JPWO2004037859A1 - Glp−1誘導体及びその経粘膜吸収型製剤 - Google Patents
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Abstract
本発明は、GLP−1(7−35)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドのC末端にWaa−(Xaa)n−Yaa(WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHse)が付加されたGLP−1誘導体である。本誘導体は、粘膜からの吸収性が高い誘導体である。本発明では更に、GLP−1アミノ酸配列の8位をSerに置換することでジペプチジルペプチダーゼIVに対する耐性を付加、また26位をGlnに34位をAsnに置換することでトリプシン耐性を付加することができる。
本発明のGLP−1誘導体は、表面電荷をマイナスに調整した電荷調整脂肪乳剤を用いて製剤化することにより、更にその粘膜吸収率を高めることができる。
本発明のGLP−1誘導体は、表面電荷をマイナスに調整した電荷調整脂肪乳剤を用いて製剤化することにより、更にその粘膜吸収率を高めることができる。
Description
本発明は、口腔、肺、鼻、あるいは腸などの粘膜から吸収される割合の高い、ヒトグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)の新規誘導体、およびその製造と利用方法に関する。
GLP−1(Glucagon like peptide−1)は、食物摂取により消化管より分泌され、膵臓に働きインスリン分泌を刺激するインクレチンホルモンとして知られている。同様の作用を示すものには、GIP(Gastric inhibitory polypeptideまたはGlucose−dependent insulinotropic polypeptide)がある。2型糖尿病患者では、健常人に比べ、このインクレチン効果が欠如しているかもしくは障害されていることが示唆されていて、これが高血糖の成因の一つと考えられている。例えば、2型糖尿病患者では血中GLP−1濃度が低下し、GIPは健常人と変わらないことが報告されている。また、2型糖尿病患者へのインクレチンホルモン投与試験の結果、インスリン分泌促進反応が健常人に比べて、GLP−1投与では差違は認めないが、GIP投与で顕著に低下していることが報告されている。このため、糖尿病患者ではGLP−1に対する応答性は維持されているので、不足を補うGLP−1製剤は、インスリン分泌促進剤としての糖尿病治療薬としての応用に期待が持たれている。
GLP−1のインスリン分泌作用の特徴は、血糖値が110mg/dl以下ではインスリン分泌を刺激せず、それ以上の血糖値になってはじめてインスリン分泌させるという血糖値依存性を表すことである。すなわち、GLP−1の投与により、血糖値に応じてインスリン分泌が促進され、血糖値が正常以下になるとインスリン分泌は起こらない。したがってGLP−1を使用した場合、低血糖の心配がないこと、またインスリンの過剰な分泌がなく膵臓を疲弊させないことが大きな臨床上のメリットである。一方、2型糖尿病の治療において中心的に使用されているスルフォニル尿素剤は、持続的にATP感受性K+チャネルを閉鎖しインスリン分泌を促進させる。しかし、血糖値とは無関係に膵臓のインスリン分泌細胞に働くため、低血糖、β細胞への過剰な刺激による膵臓の疲弊、長期投与による2次無効が報告されている。したがって、GLP−1の薬理学的特性は、従来の糖尿病薬とは異なる有用なものである。
またGLP−1には、グルカゴン分泌を抑制する特性、食物の胃からの***を遅らせる特性、胃酸分泌を抑制する特性、脳に作用して摂食を抑制する特性、さらには膵臓β細胞でのインスリン合成や膵臓β細胞の増殖を促進する特性がある。したがって、GLP−1は、2型糖尿病における高グルカゴン血症等の高血糖の成因に拮抗し、糖尿病の治療に有用であるだけでなく、肥満治療にも有効と考えられている。
しかしながら、GLP−1の活性本体はGLP−1(7−36)amideあるいはGLP−1(7−37)のポリペプチドであり、GLP−1の経口摂取では消化管内で消化酵素により消化・分解され、吸収されない。このため臨床では、点滴による静脈内注射や皮下注射が試みられているのが現状である。しかも、血中や組織に存在するジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)によってGLP−1は分解を受け、生体内半減期は1〜2分と非常に短いことが知られており、これらが臨床応用へのネックになっている。
この問題点を解決するために、いくつかの研究開発が行われている。例えば、分解されにくく半減期の長い、8位アミノ酸置換誘導体(Diabetologia 41:271−278(1998),Biochem 40:2860−2869(2001))や、皮下からの吸収が遅い徐放型注射剤の開発が試みられている。また、GLP−1様アゴニスト活性をもち、血中半減期の長いトカゲ由来の合成Exendin−4での注射剤の開発(Am J Physiol281:E155−E161(2001))が行われている。しかし、GLP−1が糖尿病治療薬として広く用いられるためには、患者の負担や利便性を考慮すると、注射以外の投与経路が望ましい。
注射剤や経口投与剤に代えて、侵襲性を伴わない投与方法として、肺、口腔、鼻腔、膣、眼、直腸などの粘膜吸収剤が考えられる。しかし、一般にGLP−1のようなペプチドは高分子であるため、単独での粘膜からの吸収率は低い。このため、一般的には、ペプチドのような高分子は、吸収促進剤とともに処方される。また、薬剤の持続吸収性を確保するには、水溶性あるいは水膨潤性の接着剤が使用され、皮膚層に付着するフィルム、バッカル錠、軟膏、トローチの形態で処方される。これまでに多くの吸収促進剤あるいは接着剤が試験され、粘膜薬物投与を容易にする上で有効であることが見出されている。しかしながら、Gutniakら(Diabetes Care 20:1874−1879(1997))により報告された、400μgのGLP−1を含むバッカル錠でのヒト口腔粘膜からのGLP−1の吸収は、前記のような従来技術を駆使しても、静脈内注射の7%、皮下注射の47%のバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)であり、その吸収率は十分とはいえない。
尚、GLP−1を分解する酵素として知られるジペプチジルペプチダーゼIVは、腎臓、肝臓、小腸、唾液腺、各種結合組織など広く組織に分布する他、血液、尿、唾液などの体液や鼻腔粘膜にも存在することが明らかになっており、おそらく他の粘膜組織にも存在することが推測される。
GLP−1のインスリン分泌作用の特徴は、血糖値が110mg/dl以下ではインスリン分泌を刺激せず、それ以上の血糖値になってはじめてインスリン分泌させるという血糖値依存性を表すことである。すなわち、GLP−1の投与により、血糖値に応じてインスリン分泌が促進され、血糖値が正常以下になるとインスリン分泌は起こらない。したがってGLP−1を使用した場合、低血糖の心配がないこと、またインスリンの過剰な分泌がなく膵臓を疲弊させないことが大きな臨床上のメリットである。一方、2型糖尿病の治療において中心的に使用されているスルフォニル尿素剤は、持続的にATP感受性K+チャネルを閉鎖しインスリン分泌を促進させる。しかし、血糖値とは無関係に膵臓のインスリン分泌細胞に働くため、低血糖、β細胞への過剰な刺激による膵臓の疲弊、長期投与による2次無効が報告されている。したがって、GLP−1の薬理学的特性は、従来の糖尿病薬とは異なる有用なものである。
またGLP−1には、グルカゴン分泌を抑制する特性、食物の胃からの***を遅らせる特性、胃酸分泌を抑制する特性、脳に作用して摂食を抑制する特性、さらには膵臓β細胞でのインスリン合成や膵臓β細胞の増殖を促進する特性がある。したがって、GLP−1は、2型糖尿病における高グルカゴン血症等の高血糖の成因に拮抗し、糖尿病の治療に有用であるだけでなく、肥満治療にも有効と考えられている。
しかしながら、GLP−1の活性本体はGLP−1(7−36)amideあるいはGLP−1(7−37)のポリペプチドであり、GLP−1の経口摂取では消化管内で消化酵素により消化・分解され、吸収されない。このため臨床では、点滴による静脈内注射や皮下注射が試みられているのが現状である。しかも、血中や組織に存在するジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)によってGLP−1は分解を受け、生体内半減期は1〜2分と非常に短いことが知られており、これらが臨床応用へのネックになっている。
この問題点を解決するために、いくつかの研究開発が行われている。例えば、分解されにくく半減期の長い、8位アミノ酸置換誘導体(Diabetologia 41:271−278(1998),Biochem 40:2860−2869(2001))や、皮下からの吸収が遅い徐放型注射剤の開発が試みられている。また、GLP−1様アゴニスト活性をもち、血中半減期の長いトカゲ由来の合成Exendin−4での注射剤の開発(Am J Physiol281:E155−E161(2001))が行われている。しかし、GLP−1が糖尿病治療薬として広く用いられるためには、患者の負担や利便性を考慮すると、注射以外の投与経路が望ましい。
注射剤や経口投与剤に代えて、侵襲性を伴わない投与方法として、肺、口腔、鼻腔、膣、眼、直腸などの粘膜吸収剤が考えられる。しかし、一般にGLP−1のようなペプチドは高分子であるため、単独での粘膜からの吸収率は低い。このため、一般的には、ペプチドのような高分子は、吸収促進剤とともに処方される。また、薬剤の持続吸収性を確保するには、水溶性あるいは水膨潤性の接着剤が使用され、皮膚層に付着するフィルム、バッカル錠、軟膏、トローチの形態で処方される。これまでに多くの吸収促進剤あるいは接着剤が試験され、粘膜薬物投与を容易にする上で有効であることが見出されている。しかしながら、Gutniakら(Diabetes Care 20:1874−1879(1997))により報告された、400μgのGLP−1を含むバッカル錠でのヒト口腔粘膜からのGLP−1の吸収は、前記のような従来技術を駆使しても、静脈内注射の7%、皮下注射の47%のバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)であり、その吸収率は十分とはいえない。
尚、GLP−1を分解する酵素として知られるジペプチジルペプチダーゼIVは、腎臓、肝臓、小腸、唾液腺、各種結合組織など広く組織に分布する他、血液、尿、唾液などの体液や鼻腔粘膜にも存在することが明らかになっており、おそらく他の粘膜組織にも存在することが推測される。
GLP−1の粘膜からの吸収は、膜透過性の低さや吸収部位での分解により、注射に比べ非常に非効率的である。例えば、GLP−1を経鼻投与することは可能であるが、その吸収率が低いために、十分な薬理効果を得るためには、非常に高用量が必要である。したがって、ペプチドの原体生産コストの面から、天然型GLP−1を経鼻剤として医薬品開発することは非現実的である。GLP−1を臨床応用するためには、粘膜からの吸収率が注射剤に匹敵するGLP−1誘導体の開発が必要である。そこで、本発明者らは、粘膜からの吸収性が改善されたGLP−1新規誘導体を考案し、注射剤に代わる粘膜投与剤を提供すべく、鋭意研究を行った。
その結果、GLP−1にプラスの電荷をもつアルギニンまたはリジンを付加すれば粘膜吸収が増大するとの新規な思想に至った。加えて、活性発現に重要なN末端側を避け、C末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加することを考案し、下記GLP−1誘導体を得た。また、更に粘膜吸収率を増大させるために、表面電荷をマイナスに調整した電荷調整脂肪乳剤を利用して、粘膜吸収が著しく増大したGLP−1製剤を創出した。
即ち、本発明のGLP−1誘導体は、GLP−1(7−35)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または/及び付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドのC末端にWaa−(Xaa)n−Yaa(WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHse)が付加されたペプチドである。このように、C末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加することにより、粘膜からの吸収性の高い、すなわち粘膜からの生物学的利用率の高い新規GLP−1誘導体が提供される。
本発明のGLP−1誘導体においては、ジペプチジルペプチダーゼIVに対する耐性を付加するために、8位のアラニンをセリンに置換するのが好ましい。そのようなペプチドは、一般式、[Ser8]−GLP−1(7−35)−Waa−(Xaa)n−Yaa(式中、WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHse)で示される。
また、本発明のGLP−1誘導体においては、26位のリジンをグルタミンに、34位のリジンをアスパラギンに置換することにより、トリプシン耐性を持たせることができる。そのようなペプチドは、一般式、[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Waa−(Xaa)n−Yaa 式中、WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHseで示される。
これらジペプチジルペプチダーゼIV耐性又はトリプシン耐性のGLP−1誘導体においても、勿論、GLP−1(7−35)のアミノ酸配列中の、1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換または/及び付加が可能である。
前述の本発明のGLP−1誘導体においては、好ましくは、nは1〜9の整数であり、更に好ましくは、nは3〜5の整数である。
本発明のGLP−1誘導体において、最も好ましいペプチドは、一般式、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−(Arg)n−Yaa 式中、nは4〜6の整数、YaaはArgまたはArg−NH2で示される
本発明のGLP−1誘導体をマウスに経鼻投与後、耐糖能試験を行い、血糖低下作用およびインスリン分泌促進作用によりGLP−1誘導体の吸収効率を調べた。その結果、高い血糖低下作用およびインスリン分泌促進作用を示し、天然型GLP−1の10分の1用量で同等の効果を示したことから、鼻粘膜からの吸収が天然型GLP−1に比べて10倍増大したと推測される。
本発明のGLP−1誘導体は、さらにその吸収率を高めるために、特開平8−27018に記載の電荷調整脂肪乳剤を用いて製剤化を行った。即ち、本発明は、表面電荷をマイナスに調整した脂肪乳剤と本発明のGLP−1誘導体とを含有するGLP−1製剤をも提供する。
電荷調整脂肪乳剤は表面電荷をマイナスに調整した脂肪乳剤で、ペプチドおよび蛋白質を吸着し、ペプチドおよび蛋白質の対酵素安定性を向上させ、さらには薬理効果の増強と持続時間の延長がもたらされると考えられている。一方、本発明のGLP−1誘導体は、プラスの荷電をもつアルギニンまたはリジンが数個付加されているので、前記電荷調整脂肪乳剤に吸着されやすくなっている。したがって、この電荷調整脂肪乳剤を用いて製剤化すれば、本発明のGLP−1誘導体の粘膜吸収はより増大することが推測される。実際に、グルコース負荷マウスに対し、前記電荷調整脂肪乳剤を併用して本発明のGLP−1誘導体を経鼻投与し、血糖低下作用により吸収効率を調べたところ、本発明のGLP−1誘導体は、天然型GLP−1の30分の1用量で同等の効果を示した。即ち、本発明のGLP−1誘導体は、電荷調整脂肪乳剤を併用することにより、天然型GLP−1に比べて鼻粘膜からの吸収が30倍増大しているものと考えられる。
このように、本発明のGLP−1誘導体は、粘膜吸収性が高く、特に鼻粘膜から吸収させる製剤とするのに最適なペプチドである。本発明のGLP−1誘導体は、8位をセリンに置換することにより、血中や組織に存在するジペプチジルペプチダーゼIVによる分解を受けにくくなり、生体内半減期の長いGLP−1誘導体とすることができる。更に、前述のように、トリプシン耐性を付加することで、組織中に存在するトリプシンによる分解からも保護され、生物学的利用率を更に高めることができる。
また、本発明のGLP−1誘導体と電荷調製脂肪乳剤とを組み合わせることにより、更に粘膜吸収性が向上し、皮下注射剤並みの低用量で効果を発現させることができる。すなわち、本発明は、従来の注射剤に代わる、投与が容易で苦痛を伴わない粘膜吸収型GLP−1製剤の臨床応用の可能性を格段に高めるものであり、糖尿病患者および肥満患者のQOLの改善に役立つものと考えられる。
その結果、GLP−1にプラスの電荷をもつアルギニンまたはリジンを付加すれば粘膜吸収が増大するとの新規な思想に至った。加えて、活性発現に重要なN末端側を避け、C末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加することを考案し、下記GLP−1誘導体を得た。また、更に粘膜吸収率を増大させるために、表面電荷をマイナスに調整した電荷調整脂肪乳剤を利用して、粘膜吸収が著しく増大したGLP−1製剤を創出した。
即ち、本発明のGLP−1誘導体は、GLP−1(7−35)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または/及び付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドのC末端にWaa−(Xaa)n−Yaa(WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHse)が付加されたペプチドである。このように、C末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加することにより、粘膜からの吸収性の高い、すなわち粘膜からの生物学的利用率の高い新規GLP−1誘導体が提供される。
本発明のGLP−1誘導体においては、ジペプチジルペプチダーゼIVに対する耐性を付加するために、8位のアラニンをセリンに置換するのが好ましい。そのようなペプチドは、一般式、[Ser8]−GLP−1(7−35)−Waa−(Xaa)n−Yaa(式中、WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHse)で示される。
また、本発明のGLP−1誘導体においては、26位のリジンをグルタミンに、34位のリジンをアスパラギンに置換することにより、トリプシン耐性を持たせることができる。そのようなペプチドは、一般式、[Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Waa−(Xaa)n−Yaa 式中、WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHseで示される。
これらジペプチジルペプチダーゼIV耐性又はトリプシン耐性のGLP−1誘導体においても、勿論、GLP−1(7−35)のアミノ酸配列中の、1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換または/及び付加が可能である。
前述の本発明のGLP−1誘導体においては、好ましくは、nは1〜9の整数であり、更に好ましくは、nは3〜5の整数である。
本発明のGLP−1誘導体において、最も好ましいペプチドは、一般式、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−(Arg)n−Yaa 式中、nは4〜6の整数、YaaはArgまたはArg−NH2で示される
本発明のGLP−1誘導体をマウスに経鼻投与後、耐糖能試験を行い、血糖低下作用およびインスリン分泌促進作用によりGLP−1誘導体の吸収効率を調べた。その結果、高い血糖低下作用およびインスリン分泌促進作用を示し、天然型GLP−1の10分の1用量で同等の効果を示したことから、鼻粘膜からの吸収が天然型GLP−1に比べて10倍増大したと推測される。
本発明のGLP−1誘導体は、さらにその吸収率を高めるために、特開平8−27018に記載の電荷調整脂肪乳剤を用いて製剤化を行った。即ち、本発明は、表面電荷をマイナスに調整した脂肪乳剤と本発明のGLP−1誘導体とを含有するGLP−1製剤をも提供する。
電荷調整脂肪乳剤は表面電荷をマイナスに調整した脂肪乳剤で、ペプチドおよび蛋白質を吸着し、ペプチドおよび蛋白質の対酵素安定性を向上させ、さらには薬理効果の増強と持続時間の延長がもたらされると考えられている。一方、本発明のGLP−1誘導体は、プラスの荷電をもつアルギニンまたはリジンが数個付加されているので、前記電荷調整脂肪乳剤に吸着されやすくなっている。したがって、この電荷調整脂肪乳剤を用いて製剤化すれば、本発明のGLP−1誘導体の粘膜吸収はより増大することが推測される。実際に、グルコース負荷マウスに対し、前記電荷調整脂肪乳剤を併用して本発明のGLP−1誘導体を経鼻投与し、血糖低下作用により吸収効率を調べたところ、本発明のGLP−1誘導体は、天然型GLP−1の30分の1用量で同等の効果を示した。即ち、本発明のGLP−1誘導体は、電荷調整脂肪乳剤を併用することにより、天然型GLP−1に比べて鼻粘膜からの吸収が30倍増大しているものと考えられる。
このように、本発明のGLP−1誘導体は、粘膜吸収性が高く、特に鼻粘膜から吸収させる製剤とするのに最適なペプチドである。本発明のGLP−1誘導体は、8位をセリンに置換することにより、血中や組織に存在するジペプチジルペプチダーゼIVによる分解を受けにくくなり、生体内半減期の長いGLP−1誘導体とすることができる。更に、前述のように、トリプシン耐性を付加することで、組織中に存在するトリプシンによる分解からも保護され、生物学的利用率を更に高めることができる。
また、本発明のGLP−1誘導体と電荷調製脂肪乳剤とを組み合わせることにより、更に粘膜吸収性が向上し、皮下注射剤並みの低用量で効果を発現させることができる。すなわち、本発明は、従来の注射剤に代わる、投与が容易で苦痛を伴わない粘膜吸収型GLP−1製剤の臨床応用の可能性を格段に高めるものであり、糖尿病患者および肥満患者のQOLの改善に役立つものと考えられる。
以下に、本発明を更に詳細に説明する。GLP−1(7−35)は、His−Ala−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Gly−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Val−Lys−Gly(配列番号1)で示される配列を持つペプチドである。[Ser8]は前記配列の2番目、即ち8位のAlaがSerに変換されていることを示し、8Sと同義である。さらに、−NH2はアミド化されていることを示し、本発明のGLP−1誘導体は、C末端がアミド化されている場合とアミド化されていない場合のいずれか一方の形態をとることが可能である。
本発明のGLP−1誘導体は、化学合成あるいは遺伝子組換え技術により製造することができる。
ポリペプチドの化学合成の原理は、本発明の技術分野において周知である。その原理は、例えば、以下の様な一般のテキストを参考にできる;Dugas H.及びPenney C,Bioorganic Chemistry(1981)Springer−Verlag,New York,54−92頁、Merrifields JM,Chem.Soc,85:2149(1962)及びStewart及びYoung,Solid Phase Peptide Synthesis,24−66項,Freeman(San Francisco,1969)。例えば、430Aペプチド合成機(PE−Applied Biosystems Inc,850 Lincoln Center Drive,Foster City CA 94404)及びPE−Applied Biosystemsにより供給された合成サイクルを用いて、固相方法により本発明のペプチドを合成できる。Bocアミノ酸及びその他の試薬は、PE−Applied Biosystems及び他の薬品供給業者から購入可能である。
本発明のペプチドを遺伝子組換え技術により生産する方法について、以下に詳細に説明する。
GLP−1のDNAは、全合成、又はより大きな天然のグルカゴンがコードしているDNAの修飾により得られる。プレプログルカゴンをコードしているDNA配列はLundら[Proc Natl Acad Sci USA 79:345−349(1982)]において示されており、この天然の配列を変えることにより、本発明化合物の生産に使用することができる。合成遺伝子の構築方法は本発明の技術分野では周知であり、例えばBrownらのMethods in Enzymology,Academic Press,NY第68巻、109−151頁を参照できる。本発明のペプチドをコードするDNA配列をそのアミノ酸配列に基づいてデザインし、Model 380A又は380BDNA合成機(PE−Applied Biosystems Inc,850 Lincoln Center Drive,Foster City CA 94404)などの通常のDNA合成機を用いてその配列自身をもつDNAを製造できる。
また、本発明のGLP−1誘導体の産生に用いるDNAには、発現量を高め産物を宿主内に安定的に蓄積させる工夫、生産後の精製を容易にする工夫、あるいは融合タンパクとして生産させ容易にGLP−1誘導体を切り出す工夫等を施すことができる。例えば、本発明のGLP−1誘導体遺伝子の複数個をタンデムに繋ぎ、発現量を高めるといった手法、または、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、プロテインA、TrpEなどのタンパクの遺伝子に繋ぎ、融合タンパクとして産生させるといった手法が例示される。これらの場合、例えば、産生後GLP−1誘導体を単体として得るには、各遺伝子との間にアミノ酸のメチオニンに対応する遺伝子を入れておき、臭化シアン処理することができる。この場合に、C末端はHse(ホモセリン)になる。また、本発明のGLP−1誘導体の中には、C末端のみにアルギニンをもつものがあり、アルギニルエンドペプチダーゼによる酵素処理により、GLP−1誘導体の単体を得ることができる。
GLP−1誘導体ペプチドの発現を効果的に行うためには、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて、適切な組換えDNA発現ベクターに所定の配列をもつ合成DNAを挿入する。一般にはManiatisら、(1989)Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Laboratory Press,NY第1−3巻を参照できる。その際、合成遺伝子の効率的な転写を達成するために、それをプローモーター−オペレーター領域と機能的に結合させる。合成遺伝子プローモーター−オペレーター領域を合成遺伝子のATG開始コドンに関して同じ配列の配向性にて配置する。原核細胞及び真核細胞の形質転換に使用できる種々の発現ベクターは周知であり、The Promega Biological Research Products Catalogue及びThe Stratagene Cloning Systems Catalogueが参照できる。
GLP−1誘導体ペプチドのための発現ベクターを構築した後、そのベクターを用いて適切な宿主細胞を形質転換させる。宿主細胞には真核性細胞又は原核性細胞のいずれかを使用できる。細胞を形質転換するための技術は本分野において周知であり、上記のManiatisらの様な一般の引用文献に見出すことができる。原核性宿主細胞は、一般にはより高い割合でタンパク質を生産し、より培養し易い。高レベルの細菌発現系において発現されるタンパク質は特徴的に凝集して、高レベルの過剰に発現されたタンパク質を含有する粒子又は封入体となる。この様な典型的に凝集しているタンパク質を本分野にて周知の技術を用いて可溶化し、変性し、さらに再度折り畳む。これについては、Protein Folding,Kreugerら(1990)136−142頁、Gierasch及びKing編、American Association for Advancement of Science Publicationが参照できる。
本発明のGLP−1誘導体は、製剤的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または吸収促進剤と組み合わせて製剤化し、医薬組成物とすることもできる。吸収促進剤には、例えば、キレート剤(例えば、EDTA、クエン酸、サリチル酸塩)、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、非界面活性剤(例えば、不飽和環状尿素)、および胆汁酸塩(例えば、デオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム)が上げられる。この様な医薬組成物は、製薬分野における周知の方法で製造することができる。また、これらの医薬組成物は、鼻腔等の粘膜投与に適しており、個々に又は他の治療薬と組み合わせて投与することができる。尚、本発明のGLP−1誘導体は、注射剤、経口剤等、粘膜投与製剤以外の製剤にすることもできる。
本発明組成物は、本技術分野における周知の方法を用いて、患者に投与後迅速かつ持続的又は遅延した活性成分の放出を提供する様に製剤化できる。例えば、適切なマクロ分子(例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロロリドン、酢酸エチレンビニル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及び硫酸プロタミン)、あるいはポリエステル、ポリアミノ酸、ハイドロゲル、ポリ(乳酸)又は酢酸エチルビニルコポリマーなどのポリマー物質などを用いて、本発明ペプチドを複合体とするか又は本発明ペプチドを吸着させることにより、放出がコントロールされた製剤を製造することができる。また、これらのポリマー粒子にペプチドを混合する代わりに、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合によって製造されたマイクロカプセル、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンからなるマイクロカプセル、コロイド状薬物デリバリーシステム(例えば、リポソーム、アルブミン マイクロスフェアー、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)、もしくは、マイクロエマルジョン中に、本発明ペプチドを封入することが可能である。
本発明においては、特開平8−27018に従って調製される電荷調整脂肪乳剤に本発明ペプチドを吸着させることにより、本発明ペプチドの粘膜からの吸収が更に促進された製剤を製造することができる。電荷調整剤としては、各種の酸性リン脂質およびその塩、各種の脂肪酸類およびその塩、胆汁酸類およびその塩等から選択された少なくとも1種類の物質が使用される。酸性リン脂質およびその塩は特に限定されないが、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸およびその塩を例示することができる。脂肪酸類およびその塩も特に限定されないが、炭素数6以上の脂肪酸およびその塩が望ましい。胆汁酸類およびその塩も特に限定されないが、デヒドロコール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸およびその塩を例示することができる。電荷調整剤の選択、電荷調整脂肪乳剤濃度の設定により、投与部位に適した本発明品医薬組成物を調製することができる。
本発明のGLP−1誘導体は、GLP−1製剤が有効である各種疾患に有効である。即ち、本発明のGLP−1誘導体は、例えば、インスリン非依存性慢性糖尿病の処置、インスリン依存性慢性糖尿病の処置、肥満の処置、または/及び、食欲抑制等のために、使用することができる。
本発明のGLP−1誘導体の投与量は、各種疾患の個々の患者に対して当業者によって決定されることが望ましい。しかし、一般的にはその投与量は、1回体重kgあたり1μgから1mgまでの範囲内、好ましくは1回体重kgあたり10μgから100μgの範囲内と考えられる。食時直前に使用し、1日1回から3回以上投与することも可能である。
以下に実施例、試験例でもって、更に本発明の説明を行う。尚、これらの実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
製造例 GLP−1誘導体の合成
GLP−1誘導体の合成は、Model 430Aペプチド合成機(PE−Applied Biosystems,Foster City,CA)による固相合成によって行い、HPLCにより精製後、マススペクトルにより合成品を確認した。純度は大部分のものについて95%以上のものを使用し、インビトロおよびインビボでの試験を行った。
以下に合成した化合物を示す。GLP−1(7−36)の配列は、His−Ala−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Gly−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Val−Lys−Gly−Arg(配列番号2)である(すなわち、GLP−1(7−36)は、GLP−1(7−35)−Argと同じである)。例えば、GLP−1(7−36)+Arg−NH2とは、天然型GLP−1(7−36)のC末端にアミド化Argを1残基付加したものである。また、[Ser8]−GLP−1(7−35)は、2番目(8位に相当)のAlaをSerに変換し、最後(36位に相当)のArgを削除したものである。
比較製造例1. GLP−1(7−36)−NH2・・・天然型GLP−1
比較製造例2. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−NH2(配列番号3)
・・・8S−GLP−1と略す
製造例1. GLP−1(7−36)+Arg−NH2(配列番号4)・・・GLP−1+1Rと略す
製造例2. GLP−1(7−36)+Arg−Arg−NH2(配列番号5)・・・GLP−1+2Rと略す
製造例3. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号6)
・・・8S−GLP−1+2Rと略す
製造例4. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号7)
・・・8S−GLP−1+3Rと略す
製造例5. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号8)
・・・8S−GLP−1+4Rと略す
製造例6. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号9)
・・・8S−GLP−1+5Rと略す
製造例7. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2
(配列番号10)・・・8S−GLP−1+6Rと略す
製造例8. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2
(配列番号11)・・・8S−GLP−1+8Rと略す
製造例9. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Arg−NH2(配列番号12)
・・・8S,des36R−GLP−1+1KRと略す
製造例10. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号13)
・・・8S,des36R−GLP−1+2KRと略す
製造例11. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号14)
・・・8S,des36R−GLP−1+3KRと略す
製造例12. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号15)
・・・8S,des36R−GLP−1+5KRと略す
製造例13. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2
(配列番号16)・・・8S,des36R−GLP−1+7KRと略す
製造例14. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−
Arg−NH2(配列番号17)・・・8S,des36R−GLP−1+10KRと略す
製造例15. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Lys−Lys−NH2(配列番号18)
・・・8S−GLP−1+2Kと略す
参考製造例1. [Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg(配列番号19)
・・・8S26Q34N−GLP−1と略す
参考製造例2. [Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg−NH2(配列番号20)
・・・26Q34N−GLP−1と略す
また、これら製造例以外にも、例16.[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号21)(8S26Q34N−GLP−1+4Rと略す)、例17.[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号22)(8S26Q34N−GLP−1+6Rと略す)、例18.[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号23)(8S26Q34N,des36R−GLP−1+5KRと略す)等のGLP−1誘導体が好ましいものと考えられる。
さらに、以上の製造例1〜15、例16〜18については、C末端はアミド化(−NH2)されているが、非アミド化(−OH)体とすることもできる。例えば、製造例5の非アミド化(−OH)体は、例19.[Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg(配列番号24)(8S−GLP−1+4Rと略す)となる。また、C末端はHseとすることもできる。そのようなペプチドとしては、例20.[Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Hse(配列番号25)(8S−GLP−1+3RHseと略す)を例示することができる。
試験例1 GLP−1誘導体のサイクリックAMP産生活性
ヒトGLP−1受容体の公表されたDNA配列[Grazianoら、Biochem Biophys Res Com196:141−146(1993)]に基づき発現ベクターを構築した。チャイニーズハムスター卵巣CHO−K1細胞を該ベクターで形質転換し、ヒトGLP−1受容体を発現する組換えCHO細胞を得た。
ヒトGLP−1受容体発現細胞を1×104cells/ml/wellで24ウエルプレートに植え込んだ。3日後アッセイに使用し、緩衝液(PBS、5.6mMグルコース、1mMイソブチルメチルキサンチン、20μM Ro20−1724、0.5%BSA、pH7.4)中でGLP−1誘導体と37℃で30分間インキュベーションした。5N塩酸を10μl加えてインキュベーションを停止した。
各種GLP−1誘導体とGLP−1受容体との反応により、細胞内に形成されるサイクリックAMP生成物は、cAMP−ScreenTM system(Applied Biosystems)によるエンザイムイムノアッセイにより測定した。表1に各種GLP−1誘導体のサイクリックAMP産生活性を、天然型GLP−1の活性を100%としたときの相対的数値で示した。
この結果、どのGLP−1誘導体もin vitroでのサイクリックAMP産生活性を持っていた。しかしながら、アルギニンまたはリジンが多く付加されるにつれて活性の低下傾向が見られた。特にリジンにおいてその傾向が認められる。しかし、粘膜吸収時には、付加されたアルギニンまたはリジンがペプチダーゼにより切除される可能性が高いことから、必ずしも、このin vitroでの活性がin vivoでの活性を反映するとは考えられず、このことが後記in vivo試験の結果となっていると考えられる。
試験例2 GLP−1誘導体の粘膜からの吸収に伴う、血糖低下作用およびインスリ ン分泌促進作用
GLP−1誘導体の粘膜からの吸収増大を、in vivoでの血糖低下作用およびインスリン分泌促進作用により評価した。すなわち、マウスにGLP−1誘導体を経鼻投与し、グルコース負荷後の血糖値の変動を調べる経口耐糖能試験(OGTT)で評価した。
GLP−1誘導体は蒸留水で1mMに調製し、−80℃にストックした。試験時に生理食塩水で所定の濃度に希釈して使用した。
マウスはエーテルを用いて軽麻酔した。マイクロピペットを用いて20μlのGLP−1誘導体溶液を、チップの先から直接マウスの鼻にゆっくりと放出した。このときGLP−1誘導体溶液は、マウスの呼吸により鼻から吸引された。GLP−1誘導体を経鼻投与して5分後、5%グルコース溶液を10ml/kgの割合でゾンデにより経口投与した。
血糖値は、試験直前とグルコース投与5,10,20分後に、尾先端部を切除した傷口から血液数μlを揉み出し、小型血糖値測定機(グルテストエース、(株)三和化学研究所)を用いて測定した。GLP−1誘導体投与前の血糖値からの上昇分の曲線下面積(AUC 0−20分)を個々のマウスについて算出した。
また、血中インスリン値は、グルコース投与5分後にヘパリン処理したガラスキャピラリーを用いて眼窩静脈叢より75μl採血し、遠心分離により得た血漿を用いてEIA法(レビスマウスインスリンキット、(株)シバヤギ)により測定した。
各GLP−1誘導体投与群の血糖値と血中インスリン値を、平均値と標準誤差で表2に示した。
この結果、8S−GLP−1+4Rおよび8S,des36R−GLP−1+5KRのGLP−1誘導体において、最も強い血糖低下作用がみられた。また、8S−GLP−1+4R以上にアルギニンを付加した誘導体、あるいは8S,des36R−GLP−1+5KR以上にリジンを付加した誘導体において、最も高いインスリン分泌促進作用がみられた。このとき、天然型GLP−1に比べて10分の1量で同等の効果を示していることから、これらのGLP−1誘導体は、天然型GLP−1に比べて10倍吸収が増大したと考えられた。
試験例3 電荷調整脂肪乳剤のGLP−1誘導体の粘膜吸収に対する作用
試験例2と同様の方法で経口耐糖能試験を行い、電荷調整脂肪乳剤の併用によるGLP−1誘導体の血糖値低下作用およびインスリン分泌促進作用を調べた。使用した電荷調整脂肪乳剤は特開平8−27018にしたがって調製し、ホスファチジルグリセロール(ナトリウム塩)2%(w/w)、中性油8%(w/w)、水90%(w/w)を用いて、最終濃度8%電荷調整脂肪乳剤を得た。
8%電荷調整脂肪乳剤溶液50μl、1mM 8S−GLP−1+5R溶液3.56μl、蒸留水146.4μlを混和して、最終濃度0.0178mM 8S−GLP−1+5Rを含む2%電荷調整脂肪乳剤溶液を調製した。比較対照には、2%電荷調整脂肪乳剤溶液を含まない0.534mM天然型GLP−1溶液(8S−GLP−1+5Rに比べて30倍量)、2%電荷調整脂肪乳剤溶液を含まない0.0178mM 8S−GLP−1+5R溶液、および生理食塩水を用いた。
マウスはエーテルを用いて軽麻酔した。マイクロピペットを用いて20μlのGLP−1誘導体溶液を、チップの先から直接マウスの鼻にゆっくりと放出した。GLP−1誘導体を経鼻投与して5分後、5%グルコース溶液を10ml/kgの割合でゾンデにより経口投与した。
血糖値は、試験直前とグルコース投与10,20,30分後に、尾先端部を切除した傷口から血液数μlを揉み出し、小型血糖値測定機(グルテストエース、(株)三和化学研究所)を用いて測定した。GLP−1誘導体投与前の血糖値からの上昇分の曲線下面積(AUC 0−30分)を個々のマウスについて算出した。
また、血中インスリン値は、グルコース投与10分後にヘパリン処理したガラスキャピラリーを用いて眼窩静脈叢より75μl採血し、遠心分離により得た血漿を用いてEIA法(レビスマウスインスリンキット、(株)シバヤギ)により測定した。
各GLP−1誘導体投与群の血糖値と血中インスリン値を、平均値と標準誤差で表3に示した。
この結果、電荷調整脂肪乳剤を併用した8S−GLP−1+5Rは、電荷調整脂肪乳剤を併用しない天然型GLP−1の30分の1量で、天然型GLP−1と同等の血糖低下作用を示した。即ち、電荷調整脂肪乳剤により8S−GLP−1+5Rの吸収が増大し、より低濃度で効果が発揮された。
試験例4 GLP−1誘導体8S26Q34N−GLP−1の活性評価
試験例1の方法に従がって、GLP−1誘導体8S26Q34N−GLP−1のインビトロにおけるサイクリックAMP産生活性を測定した。アミノ酸置換後も活性を維持していた(表4)。
また、マウスランゲルハンス島を用いて、16.7mMグルコース存在下(高血糖条件)における30分間のインスリン分泌活性を調べたところ、GLP−1誘導体8S26Q34N−GLP−1は天然型GLP−1に比べて活性が強い傾向を示した(表5)。
更に、マウスにおける血糖低下作用を、マウスにGLP−1誘導体を皮下投与した5分後、尾静脈からのグルコース0.5g/kg負荷を行うことにより調べた。GLP−L誘導体8S26Q34N−GLP−1は濃度依存的な血糖低下がみられ、その作用は天然型GLP−1より強かった(表6)。
本試験の結果は、参考製造例1のGLP−1誘導体が、GLP−1活性を保持していることを示すものである。表1の試験結果を合わせて考えると、このGLP−1誘導体のC末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加しても、やはりGLP−1活性を保持していると結論付けることができる。
試験例5 GLP−1誘導体8S−GLP−1のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)に対 する耐性の評価
500pM GLP−1誘導体8S−GLP−1を40μU/μlジペプチジルペプチダーゼIVと混和し、37℃にて60分間反応させた。その後、2倍量のエタノールで抽出し、遠心エバポレーターにて乾固した。得られた乾固物を1%BSA含有蒸留水に溶解し、試験例1に従ってサイクリックAMP産生活性を測定し、残存活性(%)を算出した。
この結果、ジペプチジルペプチダーゼIVによる処理なしと処理ありで活性に違いがなく、本GLP−1誘導体がジペプチジルペプチダーゼIVに対して耐性であることがわかった。したがって8位をセリンに置換することにより、GLP−1誘導体はジペプチジルペプチダーゼIV耐性を獲得できる(表7)。
試験例6 GLP−1誘導体26Q34N−GLP−1のトリプシンに対する耐性の評価
参考製造例2のGLP−1誘導体26Q34N−GLP−1を、50mM炭酸水素アンモニウムpH7.8に500μg/mlの濃度になるように溶解した。この溶液100μlに、500μg/mlトリプシン溶液(Promega Cat.No.V5113)を5μl加えて、37℃、1時間反応させた。反応停止は71.5%エタノールを1200μl(final 65%)を加えて行い、4℃で5分間の15,000rpm遠心により上清を回収し、エバポレーションした。乾固物を蒸留水に溶解し、試験例1の方法でcAMP活性を測定し、残存活性(%)を求めた。
この結果、トリプシン処理なしと処理ありで活性に違いがなく、本GLP−1誘導体がトリプシンに耐性であることがわかった(表8)。
この結果は、GLP−1誘導体の26位をグルタミンに、34位をアスパラギンに置換することにより、GLP−1誘導体がトリプシン耐性を獲得することを示す。これにより、このGLP−1誘導体のC末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加したGLP−1誘導体も、やはりトリプシン耐性を有すると結論付けることができる。
本発明のGLP−1誘導体は、化学合成あるいは遺伝子組換え技術により製造することができる。
ポリペプチドの化学合成の原理は、本発明の技術分野において周知である。その原理は、例えば、以下の様な一般のテキストを参考にできる;Dugas H.及びPenney C,Bioorganic Chemistry(1981)Springer−Verlag,New York,54−92頁、Merrifields JM,Chem.Soc,85:2149(1962)及びStewart及びYoung,Solid Phase Peptide Synthesis,24−66項,Freeman(San Francisco,1969)。例えば、430Aペプチド合成機(PE−Applied Biosystems Inc,850 Lincoln Center Drive,Foster City CA 94404)及びPE−Applied Biosystemsにより供給された合成サイクルを用いて、固相方法により本発明のペプチドを合成できる。Bocアミノ酸及びその他の試薬は、PE−Applied Biosystems及び他の薬品供給業者から購入可能である。
本発明のペプチドを遺伝子組換え技術により生産する方法について、以下に詳細に説明する。
GLP−1のDNAは、全合成、又はより大きな天然のグルカゴンがコードしているDNAの修飾により得られる。プレプログルカゴンをコードしているDNA配列はLundら[Proc Natl Acad Sci USA 79:345−349(1982)]において示されており、この天然の配列を変えることにより、本発明化合物の生産に使用することができる。合成遺伝子の構築方法は本発明の技術分野では周知であり、例えばBrownらのMethods in Enzymology,Academic Press,NY第68巻、109−151頁を参照できる。本発明のペプチドをコードするDNA配列をそのアミノ酸配列に基づいてデザインし、Model 380A又は380BDNA合成機(PE−Applied Biosystems Inc,850 Lincoln Center Drive,Foster City CA 94404)などの通常のDNA合成機を用いてその配列自身をもつDNAを製造できる。
また、本発明のGLP−1誘導体の産生に用いるDNAには、発現量を高め産物を宿主内に安定的に蓄積させる工夫、生産後の精製を容易にする工夫、あるいは融合タンパクとして生産させ容易にGLP−1誘導体を切り出す工夫等を施すことができる。例えば、本発明のGLP−1誘導体遺伝子の複数個をタンデムに繋ぎ、発現量を高めるといった手法、または、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、プロテインA、TrpEなどのタンパクの遺伝子に繋ぎ、融合タンパクとして産生させるといった手法が例示される。これらの場合、例えば、産生後GLP−1誘導体を単体として得るには、各遺伝子との間にアミノ酸のメチオニンに対応する遺伝子を入れておき、臭化シアン処理することができる。この場合に、C末端はHse(ホモセリン)になる。また、本発明のGLP−1誘導体の中には、C末端のみにアルギニンをもつものがあり、アルギニルエンドペプチダーゼによる酵素処理により、GLP−1誘導体の単体を得ることができる。
GLP−1誘導体ペプチドの発現を効果的に行うためには、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて、適切な組換えDNA発現ベクターに所定の配列をもつ合成DNAを挿入する。一般にはManiatisら、(1989)Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Laboratory Press,NY第1−3巻を参照できる。その際、合成遺伝子の効率的な転写を達成するために、それをプローモーター−オペレーター領域と機能的に結合させる。合成遺伝子プローモーター−オペレーター領域を合成遺伝子のATG開始コドンに関して同じ配列の配向性にて配置する。原核細胞及び真核細胞の形質転換に使用できる種々の発現ベクターは周知であり、The Promega Biological Research Products Catalogue及びThe Stratagene Cloning Systems Catalogueが参照できる。
GLP−1誘導体ペプチドのための発現ベクターを構築した後、そのベクターを用いて適切な宿主細胞を形質転換させる。宿主細胞には真核性細胞又は原核性細胞のいずれかを使用できる。細胞を形質転換するための技術は本分野において周知であり、上記のManiatisらの様な一般の引用文献に見出すことができる。原核性宿主細胞は、一般にはより高い割合でタンパク質を生産し、より培養し易い。高レベルの細菌発現系において発現されるタンパク質は特徴的に凝集して、高レベルの過剰に発現されたタンパク質を含有する粒子又は封入体となる。この様な典型的に凝集しているタンパク質を本分野にて周知の技術を用いて可溶化し、変性し、さらに再度折り畳む。これについては、Protein Folding,Kreugerら(1990)136−142頁、Gierasch及びKing編、American Association for Advancement of Science Publicationが参照できる。
本発明のGLP−1誘導体は、製剤的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または吸収促進剤と組み合わせて製剤化し、医薬組成物とすることもできる。吸収促進剤には、例えば、キレート剤(例えば、EDTA、クエン酸、サリチル酸塩)、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、非界面活性剤(例えば、不飽和環状尿素)、および胆汁酸塩(例えば、デオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム)が上げられる。この様な医薬組成物は、製薬分野における周知の方法で製造することができる。また、これらの医薬組成物は、鼻腔等の粘膜投与に適しており、個々に又は他の治療薬と組み合わせて投与することができる。尚、本発明のGLP−1誘導体は、注射剤、経口剤等、粘膜投与製剤以外の製剤にすることもできる。
本発明組成物は、本技術分野における周知の方法を用いて、患者に投与後迅速かつ持続的又は遅延した活性成分の放出を提供する様に製剤化できる。例えば、適切なマクロ分子(例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロロリドン、酢酸エチレンビニル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及び硫酸プロタミン)、あるいはポリエステル、ポリアミノ酸、ハイドロゲル、ポリ(乳酸)又は酢酸エチルビニルコポリマーなどのポリマー物質などを用いて、本発明ペプチドを複合体とするか又は本発明ペプチドを吸着させることにより、放出がコントロールされた製剤を製造することができる。また、これらのポリマー粒子にペプチドを混合する代わりに、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合によって製造されたマイクロカプセル、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンからなるマイクロカプセル、コロイド状薬物デリバリーシステム(例えば、リポソーム、アルブミン マイクロスフェアー、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)、もしくは、マイクロエマルジョン中に、本発明ペプチドを封入することが可能である。
本発明においては、特開平8−27018に従って調製される電荷調整脂肪乳剤に本発明ペプチドを吸着させることにより、本発明ペプチドの粘膜からの吸収が更に促進された製剤を製造することができる。電荷調整剤としては、各種の酸性リン脂質およびその塩、各種の脂肪酸類およびその塩、胆汁酸類およびその塩等から選択された少なくとも1種類の物質が使用される。酸性リン脂質およびその塩は特に限定されないが、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸およびその塩を例示することができる。脂肪酸類およびその塩も特に限定されないが、炭素数6以上の脂肪酸およびその塩が望ましい。胆汁酸類およびその塩も特に限定されないが、デヒドロコール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸およびその塩を例示することができる。電荷調整剤の選択、電荷調整脂肪乳剤濃度の設定により、投与部位に適した本発明品医薬組成物を調製することができる。
本発明のGLP−1誘導体は、GLP−1製剤が有効である各種疾患に有効である。即ち、本発明のGLP−1誘導体は、例えば、インスリン非依存性慢性糖尿病の処置、インスリン依存性慢性糖尿病の処置、肥満の処置、または/及び、食欲抑制等のために、使用することができる。
本発明のGLP−1誘導体の投与量は、各種疾患の個々の患者に対して当業者によって決定されることが望ましい。しかし、一般的にはその投与量は、1回体重kgあたり1μgから1mgまでの範囲内、好ましくは1回体重kgあたり10μgから100μgの範囲内と考えられる。食時直前に使用し、1日1回から3回以上投与することも可能である。
以下に実施例、試験例でもって、更に本発明の説明を行う。尚、これらの実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
製造例 GLP−1誘導体の合成
GLP−1誘導体の合成は、Model 430Aペプチド合成機(PE−Applied Biosystems,Foster City,CA)による固相合成によって行い、HPLCにより精製後、マススペクトルにより合成品を確認した。純度は大部分のものについて95%以上のものを使用し、インビトロおよびインビボでの試験を行った。
以下に合成した化合物を示す。GLP−1(7−36)の配列は、His−Ala−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Gly−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Val−Lys−Gly−Arg(配列番号2)である(すなわち、GLP−1(7−36)は、GLP−1(7−35)−Argと同じである)。例えば、GLP−1(7−36)+Arg−NH2とは、天然型GLP−1(7−36)のC末端にアミド化Argを1残基付加したものである。また、[Ser8]−GLP−1(7−35)は、2番目(8位に相当)のAlaをSerに変換し、最後(36位に相当)のArgを削除したものである。
比較製造例1. GLP−1(7−36)−NH2・・・天然型GLP−1
比較製造例2. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−NH2(配列番号3)
・・・8S−GLP−1と略す
製造例1. GLP−1(7−36)+Arg−NH2(配列番号4)・・・GLP−1+1Rと略す
製造例2. GLP−1(7−36)+Arg−Arg−NH2(配列番号5)・・・GLP−1+2Rと略す
製造例3. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号6)
・・・8S−GLP−1+2Rと略す
製造例4. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号7)
・・・8S−GLP−1+3Rと略す
製造例5. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号8)
・・・8S−GLP−1+4Rと略す
製造例6. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号9)
・・・8S−GLP−1+5Rと略す
製造例7. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2
(配列番号10)・・・8S−GLP−1+6Rと略す
製造例8. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2
(配列番号11)・・・8S−GLP−1+8Rと略す
製造例9. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Arg−NH2(配列番号12)
・・・8S,des36R−GLP−1+1KRと略す
製造例10. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号13)
・・・8S,des36R−GLP−1+2KRと略す
製造例11. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号14)
・・・8S,des36R−GLP−1+3KRと略す
製造例12. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号15)
・・・8S,des36R−GLP−1+5KRと略す
製造例13. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2
(配列番号16)・・・8S,des36R−GLP−1+7KRと略す
製造例14. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−
Arg−NH2(配列番号17)・・・8S,des36R−GLP−1+10KRと略す
製造例15. [Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Lys−Lys−NH2(配列番号18)
・・・8S−GLP−1+2Kと略す
参考製造例1. [Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg(配列番号19)
・・・8S26Q34N−GLP−1と略す
参考製造例2. [Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg−NH2(配列番号20)
・・・26Q34N−GLP−1と略す
また、これら製造例以外にも、例16.[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号21)(8S26Q34N−GLP−1+4Rと略す)、例17.[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−NH2(配列番号22)(8S26Q34N−GLP−1+6Rと略す)、例18.[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Arg−NH2(配列番号23)(8S26Q34N,des36R−GLP−1+5KRと略す)等のGLP−1誘導体が好ましいものと考えられる。
さらに、以上の製造例1〜15、例16〜18については、C末端はアミド化(−NH2)されているが、非アミド化(−OH)体とすることもできる。例えば、製造例5の非アミド化(−OH)体は、例19.[Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg(配列番号24)(8S−GLP−1+4Rと略す)となる。また、C末端はHseとすることもできる。そのようなペプチドとしては、例20.[Ser8]−GLP−1(7−35)−Arg−Arg−Arg−Arg−Hse(配列番号25)(8S−GLP−1+3RHseと略す)を例示することができる。
試験例1 GLP−1誘導体のサイクリックAMP産生活性
ヒトGLP−1受容体の公表されたDNA配列[Grazianoら、Biochem Biophys Res Com196:141−146(1993)]に基づき発現ベクターを構築した。チャイニーズハムスター卵巣CHO−K1細胞を該ベクターで形質転換し、ヒトGLP−1受容体を発現する組換えCHO細胞を得た。
ヒトGLP−1受容体発現細胞を1×104cells/ml/wellで24ウエルプレートに植え込んだ。3日後アッセイに使用し、緩衝液(PBS、5.6mMグルコース、1mMイソブチルメチルキサンチン、20μM Ro20−1724、0.5%BSA、pH7.4)中でGLP−1誘導体と37℃で30分間インキュベーションした。5N塩酸を10μl加えてインキュベーションを停止した。
各種GLP−1誘導体とGLP−1受容体との反応により、細胞内に形成されるサイクリックAMP生成物は、cAMP−ScreenTM system(Applied Biosystems)によるエンザイムイムノアッセイにより測定した。表1に各種GLP−1誘導体のサイクリックAMP産生活性を、天然型GLP−1の活性を100%としたときの相対的数値で示した。
この結果、どのGLP−1誘導体もin vitroでのサイクリックAMP産生活性を持っていた。しかしながら、アルギニンまたはリジンが多く付加されるにつれて活性の低下傾向が見られた。特にリジンにおいてその傾向が認められる。しかし、粘膜吸収時には、付加されたアルギニンまたはリジンがペプチダーゼにより切除される可能性が高いことから、必ずしも、このin vitroでの活性がin vivoでの活性を反映するとは考えられず、このことが後記in vivo試験の結果となっていると考えられる。
試験例2 GLP−1誘導体の粘膜からの吸収に伴う、血糖低下作用およびインスリ ン分泌促進作用
GLP−1誘導体の粘膜からの吸収増大を、in vivoでの血糖低下作用およびインスリン分泌促進作用により評価した。すなわち、マウスにGLP−1誘導体を経鼻投与し、グルコース負荷後の血糖値の変動を調べる経口耐糖能試験(OGTT)で評価した。
GLP−1誘導体は蒸留水で1mMに調製し、−80℃にストックした。試験時に生理食塩水で所定の濃度に希釈して使用した。
マウスはエーテルを用いて軽麻酔した。マイクロピペットを用いて20μlのGLP−1誘導体溶液を、チップの先から直接マウスの鼻にゆっくりと放出した。このときGLP−1誘導体溶液は、マウスの呼吸により鼻から吸引された。GLP−1誘導体を経鼻投与して5分後、5%グルコース溶液を10ml/kgの割合でゾンデにより経口投与した。
血糖値は、試験直前とグルコース投与5,10,20分後に、尾先端部を切除した傷口から血液数μlを揉み出し、小型血糖値測定機(グルテストエース、(株)三和化学研究所)を用いて測定した。GLP−1誘導体投与前の血糖値からの上昇分の曲線下面積(AUC 0−20分)を個々のマウスについて算出した。
また、血中インスリン値は、グルコース投与5分後にヘパリン処理したガラスキャピラリーを用いて眼窩静脈叢より75μl採血し、遠心分離により得た血漿を用いてEIA法(レビスマウスインスリンキット、(株)シバヤギ)により測定した。
各GLP−1誘導体投与群の血糖値と血中インスリン値を、平均値と標準誤差で表2に示した。
この結果、8S−GLP−1+4Rおよび8S,des36R−GLP−1+5KRのGLP−1誘導体において、最も強い血糖低下作用がみられた。また、8S−GLP−1+4R以上にアルギニンを付加した誘導体、あるいは8S,des36R−GLP−1+5KR以上にリジンを付加した誘導体において、最も高いインスリン分泌促進作用がみられた。このとき、天然型GLP−1に比べて10分の1量で同等の効果を示していることから、これらのGLP−1誘導体は、天然型GLP−1に比べて10倍吸収が増大したと考えられた。
試験例3 電荷調整脂肪乳剤のGLP−1誘導体の粘膜吸収に対する作用
試験例2と同様の方法で経口耐糖能試験を行い、電荷調整脂肪乳剤の併用によるGLP−1誘導体の血糖値低下作用およびインスリン分泌促進作用を調べた。使用した電荷調整脂肪乳剤は特開平8−27018にしたがって調製し、ホスファチジルグリセロール(ナトリウム塩)2%(w/w)、中性油8%(w/w)、水90%(w/w)を用いて、最終濃度8%電荷調整脂肪乳剤を得た。
8%電荷調整脂肪乳剤溶液50μl、1mM 8S−GLP−1+5R溶液3.56μl、蒸留水146.4μlを混和して、最終濃度0.0178mM 8S−GLP−1+5Rを含む2%電荷調整脂肪乳剤溶液を調製した。比較対照には、2%電荷調整脂肪乳剤溶液を含まない0.534mM天然型GLP−1溶液(8S−GLP−1+5Rに比べて30倍量)、2%電荷調整脂肪乳剤溶液を含まない0.0178mM 8S−GLP−1+5R溶液、および生理食塩水を用いた。
マウスはエーテルを用いて軽麻酔した。マイクロピペットを用いて20μlのGLP−1誘導体溶液を、チップの先から直接マウスの鼻にゆっくりと放出した。GLP−1誘導体を経鼻投与して5分後、5%グルコース溶液を10ml/kgの割合でゾンデにより経口投与した。
血糖値は、試験直前とグルコース投与10,20,30分後に、尾先端部を切除した傷口から血液数μlを揉み出し、小型血糖値測定機(グルテストエース、(株)三和化学研究所)を用いて測定した。GLP−1誘導体投与前の血糖値からの上昇分の曲線下面積(AUC 0−30分)を個々のマウスについて算出した。
また、血中インスリン値は、グルコース投与10分後にヘパリン処理したガラスキャピラリーを用いて眼窩静脈叢より75μl採血し、遠心分離により得た血漿を用いてEIA法(レビスマウスインスリンキット、(株)シバヤギ)により測定した。
各GLP−1誘導体投与群の血糖値と血中インスリン値を、平均値と標準誤差で表3に示した。
この結果、電荷調整脂肪乳剤を併用した8S−GLP−1+5Rは、電荷調整脂肪乳剤を併用しない天然型GLP−1の30分の1量で、天然型GLP−1と同等の血糖低下作用を示した。即ち、電荷調整脂肪乳剤により8S−GLP−1+5Rの吸収が増大し、より低濃度で効果が発揮された。
試験例4 GLP−1誘導体8S26Q34N−GLP−1の活性評価
試験例1の方法に従がって、GLP−1誘導体8S26Q34N−GLP−1のインビトロにおけるサイクリックAMP産生活性を測定した。アミノ酸置換後も活性を維持していた(表4)。
また、マウスランゲルハンス島を用いて、16.7mMグルコース存在下(高血糖条件)における30分間のインスリン分泌活性を調べたところ、GLP−1誘導体8S26Q34N−GLP−1は天然型GLP−1に比べて活性が強い傾向を示した(表5)。
更に、マウスにおける血糖低下作用を、マウスにGLP−1誘導体を皮下投与した5分後、尾静脈からのグルコース0.5g/kg負荷を行うことにより調べた。GLP−L誘導体8S26Q34N−GLP−1は濃度依存的な血糖低下がみられ、その作用は天然型GLP−1より強かった(表6)。
本試験の結果は、参考製造例1のGLP−1誘導体が、GLP−1活性を保持していることを示すものである。表1の試験結果を合わせて考えると、このGLP−1誘導体のC末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加しても、やはりGLP−1活性を保持していると結論付けることができる。
試験例5 GLP−1誘導体8S−GLP−1のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)に対 する耐性の評価
500pM GLP−1誘導体8S−GLP−1を40μU/μlジペプチジルペプチダーゼIVと混和し、37℃にて60分間反応させた。その後、2倍量のエタノールで抽出し、遠心エバポレーターにて乾固した。得られた乾固物を1%BSA含有蒸留水に溶解し、試験例1に従ってサイクリックAMP産生活性を測定し、残存活性(%)を算出した。
この結果、ジペプチジルペプチダーゼIVによる処理なしと処理ありで活性に違いがなく、本GLP−1誘導体がジペプチジルペプチダーゼIVに対して耐性であることがわかった。したがって8位をセリンに置換することにより、GLP−1誘導体はジペプチジルペプチダーゼIV耐性を獲得できる(表7)。
試験例6 GLP−1誘導体26Q34N−GLP−1のトリプシンに対する耐性の評価
参考製造例2のGLP−1誘導体26Q34N−GLP−1を、50mM炭酸水素アンモニウムpH7.8に500μg/mlの濃度になるように溶解した。この溶液100μlに、500μg/mlトリプシン溶液(Promega Cat.No.V5113)を5μl加えて、37℃、1時間反応させた。反応停止は71.5%エタノールを1200μl(final 65%)を加えて行い、4℃で5分間の15,000rpm遠心により上清を回収し、エバポレーションした。乾固物を蒸留水に溶解し、試験例1の方法でcAMP活性を測定し、残存活性(%)を求めた。
この結果、トリプシン処理なしと処理ありで活性に違いがなく、本GLP−1誘導体がトリプシンに耐性であることがわかった(表8)。
この結果は、GLP−1誘導体の26位をグルタミンに、34位をアスパラギンに置換することにより、GLP−1誘導体がトリプシン耐性を獲得することを示す。これにより、このGLP−1誘導体のC末端側に数個のアルギニンまたは/及びリジンを付加したGLP−1誘導体も、やはりトリプシン耐性を有すると結論付けることができる。
GLP−1は現在皮下注射で臨床開発が進められている。この原因には、GLP−1がペプチドであり、経口投与では吸収されないことが上げられる。本発明品はこの点を改善し、注射以外での投与を可能にする。GLP−1を用いた糖尿病治療は長期間にわたることが予想され、患者にとって繰り返しの注射から開放されるメリットは大きい。
Claims (11)
- GLP−1(7−35)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加された配列からなり、かつGLP−1活性を有するペプチドのC末端にWaa−(Xaa)n−Yaa(WaaはArgまたはLys、XaaはArgまたはLys、nは0〜14の整数、YaaはArg、Arg−NH2、Lys、Lys−NH2またはHse)が付加されたペプチド。
- GLP−1アミノ酸配列の8位がSerに置換されていることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
- GLP−1アミノ酸配列の26位がGlnに、34位がAsnに置換されていることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
- nが1〜9の整数である、請求項1に記載のペプチド。
- nが3〜5の整数である、請求項1に記載のペプチド。
- 一般式、[Ser8,Gln26,Asn34]−GLP−1(7−35)−(Arg)n−Yaa
式中、nは4〜6の整数、YaaはArgまたはArg−NH2、で示される、請求項1に記載のペプチド。 - 天然型GLP−1よりも高い粘膜吸収率を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のペプチド。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含む医薬組成物。
- 表面電荷をマイナスに調整した脂肪乳剤を含有していることを特徴とする、請求項8に記載の医薬組成物。
- 経粘膜投与,特に経鼻投与で用いることを特徴とする、請求項8または9に記載の医薬組成物。
- インスリン非依存性慢性糖尿病の処置、インスリン依存性慢性糖尿病の処置、肥満の処置、又は/及び食欲抑制のための、請求項8または9に記載の医薬組成物。
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