3巻、農山漁村文化協会)。本発明で用いることができる種子貯蔵タンパク質遺伝子の種類は特に限定されるものではなく、例えば、イネのグロブリンや、グルテリン、プロラミン、シロイヌナズナの2Sアルブミン(特開2000−106890号公報)等の遺伝子を用いることができる。更に、組換えタンパク質遺伝子の挿入位置は、種子貯蔵タンパク質遺伝子が本来コードしているタンパクの特性に変化を生じさせない可変領域であれば、特に限定されるものではない。例えば、本発明の実施例では、イネのグロブリンの109番目のアミノ酸部位をコードする位置へGLP−1誘導体をコードする遺伝子を挿入した。
(導入ベクターの構築)
本発明においては、サイトカイニン関連遺伝子と薬剤耐性遺伝子が、脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に存在し、また、これとは挙動を一つにすることのない位置に前記組換えタンパク質遺伝子が存在するように構築したベクターにより、植物への遺伝子導入を行う。
ここでサイトカイニン関連遺伝子とは、植物における細胞***の促進や植物の組織からの定芽や不定芽の分化等を引き起こす機能を有する、サイトカイニンの生成等に関与する遺伝子のことをいう。
かかるサイトカイニン関連遺伝子としては、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(以下、A.ツメファシエンスと略する。)由来のipt遺伝子(A.C.Smigocki、L.D.Owens,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,5131,1988)、ロドコッカス由来のipt遺伝子、シロイヌナズナ由来のサイトカイニン合成酵素遺伝子、シュードモナス由来のptz遺伝子等のサイトカイニン合成遺伝子の他、不活性型サイトカイニンを活性化する遺伝子である大腸菌由来のβ−glucuronidase遺伝子(Morten Joersbo and Finn T.Okkels,Plant Cell Reports 16,219−221,1996)や、サイトカイニン受容体遺伝子と考えられているシロイヌナズナ由来のCKI1遺伝子(Kakimoto T.Science 274,982−985,1996)等のサイトカイニン関連遺伝子が、いずれも本発明において使用することができる。
また、本発明において、薬剤耐性遺伝子とは、これが導入された植物細胞に、抗生物質耐性や農薬耐性を付与する遺伝子のことをいう。かかる抗生物質耐性遺伝子としては、例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT:ハイグロマイシンリン酸化酵素遺伝子)やカナマイシン耐性遺伝子(NPTII:ネオマイシンリン酸化酵素遺伝子)等を、農薬耐性遺伝子としては、スルフォニルウレア系耐性遺伝子(ALS;アセトラクテート合成酵素遺伝子)等を使用することができる。
脱離能を有するDNA因子とは、これらが存在し、機能する染色体DNA等から、それ自身が脱離し得る能力を有するDNA配列をいう。植物ではこのような因子として、染色体DNAに存在するトランスポゾンと呼ばれるものが知られており、その構造と働き、そしてその挙動もほぼ判明している。すなわち、トランスポゾンが機能するためには、原則として、その内部にある遺伝子から発現し、それ自身の脱離及び転移を触媒する酵素(転移酵素)と、やはりその内部の末端領域に存在し、この転移酵素が結合し作用するDNA配列という、2つの構成要素が必要とされる。これらの働きにより、トランスポゾンはその存在する染色体DNAから脱離し、その後、普通はDNA上の新たな位置に転移するが、一定の確率で転移できぬままその機能を失い、消失等をする場合も生ずるので、本発明ではこのようなトランスポゾンの転移ミスを利用する。
なおトランスポゾンには、このような自律性トランスポゾン、すなわち、転移酵素とDNA結合配列という2つの要素を保持していて、トランスポゾン内部から発現する転移酵素が末端領域に存在するDNA配列に結合して作用することにより、自律的にその存在する染色体上から脱離して転移しうるものの他、非自律性トランスポゾンと呼ばれるタイプもある。この非自律性トランスポゾンとは、転移酵素が結合し作用する末端のDNA配列は保持しているものの、内部にある転移酵素遺伝子に変異が生じており、転移酵素の発現がないため、自律的に染色体上から脱離することができないものをいう。しかし、非自律性トランスポゾンも、自律性トランスポゾンあるいはこれとは独立して存在する転移酵素遺伝子から転移酵素が供給されると、自律性トランスポゾンと同様の挙動を示すこととなる。
自律性トランスポゾンとしては、トウモロコシより単離されたAcとSpm等がある(A.Gieri and H.Saedler,Plant Mol.Biol.,19,39,1992)。とりわけAcは、トウモロコシの染色体中、wx−m7遺伝子座を制限酵素Sau3Aで切り出すことにより得ることができる(U.Behrens et al.,Mol.Gen.Genet.194,346,1984)、植物トランスポゾンの中では最も解析の進んでいる自律性トランスポゾンであり、そのDNAシーケンスも既に解明されているので(M.Muller−Neumann et al.,Mol.Gen.Genet.,198,19,1984)、当業者が容易に取得可能なことから、本発明に使用するDNA因子として相応しい。また、非自律性トランスポゾンとしては、それぞれAc、Spmの内部領域が欠損したものである、DsやdSpmを始め(H.−P.Doring and P.Starlinger,Ann.Rev.Genet.20,175,1986)、トウモロコシ以外にも、キンギョソウ、アサガオ等の多くの植物から単離されたもの(例えば、Y.Inagaki et al.,Plant Cell,6,375,1994)が知られている。
因みに、これらのトランスポゾンは、その由来する植物と異なる種類の植物の染色体に導入された場合でも、その能力を発揮して脱離し、転移することが多くの例で知られている(例えば、B.Baker et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,4844,1986)。なお、本発明においては、自律性、非自律性のいずれのトランスポゾンを使用することもできる。非自律性のトランスポゾンを用いる場合には、これに加え、自律性トランスポゾン等から取得、または合成した転移酵素遺伝子を導入する必要があるが、その場合は、本発明のベクターにこの非自立性トランスポゾンと共に組込んで導入してもよく、また、全く別個に導入してもよい。
更に、植物以外に存在する脱離能を有するDNA因子としては、部位特異的組換え系(site−specific recombination system)に由来するものが知られている。この部位特異的組換え系は、特徴的なDNA配列を有する組換え部位(本発明の脱離能を有するDNA因子にあたる。)、及びこのDNA配列に特異的に結合して、その配列が2以上存在したとき、その配列間の組換えを触媒する酵素、という2つの要素からなり、そして、このDNA配列が同一DNA分子上に、同一方向を向いてある一定の間隔で2か所存在している場合には、これに挟まれた領域がこのDNA分子(プラスミド、染色体等)から脱離し、またこの配列が対向する方向を向いて2か所存在している場合には、この領域が反転する、という挙動を示す。本発明では、この前者の脱離作用を利用する。なお組換え酵素をコードする遺伝子は、必ず組換え部位と同一のDNA分子上に存在する必要はなく、これと同一細胞内に存在し、発現していさえすれば、このDNA配列間の脱離・反転を生ぜしめ得ることが知られている(N.L.Craig,Annu.Rev.Genet.,22,77,1988)。
現在、部位特異的組換え系は、ファージ、細菌(例えば大腸菌)、酵母等の微生物から分離されたCre/lox系、R/RS系、FLP系、cer系、fim系等が知られているが(総説として、N.L.Craig,Annu.Rev.Genet.,22,17,1988)、高等生物ではまだその存在を知られていない。しかし、これらの微生物から分離された部位特異的組換え系も、国際公開WO93/01283号公報において、P1ファージ由来のCre/lox系が植物への遺伝子導入用ベクターに利用されているように、植物等、その由来する生物種と異なる生物種に導入された場合でも、そのそもそもの生物内における挙動と同一の挙動をとることが明らかとなっている。ちなみに本発明の一実施例では、酵母(Zygosaccharomyces rouxii)の部位特異的組換え系であるR/RS系(H.Matsuzaki et al.,J.Bacteriology,172,610,1990)を、その組換え部位間に組換え酵素を挿入して利用したが、このR/RS系もまた、高等植物においてその本来の機能を維持することがすでに報告されている(H.Onouchi et al.,Nucleic Acid Res.,19,6373,1991)。
本発明において、サイトカイニン関連遺伝子と薬剤耐性遺伝子を挿入する場所は、脱離能を有するDNA因子と共に、これが脱離し得る位置でありさえすればよい。例えば、脱離能を有するDNA因子として自律性トランスポゾンを用いた場合には、転移酵素遺伝子のプロモーター領域より上流で、この転移酵素が結合する末端領域よりは下流の、トランスポゾンの脱離に影響を及ぼさない位置にこれを挿入することができる。またR/RS系を用いた場合には、組換え部位に挟まれた領域内で、組換え酵素の発現を阻害しない位置でありさえすれば、これをどこにでも挿入することができる。
(構築したベクターの植物細胞への導入)
本発明においては、こうして構築したベクターを植物細胞に導入する。該ベクターを導入する植物としては、前記(対象植物)の項で記載したように、貯蔵器官を形成する植物であれば特に限定はされないが、例えば、単子葉植物であれば、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ等の穀類やアスパラガス等を、双子葉植物であれば、タバコ、ナタネ、ダイズ等を代表的な植物として挙げることができる。また、構築したベクターの植物細胞への導入も、公知の方法を使用して行うことができる。例えば、アグロバクテリウム属細菌を介する方法の他、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法等、公知の方法をいずれも使用することができ、特に限定されることはない。
例えば、本発明の方法を用いてイネに組換えタンパク質遺伝子を導入する場合には、特許第3141084号記載の方法を好適に使用することができる。このときイネ種子を播種し、発芽させるための播種培地としては、例えば、N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類(Chu C.C.,1978,Proc.Symp.,Plant Tissue Culture,Sience Press Peking,pp.43−50)、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、1mg/L 2,4−D、4g/L ゲルライト)等を使用することができる。しかしながら、上記培地組成に特に限定されることはなく、その組成物の種類や濃度を変更することによっても、本発明を実施することができる。
(形質転換体の再分化)
組換えタンパク質遺伝子を導入した植物細胞又は組織からの形質転換体の再分化にあたっては、遺伝子導入処理後の細胞又は組織を薬剤添加培地及び薬剤非添加培地にて、公知の方法を用いて培養すればよい。なお、本発明において、形質転換体とは、定芽、不定芽、不定根等の植物組織又は幼植物体のことを言う。
例えば、本発明により、イネに組換えタンパク質遺伝子を導入して形質転換体を得る場合であれば、前記のようにして構築したベクターを用い、特許第3141084号記載の方法に従って遺伝子導入処理を行った発芽種子よりイネの胚盤組織を切り出して、この胚盤組織を、例えば、薬剤添加培地N6Cl2TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、500mg/L カルベニシリン、25mg/L ハイグロマイシン、4g/L ゲルライト)で1週間培養した後、更に、薬剤添加培地N6Cl4TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、4mg/L 2,4−D、500mg/L カルベニシリン、25mg/L ハイグロマイシン、4g/L ゲルライト)で1週間培養し、次に薬剤非添加培地MSRC培地(MS無機塩類及びビタミン類(Murashige,T.and Skoog,F.,1962,Physiol.Plant.,15,473)、30g/L シュークロース、30g/L ソルビトール、2g/L カザミノ酸、500mg/L カルベニシリン、4g/L ゲルライト)で培養することにより、芽又は幼植物体として形質転換体を得ることができる。もちろん、上記に例示した培養条件は絶対的なものではなく、必要に応じ、培地組成の種類や濃度を変更したり、種々の植物ホルモンや薬剤を添加したり、培養期間を変更することができる。
なお、薬剤添加培地としては、前記のようにして構築し、遺伝子導入に用いたベクターに組込まれた、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を添加した培地を用いる。例えば、このベクターにハイグロマイシン耐性遺伝子を組込んだ場合はハイグロマイシンを添加した培地を、カナマイシン耐性遺伝子を組込んだ場合はカナマイシンを添加した培地を、スルフォニルウレア系耐性遺伝子を組込んだ場合はスルフォニルウレア系農薬を添加した培地を用いればよい。
(植物貯蔵器官の取得)
本発明において植物貯蔵器官は、組換えタンパク質遺伝子を導入した植物細胞又は組織より、上記のようにして形質転換体を再分化した後、公知の方法を用いてこの形質転換体を生育させることで、取得すればよい。例えば、この形質転換体が不定芽である場合には、公知の方法により、発根処理等を行なって、植物個体を再生し、該植物個体を育成して結実させ、組み換えタンパク質が高生産された植物成熟種子等の貯蔵器官を収穫すればよい。なお、不定芽の発根は、MS寒天培地に不定芽を挿しつける等の方法を用いて行うことができる。また、形質転換体が幼植物体として得られた場合には、発根処理等を行わずとも形質転換植物を得ることができる。さらに、植物貯蔵器官として塊根や塊茎等を利用する場合には、得られた形質転換体から、植物個体の再生過程を経ることなく、公知の手段により、これらの組織を分化させて取得することも出来る。
(GLP−1類の生産)
本発明では、本発明の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法を用いて、GLP−1類を提供する。GLP−1は、糖依存的なインスリン分泌を刺激するホルモンとして知られているもので、GLP−1(7−36)とは、His−Ala−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Gly−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Val−Lys−Gly−Argで示される配列を持つペプチドである。本発明においては、該GLP−1(7−36)のアミノ酸配列をコードする遺伝子、或いは、GLP−1(7−36)のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドをコードする遺伝子を、上記組換えタンパク質として本発明において構築したベクターに組込み、該遺伝子を発現させて、GLP−1類を生産する。
(GLP−1誘導体)
本発明は、上記のようにGLP−1類の生産方法を提供すると共に、該GLP−1の誘導体を作製して、消化酵素等により消化・分解されない、更には、血漿中でも安定なGLP−1の誘導体を提供するものである。本発明の誘導体は、GLP−1(7−36)或いはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドにおいて、26位をグルタミンに、34位をアスパラギン又はアスパラギン酸に置換して、該GLP−1誘導体が、天然型GLP−1と同程度のインスリン分泌促進活性を維持し、かつトリプシンのような消化酵素に対する耐性を持たせることによって、小腸からの吸収が可能となるように改変したものである。また、更に8位のアラニンをセリン又はグリシンに変更することにより、ジペプチジルペプチダーゼIVに対する耐性をも獲得し、血漿中でも安定であるように改変したものである。
すなわち、本発明のGLP−1誘導体は、GLP−1(7−36)、或いは、そのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつ、GLP−1活性を有するペプチドの,26位をグルタミンに、34位をアスパラギンもしくはアスパラギン酸に置換したものであるが、ここで、GLP−1(7−36)或いはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドとは、GLP−1の前駆体、類縁体、およびこれらのC末端アミド体をも含むものであり、好ましくは、GLP−1(7−36)、GLP−1(7−37)又はそれらのC末端アミドである。本発明のGLP−1誘導体は、更に、8位をセリン又はグリシンに置換するのが、特に好ましい。ジペプチジルペプチダーゼIVは、ポリペプチド鎖のN末端から2番目のプロリンあるいはアラニンを認識して、そのカルボキシル基側を加水分解する酵素である。そこで、本発明のGLP−1誘導体は、8位のアラニンをセリンあるいはグリシンに変更することが好ましい。この8位置換体は、天然型GLP−1と同程度の活性を維持し、血漿中でも安定である。
上記のとおり、本発明で用いるGLP−1(7−36)は、次のアミノ酸配列:His−Ala−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Gly−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Val−Lys−Gly−Argで示される配列を持つペプチドであるが、8位をセリンに改変した[Ser8]とは、2番目(8位に相当)のAlaがSerに変換されていることを示す。本発明のGLP−1誘導体は、化学合成あるいは遺伝子組換え技術により、製造することができる。
即ち、ポリペプチドの化学合成の原理は本分野にて周知であり、以下のような本領域の一般のテキストを参考にできる;Dugas H.及びPenney C,Bioorganic Chemistry,1981,Springer−Verlag,New York,pp.54−92、Merrifields JM,Chem.Soc,85,2149,1962、Stewart及びYoung,Solid Phase Peptide Synthesis,pp.24−66,Freeman(San Francisco,1969)。例えば、430Aペプチド合成機(PE−Applied Biosystems Inc,850 Lincoln Center Drive,Foster City CA 94404)及びPE−Applied Biosystemsにより供給された合成サイクルを用いて、固相方法により本発明のペプチドを合成できる。Bocアミノ酸及びその他の試薬は、PE−Applied Biosystems及び他の薬品供給業者から購入可能である。
本発明のGLP−1誘導体の遺伝子組換え技術による生産は、GLP−1誘導体のDNAを全合成、又はより大きな天然のグルカゴンがコードしているDNAの修飾により得た遺伝子を用いて行うこともできる。合成遺伝子の構築方法は本分野では周知であり、BrownらのMethods in Enzymology,Academic Press,NY,第68巻,109−151頁を参照できる。
また、本発明のGLP−1誘導体の産生に用いるDNAには、上記の他にも、発現量を高め産物を宿主内に安定的に蓄積させる工夫、生産後の精製を容易にする工夫、あるいは融合タンパク質として生産させ容易にGLP−1誘導体を切り出す工夫等を施すことができる。例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、プロテインA、TrpEなどのタンパク質の遺伝子に繋ぎ、融合タンパク質として産生させるといった手法がそれである。これらの場合、例えば、産生後にGLP−1誘導体を単体として得るには、各遺伝子との間にアミノ酸のメチオニンに対応する遺伝子を入れておき、臭化シアン処理することができる。この場合に、C末端はHse(ホモセリン)になる。また、本発明のGLP−1誘導体の中には、C末端のみにアルギニンをもつものがあり、アルギニルエンドペプチダーゼによる酵素処理により、GLP−1誘導体の単体を得ることができる。
なお、前記GLP−1誘導体をコードする遺伝子は、公知の遺伝子工学技術により、植物以外の細胞に導入して発現させることで、GLP−1誘導体を生産することもできる。この場合には、GLP−1誘導体をコードする遺伝子を、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて、適切な組換えDNA発現ベクターに挿入する。GLP−1誘導体のための発現ベクターを構築した後、そのベクターを用いて適切な宿主細胞を形質転換させる。宿主細胞には真核性細胞又は原核性細胞のいずれをも使用できる。ベクターの構築及び細胞を形質転換するための技術は本分野において周知であり、一般にはManiatisらの、Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Laboratory Press,NY,Vol.1−3,1989を参照できる。その際、目的の遺伝子の効率的な転写を達成するために、それをプローモーター−オペレーター領域と機能的に結合させる。原核細胞及び真核細胞の形質転換に使用できる種々の発現ベクターは周知であり、The Promega Biological Research Products Catalogue及びThe Stratagene Cloning Systems Catalogueが参照できる。本発明のGLP−1誘導体の生産には、広く用いられている微生物と哺乳類培養細胞を宿主とした物質生産系が利用できる。また、安価で安全な物質生産システムとして、前記のような形質転換植物を用いた物質生産システムも利用できる。
[本発明GLP−1誘導体の利用]
本発明で生産されたGLP−1誘導体は、植物種子等の貯蔵器官の形で、或いは精製、分離して製剤の形で、或いは該成分を添加した飲食品のような形で摂取して、利用することができる。製剤の形で利用する場合はGLP−1誘導体からなる成分を、製剤的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または吸収促進剤と組み合わせて製剤化し、医薬組成物として利用することもできる。本発明のGLP−1誘導体は、GLP−1が関与する各種疾患に有効であり、例えば、インスリン非依存性慢性糖尿病の処置、インスリン依存性慢性糖尿病の処置、肥満の処置、または、食欲抑制のために、使用することができる。
pTL7(H.Ebinuma et al.,Molecular Methods of Plant Analysis,22:95,2002)のEcoRI−Sse8387I制限酵素部位間に、制限酵素EcoRIとSse8387Iとを用いて切り出したイネグロブリンプロモーター、配列番号1に示す[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36amide)をコードする遺伝子が可変領域(109番目のアミノ酸部位)に挿入されたイネグロブリン遺伝子、及び、ノパリン合成酵素のポリアデニル化シグナルが連結された遺伝子断片を挿入して、プラスミドpGlbGLPを得た。なお、[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)は、配列番号2に示すように、GLP−1の7〜36番目のアミノ酸からなり、その8位をセリンに、26位をグルタミンに、34位をアスパラギンに置換した誘導体であるが、イネグロブリン遺伝子への挿入にあたって、そのN末側にリジン残基(AAG)を付加している。
一方、制限酵素KpnIにて、プラスミドpUC18のKpnI制限酵素部位を切出し、T4ポリメラーゼによりその切断末端を平滑化した後、再結合して、プラスミドpUC18△KpnIを得た。このpUC18△KpnIのSse8387I制限酵素部位に、プラスミドpNPI130(特開平9−154580号公報)より、酵母の部位特異的組換え系の組換え配列Rsに挟まれた領域を制限酵素Sse8387Iで切出して、挿入することにより、プラスミドpNPI130PUCを得た。
更に、プラスミドpNPI140(特開平9−154580号公報)より、CaMV35Sプロモーター、Hm(ハイグロマイシン耐性)遺伝子及びノパリン合成酵素のポリアデニル化シグナルが連結された遺伝子断片を、制限酵素KpnIで切出してpNPI130PUCのKpnI制限酵素部位に挿入し、プラスミドpNPI130Hmを得た。
目的とするプラスミドは、このpNPI130Hmより、酵母の部位特異的組換え系の組換え配列Rsに挟まれた領域を制限酵素Sse8387Iで切出して、pGlbGLPのSse8387I制限酵素部位間に挿入することにより得られ、これをプラスミドpGlbGLP130Hm(国際寄託番号FERM BP−8343)と命名した。このpGlbGLP130Hmは、植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子として、[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子が、イネグロブリン遺伝子の可変領域(109番目のアミノ酸部位)に挿入された形で存在しており、また、サイトカイニン関連遺伝子としてipt遺伝子、薬剤耐性遺伝子としてハイグロマイシン耐性遺伝子を有し、酵母の部位特異的組換え系R/RS系を脱離能を有するDNA因子として使用している。
pGlbGLP130Hmの作製スキムを図1〜4に、また、このpGlbGLP130Hmにおいて植物染色体中に組込まれることとなる領域(T−DNA領域)の制限酵素地図を図4に示す。図1〜4中、Glb−Pはイネグロブリン遺伝子のプロモーターを、GLPは[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子を、globulinはイネグロブリン遺伝子を、Tはノパリンシンターゼ遺伝子のポリアデニル化シグナルを、laはlacZ’遺伝子の断片を、35S−Pはカリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターを、iptはipt遺伝子を、丸で囲ったTはipt遺伝子自身のポリアデニル化シグナルを、Hmはハイグロマイシン耐性遺伝子を、Rは組換え酵素遺伝子を、矩形で囲まれた三角形は組換え配列Rsとその配列方向を、またRBとLBはT−DNA領域の境界配列を表している。
II.アグロバクテリウムへのpGlbGLP130Hmの導入
A.ツメファシエンスEHA105株を、10mLのYEB液体培地(ビーフエキス5g/L、酵母エキス1g/L、ペプトン5g/L、ショ糖5g/L、2mM MgSO4、22℃でのpH7.2(以下、特に示さない場合、22℃でのpHとする。))に接種し、OD630が0.4から0.6の範囲に至るまで、28℃で培養した。培養液を、6900×g、4℃、10分間遠心して集菌した後、菌体を20mlの10mM HEPES(pH8.0)に懸濁して、再度6900×g、4℃、10分間遠心して集菌し、次いでこの菌体を200μlのYEB液体培地に懸濁して、これをプラスミド導入用菌液とした。
このプラスミド導入用菌液を用い、アグロバクテリウムへのpG1bGLP130Hmの導入を、以下のようにして行った。即ち、0.5mlチューブ内で、上記プラスミド導入用菌液50μlとpGlbGLP130Hm3μlを混合した混合液に、ジーンパルサーIIシステム[BIORAD社]を用いてエレクトロポーレーションを行い、エレクトロポーレーション処理後の混合液に、200μlのYEB液体培地を加えて25℃で1時間振とうして培養した後、菌体を、50mg/L カナマイシン添加YEB寒天培地(寒天1.5w/v%、他の組成は上記に同じ。)に播種して28℃で2日間培養した。さらに、得られた菌コロニーをYEB液体培地に移植して培養し、次いで、その菌体からアルカリ法でプラスミドを抽出して、これらの菌が、EHA105株にpGlbGLP130Hmが導入されたものであることを確認し、これらを、EHA105(pGlbGLP130Hm)とした。
III.感染材料の調製
遺伝子導入の対象として、イネ品種「日本晴」を用い、その完熟種子の殺菌を、細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ4 モデル植物の実験プロトコール(p93−98)の方法に従い行った。殺菌された完熟種子を、N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、1mg/L 2,4−D、4g/L ゲルライト、pH=5.8)に置床し、サージカルテープでシールして28℃明所で培養して発芽させ、アグロバクテリウムEHA105(pGlbGLP130Hm)による感染材料とした。
IV.EHA105(pGlbGLP130Hm)によるイネの形質転換および形質転換イネの作製
YEB寒天培地(ビーフエキス5g/L、酵母エキス1g/L、ペプトン5g/L、ショ糖5g/L、2mM MgSO4、15g/L バクトアガー)で培養したアグロバクテリウムEHA105(pGlbGLP130Hm)を、YEB液体培地に移植して、25℃、180rpmで一晩培養後、3000rpm、20分間遠心して集菌し、アセトシリンゴン(10mg/L)を含むN6液体培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2mg/L 2,4−D、pH=5.8)に、OD630=0.15となるように懸濁し、感染用アグロバクテリウム懸濁液とした。
IIIで調整した発芽種子を50mlチューブに入れ、そこに上記感染用アグロバクテリウム懸濁液を注ぎ浸漬した。1.5分間の浸漬後、アグロバクテリウム懸濁液を捨て、発芽種子を滅菌したろ紙の上に置いて余分な水分を除去してから、N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、1mg/L 2,4−D、4g/L ゲルライト、pH=5.2)に置床し、サージカルテープでシールして28℃暗所で3日間共存培養を行い、更にN6Cl2TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、500mg/L カルベニシリン、25mg/L ハイグロマイシン、4g/L ゲルライト)に移植して1週間培養した後、発芽した芽をこの発芽種子の胚盤組織から切除した。
次いで、この胚盤組織をN6Cl4TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、4mg/L 2,4−D、500mg/L カルベニシリン、25mg/L ハイグロマイシン、4g/L ゲルライト)で1週間培養し、更に、MSRC培地(MS無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、30g/L
ソルビトール、2g/L カザミノ酸、500mg/L カルベニシリン、4g/L ゲルライト)で培養したところ、EHA105(pGlbGLP130Hm)との共存培養後、1ヶ月から2ヶ月の間に芽又は幼植物体が再分化した。再分化した芽又は幼植物体は発根培地に移植して生育させ、背丈20cm程度の幼苗を得た。この幼苗より、DNeasy 96 Plant Kit(QIAGEN社)を用いて染色体DNAを抽出し、PCR法にて[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子の存在を確認した。
このとき、PCRプライマーとしては、グロブリン遺伝子の可変領域に挿入された[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子を検出するため、プライマー3−1:5’−GGATCCATGGCTAGCAAGGTCGTC−3’(配列番号3)と3−3:5’−GATCACTATCTCGTTGCATGCAACAC−3’(配列番号4)を用いた。得られたPCR反応物(約700bp)はアガロースゲル電気泳動を用いて分析し、染色体DNA中の、[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子の存在を確認した。
その結果、アグロバクテリウム感染処理に供したイネ種子の約3%に、上記[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子が導入されていることが判明した。
こうして得られ、[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子の導入が確認されたイネ幼苗の形質転換体は、土に馴化し、太陽光室にて栽培し、生育させて完熟種子を収穫した。
V.タンパク解析
IV.で得られた完熟種子10mgを、10%(v/v)グリセロール、0.25%(w/v)SDS、5% 2−メルカプトエタノールを含む、62.5mMのTris−HCl(pH6.8)抽出バッファー250μlにて、100℃、5分間処理することにより、これらの種子中の全タンパク質を抽出し、その抽出液をSDS−PAGEに供した。SDS−PAGEは15%(w/v)ポリアクリルアミド(アクリルアミド:N,N’−メチレンビスアクリルアミド=30:0.8)ゲルを用いて行った。
得られたゲル画像を、解析ソフトImage Gauge(富士写真フィルム)にて解析し、[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子がグロブリンの可変領域に挿入された融合タンパク質の蓄積レベルを調査した。その結果を図5に示す。
[比較例1]
イネグロブリンプロモーター、配列番号1に示す[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子が可変領域に挿入されたグロブリン遺伝子、及び、ノパリン合成酵素のポリアデニル化シグナルが連結された遺伝子断片からなる、図6記載の従来型ベクターpGlbGLP−Hmを用いてイネの完熟種子に遺伝子導入を行った他は、実施例1と同様にして、遺伝子導入を行い、芽又は幼植物体を再分化させ、この芽又は幼植物体から植物個体を再生して形質転換イネを得、完熟種子を収穫して、この完熟種子についてタンパク解析を行った。その結果を図5に示す。
図5より明らかなように、[Ser8、Gln26、Asp34]−GLP−1(7−36)をコードする遺伝子がグロブリンの可変領域に挿入された融合タンパク質は、実施例1で生産されたイネ完熟種子中に高蓄積し、比較例1と比較して最高で約6倍のレベルを示した(図5)。
以下に示すGLP−1誘導体を、Model 430Aペプチド合成機(PE−Applied Biosystems,Foster City,CA)による固相合成によって合成し、HPLCにより精製後、マススペクトルにより合成品を確認した。純度は95%以上のものを使用し、インビトロおよびインビボでの試験に供した。
比較製造例1. GLP−1(7−36amide)
(天然型GLP−1)
比較製造例2. [Ser8]−GLP−1(7−36amide)
比較製造例3. [Gly8]−GLP−1(7−36amide)
製造例1. [Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36amide)
(製造例1の非アミド体のアミノ酸配列を配列番号5に示した)
製造例2. [Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)
製造例3. [Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)
(製造例3のアミノ酸配列を配列番号6に示した)
II.GLP−1誘導体のサイクリックAMP産生活性
ヒトGLP−1受容体の公表されたDNA配列(Grazianoら、Biochem Biophys Res Com,196:141−146,1993)に基づき発現ベクターを構築した。チャイニーズハムスター卵巣CHO−K1細胞を当該ベクターで形質転換し、ヒトGLP−1受容体を発現する組換えCHO−K1細胞を得た。このヒトGLP−1受容体発現細胞を1×104cells/ml/wellで24ウエルプレートに植え込み、3日後にアッセイに使用した。
アッセイ方法は、前記細胞をGLP−1誘導体の存在下に緩衝液(PBS、5.6mMグルコース、1mMイソブチルメチルキサンチン、20μM Ro20−1724、0.5%BSA、pH7.4)中で37℃、30分間インキュベーションした。5N塩酸を10μl加えてインキュベーションを停止した。各種GLP−1誘導体とGLP−1受容体との反応により細胞内に形成されるサイクリックAMPを、cAMP−ScreenTM system(Applied Biosystems)によるエンザイムイムノアッセイにより測定した。図7に各種GLP−1誘導体のサイクリックAMP産生活性を示した。
この結果、[Ser8]−GLP−1(7−36amide)、[Gly8]−GLP−1(7−36amide)、および[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36amide)は、天然型GLP−1と同等のサイクリックAMP産生活性を持っていた。
即ち、合成で得た上記GLP−1誘導体を、50mM炭酸水素アンモニウム溶液(pH7.8)に500μg/mlの濃度になるように溶解した。この溶液100μlに、500μg/mlトリプシン溶液(Promega社製:Cat.No.V5113)を5μl加えて、37℃、1時間反応させた。反応停止は、71.5%エタノール1200μl(final 65%)を加えて行い、4℃で5分間の15,000rpm遠心により上清を回収し、エバポレーションした。乾固物を蒸留水に溶解し、活性測定に用いた。
図8は、トリプシン処理前と処理後の[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36amide)の活性の濃度依存性を示したものである。[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36amide)は、トリプシン処理前と処理後で活性に違いがなく、トリプシンに対して耐性であることがわかった
実施例1で得られたイネ完熟種子の白米及びその粉末を使用し、1.9倍量の水を加えて100℃、15分間の加熱により炊飯した。粒のものは押しつぶして均一としてから蒸留水で5倍稀釈してサンプルとし、粉末のものはそのまま蒸留水で5倍稀釈してサンプルとした。一方、合成品のGLP−1(7−36amide)、[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)については、0.2%BSA溶液で10μg/ml溶液を調製し、サンプルとした。
各サンプルに、7.6mg/mlペプシンを含む10倍濃度の人工胃液(pH1.2)を1/10量加えて、37℃で1時間反応後、NaOHで中和した。GLP−1(7−36amide)、[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)についてはその後、米由来のものについては、次いでタンパク質を抽出し、トリプシン処理によりGLP−1単体を得た後、サイクリックAMP産生にもとづく活性測定を行った。その結果、合成由来のGLP−1誘導体はペプシンで完全に失活したが、米では、31〜65%のGLP−1活性が残存することが明らかとなった(図9)。
これらのことから、イネ完熟種子に含有されるGLP−1誘導体は、ペプシン消化を受けくく、胃を通過し小腸に到達することが推察された。
図10は、イネ完熟種子に発現させ、融合タンパク質として得た[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)のトリプシン処理時間と活性の関係をみたものである。トリプシン処理により初めてサイクリックAMP産生活性が出現し、またトリプシン処理時間に関係なく、この活性が維持された。これらのことから、イネ完熟種子中で[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)は、活性を持った形で発現されており、かつトリプシン耐性であることがわかった。従って、GLP−1誘導体の発現によりイネ完熟種子に含有される[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)は、小腸でトリプシンによる分解を受けることなく吸収されうることが推測された。
即ち、0.2%ウシ血清アルブミン溶液で10μg/mlに稀釈した上記合成GLP−1誘導体8μl、50mM炭酸水素アンモニウム溶液(pH7.8)を112μlおよび83μg/mlトリプシン溶液(Promega社製:Cat.No.V5113)を6μl加えて、37℃で1時間反応させた。反応停止は、71.5%エタノール1200μl(final 65%)を加えて行い、4℃で5分間の15,000rpm遠心により上清を回収し、エバポレーションした。乾固物を蒸留水に溶解し、活性測定に用いた。
図11は、GLP−1(7−36amide)、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)および[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)のトリプシン処理時間に対する活性の変動を示したものである。天然型のGLP−1(7−36amide)に比較して、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)および[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)は、トリプシン処理により活性に変動がなく、トリプシンに対して耐性であることがわかった。
ICRマウスの膵臓からコラゲナーゼによりランゲルハンス島を取り出し、24ウエルプレートにウエルあたり2〜3個のランゲルハンス島を入れて一晩培養した。その後、16.7mMグルコース、0.2%BSAおよび10mM Hepesを含むクレブス−リンゲル緩衝液に溶解した本発明のGLP−1誘導体を加え、37℃に30分間置き、この上清中のインスリン濃度をエンザイムイムノアッセイキット(シバヤギ製)で測定した。
GLP−1(7−36amide)、[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)および[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)、のいずれのペプチドにおいても、用量依存的なインスリン分泌促進活性が認められた。特に[Ser8,Gln26,Asn3 4]−GLP−1(7−36)に高濃度で強いインスリン分泌促進活性が認められた(図13)。
一晩絶食したマウスにグルコース1g/kgを経口投与し、直後にGLP−1(7−36amide)、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)または[Ser8,Gln26,Asp34]−GLP−1(7−36)を背部皮下投与(5、20μg/kg)した。コントロール群には生理食塩水を投与した。グルコース負荷前ならびに20、60、120分後に眼下静脈叢より経時的に採血を行い、血糖値を測定した。GLP−1誘導体において血糖上昇のピーク値が低下する傾向が見られ、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−36)に強い作用が認められた(図14)。また、その作用は、投与後120分まで持続していた(図15)。GLP−1ペプチドの改変により、生体内での血中安定性が飛躍的に上昇し、持続性が確保できたことが明らかになった。
更に、本発明は、食物摂取により消化管より分泌され、膵臓に働いて糖依存的なインスリン分泌を刺激するホルモンとして知られているGLP−1を本発明の方法により製造することを包含するものである。
更に本発明において提供される新規GLP−1誘導体は、その利用に際しての摂取時に問題となるトリプシン等の消化酵素による分解に対し、該酵素に対する耐性をもち、更に、摂取、吸収後の血漿中での安定性に対して問題となるジペプチジルペプチダーゼIVによる分解に対し、該酵素に対する耐性を持つという優れた特性を有するものであり、医薬としての利用が期待できるものである。すなわち、本発明のGLP−1誘導体は、経口摂取された場合においても、薬効発現が可能であり、例えば、本発明方法により植物の貯蔵器官に発現させ、経口的に摂取したような場合でも、分解されることなく小腸から吸収され、薬効を発現することが可能となる。したがって、本発明で提供されるGLP−1誘導体は、GLP−1の臨床応用の可能性を格段に高めるものであり、糖尿病患者及び肥満患者のQOLの改善に役立つものと考えられる。
Claims (22)
- 組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法であって、次の過程(A)、(B)、(C)、からなることを特徴とする方法。
(A)植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子、サイトカイニン関連遺伝子、薬剤耐性遺伝子及び脱離能を有するDNA因子を含み、かつ、サイトカイニン関連遺伝子と薬剤耐性遺伝子は脱離能を有するDNA因子と挙動を一にする位置に存在し、植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子は脱離能を有するDNA因子とは挙動を一にしない位置に存在するベクターを構築し、該ベクターを細胞中に導入する過程。
(B)上記(A)により、ベクターが導入された植物細胞を、薬剤添加培地及び薬剤非添加培地にて培養を行うことにより形質転換体を再分化せしめる過程。
(C)上記(B)にて再分化した形質転換体から、植物貯蔵器官を得る過程。 - ベクターが導入された植物細胞から形質転換体を再分化せしめる過程において、ベクターが導入された植物細胞を植物ホルモン及び薬剤添加培地で培養した後、植物ホルモン及び薬剤非添加培地で培養を行うことを特徴とする、請求項1記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子が、該植物貯蔵器官特異的プロモーターの制御下にあることを特徴とする、請求項1又は2記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子が、該植物貯蔵器官で本来発現しているタンパク質遺伝子中、タンパク可変領域をコードする位置に挿入又は置換されていることを特徴とする、請求項1〜3記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 組換えタンパク質遺伝子と植物貯蔵器官で本来発現しているタンパク質遺伝子との境界に、該組換えタンパク質を植物貯蔵器官で本来発現しているタンパク質から切断分離するための酵素切断アミノ酸配列をコードする塩基配列を配置することを特徴とする、請求項4記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物貯蔵器官が種子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子を、タンパク可変領域に挿入又は置換する該植物貯蔵器官で本来発現している遺伝子が、種子貯蔵タンパク質遺伝子であることを特徴とする、請求項6に記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- サイトカイニン関連遺伝子が、サイトカイニン合成系遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- サイトカイニン合成系遺伝子がイソペンテニルトランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする、請求項8記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 薬剤耐性遺伝子がハイグロマイシン耐性遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 脱離能を有するDNA因子が、部位特異的組換え系又はトランスポゾンに由来するものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子が、GLP−1(7−36)遺伝子、あるいは、GLP−1(7−36)のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドをコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子が、GLP−1(7−36)あるいはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドにおいて、26位をグルタミンに、34位をアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したGLP−1誘導体をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子が、アミノ酸配列の8位をセリン又はグリシンに置換したGLP−1誘導体をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項12又は13に記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物の貯蔵器官中に発現させる組換えタンパク質遺伝子が、配列表の配列番号1に記載の遺伝子であることを特徴とする、請求項14に記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 植物が、単子葉植物であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 単子葉植物がイネであることを特徴とする、請求項16記載の組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官を生産する方法。
- 請求項1〜17のいずれかに記載の生産方法により生産された組換えタンパク質が高生産された植物貯蔵器官又はそれを生産する形質転換植物。
- GLP−1(7−36)あるいはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドにおいて、26位をグルタミンに、34位をアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したアミノ酸配列を有するGLP−1誘導体。
- GLP−1(7−36)或いはそのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドが、GLP−1(7−36)、GLP−1(7−37)又はそれらのC末端アミドである、請求項19に記載のGLP−1誘導体。
- アミノ酸配列の8位をセリン又はグリシンに置換したことを特徴とする、請求項19又は20に記載のGLP−1誘導体。
- 配列表の配列番号2、5、又は6に記載のアミノ酸配列を有するGLP−1誘導体。
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