JPWO2003045690A1 - 積層樹脂シート、エンボス付与シート及び被覆基材 - Google Patents
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Abstract
Description
この発明は、調度品、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や合板製家具、鋼製家具等の家具、エレベータ内装、ドア、壁材、床材等の住宅内装建材又は建築物内装等に使用される、加工性と傷入り性に優れたエンボス付与可能シート、これを用いたエンボス付与シート、及びこのエンボス付与シートを用いた被覆基材、並びにこれらの製造方法に関する。
従来の技術
従来、前記用途にはエンボス意匠(エンボス模様)を付与した軟質塩化ビニル系樹脂シートを合成樹脂成形品や合板、木質繊維板、金属板等に被覆したものが用いられてきた。以下、塩化ビニル系樹脂シートをPVCシートと称す。軟質PVCシートの特徴としては、次の点を挙げることができる。
(1)エンボス付与適性に優れることから、意匠性に富んだ被覆材を得ることができる。
(2)一般的に背反要素である加工性と表面の傷入り性のバランスが比較的良好である。
(3)各種添加剤との相溶性に優れること、及び長年にわたり添加剤による物性向上検討が行われてきたことから、耐候性、特に耐光安定性を向上させることが容易である。
該軟質塩化ビニル系樹脂の長尺シートに連続的にエンボスを付与する方法としては、製膜後のシートを再加熱により軟化させ、エンボス柄を彫刻したロール(エンボスロール)で押さえて柄を連続的に転写させる方法が一般的に用いられている。シートを加熱する方法として、加熱した金属ロールに接触させて加熱するような接触型や、赤外線ヒーターや、熱風ヒーター等によってロール等に接触させること無く加熱する非接触型等が考えられる。実際の製造ラインでは、どちらか一方だけの場合もあるが、一般的には併用されることが多く、これら一連の工程を有する設備がエンボス付与装置等と称するものである。
軟質PVCシートは前記の様な優れた特徴を有する。しかし、近年塩化ビニル系樹脂の一部の安定剤に起因する重金属化合物の問題、一部の可塑剤や安定剤に起因するVOC(揮発性有機化合物)問題や内分泌攪乱作用の問題、燃焼時に塩化水素ガスその他の塩素含有ガスを発生する問題等から、塩化ビニル系樹脂は、その使用に制限を受けるようになって来た。塩化ビニル系樹脂を使用する場合と使用しない場合での、総合的な環境負荷の観点からの優劣は依然明瞭ではないが、これら製品のユーザーにおいては塩化ビニル系樹脂を使用しないことが強く求められてきている。
このため、ポリオレフィン系樹脂組成物(以下「PO」という)等からなるシートが使用されて来ている。しかし、このPOシートは最適エンボス付与温度範囲が狭く、シート温度が高いと加熱ロールにシートが貼り付き、低いとエンボスがシートに入り難いことが判っている。
また、融点220〜270℃のポリエステルAよりなる層(A層)の少なくとも片面に融点150〜245℃のポリエステルBよりなる層(B層)を積層してなり、DSCによるサブピークがポリエステルBの融点−5℃以上ポリエステルAの融点−5℃以下の範囲にあり、延伸されている易エンボス加工性フィルムが開示されている(特許文献1:特開平9−24588号公報参照)。
さらに、非晶質ポリエステル樹脂を主成分とする基材フィルム層と、透明な非晶質ポリエステル樹脂を主成分とする保護フィルム層を積層した化粧シートが開示されている(特許文献2:特開2000−233480号公報参照)。この化粧シートは、前記保護フィルム層が、テレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、25〜35モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、65〜75モル%のエチレングリコールからなるジオール成分とを共重合した非晶質ポリエステル樹脂40〜95重量%及び結晶性を有するポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系樹脂から選ばれた少なくとも1種の晶質ポリエステル樹脂5〜60重量%からなることを特徴としている。
発明が解決しようとする課題
しかしながら、前記の特許文献1や特許文献2に開示されたフィルム及びシートは、ポリエステル系樹脂を2層に積層することにより、PVCを使用せずにエンボス付与が可能になっている。
ところが、前記特許文献1に開示されたフィルム(シート)では、エンボス加工を行う際にB層の融点以上に加熱する必要がある。融点が高いと、現行のPVC用のエンボス加工装置(一般的な装置)では必要な温度までシート温度が上げられず、エンボス加工の実施ができない。また、融点でシート溶融張力が急激に変わるため、融点の差の近い、B/Aのシートの場合は、温度振れなどにより、エンボス加工ができないか、シートが溶断する可能性がある。
また、前記特許文献2に開示されたシートでは、2層とも非晶質ポリエステル樹脂が主成分のため、エンボス加工の際に加温、加熱の温度振れで、加熱ロールへの貼り付きや巻き付き等の不具合が発生するという問題がある。
そこで、この発明は、全体的には、現行のPVC用のエンボス加工装置を用いても、シート溶断、加熱ロールへの貼り付きや巻き付きの不具合が生じずに、現行のPVC用のエンボス加工装置を用いることができるエンボス付与シート、及びこのエンボス付与シートを用いた被覆基材を提供することを目的とする。
また、後述する第1にかかる発明については、下記の内容を目的とする。
(1)PVCを使用せずに、シートへのエンボス付与工程において、シートを加温するための加熱ロールに接触させても粘着して貼り付くこともなく、エンボス付与が実施できる積層樹脂シートを提供する。
(2)住宅内装建材、家電製品等の基材として好適で、PVCを使用しない被覆シートを使用した被覆基材を提供する。
次に、後述する第2にかかる発明については、下記の内容を目的とする。
(1)従来から軟質塩化ビニル系樹脂シートに一般的に用いられてきた種々のエンボス付与方法に対応できるポリエステル系樹脂の積層樹脂シートを提供する。
(2)前記積層樹脂シートを使用したエンボス付与シートを提供する。
(3)それらのシートが積層された被覆基材を提供する。
次に、後述する第3にかかる発明については、下記の内容を目的とする。
(1)従来、PVCシートへのエンボス付与に用いられて来たエンボス付与装置で連続的にエンボスを付与可能な耐光性の良好なポリエステル系樹脂の積層樹脂シートを提供する。
(2)前記積層樹脂シートを使用したエンボス付与シートを提供する。
(3)それらのシートが積層された被覆基材を提供する。
次に、後述する第4にかかる発明については、下記の内容を目的とする。
(1)軟質塩化ビニル系樹脂を使用せずに、従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス付与装置で連続的にエンボス付与が可能な積層樹脂シートを提供する。
(2)エンボス付与されたエンボス付与シートを提供する。
(3)その製造方法を提供する。
(4)軟質PVCシートを使用せずにエンボス意匠が付与されて各種用途に好適に使用できる被覆基材を提供する。
(5)その製造方法を提供する。
(6)軟質PVCシートを使用せずにエンボス意匠が付与されて各種用途に好適に使用できる建築内装材を提供する。
次に、後述する第5にかかる発明については、下記の内容を目的とする。
(1)軟質塩化ビニル系樹脂を使用せずに、従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス付与装置で連続的にエンボス付与が可能な印刷模様を有する積層樹脂シートを提供する。
(2)エンボス付与されたエンボス付与シートを提供する。
(3)その製造方法を提供する。
(4)軟質PVCシートを使用せずにエンボス意匠が付与されて各種用途に好適に使用できる被覆基材を提供する。
(5)その製造方法を提供する。
課題を解決するための手段
前記の課題を解決するため、下記の第1の発明〜第5の発明にかかるそれぞれの構成を採用したのである。
まず、第1の発明は、次の構成を採用する。なお、第1の発明とは、請求項1乃至6、請求項27及び請求項35にかかる発明をいう。
前記の第1の発明における目的を達成するため、実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物又は前記実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物を多く含むエンボス付与可能層(A層)と、実質的に結晶性である樹脂組成物もしくは前記実質的に結晶性である樹脂組成物を多く含む基材層(B層)とで構成される、前記エンボス付与可能層からエンボス付与が可能である積層樹脂シートを採用する。
この発明では、前記の構成により、PVCシートへのエンボス付与に一般的に用いられるエンボス付与装置等により、エンボス付与可能層からエンボス付与ができる。そして、エンボス付与可能層がエンボス加工可能な温度に加熱された際にも、実質的に結晶性である基材層はシートとして剛性を持ち、加熱ロールに粘着しない。
また、前記A層のガラス転移温度をTg(A)、前記B層の融点をTm(B)とし、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度が設定可能である積層樹脂シートを採用する。この発明では、エンボス加工が容易になる。
さらに、前記A層の上にさらに印刷層及び透明な上地層を形成する積層樹脂シートを採用する。
さらにまた、前記A層の上にさらに印刷層及び表面コート層を形成した積層樹脂シートを採用する。これらの発明においては、印刷層及び透明な上地層等を形成して意匠性が高められた積層樹脂シートであっても前記と同様にエンボス付与可能層からエンボス付与ができる。
また、全層の総厚みが50μm〜300μmの積層樹脂シートを採用する。この発明では、積層樹脂層の金属板等の基材への貼り合わせ時あるいは、その後の穴開け加工や曲げ加工でシートが割れたりせず、また、エンボス付与も行い易くなる。
さらに、前記A層及びB層を無延伸の状態で積層した積層樹脂シートを採用する。延伸シートを使用した場合は、熱固定温度以上に温度が上がると収縮するため、エンボス付与の際の加工温度の自由度が低いが、この発明では、無延伸のためエンボス付与の際の加工温度の自由度が高くなる。
さらにまた、前記A層にエンボスを付与してエンボス付与シートを採用する。
また、前記のいずれかの積層樹脂シートにエンボス付与したシートを金属板、木質板、合板等の基材の少なくとも片面に被覆した被覆基材を採用する。この発明では、ドア、壁材、床材等の住宅内装建材、家具、調度品やエレベータ、AV製品等の家電製品の基材として好適に使用できる。
次に、第2の発明は、次の構成を採用する。なお、第2の発明とは、請求項7乃至12、及び請求項28にかかる発明、並びに請求項36にかかる発明の一部をいう。
前記の第2の発明における目的を達成するため、前記のA層及びB層は、組成の異なる2種のポリエステル系樹脂であり、前記A層、B層のそれぞれが以下の条件を満たすことにより、種々のエンボス付与方法でエンボス付与可能な積層樹脂シートを採用する。
A層:示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されない、実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなる。
B層:示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなり、更にシート製膜後の樹脂層が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、明確な結晶化ピークが観測されない状態まで結晶化している。
この発明では、A層がエンボスを付与する機能を分担し、B層が加熱ロールへの粘着防止及び溶断防止機能を分担する。即ち、A層がエンボス加工可能な温度に加熱された際にも、実質結晶性のポリエステル系樹脂からなるB層はシートとして剛性を持ち、加熱ロールに粘着しない。従って、従来、ポリエステル系樹脂シートでは対応できなかったシートの再加熱でのエンボス付与が可能になる。その結果、従来、軟質塩化ビニル系樹脂で用いられてきた種々のエンボス付与方法に対応できる。
また、前記B層を構成するポリエステル系樹脂の結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、前記A層を構成するポリエステル系樹脂のガラス転位点をTg(A)[℃]とするとき、Tm(B)>{Tg(A)+30}の関係が成立する積層樹脂シートを採用する。
この発明では、B層を構成するポリエステル系樹脂の融点以下で、A層へのエンボス付与が可能となり、エンボス付与が容易になる。
さらに、前記A層の上に、透明樹脂層を積層した積層樹脂シートを採用する。この発明では、透明樹脂層の存在により、深みのある意匠性の付与、表面の物性改良、ポリエステル系樹脂に添加された顔料等の添加剤の噴き出し防止が容易となる。
さらにまた、前記A層の上に、印刷が施され、その上に透明樹脂層を積層した積層樹脂シートを採用する。この発明では、印刷が施されることにより、種々の模様をA層に形成でき、意匠性を高めることができる。
また、前記B層に用いられる実質結晶性のポリエステルが、ポリブチレンテレフタレート又はその共重合体である積層樹脂シートを採用する。
エンボス付与を良好に行うためには、積層樹脂シートの製膜時にB層が十分結晶化されていることが重要となる。この発明では、B層を構成する樹脂として、結晶化速度の早いポリブチレンテレフタレート又はその共重合体を使用しているため、シート製膜時に十分に結晶化させるのが容易になる。
さらに、A層に用いられる実質非晶性のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートのシクロヘキサンジメタノール共重合体である積層樹脂シートを採用する。この発明では、A層を構成する実質非晶性のポリエステル系を入手し易い。
さらにまた、前記のいずれかの積層樹脂シートにエンボスを付与したエンボス付与シートを採用する。この発明では、前記のいずれかの積層樹脂シートに対応した効果が得られる。
また、前記のいずれかの積層樹脂シートを、前記B層を接着面として、熱硬化性接着剤を介して金属板の上に積層した被覆基材を採用する。この発明の被覆基材は、そのまま、あるいはエンボスを付与した状態で、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や鋼製家具、エレベータ内装、建築物内装等に好適に使用できる。
さらに、前記のエンボス付与シートを、前記ポリエステル系樹脂Bで形成された層を接着面として、熱硬化性接着剤を介して金属板の上に積層した被覆基材を採用する。この発明の被覆基材は、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や鋼製家具、エレベータ内装、建築物内装等に好適に使用できる。
次に、第3の発明は、次の構成を採用する。なお、第3の発明とは、請求項13乃至18、並びに請求項29及び30にかかる発明、及び請求項36にかかる発明の一部をいう。
前記の第3の発明における目的を達成するため、前記A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートの前記A層の表面に、紫外線吸収性を有する厚み2μm〜20μmの範囲の透明被覆層を設けた積層樹脂シートを採用する。この発明では、紫外線吸収性を有する透明被覆層の存在により、耐光性が良好になり、深みのある意匠性の付与、表面の物性改良、ポリエステル系樹脂に添加された顔料等の添加剤の噴き出し防止が容易となる。
また、前記A層及びB層が以下の条件を満たす積層樹脂シートを採用する。
A層:A層を構成するポリエステル系樹脂が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されない、実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなる。
B層:B層を構成するポリエステル系樹脂が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなり、更にエンボス付与のために前記シートを加熱した際、金属ロールへの粘着性を示さない。
かつ、前記樹脂成分Bの結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、前記樹脂成分Aのガラス転位点をTg(A)[℃]とするとき、Tm(B)>{Tg(A)+30}の関係が成立する。
この発明では、エンボス付与のためにシートを加熱した際、金属ロールへの粘着性を示さず、エンボス付与可能層に対して基材層の融点以下でエンボス付与が可能となり、加熱状態で基材層が溶融破断することが無く、エンボス付与が良好に行われる。
さらに、前記透明被覆層が紫外線吸収成分を含有する架橋性樹脂のコーティング層を少なくとも一層含む積層樹脂シートを採用する。この発明では、透明被覆層に紫外線吸収性の他に、光沢の調整、耐傷入り性の更なる向上、耐汚染性の向上、深みのある意匠の付与等の副次的効果を付与するのが容易になる。
さらにまた、前記紫外線吸収成分が添加型の紫外線吸収剤である積層樹脂シートを採用する。この発明では、紫外線吸収剤をコーティング液に添加して塗布する一般的な方法で、透明被覆層に紫外線吸収性を付与することができ、紫外線吸収性を容易に付与できる。
また、前記紫外線吸収成分が反応型紫外線吸収剤を前記架橋性樹脂の分子中に共重合した積層樹脂シートを採用する。この発明では、紫外線吸収剤の耐揮散性や耐移行性が添加型の紫外線吸収剤に比較して良好となる。
さらに、前記A層と前記透明被覆層との間に印刷層が設けられている積層樹脂シートを採用する。この発明では、印刷層が設けられることにより、種々の模様を設けることができ、意匠性を高めることができる。
また、前記いずれかの積層樹脂シートの前記A層にエンボス加工が施された後、前記透明被覆層が形成されたエンボス付与シートを採用する。この発明では、前記いずれかの積層樹脂シートに対応した効果が得られる。また、積層樹脂シートに透明被覆層を設けた後にエンボス加工が施される構成に比較して、エンボス付与が良好に行われ易い。
さらに、前記いずれかの積層樹脂シートの前記A層の上から前記エンボス付与可能層に対するエンボス加工が施されるエンボス付与シートを採用する。この発明では、前記いずれかの積層樹脂シートに対応した効果が得られる。
さらにまた、前記いずれかの積層樹脂シート、又は前記のいずれかのエンボス付与シートを、B層側を接着面として、熱硬化型接着剤を介して金属板の上に積層した被覆基材を採用する。この発明の被覆基材は、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や鋼製家具、エレベータ内装、建築物内装等に好適に使用できる。
次に、第4の発明は、次の構成を採用する。なお、第4の発明とは、請求項19乃至22、並びに請求項31及び32にかかる発明、及び請求項37乃至39にかかる発明の一部をいう。
前記の第4の発明における目的を達成するため、A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートから成り、前記A層及びB層が以下の要件を有している積層樹脂シートを採用する。
A層:エンボス付与前のシートにおいて、示差走査熱量計(DSC)による測定での昇温時に、明確な結晶化ピーク温度Tc(A)[℃]と、結晶融解ピーク温度Tm(A)[℃]とが観測され、結晶化熱量をΔHc(A)[J/g]、結晶融解熱量をΔHm(A)[J/g]とするとき、10≦ΔHm(A)≦35、(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5の関係式が成立する。
B層:エンボス付与前のシートにおいて、示差走査熱量計(DSC)による測定での昇温時に、明確な結晶融解ピーク温度Tm(B)[℃]が観測され、結晶化熱量をΔHc(B)[J/g]、結晶融解熱量をΔHm(B)[J/g]とするとき、180≦Tm(B)≦240、0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)の関係式が成立する。
積層樹脂シートに従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス付与装置で連続的にエンボス付与を施す場合、A層は、エンボス付与装置で加熱されて軟化した後に、エンボスロールでエンボス意匠を付与される。また、B層は、エンボス付与装置で積層樹脂シートが加熱された際、エンボス付与可能層単体では加熱金属ロールへの粘着や、溶融によるシート破断を生ずるところを、A層にB層が付与(積層)されていることにより、これを防止する役割を果たす。
また、前記B層がポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂を含み、以下の関係式が成立する積層樹脂シートを採用する。
35≦ΔHm≦60
この発明では、通常の押出し製膜の時点で、結晶化速度の速いポリブチレンテレフタレート系樹脂が、前記のB層が備えるべき条件を満たすことが可能となり、シート製膜後の別工程での熱処理等の特別な工程が不要となる。そのため、生産性の向上やコストの低減が図れる。
さらに、前記B層がポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂を含み、以下の関係式が成立する積層樹脂シートを採用する。
35≦ΔHm≦60
この発明でも、通常の押出し製膜の時点で、結晶化速度の速いポリトリメチレンテレフタレート系樹脂が、前記のB層が備えるべき条件を満たすことが可能となり、シート製膜後の別工程での熱処理等の特別な工程が不要となる。そのため、生産性の向上やコストの低減が図れる。
さらにまた、前記A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層が共押出し法により積層一体化されたシートである積層樹脂シートを採用する。
この発明では、A層及びB層が共押出し法で製膜されることから、別々に製膜したシートを後工程で積層一体化する場合に比べ、生産性の向上やコストの低減が図れるとともに、A層及びB層間の接着強度を強固なものとできるため、経時的な剥離の問題等を生じ難い。
また、前記A層の表面に、加熱された金属との非粘着性を有するコーティング層が付与された積層樹脂シートを採用する。
この発明では、エンボス付与装置でシートが加熱された際、前記非粘着性を有するコーティング層の存在により、各種補助ロール等との粘着トラブルの危険を回避することができる。また、耐熱性の良好なエンボス意匠を付与するために、加熱されたエンボスロールを用いる場合も、該ロールとの非粘着性が良好なもの、即ち該ロールに対して粘着し難いものとなる。
さらに、前記いずれかの積層樹脂シートのA層にエンボス模様を付与したエンボス付与シートを採用する。この発明では、エンボス模様の耐熱性が良好なものを得ることができる。
さらにまた、前記いずれかの積層樹脂シートを160℃以上、かつ{前記B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B))}−20℃以下に加熱した後、エンボス柄が彫刻されたエンボスロールとニップロールとの間を通過させることによって前記A層にエンボス模様を付与するエンボス付与シートの製造方法を採用する。
この発明では、付与されたエンボス柄は耐熱性の良好なものとなる。従って、内部に発熱性の部材等を有する家電製品の外装等に用いた場合も、シートが加熱されることによるエンボス戻りの発生を抑制することができる。
また、前記のエンボス付与シートをそのB層を接着面として、熱硬化性接着剤によって金属板の上に積層した被覆基材を採用する。この発明では、各種用途に好適に使用できるエンボス意匠の付与された被覆基材を軟質PVCシートを使用せずに得ることができる。
さらにまた、ドア材、ユニットバス壁材、ユニットバス内装材等の建築内装材として、上記被覆基材を用いる。この発明では、軟質PVCシートを使用せず、かつ意匠性に優れた建築内装材を得ることができる。
また、前記のエンボス付与シートをそのB層を接着面として、熱硬化性接着剤を塗布焼き付けした金属板にラミネートロールを用いてラミネートした後、直ちに水冷により冷却する被覆基材の製造法を採用する。
この発明では、ラミネート後の被覆基材が水冷で急速に冷却されることにより、ラミネート時のエンボス戻りを抑制することができ、深みのある意匠を有するエンボス意匠付与被覆基材を得ることができる。
次に、第5の発明は、次の構成を採用する。なお、第5の発明とは、請求項23乃至26、並びに請求項33及び34にかかる発明、並びに請求項37乃至39にかかる発明の一部をいう。
前記の第5の発明における目的を達成するため、前記A層、C層17e、B層の順に少なくとも3層より構成され、前記A層、B層それぞれが以下の特徴を有する積層樹脂シートを採用する。
A層:厚みが15μm以上、120μm以下の無延伸のポリエステル系樹脂層で、エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶化ピーク温度Tc(A)(℃)と、結晶融解ピーク温度Tm(A)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(A)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(A)(J/g)とするとき、以下の関係式の両方が成立する。
10≦ΔHm(A)≦35 (J/g)
(ΔHm(A)−ΔHc(A)/ΔHm(A)≦0.5
B層: エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶融解ピークTm(B)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(B)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(B)(J/g)とするとき、以下の関係式の両方が成立する。
180≦Tm(B)≦240 (℃)
0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)
この発明では、従来より軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられて来たエンボス付与装置で、連続的にエンボスを付与可能となる。このとき、A層はエンボス付与装置で加熱され軟化した後にエンボス柄ロールでエンボス意匠を付与される。B層はエンボス付与装置でシートが加熱された際、A層単体では加熱金属ロールへの粘着や、溶融によるシート破断を生ずる所をB層を付与する事により、これを防止する役割を有する。
また、前記C層とB層との間にポリエステル系樹脂層(D層)が介在する積層樹脂シートを採用する。この発明では、D層は、顔料を含むことから、得られるシートはその顔料によって着色される。さらに、D層は顔料が含まれる以外はA層と同様の特徴を有する事からエンボス付与適性を有し、A層のみがエンボス付与適性を有する場合に比べ更に深いエンボス柄を転写する事ができる。或いは、同じ深さのエンボス柄を転写する場合、透明なA層の厚みを相対的に薄くする事が可能となり印刷模様の鮮明性を高める事ができる。
さらにまた、B層に結晶化速度の速いポリブチレンテレフタレート(PBT)系の樹脂を「30≦ΔHm(J/g)≦65」となるように用いる積層樹脂シートを採用する。この発明では、通常の押し出し製膜の時点で、B層が備えるべき条件を満たす事が可能となり、シート製膜後の別工程での熱処理等特別な工程が不要となる。それによって生産性の向上やコストの低減が図れるものである。
また、B層に結晶化速度の速いポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系の樹脂を「30≦ΔHm(J/g)≦65」となるように用いる積層樹脂シートを採用する。この発明では、通常の押し出し製膜の時点でB層が備えるべき条件を満たす事が可能となり、シート製膜後の別工程での熱処理等特別な工程が不要となる。それによって生産性の向上やコストの低減が図れるものである。
さらに、A層側表面に、厚み2〜10μmの加熱された金属との非粘着性を有するコーティング層が付与される積層樹脂シートを採用する。この発明では、エンボス付与装置でシートが加熱された際、各種補助ロール等との粘着トラブルの危険を回避する事ができる。また耐熱性の良好なエンボス意匠を付与する為に、加熱されたエンボス柄ロールを用いる場合も該ロールとの非粘着性が良好なものとなる。
さらにまた、前記の積層樹脂シートを160℃以上、{B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B))−20}℃以下に加熱した後、エンボス柄が彫刻されたエンボス版ロールと圧着ロールとの間を通過させる事によってエンボス模様を付与したエンボス付与シートを採用する。この発明では、付与されたエンボス柄は耐熱性の良好なものとなり、従って、内部に発熱性の部材等を有する家電製品の外装などに用いた場合もシートが加熱される事によるエンボス戻りを抑制する事ができる。
また、前記の積層樹脂シートを160℃以上、{B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B))−20}℃以下に加熱した後、エンボス柄が彫刻されたエンボス版ロールと圧着ロールとの間を通過させる事によってエンボス模様を付与するエンボス付与シートの製造方法を採用する。この発明では、付与されたエンボス柄は耐熱性の良好なものとなり、従って、内部に発熱性の部材等を有する家電製品の外装などに用いた場合もシートが加熱される事によるエンボス戻りを抑制する事ができる。このため、加熱された際のエンボス戻りが少ないポリエステル系の意匠シートを作成する事ができる。
さらに、前記のエンボス付与シートを前記B層を接着面として、熱硬化性接着剤によって金属板の上に積層した被覆基材を採用する。この発明では、各種用途に好適に使用できるエンボス・印刷意匠性の被覆基材を軟質塩化ビニル系樹脂シートを使用せずに得る事ができる。
さらにまた、ドア材、ユニットバス壁材又はユニットバス内装材から選ばれる建築内装剤として用いられる被覆基材を採用する。この発明では、ドア材、ユニットバス壁材又はユニットバス内装材から選ばれる建築内装剤として、被覆基材を使用できる。
また、前記のエンボス付与シートを前記B層を接着面として、熱硬化性接着剤を塗布焼き付けした金属板にラミネートロールを用いてラミネートした後、直ちに水冷により冷却する被覆基材の製造方法を採用する。この発明では、ラミネート時のエンボスの戻りを抑制する事が出来、深みのある意匠を有するエンボス・印刷意匠被覆基材を得る事ができる。
発明の実施の形態
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。まず、第1の発明にかかる発明について説明する。
[第1の発明]
第1の発明にかかる積層樹脂シート11aは、図1(a)に示すように、エンボス付与可能層(以下、「A層」と称する。)12aと、基材層(以下、「B層」称する。)13aとが積層されたシートである。この積層樹脂シートとしては、上記A層及びB層からなる2層構造のものや、上記A層の上に他の層を設けた3層以上の構造を有するものがあげられる。
[エンボス付与装置]
この積層樹脂シート11aにエンボス14を付与することにより、図1(b)に示すような、エンボス付与シート15aが得られる。
この積層樹脂シート11aにエンボス14を付与する方法としては、下記の方法が採用される。なお、このエンボス付与方法は、第1の発明〜第5の発明の全てに共通する方法であり、ここでは、積層樹脂シート11aを用いて説明するが、積層樹脂シート11b〜11eを用いた場合も同様である。
積層樹脂シート11aへのエンボス付与は、従来から軟質塩化ビニル系樹脂シートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられてきたエンボス付与装置を用いて行われる。図3は、一般的なエンボス付与装置の模式側面図である。エンボス付与装置30は、シートSの予備加熱部31と、予備加熱後のシートSをエンボス付与に適した温度まで加熱する加熱部32と、エンボス付与部33と、冷却ロール34とを備えている。予備加熱部31は加熱ドラム(加熱ロール)31a及び圧着ロール31bを備えている。加熱部32は赤外線ヒーター32a及びガイドロール32bを備え、非接触型加熱によりシートSを任意の温度まで加熱可能となっている。エンボス付与部33はニップロール33a及びエンボスロール33bを備え、加熱後のシートSを加圧してエンボスを付与する。冷却ロール34はエンボス付与後のシートSを冷却する。
なお、積層樹脂シート11a〜11eのA層の上に透明樹脂層等の被覆層が存在する場合、積層樹脂シート11a〜11eのA層の上に被覆層を設ける前に、前記A層に前記エンボス付与装置30を用いてエンボス加工を施してもよく、また、積層樹脂シート11a〜11eのA層の上に被覆層を設けた後に、前記被覆層の上から、前記エンボス付与装置30を用いてエンボス加工を施してもよい。
前記被覆層の上から、エンボス加工を施す場合、前記被覆層の物性及び厚みにより一概には言えないが、一般的に、前記被覆層の厚みが2μm〜20μmの範囲内であれば、前記被覆層を設けた後にエンボス付与を行っても、エンボス付与適性が大幅に低下することはない。また、前記被覆層が副次的効果として金属製や各種ゴム製のガイドロール等との非粘着効果を有しているような場合は、前記被覆層を設けた後に、エンボス付与装置30へ導入した方が安定した生産条件を得易い。
一方、内部にエンボス柄による凹凸意匠を有しながら、最表面は平滑な意匠性を有する意匠付与シートを得たい場合や、木目柄エンボス等で凹部を視覚的に強調するために着色インクを凹部にのみ付与する所謂ワイピング処理を施す場合等は、積層樹脂シート11a〜11eにエンボスを付与した後に、被覆層を設ける。
[積層樹脂シート]
A層12aは、実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物又は前記実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物を多く含む材質で構成されている。B層13aは、実質的に結晶性である樹脂組成物もしくは前記実質的に結晶性である樹脂組成物を多く含む材質で構成されている。このうち、A層12aはエンボス付与が可能である。
ここで、「実質的に非晶性あるいは低結晶性」とは、例えば、示差走査熱量計(DSC)によるプラスチックの転移温度測定において、昇温時に明確な結晶ピークが観測されないことを意味する。また、「実質的に結晶性である」とは、示差走査熱量計(DSC)によるプラスチックの転移温度測定において、昇温時に明確な結晶ピークが観測されることを意味する。また、「樹脂組成物を多く含む」とは、主成分としては当該樹脂組成物を有するが、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑材、顔料、安定剤や添加剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤等を有していても良いことを意味する。
A層12aのガラス転移温度をTg(A)、B層13aの融点をTm(B)とし、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度を設定可能で、エンボス付与可能層Aからエンボス付与が可能となるように両層A,Bの材質が選定されている。
また、A層12aのガラス転移温度Tg(A)[℃]と、基材層Bの融点Tm(B)[℃]との関係を、Tg(A)+30≦Tm(B)とするのが好ましい。この関係を満たす場合は、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度を設定するのが容易になる。
A層12a及びB層13aの材質には、PVC系樹脂以外の熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等)が使用され、A層12a及びB層13aは必ずしも同一系の樹脂組成でなくてもよい。
一般に、シートへエンボスを入れるためには、ある程度、シートを軟らかくする必要がある。結晶性の材料はTm(融点)以上でないと軟化しないため、エンボスが入らない。非晶性、低結晶性の材料はTg(ガラス転移温度)以上で軟化するため、Tgを超える温度でエンボスを入れることができる。しかし、Tg、Tm以上で弾性率が急激に低下する材料は、加温、加熱の温度振れで、溶融張力低下によるシートの溶断や、エンボスロールまでの途中の加熱ロールへの貼り付き、巻き付き等の不具合を発生させる。
この発明では、実質的に非晶性の樹脂組成物を含むA層12aと、実質的に結晶性の樹脂組成物を含むB層13aとの2層構造とすることで、A層12aにエンボスが入れられる温度以上にシート温度が上がり、A層12aの溶融張力の低下やA層12aがエンボスロールまでの加熱ロールへ粘着する温度になっても、B層13aによりシート全体の剛性が保持される。その結果、シートが溶断することなく、加熱ロール等への貼り付きも防止ができる。
積層樹脂シート11aは、A層12a及びB層13aの2層構造に限らず、A層12aの上に印刷層、透明な上地層又はコート層が積層された構造でも、基材層Bと反対側からエンボス付与が可能であればよい。
これらの積層樹脂シート11aは、その厚みがあまり厚いと、被覆基材を構成するための鋼板等の金属板、木質板、合板等の基材との貼り合わせ時もしくは、その後の穴開け加工や曲げ加工でシートが割れてしまう不具合がある。また、薄すぎるとエンボスがうまく入らず、外観、意匠性が悪く、また、使用時において摩耗消滅してしまうことが考えられる。そこで、積層樹脂シート11aの総厚みは50μm〜300μmが望ましい。
前記の積層樹脂シート11aは、前記の方法でA層12aにエンボスを入れることにより、エンボス付与シート15aが得られる。
[印刷層]
前記印刷層は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、他公知の方法で前記A層12aに付与される。印刷層の絵柄は石目調、木目調あるいは幾何学模様、抽象模様等任意であり、部分印刷でも全面ベタ印刷でもよく、部分印刷を施した後、更にベタ印刷が施されていてもよい。また、A層12aに積層する上地層を構成するフィルムの積層面に所謂バックプリントを施しておく方法を用いてもよい。
[被覆基材]
積層樹脂シート11aは、ドア、壁材、床材等の住宅内装建材、家具、調度品やエレベータ、AV製品等の家電製品に使用される被覆基材の被覆材として使用される。
積層樹脂シート11aを被覆する基材の金属板としては、この種被覆基材に一般的に使用されるものを特に制限無く使用できる。具体的には、熱延鋼鈑、冷延鋼鈑、ステンレス鋼鈑等の各種鋼鈑やアルミニウム系合金板等を挙げることができる。鋼鈑は表面がメッキ等により表面処理されたものであっても良く、メッキの種類にも特に制限は無く、例えば、溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキ、すずメッキ、亜鉛−アルミニウム合金メッキ等が挙げられる。また、化成処理としてクロメート処理、リン酸被膜処理等を上げることができる。これら熱処理条件、メッキの厚み等に関しても一般的な範囲内で特に制限はない。また、基材金属板の厚さは、被覆基材の用途などにより異なるが、0.1〜10mmの範囲が好ましい。また、基材は金属板に限らず、合板や木質板であってもよい。
[積層樹脂シート及び被覆基材の製造方法]
積層樹脂シート11aの積層方法としては、例えば各層の樹脂組成物を共押出して積層する共押出法、各層をシート状に成形し、その後、これを接着剤等でラミネートするラミネート法、あるいは結晶性樹脂シートに溶融した樹脂を乗せていく押ラミ法等により積層することができる。
また、前記のA層12aやB層13aは、無延伸の状態で積層すると、エンボス付与の際の加工温度の自由度が高くなるのでより好ましい。
そして、上記被覆基材は、上記積層樹脂シートを前記基材の少なくとも片面に被覆することにより、製造することができる。
[第2の発明]
次に、第2の発明について説明する。
第2の発明にかかる積層樹脂シート11bは、図1(a)に示すように、上記A層12b及びB層13bが、組成の異なる2種のポリエステル系樹脂からなるシートである。
[A層]
上記A層12bを構成するポリエステル系樹脂は、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されない、実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分とする混合物よりなる。ここで、「主成分とする」とは、重量比率で50%以上含まれることを意味する。
この実質非晶性のポリエステル系樹脂としては、エチレングリコールやプロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分と、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸成分との共重合体の中から前記条件を満たす任意の樹脂を用いることができる。この共重合体として、例えばポリエチレンテレフタレートのシクロヘキサンジメタノール共重合体が挙げられる。
前記A層12bを構成するポリエステル系樹脂の主成分となるポリエステル系樹脂が、実質非晶性であることにより、A層12bは実質非晶性又は低結晶性となる。このようなポリエステル系樹脂はTg(ガラス転位点)近傍の温度から徐々に軟化していく実質非晶性樹脂の物性を有し、エンボスを付与するには最適の特性を示す。
また、前記A層12bを構成するポリエステル系樹脂にブレンドする樹脂は、結晶性を有していても構わない。ただし、結晶性樹脂の配合割合が増すと、樹脂Aは結晶性樹脂の物性を示すことになり、エンボスを付与するには、必ずしも適した特性とは言えない。
[B層]
前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂は、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分(即ち、重量比率で50%以上含まれる)とする混合物よりなる。この前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂は、更にシート製膜後の樹脂層が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、明確な結晶化ピークが観測されない状態まで結晶化している。
前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂の主成分となる実質結晶性のポリエステル系樹脂としては、エチレングリコールやプロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分と、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸成分との共重合体の中から、前記条件を満たす任意の樹脂を用いることができる。
また、前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂にブレンドする樹脂は、結晶性を有していなくても構わないが、シート製膜時に、前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂は十分に結晶化していなければならない。ここで、「十分に結晶化している」とは、DSCによる測定において、昇温時に明確な結晶化ピークが観測されないことを意味する。
DSCで結晶化ピークが観測されるポリエステル系樹脂は、十分に結晶化しておらず、例えば、エンボス付与前の加熱工程で結晶化が起こる可能性がある。一般的に、ポリエステル系樹脂は結晶化の際に粘着性を発現するため、樹脂Bが十分に結晶化していないと、本発明で意図する加熱ロールへの粘着防止効果が得られない。
前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂をシート製膜時に十分に結晶化させるためには、製膜時のキャスティング温度等をコントロールすると良いが、前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂の主成分となる結晶性のポリエステル系樹脂としては、結晶化速度の早いポリブチレンテレフタレート又はその共重合体が適している。
また、前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂が溶断防止機能を果たすためには、前記A層12bを構成するポリエステル系樹脂が軟化する温度であっても、前記B層13bを構成するポリエステル系樹脂は、弾性率を保持している必要がある。一般的に、非晶性樹脂の場合、Tg+30[℃]が軟化開始の目安となる。従って、B層13bの結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、A層12bのTgをTg(A)[℃]としたとき、Tm(B)>Tg(A)+30[℃]であれば、Tm(B)以下でA層12bにエンボス付与が可能であり、好ましい。
この発明で用いられるポリエステル系樹脂には、被覆基材の下地となる基材金属板の遮蔽、すなわち、基材金属板の視覚的遮蔽(透け防止)、意匠性の付与、印刷インキ層の発色性改善等の目的で顔料が添加される。使用される顔料は従来から樹脂着色用に一般的に用いられているものでよく、その添加量に関しても上記目的のために一般的に添加される量でよい。
[エンボス付与シート]
前記のように構成された積層樹脂シート11bに、上記の方法でエンボスを付与することにより、図1(b)に示すように、A層12bの表面にエンボス14が形成されたエンボス付与シート15bが得られる。
[被覆層]
積層樹脂シート11bは図1(c)に示すように、A層12bの上に被覆層として透明樹脂層16bが形成された構成としてもよい。透明樹脂層16bを形成する透明樹脂としては、軟質塩化ビニル系樹脂被覆鋼板やオレフィン系樹脂被覆鋼板に同様の目的、即ち印刷層の保護、深みのある意匠性の付与、顔料等の添加剤の噴き出し防止、表面の各種物性改良の目的で用いられてきた樹脂と同様のものを使用することができる。例えば、アクリル系樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。透明樹脂の積層方法としては、共押出し法や、押出しラミネーション、熱融着法、ドライラミネート、溶液コート等、一般的に用いられる方法を用いることができる。
また、図1(d)に示すように、積層樹脂シート11bは、A層12bの上に、印刷が施されて印刷層17bが形成され、その上に透明樹脂層16bが積層された構成としてもよい。A層12bへの印刷は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、他公知の方法で施され、印刷層17bが形成される。印刷層17bの絵柄は石目調、木目調あるいは幾何学模様、抽象模様等任意であり、部分印刷でも全面ベタ印刷でもよく、部分印刷を施した後、更にベタ印刷が施されていてもよい。
A層12b、B層13b及び透明樹脂層16bには、その性質を損なわない程度に、添加剤、例えば、熱安定材、酸化防止材、紫外線吸収剤、光安定材、核剤、着色剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
[被覆基材]
前記積層樹脂シート11bあるいはエンボス付与シート15bを金属板に接着剤を介して積層することにより、例えば、この図2(a)に示すような、図1(d)に示す積層樹脂シート11bを、金属板18bに接着剤層19bを介して積層した被覆基材20bが得られる。
前記金属板18bとしては、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板が使用でき、通常の化成処理を施した後に使用してもよい。金属板18の厚さは、被覆基材20の用途により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選択することができる。
[積層樹脂シート及び被覆基材の製造方法]
次に積層樹脂シート11b及び被覆基材20bの製造方法について説明する。積層樹脂シート11bの製膜方法としては公知の方法、例えば、Tダイを用いる押出キャスト法やインフレーション法等を採用することができ、特に限定されるものではないが、シートの製膜性や安定生産性等の面から、Tダイを用いる押出キャスト法が好ましい。
Tダイを用いる押出キャスト法での成形温度は組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね融点以上280℃以下、好ましくは240〜270℃の範囲が好適である。
また、積層樹脂シート11bの厚みは通常50〜500μmである。積層樹脂シート11bの厚みが50μm未満では被覆基材20用として使用した場合、金属板18に対する保護層としての性能が劣る。更に下地金属板遮蔽能力、すなわち、下地金属板の視覚的遮蔽能力(透け防止)が低いため、印刷を施す場合、印刷柄が下地金属板の色の影響を受け、好ましくない。一方、厚みが500μmを超えると、被覆基材20としての打ち抜き加工等の二次加工性が劣り易い。
また、各層の厚み比は特に限定されるものではないが、深いエンボス柄を付与するためには、エンボス付与可能層12の厚みは80μm以上あることが好ましい。
積層樹脂シート11bを金属板18bに積層する際に用いる接着剤としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等一般に使用される熱硬化性接着剤を挙げることができる。
被覆基材20bを得る方法としては、金属板18bにリバースロールコーター、キスロールコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用し、積層樹脂シート11a又はエンボス付与シート15bを貼り合わせる金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように、前記熱硬化性接着剤を塗布する。次いで、赤外線ヒーター及び熱風加熱炉の少なくとも一方を用いて、塗布面の乾燥及び加熱を行い、金属板18の表面温度を所定の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて積層樹脂シート11b又はエンボス付与シート15bの前記B層を接着面として被覆、冷却することにより被覆基材20bを得る。また、エンボス付与シート15bに付与されたエンボス柄を消さないためには、エンボス付与シート15bを被覆後、直ちに冷却しなければならない。
[第3の発明]
次に、第3の発明について説明する。
第3の発明にかかる積層樹脂シート11cは、図1(c)に示すように、A層12c及びB層13cの少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートのA層12cの表面に、被覆層として紫外線吸収性を有する透明被覆層16cを設けたシートである。
図1(d)に示す積層樹脂シート11cは、図1(c)の構成に加えて、A層12cと透明被覆層16cとの間に印刷層17cが設けられている。図1(e)に示す積層樹脂シート11cは、透明被覆層16cが透明被覆層16’c,16”cの2層で構成されている。
前記のように構成された積層樹脂シート11cに、前記の方法で、エンボスを付与することにより、A層12cにエンボス(図示せず)が付与されたエンボス付与シートが得られる。
図2(b)は、被覆基材20cの一例を示し、図1(c)に示す構成の積層樹脂シート11cが、前記B層を接着面として、熱硬化型接着剤19cを介して金属板18cの上に積層されている。また、図1(d)や図1(e)に示す構成の積層樹脂シート11cのA層12cにエンボスが付与されたエンボス付与シートを、前記B層を接着面として、熱硬化型接着剤19cを介して金属板18c上に積層して被覆基材20cを製造してもよい。
A層12c及びB層13cは、それぞれ組成の異なるポリエステル系樹脂で形成されている。
[A層]
A層12cを構成するポリエステル系樹脂は、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されない、実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分とする混合物よりなる。ここで、「主成分とする」とは、重量比率で50%以上含まれることを意味する。
実質非晶性のポリエステル系樹脂としては、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等、アルコール成分としてエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を用いた共重合体の中から任意に選択される。但し、前記条件を満たす必要があり、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されてはならない。
この共重合体の一例としてはイーストマンケミカル社の「イースター」6763を挙げることができが、これに限定されるものではない。樹脂Aの主成分となるポリエステル系樹脂が実質非晶性であることにより、樹脂Aは実質非晶性又は低結晶性となる。このようなポリエステル系樹脂は、Tg(ガラス転位点)近傍の温度から徐々に軟化していく実質非晶性樹脂の物性を有し、エンボスを付与するには最適の特性を示す。
また、A層12cを構成するポリエステル系樹脂にブレンドする樹脂は、結晶性を有していても構わない。但し、結晶性樹脂の配合比率が増すと、A層12cを構成するポリエステル系樹脂は、結晶性樹脂の物性を発現し出すことになり、エンボスを付与するには、必ずしも適した特性とは言えなくなる。
A層12cには、被覆基材20cを製造した際、下地の金属板18cの遮蔽、すなわち、下地の金属板18cの視覚的遮蔽(透け防止)、意匠性の付与、印刷インキの発色性改善等の目的で顔料が添加される。使用される顔料は従来から樹脂着色用に一般的に用いられているものでよく、その添加量に関しても上記目的のために一般的に添加される量でよい。
また、A層12cには、本発明の目的を損なわない程度に、添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
[B層]
B層13cを構成するポリエステル系樹脂は、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分(即ち、重量比率で50%以上含まれる)とする混合物よりなる。また、樹脂Bは、エンボス付与のために積層樹脂シート11を加熱した際、金属ロールへの粘着性を示さない。
B層13cを構成するポリエステル系樹脂の主成分となる実質結晶性のポリエステル系樹脂としては、エチレングリコールやプロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分と、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸成分との共重合体の中から任意に選択される。但し、前記条件を満たす必要があり、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される必要がある。
また、B層13cを構成するポリエステル系樹脂にブレンドする樹脂は、結晶性を有していなくても構わないが、B層13c全体としては、シート製膜時若しくは連続的にエンボスを付与する装置に導入される前段階において十分に結晶化していなければならない。ここで、「十分に結晶化している」とは、DSCによる測定において、昇温時に明確な結晶化ピークが観測されないことを意味する。
DSCで結晶化ピークが観測されるポリエステル系樹脂は、十分に結晶化しておらず、例えば、エンボス付与装置の加熱工程で結晶化が起こる可能性がある。一般的に、ポリエステル系樹脂は結晶化の際に粘着性を発現するため、B層13cを構成するポリエステル系樹脂が十分に結晶化していないと、本発明で意図する加熱ロールへの粘着防止効果が得られない。
また、B層13cを構成するポリエステル系樹脂13cが積層樹脂シート11cを加熱した際の溶断防止機能を果たすためには、A層12cが軟化する温度であっても、B層13cは弾性率を保持している必要がある。一般的に、非晶性樹脂の場合、Tg+30[℃]が軟化開始の目安となる。従って、B層13cを構成するポリエステル系樹脂の結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、A層12cを構成するポリエステル系樹脂のTgをTg(A)[℃]としたとき、Tm(B)>Tg(A)+30[℃]であれば、Tm(B)以下の基材層13が溶断しない温度でA層12cにエンボス付与が可能となる。
B層13cを構成するポリエステル系樹脂を構成する、若しくはB層13cを構成するポリエステル系樹脂の主成分となる樹脂成分としては、一例としてテレフタル酸と1,4−ブタンジオールの各単独成分を重縮合して得られるポリブチレンテレフタレートを挙げることができる。この場合、結晶化速度が速いことから押出しキャストの時点で十分に結晶化している状態とすることができ、別工程での結晶化処理を必要とせず好ましい。また、その融点がポリエチレンテレフタレートより低いことから、金属板18にラミネートする際も比較的低いラミネート温度で強固な接着力を得ることができることも好ましい点である。但し、これに限定されるものではなく、Tm(B)>Tg(A)+30[℃]の範囲を外れず、また、エンボスを付与する装置に導入される前段階において十分に結晶化した状態を得ることができる樹脂成分であれば使用できる。
B層13cを構成するポリエステル系樹脂に関してもA層12cを構成するポリエステル系樹脂と同様に各種添加剤を目的に応じて適宜配合してもよい。
[透明被覆層]
紫外線吸収性を有する透明被覆層16cを設ける主目的は、ポリエステル系樹脂の光黄変を抑止することである。そして、紫外線吸収性を有するとは、透明被覆層16cが無い場合に比べて積層樹脂シート11cの光黄変が明らかに改善される程度に紫外線を吸収することを言う。また、透明被覆層16cは、その目的上、それ自体ある程度耐候性、特に耐黄変性が良好である必要がある。
透明被覆層16cには、光沢の調整、耐傷入り性の更なる向上、耐汚染性の向上、深みのある意匠の付与などの副次的効果を付与してもよい。また、A層12cにエンボス加工を施すのが、積層樹脂シート11cに透明被覆層16cが設けられた後になる場合、エンボスロールへの非粘着効果を付与してもよい。
前記主目的及び副次的目的の組合せに応じて、透明被覆層16cは単一の層であっても、図1(e)に示すような、2層あるいはそれ以上の層から構成されていてもよい。
透明被覆層16cの厚みは2μm〜20μmの範囲であることが好ましく、4μm〜10μmの範囲が更に好ましい。厚みが2μmより薄いと紫外線吸収性を有するとはいえ、その紫外線遮蔽能力は十分なものとは言えなくなり、ポリエステル系樹脂の光黄変性改善効果が得られなくなるため好ましくない。厚みが20μmよりも厚い場合は、従来技術の問題点として記載したように、透明被覆層16cの樹脂物性がエンボス付与シートの重要な物性に影響を及ぼすようになる。即ち、透明被覆層16cの材質によっては加工性若しくは耐傷入り性が悪くなったり、あるいはエンボスの転写性が悪化する等の影響が現れ好ましくない。
積層樹脂シート11cのA層12cの表面に前記性質を有し、前記厚みの範囲である透明被覆層16cを付与する方法は、特に限定されない。例えば、透明被覆層16c+A層12c+B層13cの構成での3層共押出し、あるいは透明被覆層16cとA層12cとの間に更に接着性樹脂層を介した4層共押出し等でもよい。しかし、一般的にはコーティング法に依ることが比較的厚みの薄い透明被覆層16cを安定して形成できる点から好ましい。
コーティング法の中でも架橋性樹脂のコーティングとすることが、前記の副次的効果を付与可能である点から好ましい。ここで言う架橋性樹脂とは、シアネート硬化型、エポキシ硬化型等の熱硬化性樹脂、シアノアクリレート系樹脂、シラノール縮合型樹脂等の湿気硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等をその範疇に含み、架橋反応により3次元的な分子構造を形成するものである。イオン架橋により3次元構造を形成するアイオノマー樹脂等は含まれない。
これらの架橋性樹脂の中でも、塗布、硬化処理が比較的容易で架橋性樹脂、硬化剤の選択により様々な塗膜物性を得ることができるシアネート硬化型、エポキシ硬化型等の熱硬化性樹脂を好ましく用いることができる。樹脂自体良好な耐候性を有するという観点からは、シアネート架橋型のアクリル系樹脂やシアネート架橋型のアクリルシリコーン系樹脂、シアネート架橋型のフロロオレフィンビニルエーテル共重合体樹脂が特に好ましい。但し、これらに限定されるものではなく、要求される耐光安定性と、その他の要求物性とのバランスに応じて適宜樹脂種を選択することができる。透明被覆層16cを2層以上から成る積層構成としてもよいのは前記のとおりである。シアネート硬化型樹脂の場合は、硬化剤として無黄変型のシアネートを用いないと本発明の透明被覆層16cの主目的である光黄変性の改善が達成されない。
透明被覆層16cとして架橋性樹脂のコーティング層をA層12c上に付与する方法に関しては、これも特に制限は無く、一般的な塗布、硬化方法に依ることができる。塗布液の粘度を下げるために各種溶剤を用いてもよく、溶液型、あるいはディスパージョン型やエマルジョン型として塗布することができる。
透明被覆層16cに紫外線吸収性を付与する方法としては、添加型の紫外線吸収剤をコーティング液に添加して塗布する方法が一般的である。そして、ベンゾトリアゾール型、ベンゾフェノン型、トリアジン型等の各種市販紫外線吸収剤の中で、溶剤可溶のものや、水性エマルジョン、水性ディスパージョン中で微分散するタイプのもの等を適宜用いることができる。
紫外線吸収剤の好ましい添加量は、透明被覆層16cの被覆厚み、要求される耐黄変性能等で変わり得るため、一概には規定できないが、一般的には0.5〜5.0重量部(樹脂固形分を100として)程度の添加とするのが好ましい。添加量が0.5重量部より少ない場合は、透明被覆層16cの厚みが薄いこともあり、有効な紫外線遮蔽性を確保できず好ましくない。添加量が5.0重量部より多い場合は、紫外線吸収剤の透明被覆層16cの表面からの噴き出しが発生する虞があり、好ましくない。
また、紫外線吸収性を付与する方法として、透明被覆層16cを構成する架橋性樹脂成分に、ベンゾトリアゾール型やベンゾフェノン型等の紫外線吸収性基を有する反応性モノマーを共重合したものを用いてもよい。あるいは架橋性樹脂成分を主成分としながら、ベンゾトリアゾール型やベンゾフェノン型等の紫外線吸収性基を有する反応性モノマーを共重合した架橋性を有さないアクリル系樹脂等をブレンドしたものであってもよい。
これらの所謂高分子型紫外線吸収剤は耐揮散性や耐移行性が良好であり、本発明の透明被覆層16cのように、薄い層を他の層に積層する構成において、薄い層に紫外線遮蔽性を付与したい場合等に好適に使用できるものである。
また、有機系の紫外線吸収剤ではなく、実質的に触媒活性を封止した微粒子酸化チタン等の所謂無機系の紫外線吸収剤を添加してもよい。透明被覆層16c中には、紫外線吸収剤の他に、一般的な酸化防止剤、艶消し剤、染料、硬化促進剤等、一般的に架橋性樹脂に用いられる添加剤を添加することができる。また、透明被覆層16cの「透明性」に関しては、特に規定を設けなかったが、透明被覆層16cを通して下地である顔料添加によって着色されたA層12あるいは印刷層17cを視認することが可能であれば「透明」と呼んで支障なく、通常用いられる「透明」の定義とは必ずしも一致しなくてもよい。
[印刷層]
印刷層17cは、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷や他の公知の方法で付与することができる。印刷層17cの絵柄は石目調、木目調あるいは幾何学模様、抽象模様等任意であり、部分印刷でも全面ベタ印刷でもよく、部分印刷を施した後、更にベタ印刷が施されていてもよい。
[積層樹脂シートの製造方法]
積層樹脂シート11cの製膜方法としては公知の方法、例えば、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式による共押出キャスト法やインフレーション法等を採用することができ、特に限定されるものではないが、シートの製膜性や安定生産性等の面から、Tダイを用いる共押出キャスト法が好ましい。
また、積層樹脂シート11cの厚みは通常50〜500μmである。深いエンボス柄を付与するためには、積層樹脂シート11cの厚みは80μm以上あることが好ましい。積層樹脂シート11cの厚みが50μm未満では被覆基材20c用として使用した場合、金属板18cに対する保護層としての性能が劣る。更に下地金属板の遮蔽能力が低いため、印刷層17cを設ける場合、印刷柄が下地金属板の色の影響を受け好ましくない。一方、厚みが500μmを超えると、被覆基材17としての打ち抜き加工等の二次加工性が劣り易い。
また、A層12c及びB層13cそれぞれの好ましい厚みは、付与したいエンボス模様の種類や使用するエンボス付与装置の温度条件、張力条件などにより一概には規定できない。しかし、従来該用途の軟質塩化ビニル系樹脂シートの厚みが80〜200μm程度であったことから、総厚み100〜240μm、そのうちB層13cの厚みが10〜50μm、従って、A層12cの厚みは50〜230μm程度が好ましい。この厚みであれば、従来PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス版ロールの大部分で本発明の積層樹脂シート11cへのエンボス模様の付与が可能になる。
[金属板]
金属板18cとしては、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板、アルミニウム系合金板が使用でき、通常の化成処理を施した後に使用してもよい。金属板18cの厚さは、被覆基材20cの用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選択することができる。
[被覆基材の製造方法]
次にエンボス付与シートが被覆された被覆基材20cの製造方法について説明する。
透明被覆層16cが設けられ、エンボス付与装置30によりエンボス柄が付与された積層樹脂シート11cを金属板18cに積層する際に用いる接着剤としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等一般に使用される熱硬化型接着剤を挙げることができる。被覆基材20cを得る方法としては、金属板18cにリバースロールコーター、キスロールコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用し、積層樹脂シート11cを貼り合わせる金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように、前記熱硬化型接着剤を塗布する。
次いで、赤外線ヒーター及び熱風加熱炉の少なくとも一方を用いて、塗布面の乾燥及び加熱を行い、金属板18cの表面温度を所定の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネーターを用いて積層樹脂シート11cのB層13c側が接着面となるように被覆、冷却することにより被覆基材20cを得る。また、積層樹脂シート11cに付与されたエンボス柄を消さないためには、積層樹脂シート11cを被覆後、直ちに冷却しなければならない。
[第4の発明]
次に、第4の発明について説明する。
第4の発明にかかる積層樹脂シート11dは、図1(a)に示すように、A層12dとB層13dとが積層されたシートである。
また、図1(f)に示す積層樹脂シート11dは、図1(a)の構成に加えて、A層12dとB層13dとの間に接着剤層21dが設けられている。さらに、図1(g)に示す積層樹脂シート11dは、図1(a)の構成に加えて、被覆層として、A層12dの表面に加熱金属との非粘着性を有するコーティング層22dが設けられている。
さらにまた、図2(c)は被覆基材20dの一例を示す模式図である。図2(c)に示すように、被覆基材20dは、金属板18dの片面に、図1(a)に示す積層樹脂シート11dが熱硬化性の接着剤層19dを介して積層されている。
なお、図1(f)及び図1(g)に示す構成の積層樹脂シート11dが、同様に金属板18d上に積層されていてもよい。
[A層]
A層12d及びB層13dは、それぞれ物性の異なるポリエステル系樹脂で形成されている。
A層を構成するポリエステル系樹脂は、エンボス付与前のシートにおいて、示差走査熱量計(DSC)による測定での昇温時に、明確な結晶化ピーク温度Tc(A)[℃]と、結晶融解ピーク温度Tm(A)[℃]とが観測され、結晶化熱量をΔHc(A)[J/g]、結晶融解熱量をΔHm(A)[J/g]とするとき、以下の関係式が成立する。
10≦ΔHm(A)≦35
(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5
明確な結晶融解ピーク温度Tm(A)[℃]が観測されることは、A層を構成するポリエステル系樹脂が非結晶性の樹脂ではないことを意味する。A層を構成するポリエステル系樹脂として完全非結晶性樹脂を使用した場合も、本発明の積層構成とすることで、エンボス付与装置によるエンボス意匠の付与は可能である。
しかし、一般的に非結晶性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)が100℃より低いことに起因し、ユニットバスの規格試験の項目である沸騰水浸漬試験を行った際、A層を構成するポリエステル系樹脂が軟化し、付与されたエンボス意匠が消失するため好ましくない。また、A層12とB層13とを共押出しとせず、接着剤層21dを用いて積層一体化した場合も、A層を構成するポリエステル系樹脂として非結晶性樹脂を用いた場合は、沸騰水浸漬試験の際、A層12dと接着剤層21dとの間で剥離等の問題を生じ易く好ましくない。
(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)が0.5より大きい場合は、エンボス付与前の樹脂Aの結晶化が進行している場合であり、「発明が解決しようとする課題」に記した如くA層を構成するポリエステル系樹脂の融点直近まで高い弾性率が維持されることからエンボス転写が困難になる。
また、ΔHm(A)が35[J/g]より大きい場合は、結晶性の比較的高い樹脂組成であることを意味する。この場合、エンボス付与装置に通す前のシートにおいて、(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5が満たされている場合についても、エンボス付与装置の加熱金属ロールでシートが加熱されている間にA層を構成するポリエステル系樹脂の結晶化が進行し、結果としてエンボス付与が困難となり易く好ましくない。逆に、ΔHm(A)が10[J/g]より小さい場合は、A層を構成するポリエステル系樹脂として完全非結晶性の樹脂を用いた場合と同様の問題が生じ、やはり好ましくない。
A層を構成するポリエステル系樹脂に関するこれらの値を本発明の範囲とすることで、エンボス付与装置でのエンボス意匠の付与が可能であるとともに、耐沸騰水浸漬試験後も、エンボス意匠が消失したり、あるいはエンボス柄が浅くなる等の問題を生じないエンボス意匠が得られる。
これは、本発明の範囲ではA層を構成するポリエステル系樹脂は、エンボス付与装置に通される前の状態では、結晶性樹脂の組成でありながら、結晶化が進行していない状態であることにより、非結晶性樹脂と同様の性質を有している。また、エンボス付与装置に通されて加熱金属ロールによる加熱を受けた際も、その結晶性がそれほど高くない組成であることから結晶化は進行し難く、やはり非結晶性樹脂と同様の性質を示す。従って、良好なエンボス意匠の付与が可能であるとともに、エンボス付与後の冷却過程、あるいは沸騰水に浸漬した直後には結晶化が進行し、耐沸騰水性の良好なエンボスが得られるものと考えられる。
A層を構成するポリエステル系樹脂としては、各種共重合、ブレンド、アロイ化等により本発明の請求項1を満たす物性のものを得ることが可能である。中でも、酸成分、アルコール成分のそれぞれに単一成分を用いた所謂ホモ・ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を結晶性樹脂成分として用い、これに非結晶性の共重合ポリエステル系樹脂をブレンドする方法が、希望する物性を調整し易い点から好ましい。
非結晶性の共重合ポリエステルとしては、原料の安定供給性や生産量が多いことから低コスト化が図られている所謂PET−Gを用いることができ、イーストマンケミカル社の「イースター6763」やそれに類する樹脂を用いることが好ましい。ただし、これに限定されるものではなく、ネオペンチルグリコール共重合PETで結晶性を示さないものや、特定の条件では結晶性を示すが、通常の条件では非結晶性樹脂として取り扱うことが可能なイーストマンケミカル社の「PCTG・5445」等を用いることもできる。
ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂や、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂のように結晶化速度の速い樹脂を用いた場合も、非結晶性樹脂をブレンドすることで、ブレンド系での結晶化速度は遅くなるため、本発明の要件を満たす状態のシートを得ることが可能となる。
さらに、これらの結晶性樹脂を用いた場合は、エンボス意匠の耐沸騰水性に優れたシートを得易い点からも好ましい。これは、結晶性樹脂と非結晶性樹脂のブレンド比率が同一の場合、結晶性樹脂として、ホモ・ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂や、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂等の共重合ポリエステル樹脂をブレンドした場合に比べると、ブレンド組成での結晶化速度が比較的速いことに起因する。即ち、PBT樹脂やPTT樹脂は、本発明の要件を満たしつつも、沸騰水に浸漬した場合は比較的速やかに結晶化が進行し、形状を保持する能力に優れることによると考えられる。
A層を構成するポリエステル系樹脂には、被覆基材20dを製造した際、下地の金属板18cの隠蔽、意匠性の付与、印刷インキ層の発色性改善等の目的で顔料が添加される。使用される顔料は従来から樹脂着色用に一般的に用いられているものでよく、その添加量に関しても上記目的のために一般的に添加される量でよい。
また、A層12dには、本発明の目的を損なわない程度に、添加剤を適宜の量、添加してもよい。添加剤としては、燐系・フェノール系他の各種酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、造核剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材等の広範な樹脂材料に一般的に用いられているものが挙げられる。また、カルボジイミド系やエポキシ系他の末端カルボン酸封止剤、あるいは加水分解防止剤等のポリエステル樹脂用として市販されているものも挙げることができる。
[B層]
B層を構成するポリエステル系樹脂は、エンボス付与前のシートにおいて、示差走査熱量計(DSC)による測定での昇温時に、明確な結晶融解ピーク温度Tm(B)[℃]が観測され、結晶化熱量をΔHc(B)[J/g]、結晶融解熱量をΔHm(B)[J/g]とするとき、以下の関係式が成立する。
180≦Tm≦240
0.5≦(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
明確な結晶融解ピーク温度Tm(B)「℃]が観測されることは、B層を構成するポリエステル系樹脂が非結晶性の樹脂ではないことを意味し、同時に、エンボス付与装置に通す前のシートである程度結晶化が進行している必要がある。これは、B層を構成するポリエステル系樹脂が結晶性の組成から成っていても、その結晶性が低い場合はエンボス付与装置の加熱金属ロールへの粘着を生じることによる。B層を構成するポリエステル系樹脂の結晶化状態が上記の要件を満たすことにより、加熱金属ロールへの粘着が防止され、B層13dとしての役割を果たすことが可能となる。
また、B層を構成するポリエステル系樹脂の融点は180℃〜240℃の範囲にある必要があり、これは、従来の軟質PVCシートを金属板にラミネートするために用いられてきたラミネート設備をそのまま用いることを可能とするためである。樹脂Bの融点がこれより低いと、金属板にラミネートする際に低い温度で接着力を確保できる点では好ましいが、エンボス付与装置で従来の軟質PVCシートと同様の条件でシートを加熱した際、シート温度がB層を構成するポリエステル系樹脂の融点に近くなり、加熱金属ロールへの粘着や溶融破断の危険があり、好ましくない。エンボス付与装置でのシート加熱温度をこれより下げることも考えられるが、その場合は通常の条件でエンボス柄を付与した軟質PVCシートよりもエンボスの耐熱性が低下するため、やはり好ましくない。
エンボスの耐熱性とは、エンボス意匠被覆基材が使用状態において高熱に晒された際に、エンボスの戻りが大きいか小さいかを示すもので、戻りが小さい場合をエンボス耐熱性が良いとする。エンボス耐熱性が悪い場合には、鋼板でのラミネートの際の加熱でエンボス戻りを生じてしまう場合もある。
基本的にシートへのエンボス付与は粘弾性体に歪みを付与する操作であるため、歪みを与えた温度が高い程、エンボス意匠鋼板のエンボス耐熱性も良好になる。即ち、エンボス付与装置でのシート加熱温度をできるだけ高くしてからエンボスロールへ通すことや、あるいはエンボスロール自体の温度も高く設定することが考えられるが、後者においては、シートのエンボスロールへの粘着が懸念され、あくまで前者とのバランスにおいて実施されるのが現状である。従来の軟質PVCシートを従来の条件でエンボス付与装置に通した場合、実用上満足のいくエンボス耐熱性が得られている。
B層を構成するポリエステル系樹脂の融点がこれより高くなると、従来のラミネート温度条件より鋼板表面温度を高めにしてラミネートする必要が生じ、裏面塗料の熱変色・熱褪色の問題、端部の冷えが顕著になることから、鋼板温度の幅方向不均一に起因する接着強度の不均一等の問題を生じ好ましくない。
また、エンボス付与装置に通す前の状態での樹脂Bの(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)が0.5より小さい場合は、B層を構成するポリエステル系樹脂の結晶化が進行しておらず、エンボス付与装置の加熱金属ロールへの粘着やシートの溶融破断等を生じ、B層13dの役割を果たすことができない。該値が0.5以上あることで、これらの問題を回避することができるものである。
B層を構成するポリエステル系樹脂としては、各種共重合、ブレンド、アロイ化等により本発明の要件を満たす物性のものを得ることが可能である。中でも、酸成分、アルコール成分のそれぞれに単一成分を用いた所謂ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂や、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂を結晶性樹脂成分として用いることが好ましい。これらの樹脂は、好ましい融点範囲である180℃〜240℃の間に融点を有するポリエチレンテレフタレート系樹脂の中では、結晶化速度が速く、また、ガラス転移温度(Tg)がポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂より低い。従って、押出し製膜時の引き取りロール温度を適宜調整することで、(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)を0.5以上とすることができ、結晶化のための後処理工程を特に必要としない。イソフタル酸共重合PET等もイソフタル酸の共重合比率を調整することで該温度範囲に融点を有するものを得ることができるが、その場合、結晶化速度が遅くなり、シート製膜の後工程に別途結晶化処理工程を必要とするため、好ましくない。ラミネート設備の条件によって、ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂の融点よりももう少し低温で強固な接着力を得たいような場合は、イソフタル酸共重合等で融点を低下させたPBT系樹脂を用いてもよい。その場合もシート製膜工程で、(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)の値として0.5以上を得られる範囲の共重合比率とすることが好ましい。
また、ホモPBT樹脂や、ホモPTT樹脂を主体として、非結晶性の樹脂をブレンドして用いてもよいが、この場合も押出し製膜時に加熱金属ロールに粘着しない程度に結晶化が進行している樹脂Bを得るためには、樹脂Bのブレンド組成として35≦ΔHm(B)の値が確保されている必要がある。ΔHm(B)がこれより小さい場合は、非結晶性樹脂のブレンド比率が高いことを意味し、ブレンド組成の結晶化速度が遅くなり、製膜時に結晶化したシートを得ることが困難となるため、好ましくない。また、一般的に入手できる結晶性ポリエステル系樹脂ではΔHm(B)は60[J/g]程度以下である。樹脂Bに対しても、A層を構成するポリエステル系樹脂と同様に必要な各種添加剤を適宜添加してもよい。
[積層樹脂シートの製造方法]
積層樹脂シート11dの製造方法としては、公知の方法、例えば、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式による共押出しキャスト法やインフレーション法等を採用することができ、特に限定されるものではない。A層を構成するポリエステル系樹脂とB層を構成するポリエステル系樹脂とを用いてそれぞれ単独でシートを製膜し、A層を構成するポリエステル系樹脂のシートは結晶化していない状態で、B層を構成するポリエステル系樹脂のシートは後工程で結晶化処理を施して、しかる後に接着剤等を用いて積層一体化することによっても、エンボス付与装置でのエンボス適性に優れた積層樹脂シート(意匠シート)11dを得ることができる。
しかし、一般的にはA層を構成するポリエステル系樹脂とB層を構成するポリエステル系樹脂とを共押出しで積層樹脂シート11dとして製膜することが所用工程が少ない点から好ましい。この場合、B層を構成するポリエステル系樹脂の特性が前記条件を満たすものを用いることにより、押出し製膜の時点で、B層13として必要な物性を付与することができる。
積層樹脂シート11dの総厚みは通常50〜500μmである。深いエンボス柄を付与するためには、積層樹脂シート11dの厚みは80μm以上あることが好ましい。積層樹脂シート11dの厚みが50μm未満では被覆基材20d用として使用した場合、金属板18dに対する保護層としての性能が劣る。更にシートが薄い場合は、下地金属板の透けを防止するために、多量の顔料を添加する必要が生じ、加工性が悪化する虞がある点からも50μm以上の厚みが必要とされる。
一方、厚みが500μmを超えると、被覆基材20dとしての打ち抜き加工等の二次加工性が悪くなり、好ましくない。また、従来の軟質塩化ビニル被覆基材に用いてきた成形型を使用することが困難となり、新規に成形型を作製する必要がある点からも好ましくない。
また、A層12d及びB層13dそれぞれの好ましい厚みは、付与したいエンボス模様の種類や使用するエンボス付与装置の温度条件、張力条件等により一概には規定できない。しかし、従来該用途の軟質PVCシートの厚みが80〜200μm程度であったことから、総厚み100〜240μm、そのうちB層13dの厚みが10〜50μm、従って、A層12dの厚みは50〜230μm程度が好ましい。この厚みであれば、従来軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボスロールの大部分で本発明の積層樹脂シート11dへのエンボス模様の付与が可能になる。
[積層樹脂シートへのエンボス付与]
前記積層樹脂シート11dに前記の方法でエンボス処理を施すことにより、前記A層にエンボス模様を付与したエンボス付与シートを製造することができる。
前記積層樹脂シート11dは、A層12d及びB層13dをそれぞれ形成するポリエステル系樹脂が、前記のような特徴を有するため、前記エンボス付与装置30により従来の軟質PVCシートと同様にエンボス模様を付与することができる。更に、B層を構成するポリエステル系樹脂の融点(Tm(B))が180℃〜240℃の範囲であることから、エンボス付与装置30でのシート加熱温度を160℃以上、{B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B))−20}℃以下に設定しても、加熱金属ロールへの粘着やシート溶融破断を生じることがない。そして、エンボス付与装置30でエンボス意匠を付与した軟質PVCと同等、若しくはそれ以上のエンボス耐熱性が得られる。
[金属非粘着性のコーティング層の付与]
前記のシート加熱温度でエンボス柄の転写を行うことで、軟質PVCと同等で、しかも、実用上充分なエンボス耐熱性が得られるのであるが、用途によっては更に高いエンボス耐熱性が要求される場合がある。この場合、シート加熱温度を高く設定することと併せて、エンボスロールの温度も高くすることで、エンボス耐熱性を向上させることが可能である。しかし、本発明の構成においては、B層13dに対しては結晶化させることで充分な加熱金属非粘着性が付与されているものの、A層12dに関してはその必要物性上充分な加熱金属非粘着性は有していない。そこで、A層12dの表面に加熱金属非粘着性のコーティング層22dを付与して高温のエンボスロール、その他補助ロールに対する非粘着性を向上させてもよい。
コーティング層22dの付与は、積層樹脂シート11dがエンボス付与装置に通される以前に行われる必要があり、各種通常のコーティング手法により実施することができる。コーティング層22dの組成としては、例としてシリコーン系、アクリルシリコーン系、フッ素系等を挙げることができるが、これらに限定される物ではなく、A層12dとの密着性を有し、加熱金属との非粘着性を有するものであれば、特に制限なく使用できる。また、コーティング層22dを2層以上から構成し、最表面の層を金属非粘着性を有する層とし、該層とA層12dとの接着剤層の機能を有する層を介在させてもよい。更に、紫外線吸収性や耐傷入り性の向上、耐汚染性の向上、深みのある意匠の付与等の副次的効果をコーティング層22dに併せて付与してもよい。
コーティング層22dの好ましい厚みは1〜10μmの範囲であり、これより薄いと塗布ムラにより部分的に加熱金属ロールへの粘着が発生する等の問題が発生する虞があり好ましくない。また、これより厚いとコーティング層22dの樹脂物性が積層樹脂シート11dの重要な物性に影響を及ぼすようになる。即ち、コーティング層22dの材質によっては加工性や耐傷入り性が悪くなったり、あるいは肝心のエンボスの転写性自体が悪化する等の影響が出易くなり、好ましくない。
[金属板]
金属板18dとしては、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板、アルミニウム系合金板が使用でき、通常の化成処理を施した後に使用してもよい。金属板18dの厚さは、被覆基材20dの用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選択することができる。
[被覆基材の製造方法]
次にエンボス付与シートが被覆された被覆基材20dの製造方法について説明する。
エンボス付与装置30によりエンボス柄が付与された積層樹脂シート11dを金属板18dに積層する際に用いる接着剤としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等一般に使用される熱硬化型接着剤を挙げることができる。先ず、リバースロールコーター、キスロールコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用し、積層樹脂シート11を貼り合わせる金属板18dの表面に、乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように、前記熱硬化型接着剤を塗布する。
次いで、赤外線ヒーター及び熱風加熱炉の少なくとも一方を用いて、塗布面の乾燥及び加熱を行い、金属板18dの表面温度を所定の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて積層樹脂シート11dのB層13d側が接着面となるように被覆、冷却することにより被覆基材16を得る。本発明によれば、金属板18dとの接着面側に位置するB層を構成するポリエステル系樹脂の融点(Tm(B))が180〜240℃の範囲にあるので、金属板18dの表面温度は従来の軟質PVCシートラミネート被覆金属板の場合と同等とすることで強固な接着力を得ることが可能である。
本発明によれば、比較的エンボス耐熱性の良好な被覆基材20dが得られるが、ラミネート後は、直ちに水冷却を行うことにより、ラミネート時にシートが加熱されることによるエンボスの戻りを軽減することが好ましい。
前記被覆基材20dは、ドア材、ユニットバス壁材、ユニットバス内装材等の建築内装材として用いることができる。
[第5の発明]
次に、第5の発明について説明する。
第5の発明にかかる積層樹脂シート11eは、図1(h)に示すように、A層12e、印刷層(以下、「C層」と称する。)17e、及びB層13eを、この順に少なくとも3層より構成されたシートである。
また、図1(i)では、図1(h)の構成に加えて、A層12eとB層13eの間に、B層13e側から順番に、C層17e及び接着剤層21eが設けられている。さらに、図1(j)では、C層17eとB層との間に着色されたポリエステル系樹脂層(以下、「D層」と称する。)23eが配置されている。
さらに、図1(k)では、図1(h)の構成に加えて、A層の表面に加熱金属との非粘着性を有するコーティング層22eが設けられている。
また、図2(d)は、被覆基材20eの一例を示し、図1(h)に示す構成の積層樹脂シート11eが、熱硬化性の接着剤19eを介して金属板18e上に積層されている。また、図1(i)、図1(j)、及び図1(k)に示す構成の積層樹脂シート11eが同様に金属板18e上に積層されていても良い。
[A層]
A層12e及びB層13eは、それぞれ物性の異なるポリエステル系樹脂で形成されている。
エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶化ピーク温度Tc(A)(℃)と、結晶融解ピーク温度Tm(A)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(A)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(A)(J/g)とするとき、以下の両方の関係式が成立する。
10≦ΔHm(A)≦35 (J/g)
(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5
明確な結晶融解ピーク温度Tm(℃)が観測されるとは、A層を構成するポリエステル系樹脂が非結晶性の樹脂では無い事を意味する。A層12eを構成するポリエステル系樹脂として完全非結晶性樹脂を使用した場合も、本発明の積層構成とする事で、エンボス付与装置によるエンボス意匠の付与は可能であるが、一般的に非結晶性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)が100℃より低い事に起因し、ユニットバスの規格試験の項目である沸騰水浸漬試験を行った際、A層12eを構成するポリエステル系樹脂が軟化し、付与されたエンボス意匠が消失するため、好ましくない。また、A層とB層とを共押出しとせず、C層17eを用いて積層一体化した場合も、A層を構成するポリエステル系樹脂として非結晶性樹脂を用いた場合は、沸騰水浸漬試験の際、A層12eとC層17eとの間で剥離等の問題を生じ易く好ましくない。
(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)が0.5より大きい場合は、エンボス付与前のA層12eを構成するポリエステル系樹脂の結晶化が進行している場合であり、「発明が解決しようとする課題」に記した如く、A層12eを構成するポリエステル系樹脂の融点直近まで高い弾性率が維持される事からエンボス転写が困難となる。
また、ΔHm(A)(J/g)が35(J/g)より大きい場合は、結晶性の比較的高い樹脂組成である事を意味し、エンボス付与装置に通す前のシートに於いて、(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5が満たされている場合についても、エンボス付与装置の加熱金属ロールでシートが加熱されている間にA層12eを構成するポリエステル系樹脂の結晶化が進行し、結果としてエンボス付与が困難となりやすく好ましくない。逆にΔHm(A)(J/g)が10(J/g)より小さい場合は、A層12eを構成するポリエステル系樹脂として完全非結晶性の樹脂を用いた場合と同様の問題点が現れ、やはり好ましくない。
A層12eを構成するポリエステル系樹脂に関するこれらの値を本発明の範囲とする事で、エンボス付与装置でのエンボス意匠の付与が可能であると共に、耐沸騰水浸漬試験後もエンボス意匠が消失する、或いはエンボス柄が浅くなる等の問題を生じないエンボス意匠を得られるものである。
これは、本発明の範囲ではA層12eを構成するポリエステル系樹脂は、エンボス付与装置30に通される前の状態では、結晶性樹脂の組成でありながら、結晶化が進行していない状態である事により非結晶性樹脂と同様の性質を有しており、エンボス付与装置に通され加熱金属ロールによる加熱を受けた際も、その結晶性がそれほど高くない組成である事から結晶化は進行し難く、やはり非結晶性樹脂と同様の性質を示し、従って良好なエンボス意匠の付与が可能であると同時に、エンボス付与後の冷却過程、或いは沸騰水に浸漬した直後には結晶化が進行し、耐沸騰水性の良好なエンボスが得られるものと考えられる。
A層12eを構成するポリエステル系樹脂を形成するポリエステル系樹脂としては、各種共重合、ブレンド、アロイ化等により本発明の請求項1を満たす物性のものを得る事が可能であるが、酸成分、アルコール成分のそれぞれに単一成分を用いた、所謂ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂や、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂を結晶性樹脂成分として用い、これに非結晶性の共重合ポリエステル系樹脂をブレンドする方法が希望する物性を調整し易い点から好ましい。
非結晶性の共重合ポリエステルとしては、原料の安定供給性や生産量が多い事から低コスト化が図られている所謂PET−Gを用いる事が出来、イーストマンケミカル社の「イースター6763」や、それに類する樹脂を用いる事が好ましい。ただし、これに限定されるものでは無く、ネオペンチルグリコール共重合PETで結晶性を示さないものや、特定の条件では結晶性を示すが通常の条件では非結晶性樹脂として取り扱う事が可能なイーストマンケミカル社の「PCTG・5445」等を用いる事もできる。
ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂や、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂のように結晶化速度の速い樹脂を用いた場合も、非結晶性樹脂をブレンドする事で、ブレンド系での結晶化速度は遅くなる為、本発明の条件を満たす状態のシートを得る事が可能となる。
更に、これらの結晶性樹脂を用いた場合は、エンボス意匠の沸騰水性に優れたシートを得やすい点からも好ましい。これは、結晶性樹脂と非結晶性樹脂のブレンド比率が同一の場合、結晶性樹脂として、ホモ・ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂や、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂等の共重合ポリエステル樹脂をブレンドした場合に比べると、ブレンド組成での結晶化速度が比較的速く、本発明の条件を満たしつつも、沸騰水に浸漬した場合は比較的速やかに結晶化が進行し、形状を保持する能力に優れる事によると考えられる。
A層12eを構成するポリエステル系樹脂には、印刷層の透視性を阻害しない範囲に於いて、また、その他の性質を損なわない程度に、添加剤を適宜な量添加しても良い。添加剤としては、燐系・フェノール系他の各種酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、造核剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材などの広汎な樹脂材料に一般的に用いられているものや、カルボジイミド系やエポキシ系他の末端カルボン酸封止剤、或いは加水分解防止剤等のポリエステル樹脂用として市販されているものを挙げる事ができる。
A層12eの好ましい厚みは15μm〜120μmの範囲であり、これより薄いと製膜したフィルムの取り扱い性が悪く、また無延伸のフィルムである為厚みの均一性に問題を生じやすく好ましくない。B層13eが単層から成る場合にはエンボス柄に対応した変形を付与できるのはA層のみである事からもこれより薄い厚みは好ましくない。これよりA層12eの厚みが厚い場合はエンボスの転写性は良好になるものの、A層12eは結晶性を有する樹脂組成である為、初期ヘイズの増大、或いは経時的なヘイズの増大が顕著となり、印刷意匠の透視性が悪くなる為好ましくない。また紫外線の照射が比較的強い屋内で使用した場合のA層12eの黄変が目立ちやすくなる点からも好ましくない。転写したいエンボス柄によってはA層の好ましい厚みより大きな変形を付与する必要があるが、この場合は、B層13eとC層17eとの間に、D層23eを付与してA層12eのみでなくD層23eもエンボス柄ロールでの押圧で変形させるのが好ましく、A層12eの厚みは上記範囲、更に好ましくは25μm〜80μm程度の範囲とするのが良い。
[B層]
エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶融解ピークTm(B)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(B)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(B)(J/g)とするとき、以下の関係式が成立する必要が有る。
180≦Tm(B)≦240 (℃)
0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)
明確な結晶融解ピーク温度Tm(B)(℃)が観測されるとは、B層13eを構成するポリエステル系樹脂が非結晶性の樹脂では無い事を意味し、同時に、エンボス付与装置に通す前のシートである程度結晶化が進行している必要がある。これは、B層13eを構成するポリエステル系樹脂が結晶性の組成から成っていても、その結晶性が低い場合はエンボス付与装置の加熱金属ロールへの粘着を生ずる事による。B層13eを構成するポリエステル系樹脂の結晶化状態が本発明の条件を満たす事により加熱金属ロールへの粘着が防止され、B層13eとしての役割を果たす事が可能となる。
また、B層13eを構成するポリエステル系樹脂の融点は180℃〜240℃の範囲にある必要があり、これは、従来の軟質塩化ビニルシートを金属板にラミネートする為に用いられて来たラミネート設備をそのまま用いる事を可能とする為である。B層13eを構成するポリエステル系樹脂の融点がこれより低いと、金属板18eにラミネートする際には低い温度で接着力を確保できる点では好ましいが、エンボス付与装置で従来の軟質塩化ビニルシートと同様の条件でシートを加熱した際、シート温度がB層13eを構成するポリエステル系樹脂の融点に近くなり、加熱金属ロールへの粘着や溶融破断の危険がある為好ましくない。エンボス付与装置30でのシート加熱温度をこれより下げる事も考えられるが、その場合は通常の条件でエンボス柄を付与した軟質塩化ビニルシートよりもエンボスの耐熱性が低下する為やはり好ましくない。
エンボスの耐熱性とは、エンボス意匠被覆基材が使用状態に於いて高熱に晒された際に、エンボスの戻りが大きいか小さいかを示すものである。
基本的にエンボス付与装置30によるシートへのエンボス付与は粘弾性体に歪みを付与した後冷却により歪みを凍結させる操作である為、歪みを与えた温度が高い程、被覆基材20eのエンボス耐熱性も良好となる。即ちエンボス付与装置30でのシート加熱温度をできるだけ高くしてからエンボス柄ロールへ通す、或いはエンボスロール自体の温度も高く設定する事が考えられるが、後者に於いては、シートのエンボスロールへの粘着が懸念され、あくまで前者とのバランスに於いて実施されるのが現状である。従来の軟質塩化ビニルシートを従来の条件でエンボス付与装置に通した場合、実用上満足の行くエンボス耐熱性が得られている。
B層13eを構成するポリエステル系樹脂の融点がこれより高くなると、従来のラミネート温度条件より鋼板表面温度を高めにしてラミネートする必要が生じ、裏面塗料の熱変色・熱褪色の問題、端部の冷えが顕著になる事から、鋼板温度の幅方向不均一に起因する接着強度の不均一等の問題を生じ好ましくない。
また、B層13eを構成するポリエステル系樹脂のエンボス付与装置30へ通す前の状態での(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)が0.5より小さい場合はB層13eを構成するポリエステル系樹脂の結晶化が進行しておらず、エンボス付与装置の加熱金属ロールへの粘着やシートの溶融破断等を生じB層13eを構成するポリエステル系樹脂の役割を果たす事ができない。該値が0.5以上ある事でこれらの問題を回避する事ができる。
B層13eを構成するポリエステル系樹脂としては、各種共重合、ブレンド、アロイ化等により本発明の樹脂Bが備えるべき条件を満たす物性のものを得る事が可能であるが、酸成分、アルコール成分のそれぞれに単一成分を用いた、所謂ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂や、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂を結晶性樹脂成分として用る事が好ましい。これらの樹脂は、好ましい融点範囲である180℃〜240℃の間に融点を有するポリエステル系樹脂の中では、結晶化速度が速く、またガラス転移温度(Tg)がポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂より低い為、押出し製膜時の引き取りロール温度を適宜調整する事で(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)を0.5以上とする事が出来、結晶化の為の後処理工程を特に必要としない事による。イソフタル酸共重合PETなどもイソフタル酸の共重合比率を調整する事で該温度範囲に融点を有するものを得る事ができるがその場合結晶化速度が遅くなり、シート製膜の後工程に別途結晶化処理工程を必要とする為好ましくない。ラミネート設備の条件によって、ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂の融点よりももう少し低温で強固な接着力を得たい様な場合は、イソフタル酸共重合等で融点を低下させたPBT系樹脂を用いても良いが、その場合もシート製膜工程で(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)の値として0.5以上を得られる範囲の共重合比率とする事が好ましい。
また、ホモ・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂又は、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂を主体として、非結晶性の樹脂をブレンドして用いても良いが、この場合も押出し製膜時に加熱金属ロールに粘着しない程度に結晶化が進行している必要がある。
B層13eを構成するポリエステル系樹脂を得る為には、B層13eを構成するポリエステル系樹脂のブレンド組成として35≦ΔHm(B)の値が確保されている必要がある。ΔHm(B)がこれより小さい場合は、即ち非結晶性樹脂のブレンド比率が高い事を意味し、ブレンド組成の結晶化速度が遅くなり製膜時に結晶化したシートを得る事が困難となる為好ましくない。また一般的に入手できる結晶性ポリエステル系樹脂ではΔHm(B)は65(J/g)程度以下である。
D層23eを介在させない場合は、B層13eを構成するポリエステル系樹脂には、下地金属の隠蔽やC層17eの発色の改善、意匠性の向上の為に着色顔料を添加する。使用できる顔料は一般的にポリエステル系樹脂の着色に用いられるものを用いる事ができる。また、B層13eを構成するポリエステル系樹脂に対しても、A層12eを構成するポリエステル系樹脂と同様に必要な各種添加剤を適宜添加しても良い。
[D層]
C層17eとB層13eとの間にD層23eが介在する場合、D層23eは顔料が添加されている以外、基本的にA層12eと同一の特徴を有している事が好ましい。このとき、B層13eは、顔料添加が必ずしも必要で無い以外は、上記D層23eが介在しない場合のB層13eと同一の特徴を有する必要が有る。該構成は、前述のようにA層12eの好ましい厚みに上限がある一方、より深いエンボス柄を転写したい場合に好適に用いる事ができる。即ちエンボス柄ロールによる押圧で変形を受ける層をA層+D層とする事でA層を厚くした場合に生ずる問題を回避しつつ、深いエンボス柄の転写を可能とするものである。
すなわち、D層23eは、エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶化ピーク温度Tc(D)(℃)と、結晶融解ピーク温度Tm(D)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(D)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(D)(J/g)とするとき、以下の両方の関係式が成立する。
10≦ΔHm(D)≦35 (J/g)
(ΔHm(D)−ΔHc(D))/ΔHm(D)≦0.5
前記D層23eが、これらの要件を必要とする理由は、前記したA層12eの場合と同様の理由による。
A層12eを含めた積層シート全体の厚みとしては400μm以下である事が好ましく、これは、厚みがこれより厚いと積層シートを被覆した金属板の加工性が悪化する事による。また積層シートの意匠効果、下地金属板に対する保護効果等も厚みをこれ以上にした場合も、飽和する事からも上記厚み以下とする事が好ましい。
B層13eの好ましい厚み範囲の下限は、D層23eが介在しない場合は50μmであり、これより厚みが薄いと下地の透けを防止する為、所謂隠蔽効果の付与の為にB層13eに高濃度で顔料を添加する必要が生じ、加工性等に問題を生じ易く好ましくない。D層23eが介在する場合は、隠蔽効果をD層23eにも分担させる、或いは専らD層23eに付与させる事ができるので、B層13eの好ましい厚み範囲の下限は20μmである。これより薄いとエンボス付与装置30のヒーターで加熱された際に、シートの溶融張力が不足し、シートへの皺入り、シートの極端な伸び等を生じ、更には溶融破断によりエンボス付与が困難となる可能性があり好ましくない。
D層23eは積層樹脂シート11eに深いエンボス柄を転写する事が目的の層であり、A層12eの厚みと、付与したいエンボス柄の深さによって好ましい厚みは変わり得るが、A層12eに関してはヘイズの増大を抑える為、好ましい厚みの範囲内で比較的薄いシートを得る事が好ましい為、D層23eの厚みを25μm以上としておく事が好ましい。またD層23eのみに顔料による下地隠蔽性を持たせる場合に於いては、D層23eの厚みとして50μm以上ある事が好ましい。
従来のエンボス意匠を有する軟質塩化ビニル系シートが厚み100〜250μm程度であった事から、A層12eとD層23eとの合計厚みを100〜250μmとする事で、従来より用いて来たエンボス柄ロールの殆どに対応する事が可能となる。
顔料による着色は専らD層23eのみに依っても良いが、D層23eとB層13eの両方を着色するほうが顔料濃度を低減する事ができ、D層23eの加工性等に問題を生じにくい点から好ましい。
[C層]
C層17eは、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、他公知の方法の印刷で施される。印刷層の絵柄は石目調、木目調或いは幾何学模様、抽象模様等任意である。A層の積層する側の表面に印刷を施してからB層13e或いはD層23eと積層してもよく、B層13e或いはD層23eの表面に印刷を施してからA層12eと積層しても良い。
A層12eと、B層13eまたはD層23eとを接着剤を用いて積層一体化する場合は、印刷層の樹脂バインダーの種類は特に制限されないが、印刷層の樹脂バインダーを無架橋、或いは低架橋のポリエステル系等の熱融着性を有するものとする事で、エンボス付与装置で重ね合わせたシートが加熱された際に印刷層を熱融着性の接着剤層としても作用させる事ができる。また、これに加えて、C層17eを部分印刷とする、或いはドットの粗い印刷とする事で、A層12eとB層13e、或いはA層12eとD層23eの非印刷部分が直接接触するようになり、更に強固な熱融着性を得る事ができる。A層12eはエンボス付与装置に通される迄は非結晶、或いは低結晶状態であり、エンボス付与装置で加熱された際に融着性を示す特徴を有する事による。
[積層樹脂シートの製造方法]
本発明の積層樹脂シート11eの製膜方法としては、公知の方法、押出しキャスト法やインフレーション法などを採用することができ、特に限定されるものではない。A層12eを構成するポリエステル系樹脂とB層13eを構成するポリエステル系樹脂に同一或いは類似の組成を用いてそれぞれを単層でシート製膜し、A層12eは結晶化していない状態で、B層13eは後工程で結晶化処理を施して、しかる後に接着剤等を用いて積層一体化する事によっても、積層樹脂シート11eを得る事ができる。
しかし、一般的には、B層13eを構成するポリエステル系樹脂を押出し製膜後に別途結晶化処理を施すよりも、押出し製膜時点で結晶化しているB層13eを得るほうが好ましく、A層12eとB層13eの樹脂組成を違えておく事が好ましい。また、これは基本的な物性がA層12eと同一であるD層23eが介在する場合に、D層23eとB層13eの組成を違えておき、D層23eとB層13eとを共押出製膜で作成し、それぞれの層に必要な物性を付与できる点からも好ましい。
[積層樹脂シートへのエンボス付与]
前記積層シート11eは、前記エンボス付与装置30により従来の軟質PVCシートと同様にエンボス模様を付与する事ができる。更に、B層13eを構成するポリエステル系樹脂の融点(Tm)が180℃〜240℃の範囲である事から、エンボス付与装置でのシート加熱温度を160℃以上、{B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B)−20}℃以下に設定しても、加熱金属ロールへの粘着やシート溶融破断を生ずる事が無く、エンボス付与装置30でエンボス意匠を付与した軟質PVCシートと同等、若しくはそれ以上のエンボス耐熱性が得られるものである。
[金属非粘着性コーティング層の付与]
前述のシート加熱温度でエンボス柄の転写を行う事で、軟質PVCシート同等であり、実用上充分なエンボス耐熱性が得られるのであるが、用途に依っては更に高いエンボス耐熱性が要求される場合がある。この場合、シート加熱温度を高く設定する事と併せて、エンボス柄ロールの温度も高くする事で、エンボス耐熱性を向上させる事が可能であるが、本発明の構成に於いては、B層13eが結晶化させる事で充分な加熱金属非粘着性が付与されているものの、A層12eを構成するポリエステル系樹脂に関してはその必要物性上充分な加熱金属非粘着性は有していない。そこで、A層12eの表面に加熱金属非粘着性のコーティング層22eを付与して高温のエンボス柄ロール、その他補助ロールに対する非粘着性を向上させても良い。
コーティング層22eの付与は、積層シートがエンボス付与装置に通される以前に行われる必要があり、各種通常のコーティング手法により実施する事ができる。A層12e単層のシートにコーティングを施しても良く、A層12eとB層13eを積層一体化した後でも良い。
コーティング層22eの組成としては、例としてシリコーン系、アクリルシリコーン系、フッ素系等を挙げる事ができるがこれらに限定されるものでは無く、A層12eを構成するポリエステル系樹脂との密着性を有し、加熱金属との非粘着性を有するものであれば、特に制限なく使用できる。またコーティング層22eを2層以上から構成し、最表面の層を金属非粘着性を有する層とし、該層とA層12eを構成するポリエステル系樹脂と間に接着剤層としての機能を有する層を介在させても良い。更に、紫外線吸収性や耐傷入り性の向上、耐汚染性の向上、深みのある意匠の付与等の副次的効果をコーティング層に併せて付与しても良い。
コーティング層22eの好ましい厚みは1〜10μmの範囲であり、これより薄いと塗布ムラにより部分的に加熱金属ロールへの粘着が発生する等の問題が発生するおそれがあり好ましくない。また、これより厚いとコーティング層22eの樹脂物性が積層シートの重要な物性に影響を及ぼすようになる。即ち、コーティング層22eの材質によっては加工性や耐傷入り性が悪くなったり、或いは肝心のエンボスの転写性自体が悪化する等の影響が出やすくなり好ましくない。
[金属板]
本発明の対象になる金属板18eとしては、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板、アルミニウム系合金板が使用でき、通常の化成処理を施した後に使用しても良い。基材金属板の厚さは、被覆基材の用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選ぶ事ができる。
[被覆基材の製造方法]
次に本発明の被覆基材20eの製造方法について説明する。
エンボス付与装置30によりエンボス柄が付与された積層樹脂シート11eを基材金属板にラミネートする際に用いる接着剤19eとしては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等一般に使用される熱硬化型接着剤を挙げる事ができる。被覆基材20eを得る方法としては、金属板にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用し、積層一体化されたシートを貼り合せる金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように、先出のエポキシ系、ウレタン系、ポリエステル系等の熱硬化型接着剤を塗布する。
次いで、赤外線ヒーター及び、又は熱風加熱炉により塗布面の乾燥および加熱を行い、金属板の表面温度を、任意の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて積層シートのB層側が接着面となるように被覆、冷却することにより被覆基材20eを得る。本発明によれば金属板18eとの接着面側に位置するA層12eを構成するポリエステル系樹脂の融点(Tm(B))が180〜240℃の範囲にあるので、金属板の表面温度は従来の軟質PVCシートラミネート被覆金属板の場合と同等とする事で強固な接着力を得る事が可能である。
本発明によれば比較的エンボス耐熱性の良好な被覆基材を得られるが、ラミネート後は、ただちに水冷却を行う事によりラミネート時にシートが加熱される事によるエンボスの戻りを軽減する事が好ましい。
前記被覆基材20eは、ドア材、ユニットバス壁材、ユニットバス内装材等の建築内装材として用いることができる。
実施例
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に示した被覆基材の物性の測定規格、試験法は以下の通りである。
<エンボス付与方法>
[第1の発明]
シートの総厚みを150μm、基材層の厚みを25μmにして実施例、比較例で作製したシートをエンボス付与装置にてエンボスを付与することを実施した。エンボス付与装置はPVCシートへのエンボス付与に一般的に用いられているもので、基材層(裏面)より加熱ロールにてシートを加温し、エンボス付与可能層もしくは上地層、コート層からエンボスロールにてエンボスを付与する装置である。
[第2の発明]
1.予めエンボスを付与した樹脂シートを金属板に積層する方法。
1−1押出し製膜時、溶融した樹脂をキャストする際に、エンボスパターンを彫刻したロールで押さえて、柄を転写させる方法。
1−2製膜したシートを再加熱し、柄を彫刻したロールで押さえて柄を連続的に転写させる方法。
2.金属板と樹脂とを積層後にエンボスを付与する方法。
2−1金属板上に溶融樹脂を押し出し、樹脂が冷却される前に柄を彫刻したロールで押さえて、柄を連続的に転写させる方法。
2−2被覆基材を再加熱し、柄を彫刻したロールで押さえて、柄を連続的に転写させる方法。
[第3の発明〜第5の発明]
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与した。
<エンボス付与性>
[第1の発明]
エンボス部分を肉眼で観察して、しっかり入っているものを「○」、エンボスの形がわかり難く、意匠性の悪いものを「×」と判断した。
[第2の発明]
問題なくエンボスを付与できたものを○、何らかの問題が発生し、エンボスが付与できなかったものを×で示した。
[第3の発明〜第5の発明]
[エンボス付与適性:耐粘着性]
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与した際に、加熱ロールに積層樹脂シートが粘着したものを「×」、粘着しなかったものを「○」で示した。[エンボス付与適性:耐溶断性]
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与した際に、シート加熱中に積層樹脂シートが溶断したものを「×」、粘着しなかったものを「○」で示した。
[エンボス付与適性:転写性]
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与したシートを目視で観察し、綺麗にエンボス柄が転写しているものを「○」、これに比べてやや転写が浅い場合を「△」、転写が悪く、浅いエンボス柄になっているもの、あるいはエンボス柄に無関係に単に表面が荒れているものを「×」で示した。
[エンボス耐熱性:鋼板へのラミネート時のエンボス耐熱性](第4の発明〜第5の発明)
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与したシートを金属板17にラミネートする際、加熱された金属板からの熱でエンボスに戻りが生じる(エンボスが浅くなる)程度を目視で観察した。ラミネートする前のシートと比較して、エンボスの形状が殆ど変化していないものを「○」、これに比べてややエンボス戻りが発生しているものを「△」、エンボス戻りが顕著なもの、あるいはエンボス柄が完全に消失し単に表面が荒れているものを「×」で示した。
[エンボス耐熱性:耐沸騰水性](第4の発明〜第5の発明)
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与したシートをラミネートした金属板を、沸騰水中に3時間浸漬した後、目視で観察した。沸騰水に投入する前と比較して、エンボスの形状が殆ど変化していないものを「○」、これに比べてややエンボス戻りが発生しているものを「△」、エンボス戻りが顕著なもの、あるいはエンボス柄が完全に消失し単に表面が荒れているものを「×」で示した。
[エンボス耐熱性:高温耐熱性](第4の発明〜第5の発明)
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与したシートをラミネートした金属板を、105℃の熱風循環式オーブン中に3時間静置した後、目視で観察した。オーブンに投入する前と比較して、エンボスの形状が殆ど変化していないものを「○」、これに比べてややエンボス戻りが発生しているものを「△」、エンボス戻りが顕著なもの、あるいはエンボス柄が完全に消失し単に表面が荒れているものを「×」で示した。
[印刷柄透視性:初期](第5の発明)
図3に示すエンボス付与装置30でエンボスを付与したシートを、目視で観察し、印刷柄が明瞭に認識出来るものを「○」、これに比べてやや透明層(A層)のヘイズが大きく明瞭さに欠ける場合を「△」、透明層のヘイズが大きく、印刷層の識別が不明瞭な場合を「×」で示した。
[印刷柄透視性:沸騰水浸漬後](第5の発明)
(7)印刷柄透視性:
図2に示すエンボス付与装置でエンボスを付与したシートを、沸騰水中に3時間浸漬した後に目視で観察し、浸漬前の状態と比較して印刷層の明瞭さに殆ど変化が見られない場合を「○」、これに比べてやや透明層のヘイズが大きくなり明瞭さに欠ける場合を「△」、印刷層の明瞭さが著しく低下した場合を「×」で示した。
<結晶融解ピーク温度Tm>
[第2の発明〜第3の発明]
パーキンエルマー製DSC−7を用いて、試料10mgをJIS−K7121「プラスチックの転位温度測定方法−融解温度の求め方」に準じて、加熱速度を10℃/分で測定して求めた。1次昇温時の結晶融解ピークトップ温度(融点)をTmとした。
[第4の発明〜第5の発明]
パーキンエルマー製DSC−7を用いて、試料10mgをJIS−K7121「プラスチックの転移温度測定方法−融解温度の求め方」に準じて、加熱速度を10℃/分で測定して求めた。1次昇温時の結晶融解ピークトップ温度をTmとした。また、同時に結晶融解熱量ΔHmを求めた。共押出し製膜で作製した2層シートからミクロトーム切削により、A層を構成するポリエステル系樹脂、B層を構成するポリエステル系樹脂をそれぞれ単離して供試体とした。
<結晶化ピーク温度Tc>
[第2の発明〜第3の発明]
パーキンエルマー製DSC−7を用いて、試料10mgをJIS−K7121「プラスチックの転位温度測定方法−結晶化温度の求め方」に準じて、加熱速度を10℃/分で測定して求めた。1次昇温時の結晶化ピークトップ温度をTcとした。
[第4の発明〜第5の発明]
パーキンエルマー製DSC−7を用いて、試料10mgをJIS−K7121「プラスチックの転移温度測定方法−結晶化温度の求め方」に準じて、加熱速度を10℃/分で測定して求めた。1次昇温時の結晶化ピーク温度をTcとした。また、同時に1次昇温時の結晶化熱量ΔHcを求めた。供試体の作製方法は結晶融解ピーク温度Tmの測定の場合と同一である。
<耐候性促進試験>[第3の発明]
エンボス付与シートをラミネートした被覆基材を60mm×50mmのサイズに切断したものを試験片とした。なお、試験片の切断部端面の封止処理等は特に行わなかった。これらの試験片をサンシャイン・ウェザーメーター促進試験機((株)スガ試験機製)に投入し、ブラックパネル温度63℃での曝露試験を行った。
曝露2000時間後の試験片の色差変化を色差計で測定し、色差変化がΔE値で1.0以下の場合を「○」、5.0以上の場合を「×」、その間の場合を「△」で示した。また、色差変化以外の劣化状態に関しても目視観察を行った。
なお、エンボス付与適性の評価において、粘着、溶断を示したシートに関しては、エンボスを付与していないシートを金属板にラミネートして試験片とした。また、以下に述べる加工性試験及び表面硬度の評価に関しても同様に試験片を選定した。
<加工性試験>[第3の発明]
エンボス付与シートをラミネートした被覆基材に衝撃密着曲げ試験を行い、曲げ加工部のシートの面状態を目視で判定した。ほとんど変化がないものを(○)、僅かなクラックが発生したもの著しく外観を損ねていない場合を(△)、クラックの発生により著しく外観が悪化したもの及び金属面が露出したものを(×)として表示した。
なお、衝撃密着曲げ試験は次のようにして行った。被覆基材の長さ方向及び幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を作製し、23℃で1時間以上保った後、折り曲げ試験機を用いて180°(内曲げ半径2mm)に折り曲げ、その試料に直径75mm、質量5kgの円柱形の錘を50cmの高さから落下させた。
<表面硬度>[第3の発明]
Hの鉛筆を用いて、JIS−S−1005 9.8(2)鉛筆引っ掻き試験に従い、80mm×60mmの被覆基材の樹脂シート面に対し45°の角度を保ちつつ、0.5kgの荷重をかけて線引きし、線引き部の樹脂シートの面状態を目視で判定した。全く傷が付かなかったものを「○」、若干線引きの跡が残ったものを「△」、明確に傷が付いたものを「×」として表示した。
次に、第1の発明〜第5の発明のそれぞれについての実施例及び比較例の方法及び結果を示す。
<第1の発明>
(実施例1)
非晶性ポリエステル系樹脂であるイーストマンケミカル社、商品名、PETG6763を多く含む組成物をエンボス付与可能層A、結晶性ポリエステル系樹脂であるポリブチレンテレフタレートを多く含む組成物を基材層Bとして、Tダイ共押出法により製膜して積層樹脂シートを得た。なお、PETG6763は、ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコールの一部(約30〜60モル%)を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂である。
(実施例2)
実施例1のシートのエンボス付与可能層に印刷を施し、その上にウレタン系樹脂で表面コートを施して、エンボス付与可能層の上にさらに印刷層及び表面コート層が形成された積層樹脂シートを得た。
(実施例3)
帝人・デュポンフィルム社、商品名、「テフレックス」シートに印刷を施し、ドライラミネート接着剤で、その印刷面と実施例1の製法で作製した(エンボス付与可能層:非晶性ポリエステル、基材層:結晶性ポリエステル)シートのエンボス付与可能層とを貼り合わせた積層樹脂シートを得た。
(実施例4)
アクリルシートをエンボス付与可能層、2軸延伸PETシートを基材層とし、アクリルシートとPETシートをドライラミネート接着剤で貼り合わせた積層樹脂シートを得た。
(比較例1)
実施例1のエンボス付与可能層(非晶性ポリエステル)の材質のみで積層樹脂シートを作製した。
(比較例2)
実施例1のシートのエンボス付与可能層の材質を基材層の材質とし、基材層の材質をエンボス付与可能層の材質に変更した(エンボス付与可能層:結晶性ポリエステル、基材層:非晶性ポリエステル)積層樹脂シートを得た。
(比較例3)
2軸延伸PETに印刷を施し、ドライラミネート接着剤で、その印刷面と実施例1の製法で作製した(エンボス付与可能層:非晶性ポリエステル、基材層:結晶性ポリエステル)シートのエンボス付与可能層とを貼り合わせた積層樹脂シートを得た。
(比較例4)
実施例4のエンボス付与可能層の材質を基材層の材質とし、基材層の材質をエンボス付与可能層の材質に変更した(エンボス付与可能層:2軸延伸PET、基材層:アクリル)積層樹脂シートを得た。
(比較例5)
実施例3の構成において、エンボス付与可能層を結晶性ポリエステル(基材層と同じ組成)で作製し、ドライラミネート接着剤で貼り合わせたシートを得た。
以上の各実施例及び比較例の結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2から明らかなように、A層が非晶性、B層が結晶性である本発明品に相当する実施例1〜実施例4の積層樹脂シートは、エンボス付与時、加熱ロールへの貼り付きがなく、エンボス付与が可能であった。
これに対し、B層が非晶性の比較例1,2は加熱ロールに貼り付き、エンボス付与がうまくいかなかった。比較例4も高温になると貼り付きが発生した。
また、A層が結晶性である比較例2,4,5はエンボス付与ができなかった。実施例3と比較例3のエンボス付与結果の差は、上地層(延伸PET)の高温弾性率、延伸倍率等の差による。
<第2の発明>
各実施例及び比較例に用いたシートの樹脂組成を表3に示す。なお、試験で使用した原料は以下のとおりである。
・実質非晶性のポリエステル系樹脂:EASTER6763 イーストマンケミカル(株)製(ガラス転移点;81[℃]、結晶融解ピーク温度;観測されず)・実質結晶性のポリエステル系樹脂:NOVADUR5008 三菱エンジニアリングプラスチック(株)製(ガラス転位点;46[℃]、結晶融解ピーク温度;221[℃])
(実施例5〜7、比較例6〜11)
製膜にはTダイを備えた二軸混練押出機を用いて、総厚み150μmになるように調整した。続いて前記4種類のエンボス付与方法にて、エンボス付与を行い、それぞれの評価を行った。但し、1−1及び1−2の方法の場合は、シートにて評価を行い、2−1及び2−2の方法の場合は、被覆基材にてそれぞれ評価を行った。なお、金属板(鋼板)との積層にはポリエステル系の熱硬化性接着剤を使用した。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、本発明の範囲にある実施例5〜実施例7の積層シートは、全てのエンボス付与方法が適応可能であった。これに対し、本発明の範囲外の比較例6〜11の積層シート及び単層シートでは、エンボス付与方法1−1、2−1及び2−2によるエンボス付与は可能であったが、1−2によるエンボス付与は種々の問題発生により実現できなかった。
そこで発生した不具合点について説明する。単層シートにおいて、実質結晶性のポリエステル系樹脂(比較例8)あるいは、実質結晶性のポリエステル系樹脂を主成分とした混合物(比較例9)では、比較的高温まで加熱ロールへの粘着はないが、エンボスを付与するため融点以上まで昇温すると、シートが溶断してしまった。
単層シートにおいて、実質非晶性のポリエステル系樹脂(比較例10)あるいは実質非晶性のポリエステル系樹脂を主成分とした混合物(比較例11)では、加熱ロールへ粘着してしまった。
比較例6の積層シート、即ち、A層を構成するポリエステル系樹脂として実質結晶性のポリエステル系樹脂を主成分とする混合物を用いた場合、エンボスを付与するために、シートの温度を樹脂Aの融点以上まで上げると、B層を構成するポリエステル系樹脂も同様に軟化してしまい、基材の役割を果たせず、シートが溶断してしまった。
比較例7の積層シート、即ち、B層を構成するポリエステル系樹脂が実質非晶性のポリエステル系樹脂を主成分とする混合物を用いた場合、実質非晶性のポリエステル系樹脂あるいは実質非晶性のポリエステル系樹脂を主成分とした混合物の単層シートの結果(比較例10,11)と同様に加熱ロールに粘着してしまった。
<第3の発明>
(実施例8〜19、比較例12〜22)
[積層樹脂シートの作製]
A層を構成するポリエステル系樹脂として表5に示す樹脂組成を用い、B層を構成するポリエステル系樹脂として表6に示す樹脂組成を用い、表10に示す組合せで積層樹脂シートを作製した。総厚み170μmでエンボス付与可能層12の厚みが140μm、基材層13の厚みが30μmとした。
なお、比較例の一部に関しては、表7に示す厚み170μmの単層シートを用いており、また、比較例22では被覆基材用に一般的に使用されている厚み150μmのカレンダー法によるポリプロピレン系軟質樹脂シートを用いている。
シート製膜方法は、上記比較例の一部を除き、二軸混練押出機を2台使用したフィードブロック方式の共押出製膜であり、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法に依っている。表7に示す単層のシートは二軸混練押出機1台で同様に製膜したものである。
また、表5〜表7で使用した各原料は以下の通りである。
・実質結晶性のポリエステル系樹脂(1):NOVADUR5008三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ポリブチレンテレフタレート系樹脂(ガラス転位点;46[℃]、結晶融解ピーク温度;221[℃])
・実質結晶性のポリエステル系樹脂(2):NOVADUR5020S三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ポリブチレンテレフタレート系樹脂(ガラス転位点;45[℃]、結晶融解ピーク温度;223[℃])
・実質非晶性のポリエステル系樹脂:EASTER6763イーストマンケミカル(株)製(ガラス転移点;81[℃]、結晶融解ピーク温度;観測されず)
なお、表5〜表9における「phr」は、樹脂分を100とした場合の添加剤の重量比率(重量部)を意味する。
[透明被覆層の付与]
表8に示すコーティング塗膜、若しくは表9に示すフィルムを積層樹脂シートのエンボス付与可能層側に設けた。積層樹脂シートとの組合せ及び透明被覆層の厚みは表10に示した。コーティング塗膜はロールコーターによる塗布後、加熱乾燥を行うものである。実施例11のみ積層シートにエンボス付与装置30でエンボス模様を付与した後に透明被覆層を設けた。
フィルムを積層する場合はフィルムの接着面側にシアネート架橋型のポリエステル系接着剤を塗布、乾燥後、積層樹脂シートのA層側表面と重ね合わせ、50℃に加熱された金属ロールとゴムロールの間を通過させることで加熱、加圧して積層一体化した。
また、表8及び表9で使用した各原料は以下の通りである。
・アクリルポリオール:一般的にアクリルワニスに使用されるものの中では比較的ガラス転位温度(Tg)の低いグレード。
・ユーダブルUVG−100:HALS
・紫外線吸収剤共重合型架橋性アクリル樹脂。日本触媒(株)製
・ルミフロンLF−200:フロロエチレン・ビニルエーテル共重合体 旭硝子(株)製
・シリコーングラフトアクリル:X22−8004 水酸基含有のもの 信越シリコーン(株)製
・アクリルフィルム半硬質:市販のフィルムグレードアクリル樹脂の原料パウダーを単軸押出機を用い製膜。引張り破断伸び110%程度(23℃、引張り速度200mm/min)。
・アクリルフィルム軟質:市販のフィルムグレードアクリルと柔軟性アクリル樹脂の原料パウダーを混合し、単軸押出機を用い製膜。引張り破断伸び200%程度(23℃、引張り速度200mm/min)。
・チヌビン400:トリアジン系紫外線吸収剤、分子量=647 チバスヘシャリティ ケミカルス(株)製
・PUVA−50M:高分子量(MMA共重合型)紫外線吸収剤、分子量=約10000 大塚化学(株)製
・LA−31:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、分子量=659 旭電化(株)製[エンボス模様の付与]
軟質塩化ビニル系シートでも一般的に使用されている連続法による図3に示すエンボス付与装置30にて、エンボス模様の付与を行った。連続法によるエンボス付与の概略としては、まず金属加熱ロールを用いた接触型加熱によりシートの予備加熱を行い、続いて赤外ヒーターを用いた非接触型加熱により任意の温度までシートを加熱し、エンボスロールによりエンボス模様を転写させるものである。
[被覆基材の作製]
次にポリ塩化ビニル被覆金属板用として一般的に用いられているポリエステル系接着剤を、金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になるように塗布して熱硬化型接着剤を形成する。次いで熱風加熱炉及び赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥及び加熱を行い、亜鉛メッキ鋼板(厚み0.45mm)の表面温度を235℃に設定し、直ちにロールラミネーターを用いて積層樹脂シート(ポリエステル系樹脂シート)を被覆、冷却することにより樹脂被覆鋼板を作製した。
[積層樹脂シート及び被覆基材の評価]
前記各項目を評価した。結果を表11にまとめて示した。
表11から明らかなように、本発明の範囲にある実施例8〜実施例19では、PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス付与装置によるエンボス付与において、粘着やシートの溶断を生ぜずに良好なエンボス模様の転写が得られるとともに、耐候性に優れ、加工性及び表面硬度のいずれも良好であった。
これに対し、本発明の範囲外の比較例12〜22の積層シート及び単層シートでは、エンボス付与適性、耐候性、加工性及び表面硬度のうち少なくとも一つが不合格(×)の評価となった。
比較例12及び比較例13は、紫外線吸収性を有する透明被覆層が無い場合であるが、耐候性促進試験の結果、いずれも問題が発生している。即ち、A層への酸化チタン顔料の添加量が多い比較例12では顕著な噴き出しが発生し、比較的顔料添加量の少ない比較例2では樹脂自体の黄変が目立っていた。
比較例14は透明被覆層の厚みを本発明の範囲より厚く(25μm)したものであるが、エンボス模様の転写性が劣っている。また、透明被覆層の厚みを本発明の範囲より厚くしたことにより、加工性も劣った。
比較例15は「エンボス付与可能層12+基材層13」の構成の積層樹脂シートを用いず、A層に好ましい組成の単層シートを用いたものであるが、エンボス付与装置30の加熱された金属ロールへの粘着を生じ、エンボスを付与することができなかった。これに対し、比較例16はB層に好ましい組成の単層シートを用いたもので、加熱された金属ロールへの粘着は生じないものの、通常のPVCシートへのエンボス付与条件ではエンボス模様の転写が全く得られなかった。
比較例17は積層シートを用いているが、A層となるべき層の組成が実質結晶性の組成のため、比較例16と同様の結果となった。
比較例18〜比較例21は、積層樹脂シートのA層の表面に厚み50μmのアクリルフィルムを積層したものであり、アクリルフィルムが実質的にエンボス付与可能層として作用し、A層の組成に拘わらずエンボス模様の転写は可能であった。しかし、紫外線吸収剤を添加しない比較例20及び比較例21では、耐候性は改善されておらず、しかも、耐候性評価後のサンプルではアクリルフィルムが部分的に剥離した。
一方、紫外線吸収剤が添加された比較例18及び比較例19では、ポリエステル系樹脂より成るA層及びB層の変色を効果的に抑制している。しかし、比較的硬質のアクリルフィルムを積層した比較例18、比較例20及び比較例21の場合は、曲げ加工時に完全にアクリルフィルムが破断し、加工性が劣る。また、比較的軟質のアクリルフィルムを積層した比較例19の場合は、加工性には問題が出なかったが、表面硬度は問題があった。そして、比較的硬質のアクリルフィルムを積層した比較例18、比較例20及び比較例21の場合も、本発明である各実施例に比較して表面硬度が劣っていた。
また、比較例22の被覆基材用のPP系樹脂フィルムの単層シートを使用した場合は、表面硬度が軟質PVCに比較して劣っていた。
<第4の発明>
(実施例20〜33、比較例23〜34)
[積層樹脂シートの作製]
A層を形成する樹脂として表12に示す樹脂組成を用い、B層を形成する樹脂として表13に示す樹脂組成を用い、表15及び表17に示す組合せで積層樹脂シートを作製した。総厚み150μmでA層の厚みが120μm、B層の厚みが30μmとした。また、A層を形成する樹脂は酸化チタン系のベージュ色顔料を17重量部(樹脂分全量を100重量部として)含んでいる。なお、表14は表12及び表13の各樹脂組成におけるA層を形成する樹脂及びB層を形成する樹脂のDSC測定値を示す。
シート製膜方法は、二軸混練押出機を2台使用したフィードブロック方式の共押出し製膜であり、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法に依っている。キャスティングロールは鏡面のものを使用し、温水循環装置により65℃にロール温度を保った。
なお、比較例30のシートに関しては、キャスティングロールでの引き取り後に、赤外ヒーターを有する加熱炉内に導入し、非接触加熱で160℃×40秒間の後加熱処理を行った。
また、表12及び表13で使用した各原料は以下の通りである。
・ノバデュラン5008:ホモPBT 樹脂 三菱エンジニアリングプラスチック(株)製(ガラス転移点;46[℃]、結晶融解ピーク温度;221[℃])・ノバデュラン5020S:ホモPBT樹脂 三菱エンジニアリングプラスチック(株)製(ガラス転移点;45[℃]、結晶融解ピーク温度;223[℃])・デュラネックス500JP:イソフタル酸共重合PBT樹脂 ウィンテックポリマー(株)製(ガラス転移点;32[℃]、結晶融解ピーク温度;204[℃])
・co−PET BK−2180:イソフタル酸共重合PET樹脂 三菱化学(株)製(ガラス転移点;76[℃]、結晶融解ピーク温度;246[℃])
・コルテラCP509200:ホモPTT樹脂 シェル(株)製(ガラス転移点;49[℃]、結晶融解ピーク温度;225[℃])
・イースター6763:ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約31%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂 イーストマンケミカル(株)製(ガラス転移点;81[℃]、結晶融解ピーク温度;観測されず)
・PCTG5445:ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約70%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂 イーストマンケミカル(株)製(ガラス転移点;88[℃]、結晶融解ピーク温度;観測されず)
[エンボス模様の付与]
軟質PVCシートでも一般的に使用されている図3に示すエンボス付与装置30にて、連続法によるエンボス模様の付与を行った。連続法によるエンボス付与の概略としては、まず金属加熱ロールを用いた接触型加熱によりシートの予備加熱を行い、続いて赤外ヒーターを用いた非接触型加熱により任意の温度までシートを加熱し、エンボスロールによりエンボス模様を転写させるものである。加熱ドラムは100℃に設定し、実施例20〜29及び比較例23〜30に関しては、ヒーターにより、エンボスロールと接する前のシートが165℃に加熱される。また、エンボスロールの温度は80℃である。
実施例30〜33及び比較例31〜34に関しては、加熱ドラムは100℃に設定し、ヒーター加熱によるシート温度を変更したものである。この場合もエンボスロールの温度は80℃である。
[被覆基材の作製]
次にポリ塩化ビニル被覆金属板用として一般的に用いられているポリエステル系熱硬化型接着剤を、金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になるように塗布して熱硬化型接着剤層を形成する。次いで熱風加熱炉及び赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥及び加熱を行い、亜鉛メッキ鋼板(厚み0.45mm)の表面温度を235℃に設定し、直ちにロールラミネーターを用いて積層樹脂シート(ポリエステル系樹脂シート)を被覆、水冷にて冷却することによりエンボス意匠性樹脂被覆鋼板を作製した。
[積層樹脂シート及び被覆基材の評価]
前記各項目を評価した。結果を表16及び表18にまとめて示した。表16中、エンボス付与装置の加熱ドラムに粘着を生じたものに関しては、以降の評価を行っておらず、表18中、ラミネート時のエンボス戻りが顕著なものに関しては高温耐熱性の評価を実施していない。
比較例23はA層を形成する樹脂として完全非結晶性樹脂のみを用いた場合であるが、B層を形成する樹脂として本発明の要件に合致するものを用いていることにより、エンボス付与装置でのシートの粘着や溶融破断は生じていない。ただ、A層を形成する樹脂の組成自体が耐沸騰水性を有するものではないため、沸騰水に浸漬することでエンボス柄は完全に消失していた。
比較例24では、A層を形成する樹脂が結晶性を有しているが、ΔHmの値が本発明の範囲より低い。この場合も比較例23と同様に沸騰水に浸漬することでエンボス柄が完全に消失していた。
比較例25は、A層を形成する樹脂の「(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)」の値が本発明の範囲より高い場合で、エンボス柄転写性が悪くなっており、更に「(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)」が大きな値となる比較例26ではエンボス柄転写が困難であった。A層を形成する樹脂がエンボスロールに通される前から比較的高い結晶性を有していると、ヒーターによるシート加熱を行ってもシートの弾性率が低下せず、エンボスロールで押圧しても充分な歪み(エンボス柄転写)を付与できないことによる。
比較例27は、A層を形成する樹脂の組成が本発明の要件を満たすが、結晶性樹脂として結晶化速度の遅いイソフタル酸共重合のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いていることにより、実質的に樹脂Aが完全非結晶性の場合と同様の挙動を示し、比較例23及び比較例24と同様に耐沸騰水性が悪い。
比較例28及び比較例29は、B層を形成する樹脂の「(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)」の値が本発明の範囲より低い場合で、エンボス付与装置の加熱ドラムに積層シートが粘着を生じ、シートにエンボス模様を付与することができなかった。
比較例30は、比較例29と同一組成・構成のシートに対し、後加熱処理を施したもので、該加熱処理でB層を形成する樹脂の結晶化が進行し、これによって加熱ドラムへの粘着性は改善されている。ただし、積層シートの状態で後加熱処理を実施したため、A層を形成する樹脂も結晶化が進行してしまい、エンボス柄の転写が困難となってしまった。
これらの比較例に対し、本発明の要件を満たす実施例20〜実施例29では、加熱ドラムへの粘着やヒーター加熱時のシート破断を生じず、良好なエンボス柄転写性が得られている。また、A層を形成する樹脂が沸騰水浸漬に耐えるだけの結晶性を有している。
実施例30〜実施例33及び比較例31〜比較例34は、同一構成・組成のシートを用い、エンボスロールを通る前のシート温度を変えたものであるが、比較例31及び比較例32ではラミネート時にエンボス戻りが顕著に発生した。これは歪み(エンボス柄転写)を付与する温度が低かったことにより、ラミネート時に鋼板からの熱でシート温度が歪みを付与した温度近くまで上昇し、凍結されていた残留応力が開放されたことに起因する。
比較例33及び比較例34は、歪みを付与する温度を比較例31及び比較例32より高くしたものであり、ラミネート時のエンボス戻りは改善の傾向にあるが、まだ、従来の軟質PVCシートに及ばない。また、ラミネート鋼板としてのエンボスの高温耐熱性も充分ではない。
これらに対して、実施例30〜実施例33においては、ラミネート時のエンボス戻りが少なく、従来の軟質PVCシートと同等以上であり、ラミネート鋼板としての高温耐熱性も実用上充分なレベルが得られている。
<第5の発明>
(実施例34〜44、及び比較例35〜41の積層用シートの作成)
A層として表19に示す樹脂組成を用い、B層として表20に示す樹脂組成を用い、それぞれ単層のシートを作成した。A層は厚み70μmで、顔料は添加されていない。B層は厚み60μmで、酸化チタン系の顔料が20重量部(樹脂分重量を100として)添加されている。シートの製膜方法は二軸混練押出機を使用したTダイ製膜法で、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法に依っている。キャスティングロールは鏡面のものを使用し、温水循環により65℃に保たれている。各実施例及び比較例に使用したA層とB層の組み合わせは表21に示す。尚、実施例44のB層に関しては、キャスティングロールでの引き取り後に、赤外ヒーターを有する加熱炉内に導入し、非接触加熱で160℃×40秒間の後加熱処理を行った。
次いでB層の表面に無架橋のポリエステル系ビヒクルを使用した印刷インクで抽象柄の部分印刷を施した。印刷層の種類、塗布厚み、乾燥条件等は全ての実施例及び比較例について同一である。
また、表19〜表20で使用した各原料は以下の通りである。
・ノバデュラン 5020S:ホモPBT樹脂 三菱エンジニアリングプラスチック社製(ガラス転移点;45[℃] 結晶融解ピーク温度;223[℃])
・デュラネックス 500JP:イソフタル酸共重合PBT樹脂 ウィンテックポリマー社製(ガラス転移点;32[℃] 結晶融解ピーク温度;204[℃])
・co−PET BK−2180:イソフタル酸共重合PET樹脂 三菱化学社製(ガラス転移点;76[℃] 結晶融解ピーク温度;246[℃])
・コルテラ CP509200:ホモPTT樹脂 シェル社製(ガラス転移点;49[℃] 結晶融解ピーク温度;225[℃])
・イースター6763:ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約31%を1、4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂 イーストマンケミカル社製(ガラス転移点;81[℃] 結晶融解ピーク温度;観測されず[℃])
・PCTG5445:ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約70%を1、4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂 イーストマンケミカル(株)製(ガラス転移点;88[℃] 結晶融解ピーク温度;観測されず[℃])
(実施例34〜44、比較例35〜41のシートの積層一体化とエンボス模様の付与)
図3に示す軟質塩化ビニル系シートでも一般的に使用されている、連続法によるエンボス付与装置30にて熱融着によるシートの積層一体化と、エンボス模様の付与を行った。連続法によるエンボス付与装置の概略としては、まず金属加熱ロールを用いた接触型加熱によりシートの予備加熱を行い、続いて赤外ヒーターを用いた非接触型加熱により任意の温度までシートを加熱し、エンボスロールによりエンボス模様を転写させるものである。加熱ドラムは100℃に設定し、実施例34〜44、及び比較例35〜41に関しては、ヒーターにより、エンボス柄ロールと接する前のシートが165℃に加熱される。またエンボス柄ロールの温度は80℃であり、表面平均粗さRa=10μmの梨地ロールである。
(実施例45〜51、及び比較例42、43の積層樹脂シートの作成とエンボス模様の付与」)
A層として表23に示す樹脂組成と厚みの単層シートを用いた。また、B層として表23に示す樹脂組成と厚みをを用い、更に一部の実施例に関してはD層を構成中に含んでいる。D層の組成は、酸化チタン系顔料を20重量部(樹脂分重量を100重量部として)含む以外はA層の組成A−4と同一である。D層の有無と厚みに関しては表23中に示した。
D層が介在しない場合は、A層及びB層の製膜方法は実施例34〜44、比較例35〜41の場合と同様であり、D層が介在する場合は二機の二軸混練押出機を使用したフィードブロック方式による共押出しTダイ製膜法で、D層とB層の共押出し積層シートを作成した。この場合もキャスティングロールは鏡面のものを使用し、温水循環により65℃に保たれている。
次いでB層またはD層の表面に無架橋のポリエステル系ビヒクルを使用した印刷インクで抽象柄の部分印刷を施した。印刷層の種類、塗布厚み、乾燥条件等は全ての実施例及び比較例について同一である。またシートの積層一体化とエンボス模様の付与に関しては基本的に実施例34〜44、比較例35〜41の場合と同様であるが、エンボス柄ロールとしては平均表面粗さRa=10μm、及びRa=20μmの2種類の梨地ロールを使用した。
(実施例52〜55、及び比較例44〜47の積層樹脂シートの作成とエンボス模様の付与)
A層として表25に示す樹脂組成を用い、B層として表25に示す樹脂組成を用い、A層は厚み80μmで、B層は厚み80μmで、それぞれ単層のシートを得た。印刷インキの付与、シートの積層一体化とエンボス模様の付与に関しては基本的に前述したと同一の方法であるが、加熱ドラムは100℃に設定し、ヒーター加熱によるシート到達温度を変更したものである。この場合もエンボス柄ロールの温度は80℃である。各実施例及び比較例に使用したA層とB層の組み合わせ、及びヒーター加熱によるシート到達温度は表7中に示した。
[被覆基材の作成]
次にポリ塩化ビニル被覆金属板用として一般的に用いられているポリエステル系熱硬化型接着剤を、金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になる様に塗布し(接着剤層)、次いで熱風加熱炉および赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥および加熱を行い、亜鉛めっき鋼板(金属板:厚み0.45mm)の表面温度を235℃に設定し、直ちにロールラミネーターを用いてポリエステル系樹脂シートを被覆、水冷にて冷却することによりエンボス意匠性樹脂被覆鋼板を作製した。
(エンボス付与シート及び被覆基材の評価)
上記した各項目を評価した。結果を表22、表24及び表26に示した。表22中、エンボス付与装置の加熱ドラムに粘着を生じたものに関しては、以降の評価を行っておらず、表24中、エンボス付与装置でシートが溶融破断したものに関しては以降の評価を行っていない。また、表26中ラミネート時のエンボス戻りが顕著なものに関しては高温耐熱性の評価を実施していない。
比較例10及び41はB層を形成する樹脂の「(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)」が本発明の請求の範囲より低い場合であり、エンボス付与装置の加熱ドラムに積層シートが粘着を生じ、従ってシートにエンボス模様を付与する事が出来なかった。
比較例35はA層を形成する樹脂として完全非結晶性樹脂のみを用いた場合であるが、B層を形成する樹脂として本発明の請求の範囲に合致するものを用いている事により、エンボス付与装置でのシートの粘着や溶融破断は生じていない。ただ、樹脂Aの組成自体が耐沸騰水性を有するものでは無い為、沸騰水に浸漬する事でエンボス柄は完全に消失している。
比較例36では、A層を形成する樹脂が結晶性を有しているが、ΔHm(A)の値が請求の範囲より低い。この場合も比較例35と同様に沸騰水浸漬でエンボス柄が消失している。
比較例39は、A層を形成する樹脂の組成が本発明の要件を満たすが、結晶性樹脂として結晶化速度の遅いイソフタル酸共重合のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いている事により、実質的に樹脂Aが完全非結晶性の場合と同様の挙動を示し、比較例35及び36と同様に耐沸騰水性が悪い。
比較例37は、A層を形成する樹脂の「(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)」の値が本発明の範囲より高い場合で、エンボス柄転写性が悪くなっており、更に「(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)」が大きな値となる比較例38ではエンボス柄転写が困難であった。A層を形成する樹脂がエンボス柄ロールに通される前から比較的高い結晶性を有していると、ヒーターによるシート加熱を行っても、融点以下の温度ではシートの弾性率が低下せずエンボス柄ロールで押圧しても充分な歪み(エンボス柄転写)を付与できない事による。
これらに対して、本発明の実施例34〜44では、加熱ドラムへの粘着やヒーター加熱時のシート破断を生じず、良好なエンボス柄転写性が得られている。またA層を形成する樹脂が耐沸騰水浸漬に耐えるだけの結晶性を有している。
実施例44は、比較例41と同一のA層を形成する樹脂を用い、B層を形成する樹脂に関しても組成は同一であるがシート製膜後に熱処理を施した事により本発明の請求の範囲に合致するものとなり、良好なエンボス柄転写を得られている。また耐沸騰水性も良好である。
熱処理後のB−4のΔHm(B)は28.9(J/g)、「(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)」は0.87であった。
実施例45〜51、及び比較例42、43は同一組成で厚みの異なるA層を構成する樹脂を用い、またD層の有無、B層を形成する樹脂の種類、厚みを変えたものであるが、比較例42ではA層の厚みが厚い事によりエンボス転写性は良好であるが、エンボス付与後のA層のヘイズが大きく印刷層の透視性に劣る。また沸騰水に浸漬した後印刷層の透視性は更に悪化した。これは沸騰水浸漬によりA層の結晶化が進行し透明性が低下した事に起因する。
比較例43はB層の厚みが好ましい範囲より薄い為、エンボス付与装置に通した際、B層に求められる機能が充分発現されず、ヒーターでの加熱によりシートの溶融破断を生じた。
実施例45はD層を用いず、A層の厚みを30μmとしたものだが、エンボスが付与されるべき層の厚みが薄い事からエンボス転写性がやや悪い結果となった。
実施例46もD層無しでA層を50μmとしたものだが、細かい(浅い)梨地エンボスの転写は良好であったが、粗い(深い)エンボスの転写性は充分ではなかった。
実施例47では、やはりD層無しで更にA層の厚みを厚くすることで、粗いエンボスの転写性も良好となったが、沸騰水浸漬後の印刷層の透視性がやや悪く、A層を更に厚くした実施例48では沸騰水に浸漬しない状態でもやや透視性が悪かった。
これらの印刷層透視性は、印刷柄や用途によっては実用上支障の無いものと判断され、印刷層の明瞭な透視性が求められる場合は問題となると判断された。印刷層の透視性がやや悪い原因は比較例8の場合と同様である。
実施例49はA層の厚みは実施例45と同様に30μmであるが、厚み50μmのD層を有しており、エンボスが付与される層としては合計80μmを有している。従って、実施例47と同様に良好なエンボス転写性を得られると同時に、印刷層の透視性に関わるA層の厚みは実施例45と同様である為、沸騰水浸漬後に於いても良好な印刷層の透視性が得られている。実施例50に於いても同様である。
実施例51は、エンボスが付与される層の構成・組成は実施例49と同一で、B層の厚みを薄くしたものであるが、基本的なエンボス転写性や印刷層の透視性は良好であったが、エンボス付与装置でヒーター加熱された際シートの顕著な伸びが発生した。比較例43のように溶融破断を起こす事は無かったが、B層の厚みとしては20μmが好ましい範囲の下限と判断された。
実施例52〜55、及び比較例44〜47は、同一構成・組成のシートを用い、エンボス柄ロールを通る前のシート温度を変えたものであるが比較例44及び比較例45ではラミネート時にエンボス戻りが顕著に発生した。これは歪み(エンボス柄転写)を付与する温度が低かった事により、ラミネート時に鋼板からの熱でシート表面温度が歪みを付与した温度近くまで上昇し、凍結されていた残留応力が解放された事に起因する。
比較例46及び47は、歪みを付与する温度を比較例44及び45より高くしたものであり、ラミネート時のエンボス戻りは改善の傾向にあるがまだ従来の軟質PVC系シートに及ばない。またラミネート鋼板としてのエンボスの高温耐熱性も充分ではない。
これらに対して、実施例52〜55に於いてはラミネート時のエンボス戻りが少なく、従来の軟質PVC系シートと同等以上であり、ラミネート鋼板としての高温耐熱性も実用上充分なレベルが得られている。
この実施の形態では以下の効果を有する。
[第1の発明]
(1) 実質的に非晶性あるいは低結晶性の樹脂組成物で構成されたA層と、実質的に結晶性の樹脂組成物で構成されたB層との2層構造のシートで、エンボス付与可能層Aからエンボス付与が可能とした。従って、PVCシートへのエンボス付与に一般的に用いられるエンボス付与装置等により、エンボス付与可能層Aからエンボス付与ができる。A層がエンボス加工可能な温度に加熱された際にも、実質的に結晶性であるB層はシートとして剛性を持ち、加熱ロールに粘着しない。
(2) A層のガラス転移温度をTg(A)、B層の融点をTm(B)とし、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度を設定可能としたので、エンボス加工が容易になる。
(3) A層のガラス転移温度Tg(A)[℃]と、B層の融点Tm(B)[℃]との関係を、Tg(A)+30≦Tm(B)とした。従って、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度を設定するのが容易になる。
(4) A層の上にさらに印刷層及び透明な上地層を形成した場合、あるいはA層の上にさらに印刷層及び表面コートを形成した場合であっても、前記と同様にA層からエンボス付与ができ、より意匠性の高い積層樹脂シートが得られる。
(5) 積層樹脂シートの全層の総厚みが50μm〜300μmである。従って、積層樹脂シートの金属板等の基材への貼り合わせ時あるいは、その後の穴開け加工や曲げ加工でシートが割れたりせず、また、エンボス付与も行い易くなる。
(6) A層及びB層を無延伸の状態で積層した場合は、延伸シートを使用した場合と異なり、エンボス付与の際の加工温度の自由度が高くなる。
(7) A層及びB層は、ともにポリエステル系樹脂で構成した場合、両層A,Bを共押出し法で製膜する場合、押出し操作のし易さや、得られたシートの安定性が良好となるとともに、必要な物性を有する原材料を入手し易い。
(8) A層を構成する非晶性樹脂組成物としてポリエチレンテレフタレートのエチレングリコールの一部(約30〜60モル%)を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂が使用され、B層を構成する結晶性樹脂組成物としてポリブチレンテレフタレートが使用されている。従って、(7)の効果がより向上する。
(9) 前記各積層樹脂シートにエンボス付与したシートを金属板、木質板、合板等の基材の少なくとも片面に被覆することにより、PVCを使用せずに、ドア、壁材、床材等の住宅内装建材、家具、調度品やエレベータ、AV製品等の家電製品の基材として好適に使用できる。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
A層の材質は実質的に非晶性で、基材層Bの材質は実質的に結晶性で、かつ、エンボス付与可能層Aのガラス転移温度をTg(A)、B層の融点をTm(B)とし、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度を設定可能で、A層からエンボス付与が可能であればよい。例えば、B層の材質にポリブチレンテレフタレート(PBT)に代えてポリエチレンテレフタレート(PET)を使用してもよい。
A層及びB層を構成するPBTと、非晶性のポリエステル系樹脂であるPETGとの混合比率を9/1と1/9の組合せ以外にしてもよい。
前記実施の形態から把握される技術的思想(発明)について、以下に記載する。
(1)第1の発明において、前記エンボス付与可能層を構成する非晶性樹脂組成物としてポリエチレンテレフタレートのエチレングリコールの一部(約30〜60モル%)を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂が使用され、前記基材層を構成する結晶性樹脂組成物としてポリブチレンテレフタレートが使用されている。
[第2の発明]
(1)実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分とする混合物よりなるA層と、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分とする混合物よりなるB層とから積層樹脂シートを構成した。そして、B層はシート製膜後の示差走査熱量計(DSC)による測定において、明確な結晶化ピークが観測されない状態まで結晶化している。従って、A層がエンボス加工可能な温度に加熱された際にも、実質結晶性のB層はシートとして剛性を持ち、加熱ロールに粘着しない。その結果、従来、ポリエステル系樹脂シートでは対応できなかったシートの再加熱でのエンボス付与が可能になり、従来、軟質塩化ビニル系樹脂で用いられてきた種々のエンボス付与方法に対応でき、種々の方法でポリエステル系樹脂シートに対して連続的にエンボスを付与できる。
(2)B層を形成する樹脂の結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、樹脂Aのガラス転位点をTg(A)[℃]とするとき、Tm(B)>{Tg(A)+30}の関係が成立する。従って、A層に対して、B層を形成する樹脂の融点以下でエンボス付与が可能となり、エンボス付与が容易になる。
(3)A層の上に、透明樹脂層を積層した場合は、透明樹脂層の存在により、深みのある意匠性の付与、表面の物性改良、ポリエステル系樹脂に添加された顔料等の添加剤の噴き出し防止が容易となる。
(4)A層の上に、印刷を施して印刷層を形成し、その上に透明樹脂層を積層した場合は、種々の模様をA層に形成でき、意匠性を高めることができる。
(5)B層を形成する実質結晶性のポリエステルを、ポリブチレンテレフタレート又はその共重合体とした場合は、エンボス付与を良好に行うために、シート製膜時に基材層を十分に結晶化させるのが容易になり、エンボス付与を良好に行うのが容易になる。
(6)A層を形成する実質非晶性のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートのシクロヘキサンジメタノール共重合体の場合、A層を形成する樹脂を入手し易い。
(7)積層樹脂シートにエンボスを付与することにより、エンボス付与シートが得られる。従って、エンボス付与シートを得るために、従来、軟質塩化ビニル系樹脂で用いられてきた種々のエンボス付与方法を採用できる。
(8)積層樹脂シートを、B層を接着面として、熱硬化性接着剤を介して金属板の上に積層することにより、従来のエンボス付与方法でエンボス付与が容易にできる被覆基材を得ることができる。この被覆基材は、そのまま、あるいはエンボスを付与した状態で、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や鋼製家具、エレベータ内装、建築物内装等に好適に使用できる。
(9)エンボス付与シートを、B層を接着面として、熱硬化性接着剤を介して金属板の上に積層することにより、意匠性の高い被覆基材を容易に得ることができる。この被覆基材は、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や鋼製家具、エレベータ内装、建築物内装等に好適に使用できる。
(10)積層樹脂シートの総厚みが50〜500μmであるため、被覆基材用として使用した場合、金属板に対する保護層としての性能及び被覆基材としての打ち抜き加工等の二次加工性が劣るのを抑制できる。また、印刷を施した場合、印刷柄が下地金属板の色の影響を受け難い。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
透明樹脂層を有するエンボス付与シートの製造方法は、2層構造の積層樹脂シートの状態、あるいはエンボス付与可能層上に印刷層が形成された状態でエンボス付与可能層にエンボスを付与し、その後、透明樹脂層を形成する方法に限らない。例えば、透明樹脂層が形成された積層樹脂シートに対して、透明樹脂層の上からエンボスを付与するようにしてもよい。
積層樹脂シート及びエンボス付与シートは金属板に接着剤を介して積層して被覆基材を形成する用途に限らず、木質板、合板等の基材に積層して使用してもよい。
前記実施の形態から把握される発明(技術的思想)について、以下に記載する。
(1) 第2の発明において、前記積層樹脂シートは、その総厚みが50〜500μmである。
[第3の発明]
(1)A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートのA層の表面に、紫外線吸収性を有する透明被覆層が設けられている。従って、紫外線吸収性を有する厚み2μm〜20μmの範囲の透明被覆層の存在により、耐光性が良好になり、特にポリエステル系樹脂の光黄変性を改善でき、深みのある意匠性の付与、表面の物性改良、ポリエステル系樹脂に添加された顔料等の添加剤の噴き出し防止が容易となる。
(2)A層を構成する樹脂が実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分とする混合物よりなり、B層を構成する樹脂が実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂を主成分とする混合物よりなる。更に、B層は、エンボス付与のために前記シートを加熱した際、金属ロールへの粘着性を示さず、かつ、樹脂成分Bの結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、樹脂成分Aのガラス転位点をTg(A)[℃]とするとき、Tm(B)>{Tg(A)+30}の関係が成立する。従って、エンボス付与のためにシートを加熱した際、金属ロールへの粘着性を示さず、エンボス付与可能層に対して基材層の融点以下でエンボス付与が可能となり、加熱状態で基材層が溶融破断することが無く、エンボス付与が良好に行われる。そして、従来、軟質塩化ビニル系樹脂で用いられてきたエンボス付与装置でポリエステル系樹脂シートに対して連続的にエンボスを付与することが容易になる。
(3)透明被覆層が紫外線吸収成分を含有する架橋性樹脂のコーティング層を少なくとも一層含む場合は、透明被覆層に紫外線吸収性の他に、光沢の調整、耐傷入り性の更なる向上、耐汚染性の向上、深みのある意匠の付与等の副次的効果を付与するのが容易になる。
(4)前記紫外線吸収成分を添加型の紫外線吸収剤とした場合は、紫外線吸収剤をコーティング液に添加して塗布する一般的な方法を採用でき、透明被覆層に紫外線吸収性を付与するのが容易になる。
(5)前記紫外線吸収成分が反応型紫外線吸収剤を前記架橋性樹脂の分子中に共重合したものである場合は、紫外線吸収剤の耐揮散性や耐移行性が添加型の紫外線吸収剤に比較して良好となる。
(6)A層と透明被覆層との間に印刷層が設けられている場合は、種々の模様を容易に設けることができ、意匠性を高めることができる。
(7)積層樹脂シートのA層にエンボス加工が施された後、透明被覆層が設けられたエンボス付与シートでは、積層樹脂シートに透明被覆層を設けた後にエンボス加工が施される構成に比較して、エンボス付与が良好に行われ易い。
(8)積層樹脂シートの透明被覆層の上からA層に対するエンボス加工が施されたエンボス付与シートでは、積層樹脂シートに対するエンボス付与後に透明被覆層を設ける場合に比較して、エンボス付与シートが完成するまでの工程数を少なくできる。
(9)被覆基材は前記のように構成された積層樹脂シート又はエンボス付与シートを、B層側を接着面として、熱硬化型接着剤を介して金属板の上に積層して形成した。従って、AV器機やエアコンカバー等の家庭電化製品外装や鋼製家具、エレベータ内装、建築物内装等で、比較的太陽光の照射を受け易い部位や紫外線放射量の多い人工光源の照射を受け易い部位に好適に用いることができる。
(10)A層及びB層の厚みの合計は、100〜240μmであり、そのうちB層の厚みが10〜50μmであるため、従来PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス版ロールの大部分で積層樹脂シートへのエンボス模様の付与が可能になる。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
エンボス付与加工がなされていない状態の積層樹脂シートを金属板に積層した被覆基材に、エンボス加工を施してエンボス付与シートが被覆された被覆基材としてもよい。
積層樹脂シート及びエンボス付与シートは金属板に接着剤を介して積層して被覆基材を形成する用途に限らず、木質板、合板等の基材に積層して使用してもよい。
積層樹脂シートはそれぞれ1層のA層及びB層で構成されたものに限らず、A層及びB層がそれぞれ少なくとも1層ずつ有ればよく、A層及びB層が複数層、あるいはいずれかが複数層で構成されていてもよい。
前記実施の形態から把握される発明(技術的思想)について、以下に記載する。
(1)第3の発明において、前記エンボス付与可能層及び基材層の厚みの合計は、100〜240μmであり、そのうち基材層の厚みが10〜50μmである。
[第4の発明]
(1)積層樹脂シートが、A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートから成り、A層及びB層がエンボス付与前のシートにおいて、以下の要件を有している。即ち、A層は、10≦ΔHm(A)≦35[J/g]、かつ(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5。B層は、180≦Tm(B)≦240[℃]、かつ0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)。従って、積層樹脂シートに従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス付与機で連続的にエンボス付与を施す際に、加熱金属ロールへの粘着や、溶融によるシート破断を防止して円滑にエンボス模様を付与することができる。
(2)前記積層樹脂シートのA層にエンボス模様を付与すれば、エンボス模様の耐熱性が良好なものを得ることができる。
(3)積層樹脂シートを160℃以上、かつB層の結晶融解ピーク温度Tm−20℃以下に加熱した後、エンボスロールと圧着ロールとの間を通過させてA層にエンボス模様を付与すれば、付与されたエンボス模様は耐熱性の良好なものとなる。従って、内部に発熱性の部材等を有する家電製品の外装等に用いた場合も、シートが加熱されることによるエンボス戻りの発生を抑制することができる。
(4)B層がポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂を含み、35≦ΔHm≦60[J/g]の要件を満たせば、通常の押出し製膜の時点で、結晶化速度の速いPBT系樹脂が、基材層13が備えるべき条件を満たすことができる。従って、シート製膜後の別工程での熱処理等の特別な工程が不要となり、生産性の向上やコストの低減が図れる。
(5)B層がPTT系樹脂を含み、35≦ΔHm≦60[J/g]の要件を満たせば、通常の押出し製膜の時点で、結晶化速度の速いPBT系樹脂が、基材層が備えるべき条件を満たすことができる。この場合も、シート製膜後の別工程での熱処理等の特別な工程が不要となり、生産性の向上やコストの低減が図れる。
(6)A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を共押出し法により積層一体化されたシートとすれば、別々に製膜したシートを後工程で積層一体化する場合に比べ、生産性の向上やコストの低減が図れる。また、A層及びB層間の接着強度を強固なものとできるため、経時的な剥離の問題等を生じ難い。
(7)積層樹脂シートのA層側表面に、加熱された金属との非粘着性を有するコーティング層を付与すれば、エンボス付与機でシートが加熱された際、各種補助ロール等との粘着トラブルの危険を回避することができる。また、耐熱性の良好なエンボス意匠を付与するために、加熱されたエンボスロールを用いる場合も、該ロールとの非粘着性が良好なもの、即ち該ロールに対して粘着し難いものとなる。
(8)コーティング層の厚みを1〜10μmとすれば、厚みが薄すぎるための塗布ムラにより部分的に加熱金属ロールへの粘着が発生する等の問題や、厚みが厚すぎるためにコーティング層の樹脂物性が積層樹脂シートの重要な物性に影響を及ぼす等の問題を容易に回避できる。
(9)積層樹脂シートのA層にエンボス模様を付したエンボス付与シートのB層を接着面として、熱硬化性接着剤によって金属板の上に積層すれば、各種用途に好適に使用できるエンボス意匠の付与された被覆基材を軟質PVCシートを使用せずに得ることができる。
(10)前記エンボス付与シートのB層を接着面として、熱硬化性接着剤を塗布焼き付けした金属板にラミネートロールを用いてラミネートした後、直ちに水冷すれば、ラミネート時のエンボス戻りを抑制することができ、深みのある意匠を有するエンボス意匠付与被覆基材を得ることができる。
(11)前記被覆基材を、ドア材、ユニットバス壁材、ユニットバス内装材等の建築内装材に用いれば、軟質PVCシートを使用せず、かつ意匠性に優れた建築内装材を得ることができる。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
積層樹脂シートのA層の上に印刷層を設けてもよい。
エンボス付与シートは、エンボス模様が付与された面がエンボス付与シートの表面となるものに限らない。例えば、内部にエンボス柄による凹凸意匠を有しながら、表面は平滑な意匠性を有する意匠シートを得たい場合や、木目柄エンボスなどで凹部を視覚的に強調するために着色インクを凹部にのみ付与する所謂ワイピング処理を施す場合は、積層樹脂シートにエンボスを付与した後、透明被覆層を積層する。
積層樹脂シート及びエンボス付与シートは金属板に接着剤層を介して積層して被覆基材を形成する用途に限らず、木質板、合板等の基材に積層して使用してもよい。
前記実施の形態から把握される発明(技術的思想)について、以下に記載する。
(1)第4の発明において、前記コーティング層は、その厚みが1〜10μmである。
(2)また、前記積層樹脂シートは、その総厚みが50〜500μmである。
[第5の発明]
(1)積層樹脂シートが、A層、C層及びB層の順に少なくとも3層から構成され、A層及びB層がエンボス付与前のシートにおいて、以下の要件を有している。即ち、A層は、10≦ΔHm(A)≦35、かつ(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5。B層は、180≦Tm(B)≦240[℃]、かつ0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B)。従って、積層樹脂シートに従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス付与機で連続的にエンボス付与を施す際に、加熱金属ロールへの粘着や、溶融によるシート破断を防止して円滑にエンボス模様を付与することができると共に、別途、C層で印刷を付与することができる。
(2)前記C層とB層との間に、顔料が添加され、上記A層と同様の特徴を有するD層を介在させることにより、前記の効果に加え、得られる積層樹脂シートに着色を程こすることができる。
(3)積層樹脂シートを160℃以上、かつB層の結晶融解ピーク温度Tm−20℃以下に加熱した後、エンボスロールと圧着ロールとの間を通過させてA層にエンボス模様を付与すれば、付与されたエンボス模様は耐熱性の良好なものとなる。従って、内部に発熱性の部材等を有する家電製品の外装等に用いた場合も、シートが加熱されることによるエンボス戻りの発生を抑制することができる。
(4)B層がポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂を含み、35≦ΔHm≦60[J/g]の要件を満たせば、通常の押出し製膜の時点で、結晶化速度の速いPBT系樹脂が、基材層13が備えるべき条件を満たすことができる。従って、シート製膜後の別工程での熱処理等の特別な工程が不要となり、生産性の向上やコストの低減が図れる。
(5)B層がPTT系樹脂を含み、35≦ΔHm≦60[J/g]の要件を満たせば、通常の押出し製膜の時点で、結晶化速度の速いPBT系樹脂が、基材層が備えるべき条件を満たすことができる。この場合も、シート製膜後の別工程での熱処理等の特別な工程が不要となり、生産性の向上やコストの低減が図れる。
(6)積層樹脂シートのA層側表面に、加熱された金属との非粘着性を有するコーティング層を付与すれば、エンボス付与機でシートが加熱された際、各種補助ロール等との粘着トラブルの危険を回避することができる。また、耐熱性の良好なエンボス意匠を付与するために、加熱されたエンボスロールを用いる場合も、該ロールとの非粘着性が良好なもの、即ち該ロールに対して粘着し難いものとなる。
(7)コーティング層の厚みを1〜10μmとすれば、厚みが薄すぎるための塗布ムラにより部分的に加熱金属ロールへの粘着が発生する等の問題や、厚みが厚すぎるためにコーティング層の樹脂物性が積層樹脂シートの重要な物性に影響を及ぼす等の問題を容易に回避できる。
(8)積層樹脂シートのA層にエンボス模様を付したエンボス付与シートのB層を接着面として、熱硬化性接着剤によって金属板の上に積層すれば、各種用途に好適に使用できるエンボス意匠の付与された被覆基材を軟質PVCシートを使用せずに得ることができる。
(9)前記エンボス付与シートのB層を接着面として、熱硬化性接着剤を塗布焼き付けした金属板にラミネートロールを用いてラミネートした後、直ちに水冷すれば、ラミネート時のエンボス戻りを抑制することができ、深みのある意匠を有するエンボス意匠付与被覆基材を得ることができる。
(10)前記被覆基材を、ドア材、ユニットバス壁材、ユニットバス内装材等の建築内装材に用いれば、軟質PVCシートを使用せず、かつ意匠性に優れた建築内装材を得ることができる。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
エンボス付与シートは、エンボス模様が付与された面がエンボス付与シートの表面となるものに限らない。例えば、内部にエンボス柄による凹凸意匠を有しながら、表面は平滑な意匠性を有する意匠シートを得たい場合や、木目柄エンボスなどで凹部を視覚的に強調するために着色インクを凹部にのみ付与する所謂ワイピング処理を施す場合は、積層樹脂シートにエンボスを付与した後、透明被覆層を積層する。
積層樹脂シート及びエンボス付与シートは金属板に接着剤層を介して積層して被覆基材を形成する用途に限らず、木質板、合板等の基材に積層して使用してもよい。
前記実施の形態から把握される発明(技術的思想)について、以下に記載する。
(1)第5の発明において、前記コーティング層は、その厚みが1〜10μmである。また、前記積層樹脂シートは、その総厚みが50〜500μmである。
発明の効果
この発明にかかる樹脂積層シートは、PVCを使用せずに、シートへのエンボス付与工程において、シートを加温するための加熱ロールに接触させても粘着して貼り付くこともなく、エンボス付与が実施できると共に、従来から軟質塩化ビニル系樹脂シートに一般的に用いられてきた種々のエンボス付与方法に対応できる。
また、この樹脂積層シートやこの樹脂積層シートにエンボス付与をして得られるエンボス付与シートを用いることにより、住宅内装等の建築物内装、AV器機やエアコンカバー等の家電製品外装、鋼製家具、エレベータ内装等の基材として好適で、PVCを使用しない被覆シートを使用した被覆基材が得られる。
さらに、第3の発明においては、得られるエンボス付与シートの耐光性は良好である。
【図面の簡単な説明】
図1(a)、(c)〜(k)は第1の発明〜第5の発明にかかる積層樹脂シートの例を示す側面図、(b)は第1の発明〜第2の発明にかかるエンボス付与シートの例を示す側面図である。
図2(a)〜(d)は第2の発明〜第5の発明にかかる被覆基材の例を示す側面図である。
図3はエンボス付与装置の構造例を示す模式図である。
Claims (38)
- 実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物又は前記実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物を多く含むエンボス付与可能層(A層)と、実質的に結晶性である樹脂組成物もしくは前記実質的に結晶性である樹脂組成物を多く含む基材層(B層)とで構成される、前記A層がエンボス付与が可能である積層樹脂シート。
- 前記A層のガラス転移温度をTg(A)、前記B層の融点をTm(B)とし、エンボス加工温度をTとしたとき、Tg(A)≦T≦Tm(B)の関係にエンボス加工温度を設定可能である請求項1に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層の上にさらに印刷層及び透明な上地層が形成されている請求項1又は2に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層の上にさらに印刷層及び表面コート層が形成されている請求項1又は2に記載の積層樹脂シート。
- 全層の総厚みが50μm〜300μmである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 前記A層及びB層は無延伸の状態で積層されている請求項1〜請求項5のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 前記のA層及びB層は、組成の異なる2種のポリエステル系樹脂であり、前記A層及びB層のそれぞれが以下の条件を満たすことにより、エンボス付与可能な請求項1に記載の積層樹脂シート。
A層:示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されない、実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなる。
B層:示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなり、更にシート製膜後の樹脂層が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、明確な結晶化ピークが観測されない状態まで結晶化している。 - 前記B層を構成するポリエステル系樹脂の結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、前記A層を構成するポリエステル系樹脂のガラス転位点をTg(A)[℃]とするとき、Tm(B)>{Tg(A)+30}の関係が成立する請求項7に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層の上に、透明樹脂層が積層されている請求項7又は8に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層の上に、印刷が施され、その上に透明樹脂層が積層されている請求項7又は8に記載の積層樹脂シート。
- 前記B層に用いられる実質結晶性のポリエステルが、ポリブチレンテレフタレート又はその共重合体である請求項7〜請求項10のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 前記A層を構成するポリエステル系樹脂に用いられる実質非晶性のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートのシクロヘキサンジメタノール共重合体である請求項7〜請求項11のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 前記A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートの前記A層の表面に、紫外線吸収性を有する厚み2μm〜20μmの範囲の透明被覆層が設けられた請求項1に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層及び前記B層が以下の条件を満たす請求項13に記載の積層樹脂シート。
A層:A層を構成するポリエステル系樹脂が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測されない、実質非晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなる。
基材層:B層を構成するポリエステル系樹脂が、示差走査熱量計(DSC)による測定において、昇温時に明確な結晶融解ピークが観測される、実質結晶性のポリエステル系樹脂又は該ポリエステル系樹脂が重量比率で50%以上含まれる混合物よりなり、更にエンボス付与のために前記シートを加熱した際、金属ロールへの粘着性を示さない。
かつ、B層を構成するポリエステル系樹脂の結晶融解ピーク温度(融点)をTm(B)[℃]、前記樹脂成分のガラス転位点をTg(A)[℃]とするとき、Tm(B)>{Tg(A)+30}の関係が成立する。 - 前記透明被覆層が紫外線吸収成分を含有する架橋性樹脂のコーティング層を少なくとも一層含む請求項13又は14に記載の積層樹脂シート。
- 前記紫外線吸収成分が添加型の紫外線吸収剤である請求項15に記載の積層樹脂シート。
- 前記紫外線吸収成分が反応型紫外線吸収剤を前記架橋性樹脂の分子中に共重合したものである請求項15に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層と前記透明被覆層との間に印刷層が設けられている請求項13〜請求項17のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 前記A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層を積層したシートから成り、前記A層及びB層が以下の要件を有している請求項1に記載の積層樹脂シート。
A層:エンボス付与前のシートにおいて、示差走査熱量計(DSC)による測定での昇温時に、明確な結晶化ピーク温度Tc(A)[℃]と、結晶融解ピーク温度Tm(A)[℃]とが観測され、結晶化熱量をΔHc(A)[J/g]、結晶融解熱量をΔHm(A)[J/g]とするとき、以下の関係式が成立する。
10≦ΔHm(A)≦35
(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5
B層:エンボス付与前のシートにおいて、示差走査熱量計(DSC)による測定での昇温時に、明確な結晶融解ピーク温度Tm(B)[℃]が観測され、結晶化熱量をΔHc(B)[J/g]、結晶融解熱量をΔHm(B)[J/g]とするとき、以下の関係式が成立する。
180≦Tm(B)≦240
0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm - 前記B層がポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂又はポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂を含み、以下の関係式が成立する請求項19に記載の積層樹脂シート。
35≦ΔHm(B)≦60 - 前記A層及びB層の少なくとも2層のポリエステル系樹脂層が共押出し法により積層一体化されたシートである請求項19又は20に記載の積層樹脂シート。
- 前記A層の表面に、加熱された金属との非粘着性を有するコーティング層が付与された請求項19〜請求項21のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 前記A層、C層、B層の順に少なくとも3層より構成され、前記A層及びB層が以下の特徴を有する請求項1に記載の積層樹脂シート。
A層:厚みが15μm以上、120μm以下の無延伸のポリエステル系樹脂層で、エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶化ピーク温度Tc(A)(℃)と、結晶融解ピーク温度Tm(A)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(A)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(A)(J/g)とするとき、以下の関係式の両方が成立する。
10≦ΔHm(A)≦35
(ΔHm(A)−ΔHc(A))/ΔHm(A)≦0.5
B層:エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶融解ピークTm(B)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(B)(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(B)(J/g)とするとき、以下の関係式の両方が成立する。
180≦Tm(B)≦240
0.5≦(ΔHm(B)−ΔHc(B))/ΔHm(B) - 前記C層とB層との間に以下の特徴を有するポリエステル系樹脂層(D層)が介在する事を特徴とする請求項23に記載の積層樹脂シート。
D層:顔料添加により着色されており、エンボス付与前のシートに於いて、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶化ピーク温度Tc(D)(℃)と、結晶融解ピーク温度Tm(D)(℃)が観測され、結晶化熱量をΔHc(J/g)、結晶融解熱量をΔHm(J/g)とするとき、以下の関係式が成立する。
10≦ΔHm(D)≦35
(ΔHm(D)−ΔHc(D))/ΔHm(D)≦0.5 - 前記B層がポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂又はポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂を含み、以下の関係式が成立する請求項23又は24に記載の積層樹脂シート。
30≦ΔHm(B)≦65 - 前記A層側表面に、厚み1〜10μmの加熱された金属との非粘着性を有するコーティング層が付与されている請求項23〜請求項25のいずれかに記載の積層樹脂シート。
- 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の積層樹脂シートの前記A層にエンボスを付与したエンボス付与シート。
- 請求項7〜請求項12のいずれかに記載の積層樹脂シートにエンボスを付与したエンボス付与シート。
- 請求項13〜請求項18のいずれかに記載の積層樹脂シートの前記A層にエンボス加工が施された後、前記透明被覆層が形成されたエンボス付与シート。
- 請求項13〜請求項18のいずれかに記載の積層樹脂シートの前記透明被覆層の上から前記A層に対するエンボス加工が施されるエンボス付与シート。
- 請求項19〜請求項26のいずれかに記載の積層樹脂シートの前記A層にエンボス模様を付与したエンボス付与シート。
- 上記エンボス模様は、160℃以上、{B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B))−20}℃以下に加熱した後、エンボス柄が彫刻されたエンボス版ロールと圧着ロールとの間を通過させる事によって付与される請求項31に記載のエンボス付与シート。
- 請求項19〜請求項26のいずれかに記載の積層樹脂シートを160℃以上、かつ前記{B層の結晶融解ピーク温度(Tm(B))−20}℃以下に加熱した後、エンボス柄が彫刻されたエンボスロールとニップロールとの間を通過させることによって前記A層にエンボス模様を付与するエンボス付与シートの製造方法。
- 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の積層樹脂シートにエンボス付与したエンボス付与シートを金属板、木質板又は合板から選ばれる基材の少なくとも片面に被覆した被覆基材。
- 請求項7〜請求項12のいずれかに記載の積層樹脂シート、請求項28に記載のエンボス付与シート、請求項13〜請求項18のいずれかに記載の積層樹脂シート、又は請求項29若しくは30に記載のエンボス付与シートを、前記B層を接着面として、熱硬化性接着剤を介して金属板の上に積層した被覆基材。
- 請求項31又は32に記載のエンボス付与シートをそのB層を接着面として、熱硬化性接着剤によって金属板の上に積層した被覆基材。
- ドア材、ユニットバス壁材又はユニットバス内装材から選ばれる建築内装材として用いられる請求項36に記載の被覆基材。
- 請求項31又は32に記載のエンボス付与シートをそのB層を接着面として、熱硬化性接着剤を塗布焼き付けした金属板にラミネートロールを用いてラミネートした後、直ちに水冷により冷却する被覆基材の製造方法。
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